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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科42巻10号

1988年10月発行

雑誌目次

連載 眼の組織・病理アトラス・24

白血病性網膜症

著者: 猪俣孟

ページ範囲:P.1116 - P.1117

 白血病leukemiaは未分化な白血球が腫瘍状に増殖する血液の癌である.白血病患者では,網膜,ぶどう膜,視神経,眼窩,結膜などの眼組織に出血や白血病細胞の浸潤,その他多彩な合併症が見られるが,そのうちで網膜と脈絡膜の病変が目立つ.白血病患者にみられる網膜病変を白血病性網膜症leukemic retinopathyと呼ぶ.白血病性網膜症の主要病変は網膜血管の怒張蛇行,出血,白斑,網膜剥離などである.
 白血病細胞の増殖によっ血液粘稠度が亢進し,血流は緩徐となってうっ滞し,血栓を形成する.血栓形成による血管内圧の上昇と血管壁透過性の亢進,白血病に随伴する貧血や血小板減少,さらに血管壁への白血病細胞の浸潤などによって,血管壁が破綻して網膜出血が起こる.

眼科図譜・268

急性前部ぶどう膜炎の1症例

著者: 佐々木洋 ,   大原國俊 ,   大久保彰 ,   伊野田繁

ページ範囲:P.1120 - P.1121

 緒言:急性前部ぶどう膜炎 (Acute AnteriorUveitis,以下AAU)は,急性に発症する片眼性の線維素性虹彩炎で,HLA-B27との相関が高い.わが国では稀な疾患とされてきたが1),望月は内因性ぶどう膜炎の6%を占めるとし2),的確な診断の必要性とともに本邦でも本疾患の頻度が高い可能性を示唆した.著者等は,Behçet病として紹介された典型的なAAUの1症例を経験し,従来,本症がBehçet病と診断され,あるいは原因不明とされている可能性があると考えた.本症の線維素性虹彩炎は特徴的で,他のぶどう膜炎疾患との鑑別診断は容易と考えられたので,著者等の症例の病像と臨床経過を報告し,本症診断の一助としたい.

今月の話題

VDTと眼

著者: 石川哲

ページ範囲:P.1122 - P.1129

 VDT業務による眼への影響に関して,現在まで重要と考えられた文献,及び自験例からその臨床症状・問題点・診断法その他について紹介した.特に限られた空間で,ハードコピー業務よりコントラストの悪いオシロスコープでVDT業務を行うことにより生ずる眼の訴えは,近見反応の他覚的記録が最も重要であることを紹介した.

臨床報告

大後頭神経痛による眼精疲労に対するハリ治療

著者: 中川成美 ,   竹田眞

ページ範囲:P.1130 - P.1132

 眼精疲労を訴えて眼科を受診し,屈折異常,調節異常,眼位異常,緑内障等が否定された患者で,大後頭神経出口部(風池)に圧痛を認めた17名に対して,大後頭神経出口部(風池)にハリまたはマッサージ治療を施行した.ハリ治療後,全症例で症状の消失あるいは軽快を認めた.
 ハリまたはマッサージ治療で大後頭神経痛が消失すると,眼精疲労も消失することから,眼精疲労と大後頭神経痛には密接な関係があることが示唆される.

ぶどう膜炎に対する硝子体手術

著者: 沖波聡

ページ範囲:P.1133 - P.1137

 網膜剥離や硝子体混濁を合併した桐沢型ぶどう膜炎2例,周辺性ぶどう膜炎1例,サルコイド性ぶどう膜炎1例,病因不明のぶどう膜炎3例に行った硝子体手術の成績について検討した.硝子体混濁の除去と網膜剥離の復位を目的とした4例中3例では網膜が復位し,硝子体混濁の除去を目的とした2例と硝子体混濁とmacular puck-erの除去を目的とした1例では手術目的を達した.手術を中止した高度の増殖性硝子体網膜症の桐沢型ぶどう膜炎の1例以外は手術による併発症は特にみられず,5例では術後視力が改善した.

グラム陰性菌を検出した細菌性角膜感染症の検討

著者: 富井隆夫 ,   北川和子

ページ範囲:P.1139 - P.1142

 1980年1月より1987年6月までの7年半に金沢医科大学眼科外来を受診し,入院加療を要した角膜感染症59例のうち,グラム陰性菌の検出された15例を検討対象とした.15例の平均年齢は65.9歳で,発症原因は7例で明らかで,そのうち異物が4例,コンタクトレンズのトラブルが3例あった.8例に涙嚢炎,人工的無水晶体眼,瘢痕トラコーマ等の眼科的な基礎疾患を認めた.全身的な基礎疾患は9例に認め糖尿病は4例を占めた.分離菌は9種16株検出し,株数ではMorax-ella ep.の4株が最も多く,ブドウ糖非醗酵陰性桿菌が全体の25%を占めた.アミノグリコシド系薬剤とpiperacillin, minocyclineは分離菌に対し薬剤感受性は良好であり,抗生剤の投与方法は結膜下注射,点眼,全身投与を併用した.4例では視力の改善は得られなかった.今回の検討例は平均年齢が高く,眼局所および全身的なpredisposing factorをもつ例が多く,弱毒菌による角膜感染症に関しては,高齢自体が重要なcompromised hostであると考えられた.

YAGレーザーによるCapsulotomy後におこった網膜剥離の1例

著者: 石井好子 ,   金谷いく子 ,   溝上國義

ページ範囲:P.1143 - P.1146

 近年,白内障手術は生理的バリヤーを残す,水晶体嚢外摘出術および後房レンズ移植が一般的となっている.これに伴う後発白内障に対しては従来,観血的方法がとられていたが,Nd:YAG laserを用いる事によって,比較的容易に後嚢切開術が行われるようになった.Nd:YAG laserの普及に伴う使用頻度の増加と共に,その合併症に関する種々の報告がみられる.Nd:YAG laserによる後嚢切開術後の合併症として,眼内レンズの損傷,一過性の眼圧上昇,前房出血などは良く知られているが,網膜障害に関する報告は少ない.
 今回我々は,後部ぶどう腫を伴う高度近視の後発白内障に対し,Nd:YAG laserによる後嚢切開術を施行した後,黄斑円孔型網膜剥離を発症した1例を経験したので報告した.
 症例は,75歳女性.水晶体嚢外摘出術後に後発白内障を来したため,Nd-YAG laserを用いて後嚢切開術を施行した.約1カ月後に突然の視力低下を自覚し来院した.黄斑部に円孔を伴う広範な網膜剥離と,周辺部網膜に裂孔を伴う格子状変性が認められた.硝子体切除術および輪状締結術を施行し,網膜の復位を得ている.
Nd:YAG laserによる後嚢切開術の術後合併症として,眼圧の上昇のみならず,黄斑部類嚢胞浮腫,網膜剥離などの網膜,硝子体の障害も重要である。また,これらの合併症を少なくするためには,必要最小限の出力で照射すると共に,本例のような高度近視に対しては切開を出来るだけ小さくするべきであると考えられた。

トラベクロトミー術後の隅角所見と手術効果

著者: 谷原秀信 ,   永田誠

ページ範囲:P.1147 - P.1149

 トラベクロトミー術後の隅角所見の手術効果への影響を検討した.広範囲癒着型の虹彩前癒着があると長期での手術成績が不良となる傾向を認めた.不鮮明裂隙を有する症例もやや成績不良の傾向を認めた.その他の隅角所見は手術成績には大きな影響を認めなかった.

硝子体手術のための照明用plugの考案

著者: 近藤義之 ,   高塚忠宏

ページ範囲:P.1151 - P.1154

 硝子体手術において,眼内での双手操作bimanual techniqueを可能とするために,強膜に縫合固定し,助手がこれを操作する形式の眼内照明器具を試作した.ファイバーには,直径0.75mmのモノフィラメントファイバーを用い,その一端にinfusion cannulaと同形状の強膜縫合固定用の金属パイプを被せてあり,Illumination Plugと名付けた.
 この方法では,4か所に強膜切開を置くfour-port vitrectomyとなり,眼内観察用のコンタクトレンズも助手が保持することが困難なので,floating contact-lensと固定用のリングを使用する必要がある.このため,多少手技は煩雑となり,また眼球の可動制限を生じ易いという欠点があるが,糖尿病性網膜症における後極部に厚い増殖膜を有する症例や,血管に富む線維性血管膜の切断が必要な症例では,眼内双手操作を併用することにより,出血量を減少させ,医原性裂孔の発生を抑える効果が期待でき,有用な方法であると考えられた.

レーザー線維柱帯形成術とプロスタグランディンズ血液房水柵の透過性亢進と眼圧下降機序

著者: 水流忠彦 ,   澤充

ページ範囲:P.1155 - P.1159

 原発開放隅角緑内障または嚢性緑内障患者22名29眼に対してアルゴンレーザー線維柱帯形成術(ALT)を施行し,術前および術後経時的にフルオロフォトメトリーを行いALTが血液房水柵透過性に及ぼす影響を検討した.そしてALTによる血液房水柵透過性の変化とプロスタグランディンズ(PGs)の関与を知るため,対象を術前および術後3日間のPGs生合成阻害剤であるFlurbiprofen (0.1%)点眼群(FP[+]群,12名12眼)と,非点眼群(FP[—]群,15名17眼)の2群に分けて検討した.FP (+)群,FP (—)群いずれも,ALT術後7ないし14日までは術前に比較して血液房水柵透過性が有意に上昇したが,両群間での比較では,術後14日目までの各時期ではFP (+)群ではFP (—)群に比較して血液房水柵透過性亢進が有意に抑制された.術後14日までのoutflow pressureの下降率はFP (—)群の方が有意に高かった.また,術後早期の一過性眼圧上昇(5mmHg以上)の頻度には両群間で有意の差を認めなかった.PGsは,ALTによる血液房水柵透過性の亢進および眼圧下降作用には密接な関与をしていることが判明したが,術後一過性の眼圧上昇に及ぼす影響については明らかではなかった.

ベーチェット病の眼症状に対するシクロスポリン療法の検討

著者: 皆川玲子 ,   大野重昭 ,   有賀浩子 ,   田中邦枝 ,   平野哲夫

ページ範囲:P.1161 - P.1166

 新しい免疫抑制剤であるシクロスポリン(CYA)を19例のベーチェット病患者に経口投与し,その眼症状に対する治療効果及び副作用について検討した.
 CYAは初期量として5〜10 mg/kg/dayより投与を開始し,症状に応じて増減しつつ2〜37.5カ月間(平均18.5カ月間)治療を継続した.その結果,以下のような成績を得た.1.眼症状に対する治療効果は,著効4例,有効13例,無効2例であった.2.副作用としては,腎機能障害9例(47%),神経症状4例(21%),高血圧は1例(5%)にみられた.3.bromocriptineとの併用によりCYA血中濃度は上昇傾向を示した.4.CYA血中濃度は個人差が大きく,投与量の決定及び副作用発現防止には血中濃度の定期的モニタリングが必要である.

骨髄移植後の移植片対宿主病の眼所見

著者: 加藤玲子 ,   上岡康雄 ,   花田良二 ,   山本圭子

ページ範囲:P.1171 - P.1174

 骨髄移植を施行した12例の眼科的合併症について検討した結果,12例中6例に移植片対宿主病Graft-Versus-Host-Disease (GVHD)が発症し,そのうち2例に眼所見が認められた.症例1は乾性角結膜炎(KCS)とともに両側鼻涙管閉塞による慢性及び急性涙嚢炎が認められた.症例2は,急性GVHD期にherpes zosterによると思われる角膜炎を発症し,その後KCSが認められた.自験例及び文献的考察から骨髄移植後,高率に眼科的合併症が生じ,その主体はKCS及び感染症と考えられた.今後,増加することが予想される骨髄移植後症例に対して,これらの合併症の発症を念頭におき眼科的管理を行う必要があると思われる.

硝子体出血を来したブドウ膜炎を合併したオーム病の1例

著者: 千代田和正 ,   杉谷文子 ,   出口達也 ,   細川武 ,   野寄喜美春

ページ範囲:P.1175 - P.1179

 症例は左視力低下を主訴として来院した14歳の男性で,左眼乳頭上に増殖性病変を伴うブドウ膜炎がみられ,経過観察中に硝子体出血を来した.初診時視力は右眼1.2(n.c.),左眼1.0(n.c.)であった.髄液および血清を検査した結果,補体結合反応ならびにPsittaciを使った螢光抗体法でオーム病と確定でき,ミノサイクリンの全身投与により,速やかに全身および眼症状の著明改善が得られた.現在,眼症状は消失し良好な視力を保っている.

硝子体注入された気体の問題点—1.硝子体置換された気体の消退

著者: 古川真理子 ,   高木均 ,   山本文昭 ,   上野聡樹

ページ範囲:P.1181 - P.1184

 subtotal vitrectomy施行後,眼内気体全置換を併用した難治性網膜剥離症例における眼内気体存在期間および気体吸収に影響を与えると考えられる因子について,統計的に検討を加えた.対象は気体存在期間の明確な113眼で,影響因子として検討した内容は患者年齢,手術経験や手術操作などである.さらに空気単独置換例もSF6及び空気混合置換例における存在期間の相違性についても検討を加えた.検討の結果は,気体存在期間に直接的に影響を与えると思われる因子は見当たらず,例えば眼球容積を増大させる無水晶体眼や,縮小させるプロンベ縫着眼でも有意な変化は認められなかった.平均存在日数は空気全置換例では10.4日であったが,SF6及び空気混合置換例ではSF6の混入量にほぼ比例して気体存在期間が延長した.ただし2ml以上のSF6を混入しても存在期間は有意に延長せず,最長は20日程度であった.

最新海外文献情報

角膜移植後の連鎖球菌性眼内炎,他

著者: 大石正夫

ページ範囲:P.1168 - P.1170

John C Baer et al : Streptococcal endophthal-mitis from contaminated donor corneas after keratoplasty. Arch Ophthalmol 106: 517-520, 1988
 全層角膜移植術後に発症した細菌性眼内炎で,Streptococcus viridansが原因菌であった3症例を報告している.症例は59歳男,63歳女,60歳女で,術後1日〜3日目に発症,前房水,硝子体,donor角膜縁および保存液であるM-K液などからStr. viridansが培養検出されていた.3症例の化学療法,Vitrectomyによる治療後最終視力は,指数弁〜0であった.in vitroの実験でGM 20mg/Lを加えたM-K液中に接種されたStr. viridansは,4℃20時間後も菌数減少がみられなかった.
 これまでM-K液使用donorの角膜移植術後感染の報告は,今回を含めて10症例あり,うちStr. viridans例は4症例である.Streptococcus sp.には近年GM耐性菌が増加していることから,M-K液にGMを加えるだけではStreptococcus汚染の予防には不十分である.今後,保存液中に加えるより適正な抗生剤が検討されねばならない.

薬の臨床

原発開放隅角緑内障と高眼圧症に対する塩酸ジピベフリン点眼薬の薬効評価—β-ブロッカー点眼液との比較検討

著者: 東郁郎 ,   塩瀬芳彦

ページ範囲:P.1187 - P.1191

 用時溶解型の塩酸ジピベフリン点眼薬(DE-016)の原発開放隅角緑内障あるいは高眼圧症に対する臨床的有用性をより明確にするため,以前に実施した封筒法による市販の1.25%エピネフリン点眼液との比較試験の対象症例のうち,試験終了後にβ-ブロッカー点眼液が単独投与された症例について,0.04%DE-016または0.1%DE-016とβ-ブロッカー点眼液の眼圧下降効果の比較検討を行った.
 該当する症例は,0.04%DE-016投与群の30例56眼および0.1%DE-016投与群の28例54眼であった.
 眼圧下降効果については,0.04%DE-016および0.1%DE-016ともにそれぞれβ-ブロッカー点眼液(チモロール,カルテオロール,ベフノロール)との間に有意差を認めなかった.
 このような結果から,DE-016は緑内障治療薬として現在最も好まれて使用されているβ-ブロッカー点眼液に匹敵する眼圧下降効果を有する薬剤であることが示唆され,今後広く臨床に適用されることが期待される.

β-遮断剤よりエピネフリン点眼剤が奏効した原発開放隅角緑内障の3例

著者: 塩瀬芳彦

ページ範囲:P.1193 - P.1196

 今回,β-遮断剤では眼圧コントロールが不十分であるにもかかわらずエピネフリンによる劇的な眼圧下降を認め,かつ長年月に亘り効果持続を認めた3例の原発開放隅角緑内障につき報告した.このことは,個体によりエピネフリン感受性の高いものと,β-遮断剤に対する反応性の高いものがあることを示す実例であると思われる.また,エピネフリンで10年以上に亘りβ-遮断剤に見られるような眼圧下降効果減弱をほとんど認めなかったのは特筆に値するものである.今後の問題としてエピネフリンのprodrugであるジピベフリン点眼液使用の可能性についても言及した.

文庫の窓から

シュルツェ眼病論(仮称)

著者: 中泉行信 ,   中泉行史 ,   斉藤仁男

ページ範囲:P.1198 - P.1199

 明治7年(1874)5月に第一大学区医学校が東京医学校(東京大学医学部の前身)と改称され,その12月にシュルツェ(Emil August Wilhelm Sehultze)が同校の外科教師として就任した.
 シュルツェは1840年にベルリンに生れ,ベルリン陸軍軍医学校を1863年に卒業し,ドクトルとなる.1870年から1871年に陸軍一等軍医として普仏戦争に従軍,1871年から1872年に英国およびオランダに留学し,特にリスターに就いて防腐法を学び,1872年ベルリンに戻り,シャリテ病院,パルテレーベンの第一助手となり,軍医のエリートコースを順調に歩んだ.1874年東京医学校の外科系教師となる.1877年(11月?)一旦帰国したが,翌年7月より1881年(明治14)6月まで再雇傭となった.1881年帰国して二等軍医正に進み,ステッチンの歩兵第二連隊附軍医を命ぜられた.1883年軍を辞し,ステッチン市立病院長となる.1900年フライブルグに隠退した.その後,一時当地の陸軍病院に勤めた(1914〜1918)が1924年フライブルグで肺炎のため死去した.

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原著論文の書き方について

ページ範囲:P.1200 - P.1200

論文を書く上で一番大切なことは,何故この論文を書くに至ったのかという理由がはっきり示されることと,この研究によって新しくわかった知識は何であるかということを,はっきりと示すことであろうと思います。
以下,具体的に順を追って述べてみたいと思います。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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