文献詳細
文献概要
臨床報告
Bálint症候群の1例—神経眼科学的検討
著者: 湯田兼次1
所属機関: 1横浜市立大学医学部眼科学教室
ページ範囲:P.1249 - P.1254
文献購入ページに移動 67歳男性で,脳硬塞後に精神的注視麻痺,視覚性運動失調,空間的注意障害の3徴が明らかに認められ,Bálint症候群と考えられた1例にEOGを主体とする神経眼科学的検査を行い,いくつかの興味ある知見が得られた.CTスキャンでは両側頭頂葉,左前頭葉中心回周囲に低吸収域がみられ,Bálintの症例の剖検結果とほぼ一致する病変部位であった.視野では求心性狭窄と右下1/4盲がみられた.眼球牽引試験で正常者には起こるはずの周辺静止物の動揺感が生じなかった.眼球の滑動性追従運動(SPM)や視運動性眼振(OKN)緩徐相の速度は視標速度にかかわらず一定で,左方へのSPMでは眼振様波形がみられた.前庭動眼反射(VOR)は良好にみられたが,明室中でも暗室中でも同じ利得であり,視覚抑制は注意を喚起しなければ起こらなかった.以上の事実から本症の原因病巣とされている頭頂葉領域には眼球運動の方向のみでなく速度を規定する細胞があることが推定され,さらに周辺視野刺激によるOKNやVOR視覚抑制にも本領域が深く関わり合っていることが示唆された.
掲載誌情報