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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科42巻2号

1988年02月発行

雑誌目次

特集 第41回日本臨床眼科学会講演集 (1) 学会原著

糖尿病性網膜症における硝子体螢光測定の臨床応用に関する研究—第3報硝子体螢光値よりみた糖尿病性網膜症の病期分類

著者: 金城美恵子 ,   宮里章 ,   宮里稔 ,   福田雅俊

ページ範囲:P.93 - P.96

 教室の福田が提唱する新病期分類によってわけられた,各種病期の網膜症をもつ糖尿病患者93例175眼と,非糖尿病者17例27眼を対象に硝子体螢光測定を行い,各網膜症の病期との関連を比較検討し次の結果を得た.
1)硝子体螢光値は,福田分類の病期の進行とともに増加する傾向にあり,特にAIとAII,AIIとBI,BIとBII,BIIとBIIIの間で,統計学的に有意差があった.2)したがって硝子体螢光値よりみても,増殖前網膜症を増殖性網膜症のもっとも早期のものとして,単純網膜症と増殖網膜症の中間におくことは妥当で,この病期分類(福田分類)は合理的なものであると結論した.

糖尿病性黄斑症に対する格子状網膜光凝固

著者: 北野滋彦 ,   鹿児島武志 ,   船津英陽 ,   早川和久 ,   三島宣彦 ,   堀貞夫

ページ範囲:P.97 - P.100

 三井記念病院眼科および東大眼科糖尿病専門外来における糖尿病性網膜症のうち,黄斑浮腫を呈した51症例59眼に対して格子状網膜光凝固を施行し,視力検査,静的中心視野検査,眼底検査,螢光眼底検査にて検討を加えた.
 術後2段階以上の視力改善は22眼(37%)にみられ,33眼(56%)は不変で,悪化は4眼(7%)であった.螢光眼底所見において,60%に改善がみられ,静的中心視野における悪化は3%であった.
 術後の視力改善は,術前における視力,黄斑部の浮腫,硬性白斑の程度に左右され,全身的には,高血圧の既往のないものに良好であった.また,術後の抗炎症剤の併用が有用であることが示唆された.

後部硝子体と糖尿病性網膜症(特に黄斑症)の関係について

著者: 福島茂 ,   園田繁 ,   松尾健治 ,   宮田典男

ページ範囲:P.101 - P.105

 長期にわたる糖尿病歴があり,糖尿病コントロール状態がきわめて不良であるにもかかわらず,網膜症がきわめて軽い症例を経験する.その様な症例には多くの場合後部硝子体剥離(PVD)が認められる.定期的にHbA1cを測定している網膜症患者の後部硝子体と後極部網膜を観察し,単純黄斑部浮腫(ME),嚢胞様黄斑部浮腫(CME)とPVDが密接に関係しているという結果をえた.
 332症例626眼に対しHbA1c,視力を測定し,Goldmann三面鏡細隙灯顕微鏡にてME,CMEおよびPVDの関係をしらべた.PVDおよび後部硝子体の液化を認めないものをPVD (‐)群,後部硝子体の分離(後部硝子体面が不連続なもの)を認めるものおよびPVD (‐)ともPVD (+)とも判別のつかないものをPVD (±)群,後部硝子体の剥離(後部硝子体面が明瞭に連続したもの)または硝子体線維が認められない程の高度の硝子体液化を認めるものをPVD (+)群と分類した.またMEおよびCMEを各々程度の差により軽いものより(‐),(±),(+),(++)の4段階に分類した.またHbA1c値は8%未満のものをコントロール良群,8%以上10%未満のものをコントロール可群,10%以上のものをコントロール不可群とした.
 HbA1c値と視力変化の間に相関はなく,PVD(‐)およびPVD (+)各群でHbAlc値とMEおよびCMEの発生頻度に有意差は生じなかった.しかしPVD(+)群はPVD(-)群に比べてME(-)が有意に多く,ME(+)以上が有意に減少していた(P<0.001).またCMEでも同様の傾向がみられ,PVD(+)群はPVD(-)群に比べてCME(-)が有意に多く,CME(±)およびCME(+)以上は有意に減少していた(P<0.001).PVDの有無が増殖性網膜症だけでなく黄斑症発症にもきわめて重要であることが示唆された.

インスリン依存型糖尿病患者妊娠時の眼科的管理

著者: 木戸口裕 ,   大井いく子 ,   亀山和子 ,   福田敏雄 ,   大森安恵

ページ範囲:P.107 - P.111

 インスリン依存型糖尿病(IDDM)患者46人62分娩例について,妊娠中の糖尿病性網膜症の変化を検討した.
 妊娠初回検査時,27例には網膜症がみられず,そのうち10例(37%)には,妊娠中に単純型網膜症が生じたが,残り17例には,網膜症を生じなかった.また35例には,妊娠初回検査時非増殖性網膜症がみられた.このうち24例(69%)に網膜症の悪化が生じ,11例は網膜症の変化がみられなかった.
 網膜症が最も増悪する時期は,妊娠25週以降であるものが,悪化例の85%をしめた.また妊娠中に悪性網膜症(福田B分類)へと進行した例は,妊娠初回検査時に網膜症のないものにはみられず,重症単純網膜症(AII)であるものに多くみられた.それらの例は,良性網膜症(福田A分類)のままであったものに比べ,妊娠前から妊娠中にかけての血糖コントロールの改善度合が大きかった.またそれらの例は,大部分光凝固により網膜症の進行は停止した.
 妊娠中に網膜症が悪化する因子としては,年齢30歳以上であること,糖尿病罹病期間5年以上であること,妊娠前血糖コントロール不良なこと,が示唆された.

小児糖尿病における網膜細小血管異常について

著者: 鎌田章栄

ページ範囲:P.113 - P.117

 小児糖尿病患者(インスリン依存性糖尿病〔IDDM〕74名,インスリン非依存性糖尿病〔NIDDM〕99名,耐糖能異常〔IGT〕27名)計200名を対象に,半年から1年の間隔で眼底検査を施行し,学童期以上の症例には螢光眼底造影検査を行い,網膜細小血管症の発症頻度と,糖尿病の病型,年齢,罹病期間,コントロールの良否との関係を検討した.
 検眼鏡的異常所見としては,網膜小出血と毛細血管瘤を認め,その出現頻度は200名中26名13.0%であった.病型別に検討すると,IDDM 74例中19例25.7%,NIDDM 99例中6例6.1%,IGT 27例中1例3.7%であった.IDDMとNIDDMおよびIGTとの間に有意差を認めた.
 螢光眼底造影は157名に行い,毛細血管の限局性拡張および濃染,毛細血管瘤,黄斑部周囲毛細血管網の限局性閉塞などの異常所見を69名44.0%に認めた.病型別の出現頻度はIDDM 59例中36例61.0%,NIDDMでは77例中31例40.1%,IGTでは21例中2名39.5%であり,各病型間に有意差を認めた.
 血糖コントロールの良否との関係は,検眼鏡的および螢光眼底造影異常所見いずれも,コントロール良好群で低率であったが有意差は認められなかった.
 年齢および罹病期間と検眼鏡的および螢光眼底造影所見の異常所見出現率との間に相関を認め,かつ両因子には相剰効果が認められた.

糖尿病性網膜症における網膜内細小血管異常の経時的変化

著者: 山本禎子 ,   山下英俊 ,   堀貞夫

ページ範囲:P.118 - P.120

 当科糖尿病外来通院中の患者のうち,2回以上の螢光眼底検査でintraretinal microvas-cular abnormalities (IRMA)を認めた34例47眼について,IRMAの経時的変化を観察し,生命表法を用いて分析した.
 IRMAには網膜毛細血管網の形に似たものと異常な走行を示す血管の2種類がみられた.今回はこの両者をIRMAとしてあわせて検討した.IRMAは生命表法によると経過観察とともに徐々に増大し,半年で約1割の部位で,1年で約2割の部位で,2年で約3割の部位でIRMAの増大がみられた.この速さに糖尿病性網膜症の病期や光凝固の有無が関与していることが示唆された.

色素レーザーによる老人性円板状黄斑変性症の治療成績

著者: 高橋寛二 ,   大熊紘 ,   宇山昌延

ページ範囲:P.121 - P.125

 老人性円板状黄斑変性症45例45眼に対して,色素レーザーによる光凝固治療を行った.波長特性による理論,ならびに我々の行った動物実験成績より,本症の網膜下新生血管の凝固閉塞には,色素レーザーの590nm橙色波長が最適と考えられ,この波長を主として用いた.平均観察期間は6.5カ月で,全例の視力向上率は51%であり,眼底所見を含めた総合判定の成績では全例の71%に改善をみた.特に本症初期の漿液性網膜剥離期の症例15眼には87%に改善をみた.
 波長可変性と凝固組織の選択性を利用することにより,色素レーザーは,今後本症の光凝固療法に,きわめて有用な治療手段となりうることが示された.

網膜静脈閉塞症の対側眼に見られた網膜静脈閉塞症

著者: 天野良成 ,   井上幸次 ,   廣瀬なをみ ,   田中康夫 ,   平木有利子 ,   原拓 ,   西川憲清

ページ範囲:P.135 - P.138

 1986年7月より1987年6月までに大阪警察病院眼科を受診した網膜静脈閉塞症患者194例のうち,両眼に発症していたものは13例(6.7%)であった.両眼発症例の平均年齢は65.9歳で男女比は4:9であった.両眼に中心静脈閉塞症を発症したもの1例,両眼に分枝静脈閉塞症を発症したもの11例,分枝静脈閉塞症に続き対側眼に分枝静脈閉塞症,中心静脈閉塞症の順に発症したものが1例であった.対側眼に発症するまでの期間は,平均3.9年であった.分枝静脈閉塞症の両眼発症例のうち,病変が対側眼の黄斑に及ぶものが5例であった.これら13症例は全て高血圧症を有していた.対側眼への網膜静脈閉塞症の発症の予防には,血圧の厳重なコントロールが,またその早期発見,早期治療のためには,定期的な経過観察が重要であると考えられた.

成人T細胞白血病における眼症状

著者: 樺山八千代 ,   伊佐敷誠 ,   上原文行 ,   大庭紀雄 ,   有馬直道

ページ範囲:P.139 - P.141

 レトロウイルス感染による特異な白血病である成人T細胞白血病患者2例にみられた眼症状を報告した.症例1は,片眼に限局性の濃厚な黄白色の滲出物と血管の白鞘化,白線化を認めた.この壊死性網膜炎の原因として,サイトメガロウイルスの日和見感染が病理組織学的に確認された.症例2は,両眼に上強膜炎徴候がみられた.これらの眼症状は,全身的な免疫機能不全状態と関連して発生したものと考えられた.2症例は成人T細胞白血病ウイルスの濃厚汚染地域である南九州地区住民であった.

学術展示

日和見病原菌としてのBranhamella catarrhalis眼感染症

著者: 大石正夫 ,   大桃明子 ,   田沢博 ,   坂上富士男 ,   本山まり子

ページ範囲:P.142 - P.143

 緒言 Branhamella catarrhalis (B catarrhalis)は上気道のnormal floraとみなされて,その病原性ならびに同定に関してあまり注意が払われなかった.近年,主として慢性の下気道呼吸器感染症の原因菌として注目され,その重要性が指摘されている1).呼吸器以外にも全身の各臓器感染症の原因菌として検討されている.
 眼科領域におけるB catarrhalisについてはこれまで二,三の報告2〜4)がみられるが,系統的に検討したものはない.

ソフトコンタクトレンズによる巨大乳頭性結膜炎の2例について

著者: 村松隆次 ,   高村健太郎 ,   臼井正彦

ページ範囲:P.144 - P.145

 緒言 最近,コンタクトレンズ装用の合併症で,巨大乳頭性結膜炎(GPC)が注目されている.本症の発症機序には,アレルギー反応の関与が示唆されているが,免疫学的検討はほとんどなされていない.また,乳頭増殖の程度はさまざまであり,臨床的にもいわゆるアレルギー性結膜炎との異同について不明な点が多い.
 そこで我々は,ソフトコンタクトレンズ装用者にみられた2症例のGPCの乳頭部を生検し,種々の免疫組織学的検討を行ったので報告する.

結膜炎から分離されたヘモフィルス属のベータラクタマーゼ産生率

著者: 秦野寛 ,   堀武志

ページ範囲:P.146 - P.147

 緒言 1974年,Khanら1)により,小児の髄膜炎と肺炎から,ベータラクタマーゼによるインフルエンザ菌のABPC耐性株の出現が世界で初めて報告された.以来,ベータラクタマーゼによる本菌の耐性について,いくつかの報告が他科でみられているが2),結膜から分離されたヘモフィルス属(Haemophilus influen-zae,およびH.aegiptius)についてのベータラクタマーゼ産生能と薬剤耐性についてはよく知られていない.そこで,今回我々は,Haemophilus属による結膜炎の性別,年齢分布,季節性などを調べるとともに,結膜から分離された本菌株のベータラクタマーゼ産生率を調べ,同時にその薬剤感受性について検討を行った.

ステロイド非投与による実質型角膜ヘルペスの予後消炎後の角膜後遺症の検討

著者: 北川和子 ,   山村敏明 ,   佐々木一之

ページ範囲:P.148 - P.149

 実質型角膜ヘルペスの治療に際してのステロイド剤の併用に関しては古くより議論のあるところであるが1),著者らは以前よりステロイド非投与の立場でその治療を行ってきている2).本治療方法の最大の利点は当然のことながら,ステロイド依存症が出現しないことであり,ステロイド漸減に伴う再燃や増悪にわずらわされることもない.ステロイドを投与しない場合,炎症がより高度となり,眼圧上昇を来したり,また角膜の瘢痕形成や血管新生が出現しやすいとの考えもあるが,今回非ステロイド療法による本疾患の治療成績につき,視力および角膜後遺症を中心に検討してみたのでここに報告する.
 対象 は1980年より1986年までの7年間に金沢医科大学病院を受診した実質型角膜ヘルペス患者であり,内訳は男性31例,女性13例,平均年齢は48歳で,病型別分類では実質性角膜炎29例,円板状角膜炎9例,混合感染例6例であった.治療内容は抗ウイルス剤,散瞳剤の点眼が主体であり,一部の症例で消炎剤(pranoprofen)点眼,レバミゾール内服,アシクロビル点滴静注等を併用したが,いずれの症例でもステロイド剤は局所,全身ともに全く投与はしなかった.また必要に応じ,抗生物質の投与を行った.

翼状片に対する表層自己角膜移植術

著者: 浅野俊弘 ,   高橋玲子

ページ範囲:P.150 - P.151

 緒言 翼状片は,手術をしても再発することが多い.再発翼状片の場合には,術後再発率はさらに高くなる1).そこで,再発を長期間にわたって防止する目的で,巨大翼状片,再発翼状片に対して,三種の表層自己角膜移植術を施行し,術後経過を観察した.

角膜潰瘍部における炎症細胞

著者: 大路正人 ,   近江源次郎 ,   切通彰 ,   木下茂

ページ範囲:P.152 - P.153

 緒言 角膜感染症や角膜腐蝕などにおいては角膜潰瘍が生じるだけではなく,その原因が消失した後にも上皮の修復が進まず,潰瘍は遷延化しtrophic ulcerとなる場合が少なくない.一般に角膜潰瘍においては,好中球はcollagenaseや種々のchemical mediatorの産生細胞として重要な意義が認められ,動物実験においても証明されている.人眼の角膜潰瘍においても同様の機序が推察されているが,活動期の角膜潰瘍においては炎症細胞の関与を検討した報告は少なく1),特にそのdistributionに関しては明らかではない.角膜潰瘍の病態を理解することは,これら疾患の治療を考えるうえにおいても非常に重要であると考えられる.今回,我々は種々の角膜潰瘍において潰瘍部の細胞診を行い,その病態を検討した.

眼科領域におけるヘルペスウイルスの関与

著者: 福島正文 ,   千羽真貴 ,   千羽一 ,   石黒真美 ,   筒井純

ページ範囲:P.154 - P.155

 緒言 近年,桐沢型ぶどう膜炎の発症にヘルペスウイルス群の関与が明白となってきた1〜7).しかし,従来まで原因不明とされていた種々の眼科疾患においても,ヘルペスウイルス群の感染の関与が示唆される.今回,当科を受診した原因不明の疾患でその関与の可能性が考えられる症例のヘルペスウイルス群の抗体価についでretrospectiveに検討を行ったので報告する.

眼内レンズ術後に発症した無菌性前房蓄膿

著者: 張由美 ,   劉榮宏 ,   葉則祥

ページ範囲:P.156 - P.157

 緒言 眼内レンズ術後に発生する無菌性前眼部炎症は虹彩色素細胞,白血球ならびにmacrophageがレンズ表面に出現する慢性肉芽腫性炎症が多い.急性発症するもの特に術後しばらくしてから前房蓄膿を出現するものは比較的少ない.今回我々は老人性白内障で水晶体嚢外摘出ならびに後房レンズ移植術(以下ECLE+IOL)を受け,術後経過良好であったが,突然前房蓄膿を発症した3症例3眼を経験した.前房蓄膿は無菌性と思われ,全例steroid治療で視力は元に戻った.

人工水晶体挿入眼のフィブリン析出の重症度に関する検討

著者: 波紫秀厚 ,   吉田紳一郎 ,   筑田真 ,   門屋講司 ,   小原喜隆

ページ範囲:P.158 - P.159

 緒言 人工水晶体挿入術後の合併症であるフィブリン析出の原因のひとつに残存水晶体上皮細胞の増殖があるが1,2),そのフィブリン析出の程度は特別な処置なしに消失するものから,ステロイドの全身投与を行っても虹彩癒着を生じるものまで,さまざまである.
 そこで,フィブリン析出の重症度に関する因子について検討した.

後房レンズ移植後の眼圧上昇術式および術前処置との関連

著者: 高橋信夫 ,   柴田崇志 ,   山村敏明 ,   田中泰雄 ,   渡辺のり子 ,   安井紫都子

ページ範囲:P.160 - P.161

 緒言 白内障嚢外摘出術(ECCE)および眼内レンズ(IOL)移植後のいずれにおいても術前より術翌日に有意に眼圧が上昇することは既に報告されている1,2).一方,ヒアルロン酸ナトリウム(H-Na)をIOL移植時に使用するとその術後の眼圧上昇は更に著明となり,我々も確認している3)
 本稿においては,IOL移植術の術式の相違や術前処置,特に眼圧下降剤の有無によって,術後眼圧の上昇がどのように影響を受けるかを検討した.

蚕食性角膜潰瘍の病理組織所見

著者: 黒澤明充 ,   坂上富士男 ,   井上彩子 ,   難波克彦 ,   大石正夫 ,   江村巌

ページ範囲:P.162 - P.162

 緒言 蚕食性角膜潰瘍の原因は不明であるが,角膜や結膜組織に対する自己免疫の関与が推測されている1,2).本症を病理組織学的に観察する機会を得たので報告する.

眼内レンズ表面における細胞の観察 膜様物質について(抄録)

著者: 岡田潔 ,   佐川宏明

ページ範囲:P.163 - P.163

 緒言 術後の眼内レンズ表面には,主として組織球,異物巨細胞,線維芽細胞様細胞が認められる.これは移植された眼内レンズに対する生体の反応で,眼内レンズはこの細胞反応の結果,透明な膜様物質に覆われ,生体内で非異物化すると推定されている.
 眼内レンズ表面に認められる膜様物質として,フィブロネクチン,コラーゲン,ムコ多糖などの存在が報告されているが,これらの物質が,眼内レンズ表面に膜様構造を形成する過程は不明である.

連載 眼科図譜・360

白内障術後連続装用ソフトコンタクトレンズ内の真菌による沈着物

著者: 張野正誉 ,   岡本茂樹 ,   原二郎 ,   田中康夫

ページ範囲:P.84 - P.85

 緒言 近年水晶体摘出術後の屈折矯正方法は,眼内レンズが主体となっているが,眼内レンズ挿入不能であった例などの片眼無水晶体眼にとっては,連続装用ソフトコンタクトレンズ(SCL)が必要で,まだまだSCLの役割は大きい.
 連続装用SCLの管理は難しく,SCLの沈着物や汚れがSCL連続装用者の約20%にみられ,レンズの変更を余儀なくされることがある.そして,SCLの沈着物の一部に真菌が原因となっていることは,Bernstein1)の報告以来よく知られており2〜8),それらの細隙灯顕微鏡所見は,fuzzy (毛ば立った) spot1),feathery white opacification3),dark brown area5)等と表現されている.今回SCL (東レBreath-O® )内に含まれた,あたかも毛玉のような所見を示した珍しい沈着物を経験し,組織学的に真菌と証明されたので紹介する.

今月の話題

老人性円盤状黄斑変性症の病態

著者: 石橋達朗

ページ範囲:P.87 - P.92

 老人性円盤状黄斑変性症の本態は網膜色素上皮細胞の変化を初発とし,多形性物質のブルッフ膜への蓄積やドルーゼンの形成に対する慢性炎性細胞浸潤,引き続いて起こる血管新生を伴う組織反応,そして最終的には瘢痕形成を来す慢性炎症性疾患と考えられる.

眼の組織・病理アトラス・16

虹彩の構造

著者: 岩崎雅行 ,   猪俣孟

ページ範囲:P.176 - P.177

 虹彩irisは,毛様体の前端から水晶体の前面に伸びる直径12mmの膜状の組織で,眼房を前房と後房とに分ける.ぶどう膜の最も前方を占め,血管と色素に富む.瞳孔pupilは虹彩のほぼ中央部にある円形の開口部で,カメラの絞り孔に相当する.虹彩は,房水産生や房水流出にも一部関与しているといわれる.
 虹彩の表面には,虹彩紋理と呼ばれる隆起や溝,小窩などが多数存在する.瞳孔縁から1.5〜3mmの虹彩前面に捲縮輪という不規則な輪状隆起があり,それより瞳孔側を小虹彩輪,毛様体側を大虹彩輪と呼ぶ.小虹彩輪には放射状の,大虹彩輪には輪状の紋理が多い(図1).虹彩裏面は比較的なめらかだが,周辺部には規則的で細かい輪状溝が見られる.

最新海外文献情報

網膜の電気生理,他

著者: 三宅養三

ページ範囲:P.128 - P.130

Jaffe MJ et al : The effect of metoclopramide on the Ganzfeld electroretinogram. Vision Res 27 : 1693-1700, 1987
 網膜のdopaminergic neuronsがどのように視機能を制御しているかに関しては,不明な点が多いが,dopamineとERGの律動様小波(OP)との関係が注目されている.一方OPは暗順応後に記録した振幅より,光刺激を与えた後に記録した振幅が大きくなる現象(増幅現象)も古くより知られている.さらに暗順応下ではdopamineが光刺激に伴って放出される(ネコ)との報告もある.本論文はdopamineとOPの光刺激後の増大現象を結びつけた興味深い内容である.
 Dopamine D2 receptorsに対して拮抗作用を示すmetoclopramideを正常者に静注した場合,上述したOPの増幅現象は生じず,光刺激後にOPの振幅は小さくなるという.この結果よりdopamineがなんらかの作用により,ヒト網膜のOP発生に関与する事が暗示された.その機序としてdopamineが分泌されると,D2receptorsからのnegative feed back機構により,dopamineの分泌を阻止する抑制が働く.逆にD2 receptorsをブロックするmetoclopramideを用いると,このnegative feed back機構が抑制され,dopamineが増加する可能性がある.

臨床報告

帯状角膜変性症に対する角膜表層切除術の効果

著者: 切通彰 ,   近江源次郎 ,   大路正人 ,   木下茂

ページ範囲:P.165 - P.167

 帯状角膜変性症に対して角膜表層切除術を施行し長期間経過観察を行った.対象は3例5眼で,角膜表層切除術後2カ月,術後1年および最終観察時における表層切除された透明部分の面積を前眼部写真よりトレースし,ディジタイザーにて測定した.結果は全症例において術後の各時期における面積に有為な差は認められなかった.また表層切除部位における角膜上皮下混濁の再発も認められなかった.以上より原因疾患の消失した帯状角膜変性症に対する角膜表層切除術は,安全で長期的にも有効な術式であると考えられた.

Nd:YAGレーザーによる後嚢切開の経験

著者: 横川浩己 ,   田上勇作 ,   北垣公子 ,   五藤宏 ,   奥田斗志 ,   川上淳子

ページ範囲:P.168 - P.171

 後発白内障141眼(嚢外摘出術後106眼,嚢外摘出および眼内レンズ挿入術後36眼)に対し,Nd:YAGレーザーによる後嚢切開術を施行した.
 102眼において視力の回復が認められた.合併症として,intra ocular lens (以下IOL)の損傷,虹彩からの出血,角膜浮腫,眼圧上昇,虹彩炎,硝子体ヘルニアなどが認められた.虹彩炎はステロイド点眼により,また眼圧上昇はβブロッカー点眼により,1週間後には正常化した.
 IOLの損傷は8眼(22.2%)に認められ,しかもreverse optics lensを挿入した5眼は,全例にpit, clackの発生を認めた.
 Nd:YAGレーザーによる後嚢切開術は重篤な合併症なく,極めて有用な方法であるが,IOLの損傷が今後問題となると考えられた.

28カ月間良好な網膜機能を保った眼球銅症の1例

著者: 今井雅仁 ,   飯島裕幸 ,   武井美恵子 ,   関希和子 ,   山林茂樹 ,   佐々木隆弥

ページ範囲:P.172 - P.175

 硝子体中に銅片を確認したが,視機能良好なため2年半の長期間保存的に観察できた眼球銅症の1例を報告した.41歳男性の左眼に銅線の破片が飛入し,角膜中央の裂傷と水晶体の周辺部に飛入点を認める他は損傷はなく,後部硝子体中に微小異物が観察された.受傷18カ月後,水晶体の後嚢全体に軽度の緑褐色沈着を認め,19カ月後,硝子体混濁が増強し異物が確認できなくなった.しかしERGは,全経過を通じて左右差が認められず視力も1.2のままであった.28カ月後,硝子体融解とともに異物が水晶体後方に認められたため,vitrectomyを施行し異物を摘出した.摘出異物は長径1mmほどで,ICP発光法で銅含有量98%と判明した.
 本例で銅の純度が高いにもかかわらず,網膜機能が良好であったのは,銅異物が小さく,網膜損傷がないことなどによると考えられた.

アスピリン点眼が奏効したコンタクトレンズによる急性眼痛

著者: 平光忠久

ページ範囲:P.179 - P.182

 コンタクトレンズ装用により急激な眼痛を伴う急性角膜低酸素症とか装用過多症候群と呼ばれる症状を来す患者を見ることは決して稀ではないが,これまでこの症状に対する有効な治療法はない.この症状を来して2日間の激しい眼痛を伴い,自発開瞼ができなかった26歳の女性にアスピリン点眼をしたところ,点眼後数秒で眼痛は軽減して自発開瞼ができるようになり,更に15分間隔で2時間の点眼により,眼痛はほぼ完全に消失して球結膜充血も消退した.翌日の再診時には角膜上皮剥離を残すのみで,眼痛はなく球結膜充血もほぼ消退していた.この症状に対するアスピリン点眼の効果は劇的なものであった.

Candida tropicalisによる内因性真菌性眼内炎の2症例

著者: 馬詰裕道 ,   石丸裕晃 ,   塩田洋 ,   三村康男 ,   大村和正

ページ範囲:P.183 - P.187

 Candida tropicalisによる真菌性眼内炎の2症例を経験した.症例1は62歳男性で,外傷による脊髄損傷後,腎不全を併発.約2カ月間の人工透析を行い,その後両眼に眼内炎を発症した.症例2は60歳女性で,胃癌手術後に中心静脈カテーテルを挿入していたところ,3日後に発熱をきたしカテーテルを抜去した.しかし左眼に眼内炎を発症した.2症例とも急性期には,虹彩炎と網膜の羽毛状白色滲出斑が認められた.しかし,その後の経過では,視力予後に大きな差異を生じた.2症例とも入院後の動脈血培養,ウイルス抗体価検査で異常はなかった.また前房穿刺,硝子体吸引による物質の検鏡,培養所見で真菌は認められず,硝子体手術時の採取物質から真菌が検出されたことから確定診断の難しさを痛感した.真菌性眼内炎が重篤な経過をたどることを考えると,真菌が検出されなくとも本症が疑わしい場合には,診断と治療を目的として早期に硝子体手術を行うのが良いと考えた.

文庫の窓から

銀海精微(内府秘伝眼科銀海精微)

著者: 中泉行信 ,   中泉行史 ,   斉藤仁男

ページ範囲:P.188 - P.189

 わが国では室町時代後期に至ってはじめて中国医学書の出版が行われた.
 その第1書は「医書大全」(明・熊宗立編24巻正統11年序)で,これは堺の医家,阿佐井野宗瑞(〜1531)が大永8(1528)年に翻刻したもので,日本の医書出版の最初のものといわれている.

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糖尿病性網膜症

著者: 福田雅俊

ページ範囲:P.191 - P.193

1.糖尿病性網膜症とHbA1値との相関について
    船津英陽・早川和久・北野滋彦・溝渕京子          荻原葉子・堀 貞夫(東大) 1年以上経過を観察し得た糖尿病患者446名(892眼)のHbA1値の変動と網膜症の病期(福田分類)変化を比較検討し,HbA1高値(9.0%以上)群では有意に網膜症が多く,低値群では有意に網膜症のないものが多いこと,HbA1値の変動のある群は網膜症病期の変動も有意に多いこと,HbAl値の平均9.53%を境に網膜症の悪化例が増加することなどを知り,今後の網膜症管理にはHbA1値も考慮する必要があるとした.
 新見勝彦(保健衛生大),別所建夫(松山赤十字),福田全克(大阪大)の質疑があった.

眼科と東洋医学

著者: 竹田眞

ページ範囲:P.194 - P.195

 本年の「眼科と東洋医学」では,漢方に関するもの5題とハリに関するもの4題の計9題の一般演題が報告された.また,山本昇吾先生による特別講演もあり,この会も年々盛んになってきている.出席の先生の数も延べ人数120名に達し,熱心な討論がなされた.このため予定時間を約30分超過したのは大いに反省し,明年からのあり方について検討しなければならない.
 第1題は「ブドウ膜炎における柴苓湯の使用経験」を伊藤美樹先生が発表された.ブドウ膜炎に対しステロイド剤の全身投与は非常に有効であるが,その漸減中の炎症再燃やステロイド中止後の再発に悩まされる.演者は4例のブドウ膜炎患者に柴苓湯とステロイドを併用した.特に漸減期の再燃を防止し,ステロイド離脱に成功する可能性が強調された.

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原著論文の書き方について

ページ範囲:P.196 - P.196

論文を書く上で一番大切なことは,何故この論文を書くに至ったのかという理由がはっきり示されることと,この研究によって新しくわかった知識は何であるかということを,はっきりと示すことであろうと思います.
以下,具体的に順を追って述べてみたいと思います.

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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