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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科42巻4号

1988年04月発行

雑誌目次

特集 第41回日本臨床眼科学会講演集 (3) 学会原著

網膜光凝固術を施行した全身性紅斑性狼瘡網膜症の1例

著者: 後藤恒男 ,   浅岡出 ,   高橋茂樹

ページ範囲:P.327 - P.331

 増殖性変化を来した全身紅斑狼瘡(SLE)網膜症に汎網膜光凝固術を施行した.
 症例 は39歳,女性で,ステロイドの投与により全身状態は極めて良好にコントロールされていたにもかかわらず,網膜動静脈は徐々に閉塞し,広範な無血管野と新生血管の発生を見た.そこで,汎網膜光凝固術を行ったところ新生血管は退縮し,求心性視野狭窄が認められたものの中心視力は良好に保たれた.
 SLEでは,全身状態が良好であっても,高度の網膜循環障害を来し増殖性変化を認めることがあるため,内科的所見は軽度であっても,注意深い眼科的経過観察が必要であると思われた.また,増殖性変化を来した場合には,汎網膜光凝固術は有効な治療手段であると思われた.

Birdshot retinochoroidopathyの像を呈したサルコイドーシス

著者: 久布白公子 ,   吉岡久春

ページ範囲:P.332 - P.335

 生検によりサルコイドーシスの確定診断がついた例で,birdshot retinochoroidopathyの所見を呈した4例を対象とし,4例中に,サルコイドーシスに特有な眼所見を伴わない群(A群),伴うものの群(B群)の両者がみられたことから,サルコイドーシスは,birdshot retinochor-oidopathyの原因の一つであることを確認した.
 今回,A・B群の1例に後極部眼底が赤味をおびてみられる所見がみられ,この成因は不明であるが,今後,後極部の夕焼様眼底所見をみた場合,原田病や交感性眼炎の他にサルコイドーシスを疑うことが意義あることと考える.

色素レーザーによる光凝固

著者: 千代田和正 ,   神鳥英世 ,   原和彦 ,   野寄喜美春

ページ範囲:P.337 - P.342

 78例84眼にCoherent社製argon/dyelaser光凝固装置を使い,光凝固を施行し次のような結論を得た.
(1)色素(dye)レーザーはそれぞれ特性を有する577nmから630nmまでの波長を,任意に選択でき,病変の状態により適切な波長を選んで凝固を行えることがdyeの最大の特徴である.
(2)血液による吸収は,波長により著しい差があり,577〜590nmの短い波長は血液に吸収されやすいため,透過しにくく,620〜630nmは血液に吸収され難いため透過しやすい.590〜620nmの間は波長により吸収率が非常に異なる.
(3)577nmはhemoglobinによる吸収が最も良いため網膜表層が凝固されやすく,網膜毛細血管瘤,黄斑部周囲のtelangiectasia, ma-croaneurysmなどの表在性の網膜血管病を,従来のレーザーに比較し視機能への障害が少なく治療が可能である.
(4)適切な凝固条件の選択により,アルゴンレーザー,クリプトンレーザーに比較し,安全にしかも遜色のない十分な光凝固効果が得られた.
(5)最も光凝固の使用頻度の高い汎網膜光凝固の場合,dyeの全波長とも水晶体に混濁のある症例でも,アルゴンレーザーに比較し凝固可能例が多く,しかもクリプトンレーザーに比較し疼痛が少なかった.

高齢者網膜剥離の特徴 (1)網膜裂孔

著者: 谷原秀信 ,   沖波聡 ,   丹尾知子 ,   小川奈保子 ,   荻野誠周

ページ範囲:P.343 - P.346

 65歳以上の高齢者網膜剥離543例552眼について次のような特徴を明らかにした.(1)弁状裂孔と黄斑裂孔が高頻度であった.(2)網膜裂孔の位置は10:3:3:1で耳上側に偏在していた.(3)裂孔の種類にかかわらず無水晶体眼を約20%に認め,高年齢になるほど高頻度であった.(4)黄斑裂孔を21%に認めたことより,全体では女性および変性近視・高度近視の頻度が高かった.

高齢者網膜剥離の特徴 (2)剥離の性状

著者: 谷原秀信 ,   沖波聡 ,   丹尾知子 ,   小川奈保子 ,   荻野誠周

ページ範囲:P.347 - P.349

 65歳以上の高齢者網膜剥離543例552眼について次のような特徴を明らかにした.(1)胞状剥離は全体の74%,黄斑裂孔以外の症例の77%に認めた.(2)黄斑部に網膜剥離が及んでいたのは無水晶体眼では82%に対して有水晶体眼では73%であった.(3)3象限以上の広範囲剥離は51%に認め,高年齢になるほど広範囲網膜剥離の頻度が増加した.(4)他眼には裂孔が7%,網膜剥離が7%,失明が4%に認められた.

嚢胞状黄斑部浮腫に対する高気圧酸素治療法

著者: 小椋祐一郎 ,   上野聡樹 ,   本田孔士

ページ範囲:P.351 - P.354

 網膜分枝静脈閉塞症に合併した嚢胞状黄斑部浮腫5症例に対して高気圧酸素治療を施行した.2ないし3週間の高気圧酸素治療により,5例全例に視力および静的視野閾値の改善が認められた.改善した視機能は治療を中止しても,良好なまま維持される傾向を示した.その奏効機序としては,網膜血管外漏出の減少,好気性代謝の活性化による網膜細胞の賦活,化学伝達物質の阻害などが推測されたが,詳細は不明であった.今後,より長期的な経過観察を要するが,高気圧酸素治療法は嚢胞状黄斑部浮腫に対する視機能改善の方法として有効な治療手段であると考えられた.

乳頭上新生血管を伴った非定型網膜色素変性症

著者: 佐藤圭子 ,   池田誠宏 ,   三木徳彦 ,   河野剛也

ページ範囲:P.355 - P.358

 非定型網膜色素変性症の症例に乳頭上新生血管(NVD)の出現を認めた.症例は38歳,男性.左眼視力低下にて来院.既往歴,家族歴に特記事項なし.初診時視力は右0.8(1.0),左0.3(0.4).両眼底にvascular arcadeに沿う灰白色の輪状病巣を認め,左眼にNVDと網膜前および硝子体出血を認めた.螢光眼底検査は病巣に一致した過螢光とNVDよりの色素漏出および類嚢胞黄斑浮腫像を示した.ERG・EOGはsubnor-mal.Goldmann視野計にて弓状暗点を認め,第2次暗順応が低下していた.左眼に汎網膜光凝固を施行しNVDの退縮をみた.初診の約3年後には右眼にもNVDを生じた.網膜色素変性症のNVD合併例は,現在まで2報告のみでその発生機序は不明である.網膜および網膜色素上皮の変性に起因する炎症の存在,網膜循環不全による酸素供給の低下,さらに非定型網膜色素変性症における酸素供給の必要な健常網膜の残存などがNVD発生に関与したものと考えた.

Posner-Schlossman症候群における血液房水柵の変化について

著者: 湯口琢磨 ,   海谷忠良 ,   健石忠彦 ,   永井重夫 ,   守田潔 ,   青沼秀実 ,   岡本茂

ページ範囲:P.359 - P.363

 Posner-Schlossman症候群の患者12名に対し,寛解期における患眼の血液房水柵の修復を調べる目的で,前眼部フルオロフォトメトリーを施行した.その内10名に対して,螢光虹彩撮影を行った.寛解期における前房内螢光値は,健眼に比べ患眼で,有意に高値を示した(p<0.005).しかし,6〜18カ月に及ぶ観察中,4例に血液房水柵の修復を認め,そのいずれもが若年者であった.螢光虹彩撮影では,患眼の80%,健眼の50%に漏出を認め,健眼に比べ患眼での漏出が顕著な例が多かった.若年者では漏出の程度は軽微であった.
 以上より,Posner-Schlossman症候群の患眼での血液房水柵は,特に若年者で,修復されうることが示唆された.血液房水柵の異常の検出には,前眼部フルオロフォトメトリーと螢光虹彩撮影とが有用である.

浅前房,眼圧上昇,近視を伴った原田病の姉弟例

著者: 徳岡覚 ,   岩崎義弘 ,   菅澤淳 ,   東郁郎

ページ範囲:P.365 - P.368

 浅前房,眼圧上昇,近視化を伴った原田病の姉弟例を経験した.症例1は41歳の男性で浅前房,眼圧上昇を認めたため急性緑内障の診断で周辺虹彩切除を行った.その後近視および眼底に原田病特有の漿液性剥離を認めた.症例2は47歳女性で症例1の姉であり,経過中に浅前房,眼圧上昇,近視を認めた.
 眼圧上昇,浅前房,近視化の原因としては毛様体の浮腫が考えられた.HLA抗原の検索では,HLA-A24, HLA-CW1, DR-4が姉弟ともに陽性であった.

高度の視神経乳頭陥凹を有する緑内障の視野欠損に影響する諸要素

著者: 森秀夫 ,   岡田守生 ,   中野徹 ,   石郷岡均 ,   松村美代 ,   千原悦夫 ,   本田孔士

ページ範囲:P.369 - P.372

 性別,年齢,眼圧コントロール,手術歴等が,0.8以上の陥凹/乳頭径比を持つ開放隅角緑内障眼の視野欠損に影響するか否かを検討した.視野の評価はゴールドマン視野計のV-4,I-4のイソプターの面積の実測値で行った.有意に視野の保存が良かったのは,女性の群と眼圧コントロール良好群(常時20mmHg以下)であった.その他の要素には統計学的有意差はなかった.また,V-4イソプターが1/2以上保存されている群は,保存されていない群に比較して,経過観察中の最高眼圧が有意に低かったが,最低眼圧は両者の間に差は無かった.高度な乳頭陥凹を持つ症例の視野の保存には,良好な眼圧を常に維持することが重要であり,手術を施行する場合には,トラベクロトミーが適当と思われた.

緑内障におけるコーヌスの意義

著者: 馬場裕行 ,   越智利行 ,   吉川啓司 ,   井上トヨ子 ,   井上洋一

ページ範囲:P.373 - P.376

 緑内障や阻血性視神経症**において,中心視野の障害が比較的早期に先行するものがあり,こうした症例では耳側コーヌスを認める例が多いとの臨床的印象があった.今回はこの印象を証明する目的で,コーヌスと中心視機能との関連を検討した.
 対象 は原発開放隅角緑内障(POAG)241眼,発育緑内障(DG)38眼,低眼圧緑内障(LTG)48眼,阻血性視神経症(ION)63眼,原発閉塞隅角緑内障(PACG)76眼を含む,計431名,861眼である.
 螢光眼底写真の30秒前後でよく撮れたものを選び,耳側における半月状(輪状)の背景螢光のブロックの幅を乳頭の縦径と比較して,T1(〜1/4DD),T2(1/4〜1/2DD),T3(1/2DD〜)のように判定した.Tは耳側コーヌス,Aは輪状コーヌスを示す.
 0.6以下の視力の頻度はT1,T2,T3の順で13%,19%,34%と増加した.A1,A2,A3の場合は20%,47%,58%と大きな差が認められた(650眼での検討).
 オクトパスNo31によって計測された結果をデルタ解析し,0〜10°の平均dB値を求めた.この値が20dB以下の例の頻度はT1,T2,T3で,21%,33%,57%と増加し,A1,A2では33%,61%と増加した.
 以上により冒頭に述べた臨床的印象が証明された.

水晶体偽落屑物質の出現をみた原発緑内障症例の検討

著者: 布田龍佑 ,   清水勉 ,   古賀市郎 ,   小島裕二郎 ,   古吉直彦 ,   丸岡晶子

ページ範囲:P.377 - P.381

 熊大眼科にて経験した水晶体嚢緑内障245例のうち,原発緑内障が先行し,水晶体偽落屑物質(PE material)が遅れて出現した症例が22例(9%)含まれていた.PE material出現前の診断の内訳は原発開放隅角緑内障(POAG)10例,原発閉塞隅角緑内障(PACG)12例であり,緑内障診断からPE出現までの期間は平均9年であった.これらの症例の90%に緑内障又は白内障手術の既往があった.PE materialの初発部位はPOAGでは瞳孔縁,PACGでは水晶体前面が多かった.
 POAG+PE群の特徴は,緑内障進行眼,高度の隅角色素沈着眼であった.PACG+PE眼ではこれらの特徴はみられず,両者の間には発生病態上差異のあることが予想された.
 PE material出現後,眼圧のコントロールが不良となる症例が50%にみられたことより,原発緑内障眼におけるPE materialの出現とその後の眼圧動態には厳重な注意を払うべきであると考えた.

角膜屈折手術を併用した人工水晶体移植術 特に角膜術後乱視におけるT cut法の検討

著者: 清水春一 ,   清水葉子

ページ範囲:P.387 - P.390

 160°四面切開5針前置結節縫合法(ECC-E+PC-IOL)に角膜屈折手術(T cut法)を併用し,術後角膜乱視の変化から角膜加齢変性の角膜屈折手術に及ぼす影響について検討した.対象は80歳未満の76眼(平均年齢68.2歳)と80歳以上の39眼(平均年齢82.4歳)の115眼で,術後二主径線の経時的変化を測定した.
白内障手術に併用したT cut法は術眼の角膜外側輪部より2mm角膜中央寄りで,角膜縦軸と平行に5mmの角膜切開を加えた.角膜切開創の深さは角膜切開部位測定値の90%を目標とした.術後二主径線の変化は角膜平均乱視度(D)経過日数(月)1 2 3
対象者(76眼)1.8±0.8 1.1±0.5 0.5±0.3
高齢者(39眼)2.15±1.4 2.23±1.4 2.15±1.3
 であり,対象者(76眼)の角膜乱視は術後3カ月まで減少傾向にあったが,高齢者(39眼)の角膜乱視は術後1カ月以後にはほとんど変化が見られず,角膜の加齢変性は角膜屈折手術(T cut)の効果を著しく障害することがわかった.

SRK式の信頼度について 術前屈折値の影響

著者: 近江源次郎 ,   岡本仁史 ,   大路正人 ,   切通彰 ,   木下茂

ページ範囲:P.391 - P.393

 Sanders-Retzlaff-Kraff (SRK)式より求めた眼内レンズ度数と,術前に所持していた遠用眼鏡度数を術前屈折力と仮定することにより算出される眼内レンズ度数とを比較検討した.対象は術前に遠用眼鏡を使用しており,後房レンズ移植術を施行された98眼であった.その結果,術前の屈折値から算出された眼内レンズ度数とSRK式による値との間に差が認められる症例においても,SRK式は信頼できるものであった.すなわち,術前屈折値は水晶体による屈折変化の影響を受けていると考えられた.水晶体性遠視は前極白内障,皮質白内障で多く認められ,水晶体性近視は核白内障が主であった.

学術展示

外転神経麻痺によって発見された甲状腺機能正常な甲状腺癌の1例

著者: 三輪正人 ,   野崎尚志 ,   中村二郎

ページ範囲:P.394 - P.395

 緒言 成年の1眼に起こる外転神経麻痺は日常診療で,しばしば遭遇する.今回,突然発症した外転神経麻痺の1症例を精査したところ,甲状腺機能の正常な甲状腺癌を認め,この外科切除後,麻痺が完全に寛解したことを経験した.文献的にも,非常に稀であるので報告し,併せて,若干の考察も行った.

水晶体偏位と欠損について 3症例とその家系

著者: 西内貴子 ,   板東康晴 ,   大串淳子 ,   西原勝 ,   三村康男

ページ範囲:P.396 - P.397

 緒言 水晶体欠損症はKaempfferにより詳細に分類報告され,本邦での報告は十数例であるが,よく注意してみれば稀ではないと思われる.その成因には諸説あり,未だ解明されていない.今回我々は偏位と欠損とは中胚葉性因子によりチン小帯線維の脆弱性に起因する一連のものと考え得る症例を経験したので報告する.

多発性硬化症によると思われる急性両側視神経炎のMRI所見

著者: 山田耕士 ,   別所勇 ,   河本英作

ページ範囲:P.398 - P.399

 緒言 特発性視神経炎が多発性硬化症(MS)の初発症状である可能性はよく知られている.他の中枢神経症状を呈してない特発性視神経炎でMSの診断は困難であり,これまでは髄液異常,各種誘発電位やCTがわずかな糸口であった.しかし近年magneticresonance imaging (MRI)の導入に伴い脱髄性病変が描出され得るに至ってその有用性は注目されている.今回我々は原因不明の急激な両眼視力障害(光覚の消失)を呈した症例に,CTではとらえる事ができなかった病変をMRIにて検出し,MSの有力な診断根拠となった症例を経験したので報告する.

眼科症状を主訴として初診した結節性多発性動脈炎の1症例

著者: 井上徹 ,   志賀早苗 ,   別所建夫 ,   梶山憲治 ,   岩下明徳

ページ範囲:P.400 - P.401

 緒言 網膜病変を合併する全身疾患は多いが,今回は眼科症状を主体とした症例を経験した.その眼底所見からは特定の疾患を予測する事が困難であった.また,死後の剖検で本例は結節性多発性動脈炎(PN)と判明したので,眼底病変との関連性について若干の考察を加える.

外傷性視神経損傷の色相識別能について

著者: 三原敬 ,   野地潤 ,   北原健二 ,   松崎浩

ページ範囲:P.402 - P.403

 緒言 一般に視神経疾患ではKoellnerの法則に基づき,赤緑異常を呈するとされているが,青黄異常例の存在も指摘されるなど,色相識別能障害の特性についてはなお明らかでなく,また疾患特異性についても不明である.
 したがって,今回は障害部位が明らかな例として外傷性視神経損傷における色相混同の性質について検討した.

成人型糖尿病患者にみられた一過性乳頭浮腫の1例

著者: 奥間政昭 ,   松浦啓之 ,   船田雅之 ,   藤永豊

ページ範囲:P.404 - P.405

 緒言 近年,糖尿病患者に一過性の視神経乳頭浮腫を来す状態は,特にdiabetic papillopathyという概念で報告されている.今回我々は網膜症を有しない成人型糖尿病患者の両眼にみられたdiabetic papil-lopathyと考えられる1症例を経験したので報告する.

上強膜骨性分離腫の1例

著者: 上畑晃司 ,   三井敏子 ,   松下琢雄

ページ範囲:P.406 - P.407

 緒言 上強膜骨性分離腫は,本来強膜上に存在することのない骨組織が強膜上に発生するという稀な疾患で,特に乳幼児に発見された報告は少ない.今回我々は5カ月の男児にみられた上強膜骨性分離腫を経験したので報告する.

外転神経麻痺の逆輻輳現象

著者: 湯田兼次 ,   熊谷直樹

ページ範囲:P.408 - P.409

 緒言 外転神経麻痺患者で麻痺眼固視状態のときには,多くは健眼の内斜視を伴い,健眼のみに解離性の内転眼振を認める.このような症例ではときに輻輳検査で,内転していた健眼が外転方向に動き,正位に戻ることがある.この場合健眼は,輻輳検査で視標を近づけると外転し,遠ざけると内転し,あたかも輻輳が逆転したようにみえる.このような現象は,現在まで記載されておらず,これを仮に逆輻輳現象と名付けることにした.今までに本現象を明らかに認めた症例は3例であるが,そのうち2例に外眼筋筋電図,electrooculogram (EOG)の検査を行うことができた.そこで,この2例の筋電図,EOGの所見を添えて,本現象を紹介したい.

Fabry病の一家系

著者: 宇仁明彦 ,   渡辺潔 ,   岩橋洋志 ,   白井説子 ,   吉田禮子

ページ範囲:P.410 - P.411

 緒言 Fabry病は,X染色体上の劣性遺伝子に支配されるα-galactosidase欠損症で,ceramide trihex-osideおよびceramide dihexosideが体内の各組織に蓄積することにより,種々の症状を呈する.全身的には,被角血管腫,四肢疼痛発作,無汗症,心・腎機能障害などがあり,眼科的には,角膜渦状混濁,結膜・網膜血管の蛇行などがある.本症は欧米では300例の報告がみられるが,日本における文献上確実例は約40家系を数えるのみである1〜3).今回,α-galactosidaseの欠損および病理学的検索により完全型のFabry病と診断された一家系6名を経験したので報告する.

HIV抗体陽性者における眼所見

著者: 松島利明 ,   臼井正彦 ,   高野繁 ,   菅田安男 ,   増田剛太 ,   根岸昌功 ,   藤巻道男

ページ範囲:P.412 - P.413

 緒言 Human immunodeficiency virus(HIV)による感染症は,最終的にacquired immunodeficiencysyndrome(AIDS)となる極めて重篤な疾患である.AIDSは1981年6月に米国で初めて報告1)されて以来,この数年全世界的な流行をみている.わが国においても,1985年3月厚生省AIDS調査検討委員会によるAIDS患者第一号が認定されて以来,本年9月4日までに50人がAIDSと診断されている.AIDS患者では種々の眼所見が見られ,特に眼底には棉花様白斑,網膜出血,サイトメガロウイルス(CMV)性網膜炎など多彩な所見がみられることが,欧米諸国の文献に記載されている2).しかし,わが国においてはいまだこれらの報告はない.今回我々はAIDS患者3名を含むHIV抗体陽性者14名の眼科的検査を行ったのでその結果について報告する.

未熟児網膜症に対する側臥位アルゴンレーザー光凝固の治療経験

著者: 宇野有子 ,   岩崎琢也 ,   矢部緑 ,   川原純一 ,   山本和則 ,   阿川忠郎

ページ範囲:P.414 - P.415

 緒言 未熟児網膜症に対する治療として現在行われている光凝固療法においては,キセノンによる光凝固が広く用いられているが,これは適切な条件で,正確な部位に,至適凝固を行うことが困難な場合が多い.それに対し1),最近では未熟児用の2面鏡コンタクトレンズを使用し,従来のアルゴンレーザー光凝固装置による光凝固の試みがなされている2,3)我々は,未熟児網膜症に対し,細隙灯型アルゴンレーザー光凝固装置による光凝固を行ったので,その結果を報告する.

コンピューターゲームの小児視機能に及ぼす影響 急性影響について

著者: 中橋康治 ,   竹内晴子 ,   関谷善文 ,   山本節

ページ範囲:P.416 - P.417

 緒言 コンピュータ・ゲームが小児視機能に及ぼす影響については,従来よりアンケート調査等による慢性影響の調査が中心であり1),実際に短時間ゲームを行わせた場合の前後における視機能変化,すなわち急性影響につき検討した報告は少ない2)
 前回,著者らは正常小児を対象として急性影響をみる実験を行ったが3),今回更に眼位異常症例につき検討する機械を得たので,若干の考察を加え報告する.

連載 眼科図譜・262

網膜前増殖膜の実体顕微鏡的特徴

著者: 岡田守生 ,   松村美代 ,   荻野誠周

ページ範囲:P.316 - P.317

 硝子体手術の進歩に伴い,増殖性眼内病変(特発性黄斑上膜,黄斑部皺襞形成症,増殖性硝子体網膜症,増殖性糖尿病性網膜症)の増殖組織の研究が進んでいるが,組織が細小であったり,切除時にばらばらになって採れたりするために,試料は微量で,顕微鏡的な観察がようやくであることが多い.しかし,増殖組織の全体像としての把握は,臨床的にも研究の面からも重要である.手術に際して,できるだけ一塊として増殖膜を切除し,実体顕微鏡で観察することにより,原疾患によってmacroscopicに見ても増殖膜の性質に特徴が見いだせる.
 Macroscopicな観察では,1)増殖組織の厚み,2)細胞が多いか,線維等の細胞外成分が多いか,3)色素の含有量,4)血管の有無とその分布状態がよい指標となる.本シリーズを3回に分け,今回は網膜前増殖膜の特徴を述べる.

今月の話題

Uveal effusion

著者: 沖波聡

ページ範囲:P.319 - P.323

 特発性uveal effusionの治療は,初期であればステロイド大量投与が有効なことがあるが,それが無効の場合や再発を来した場合には,強膜部分切除術を4象限で行い,網膜剥離が特に強い部位で網膜下液排出術を行う方法が最も有効であると思われる.

眼の組織・病理アトラス・18

ドルーゼン

著者: 石橋達朗 ,   猪俣孟

ページ範囲:P.324 - P.325

 ドルービンdrusenは検眼鏡的には,眼底に黄白色の小円形結節としてみられ,本態は網膜色素上皮細胞下への多形性物質のドーム状の蓄積である.ドルーゼンは加齢とともにその発生頻度が増加し,また家族性にみられるものもある.さらに近年は新生血管黄斑症のなかで重要な老人性円盤状黄斑変性症との関係により注目されている.
 ドルーゼンは臨床的および光顕的に大きく2型に分けられる.一つはhard (hyaline) drusenと呼ばれるもので,検眼鏡的には黄白色調を呈し,小型で境界鮮明,固い感じのするドルーゼンであり(図1),光顕的には均一な硝子様物質で構成されている(図2).もう一つはsoft (serous)drusenと呼ばれるもので,検眼鏡的には同じく黄白色を呈するが,少し大型で円形あるいは楕円形,境界がやや不鮮明で互いに融合しやすい(図3).光顕的には顆粒状を呈するものが多い(図4).

最新海外文献情報

角膜,他

著者: 樋田哲夫

ページ範囲:P.384 - P.385

 糖尿病患者に対する眼内手術後の角膜上皮障害が約10年前から注目されるようになり,上皮障害はdiabetic keratopathyとして特に誘因なしでも発生することが知られるようになった.特に硝子体手術時には眼底の透見をよくするためにやむなく上皮を剥離することがしばしばあり,術後の上皮再生不良に悩まされることが多い.アルドース還元酵素が糖尿病における上皮障害に関与していることが示唆され,実験的にその阻害剤(ARI)が糖尿病ラットの上皮再生を促進することが知られている.著者らは増殖性糖尿病性網膜症に対する硝子体手術時の上皮剥離が誘因となったと思われる術後の再発性上皮びらんと,特に誘因のない重症の上皮障害の糖尿病患者各1例に対して新しいARIであるCT-112を点眼することによって好結果を得た.通常の治療に抵抗したこれら2例は点眼開始後2-4週後から著明な症状の改善を示した.点眼の中止によって上皮障害は再発したが再び継続することにより長期間再発をみることなく経過している.今後のclinical studyが期待される.

臨床報告

眼内レンズ挿入術後炎症に対するインドメタシン点眼の功罪

著者: 宮谷博史 ,   草田英嗣 ,   初田高明

ページ範囲:P.419 - P.423

 眼内レンズ(IOL)挿入術後の合併症の一つであるフィブリン析出に対し,インドメタシン点眼(インドメロール®)を使用し,その効果および副作用について検討を行った.症例は白内障患者432名(534眼)で,そのうちIOL挿入患者は246名(347眼)であった.IOL挿入例では,インドメタシン点眼使用前のフィブリン析出率69%に対し,使用後は6%と著減し,その有効性を認めた(p<0.05).しかし,filtering blebやwound leakageを起こした症例があり,創傷治癒遅延を惹起する可能性が示唆された.また,角膜上皮障害を起こした症例も4眼経験した.インドメタシン点眼中止と共に軽快したことより,その関与が疑われた.

レーザー虹彩切開術後に進行した網膜前黄斑線維症の1症例

著者: 大竹弘子 ,   小椋祐一郎

ページ範囲:P.425 - P.427

(1)アルゴンレーザーとYAGレーザーの併用による虹彩切開術後,網膜前黄斑線維症が進行した閉塞隅角緑内障の一症例を報告した.(2)硝子体手術により網膜前線維膜は除去され,視力・変視症は改善したが,術中所見で虹彩切開部位の後方の硝子体内に多数のアルゴンレーザー虹彩切開術の際に虹彩上皮細胞あるいは実質細胞が硝子体内に散布され,増殖を起こして網膜前黄斑線維症に至ったものと推察された.

鼻腔腫瘤を伴った巨大な角膜デルモイドの1例

著者: 目代康子 ,   上野脩幸 ,   野田幸作 ,   玉井嗣彦 ,   相良祐介 ,   森木利昭

ページ範囲:P.429 - P.432

 右眼球上腫瘤と左鼻腔腫瘤を認めた生後2日目の男児の1例を経験した.右眼球表面は全体に皮膚様組織で被われており角膜,結膜強膜は認められず,角膜に相当する部より鶉卵大の皮膚で被われた,弾性軟の球状腫瘤が瞼裂より前方へきのこ状に突出しており,中間透光体,眼底の透見は不可能であった.左眼には異常なかった.CT検査では右眼球は左眼球とほぼ同じ大きさに造影されたが,角膜上に半球状の腫瘤が認められ,虹彩,水晶体は不明瞭であった.左眼球のCT像は正常であった.
 家族が早期の形成手術を希望したので,生後12日目にて右眼球上腫瘤と左鼻腔腫瘤を摘出した.13mm×10mm×10mmで,病理組織学的診断はデルモイドで,皮下に脂肪と結合組織の増殖が認められた.
 染色体検査は正常で,家族歴に特記すべきことはなく,真の誘因は不明であるが,臨床的に,右眼の腫瘍は角膜ほぼ全体にみられ,虹彩,水晶体は未発達だが,眼球後部は正常であり,小眼球症も認められなかったことから,胎生期の異常は水晶体形成中(胎生5〜7週頃)に生じたと推定される.術後8カ月経過した現在,両腫瘤に再発はなく,さらに経過観察中である.

両眼性に広範囲に無血管野を認めた再発性硝子体出血の1例

著者: 川村洋行 ,   永島保男 ,   上野眞

ページ範囲:P.433 - P.436

 再発性硝子体出血を来し,眼底検査にて両眼性に周辺部網膜に広範囲に無血管野を認めた1例を報告した.
 症例 は33歳女性で,矯正視力右1.2左1.0,眼圧正常,前房,硝子体中には炎症所見を認めなかった.検眼鏡的に左眼硝子体出血,乳頭上新生血管を認めたが,網膜滲出斑は認めなかった.螢光眼底造影にて,両眼乳頭上新生血管,左眼周辺部網膜の新生血管,両眼周辺部網膜の広範な無血管野を認めた.網膜電位図ではb/a比1.0以上,律動様小波の減弱がみられた.両上肢血圧は正常で左右差なく,血液検査等の全身検査では特に異常はみられなかった.アルゴンレーザー光凝固を施行したが,約6カ月間の経過観察では著変は認められなかった.
 現在までに類似の報告は6例のみであり,本症例の6カ月間の経過と非炎症性Eales病との関連につき考察を加えた.

Group discussion

地域予防眼科

著者: 小暮文雄

ページ範囲:P.437 - P.439

 座長福島県医大山田宏圖助教授により開始された.第1席金沢大柳田他「高飛び込み選手に見られた網膜剥離の1例」.高校総体にも優勝した選手の両眼に網膜剥離および裂孔を認め,網膜剥離の手術経験を通して,高飛び込みの選手の剥離に注意を呼びかけた.高飛び込みの場合,鈍的外力の繰り返しによる外力で網膜周辺部に裂孔が生じやすいので,飛び込みの選手の管理の中に眼科的管理を加える必要を説いた.独医大小暮はその仲間の選手の検査をしたかと.それはしていない.金沢大河崎はこの症例は手術後も医師の忠告を受け入れず飛び込みを続け,高校総体に優勝する成績を上げた.このように本人の目的を達成するためには医師が苦しい選択を迫られるが協力してあげることも必要であろうと追加.座長の山田は飛び込み選手の検査を文部省の指示等を通して頂くよう追加.大阪船員保険佐藤は高飛び込み選手のepimaculal proliferationの発生症例の追加をした.第2席国立松本加茂他「国立松本病院における未熟児網膜症の統計的研究」2,500g以下の低体重児152例の統計的分析を行った.統計的に網膜症の発生と関係のあった因子は生下時体重,在胎期間,体内発育,IRDS,無呼吸発作,RBC最低値,酸素投与期間,総酸素投与量,輸血時期,輸血量,黄疸持続等であったとの報告である.佐野は母体側の状態を調査しているか,との問いに調べていなかったとのことであった.今後母体の状態を因子に加え調査することによって,予防に役立つ因子をつかめるのではないかと山田は追加した.

緑内障(第29回)

著者: 澤田惇

ページ範囲:P.441 - P.443

 今回のプログラムは,話題提供と「閉塞隅角緑内障の予後」を主題とする指名ならびに一般講演よりなっている.
 話題提供として,岩田教授の司会のもと,千原悦夫(宮崎医大)が「緑内障眼における機械的視神経障害と虚血性視神経障害」について述べた.

文庫の窓から

一草亭目科全書

著者: 中泉行信 ,   中泉行史 ,   斉藤仁男

ページ範囲:P.444 - P.445

 「一草亭目科全書」はとう苑(一草亭)の撰にして,偶齋年希堯が康煕56(1717)年に序を書いて重梓した中国(清代)の眼科専門書である.わが国においては,文化2(1805)年5月に翻刻がなり,大阪の崇高堂などから梓行された.掲出本はその文化版である.
 本書は上(30丁),中(24丁),下(31丁)巻の3冊よりなり,各巻とも四周単辺匡郭,有界,毎半葉10行,毎行20字詰(25.7×18cm),版心:書名,黒上魚尾,巻数,丁数を刻し,本文は漢文体で書かれている.上巻の巻頭に清江博望郡苑撰,廣寧偶齋年希堯重梓となっているが,中・下巻には撰,梓行者はないが「異授眼科」なる副題を附している.

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原著論文の書き方について

ページ範囲:P.446 - P.446

 論文を書く上で一番大切なことは,何故この論文を書くに至ったのかという理由がはっきり示されることと,この研究によって新しくわかった知識は何であるかということを,はっきりと示すことであろうと思います.
 以下,具体的に順を追って述べてみたいと思います.

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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