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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科42巻6号

1988年06月発行

雑誌目次

特集 第41回日本臨床眼科学会講演集 (5) 学会原著

HEMAを用いた眼内レンズ(IOGELTM)移植術の検討

著者: 馬嶋慶直 ,   黒部直樹 ,   広川仁則 ,   木全一幹

ページ範囲:P.618 - P.621

 Alcon社により開発されたHydroxy-ethylmethylmethacrylate (HEMA)を材料とした後房レンズを30名30眼に移植し,その臨床経過を観察した.7眼はEndocapsular Surgeryを用いた計画的嚢外法23眼は水晶体乳化吸引術を施行した後に移植した.このうち13眼はBarrett鑷子を用い,レンズを2つ折にし小切開創より移植した.1)97%が術後3カ月において0.5以上の視力を得た.2)術後6カ月における角膜内皮細胞減少率は12.4%であった.3)術後1年において,移植レンズ表面に細胞性成分を認めなかった.4)血液房水柵への影響は,従来のPMMAを材料とした眼内レンズよりも少ないと推察された.5)視力予後に影響を及ぼす重篤な合併症は認められなかった.
 今後長期にわたる経過観察が必要であるが新しい眼内レンズのひとつとして,有用性があると考えられた.

人工水晶体挿入眼における前眼部生体計測

著者: 中泉裕子 ,   坂本保夫 ,   柴田崇志 ,   佐々木一之

ページ範囲:P.623 - P.626

 後房レンズ挿入眼を対象にIOLの眼内での偏心,傾きおよびIOL後面と水晶体後嚢間距離の計測を撮影画像処理により行った.
 74眼(平均観察期間6.8カ月)の傾きは0.68〜6.93°,偏心は0.21〜3.02mmであったが,これらはいずれも術後の視力に影響しなかった.
 64眼(平均観察期間6.5カ月)のIOL後面と水晶体後嚢間の距離は50μm以下〜675μmであり,その67%が50μm以下であった.

金属網による不適切な眼窩壁の再建

著者: 山田成明 ,   中村泰久

ページ範囲:P.627 - P.630

 眼窩壁骨折の治療に際し,骨欠損部にシリコンプレートなどの修復材料を用いるか否かについては,現在もなお論議のあるところである.また,用いる場合にその材料の選択には充分な検討が必要である.今回私達は,他院で骨欠損部の修復に金属網を用いたため,その術後にさらに重篤な眼球運動制限を引き起こしたと思われる症例を経験した.眼窩壁骨折の手術方法と修復材料の選択に関して,非常に示唆に富む症例と思われる.症例は22歳の女性で,当科での術前CT,術中所見から金属網の中に軟部組織が入り込み,金属網自体が癒着性牽引を惹起しているものと思われた.再手術においてシリコンプレートを用いたが,術後の球後出血などから不満足な結果となった.再々手術で,厚い被膜で覆われたシリコンプレートを抜去し,被膜の辺縁を切開することにより,眼球運動制限は解除された.修復材料として人工骨を用い,術後は日常生活で複視を訴えないまでとなった.眼窩壁骨折において,骨欠損が広く,眼窩内容が正常の位置に保持されない症例には,修復材料による眼窩壁の再建が必要であり,その材料を十分に吟味し,正しく用いることが重要である.

Alström病

著者: 栗本康夫 ,   砂川光子

ページ範囲:P.631 - P.633

 Alström病と考えられる症例を報告した.症例は現在37歳の男性で,両眼網膜色素変性症,肥満,感音性難聴,糖代謝異常,腎疾患,性腺機能不全,高尿酸血症,骨格異常,平衡機能低下,多合指症及び短指症を認めた.Alström病は世界でも少数の報告しかなく,貴重な症例と考えた.

硝子体腔よりの螢光色素の流出に関する検討—(第3報)ぶどう膜炎の二相分離解析法

著者: 萱澤文男 ,   三宅謙作

ページ範囲:P.635 - P.637

 種々のぶどう膜炎14眼に,螢光色素10mg/kgを静注し,5〜48時間後までkinetic vit-reous fluorophotometryを行い,その結果に二相分離解析法を応用した.
 血液房水柵,内・外血液網膜柵がおかされていると考えられるベーチェット病(眼底型)では早期の色素消失定数(KV1)の低下が著しく,眼内よりの色素の能動輸送能の低下が示唆された.原田病にも同様の所見がみられた.
 一方,前部ぶどう膜炎では,二相性について正常眼と有意差はなかった.

Grating Cardを使用した乳幼児の視力検査

著者: 手塚聡一 ,   後藤郁子 ,   佐藤ひとみ ,   渡辺千恵美 ,   奥野廣子 ,   勝海修 ,   宮永嘉隆

ページ範囲:P.639 - P.642

 我々は乳幼児視機能障害のスクリーニングを目的としたGrating Cardを試作し,その臨床評価を行っているが,今回は,主として当科斜視弱視外来を受診した3歳までの児を対象としてGrating Cardにより得られた結果と通常のPL法との検査結果について比較検討を行った.
 Grating Cardにより評価した視力とPL法による視力の評価はほぼ同様であり一致した成績が得られた.したがって,本法は乳幼児視力のスクリーニングに非常に有効な方法であると思われる.

弱視眼におけるafferent pupillary defectの成因に関する研究

著者: 小笠原孝祐 ,   妹尾佳平

ページ範囲:P.643 - P.647

 弱視眼におけるrelative afferent pupil-lary defect (RAPD)の成因と弱視の種類による差異を検討する目的で,4歳から20歳までの斜視弱視20名と不同視弱視24名についてswingingflashlight testによるRAPDの定量を行い,その程度と種々の視機能との関係を検討した.また,網膜神経節細胞とその軸索密度に関係するとされる黄斑輪(annular reflex)の大きさに着目し,その左右眼における比較を行いRAPDの有無との関係を調べた.
 その結果,斜視弱視群では屈折性弱視の合併が考えられた1例のみにRAPDが認められたのに対し,不同視弱視群では8例にRAPDが検出された.RAPDと左右眼の視力差,屈折度差との間には相関はみられなかったが,中心視野内の視覚感度の低下(イソプター面積の減少と閾値低下)がRAPDの発現に関与していること,また,RAPDが認められた不同視弱視例では弱視眼の黄斑輪の大きさが他眼に比し有意に小さいことが明らかとなった.

実質型角膜ヘルペスに対するヒト免疫グロブリン療法—完全分子型とペプシン処理型グロブリンの比較

著者: 西田輝夫 ,   村上純子 ,   宮本裕子 ,   八木純平 ,   福田昌彦 ,   安本京子 ,   大鳥利文

ページ範囲:P.649 - P.652

 実質型角膜ヘルペスで,5日間連続完全分子型グロブリン(GN)点滴療法を行った11眼,ペプシン処理型グロブリン(GV)点滴療法を行った9眼を対象とし,GNとGVの臨床的有効性を比較検討した.点滴開始2週間後に視力が2段階以上改善した症例は,GNでは11眼中7眼(64%),GVでは9眼中5眼(56%)であり改善率には差は認められなかった.しかしGNで治療した方が治療開始後3日目には2段階以上視力が改善した症例が多く認められ治療効果はより早く出現した.角膜実質浮腫消失までの期間を検討すると,GNの場合3日以内に半数の症例で改善が認められ1週間以内に全例で浮腫は消失した.一方,GVでは1週間後に改善する症例が多く認められた.GN点滴の方がより早く臨床所見が改善される傾向があるが,GNもGVも実質型角膜ヘルペスの治療には有効であった.

幼児期から成人にいたる屈折と眼軸長および眼軸長角膜曲率半径比の相関について

著者: 松村香代子 ,   井上慎三

ページ範囲:P.653 - P.656

 4歳から成人にいたる2,297眼について屈折度,眼軸長,角膜曲率半径,および眼軸長角膜曲率半径比を求めた.
 加齢に伴って近視眼が増加(幼児期18.8%,成人60.5%)し,眼軸長平均値は延長し,眼軸長角膜曲率半径比の平均値も大きくなった.
 一方,角膜曲率半径には年齢による変動はほとんどみられなかった.
 屈折度と眼軸長の間の相関係数は-0.731〜−0.861と各年齢ともかなりの高値を示したが,屈折度と眼軸長角膜曲率半径比の間の相関係数は−0.882〜−0.936と更に高く,眼軸長よりも眼軸長角膜曲率半径比の方が,屈折とより密接に関連していることが認められた.

緑内障性陥凹所見に影響を及ぼす諸因子—陥凹の拡大方向

著者: 伊賀俊行 ,   勝盛紀夫 ,   溝上國義

ページ範囲:P.657 - P.659

 "notch"を形成するタイプの乳頭陥凹の最初の陥凹拡大方向を各種緑内障について検討した.原発性開放隅角緑内障(POAG)47名58眼,低眼圧緑内障(LTG)20名24眼,続発性緑内障(SG)9名9眼,偽緑内障(PG)12名16眼について,乳頭を神経線維の方向に従って9の領域に分割し陥凹拡大方向を検討した.POAGでは弓状線維領域への拡大が多かったが,7%は鼻側領域への拡大が認められた.LTGでは全例が弓状線維領域に限局した.SGでは全体にばらつきが多く,鼻側領域への拡大も認められた.PGでは下方弓状線維領域に集中したが,鼻側領域にも認められた.以上よりLTGでは拡大方向は乳頭の特定部分に集中を示し,SGでは逆にばらつきを示した.緑内障視神経障害の一要因として,LTGでは乳頭自身の脆弱性が大きく関与し,これに対してSGでは関与が低く,POAGでは両者の混在が推察された.

レーザー前房蛋白・細胞測定装置—試作II号機

著者: 澤充 ,   釣巻穣 ,   水流忠彦 ,   清水昊幸

ページ範囲:P.660 - P.664

 前房蛋白濃度測定を目的とした試作I号機に続くものとして細胞数測定機能を付加したレーザー前房蛋白・細胞測定装置(試作II号機)の開発を行った.本装置はHe-Neレーザー光(出力:蛋白濃度測定時13μW,細胞数測定時78μW)を前房内に集光(7×15μW)し,その散乱光強度を測定用ウインドー(0.3×0.5mm)を通して光電子増倍管にて測定しその信号を,コンピューター処理するものである.オプチカルスキャナーにより蛋白濃度測定時は1次元ビームスキャン(垂直0.6mm),細胞測定時は2次元スキャン(0.3×0.6mm)を行った.血漿希釈液(蛋白濃度7.7g/dl)のin vitro測定結果はフォトンカウント値と濃度との間に有意の相関を認めた(y=1.05×−1.43,=0.983,P=0.000).若年者9例の非散瞳眼の測定値は散瞳眼より高値を示すものの有意差を認めなかったが,老齢者9例では若年者より有意の高値を示した.細隙燈顕微鏡で前房内細胞を認めなかった老齢者群においてフォトンカウントのボアソン分布解析法では平均1235±161.3(/msec),ピーク検出法の平均は0.2以下であり,細胞数測定にはピーク検出法が有用と考えられた.今回の前房蛋白・細胞測定装置は定量的に前房蛋白濃度,細胞数を臨床的に測定しうるものとして有用と考えられた.

レーザー前房蛋白・細胞測定装置による眼内レンズ挿入術後炎症の臨床的検討

著者: 澤充 ,   釣巻穣 ,   水流忠彦 ,   清水昊幸

ページ範囲:P.665 - P.668

 レーザー前房蛋白・細胞測定装置及びフルオロフォトメトリーにより計画的嚢外摘出術・後房眼内レンズ挿入術の術後炎症についての検討を行った.対象は計画的嚢外摘出術・後房眼内レンズ挿入術を行った38例(老人性白内障37例,外傷性白内障1例)であり,測定対象期間は術後7日間,術6又は7日目にフルオレセインナトリウム1mg/体重kg静注法によるフルオロフォトメトリーを行った.術後,前房蛋白・細胞測定装置により4日以上検査を行い得た症例中フィブリン非析出例18例,析出例10例であった.フィブリン非析出例では術後経過と共に前房蛋白,細胞数共に減少をみた.フィブリン析出例では術翌日析出例2例と外傷性白内障1例を除く7例でフィブリン析出と共に蛋白濃度の上昇を認めた.前房蛋白濃度とフルオロフォトメトリーによる房水/血液フルオレセイン濃度比との間には有意の相関(r=0.603,p=0.000)を認めた.
 レーザー前房蛋白・細胞測定装置は術後炎症経過の定量的検討に有用であり,その結果,眼内レンズ挿入術後眼の術後フィブリン析出例では析出に一致して蛋白濃度の上昇がみられた.

乳児視覚障害のVEPによる視覚系発達過程の検討—重度精神運動発達遅延を伴う症例

著者: 真島行彦 ,   小口芳久 ,   植村恭夫

ページ範囲:P.671 - P.674

 重度の精神運動発達遅延を伴い,視反応が認められない乳児(明らかな眼病変を伴う症例は除外)の視反応出現の判定は少なくとも2歳までの経過観察が必要であり,後頭部視中枢での障害の程度および発達のモニターにVEPは有用と考えられた.2歳を過ぎてもVEPが認められない場合は視反応出現は期待できないのではないかと考えられた.2歳以前にVEPが記録された症例では,VEP上の発達過程において網膜皮質路は最終的にはほぼ正常の発達を示した.さらに,高振幅でかつ多相性の波形が認められれば少なくとも後頭部視中枢での処理反応の発達が期待でき,全身的な精神運動発達遅延が改善されれば視機能の発達が期待できる.しかし,VEPが低振幅のままでかつ持続時間の長いN70およびP100成分のみの場合は,後頭部視中枢でいわゆる反応が停滞していることが考えられ,たとえ精神運動発達遅延が改善しても必ずしも視反応の出現は期待できないか,または出現しても良好な視反応の発達は期待できないと考えられた.

角膜内皮炎の臨床病型分類の試み

著者: 大橋裕一 ,   真野富也 ,   本倉真代 ,   木下裕子 ,   木下茂 ,   切通彰 ,   大路正人 ,   近江源次郎 ,   下村嘉一 ,   松田司 ,   井上幸次 ,   眞鍋禮三

ページ範囲:P.676 - P.680

 最近,角膜内皮炎という疾患単位が認識されつつあるが,それは臨床的には極めて広いスペクトルを有したものであり,共通な特徴を持ったいくつかの疾患群の集合である.そこで,我々は最近3年間に経験した角膜内皮炎の症例21例についてレトロスペクティブに検討し,文献的な考察もふまえて,これらを,進行性周辺部浮腫型,傍中心部浮腫型,急性中央部浮腫型,および虹彩毛様体炎型の4つの臨床病型に分類した.特に,前3者のタイプの角膜内皮炎が急増していると思われる.

学術展示

原田病のHLAについて—臨床症状とBW54,DR4との関係

著者: 山本倬司 ,   佐々木隆敏 ,   新納昭子

ページ範囲:P.684 - P.685

 緒言 原田病の発生率とBW54,DR4の間に高い相関があることは大野1,2)により,既に報告されている.今回,自験例で原田病患者におけるHLAの発生頻度につき検討を加え,さらに,これら抗原と重症度遷延化および予後との相関につき検討した.

アルゴンレーザー虹彩切開の虹彩孔の大きさと隅角の広さの変化量との関係

著者: 山森昭

ページ範囲:P.686 - P.687

 緒言 アルゴンレーザー虹彩切開の虹彩切開孔の直径を北沢ら1),野寄ら1)は0.5〜1.0mm,松島1)は約250μmとしている.しかしこれらの直径でよいとする根拠は明確ではない.著者は虹彩切開孔の直径と隅角の広さの変化量dW2)との関係をしらべていささか知見を得たので報告する.

Hurler-Scheie複合型の角膜組織所見

著者: 勝呂慶子 ,   渡部美博 ,   高柳正樹

ページ範囲:P.688 - P.689

 緒言 Hurler, Scheie症候群は,全身的なムコ多糖体の代謝異常によって惹起される,骨発育異常,知能障害,肝脾腫,角膜混濁を主症状とする常染色体劣性遺伝を示す疾患である.一方,Hurler-Scheie複合型はHurler症候群,Scheie症候群をつかさどるふたつの対立遺伝子によるヘテロ接合体であると想定されている1).これらの疾患では,ライソゾーム酵素の1つ,α-L-イズロニダーゼ欠損のために,全身結合織へヘパラン硫酸,デルマタン硫酸の蓄積が起こると考えられている.
 今回は,Hurler-Scheie複合型の1例に角膜移植の機会を得,その組織像を検討したので,臨床所見と合わせて報告する.

星状神経節ブロック療法における超音波ドップラー法による眼底血流動態の解析

著者: 金子敏雄 ,   大庭久貴 ,   二宮守弘 ,   吉沢利一 ,   太根節直

ページ範囲:P.690 - P.691

 緒言 網膜血管閉塞性疾患に対して,従来血栓溶解剤及び血管拡張剤の投与,さらに,ときには高圧酸素療法等が試みられてきたが,特に最近は血管拡張を目的とした星状神経節ブロック療法の有効性についても報告されている1,2).今回著者らは,これらの疾患に対して星状神経節ブロックを施行した結果その有効性を確認し,その奏効機序を解明するためいまだ十分に明らかにされていないブロック施行前後の眼底血流動態の解析を超音波ドップラー法により検討した.

Forced duction test定量化の試み

著者: 播田実浩子 ,   石川克也 ,   藤生由美子 ,   田辺法子 ,   浅野徹 ,   河井克仁

ページ範囲:P.692 - P.693

 緒言 Blowout fractureの診断は眼外傷の既往,眼球運動障害に対する複像検査,眼窩・ウオーターズX線検査,牽引試験(Forced duction test, FDT)などによって行われている.とりわけFDTにより術前および術中・術後の眼球運動制限の有無を検索することは,眼窩底整復術の一応の目安や予後を考えるうえで重要である.今回,我々は従来の定性的FDTの牽引操作のなかにひずみゲージを導入することにより眼球運動制限の定量化を試みた.

眼球磁界計測 光刺激に対する反応

著者: 山路正子 ,   奥山直美 ,   宮永嘉隆 ,   内川義則 ,   足立確 ,   長谷川敏 ,   小谷誠

ページ範囲:P.694 - P.695

 緒言 電磁気学の応用により,生体磁気の測定が可能である.生体磁気測定は,超伝導現象の利用と周辺情報処理装置の高度化と共に,肺・脳・心・肝などさまざまな分野において研究されている.しかしながら,眼磁界(MOG)や網膜誘発磁界(MRG)については,Katila等1)の報告が最初でそれ以後筆者ら2-4)を除いてはほとんど行われていないのが現状である.今回,磁気シールドルームを用いない通常環境下において行った光刺激により誘発された網膜磁界の測定結果が得られたので報告する.

内服による螢光眼底撮影検査の小児眼底疾患への適用

著者: 枩田亨二 ,   田中尚子 ,   荘野忠朗 ,   三木徳彦

ページ範囲:P.696 - P.697

 緒言 螢光眼底検査は眼底疾患の鑑別診断に不可欠なものとなってきた.しかし,小児では静脈内注射を行いながら眼底撮影を行うことは困難なため,施行する症例はどうしても限られる.これに対し,フルオレセイン内服による方法を用いれば,より多くの小児例に適用できるように思われる.すでに内服による螢光眼底撮影検査の有用性に関してはいくつか報告があるが,これまでの検討は主に成人を対象としており,多数例の小児での報告はない.著者らは,大阪市立小児保健センター眼科における小児例での施行状況,その有用性および副作用について検討した.

偽落屑症候群での血液房水柵

著者: 多田博行 ,   高橋直人 ,   木村保孝 ,   沼賀哲郎 ,   米谷新

ページ範囲:P.698 - P.699

 緒言 偽落屑症候群は,水晶体前嚢に膜様物質が沈着するだけではなく,隅角への色素沈着,毛様体表面の膜様沈着など,前眼部の組織に広く病変が生じる疾患である.片眼性に起こることが多いが,毛様体鏡cycloscopyによる検索で,片眼性の症例の他眼にも77%の高頻度で落屑物質の毛様突起への沈着が観察された報告があり1),潜在的には両眼性である可能性も推定されている.本症は緑内障を併発しやすいことがその大きな特徴であるが,その具体的な機序はまだ明確ではない.また,本症での前眼部螢光撮影法による観察では,虹彩血管や虹彩新生血管からの螢光漏出があることが報告されている2,3).これらの事情から,本症では,房水の性状に異常があるために,臨床的に観察されるような多彩な所見が生じることが強く推定されるのであり,この房水異常と関連して,血液房水柵に障害のある可能性が大きい.この問題を解明する一つの方法として,われわれは片眼性の本症に対して,前眼部螢光測定法anterior segment fluoro-photometryを行い,本症では血液房水柵に異常のあることを観察した.

発光ダイオード(LED)を応用した小型アノマロスコープの試作とその色覚検査成績

著者: 大浜敬子 ,   太田安雄 ,   清水金郎 ,   浜野薫

ページ範囲:P.700 - P.701

 緒言 色覚異常,特に先天性色覚異常の類型程度の最終的判定は,アノマロスコープによらなければならない.
 しかし,現在使用されているナーゲルアノマロスコープやナイツアノマロスコープOTは,価格も高価であり,形も大きく簡単に持ち運ぶ事が難しい.そこで我々は,発光ダイオードを使用して,ナーゲル型アノマロスコープを小型化し,実用的に使用可能な小型アノマロスコープを試作したので,使用経験について報告する.

ビデオ螢光眼底造影法における網膜動静脈のSubtraction methodによる循環動態の計測

著者: 杉原いつ子 ,   山内一彦 ,   栗本晋二 ,   小林俊策

ページ範囲:P.702 - P.703

 目的 上下の耳側動静脈の循環を検索するため,Video-densitometric image analysisの方法を用いて,動静脈での造影剤の出現時間,ピーク時間や消失率などの変化を,動静脈の平均輝度値の方法と,背景影との差(subtraction)の方法により計算し,両者の方法を比較検討した.

人眼虹彩色素上皮細胞の電子顕微鏡的研究(第3報)—虹彩切除後の経時的変化について

著者: 田中俊郎 ,   杉田新

ページ範囲:P.704 - P.705

 緒言:人眼虹彩色素上皮細胞の微細構造に関する研究はこれまで多数みられるが,虹彩切除後の経時的変化に関する報告はない.今回筆者らは虹彩色素上皮細胞の微細構造レベルでの切除後の変化を経時的に観察したので報告する.

Horner症候群の隅角所見

著者: 吉村ひろみ ,   杉田新

ページ範囲:P.706 - P.707

 緒言 Horner症候群は交感神経遠心路の障害で,障害側の縮瞳,瞼裂狭小,眼瞼下垂を三主徴とする症候群であり,その他の眼所見として虹彩異色,結膜充血,眼圧下降,調節域の拡大などが知られている.今回,筆者らはHorner症候群6例の前房隅角を観察し,興味ある知見を得たので報告する.

胃癌の脈絡膜転移例

著者: 石原淳 ,   保谷卓男

ページ範囲:P.708 - P.709

 緒言 脈絡膜転移癌はその原発巣のほとんどが肺または乳腺であり,消化器癌からの転移癌はきわめて少ない.今回,我々は胃癌にて胃全摘術後約1年後に脈絡膜に転移を認めた症例を経験し,組織学的検索も行ったので報告する.

難治性ベーチェット病のシクロスポリン療法—その効果と副作用について

著者: 高橋義徳 ,   小暮美津子 ,   若月福美 ,   大曽根倫子 ,   小黒祐子 ,   金井久美子 ,   福田尚子 ,   蔵並貴子 ,   島川真知子

ページ範囲:P.710 - P.711

 目的 シクロスポリン(cyclosporine,以下CYA)は真菌の一種であるTrichoderma polysporumの代謝産物で,分子量1202のcyclic peptideである1).免疫抑制作用をもつことから,種々の臓器移植に応用され,良好な成績をあげている2).眼科領域では実験的自己免疫性ぶどう膜炎の発症を完全に阻止した3)ことから難治性のぶどう膜炎の治療に応用されるようになった4).私達は従来の方法では治療の困難な眼底型病変を有するベーチェット病(以下B病)にCYAを用い,その効果と副作用について検討し,新たにいくつかの知見を得た.

連載 眼科図譜・264

増殖性糖尿病性網膜症の増殖組織の実体顕微鏡的特徴

著者: 岡田守生 ,   松村美代 ,   荻野誠周

ページ範囲:P.610 - P.611

 増殖性糖尿病性網膜症の増殖組織は,増殖性硝子体網膜症の場合と同様に,網膜前増殖組織と網膜下増殖組織があり,さらに糖尿病に特有な網膜から高く立ち上がる硝子体内増殖組織がある.網膜下増殖組織は,増殖性硝子体網膜症のものと共通の特徴をもっており,前号を参照されたい.

今月の話題

フィブロネクチンと眼

著者: 西田輝夫

ページ範囲:P.613 - P.617

 血漿中に存在する接着性糖蛋白質であるフィブロネクチンは,角膜上皮細胞の接着や伸展を促進することから,難治性の角膜上皮欠損の治療に用いられている.フィブロネクチン点眼剤の作製方法や臨床経験から明らかになったフィブロネクチン点眼療法の適応について述べる.

眼の組織・病理アトラス・20

脈絡膜

著者: 岩崎雅行 ,   猪俣孟

ページ範囲:P.682 - P.683

 脈絡膜choroidは強膜と網膜の間に位置する厚さ0.1〜0.3mmの血管と色素に富んだ褐色の膜である.ぶどう膜の後方を占め,前方は鋸状縁で毛様体実質に移行し,後方は視神経乳頭で欠損する.組織学的には網膜側から,ブルッフ膜Bruch's membrane,脈絡膜毛細管板choriocapillaris,血管層vascular layer,脈絡上板suprachoroidの4層に分けられる(図1).
 ブルッフ膜は厚さが約2μmで,電子顕微鏡的には5層が区別できる.網膜側から,網膜色素上皮細胞の基底板,内側膠原線維層,弾性線維層,外側膠原線維層,毛細管板内皮細胞の基底板である(図2).網膜と脈絡膜の間の接着,物質代謝などに関与している.

臨床報告

VDT作業による眼精疲労に対する鍼刺激—眼の調節機能低下に及ぼす影響について

著者: 西田章通 ,   中村辰三 ,   安藤文紀

ページ範囲:P.712 - P.716

 VDT (Visual Display Terminal)作業による眼の調節機能低下に及ぼす鍼刺激の影響について検討した.
 30歳台の男女7名にパーソナル・コンピューターを使用して漢字探索のVDT作業を1時間行わせた.定量的な指標としてaccommodo poly-recorderを用いて,調節緊張時間,調節弛緩時間および調節近点距離を測定した.
 対照群としてはVDT作業前後,以後安静30分ごとに2回の計4時点での測定を行い,鍼刺激群としては作業後の測定の直後に左右の太陽穴と攅竹穴の経穴に15分間の低周波置鍼療法を加え,他は対照群と同様に行い検討を試みた.
 その結果,鍼刺激群においては,VDT作業による調節緊張時間,調節弛緩時間の遅延および調節近点距離の延長,すなわち調節機能低下に有意の改善がみられ,早期に回復する傾向を示した.
 以上のことより,鍼治療はVDT作業による眼の調節機能低下に対して,臨床においての効果が期待されるものと考える.

計画的嚢外法の術後に生じた脈絡膜剥離を主病変とする交感性眼炎の1例

著者: 米山高仁 ,   今泉利雄 ,   田澤豊

ページ範囲:P.717 - P.719

 老人性白内障の手術後に生じた交感性眼炎と思われる1例を報告した.症例は59歳の男性,右眼老人性白内障に対する計画的嚢外摘出術の約2カ月後に,両眼に脈絡膜剥離を主病変とするぶどう膜炎を発症した.ステロイド剤の全身投与により炎症の消褪を見たが,右眼底は網膜色素の脱失による夕焼け状眼底を呈した.その後,左水晶体を嚢内摘出したが,眼底は右眼と同様の夕焼け状であった.本症例のHLAはA24,B51,Bw60,DRw9であり,免疫学的反応を来しやすい体質に,嚢外法摘出時の虹彩脱出による虹彩色素の遊出と残留皮質が関与して,交感性眼炎が発症したものと考えられた.

Nd:YAGレーザーにて硝子体索状組織切断を行った増殖性糖尿病性網膜症の1例

著者: 宮本孝文 ,   大原國俊 ,   大久保彰

ページ範囲:P.721 - P.724

 Q-switched Nd:YAGレーザーを用いて,牽引性網膜裂孔および牽引性網膜剥離を合併した糖尿病性網膜症に対する硝子体索状物の切断を試みた.使用した機器はCoherent社製Nd:YAG laser,コンタクトレンズはPeyman lens(焦点距離25mm)を用いた.切断面は網膜面より約2〜6mm離れた緊張した索状物に設定した.照射出力は4.0から5.6mJ,照射回数は約1,000発を要した.術中エイミングが困難であり照射回数の増加を見た.術後硝子体索状物の切断と牽引の減弱が確認でき,術中・術後の合併症は認められなかった.

トラベクロトミーを併用した後房レンズ移植術の追跡

著者: 筑井久美子 ,   溝上国義 ,   石井好子 ,   金谷いく子 ,   前田敏孝 ,   鎌尾恒幸

ページ範囲:P.729 - P.731

 白内障,緑内障合併症例に対しtrabeculotomyを併用した水晶体嚢外摘出術,後房レンズ移植術(triple procedure)12例13眼を行い,術後7カ月から27カ月に及ぶ追跡を行った.本手術は,眼圧のコントロール,視野,視力予後は良好で,有効な手術であると考える.術後乱視も追跡最終時で平均0.88Dであった.しかしながら,末期視野障害症例に対する視力予後はあまり良好ではないという結果であった事より,中期までの緑内障症例に対して試みられる手技であると考えられた.

フリードマン視野計を利用した自己視野検査法による緑内障スクリーニング

著者: 菅尾光子 ,   張野正誉 ,   岡本茂樹 ,   原二郎 ,   宗平智子 ,   前田美和子 ,   寺野正子 ,   檀上真次 ,   田中康夫

ページ範囲:P.733 - P.737

 近畿中央病院人間ドックで,Friedmannvisual field analyser (フリードマン視野計)を利用した被検者同士による自己視野検査法を用いた緑内障スクリーニングを行った.被検者は2人1組で発光時に認めた小孔の数を互いに記録し,視能訓練士(ORT)が記録用紙に書かれた数のみで判定した.異常があれば,ORTがフリードマン視野計で再検し,フリードマン視野計での異常が確認されれば,ゴールドマン視野検査を行い,さらに異常があれば,医師が精査を行った.1985年9月より1987年3月までに人間ドックに入院した6,738人のうち,スクリーニングを受けたのは4,426人で,このうちフリードマン視野計で異常が確認されたのは60眼(0.7%)であった.そのうち,さらにゴールドマン視野検査で異常が証明されたのは46眼(0.5%)で,このうち26眼(0.3%)が緑内障性視野変化と診断された.スクリーニング陽性者中の緑内障検出率が43%(26/60眼)と高率で,限られた時間で進行例を見逃さない能率的な利用価値の高いスクリーニング法と考えられた.

文庫の窓から

新編鴻飛集論眼科(太醫院傅七十二症明目仙方)

著者: 中泉行信 ,   中泉行史 ,   斎藤仁男

ページ範囲:P.738 - P.739

 「新編鴻飛集論眼科」の巻頭に『昔有日華子.北齊雁門人也.幼年好遊獵.忽一日同行数人.各執弓矢.出於雁門.嶺南見征鴻数隻飛過.墜於道傍.日華子又張弓而射之.群雁皆棄所舎廬去書二巻.日華子収之.乃覧其文.是昔時皇帝岐伯問答論眼謹書,故日鴻飛集論云々』と記され,本書は「日華子鴻飛集論」をもとに,中国(明代)嘉靖35(1556)年に胡廷南淵(漸江の人)によって編集され,その序を掲げて書林劉氏日新堂より刊行されたものと思われる.
 この刊本は中国(明代)の眼科専門書としてわが国へも輸入されたことと思われるが「眼科全書」(哀学淵著,貞享5年,寛政3年翻刻)「銀海精微」(孫思邈原集,寛文8年,寛政5年翻刻)「原機啓微」附録(〓維徳著,承応3年翻刻)などのように日本において翻刻されたか否か明らかではない.現在伝えられているものは写本が多く,掲出本も江戸時代末の写本である.

Group discussion

色覚異常

著者: 深見嘉一郎

ページ範囲:P.740 - P.743

1.先天性赤縁色覚異常の程度と早期視細胞電位
○田辺久芳(福井県立病院)・花崎秀敏(金沢大学)・田辺譲二 先天性赤緑色覚異常の程度を社会適性判定基準(馬嶋)に従って分類し,異常の程度と早期視細胞電位(ERP)との相関について検討した.
 ERPの100nmでの振幅(V600)に対する460nmでの振幅(V460)の比(V460/V600)を指標とすると,protanとdeutanを互いに区別することができた.protanの3群(弱度,中等度,強度)あるいはdeutanの4群(微度,弱度,中等度,強度)の間には,V460/V600の平均値に有意差を認めなかった.protanの3群の間とdeutanの4群の間にはV460の平均値に有意差を認めなかった.

糖尿病性網膜症

著者: 福田雅俊

ページ範囲:P.745 - P.747

1.糖尿病者のContrast sensitivityについて
    川本昌代・広川順子・新美勝彦〔保健衛生大〕 視力0.7以上の30例58眼につきContrast sensi-tivityを高田製MTFにより測定し,網膜症(—)で87%,網膜症(+)で30%正常,他は全周波で感度低下(増殖型全例,黄斑浮腫全例)があった.光凝固をうけたものも全例感度低下があり,3カ月後もほとんど不変であった.これら感度低下例ではERGの異常,Photostress recovery timeの延長が認められたが,糖尿病歴,コントロール状態とは関係なく,網膜全体の不可逆的変化を反映するものと考えた.
 河崎一夫(金沢大),安藤伸朗(新潟大)より質疑があった.

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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