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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科42巻7号

1988年07月発行

雑誌目次

特集 第41回日本臨床眼科学会講演集 (6) 学会原著

一過性黒内障発作を伴った大動脈炎症候群の1例 頸動脈再建術と視機能の経過

著者: 鈴木美佐子 ,   佐々木聡 ,   八子恵子

ページ範囲:P.767 - P.770

 一過性黒内障発作を契機に大動脈炎症候群が発見された12歳女児例を経験した.本症例は初診時眼底に網膜静脈の拡張蛇行,小血管瘤,綿花様白斑,sludge現象が認められ,全身所見とあわせて大動脈炎症候群と診断された.ステロイド剤を中心とした抗炎症剤で治療が開始され一時炎症反応の改善が見られたが,その後眼底所見の増悪とともに視機能障害が進行し,脳虚血発作も頻発するようになった.大動脈血管撮影にて両側総頸動脈と左椎骨動脈の閉塞が認められたため,上行大動脈と右総頸動脈及び上行大動脈と左鎖骨下動脈の人工血管吻合術,右椎骨動脈のパッチ拡大術が施行された.術後,視機能はほぼ正常に復し,眼底所見も著明に改善した.
 本症例の経過より,著明な眼循環障害を伴い内科的治療に抵抗する大動脈炎症候群には,視機能の保持のためにも積極的に血行再建術を施行すべきことを強調した.

Mucopolysaccharidosisにおける屈折値,角膜曲率半径,眼軸長,角膜厚の異常について

著者: 前田直之 ,   松田司 ,   濱野孝 ,   下村嘉一 ,   眞鍋禮三 ,   木下茂 ,   笹木右子

ページ範囲:P.771 - P.774

 Mucopolysaccharidosisと確定診断された5症例に対し屈折値および角膜曲率半径をオートレフ・ケラトメーターで,眼軸長をAモード超音波眼軸長測定器で,角膜厚を光学的角膜厚測定装置で測定した.
 その結果,正常人に比較して角膜曲率半径は,平均が8.35±0.25mm (SD)とかなり大きく,眼軸長は平均が19.67±1.20mmと著明に短かかった.また屈折状態は検査可能であった全例で遠視傾向にあつた.角膜厚は,角膜移植後の1眼を除き,0.6mm以上と厚かった.10年間の経過観察ができた1例では,成長に伴う遠視の著明な進行が認められた.これらのことより,Mucopolysac-charidosisでは,ムコ多糖類が眼内各組織に蓄積することにより,角膜混濁や網膜の変性が生じるだけではなく,各組織の正常な成長を阻害し,角膜曲率半径が大きく,かつ眼軸長が短くなり,その結果として遠視になるのではないかと推測される.

網膜剥離手術後の角膜知覚の経時的観察

著者: 須藤伸

ページ範囲:P.775 - P.779

 片眼の網膜剥離手術症例63例を対象に,両眼の角膜知覚を,術前,術後1週から18カ月までの所定時期で観察した.術後の知覚の変化は,同一症例の非手術眼と手術眼の角膜知覚閾値の差を術後の知覚低下値として求め,諸条件下での比較を行った.輪状締結術,部分的バックリングを施した両群とも術後18カ月まで有意に角膜知覚は障害されていた.両者を合わせた全症例群を統計的にみると,術後3カ月と6カ月との間で角膜知覚は有意に回復した.輪状締結術について,凝固を施さない部分での知覚をみたところ,シリコンの強膜への縫着単独では,通常の圧迫程度であれば,9カ月以降その影響はほとんどない結果をえた.ジアテルミー凝固と冷凍凝固を比較すると,角膜知覚に与える影響は,9カ月以降では,ジアテルミー凝固の方が,強い傾向を示した.

前房混濁測定装置による白内障術後炎症の定量的検討

著者: 近藤正巳 ,   天野史郎 ,   増田寛次郎

ページ範囲:P.781 - P.784

 He-Neレーザー光を用いた新しい前房混濁測定装置が開発されたが,その臨床応用への報告は少ない.我々は水晶体嚢外摘出術(ECCE)の患者を対象に房水混濁度・前房内細胞数を本装置で測定し,その経時的変化を明らかとした.また後房人工水晶体(IOL)挿入の影響や,消炎剤であるアゼラスチン内服の薬効判定の検討も試みた.結果は,術直後が混濁度・細胞数ともに最も高く,以後経時的に低下するのが示された.ECCE+IOL群はECCE群よりも混濁度では術後3〜20日,細胞数では1〜3日目まで有意に計測値が高く,以後は差を認めなかった.アゼラスチン投与群は非投与群よりも房水混濁度が低く,ECCE+IOL群内では2〜4日,ECCE群内では1・2日目に有意差が認められ,本剤の有効性が示された.本装置で白内障手術後の炎症が客観的・定量的に測定でき,安全に繰り返し測定することで詳細な経時変化も得られ,術式改善の判定や或いは薬効判定の検討に利用できた.

眼底周辺部に隆起性線維血管性増殖病変を呈する眼寄生虫症

著者: 池田恒彦 ,   田野保雄 ,   細谷比左志 ,   玉田玲子 ,   中江一人 ,   生島操 ,   日下俊次 ,   辻守康

ページ範囲:P.787 - P.792

 周辺部網膜に隆起性線維血管性増殖塊を呈し,眼寄生虫症が疑われた8例につき報告した.免疫学的検索により2例は眼犬蛔虫症,2例は眼猫蛔虫症,1例は眼犬糸状虫症と診断された.硝子体混濁の著明な1例と牽引性網膜剥離を来した1例に対して硝子体手術を施行し良好な結果を得た.硝子体手術は視力の改善を得るのみでなく,術中に採取した眼内液の免疫学的検索により本症をより正確に診断できる.原因不明のぶどう膜炎や眼底周辺部の隆起性線維血管性増殖塊を認めた時には,眼寄生虫症を疑い積極的に免疫学的検索を施行すべきである.

長期に観察し得たAniridia-Wilms腫瘍症候群の1例

著者: 大島崇 ,   西川朋子 ,   平形恭子 ,   小川旬子 ,   柿澤至恕 ,   佐伯守洋

ページ範囲:P.793 - P.796

 Aniridia-Wilms腫瘍症候群は稀な疾患である上,悪性腫瘍を合併するため長期観察が困難で,本邦では年長者の報告が見られない.我々は生後3カ月から15歳の今日まで,経過を観察し得た貴重な症例を経験したので,若干の考察を加え報告する.
 症例 は1971年12月生まれの男児で,生後3ヵ月,角膜混濁と羞明を主訴として当院眼科を訪れ,先天無虹彩と角膜混濁を指摘された.全麻下検査では角膜11.5mmとやや拡大していたが,眼圧,17mmHgで乳頭陥凹もないため経過を観察していた.5カ月より角膜混濁減少し,追視が始まったが,知能障害のため視力測定は7歳までできなかった.黄斑部低形成,眼振,小さな後極白内障が見られ,その後視力は0.1-0.2である.8歳頃より眼圧上昇が認められたが,1%ピロカルピン点眼で正常化し,乳頭陥凹も認められない.全身的には尿道下裂,停留こう丸が指摘されていたが,1歳5カ月のとき腹部腫瘤が出現し,右腎,つづいて左腎に腫瘍が認められ右腎,左腎3/4が切除されている.再発はないが,本年に入って腎不全となり腎透析が行われている.

赤錐体一色型色覚の所見を呈した1例

著者: 北原健二 ,   神立敦 ,   環龍太郎

ページ範囲:P.797 - P.799

 等色実験の結果,一種類の原刺激であらゆる検査色光と完全等色が成立し,その分光感度が赤錐体の特性を示したことから,赤錐体一色型色覚と診断された1例について報告した.
 本症例は先天性赤緑異常と診断されていたが,視力良好にもかかわらず,各種検査表に応答不能が多く,青黄異常検出表も判読不能であった.さらに,色相配列検査における色相混同軸が第2異常からややscotopic軸寄りに存在し,通常の赤緑異常とは性質を異にしていた.また,視野検査において内部イソプターの著しい狭窄が示され,周辺部における杆体系の機能異常も示唆された.さらに,中心部における暗順応曲線は2相性であり,2種類のメカニズムの存在が示され,これらの回復速度から本症例では網膜中心部に赤錐体系とともに杆体系の反応を有しているものと推察した.

各種眼疾患における眼内液ヘルペス群ウイルス抗体価および抗体率の検索 眼内ウイルス感染の診断指標として

著者: 沖津由子

ページ範囲:P.801 - P.805

 抗体率(以下Q値と略す)算出は眼内ウイルス感染が疑われる疾患の病因診断に有用である.診断に対するQ値の評価基準を定める目的で,ヘルペス性ぶどう膜炎(角膜ぶどう膜炎,眼部帯状疱疹に伴う虹彩炎など)13眼と,対照疾患(老人性白内障,硝子体出血,桐沢型ぶどう膜炎以外のぶどう膜炎など)196眼の眼内液(前房水,硝子体液,網膜下液)中のヘルペス群ウイルス抗体価とQ値を比較検討し,以下の結論を得た.
 1.Q値1未満の症例では,眼内ウイルス感染の可能性は極めて低いと思われた.
 2.Q値1以上6未満の症例のうち,眼内液抗体価低値(FAにて10倍)の場合は,眼内ウイルス感染の可能性は低いと思われた.
 3.Q値1以上6未満の症例のうち,眼内液抗体価高値(FAにて40倍以上)であっても血清抗体価が高値のためにQ値が比較的低値をとる症例や,発症ごく早期の症例では,眼内ウイルス感染を疑い,さらにウイルス学的検索が必要と思われた.
 4.Q値6以上の症例では,新鮮例,陳旧例をとわず,眼内ウイルス感染の可能性が極めて高いと思われた.

黄斑部病変のglareについて

著者: 筑田真 ,   田中寧 ,   渡名喜勝 ,   大沢みゆき ,   小原喜隆

ページ範囲:P.807 - P.810

 Titmus-Optical社製,Miller-Nadlerglare testerを用い,黄斑部に病変のある疾患の% glare disabilityについて検討した.
 視力良好例でも,% glare disabilityが高値を示す例があった.罹病期間と% glare disabilityは相関しなかった.光凝固は% glare disabilityを低値にする傾向があった.
 中心性網膜症では,全例に暗点は残存したが,視力の変動と% glare disabilityはほぼ相関した.変視症と自覚症状の程度と% glare disabilityは相関する傾向があった.

詐盲と鑑定した症例について

著者: 筒井純 ,   武田純爾 ,   木村久 ,   福島正文 ,   深井小久子 ,   難波哲子 ,   早川友恵

ページ範囲:P.811 - P.814

 鑑定依頼のあった詐盲4例を報告した.その結果,すべて男性であり,診察中の態度ではすべての例で非協力性などの特徴所見があり,一般眼科診断で特に片眼例では瞳孔のswingingflashlight testが有用で,視野は求心性の狭窄を示した例が多かった.視運動眼振抑制法により視力の類推が可能であり,他覚的検査法としての有用性を再認識できた.また,視覚誘発脳波によりそれをある程度裏付けることができた.補償神経症に対する考慮も必要な症例があり,場合によっては精神神経科の協力が必要と考えられた.

成人の心因性視力障害

著者: 今井済夫 ,   芝崎喜久男

ページ範囲:P.815 - P.817

1)成大の心因性視力障害6例を報告した.
2)現実からの逃避傾向の見られたもの3例,失明に対する恐怖が原因となったもの1例,詐病が疑われたが各種検査で診断できたもの1例,原因は不明であったが経過より心因性視力障害と診断したもの1例であった.
3)治療は眼鏡・コンタクトを処方し経過をみているもの2例,ビタミン剤投与したもの1例,精神科で治療をうけたもの1例,精査により異常にないことを示したもの2例であった.
4)疾患・詐病・心因性視力障害の鑑別は困難であるが,十分に検査していく必要がある.
5)説明のできない視力障害をみたら,成人においても本疾患を念頭において精査していく必要がある.他疾患の経過中に急に視力障害がおきたときも本疾患を考慮する必要がある.

左右眼で重症度の著しく異なったAxenfeld-Rieger syndromeの1例

著者: 田村充弘 ,   中塚和夫 ,   岩元義信 ,   松鵜嘉文

ページ範囲:P.819 - P.822

 左右眼で隅角所見及び重症度の著しく異なったAxenfeld-Rieger syndromeの1例を報告した.また左眼に対しては隅角部の病理組織学的検索を行った.
 症例 は16歳の女性で,前方偏位し突出したシュワルベ線,虹彩実質の萎縮が両眼に認められた.隅角では右眼にはシュワルベ線に達するirisstrandが全周に認められたが,左眼ではirisstrandはほとんど認められなかった.しかし右眼の眼圧上昇は軽度であったのに対し,左眼では著明な眼圧上昇とそれによる重篤な視機能障害が認められた.薬物療法による左眼の眼圧コントロールが困難なためtrabeculectomyを行った.
 左眼隅角部の病理組織学的所見として,シュレム管の欠如,著明な線維柱帯の低形成が認められた.
 以上の所見より,本症の緑内障合併機序として隅角形成不全が強く示唆された.

新しい筋移動術の検討

著者: 西田保裕 ,   稲富昭太

ページ範囲:P.823 - P.826

(1)新しい筋移動術を考案し,筋のトーヌスがほとんど消失している外転神経麻痺患者5例7眼に行い,1眼あたり平均23±6.2度と良好な眼位改善が得られた.
(2)手術を行うにあたって,拮抗筋の拘縮が強い場合は,術前処置として拘縮の軽減を目的とした拮抗筋の伸展,すなわち筋マッサージの併用が必要と考えられた.
(3)術後前毛様動脈損傷による前眼部虚血など,重篤な合併症は見られず,上下ひきも良好に保たれた.
(4)この術式はJensen法と同様,移動筋を切腱する必要がなく,さらには麻痺筋に何ら操作を加えることなしに上下直筋のみを二分し,麻痺側の強膜に縫着するだけでよい極めて安全な術式と考えられた.

Hidden choroidal neovascular membranesにおける赤外螢光眼底造影法の診断的価値

著者: 林一彦 ,   長谷川豊 ,   所敬 ,   田澤豊 ,  

ページ範囲:P.827 - P.829

 赤外螢光眼底造影法が,眼底検査および螢光眼底検査では確認困難な新生血管,いわゆるhidden choroidal neovascular membranesの存在を,明らかにすることができるか否かについて検討を加えた.螢光所見上,notch sign (Gass1984)がみられ,その部位に新生血管の存在が疑われた3症例3眼と,出血,滲出斑,網膜色素上皮などに覆われ,新生血管の存在部位不明な9症例9眼の老人性円盤状黄斑変性症に,ビデオシステムによる赤外螢光造影を施行した.対象とした12症例12眼すべてに,赤外螢光所見上,脈絡膜異常血管陰影と色素漏出を特徴とする新生血管が病変内に観察された.
 赤外螢光眼底造影法は,hidden choroidalneovascular membranesを検索できる唯一の方法であり,老人性円盤状黄斑変性症の診断には,欠くことのできない検査法である.

学術展示

白内障眼の視力評価法の検討Glareとの関連について

著者: 柴田崇志 ,   中泉裕子 ,   中沢益枝 ,   水野敏博

ページ範囲:P.830 - P.831

 緒言 今日の人工水晶体(以下IOLと略)挿入術を含む白内障手術の進歩は,その手術適応時期についても,従来の概念を大きく変えている.これに伴い白内障の診断にも最近ではさまざまな新しい検査法が導入されている.細隙灯下の観察所見,標準視力測定法による視力などが,白内障の進行を評価する基本的手段であることは,今も変わりはないが,通常の視力検査結果が必ずしも白内障眼の視機能低下を正当に評価しないことは,日常臨床でしばしば経験するところである.白内障患者の視力を通常の視力測定法の他に,補助的視力評価法をも加味して再評価してみたので以下にその結果を述べる.

Kissing malignant melanoma of the conjunctivae in the left eye

著者: 飯田文人 ,   原田隆文 ,   利光敝

ページ範囲:P.832 - P.833

 緒言 結膜悪性黒色腫は,本邦では,年に7例程しか発症しない比較的稀な疾患であり1),皮膚悪性黒色腫,ブドウ膜悪性黒色腫のどちらの病理組織学的分類にもあてはめることができない2,3)
 われわれは,primary acquired melanosisを母体として,左眼上下瞼結膜に,非連続性に存在した2個の悪性黒色腫の稀有な症例を経験し,Kissing malignantmelanomaと名づけた.

弱視の治療成績と弱視教室の試みについて

著者: 初川嘉一 ,   中村仁美 ,   池淵純子 ,   岡本純之助 ,   三島博子 ,   楠部亨 ,   大鳥利文

ページ範囲:P.840 - P.841

 緒言 弱視対策は,治療よりも予防が優先するとされているのは周知のことである.しかし,弱視においても他の眼科疾患と同様に,絶えず治療成績を検討し,その向上を目指すことは重要である.
 われわれは,弱視の治療成績を検討した.又,治療成績の改善を図るための一つの試みについて紹介する.

汎網膜光凝固無効の糖尿病性網膜症に対すAdditional Photocoagulationの効果と限界

著者: 益山芳正 ,   児玉芳知 ,   松浦義史 ,   児玉芳久 ,   澤田惇 ,   原田一道

ページ範囲:P.842 - P.843

 目的 増殖期初期の糖尿病性網膜症に汎網膜光凝固(PRP)を施行することにより重度の眼合併症の発生頻度は著しく減少している.しかしながら,時に通常のPRP施行後も網膜症が鎮静化せず増殖性変化へ進行し,対応に苦慮する場合がある.このようなPRP無効の重症例に対してはさらにadditionalphotocoagulation (AP)を追加することが推奨されている1,2).今回,PRP無効例でAPが施行された症例について調べ,非常に多量の光凝固を実施することの有効性と限界について検討した.

神戸大学眼科の10年間における眼窩腫瘍101例の検討

著者: 塚原康友 ,   森野以知朗 ,   山本節

ページ範囲:P.844 - P.845

 緒言 眼窩腫瘍は比較的稀な疾患であるが,時には生命予後を左右する可能性があり,最終診断は病理学的検索によらねばならないもので,眼科のうちでも特殊な領域と言える.また,新しい診断,治療法の確立や社会の高齢化等の点からもその重要性を増していると思われる.今回我々は,過去10年間に当科を受診した眼窩腫瘍の症例について統計的検索を行ったので報告する.

多変量解析による強度近視眼白内障術後視力予後に関する検討

著者: 太田俊彦 ,   江本一郎 ,   村上晶 ,   安田尚美 ,   田村頼子 ,   藤木慶子 ,   金井淳 ,   中島章 ,   樺沢一之

ページ範囲:P.846 - P.847

 目的 強度近視眼においては網膜脈絡膜萎縮を合併しやすく,また,白内障の時は,術前詳細な眼底所見を得ることができないために,白内障術後の視力予後を推定することは困難とされている.このような症例において,術前に捉え得る種々の所見により,術後の視力予後をある程度推定しうることができれば,患者にとっても医師にとっても有益であると思われる.今回我々は,数量化理論第I類と重回帰分析により,強度近視眼の白内障術後の視力に影響する要因の解析ならびに術後視力の推定のための重回帰モデルを試作した.

VDT作業に伴う涙液量と瞬目数の経時的変化について

著者: 八木沼康之 ,   山田宏圖 ,   永井宏

ページ範囲:P.848 - P.849

 緒言 VDT作業に伴う眼疲労,眼乾燥感,異物感など諸症状の発症には,いくつかの原因を挙げることができる.その原因の一つとして涙液の異常が関与しているとする報告1〜2)も見られる.正常人におけるVDT作業に伴う涙液量と瞬目数の関係については,既に著者らが報告している3)が,今回,症状を自覚するVDT作業者における涙液量と瞬目数の経時的変化について検討を行った.

VDT作業検診の統計的検討

著者: 三浦昌生 ,   小紫裕介 ,   近藤武久 ,   小野本薫 ,   猪原昭三 ,   前島健治 ,   小林治一郎

ページ範囲:P.850 - P.851

 緒言 近年,ワープロ,オンライン端末,コンピュータ等のディスプレイ画面を有するOA機器の進歩は目覚ましく,様々な職場でこれらの機器を扱う機会が増えている.その結果,眼精疲労を中心とする眼科的愁訴も増加し,これは社会的問題となっている.これらの作業はVDT (visual display terminal)作業と呼ばれ,VDT作業従事者に対する就業前後の検診が必要となっており,これに関する報告も多い1-4).兵庫県予防医学協会は我々と協力し,1986年11月よりVDT作業検診を開始している.今回はその結果に統計的な検討を加えた.

白内障手術患者の糖負荷試験の必要性—過去14年間の糖尿病の割合

著者: 今泉信一郎 ,   今泉博雄 ,   高田潤

ページ範囲:P.852 - P.853

 目的 白内障は高齢化社会に向かい年々増加し,糖尿病もまた同様の傾向にある.それに伴い白内障手術患者の糖尿病の割合も増え,術中術後の合併症を含め,白内障手術予後に大きな影響を与えている.
 白内障手術患者のうち糖尿病治療中は別として,大部分は本人に自覚なく術前の検査(血糖検査,負荷血糖検査等)で初めて検出されている.

上下斜視手術の効果について上下直筋の手術量と手術効果に関する統計学的検討

著者: 出口美智子 ,   横山連 ,   川浪佳代 ,   上畑晃司 ,   枩田亨二 ,   田中尚子

ページ範囲:P.854 - P.855

 緒言 これまで,われわれは水平斜視手術における手術量と手術効果は,原点を通らない直線関係にあることを証明し1,2),その回帰直線から導きだした定量式に基づいて手術を施行し良好な結果を得た3,4).一方,上下斜視手術における上下直筋の手術では,症例ごとの効果のばらつきが大きく,良好な手術結果を得るための定量式に関する報告5,6)は少ない.そこで今回は上下斜視における上下直筋の手術量と手術効果の関係について,水平斜視の場合と同様の観点から統計学的に分析し,術式ごとの手術効果を比較するとともに,定量式を求めることを目的として検討を行った.

プロンベ縫着術後の複視について

著者: 大石麻利子 ,   三谷広子 ,   山本節

ページ範囲:P.856 - P.857

 緒言 網膜剥離の術後,網膜は復位し視力も回復したにも拘わらず術後の複視のため,日常生活に支障をきたしている例は少なくない.今回我々はプロンベ縫着術後,眼位や眼球運動障害を生じたもののうちHess赤緑試験測定のための4条件1)術後視力0.1以上,2)不同視が無い,3)大きな視野欠損が無い,4)全身状態及び反応が良好である,を満たす15例(14〜57歳,男7人女8人)につき最短3カ月最長26カ月にわたり経過を追ってみた.

Telangioectasiaによる輪状網膜症に対するDye laser光凝固治療

著者: 鈴木水音 ,   佐川宏明 ,   戸張幾生

ページ範囲:P.858 - P.859

 緒言 :波長577〜630nmまでのレーザー光を必要に応じて選択可能なDye laserは,網膜内の組織を選択的に凝固することが出来る.この特性を利用して種々の網膜疾患の治療に使用されている.今回我々は,Telangioectasiaによる輪状網膜症2症例に対してDye laserによる治療経験を得たので報告する.

ダイ・レーザーによる光凝固例について

著者: 三木徳彦 ,   白木邦彦 ,   井上一紀 ,   国本栄一 ,   佐藤圭子 ,   池田誠宏 ,   太田真理子

ページ範囲:P.860 - P.861

 緒言 キセノン光凝固に始まり,ルビ・レーザー,アルゴン・レーザーへと発展してきた眼科におけるレーザー治療は紫外線域から赤外線域までの各種レーザーが使用されるようになってきた.最近実用化されたローダミン色素を用いたダイ(色素)・レーザーを1986年9月より臨床例に使用する機会を得たので報告する.

Sclerectomy & sclerostomy (Gass)が有効であったuveal effusion syndromeの1症例

著者: 林田富美子 ,   清水勉 ,   岡村良一

ページ範囲:P.864 - P.865

 緒言 1983年,Gassは,若干眼球は小さいが小眼球症とは言い難い中年男性の両眼に発症したuvealeffusion (以下UE)を紹介し,このような特発性UEをuveal effusion syndromeと命名した1).UEの病因が強膜肥厚による強膜透過性障害にあるという仮説より,sclerectomy & sclerostomyを考案し,その有効性を報告した2)
 今回,我々は,典型的なUEと思われる1症例2眼に,sclerectomy & sclerostomyを施行し,良好な結果を得,さらに,術前に螢光眼底検査において認められた脈絡膜循環時間遅延が,術後,改善したので報告する.

連載 眼科図譜・265

著明な網膜の浮腫状混濁をきたした中心性漿液性網膜症の1例

著者: 山本千加子 ,   岡見豊一 ,   上原雅美

ページ範囲:P.756 - P.757

 中心性漿液性網膜症(central serous retinopathy以下CSRと略す)は,一般には予後良好な疾患であり,網膜剥離も光凝固や自然緩解により消褪し,高度の視力障害を残さずに治癒することがほとんどである.それは何らかの原因で網膜色素上皮の関門機能が障害され,網膜下に脈絡膜血管由来の漏出液が貯留することにより発症しても,その治癒過程で網膜実質はそれほど影響をうけないためである.しかし,CSRの経過中に,網膜実質あるいは網膜下に黄白色斑を認めたとの報告もある1〜3)
 今回,われわれは,典型的なCSRで発症し,経過中に網膜剥離の消褪とほぼ時期を一致して,網膜実質内に黄白色滲出斑を生じ,高度の視力低下をきたした症例を経験したのでここに報告する.

眼の組織・病理アトラス・21

脈絡膜毛細管板

著者: 岩崎雅行 ,   猪俣孟

ページ範囲:P.760 - P.761

 脈絡膜毛細管板choriocapillarisは厚さ数μm,幅10-20μmの扁平な毛細血管が単一平面内に密集して血管網を形成しブルッフ膜を介して網膜色素上皮の直下に密着したもので,きわめて平板的な血管網であることからこの名称がある.毛細管板は他の毛細血管に比べて血流速度はかなり高いといわれ,網膜にとって強力な栄養槽であるとともに,網膜で発生した熱を持ち去る一種のラジエーターとして働くと考えられる.
 毛細管板は周辺部では扁平な毛細血管が平面的に集合したようにみえるが,後極に近づくにつれて血管の間隙が狭くなって,毛細管板の大部分を管腔が占めるようになる.黄斑部では連続した1枚の広い平板状の血管槽のところどころに中隔があるような形態となっている(図1).

今月の話題

中央部糖尿病性網膜症の病像と治療

著者: 安藤伸朗

ページ範囲:P.763 - P.766

 糖尿病性網膜症の予後を知る上で,病変分布域による分類の重要性を述べ,特に中央部タイプは増悪例・寛解例を有し,視力予後・増殖性への進行という点からも対応が困難であることを解説した.

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原著論文の書き方について

ページ範囲:P.838 - P.838

 論文を書く上で一番大切なことは,何故この論文を書くに至ったのかという理由がはっきり示されることと,この研究によって新しくわかった知識は何であるかということを,はっきりと示すことであろうと思います.
 以下,具体的に順を追って述べてみたいと思います.

臨床報告

網膜剥離に対する初回処置としての硝子体内ガス注入法 手術術式の適応および成績

著者: 石郷岡均 ,   根木昭 ,   小椋祐一郎 ,   上田直子 ,   柏井聡 ,   上野聡樹 ,   本田孔士 ,   松村美代 ,   荻野誠周

ページ範囲:P.871 - P.874

 裂孔原性網膜剥離に対する初回処置として硝子体内SF6ガス注入を行った47例において,併用手術術式の適応と手術成績および合併症について検討を加えた.
 冷凍凝固術のみを併用したいわゆるHilton等のPneumatic Retinopexy (PR)を施行した7例では6例(86%)が初回手術にて,残り1例は強膜バックルの追加にて網膜復位が得られた.観血的手術を併用した40例では34例(85%)に初回手術による復位が得られた.再手術を行った6例中3例はPRにて,1例は強膜バックルの追加にて容易に復位が得られたが,残り2例は硝子体手術が施行された.Hilton等のPR法は高度の硝子体剥離を伴う上方の裂孔・円孔で,網膜剥離が2象限以内の症例において,また再手術術式として,上方の新裂孔形成例や裂孔閉鎖不十分例に対して非常に有用であった.胞状網膜剥離症例では一次的な硝子体内ガス注入により剥離が減少し,二次的手段としての網膜凝固やバックル縫着が容易となり,強膜側からの確実な剥離手術の施行および手術時間の短縮が可能であった.また,裂孔不明症例において,硝子体内ガスによる剥離減少により,術前に裂孔が発見される可能性も高くなった.
 今回の症例における重篤な術後合併症として新裂孔形成(6,4%),PVR (4.3%),網膜下ガス迷入による剥離範囲の拡大(4,3%)および黄斑円孔形成(4.3%)を認めた.硝子体剥離が高度でない症例では硝子体内ガス注入により新裂孔形成の可能性があり,注入後早期に詳細な眼底検査を繰り返す必要がある.また硝子体混濁が増強し,牽引性網膜剥離を誘発する可能性もある.一次的硝子体内ガス注入法の適応にあっては,これらの点を十分考慮し,場合によっては硝子体手術の必要性も考慮して術式を決定すべきで,安易に用いる術式ではないと考えられた.

翼状片による角膜形状の変化

著者: 近江源次郎 ,   大路正人 ,   切通彰 ,   木下茂

ページ範囲:P.875 - P.878

 角膜形状に変化を来す疾患として翼状片(21名23眼)を取り上げ,術前および術後の角膜形状変化をフォトケラトスコープを用いて検討した.その結果,翼状片の大きさと角膜直乱視の間には正の相関が存在し,相関係数はr=0.764(n=23)であった.また正常者の範囲外と考えられる3D以上の角膜直乱視の発生は,翼状片の大きさが角膜横径の0.26以上の症例で認められた.この角膜乱視は四方向のうち翼状片側(鼻側)の角膜曲率半径のみが扁平化することにより生じていた.翼状片単純切除により翼状片側(鼻側)の角膜扁平化が解除され,術前2.8±2.1Dの角膜直乱視が術後0.3±0.8Dに減少した.術後,裸眼視力の改善が13眼(57%)に認められた.

慢性進行性に経過した後部虚血性視神経症の2症例

著者: 石田麻美 ,   湯田兼次

ページ範囲:P.879 - P.882

 我々は突発性発症を見ず,慢性進行性に視力低下,視野狭窄をきたした後部虚血性視神経症の2症例を経験した.いずれも,Oculo-cerebro-vasculo-metry (OCVM)で異常が捕えられ,血管撮影にて内頸動脈の狭窄が証明された.
 うち1例については,眼動脈循環を改善させる目的で,浅側頭動脈-涙腺動脈吻合術を施行し,一時的ではあったが,症状の進行を見ず,ある程度の効果が認められた.
 眼循環不全が疑われる場合,内頸動脈の検索が必要となるが,血管撮影を施行する前に非侵襲的な診断法であるOCVMを施行することが有用であると考えられた.

初期糖尿病において多発性の網膜血管透過性亢進像をきたした1例

著者: 斉藤喜博 ,   藤田峻作 ,   西川憲清 ,   福岡陽子 ,   木坊子敬貢 ,   中谷一 ,   星充

ページ範囲:P.883 - P.887

 明らかな検眼鏡所見を認めなくとも,螢光眼底造影で著明な透過性亢進像を呈し,急激な網膜症の進行を疑わしめた糖尿病症例を経験した.
 症例 は20歳女性.糖尿病罹病歴3年.血糖コントロール不良で,しばしば低血糖やketoacidosisを繰り返していた.眼科初診時,軽度の後嚢下白内障がみられたが,検眼鏡的に網膜症は認められなかった.しかし螢光眼底撮影にて,後極部を主体とした網膜毛細血管の多巣性透過性亢進像が認められた.その透過性異常は増悪傾向をきたし,視力が低下したため,片眼のみに網膜光凝固を施行した.約6カ月後に血糖コントロールが良好になると,毛細血管の透過性異常は両眼とも軽快しはじめた.
 本症例のような透過性亢進には,激しい血糖変動,とりわけ低血糖の頻発が関与していたと考えられ,罹病期間が短いためその変化は可逆性であったと考えられた.またそのような網膜症に対して光凝固は無用なものであった.

大動脈炎症候群を伴うホジキン病にみられた網膜血管炎

著者: 平野耕治 ,   原田敬志 ,   丹羽美佳 ,   石川恵 ,   神谷あゆみ ,   山田一正

ページ範囲:P.889 - P.892

 大動脈炎症候群を伴うホジキン病にみられた網膜血管炎の1例について報告した.症例は17歳男子で,1982年9月ホジキン病と診断され化学療法をうけていた.1986年5月両眼の視力低下を訴え名古屋大学附属病院分院眼科を受診した.この時,右眼底に白鞘化した血管および網脈絡膜萎縮巣を多数認め,網膜血管炎と診断された.その原因として各種ウイルスにつき諸検査を行ったがいずれも陰性の結果であった.初診後1年余にわたって経過を追っているが著明な変化は認められず,慢性の経過をとっているウイルス性網膜炎の可能性を念頭におき経過観察中である.

カラー臨床報告

Central Cloudy Corneal Dystrophyの母子例

著者: 谷口永津 ,   松田司 ,   浜野孝 ,   下村嘉一 ,   真鍋禮三

ページ範囲:P.867 - P.870

 central cloudy corneal dystrophyと思われる母子例を報告した.
 症例 は76歳女性,主訴は両眼の視力低下で角膜知覚低下を認め,両眼ともに角膜中央部に限局した実質全層にわたる円形の片雲状混濁を認めた.角膜厚は正常であった.さらに,本症例の第2子(44歳,女性),第3子(41歳,男性)の両眼角膜中央部に円形の淡い片雲状混濁を実質深層に認めた.視力及び角膜知覚の低下はなく,角膜厚も正常範囲内であった.なお,3症例中2症例で軽度の高コレステロール血症を呈していた.

文庫の窓から

青嚢完璧

著者: 中泉行信 ,   中泉行史 ,   斎藤仁男

ページ範囲:P.894 - P.895

全元医学を引き継いだ明医学はそのまま清国の医学へ継承され,清医学は質的に大きい変化はなかった.ただ,この期は張璐の「張氏医通」や呉謙の「医宗金鑑」等多くの医説や処方を集大成した叢書,全集ものが次々と刊行された.いつしか自らの経験に基づくものでなく,いたずらに古書を抜萃し,諸説を集めて書籍として刊行する傾向にあった.本書はこうした時期に著された眼科専門書である.掲出本は江戸時代の写本であるが,巻頭に
清・王協約菴鑑定盧紘澹巌訂正日本・加藤慶明子亮較註
 とあり,王協約菴序文康熈12(1673)年,加藤慶明序文寛政7(1795)年となっている.本書は全7巻(付録部分を巻8とするものあり)4冊(冊数不定)よりなり,訓点を施した漢文の精写である.
 本書の内容は巻1に五輪八廓所属論の他,病論を掲げ,巻2より巻7に160症の眼病治論を述べたものであるが,その概略を目録によって示すと以下の通りである.

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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