臨床報告
網膜剥離に対する初回処置としての硝子体内ガス注入法 手術術式の適応および成績
著者:
石郷岡均
,
根木昭
,
小椋祐一郎
,
上田直子
,
柏井聡
,
上野聡樹
,
本田孔士
,
松村美代
,
荻野誠周
ページ範囲:P.871 - P.874
裂孔原性網膜剥離に対する初回処置として硝子体内SF6ガス注入を行った47例において,併用手術術式の適応と手術成績および合併症について検討を加えた.
冷凍凝固術のみを併用したいわゆるHilton等のPneumatic Retinopexy (PR)を施行した7例では6例(86%)が初回手術にて,残り1例は強膜バックルの追加にて網膜復位が得られた.観血的手術を併用した40例では34例(85%)に初回手術による復位が得られた.再手術を行った6例中3例はPRにて,1例は強膜バックルの追加にて容易に復位が得られたが,残り2例は硝子体手術が施行された.Hilton等のPR法は高度の硝子体剥離を伴う上方の裂孔・円孔で,網膜剥離が2象限以内の症例において,また再手術術式として,上方の新裂孔形成例や裂孔閉鎖不十分例に対して非常に有用であった.胞状網膜剥離症例では一次的な硝子体内ガス注入により剥離が減少し,二次的手段としての網膜凝固やバックル縫着が容易となり,強膜側からの確実な剥離手術の施行および手術時間の短縮が可能であった.また,裂孔不明症例において,硝子体内ガスによる剥離減少により,術前に裂孔が発見される可能性も高くなった.
今回の症例における重篤な術後合併症として新裂孔形成(6,4%),PVR (4.3%),網膜下ガス迷入による剥離範囲の拡大(4,3%)および黄斑円孔形成(4.3%)を認めた.硝子体剥離が高度でない症例では硝子体内ガス注入により新裂孔形成の可能性があり,注入後早期に詳細な眼底検査を繰り返す必要がある.また硝子体混濁が増強し,牽引性網膜剥離を誘発する可能性もある.一次的硝子体内ガス注入法の適応にあっては,これらの点を十分考慮し,場合によっては硝子体手術の必要性も考慮して術式を決定すべきで,安易に用いる術式ではないと考えられた.