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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科42巻8号

1988年08月発行

雑誌目次

連載 眼科図譜・266

放射線療法が速効した悪性リンパ腫による浸潤性視神経網膜症

著者: 比嘉敏明 ,   寒河江豊

ページ範囲:P.902 - P.903

 緒言 浸潤性視神経網膜症(Infiltrative opticneur-oretinopathy)の原因として,悪性リンパ腫よりも白血病の方が数多く報告されている.今回我々は,放射線療法が著効した悪性リンパ腫の両眼底転移例を経験したので報告する.

眼の組織・病理アトラス・22

母斑細胞性母斑

著者: 猪俣孟

ページ範囲:P.906 - P.907

 母斑nevusは皮膚の先天性奇形で,幼少時より存在する扁平あるいは隆起した色素斑をいう.しばしば肉眼的に黒褐色を呈するので,色素性母斑pigmented nevus,俗に黒子「こくし」または「ほくろ」とも呼ばれる.母斑がメラニン色素を産生するメラニン細胞から構成されているためである.母斑を形成するメラニン細胞を母斑細胞と呼び,母斑細胞からなる母斑を母斑細胞性母斑nevocel-lular nevusと呼ぶ.母斑細胞(メラニン細胞)は神経堤neural crestに由来し,皮膚や結膜上皮の基底細胞層と上皮下組織に存在する.細胞内にメラニンの前段階であるドーパ(3,4-di-hydoxyphenylalanine)の存在が証明される.
 眼科領域では,母斑細胞性母斑は眼瞼の皮膚や球結膜に比較的高頻度に認められる.眼瞼では,疣贅状に隆起した色素斑として中高齢者に多くみられる(図1).球結膜では,褐色でやや隆起した色素斑として若年者にみられることが多い(図2).母細胞から産生されるメラニン色素の量は症例によりまちまちである.

今月の話題

MRIと眼科

著者: 中尾雄三

ページ範囲:P.977 - P.981

 MRIは核磁気共鳴を応用した画像診断法で,生体に対する非侵襲性,高い組織contrast分解能,任意方向の断面,骨のartifactなし,血管の描出などの有用性があり,眼科臨床においても極めて重要な検査法のひとつとなった.

臨床報告

毛様体平滑筋腫の1症例

著者: 秋葉純 ,   吉田晃敏 ,   藤田昌宏

ページ範囲:P.913 - P.917

 極めて稀な毛様体平滑筋腫の1例を報告した.症例は63歳男性で,左眼の視力低下を主訴として来院した.左眼の3時から5時の部位に虹彩根部離断を認め,その部の前房内にピンク色の腫瘤と水晶体後方に褐色の腫瘤を認めた.透光性検査では腫瘤陰影を認め,超音波検査では内部エコーを有する充実性腫瘤像を認めた.前眼部螢光造影検査では,いわゆる"veins of a green leaf"(葉脈状)像を呈し,短時間にまだらな腫瘍のstainingを認めた.CT検査では均一な高吸収域を示し,造影剤で増強された.悪性黒色腫を否定できず眼球摘出を施行した.組織診断は平滑筋腫であった.臨床経過の明らかな今日までの報告例,17症例について検討した結果,毛様体平滑筋腫は若年の女性に多く,悪性黒色腫との鑑別には前眼部螢光検査が有用であると考えられた.

眼内レンズ表面における細胞の観察—膜様物質について

著者: 岡田潔 ,   佐川宏明

ページ範囲:P.918 - P.921

 1986年7月から1987年8月までの間に,計画的水晶体嚢外摘出術後,ポリメチルメタクリレート(以下PMMA)後房レンズ移植を行った症例のうち,術後眼内レンズ前面に膜様物質を認めた14眼について,眼内レンズ表面の細胞反応を検討した.スペキュラマイクロスコープによる生体観察の結果,14眼の共通した所見として,眼内レンズ前面に多数の線維芽細胞様細胞,あるいは組織球と考えられる細胞が認められた.これらの細胞の間に,虹色の反射,または干渉縞として無構造な膜様物質が観察されたが,一部の症例では,膜様物質は干渉縞の観察されない部位にも認められた.使用された後房レンズが5社4種類の異なった製法によるものであったことから,膜様物質を認めた所見には,眼内レンズの製法によらないと考えられた.今回報告した所見は,眼内レンズが膜様構造に覆われ,非異物化する過程の一段階で,膜様構造形成の過程を知る重要な手がかりになると考えられた.

同名半盲で発症した多発性硬化症 核磁気共鳴画像(MRI)が診断に有用であった症例

著者: 矢野眞知子 ,   小沢哲磨 ,   木村内子

ページ範囲:P.923 - P.925

 同名半盲で発症した多発性硬化症の症例を報告した.他の全身神経学的所見に乏しく診断が未確定の時期に行った核磁気共鳴画像(MRI)により多発性硬化症が疑われた.頭部CTは正常であった.全身神経学的には脊髄炎の既往があり,今回の同名半盲が寛解したため臨床的に多発性硬化症の診断基準を満足し,診断が確定した.
 同名半盲は多発性硬化症では少ない神経所見のため,その診断に核磁気共鳴画像が非常に有用であった.

Nd:YAGレーザーによる硝子体索状物の切開

著者: 竹田宗泰 ,   宮部靖子 ,   鈴木信敬 ,   今泉寛子 ,   上野哲治 ,   森繁樹 ,   田宮宗久

ページ範囲:P.926 - P.930

 糖尿病性網膜症,静脈閉塞症,網膜裂孔にみられた後部硝子体索状物の切開のためNd:YAGレーザーを実施した13例を検討した.13例中4例は完全に切開された.7例は部分的に成功し,不成功は2例であった.合併症として8例(61.5%)に網膜前あるいは硝子体出血を認めた.1例に比較的大量の出血を見た.Nd:YAGレーザーは孤立性,無血管性で,網膜から離れているものに慎重に実施する必要がある.しかし装置,コンタクト・レンズの改良,治療手技の改良などにより,適応範囲は今後拡大すると思われる.

水晶体嚢外摘出術後に見られたpropionibacterium acnesと表皮ブドウ球菌感染による限局性眼内炎の1例

著者: 西佳代 ,   西興史 ,   ,  

ページ範囲:P.931 - P.935

 水晶体嚢外摘出術(以下ECCE)後9ヵ月後に発症し,臨床的に水晶体過敏性眼内炎と全く同様の所見と経過を示し,水晶体嚢全摘出時に得た検体より,propionibacterium acnesと表皮ブドウ球菌が同定され,組織像でも細菌が認められ,限局性眼内炎と思われた1症例を経験した.その組織像では水晶体嚢内に細菌が認められた以外は,水晶体過敏性眼内炎のそれと同様であった.従来から言われている水晶体過敏性眼内炎の中には,このような弱毒菌による慢性眼内炎が含まれている可能性がある.

硝子体中の水痘・帯状ヘルペスウイルス抗体価高値を示した非定型的桐沢型ぶどう膜炎の1例

著者: 杉浦寅男 ,   宮澤裕之 ,   浅井利通 ,   上総良三

ページ範囲:P.937 - P.940

 急性の激しいぶどう膜炎と強い硝子体混濁で発症し,眼底透見不能のまま網膜剥離をきたした症例に対し,硝子体中のウイルス学的検索を行った.
 本症例では,硝子体の水痘・帯状ヘルペスウイルス抗体価が64倍の高値を示し,血清の値と比較した抗体率では135と有意の上昇を示した.術後眼底所見では閉塞性動脈炎や網膜浸出斑を認めず,本症例を非定型的桐沢型ぶどう膜炎と診断した.
 桐沢型ぶどう膜炎は種々の病態を呈することが示唆され,原因不明のぶどう膜炎において,眼内液のウイルス抗体率を算出することにより,確定診断上有力な情報が得られると考えられた.

内因性真菌性眼内炎に対する硝子体手術の意義

著者: 吉田晃敏 ,   秋葉純 ,   小笠原博宣 ,   広川博之 ,   福井康夫

ページ範囲:P.941 - P.946

 近年増加傾向にある内因性真菌性眼内炎に対する硝子体手術の意義と,この術式を本症のどの時期に行うべきかについて,我々の経験した症例を基に考察した.本症に対する硝子体手術の意義は,①確定診断,②病巣である硝子体ゲルの除去,③全身投与した薬物の眼球内移行促進,そして④硝子体網膜牽引の解除という4点にある.本症の初期例に対しては,まず抗真菌剤の全身投与を行い,速やかに病巣の鎮静化をはかることが肝要である.しかし,眼内病変の遷延化例や,病変の主座が硝子体内に移行しさらに硝子体網膜牽引が生じた症例に対しては,早急に硝子体手術を施行するのが望ましいと考える.さらに全身的合併症のため,抗真菌剤の長期投与が不可能と考えられる症例に対しても,硝子体手術を積極的に考慮すべきと考える.

Eales病様眼底を呈したBuerger病の1症例

著者: 西原浩美 ,   松岡徹 ,   清水慶一 ,   三原正義 ,   松尾信彦

ページ範囲:P.947 - P.951

 Buerger病の患者にEales病によく似た網膜静脈の閉塞性血管炎と硝子体出血が認められた1例を経験した.症例は65歳男性で,1961年(昭和36年)よりBuerger病のため足指の切断を受けている.両眼とも網膜静脈が周辺部において拡張蛇行,螺旋状の走行,側副血行路形成等の異常を呈したが,動脈は年齢に相当する軽度の硬化性変化以外は正常であった.全身および眼科的所見からBuerger病の静脈病変である遊走性血栓静脈炎(Thrombophlebitis migrans)が網膜静脈に起こったと推察した.

側副血行路の形成を認めた網膜動脈分枝閉塞症

著者: 大久保潔 ,   竹内晴子 ,   川上淳子

ページ範囲:P.985 - P.989

 57歳の男性の左眼に再発した閃輝性栓子による網膜動脈分枝閉塞症において,それぞれ別個に形成された側副血行路について報告し,これまでに報告された網膜動脈(分枝)閉塞症後の側副血行路の形成例についても検討を加えた.
 網膜動脈(分枝)閉塞症後の側副血行路には従来,網膜血管系と脈絡膜血管系を結ぶものと網膜血管系内で形成されるものとの2つの様式が知られていたが,自験例より網膜血管系内の側副血行路は,さらに同一網膜動脈分枝内で形成される順行性のもの,および隣接した動脈分枝との間に形成されるものとの2つの様式に細分できることを示した.そして,側副血行路の形成については,閉塞部位の中枢側と末梢側における網膜還流圧差が大きな要因となり得るものと考えた.

急性進行性糖尿病性網膜症のreversibility

著者: 佐藤章子 ,   吉本弘志 ,   佐藤智

ページ範囲:P.992 - P.997

 糖尿病治療を契機として急性網膜症の発症を見るも,光凝固は施行せず,引き続き血糖コントロールと抗血小板薬の内服投与により眼底病変の改善をみた5例7眼を観察することにより,急性網膜症は早期に病変がとらえられれば,即座に光凝固を施行せずとも,血糖のコントロールと血小板薬の併用で眼底病変の可逆的改善をみる例のあることが判明した.

開放隅角緑内障に対するNd:YAGレーザー隅角線維柱帯照射

著者: 吉川啓司 ,   馬場裕行 ,   越智利行 ,   井上トヨ子 ,   井上洋一

ページ範囲:P.998 - P.1002

 開放隅角緑内障21例27眼に対してYAGレーザー隅角線維柱帯照射を行い平均約26週間の経過を観察した.27眼中26眼で眼圧は治療後に低下し,さらに27眼中16眼(59.3%)では臨床的に有用と考えられる眼圧下降効果を得た.このうち,9眼では照射後に眼圧下降薬剤を中止ないし減量し得,また40歳以下の若年者でも眼圧の有意な低下例を認めた.合併症として照射時の疼痛を6例に,照射後の軽度の虹彩炎は全例に,一過性の眼圧上昇を3眼に認めたが,いずれも軽度に留まつた.
 以上より,今後効果持続期間,照射方法など検討する点はあるものの,YAG隅角照射治療は開放隅角緑内障眼に対する治療として有望であると考えられた.

除草剤グラモキソン®(パラコート)による眼障害

著者: 浅井源之 ,   谷口康子 ,   宮谷寿史 ,   越生晶 ,   本江昭夫

ページ範囲:P.1003 - P.1006

 グラモキソン® による眼障害を生じた14例14眼について報告した.原液を稀釈中にその飛沫が入った例が多く,受傷後,眼症状や眼所見が極期に達するまでに数日を要する点に特徴があった.受傷後早期には瞼結膜と球結膜の充血のみがみられても,数日して結膜の偽膜形成,角膜の浮腫と浸潤を伴うびまん性表層角膜炎,上皮剥離およびデスメ膜皺襞形成,さらには虹彩炎などを生じた例が多かった.
 全例とも抗生物質点眼とステロイド点眼により受傷後平均25.4日で瘢痕を残さずに治癒し,予後良好であったが,保護眼鏡の使用で受傷を予防することが重要である.

カラー臨床報告

Circular Capsulectomy

著者: 小松真理 ,   清水公也

ページ範囲:P.909 - P.912

 新しい前嚢切開法であるcircular cap-sulectomyの方法と特徴について述べた.この方法はディスポ針を用いて前嚢を連続的な曲線により円形に切離する方法であり,チン氏帯もふくめた水晶体嚢の本来の形態(integrity)を温存し得るため,眼内レンズの嚢内固定をより安全で確実なものにする.従来問題のあったsoft material眼内レンズを物理的に嚢内に固定(physical fixa-tion)するには理想的な手術手段であると考えた.

最新海外文献情報

神経眼科/レーザー眼科

著者: 若倉雅登

ページ範囲:P.974 - P.975

Frick E : Optic neuritis and multiple sclerosis. Cell-mediated cytotoxicity by peripheral blood lymphocytes against basic protein of myelin, encephalitogenic peptide, cerebrosides and gan-gliosides. Eur Neurol 28 : 120-125,1988.
 多発性硬化症(MS)と特発性の視神経炎(ON)は同一スペクトルムにある疾患かあるいは互いに別物かは議論のあるところである.しかし一般には相似の免疫病理学的基盤があると考えられている.この著者はMS患者やON発症初期の患者にミエリン塩基蛋白(BP)に対する抗体依存性リンパ球細胞障害があることを示してきた.MSにおいては脳炎起炎性ペプチド(encepha-litogenic peptide=EP)に対しても同様のことがいえるので,ONについてはどうか調べたのが本研究の主たる目的である.同じ患者から集めた血液中のTリンパ球を分離し,表題の各抗原を塗布し51Crで標識した標的細胞と,効果細胞とを1対50の割で培養液中に5時間置き上清中に放出された51Cr活性を,細胞障害の程度をあらわすものとした.この結果MSの再発やONを有するMSでEPでの細胞障害性は高かった.ONでは病初期,両眼性例,再発例で上記抗原での細胞障害性が高く,EPが他の神経疾患では細胞障害性を示さないことからも,ONのEPでの細胞障害性の存在はMSの初期を示唆する有力な所見だと結論した.

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原著論文の書き方について

ページ範囲:P.984 - P.984

論文を書く上で一番大切なことは,何故この論文を書くに至ったのかという理由がはっきり示されることと,この研究によって新しくわかつた知識は何であるかということを,はっきりと示すことであろうと思います。
以下,具体的に順を追って述べてみたいと思います。

Group discussion

視野

著者: 可児一孝

ページ範囲:P.1007 - P.1009

 今回は特にテーマを決めずに一般演題19題と特別講演1題であった.
 特別講演は,心理物理学での視覚の研究に第一人者である乾敏郎博士(ATR視聴覚機構研究所)に,心理物理学の立場から視覚の感度を測定することの考えについて講演してもらうものであった.題名は「視野と受容野」で,要旨は次のようであった.

文庫の窓から

眼科約説

著者: 中泉行信 ,   中泉行史 ,   斎藤仁男

ページ範囲:P.1010 - P.1011

 大学東校(東京大学医学部の前身)に初めて外国お傭教師としてミュルレル(Leopold Müller)が招聘され,外科の傍ら眼科を担当したのが明治4年(1871)であるが,明治8年(1875)に至り,シュルツェ(EmilAugust Wilhelm Schultze)が交代して外科に兼ねて眼科を教授した.これらの講義記録は当時学生であった山崎元脩等によって翻訳され,まとめられた.「医科全書」(49巻)は明治8年から同11年に至るまで刊行された外人教師の講義筆記である.
当時の眼科書といえば講義筆記と翻訳書が多かったが,明治初年から同20年頃までにわが国で発行された眼科書は20数種を挙げることができるが,そのほとんどが翻訳書か日講紀聞式の講義筆記であったといわれる.(鮫島近二博士)

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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