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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科43巻1号

1989年01月発行

雑誌目次

連載 眼科図譜・270

前部水晶体血管膜過形成

著者: 山口慶子 ,   原敏

ページ範囲:P.6 - P.7

 緒言:胎生期血管系の遺残により生じると考えられる前部水晶体血管膜過形成(Hyperplasia of the anterior tunica vasculosa lentis)の臨床報告は極めて稀であり,生体での報告は我々の知る限り未だない。
 今回我々は部分的な水晶体混濁を伴う本症を経験したので報告する。

眼の組織・病理アトラス・27

視細胞

著者: 岩崎雅行 ,   猪俣孟

ページ範囲:P.10 - P.11

 視細胞visual cell (または光受容細胞photo-receptor cell)は神経外胚葉から発生した上皮性の神経細胞が高度に分化して感覚細胞として機能するようになったものである。視細胞には明所で色覚をつかさどる錐体細胞cone cel1と暗所で光覚をつかさどる杆体細胞rod cellがある。ヒトの網膜に存在する視細胞は1眼に錐体細胞600-700万,杆体細胞は約1億で,これは日本の全人口にほぼ匹敵する。
 視細胞は外顆粒層に核をもち,視細胞内線維と呼ばれる軸索を外網状層まで伸ばし,外方には樹状突起を伸ばす双極性の神経細胞である。樹状突起のうち,外境界膜までの自分は視細胞外線維と呼ばれる。さらに外境界膜を越えて杆体錐体層に突出した部分は,杆体細胞では直径2μm,長さ60μmの円柱状,錐体細胞では基底部が直径7μmの円錐状をしているので,それぞれ杆体,錐体と呼ばれる。杆体および錐体は近位側の内節inner segmentと遠位側の網膜色素上皮に接する外節outer segmentとにほぼ二等分される(図1,2)。

今月の話題

実験的自己免疫性ぶどう膜網膜炎

著者: 望月學

ページ範囲:P.21 - P.27

 実験的自己免疫性ぶどう膜網膜炎(EAU)は,S抗原やIRBPなどの網膜特異抗原の免疫により惹起される眼の自己免疫病である。網膜抗原の性状,生理的意義,及び,これらの抗原により惹起されるEAUの病理.免疫機序についての最近の知見について概説した。EAUは各種免疫抑制薬の効果を検討するのに適したin vivoの実験系であり,我々が最近行った新しい免疫抑制薬の薬理作用解析の結果についても示した。

眼科手術のテクニック—私はこうしている・1[新連載] 計画的嚢外白内障手術

Double-Hook Extraction法

著者: 清水公也

ページ範囲:P.69 - P.71

理想的な核娩出の条件
 1.角膜内皮損傷が少ない。
 2.虹彩への侵襲が少ない。

眼科薬物療法のポイント—私の処方・1[新連載] 細菌性結膜炎

新生児淋菌性結膜炎

著者: 大石正夫

ページ範囲:P.73 - P.75

 患者は生後14日,女児 生後3日目より右眼脂,5日目より左眼脂分泌が著明となった。エコリシン点眼液1日4回点眼にて症状改善されず,当科に紹介された。
 主訴:両眼眼脂,瞼球結膜の充血。

臨床報告

巨大裂孔に対するガスタンポナーデ後の経強膜手術

著者: 田中利和 ,   高橋政代 ,   安渕幸雄 ,   松村美代 ,   荻野誠周

ページ範囲:P.29 - P.32

 翻転網膜が可動性を有する巨大裂孔性網膜剥離7例7眼に対し,ガスタンポナーデ後経強膜手術を施行した。内6眼で,ガスの縮小とともに裂孔縁の挙上を認め,ガスの追加注入とレーザー光凝固術を要したが,全例で復位を得た。長期的成績では,7眼中3眼にPVRが発生したが,硝子体手術を行って2眼で復位を得,12ヵ月経過観察しての最終復位率は約86%(7眼中6眼)と良好であった。本法は手術侵襲,手技の簡便さ,復位率などを考慮すると,現在のところ最も優れた方法と考えられた。

Pseudo-Foster Kennedy症候群をきたした前部虚血性視神経症の1症例

著者: 石井好子 ,   金谷いく子 ,   溝上國義

ページ範囲:P.33 - P.36

 両眼発症の前部虚血性視神経症(AION)によるpseudo-Foster Kennedy症候群の1症例を経験したので報告した。症例は73歳男性で,主訴は両眼の視力,視野障害であった。全身的には高血圧,糖尿病があり,眼底には右視神経萎縮,左うっ血乳頭を認めた。Foster Kennedy症候群を疑い,脳神経学的検査を施行したが,頭蓋内に異常は認められなかった。螢光眼底検査で,両眼の視神経乳頭に扇状の充盈欠損を認めた。高齢者でFoster Kennedy症候群様の検眼鏡所見がみられた際には,本症によるpseudo-Foster Ken-nedy症候群を十分考慮する必要があり,診断には螢光眼底検査が有用であると考えられた。

後房レンズ挿入術の合併症

著者: 細田泰子 ,   浅山邦夫

ページ範囲:P.37 - P.41

 1984年2月より1987年10月の間に,後房レンズ挿入術施行後,3ヵ月以上経過観察ができた265眼について,術後合併症を検討した。虹彩後癒着が最も多く,38眼(14.3%)に認められた。虹彩後癒着は視力に影響せず眼内レンズ(以後IOLと略す)の種類による差はなかった。フィブリン析出は19眼(7.2%)にみられ,発症は,術後1日目と,術後4・5日目の2つの山があり,3例を除き,術後7日目には消失した。フィブリン析出症例中4眼(21.1%)に虹彩後癒着が続発した。Decentrationは3眼(1.1%)にあった。後発白内障で視力0.4以下になったものは3眼(1.1%)であった。レンズループが手術の創口から離れた強膜外に脱出していた症例が1眼あったが,視力は1.5であった。Pupillary captureを1例に認め,手術を行い整復し,視力1.2に回復した。今回の調査で,一見虹彩後癒着がないようにみえても,最大散瞳してみると,虹彩がIOLや残存した前嚢に癒着している例が,少なくなかった。

一過性の浅前房と近視化,高度の眼瞼・結膜浮腫を呈した全身性エリテマトーデスの1例

著者: 内田研一 ,   田中住美 ,   新家真 ,   朱殷浩

ページ範囲:P.43 - P.46

 一過性の浅前房と近視化,高度の眼瞼・結膜の浮腫を呈した全身性エリテマトーデス(以下SLE)の1例を報告した。症状はステロイド剤によく反応し,原疾患の活動性をあらわす内科的検査所見と平行して変化した。超音波Aモード法により水晶体の前方移動が証明された。症状はSLEの直接の合併症と診断され,機序として,局所の血管炎による毛様体,眼瞼,結膜の浮腫が考えられた。

原田病遷延例に対するシクロスポリンの効果

著者: 井上尊雄 ,   多田玲 ,   中川やよい ,   大路正人 ,   春田恭照 ,   湯浅武之助

ページ範囲:P.47 - P.51

 原田病遷延例で,ステロイド剤の副作用として,それぞれ糖尿病,高度の肥満,骨粗鬆症を生じた3例に対し,シクロスポリン4〜8mg/kgを8〜10ヵ月間投与した。炎症の増強時には補助的な治療としてステロイド剤の局所注射が必要であった。シクロスポリン投与中は遷延性炎症が比較的軽度にまで抑制されている時期のほうが長く,本剤は原田病遷延例にある程度の効果を示したと考えられる。自覚的な副作用は全例に認められこれらは胃腸障害,倦怠感,多毛症,歯肉増生であった。2例では血中の尿素窒素,クレアチニンが上昇傾向を示したが,肝機能障害や神経症状が発現した例はなかった。本剤は原田病遷延例に対して,ある程度の期間ならステロイド剤に代わる治療剤として使用できる。しかし長期間の投与で,緩解状態への誘導が可能かどうかは明らかでなく,副作用の問題もあり,シクロスポリンが原田病遷延例の治療剤として普遍的に使用できるかどうかはさらに検討が必要である。

多彩な眼所見を呈した内頸動脈閉塞症の1症例

著者: 細田源浩 ,   飯島裕幸

ページ範囲:P.53 - P.57

 Cherry red spot,血管新生緑内障をはじめとする多彩な眼所見をきたした内頸動脈閉塞症の症例を報告した。症例は57歳男性で,右眼の霧視を主訴として来院したが,当初,眼科的な他覚所見を欠き,視力は日によって変動した。初診より1ヵ月後,右眼底に白斑を生じ,隅角に周辺部虹彩前癒着が観察された。初診より2ヵ月後急激な視力低下と眼圧上昇をきたし,右眼底のCherry red spotと血管新生緑内障の所見が観察された。頸動脈造影の結果,右内頸動脈完全閉塞が発見され,それまでにみられた眼症状は内頸動脈閉塞症に起因する眼動脈領域の慢性阻血の結果と判断された。

コンタクトレンズ装用による角膜内皮細胞変化—第2報:角膜内皮細胞変化に影響を及ぼす諸因子の検討

著者: 福田薫 ,   浅井利通 ,   上総良三 ,   山本節

ページ範囲:P.59 - P.63

 コンタクトレンズ(CL)装用眼35例70眼に対し,スペキュラーマイクロスコープを用いて角膜内皮細胞変化を観察し,装用年数,装用延べ時間,装用状態,材質等,種々の因子の内皮細胞に及ぼす影響を検討した。
 装用年数の長期化,装用延べ時間の増大に伴い,角膜内皮細胞密度の低下,変動係数(CV)の増大を認めた。CVの増大は,細胞密度の低下に先行して認められ,両者はほぼ相関して変化するものの,CV値60程度で頭打ちになるものと考えられた。細胞密度には測定誤差程度の変化しか来さない角膜内皮細胞の脱落においても,CVは有為な増加を来すことより,角膜内皮細胞の脱落はコンタクトレンズ装用早期より生じていると推察された。また装用状態はいずれの症例も良好で,soft CL, hard CLの間にも有意差は認められなかった。
 CL装用に伴う角膜内皮細胞の形態変化には,比較的均一に個々の細胞面積が増大する例と,大小細胞群に区分される例の2つの形態を認めたが,大小細胞群に区分される例は,細胞密度の低下が大きく,装用時間の長い例に多く認められた。CL長期装用者の角膜内皮細胞変化に個人差が大きい原因として,CLに対する角膜内皮細胞の反応性の違いが推察された。

前房にコレステリン結晶が充満した1例

著者: 大鹿哲郎 ,   沼賀二郎 ,   小松真理 ,   金上貞夫

ページ範囲:P.77 - P.81

 コレステリン結晶が完全に前房内に充満した,珍しいcholesterosis bulbiの1症例を経験した。当初は変性水晶体の脱臼の可能性を考え,疼痛を寛解せしめるために観血的治療を試みたが,その術中所見及び採取したサンプルの分析からcholesterosis bulbiの診断を得ることが出来た。
 サンプルを生化学的に分析したところ,コレステロール以外の前房中の有機成分の濃度も上昇していることがわかった。本例の発症機序は確定できなかったが,長期の網膜剥離に伴った,硝子体中あるいは網膜下へのコレステリン析出,虹彩の新生血管や破壊された血液眼関門からの血漿漏出などの要因が関与しているものと考えられた。

孤立性およびびまん性脈絡膜血管腫に対するレーザー光凝固治療

著者: 山本千加子 ,   宮内美和子 ,   古村俊人 ,   高橋寛二 ,   宇山昌延

ページ範囲:P.85 - P.91

 脈絡膜血管腫の5症例に,レーザー光凝固を行い有効であった。4例は孤立性脈絡膜血管腫であり,レーザー光凝固療法によって続発性網膜剥離は完全に消褪した。1例は,Sturge-Weber症候群に伴うびまん性脈絡膜血管腫であり,広汎な続発性網膜剥離を伴っていたが,螢光眼底造影で過螢光をみとめる部に広範囲に豆まき型の光凝固を計11回行い,網膜剥離の完全消褪を得た。これらのレーザー光凝固は,中等度の強さで行われ,脈絡膜血管腫の治療には,網膜剥離の消褪を目的とした比較的弱い光凝固が有効と思われた。波長は,青緑色アルゴンレーザーと,最近の症例には色素レーザー(590nm,橙色)が用いられた。

広範な脈絡膜循環障害を伴った多発性後極部色素上皮症の1例

著者: 溝口尚則 ,   楠木裕子 ,   松永伸彦 ,   雨宮次生 ,   松鵜嘉文

ページ範囲:P.93 - P.97

 広範な脈絡膜循環障害を伴った多発性後極部網膜色素上皮症(以下MPPE)の1例を報告した。症例は基礎疾患を何ら有しない41歳男性で,過去に2回右眼に中心性漿液性網脈絡膜症の診断のもとに治療をうけた既往歴がある。今回両眼は変視症を自覚し,眼所見としては,前眼部には炎症所見は認められず,後極部網膜に扁平な漿液性網膜剥離と,ドーナツ状浸出斑が認められた。螢光眼底撮影では,脈絡膜背景螢光に充満遅延と欠損があり,一部脈絡膜血管も認められた。病変の主座は脈絡膜毛細血管板にあると推測され,網膜色素上皮の変化は,それに続発したものと考えた。

カラー臨床報告

急性梅毒性網脈絡膜炎

著者: 清水良 ,   沼賀哲郎 ,   木村保孝 ,   堀内知光

ページ範囲:P.13 - P.19

 急性梅毒性網脈絡膜炎と考えられる3例を経験した。3例とも片眼性で,急性に発症し,高度の視力低下を呈した。眼底所見は後極部を中心に,境界鮮明な4〜7乳頭径のほぼ円形な黄白色調の網脈絡膜混濁が存在した。また螢光眼底造影所見では,病変部に一致した螢光色素の貯溜があり,網膜色素上皮剥離様の所見を呈していた。ステロイドの局所投与には反応せず,放置すると確実に増悪した。梅毒定量検査が強陽性を示し,全身所見より第2期梅毒における後天性梅毒性網脈絡膜炎と診断した。ペニシリン系の抗生物質の投与にて著効を呈し,視力の回復も良好であった。3例とも極めて共通した臨床所見と経過を呈しており,過去にあまり報告のない急性梅毒性網脈絡膜炎の一型と考えられた。

論文論

表題

著者:

ページ範囲:P.19 - P.19

 論文のタイトルは,人でいえば名前のようなもの。「名前は体を表わす」つもりで,できれば表題を見ただけで,その内容がざっと分かるようにするのが理想です。最近の外国論文では,特に基礎方面で顕著なのですが,「要約のそのまた要約がタイトル」といった感じの表題が増えて来ました。
 今でも記憶に残っているのが,「カリクレインは中心性網膜炎に有効」と書いた日本語の論文が出ているのです。昭和40年前後の話ですが,あの頃ならば,さしずめ,「中心性網膜炎に対するカリクレインの効果の研究」とでもするのが普通だったのですが,これでは有効だったのか,無効だったのか,まず見当がつかないのです。

ダブルスペース

著者:

ページ範囲:P.91 - P.91

 ワープロが普及してきました。現在「臨床眼科」に投稿される原稿の80%は原稿用紙にではなく,ワープロで書かれています。
 ワープロで書いてあると読みやすく,印刷所の職人さんにも大歓迎なのですが,ひとつ困るのが,一枚の紙にぎっしり打ちだしてある論文の多いことです。投稿規定では,一行20字または40字,一枚に20行となっているのですが,これは是非守って欲しいのです。

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原著論文の書き方について

ページ範囲:P.66 - P.66

 論文を書く上で一番大切なことは,何故この論文を書くに至ったのかという理由がはっきり示されることと,この研究によって新しくわかった知識は何であるかということを,はっきりと示すことであろうと思います。
 以下,具体的に順を追って述べてみたいと思います。

最新海外文献情報

眼と腸の慢性炎症性疾患/米国の"不全型"停止性夜盲の一家系

著者: 原田敬志

ページ範囲:P.68 - P.68

 クローン病と潰瘍性大腸炎における眼症状やその免疫異常を3例の自験例をもとに論じているが,文献が60篇にのぼる総説ともなっていて大体の趨勢を把握することができる。クローン病の2例のうち1例では最初の発作で右眼のぶどう膜炎と乳頭炎が起こり,1年後には両眼に同様の発作がみられた。他の1例は上強膜炎をしばしばくり返し,両側性のぶどう膜炎と硝子体炎,角膜辺縁部潰瘍をきたした。残る1例はしばしば両側性となる前眼部ぶどう膜炎を示した。病変の経過として,消化器症状から数ヵ月〜数年して眼症状が現われるのが多い。消化管障害の規模や活動性に応じて眼症状が発生する。最初の眼症状の発現と消化器症状の間の依存は明らかでないことが多いが,2度目からは因果関係のはっきりすることが普通である。将来,虹彩切除術あるいは線維柱体切除術の際に免疫複合体を検出することが可能になるであろうと結んでいる。

文庫の窓から

眼科学

著者: 中泉行信 ,   中泉行史 ,   斎藤仁男

ページ範囲:P.98 - P.99

 東京医学校は明治10年(1877)4月,開成学校と合して東京大学医学部と改名されたが,これより先,東京医学校においては,明治8年(1875)5月,本科生の外に,医師速成の目的で,通学生教場が設けられた。ここでは邦語で速成教授が行われ,修業年限は4年であった。この学生は本科生が全寮制であるところから医学通学生と呼ばれたが,明治13年(1880)10月に別課医学生と改められた。別課生は明治12年(1879)5月の第1回卒業生より同22年(1889)6月の第20回卒業生まで1,100餘名の卒業生を数えたといわれる。
 本書はこの頃の成立で,その例言に『東京大学医学部別課医学生教場において生徒筆記の労を省き其記憶し易からんが為今回印刷に附せり云々』とあるように,医学別課生用に纂訳されたものと解される。その第1版は明治14年(1881)10月,訳者蔵版,島村利助書店より刊行された。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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