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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科43巻10号

1989年09月発行

雑誌目次

特集 眼科外来診療マニュアル—私はこうしている

カルテの記載法—私はこうしている

著者: 田村正

ページ範囲:P.1429 - P.1431

 カルテの記載法に,とくに決まった方法があるわけではないが,どんな書き方をした時でも,患者を診察した内容が,誰にもわかるように正確,明瞭に書かれていなければならない。
 カルテは患者の病状や治療についての重要な記録であり,保険診療報酬請求や各種の診断書を作る時の資料となり,また医事紛争の生じた時は,裁判所に提出する証拠となる。不正確な記載はトラブルのもととなるので,診療した事項は,その場でもれなくカルテに記入しなくてはならない。

外来検査と鑑別のためのDecision tree

著者: 土坂寿行

ページ範囲:P.1433 - P.1437

 眼科領域における主訴は大きく二分される。すなわち,視神経系統に関するものと知覚神経系統の主訴であり,前者は視機能障害を,後者は疼痛に代表されるさまざまな訴えをする。

眼科救急外来

著者: 近藤武久 ,   小紫裕介

ページ範囲:P.1596 - P.1602

 救急医療は医療行政の面から第一次救急,第二次救急,第三次救急と区別されている。しかし,眼科救急医療の面から考えると,対象とする臓器の特殊性から,生命予後に関連する,いわゆる第三次救急に相当するものはほとんど皆無といってよい。むろん,特殊なケースとして,複数臓器の損傷を伴う複雑な交通外傷とかあるいは頭部の銃創などの場合は,生命の救急に関する処置を要するものもあるが,その際には生命に対する救急処置が優先されるのは言うまでもないところである。したがって,一般の眼科救急とは医療行政における,第一次救急,第二次救急に相当するものを対象とするのが普通である。
対象

診療室でのemergency

著者: 佐藤清祐

ページ範囲:P.1603 - P.1606

 眼科診療のemergencyとして問題になるのは検査や処置,手術操作などによっておこるショックとその類似発作であるが,その大部分は麻酔薬,抗生物質の点眼,内服や螢光眼底造影(以下FAG)のフルオレセイン静注など薬物使用時である。しかし薬物使用時であっても常に薬物性(アナフィラキー)ショックとは限らず,一次性ショックの場合もあり,また壮老年者に潜在していた器質的心疾患や脳循環障害が眼科処胃を引き金として発作をおこし重篤な事態に進展することもある。どの原因でも発作がおきた際の対策は基本的には大差ないが,予防対策の面では多少異なるので,それら原因の鑑別に重点をおきつつ述べる。

巻頭言

眼科外来診療の心得

著者: 鹿野信一

ページ範囲:P.1425 - P.1428

1.カルテがおしえる
 すこし古い話になるが,私が医局に入り眼科を始めた頃,瀬戸 糾先生という方が講師でおられた。先生は熊本大学,当時医専の眼科の教授であられた方であるが,御事情があって途中退官され,そして熊本医専のまん前に開業,もの悽く繁盛されて,学校の患者も大部分が瀬戸眼科に移ったということであった。その後東大に戻られ,石原先生の下で講師をされていたわけである。大変に手術を得意とされ,いろいろと診療のことを教えて頂いた。私が診療の心得というものを叩きこまれたのは主としてこの先生であった。
 「君,患者が来たらまずカルテをみることだ。初診だって住所や年齢がかいてあるだろう。大体近くの患者は軽いのが,遠いのは重いのが多い。近くのものは,あの医者すこし流行っているようだが,いってちょっと様子をみてくるか,なんていうのが来るんだ。それとも患者が忙しくて遠くにゆかれないというのもあろう。とにかく近くのものには時間をかけずに早くすましてやることだ,その方が患者は喜ぶ,汽車で来たというような遠い住所の患者は,こりゃわざわざ俺にみて貰いたいというわけなのだから,汽車の時間位かけて診てやることだ,そんなに時間をかけなくてもすむと思っても,普通以上に丁寧に,途中暫く休ませてもいいんだ,よくみて貰ったという印象が大事だよ。

データでみる眼科外来

頻度の高い疾患と重要な疾患

著者: 内田研一

ページ範囲:P.1438 - P.1439

 日常眼科外来で接する患者さんの訴えはさまざまである。これを正確に把握して診断に結びつけるためには,時に豊富な経験と柔軟な判断力とが求められる。ここで幸いなことに,眼科疾患の多くは直視下に所見をとって診断を下すことが可能である。正確な主訴の判断に基づいて系統的に検索できれば,診断はさほど困難ではなくなる。
 この過程であらかじめ疾患の大略を知ることは大きな助けとなる。そこで本稿では同愛記念病院における1年間の新来患者の概要を示し,主訴と疾患の関連,および重症度について検討した。この結果を通して診断に至る過程を考察してみたい。

外来における診断のポイント—私はこうしている 主訴からみた疾患

視力低下—片眼の急激な視力低下

著者: 土坂寿行

ページ範囲:P.1443 - P.1445

 片眼の急激な視力低下を訴える場合,その障害部位は原則として角膜中央から黄斑部,さらに視神経から視交叉に至るまでである。従って検査の手順は角膜から順次視神経に向かって検索を進める。ただし,両眼性の疾患で発症時期が異なる場合も片眼の視力低下として受診するので,常に健眼にも注意を怠ってはならない。
 片眼の急激な視力低下の原因は外傷性のものと非外傷性のものに分類される(☞外傷性疾患は1587頁参照)。本稿では外傷の既往なく発症した視力低下についてその診断の手順を示す。

視力低下—両眼の急激な視力低下

著者: 上原雅美

ページ範囲:P.1446 - P.1447

 両眼ほぼ同時期に急激な視力低下をきたす疾患は少ない。とくに,突発性の視力低下は非常に稀である。ただ,患者が両眼の急激な視力低下を主訴として来院した時,真に両眼同時期に視力低下が発症した場合と,一眼にはそれ以前よりかなりの視力低下があっても自覚せず,他眼に急激な視力低下が起こった後にはじめて両眼性の視力低下として自覚する場合とがあるので注意が必要である。
 両眼の急激な視力低下の原因としては,以下のことが考えられる。

視力低下—片眼または両眼の緩徐な視力低下

著者: 下村嘉一

ページ範囲:P.1449 - P.1451

 片眼または両眼の緩徐な視力低下を訴える場合,その障害部位は多岐にわたり,透光系・屈折(調節)系・感光系・伝達系・認知系といった5系の内のいずれかに存在する。それゆえ検査の方法は矯正視力検査から始まり,診断が確定しない場合CTやMRなどの特殊検査まで必要となる。ただ,不必要な検査を患者に施行することは当然避けるべきで,症状から判断して,最適の検査方法を順次選択することが肝要である。
 なお,両眼性の疾患で発症時期の異なることをよく経験するので,たとえ片眼の緩徐な視力低下を訴えて来院しても,両眼性疾患の可能性を常に念頭に置く必要がある。

視野狭窄

著者: 根木昭

ページ範囲:P.1453 - P.1458

 視野欠損は,光受容器である視細胞から,後頭葉視中枢へ至る視路のどの部位の障害によっても生じるが,網膜局所からの投射は規則的な走行をとるため,各障害部位によって特徴的な視野異常を呈し,視野からその責任病巣を推定することができる(図1)。
 以下,まず視路の障害と視野異常についてのキーポイントを概略し,次いで視野欠損をみた場合の診断手順を述べる。

中心暗点

著者: 坪井俊児 ,   松本長太

ページ範囲:P.1460 - P.1461

 中心暗点を主訴とする疾患には大きく分けて眼底疾患と視神経疾患がある。眼底所見を認めない中心暗点=球後視神経炎という考えかたが古くからあるが,安易に球後視神経炎という病名をつけるべきではない。そのためには詳細な眼底検査が必要となる。以下診察の手順を箇条書きにしめす。

変視症

著者: 松本長太 ,   坪井俊児

ページ範囲:P.1462 - P.1463

 見ようとする物体が実際とは異なって変形して見える状態を変視症(metamorphopsia),見ようとする物体が実際より小さく見える状態を小視症(micropsia),見ようとする物体が実際より大きく見える状態を大視症(macropsia)という。小視症,大視症は変視症の特異な状態であるともいえる。各状態の原因は次の通り。
1.小視症
 器質的には黄斑部の浮腫などにより,黄斑部の視細胞間の距離が正常より離れるために起こるとされている.機能的には調節不全麻痺により生じる。また生理的には輻湊によっても生じる。

虹視症

著者: 林清文

ページ範囲:P.1464 - P.1465

 虹視症halo visionは,電灯の周囲に虹のような輪が見えるもので,薄く混濁した角膜によって光が屈折されて起こる。同音異義語に光視症photopsiaがあるが全く別の概念である。虹視症は,定義上から,角膜に病変をきたす疾患を中心に診断をすすめることになり(角膜異常の項を参照),細隙灯顕微鏡検査が中心になる。虹視症を訴える病態,疾患は多くない。慢性的な発症および経過をたどるものとして,眼脂分泌の少ない慢性結膜炎と,極めてうすくて広汎な角膜片雲が考えられる。比較的急性の発症および経過をとるものには,炎性緑内障の眼圧上昇時や,びまん性表層角膜炎がある。本稿では,各疾患の診断につき,詳述する。

羞明

著者: 林清文

ページ範囲:P.1467 - P.1469

 羞明はまぶしいと訴える言葉の医学用語であるが,日常の診療で出会うまぶしさの中には,正常眼でも感じるまぶしさ(これを照明学会関係で眩輝またはグレアと呼ぶ)と,病的な状態にある眼が感じるまぶしさがあり,医学的には後者を羞明と定義している。さらに類似した現象として,明るい場所の視力がやや暗い場所の視力よりもかえって減少する場合を昼盲と呼ぶ。いずれにせよ,まぶしさを訴える場合,眼の障害部位は,結膜などの外眼部から角膜・水晶体・硝子体・網脈絡膜,さらに視神経経路にまでおよぶ。また視器以外に,鼻疾患,脳疾患など眼の隣接部の疾患や,発熱,全身衰弱などの全身疾患や,心気症やヒステリーなどの器質的病変の認められないものが原因となる。従って,診療に際しては,視器の順序正しい精密な検査をすすめていくことが最も大切であるが,視器に何らの異常も認められなかった場合は,改めて,患者の疲労の有無,職場の環境,全身や鼻疾患の有無,心身の葛藤の有無について,考慮する必要がある。次頁にその診断の手順を示す。

光視症

著者: 高橋正孝

ページ範囲:P.1470 - P.1472

 光視症の原因の大部分は硝子体—網膜変化によるものであり,中枢性のものは例外的と考えてよい。注意深い問診と細隙灯顕微鏡検査が診断の決め手となる。

飛蚊症

著者: 出田秀尚

ページ範囲:P.1474 - P.1475

訴えを飛蚊症とするかどうか
 患者は,飛蚊症に関してさまざまな訴えをする。しかし,飛蚊症とは,中間透光体にある物質が網膜上に影をおとして,これを自覚するという状態から次の特徴を有していなければいけない。
 1.明るい所でより良く自覚する。

夜盲

著者: 岡島修

ページ範囲:P.1476 - P.1477

 暗所視光覚異常すなわち夜盲は,杆体系が広範囲に障害されることにより発生する。したがって網脈絡膜あるいは視神経がある程度以上に障害されれば,どんな疾患においても夜盲は発生しうる。しかし視力・視野など明所視機能の異常が前面に表われる,ぶどう膜炎・網膜血管障害・緑内障などでは,夜盲が意識されることは少ない。夜盲が問題になるのは,それが単独あるいは明所視機能異常に先行して出現する遺伝性網脈絡膜疾患の場合がほとんどである。

色覚異常

著者: 岡島修

ページ範囲:P.1478 - P.1479

 色覚異常は先天異常と後天異常とに分けられる。前者は大部分が赤緑異常で,X染色体劣性型の遺伝型式をとる。後者は網脈絡膜疾患,視神経疾患に伴って発現し,青黄異常となることが多い。
 これらの検査には,目的に応じて色覚検査表・色相配列器・アノマロスコープ等種々の検査器具が用いられる。従って色覚異常を正確に診断するためには,それぞれの器具の使用目的とその限界の正しい認識が必要である。また特に先天異常では,進学時の問題点や遺伝など,異常者の疑問にできるだけ答えることも眼科医の責務である。

複視

著者: 後藤公子

ページ範囲:P.1480 - P.1482

麻痺性斜視
 中枢性・末梢性眼球運動障害によって起こる眼位ずれや複視のことをいう。
自覚的症状
 1.複視:マヒ筋作用方向にむくほど,ずれは大きくなる。僅かの偏位では,明らかな複視ではなく「ぼやける」という。交代遮蔽するときれいに見える。

眼位の異常

著者: 後藤公子

ページ範囲:P.1483 - P.1485

斜視
 斜視は種々の形とその組合せがある。そのためBritish Orthoptic Societyの分類をはじめたくさんの分類がある。よた斜視の形をそれぞれいろいろな名称でよんでおり,斜視が煩雑になる原因になっている。
 一般にある内斜視と外斜視は単に目の位置が内側と外側にずれているだけのように思われている。しかし,内斜視の発生には内・外直筋の異常による運動系の因子が主であり、外斜視は外眼筋のバランスをみてもあまり異常はなく,暗い所では眼位はよく保たれ,ヘス氏チャートでは逆に内斜視の図を示すこともあることから,輻湊系の異常と融像力が弱い感覚系の異常が主体となる。このように内斜視と外斜視とは成因が異なることから内斜視と外斜視が共存することがある。

眼瞼下垂

著者: 後藤公子

ページ範囲:P.1486 - P.1487

 眼瞼下垂とは,動眼神経支配の上眼瞼挙筋または交感神経の上瞼板筋の障害により開瞼不全になった状態のことである。臨床上遭遇する疾患であるが,病因・下垂の程度や他の症状の有無などにより多彩である。

疼痛

著者: 松原正男

ページ範囲:P.1489 - P.1492

 眼球あるいはその周囲の痛みは日常の診療において最も多くみられる訴えの一つである。痛みの訴えはいろいろな表現と言葉で表される。また,「痛い」といっても純粋な痛みの他に,異物感,乾燥感,疲労感,羞明などが含まれていることがある。そのため詳細な問診を行うことが,症状を的確に把握し,診断を容易にする上で重要である。

異物感

著者: 松原正男

ページ範囲:P.1494 - P.1495

 異物感は主訴として多いものの一つである。眼表層部の軽度な異常によって生じ,主として眼瞼,結膜及び角膜に原因のあることが多い。異物感として表現されていることには乾燥感,疲労感などがふくまれていることがある。電気性眼炎や異物など病歴から推測のつく場合や,充血,眼脂など結膜炎症状の強い場合も診断は容易である。しかし,所見に乏しく診断の困難なことがあり,そのため,いつから,どのような時に,一日の中でどのような状況で,など詳細に問診を行い,丹念に診察の手順を踏むことが正しい診断へつながる。

流涙

著者: 弓削経夫

ページ範囲:P.1496 - P.1498

 涙液の分泌には基本的分泌と反射性分泌とがある。流涙は涙液の分泌が過剰な場合と,排出機能が不十分な場合とがあるが,前者は悲しみやまた鼻粘膜や三叉神経の刺激によって生理的にもおこってくる。
 病的流涙の原因は,ほとんどが器質性の導涙機構の障害によるものである。

充血

著者: 弓削経夫

ページ範囲:P.1499 - P.1501

 結膜の充血は極めて頻度の高い主訴/所見である。球結膜の充血を伴わない瞼結膜の充血は結膜炎の項を参照されたいが,鑑別診断にあたって問題となるのは通常球結膜の充血である。
 球結膜の充血は毛様充血との鑑別が必要である。しかし毛様充血は通常結膜充血をともなうので,本項では球結膜の充血を見た場合の外来における診療の順序と想定すべき疾患について,両者を特に区別せずに述べてみた。また一般臨床上重要なビールス性伝染性結膜炎をまず鑑別するという意味あいから,瞼結膜の所見を反映している球結膜の浮腫,腫脹は重要な参考所見である。

眼脂

著者: 竹中康雄

ページ範囲:P.1502 - P.1503

 眼脂は結膜の炎症に伴い起こることがほとんどであるが,主病変が角膜や涙嚢炎であることも多く,睫毛による刺激が原因のこともあるため表1に従って検査を進める。
 流行性角結膜炎は外来で嫌われる疾患であるが,角膜ヘルペスを誤診しステロイド点眼薬を使用すると角膜病変を悪化させるため細隙灯顕微鏡による検査が必要である。ウイルス性結膜炎の中で単純ヘルペス,水痘・帯状ヘルペスによる結膜炎は稀なものではない。いずれの施設でも可能な手段ではないが,現在ではヘルペスウイルスは螢光抗体法により迅速に確定診断が出来る。

眼瞼腫脹

著者: 竹中康雄

ページ範囲:P.1504 - P.1505

 眼瞼皮膚は人体のなかで最も薄く皮下組織も粗であるため容易に腫脹を生じる。また,眼瞼縁で結膜に移行し睫毛,瞼板とその分泌腺や涙腺もあり腫脹の原因としてさまざまな疾患を鑑別しなければならない。臨床的には1)炎症症状を伴うもの,2)炎症症状を伴わない(もしくはごく軽度の炎症を伴う)ものに大別される。

眼精疲労

著者: 蒲山俊夫

ページ範囲:P.1507 - P.1510

 眼の疲労は「気持ち良く見える」状態を越えたときに生理的に生ずると言われている1)。例えば調節作用の上で,「気持ち良く見える」という状態とは,網膜上に結ばれた像が焦点から0.5diopter以上はずれていない状態であり,また調節能力の2/3未満を使用するだけでその網膜像を維持できる状態であると定義されている2)。また輻湊運動の上では,それぞれの視距離に応じて輻湊範囲の3分の1で,かつ中央の部分であると言われている3)。この快適に見える範囲を越えた場合に正常者でも眼の疲労が生じると言える。
 眼の疲労は自覚的な表現から,生理的(正常)疲労と病的疲労とに分けて考えると臨床的に便利である4)。生理的(正常)疲労とは急性に現れ,休息によって速やかに,完全に回復する疲労のことである。これに対して病的疲労とは慢性に移行した蓄積疲労で,休息によって回復せず,疲労の残余が次々に蓄積され,器質的変化を惹起するに至ったものである。すなわち作業負荷がないにもかかわらず,疲労症状を強く自覚するものである。

眼球突出,眼球陥凹

著者: 馬場裕行

ページ範囲:P.1511 - P.1514

 眼球突出度の左右差は,視診で鋭敏に捉え得る。1〜2mmの差でも,顔面の異常に対しては,ヒトの視覚は敏感である。眼球が突出してきたのか,陥凹してきたのかは問診で明らかにし得る。まず眼球突出に関して,鑑別の要点を述べる。

外来診療のポイント—私はこうしている 所見からみた疾患

屈折異常,調節異常

著者: 森実秀子

ページ範囲:P.1516 - P.1519

 屈折異常と調節は常に表裏の関係で関わりながら視力を構成している。我々が視力を測定する時は常にその症例の年齢と屈折や調節の関係を考えている。一方、矯正視力を測定し原病の動きや程度を知る尺度にも使っている。いかなる眼疾患を理解するにも視力と屈折検査は出発点となる。

眼瞼腫脹

著者: 竹中康雄

ページ範囲:P.1520 - P.1521

 診断のポイント(1504頁)にしたがって原因を突止めることが大切であるが,とくに眼窩疾患(眼窩蜂巣織炎,眼窩腫瘍など),副鼻腔嚢胞(粘液嚢胞,膿嚢胞)には留意する必要がある。ともに眼球突出を来すことが多く,眼瞼腫脹が高度の場合は眼球突出度に注目する。副鼻腔嚢胞では術後性上顎嚢胞が最も多く,副鼻腔炎の手術既往が診断の一助になる。鑑別が困難な場合にはX線検査,CT検査,MRI検査などを行う。

涙嚢腫脹

著者: 竹中康雄

ページ範囲:P.1522 - P.1523

急性涙嚢炎
 多くは慢性涙嚢炎に引続き起こる。涙嚢及びその周囲の発赤,腫脹,疼痛が著明で診断は困難ではない。結膜嚢の分泌もしくは膿の培養を行うが同時に十分量の抗生物質の全身投与を行う。
 処方 タリビット内服600mg 分3

結膜異常

著者: 川野晃嗣

ページ範囲:P.1524 - P.1527

 結膜異常の症状には,充血,眼脂,異物感,流涙,羞明、掻痒感などがあり,これらに視力低下,眼精疲労,疼痛などをしばしば伴う。一般に結膜単独の疾患の場合は,それほど強い症状はきたさないが,二次的に角膜が傷害されると疼痛を伴うことが多い。
 結膜の充血は,前眼部の炎症の存在を示している。流涙や羞明,異物感は,前眼部の神経刺激症状である。眼脂は,水性の眼脂はウイルス性結膜炎を示唆し,線維素膿性の眼脂はクラミジア性結膜炎を,粘液性,粘液膿性の眼脂は細菌性結膜炎,とくに著しい膿性の眼脂は淋菌感染を示唆し,白い粘稠な眼脂はアレルギー性疾患を示唆する。結膜濾胞形成や乳頭形成は,炎症が比較的強いときや,疾患が慢性化しているときに出てきやすい。眼瞼結膜の石垣状の濾胞形成は,春季カタルに特徴的である。偽膜は,リンパ球,白血球,上皮細胞,細菌,線維素などの集合したものであり,新生児や老人の結膜炎でしばしば出現する。これは,流行性角結膜炎や封入体結膜炎のほか,種々の細菌性結膜炎が原因でおこる。掻痒感はアレルギー性疾患を示唆する。そのほか,耳前リンパ節腫脹は,ウイルス性のほかヘルペス,クラミジア,急性細菌感染などのときに出現する。

角膜異常

著者: 広沢和代

ページ範囲:P.1529 - P.1534

角膜異常の診かたと対策
 細隙燈顕微鏡の出現により角膜異常は非常に細かな点まで"診れる"ようになった。しかし医師の方に"診る目"がないと,つい見落としてしまうのも恐ろしい。1人1人の角膜を上皮から内皮まで,また全周360°"診る"ことは,忙しい日常診療上なかなか難しいことであるが,主病巣のみにとらわれず,定期検査のうち何回かでも角膜をすみずみまで診なおして欲しい。また,前眼部写真を撮るのと遜色ない程に所見のイラストを忠実に行いたい。ヘルペスの樹枝状潰瘍がどう進んだのか,いや後退したのかなどと迷うことなく診察をすすめていきたいものである。一般病院でよくみられる角膜異常を頻度別にあげると,筆頭はコンタクトレンズによる障害であろう。ついでいわゆる種々の表層角膜炎,そして角膜異物,角膜潰瘍とつづく。しかし各種の変性症や円錐角膜も忘れてはならない疾患であろう。ここでは全ての角膜疾患を呈示してはいないので,精密な観察の上,成書を参照していただきたい。

前房異常

著者: 島川真知子

ページ範囲:P.1535 - P.1540

 前房は眼内の異常を知らせる窓口ともいえる部位であり詳細に観察したい。
 その観察,検査手順の要点を表1に示す。微塵,蛋白,浮遊細胞があればぶどう膜炎を疑い,緑内障発作などと鑑別する。これに前房蓄膿を伴っていれば鑑別すべき疾患はかなり限られてくる。混濁が赤いという程度から凝血塊を見るまで前房出血があれば,外傷や手術の既往のない限り虹彩ルベオーシスの存在を示唆する。前房が浅い場合は眼圧から緑内障や脈絡膜剥離などと鑑別する。

虹彩異常

著者: 林清文

ページ範囲:P.1541 - P.1543

 虹彩の異常所見としては,ルベオーシス,萎縮,欠損,瞳孔膜遺残,腫瘤,結節,離断,癒着,異色などがあげられる.原因としては,ぶどう膜炎,外傷,異物,先天性異常,腫瘍(悪性・良性),糖尿病などの全身疾患などがある。先天性異常や,外傷性の変化による虹彩異常の中には、自覚症状に乏しく,かつ進行しないものは,特に処置を要しないが,ぶどう膜炎や,腫瘍,ルベオーシスをきたす疾患,異物,重篤な外傷など,虹彩に異常をきたす多くの疾患は,迅速な処置が必要なため,的確な診断を早期から要求される。
 ここでは,前述した,虹彩異常の各所見ごとに診断に至る検査方法と,各診断への対策について記す。

水晶体異常

著者: 初田高明

ページ範囲:P.1546 - P.1549

水晶体の異常所見で臨床上問題となるのは
 透明度の異常(白内障)

硝子体異常

著者: 柳田和夫

ページ範囲:P.1551 - P.1553

 硝子体は眼球容積の60-66%を占めている透明組織で,容積は約3.9ml,重量は3.9gである。その99%が水であり,約1%が固形成分にすぎない。かかる硝子体は,種々の生理的役割を果すと共に,さまざまな疾患と密接に関連している。
 元来透明である硝子体に見られる混濁の原因として,硝子体そのものに原因がある場合と,その周囲にある組織,つまり,水晶体,毛様体,脈絡膜,網膜の疾患が原因で,続発性に硝子体が混濁する場合がある。

眼底異常

著者: 浅山邦夫

ページ範囲:P.1554 - P.1562

 眼底の検査は充分な散瞳下にて行わねばならない。散瞳にあたっては前房隅角部の深さ,眼圧のチェックを行った上でミドリンP点眼を行う(散瞳が不充分であれば,ネオシネジン点眼を追加)。
 前房のやや浅い例ではネオシネジンのみで散瞳する(いずれも検査のあと1%ピロカルピンを点眼する(急性うっ血性緑内障発作防止))。

視神経乳頭異常

著者: 木村徹

ページ範囲:P.1563 - P.1567

 乳頭の異常所見は,主なもので,境界不鮮明・充血・腫脹・萎縮・陥凹などがあげられる。近年,これらは研究の進歩によって,より定量的に観察されるようになり,例えば陥凹の大きさもCup径とDisc径の比としてC/Dで,さらにCup面積/Disc面積,C/D面として表現され,さらに陥凹の形状や深さなども立体像として,写真やコンピューター画像解析装置で分析されるようになった。と同時に静的視野の計測法の進歩により,視野障害が微細なものから,鋭敏に定量的に測定され,両者が容易に比較できるようになってきたので,乳頭異常のもつ意味が視神経線維障害として,飛躍的によく理解しうるようになってきた。さらに,視神経線維の消耗,欠損,乳頭陥凹拡大が視野変化に先行し,視野異常はある程度の神経線維量が消失して始めて検出されることが判明したことは特筆される。また,実験的研究において,軸索輸送の研究が新生面を開き,乳頭の浮腫や萎縮の病態が正確に把握できるようになった。これらにより,視神経・網膜疾患や緑内障・頭蓋内病変の診断に乳頭の診かたはますます重要となってきた。本稿はこれらの乳頭異常のチェックポイントを概説し,鑑別診断をより的確に行えるように記した。各疾患の病態は,紙面の制限のため一部しか,また,治療法については言及できなかったことをお断わりしておく。

高眼圧

著者: 高瀬正彌

ページ範囲:P.1569 - P.1573

 高眼圧は統計的に21mmHgより高い眼圧を言う。平均眼圧は加齢とともに上昇し,女性では男性より僅かに高いとされてきたが,最近の研究によると年齢との相関より,むしろ肥満度や血圧と相関が強いことが明らかにされた。
 眼圧は房水産生と房水流出抵抗により決定されるが,ある範囲内で変動しており,24時間内における変動を日内変動,日によって異なる変動を日日変動という。また,水飲み,カフェイン,頸静脈圧迫,散瞳剤の点眼,ステロイド点眼などで高眼圧が誘発されている場合もある.

低眼圧

著者: 高瀬正彌

ページ範囲:P.1574 - P.1577

 低眼圧とは,眼圧低下により眼に障害が出現する眼圧を言い,6.5mmHg以下の眼圧をさす。低眼圧の病因は多彩であるが,長期にわたる眼圧低下は以下の4因子の何れかによる。
 1.創漏出

眼球突出・眼球陥凹

著者: 馬場裕行

ページ範囲:P.1578 - P.1579

 前項(1578頁)で述べたフローチャートに従って,外来の時点で,どこまで検査や処置を行うかについて述べる。治療方針の決定と,外来で行える治療の範囲に限定したい。

眼位の異常

著者: 後藤公子

ページ範囲:P.1581 - P.1583

麻痺性斜視
a.原因療法
 麻痺性斜視の治療は,原因の検索とその除去が第一である。原因と考えられる脳腫瘍・動脈瘤は脳外科へ,副鼻腔疾患は耳鼻科へ,高血圧・糖尿病・心疾患は内科へ紹介する。また,眼窩底骨折は耳鼻科・脳外科と,内分泌性ミオパチーは内科・放射線科と,重症筋無力症は神経内科・小児神経科と協力して治療にあたることはいうまでもない。

眼瞼下垂

著者: 後藤公子

ページ範囲:P.1584 - P.1585

眼瞼下垂の治療
術前に考慮すべき点
 眼瞼下垂がある場合 (1)手術が必要か

眼外傷

著者: 金恵媛

ページ範囲:P.1587 - P.1590

 眼外傷は機械的眼外傷と非機械的眼外傷に分類され,前者には穿孔性眼外傷,異物飛入,非穿孔性眼外傷などが含まれる。また,後者には,化学薬品による眼の腐蝕と熱,放射線など物理的エネルギーによる損傷がある。いずれも早急な診断を要することは言うまでもないが,外傷の中でも直ちに処置を要するものから,処置を要さないものまでさまざまであり,緊急性の的確な判断と処置が要求される。ここでは外来での処置および入院加療までの保存的治療について記す。

新生児・乳幼児の異常

著者: 羅錦營

ページ範囲:P.1591 - P.1595

 新生児,乳幼児の眼の異常は視覚系に重大な障害をきたすことが多い。診療を始めるに当たり,まず知っておくべきことは,小児の眼疾患と眼異常の特徴を把握することである。小児の視機能は発達過程にあり,発達を阻害する眼疾患・眼異常の早期発見と早期治療のためには,1.各年齢層の正常と異常の評価法の習得である。2.低年齢層にふさわしい治療技術の整備と視覚障害のハビリテーションへの努力である。
 新生児期から乳幼児前期の発達月表を表1に,一過性眼所見を表2に示した。異常の評価はまず正常範囲内の値を知ることから始めるべきである。こども病院の外来において,0歳から2歳までの疾患統計から,スクリーニングすべき眼疾患は多い順に示すと次のごとくである。斜視,眼瞼疾患,涙器疾患,前眼部異常,視神経網膜異常,眼球振盪,未熟網膜症,先天白内障,眼窩腫瘍,先天緑内障,網膜腫瘍等である。

外来フォローアップの実際

緑内障術後

著者: 田邊吉彦

ページ範囲:P.1608 - P.1611

 緑内障の手術にはいろいろな方法があるので,一口に緑内障術後のフォローと言ってもそれらを皆同一に論ずることは出荘ない。しかし現在一般に行われている手術方法は5種類位であり,それらは,1)laser iridotomy,2)laser trabeculo-plasty(LTP),3)filtering operation(これにも強膜全層切除法と半層切除法がある),4)iridectomy,5) trabeculotomyの五つである。この五つについて考えればおおよその所はカバー出来るのでここではこれらに限定して述べることにする。

眼内レンズ挿入術後

著者: 松元俊

ページ範囲:P.1612 - P.1615

 眼内レンズ移植手術が年々増加し,一部では外来手術すら行われるようになったため,極端な場合は術翌日にでも患者が一般診療所を訪れることもありうる。
 眼内レンズ移植を受けた患者の初診時には以下の点についてチェックする。

網膜光凝固後

著者: 弓田彰

ページ範囲:P.1617 - P.1619

 網膜光凝固の対象となる疾患で日常しばしば遭遇するものには,下記のごとき疾患がある。
 1.糖尿病性網膜症

網膜剥離手術後

著者: 太田陽一

ページ範囲:P.1620 - P.1623

 網膜剥離手術の成功率は年々向上し,各施設における報告をみても90%以上,ほぼ100%に近い成績である。しかしながら網膜剥離は再発の可能性の高い疾患であり,外来でのフォローアップの第一の目的は,再発の防止・再発の早期発見であるが,同時に術後の合併症についても注意を払わなければならない。

角膜移植後

著者: 谷島輝雄

ページ範囲:P.1624 - P.1625

 角膜移植は全層角膜移植と表層角膜移植に分けることができる。比較的頻度の多い全層角膜移植の外来フォーローアップの実際について述べる。

コンタクトレンズ処方後

著者: 下村嘉一

ページ範囲:P.1626 - P.1627

 コンタクトレンズが本邦に普及してから約30年が経過し,眼鏡と共に社会に定着した感がある。眼科外来でも,コンタクトンズ処方後の患者は多く,ここではまず,コンタクトレンズ(CL)を処方した患者を観察する際のチェック項目を挙げ,よく遭遇するコンタクトレンズ処方後の眼合併症について述べる。

角膜感染症

著者: 大橋裕一

ページ範囲:P.1628 - P.1631

 角膜感染症の原因は,細菌をはじめとして,真菌,原虫,ウイルスと多岐にわたっている。しかし,前3者による角膜炎は一般に重篤で臨床経過が早いものが多いため,一部の軽症例を除けば,外来でのフォローアップは望ましくない。ここでは,角膜感染症を診た時の一般診療所における基本方針を,細菌性角膜炎,真菌性角膜炎,アカントアメーバ角膜炎およびウイルス性角膜炎の4つに分けて述べる。

ぶどう膜炎

著者: 島川真知子

ページ範囲:P.1632 - P.1633

 ぶどう膜炎には一過性のものもあるが再発を繰り返したり遷延化したりなかなか難治なものが多く,その外来follow upには注意深い観察を要す。できるだけ,ベーチェット病,原田病などとその病型を確定しそれぞれの治療法を行うが,ここでは原因不明の内因性ぶどう膜炎およびいずれの病型にも共通のチェックポイントと処置などを記す。

硝子体手術後

著者: 柳田和夫

ページ範囲:P.1634 - P.1636

 1971年に,MachemerがVitreous Infusion Suction Cutter (VISC)によるpars plana vitrectomyを発表して以来,硝子体手術装置や周辺機器の発達は目ざましく,また,硝子体手術の技術的進歩にも目をみはるものがある。これらの技術的進歩と数多くの臨床経験を背景に硝子体手術の適応は拡大し,その結果,硝子体が切除された眼球,すなわち,無硝子体眼が増加している。
 無硝子体眼は,有硝子体眼にはない種々の特徴を持っており,術後経過観察,治療に際し注意が必要となる。

集学的治療に必要な他科の知識

糖尿病—いま,内科では

著者: 松岡健平

ページ範囲:P.1639 - P.1641

 糖尿病とは高血糖の持続する状態のことであり,一連のインスリン作用システムが遺伝的体質に加え,さまざまな環境因子により妨害されるために発症する。このようにして生じたインスリンの絶対的,相対的作用不足は糖質のみならず,脂質・蛋白質の代謝にまで悪影響をおよぼし,放置するとケトアシドーシスのような激しい代謝失調をもたらすことがある。また,長期の代謝異常は,糖尿病に特有な糖尿病性網膜症,同腎症,神経障害を起こし,動脈硬化性病変の促進因子となる。
 糖尿病の症状はその経過中の病態より見て,2つに大別することができる。第1は,高血糖より直接もたらされる多尿・口渇・多飲・多食・体重減少であり,もうひとつは,合併症によりもたらされる諸症状である。糖尿病は単一の疾患ではなく,病型,罹病年数,代謝状態とその持続,合併症の種類と程度,治療法,さらに患者の自己管理の態度といった数多くの因子を反映しながら多彩な症状が展開する。これは一見他疾患も同様と考えられるが,糖尿病が長期にわたること,その多様性から背景因子がはるかに複雑な症候群であることなどによる。糖尿病患者の数は今日250万人以上といわれており,網膜症,白内障などを介して,眼科医と密接な関係のある疾患である。

高血圧症—いま,内科では

著者: 伊東康 ,   藤田敏郎

ページ範囲:P.1642 - P.1644

 高血圧診療において眼科的検査,特に眼底検査は高血圧の重症度を知る上で必須のものであり,また視力障害を主訴に眼科を受診し初めて高血圧性眼底すなわち高血圧を見いだされる者も少なくない。そこで本稿では日常診療において高血圧患者を診る場合の要点を1988年に発表された米国合同委員会の高血圧の発見,診断および治療に関する報告を参考にまとめる。さらに,高血圧緊急症の一つであり,眼底所見が診断に重要である悪性高血圧について述べることとする。

脳神経疾患—いま,神経内科では

著者: 水野美邦

ページ範囲:P.1646 - P.1647

 神経内科領域ではこれまで原因不明とされていた変性疾患を中心に分子遺伝学的アプローチによる研究が盛んで成果を挙げてきている。これらの疾患の中には眼症状を主症状の一つにするものもある。また免疫性疾患でも眼症状を主とするものが少なくないが,治療面でかなりの進歩が見られている。本稿ではこれらの点を中心に解説する。

脳神経疾患—いま,脳神経外科では

著者: 高倉公朋

ページ範囲:P.1648 - P.1649

 眼科を受診し,頭蓋内疾患が疑われて脳神経外科へ紹介される患者の主な疾患には,下垂体周辺部の腫瘍や眼窩内腫瘍と内頸動脈動脈瘤のような血管障害がある。いずれの疾患も,MRIなど画像診断の進歩によって,無侵襲的に,しかも確実に診断できるようになった。治療面でも従来の開頭手術を行わずに,経蝶形骨洞下垂体腺腫摘出術のような簡便で安全な治療ができる場合が少なくない。予後の上からみても,著しい進歩がみられるのが現状である。

ベーチェット病—いま,皮膚科では

著者: 石川英一

ページ範囲:P.1650 - P.1651

病態
 ベーチェット病は,病変部に好中球が,選択的に浸潤する,非感染性炎症性疾患で,長期にわたって再発を繰り返す。主として皮膚及び眼を侵すが症例によっては,脳神経系,大血管,消化管に病変を認める。皮膚では好中球とともに,リンパ球浸潤,出血,血管炎を認める事もある。病因についてはなお不明であり,ウイルス説,細菌アレルギー説,組織成分に対する自己免疫説などがある。近年では,膠原病類症とする見方が有力である。

アトピー性皮膚炎—いま,皮膚科では

著者: 石川英一

ページ範囲:P.1652 - P.1654

病態
 アトピー性皮膚炎はアトピー性素因を基盤として発症する慢性湿疹型皮膚炎である。皮膚炎の発症機序として,他のアトピー性疾患同様,重症例では,IgE抗体によるⅠ型アレルギー反応が誘因または悪化因子として重視される。また抗原としては,多くの例でダニ抗原が問題になる。食餌抗原で悪化する例も多くはないが,ある。しかしながら他方,軽症例では角層内水分透過性の亢進,種々の刺激に対する皮膚の過敏反応などが関係して,皮膚内外から侵入する刺激物質に対し,炎症が発生し易くなり(irritable skin),その結果いわゆる一次刺激性(非アレルギー性)慢性皮膚炎を惹起すると考えられる。以上要約して,アトピー性皮膚炎では個々の症例においてその発生機序が必ずしも同一でない点に充分注意する必要がある。

AIDS—いま,内科では

著者: 南谷幹夫

ページ範囲:P.1655 - P.1657

 AIDS(Acquired Immunodeficiency Syn-drome,後天性免疫不全症候群)は,今日世界で最も新しい疾患単位であり,急速に全世界に広がり深刻な様相をみせている。WHOの調査によれば世界の患者数は151,790人(1989.4.末)に達し,我が国でも1989年4月末現在で患者数103人となり,HIV感染者数1,104人を数える。我が国では本年2月17日からエイズ予防法が施行され,以後の集計には凝固因子製剤による感染者は報告されないことになった。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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