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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科43巻13号

1989年12月発行

雑誌目次

連載 眼科図譜・281

早期硝子体手術が奏効した急性網膜壊死の1例

著者: 望月深雪 ,   荻野誠周 ,   有木玄

ページ範囲:P.1894 - P.1895

 緒言 急性網膜壊死は,1971年浦山ら1)によって桐沢型ぶどう膜炎としてはじめて報告された疾患で,1977年,Willersonら2)が同じような臨床所見を呈した例をbilateral acute retinal necrosis (BARN)として報告した。その後多くの症例が追加報告され,両者は結局同一疾患であるという考えが定着し,現在ではacute retinal necrosis (ARN)急性網膜壊死という言葉が一般に受け入れられている。今回,我々は帯状ヘルペスウイルスによる急性網膜壊死を経験し,網膜剥離前に早期に硝子体手術を施行し,良好な経過を得たので報告する。
 症例 27歳,男性。初診は1988年8月14日。主訴は右眼の霧視感。

眼の組織・病理アトラス・38

倒立網膜と正立網膜

著者: 猪俣孟 ,   岩崎雅行

ページ範囲:P.1898 - P.1899

 ヒトやサルの眼球では,角膜,前房,水晶体,硝子体の透光体を経た光は,網膜の内境界膜,神経線維層,神経節細胞層,内網状層,内顆粒層,外網状層,外顆粒層,外境界膜を通過した後に,感覚網膜のもっとも奥深くに存在する光受容細胞に到達して,そこで光として感受される。光は視細胞外節の円盤に存在する視物質を刺激し,受容器電位を発生させる。この電気信号は視細胞の軸索を通り,内顆粒層に核をもつ双極細胞と水平細胞に伝達され,次いで,次のニューロンである神経節細胞やアマクリン細胞に伝えられ,神経節細胞の軸索によって頭蓋内の中枢に伝達される。
 要するに,眼内に入った光は透光体を経て感覚網膜の全層を通過して視細胞に達し,その信号は感覚網膜を逆行して中枢に伝達される。このように,光受容部位が網膜の中で光の通路からもっとも遠い位置にある組織構築を倒立網膜inverted retinaという(図1,2)。倒立網膜では,感覚網膜に存在する種々の細胞が光の通過を妨げることになるので,一見不合理な構造のように思える。

今月の話題

緑内障手術と5-Fluorouracil(5-FU)

著者: 中野豊 ,   白土城照 ,   新家真

ページ範囲:P.1929 - P.1933

 5-FUの併用により緑内障濾過手術(線維柱帯切除術)の手術成績は重篤な合併症なしに飛躍的に向上した。
 合併症についての長期的経過観察が必要であるが,緑内障に対する新しい治療手段として注目される。

眼科手術のテクニック—私はこうしている・12

後嚢破損時の対処

著者: 市岡博

ページ範囲:P.1941 - P.1943

 白内障手術中の後?破損は決してまれなものではなく,日常よく遭遇する併発症のひとつである。しかし後嚢破損が生じた時は適切な処置をしなければ人工レンズの挿入が不可能となるばかりか,さらに重篤な併発症へと発展しかねない。また,後?破損に伴って硝子体脱出をきたすことも多く,その場合さらに処理には慎重を期する必要がある。ここではこの様な併発症に対処する際の留意点を述べてみたい。

眼科薬物療法のポイント—私の処方・12

術後嫌気性菌眼内炎

著者: 坂上富士男

ページ範囲:P.1946 - P.1947

 86歳,女性。左眼の異物感と視力低下を自覚して近医を受診し,眼内炎の診断にて当科を紹介された。左眼は白内障嚢内摘出術後,5年経過している。
 主訴:左眼異物感,視力低下

臨床報告

濾過手術におけるコンタクトレンズの応用—Ⅱ.動物眼と臨床例

著者: 鈴木亮 ,   松田久美子 ,   高木幹男

ページ範囲:P.1905 - P.1909

 濾過手術後の浅前房防御法として,強膜弁で安全性を高める線維柱帯切除術の他に既にいくつかの工夫がなされてきた。そのうちglau—coma shellは高価だしhealonはときに高眼圧をきたす。私共はソフトコンタクトレンズ(SCL)や長期装用コンタクトレンズが浅前房防御に使えるか否か,動物眼で実験したのち,7例の手術を行った。
 有色家兎眼では前房深度に差がないときも眼球圧迫による急激な前房消失はSCL装用眼ではみられなかった。SCLは強膜まで通糸して緊張性に縫合することを原則とした。7例の臨床例では全例に前房が出来た。異物感が意外と少なく,手術に応じてCLを任意の位置で任意の形に縫合できるので,広域に強膜を切除する場合,有効な方法と考えた。

一卵性品胎の1女児にみられた第二色覚異常について

著者: 横田章夫 ,   辛米子 ,   関亮 ,   坪田一男

ページ範囲:P.1911 - P.1915

 女児の品胎うち1児に第二色弱様異常を認めた。この品胎が一卵性である確率は血液型検査,唾液型検査等の結果99.99%であった。
 仮性同色表,Panel D-15テスト,100 hueテスト,アノマロスコープの結果は定型的な先天性第二色弱で,左右差を認めなかった。視力,視野,フリッカー値,眼底検査を含む眼科一般検査では異常はみられなかった。染色体検査は46XXと正常であった。家系調査では,3胎の他の2児,兄,父親,母親に色覚異常はなく,母方の祖父に第二色盲を認めた。検査の結果によりこの女児は先天性第二色弱と考えられたが,いかなる機序により一卵性品胎のうち1人に先天性色覚異常が出現したかは不明である。

糖尿病患者のシルマー検査成績

著者: 星野美佐子 ,   星野照夫

ページ範囲:P.1917 - P.1920

 糖尿病患者における涙腺の自律神経支配の障害の有無を検討するため,糖尿病患者27名,54眼にシルマーテストⅠ法の変法を施行し,涙液の基礎分泌を測定し,同時に検査した自律神経障害のひとつの指標を示すと考えられる心電図CVR-R%と比較検討し,さらにHbA1C,眼底所見,および神経障害の有無を検討した。
 糖尿病患者の基礎分泌は平均8.33mm/5min.であったが,この値は年代の上昇と共に低下傾向を示した。シルマー値とCVR-R%は相関関係が認められ,シルマー値の減少は涙腺の糖尿病性自律神経障害が原因のひとつと考えられた。
 インスリン注射施行者,眼底所見が糖尿病性網膜症Scott Ⅲ以上,あるいは糖尿病性神経障害症状のある患者は,シルマー値もCVR-R%も非常に低い値を示した。シルマー値とHbA1C,またCVR-R%とHbA1Cの間には有意の相関関係は認められなかった。

カラー画像解析システムによる緑内障乳頭解析の試み

著者: 鉄本員章 ,   宮澤裕之 ,   溝上國義 ,   丸山節郎 ,   今道正次

ページ範囲:P.1921 - P.1924

 視神経乳頭の微細な変化の定量化を目的として,コンピューター画像解析による各種アナライザーが開発されている。我々は,撮影された視神経乳頭の特に色調に着目し,それをデジタル表示化する新しいコンピューター・カラー画像解析システムを試作した。それを用いて初期緑内障乳頭写真における色調の変化,相違の定量的解析を試みた。本装置は,intraphotographic study, interphotographic study共に極めて高い再現性が得られ,十分臨床応用できるものと思われる。肉眼的に陥凹に伴う褪色の拡大が判然としないが,オクトパス自動視野計で変化の認められる症例の乳頭写真を本装置で分析すると微細な色調の変化でも極めて鋭敏に数値化でき,視神経乳頭を客観的かつ定量的に評価するうえで有用な装置と考えている。

松果体腫瘍を伴い三側性と思われた網膜芽細胞腫の1例

著者: 大西克尚 ,   熊野祐司 ,   木村一賢 ,   倉員健一

ページ範囲:P.1925 - P.1928

 両側性網膜芽細胞腫に松果体腫瘍を合併した三側性と思われる網膜芽細胞腫を報告した。
 症例は1歳9ヵ月の男児で,両親が患児の左眼が光るのに気づき,その2ヵ月後に近医で両眼の網膜芽細胞腫と診断され,九州大学眼科を紹介されて受診し,即日入院した。左眼は直ちに摘出され,病理組織検査で分化型網膜芽細胞腫であった。右眼に対してはヘマトポルフィリン誘導体を用いた光化学療法が3回行われ治癒した。その後,経過良好であったが,初診から6ヵ月後頃より嘔吐が毎日出現し髄液検査で細胞増多が認められた。CT検査で初診時には認められなかった松果体腫瘍が証明され,その部に対し40Gyの放射線と化学療法が施され一時寛解したが,初診から15ヵ月後に永眠した。
 本例の松果体腫瘍は組織学的検査は行われなかったが,臨床的に三側性網膜芽細胞腫と診断され,CT検査の重要性が再認識された。

後極部後嚢下混濁から進展した後円錐水晶体の1家系

著者: 牧野伸二 ,   中山正 ,   大滝千秋

ページ範囲:P.1949 - P.1953

 後極部後嚢下混濁より初発し,後円錐水晶体へ進展した兄弟2例3眼を報告した。兄弟と母親がアトピー素因を有していた。アトピー性後嚢下混濁により脆弱となった後嚢が,調節の結果として,後方に突出し,後円錐水晶体を形成したものと考えた。治療としては,経毛様体扁平部水晶体摘出術(pars plana lensectomy, PPL)の2ポート法が術中合併症への対応の容易さからみて最適であると考えた。

両眼に中心性漿液性脈絡膜症を発症した傍中心型網膜色素変性症の1例

著者: 山口克宏 ,   金原洋子 ,   玉井信

ページ範囲:P.1954 - P.1956

 両眼に中心性漿液性脈絡膜症を発症した傍中心型網膜色素変性症の症例を経験した。症例は35歳の男性で,両眼底に傍中心型網膜色素変性症に特徴的な黄斑部を輪状に取り囲む網膜色素変性巣に加えて,黄斑部の漿液性網膜剥離が認められた。黄斑部の病変は螢光眼底撮影所見より中心性漿液性脈絡膜症と診断さた。これまで傍中心型網膜色素変性症の眼合併症に関する報告はなく,きわめて稀な症例と考えられた。

Thyroid Ophthalmopathyの瞼裂開大に対するβ-遮断剤点眼の効果

著者: 太根節直 ,   岡野仁

ページ範囲:P.1957 - P.1960

 バセドー病(Basedow's disease)などの甲状腺機能亢進症における眼症状のひとつに上眼瞼後退による瞼裂の開大がある。この眼瞼後退はDalrymple's signならびに,Graefe's signの原因と考えられている。グアネチジン(guanethi-dine)のような交感神経遮断剤の点眼投与によって病勢の軽快することが知られているが,現在我国ではこの薬剤は入手困難である。そこで我々は今回本症を呈した患者12症例に,β遮断剤(チモロール,ベフノロール,カルテオロール)の点眼を行ったところ,この上眼瞼後退が3例において軽減した。
 その奏効機序として,本症患者における眼瞼後退は,上下の瞼板筋(ミューラー筋(Müller'smuscle))の過剰な緊張によるものと考えられ(Rundleら),β遮断剤はその交感神経遮断作用により,交感神経性に支配される瞼板筋の痙攣が軽減するため,瞼裂開大が軽快したものと考えられた。

カラー臨床報告

ベーチェット病にみられた再発性結膜炎の1症例

著者: 吉田弘俊 ,   本倉真代 ,   細谷比左志 ,   真野富也 ,   大橋裕一 ,   川津友子

ページ範囲:P.1901 - P.1904

 ベーチェット病の発作に同期して発生する結膜炎の1例を報告した。症例は66歳女性で,以前よりアフタ性口内炎,全身の結節性紅斑などを主症状とする一連のベーチェット病の発作時に,両眼の充血と眼脂を主徴とする結膜炎を繰り返し起こしていた。発作時には,両眼の上眼瞼結膜に高度の充血と巨大乳頭様所見が認められ,結膜塗抹標本において多数の好中球が認められた。上記の結膜炎はステロイドの点眼により次第に改善した。この再発性の結膜炎がベーチェット病と強い関連を持って生じていることが推測された。

海外文献情報

硝子体網膜手術後の眼内シリコンの早期抜去成績

著者: 原田敬志

ページ範囲:P.1915 - P.1915

 Hautは,1984年にすでに1,000例のシリコンタンポナーデを施行し,モノグラフとして発表している。今回は「硝子体網膜手術後の眼内シリコンの早期抜去成績」と題し,術後成績と合併症について述べた。症例は,PVRを伴う特発性網膜剥離23眼で,術中クライオ,術後レーザー凝固が施行されている。シリコンは,61%で最初から使用され,全例10週以内に抜去された。有水晶体眼でシリコンが前房になければ,扁平部から除去する。前房に1個の水泡として認められるときは,むしろ硝子体側から取り出したのち,前房の分を取り出す。懸濁液の場合は輪部から除去する。無水晶体眼でも同様である。術直後1例に駆逐性出血が起こった。20眼では1ヵ月間全く剥離(−)であった。3眼のうち1眼はシリコン除去後白内障を手術したところ剥離が再発した。クライオあるいはレーザーで光凝固を完壁に行うことが重要ではあるが,シリコンの三大合併症(白内障,高眼圧,角膜浮腫)により困難となることもある。

論文論

模倣/日本語

著者:

ページ範囲:P.1940 - P.1940

 論文をこれから書こうという場合に,ベテランは別として,まず参考になるのが他人の書いた論文のスタイルです。
 もし手本にするのなら,できるだけ名論文を参考に使うというのが理想ですが,玉石混淆のこの世の中で,どれが玉でどれが石だかは簡単には分りません。結果としては,雑誌の最近号あたりを見てスタイルを習うという場合が多いようです。

薬の臨床

ステロイド点眼の早期切り換えのためのpranoprofen点眼液の有用性

著者: 大橋孝治 ,   小松章 ,   大嶺信明 ,   高橋信久

ページ範囲:P.1961 - P.1965

 ステロイド点眼は副作用が多く,使用量を最小限にとどめたい。ぶどう膜炎を対象としてステロイド点眼を早期に中止し,プロスタグランディン産生抑制作用のある抗炎症剤pranoprofen点眼液に切り換えて経過を観察し,その有用性を調べた。全18症例中,極めて有用が2例,有用が14例,やや有用は1例,有用と思わないが1例,好ましくないは0であった。有用以上は16例で89%の有用率であった。
 この事実よりpranoprofen点眼液を用いることにより,ステロイド点眼の早期中止が可能であることを確認した。ただ副作用と疑われるごく軽度の片眼性眼瞼炎が1例に見られたが,容易に治癒した。

総説 第42回日本臨床眼科学会シンポジウムから

硝子体腔内注入物質

著者: 根木昭

ページ範囲:P.1967 - P.1972

はじめに
 硝子体手術の普及により従来難治とされてきた増殖性硝子体網膜症(PVR)や増殖性糖尿病性網膜症,眼内炎等に対し積極的な外科的治療が加えられるようになったが,本シンポジウムでは硝子体操作について特に硝子体腔内注入物質という観点から多角的検討がなされた。Introductionとして座長の本田孔士教授(京都大学)から硝子体置換の意義について問題提起がなされたのに続いて招待演者のG.A.Peyman教授(ルイジアナ州立大学)がintravitreal drug therapyについて,根木 昭(天理よろづ相談所病院)が気体置換の問題整理,安藤文隆氏(国立名古屋病院)が液状体置換の問題整理について総説し,各演題について田野保雄氏(国立大阪病院),坪井俊児氏(大阪大学),谷内 修氏(慈恵医大)から実際的な各論についての討議がなされた。以下6氏による討論を基に浮き彫りにされた硝子体腔内注入物質の問題点について私見を交えて総括してみたい。

Group discussion

視野

著者: 北原健二

ページ範囲:P.1973 - P.1976

 今回は,一般口演14題が発表され,各演題に対して活発な討論が行われました。討論内容のみで指定の原稿枚数に達したため,詳しい口演内容については抄録集を参照して頂ければ幸いです。

文庫の窓から

眼科学—保利眞直 纂著(その2)

著者: 中泉行信 ,   中泉行史 ,   斉藤仁男

ページ範囲:P.1978 - P.1979

 その「小眼科学」,「中眼科学」とは如何なる飜訳書であったのか,次にその概略を示そう。
 「小眼科学」  独逸国伯林大学教授 Paul Silex原著  日本陸軍三等軍医正医学博士 保利眞直訳補  全1冊 307貢 挿図61  明治32年12月1日 南江堂他発行

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臨床眼科 第43巻 総目次

ページ範囲:P. - P.

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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