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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科43巻2号

1989年02月発行

雑誌目次

特集 第42回日本臨床眼科学会講演集(1)1988年9月 東京 学会原著

骨髄移植後の眼合併症とその治療

著者: 田邊詔子 ,   田渕保夫 ,   渡部幸浩 ,   平野潤三 ,   村上真理子

ページ範囲:P.113 - P.116

 同種骨髄移植後におこる慢性移植片対宿主病として重症の眼症状を呈した6症例の経過とその治療を述べた。症状は涙液分泌減少によるもので,難治の点状表層角膜炎とそれに続発する角膜糜爛,角膜潰瘍である。
 長期間眼科で治療を要した6例のうち,1例は角膜穿孔をおこして失明したが,他の5例は治療を続けながら視力を保つことができた。
 治療は,生食水,代用涙液,抗生剤,ステロイド剤,ビタミンA油剤などの点眼,ゼラチンロッドによる涙点閉鎖,フィブロネクチン点眼,ステロイド涙腺注射,結膜被覆,水泳眼鏡装用などを症状に応じて行った。

帯状庖疹ウイルス感染の疑われた急性虹彩毛様体炎の3症例

著者: 根本正 ,   沖坂重邦 ,   矢島保道 ,   高橋明宏 ,   武谷ピニロピ ,   土屋櫻

ページ範囲:P.117 - P.119

 高眼圧と虹彩萎縮を伴う急性虹彩毛様体炎の3症例を経験した。顔面の皮疹は認められなかったが,その特徴的な臨床経過より帯状庖疹ウイルスの感染が疑われた。

細菌(真菌)性眼内炎の動向—発症動機と起炎菌

著者: 秦野寛 ,   井上克洋 ,   的場博子 ,   栗田正幸

ページ範囲:P.121 - P.124

 過去20年間の細菌(真菌)性眼内炎77症例について,発症動機と起炎菌の動向を調べた。
 症例の内訳は外傷性(32例),手術性(26),転移性(19)で,各々の年次推移は減少,不変,増加の傾向であった。47例で前房水か硝子体の培養がなされ,27例から起炎菌が分離された。前房水,硝子体からの培養陽性率は各々26.3%,61.3%であった。起炎菌の全体はグラム陽性菌(17),グラム陰性菌(12),真菌(2)で,Coagulase Negative staph (6),E.coli (5),Klebsiella pneumoniae (3),Staph.aureus, Strept. faecalis, Ps. aeruginosa, Candida (2),その他の順で多かった。発症動機別では外因性(外傷・手術)はCoagulase negative staph (6)を筆頭としてグラム陽性菌が優位,内因性は E. coli (4), Klebsiella pneumoniae (3),Candida (2)などでグラム陰性菌が優位であった。
 今後,漸増する内因性のグラム陰性杆菌および真菌性眼内炎の動向に注意を要する。

一卵性双生児の原田病例

著者: 伊藤忍 ,   杉原いつ子 ,   向野利彦 ,   栗本晋二

ページ範囲:P.125 - P.128

 一卵性双生児の原田病例を経験した。これは世界初の症例と思われる。症例1は32歳女性で,典型的な原田病の臨床像を示した。7年後,妹である39歳女性,症例2が発病した。症例2は遷延型となったが,これは治療方法の差によるものと思われた。いずれも乳頭浮腫型であった。両者に発病したことから,原田病の発症にはHLA等の遺伝学的素因が大きく関与していることが示唆された。両者のHLAは,A2,A26,B51,B7,CW7,DR1,DR4であった。

原田病の遷延例に関する統計的観察

著者: 田内芳仁 ,   三村康男 ,   藤田善史 ,   水井研治 ,   松田聡 ,   湯浅武之助

ページ範囲:P.129 - P.132

 1968年から1987年に原田病と診断し,治療を開始した86症例を,初発病変部位から,後極部剥離型,乳頭周囲浮腫型,前眼部病変型の各病型に分け,それぞれ遷延例を治癒例と比較検討した。遷延例は全症例の36.0%で,後極部剥離型に比べ乳頭周囲浮腫型で有意に多く認められた。患者は20,30歳代に最も多かったが,20歳代は遷延例が16.7%と低値であった。眼外症状は各病型とも遷延例の方が高頻度で,特に白髪,脱毛,皮膚白斑は有意に遷延例に多く認められた。夕焼け状眼底は,後極部剥離型,乳頭周囲浮腫型の遷延例の約90%,治癒例の約70%に出現し,全体で遷延例のほうが治癒例よりも有意に高頻度に出現した。ステロイド療法に関しては,後極部剥離型の遷延例12例中9例が10日以前に治療を開始し,600mg未満でも以上でも,遷延化率は余り変わらなかったことから,ステロイド大量療法については,病変の程度により再検討する必要があると思われる。

Behçet病におけるInterleukin−2レセプター陽性細胞(IL−2R)の解析

著者: 小暮美津子 ,   高橋義徳 ,   若月福美 ,   福田尚子 ,   川本麻也 ,   横松由季

ページ範囲:P.133 - P.137

 二重螢光染色の手技を用いて,Behçet病患者105例の末梢血活性化Tリンパ球の種類およびTリンパ球の機能亜群を分析した。
 対照にくらべてBehçet病では,活性化されたT細胞およびB細胞がともに有意に増加していた。活性化T細胞の中では,対照にくらべて活性化Leu2a細胞(細胞障害性/サプレッサーT)に有意の増加がみられた。
 サプレッサーT細胞は眼発作開始直後に増加し,発作中は高値を維持し,眼発作直前にくらべ有意の差を認めた。
 ヘルパーT細胞は眼発作直前から発作開始時にかけて高い傾向がみられた。
 シクロスポリン内服例のサプレッサーT細胞は,非内服例にくらべて高値であった。

単純ヘルペスウイルス結膜炎の臨床像

著者: 青木功喜 ,   沢田春美

ページ範囲:P.139 - P.142

 単純ヘルペスウイルス(HSV)を結膜から分離できた66例において,その臨床所見をアデノウイルス(Ad)あるいはクラミジアトラコマティス(C.tr)が結膜から同じように分離培養できた78例,68例と比較検討して,次の結果を得た。
 1.HSV眼感染の64/65(98.5%)が片眼性であり,再発は30歳以上に12/14(85.7%)と多い。
 2.眼感染におけるHSVは全て1型であった。初感染と再発の比は8例:14例であり,再発の2例ではいずれも初感染と再発の際に分離した株の遺伝子型は同一であった。
 3.HSV特有の眼瞼,角膜病変を示さぬHSV結膜炎は10/22(45%)に認められ,clinical EKC中の頻度は3.6%であった。

Optic disc pitによる黄斑部網膜剥離と硝子体の役割

著者: 村上喜三雄 ,   門正則 ,   L. Trempe

ページ範囲:P.143 - P.146

 Optic disc pitによる黄斑部網膜剥離(MRD)の発症に硝子体が関与するか臨床的に検討した。対象はoptic disc pitの患者13例14眼で,このうち10眼に典型的なMRDを認めた。細隙灯と前置レンズによる動態硝子体観察法により次の結果を得た。
 1) MRDのある5眼にpitの縁に付着し濃縮したplicated membraneをもつ異常なCloquet管を認めた。
 2) MRDのある1眼にpitに牽引のある漏斗状のPVDを認めた。
 3)残りのMRDのある4眼とMRDのない4眼には硝子体の経年性の融解以外,異常な所見はみられなかった。
 以上から,先天性の硝子体とpitの癒着を介し硝子体牽引がMRD発症に関与すると思われる。

液体フルオロカーボンによる術中網膜復位

著者: 坪井俊児 ,   檀上真次

ページ範囲:P.147 - P.150

 液体フルオロカーボンの一種,perfluoro-tributylamine (FC−43,C12F27N)を重症網膜剥離にたいする硝子体手術のさいの網膜固定を目的として11例12眼に使用した。周辺部裂孔性網膜剥離では,FC−43を注入することにより網膜は後極部より押し拡げられるように復位してゆき,網膜下液は周辺部の既存裂孔より自然に排液された。下方が浅く剥離した無裂孔性網膜剥離では FC−43を注入した状態でバックル上に眼内光疑固を加えて復位せしめた。またFC−43を注入した状態で,黄斑円孔性網膜剥離における黄斑円孔の眼内光疑固による閉鎖が可能であった。FC−43は12眼中10眼では術中に,2眼では術後1〜2週間で除去した。硝子体手術の補助手段としてFC−43の有用性を確認できた。

Terson症候群の4例

著者: 太田眞理子 ,   藤原英理子 ,   河野剛也 ,   三木徳彦 ,   鈴木俊久 ,   得能永夫 ,   宮川秀樹

ページ範囲:P.151 - P.154

 くも膜下出血患者24例中にTerson症候群の4例(16.7%)を経験した。これは諸家の報告(1.4〜5.1%)と比較して有意に高率であった。3例は破裂脳動脈瘤に,1例は頭部外傷によるくも膜下出血を伴った急性硬膜下血腫への合併であった。破裂脳動脈瘤に合併したTerson症候群は脳神経外科学的重症例に多く,発生機序における頭蓋内圧亢進の関与が示唆された。
 硝子体出血は約3ヵ月後にはロート状後部硝子体剥離をきたし,硝子体手術の予後は比較的良好であった。両眼視力障害例では硝子体手術による視力回復と共に,精神症状の改善とリハビリによる機能回復が促進された。この様な症例には出血の自然吸収を待たずに後部硝子体剥離が生じた以降で,より早期の手術が必要と考える。

硝子体注入された気体の問題点—3.硝子体置換された気体と再剥離

著者: 古川真理子 ,   高木均 ,   山本文昭 ,   上野聡樹

ページ範囲:P.155 - P.158

 難治性網膜剥離に対する硝子体手術において,初回に気体(空気あるいは空気とSF6の混合気体)による硝子体置換を併用した130例130眼について,その復位率を中心に再剥離に影響を及ぼす因子について検討を行った。再剥離症例に対して以後同様操作を繰り返し行った場合,最終的には最高3回の手術にて症例の73.1%が復位した。非復位症例では,気体存在中に再剥離を来した症例が,空気金置換の場合では62.5%,SF6と空気混合気体による置換では70%も存在し,空気単独より眼内存在期間の長いSF6を混入しても,再剥離率は低下しなかった。黄斑円孔29眼では93.1%が復位した。術前の剥離範囲の検討では,全剥離症例では66.7%,2象限にとどまる剥離例では94.7%が復位した。気体全置換は,黄斑円孔や術前の剥離範囲が比較的狭い症例においては,良好な成績が得られる。

白内障発症の危険因子

著者: 矢田浩二 ,   藤原隆明 ,   山本晃 ,   伊藤健二 ,   津山弥生

ページ範囲:P.159 - P.163

 人間ドック受診者2,243名(男性1,543名,女性700名)を対象に,白内障発生の危険因子について疫学的検討を年代別に行った。白内障の診断は,散瞳した水晶体の細隙灯観察とCAT-ARACT CAMERAを用いた徹照像撮影により徹照像から判定した。
 糖尿病者(50歳代)の白内障有病率は正常者に比べ有意に高かった(P<0.01)。また糖尿病者では放射状陰影(50歳代),小胞状陰影(40歳代)が正常者に比べ有意に高率に認められた(P<0.05)。
 男性の貧血者(50歳代,60歳代)の白内障有病率は正常者に比べ有意に高かった(P<0.05)。女性は男性に比べ,肥満者は正常者に比べ,また分娩回数の多い者は少ない者に比べ,白内障有病率が高い傾向にあったが有意差はなかった。
 Na,K,Cl,GOT,GPT,TP,A/G,PSP, Creatinine等の血液生化学因子や,喫煙習慣,職業(第1第2次産業と第3次産業)等の因子では,いずれも白内障との相関は認められなかった。

Exfoliation syndromeの発生頻度

著者: 布田龍佑 ,   清水勉 ,   小島祐二郎 ,   古賀市郎 ,   古吉直彦 ,   佐藤真由美

ページ範囲:P.164 - P.168

 exfoliation syndromeの正確な頻度を知る目的で,住民検診および眼科外来での調査を行った。住民検診での頻度は,40歳以上の916名中30名3.3%であり,60歳以上では5.7%,70歳以上では9.1%であった。眼科外来での頻度は,40歳以上の3,697名中158名4.3%であり,60歳以上では7.2%,70歳以上では10.9%であった。この2調査では,いずれもその頻度は年齢とともに増加していた。
 眼科外来で発見されたexfoliation syndrome158名中,77名(48.7%)に緑内障が認められたが,その頻度は年齢とともに増加していなかった。開放隅角緑内障に占めるexfoliation syndromeを伴う緑内障(水晶体嚢緑内障)の割合は54.6%であり,とくに70歳をすぎると高率であることから,高齢者の開放隅角緑内障は,まず水晶体嚢緑内障を考慮する必要がある。

ヒト水晶体におけるsuperoxide dismutase活性の局在について—白内障水晶体と透明水晶体との比較検討

著者: 関根康生 ,   本村幸子 ,   原田勝二 ,   小湊慶彦

ページ範囲:P.169 - P.171

 ヒト水晶体における superoxide dis-mutase (SOD)活性の局在を摘出水晶体について検討した。
・白内障水晶体20例,透明水晶体11例の両方において,周辺部のほうが,中心部よりSOD活性が高かった。これは赤道部のほうが,中心部より細胞の活動性が高いためと思われた。中心部の周辺部に対するSOD活性の比率は,透明水晶体と白内障水晶体ではほぼ同程度であった。水晶体の中心部,周辺部の双方において透明水晶体のほうが白内障水晶体よりもSOD活性が高かった。
・白内障水晶体においては,活性酸素に対する防御機構が透明水晶体より低い水準にあることがわかった。

後房レンズ挿入眼の前房深度と眼内レンズhapticsの角度との関係

著者: 吉田紳一郎 ,   波紫秀厚 ,   筑田真 ,   小原喜隆

ページ範囲:P.173 - P.176

 後房レンズのhapticsの角度による術後の前房および後房の深度と屈折度への影響を検討した。対象は,移植された後房レンズが偏位せず,正しく嚢内固定されている角度付きおよび角度なしレンズ挿入眼の各々30例である。
 1)前房深度は,角度付きおよび角度なしレンズともに,経日的に浅くなったが,その変化は,角度付きレンズに強かった。
 2)後房深度は,角度付きレンズで経日的に浅くなったのに対し,角度なしレンズでは,術直後の深度を保った。
 3)術後屈折変化は,術後1週の屈折度を基準とした場合,角度付きレンズで0.39D近視化し,角度なしレンズで0.22D遠視化した。
 4)角膜曲率半径は,術後3カ月で角度付きおよび角度なしレンズともに術前値に近づき,両群に差異を認めなかった。

各種眼内レンズ術後炎症の定量的比較検討

著者: 大鹿哲郎 ,   増田寛次郎

ページ範囲:P.177 - P.180

 Hydrogelレンズ(HEMA),no-hole・直径7mmのレンズ(PMMAI),4—holes・直径6mmのレンズ(PMMA2)の3種類の眼内レンズ挿入術各30例につき,術後経過の臨床的検討を行った。
 視力,フィブリン発生率,嚢胞状黄斑浮腫(CME)発生率には各レンズ間に統計的有意差を認めず,3群とも臨床的には良好に経過した。フレアー・セルメーターによる術後炎症の定量的測定では,術後早期にHEMAとPMMA1で炎症が強かったが,手術操作そのものが原因であると考えられた。術後2週間でHEMA, PMMA1にフレアー値の再上昇があり,PMMA2との間に有意差を認めた。この結果はフィブリン,CME発症の有無レンズの固定状態に関係なく,HEMA, PMMA1における術後2週間でのフレアー値再上昇には,眼内レンズの要因が関与していると考えられた。
 フレアー・セルメーターは術後炎症の定量的かつ鋭敏な評価法として有用であった。

インドメタシン点眼の術後前房蛋白濃度と細胞数への影響

著者: 釣巻穣 ,   澤充 ,   清水昊幸

ページ範囲:P.183 - P.186

 インドメタシン点眼が術後前房蛋白濃度と細胞数,後期フィブリン発現率に及ぼす影響を検討した。対象は老人性白内障で計画的嚢外法により後房眼内レンズを挿入,術後インドメタシンを点眼した30例30眼(点眼群)で,術後非点眼の49例49眼(対象群)と比較した。インドメタシンは術翌日から7日間まで0.5%油性点眼液を1日3回点眼し,フレアセルメーターで前房蛋白濃度と細胞数を測定した。点眼群の前房蛋白濃度は術翌日中央値610mg/dl (ウシアルブミン換算,以下同様)と高値であったが2日目以降急速に低下した。3日目以降は全例290mg/dl以下となり,術後2日目以降対照群と有意の差を認めた(P<0.01)。細胞数も術後順調に低下したが両群間に前房蛋白濃度ほど明確な差はなかった。後期フィブリンは全く認めず,対照群の発現率31%と有意の差を認めた(P<0.01)。以上よりインドメタシン点眼は術後早期から良好な血液房水柵修復をもたらしたフィブリン発現を抑制すると考えた。

学術展示

栃木県におけるスギ結膜花粉症とスギ花粉飛散状況

著者: 須田雄三 ,   石崎道治

ページ範囲:P.188 - P.189

 目的 スギ結膜花粉症は,スギ花粉を回避する事1)で,発症を予防できる。このため,スギ花粉の飛散を予想する2)ことは重要である。そこで1983年より1988年までの6年間,栃木県下にてスギ花粉捕集及び患者調査を行い,花粉飛散状況,患者来院状況,年間花粉飛散推移等について検討を加えた。また,今回は1989年花粉飛散量についても推定した。
 調査地域 栃木県下5ヵ所にて,花粉捕集を行った。患者来院調査は,小山市を除く4ヵ所で施行。

小瞳孔白内障手術に対する後房レンズ移植

著者: 篠原美紀子 ,   吉田秀彦 ,   陳嘉涵 ,   洪碩諶 ,   大草義彰 ,   坂田道子 ,   千原小夜子 ,   李薫 ,   田中秀子

ページ範囲:P.190 - P.191

 緒言 今日,後房レンズは白内障手術後の視力矯正の主流となっている。後房レンズを移植するためには,手術時に十分な散瞳が必要である。しかし,緑内障や併発白内障の症例では十分な散瞳の得られない場合も少なくない。この様な小瞳孔の例に対し2種類の手術方法で後房レンズ移植を行い,各々の方法の利点,欠点につき検討した。
 対象・原因 対象は大阪赤十字病院眼科において1987年7月から1988年8月まで14ヵ月間に行った後房レンズ移植323眼のうち,術前の最大散瞳径が5mm以下であった13例17眼である。その原因別のうちわけは,閉塞隅角緑内障6例,開放隅角緑内障3例,偽落屑症候群2例,ぶどう膜炎後の虹彩後癒着1例,原因不明の虹彩後癒着1例,人工的無水晶体眼1例である。17眼中11眼に虹彩後癒着が認められた。

結膜原発の上皮内癌の1例

著者: 上畑晃司 ,   松下琢雄 ,   三井敏子 ,   田中勲

ページ範囲:P.192 - P.193

 緒言 結膜に発生する悪性腫瘍は稀であるが,発見されやすいため,比較的早期に摘出される傾向にある。今回我々は約5年の経過を経て,前眼部を大きく被うまで放置されていた結膜原発の悪性腫瘍を経験したので報告する。
 症例 68歳,男性。

乳頭切除および冷凍凝固が奏効した春季カタルにみられた角膜潰瘍の1例

著者: 長津弘 ,   南洋一 ,   皆良田研介

ページ範囲:P.194 - P.195

 緒言 春季カタルに対する外科的療法は,その効果が一般に一時的なものとみられている1)。今回,我々は難治性の角膜潰瘍がみられ,著しい視力低下をきたした春季カタルの男子に対し,乳頭切除および冷凍凝固を施行した結果,速やかな角膜潰瘍の消失と視力の改善を得ることができたので報告する。
 症例 15歳男子

Terrien's marginal degenerationの4症例

著者: 永木憲雄 ,   秦野寛

ページ範囲:P.196 - P.197

 緒言 Terrien's marginal degenerationは,角膜の菲薄化を主徴とする慢性進行性の変性疾患である。特徴的所見には,主として上方に初発する角膜周辺部の菲薄化の他,実質混濁,血管進入,病変部辺縁の脂質沈着,偽翼状片,進行性の乱視があり,上皮欠損は認めない1)。Terrien's marginal degenerationは,最近,本邦でも報告が相次いでいるが,現在まで十数例を数えるのみである2)。今回我々は,Terrien's mar-ginal degenerationと思われる4症例を経験したので報告する。
 以下に示す4症例は全て,両眼角膜菲薄化,実質混濁,血管進入を認め,上皮欠損はなく,全身的異常も認められなかった。以下症例別にその他の所見について述べる。

Birth injuryとposterior corneal vesicleの鑑別診断

著者: 岡本仁史 ,   大路正人 ,   松田司 ,   木下茂

ページ範囲:P.198 - P.199

 緒言 軽度のbirth injuryによると考えられる角膜障害の症例の中には,posterior corneal vesicle(PCV)類似の細隙灯顕微鏡所見を呈するものがあり,しばしば鑑別が困難なことがある(図1,2)。PCVはposterior polymorphus distrophy (PPMD)様の内皮所見を呈するが,片眼性で家族歴が無い点が,PPMDと異なる1)。今回,とくにスリット所見では birth injuryまたはPCVとの診断が困難であった症例について,スペキュラーマイクロスコープ検査による確定診断が可能であるかを検討してみた。
 対象および方法 PPMD様のバンド状の細隙灯顕微鏡所見を呈する症例のうち,片眼性で家族歴が無い14例を対象とした。これをさらに鉗子分娩であった6例と,自然分娩であった8例との2群に分けた。それぞれの群について,細隙灯顕微鏡所見,患者の性,患眼の左右,初診時年齢,バンドの方向,乱視度数,矯正視力,さらにスペキュラーマイクロスコープ検査による検討を加えた。

両眼性角膜ヘルペスの臨床像

著者: 高村悦子 ,   高野博子 ,   中川ひとみ ,   内田幸男

ページ範囲:P.200 - P.201

 緒言 両眼性角膜ヘルペスはまれであり,角膜ヘルペス症例の約3%と報告されているが1),発症機序や臨床像について不明の点が多い。また,両眼同時発症例(以下,同時発症)と時を隔てて発症する例(以下,異時発症)の相違点についての検討はされていない。そこで今回,両眼に樹枝状角膜炎を認めた角膜ヘルペスの臨床的特徴,特に同時発症について検討したので報告する。
 対象および方法 1980年1月から7年間に当院角膜外来を受診した角膜ヘルペス260例中,両眼に樹枝状角膜炎の発症を観察した17例34眼(6.5%)を対象とし,年齢,性別,既往歴,合併症,角結膜所見の特徴などにつき検討した。男性8例,女性9例。年齢は6-81歳(平均39.2歳)。同時発症が11例(64.7%),異時発症が6例(35.3%)であった。

角膜ヘルペス治療上における難治症例の検討

著者: 新田敬子 ,   塩田洋 ,   内藤毅 ,   猪本康代 ,   楠島康平 ,   三村康男

ページ範囲:P.202 - P.203

 目的 角膜ヘルペスは角膜疾患において重要な位置を占め,時として治療困難なことがあり,失明原因として増加の傾向にある。そのため今回我々は,角膜ヘルペスの難治症例について,難治に至らしめた原因などについて検討してみた。
 方法 対象は1975年から1987年までの13年間に,当科で角膜ヘルペスと診断され治療を受けた患者で,充分経過観察のできた患者192名を対象とした。なお角膜ヘルペスの診断は臨床所見と螢光抗体法を併用し,前者を主とし,後者を補助とした。難治症例の基準は,(Ⅰ)前医で治療困難となり当科に紹介された症例,(Ⅱa)角膜ヘルペスの基本型1)で2週間以内に潰瘍が消失しなかった症例,(Ⅱb)実質型角膜炎1)で,2カ月以上臨床症状が存在した症例,(ⅡC)栄養障害性潰瘍を生じた症例,(Ⅱd)角膜移植を要した症例,とした。以上の様に難治症例を分類し,考えられる難治に至らしめた原因を調べた。

糖尿病における角膜内皮障害

著者: 藤沢久美子 ,   伊賀俊行 ,   片上千加子 ,   井上正則 ,   山本節

ページ範囲:P.204 - P.205

 緒言 糖尿病患者では,白内障手術や硝子体手術後に容易に角膜浮腫を来すことが経験され,その原因として角膜内皮細胞の障害が重視されている。スペキュラーマイクロスコープによる角膜内皮の観察により糖尿病患者では内皮細胞の形態的変化が生じることが指摘されているが,年齢,糖尿病年数,コントロール状態などの因子との関係については意見の一致をみていない。今回われわれは,糖尿病患者の角膜内皮障害と諸因子との関係について検討したので報告する。
 対象および方法 対象は8歳から61歳の糖尿病患者62人62眼と年齢をマッチングさせた正常対象者17人34眼である。各々の内訳は次の通りである。

原因不明の周辺部角膜浸潤に対する抗生物質およびステロイドによる治療効果について

著者: 宮本裕子 ,   安本京子 ,   西田輝夫 ,   大鳥利文

ページ範囲:P.206 - P.207

 緒言 周辺部角膜浸潤は,角膜周辺部に発生する実質への細胞浸潤で,角膜上皮欠損を伴いその原因は不明である。黄色ブドウ球菌の感染および細菌由来の抗原に対する免疫反応などが病態として考えられてきた1)。今回我々は,周辺部角膜浸潤の臨床所見の特徴と,抗生物質,抗菌剤およびステロイドによる治療効果について検討したので報告する。
 対象 近畿大学医学部附属病院眼科を受診し,周辺部角膜浸潤と診断された14例を対象とした。年齢は平均49.8歳(22〜74歳)で,男性4例,女性10例であった(表)。抗生物質あるいは抗菌剤の点眼や内服,およびステロイドの点眼のみで治療したA群(5例)と,そのA群の治療に,抗生物質とステロイドの結膜下注射を加えて治療したB群(9例)に分類した。

斑状角膜変性症の角膜移植例について

著者: 佐渡一成 ,   田中稔 ,   稲垣有司 ,   黒川真理 ,   太田俊彦 ,   中川正昭 ,   沖坂重邦

ページ範囲:P.208 - P.209

 緒言 斑状角膜変性症は,我が国では非常に稀な疾患である。今回著者らは,本疾患に対し全層角膜移植術を施行し,良好な結果を得,手術時に得られた角膜片を病理組織学的に検索したので,若干の文献的考察を加え報告する。
 症例 症例は38歳の女性で,主訴は両眼の視力低下,既往歴は9歳のときトラコーマ,他に特記すべきことはない。現病歴は1971年頃検診時に角膜疾患を指摘されるも放置。1979年(30歳)頃まで,裸眼視力は右1.0,左1.2であった。1984年6月19日,当科受診。初診時視力は,右0.1(0.4×PH),左0.4(0.7×+1.0×PH)。前眼部は両眼角膜で上皮では混濁部位に一致した隆起,上皮下にやや濃い混濁,実質全体にびまん性の混濁とややそれより濃い小斑点状の混濁が存在し,角膜後面にも全体に薄い混濁とともに沈着物でもあるかのような小斑点状の混濁を認めた。その他,中間透光体,眼底に著変を認めず。眼圧は右14mmHg,左13mmHgであった。全身検査所見でも特記すべきことはなかった。斑状角膜変性症と診断し,以後経過観察していた。1986年11月18日,右全層角膜移植術を施行した。提供者の年齢は2歳であった。術後1年半が経過しているが,視力は右0.4(1.0×−4.0D),角膜内皮細胞密度は2250/mm2で透明性を保っている。

Aモード及びBモード法による眼内レンズ手術用眼軸長計測

著者: 田中泰雄

ページ範囲:P.210 - P.211

 目的 眼内レンズ挿入手術における術前のAモードによる超音波眼軸長測定については,時として納得できかねる値が提示される事も稀にではあるが経験させられる。術前の眼軸長測定は眼内レンズ挿入手術には必須のものと理解されているが,その信頼性と共に簡便性をも要求され,この相反する要求を満たすべく,各種の機器が改良され使用に供されている。これらの機種のほとんどはAモード測定法によっており,その情報から計測線と視線の適中度を推断するのは容易ではない。
 著者は,より情報量の多いBモード測定法による眼軸長測定の妥当性を検討するため,106眼についてAモード,Bモード矢状断,Bモード横断像の三通りの眼軸長測定法について検討を試みた。

ヒーロン及びメチルセルロースの家兎眼血液〜房水柵に及ぼす影響について

著者: 真智直子 ,   三谷洋子 ,   久保朗子 ,   大木孝太郎

ページ範囲:P.212 - P.213

 緒言 白内障手術,とりわけ眼内レンズ移植術が,ヒーロンなどの粘弾性物質の使用によって格段に安全かつ容易に行われるようになった事は言うまでもない。眼科手術における粘弾性物質の使用は,さらに増えつつあり,Visuco-surgeryといった新しい方法として考えられる事もある。ヒーロンなどの使用がとりわけ前眼部手術に多大な恩恵をもたらした事は事実であるが,その使用による術後一過性高眼圧も報告されており,手術終了時には眼内から吸引除去することが望ましいと考えられている。今回の実験では家兎眼前房にヒーロンと今回作成したメチルセルロースを注入し,その血液房柵への影響について房水中の蛋白濃度の変動から検討した。
 実験動物および方法 実験動物として成熟白色家兎(2-3.0kg)48羽を使用した。4%キシロカイン点眼麻酔後前房水0.2mlを採取した後,ヒーロンまたはメチルセルロース0.2m1を前房内へ注入し,対照として対側眼の前房水を同様に採取し人工眼内灌流液オペガードを注入した。以上の様に処置した家兎の前房水を,6,12,24,48時間および1週間後に再び採取し,その蛋白量をLowry法およびCBB法によって測定した。

摘出眼内レンズの生体内劣化—支持部の弾性,応力緩和性の変化について

著者: 木村亘 ,   木村徹 ,   永岡尚志 ,   二井宏紀 ,   山田義治

ページ範囲:P.214 - P.215

 緒言 Intraocular lens (IOL,眼内レンズ)の長期眼内安定性について,現時点では眼科医の間では勿論,社会的にも妥当なコンセンサスを得ている1,2)。しかし,眼内でのIOLの物理学的特性に関する変化,例えば支持部の弾性 (Elasticity)の変化,応力緩和性(Memory)の変化については殆んど報告をみない3,4)
 我々は,今回,シングルピースPMMAの前房レンズ(Cilco社SAC 3型)をIntermittent touch Syn-dromeのため,移植3年半後に摘出するに至った症例を経験した。

前房レンズ2次移植後の術後経過—視力,角膜厚,内皮,眼圧について

著者: 中野豊 ,   宮田和典 ,   小松真理 ,   清水公也

ページ範囲:P.216 - P.217

 緒言 近年後房レンズ移植が白内障手術の主流をなしているが,人工的無水晶体眼には後房レンズ移植が行えないことが多い。こうした症例が良好な裸眼視力を得るためには前房レンズ(ACL)移植,Epikerato-phakia,Corneal Inner Layer等の方法がある。この中でACLは最も普及した方法であるが,術後に緑内障,虹彩炎,角膜内皮障害等の問題が起こりやすいことは周知の事実である。
 今回筆者らはこのような術後合併症を避けるために,術後経過が良好な症例に対しACLの2次移植を行い,術後視力,眼圧,角膜厚,角膜内皮について検討した。

"結膜ヘルペス"の4例

著者: 北川和子 ,   望月雄二 ,   清佳浩 ,   井本敏弘

ページ範囲:P.230 - P.231

 緒言 単純ヘルペスウイルス(HSV)や帯状ヘルペスウイルス(HZV)による結膜炎を経験することは比較的多いが,球結膜の潰瘍性病変の出現の報告は稀である。アシクロビルが投与されている場合には,この薬剤による副作用としての結膜潰瘍の可能性もあり,その判断は難しい1)。今回,結膜潰瘍を生じた未治療の新鮮例4例において,潰瘍部結膜にウイルス抗原の存在を確認することが出来たので報告する。
 症例1:25歳,女性。3日前より左眼の疼痛,充血が出現し来院。7年前よりソフトコンタクトレンズを装用していた。角膜ヘルペスの既往はない。左眼視力は0.06(1.2)で,左眼結膜に充血と濾胞が存在し,左耳前リンパ節を触知した。角膜に異常はなかったが,前房内に細胞がみられた。下方の球結膜にアメーバ状の多発性潰瘍が存在していた(図1)が,アシクロビル軟膏の投与により10日目には潰瘍は完全に消失した。その後鼻側に新しい病巣がひとつ出現したが(図2),4日で消失し治癒した。抗ヒトHSV 1型ポリクローナル抗体(DAKO)を用いて結膜潰瘍部の擦過物を染色したところ特異螢光が確認された(図3)。なお初診時の抗HSVIgG抗体は160倍と上昇していたが,IgM抗体は10倍以下と陰性であった。

白内障術後の水庖性角膜症の発生について

著者: 田中正信 ,   松田司 ,   下村嘉一 ,   濱野孝 ,   真鍋禮三 ,   細谷比佐志 ,   木下渥 ,   原二郎 ,   湖崎弘

ページ範囲:P.232 - P.233

 緒言 手術手技や器具の進歩,術前および術後の処置の向上により,眼内レンズ挿入術を含めた白内障手術は,かなり安全に行うことが出来るようになってきたが,依然として,術後に種々の合併症が認められる。この中で,角膜内皮の機能不全によって発生してくる水疱性角膜症は,最も重篤な術後合併症のひとつである。しかし,この白内障術後の水庖性角膜症の発生機序については未だ充分には解明されていない。そこで,阪大眼科以下5施設を受診した白内障術後の水疱性角膜症55例65眼において,水疱性角膜症の発生機序についてretrospectiveに検討を加えたので報告する。
 対象 症例の内訳は,単独白内障摘出術後に水疱性角膜症が生じたもの,ずなわちAphakic Bullous Ker-atopathy (以下ABK)が44例54眼,眼内レンズ挿入後に水疱性角膜症が生じてきたもの,すなわちPseudophakic Bullous Keratopathy (以下PBK)が11例11眼であった。PBKにおいては,虹彩支持型レンズが6眼,前房レンズが3眼,後房レンズが2眼に挿入されていた。男女比は,男性31例,女性24例であった。

全層角膜移植術後の拒絶反応に対するCyclosPorin Aの使用経験

著者: 赤星隆幸 ,   谷島輝雄 ,   増田寛次郎

ページ範囲:P.234 - P.235

 緒言 Tリンパ球の機能を選択的に抑制するCyclosporin A (CysA)は,臓器移植術後の拒絶反応抑制のために外科領域では汎く用いられている免疫抑制剤である。今回我々は全層角膜移植術後の拒絶反応で,ステロイド治療が無効であった難治例に対してCysAの全身投与を試み,良好な結果を得たので報告する。
 症例 23歳,男性。

水晶体後嚢破裂の1症例

著者: 村田稔 ,   嶋田英一 ,   平山善章 ,   雨宮次生 ,   三島恵一郎

ページ範囲:P.236 - P.237

 緒言 水晶体の硝子体内脱臼の報告は多く,また遊走水晶体の報告もかなりの数にみられるが,水晶体後嚢の自然破裂により核が硝子体中に沈下し,それが遊走水晶体となった症例の報告は極めて少ない。今回,われわれはそのような症例を経験したので若干の検討を加えて報告する。
 症例 51歳,女性

前嚢切開法と眼内レンズ固定位置

著者: 今井正之 ,   荻原博実 ,   谷口重雄 ,   深道義尚

ページ範囲:P.238 - P.239

 緒言 現在,眼内レンズ固定は,嚢内(B-B)固定が主流になりつつある。確実に嚢内に眼内レンズを挿入するためには,前嚢切開窓が瞳孔領より確認でき,裂け目(tear)がなく,円形である事が理想的である。
 今回,我々は,従来のcan opener法(図1-a)とスムーズな切開線が得られるcapsulorhexis法(図1-b)による前嚢切開法を比較し,前嚢に入るtearが眼内レンズ固定,および,術後眼内レンズ偏位に及ぼす影響について検討した.

連載 眼科図譜・271

Impending macular holeを伴う硝子体網膜界面症候群の硝子体手術

著者: 荻野誠周 ,   北川桂子 ,   長谷川修

ページ範囲:P.106 - P.107

 緒言 硝子体の黄斑網膜への癒着と牽引は黄斑裂孔の直接の原因となり,また黄斑嚢胞形成を経て間接的な原因ともなる。硝子体黄斑癒着牽引があり,しかも嚢胞が生じ,さらに黄斑部剥離が存在するような場合には,硝子体手術によって硝子体の牽引を除去すれば,黄斑裂孔の形成を防止することができる可能性がある1)
 症例 51歳,女性

眼の組織・病理アトラス・28

夕焼け状眼底

著者: 猪俣孟

ページ範囲:P.110 - P.111

 交感性眼炎やフォークト・小柳・原田病では,発症からしばらくすると,しばしば夕焼け状眼底を呈するようになる(図1)。夕焼け状眼底は脈絡膜のメラニン細胞が減少または消失して白人の眼底のように検眼鏡で赤味を帯びて見えるようになったものである。メラニン細胞の減少は脈絡膜だけではなく,毛様体,虹彩,さらに皮膚や毛髪などメラニン細胞が存在する部位に起こり,皮膚の白斑や頭髪,眉毛,睫毛の白髪が生じる。脈絡膜の脱色素は臨床的に夕焼け状眼底として認められるが,毛様体や虹彩の脱色素は分かりにくい。毛様体や虹彩ではメラニン細胞が脈絡膜に比較して圧倒的に多く,メラニン細胞が多少減少しても目立たないからである。しかし,長年にわたって炎症が再燃を繰り返した例では,虹彩や隅角にも脱色素が起こる。虹彩では脱色素を伴った萎縮が観察されるようになる(図2)。
 夕焼け状眼底は,脈絡膜における炎症が強く,多量のメラニン細胞が変性消失した場合に生じやすい。炎症の程度が軽い症例では必ずしも夕焼け状眼底になるとは限らない。また,夕焼け状眼底を呈する症例の視力の予後は眼底の赤味の程度とは必ずしも一致しない。網膜色素上皮細胞層と感覚網膜が炎症によって著しく障害されていない場合には,視力は良好に保たれる。

今月の話題

緑内障術後瘢痕癒着

著者: 新家真

ページ範囲:P.219 - P.224

 現在,成人の緑内障に対する標準的な術式である,線維柱帯切除術に代表される濾過手術は濾過胞(filtering)の瘢痕化により,その効果を失なう。濾過胞の瘢痕化は,術中,術後の炎症反応や出血に端を発し,最終的には線維芽細胞の移動,増殖とそれによる間質コラーゲン線維の生成により完成される。
 この瘢痕化傾向に影響する因子としては,術中,術後の炎症の強さ,患眼の状態(無水晶体眼,ぶどう膜炎による二次性緑内障,出血性緑内障,以前の緑内障手術等),患者の年齢,人種等が関連することが報告されている。

眼科手術のテクニック—私はこうしている・2 計画的嚢外白内障手術

超音波乳化吸引術一手後房法

著者: 清水公也

ページ範囲:P.241 - P.243

理想的な超音波乳化吸引の条件
 1.角膜内皮の保護
 2.前嚢縁,およびcapsular integrityの保持

眼科薬物療法のポイント—私の処方・2 細菌性結膜炎

放線菌による涙小管炎に起因した亜急性結膜炎

著者: 大石正夫

ページ範囲:P.244 - P.245

 患者は53歳,女性. 約1年前から右眼脂の訴えで,某眼科医にて慢性結膜炎の診断で,抗生剤の点眼療法をうけていたが改善されず,当科を受診した。
 主訴:右眼膿性眼脂分泌,充血

最新海外文献情報

Nd: YAGレーザーによる後発白内障切開後に生じた両眼の黄斑円孔,他

著者: 大木隆太郎

ページ範囲:P.226 - P.227

 表題のとうり非常に不幸で稀な症例の報告である。症例は68歳男性。両眼白内障の手術(嚢外摘出及びIOL移植)後,良好な視力を得ていたが,約2年間の経過で後嚢の混濁によって視力低下が出現。両眼ともYAGレーザーを用いた後発白内障切開術を受け,再び10の視力を得たが3〜4週後に両眼とも黄斑円孔が生じ,急激な視力低下をきたしている。白内障手術前の屈折は,右−6.5 D左−2.75D。レーザーの切開は4×4mm,0.9〜1.5mj,12〜35 pulses。照射後強い硝子体のhernia—tionは認められなかったが,著者は切開の前に右眼黄斑部に硝子体の索状の付着を観察している。著者はYAGレーザーの術前に,硝子体の検査を行うこと,片眼に黄斑円孔などの合併症があった例では完全な硝子体剥離を待つこと,さらに臨床的に後発白内障切開が必要な症例でも網膜の牽引をとるため硝子体手術も考慮すべきであると述べている。簡便なYAGレーザーによる後発白内障切開の安易な施行に対し警鐘を鳴らす報告として,短い文献ながらここにとりあげてみた。

論文論

一人相撲/白い紙面

著者:

ページ範囲:P.228 - P.228

 「学会の講演で使われる頻度が最も多い単語は何か」という質問に回答できるでしょうか。偉い先生の講演も含めての話です。
 かなり以前からこの問題を考えながら学会に出ているのですが,正解は「やっぱり」だと思っています。もちろん人により「やはり」,「やっぱ」などと変化があり,これを含めての話です。

臨床報告

鋸状縁の形態 Ⅲ.—異常に深い鋸状縁湾と包囲された鋸状縁湾

著者: 永田豊文 ,   町田拓幸 ,   渡邊郁緒

ページ範囲:P.247 - P.250

 著者らは先の検索において,208眼を圧入子付きコンタクトレンズを用いて細隙灯顕微鏡で観察し,異常に深い鋸状縁湾を6.4%の眼に,包囲された鋸状縁湾を3.4%の眼に認めた。今回はさらに症例を加え,異常に深い鋸状縁湾21個,包囲された鋸状縁湾11個について形態学的特徴を検討した。1)両者とも水平子午線付近や鼻上側に多く分布し,2)鋸状縁よりかなり後方に陥入した湾を持ち,3)子午線隆起を伴うものが多く,4)両側の鋸状縁歯間の毛様体扁平部は顆粒状の表面を持ち,色素増殖を伴うことが多く,5)僚眼に両構造のいずれかを持つ例が多かった。

硝子体内脱臼水晶体の治療

著者: 山田佳苗 ,   松村美代 ,   後藤保郎 ,   林倫子

ページ範囲:P.251 - P.254

 58歳男性の硝子体内脱臼水晶体をオキュトームにより経毛様体扁平部水晶体切除術と硝子体切除術を施行し,良好な結果を得た。前医にて水晶体脱臼,水晶体偽落屑症候群,続発性緑内障と診断され,トラベクロトミー,レーザートラベクロプラスティーを施行されたが,眼圧が下降しないため当科を紹介され,輪状締結術,経毛様体扁平部水晶体切除術と硝子体切除術を施行し,薬物療法なしに眼圧を正常化できた。眼圧上昇の原因は水晶体偽落屑症候群よりも,脱臼水晶体によるぶどう膜炎からの続発性緑内障であったと考えられた。過去に硝子体内脱臼水晶体が自然破嚢し,それによるぶどう膜炎と続発性緑内障をおこしたが,全身状態が悪く,手術不可能で失明に至った症例を経験している。安全な術式が確立された今日,脱臼水晶体が成熟あるいは過熱白内障の状態であれば,重篤な合併症を起こす以前に積極的に手術すべきであろう。

汎網膜光凝固後増悪した黄斑浮腫と滲出斑に対する追加光凝固

著者: 斉藤喜博 ,   木坊子敬貢 ,   岡本茂樹 ,   宮川陽子 ,   中谷一 ,   藤田峻作

ページ範囲:P.255 - P.259

 糖尿病性網膜症にたいして汎網膜光凝固(PRP)を施行した後,黄斑部のびまん性浮腫が増強し中心窩に滲出性白斑が沈着した7例に対して,黄斑部に乳頭黄斑線維束を除く馬蹄形のアルゴンレーザー追加凝固を施行した.
 全例で滲出斑は軽快,消失し検眼鏡所見は改善したが,6ヵ月後の視力は,改善1例,不変5例,悪化1例であった。自覚所見は5例で改善し,悪化したものはなかった。滲出斑をきたした症例は高血圧,腎症などを合併した例が多く,他眼にも黄斑部病変が強くみられた。
 このような黄斑部追加凝固の適用により検眼鏡所見,自覚症状は改善するものの,視力回復には有効とはいえなかった。PRP後に黄斑浮腫が増悪した症例には早期に追加凝固の適応を考えるべきであり,さらにそのような症例を事前に判別し,視力低下をきたさないPRPの方法が考案されるべきであると考えられた。

頭頸部損傷患者の調節準静的特性

著者: 近江源次郎 ,   木下茂 ,   大路正人 ,   中林正雄

ページ範囲:P.261 - P.264

 25歳から39歳までの眼精疲労を訴える受傷後1年以上経過した頭頸部損傷患者7例13眼,VDTによると考えられる眼精疲労患者7例14眼,屈折異常以外の眼疾患を持たない正常者11例11眼について調節の準静的特性を他覚的に測定し,調節安静位の変動幅と他覚的調節幅について検討を行った。その結果,頭頸部損傷患者7例13眼は,不随意的変動パターンから,調節痙攣様の調節変動幅の著明に大きい群(調節痙攣型)〔4例7眼〕(年齢34.8±6.7歳)と調節麻痺様の調節変動幅が正常で調節力がほとんど存在しない群(調節麻痺型)〔3例6眼〕(年齢31.7±5.5歳)に分かれ,その中間をしめすものは存在しなかった。調節安静位における屈折値の変動幅(Diopter)は調節痙攣型の頭頸部損傷患者(2.1±0.9)とVDTによる眼精疲労患者(1.0±0.3)において,正常者(0.6±0.2)に比べ有意に増大していた。他覚的調節幅(Diopter)については,調節痙攣型の頭頸部損傷患者(2.2±1.0)と調節麻痺型の頭頸部損傷患者(0.7±0.3)の両群において正常者(4.6±1.6)に比べ,有意に減少していた。

アルゴンレーザー前処置後Nd: YAGレーザーによる虹彩切開術

著者: 原田敬志 ,   水野計彦 ,   堀口正之

ページ範囲:P.265 - P.269

 原発慢性閉塞隅角緑内障17眼,暗室うつむき試験で陽性となった狭隅角眼12眼,そして急性閉塞隅角緑内障の僚眼1眼,の計30眼に,アルゴンレーザーで30発前後の前凝固を実施したのち続いてNd: YAGレーザーを用い1〜5mJの条件で虹彩切開を行った。術後の眼圧,角膜混濁,出血および凝固方法について検討を加えた。30眼中20眼に術前より11mmHgを越える眼圧上昇を認め,YAGレーザー凝固の場合にもこの点に注意することが必要と思われた。角膜の半部にも及ぶ後面混濁が2眼に観察された。出血は全例中10眼に発生したが,4mJ以下の条件で本法のようにアルゴンレーザーによる前処置を行えば3眼にみられただけであった。

ステロイドパルス療法が奏効した側頭動脈炎の1症例

著者: 麻生伸一 ,   佐藤幸裕 ,   島田宏之 ,   川村昭之 ,   松井瑞夫

ページ範囲:P.271 - P.274

 メチルプレドニゾロン大量投与によるパルス療法が著効を示した側頭動脈炎の1例を報告した。症例は60歳男性で,右眼視力低下と眼痛,前頭部痛を主訴として来院した。右眼視力は指数弁(矯正不能)で,高度視野狭窄をみとめ,全身的には赤沈,CRP高値などがみられた。入院後右側頭部に腫脹,圧痛がみとめられたため,側頭動脈炎と臨床的に診断した。左眼にも視力低下を生じたため,メチルプレドニゾロンのパルス療法を行った。パルス療法後に行った生検では,巨細胞性動脈炎の所見は得られなかった。
 パルス療法後両眼の視力および視野は著明に改善し,重篤な副作用もみとめなかった。血管組織の炎症を軽減して虚血状態を早期に改善し,不可逆的変化を最少限にとどめるという意味で,パルス療法は有用であると考えた。

文庫の窓から

歇氏眼科学

著者: 中泉行信 ,   中泉行史 ,   斎藤仁男

ページ範囲:P.276 - P.277

 『歇氏眼科学』はヘーシング氏(F. Hersing)著の『Compendium der Augenheil Kunde』を甲野棐氏が訳したもので,"歇氏"はヘーシング氏の漢字当て字の頭文字をとって書名としたものと思われる。ヘーシング氏のこの眼科書は明治10年前後に東京大学医学部で行われたシュルツェ氏(Wilhelm Schultze)の講義の台本であったといわれている。
 本書の訳者,甲野棐氏は安政2年(1855)4月5日の生れで,明治6年(1873),第一大学区医学校へ入り,同14年(1881)に東京大学全科を卒え,同16年(1883)8月,東京大学助教授となり,眼科主任教授スクリバ氏(Julius Scriba,1849〜1905),眼科教授梅錦之丞氏(1858〜1886)等を補助した。本書の出版は明治19年(1886)であるが,その訳出は甲野棐氏が助教授になった明治16年から同18年にかけてのことと推測される。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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