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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科43巻3号

1989年03月発行

雑誌目次

特集 第42回日本臨床眼科学会講演集(2)1988年9月 東京 学会原著

Uveal Effusionのfellow eyeに出現した眼底変化

著者: 後藤正雄 ,   中塚和夫

ページ範囲:P.291 - P.294

 左眼のUveal Effusion (以下UE)の診断で経過観察していた51歳男性の他眼に生じた眼底変化について検討した。発症する4年前より上強膜血管の拡張がみられた。発症時,右眼眼底は鋸状縁が全周容易に望見され,乳頭周囲および黄斑部の網膜が浮腫混濁を呈していた。7ヵ月後,螢光眼底撮影でleopard spotの所見がみられ,下方に網膜剥離が出現したことにより,UEと確診し,後極部に生じた最初の変化をUEの初期像と考えた。

摘出眼内レンズ16例の病理組織学的検討

著者: 重光利朗 ,   馬嶋慶直 ,   内匠新吾 ,   松本高典

ページ範囲:P.295 - P.299

 移植期間が,27日間から4年11ヵ月間の摘出眼内レンズ (IOL)16症例と対照の未使用IOLについて,実体・光学・位相差顕微鏡的検索および走査型・透過型電顕的観察を実施して比較検討した。
 後房レンズ(PCL)では光学部の房水側表面に,前房レンズ(ACL)では虹彩側表面に細胞沈着(マクロファージ系細胞など)をおもに認めた。ACLでは支持部にぶどう膜組織が付着していた。PCLおよびACLにおいて,虹彩癒着症例では,光学部の細胞沈着が著明に増加し,遷延性炎症を認めたACL支持部では,リンパ球が多数付着していた。
 IOL表面全域を被覆する厚さ0.01〜0.03μmの微細顆粒状膜様物が,IOLの移植期間,種類に関係なく認められ,ポンソー3R,ニグロシンなどのタンパク質染色陽性,ルテニウム・レッド染色陽性のため,吸着タンパク質層であると考えられた。

SLEでの重篤な網膜症の治療について

著者: 西田保裕 ,   佐々木研二

ページ範囲:P.301 - P.304

 10年間に診た14例のSLE患者のうち,42歳の女性で左眼に重篤な網膜症が発症した。初診時視力は,右1.2左0.01,眼底には右眼に軽度の白斑があり,左眼に多数の綿花様白斑が散在し,cherry red spotが認められた。ステロイド投与で炎症は消退したが,数ヵ月で左眼乳頭部新生血管が出現し,その後増殖性変化は徐々に進行した.左眼汎網膜光凝固術を施行した.以後増殖性変化はほぼ停止し,一部牽引性網膜剥離を残すのみとなっている。
 SLEの網膜症の活動期には,早期にステロイドなどで十分な消炎を行い,血管炎による血管床の閉塞を最小限に押さえることが重要である。しかし,消炎後に広範な無血管野が残存し,それによる増殖性変化が生じた場合,網膜光凝固術は有用な治療であると考えられた。

桐沢—浦山型ぶどう膜炎におけるウイルス粒子の検索

著者: 井上博 ,   臼井正彦 ,   長谷見通子 ,   高村健太郎 ,   関文治 ,   市側稔博

ページ範囲:P.307 - P.311

 桐沢—浦山型ぶどう膜炎5症例5眼から得られた硝子体切除片の電顕的検索および他のウイルス学的検索を行った。またウイルス粒子の検出と,抗ウイルス薬や試料採取時期との関連についても検討を行い,以下の結果を得た。
 1.3症例にウイルス様粒子が,1症例に水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)の形態学的特徴である細片状のcoreを有するウイルス粒子が観察された。
 2.これらのウイルス粒子は,眼内ウイルス抗体率やウイルス抗原の検索によりVZVであることが確認された。
 3.抗ウイルス薬(アシクロビル)が投与されている症例のウイルス粒子の検出は,試料採取までの期間が短く,発症から投与までの期間が長く,かつ総投与量が少ないものほど可能であった。

油性点眼基剤のフレアセルメーター測定値に及ぼす影響

著者: 釣巻穰 ,   澤充 ,   清水昊幸

ページ範囲:P.312 - P.313

 油性点眼基剤がフレアセルメーターの測定結果に及ぼす影響を後房眼内レンズ挿入術後の15例15眼で検討した。点眼液は0.5%インドメタシン油性点眼液(インドメロール®を用い点眼前後の測定値を比較した。前房蛋白濃度は点眼前値がフォトンカウント110/msec (ウシアルブミン換算1550mg/dl)以上であった2眼では前後の差が大きかったが残る13眼では良好な相関を示した(全例:r=0.91,p<0.001,13眼:r=0.99,p<0.001)。細胞数は全例で点眼前後の値に明らかな相関がみられた(r=0.97,p<0.001)。これより通常の使用法では油性点眼基剤のフレアセルメーター測定結果に及ぼす影響は少ないと考えた。

硝子体手術を施行した黄斑裂孔網膜剥離

著者: 佐川宏明 ,   根路銘恵二 ,   鈴木水音 ,   橋本哲也 ,   西山功一 ,   竹内忍

ページ範囲:P.315 - P.318

 黄斑裂孔網膜剥離のうち増殖性硝子体網膜症を伴った例,裂孔縁に明らかな硝子体牽引の認められた例に対して硝子体手術を施行した。対象は増殖性硝子体網膜症10例10眼,硝子体牽引の明らかなもの1例1眼であった。全例に硝子体手術,輪状締結術,空気またはSF6によるタンポナーデを行い,6例に意図的網膜裂孔形成を行いその部より網膜下液の吸引を行った。黄斑バックル,黄斑部光凝固はそれぞれ1例ずつ施行した。術後全眼復位したが2眼が3〜8ヵ月後に再剥離し,1眼はSF6注入のみで,1眼は黄斑バックルの修正で最終的には全眼復位した。視力の改善は全眼に見られた。
 増殖性硝子体網膜症を伴う例や,明らかな硝子体牽引のある黄斑裂孔網膜剥離では硝子体手術が有効であり,黄斑部にかかる牽引を解除できれば黄斑部に手術操作を加えなくとも復位可能と思われた。したがって視力保持のためには黄斑裂孔よりの網膜下液吸引や黄斑裂孔光凝固はできるだけ避けるべきと考えられた。

眼内レンズ移植後早期の眼圧上昇とその対策

著者: 高橋信夫 ,   山村敏明 ,   大山充徳

ページ範囲:P.319 - P.322

 眼内レンズ(IOL)移植6〜12時間後の眼圧は,術前に比べて有意に上昇し,21眼中10眼が21mmHg以上であった。高滲透圧剤を術前に投与すると,非投与に比べて眼圧上昇が有意に抑えられた。
 術翌日の眼圧は,ECCE,IOL移植例ともに,術前に比べて有意に上昇し,21mmHg以上は40%に見られた。術前の高滲透圧剤による眼圧への影響は認められなかった。45mmHg以上の上昇はIOL移植眼にのみみられ,最高は72mmHgであった。
 高眼圧に伴う自覚症状は4例にのみみられた。術後処置として,炭酸脱水酵素阻害剤,高滲透圧剤およびベータ遮断剤などを使用した。高眼圧は術後2日目までには大部分が正常化した。

人眼より摘出された眼内レンズ表面の生体反応

著者: 石橋達朗 ,   菅井滋 ,   大西克尚 ,   佐々木究 ,   吉富文昭

ページ範囲:P.323 - P.325

 3症例より摘出された前房レンズ周囲の生体反応を,主に透過型電子顕微鏡を用いて検討した。これらのレンズは光学部,支持ループともポリメチルメタクリレート(PMMA)からできており,光学部のあった前房内とループが接していた虹彩のPMMAに対する反応の差を観察した。
 支持ループ周囲の虹彩には,血管結合織の増生,多核巨細胞,マクロファージ,線維芽細胞などの浸潤があり,いわゆる異物肉芽腫の形成があったが,前房内にある光学部周囲には一部に多核巨細胞があったものの,典型的な異物肉芽腫の形成はなかった。このように,前房内あるいは後房内では,PMMAに対する典型的な異物肉芽腫の形成が起こらないので,眼内レンズは透明性を保つことができると考えられた。

各種網膜循環障害に対するアスピリン極低量投与治療法—特に血小板凝集能亢進への対策として

著者: 阿部百子 ,   熱海治 ,   三上規 ,   吉本弘志

ページ範囲:P.327 - P.330

 糖尿病性網膜症10例,網膜中心静脈分枝閉塞症6例,網膜中心動脈閉塞症3例,細動脈硬化性網膜症2例の計21例に抗血小板療法としてアスピリンの極低量投与(0.5〜1.5 mg/kg/日)を行い,投与前後で血小板凝集能を比較した。その結果,1,3,5μMのADP凝集のそれぞれはもとより,二次凝集抑制効果を反映しコラーゲン凝集においても顕著な凝集率の低下を認め,その差はすべて有意であった。さらに至適投与量を検討する目的で30mg投与群と60mgおよび80mg投与群にわけ,それぞれの凝集率低下を比較したが両群間に効果の有意差は認められなかった。

川崎病における特異的網脈絡膜所見について

著者: 柳沢仍子 ,   五味渕瑞枝 ,   加藤一昭 ,   大原國俊

ページ範囲:P.331 - P.334

 川崎病3症例の眼底に特異な網脈絡膜所見を認めた。病変部位は片眼性で,網膜深部から色素上皮層と考えられ,境界鮮明な小型灰黄白色斑が後極部から赤道部にかけて散在し,その多くは不規則な線状の配列をなす。網膜血管の走行とは一致せず,網膜浮腫や混濁を病変周囲に認めず,黄灰白色斑は最長で4年経過した現在も不変である。螢光眼底撮影所見では,window defectの所見に一致する。これらの変化は現在までに川崎病の網膜症として報告されたいずれの所見とも一致せず,本症に特異性の高い病変と考えられた。

軟性白斑と網膜光凝固による網膜神経線維層欠損

著者: 千原悦夫 ,   鳥井秀雄 ,   澤田惇

ページ範囲:P.335 - P.338

 糖尿病性網膜症,高血圧性網膜症などの場合,軟性白斑,乳頭腫脹,網膜虚血などのため網膜神経線維層の欠損が生じる。孤立性の軟性白斑による網膜感度の低下は5dB以下で幅が5°以下のものが多く,Goldmann型動的視野計ではほとんど検出できないが,オクトパスプログラムFでは検出できる。このような神経線維層の損傷は糖尿病性網膜症における視力低下の一因になりうることを示した。
 網膜機能に異常を残すもう一つの重要な因子は,網膜光凝固による網膜神経線維層の破壊である。この障害はキセノン光やアルゴン光で過剰に凝固したときに認められ,適度のアルゴンレーザー(488nm,515nm)やダイレーザー光(577〜590nm)で凝固したものでは,ほとんど障害が認められなかった。ダイレーザーでは網膜神経線維層に対する障害が弱いが,このことは血管新生因子の分泌領域の破壊が少ないことを意味する。長期的に血管新生因子の産生を十分に抑えられるかどうかについては今後さらに検討を要する。

両眼の全周辺部網膜血管閉塞を伴った網膜血管炎の1例

著者: 中村孝一 ,   魚住博彦 ,   武田師利 ,   向野利寛 ,   坂本博士

ページ範囲:P.339 - P.342

 両眼に全周性の広範な無血管野を伴った原因不明の網膜動静脈炎の1例を報告した。
 症例は28歳の女性。両眼の硝子体に軽度の白色点状浮遊物を,右眼には軽度の硝子体出血を認めた。両眼底には赤道部より周辺部で網膜血管が認められず,動脈の白鞘化や,螢光眼底検査で動静脈と毛細血管からの螢光色素の漏出が認められた。
 ステロイド剤,血管強化剤等の投与やアルゴンレーザー光凝固術に反応せず,無血管野は進行し,2ヵ月後には両眼乳頭から新生血管膜が生じ,硝子体出血を繰り返して,視力は著しく低下した。
 最近,本症例と類似の症例が報告されているが,イールズ病とはやや異なると思われた。

網膜細動脈瘤21例の臨床像および視力予後

著者: 海平淳一 ,   佐藤雪雄 ,   藤沢昇 ,   田中紀子 ,   窪田俊樹

ページ範囲:P.343 - P.346

 片眼に単発した孤立性網膜細動脈瘤21症例を観察し,視力予後を検討した.症例は男性7例,女性14例で,年齢は52歳から81歳まで,平均観察期間は14ヵ月である。17例は光凝固することなく保存的に経過観察し,うち13例では視力予後が良好であった。光凝固は4例のみに施行されている。視力予後良好例は,初診時から視力低下をきたさなかったか,初診時から3ヵ月以内に視力改善傾向を示した。視力予後不良例を予測するうえで役立つ要因は,網膜細動脈瘤自体の形態学的性状や螢光眼底所見ではなく,初診時の視力と初診時の検眼鏡的所見であり,このようにして視力予後不良が予測される症例には,早期に光凝固等の治療が必要であると考えた。

後極部網膜より発症した急性網膜壊死の1例

著者: 奥間政昭 ,   松浦啓之 ,   舩田雅之 ,   長田健二 ,   長田正夫 ,   中西祥治

ページ範囲:P.347 - P.350

 発病初期の網膜病変が黄斑部を含む後極部にみられた片眼性の急性網膜壊死の1例を経験した。症例は43歳の健康女性で,ステロイドやアシクロビルの治療に抵抗して硝子体混濁が増強し,発病から40日後に網膜全剥離に陥った。単純ヘルペスウイルス(HSV)の抗体価がペア血清で2倍,前房水においては8倍の抗体価の変動がみられた。水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)および他のウイルスの抗体価に変動はみられなかった。病因としてHSVの関与が考えられた。

老人性黄斑円孔—その3.黄斑円孔の形成過程

著者: 湯沢美都子 ,   萩田勝彦 ,   松井瑞夫

ページ範囲:P.351 - P.355

 初診時に片眼あるいは両眼に老人性特発性黄斑円孔がみられた56例112眼と円孔の前段階の病変を疑った13例20眼を経過観察し,円孔の形成過程と形成後の変化について検討した。
 1)老人性特発性黄斑円孔の前段階は,螢光眼底造影で中心窩領域にwindow defectによる過螢光がみられる臍状病巣および臍状嚢胞であった。
 2)円孔の形成過程には,臍状病巣,臍状嚢胞の中央に小円孔が出現し,これが拡大するものと,臍状病巣,臍状嚢胞の隆起部辺縁に生じた裂隙が拡大し,opeculumがみられるようになるものの,2つの様式があった。
 3)臍状病巣,臍状嚢胞では,後部硝子体剥離が孔形成の引き金になる場合の多いことが確認された。

中心性漿液性脈絡網膜症にみられる黄斑部網膜色素上皮の顆粒状萎縮斑

著者: 吉岡久春 ,   津村知子 ,   石橋達朗

ページ範囲:P.363 - P.366

 1.中心性漿液性脈絡網膜症での網膜色素上皮の顆粒状萎縮斑の初発螢光眼底血管造影所見は,境界不明瞭な組織染を示す網膜色素上皮の機能失調所見である。
 2.網膜色素上皮の顆粒状萎縮斑は経過中に拡大することがあることを確認した。
 3.網膜色素土皮の顆粒状萎縮斑の初発変化および顆粒状萎縮斑の拡大はともに,脈絡膜の循環障害によることが示唆された。

単純ヘルペス性脳炎に網膜炎を合併した新生児の1例

著者: 平山善章 ,   楠木祐子 ,   秋山和人 ,   雨宮次生

ページ範囲:P.367 - P.370

 34週,2,2749で出生の新生児の単純ヘルペスⅡ型脳炎に合併した,両眼網膜炎の臨床像を記載した。脳炎に対し,アシクロビルが投与された。両眼網膜の赤道部から周辺部にかけて,全周に塊状黄色滲出斑を認めた。黄斑部には左眼に滲出斑を,右眼に黒色色素沈着を認めた。視神経は徐々に萎縮した。滲出物は徐々に吸収し,跡は黒色色素沈着を伴った瘢痕を呈した。アシクロビルが有効であったと考えられる。新生児単純ヘルペス脳炎は網膜炎が合併しうることを強調した。

Lipemia retinalisの臨床的特徴について

著者: 磯貝豊 ,   池森康子 ,   中嶋みゆき ,   山下晃 ,   真砂めぐみ ,   杤久保哲男 ,   河本道次

ページ範囲:P.371 - P.375

 自己免疫性溶血性貧血の21歳男性と,アルコール中毒の47歳女性に,V型高脂血症と網膜脂血症が発症した。2例共,視力,視野,色覚,暗順応,ERG, EOG等視機能の異常は認めなかった。眼底所見は網膜血管の淡紅色化,および光線反射の亢進と周辺部動静脈の乳白色化に伴う血柱反射の消失,周辺部網膜血管の区別困難,脈絡膜血管による紋理増強が観察され,血中脂質レベルの改善と共にこの所見は易可逆性であった。詳細な眼底所見を観察することにより,高脂血症の程度を予測することが可能であると思われた。

Human T-lymphotropic virus type I associated myelopathy (HAM)に合併した網膜血管炎

著者: 佐々木究 ,   諸岡居織 ,   猪俣孟 ,   加塩信行 ,   赤嶺俊彦 ,   納光弘

ページ範囲:P.376 - P.380

 ヒトレトロウイルスであるHTLV-Ⅰに関連した脊髄症はHTLV-Ⅰ associated myelopathy (HAM)と称され,現在556例の報告があるが,網膜血管炎を合併した症例の報告はない。今回,12症例のHAMの患者の眼科的検査を行い,5例に硝子体混濁を,そのうち3例に網膜血管炎を認めた。49,50,58歳の女性3症例とも,歩行障害,排尿障害,霧視を主訴とし,血液,髄液の抗HTLV—Ⅰ抗体は高値であった。病歴12年の症例では網膜周辺部の静脈は白鞘化し,眼底後極に血管炎を認めた。他の2例では網膜周辺部に静脈炎を認めた。2症例はステロイド剤の投与にかかわらず血管炎は持続した。他の1例ではインターフェロンの投与をおこない,血管炎は消失した。他の疾患からくる網膜血管炎の除外診断をおこなった。HTLV-Ⅰ罹患地域では,HAMに網膜血管炎が合併することを留意する必要がある。

学術展示

角膜屈折手術(T-cut)術後のglare testについて

著者: 清水春一 ,   清水葉子

ページ範囲:P.388 - P.389

 緒言 著者らは角膜屈折手術(T-cut)について,白内障手術の術後に発生する角膜乱視の予防や白内障手術の術後に発生した角膜乱視(特に倒乱視)にT-cutを施行して良好な成績を挙げた事を報告した。今回,T-cutが術後のglare disabilityに及ぼす影響について検討したので報告する。
 対象および測定方法 測定対象者は94眼(表)で全例に白内障手術をECCE+PC-IOLで施行し,虹彩根部切除術はglare testに影響を及ぼす可能性があると思われたため,併用しなかった。glare testは手術後1年以上を経過し,術後矯正視力が0.5以上で,術後の瞳孔が正円で細隙灯顕微鏡下でI0Lの偏位が少ないと思われた症例を選んだ。

麻疹罹患後に生じた急性角膜実質浮腫の1例

著者: 中川ひとみ ,   中川裕子 ,   内田幸男

ページ範囲:P.390 - P.391

 緒言 私達は水痘,流行性耳下腺炎など全身性のウイルス感染症に角膜実質浮腫が生じた症例をこれまで報告してきた。麻疹に角膜実質浮腫を伴うことはまれであるが,今回私達は麻疹罹患後に角膜実質浮腫を合併した症例をspecular microscopeを用いて経時的に観察したので報告する。
 症例 11歳,女児。

硝子体手術と眼内レンズ挿入術の同時手術の問題点

著者: 竹本喜也 ,   荻野誠周

ページ範囲:P.392 - P.393

 緒言 最近の硝子体手術の進歩は,従来難治と見なされてきた増殖性糖尿病性網膜症,増殖性硝子体網膜症などの眼内増殖性疾患の視力予後を著しく改善した。硝子体手術では眼底病変の処理を優先するため,その視認性を確保する必要性から,しばしば水晶体を混濁のあるなしに関わらず切除ないしは摘出する必要性が生じる。術後の無水晶体性屈折異常の矯正は,片眼性無水晶体による不同視,角膜上皮障害の存在,矯正視力の悪さなどが原因となって,眼鏡,コンタクトレンズともに使用に耐えないことが多い。このような場合に,硝子体手術と眼内レンズ挿入の同時手術が大いに救いとなる可能性がある。安全性を考慮して症例を選び,硝子体手術,嚢外白内障摘出術,後房レンズ嚢内挿入の同時手術を行い,その併発症を中心として問題点を検討した。

緑内障性陥凹所見に影響を及ぼす諸因子—5.糖尿病性網膜症

著者: 中橋康治 ,   鉄本員章 ,   伊賀俊行 ,   溝上國義

ページ範囲:P.395 - P.397

 緒言 糖尿病性網膜症と原発性開放隅角緑内障の間に一定の疫学的関係が存在する事はすでに広く知られている1)。このことから,糖尿病性網膜症が原発性開放隅角緑内障における乳頭陥凹形成になんらかの影響をおよぼしている可能性が示唆されるが,その詳細については必ずしも明らかとなっていない。
 今回,我々は糖尿病性網膜症患者の乳頭陥凹について臨床的検討を加え,糖尿病性網膜症が緑内障性陥凹所見に及ぼす影響につき考察したので報告する。

緑内障手術眼の前房循環動態—前眼部フルオロフォトメトリーによる解析

著者: 三浦昌生 ,   岩城正佳 ,   小紫裕介 ,   竹村美保 ,   近藤武久

ページ範囲:P.398 - P.399

 緒言 房水循環が何らかの原因によって障害されて緑内障が発症することは言うまでもない。しかし,その障害の原因は様々である。前房循環は,房水の産生系,房水の流出系,前房容積と形態,などさまざまな要素から成り立っているが,それぞれの要素のバランスが崩れた時緑内障として発症する。
 トラベクロトミーは,前房隅角の線維柱帯の流出抵抗が増大して発症する緑内障,つまりprimary open angle glaucoma (POAG),やpseudo exfoliation syndrome, congenital glaucoma等に有効な手術である。今回我々はトラベクロトミーの手術前後で房水の循環動態を測定し,その手術効果を房水の循環の改善という面から検討した。

緑内障患者における上強膜静脈圧の変化

著者: 松岡徹 ,   岡崎博史 ,   渡辺正樹 ,   松尾信彦

ページ範囲:P.400 - P.401

 緒言 上強膜静脈圧(episcleral venous pressure,以下EVP)の上昇が,続発緑内障を惹起することは,内頸動脈海綿静脈洞瘻をはじめとして,ふるくより知られている。しかし各種の緑内障眼におけるEVPを正確に測定した報告は少なく,緑内障手術によるEVPの変動については,未だ観察測定されていない。EVP測定には種々の方法があるが,簡便で正確なpressure chamber法が広く用いられている1)。その中でもchamberにラテックス膜を用いたPhelpsらの方法2)が最も正確である。そこでこの方法をデジタルマノメーターを用いて改良し,緑内障眼におけるEVPの変動,ことに手術による影響などを検討した。

散瞳と眼圧上昇

著者: 金谷いく子 ,   石井好子 ,   溝上國義

ページ範囲:P.402 - P.403

 緒言 狭隅角眼において,散瞳が眼圧上昇を引き起こす危険性が高いことは,周知の事実である。しかし,狭隅角眼に対する散瞳誘発試験の誘発率は,多くて70%程度であるとの報告も見られ,狭隅角のみが眼圧上昇の因子ではない。狭隅角眼において眼圧上昇を引き起こす諸因子の解析は,臨床的に重要であるが,眼圧上昇発作の危険のため,詳細な検討はなされていない。今回我々は,散瞳処置を行った白内障術前患者,および外来患者の隅角所見,散瞳率,使用薬剤,水晶体の状態,年齢と散瞳に伴う眼圧上昇との関係について検討した。
 方法 白内障手術前患者76人76眼(71.9±10.5歳),外来患者43人70眼(41〜83,平均63.6歳)に対し,角膜径,瞳孔径測定,散瞳前のVan Herick所見(0〜4),隅角検査〈Sheie (0〜IV),Shaffer分類(0〜4)〉を行った。白内障術前患者は,術前にミドリンP®,アトロピン®,ネオシネジン®の頻回点眼およびインドメサシン®の3回点眼を行い(以後複数点眼群),30分後,60分後,120分後,手術直前の眼圧と瞳孔径の測定を行った。一方,外来患者は,ミドリンPのみを15分毎に3回点眼し(以後ミドリンP群),15分,30分,45分,60分の眼圧と瞳孔径を測定した。

緑内障による視神経障害に対するメチルB12の薬効評価多施設共同二重盲検法による比較検討

著者: 東郁郎 ,   真鍋禮三 ,   三木弘彦 ,   宇山令司 ,   吉田禮子 ,   中谷一 ,   木下渥 ,   清水芳樹 ,   須田秩史 ,   西川憲清 ,   徳岡覚 ,   坂口一之

ページ範囲:P.404 - P.406

 緒言 慢性緑内障,ことに原発開放隅角緑内障が進行性の視野欠損を特徴とする疾患であり,視野の維持のためには眼圧のコントロールが重要である。しかし単に眼圧の正常化だけでは不十分で,視神経(乳頭)障害に対しては眼圧以外の因子(乳頭の解剖学的構築上の要因や循環の要因)が関与していると考えられる。
 Vitalnin B12のうちで,神経細胞内小器官への移行に優れ,神経細胞内での核酸・蛋白の合成を促進し,神経組織を修復する上で有用とされるメチルコバラミン(メチコバール®)を,眼圧が調整されている慢性緑内障患者を対象に長期間経口投与して,視野への有効性および有用性を多施設共同二重盲検群間比較法により検討することを目的とした。

真性小眼球症(nanophthalmos)に伴った緑内障に対する強膜切除術の経験

著者: 谷瑞子 ,   秋山健一

ページ範囲:P.408 - P.409

 緒言 真性小眼球症(nanophthalmos)に続発した緑内障は各種治療に抵抗し,視機能の温存は極めて困難とされ,特に観血的手術後はuveaL effusionを発症しやすく,予後は不良であった1-2)。近年,強膜層状切除術はuveal effusionの治療法として有効性が確立してきている3)。Brockhurstは真性小眼球症においては厚い強膜により渦静脈が圧迫されてuveal effusionが起こると推定した2)。著者らは眼球前部においては厚い強膜により上強膜静脈も同様の圧迫を受けていることがnanophthalmosにおける緑内障の眼圧コントロールを不良にしている要因と考えた。そこで強膜を広範囲に切除することにより上強膜静脈への圧迫を除去し,房水静脈の抵抗を少なくすることを目的として,各種治療の無効であった真性小眼球症に続発した緑内障の両眼に強膜切除術を施行し,有効であったので報告する。
 症例 34歳女性。生来,眼が小さく,視力は悪かった。1982年頃から虹視症および流涙があったが放置していた。霧視が増悪したため1984年1月に近医を受診した。眼圧が右61mmHg,左90 mmHgであったため当院を紹介された。既往歴および家族歴には特記すべきものはなかった。

難治な緑内障に対するWhite Glaucoma Pump Shunt手術の応用

著者: 細田源浩 ,   前沢信義

ページ範囲:P.410 - P.411

 緒言 血管新生緑内障及び反復手術によっても眼圧のコントロールが困難で難治な緑内障例に対して,古くからSetonの手術が応用されてきた。これらの中で1985年Whiteが発表した方法は,pumpを持ったshuntを開発し,材質,形体,術式,手技の改良によって極めて良い結果を得ている1,2)。今回我々は6例の症例に本術式を試みたのでその結果を報告する。
 方法 対象は1987年12月〜1988年5月に昭和伊南総合病院で,White glaucoma pump shunt手術を受けた6例6眼,男性2例,女性4例。年齢は40〜79歳。病型は血管新生緑内障5例,3回の降圧手術にても眼圧コントロール不能であった開放隅角緑内障1例である。術前視力はいずれも0.02以下,術前眼圧は28mmHg以上であった(表1)。

血管新生緑内障急性発作の治療—汎網膜光凝固効果発現までの房水及び前房出血の反復排出法

著者: 梶原一人 ,   坪田一男 ,   原裕

ページ範囲:P.412 - P.413

 緒言 血管新生緑内障(NVG)に対する治療の第一選択は汎網膜光凝固(PRP)であるが,効果発現までに時間を要し,持続する高眼圧があらゆる薬物治療に全く反応せず,失明の危機にさらされることは臨床上しばしば経験する。今回著者らは強力なPRP,頻回の前房穿刺と体位変換による前房出血の排出により急性期を脱し,視力を保持できたNVGの1例を経験したので報告する。
 方法 症例は48歳男性で,初診時既に増殖性糖尿病性網膜症と NVGを発症していた。 PRP施行後Vd=0.08(0.1),Vs=0.1(0.4),両眼圧15 mmHgにコントロールされていたが新生血管が消退せずPRP追加予定であったところ,3日間続く左眼違和感と視力低下により来院した。左眼は視力30cm手動弁,眼圧は53mmHgで,前房出血を伴っていた。保存的治療に全く反応しないため,球後麻酔の後,起座位を保持して出血を下方に沈め,1,347発のPRPを施行した(図1A・B)。なおも治療に抵抗するため,左側臥位を保ち前房出血を耳側に集めて,3時の位置にて前房穿刺を行い,1日4〜6回房水・血液の排出を行った。細いスパーテルにて輪部を転く圧迫することにより容易に排液を繰り返すことができた(図2A)。

トラベクレクトミーとトラベクロトミーの術後成績—その1.術後合併症

著者: 山岸和矢 ,   伊東滋雄 ,   高田百合子 ,   西川睦彦 ,   竹内正光 ,   岸本伸子 ,   山根淳志 ,   三木弘彦 ,   宇山昌延

ページ範囲:P.414 - P.415

 緒言 開放隅角緑内障に対する観血的手術にはトラベクレクトミー(以下レクトミー)とトラベクロトミー(以下ロトミー)が主に行われている。レクトミーは術後成績が不安定なため,術式が改良されつつあり1),またロトミーは術式習得の困難さゆえ普及が遅れている。当教室では以前はレクトミーを行っていたが,術後成績が不安定なため,原発開放隅角緑内障(POAG)と偽落屑を伴う緑内障(PE症候群)については1984年半ばからレクトミーをロトミーに変更した。そこでレクトミーとロトミーの術後合併症,術後成績を調査し,今回術後早期合併症と晩期合併症について検討したので報告する。
 対象 1982年より86年までの5年間に関西医科大学眼科にてPOAGかPE症候群と診断され,抗緑内障点眼薬のみでは眼圧21mmHg以下にコントロールできず,手術適応となった症例中,初回手術としてレクトミーかロトミーを行い,術後2年以上経過観察を行い得た症例である。レクトミーは1982年1月より1984年8月までに手術を行った17例21眼,ロトミーは1984年9月より1986年9月までに手術を行った31例51眼であった。対象症例の年齢構成はレクトミーとロトミーではほぼ同一であった。

緑内障・白内障の同時手術の成績—ECCE+PCL+trabeculotomyの成績

著者: 小紫裕介 ,   近藤武久

ページ範囲:P.416 - P.417

 緒言 緑内障と白内障の同時手術はふるくから行われ,特に近年のmicrosurgeryの発達による手術法の進歩に伴い,数々の良好な成績が報告されている。さらに,緑内障眼に対する後房レンズ移植も緑内障に及ぼす影響は少ないとされ,緑内障・白内障の同時手術に際しても積極的に後房レンズを移植しようとする方向にある。今回我々は緑内障手術としてtrabeculotomyを選択し,ECCE+PCL+trabeculo-tomyのtriple procedureを施行したのでその成績につき報告する。
 対象 1986年11月より1988年4月の間に,原発開放隅角緑内障並びに嚢性緑内障を伴う白内障29例42眼に対しECCE+PCL+trabeculotomyを行った。症例の内訳は男性13例17眼・女性16例25眼,原発開放隅角緑内障22例33眼・嚢性緑内障7例9眼,年齢分布は41〜93歳(平均72.6歳)であった。術後の経過観察期間は4〜21ヵ月(平均10.3ヵ月)であった。

眼内液生検により診断しえたB細胞性眼内悪性リンパ腫

著者: 大島浩一 ,   曾我部由香 ,   清水慶一 ,   松尾信彦 ,   元井信

ページ範囲:P.418 - P.419

 緒言 臨床所見のみでは診断の困難な眼内炎に遭遇した場合,眼内液を細胞学的に検査すれば,診断が可能になることがある。眼内悪性リンパ腫を念頭においた場合,検体を遠心分離して,沈渣をスライドグラス上に塗抹し,パパニコロ染色あるいはギムザ染色を行う方法,眼内液を遠心分離して電子顕微鏡法を応用する方法,メンブラン・フィルター表面に細胞を吸着させ,パパニコロ染色を行う方法などが採用されている。いずれの方法を用いるにしても,症例によっては,得られた所見の解釈に苦慮することがある。
 最近我々は,54歳の男性で,定型的な眼底所見を示さない眼内悪性リンパ腫の症例を経験した。当初,診断に迷ったが,眼内液を数種類の細胞学的検査法を併用して検討したところ,眼内悪性リンパ腫,大細胞型,B細胞性と診断できた。とくに免疫細胞化学の応用は,眼内悪性リンパ腫の早期診断に有用と思われたので,以下に述べる。

家族性滲出性硝子体網膜症の手術について

著者: 安田尚美 ,   稲垣有司 ,   白土春子 ,   田中稔 ,   石川隆 ,   早川むつ子 ,   中島章

ページ範囲:P.420 - P.421

 緒言 家族性滲出性硝子体網膜症(familial exudative vitreoretinopathy:FEVR)について近年数多くの報告をみるが,進行程度や病期がさまざまであるため治療についてはいまだ確立されたものがない様である。今回,我々は病期の異なるFEVRの3例につき,それぞれ異なった手術を施行し良好な結果を得たので報告する。
 症例1 36歳女性。主訴:右眼飛蚊症。

硝子体手術中にアルゴンレーザー光凝固を行った19例20眼の検討

著者: 中川正昭 ,   田中稔 ,   稲垣有司 ,   黒川真理 ,   太田俊彦

ページ範囲:P.422 - P.423

 緒言 近年,硝子体手術の進歩に伴い,多種多彩な周辺器具が開発されている。眼内光凝固は透光体の混濁にほとんど影響されず,硝子体手術中に即座に光凝固を併用できることなどにより注目を集めている。しかし本邦においてはその臨床報告は少ない。今回我々は硝子体手術中に本機器を使用する機会を得,若干の知見を得たのでここに報告する。
 方法と対象症例 1987年5月から1988年4月までの1年間に硝子体手術を55件行ったが,そのうち種々の理由により,アルゴンレーザー網膜光凝固を術中に追加した症例19例20眼を経験した。

増殖性糖尿病性網膜症眼における硝子体手術後の白内障の経過と予後

著者: 長坂智子 ,   安藤文隆 ,   宮川典子 ,   町田崇史 ,   笹野久美子 ,   河合卓哉

ページ範囲:P.424 - P.425

 緒言 増殖性糖尿病性網膜症眼の硝子体手術成績は,シリコンオイルの使用,眼内光凝固法,4port sys—temによるbimanual techniqueなどの導入により比較的良好となってきたが,術後白内障の発症,進行を見るものも少なくない。今回,増殖性糖尿病性網膜症に対する硝子体手術後の白内障の経過と,進行例に対する水晶体摘出術につき検討した。
 方法 対象は,1985年12月より1988年5月までに国立名古屋病院で硝子体手術を行った増殖性糖尿病性網膜症眼のうち,網膜の復位が得られ,安定した状態で3ヵ月以上の経過観察が可能であり,血管新生緑内障,虹彩後癒着を認めない,光覚以上の機能を有する有水晶体眼76眼である。年齢は23〜75(平均53.9±9.6)歳,性別は男性28眼,女性48眼である。硝子体手術は全て1名の術者によってなされた。また白内障進行例の水晶体摘出術に関しては,他院にて硝子体手術施行後,当院で水晶体摘出を行った14眼を加えた。

連載 眼科図譜・272

白内障手術後に発生したEpitheliaL Downgrowthの1例

著者: 湖崎淳 ,   永田誠 ,   山岸直矢

ページ範囲:P.284 - P.285

 緒言 白内障手術が進歩し,予後の重篤な術後併発症はほとんど経験されなくなってきた。しかし,これらの併発症が皆無になったわけではない。今回我々は,近年では極めて稀となった白内障手術後のepithelialdowngrowth (前房内上皮増殖)の1例を経験したので報告する。
 症例:64歳女性。主訴は右眼の眼痛。

眼の組織・病理アトラス・29

霰粒腫

著者: 猪俣孟

ページ範囲:P.288 - P.289

 霰粒腫chalazionは瞼板腺の梗塞を基盤として発生し,マイボーム腺またはツアイス腺から放出された脂質に対する異物反応として起こる非化膿性の慢性炎症で,脂肪肉芽腫lipogranulomaを形成する。マイボーム腺の肉芽腫性炎症を深層霰粒腫deep chalazion,ツアイス腺の肉芽腫性炎症を表層霰粒腫superficial chalazionと呼ぶ。臨床的には,瞼板内に小腫瘤が形成され,通常発赤や圧痛もなく,皮膚との癒着もない。皮膚の上から半球状の腫瘤が触れる。急性に発症して発赤や腫脹を示すこともあり,その場合には急性霰粒腫acute chalazionと呼ばれる。霰粒腫に対し,瞼板腺の急性化膿性炎症は内麦粒腫internal hor-deolumと呼んで区別される。
 霰粒腫の組織学的特徴は,脂質を中心に類上皮細胞や多核巨細胞の浸潤を伴った慢性肉芽腫性炎症を示すことである。すなわち,炎症細胞の集団のほぼ中央部に小円形の脂質とそれを貪食したマクロファージ,類上皮細胞,多核巨細胞,さらにその周囲にリンパ球や形質細胞の浸潤が見られる(図1,2)。パラフィン切片では,脂質は標本作成の途中で溶解してしまうので標本上では染色されずに抜けた小円形の空隙として観察される(図2,3)。組織の凍結切片を用いて脂肪染色すると脂質を染め出すことができる。

今月の話題

フレアー・セルメーターの臨床応用

著者: 大鹿哲郎

ページ範囲:P.356 - P.358

 フレアー・セルメーターは前房内炎症を簡便に定量でき,しかも細隙灯顕微鏡では視認し得ない微量の変化を検出することができる装置である。まず本装置の臨床応用に際して注意すべき点を述べ,その後いくつかの臨床応用例をあげた。

眼科手術のテクニック—私はこうしている・3 計画的嚢外白内障手術

Continuous Circular Capsulorhexis (C.C.C.)

著者: 清水公也

ページ範囲:P.381 - P.383

理想的な前嚢切開の条件
 1.対称形である。
 2.前嚢辺縁に亀裂がない。

眼科薬物療法のポイント—私の処方・3 ウイルス性結膜炎

流行性角結膜炎

著者: 秦野寛

ページ範囲:P.385 - P.387

 20歳男性,3日前,右眼の異物感,流涙,充血に気づいた。眼脂,癌痒感はないが,眼瞼が腫れてきたため眼科を受診した。結膜に濾胞があり,耳前リンパ節の圧痛腫脹もある。受診5日後,左眼にも同症状が出現した。全身症状は特にない。

第42回日本臨床眼科学会シンポジウムから

「他覚的視力・視野測定法」

著者: 松崎浩 ,   河合一重

ページ範囲:P.360 - P.361

 司会(慈恵医大 松崎浩)からこのシンポジウムの今日的な意義が述べられた。とくにその中で,現在,眼科疾患にヒステリーや詐病が多く含まれるようになり,保険詐取などの問題が大型化してきている現在,このように,機能性視覚障害に対し正確な診断と管理を行うことが重要な一面であることを強調した。また,西ドイツでは専門医になるためには鑑定という項目があるが我が国にはなく,日本と差がみられるところであると述べた。

論文論

プライバシー/文語体

著者:

ページ範囲:P.362 - P.362

 症例報告などで,人名の記載方法が,昔と最近とでは大きく変ってきました。以前ならば,患者名として,美○ひ○りとか,田○角○という風に,一字ごとに○を入れる方法が一般的だったのです。しかしこれだと,ちょっと想像を働かせれば本人の推定ができるので,プライバシー保護の面からは好ましくなく,近頃では行われていません。
 これに代ったのが,たとえば,「43歳女性」だけで済ませる方法です。ある意味ではこれが理想的なのですが,困るのは,将来この患者に何か問題があった場合に,本人の確認ができないことです。本人が誰なのかは著者自身しか知らないので,同じ医局の中ですら,追跡が実に困難になります。

臨床報告

急性緑内障発作を生じたIridoschisisの1例

著者: 切通彰 ,   近江源次郎 ,   大路正人 ,   木下茂

ページ範囲:P.427 - P.430

 Iridoschisisは,老人に起こる稀な疾患で,虹彩の一部が前層・後層に分離し,さらに前層は幾つかの小片となって後層から剥離し,前房に遊離するものである。今回,我々が経験した患者は65歳の女性で,既往歴,家族歴に特記すべきことはなかった。初診時,右眼虹彩の4時および6時の位置,左眼虹彩の4時から8時の位置の虹彩中央から周辺部にかけて虹彩前葉が剥離し,遊離した前葉は前房内を漂っていた。後葉表面には露出した虹彩実質が認められた。左眼の成熟白内障のため手術を予定し経過観察していたところ,左眼に膨隆水晶体による瞳孔ブロックを生じ,急激な眼圧上昇を認めたため,水晶体嚢外摘出術,眼内レンズ挿入術および周辺部虹彩切除術を施行した。術後の眼圧コントロールは良好で視力も矯正にて0.8を得た。術前のスペキュラーマイクロスコープによる角膜内皮撮影では左眼の細胞数の軽度の減少,大小不同が認められた。術後2年の観察期間中,視力など視機能の低下は認めなかった。Iridoschisisの所見は,両眼ともに不変であった。

妊娠中毒症に併発した漿液性網膜剥離に対する線溶療法

著者: 新城光宏 ,   久保町子

ページ範囲:P.431 - P.434

 漿液性網膜剥離の発生をみた37歳の晩期妊娠中毒症患者に螢光眼底造影を施行し,網膜下から多数の螢光色素漏出点を認めた。また,脈絡膜背景螢光充盈遅延を認め,脈絡膜循環障害の存在が示唆された。
 本来,妊娠中毒症に伴う漿液性網膜剥離は視力予後良好な疾患であるが,慢性DICの存在が推定されたため,ウロキナーゼ製剤による線溶療法を試み,網膜剥離のすみやかな消褪をみた。

優性遺伝性若年型視神経萎縮の一家系

著者: 吉田晃敏 ,   太田勲男 ,   奈良諭一 ,   福井康夫

ページ範囲:P.435 - P.440

 典型的な優性遺伝性若年型視神経萎縮の一家系(4世代,7人)を報告した。発端者は8歳の女性で,両眼の低視力,第3色覚異常および視神経乳頭耳側の蒼白化と視神経繊維束欠損を認めた。また,single flash ERG,螢光眼底造影および硝子体螢光測定の結果は,いずれも正常であった。家系内調査の結果,発端者の母,伯母とその娘,祖父とその弟および曾祖母に同様の症状を認めた。
 本症においては,さまざまな程度に視神経乳頭耳側の蒼白化および視神経繊維束の欠損が生じることがわかり,螢光眼底造影検査および硝子体螢光測定の結果から血液網膜柵ならびに血液視神経乳頭間の柵機能は,他の視神経疾患と異なり正常に保たれていることが推測された。

緑内障を合併した表皮母斑症候群の1例

著者: 横江志保 ,   松尾信彦 ,   白神史雄 ,   小山雅也 ,   豊田英治 ,   辻俊彦 ,   古谷朱美 ,   萬代宏 ,   寺崎智行

ページ範囲:P.441 - P.444

 表皮母斑症候群の1症例について報告した。本症例は,皮膚,骨,中枢神経系および眼のいずれにも病変を有する極めて稀な完全型であり,過去に報告のない先天性緑内障を合併していた。
 眼科的所見としては,右眼は牛眼の状態であり,右眼の上眼瞼腫瘍,両眼の角結膜腫瘍,角膜混濁,角膜新生血管を認めた。また左眼眼底には4ヵ所に隆起性病変がみられ,眼窩CTでは眼球後方に高吸収域の腫瘤様陰影がみられた。病理組織学的には角結膜腫瘍はepibulbar complex choris—tomasであった。
 先天性緑内障を合併した原因としては,本症候群は外胚葉系の異常を主体としており,先天性緑内障の発生が外胚葉系のneural crestの異常によることに関連しているのではないかと考えた。

硝子体注入された気体の問題点—2.部分注入された気体の消退について

著者: 高木均 ,   古川真理子 ,   山本文昭 ,   上野聰樹

ページ範囲:P.445 - P.450

 硝子体内気体部分注入術を施行した網膜剥離87例87眼における気体の持続日数を検討し,それが注入量,気体の種類(空気およびSF6ガス),注入眼の状態,気体注入の時期,注入眼に対する手術操作の種類などについて影響を受けるかどうか統計学的に検討を加えた。SF6ガス注入眼における気体持続日数ば空気注入眼より1.5〜1.7倍延長した。注入量が1mlまででは持続日数は注入量の増加とともに延長するが,1mlを越えると必ずしも相関関係を認めなかった。さらに気体注入単独例は,剥離手術に併用して気体注入を施行した場合に比較すると,持続日数が短期間であった。以上の結果より気体注入の合併症を考えると注入量は必要最小限度にとどめるべきで,持続日数に関していえばおおよそ1mlで十分であると考えられた。また,気体注入のみ(特に空気)を行う場合にはその持続日数が比較的短いため気体再注入の必要性が増す可能性についても留意すべきであることが推測された。

Birdshot retinochoroidopathyと網膜色素上皮剥離の合併例

著者: 山本美保 ,   栗本康夫 ,   砂川光子

ページ範囲:P.451 - P.453

 新しいぶどう膜炎の一型である bird-shot retinochoroidopathy (以下BR)に,網膜色素上皮剥離を合併した1例を報告した。症例は59歳女性,左眼に霧視,光視症を自覚し,後極部に散在性白色滲出斑を認め,BRと診断した。同時に網膜色素上皮剥離を認めた。ステロイド療法により,炎症の消退をみたが,網膜色素上皮剥離は残存した。HLA-A2,HLA-A31,HLA-B51,HLA-BW46を認めた。BRと網膜色素上皮剥離の関連性を検討した。

成人女性に発症したCoats病の網膜下液所見

著者: 三浦昌生 ,   小紫裕介 ,   竹村美保 ,   三木正毅 ,   近藤武久

ページ範囲:P.455 - P.458

 46歳女性が左眼の視野欠損を主訴に来院し,眼底には嚢状の網膜剥離と大量の滲出物を認めた。精査の結果,腫瘍等は否定され,成人型Coats病と診断された。この患者に網膜剥離手術と血管病変部の徹底的な網膜凝固を行った。術中に採取した網膜下液の塗抹標本にfoam cellを認め,組織学的にもCoats病と診断された。

眼内レンズ移植術後の角膜乱視の検討—強角膜切開創の大きさと術後乱視

著者: 宮田和典 ,   田中俊一 ,   小松真理 ,   清水公也

ページ範囲:P.459 - P.463

 大きさの異なる3種類の強角膜切開創による眼内レンズ移植術後角膜乱視の経時的変化を検討した。強角膜切開創は,5,7,11mmの3群とし,切開は外科的輪部より4面切開で行い,5mm群は,シリコンレンズを,7,11mm群は,PMMAレンズを移植した。角膜乱視は,術後7日目,1,3,6,12ヵ月にオートケラトメーターを用いて測定し,倍角座標法による角膜乱視量,および垂直,水平方向の角膜屈折力の経時的変化を解析した。術後の角膜乱視量の推移は,5,7mm群が術後3ヵ月でほぼ安定し,術前値に戻っているのに対して,11mm君羊は,術後1年でも術後性角膜乱視の残余量が大きかった。また術後7日目の乱視量の標準偏差は3群ともにほぼ同程度であったが,術後1年における標準偏差は切開が小さいほど少なかった。角膜屈折力は,3群ともに術後早期には垂直方向のsteep化と水平方向のflat化が生じていたが,切開が大きいほど水平方向の屈折力に与える影響は大きかった。術前に角膜乱視の少ない症例においては,小切開であるほど術後角膜乱視は少なくなると考えられる。

Just Arrived

萎縮性老人性黄斑変性における網膜下出血

著者: 桂弘

ページ範囲:P.458 - P.458

 網膜色素上皮と脈絡膜毛細血管の萎縮を主体とした老人性黄斑変性の症例で萎縮巣内に網膜下出血をきたした8例8眼について検討した。年齢は72歳から85歳で,網膜下出血の大きさは6眼で1/2乳頭径未満,1眼で1/2〜1乳頭径,1眼で1乳頭径を越えており,中心窩に及んでいた症例はなかった。全例,出血は1〜15カ月で吸収し,その後1〜20カ月の経過観察で再出血を生じた症例はなかった。螢光眼底撮影では8例とも出血の原因と考えられる網膜下新生血管は検出されなかった。
 加齢変化を有する非近視眼に見られる網膜下出血の原因としては,網膜下新生血管の存在が最も考えられるが,今回の検討から,特に網膜色素上皮および脈絡膜毛細血管の萎縮巣に生じる網膜下出血は必ずしも網膜下新生血管によるものとは限らず,別のメカニズムも存在することが示唆された。また,このような症例の出血に関する予後は良好であり,光凝固施行の決定に際しては,網膜下新生血管の検出が特に重要であることを強調した。

Group discussion

眼先天異常

著者: 馬嶋昭生

ページ範囲:P.464 - P.466

1.Kabuki make-up症候群の眼科的所見
 平形恭子・西川朋子・大島 崇(国立小児病院),松井一郎(同小児医療研究センター小児生態研究部)
 Kabuki make-up症候群は1981年新川及び黒木らが報告した新しい先天奇形症候群で,特異な顔貌,精神発達遅滞,低身長,特異な皮膚紋理異常,骨格異常,易感染性等を特徴とし,原因はまだ不明で染色体は正常である。我々は当科外来で経過観察中の本症患児9例(男4例,女5例)の眼科的所見を検討した結果,比較的軽度の屈折異常が多い,斜視特に内斜視の頻度が高い,立体視不良例が多いなどの知見を得た。

眼窩

著者: 井上洋一

ページ範囲:P.466 - P.469

 「眼窩」のGDは今回が最初の会であった。基礎講座の一番目として防衛医大眼科,沖坂重邦教授の「パターン分類による眼窩腫瘍の組織病理診断へのアプローチ」の講演が,中村泰久先生の司会のもとに行われた。
 眼窩腫瘍は,眼窩原発性腫瘍,眼球および隣接組織からの続発性腫瘍,転移性腫瘍など種々なものがある。良性原発性腫瘍には,皮様嚢胞,奇形腫,血管腫,線維腫,脂肪腫,骨腫,神経鞘腫などがあり,悪性原発性腫瘍には,横紋筋肉腫,リンパ腫,髄膜腫,骨肉腫などがある。続発性腫瘍として,網膜芽細胞腫,悪性黒色腫など眼球より発生するもの,涙腺腫瘍の波及したもの,鼻腔・副鼻腔より発生する癌・肉腫,頭蓋腔より発生する髄膜腫,神経芽細胞腫,骨腫などがある。転移性腫瘍には,交感神経芽細胞腫,肺癌・乳癌の転移,多発性骨髄腫,緑色腫などがある。

文庫の窓から

検眼鏡用法

著者: 中泉行信 ,   中泉行史 ,   斎藤仁男

ページ範囲:P.470 - P.471

 眼科が外科の一分科より独立するようになった原因の一つに検眼鏡の発明が挙げられているように,検眼鏡の発明は19世紀後半以降の眼科学を飛躍的な発展へ導いた。
 検眼鏡は1850年(嘉永3年)にヘルムフォルツ(Hermann von Helmholtz,1821〜1894, Potsdam)によって,生理光学に属す新しい分野を開拓していた過程において発明されたといわれている。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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