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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科43巻4号

1989年04月発行

雑誌目次

特集 第42回日本臨床眼科学会講演集(3)1988年9月 東京 学会原著

4mm切開眼内レンズ移植の術後早期乱視

著者: 池沢暁子 ,   宮田和典 ,   田中俊一 ,   小松真理 ,   清水公也

ページ範囲:P.489 - P.492

 4mm強角膜切開創から水晶体摘出術,後房眼内レンズ移植を行い,術後早期角膜乱視を強角膜切開創7mmまたは11mmにおける乱視と比較した。4mm,7mm群は,水晶体乳化吸引法を,11mm群は計画的嚢外摘出術を行った後,4mm群はsilicone後房レンズ(PCL)を,7mm・11mm群はPMMAレンズを移植した。角膜乱視は,autokeratometerとphotokeratogramautoanalyzer (P.K.A.)を用いて,術前,術後1日,7日,1ヵ月,3ヵ月に測定した。各時期の角膜乱視の平均変化量及び乱視の標準偏差を倍角座標法により解析し,また水平方向の角膜屈折力K1,垂直方向の角膜屈折力K2の術前値からの変化量を検討した。その結果,強角膜切開創4mm群は,術後早期の乱視が小さく,乱視の標準偏差も小さかった。また,水平方向,垂直方向の角膜屈折力の変化も少なかった。

老人性円盤状黄斑変性と硝子体出血

著者: 青木孝一 ,   沼賀哲郎 ,   木村保孝 ,   新田安紀芳 ,   野口傑

ページ範囲:P.493 - P.497

 過去6年6ヵ月間に経験した老人性円盤状黄斑変性(SDMD)260例285眼のうち硝子体手術を行った症例が11例11眼あり,全例が網膜色素上皮下血腫型であった。この間の全SDMDのうち,網膜色素上皮下血腫型は42例42眼あった。そのうち,21例21眼(50%)で硝子体出血が生じた。網膜色素上皮下血腫型は拡大傾向の強いものほど,硝子体出血の頻度が増大した。とくに,赤道部付近まで及ぶほど大型化した13例では,大量の硝子体出血を生じて,その8割以上で自然吸収が困難であった。硝子体手術後のSDMDは,既に沈静化しており,再燃する例はなかった。硝子体手術は、視機能改善の上で有効であり,比較的安全な治療手段であることから,早期手術の適応であると結論される。

老人性円板状黄斑変性症の早期病変—漿液性網膜剥離期の臨床的特徴

著者: 高橋寛二 ,   大熊紘 ,   板垣隆 ,   宇山昌延

ページ範囲:P.499 - P.505

 最近5年間に,老人性円板状黄斑変性症の早期病変として,漿液性網膜剥離期の症例を77例78眼経験した。50歳以上の中高齢者の黄斑部に円板状の扁平な漿液性網膜剥離がみられた場合,常に老人性円板状黄斑変性症の早期病変を念頭におく必要がある。このような漿液性網膜剥離には色素上皮の変性萎縮,ドルーゼン,灰白色あるいは黄色の滲出斑,小出血,硬性白斑を伴っているのが特徴で,螢光眼底造影では典型的な網目状の網膜下新生血管が見られ,ときには点状の螢光漏出を示すことがあった。臨床上,中心性漿液性脈絡網膜症との鑑別が問題になる場台,新生血管を示唆するわずかの随伴症状をも見逃さないことが重要である。このような早期症例の光凝固治療成績は,80%以上に改善が得られ比較的良好であった。

家族性大腸腺腫症にみられる網膜色素上皮異常

著者: 向野利彦 ,   猪俣孟 ,   飯田三雄 ,   伊藤英明 ,   壬生隆一

ページ範囲:P.507 - P.510

 家族性大腸腺腫症16例の臨床的検討を行い,13例に網膜色素上皮肥大を認めた。また他に,脱色素斑,色素上皮剥離,眼底色素のむらなどの網膜色素上皮の異常が多くみられた。さらに25歳女性の剖検眼球において,組織学的に広範な網膜色素上皮の異常がみられた。
 家族性大腸腺腫症では,網膜色素上皮肥大のほかに,広範な網膜色素上皮の異常が随伴する可能性が示された。

家族性大腸腺腫症にみられた先天性網膜色素上皮肥大について

著者: 町田拓幸 ,   渡邉郁緒 ,   土屋政仁 ,   馬場正三

ページ範囲:P.511 - P.514

 家族性大腸腺腫症(FAC)患者とその家族,15家系41名について網膜色素異常の発生頻度を調べた。すでにポリープの発見されている患者23例中20例87%に,保因者の可能性のある第二世代14例中6例42.9%に網膜色素異常を認めた。病変は赤道部よりも後極寄りの比較的大きなものと,周辺部の点状の小さなものの2群に大別された。
 眼底に色素が出現すると予測される疾患を除く一般眼科患者1,984名のprospectiveな調査で6例(0.3%)に色素斑を認め,5例は周辺部の点状色素斑,1例は赤道部付近の比較的大きな色素斑であった。
 これらの結果から,網膜色素異常をFACのmarkerとしてスクリーニングを行った場合の敏感度は0.87,特異度は0.997と計算された。後極寄りの大きな病変で楕円形のものはFACにかなり特異的であると思われた。

網膜色素変性症の遺伝子診断

著者: 三国郁夫 ,   平井莞二

ページ範囲:P.515 - P.517

 網膜色素変性症の遺伝形式として三種類がある。常染色体劣性,常染色体優性,伴性劣性である。臨床検査と家系の調査をおこなってもこの3種類の鑑別は困難でおのずと限界がある。
 今までのこれらの鑑別された症例は確実な症例から選びだされたものであり従って従来の発生頻度は少な目に表わされた傾向があった。発生頻度は松永(3%),Ammann (1%),François (4.5%)であった。Bhattacharya SS (1984)が発表したRestriction Fragment Length Polymorphysm(RFLP)を用いて私共は健康人および網膜色素変性症の疑いのある患者の末梢白血球からDNAを抽出し,クローン化DNA (L1.28)をプローブDNAとして,ハイブリダイゼーションパターンより伴性劣性遺伝かどうか判定をした。
 15例の検査例のうちで,臨床的に網膜色素変性症と考えられた者は8例であった。このうち9kbを示した伴性劣性遺伝は2例。9kb,12kbを示したcarrierは1例であった。

網膜色素線条症における黄斑部合併症について

著者: 佐藤圭子 ,   池田誠宏 ,   河野剛也 ,   三木徳彦

ページ範囲:P.519 - P.523

 過去13年間に網膜色素線条症と診断された23例46眼中,黄斑部合併症(黄斑部網膜下新生血管)を有した11例20眼(43.5%)を検討した。症例は男性7例14眼,女性4例6眼で,全例40歳以上で,50〜60歳代が81.8%を占めた。黄斑部合併症を有する群と有さない群との間で,弾力線維性仮性黄色腫およびpeau d'orange,salmon spots等の眼底所見の合併率に差はなかった。黄斑部合併症群の10例17眼85%に,螢光眼底造影でhypofluorescent dotsを黄斑部耳側あるいは乳頭周囲に認め,その程度はhypofluorescent dotsのみを示すものから,dotsの周囲にhyperfluorescenceを呈するものまでさまざまであった。本所見は検眼鏡的にはほとんど認められず,螢光眼底造影でのみ観察された。光凝固で4例6眼は瘢痕化したが,2例2眼は新生血管が増大し,視力は悪化もしくは不変であった。

北海道真狩村における緑内障疫学調査

著者: 勝島晴美 ,   岡崎裕子 ,   竹田明 ,   相沢芙束 ,   塩瀬芳彦

ページ範囲:P.525 - P.529

 緑内障疫学調査を北海道真狩村の40歳以上の住民1,476名を対象として行った。受診者は577名(39.1%)である。一次検診では全員に自動屈折検査,矯正視力,ノンコンタクトトノメーター(NCT)での眼圧測定,細隙燈検査,隅角分類,無散瞳眼底撮影を行った。NCTで18mmHg以上はゴールドマン圧平眼圧計で再検し,21mmHg以上を高眼圧とした。二次検診は,高眼圧例あるいは眼底写真から緑内障を疑われたものを対象として,ハンフリー視野計アーマリー中心スクリーニングを行った。
 原発開放隅角緑内障(POAG)9例12眼(1.0%),POAG疑い1例2眼(0.2%),低眼圧緑内障(LTG)13例18眼(1.6%),LTG疑い13例15眼(1.3%),原発閉塞隅角緑内障(PCAG)5例8眼(0.7%),PCAG疑い18例31眼(2.7%),続発緑内障4例6眼(0.5%),高眼圧症30例39眼(3.4%)であった。POAGの2例以外は無自覚未治療であった。

緑内障視野と視標呈示時間との関係

著者: 徳岡覚 ,   中島正之 ,   東郁郎

ページ範囲:P.531 - P.534

 正常者16名32眼および高眼圧症16名32眼,原発開放隅角緑内障17名31眼を対象とし,クラカウ自動視野計の中心スクリーニングプログラムを用い,0.25秒と0.5秒の指標提示時間で視野測定を行った。
 正常者では視標呈示時間によるperformance value (総感度和)に有意差を認めなかった。高眼圧症,原発開放隅角緑内障では,指標提示時間0.25秒を用いたときの方が,それぞれ5%,1%の危険率でperformance valueの低下を認めた。原発開放隅角緑内障眼では,指標提示時間を短くした方が暗点の数が増える症例が多かった。
 緑内障および高眼圧症では,時間的寄せ集め現象が臨界時間を越えて働いていることが示唆された。指標提示時間を短くすると,sensitivityが高くなるので,視野変化の早期発見のためには,視標呈示時間0.25秒の方が臨床的に有用と思われた。

コンピューター画像解析(IMAGEnet)による視神経乳頭陥凹の立体計測

著者: 難波克彦 ,   白柏基宏 ,   福地健郎 ,   岩田和雄

ページ範囲:P.535 - P.538

 コンピューター画像解析装置(Topcon IMAGEnet)を用い,立体眼底写真による視神経乳頭陥凹の立体計測を行い,その再現性について検討した。対象は浅い陥凹2眼,斜めの陥凹2眼,深い陥凹3眼,計7眼である。測定値の変動係数は垂直C/D比4.6%,水平C/D比8.7%,陥凹容積14.6%,Rim面積5.0%,Rim面積/乳頭面積4.4%で,従来の方法とほぼ同じ結果であった。深い陥凹はいずれのパラメーターの測定も安定しているのに対し,浅い陥凹や斜めの陥凹では水平C/D比,陥凹容積での変動が大きかった。
 IMAGEnetによる乳頭陥凹の立体計測は緑内障の経過観察に有用であると考えられた。

内皮網に影響を与える薬剤の研究—1.ビタミンA

著者: 保谷卓男 ,   裏川佳夫 ,   宮崎守人 ,   石原淳 ,   天谷次郎 ,   甘利富士夫 ,   瀬川雄三

ページ範囲:P.539 - P.543

 65歳,67歳,84歳,87歳の正常屍体摘出眼より得た線維柱組織を,(1)対照群,(2)chondroitin-6-sulfate (CD6S)投与群,(3)CD6S+Vitamin A acetate (VA)投与群に分け,2週間器官培養した。
 各群より得た培養組織片の透過電顕試料を作製し,内皮網における構成要素,細胞成分,細胞外要素,空白部分の面積百分率を,画像解析装置を用いて計測比較した。
 その結果,培養人線維柱組織にCD6Sを投与することにより,短期間で確実に内皮網内に細胞外要素を増加させることができた。また,そこにVAを投与すると,増加した細胞外要素が減少した。POAG眼の内皮網に多量に蓄積している細胞外要素をVA投与により減少させることも可能であった。
 ビタミンAは新しい抗緑内障治療薬になる可能性のある薬剤であると思われる。

老人性円板状黄斑変性症の危険因子

著者: 白神史雄 ,   松尾信彦 ,   辻俊彦 ,   三原正義 ,   那須好滋

ページ範囲:P.544 - P.548

 我々は,喫煙,高血圧症および血清脂質などの動脈硬化の危険因子と老人性円板状黄斑変性症との関連について,統計学的に検討した。対象は82例96眼の本症患者で,前述の因子について,一般人口との比較,1:1の患者対照研究および悪化例と瘢痕化例の比較を行った。その結果,喫煙が本症の発症および予後に危険因子として作用することが判明し,特に予後と過去の喫煙量との間に有意な関連を認めた。なお,血清脂質についても危険因子である可能性を示唆する結果が得られた。以上から,喫煙が本症の脈絡膜新生血管の発生および退縮に危険因子として関与していると結論した。

緑内障眼における角膜内皮細胞の形態—第1報原発性開放隅角緑内障の角膜内皮細胞形態

著者: 安田典子 ,   清水透 ,   後藤田佳克 ,   景山萬里子

ページ範囲:P.549 - P.552

 手術既往のない原発性開放隅角緑内障49例77眼を対象に,角膜内皮スペキュラマイクロスコピーを行い,平均細胞面積と標準偏差,最大細胞と最小細胞面積,変動係数,細胞密度,六角形細胞頻度を測定した。60歳代27眼の平均細胞面積,細胞密度,変動係数,六角形細胞頻度は,すべて正常範囲であった。また,各パラメーターを目的変数とし,年齢及び病期を説明変数として重回帰分析を行った。年齢と平均細胞面積,年齢と細胞密度には相関が認められたが,病期とそれぞれのパラメーターには相関を認めなかった。
 原発性開放隅角緑内障においては,角膜内皮細胞形態は正常範囲に保たれており,病期の進行に伴う内皮障害の発生はないと結論された。

隅角癒着解離術の手術成績

著者: 岩城正佳 ,   安淵幸雄 ,   吉村長久

ページ範囲:P.553 - P.556

 閉塞隅角縁内障13例14眼に隅角癒着解離術(goniosynechialysis, GSL)を施行した。うち原発性閉塞隅角緑内障7眼,虹彩炎や外傷、手術などによる続発性緑内障7眼であった。対象眼の眼圧はfull medicationにて28〜43 mmHg,周辺虹彩前癒着は50〜100%の隅角を閉塞していた。Healon存在下,GSLを行ったが,症例によっては,core vitrectomy,水晶体嚢外摘出,周辺虹彩切除及びtrabeculotomyを同時に施行し,術後Laser gonioplastyを行った。2〜16ヵ月の術後経過観察期間を通じて,大多数の症例で点眼のみで眼圧のコントロールが可能となった。重篤な早期合併症はなかった。以上,GSLは安全で有効な手術と考えられた。

糖尿病性網膜症の悪化と血糖コントロールとの関連性—HbA1値の累積効果

著者: 船津英陽 ,   山下英俊 ,   北野滋彦 ,   堀貞夫 ,   大橋靖雄

ページ範囲:P.557 - P.560

 2年間以上経過観察した糖尿病患者の内,血糖コントロール状態の指標であるHbA1値および空腹時血糖値を1年間に10回以上測定した211例,422眼を対象に,糖尿病性網膜症の悪化と経時的な血糖コントロール状態との関連性について統計学的に解析した。解析にはCoxの重回帰型生命表法を用い,過去1〜2カ月間の血糖コントロールの指標であるHbA1値の網膜症に対する累積効果について検討した。
 糖尿病性網膜症の悪化にはHbA1値を指標とする血糖コントロールが強く影響していた。HbAl値はその累積期間が長くなるほど網膜症の悪化との関連性が強く,過去7〜8カ月間以上の血糖コントロール状態の累積効果が糖尿病性網膜症の悪化に最も影響を与えていた。

インスリン非依存型糖尿病(NIDDM)患者妊娠時の眼科的管理

著者: 木戸口裕 ,   大井いく子 ,   堀貞夫 ,   清水明実 ,   大森安恵 ,   平田幸正

ページ範囲:P.561 - P.564

 インスリン非依存型糖尿病(NIDDM)患者,152人179出産例について,妊娠中の糖尿病性網膜症の変化を検討した。妊娠初回検査時,132例には網膜症がみられず,そのうち21%(28/132例)には,妊娠中に単純型網膜症が生じたが,残り79%(104/132例)は,網膜症は生じなかった。また,47例には妊娠初回検査時より網膜症がみられ,このうち38%(18/47例)に網膜症の悪化が生じ,62%(29/47例)は網膜症の変化がみられなかった。特に,福田分類AⅡ以上の網膜症を有する例では,妊娠中の網膜症悪化率が高かった。
 当初から,あるいは妊娠中に進展し前増殖期網膜症または増殖期網膜症を呈したものは9例あった。このうち5例は,光凝固により網膜症の進行は停止したが,2例は進行を阻止することができなかった。妊娠時にすでに網膜症があると,網膜症が進行しやすいが,糖尿病罹病期間が長いほど妊娠中の網膜症悪化率は高く,妊娠前の血糖コントロールが良好であると,妊娠中の網膜症悪化率は低かった。

初期糖尿病性網膜症における血液網膜柵の検討

著者: 金森美智子 ,   藤井正満 ,   早坂征次 ,   渡辺正樹 ,   山本由香里 ,   瀬戸川朝一

ページ範囲:P.565 - P.568

 網膜症発症前と初期網膜症を有する糖尿病患者の血液網膜柵内方透過係数(Pin)と硝子体内拡散係数(D)を検討した。PinとD値は,Fluorescein-Na静注後のvitreous fluoro-photometry値と血漿free fluorescein値よりcomputer simulation法を用いて算出した。正常群のPinおよびD値は20歳代から40歳代にかけてほぼ一定だが,50歳代以後に増大した。それゆえ,正常眼では50歳代より,血液網膜柵の機能異常や硝子体性状の変化が生じるものと推測された。網膜症を有さない糖尿病患者A群のPinおよびD値は,各年代ごとに正常群と比較するといずれの年代でも有意差はなかった。A群の症例をHbA1c値と罹病期間をもとに細分してPin値を検討すると,60歳代でHbA1c値が高く,また罹病期間が長い症例では,正常群とくらべ,Pin値は増大していた。Cunha-Vazらは,網膜症のみられる前より,血液網膜柵の破壊がみられると報告しているが,正常群と年齢をmatchさせて比較しただけでは,そのような所見は,観察されなかった。しかし,60歳代でHbA1c値が高く,罹病期間が長い糖尿病患者と正常群とを比較すると,彼らの知見と合致した。

トラベクロトミーのprospective study—術後6ヵ月目および12ヵ月目の成績

著者: 湖崎淳 ,   根木昭 ,   寺内博夫 ,   奥平晃久 ,   谷原秀信 ,   竹内篤 ,   風間成泰 ,   市岡尚 ,   永田誠 ,   三木弘彦 ,   山岸和矢 ,   竹内正光 ,   沖波聡 ,   石郷岡均 ,   森秀夫 ,   岡田守生 ,   中野徹 ,   市岡博 ,   市岡伊久子 ,   木村英也 ,   田中康裕 ,   泉谷昌利 ,   池田定嗣 ,   山岸直矢

ページ範囲:P.569 - P.572

 原発開放隅角緑内障,及び水晶体偽落屑症候群を伴う開放隅角緑内障に対するトラベクロトミーの手術成績を評価するため,7施設において同一のプロトコールに従い,プロスペクティブスタディを施行した。対象は1987年8月までの1年間にトラベクロトミーを施行した症例のうち,(1)手術既往歴がない,(2)点眼治療のみでは眼圧が20mmHg以下にコントロールできない,(3)視野に緑内障性の変化が認められる,(4)視神経乳頭に緑内障性陥凹が認められる,の4項目を全て満たす101例145眼である。眼圧コントロールは術後6ヵ月目では89%,12ヵ月目では82%であった。 術後眼圧コントロールが良好であっても視野変化の進行する症例が認められた。このことより,緑内障のある眼にとって機能的に安全な眼圧というものを考慮する必要があると思われた。

学術展示

硝子体手術により内因性真菌性眼内炎が改善した1症例

著者: 坂部功生 ,   敷島敬悟 ,   鈴木英樹 ,   小野江仁 ,   佐野雄太

ページ範囲:P.584 - P.585

 緒言 内因性真菌性眼内炎は,日和見感染など医原性の性格が強く近年増加傾向にあり,薬物全身投与に抵抗し,難治性である。今回我々は,抗真菌剤硝子体内注入及び硝子体切除術の併用により視力が改善し,吸引硝子体より真菌が証明され,さらに組織学的検索も行ったので報告する。
 症例 27歳,女性。

シリコンチューブによる経網膜裂孔的網膜下液排除法

著者: 前田耕志 ,   照林宏文 ,   赤木好男

ページ範囲:P.586 - P.587

 緒言 難治性網膜剥離を硝子体手術で処理する場合,網膜下液の排除にはinternal drainageと呼ばれる手法が用いられる。一般にinternal drainageは後極部に人工裂孔を作製して行われるが,むやみに人工裂孔を作製することは好ましくない1)。しかし既存裂孔を利用し網膜裂孔を最下部に位置するよう体位を変えて網膜下液吸引を行う方法は煩雑,完全排液困難などの欠点を有する。今回,われわれはこの欠点を補うために考案されたシリコンチューブ付き眼内液排除針2)を使用する機会を得たので報告する。
 方法 Grieshaber社製cannulated extrusion nee—dle (図1,以下本器具と略す)を用いた。本器具は外径20ゲージの先端を持つステンレス製支持部とその内部で移動する外径0.64mm内径0.31 mmのシリコンチューブよりなり,チューブは18mmまで伸展可能である。チューブの伸縮はチューブと連結している支持部本体のノブを示指にてスライドさせることにより行う。ノブには排気孔が設けられ示指にて排気孔を閉鎖すれば吸引装置使用により能動的吸引が可能となり,排気孔を開放すればチューブ末端は大気圧と等圧となるため眼内液空気同時置換が行える。今回はC3(症例1)およびD1(症例2)のPVR 2症例を手術対象とした。

Aspergillus眼内炎の1例

著者: 山本美保 ,   栗本康夫 ,   砂川光子

ページ範囲:P.588 - P.589

 緒言 最近,抗生剤や免疫抑制剤の頻用による真菌などの日和見感染が問題となっている1)。今回われわれは,全身に異常を認めない健常な男子で,網膜剥離復位術後,輪状締結術に用いたシリコンスポンジで増殖していたAspergillusにより眼内炎をきたした症例を経験したので報告する。
 症例 患者:50歳,男性。

眼窩尖端症候群を呈した眼窩真菌症の2例

著者: 関根美穂 ,   佐藤章子 ,   松山秀一

ページ範囲:P.590 - P.591

 緒言 近年難治性の感染症の中で,真菌によるものの占める割合が増加してきているが,眼科領域では角膜真菌症,眼内炎が大半を占めており,眼窩真菌症は,本邦では極めて稀な疾患である。今回我々は,汎副鼻腔真菌症の眼窩内波及によると思われる,眼窩尖端症候群を呈した,眼窩真菌症の2例を経験したので報告する。
 症例1 51歳男性で,既往歴に糖尿病と副鼻腔炎あり。左眼の前部強膜炎の診断で近医で治療をうけるも改善せず,続発性緑内障を併発し当科紹介となった。入院後左眼トラベクレクトミー施行。術後40日目に左眼裂孔原性網膜剥離が発生し,ステロイド大量投与を開始した。網膜剥離は限局化したが,右眼視力低下(0.7〜眼前手動弁),中心暗点が出現,右球後視神経炎の診断にて再度ステロイドの全身投与を行うも,右眼球突出、眼筋麻痺も出現し眼窩先端症候群を呈した。CTで右眼窩漏斗部から蝶形骨洞に及ぶ陰影,左眼球壁の不整が見られ,ステロイド剤・抗生物質の全身投与にほとんど反応せず悪性腫瘍を疑い、右眼窩試験開放術を行った。結果,組織学的検索にて眼窩真菌症と診断されたが,術後全身状態は悪化の一途をたどり,抗真菌剤は局所投与のみしか行えず,敗血症で不帰の人となった1)

内因性真菌性眼内炎の治療について—19例33眼の経験

著者: 黒川真理 ,   田中稔 ,   稲垣有司 ,   松葉裕美 ,   二宮久子 ,   中島章

ページ範囲:P.592 - P.593

 緒言 近年の医療事情の変化に伴い日和見感染の増加,なかでも真菌性眼内炎の報告は急速に増加しており,その治療に関しては全身状態の管理も含め難しい問題が少なくない。また,各種抗菌剤の開発にもかかわらず効果も不確実なため硝子体手術の必要性も強調されつつある。今回我々は本症の19例33眼を経験し,本症の治療等につき若干の知見を得たのでここに報告する。
 対象及び結果 症例は全身的に何らかの基礎疾患あるいは誘因のある19例33眼で両眼性14例,片眼性5例であった。この内16例はIVH装着患者で,2例は出産後で1例に糖尿病を基礎疾患として有している(表1)。

早期硝子体手術により軽快した全身性真菌症に伴う眼内炎

著者: 足立憲彦 ,   池田幾子 ,   藤野淑江 ,   谷野洸

ページ範囲:P.594 - P.595

 緒言 近年癌治療の延命効果により癌末期前の患者において種々の眼内炎がみられ、患者の生命予後は良いと思われるもので積極的な眼科的治療を必要とする場台が増えてきた。今回,真菌性眼内炎を疑い治療を行い良好な結果を得たので報告する。
 症例 70歳,女性

ゴルフボールによる眼外傷

著者: 高橋信子 ,   関戸信雄 ,   小島孚允 ,   箕田健生

ページ範囲:P.596 - P.597

 緒言 近年のゴルフ人口の増加は目覚しく,我々の日常外来においても,ゴルフボールによる眼外傷は比較的頻度も高く,重傷例が多い。しかるに,これに関する詳細な報告は内・外共に未だみられていない。今回我々は1986年5月から1988年1月までの1年9ヵ月間に当科を受診したボール眼外傷100症例のうち,ゴルフボールによる12症例につき検討を行い,興味ある知見を得たのでここに報告する。
 症例 各症例を表1に示す。症例1〜7の7例(58.3%)は軽症例で,後遺症無く治癒したが,症例8〜12の5例(41.7%)は重症例で高度の後遺症を残し,最終視力は症例10で0.1,症例11,12は眼球摘出となった。

玩具用空気銃による眼外傷の5例の検討

著者: 矢ヶ崎悌司 ,   小泉恵里子 ,   粟屋忍

ページ範囲:P.598 - P.599

 緒言 近年,玩具用空気銃(BBガン)による眼外傷について相次いで報告され,角膜浮腫,隅角離開,虹彩根部断裂,虹彩炎,前房出血,網膜振盪,網膜裂孔,網膜硝子体出血などの症状を呈する事が知られ,角膜内皮障害については平均細胞面積の増加が認められその危険性及び長期間にわたる観察の必要性が指摘1,2)されている。しかし,症例の中には眼圧上昇を示す症例もあるがその房水動態について検討した報告は少ない。そこで今回我々は角膜内皮障害について検討を行うとともにトノグラフィーを二度にわたり施行し検討を加え興味ある結果を得たので報告する。
 対象及び方法 1987年4月より1988年3月までの間に岐阜県立多治見病院眼科を受診したBBガンによる眼外傷例5症例であり,全例小,中学生の男児であった。受傷後初診までの期間は全例2日以内であった。初診時の所見については表1,図1に示す。全例とも隅角離開,虹彩炎を起こしており,角膜に被弾した3例には角膜浮腫が認められた。初診時視力については症例4の矯正視力が0.6であったのを除き4例とも1.0以上の矯正視力を示していた。症例4も1週間後には矯正視力1.2を得ている。

外傷性眼内炎初期の硝子体所見

著者: 三島弘 ,   村上純子 ,   三島博子 ,   森川康行 ,   大鳥利文

ページ範囲:P.600 - P.601

 緒言 穿孔性眼外傷の重篤な合併症のひとつに眼内炎が考えられる。眼内炎の治療には硝子体内への抗生物質注入の他,発症早期に硝子体手術を行うことが有効であると報告されている1)。しかし,穿孔性眼外傷において臨床的に眼内炎の発症を診断することは困難な場合が多い。我々はすでにBモード超音波検査による経時的な硝子体の観察が眼内炎の診断及び手術時期の決定に有用であることを報告してきた2,3)。しかし,眼内炎の初期において硝子体中にどの様な病態が生じているかについてはほとんど報告されていない。そこで,今回,眼内炎初期の硝子体像を知る目的で,超音波検査にて小嚢様陰影が認められ眼内炎と診断し硝子体手術を施行した症例の術中に得られた硝子体を組織学的に検討した。
 症例 3歳,男児。初診:1988年3月18日。主訴:眼痛,発赤。現病歴:1988年3月17日夜,ドライバーで右眼を突き翌日近医を受診し角膜穿孔,虹彩脱出を指摘され当科を紹介され受診した。既往歴・家族歴:特記すべきことなし。初診時所見:視力は右0.01(矯正不能),左1.0。右眼角膜の4時から5時にかけて,角膜輪部より2mmの部に虹彩脱出を伴う穿孔創を認めた。前房は消失し,中間透光体,眼底は透見不能だった。左眼は異常なし。

腫瘍様所見を呈した陳旧性虹彩異物の1例

著者: 堤武文 ,   白木邦彦 ,   三木徳彦

ページ範囲:P.602 - P.603

 緒言 眼内異物のうちでも虹彩異物は統計上比較的稀である。今回我々は,無症状にて経過後,炎症症状を契機に発見された虹彩異物の1症例を経験したので報告する。
 症例 61歳,男性。

牽引性網膜剥離に対する強膜バックルと冷凍術による治療経験—7年間の経過観察

著者: 戸塚清一 ,   谷野洸 ,   瀬川雄三

ページ範囲:P.604 - P.605

 緒言 近年,穿孔性眼外傷の治療に硝子体手術が行われるようになってきた。一方,眼内組織に及ぼす影響が少ない,従来からの強膜バックル法の重要性も依然として大きい。それでは,両治療法の選択の境界はどこにあるのだろうか。ここに,眼内鉄片異物の症例で,異物除去後暫くして生じた巨大裂孔を伴う網膜剥離に対し,強膜バックル及び冷凍術で対処した1症例の7年間の経過につき報告する。
 症例 32歳男性。

新潟大学における最近3年間の眼外傷の統計的観察

著者: 原浩昭 ,   中山徹 ,   黒沢明充

ページ範囲:P.606 - P.607

 緒言 1985年1月から1987年12月までの3年間に当科外来を受診した眼外傷患者につき統計的観察を行った。
 1)眼外傷患者は456例,男/女比は2.80で,10歳代から20歳代をピークとする年齢分布を示した。

Hallermann-Streiff Syndromeと思われる4例の検討

著者: 久田廣次 ,   村上京子 ,   粟屋忍 ,   元倉智博 ,   水上寧彦

ページ範囲:P.608 - P.609

 緒言 Hallermann1)次いでStreiff2)がbird face,減毛症,侏儒を伴った先天性白内障の症例を報告しFrançois3)が独立した症候群として7つの主要症状をあげ,それが後にHallermann-Streiff syndromeとよばれるようになった。今回我々は同症候群と考えられる4例につき初診時から経過を追って現在までの所見及び視力経過を報告する。
 症例1 16歳 女性(図1)

小児の水晶体偏位症例の視力予後

著者: 山元由利恵 ,   辻岐代子 ,   栗原史江 ,   田中尚子 ,   枩田亨二 ,   湖崎克

ページ範囲:P.610 - P.611

 緒言 小児の水晶体偏位症例では,光学的矯正が容易でなく,早期より適正な屈折矯正による視機能管理を行っても良好な視力が獲得できないことがある。従って,続発症の管理のみならず,弱視の管理が問題となる。屈折矯正のみで,良好な視力の得られない症例については,手術的治療が考慮されるが,視力予後からみた手術適応について検討したので報告する。
 対象 当科において5年以上屈折矯正により視機能管理を行った,他の器質的眼疾患を合併しない水晶体偏位症例18例36眼(男8例,女10例)である。初診時年齢は2歳〜8歳(平均5.0歳),経過観察期間は5年〜16年(平均8.9年),水晶体偏位の病型の内訳は孤発例2例,家族発生例4例,Marfan症候群12例である。なお,屈折矯正の方法は,散瞳下での他覚的屈折値を検影法により有水晶体部および無水晶体部について求め,自然瞳孔下で視力矯正を行い,自覚的に使用しやすい方を選択させて眼鏡矯正を行った。

同時発症のtrilateral retinoblastomaと思われた1症例

著者: 矢ヶ崎悌司 ,   木村英次 ,   水野計彦 ,   星野元宏

ページ範囲:P.612 - P.613

 緒言 松果体は下等脊椎動物ではphotoreceptorとしての機能を有し,形態的にも網膜のphotorece-ptor cellと類似しており,「第3の目」ともいわれている.1980年,Baderら1)が系統発生学的関係より,松果体腫瘍と両側網膜芽細胞腫の合併例をtrilateral retinoblastoma (三側性網膜芽細胞腫)と名づけて症例報告をして以来,海外で40例,本邦では2例が報告されている。今回,我々は同時発症の三側性網膜芽細胞腫と思われる1例を経験したので報告する。
 症例 患者:生後3ヵ月,女児。

成人の虹彩にみられたJuvenile xanthogranulomaの1例

著者: 小関義之 ,   荻野公嗣 ,   赤星隆幸 ,   堀貞夫 ,   谷島輝雄

ページ範囲:P.614 - P.615

 緒言 Juvenile xanthogranuloma (以下JXG)は,乳幼児の皮膚にみられる疾患で,多くは自然消退する良性病変である。皮膚病変がある場合,生検によって診断は容易に確定する。稀に虹彩のみに見られることもある。また成人に発症した場合,診断は困難となり,眼球摘出された例もある。今回,我々はJXGが成人の虹彩に限局して生じた症例を経験したので報告する。
 症例 27歳,男性

広範な周辺部角膜虹彩癒着を伴った症例について

著者: 大路正人 ,   宇仁明彦 ,   木下茂 ,   松田司 ,   清水芳樹 ,   額田朋経

ページ範囲:P.616 - P.617

 緒言 続発性緑内障の中で周辺部角膜と虹彩の癒着を特徴とする疾患にはAxenfeld-Rieger (A-R)症候群1),iridocorneal endothelial (ICE)症候群2),posterior polymorphous dystrophy3),iridoschisis4)などがある。今回,われわれは輪状の周辺部角膜虹彩癒着を呈し,上記の疾患にいずれにも属さないと考えられる症例を経験したので報告する。
 症例 症例1:52歳の女性で左眼の充血を主訴として1988年4月近医を受診し,続発性緑内障の診断にて当科を紹介された。既往歴および家族歴には特記すべき事はなかった。初診時の矯正視力は右眼1.0,左眼1.0,眼圧右眼13mmHg,左眼15mmHgであった。右眼には異常は認めなかったが,左眼には角膜周辺部に幅約2mmの輪状の虹彩前癒着を認め,虹彩前癒着の認められる部位の角膜は白く浮腫状を呈していた。瞳孔は12時の方向に軽度変位しており,1時から2時の位置に虹彩表層の欠損を認めた。また prominent anterior displaced Schwalbe's lineは認められず,隅角付近には虹彩前癒着のないclear zoneを認めた(図1)。輪状の虹彩前癒着のため虹彩は前方に牽引され,虹彩と水晶体の間の距離は拡大していた。

連載 眼科図譜・273

外傷性網脈絡膜破裂

著者: 鈴木摩里 ,   樋田哲夫

ページ範囲:P.478 - P.479

 緒言 鈍的眼外傷において,前眼部からの介達性衝撃力により眼底後極部に脈絡膜破裂をきたすことはよく知られている。視神経乳頭の同心円状に存在する三日月状の形を特徴とし,時として黄斑部を縦断している。受傷直後には硝子体出血あるいは網膜下出血のために破裂部の確認ができないことが多い。網膜は伸展性に富むために同時に破裂することは極めて少ない。今回我々は,鈍的外傷後の硝子体出血を伴わない網脈絡膜破裂の1症例を経験したのでここに報告する。
 症例 21歳男性。サーフィン中に相手とぶつかり肘で左眼を強打された。受傷直後より高度の眼瞼腫脹と皮下出血により開瞼不能となった。受傷2日後に,左視力低下を主訴に当科を受診した。受診時,視力は右1.5(矯正不能),左0.04(矯正不能),眼圧は右16mmHg,左8mmHgであった。細隙灯顕微鏡検査において左眼に2十の細胞を認めたが,前房出血や水晶体脱臼は認めなかった。硝子体は透明で硝子体剥離は存在しなかった。眼底検査において後極部に三日月状の網脈絡膜破裂を認め同部は強膜が露出していた。破裂部周囲の特に耳側網膜は白く浮腫状を呈し視神経乳頭周囲には,網膜下出血を認めた(図1)。

眼の組織・病理アトラス・30

線維柱帯(小柱網)

著者: 猪俣孟

ページ範囲:P.482 - P.483

 線維柱帯(小柱網) trabecular meshworkは前房隅角に存在する網目状の組織(図1)で,シュレム管への主要房水流出路である。房水は線維柱帯の網目の間隙,すなわち線維柱間隙inter-trabecular spaceを通過する。
 眼球の子午線方向の切片では,線維柱帯は細長い楔型の組織として観察される。楔の先端は角膜周辺に,楔の基底部は毛様体前端部にある。線維柱帯の強膜側にシュレム管が存在する。線維柱帯は機能的には前部線維柱帯と後部線維柱帯に分けられる(図2)。前部線維柱帯はシュワルベ線からシュレム管の前端までをいい,角膜網cornealmeshworkとも呼ばれる。房水流出路としての重要性は少ないと思われる。シュレム管の前端から隅角底までは後部線維柱帯である。後部線維柱帯はシュレム管に面する部と毛様体前端部に面する部位にさらに分けられ,毛様体に面する部は毛様体網ciliary meshworkとも呼ばれる。後部線維柱帯は経シュレム管房水流出路としても経ぶどう膜強膜房水流出路としても重要な部位である。隅角陥凹が深いことが線維柱帯が良く発育していることを示す指標となる。

今月の話題

眼のエンドスコープ

著者: 江口秀一郎

ページ範囲:P.485 - P.488

 眼のエンドスコープについてその機構,特性について述べ,さらに眼科領域における研究や臨床応用の現状を述べた。また,エンドスコープの課題と展望についても言及した。

眼科手術のテクニック—私はこうしている・4 計画的嚢外白内障手術

乱視のコントロール

著者: 清水公也

ページ範囲:P.577 - P.579

1.術後乱視を左右する因子
(1)術前よりの乱視
(2)術中の切開,縫合

眼科薬物療法のポイント—私の処方・4 ウイルス性結膜炎

単純ヘルペス眼瞼結膜炎(成人初感染例)

著者: 秦野寛

ページ範囲:P.581 - P.583

 19歳男性。1週間前から左眼の上下眼瞼に水疱性の発疹が出現。続いて結膜の異物感を感じて来院した。水疱の中央にはくぼみがあり,結膜には,充血,水様性眼脂と濾胞がある。左耳前リンパ節の圧痛,腫脹もある。

海外文献情報

新しい炭酸脱水酵素阻害剤の耐用性/Birdshot chorioretinopathyの臨床上の特徴と経過

著者: 難波克彦

ページ範囲:P.574 - P.574

 新しい炭酸脱水酵素阻害剤である5,6-dihydro-4-(2-methylpropyl)amino-4H-thieno〔2,3-b〕thiopyran-2-sulfonamide 7,7-dioxide hydroch-loride(MK−927)の0.5,1.0,2.0%点眼薬の耐用性をみる目的で12例の健康人にまず2%点眼薬を点眼し(うち2例はプラセボー)(初回,60分,70分後の計3回点眼)刺激症状の有無をチェックし,4時間後に眼圧を測定し,点眼20時間前のものと比較した。すべての症例で一過性の刺激症状がみられたが,2%点眼薬は使用に十分耐えられるものであった。眼圧は平均4.6mmHg,29.7%下降がみられ,これは全身投与量の1%以下で同等の眼圧下降作用が得られることになり,炭酸脱水酵素阻害剤の全身性副作用の軽減が期待される。本剤は水溶性で,眼内移行にすぐれ,β-ブロッカー剤などの併用効果も期待される.角膜への影響は全くみとめられなかった。
 一回点眼による眼圧下降効果,作用持続時間などの検討が待たれる。

論文論

図説/面白さ

ページ範囲:P.576 - P.576

 論文の図や表につけられた説明のことを図説といいます。英語ならlegendです。どうも一般に,図説は比較的軽く考えられているような印象を受けます。
 よくあるのが,「症例3の左眼眼底」などと,ごく簡単に書かれ,いわば「木で鼻をくくったような」無愛想なスタイルが多いのです。

臨床報告

両眼の乳頭上に発生した網膜細動脈瘤の1例

著者: 岩澤暁 ,   馬嶋昭生 ,   白井正一郎 ,   滝昌弘

ページ範囲:P.619 - P.623

 両眼の乳頭上に多発した網膜細動脈瘤を,6年間にわたって経過観察した。症例は51歳の女性で,主訴は左眼に急発した視力障害であった。左眼の上耳側動脈枝に1個,乳頭面上に2個の網膜細動脈瘤が認められ,矯正視力は0.01であった。網膜出血と黄斑部浮腫は次第に消退し,上耳側動脈の細動脈瘤は器質化して7ヵ月後には視力は1.0まで改善した。2個の乳頭面上の細動脈瘤もやや発赤拡大した後,4年6ヵ月後に器質化した。初診時右眼にも,4分の1乳頭径で黄色円形の細動脈瘤が3個乳頭上に認められた。中央の1個は,発赤して1乳頭径まで拡大し,4年3ヵ月後には網膜中心動脈枝閉塞症を併発したが,4年6ヵ月後に黄白色となり器質化してきた。

先天性停止性夜盲不全型の1家系

著者: 城山敬康 ,   三宅養三 ,   太田一郎 ,   堀口正之

ページ範囲:P.625 - P.629

 3名の先天性停止性夜盲不全型を含む新しい家系を経験した。3名ともにERGには一定した共通点がみられ,錐体系ERGの一つである30HzフリッカーERGは,本症に特徴的な明順応経過中の著しい振幅増大と独特の波形変化がみられた。屈折異常には大きな差がみられ,1名は中等度遠視,1名はほぼ正視,他の1名は強度近視であった。この中の1名は不全型と診断される前に,遠視性弱視と診断され,約10年間の遠視眼鏡装用で有意な視力向上を認めた。又,他の1名は,30年前に網膜色素変性症の診断をうけていた。

糖尿病性局所黄斑部浮腫に対するダイレーザー光凝固療法

著者: 池田誠宏 ,   佐藤圭子 ,   三木徳彦 ,   石川浩子 ,   河野剛也

ページ範囲:P.631 - P.634

 糖尿病性局所黄斑部浮腫に対してダイレーザーによる光凝固を行い,その有効性を検討した。光凝固の波長はヘモグロビンに最も吸収率の高い577nm (黄色)を用いた。光凝固は、螢光眼底造影で透過性亢進を示す毛細血管瘤を目標とした。局所黄斑部浮腫に対する光凝固後4ヵ月以上の経過観察が行えた26例34眼を対象とした。視力予後は,改善17,不変15,悪化2であり,術前視力0.1以上と0.1未満の2群間に有意の差はなかった。controlled studyは行っていないものの,577nmの波長を用いた直接光凝固の有効性が示唆された。

運動負荷で乳酸,ピルビン酸の代謝異常を示したミトコンドリアミオパチーの1例

著者: 鈴木純一 ,   松田整二 ,   五十嵐保男 ,   竹田眞 ,   中川喬 ,   館延忠 ,   佐藤昌明

ページ範囲:P.635 - P.639

 54歳の女性で,両眼の眼瞼下垂および全外眼筋麻痺を示して眼筋ミオパチーを呈したミトコンドリアミオパチーの1例を報告する。右眼には黄斑部を中心に近視性網脈絡膜萎縮が認められたが,網膜色素変性症の所見は両眼ともに認められず,他の眼科的,神経学的所見や心電図は正常であった。上腕二頭筋の生検でragged-red fiberを認め,電子顕微鏡では筋鞘膜下に異常なミトコンドリアの集積が認められた。運動負荷試験によって血中乳酸、ピルビン酸の異常な上昇がみられ,これは負荷後30分でもつづいていた。本症例のような外眼筋障害単独型のミトコンドリアミオパチーにおいてもミトコンドリアの好気的エネルギー代謝の異常が認められ,運動負荷試験は本症の診断に有効なスクリーニング法と考えられた。

鼻涙管内のシリコンループ留置術—1.ライトガイドの併用

著者: 若狭美喜男 ,   小松茂 ,   柳田泰

ページ範囲:P.641 - P.644

 涙道閉塞症に対する非観血的療法として,シリコンループ留置術が行われるようになってきた。しかし,鼻腔内から案内ブジーを取り出す操作に困難を伴うことが問題とされ,これまでにもこの点に関するいくつかの報告がある。今回我々は,後天性涙道閉塞症13例に対し,オキュトームに付属するライトガイドを利用してシリコンチューブの留置を行った。ライトガイドは,鼻腔内で十分な明るさを持ち,同時に十分な硬さを持つため案内ブジーとして最適であった。本法によって,従来困難であるとされた,案内ブジーを下鼻道から取り出す操作を容易に行うことが可能となった。

電気眼振応用の他覚的視力検査13年間の経験

著者: 真壁禄郎

ページ範囲:P.645 - P.649

 1.新型Jung電気眼振装置を用い投影面の中央に検査距離155cmで直径5mm (視角11分)の光点視標を投影し,視運動性眼振が抑制される視標の最小輝度を測定した。弱視を除く種々疾患の非詐盲患者444眼につき自覚視内と比較して基準曲線を作製した。
 2.投影面一杯に廻転点状模様を投影,眼振が誘起される最小輝度を測定し,視力と比較した。確実に眼振は起こるが,測定値の分散が大きい欠点があった。
 3.詐盲患者の他覚的視力検査には,眼振誘起法でおおよその見当をつけてから,眼振抑制法を用いれば過失が少ない。179眼302眼で他覚的視力に較べ自覚的視力が著しく低く詐盲の証明となった。うち71眼は自覚視力は眼前手動以下に低下していた。56例は片眼性,123例は両眼性であった。
 4.眼振投影面の中心部を隠蔽して視運動性眼振を記録することにより、求心性視野狭窄を伴う詐盲を見破れた。

Multiple evanescent white dot syndromeのリンパ球サブセット

著者: 山口克宏 ,   金原洋子 ,   渡辺誠一 ,   玉井信

ページ範囲:P.651 - P.653

 Multiple evanescent white dot syn-dromeは,急性の視機能低下で発症し,眼底に黄白色斑が多発性に出現し,早い経過で消失する疾患である。我々は,本症と考えられる3症例のリンパ球サブセットを調べた。その結果,OKT3,OKT4,OKT8,OKT4/OKT8,OKIa1,OKB7は正常であったが,OKM1はやや増加し,OKT9およびOKT10は有意に高値を示した。OKT9とOKT10は,Tリンパ球が分化する初期の段階で出現するearly thymocyte抗体であり,本疾患における免疫反応の関与が示唆された。

他覚的視力測定のVisuo-technology

著者: 安達恵美子

ページ範囲:P.655 - P.658

 他覚的な視力測定として,現時点では視運動性眼振法,Preferential looking法,そして視覚誘発電位を用いたものの3つが行われている。なかでも視覚誘発電位は,大脳皮質での電位変化をとらえているために期待は大きい。その発展のためには,誘発電位の特性を知った上での刺激,記録装置のむだのない使用が望まれる。パターン刺激装置としてのプロジェクター,レーザー干渉縞,LED,反射鏡面,ミラーガルバノメーター,CRTの各種を用いた方式について,その特性,利点,欠点をまとめた。CRT方式が一般に普及しているが,他の3種のパターン発生装置も図示した。
 さらに記録装置として,加算平均器,lock-inamplifier,予想フィルター,フーリエ解析を応用した4種を比較検討した。加算平均器以外の記録方法には,その本質を無視すると危険であること,加算平均器にまさる記録器はないという結論を述べた。

難治性眼精疲労患者に対する調節麻痺剤点眼治療について

著者: 近江源次郎 ,   木下茂

ページ範囲:P.659 - P.663

 調節の準静的特性検査を行った難治性の眼精疲労を訴える患者のうち,調節安静位1-7)の屈折値の変動幅が大きい症例5例10眼(うちVDT従事者3名6眼,頭頸部損傷1名2眼,出産後1名2眼)に対して1%塩酸サイクロペントレート(サイプレジン®)点眼8,9)を20倍に希釈したものを毎日就眠前に1回点眼するという治療を試みた。臨床評価は点眼開始2ヵ月後に調節の準静的特性検査を行い,調節安静位の屈折値の変動幅,調節安静位の平均屈折値,他覚的調節幅の3つのパラメーターについて比較検討を行った。その結果,開始約2ヵ月後には,調節安静位の屈折値変動幅の減少(P<0.01),調節安静位の近視化の改善(P<0.01)を有意に認めた。これら他覚的所見の改善に比例した自覚的症状の改善を全ての例で認めた。点眼開始前と開始2ヵ月後の瞳孔面積の比較では大きさ及びその運動において差を認めなかった。このことより20倍希釈の0.05%塩酸サイクロペントレート点眼(サイプレジン®点眼)の毎日就眠前の点眼治療は調節安静位の変動幅の大きい難治性の眼精疲労に対して有用であると考えられた。

Just Arrived

白内障手術創における新生血管見逃されがちな硝子体出血の原因として

著者: 桂弘

ページ範囲:P.623 - P.623

 白内障手術創における新生血管が原因と思われる再発性の硝子体出血8例について検討した。全例,水晶体嚢内摘出術後で,うち2例は前房レンズが移植されていた。年齢は34歳から79歳,手術後の期間は,10ヵ月の1例を除いて,7年から17年と長期間経過した症例であった。診断は,上方隅角部の新生血管の確認と隅角鏡の振動によって出血が誘発されれば確実であるが,時には隅角の螢光血管撮影も有用である。無水晶体眼の再発性の硝子体出血の症例で,硝子体牽引,網膜裂孔,網膜新生血管,虹彩ルベオーシスなどの原因となる所見が認められない場合には,原因の一つとして考慮されるべきである。治療はアルゴンレーザーによる新生血管の直接凝固が有効であり,8例全例で出血の再発は認められていない。

汎網膜光凝固の視神経乳頭陥凹に及ぼす影響

著者: 桂弘

ページ範囲:P.673 - P.673

 糖尿病患者では,正常人と比べて,緑内障の罹患率が高いと言われているが,特に増殖性糖尿病性網膜症で汎網膜光凝固を施行された症例では,緑内障性視野異常を検出することは非常に困難であり,乳頭陥凹の診断上の重要性がより高いと考えられる。しかし,光凝固による組織障害が網膜内層,特に神経線維層に及ぶと,上行性萎縮によって視神経にも影響が波及する可能性がある。そこで,汎網膜光凝固の乳頭陥凹に及ぼす影響を知る目的で,増殖性糖尿病性網膜症100例について,汎網膜光凝固施行前と施行1年後の視神経乳頭の立体写真からcup-to-disc ratioを測定し,比較検討した。コントロールとしては,光凝固を施行していない他眼を用いた。その結果,汎網膜光凝固施行1年後では,乳頭陥凹の程度に有意の変化は認められず,これはアルゴンレーザーでもキセノン光凝固でも同様であった。以上より,乳頭陥凹は,汎網膜光凝固施行後の糖尿病患者においても,緑内障の診断上,信頼できる指標であると考えられた。

文庫の窓から

諸人心得—眼病論

著者: 中泉行信 ,   中泉行史 ,   斉藤仁男

ページ範囲:P.664 - P.665

 明治16年(1883),第1回眼科留学生となった梅錦之丞氏が帰国して東京大学医学部教授となり,その翌年12月15日には梅教授をはじめ須田哲造,井上達也,安藤正胤,桐淵光斎,田代基徳の諸氏が相会して眼科会結成の企てもあり,中央においては西洋眼科を主軸に漸く眼科の近代化が進められつつあった。本書はこうした時期,明治16年1月,柿沼真一(節堂,下野国河内郡多功宿の人)氏著,島村利助書林より発党された。
 本書は17丁全1冊(18×12.2cm)木版,四周双辺,無界,毎半葉9行,漢字片仮名交り,振仮名付和文,和綴りの小型本である。内容は総目並びに附録目次によれば以下の通りである。

Group discussion

画像診断

著者: 菅田安男

ページ範囲:P.667 - P.669

 種々な診断法を駆使し,個々の画像診断法の限界を高めるための自由な討論が行われた。画像解析が各方面に使われるようになったので今年は林一彦先生に赤外螢光眼底造影法の話題を提供していただいた。

色覚異常

著者: 深見嘉一郎

ページ範囲:P.669 - P.673

1.視神経疾患における青錐体系反応の易障害性について
〇三原 敬(慈恵医大)・北原 健二・松崎 浩
 視神経疾患における青錐体系反応の易障害性を検索する目的で,視力障害がほぼ正常に回復した症例における分光感度特性について検討した。2系列のマックスウエル視光学系を使用し,背景野を視覚8度で,1,000 photopic trolandsに設定し,検査光の波長は400nmから700nmまで,大きさは視角1度で,呈示時間を200msecとした。片眼のみに視力および視野障害のみられた視神経疾患につき分光感度測定を施行し,健眼と患眼の分光感度を比較した。患眼の分光感度は視力がほぼ回復した時点においてもなお健眼と比較して,主として青錐体系の反応の低下が残存し,視神経疾患においては主として青錐体系の反応の回復が遅れることが示された。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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