特集 第42回日本臨床眼科学会講演集(3)1988年9月 東京
学会原著
初期糖尿病性網膜症における血液網膜柵の検討
著者:
金森美智子1
藤井正満1
早坂征次1
渡辺正樹1
山本由香里1
瀬戸川朝一1
所属機関:
1島根医科大学眼科
ページ範囲:P.565 - P.568
文献購入ページに移動
網膜症発症前と初期網膜症を有する糖尿病患者の血液網膜柵内方透過係数(Pin)と硝子体内拡散係数(D)を検討した。PinとD値は,Fluorescein-Na静注後のvitreous fluoro-photometry値と血漿free fluorescein値よりcomputer simulation法を用いて算出した。正常群のPinおよびD値は20歳代から40歳代にかけてほぼ一定だが,50歳代以後に増大した。それゆえ,正常眼では50歳代より,血液網膜柵の機能異常や硝子体性状の変化が生じるものと推測された。網膜症を有さない糖尿病患者A群のPinおよびD値は,各年代ごとに正常群と比較するといずれの年代でも有意差はなかった。A群の症例をHbA1c値と罹病期間をもとに細分してPin値を検討すると,60歳代でHbA1c値が高く,また罹病期間が長い症例では,正常群とくらべ,Pin値は増大していた。Cunha-Vazらは,網膜症のみられる前より,血液網膜柵の破壊がみられると報告しているが,正常群と年齢をmatchさせて比較しただけでは,そのような所見は,観察されなかった。しかし,60歳代でHbA1c値が高く,罹病期間が長い糖尿病患者と正常群とを比較すると,彼らの知見と合致した。