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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科43巻6号

1989年06月発行

雑誌目次

特集 第42回日本臨床眼科学会講演集(5)1988年9月 東京 学会原著

アトピー性皮膚炎に伴う網膜剥離

著者: 高井勝史 ,   出口順子 ,   河野隆司 ,   高浦千晶 ,   宇山昌延

ページ範囲:P.897 - P.900

 アトピー性皮膚炎に伴う網膜剥離の特徴と手術成績を明らかにするために,最近6年間に当科で手術したアトピー性皮膚炎に伴う網膜剥離の症例を検討した。症例は15例19眼あり,片眼性10例,両眼性5例で,平均年齢は20歳であった。症例数は近年ほど増加していた。対象眼では11例13眼にアトピー性白内障がみられ,そのうち9眼で白内障の強い方に網膜剥離が発生していた。また白内障手術後に網膜剥離の発生,発見例が多く(9眼),アトピー性白内障の術後は網膜剥離の発生に充分注意を払う必要がある。
 網膜剥離は大別して2つの型があり,1.眼底最周辺部に裂孔があり,周辺部に硝子体混濁と灰白色の著しい網膜混濁を認める扁平な網膜剥離。2.赤道部の格子状変性に伴う円孔または裂孔による通常の若年型の網膜剥離であった。前者は白内障との関連が強く,アトピー性網膜剥離と呼ぶことができる。この型の網膜剥離が14眼(74%)あった。後者は若年型の網膜剥離の発症年齢が年少に早まったものとみられた。
 手術は全例scleral buckling法を行い,そのうち輪状締結術の必要例が多くあった。再手術を要したのは6眼で,平均手術回数は1.47回であり,最終的に全例復位し,手術成績は良好であった。硝子体手術の適応例はなかった。

下斜筋後転術による眼位の矯正について

著者: 初川嘉一 ,   山田泰生 ,   岡本純之助 ,   楠部亨 ,   大鳥利文

ページ範囲:P.901 - P.903

 下斜筋後転術による垂直,水平眼位の変化について検討した。片眼の下斜筋後転術20例で,垂直眼位は5〜7△矯正された。両眼の下斜筋後転術8例では,垂直眼位の変化はほとんど起こらなかった。下斜筋後転術による水平眼位の変化は,輻湊側へ移動する例と開散側へ移動する例とがあり,一定の傾向を認めなかった。下斜筋過動症を伴った症例では,下斜筋後転術を先に行い,残った水平斜視に対して定量手術を行うのが妥当と考えられた。

先天緑内障術後の視能訓練

著者: 辻村まり ,   三谷広子 ,   溝上國義 ,   山本節

ページ範囲:P.905 - P.908

 先天緑内障の術後管理では,視能訓練が必要である。眼圧コントロールが良好でも,適切な視能訓練がされないままに放置された症例では機能弱視に陥る傾向が強く,視力予後が不良になる場合が多い。我々は先天緑内障術後患者の視力を早期より測定し,視力に左右差が認められた症例に対し視能訓練を施行し,弱視化の予防に有効であった。

弱視訓練用視表による不同視弱視の治療

著者: 永井眞之 ,   塩田昌美 ,   鈴木英理 ,   清水由規

ページ範囲:P.909 - P.911

 我々の開発した弱視訓練用視表の遠視性不同視に対する有用性を検討した。両眼とも遠視で,左右屈折差2.0D以上,健眼視力1.0以上,眼位ずれがなく,弱視眼の固視良好な34例を対象とした。
 弱視訓練用視表を併用した群の視力上昇は,片眼遮閉や健眼アトロピン点眼併用例に比べてその率,量ともに有意に大であった。初診時の各群間の平均屈折差と平均視力差に有意差はなかった。初診年齢は視力上昇への影響因子とはならなかった。上昇不良の原因として,不同視差が5D以上ある場合が考えられることと,左右差として左眼が弱視の場合,予後良好な結果を得る可能性が示唆された。

Superior oblique myokymiaの神経眼科学的検討

著者: 三村治 ,   田窪一徳 ,   駒井潔 ,   今井良江 ,   井崎篤子

ページ範囲:P.913 - P.916

 単眼性の回旋性異常眼球運動であるsuperior oblique myokymiaの成人男子3症例を神経眼科学的に検討した。患側は全例右眼である。
 赤外線テレビジョン眼底カメラを用いた fun-dus haploscopeにより,本症の異常眼球運動を記録できた。その振幅は最も異常眼球運動が大きな症例で,回旋成分が平均約1.3度,垂直成分が約9分であった。下方視により異常眼球運動は振幅・頻度とも増大した。
 症例はいずれも複視や動揺視にもとづく眼精疲労で眼科を受診した。本症の診断には,前眼部の細隙灯顕微鏡観察が極めて有用であった。

急激に視力低下をきたした眼窩蜂窩織炎の1例

著者: 鹿野道弘 ,   鈴木美佐子 ,   村上正文

ページ範囲:P.917 - P.919

 43歳,男性。篩骨洞・前頭洞膿嚢腫より波及した眼窩蜂窩織炎により,虚血性視神経症および網膜中心動脈閉塞症を併発し,急激な視力低下をきたした比較的まれな症例について報告した。本症の主訴は,左眼外側部痛と,左眼瞼腫脹であり,眼瞼下垂・眼球突出が見られ,高眼圧を呈していた。視力低下は軽度で,眼底には脈絡膜皺襞を認め,断層撮影にて副鼻腔の含気量低下を認めた。副鼻腔炎と眼窩蜂窩織炎の診断にて抗生物質の大量投与を施行したが,翌日,眼瞼腫脹が増悪した。鼻内篩骨洞開放術を施行したところ,眼瞼腫脹および眼球突出は改善したが視力は0となり,対光反応は消失していた。検眼鏡的には網膜中心動脈閉塞の所見を認めるものの,螢光眼底造影では明らかな色素流入の遅延や閉塞所見は見られなかった。対光反応の出現と共に視力は0.4まで改善したが,視野の障害が残った。

甲状腺眼症の臨床像—外眼筋肥大の有無を基準として

著者: 吉川啓司 ,   馬場裕行 ,   水野光通 ,   井上トヨ子 ,   井上洋一

ページ範囲:P.921 - P.924

 3年間に入院加療を受けた甲状腺眼症300例600眼の外眼筋の肥大(筋肥大)の有無を,眼窩水平断および冠状断の2方向CTスキャンより判定し,各眼症状への影響を検討した。
 各眼症状は筋肥大を認めた395眼で,筋肥大のなかった205眼に比べ有意に高頻度に認められた(P<0.002,P<0.0001)。また,筋肥大を認めた群では筋肥大を認めなかった群より眼障害が中等症,重症をとることが多く,外眼筋障害と視神経・網膜障害との間には有意差があった(P<0.001,P<0.01)。筋肥大の程度が強くなると眼障害の重症度が増大した。
 甲状腺眼症の臨床像の把握に対して,CTスキャンより判定される外眼筋肥大の有無および程度を基準とする方法が有用であることが示された。

Multifocal fibrosclerosisと思われた1症例について—眼窩病変を中心に

著者: 斎藤和幸 ,   鈴木一作 ,   高橋茂樹

ページ範囲:P.925 - P.929

 後腹膜線維症,縦隔線維症そして眼窩の偽腫瘍を合併したmultifocal fibrosclerosisと思われる症例を報告した。症例は,51歳の男性で,主訴は両眼球の突出。軽度の貧血,低蛋白症,血沈の亢進,CRPの上昇がみられたが甲状腺機能は正常。CT検査から両眼窩内,両側の腎周囲および縦隔洞内にsoft density massを認め,眼窩部および腎周囲の組織より,リンパ球を中心とした慢性炎症細胞の浸潤を伴う肉芽腫様の結合組織が認められた。
 当初は,両眼球突出と結膜の充血のみであったが,その後,眼底は眼球後部からの圧迫によると思われる網膜の皺壁が認められた。さらに1カ月後,網脈絡膜には浸潤様の軟性斑がみられた.これらに対して,ステロイド剤の全身投与を行い,病状の軽快,固定化が認められたが最終的には,心不全,腎不全を起こし死亡した。

岩手医大眼科における最近8年間の眼部悪性腫瘍の検討

著者: 飯塚和彦 ,   米山高仁 ,   亀井亜理 ,   小豆島純子 ,   田澤豊 ,   鈴木武敏

ページ範囲:P.931 - P.934

 1987年までの8年間に,手術的に摘出または切除された眼部腫瘤性病変のうち,病理組織学的に悪性腫瘍と診断された50症例について検討を加えた。
 1)頻度は年平均6.3例であり,増加傾向は認められなかった。
 2)性差では,女性に若干多かった。
 3)年齢分布は,男性の平均が45.3歳,女性の平均が55.3歳であった。
 4)病理診断別頻度は基底細胞癌18例,網膜芽細胞腫9例,脂腺癌7例,扁平上皮癌,悪性黒色腫が5例などであった。転移性腫瘍は肺癌から脈絡膜への1例のみであった。
 5)部位別では,眼瞼が30例,60%と過半数を占めた。眼窩は5例と少数にとどまった。
 6)再手術を施行されたものが5例あった。
 7)放射線療法は16例に施行されていた。
 8)化学療法は4例に施行されていた。

Primary aberrant oculomotor regenerationの2症例

著者: 田辺由紀夫 ,   八木橋修 ,   鈴木利根 ,   石川弘 ,   北野周作

ページ範囲:P.935 - P.937

 動眼神経麻痺の進行中に異常再生による症状が出現するprimary aberrant oculomotor regenerationを呈し,蝶形骨洞嚢胞を原因とする症例と,上眼瞼の特異な律動運動を伴う症例を経験した。
 症例1は51歳の男性。複視を訴えて来院。右眼に異常再生の症状を伴う動眼神経麻痺を認め,CT検査などから右蝶形骨洞嚢胞と診断された。症例2は64歳の女性。1年前より徐々に進行する複視を訴えて来院。異常再生の症状を伴う右動眼神経麻痺に加え,右上眼瞼の律動運動を伴っていた。血管撮影で海綿静脈洞内内頸動脈瘤と診断された。

後天色覚異常におけるパネルD−15テストの限界—先天赤緑異常に視神経疾患を合併した症例について

著者: 野地潤 ,   岡部高雄 ,   神立敦 ,   環龍太郎 ,   北原健二

ページ範囲:P.939 - P.942

 Farnsworth dichotomous test (PD−15)を先天赤緑異常に視神経疾患を合併した5例に施行した。うち3例で白色背景野における中心部の分光感度を測定した。この3例で,全波長領域にわたり感度低下があり,特に短波長領域すなわち青錐体系の反応は著明に低下していた。
 PD−15では,1例はpass,4例は赤緑異常を呈し,いずれも青黄異常軸の混同はなく,分光感度測定で示された青錐体系の障害は反映されなかった。
 先天色覚異常に後天色覚異常を合併した場合には,後天色覚異常のタイプ判定は不可能であり,また,PD−15のみで後天色覚異常のタイプを判定することには問題があると考察した。

視神経疾患診断における短潜時視覚誘発反応(SVEP)の有用性の検討

著者: 正城良樹 ,   筒井純 ,   武田純爾 ,   川島幸夫 ,   千羽一

ページ範囲:P.943 - P.946

 視神経疾患46例65眼(視神経萎縮24例39眼,視神経炎13例16眼,外傷性視神経損傷9例10眼)に対して,短潜時視覚誘発反応(SVEP)を施行し,その有用性を検討した。63眼,95.4%にSVEP早期成分(N26・N32・N40)の消失を認めた。多発性硬化症の視神経炎例におけるパターン反転刺激視覚誘発反応(PVEP)の異常率と大差はなく,SVEPは視神経疾患,特にPVEPで評価しにくい低視力者,中心暗点例,固視不安定例,中間透光体混濁例に対し,有用な検査診断法と考えられた。

学術展示

小児にみられた視神経乳頭サルコイドーシスの1例

著者: 今井良江 ,   三村治 ,   二宮俶子

ページ範囲:P.960 - P.961

 緒言 サルコイドーシスにおける眼病変は約60%に認められ,視神経病変は稀で約5%であるという1)。今回著者は,小児の片眼に発症したサルコイドーシス視神経乳頭肉芽腫症例を経験したので報告する。
 症例 12歳,女児。

血中C-ペプチド値および治療法別に見た糖尿病性網膜症の進展

著者: 橋場のり子 ,   山本禎子 ,   山下英俊 ,   堀貞夫 ,   関根信夫

ページ範囲:P.962 - P.963

 緒言 糖尿病の治療初期において,血糖がコントロールされても網膜症が悪化する症例をみることは臨床上,我々がしばしば経験することである1-3)。糖尿病性網膜症は,高血糖に起因したさまざまな代謝障害のために生じた合併症であることは異論のないところではあるが,血糖コントロールと網膜症の関係については必ずしも明確でない。すなわち急激なコントロールは時として網膜症を悪化させることがあるという考えがあり,mild controlが検討されている。悪化は増殖性,前増殖性病変の場合のみならず,単純性網膜症の際にみられている。血糖コントロールに伴い,網膜症の悪化がみられた例で治療法の違いが関与している可能性を考え,インスリン投与群,非投与群に大別し,さらに内因性インスリン分泌能の指標である空腹時血中C—ペプチド値(CPR)4)が高い群(≧1.0)と低い群(<1.0)とに分け,それぞれにおいて治療法別に網膜症の出現進展状況を調べ,CPR値と治療法がどのように網膜症に関与するかを検討した。
 対象および方法 対象は内科的管理開始後早期より当科糖尿病外来受診し3ヵ月以上経過を観察し得た45例90眼である。

43年ぶりに視力回復した戦傷例について

著者: 武田純爾 ,   矢木豪 ,   正城良樹 ,   田淵昭雄 ,   筒井純

ページ範囲:P.964 - P.965

 緒言 戦争中負傷し,高度の視覚傷害を有していた男性が,手術により視覚を回復し,さる3月に『43年ぶりに視力回復した』と一部のマスコミに報道された。このような極めて貴重な症例は,発表する義務があると考え,ここに報告する。
 症例 63歳の男性(B3639)。

未熟児網膜症治療用試作コンタクトレンズの使用経験

著者: 廣辻徳彦 ,   片岡淳子 ,   川崎茂 ,   森下清文 ,   中島正之 ,   渡辺千舟

ページ範囲:P.966 - P.967

 緒言 従来,未熟児網膜症に対する光凝固は,キセノン光凝固装置で行われていた1,2)が,近年,馬嶋式未熟児・新生児用2面鏡コンタクトレンズが開発され,アルゴンレーザー光凝固を用いた治療が行われるようになってきた3,4)。今回我々は,瞼裂が小さく馬嶋式2面鏡では光凝固が困難な症例に遭遇し,馬嶋式2面鏡より接眼部の直径が小さい2面鏡を試作・応用し,有効であったので報告する.
 症例 症例は妊娠28週,体重1,024gで出生した女児で,出生後1分のApgar scoreは5点であった。生直後より気管内挿管でO2投与が行われ,レスピレーター,O2boxも使用された。生後51日目(延べ在胎35週)の眼科初診時には体重1,216gで,前眼部・中間透光体に異常なく,角膜径は8mm,散瞳時の瞳孔径は6mm,左右差は認めなかった。眼底は網膜の色調がやや悪かったが,乳頭の境界はほぼ鮮明で,周辺部では血管の発育不良や蛇行があり,新生血管,無血管領域,境界線形成,点状出血も認められた。

汎網膜光凝固と後極部浮腫について

著者: 三木正毅 ,   小紫裕介 ,   三浦昌雄

ページ範囲:P.968 - P.969

 緒言 糖尿病網膜症に対する網膜光凝固はもっとも有効な治療手段として一般に認められている。前増殖型および増殖型の糖尿病性網膜症に対する汎網膜光凝固(以下PRP)の治療効果もまた,現在異論のないところである。しかしながら,無効例やPRP後に視力低下をきたす例があることも問題になる事実である。ことに後極部(黄斑部)浮腫の増悪は,ときに著明な視力障害をひき起こし,大きな課題となっている。PRP後,後極部浮腫を増悪させるさまざまな要因が考えられているが,そのうちで硝子体のあり方が大きく関与しているのではないかと考え,以下の調査を行った。
 対象 対象としたのは,1985年1月〜1987年3月までに当院眼科糖尿病外来で,PRPを行った前増殖型と増殖型の糖尿病性網膜症のうち,螢光眼底撮影が可能で1年以上経過観察が行えたもの128眼である。病期病型分類では,福田分類でB-I51眼,B-Ⅱ38眼,B-Ⅲ14眼,B-Ⅳ16眼B-Ⅴ9眼であった。これらを5群,すなわち1)硝子体手術眼20眼,2)人工的無水晶体眼27眼,3)非手術眼のi)50歳未満27眼,ⅱ)50歳〜59歳27眼,ⅲ)60歳以上27眼に分類し,各群を比較検討した(表1)。

眼科学校健診システムセット

著者: 河鍋楠美

ページ範囲:P.970 - P.971

 緒言 学校健診を毎年恒常的に,かつ容易に継続させるためには,検査ならびに事後処理は簡単かっ短時間に,検者も被検者も負担が少なくなければならない。そのためには集団健診用専用装置が必要であり,視力検査のみならず両眼視機能検査をも含めたものが必要である。すなわち,先に発表した移動型学童検診システムに両眼視機能検査器と視力検査器を加えて学童検診システムセットとした。これが学童検診システムセットである。これらは,小型自動車でたやすく運搬でき,学校健診によい成果をあげているので報告したい。
 学童検診システムセット 学童検診システムセットは,次の3部よりなる。

調節の準静的視標刺激時と遠点視標固定時における瞳孔反応の経時的変化

著者: 伏屋陽子 ,   蒲山俊夫 ,   大野仁

ページ範囲:P.972 - P.973

 緒言 調節の準静的記録法1)は,調節機能を他覚的に検査可能とし,調節痙攣,調節衰弱,老視などによる眼疲労の検索に役立っている2)。しかし,眼疲労を調査するうえで,近見反応(調節,瞳孔,輻湊)の一つにすぎない調節機能の検索だけでは,疲労を詳細に把握したとは言えない。我々は,近見反応のうち,調節と瞳孔反応の2要素を準静的記録法によって他覚的に測定し,その臨床応用の可能性を調査した。
 方法 対象は17〜48歳の男子4名女子4名で,軽度の近視と乱視以外に眼科的所見のない者とした(表1)。測定にはオートレフラクトメーターと電子瞳孔計を用い,これらを組み合わせて調節と瞳孔の反応が同時に記録できるようにした。視標はコンピューター制御によって,0.2dptr/secの速度で−12.5dptrから近方へ移動し,+12.5dptrで折り返したのち各被検者の遠点の位置で固定した。その際の調節反応と瞳孔面積の変化を経時的に400秒間,同時記録した。測定は火曜日と定め,9時,12時,15時,18時に行った。

調節緊張時の調節微動と年齢

著者: 伊比健児 ,   秋谷忍 ,   斉藤進 ,   金田一男 ,   八木沼康之

ページ範囲:P.974 - P.975

 緒言 Campbellが赤外線オプトメーターを考案し,調節微動の存在を明らかにして以来,調節微動の周波数解析の研究がなされてきたが,これまで調節微動の大きさの定量的評価はできなかった。我々は新たに調節微動の大きさの解析法を考案し,年齢による変化の評価を行ってみた。
 方法 図1は赤外線オプトメーターによってとらえた調節運動のアナログ信号を,A-Dコンバーターを介してデジタル表示した図である。調節微動波形部を等間隔時間で区切り,各々に対応する屈折値の回数を縦軸にとり,屈折値を横軸にとると図2のように振幅ヒストグラムができあがる。図2は25歳の3D調節時における調節微動の振幅ヒストグラムである。図のように屈折値の頻度はほぼ正規分布することから,調節微動の大きさの定量的評価を標準偏差で行うことが可能であると考え,その方法を用いて,以下の実験を行った。

糖尿病性網膜症のglareについて

著者: 筑田真 ,   小原喜隆 ,   田中寧

ページ範囲:P.976 - P.977

 目的 先の本学会において,黄斑部の病変の程度とglare disabilityは相関することを報告した1)。今回は,糖尿病性網膜症の病型や網膜の光凝固が glare dis-ability値にいかに反映されるかについて検討した。
 対象および方法 獨協医科大学越谷病院眼科を受診した瞳孔領に白内障のない糖尿病患者125例240眼,年齢は28歳〜72歳(平均53.5歳)で,男62例118眼,年齢36歳〜72歳(平均53.1歳),女63例122眼,年齢28歳〜72歳(平均53.9歳)を対象とした。網膜症のないもの20例37眼をcontrol群とし,単純型網膜症群(SDR)35例68眼,前増殖型網膜症群(Pre-PDR)35例67眼および増殖型網膜症群(PDR)35例68眼について,網膜の病変,矯正視力,中心フリッカー値(CFF),さらに光凝固の有無と%g1are disabil-ity値の関係をMiller-Nadler Glare tester (Titmus-Optical社製2)を用いて調べた。

白内障患者の視機能について

著者: 川嶋尚平 ,   林洋一 ,   新井紀子 ,   石綿丈嗣 ,   矢田浩二 ,   藤原隆明

ページ範囲:P.978 - P.979

 緒言 白内障患者の視機能の評価法として視覚をModulation Transfer Function (MTF)として捉えていく方法が導入され始めている。Ginsburgらはグレア下における白内障患者のMTFの低下を指摘しており1),我々もMiller-Nadler Glare Testerを用いて白内障患者のグレア下での視機能の低下について報告した2)。今回は,日常経験する視環境をシミュレーションで作り出し白内障患者のMTFを検討した。
 方法 杏林大学眼科外来を受診した種々の水晶体混濁の程度,形態をもつ白内障眼59眼の MTF をVISTECH社製Multivision Contrast Tester 8000(MCT 8000)を用いて昼間と夜間,グレアを周辺あるいは中心にかけた場合とかけない場合に分けて測定した。また眼疾患を認めない36眼(20歳代10眼,30歳代12眼,40歳代10眼,50歳代4眼)のMTFを測定しコントロールとした。つぎに白内障患者にサングラスを使用した場合のMTFの変化をみるため,COR—NING社製CPF 511,CPF 527,CPF 550の3種類のサングラスを用いてMTFを測定した。

糖尿病性網膜症の後極部領域における静的視野計による網膜感度

著者: 浜田幸子 ,   塚田孝子

ページ範囲:P.980 - P.981

 緒言 糖尿病性網膜症は,糖尿病による全身的および局所的代謝障害を反映した機能的欠陥をもった神経感覚疾患とも解釈され,多くの研究が報告されている。昨年,中間周辺網膜(中心窩より30°〜60°の網膜)の感度が正常に比べ低下しており,網膜症の進行とともにさらに低下し,低下度は上半網膜に比べ下半が有意に大きいことを述べた。今回は後極部網膜(中心窩より30°内)の感度について検討した。
 対象と方法 NIDDM 69眼(1群:二網膜症を認めないもの9眼,SDR Ⅰ 16眼,SDR Ⅱ 7眼,計32眼,2群:SDR Ⅲ, PPDR 21眼,3群:二PRP施行16眼)を正常(0群)17眼を対照として,Humphrey静的視野計C30-2(Point Density 6°,No.of Points 76)で網膜感度を測定した(表1)。矯正視力は0.6以上,年齢は各群とも平均60歳であった。

網膜剥離術後の中心視野回復過程

著者: 小泉閑 ,   坂口仁志 ,   廣辻徳彦 ,   佐藤文平 ,   徳岡覚 ,   木村嗣

ページ範囲:P.982 - P.983

 緒言 近年,網膜剥離術後の各種視機能に対する検討が盛んに行われている1,2,3)。今回我々はハンフリー自動視野計を用いて後極部剥離眼の術後中心視野の回復過程を定量的に検討したので報告する。
 対象および方法 対象は後極部に剥離の及んでいる裂孔原性網膜剥離患者のうち初回の経強膜的手術で復位の得られた症例32例32眼である。年齢は17〜70(平均40±17)歳で,男性20例,女性12例であった。中心視機能の回復過程についてハンフリー自動視野計の中心24-2プログラム(全閾値検査)を用いて術後2週間,1ヵ月,2ヵ月,3ヵ月,6ヵ月目に測定し,視野計内蔵の統計解析パッケージであるSTATPACで解析した。視野の改善はmean deviai—tion (MD)値(db)を用いて検討した。MD値はSTATPACの健常参照視野と実測視野の各スポットごとの閾値の差の平均値である。MD値の改善を視力の改善と比較するとともに中心窩閾値(db)の改善と比較し,さらにMD値を用いて年齢別,屈折度別,剥離形状別,剥離期間別の改善について検討した。

らい病患者に発生した急性両眼性高度線維性虹彩毛様体炎

著者: 張由美 ,   葉則祥 ,   楊智雄

ページ範囲:P.984 - P.985

 緒言 ぶどう膜炎はらい病患者における失明になる主な原因の一つである。らい病にみられるぶどう膜炎は主に前部ぶどう膜に及ぶ,慢性で菌が直接侵かす型ならびに高度線維性虹彩毛様体炎を呈する急性型である1)。そのうち,前者はより多くみられる。有効な薬品の出現により,らい病は現在特定地区以外にかなり減っているが,典型的な急性両眼性高度線維性虹彩毛様体炎を経験し,貴重な症例と思われたので報告する。
 症例:65歳,男性。

第2色盲におけるパネルD−15テストの総色差数について

著者: 岡部高雄 ,   神立敦 ,   北原健二

ページ範囲:P.986 - P.987

 緒言 Bowman1)は, Farnsworth Dichotomous Test (パネルD−15テスト)の結果から色相識別能を表す一方法として,総色差数による判定法を提唱した。前回我々は,混同色線の理論に基づき,2色型色覚におけるパネルD−15テストのシミュレーションを試みた。その結果,混同色線の収束点の色度座標の違いにより配列パターンが異なることを報告した2)。したがって,2色型色覚で混同色線の理論によって説明可能なパターンにおいても,わずかな収束点の違いにより総色差数が大きく変わり,色相識別能が異なって判定される危険性を有している。そこで,今回は実際の第2色盲者におけるパネルD−15テストの結果,混同色線の理論により説明可能なパターンについて,総色差数を算出し検討を加えた。
 対象および方法 対象は,1976年10月4日から1987年10月5日までの11年間に当科を受診し,アノマロスコープによって第2色盲と診断された73例とした。

VDT作業者に対する健康調査および性格検査について

著者: 妹尾正 ,   須田雄三 ,   小暮文雄

ページ範囲:P.988 - P.989

 目的 VDT作業による数々の症状に対し,アンケート調査を施行し検討した。また,同時に性格調査を施行し症状との関連を検討した。
 対象および方法 VDT作業に従事する914名(男543名,女371名,年齢18〜59歳,平均32.0歳)

優性遺伝性若年型視神経萎縮の一家系

著者: 加藤英里 ,   村山耕一郎 ,   安達恵美子

ページ範囲:P.990 - P.991

 緒言 優性遺伝性若年型視神経萎縮(DIJOA)は,優性遺伝形式・幼小児期の発症・軽度の視力低下・視神経乳頭の耳側蒼白・第3色覚異常・中心暗点などを特徴とする疾患である。今回,父親より100%の浸透率で遺伝した子供2人合わせて父子3人のDIJOAと思われる一家系を,Pattern VECPの記録をも含めて報告する。

一眼にpitを伴う視神経乳頭欠損と網脈絡膜欠損を合併し,他眼に視神経乳頭低形成を認めた1例

著者: 船久保博人 ,   鈴木美佐子 ,   八子恵子

ページ範囲:P.992 - P.993

 緒言 乳頭pitの合併症としては,黄斑部扁平網膜剥離がもっとも知られているが,その他視神経乳頭欠損,網脈絡膜欠損などの先天異常の合併もあり,その成因についてさまざまな議論がなされている。今回,著者らは,1眼にpitを伴う視神経乳頭欠損と網脈絡膜欠損を,他眼に視神経乳頭低形成をみた1例を経験したので報告する。
 症例:77歳,女性。

ハンフリー自動視野計を使った新しい緑内障検査プログラムの開発

著者: 湖崎弘 ,   塚本和子 ,   飯田輝子 ,   湖崎裕子

ページ範囲:P.994 - P.996

 緒言 自動視野計の有用性を確立するために,昨年度の本学会での我々の発表から1),緑内障のゴールドマン動的視野図は,小範囲のkey hole areaと,40°円周の動態のみで病期2,3)を推察できること,同じ部位についてのハンフリー自動視野計の検査結果と動的視野図とがよく一致することがわかった。したがって,今回は自動視野計による小範囲の静的視野検査で,緑内障の診断,および病期判定ができるように新しいプログラムを開発したので報告する。
 対象 正常眼:視力矯正 1.0以上,屈折±3.0D以内.眼圧,眼底,視野(ゴールドマン動的)に異常のない眼

連載 眼科図譜・275

健康な小児に発症した桐沢型ぶどう膜炎

著者: 佐藤章子 ,   高橋扶左乃 ,   前田修司

ページ範囲:P.884 - P.885

 緒言 桐沢型ぶどう膜炎は臨床像が広く認識されるにつれ,今日までに本邦では120例以上の報告を数える。患者は各年齢層にわたっているが,10歳未満の症例は我々の検索した限りでは原発性免疫不全の乳児とヘルペス性脳炎の新生児各1例の報告があるのみである。今回我々は健康な7歳の小児に本症を認め,アシクロビル・γ-グロブリン製剤・ステロイド剤の全身投与により,現在のところ良好な経過を辿っているので報告する。
 症例 7歳の女児。

眼の組織・病理アトラス・32

網膜の血管構築

著者: 岩崎雅行 ,   猪俣孟

ページ範囲:P.888 - P.889

 ヒトの網膜外層は脈絡膜血管から,内層は内顆粒層より内層に分布する網膜血管retinal vesselから栄養されている。一般に網膜動脈は網膜中心動脈central retinal arteryの分枝であるが,15〜25%の頻度で,毛様網膜動脈cilioretinal arteryと呼ばれる短後毛様動脈からの分枝が,視神経乳頭の耳側縁から出て乳頭黄斑間に分布することがある。網膜中心動脈は,強膜篩状板を貫いたのち,視神経乳頭において直角に曲がって網膜に侵入し,通常4本に分岐して,上耳側,下耳側,上鼻側,下鼻側のそれぞれの網膜動脈になる。これらの網膜動脈は,二等分岐あるいは側腕分岐を繰り返しながら次第に径を減じ,毛細血管前細動脈precapillary arterioleを経て,網膜毛細血管retinal capillaryに連絡する。毛細血管を通った血液は毛細血管後細静脈postcapillary venuleを経て網膜静脈に入り,分岐部で合流して次第に太い静脈に集まり,網膜中心静脈central retinal veinを通って眼外に運ばれる。
 網膜の動脈系と静脈系は網膜のいたるところで交叉しているが,動脈どうし,静脈どうしの交叉はきわめて稀である。

今月の話題

網膜静脈閉塞症の治療

著者: 吉本弘志

ページ範囲:P.891 - P.896

 網膜中心静脈の血栓症とみなされる本症は,その閉塞部位にかかわらず,網膜病変によって1)切迫期,2)出血期,3)滲出期,4)虚血期,5)増殖期,6)併発症期の各病期に分けることができる。これらの病期を正確に把握し,同時に病歴の聴取だけに頼らない基礎疾患の全身的な検索診断を行いながら治療を行えば,その効果はより改善されるはずである。

眼科薬物療法のポイント—私の処方・6

角膜真菌症—治療難渋例

著者: 石橋康久

ページ範囲:P.951 - P.953

 患者は53歳の男性。植木の手入れをしている際,左眼を木の枝で突いた。2〜3日して左眼の充血,異物感,視力低下があったため近くの眼科を受診したところ抗生剤,角膜保護剤を処方されたが症状は改善しなかった。別の眼科で真菌症を疑われ,ピマリシンの点眼を行ったが,当初少し良くなっただけで一進一退を続けたため紹介されて当科を受診。
 主訴:左眼充血,異物感,視力低下

眼科手術のテクニック—私はこうしている・6

眼内レンズ挿入術—四面切開

著者: 荻野誠周

ページ範囲:P.954 - P.955

四面切開の選択
 手術時間の短縮は術後経過を良くする上で重要な意味をもつ。したがって不要な操作をできるだけ削除する必要がある。
 ところが完成された術式に不要な操作はない。まったく術式を変える以外はないことになる。

Just Arrived

組織プラスミノーゲンアクチベーターによる実験的網膜静脈閉塞症の治療

著者: 桂弘

ページ範囲:P.946 - P.946

 綱膜静脈閉塞症の治療としては,これまでウロキナーゼやストレプトキナーゼが用いられてきたが,これらは非特異的に循環血液中のプラスミノーゲンに作用して線溶を促すため,易出血性を招く危険がある。しかし,組織プラスミノーゲンアクチベーターはフィブリンの存在によって特異的にプラスミノーゲンを活性化してプラスミンに変換し、しかもフィブリン塊の付近でのみ作川する利点がある。そこで,本研究では,その網膜静脈における血栓溶解の効果を知るし的で、ウサギにローズベンガル液の静注とアルゴンレーザー凝固により,光化学的に網膜静脈の閉塞を生じさせ,30分後に合成組織プラスミノーゲンアクチベーター0.5mg/kgを静注し,螢光眼底撮影によって経過を観察した。16眼すべてにおいて,静注後4時間で,静注前に閉塞していた静脈が完全に開通していた。生理食塩水を静注したコントロール12眼では,1眼において部分的に開通していたにすぎなかった。これらの結果により,組織プラスミノーゲンアクチベーターは網膜静脈血栓に対する有効な薬剤となる可能性があると考えられた。

論文論

定石/スライド

著者:

ページ範囲:P.950 - P.950

 碁にも将棋にも,「定石」というのがあります。石や駒の基本的な進め方を教えるもので,これを知っていないと,少し強い相手には全然刃がたちません。論文の執筆にも,いくつかの定石があるように思われるのです。
 論文の定石で一番むつかしいのは,「考按」のスタイルのようです。「方法と結果」のところだと,だいたいの見当がつき,そのスタイルもある程度は共通しているのですが,そもそも「考按」とは何かという問題すら,はっきりしていないような印象を受けるのです。

臨床報告

スペキュラーマイクロスコープ撮影用コンタクトレンズ(SMレンズ)

著者: 坪田一男 ,   真島行彦 ,   直井昌二

ページ範囲:P.997 - P.999

 スペキュラーマイクロスコープ撮影をより簡便に行うことのできる特殊コンタクトレンズ(SMレンズ)を開発した。このレンズはhydro—xymethylmetacrylate soft contact lens (Dk=8.5,含水率38%,中心厚0.50mm)と中心に直径5.5mmの窓のあいた重ねコンタクトレンズからできている。スペキュラーマイクロスコープのコーンレンズはこの窓を通してベースレンズに接する。このレンズを用いることにより以下のような利点がある。1)コーンレンズによる角膜上皮に対する障害が軽減できる。2)患者の開瞼を容易にする。3)コーンレンズからの余分の反射を少なくし,涙液層を排除して余分な反射を防ぎ角膜上皮撮影を容易にする。
 撮影された角膜上皮の写真は鮮明で,いわゆるbright cell, medium cell, dark cellがはっきりと識別できる。SMレンズを用いたスペキュラーマイクロスコープ撮影により検査自体が容易となり上皮の観察が可能になった。

海綿静脈洞後部病変による外転神経麻痺の2症例

著者: 岸本典子 ,   大月洋 ,   長谷部聡 ,   田所康徳 ,   高畠まゆみ

ページ範囲:P.1001 - P.1004

 外転神経単独麻痺,および動眼神経その他の脳神経症状を伴う外転神経麻痺を呈し,海綿静脈洞後部の病変が推察された2症例を報告した。
 症例1は61歳男性。両側の外転神経麻痺のみを呈し,頸動脈造影で両側海綿静脈洞内に後外側へ膨隆する内頸動脈瘤を認めた。外転神経は,海綿静脈洞後部では,内頸動脈と交叉し,その部位で両者は最も近接するために,他の脳神経症状を伴うことなく,外転神経単独麻痺が生じたものと推察した。
 症例2は73歳男性。左側の三叉神経第3枝の障害,Horner症候群を伴う外転神経麻痺を呈し,放射線学的にも左蝶形骨洞,海綿静脈洞後部に炎症性病変を強く疑わせる所見を認めた。炎症性病変が,蝶形骨洞から,海綿静脈洞後部へと前方へ波及したために,交感神経,その他の脳神経症状を伴った,外転神経麻痺を生じたものと推察した。

糖尿病病期と前房蛋白濃度—1.網膜症病期との相関

著者: 加藤聡 ,   大鹿哲郎 ,   船津英陽 ,   澤充

ページ範囲:P.1005 - P.1008

 糖尿病性網膜症の各病期と前房蛋白濃度との関連を,フレアー・セルメーターを用いて,網膜光凝固術施行眼を含む184眼について検討した。糖尿病性網膜症の病期分類には福田分類を用い,網膜症を有しないものを0期とした。前房蛋白濃度は,福田分類の病期の進展とともに増加し,両者の間に有意の相関が認められた(0期,AⅠ期,AⅡ期間でr=0.5055(P=0.0000),B期の各期間でr=0.4549(P<0.0001)。0期と正常人の前房蛋白濃度との間には有意差はなかったが,0期とAI期(P<0.01),AI期とAⅡ期(P<0.05),AⅡ期とAⅢ期(P<0.01),AⅡ期とBI期(P<0.0l),AⅢ期とBI期(P<0.05),BI期とBⅡ期(P<0.01)の間で有意差がみられた。糖尿病の眼合併症として,血液房水柵機能の異常と糖尿病性虹彩症が初期より存在していることが示された。

超音波Bスキャンによる網膜下液量の計測システムの開発

著者: 浅野治子 ,   白神史雄 ,   松尾信彦 ,   伊達純代 ,   小山鉄郎 ,   土田陽三 ,   森本隆司

ページ範囲:P.1009 - P.1013

 我々は新装置を使用して超音波Bスキャンのビデオ撮影による網膜下液量の計測システムを開発した。新装置にて超音波プローブを網膜剥離を伴った模擬眼の上で180°回転させ,超音波像をビデオに撮影した。一定の回転角度で制止画像を選び出し,それぞれの網膜下液量を積算し,それらを加算して全体量を算出した。実際の液量と計算値の誤差は3.74±2.96%(平均値±標準偏差,n=8)であった。今回の網膜下液量計測システムは精度が十分高いと評価された。

多彩な症状を呈したVogt—小柳—原田病

著者: 永松直子 ,   島川真知子 ,   田村正

ページ範囲:P.1015 - P.1018

 遷延した経過を示すとともに,特異かつ高度な眼外合併症を生じたVogt—小柳—原田病(以下VKH)の1例を報告する。
 本例は,37歳の女性で発病時結膜炎として他医の治療を約1ヵ月半受けたのち,当科初診し,VKHと診断された。ただちにステロイドを全身投与し,約30日後に眼内炎症は軽快したためステロイド離脱をした。ところがその直後より虹彩炎の再発を繰り返すとともに難聴と脱毛の悪化,自発眼振を伴うめまいがみられた。平衡機能検査で末梢性前庭障害,聴力検査で末梢性感音性難聴が認められた。脱毛は高度になり悪性脱毛症と診断された。これら眼外症状は,ステロイド全身投与を再開して初めて軽快傾向をみた。このように眼外症状が強く出たという報告は稀である。
 本症の経過が遷延した原因の一つは,ステロイド治療開始の遅れたことにあると考えた。さらに,眼振と難聴と本症の関連も考察した。

経強膜毛様体光凝固術の予俊解析と毛様体冷凍術との比較

著者: 鈴木康之 ,   新家真 ,   弓田彰 ,   山本哲也

ページ範囲:P.1021 - P.1025

 Nd:YAGレーザーによる経強膜毛様体光凝固術の術後成績を生命表で解析し,毛様体冷凍術と比較した。前者の対象は36例36眼で,経過観察期間は1ヵ月から21ヵ月,平均9.2ヵ月,後者の対象は80例80眼で,経過観察期間は2ヵ月から71ヵ月,平均21ヵ月であった。全経過におけるどの時点でも前者の累積生存率が,後者の累積生存率に比して高かったが,有意差があったのは,術後5ヵ月から10ヵ月の時点のみであった(P<0.05)。合併症の頻度では,前者では5.6%に合併症を見たのに対し,後者では,20%になんらかの合併症を認めた。術後の疼痛は前者の方が後者より少ないと考えられた。

サイクロスポリンAによる難治性ベーチェット病の治療成績

著者: 原田敬志 ,   粟屋忍

ページ範囲:P.1027 - P.1029

 11例の難治性ベーチェット病患者にサイクロスポリンAを初期量300〜500mg用い,平均7.4ヵ月観察を行った。約73%の症例で眼発作の回数は半分以下となり,ことにほぼ50%の症例で発生は0となり,本剤が発作の抑制にきわめて有効であることが明らかとなった。しかし,軽度の腎障害が5例にみられた。

角膜移植術を施行したHurler-Scheie複合型の組織学的検討

著者: 平形明人 ,   坪田一男 ,   張裕子 ,   石井康雄 ,   澤充

ページ範囲:P.1031 - P.1034

 ムコ多糖体代謝異常の中でも報告の少ないHurler-Scheie複合型に対し,全層角膜移植術を施行し,摘出角膜片の組織学的検討を行った。
 症例は9歳女児で,両眼角膜はびまん性に混濁し,4年間の経過観察中に視力は手動弁にまで低下した。左眼角膜移植の結果,術後1年経過した現在,移植片は透明で経過良好である。
 摘出角膜の組織学的検討で,角膜上皮,実質細胞,内皮細胞の細胞質に細線維顆粒状物質,膜様物質を含む多数の空胞が観察され,実質層間,デスメ膜には異常な長周期線維が認められた。またボーマン膜の破壊,実質コラーゲンの走行異常も観察された。以上より,Hurler-Scheie複合型では,ムコ多糖体代謝異常による影響が,細胞成分のみならずコラーゲン形成にまで及んでいることが考えられた。

単クローン性抗体酵素抗体法(アデノクロン)による結膜中のアデノウイルスの迅速検出

著者: 青木功喜 ,   沢田春美

ページ範囲:P.1035 - P.1039

 アデノウイルスによる急性結膜炎は,眼科領域における流行性結膜炎として本邦で年間150万人の発生をみており,このウイルス性眼疾患の予防と治療には迅速診断が不可欠である。
 モノクローナル抗体をcapture antibodyとした酵素抗体法,Adenoclone (Cambridge Bio Sci-ence)を用いて急性結膜炎患者の結膜擦過物中のアデノウイルス抗原の検出を行った。アデノウイルスを分離培養できた57例の急性結膜炎患者において,急性期の結膜擦過物から38例(66.7%)にアデノウイルス抗原を検出できた。これに対してアデノウイルスが分離できなかった25例においては,22例(88.0%)が陰性で3例は偽陽性であった。発病初期の結膜擦過浮遊液が15分から70分でAdenocloneにより青色化した検体のOD値は0.076以上を示し陽性と判定された。この方法のsensitivityは66.7%,specificityは88.0%でaccuracyは73.2%であり,本法は急性結膜炎の病因検索において迅速,簡便かつ特異的な方法である。

軽症糖尿病患者の血液房水柵障害

著者: 湯口琢磨

ページ範囲:P.1041 - P.1045

 糖尿病眼の血液房水柵の障害を評価するため,網膜症のない糖尿病患者192例376眼,福田分類AIの網膜症がある114例217眼に対し,螢光虹彩撮影と前眼部螢光測定を行った。
 螢光虹彩撮影では,瞳孔縁からの螢光漏出pupillary leakageの頻度が正常者より高く,60歳以下の年齢層で有意差があり,網膜症のある群ではない群よりこれが顕著であった。高齢者では漏出頻度が増加し,瞳孔縁部以外からの漏出extrapupillary leakageが出現した。前眼部螢光測定では,網膜症の発現前の時期から前房内フルオレセイン濃度/血漿タンパク非結合フルオレセイン濃度(Fa/Fp値)が高値であり,高齢者ではこれが有意であった。網膜症のある群,HbA1c値が7%以上の群,インスリン治療群では,これがさらに高値を示した。
 以上より,糖尿病眼では,網膜症が出現する前から血液房水柵の障害があること,加齢,網膜症の出現,HbA1c値の増加などが,障害増悪の因子であると結論される。

カラー臨床報告

ガス白内障

著者: 池田恒彦 ,   田野保雄 ,   細谷比左志 ,   中江一人 ,   生島操 ,   日下俊次

ページ範囲:P.956 - P.959

 硝子体手術後にガスタンポナーデを施行した有水晶体眼54眼中7眼に一過性白内障を,34眼に不可逆性白内障を認めた。一過性白内障は全例後嚢下に生じ,羽毛様の混濁か鱗様空泡の集簇を呈した。ガス白内障は長期滞留ガスを使用し,水晶体後面の残存硝子体が少ない場合にその発症頻度が高いものと考えられる。

Report from Overseas

漿液性中心性脈絡網膜症に対するargon laser光凝固の臨床効果及び螢光眼底造影所見の変化

著者: 頼盛輝 ,   李辰

ページ範囲:P.1047 - P.1051

緒言
 漿液性中心性脈絡網膜症(idiopathic central ser-ous chorioretinopathy,以下ICSC)は過去20年の間に,中国においても目立ってふえてきた眼病の一種である。1960年代以来螢光眼底血管造影術が導入されて,これによって本病の脈絡毛細血管の透過性亢進,網膜下漿液貯留・網膜色素上皮あるいは神経上皮剥離及び螢光漏出点などの新しい所見が発見され,本病の発病機序及び治療方法の研究にはなはだ意義ある貢献をした1)
 最近レーザー光凝固を応用して螢光漏出点を閉鎖する治療方法は,単純の薬物療法のみに頼る過去の療法に比して,より良好な効果をあげうると一般に公認され,すでに数少なくない研究報告がされている2-4)

Group discussion

レーザー眼科学

著者: 野寄喜美春 ,   天野清範

ページ範囲:P.1053 - P.1055

話題提供
Dye laser光凝固の長所と短所
清水弘一(群馬大)
 レーザー光凝固は,アルゴン→アルゴングリーン→クリプトン→ダイと変ってきた。レーザー光凝固の条件としては,出力,スポットサイズ,照射時間,波長が関係するが,ダイレーザーの場合,スポットサイズの決定方式に問題がある。parfocalとdefocal方式では,後者で中心部にhot spotが存在するため,凝固斑の中心部と周辺部で凝固効果に違いが出てくる。
 奏効機序に関しては,未だ明確な解答は出ていない。

緑内障

著者: 澤田惇 ,   山元章裕

ページ範囲:P.1056 - P.1058

 今回は,「縁内障の視神経乳頭に関する諸問題」を主題として,北澤,岩田,澤田の司会のもと,2題の指名講演と9題の一般講演が行われた。
 指名講演Ⅰは,難波克彦(新潟大)が視神経乳頭陥凹の立体観察について述べた。視神経乳頭陥凹(cup)の開口部とその底でC/D面積比を測定し,緑内障病期および神経線維層の欠損(NFLD)との関係を検討した結果,病期の進行,NFLDの拡大とともに特にcup底の拡大が著明であることがわかった。このことからcup底のほうが障害の程度をより強く反映すると思われる。NFLDとcupとの関係から緑内障では局所の欠損+びまん性の抜けがNFLDの基本型と考えられる。stereochronoscopyでcupの経時的変化をみると,cupは全体が同時に拡大するのではなく,局所の変化が中心となり拡大することがわかった。ONHAにより測定すると正常眼のrim面積は一定でなく,乳頭面積と相関する。cupの形状は皿状,円形,台形,二峰性に分類でき,緑内障では二峰性が多く,経過観察でもcup底の変化が大きいことがわかったと述べた。

文庫の窓から

眼科学

著者: 中泉行信 ,   中泉行史 ,   斎藤仁男

ページ範囲:P.1060 - P.1061

 この眼科書は「医科全書」眼科篇(臨眼43巻5号参照)の異版と思われるが,その編集者,出版人,発行所,刊記等の記載はなく明確ではない。
 本書には三種類の別慴本があるが,仮にこれをA,B,C,とすると,Aにはその扉に"発賣禁"と印刷され,Bには以下の様な例言が付されている。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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