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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科43巻8号

1989年08月発行

雑誌目次

連載 眼科図譜・277

硝子体出血を併発した老人性円盤状黄斑変性症の1例

著者: 田中千春 ,   北川桂子 ,   荻野誠周

ページ範囲:P.1222 - P.1223

 緒言 老人性円盤状黄斑変性症が硝子体出血の原因となることは,1967年のGassによる詳細な臨床研究1)似後よく知られている。しかし硝子体出血の主要な原因疾患であるとの明確な認識は1980年のTani2)の報告以降であろう。わが国でも網膜外科医は硝子体手術の経験から本症が硝子体出血の原因としてまれではないことに同じころから気づいていたであろうが本症が比較的少ないとされてきたためか,症例を集めてその認識を強く要求した新井3)の報告は1985年のことであり,硝子体手術成績も1988年の麻生の報告4)でもわずかに10眼にすぎない。
 症例 62歳男.初診1987年1月14日

眼の組織・病理アトラス・34

ダーレン・フックス結節

著者: 猪俣孟

ページ範囲:P.1226 - P.1227

 交感性眼炎では,網膜色素上皮細胞層に散在性の小隆起が認められる。これをダーレン・フックスDalén-Fuchs結節と呼ぶ。交感性眼炎の病理組織学的特徴の一つとされている。フォークト・小柳・原田病でも同様の所見が認められる。夕焼け状眼底の赤道部から周辺部に散在性に見られる小円形の脱色素斑の中にダーレン・フックス結節が含まれている。
 ダーレン・フックス結節は網膜色素上皮細胞層の細胞下にリンパ球や類上皮細胞が浸潤して網膜色素上皮細胞層が押し上げられ,2次的に色素上皮細胞が変性または増殖したものである。変性した色素上皮細胞は色素顆粒が少ないために検眼鏡的には脱色素斑として認められる。陳旧化すると脱色素斑の周囲に色素上皮細胞が増殖して色素沈着が出現することがある。

今月の話題

眼感染症の病原体検索

著者: 石橋康久 ,   本村幸子

ページ範囲:P.1229 - P.1231

 眼科領域における感染症の中で比較的,病原体検索に問題のあると思われる真菌感染および最近話題になっているアカントアメーバ感染について,検査材料の採取法,直接鏡検の方法と染色法,培養法などを中心に具体的に述べた。

眼科手術のテクニック—私はこうしている・8

眼内レンズ挿入術—後房レンズ

著者: 荻野誠周

ページ範囲:P.1270 - P.1271

後房レンズ挿入のテクニック
 後房レンズは光学径7mm,ノーホールレンズを用い,以下の手順で行っている。
 カプスラーバッグの膨らませ:ディスポのヒーロン針でたっぷり注入する(図1)。下方と,12時から3時までの前嚢縁を確認し,虹彩面までも深くする。

眼科薬物療法のポイント—私の処方・8 細菌性角膜炎—非典型例

非発酵菌性角膜炎

著者: 大石正夫

ページ範囲:P.1273 - P.1275

 患者は53歳。男性。ツキメの既往ある右眼に充血,眼痛が出現した。近医を受診して角膜炎の診断で,ゲンタシン点眼液の点眼に,セファメジン筋注の治療をうけたが症状が増悪して来たので,当科を紹介された。
 主訴:右眼痛,充血,視力障害

臨床報告

サルコイドーシスによる視神経乳頭肉芽腫

著者: 松島正史 ,   山本起義 ,   湖崎淳 ,   上原雅美 ,   宇山昌延

ページ範囲:P.1245 - P.1249

 片眼の視神経乳頭に著しい乳頭腫脹を認め,乳頭の炎症性肉芽腫であった2症例を経験した。症例は12歳男性と52歳女性で,いずれも初診時には乳頭の腫瘍が疑われたが,臨床経過,とくにステロイド投与により治癒したので,乳頭の炎症性肉芽腫と診断した。原因疾患の確定はむつかしいが,臨床的に,サルコイドーシスと思われた。
 サルコイドーシスによる乳頭肉芽腫は最近報告が増えてきており,本邦における報告は現在までに6例を数える。視神経乳頭に腫瘤様病変を認めた時,肉芽腫を考え,サルコイドーシスを原因の一つとして考える必要があると思われた。

スギ花粉症に対するketotifen点眼液の眼誘発反応抑制効果

著者: 佐久間靖子 ,   三田晴久

ページ範囲:P.1251 - P.1254

 スギ花粉症患者11例に,季節外に,抗原による眼誘発試験を行い,0.05%ketotifen (HC)点眼液の涙液中ヒスタミン遊離抑制効果を検討した。右眼にHC点眼液,左眼にplacebo点眼液を点眼し,5分後に,20倍希釈のスギ抗原液を点眼して,アレルギー反応を誘発した。HC投与眼の誘発5分および10分後の涙液中ヒスタミン量は,対照眼に比べ有意なヒスタミン遊離抑制効果がみられた(P<0.01)。HC点眼液のヒスタミン遊離抑制率は,誘発5分後で67.5%,誘発10分後で67.2%であった。0.05%HC点眼液はスギ花粉症に対する有効な薬剤であると考えられる。

緑内障眼における角膜内皮細胞の形態—第2報 Trabeculectomyによる角膜内皮障害

著者: 安田典子 ,   清水透 ,   後藤田佳克 ,   景山萬里子

ページ範囲:P.1255 - P.1259

 Trabeculectomyが施行された慢性緑内障32例34眼を対象に,角膜内皮スペキュラマイクロスコピーを行い,平均細胞面積と標準偏差(μm2),最大細胞面積,変動係数(CV=S.D./Mean),細胞密度(Cell/mm2),六角形細胞頻度(%)を測定した。
 経過良好なtrabeculectomy 1回施行眼では,角膜中央部においては,各パラメーターともコントロール眼と差がなかった。しかし,濾胞近傍周辺部角膜では,有意に平均細胞面積が拡大していた。また,trabeculectomy複数回施行眼及び古典的濾過手術にtrabeculectomyが追加されたものでは,角膜中央部においても有意に平均細胞面積が拡大していた。
 また,trabeculectomy後,前房再生不全をきたした6眼では,著しい内皮細胞の拡大と細胞密度の減少が認められた。

Cushing症候群に合併した重篤な糖尿病性増殖性網膜症の1例

著者: 大原麗 ,   鈴木隆次郎

ページ範囲:P.1261 - P.1264

 26年前Cushing症候群による左副腎摘出術をうけた45歳の女性の二次性糖尿病の1症例を報告した。症例は重篤な糖尿病性増殖性網膜症(以下網膜症)となり,両眼硝子体手術を受けた。網膜症の進行には,一次性糖尿病の遺伝因子を持ち,その上,副腎皮質結節性過形成の発症がtriggerとなり,血中濃度S-Cortisol,尿中17-OHCSの高い基礎値が,関与していることが推測された。本邦では3例目で,硝子体切除術および全周輪状締結術を施行したのは初例であった。Cushing症候群による二次性糖尿病性網膜症の発生と管理の重要性について述べた。

Posner-Schlossman症候群の臨床像—1.隅角結節

著者: 勝島晴美

ページ範囲:P.1276 - P.1281

 隅角結節の認められたPosner-Schloss—man症候群の5例を報告した。隅角結節は白色あるいは灰白色で100〜200ミクロンと小さく,下方隅角の毛様体帯,強膜岬,線維柱帯およびシュワルベ線上に存在した。眼圧が下降してから出現することが多い。3例に隅角色素の変動を認めた。PS症候群では線維柱帯炎がおこっており,炎症産物が隅角を覆い隅角結節を形成すると推測された。さらに3例には隅角結節よりも小さい灰白色の虹彩結節も観察された。隅角周辺虹彩前癒着および瞳孔癒着はなかった。硝子体混濁はなく,検眼鏡的に眼底に異常はなかった。ぶどう膜炎と関連する全身疾患はまだみつかっていない。

長期コンタクトレンズ装用の角膜内皮に及ぼす影響—2.変化の進み方について

著者: 上田直子 ,   深尾隆三 ,   本田孔士 ,   塩田亮一

ページ範囲:P.1283 - P.1288

 コンタクトレンズ(CL)長期装用者(平均14.6年),39症例74眼の角膜内皮細胞をspecular microscopeで観察し,日本人正常者平均値1)より,1SD以上と2SD以上ずれていた症例を抜き出し,その変化の進行の仕方につき検討した。その結果,角膜内皮の変化は,まず,変動係数(CV)の変化として現れ,次いで,CVの変化とともに平均細胞面積の増大がみられた。しかし,CL装用期間が長くなり,平均細胞面積が400μm2以上になると,CVの値は,かえって小さくなった。すなわち,CL装用による角膜内皮の形態的変化は次のような段階で進行するものと考えられた。1)大細胞が散在して出現する初期の段階,2)大細胞が数個連なり散在する段階,3)大細胞群,小細胞群と群れをなす段階,そして最後に,4)大細胞がほとんどを占め,小細胞が散在し残在する段階。

急性脈絡膜循環障害に点状螢光漏出と脈絡膜隆起をきたした症例

著者: 戸塚秀子 ,   畠山正

ページ範囲:P.1289 - P.1292

 脈絡膜虚血部に螢光漏出点を生じ,さらに脈絡膜隆起を伴った三角症候群の新鮮例を報告した。症例は71歳男性で,右眼の白内障手術後,経過は良好であったが,2週目に変視症と軽度の視力低下をきたした。右眼底の黄斑部から上耳側にかけ限局的な脈絡膜隆起と漿液性網膜剥離がみられ,螢光眼底で島状の脈絡膜充盈遅延域とその後極側に色素漏出点を認めた。これらの変化は徐々に改善され,経過とともに脈絡膜虚血域の中心部に帯状の萎縮巣が形成された。螢光上中心性脈絡膜症にしばしば観察される芯を持つ過螢光巣を認めた。本症例の発症機序を以下のように考えた。強度の脈絡膜虚血により,網膜色素上皮は萎縮性瘢痕を生じ,軽度の虚血では関門機能が障害された。また,渦静脈の逆流による脈絡膜の鬱血腫脹,上脈絡膜腔への漏出液貯溜により,脈絡膜隆起を生じたものであろう。本症例により,中心性脈絡膜症の原因として,脈絡膜循環障害の関与が示唆される。

眼内レンズ挿入術後に発生した表皮性ぶどう球菌による慢性細菌性眼内炎の2例

著者: 木村実 ,   大鹿哲郎 ,   新家真

ページ範囲:P.1293 - P.1296

 水晶体嚢外摘出術および眼内レンズ挿入術(ECCE+IOL)後に表皮性ぶどう球菌による慢性細菌性眼内炎が65歳と62歳の女性に発症した。2例とも臨床症状が軽度であったため術後の無菌性眼内炎としてステロイドの局所投与を主体に治療を行っていたが,治療に反応しないため術後50日過ぎに前房水培養を行ったところ,表皮性ぶどう球菌が同定された。1例は抗生剤の点眼と結膜下注射のみで治癒したが,1例は硝子体手術を要した。
 ECCE+IOL後の前房内炎症が遷延する症例には,慢性細菌性眼内炎の可能性を考え,積極的に前房水培養を検討すべきと考えられた。

瞳孔ブロックの発生条件

著者: 近藤武久 ,   小紫裕介 ,   今道正次

ページ範囲:P.1297 - P.1302

 臨床的に観察される前房深度と瞳孔径の計測値から間接的に瞳孔ブロックの程度を推測する方法を検討した。前眼部の細隙燈顕微鏡撮影像を画像解析して把握されるデータとMapstoneの理論式とを組み合わせることによって,瞳孔をブロックする力(pupil-blocking force)を具体的に算出することができる。しかし,この方法は細隙燈顕微鏡写真撮影,現像,デジタイザー入力などの手間,時間を要する。この点を改善するためにコンピューター画像解析によって得られた前房深度,瞳孔径のデータとpupil-blocking forceとの関係を統計的に推定し,その相関式をもとにコンピューター・シミュレーションによりnomo-gramを作製した。このnomogramにより臨床的に観察される前房深度と瞳孔径の値から間接的にpupil-blocking forceを推測することが可能である。

網脈絡膜剥離を併発した進行性全身性硬化症の1例

著者: 新城光宏 ,   久保町子

ページ範囲:P.1303 - P.1306

 皮膚生検で進行性全身性硬化症(PSS)と診断された58歳の女性の両眼に急性網脈絡膜剥離と浅前房を認め,螢光眼底造影で,脈絡膜循環障害が推定された。
 いわゆる膠原病の中で,SLEでは,その疾患特有の原発性網膜合併症の存在が知られているが,他の疾患単位では,併発する高血圧症による眼底病変が中心であり,特異的な眼底変化として区別されてはいない。本症例も,併発した悪性高血圧症と腎不全とが,眼底変化の主因と考えるが,原疾患であるPSSによる病理組織学的な修飾が加わっているものと推察する。

カラー臨床報告

レーザー光凝固を行った先天性網膜動静脈吻合症の1例

著者: 竹山知永子 ,   高橋寛二 ,   宇山昌延

ページ範囲:P.1233 - P.1237

 先天性網膜動静脈吻合症(太い動静脈の直接吻合をみるArcher分類の第3群)で網膜に強い滲出性変化を伴った症例に対し,色素レーザーによる光凝固療法を行い,奏効した。
 症例は12歳男児で,1年前から右眼視力低下を訴え,眼底には著しい網膜動静脈の拡張,蛇行と後極部網膜の広汎な強い浮腫と多数の硬性白斑,滲出性網膜剥離がみられた。螢光眼底造影により,動静脈吻合が証明され,後極部の動静脈吻合部付近の異常血管瘤から,強い血管外漏出がみられた。左眼ならびに全身的には異常はなかった。
 治療として,色素レーザーの577nm黄色波長を用いて異常血管へ直接凝固を行った。
 螢光漏出が著明に軽減し,吻合血管の白線化と,眼底所見の改善を見た。治療前の浮腫の長期存在による黄斑部の変性のため,視力改善は得られなかったが,続発性網膜剥離の進行を予防できた。

サイトメガロウイルス網膜炎に対するganciclovirによる治療

著者: 沖波聡 ,   新井一樹 ,   深尾隆三 ,   中川寛忠

ページ範囲:P.1238 - P.1243

 肺癌に対する化学療法が発症の原因と考えられる両眼性のサイトメガロウィルス網膜炎の症例に,ganciclovirによる治療を行った。体重kg1日当り10mg投与による初期治療で病変の進行は阻止できたが,投与中止により右眼に網膜炎が再発し,体重kg 1日当り6mgの維持療法が必要となった。また,左眼は維持療法中に網膜剥離を発症したが,硝子体手術とsilicone oil注入で網膜は復位した。右眼に対しては,ganciclovir減量による網膜炎の再発と網膜剥離の発症を防ぐ目的で,瘢痕病巣とその周囲をアルゴンレーザーで凝固した。

論文論

図説/略語

著者:

ページ範囲:P.1268 - P.1268

 論文の図や表の欄外につける説明のことを,出版関係の人は「図説」と呼びます。英語の1egendの訳ですが,これが図と表のどちらもを含むために,「表説」という言葉は存在しません。
 ついでの話ですが,図と表のほかに,「写真」とか「グラフ」などがあっても良いように思われましょうが,これはどちらも「図」(英語ならfigure)で統一されています。執筆の際には注意して下さい。

Just Arrived

糖尿病性網膜症における硝子体手術不成功後の進行性の前部新生血管に対するシリコンオイルの効果

著者: 桂弘

ページ範囲:P.1269 - P.1269

 増殖性糖尿病性網膜症に対して行った硝子体手術後の網膜剥離または混濁に合併して,虹彩新生血管または前部硝子体線維性血管増殖を生じた18眼に対する再手術として硝子体手術とシリコンオイル注入を行った。前部新生血管は83%において安定または改善し,コントロール不能の眼圧上昇をきたした症例はなかった。網膜復位は56%に得られ,視力が0.05以上に改善したのは28%であった。網膜非復位の主な原因は後部の血管性または無血管性の再増殖であり,また,網膜復位にもかかわらず術後視力が不良なのは広範囲の網膜血管虚血のためと思われた。
 症例数が少なく,また,光凝固などの他の術式も行っているので,前部新生血管の安定または改善が主にシリコンオイルによるものか否かは確実ではないが,一つの重要な因子であると考えられた。また,網膜復位や視力改善についての最終的に不良な結果は,基盤にある増殖性虚血性変化によるものであり,シリコンオイルの効果には限界があると考えられた。

最新海外文献情報

HLA B27陽性虹彩毛様体炎における後眼部の障害

著者: 原田敬志

ページ範囲:P.1275 - P.1275

 対象は,HLA B27陽性で1回以上の急性前部ぶどう膜炎発作を経験した46名で,男性36名,女性10名である。多数例を扱い,硝子体手術の成績が述べられている点が有用である。男性では,強直性脊椎炎がほぼ半数にみられるが,女性ではほとんどみられない。両側性は57%,片側が44%であった。硝子体炎は63%に発生し,乳頭炎は17%に,血管炎は4%にみられた。高度な硝子体炎のある10眼に硝子体手術を行い,平均14ヵ月経過を観察した。視力は5例で改善,4例で悪化した。炎症は不変3例,減少6例であり,術後2例で牽引性網膜剥離が生じ,1例でCMEの悪化がみられた。硝子体の糸状物と網膜上増殖組織が2例に認められた。
 最初の眼発作から硝子体切除術までは,6ヵ月が60%であった。CMEが術後かえって悪化した症例では,肥厚した後部硝子体が残存し,黄斑部から剥離していないことが原因と考えられた。

文庫の窓から

井上眼療書—巻之一 摂生篇

著者: 中泉行信 ,   中泉行史 ,   斎藤仁男

ページ範囲:P.1308 - P.1309

 井上眼療書は井上達也(名 維馨,号 甘泉,1848〜1895)氏初め,その門人によって,シリーズ的に著作された数種類の眼科専門書で,その書名には次のものが知られている。
井上眼療書 巻之一 摂生篇 井上達也輯 明治11年(1878)刊

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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