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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科43巻9号

1989年09月発行

雑誌目次

連載 眼科図譜・278

Alport症候群

著者: 小林義治 ,   松井晶 ,   関はるみ ,   松田健史

ページ範囲:P.1318 - P.1319

 緒言 Alport症候群1)は,家族性遺伝性腎症に感音性難聴を伴う疾患である。本症は遺伝子腎症の中では代表的疾患であるものの,その病因は明らかでない。本症の眼合併症として,円錐角膜・先天白内障・前円錐水晶体・球状水晶体・網膜変性等が報告されているが,いずれも稀なもので,我が国での眼科関係の報告も過去15年間で一家系3症例2)に過ぎない。
 我々は10年間経過観察している本症の一家系の中の患児の眼底に,特徴的とされる所見を認めたので供覧する。

眼の組織・病理アトラス・35

虹彩の血管

著者: 猪俣孟

ページ範囲:P.1322 - P.1323

 虹彩は大虹彩動脈輪major arterial circle of irisから血液の供給をうけている。大虹彩動脈輪は毛様体の前端部の前房隅角付近に輪状に存在し(図1),これから分枝した虹彩動脈が虹彩実質の前層を放射状に瞳孔縁にむかって分布する。捲縮輪で小虹彩動脈輪minor arterial circle of irisを形成し,そこから瞳孔縁までは毛細血管になる。毛細血管は瞳孔括約筋の前面および後面に分布し,瞳孔括約筋の後方の細静脈に注ぐ。静脈血は渦静脈から眼外に流出する。
 虹彩動脈の形態学的な特徴は,管腔が毛細血管ように狭く,しかも膠原線維の厚い外膜をもっていることである(図2)。また,大虹彩動脈輪も虹彩実質内の細動脈も弾性板を欠いている。血管壁には少数の平滑筋細胞があり,その周囲を線維芽細胞とメラニン細胞が輪状に取り囲んでいる。毛細血管の内皮細胞は窓構造をもたず,内皮細胞間には閉鎖結合tight junctionが存在する閉鎖型毛細血管で,血液内皮関門blood endothelial bar-rierを形成している。しかし,ヒスタミン投与や前房穿刺を行うと,この関門が容易に破綻する。

今月の話題

低眼圧緑内障—その特徴について

著者: 難波克彦

ページ範囲:P.1325 - P.1330

 低眼圧緑内障はPOAGタイプの緑内障か,他の疾患であるのか未だ不明な疾患である。現在の低眼圧縁内障の診断基準について解説し,視神経乳頭陥凹の拡大や視野欠損の特徴について説明し,今後検討すべき問題点について述べた。

眼科手術のテクニック—私はこうしている・9

Deep set eyeの白内障手術

著者: 市岡博

ページ範囲:P.1358 - P.1359

 Deep set eyeの症例は白内障嚢外摘出術(超音波核乳化吸引術)を施行する際の難易度が高く,比較的経験の少ない術者にとって特に利き腕と反対側の手術においては安定した結果を得にくいものである。熟練した術者はこのような症例でも特に意識することなくこなしてしまうのであるが,初心者にとっては予期せぬ併発症の原因にもなりかねない。初心者の指導を行う際には以下に述べる点に留意すれば安全により良い結果を得ることができる。

眼科薬物療法のポイント—私の処方・9

角膜ヘルペス—上皮型

著者: 秦野寛

ページ範囲:P.1365 - P.1367

 40歳女性。主訴:右眼の視力低下と異物感。
 軽度の羞明,流涙を訴え,結膜の充血,浮腫,眼脂はあまりなく,眼瞼も異常はない。細隙燈顕微鏡検査で角膜上皮に樹枝状病変をみとめ,角膜知覚低下もある。発症数日前に感冒に伴う発熱があった。

臨床報告

Kabuki make-up症候群の眼科的所見

著者: 平形恭子 ,   大島崇 ,   西川朋子 ,   松井一郎

ページ範囲:P.1331 - P.1335

 Kabuki make-up症候群は,特異な顔貌,精神発達遅滞,低身長,特異な皮膚紋理異常,骨格異常,易感染性等を特徴とし,原因が未だ不明な先天奇形症候群である。
 我々は本症患児9例(男4例,女5例)の眼科的所見を検討し,次の知見を得た。
 1)比較的軽度の屈折異常が多い。
 2)斜視,特に内斜視の頻度が高い。
 3)2例に軽度白内障を認めた。
 4)特徴のひとつとされる青色強膜は認めなかった。

閉塞隅角緑内障の発生と関係する瘢痕期未熟児網膜症の眼内諸要素

著者: 上田直子 ,   加藤研一 ,   大竹弘子 ,   根木昭 ,   竹内篤 ,   永田誠

ページ範囲:P.1337 - P.1342

 0-2度の瘢痕期未熟児網膜症(CROP)のある3-23歳の42例83眼につき眼内諸要素を調べ,閉塞隅角緑内障の発生に関与する因子を検討した。CROP1度以上で,0度と比し有意に高く近視の合併があり,その近視度はCROPの程度が強くなるほど著明であった。瘢痕期2度中等度と強度では,全症例が−5D以上の近視であった。CROP眼での近視の特徴として,近視度に相関して眼軸が長くなる傾向があったが,眼軸長の延長はその近視度に比し少なく,2度強度ではかえって眼軸長が短かった。一方,近視度が強くなるほど水晶体厚径が大きく,前房深度が浅くなる傾向があり,水晶体が近視に関与していると考えられた。瘢痕期別では2度中等度以上で明らかに水晶体厚径が大きく,前房深度が浅い傾向があった。
 以上より,2度中等度以上のCROPでは,その晩期合併症として,水晶体厚性と考えられる高度近視の他に,閉塞隅角緑内障にも注意を払わねばならない。

夕焼け状眼底が出現した穿孔性眼外傷の1例

著者: 新城光宏 ,   久保町子

ページ範囲:P.1343 - P.1347

 鉄片による右眼穿孔性眼外傷をきたした48歳の男性に対し,受傷当日に経硝子体的に異物除去を,水晶体全摘出術を1週後に施行した。左眼には異常所見なく,右眼に軽度の虹彩毛様体点が認められた。術後35日目に,両眼眼底にいわゆる夕焼け状眼底の出現を認めた。また,7ヵ月目以降,左眼後極部に,繰り返し限局性の漿液性網膜剥離が発症した。さらに,Leopard spot類似の顆粒状網膜下色素沈着の出現を認めた。
 螢光眼底造影上,左眼黄斑部脈絡膜新生血管の存在が疑われ,レーザー光凝固術を施行し,網膜剥離の消褪をみた。
 夕焼け状眼底を呈した時点で実施した螢光眼底造影所見では,限局性の脈絡膜炎の存在が推定された。本症例は明らかなぶどう膜炎所見を欠く交感性眼炎と考えられた。

海綿静脈洞硬膜動静脈奇形の経静脈カテーテル塞栓術

著者: 鈴木祐子 ,   吉田晶子 ,   岡部仁 ,   桑島治三郎 ,   高橋明 ,   吉本高志

ページ範囲:P.1349 - P.1352

 海綿静脈洞硬膜動静脈奇形DAVM 6症例に対して,上眼静脈経由で複数の細い銅線を病変部血管内に留置する経静脈カテーテル塞栓術を実施し,全例に眼所見の著明な改善が得られた。
 術前に眼症状として,6例に球結膜血管怒脹,眼球突出,眼圧上昇,4例に外眼筋麻痺,2例に眼痛,耳鳴,1例に視力障害と網膜症があった。術直後からほとんどの眼所見が著明に改善した。2例で外眼筋麻痺がわずかに残ったが,複視は消失した。1例で海綿静脈洞症候群が一過性に生じた。他の合併症はなかった。
 本法は留置した銅線による血栓形成効果electrothrombosisを通じて,動静脈奇形部を閉塞することを意図している。従来の観血的治療法より手技が容易であり,流入血管の数や種類にかかわらず実施することが可能である。予期しない動脈閉塞の危険性が小さいこと,繰返して実施できること,他の方法との併用が可能であるなどの利点がある。本法は本症に対してまず試みられてよい秀れた方法と評価された。

螢光眼底造影でとらえた網膜細動脈を流れる栓子

著者: 横井則彦 ,   照林宏文 ,   赤木好男 ,   山本敏雄 ,   茨木信博

ページ範囲:P.1353 - P.1357

 網膜細動脈を流れる栓子を撮影する機会があり報告した。症例は高血圧,狭心症を有する66歳の男性で,左眼の視野欠損を自覚した翌日,当院を初診した。初診時,網膜動脈分枝部に白色栓子を認め,これによる閉塞症と考え,眼底撮影と螢光眼底造影を施行した。施行中,突然,栓子の破片と考えられる移動性栓子が現れ,追跡撮影した。白色栓子の壊れ易い性質,移動性栓子の所見,患者の循環器系の検索から白色栓子は動脈硬化病巣に由来するフィブリン・血小板栓子と考えられた。

樹氷状血管炎を呈した眼犬蛔虫症の1症例

著者: 粟田桂子 ,   大野重昭 ,   辻守康

ページ範囲:P.1369 - P.1373

 7歳女児の右眼に5日前から充血があり,フィブリン析出を伴う強い虹彩毛様炎と樹氷状血管炎が初診時に見られた。ステロイド剤の全身投与で,炎症は2ヵ月後に消褪し,下鼻側周辺に隆起性病変を残した。発病後2年3ヵ月の間,再燃はない。
 血清学的検査は弱陽性であったが,典型的な臨床像と合せ,眼犬蛔虫症と診断した。

乳頭領域の陥凹を伴わない朝顔症候群類似の乳頭部先天異常

著者: 東範行 ,   植村恭夫

ページ範囲:P.1377 - P.1384

 朝顔症候群に類似する乳頭部先天異常で,検眼鏡にも超音波検査によっても乳頭領域に陥凹が認められない症例4例4眼の臨床的検討を行った。これらは陥凹を伴わない以外は眼底所見,蛍光眼底所見,電気生理学的所見も含めて朝顔症候群とは明らかな差は見られなかった。このうち1例は両眼性の乳頭形成異常であり,1眼は陥凹を伴わなかったが,他眼には陥凹が認められ朝顔症候群の所見を呈していた。このような先天異常は従来乳頭部第一次硝子体過形成遺残とも呼ばれていたが,今回の所見からは本質的に朝顔症候群と同一の疾患であると思われた。
 これらは全例に乳頭上の白色組織が認められ,また乳頭耳側縁のmacular yellow pigmentや放射状の網膜襞など,乳頭周囲の網膜が乳頭部にむかって牽引されていると思われる所見が観察された。これは朝顔症候群にも認められる所見であるが,今回のような乳頭領域に陥凹のない症例でも起こり得ることが判明した。したがってこれらの網膜の牽引の発生機転としては,陥凹が原因であるとするよりは,むしろ乳頭上に見られる白色増殖組織の関与が強いことが示唆された。

視野障害程度別の治療方針の検討—第2報 中期—末期視野障害群

著者: 今泉正徳 ,   藤沢久美子 ,   宮澤裕之 ,   溝上國義

ページ範囲:P.1385 - P.1389

 湖崎分類Ⅲa期からⅣ期の視野障害を示す原発開放隅角緑内障症例47例64眼を対象として視野障害進行因子について検討した。Gold-mann視野計にて測定したⅤ-4イソプター視野をEstermanのgridに従って点数化し,経過観察中の視野障害進行率と諸因子との相関について検討した。眼圧は特に高齢者において視野障害進行の重要な因子であり,また眼圧レベルにかかわらず高齢者ほど視野障害の進行が明らかであった。さらに追跡開始時視野障害の程度により視野障害の進行に有意の差が認められた。

低眼圧緑内障と原発開放隅角緑内障視神経乳頭縁面積の相違について

著者: 山上淳吉 ,   白土城照 ,   新家真 ,   山本哲也

ページ範囲:P.1391 - P.1394

 低眼圧緑内障(LTG)と原発開放隅角緑内障(POAG)の視神経乳頭障害の相違を知る目的で,視野障害が上もしくは下半分に限局しているLTG15例15眼,POAG13例13眼を選択し,視野全体および視野障害側,非障害側について,視野障害と乳頭縁面積との関係を比較検討した。視野障害の評価はハンフリー視野計30-2プログラムにより得られるmean deviationおよびtotal deviationによって行い,乳頭縁面積については乳頭ならびに陥凹の外縁を立体観察下で重量均質な用紙にトレースし,それぞれの断片の重量を測定することによって乳頭縁面積と乳頭面積の比(RD比)を求め,乳頭縁面積の代用とした。両群間の視野障害の程度に差は認められなかったが,RD比は全体としてPOAGと比較してLTGが小さい傾向にあり,特に非障害側においては有意の差が認められた(t-test;P<0.05)。この結果よりLTGではPOAGと比較して元来乳頭縁面積が小さいという可能性を示唆すると同時に,LTGでは視野障害発現に先立って陥凹が拡大する何らかの病態が視神経乳頭に存在している可能性を示唆しているものと考えられた。

眼球突出で発症した動脈瘤様骨嚢腫の1例

著者: 竹村美保 ,   三木正毅

ページ範囲:P.1395 - P.1399

 41歳男性の右眼窩内に発生した動脈瘤様骨嚢腫(aneurysmal bone cyst)の1例を報告した。
 主訴は漸時増強する無痛性右眼球突出および流涙で,所見として右眼下方転位,上転障害,視野欠損を認めた。検査所見では頭部単純撮影で眼窩上壁の骨嚢腫様骨欠損像,CTで前頭蓋底に低吸収域の硬膜外腫瘤像,MRIで高信号域の腫瘤像を示した。経頭蓋的腫瘤摘出術施行時,腫瘤壁は周辺骨に癒着しており,その内腔は血液が充満していた。組織所見では壁内に多数の血管腔,多核巨細胞を認めた。
 以上の所見からaneurysmal bone cystと診断した。術後,眼球突出,上転障害は著しく改善した。

黄斑部網膜剥離を伴うvitreomacular traction syndromeの硝子体手術

著者: 三宅養三 ,   三浦元也

ページ範囲:P.1401 - P.1405

 Vitreomacular traction syndromeは後部硝子体の不完全剥離に伴う永続的な硝子体の黄斑部癒着による黄斑部牽引を示す疾患であり,黄斑部が硝子体の強い牽引により持ち上がり,網膜剥離を生ずる場合もある。本症により黄斑部網膜が剥離し,視力が0.1以下に低下した3症例4眼に対して硝子体手術を施行し,1年以上の経過観察をした。本症の牽引要素は黄斑部を持ち上げる方向の求心性の牽引に加え,後部硝子体境界膜の網膜表面の癒着による水平方向の牽引も加味されている事が手術中に観察された。手術後網膜は復位し,全例に有意な視力向上がみられた。術前にcystoid macular edema (CME)が3眼にみられたが,2眼は硝子体手術後にCMEの軽減がみられた。黄斑部網膜剥離を伴う重篤な視力低下を示すvitreomacular traction syndromeには硝子体手術は良い適応となる。

硝子体手術後の前部輪状牽引による網膜再剥離例の対策

著者: 池田恒彦 ,   田野保雄 ,   細谷比左志 ,   中江一人 ,   生島操 ,   日下俊次

ページ範囲:P.1407 - P.1410

 増殖性硝子体網膜症の硝子体手術後に前部輪状牽引が原因で再剥離した12眼を報告した。初回硝子体手術の復位率は,無水晶体眼よりも有水晶体眼の方が低かったが,再手術例では無水晶体眼よりも有水晶体眼に高率に前部輪状牽引が認められた。前部輪状牽引の対策として,水晶体切除を併用した周辺部硝子体の充分な切除と増殖膜の切開除去が必要である。また増殖性硝子体網膜症の硝子体手術後の前部輪状牽引の発症を予防するために,初回硝子体手術から積極的に水晶体切除を行い周辺部の硝子体を充分に切除する方がよい。

Retinitis punctata albescensの姉妹例

著者: 浜井保名 ,   鈴木一作 ,   高橋茂樹

ページ範囲:P.1411 - P.1414

 6歳および7歳の姉妹にみられたretinitis punctata albescensの視機能を2年間にわたり観察した。
 2症例とも視力の低下,暗順応閾値の上昇が認められた。視野は求心性狭窄を示したが,2年間での変化は認められなかった。色覚検査(パネルD15)はtritaneであった。
 ERGではa波がわずかに観察されたが,2年間で消失型となった。またEOG (Light rise)は徐々に低下を示した。
 眼底所見では黄白色小斑点の数および出現部位には変化はみられなかった。遺伝形式は常染色体劣性であった。
 従って,これらのことよりこの疾患の進行状態を知るためには視力,暗順応,ERG, EOG (Lightrise)検査が必要である。

Letter to editor

「網膜色素変性症の遺伝子診断」について

著者: 飯島裕幸

ページ範囲:P.1363 - P.1363

 貴誌43巻4号掲載の三国郁夫・他論文"網膜色素変性症の遺伝子診断"について,意見を述べさせていただきます。これは遺伝病である網膜色素変性症患者について,採血にて得られるDNAを用いて,遺伝子レベルで診断しようという新しい試みに関するもので,国外ではすでにいくつかの報告がなされています。
 遺伝子診断については大きく分けて①病的遺伝子そのものを検出する直接診断と②RFLPを用いる間接診断の二つがあります。①は原因遺伝子が既知の場合はじめて適応できるもので,家系に関係なく診断が可能となります。②は疾病の原因遺伝子とは関係のないDNA多型に基づく,DNA断片長の違いを遺伝マーカーとして使う方法であって,与えられた家系内で病的遺伝子とマーカーとなるRFLPパターンの関係が明かな場合にのみ適応できる方法です。

論文論

パラグラフ/孫引き

著者:

ページ範囲:P.1364 - P.1364

 一般論として,英語の文章は,日本語よりもずっと読みにくい性質があるのではと思っています。もちろん,語学力の問題ではなく,書かれた言語そのものに内在する性格のことです。
 「読む」言葉として日本語が便利なのは,漢字と「かな」とが適当に混在しているので,いわば漢字がキーワードのような役目を果しています。このために,ページをざっと眺めるだけで,「何が主要な話題か」がすぐわかることになります。これに対して,英語の場合だと,アルファベット26文字だけで表現しなければならず,表意文字としてよりも,表音文字の性質が強いために,「一目で大意をつかむ」ことが難しいのです。これがロシア語になると,hとかgみたいに上下に出る文字が少ないため,困難さが一層大きくなります。

文庫の窓から

井上眼療書—内障眼手術篇(完)

著者: 中泉行信 ,   中泉行史 ,   斉藤仁男

ページ範囲:P.1416 - P.1417

 19世紀後半のヨーロッパ眼科は検眼鏡の発明(ヘルムホルツ,1851)によって飛躍的進展がみられたが,近世眼科手術の進歩もその創意者とまで言われた,フォン・グレフェ(Albrecht von Graefe,1820〜1870,Berlin)の活躍はめざましく,緑内障に虹彩の切除を行ったこと,白内障に水晶体摘出術の改良をなしたこと等彼の功績に負うところが多い。
 こうしたヨーロッパの進んだ眼科はわが国の眼科にも少なからぬ影響をもたらした。明治時代の初めに眼科の新知識を求めてヨーロッパ各国へ留学した伊東玄伯,梅錦之烝,河本重次郎,宮下俊吉,大西克知,井上達也等の各氏はこの19世紀後半の眼科,フォン・グレフェ氏の考案した白内障手術式等を修得して帰国,それぞれの立場で門人に教え伝えた。(福島義一稿「白内障の歴史から」)本書はこうした時期に著わされたもので,ヨーロッパにおける近代眼科を伝えた白内障手術専門書の草分的存在といえる。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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