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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科44巻10号

1990年09月発行

雑誌目次

特集 小児眼科診療マニュアル—私はこうしている 巻頭言

小児眼科診療の基本姿勢

著者: 丸尾敏夫

ページ範囲:P.1521 - P.1523

 小児とひと口に言っても,年齢の幅は広い。学童期以後は,成人に対する一般眼科の診療手技がおおむね適用できる。小児眼科診療がおっくうに思われるのは,自覚検査の信頼性が薄い乳幼児,特に検査に協力を得られない1歳から2歳6か月位の患者が対象となるときである。また,この年齢以上でも,精神発達遅滞を伴う場合はこの範疇に含まれる。
 ここでは,年少児を中心に,小児眼科診療の基本姿勢を,私の経験を基に述べてみたい。

検査の進め方と読み

視力検査(3歳未満)の実際

著者: 三宅三平

ページ範囲:P.1526 - P.1527

乳幼児視力検査のポイント
 乳幼児期における視力の左右差の存在は,しばしば弱視治療を必要とするようになる。すなわち治療できない器質的疾患であって視力が低下していても,それに弱視の要素が加わってさらに視力が低下することがあるからである。逆に両眼性の弱視の場合には,視力低下が同程度であるかぎりは,すぐ治療を開始しなくても手遅れになることはない。
 このことから,この時期の視力測定の基本理念は,まず左右差の有無を知ることが臨床的には大切であり,視力を数値で示すことは可能ならばその方が良いがそれにこだわる必要はないと考えている。

視力検査(3歳以上)の実際

著者: 藤井青

ページ範囲:P.1528 - P.1530

 3歳以上の幼小児では,3歳児(幼児)健診,就学時健診,学校健診を契機として,受診することが多い。
 一般的には3歳位から,ランドルト環単一視標,図形視標などによる自覚的視力検査が可能となる。
 しかし,幼小児,学童の自覚的視力検査を行うには,成人と異なる工夫と,注意が必要である。以下に,その要点を略述する。

屈折検査(3歳未満)の実際

著者: 平井宏明

ページ範囲:P.1532 - P.1533

 屈折検査は,不同視弱視,屈折性弱視の早期発見,予防を目的とする。乳幼児の未熟性,発達状況にもよるが,他覚的検査が主体となる。診断プログラムは表1に示す順序となる。

屈折検査(3歳以上)の実際

著者: 黒田紀子

ページ範囲:P.1534 - P.1536

 小児の診療にあたり,屈折検査はいかなる疾患を見る上でも,最も基本的,かつ重要な検査である。屈折異常の矯正は、原疾患に対する治療と平行して行われる必要があり,たとえ重篤な器質性疾患のために良好な視力が望めない場合でも,屈折異常の矯正でさらに視力が何段階か上昇することも経験する。また,就学前に屈折異常が発見される機会は極めて少なく,なんらかの主訴で受診した患者はその機会を利用し,一度は他覚的検査を行うようにしている。小児によっては正しい屈折値を得ることが,非常に困難な場合もあるが,困難な症例ほど他覚的屈折検査を必要としていることも多い。もちろん保護者に屈折検査の重要性を十分に説明し理解協力を得ることも必要である。

視野検査の実際

著者: 可児一孝 ,   貫名香枝

ページ範囲:P.1537 - P.1541

 小児の視野を測る際,視野計を使って定量的な視野を測ることができれば問題ないが,実際の臨床では,視野が広いのか狭いのか,半盲があるのかどうかというようなことだけしか分からないこともある。これでも診断のためには重要な情報である。
 一般に視野は次のような場合に測定される。

色覚検査の実際

著者: 田辺詔子

ページ範囲:P.1543 - P.1545

 色覚検査表による検査は,スクリーニングであると同時に精密検査の第一段階でもある。石原式色盲表,標準色覚検査表第1部先天異常用,第2部後天異常用,東京医大表,石原大熊表,AO-HRR表,諸種の幼児用色覚検査表がある。検査表は数字または図形で作られているので,幼児用でないものもかなり低年齢でも検査可能である。
 検査の結果は,正常及び次の3群に分れる。

両眼視機能検査の実際

著者: 矢ケ崎悌司

ページ範囲:P.1547 - P.1551

 両眼視機能とは,左右各眼の網膜に投影された視印象(retinal image)が視覚中枢において単一物として認知される機能であり,その最も高度な状態は左右各眼の視差より生じる三次元的感覚である立体視となる。両眼視機能の異常には抑制と綱膜対応異常があり,ともに斜視に認められる感覚適応と考えられている。
 乳幼児における正常な視覚発達には,視力とともに両眼視機能,特に立体視の発達が必要不可欠である。両眼視機能の発達,特に立体視の発達については,徐々に明らかにされつつある。検出方法の違いにより立体視の完成終期については差があり未だその時期は明確なものとはなっていないが,立体視の発達は少なくとも2〜3歳頃までは続いているものと思われるが,なおその後も不安定な状態が続いているようである。それに対し,立体視の萌芽時期についてはおおむね生後3〜4か月頃と一致した見解がなされている。それゆえ正常な両眼視機能を得るためには乳幼児時期の両眼視機能を測定し,早期にその異常をみつけ,適切な処置を行う必要がある。

眼筋麻痺検査の実際

著者: 上原雅美

ページ範囲:P.1553 - P.1555

 小児の眼筋麻痺は,先天性と後天性に分けられる。その中には,脳腫瘍によるものなど,原因究明と治療に急を要するものもあるが,異常神経支配によるものなど,根本的な治療が不能であるものも多い。
 小児の場合,患者自身の自覚的症状を正確に把握することが困難であり,乳幼児では,家族よりの病歴の聴取と他覚的検査のみに頼らざるを得ないし,その検査も限られる。また,疾患の発見のきっかけも,眼球運動障害や複視だけでなく,眼位異常,頭位異常,眼球振盪など,さまざまである。

弱視検査の実際

著者: 大関尚志

ページ範囲:P.1556 - P.1557

 弱視は視覚発達の障害が起こりうる危険期間(critical period)に視機能障害がもたらされる症候群で小児に特有なものである。具体的に言うと弱視は矯正によって視力が不充分にしか矯正できない状態でその原因の多くは斜視,不同視,微小(角)斜視,その他の視性刺激遮断などである。表1に片眼弱視と両眼弱視に分類した。

眼底検査の実際

著者: 秋山健一

ページ範囲:P.1559 - P.1561

 小児の眼底検査は小児の年齢とどのくらい十分見なければならないかによって決まる。1歳の子どもに網膜芽細胞腫を疑って眼底検査をする場合は全麻下に行わなければならない。一方斜視の子どもの眼底検査のためにいちいち入院させることはできない。どの子どもにどの程度の眼底検査を行うかは臨床的判断になる。
 一般に子どもの眼底検査では倒像検査が主体である。それは固視が一定時間静止することが出来ないことにもよるが,それ以上に子どもでは眼底の全体像が知りたいためでもある。筆者は好んで額帯式の双眼倒像鏡を川いているが片手が空くとか立体視ができるなどの利点がある。直像鏡が使えるのは全麻あるいは睡眠下の時と3歳以上で何回か再来した後で患者と十分ラポールが取れるようになったときである。それでも乳頭周辺が辛うじて見える程度である。細隙灯に頭をつけて前眼部の検査をさせてくれる子どもがいるが,このような状況では+90Dを使った眼底検査ができる可能性があるが,普通は細隙灯による眼底検査は望むべくもない。従って倒像眼底検査が子供の眼底検査と言うことになる。

眼圧検査の実際

著者: 湖崎淳

ページ範囲:P.1562 - P.1563

 緑内障の診断には視力,視野などの自覚的検査の他に眼圧,角膜径,視神経乳頭,前房隅角などの他覚的検査が必要である。小児の場合自覚的検査が困難であるところから他覚的検査,特に眼圧値によって診断を下さねばならないことが多い。しかし、乳幼児の眼圧測定を局所点眼麻酔下で行うことは非常に困難で,しばしば催眠下,全身麻酔下での測定が必要となる。ここでは,一般的な眼圧検査の種類およびその特徴,麻酔方法と麻酔が眼圧に及ぼす影響について述べる。

電気生理検査の実際

著者: 丸尾亨

ページ範囲:P.1565 - P.1568

 自覚的な検査が難しい小児では電気生理学的検査が重要な検査となる。眼底が透見できない乳幼児にはERG検査が必須であろうし,幼児の視力障害で心因性か器質的かの鑑別にはVEPが役立つ。しかし,検査をおこなうとき協力が得られない小児では,他覚的な検査である電気生理検査でも難しい面が多々あるものである。ここでは,小児の眼科臨床に使用されている暗順応ERG,Flash VEP,Pattern reversal VEPについて,その検査に必要な機器,測定の手順,結果の判定について,小児であるがゆえに問題となることや工夫すべき点にふれながら解説する。

超音波検査の実際

著者: 鈴木隆次郎

ページ範囲:P.1569 - P.1572

眼科超音波検査診断装置の特徴
 眼科の超音波診断では内科と異なり深部の検査は要さないが,精密な分解能を得る必要がある。眼科の超音波検査装置では,検査法に工夫がなされている反面,画像の表示法は各科とも差はない。眼科で使用する周波数は眼内には 10〜15〜20MHzで分解能がよく.眼窩には5〜10MHzと吸収減衰が少ないのが適当である。
 超音波診断には,パルス波を利用したA,Bモードと,連続波を用いるドップラー法がある。A,Bモードは,臨床に頻繁で使用する。

放射線検査の実際

著者: 麻薙薫

ページ範囲:P.1573 - P.1576

 小児の眼科診療において放射線検査が必要な場合は,多くは以下の状況が考えられる。
 1)白色瞳孔などを主訴とする眼球内腫瘍の疑がわれる場合。

診療の実際—ポイントとコツ

眼振

著者: 三村治

ページ範囲:P.1578 - P.1580

 最近では,固視の状態(foveation)と眼振波形から細かく分類する方法も考案されているが,記録と解析に時間を要し,また直接治療法に影響するわけではないので,日常臨床上は旧来の振子様(pendular)と衝動性(jerky)の2型に分類する方法で差し支えない。これに特殊型として,潜伏眼振,周期性交代性眼振を鑑別すればよい。

瞳孔異常

著者: 内海隆

ページ範囲:P.1581 - P.1583

被検者側の条件
 瞳孔検査一般の最も大切な被検者側の条件は,1)リラックスしていること(心理面)
 2)対光反応検査およびライトスイングテストにおいては,遠方の固視標を注視し続けること〜近方に調節しないこと(遠方調節固定)

心身症

著者: 普天間稔

ページ範囲:P.1584 - P.1586

 心身症とは,「身体症状(器質的,機能的)を主として訴えるが,その発症の原因あるいは経過の増悪因子として,心理,社会的因子あるいは性格的因子が関与している病態である」と定義されている。すなわち,ストレス関連疾患である。

眼瞼疾患

著者: 井出醇

ページ範囲:P.1587 - P.1590

 幼小児,小中高等学校学童生徒の検診で,今日圧倒的に多い眼瞼疾患は,アトピー性皮膚炎の症状が眼瞼にも認められるケースであろう。
 一方,私ども中規模診療所に来院する患児の眼瞼疾患をみると,第一が「まぶたが腫れた,痛い,赤い,痒い」などの主訴によるもの。第二は,「検診でさかさまつげといわれた」で代表される睫毛内反症。第三が眼瞼打撲などの眼瞼外傷(別項参照)。第四が「パチパチさせる,まぶたが挙がらない」などの機能異常の順のようである。

涙器疾患

著者: 大島崇

ページ範囲:P.1591 - P.1593

分泌系の異常
 1.結膜乾燥症
 先天異常:先天涙腺欠損;家族性自律神経失調(Railey-Day syndrome):いずれも稀なものであるので筆者も経験がなく治療法は分からない。
 後天性疾患:Vitamin A欠乏症(xeroder-mia, keratomalacia):先天異常としても起こり得るが,栄養不良,消化器疾患,肝臓疾患の治療の為の極度な食事制限により起こることがある。結膜,角膜の乾燥と角化が診断のポイントとなる。そのような状態の時は血中のvitamin A定量を定期的に行うことで,予防ができる。治療としてはvitamin Aを投与すれば直ちに回復するが,何よりもvitamin Aに思い当たることが第一である。我国では稀であるが,アジア,アフリカなどの低開発国では小児の失明原因のトップを占める疾患である。

結膜疾患

著者: 松村香代子

ページ範囲:P.1595 - P.1598

 私の勤務する香川小児病院では立地条件から,全く制限せずに小児の診療を行っているため,小児の眼疾患の実態がよく把握できると考えられる。日常の診療において,結膜疾患はよく遭遇する疾患であり,当科では新患の約20%が結膜疾患でしめられる。結膜疾患のうちほぼ90%が結膜炎で,この結膜炎の約70%が感染性であり,約30%がアレルギー性である。結膜炎以外の疾患としては腫瘍,異物,外傷などがある。たかが結膜疾患との印象をもちかねないが,重症偽膜性結膜炎,クラミジア感染症など視力障害,合併症の併発につながる場合もあり,正確な診断と治療が行われなければならない。

角膜疾患

著者: 金子行子

ページ範囲:P.1599 - P.1601

 小児の角膜疾患は,結膜炎や屈折異常に比べると決して多い疾患とはいえない。昨年の外来をふりかえってみると,12歳以下の小児において角膜疾患が占める割合は20.6%であった。しかし,その大半の67%は睫毛内反症が原因の角膜びらんであり,いわゆる角膜炎というのは全体の3.47%と少ない(図1)。まして角膜変性のような疾患は数例と稀である。なお,治療に苦慮した角膜炎も病変部の所見から以前上皮性病巣が認められたであろうと推定されるものが多い。したがって,小児の角膜疾患では,日常の診療でいかに角膜上皮性病変を見逃さないようにするかがポイントになると考えられる。本稿では日常稀な疾患は成書に譲り,遭遇する確率の高い病変の順にグループ分けをして述べてみたい。

ぶどう膜炎

著者: 高山昇三

ページ範囲:P.1602 - P.1604

 小児のぶどう膜炎は,統計上成人に比して少ない疾患であるが,これは小児という特殊性が大きな一因をなしていると考えられる。また最近の医療器械の精度や操作性はめざましく向上しているが,ほとんどが成人あいてのもので小児に関してはまだまだ不備といわざるをえない。小児ということでなかなか検査が行えず,十分に器械を駆使しえないため診断が難しいとなると誰しも敬遠したくなるのは当然のことであろう。しかし小児は炎症反応も強く重症化する傾向にあり視機能障害を残すことも多いのでなんとか早期発見,早期治療を行い,その原因について探ってゆかねばならない。以下,筆者の臨床経験の中から小児ぶどう膜炎の診療のポイントとコツについて述べる。

緑内障

著者: 上岡康雄

ページ範囲:P.1605 - P.1607

小児の緑内障の特徴
 小児の緑内障,特に原発先天緑内障はまれな疾患であるが治療が遅れると視機能の予後は不良で,小児の視覚障害の原因疾患の中でも重要な位置を占めている。しかし早期に発見され適切な治療がなされれば手術の成功率は高く,その予後は必ずしも悪くはない点で初診医の正しい診断が求められる。ところが,緑内障の初期症状は流涙・羞明・眼脂などで内反症,先天性鼻涙管閉塞,結膜炎などの日常ありふれた疾患と間違われやすく,さらにこうした患者の多くは検査に協力性のない乳幼児であるため,進行例はともかく初期例を診断することは必ずしも容易ではない。一方,本症の予後を左右するのは眼圧のコントロールの良否のみでなく,術後の視機能の適切な管理が重要である。さらに眼圧のコントロールの良否の判定は成人のような外来での正確な眼圧検査や視野検査が出来ない反面,いくつかの他覚的所見により可能である。このように小児の緑内障は成人とは異なった特殊性を持った疾患であることを念頭において,診療に当たる必要がある。

白内障

著者: 羅錦營

ページ範囲:P.1608 - P.1610

 先天白内障は小児眼科領域では,最も難しい疾患の一つである。白内障は水晶体のみの異常から他の眼の異常,全身異常を随伴するものまである。片眼性か両眼性のほか,水晶体の混濁の部位,程度,形状により,視機能にいろいろな影響をもたらす。一方,臨床上重要なことは,白内障による視性刺激遮断と視機能回復のcritical periodの問題であるが,これらの点は未だに解決されていない。また,先天白内障の治療において,手術手技の進歩とともに,手術時期の決定および術後の屈折矯正,弱視の治療が手術自体よりも大事であることが分かるようになった。
 先天白内障の形態はいろいろあるが水晶体の発生時期から,ある程度障害の時期を推定することができる。表1にある形態の頻度として,層間白内障が最も多く,核白内障,全白内障,極白内障の順である。眼合併異常としては,小眼球,虹彩低形成,PHPV,視神経低形成,網膜変性症,眼振,斜視等がある。これらの合併があった場合は,弱視は必発である。視力予後については表2に示した通りである。

硝子体疾患

著者: 東範行

ページ範囲:P.1611 - P.1615

 小児期にみられる硝子体疾患は,併せて網膜,視神経や水晶体,ひいては眼球全体の異常を伴っているものがしばしば見られる。多くは先天異常であるが,他に未熟児網膜症のように組織の未熟性と出生前後の環境変化によるものがある。このうち第一次硝子体過形成遺残(PHPV)と家族性滲出性硝子体網膜症(FEVR)は過去に疾患概念として確立されたものであるが,症例が集積され,病像に関する知識や発生機転についての考察が深まるにつれて,その名称が適切ではないと考えられてきている。また疾患概念が混乱しているのみならず,PHPVとFEVR,瘢痕期未熟児網膜症はその病像が類似しており,診断に迷う症例も多い。これは発生機転の一部が共通していることも考えられるが,発達期のかなり広い時期にわたって網膜や硝子体の血管異常が生じれば,異なる原因によっても,非特異的に網膜襞や水晶体後部線維組織などの類似の病像を呈しやすいことにも起因している。
 これらの診断には眼底検査や超音波検査,CTスキャン検査,電気生理学的検査などとともに,現病歴,既往歴,家族歴などの問診も大切なポイントである。治療できるものはわずかであるが,弱視予防のために行われるものがあり,また晩期合併症への対策も重要である。

網膜変性症

著者: 濵田恒一

ページ範囲:P.1616 - P.1618

 乳児視覚障害は,眼疾によってもたらされる場合のほか,中枢神経系の異常,代謝異常などの系統的疾患の一症状として出現する場合,あるいは視覚発達遅延による場合などさまざまの場合に見られる。乳児の網膜変性症に関しても,網膜変性症のみの場合と,代謝異常などの系統的疾患の一症状として出現する場合とがある。したがって,乳児の網膜変性症は単に眼科領域のみにとどまる問題ではなく,乳児に関係する各科にわたる問題である。そこで,乳児の網膜変性症を理解するためには,まず,乳児視覚障害のなかでの,網膜変性症の占める位置を認識することが重要である。このため,乳児の両眼性の視覚障害につき述べ,その後網膜変性症について述べる。

網膜剥離

著者: 平田勲

ページ範囲:P.1619 - P.1621

 小児は自覚症状の訴えが乏しく,また検査もしずらいために,網膜剥離では発見が遅れやすく視機能の予後は不良であることが多い。したがって日常診療や学校検診で視力低下を指摘されて来院した場合には,十分な散瞳を行って,眼底もよく精査しておくことが必要であると思われる。

視神経疾患

著者: 竹田眞

ページ範囲:P.1622 - P.1624

 札幌医大勤務中が殆どであるが過去10年の小児の神経眼科疾患(特に視路疾患)を洗い出してみた。
 純然たる視神経疾患としては,視神経炎,外傷性視神経症,視神経腫瘍,各種圧迫による視神経障害,うっ血乳頭,視神経萎縮,乳頭形成異常などがあった。

網膜血管病変・その他

著者: 竹田宗泰

ページ範囲:P.1625 - P.1628

 網膜血管異常の診断は形態学的から見ると図1のようになる。

眼窩疾患

著者: 中村泰久

ページ範囲:P.1629 - P.1631

愁訴の把え方
 眼窩の異常についての,小児あるいはその両親の訴え(symptom)は,成人のそれとさほど変わることなく,眼球の位置異常.複視,眼瞼の腫脹変色,眼窩部の変形などが主なものである。これらは眼窩壁骨折,眼窩腫瘍,眼窩部発育不全症,眼窩内異物,眼窩蜂窩織炎などに起因するものであるが,問診からの病因の推定は比較的容易であり,以後の診察をある程度的を絞って進めることができる。

眼外傷

著者: 田辺吉彦

ページ範囲:P.1633 - P.1636

 眼外傷は機械的外傷と非機械的外傷に分けられる。また,部位的には眼瞼,眼球,眼窩の3つに分けられる。一般に機械的外傷の方が多いので,ここではまず機械的外傷から始める。

網膜芽細胞腫

著者: 金子明博

ページ範囲:P.1637 - P.1640

 ほとんどが3歳以下の乳幼児の網膜から発生する悪性腫瘍である。発生頻度の人種差や性差はみとめられていない。我国における全国調査では15,000人の出生につき1名の割合であった。両眼性に発生する症例と片眼性の症例との比は1:2.6であり,家族性に発生している症例は全体の4.4%にみとめられた。初診時年齢の平均は両眼性6.7か月で,片眼性は24.4か月であった。

全身異常を伴う場合のCureとCare

未熟児網膜症

著者: 市川琴子

ページ範囲:P.1642 - P.1644

経過観察の方法とその治療
 低出生体重児の管理が進歩してきた現在においても,未熟児網膜症(ROP)は小児の重要な失明原因の一つである。そのため眼科医は,その疾患を熟知する必要がある。ここでは,ROPの経過観察の方法とその治療について述べる。

先天異常

著者: 伊藤大蔵

ページ範囲:P.1645 - P.1648

 先天異常とは,構造上,機能上,生化学上,正常範囲を外れたものを指し,斜視や色覚異常も先天異常といえるし,代謝異常のように発現が遅れるものも先天異常とされる。表1は,眼部先天異常を抜粋したものであるが,広い範囲が対象となる。発生機序・遺伝形式には詳しく触れず,実際の診療について述べてみたい。

悪性腫瘍

著者: 金子明博

ページ範囲:P.1650 - P.1651

 小児期で眼部に発生する悪性腫瘍の頻度は低いが,視機能のみならず生命にも関係しているため,他の眼疾患と異なった的確な対応が要求される。眼部原発としては、網膜芽細胞腫,眼窩横紋筋肉腫,髄様上皮腫,悪性黒色腫などであり,続発性としては,白血病,神経芽細胞腫,リンパ腫,ウイルムス腫瘍などがある。網膜芽細胞腫については1637頁に記載したので省略する。

母斑症

著者: 桐渕和子

ページ範囲:P.1653 - P.1656

母斑症とは
 母斑症は胎生早期の胎芽の異常により諸臓器に過形成性奇形hyperplastic malformationを生じ多彩な全身症状を呈する遺伝性疾患である。皮膚のみならず神経系と眼を好んで冒すために古くから眼科医も深くかかわってきた。
 1923年,眼科医van der Hoeveは結節性硬化症とvon Recklinghausen病の2疾患を総称して皮膚の小斑点phakos (ギリシャ語)を特徴とする母斑症Phakomatosisと命名した。1932年にはvon Hippel-Lindau病を第3の母斑症に,1936年にはSturge-Weber病を第4の母斑症に加え,以後母斑症の概念は広く受けいれられてきた。

心身障害児

著者: 唐木剛

ページ範囲:P.1657 - P.1660

診察室での注意点
 心身障害児の診察といえども,基本的には通常の診療をおこなう点に変わりはないのであるが,相手の協力が得にくくかつ診療サイドに戸惑いがあることが,診療行為をむずかしくして相互に敬遠し合う原因となっている。また人見知りのつよい乳幼児や対人関係の未熟な幼児にも共通する難しさでもあるので,心身障害児だけと特定しないで参考にしていただきたい。さて診療サイドにとって苦手な代表は,白衣をみるなり泣き出すか診察室に入る前から泣いているグループA・泣いてはいないが少しもじっと座って診察を受けないグループB (自閉症で視線をあわせない者も含む)・知的水準が低くて視力検査ができないグループC・知的には水準以上であるのに脳性麻癖が強いかことばが遅れているため視力が測れないグループD・複反応のとぼしいグループEが挙げられよう。診察の流れは図1と2にフローチャートで示した。

治療のテクニック—私のノウハウとコツ

コンタクトレンズ処方

著者: 本田実

ページ範囲:P.1662 - P.1664

 近年コンタクトレンズは飛躍的な進歩を遂げ乳幼児の屈折矯正あるいは前眼部の治療に役立つようになってきている。一方乳幼児の眼球は急速に成長しており,臨床上コンタクトレンズを処方する際に我々を悩ませる。実際外来で小児にコンタクトレンズを処方するとき次のような点が問題となる。
 1)患児あるいは親とのコミュニケーシヨン,親のインテリジェンス,経済力

眼鏡処方

著者: 横山連

ページ範囲:P.1665 - P.1668

 小児の眼鏡を処方するとき,弱視・斜視を合併している,あるいはその可能性のある場合と,そうでない場合とを区別して考える必要がある。ここでは,小児の眼鏡処方を前提とした視力検査にあたっての一般的問題点を挙げてみる。
 1.自覚的視力検査に対する応答の信頼性が乏しい。

斜視の視能矯正

著者: 深井小久子

ページ範囲:P.1669 - P.1672

 弱視・斜視の視能矯正にあたって私は,5つのポイントを確実にするための視能検査を行い視能矯正の必要性の有無を判断している。

弱視の視能矯正

著者: 臼井千恵

ページ範囲:P.1673 - P.1676

 弱視視能矯正には各種の器械を使用する訓練が行われてきた。しかし,それらの効果には疑問があり,早期治療の対象となる乳幼児では実施が困難である。現在私たちが行っている視能矯正方法は,①健眼遮閉法,②健眼アトロピン点眼法の二種類である。この両者の効果と適応には相違があるので対象を正しく選んで実施するとともに,視力の向上よりも固視機能の回復に着目することが大切である。

斜視手術

著者: 赤津史郎

ページ範囲:P.1677 - P.1680

 小児眼科領域における斜視手術は,早期の眼位の矯正による両眼視機能の獲得・保持という機能的矯正のみならず整容的矯正もまた大きな目的のひとつと言えよう。小児に対する眼筋手術は,加齢等に伴う眼位の変化で将来手術の追加が行われる可能性がある。再手術を容易に,より確実に行うために,その初回手術は筋肉に対する操作のみならず,結膜やテノン嚢の処理も非常に重要な点である。そのことが再手術後の結果を大きく左右することになる。以下の項目に従って,現在私が通常行っている眼筋手術の一部を紹介する。

白内障手術

著者: 菅謙治

ページ範囲:P.1681 - P.1681

先天白内障手術に対する考察
 完全白内障の場合,生後2か月までに手術を行わないと0.05以下の弱視になると報告されている。一方,外傷性白内障に対する手術成績から検討すると,術後の視力矯正が不十分な場合,5歳以下では0.1以下の弱視になる危険性が大きいと報告されている。
 小児に術後にコンタクトレンズを装着させることは並大抵のことではない。大抵の場合,不成功に終わるであろう。眼内レンズの使用も現在の所,不可能である。IOLの大きさ,眼球が成長した時にIOLの取り替えが可能か,などが問題となるからである。両眼の手術後にはメガネの使用が考えられるが,近視,遠視ともに十分な眼鏡はなく,メガネの場合にも高度な弱視になる危険性が大きい。

先天緑内障の手術

著者: 寺内博夫

ページ範囲:P.1682 - P.1684

 先天緑内障は,今なお小児期の失明の主要な原因のひとつである。早期発見と早期治療が成されなければ患児の将来を左右する重大な障害を来すことになる。しかし,乳幼児の緑内障は極めて稀な疾患であるため,診断や治療の経験を積むことは容易なことではない。

硝子体手術

著者: 安藤文隆

ページ範囲:P.1685 - P.1687

 小児の硝子体手術は,一般に予後不良な場合が多く,適応の決定には慎重でなければならない。特に低年齢ほど術中合併症の影響は大きく,手術の適応時期の決定は困難な場合が多い。一方,進行した増殖性硝子体網膜症(PVR)には,硝子体手術が復位させ得る可能性を持つ唯一の治療法といえる。小児に対する硝子体手術の頻度はそれ程多くはないが,疾患により対応の仕方は異なるので,それぞれの疾患についての注意点を中心に述べてみたい。

網膜剥離手術

著者: 出田秀尚

ページ範囲:P.1688 - P.1690

小児網膜剥離の頻度
 0歳から15歳までの小児期に発生する網膜剥離の頻度は,筆者の過去10年の経験では,2,618眼の中の93眼,3.5%である。他施設においても3〜10%と,同様の数値が報告されている。当院では,この内,幼児期,小学生期,中学生期の割合は,1割,4割,5割であった。

角膜移植手術

著者: 大橋裕一 ,   木下茂

ページ範囲:P.1691 - P.1694

 近年の角膜移植手技の進歩により,以前には禁忌とされていた疾患群(例えば,アルカリ腐食など)にまで,徐々に角膜移植の適応が拡大されつつある。しかしながら,こと小児の角膜移植に関する見解は,諸家によりまちまちであり,一種暗黒の領域といっていても過言でないようである。ここでは,最近当科において検討した長期予後データをもとに,我々の小児の角膜移植に対する考え方を提示したい。ただし,実際の手術法や術後管理についての詳細は他書に譲ることとする。

薬物療法での注意事項

著者: 高瀬正彌

ページ範囲:P.1695 - P.1696

家族への説明と投与上の注意
 対象小児の年齢,病状の程度,母親の年齢などにより強調すべき事,あえて知らせる必要のない事を選択するべきである。
 薬物療法に限れば,如何にコンプライアンスを良くするかは説明にかかっていると言っても過言ではない。本稿では小児薬物投与の注意点を示したが,率直な態度と平易な言葉で,母親の不安と感じている事柄に解答を与え,希望を持たせるように説明する。

眼科検診の実際とフォローアップ

乳児・1歳6か月児健診

著者: 田中尚子

ページ範囲:P.1698 - P.1700

 乳児および1歳6か月児の眼スクリーニングでは,眼の先天異常や早期管理を要する視機能発達阻害因子の検出が重要である。乳幼児健診は母子保健法にもとづき,保健所を中心に行われているが,実施の詳細は地域により若干異なっている。本項では大阪市保健所乳幼児健診における2次健診をひきうけている,大阪市立小児保健センター眼科における健診の流れと健診方法について述べる。

3歳児・幼児健診

著者: 神田孝子

ページ範囲:P.1701 - P.1703

 最近になって,厚生省でも3歳児健康診査(以下3歳児健診)に眼科検診を導入しようという動きが出てきた。愛知県下では我々愛知県総合保健センターが指導し,1974年(昭和49年)より知多保健所管内の3歳児健診に眼科検診を導入しているが,少しづつ対象市町村が増え,現在3市4町で3歳児健診に眼科検診を正規に取り入れている。

就学時・学校健診

著者: 河鍋楠美

ページ範囲:P.1704 - P.1706

就学時健診
 就学時健診は,入学時までに治療しておくべき疾患に重点を置いて検診を行う。

先天色覚異常

著者: 深見嘉一郎

ページ範囲:P.1707 - P.1709

 与えられたテーマは先天色覚異常の眼科検診である。眼科検診とは何か,1〜3の項目を見ると,乳児・1歳6か月児健診,3歳児・幼児健診,就学時・学校健診とある。検診と健診との違いは知らない。しかし,これはどう考えても,病院の診察室で,一人の患者を対象に,時間をかけて丁寧に行う色覚検査ではなく,集団を対象とする検査の実際のやり方,注意事項,その結果の扱い方について書けということらしい。フォローアップとは,しかつめらしい日本語にすると「事後措置」ということになるであろう。
 となると,まず先天色覚異常を集団検査することの意義から論じなければならない。

視覚障害児の指導

著者: 山梨正雄

ページ範囲:P.1710 - P.1712

視覚障害児の教育相談機関
 私の所属する東京都心身障害者福祉センターには,視覚障害科および幼児科というセクションがあり,視覚障害幼児・児童の養育・教育についての判定・相談を行っている。
 幼児・児童の視覚障害が確定したら.できるだけ早い時期に,このような視覚障害児の専門相談機関を紹介することが望まれる。

小児眼科遺伝相談—私はこうしている

著者: 上原文行

ページ範囲:P.1713 - P.1715

遺伝相談とは
 遺伝相談の定義は簡単なようで容易とはいえない。おおまかにいえば,“遺伝的に考慮すべき問題をもつ当事者に,その時点で得られている医学的事実にもとついて問題の本質を十分に説明し,結婚や子供をもうける場合の遺伝情報を提供する(カウンセリング)。そして最終的な結論は当事者(クライアント)の判断にまかせる”ことである。遺伝相談は,いわゆる優性相談とは根本的に異なることに注意する必要がある。また,遺伝現象は確率事象であるから,遺伝病の危険があるかないかを断定するのではなく,経験的な確率を推定することにとどめる。

小児眼科遺伝相談—私はこうしている

著者: 早川むつ子

ページ範囲:P.1716 - P.1720

 小児眼科の日常診療では,先天異常や遺伝性の問題が扱われる事が多い。これらの異常や疾患を持つ親の悩みは,患児への心配の他に次の子供や孫の発病の可能性(遺伝的危険率)へと限りない。また自分の家庭だけが問題を持った特殊な家庭と考え,大きな不安をかかえがちである。これら当事者の悩みに対し,危険率の推定を含め,医学的・遺伝学的知識を提供するのが遺伝相談である。それから先の問題は、当事者が判断,決定すべきで,回答は強制的,断定的であってはならない。
 遺伝相談へのDNA診断の応用が小児眼科領域でも近い将来広く行われるようになると考えられるが,本項では現時点での遺伝相談の実際について述べる。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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