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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科44巻12号

1990年11月発行

雑誌目次

連載 眼科図譜・292

In-the-bag Phacoemulsification後の高度の嚢収縮によりYAGレーザー前嚢切開を必要とした1例

著者: 鳥羽幸雄 ,   田上勇作 ,   小林定男 ,   関谷善文

ページ範囲:P.1818 - P.1819

 諸言 眼内レンズ(IOL)がいわゆる嚢内固定されても,capsular bagに亀裂があれば,非対称性の嚢収縮によりIOLの偏位が起こる可能性がある。長期にわたる確実な嚢内固定を得るには前嚢縁に亀裂のない本来の形態(integrity)の保たれたcapsular bagの作製が必要であり,このためにcontinuous circular capsulorhexis (CCC)とin-the-bag Phacoemulsificationが普及しつつある。しかし,こうして得られた亀裂のないcapsular bagに術後に非常に強い嚢収縮が起こると,前嚢切開縁が求心性に収縮し,IOLは逃げ場がないため,その前面が収縮した前嚢で被われるようになってくる。今回,術後に前嚢切開縁の収縮が高度に生じ,IOLの前面が線維性増殖膜で完全に被われ視力障害をきたしたため,YAGレーザー前嚢切開を行い,良好な結果を得た症例を経験した。
 症例 74歳女性。

眼の組織・病理アトラス・49

コーツ病

著者: 猪俣孟

ページ範囲:P.1822 - P.1823

 コーツ病Coats' diseaseは網膜血管の異常拡張とそれに伴う網膜の滲出性病変を特徴とする原因不明の疾患である。網膜血管が多発性に血管の拡張または血管瘤を形成し,拡張した血管の透過性亢進によって網膜に滲出液が出る。その結果,濃縮された滲出液が外網状層に沈着して地図状の大きな硬性白斑を形成する。特徴的な眼底所見から,本症の発症原因として炎症が考えられ,かつて滲出性網膜炎retinitis exsudativaと呼ばれた。
 コーツ病は主として10歳以下の幼年男児に発症する。通常片眼性で,まれに両眼性のこともある。類似疾患である粟粒血管腫Leber's miliaryaneurysmsはやや軽症のコーツ病とされ,20歳代から30歳代に発症する。コーツ病の眼底には,網膜血管の拡張や蛇行,点状または地図状の滲出斑(硬性白斑)と網膜出血がみられる(図1)。網膜下にも滲出液が貯留して,網膜剥離を生じる。まれに,コーツ病に網膜色素変性症を合併することがあるが,その理由はわかっていない。

今月の話題

白内障と緑内障との同時手術

著者: 深作秀春

ページ範囲:P.1865 - P.1869

 緑内障と白内障との合併例の場合,一般的には二段階手術が行われているが,多くの問題を含んでいる。一方,従来の同時手術も合併症が多い。今回新しい器具と手技の開発により,安全確実な同時手術が可能となった。

眼科薬物療法のポイント—私の処方・23

クラミジア性結膜炎—成人型封入体結膜炎

著者: 中川尚

ページ範囲:P.1872 - P.1874

 症例23歳男性。主訴:右眼の充血,眼脂。約3週間前から右眼の充血,眼脂,流涙が出現。近くの眼科で流行性角結膜炎(EKC)と診断された。症状が改善しないため当科を受診した。

眼科手術のテクニック—私はこうしている・23

硝子体手術に合併する緑内障

著者: 千原悦夫

ページ範囲:P.1876 - P.1877

 硝子体手術後に発生する緑内障には表1のごとくいくつかの種類があるが,原発性のものとは発生機序が異なるので,症状に対応した治療が必要である。

臨床報告

外傷性亜脱臼白内障に対する後房レンズ二次移植の1例

著者: 浅香猶子 ,   石田俊郎

ページ範囲:P.1825 - P.1827

 筆者らは,8時から12時までのチン小帯損傷を伴った,43歳男性の片眼性外傷性亜脱臼白内障症例に対し,嚢外摘出術および後房レンズ移植を行った。
 手術に際してチン小帯損傷の拡大,過剰な硝子体脱出を防止するため,前嚢切開は,ディスポーザブル針によるcan-opener capsulotomyを行い,核娩出はcryo-tipを用いて行った。約6か月後に後房レンズの二次移植を行い,その後1年5か月経った時点で,良好な矯正視力と両眼視機能が保たれている。
 チン小帯損傷例に対して,症例と手術法を選択すれば,両眼視機能維持の面で後房レンズ移植は有効と考えられた。

錐体ジストロフィーの各病型と電気生理学的検査成績

著者: 岸本伸子 ,   緒方奈保子 ,   山根淳志 ,   金井清和 ,   宇山昌延

ページ範囲:P.1829 - P.1834

 錐体ジストロフィー38症例を眼底所見で,1) bull's eye型,2)色素沈着を伴うびまん性色素上皮萎縮型,3)色素沈着のないびまん性色素上皮萎縮型,4)脈絡膜血管萎縮型,5)眼底所見の乏しい型,に分類し各型を電気生理学的に検討した。全例で錐体ERGは低下した。bull'seye型は半数が桿体ERGとEOGも低下したが,高度障害例はなかった。びまん性色素上皮萎縮型では色素沈着を伴ったものが桿体ERG, EOGの障害が最も強く,色素沈着のないものは軽度だった。眼底所見の乏しい型は,障害はわずかだった。錐体ジストロフィーは各病型で,同じ眼底所見のものは同じ様な電気生理学的特徴を示し,本疾患の症状,経過,予後を考える際,病型別分類は有益だった。

眼内レンズパワーの術後屈折誤差

著者: 小浜真司 ,   松尾健治 ,   本坊正人 ,   宮田典男

ページ範囲:P.1835 - P.1839

 人工水晶体の嚢内固定術を受けた正常眼軸(22〜25mm)の208眼と長眼軸(26〜28.5mm)の35眼で,SRKの式によって計算された眼内レンズの術前予測値と術後実測値および眼軸長と屈折誤差について統計的に検索した。
 正常眼軸では+0.397±0.585Dの屈折誤差を生じ,±1.5D以内の屈折誤差は97.1%,±1.0D以内は87.5%,±0.5D以内は81.7%であった。眼軸長が長くなるにつれて屈折誤差が小さくなり,眼軸長(x)と屈折誤差(y)の間にy=−0.17x+4.37の回帰直線が得られた。予測値(X)と実測値(Y)の間にも相関関係がみられ,回帰直線はY=1.46X+0.75で表わされた。
 長眼軸では−0.078±0.871Dの屈折誤差が生じ,±1.5D以内の屈折誤差は88.6%,±1.0D以内は80.0%,±0.5D以内は62.9%であり,眼軸長(x)と屈折誤差(y)の間にy=−0.044x+1.103の回帰直線が得られた。

糖尿病性黄斑浮腫に対する星状神経節ブロック療法

著者: 小幡博人 ,   山下英俊 ,   清水可方

ページ範囲:P.1841 - P.1845

 糖尿病性黄斑浮腫8例8眼に,星状神経節ブロック(SGB)を施行した。SGB施行回数は,1例は29回,残りの7例は10〜11回であり,術後3か月間経過観察した。最終観察時点で,8例中4例に視力改善,3例に螢光眼底所見の改善が認められた。汎網膜光凝固後の6例については,視力および螢光眼底所見の改善は2例,不変は3例であった。臨床的にグリッドパターン光凝固や酸素療法と同等の効果をもつ治療手段であると考えられた。

不全型桿体一色型色覚の姉弟

著者: 横田章夫 ,   妹尾正 ,   木村純 ,   辛米子

ページ範囲:P.1847 - P.1850

 姉弟にみられた不全型桿体一色型色覚の症例を報告した。
 姉では中心窩における暗所視視感度がCIE暗所視比視感度曲線に一致した。しかしpanel D−15testをpassしたこと,白色背景下における視感度測定の結果は明らかに錐体系の残存を示し,不全型桿体一色型色覚と考えられた。弟は中心窩における暗所視,白色背景下いずれの視感度測定の結果もCIE暗所視比視感度曲線に一致したが,アノマロスコープ検査でスコトピックマッチが得られず,不全型と考えられた。錐体系の障害の程度は全般的に姉に比べて弟に強かった。このような症例は完全型,不全型の診断あるいは鑑別診断に迷うことがある。

Duane症候群の臨床的研究—その1 視機能についての統計

著者: 杭ノ瀬美紀 ,   大月洋 ,   岡山英樹

ページ範囲:P.1851 - P.1855

 Duane症候群の63例(Ⅰ型:45例,Ⅱ型:1例,Ⅲ型:17例)を臨床症状から3病型に分類し,頭位,眼位,視力,屈折,および両眼視機能を病型別に比較検討した。Ⅰ型は外転が主に障害されているもの,Ⅱ型は内転が主に障害されているもの,Ⅲ型は外転および内転がいずれも障害されているものとした。Ⅰ型では内斜視が多く,患側へのface turnが主な頭位異常で,視力,両眼視機能とも良好な例が多く認められた。Ⅲ型の眼位は水平偏位に上下偏位を合併する割合が多く,内転時にも上下偏位を認める例が多かった。このため頭位もface turn以外のものを多く認めた。Ⅲ型の弱視の頻度は,Ⅰ型よりもやや多いとはいえ有意差はなかったが,Ⅲ型のほうが立体視機能の不良な例が有意に多く認められた。なお,Ⅱ型は症例数が少なく十分な検討は行えなかった。これらの結果から,Duane症候群において,両眼視機能の獲得を阻害する要素としては,顕性斜視,それも上下斜視や内転時の上下偏位が考えられた。

ベーチェット病にシェーグレン症候群が合併した2例

著者: 難波克彦 ,   小川智美 ,   稲葉午朗 ,   岸いずみ ,   宮永嘉隆

ページ範囲:P.1857 - P.1860

 ベーチェット病とシェーグレン症候群の合併は,これまで報告されていない。筆者らはこれら2疾患を合併した症例を初めて報告した。症例はいずれも女性で,50歳の完全型と,56歳の陰部潰瘍を欠く不全型のベーチェット病である。2症例はまたシェーグレン症候群と確定診断された。両疾患の合併の機序は明らかではないが,1例では,HLAの関与が示唆された。また合併の起こりにくい理由として,性ホルモンが関与している可能性が考えられた。

角膜全層移植と上皮形成術を同時に行った症例

著者: 石田俊郎 ,   加藤剛

ページ範囲:P.1879 - P.1882

 角膜外傷後約30年目にデスメ膜瘤と広範な偽翼状片を伴った角膜混濁例に対し,全層角膜移植と角膜上皮移植の同時手術を行い,視機能の改善を得た。症例は58歳男性である。約30年前,ペーパーナイフの研磨中ナイフの破片が右眼に当たった。その後視力低下,眼痛が出現したため当科を受診した。初診時,右眼視力は0.06であった。右眼前眼部には広範な偽翼状片とデスメ膜瘤を認めたため,全層角膜移植と角膜上皮移植の同時手術を施行した。術後3度の拒絶反応を認めたが,ステロイド剤の点眼,内服治療で軽快し,1年後に視力は0.6に改善した。角膜血管新生を伴う角膜混濁例に対し,角膜上皮移植の併用は有効な治療手段であると考えられる。

水晶体位置異常に対する手術成績

著者: 沖波聡 ,   鈴木聡美 ,   小椋祐一郎 ,   石郷岡均

ページ範囲:P.1883 - P.1887

 水晶体位置異常に対して輪部強角膜切開創から水晶体摘出術を行った24例28眼について検討した。外傷性が10例10眼,特発性が11例13眼,マルファン症候群が2例4眼,無虹彩症が1例1眼であり,硝子体内脱臼が7眼,硝子体内亜脱臼が17眼,前房内脱臼が3眼,前房内亜脱臼が1眼であった。術後,73.1%で視力が改善し,術前に緑内障を合併した16眼の75%で眼圧がコントロールされた。網膜剥離が術前に1眼にみられ,術後,5眼に起こった。強角膜切開で水晶体摘出術を行う方針であれば,水晶体位置異常による重篤な合併症がない症例は手術適応としないほうがよいと思われる。

動眼神経麻痺に併発した異常連合現象を利用した斜視手術

著者: 大月洋 ,   小西玄人 ,   長谷部聡 ,   田所康徳

ページ範囲:P.1889 - P.1893

 患眼の内直筋と眼瞼挙筋の間の異常連合現象のみられる3症例の外傷性動眼神経不全麻痺を対象に,内直筋のともむき筋に対してcounterpalsyを起こさせるように健眼の外直筋の後転に内直筋の切除を併用し健眼を故意に内転させた。その結果,外斜偏位の減少とともに眼瞼下垂の改善が得られ,さらにきわめて狭い範囲であるが両眼単一視視野が認められた。これらの結果から眼瞼下垂の改善は健眼で固視する際にcounterpalsyにより過剰なインパルスが健眼の外直筋に伝達され,同量のインパルスがHeringの法則に従い患眼の内直筋とこれと異常連合する眼瞼挙筋に伝わり眼瞼が挙上すると推察した。

乳頭上血管腫を認めたvon Hippel-Lindau病の1例

著者: 岡田卓也 ,   高橋裕忠 ,   佐宗幹夫 ,   森一満 ,   宇治幸隆

ページ範囲:P.1895 - P.1898

 視神経乳頭上に発生した網膜血管腫を伴うvon Hippel-Lindau病の1例を報告した。螢光眼底造影で血管腫よりの螢光漏出が認められ,黄斑部に軽度の浸出斑がみられたが,視力良好のため経過観察された。CTスキャンでは異常所見は見いだせなかったが,MRIで小脳,延髄に腫瘍様所見が認められ,延髄については組織学的に血管芽腫と診断された。また膵,腎にもCTスキャンで嚢胞の合併がみられ,これらの所見より確定診断がなされた。

円板状黄斑変性症に伴う硝子体出血の超音波像と硝子体手術術前検査としての意義

著者: 麻生伸一 ,   長尾完 ,   佐藤幸裕 ,   松井瑞夫

ページ範囲:P.1899 - P.1902

 今回,われわれは硝子体出血を合併した円板状黄斑変性症に対し超音波検査を行い,本疾患の超音波所見ならびに硝子体手術適応について検討を加えた。
 超音波検査を行ったのは30例31眼で,そのうち硝子体手術を行ったのは14例14眼あった。硝子体病変の超音波所見について分類すると,単純な硝子体出血が3眼,硝子体網膜癒着を伴わない硝子体膜形成が21眼,硝子体網膜癒着を伴う硝子体膜形成が2眼,硝子体網膜癒着の不明な硝子体膜形成が5眼であった。また,超音波検査で後極部に隆起性病変を認めたものが22眼,認めなかったものが6眼あったが,残り3眼は広範な出血性網膜剥離を認めた。また,手術を行った14眼の視力予後は,隆起性病変の有無では差がみられず,最終視力は全例0.1以下であった。
 円板状黄斑変性症による硝子体出血の超音波所見は,硝子体網膜癒着を伴わない硝子体膜形成および後極部隆起性病変が特徴的であった。硝子体手術による視力予後は不良で,このような特徴的超音波所見により円板状黄斑変性症が疑われる場合,対側眼の状態により手術適応を決定すべきである。

トラベクロトミーを併用した眼内レンズ移植術の術後経過

著者: 寺崎浩子 ,   佐井紹謙 ,   柳田和夫 ,   高良俊武

ページ範囲:P.1903 - P.1907

 薬物療法でコントロール不良の開放隅角緑内障に合併した白内障患者9例10眼に,トラベクロトミーと水晶体嚢外摘出術および人工水晶体移植術の同時手術を行った。平均観察期間は16か月で,術後視力は全例に改善が見られた。術後眼圧は9眼で15mmHg以下,1眼は20 mmHg以下にコントロールされた。視野検査では7眼に改善がみられた。角膜内皮細胞面積増大率は平均7.3%であり,同時手術を行うことによる中央部角膜内皮への影響は小さかった。本術式は眼圧のコントロールに有効で,早期の視力回復により患者の負担を軽減し,角膜内皮障害の少ない手術と考えられた。

Report from Overseas

水晶体の自視検査法

著者: 車はん ,   姜虹秋

ページ範囲:P.1870 - P.1871

 本文では著者らの水晶体の自視検査法を紹介した。白内障の薬物治療に際して,患者の自家観察のために本法を設計した。眼科医も患者もともに本法が好きだったので,きわめて興味ある新しい本法をここに報告する。

文庫の窓から

和蘭眼科新書(その1)

著者: 中泉行信 ,   中泉行史 ,   斉藤仁男

ページ範囲:P.1908 - P.1909

 「和蘭眼科新書」に関してはこれまで多くの先輩によって責重な研究が行われ,ことにその原本輸入と翻訳事情についてはより詳細な研究報告があり,よく知られている通りである。本書はわが国の西洋眼科翻訳書刊行の第1として,日本眼科の発展に大きな影響を及ぼした意義のある眼科書の1つである。
 本書は最終的には彼の有名な「解体新書」の翻訳者の1人である杉田玄白(1733〜1817)の子,杉田立卿(1786〜1845)によって訳述され,文化12年(1815)春正月,天眞樓蔵版にて刊行されたものであるが,本書が訳述刊行されるまでにはおよそ次のような経過を辿っている。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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