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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科44巻3号

1990年03月発行

雑誌目次

特集 第43回日本臨床眼科学会講演集(1)1989年10月 名古屋 学会原著

Ganciclovirによるcytomegalovirus網膜炎の治療

著者: 岸茂 ,   細木敬三 ,   林英憲 ,   玉井嗣彦 ,   新谷憲治 ,   岩原義人 ,   三好勇夫

ページ範囲:P.227 - P.231

 悪性リンパ腫,AIDS 患者に発症したcytomegalovirus (CMV)網膜炎に対し,ganci-clovirを用いて治療を行った。2例とも眼底には後極部を中心とした網膜の滲出病変,出血,血管の白鞘形成がみられ,尿咽頭ぬぐい液,1例では血液からもCMVが検出された。ganciclovirの投与によってCMVは陰性となり,網膜の滲出病変は改善した。AIDS患者では,その後,維持量投与の中断によって病状が再燃し,最終的に視力は光覚(−)となった。副作用として悪性リンパ腫患者に白血球減少症がみられ,投与の一時中断を余儀なくされた。ganciclovirはCMV網膜炎の有効な治療薬と考えられるが,投与を中断すると再発することがしばしばで,維持量投与中の再発防止が課題であると思われる。

鈍的眼外傷後の低眼圧黄斑症に伴った脈絡膜からの螢光漏出

著者: 上野眞 ,   中島徹 ,   安倍芳子 ,   町田拓幸

ページ範囲:P.235 - P.238

 自分の打った野球ボールが右眼に当たり,前房出血と約60°の範囲に毛様体解離をきたした39歳男性に,低眼圧が持続した。受傷3か月後に黄斑耳側に限局性漿液性網膜剥離が発症し,螢光眼底造影で中心窩から3.5乳頭径の位置に下降性漏出点があった。アルゴンレーザー光凝固で剥離は消失した。低眼圧とこれに伴う黄斑症状は毛様体解離縫合術により治癒した。鈍的眼外傷後に多発性後極部網膜色素上皮症が発症した自験例との類似点などから,低眼圧の持続による外血液網膜柵の破綻が,本症例の網膜剥離の主因と考えられた。

血液疾患における眼底所見について

著者: 大越貴志子 ,   草野良明 ,   山口達夫 ,   石田誠夫 ,   神吉和男 ,   細谷亮太 ,   西村昂三 ,   新倉春男 ,   田中稔

ページ範囲:P.239 - P.243

 1977年1月から1989年6月までに内科及び小児科の依頼で眼科受診し,眼底検査を受けた血液疾患患者145例中58例(40%)に原疾患に起因すると思われる眼底異常を認めた。疾患により眼底像に特徴を認めた。網膜出血や綿花様白斑は殆どすべての疾患に見られた。網膜血管の蛇行は慢性白血病に多く認めた。毛細血管瘤は白血病や前白血病にのみ見られた。慢性白血病においては網膜出血を来たした症例は正常眼底の者に比較して白血球数が多い傾向を認めた(0.01<P<0.025)が,ヘモグロビン値,血小板数は差がなかった。骨髄腫においては網膜出血を認めた症例の尿素窒素値は正常眼底の症例に比較して高い傾向を認めた(0.005<P<0.01)がヘモグロビン値,血小板数,血漿蛋白は差がなかった。白血病においては網膜表層出血を伴うものは網膜深層出血主体の症例よりも白血球数(0.01<P<0.025)も血小板数(0.005<P<0.01)も少ない傾向を認めた。

Digital Fundus Camera(IMAGE net)による蛍光眼底造影検査

著者: 播村佳昭 ,   白木邦彦 ,   三木徳彦 ,   上江田安彦

ページ範囲:P.245 - P.248

 CCDカメラで撮像し,デジタル信号を画像処理するdigital fundus camera (DFC)であるTOPCON製IMAGE netのプロトタイプを各種眼底疾患38例の蛍光眼底造影検査に臨床試用して,既報のOIS製DFC−512と比較した。DFCによる撮像と35mm写真フィルムでの従来の撮影を同時に行い,モニターディスプレー上のDFC処理画像を写真撮影した。DFC−512ではcontrast enhancement処理で,周辺の光量不足が強調されて著しく暗くなる症例があった。IMAGE netでは,画像を分割して,各々を処理するので,この欠点が少なかった。必要な撮像光量,システム有効画素,メモリー容量などでIMAGE netが優れたが,他の種類の画像処理の有用性や画質には大差はなかった。

DSAで頸部内頸動脈閉塞症が証明された網膜動脈閉塞症の1例

著者: 横井則彦 ,   山本敏雄

ページ範囲:P.249 - P.252

 コレステロール栓子は,網膜動脈を完全閉塞することは少なく,一過性黒内障の原因となったり,無症候性に動脈分岐部に光輝を放つ栓子として観察され,頸部内頸動脈閉塞症との関わりが深い。
 われわれは,64歳男性の右眼の網膜動脈を一旦閉塞したのち壊れて移動したと考えられるコレステロール栓子を経験した。右眼の眼底血圧の低下,腕・網膜および,腕・脈絡膜循環時間の遅延,右側脳梗塞の既往から,内頸動脈閉塞症が疑われ,静注digital subtraction angiography(DSA)検査で右頸部内頸動脈閉塞症が証明された。
 本症例は,近年本邦でも増加しつつある頸部内頸動脈閉塞症の急性眼病変の一つとして重要であり,診断確定における静注DSA検査の意義は大きいと考えられた。

網膜中心静脈閉塞症における血小板機能異常

著者: 松橋英昭 ,   中野美奈 ,   吉本弘志

ページ範囲:P.253 - P.256

 網膜中心静脈閉塞症患者における血小板凝集能を測定し,健常者との比較および本症の病態との関連性について検討し以下の結果を得た。
 (1)健常者42名における血小板凝集曲線の分析結果から,血小板凝集能亢進の基準はADP1μMおよびコラーゲン0.5μg/mlによって明らかな二次凝集が惹起される場合に設定可能であった。
 (2)網膜静脈閉塞症患者76例においては54%と高頻度に血小板凝集能亢進が認められた。また最大凝集率はADP1μM 5μMおよびコラーゲン0.5μg/mlにおいて,統計学的にも患者群が有意に高値を示した。
 (3)急性期と慢性期,基幹閉塞症と分枝閉塞症,基礎疾患の有無によって血小板凝集能亢進の認められる比率を比較検討したが,統計学的有意差は認められなかった。
 以上により,血小板機能の亢進はそれ自体独立した本症の危険因子と考えられる。抗血小板療法によりこれに対処することは,病変の拡大を抑え唐発を子防する土で有用な治療手段になり得ると思われた。

網膜中心静脈の循環障害に伴い毛様網膜動脈の循環障害が確認された症例

著者: 戸塚清一

ページ範囲:P.257 - P.260

 71歳女性の右眼にみられた網膜中心静脈閉塞症(CRVO)と毛様網膜動脈の循環障害について報告した。経過中CRVOの循環障害とそれに続く循環の改善がみられたが,それに対応して毛様網膜動脈にも循環障害と循環の改善が認められた。CRVOと毛様網膜動脈の循環障害の合併例においては,発病初期に毛様網膜動脈に血液の逆流現象がみられたり,急激な血圧低下により発症した症例がみられることなどから,毛様網膜動脈の循環障害は毛様網膜動脈と網膜静脈との灌流圧の低下に起因した機能的閉塞と考えられてきた。本症例は網膜静脈の循環状態と毛様網膜動脈の循環が密接に関連していることを示し,毛様網膜動脈の閉塞が機能的閉塞であることを裏付ける症例と考えられる。CRVOの循環障害時には毛様網膜動脈には口径不同,狭細化,充盈遅延が認められた。

網膜中心静脈閉塞発症後の網膜機能の回復

著者: 坂上欧 ,   勝海修 ,   広瀬竜夫

ページ範囲:P.261 - P.263

 我々は網膜中心静脈閉塞(CRVO)発症後4年間にわたる経過観察中,合計8回網膜電図(ERG) を記録した。ERG は発症後1か月はsupernormal responseを示し,3か月ではnega-tive (−) responseを示したが,その後,徐々に回復しほぼ正常に達した。一連の ERG 記録はCRVO後の網膜循環障害による網膜機能の変化をよく示し,ERGは網膜循環障害の網膜機能の評価に有効であった。また,一般に予後が悪いと考えられているnegative ERGを示した重度の出血型CRVOでも可逆性の網膜機能の回復があり得ることが示唆された。

非虚血型網膜中心静脈閉塞症に対する汎網膜光凝固療法の臨床的検討

著者: 田村京子 ,   園田日出男 ,   安藤伸朗 ,   藤井青 ,   関伶子

ページ範囲:P.265 - P.269

 網膜中心静脈閉塞症(以下CRVO)95例100眼を,Hayrehの分類1)に従って,nonischemic CRVOとischemic CRVOに分類し,nonis-chemic CRVOにおける汎網膜光凝固療法(以下PRP)の適応について視力予後の面から臨床的に検討した。
 ischemic CRVOへの移行例を除くnonis-chemic CRVO 60眼のうち,網膜症が中等度以上の例をPRP施行眼(A群)19眼と光凝固未施行群(B群)12眼にわけ検討した。最終視力0.1以下の視力予後不良例がA群で16眼,84.2%,B群で3眼,25.0%であり,視力改善率はA群10.5%,B群83.3%で視力悪化率はA群57.9%,B群0%とA群が有意に視力予後不良であった。nonischemic CRVOに対する発症早期のPRPは視力改善には無効であり,さらに視力を悪化させる危険も少なくない。網膜症の進行例やischemic CRVOへの移行例を除き,その施行は慎重であるべきである。

変視症の定量化に関する研究—測定方法について

著者: 松本長太 ,   坪井俊児 ,   奥山幸子 ,   宇山孝司 ,   大鳥利文

ページ範囲:P.271 - P.274

 種々の網膜疾患において小視症,大視症を含め変視症を訴える症例は非常に多い。今回我々は変視症の定量化の新しい試みとしてパーソナルコンピューターを用いたCRT上での測定方法を検討した。同一眼において,黄斑部に配置した2度間隔の計48点の各測定点に順次呈示される視角1度の視標と,基準となる固視点の視標を比較し大きさを合わせることにより変視量を定量的に算出した。正常者や種々の網膜疾患に応用した結果,浮腫の部位では小視症が,また陳旧性,瘢痕性病変では大視症が測定され,これらの所見は自覚症状とも一致した。今回の方法は,変視症の定量的測定法として有用であると考えられた。

網膜色素変性症の医療状況に関する実態調査の報告

著者: 松村美代 ,   本田孔士 ,   早川むつ子 ,   金井淳 ,   中島章 ,   松井瑞夫

ページ範囲:P.275 - P.278

 網膜色素変性症について現在の医療状況の実態を把握するために眼科医に対してアンケート調査を行った。診断,経過観察,合併症に対する対応は医療機関でよく行われているが,遺伝相談が具体的に行われている施設はきわめて少なく,リハビリテーション施設との連携も不十分である。この状況は,ごく少数の特殊施設を除いては1人医長の施設もスタッフの多い病院も同様である。しかし眼科医の8割は網膜色素変性症に関心をもっており,医療システム上改善の余地があると思われる。

老人性円板状黄斑変性症の脈絡膜新生血管板の臨床的特徴について

著者: 萩田勝彦 ,   高橋信仁 ,   江川知子 ,   湯沢美都子 ,   松井瑞夫

ページ範囲:P.279 - P.282

 老人性円板状黄斑変性症132例,161眼の黄斑所見,脈絡膜新生血管板の中心窩からの距離及び大きさについて検討した。
 黄斑所見は,初期病巣が37%,典型病巣が49%,瘢痕期が14%であった。中心窩からの距離は,1乳頭径以内のものが83%であった。大きさは,0.5乳頭径未満のものが43%であった。複数の新生血管板を有するものが17%あった。光凝固を施行した眼では,初期病巣及び新生血管板が中心窩から離れているものが多かった。しかし,新生血管板の大きさは光凝固施行の有無に影響していなかった。典型病巣では新生血管板がすでに黄斑部無血管領域におよんでいるものが40%,初期病巣でも29%あった。以上のことから,現状では,早期発見・治療が行えているとはいえず,早期発見の努力とともに,新生血管板が黄斑部無血管領域に及んでいる症例に対する効果的な治療法の検討が重要であると考えられた。

再発を繰り返した急性後部多発性小板状色素上皮症の1例

著者: 渡辺穣爾 ,   今井済夫

ページ範囲:P.283 - P.285

 両眼に再発を繰り返した急性後部多発性小板状色素上皮症(APMPPE)の1例を報告した。症例は33歳の女性で,4年の経過中に右眼に5回,左眼に2回以上再発を起こした。再発の度に網膜色素上皮に瘢痕を残したが,左眼では一部地図状脈絡膜炎に類似した眼底所見を呈した。視力予後は良好で各々の再発は1〜3か月の経過で治癒した。

傍乳頭血管腫を伴ったvon Hippel Lindau病の症例

著者: 宮本香 ,   中井敦子 ,   近江俊作 ,   田村学

ページ範囲:P.286 - P.288

 von Hippel Lindau病による網膜血管腫は一般に耳側周辺部に好発するが,今回非常に稀な傍乳頭血管腫を経験したので報告した。
 症例は30歳男性で頸髄,胸髄に多発する脊髄血管芽腫のため整形外科からの紹介で眼科初診した。眼底には左眼傍乳頭耳側に大きな血管腫を認めた。
 腫瘍は螢光眼底撮影にて網膜血管腫と診断した。

眼球温熱化学療法で治癒した,眼球内に再発した網膜芽細胞腫の2例

著者: 金子明博 ,   伊勢泰 ,   大平睦郎 ,   高山順 ,   渋井壮一郎 ,   松岡浩司 ,   猪俣素子 ,   毛利誠

ページ範囲:P.289 - P.292

 放射線外照射後に再発した眼球内網膜芽細胞腫を眼球温熱化学療法を使用して,有用な視力を維持して治癒した2症例を報告した。本治療法は患側内頚動脈からmelphalanを40 mg/m2注入し,引き続きLagendijkにより開発された眼球加温装置で45℃で1時間,眼球を加温する方法である。症例1は3乳頭径の腫瘍が黄斑部に再発したが,0.2の矯正視力を治療後3年維持している。症例2は硝子体播種と4乳頭径の腫瘍が黄斑近くに再発したが,0.9の矯正視力を治療後2年8か月維持している。一過性の骨髄抑制と脱毛が本治療の副作用である。白内障や角膜障害は治療後約3年間に,まったく発生していない。

学術展示

ステロイド点眼剤及び非ステロイド点眼剤におけるlipid microsphereによるDrug Delivery Systemの応用

著者: 小松章 ,   太根節直 ,   水島裕

ページ範囲:P.294 - P.295

 緒言 眼科領域におけるlipid microsphereを用いたDrug Delivery Systemの応用として,lipid microsphereにステロイド剤及び非ステロイド消炎剤を含有する点眼剤を作製し,外眼部および前眼部の炎症性疾患に使用し,その消炎効果について検討を加えたので,その大要を報告する。
 方法および対象 今回,使用した点眼剤は,ステロイド剤はフルニソリド(商品名シナクリン®)の誘導体であるフルニソリドバレレート(図1)を,非ステロイド消炎剤はフルルビプロフェン(図2)を用い,従来の方法に従い,0.06%フルニソリドバレレート含有1ipid microsphere点眼剤と0.1%フルルビプロフェン含有lipid microsphere点眼剤を作製した。対象は0.06%フルニソリドバレレート含有lipid microsphere点眼剤を投与した群は,16歳から73歳(平均40.2歳)の男性8名,女性12名の計20名20眼であり,0.1%フルルビプロフェン含有lipid microsphere点眼剤を投与した群は,18歳から65歳(平均33.4歳)の男性10名,女性18名の計28名28眼を対象とした。対象疾患は,上強膜炎,結膜フリクテン,角膜輪部フリクテン,角膜フリクテン及び前部ぶどう膜炎である。

老人における結膜嚢内常在菌の検索および多剤耐性菌の存在について

著者: 安本京子 ,   西田輝夫 ,   大鳥利文

ページ範囲:P.296 - P.297

 緒言 老人においては,前眼部感染症を認めないにもかかわらず,眼脂や異物感など不定愁訴を訴える症例をよく経験する。また,老人における眼内手術の機会も増加してきている。今回私たちは老人における結膜嚢内の常在菌を検索し,菌の種別と抗生物質に対する感受性および多剤耐性菌の存在を検討した。
 方法 阪和泉北病院人院中の老人で眼感染症を認めない200名(男性62名,女性138名,平均年齢77.2±1.0歳)を対象に,1989年1月より9月までの期間に実施した。方法は,滅菌綿棒で下眼瞼結膜を擦過し,グラム染色を行い顕微鏡下で菌の存在を確認した。一方菌を増菌培養し,菌種の同定も行った。分離した各菌種について抗生物質に対する感受性を,Kirby-Bauer法に従い4段階評価を行った。分離した表皮および黄色ブドウ球菌については,日本化学療法学会小委員会法1)に基づき,12.5μg/mlジメチオキシフェニールペニシリン(DMPPC)含有のHeart Infu—sion Agar (Difco)培地で培養し,発育した場合をメチシリン耐性表皮ブドウ球菌(MRSE)またはメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)と判定した。

アレルギー性結膜炎におけるLate Phase Reactionについて

著者: 雑賀寿和 ,   良田夕里子 ,   清水由規

ページ範囲:P.298 - P.299

 目的 I型アレルギー反応は抗原接触後数分でアナフィラキシー症状の出現するEPR (Early Phase Reaction)と数時間後に抗原との再接触なしに同様の症状の出現するLPR (Late Phase Reaction)から成る二相性の反応である可能性が気管支喘息,アレルゲン皮膚反応,アレルギー性鼻炎などの症例で報告されている。今回我々は,眼アナフィラキシー—アレルギー性結膜炎にLPRが存在するか否かをスギ花粉症に伴うアレルギー性結膜炎患者に点眼誘発反応を施行し,アレルギー性炎症発症後の経時的変化を臨床症状,Tear Cytology (涙液細胞診),涙液Histamine濃度について検討した。
 方法 対象は27歳,女性でスギ花粉症によるアレルギー性結膜炎と診断されており罹患歴は4年である。既往歴は結膜炎発症と一致した時期にアレルギー性鼻炎を認め,喘息,アトピー性皮膚炎はない。血清IgERIST 246IU/ml,IgE RAST scoreはスギ(2),ブタクサ(0),カモガヤ(0),ハウスダスト(0),ダニ(0)であった。

Band keratopathy 15例の背景因子

著者: 西尾昌代 ,   秦野寛 ,   稲山貴子 ,   三井啓司

ページ範囲:P.300 - P.301

 緒言 Band keratopathyは,角膜表層部に瞼裂に一致して見られる帯状灰白色の混濁を特徴とし,組織学的には,ボーマン膜から上皮の基底膜および実質の表層にかけてカルシウム沈着を認める変性疾患である。混濁は角膜辺縁よりはじまり,数か月から数年かけて帯状となる。カルシウム沈着を助長する因子として,O'Connorは,瞼裂部における涙液の蒸発,角膜表面からのガスの拡散によるCO2分圧の低下とpHの上昇,角膜実質深層では嫌気性解糖が主で乳酸蓄積がおこるため表層がアルカリ性に傾きカルシウム沈着しやすくなるなどをあげている。この疾患の発生に関しては,従来,高カルシウム血症によるもの,サルコイドーシスや若年性関節リウマチ,虹彩毛様体炎,痛風,涙液分泌低下などの慢性炎症に続発するもの,角膜実質炎に合併するもの,外傷後,シリコンオイル注入眼にみられるもの,および原因不明のいわゆる特発性といわれるものなどが知られている。今回我々は,シリコンオイル注入によるもの以外で,角膜外来を受診したBand keratopathyの15症例に対し,その背景因子について検討した。
 対象 対象は,1981年4月より1989年9月までに,横浜市立大学医学部病院眼科の角膜外来を受診したband keratopathyの患者15例である。男性5例,女性10例で,年齢は15歳から84歳,平均61歳であり,6例が片眼性で9例が両眼性であった。

角膜ヘルペスと誤診されたアカントアメーバ角膜炎の2例

著者: 塩田洋 ,   内藤毅 ,   小西裕美子 ,   谷英紀 ,   大谷知子 ,   三村康男 ,   伊藤義博 ,   下村嘉一

ページ範囲:P.302 - P.303

 緒言 アカントアメーバ角膜炎の典型例を1例経験しその臨床像を把握したところ,5年前に経験した角膜潰瘍も本疾患と考えられた。両例とも角膜ヘルペスと誤診されていた。これら2症例を呈示し,アカントアメーバ角膜炎の臨床的特徴,診断法を述べると共に,難治性の角膜潰瘍や角膜ヘルペスと思っていた中にも,本疾患であることがあり注意を喚起したい。
 症例1 患者は38歳の女性で,1988年7月21日左眼痛と視力低下を訴えて来院した。10年間ソフトコンタクトレンズ(SCL)を装用していた。現病歴として,同年6月30日から左眼痛のため近医を受診し,角膜ヘルペスと診断され治療していたが良くならず,7月21日当科に紹介された。初診時右視力=(1.2×SCL),左視力=0.1(n.c.)であった。右限は異常なかった。左角膜は,実質に軽い浮腫・混濁があり,知覚は低下していた。実質型角膜ヘルペスと診断し,アトロピン点眼,ベタメサゾン点眼およびアシクロビル眼軟膏点入による治療を始めた。一時軽快していたが,8月22日輪状潰瘍1)が現れたのでベタメサゾンの点眼回数を減らし,オフロキサシン眼軟膏を追加した。その結果潰瘍はほぼ消失したが,浮腫が強くなり円板状角膜炎に移行したので,再びベタメサゾン点眼の回数を上げ,アシクロビル750mg/日の点滴静注を7日間行った。

壊死性角膜炎の発生経過について

著者: 西田幸二 ,   井上幸次 ,   下村嘉一 ,   大橋裕一 ,   木下茂 ,   真鍋禮三

ページ範囲:P.304 - P.305

 緒言 壊死性角膜炎は単純ヘルペスウイルスによる実質型角膜炎の1病型で,角膜中央部からやや周辺部にかけて血管の侵入を伴った濃厚な角膜混濁を生じるのが特徴である。角膜ヘルペスの他の病型とは異なって,高度の角膜混濁,時に角膜穿孔を来すため,しばしば角膜移植の適応となる。このように,臨床上重要な病型であるにもかかわらず,その病型に至る臨床的経過について詳細に検討した報告はこれまでにない。今回我々は,壊死性角膜炎の発症経過について検討し,その危険因子と発症機序について考察したので報告する。
 対象および方法 対象は1987年1月から1988年12月の間に,大阪大学眼科を受診した角膜ヘルペス患者のうち,初診時すでに壊死性角膜炎であった例を除いた146例146眼であり,この146眼の病型の推移をretrospectiveに調査し,検討を加えた。

特発性角膜内皮炎の1例(続報)

著者: 大橋裕一 ,   木下茂 ,   井上幸次 ,   渡辺潔 ,   真鍋禮三

ページ範囲:P.306 - P.307

 緒言 角膜内皮炎は角膜内皮細胞を原発とする炎症性疾患で,近年注目を浴びている新しい疾患単位である。1982年,Khodadoustら1)により初めて報告されて以来,角膜内皮炎の病因として,ウイルス説および自己免疫疾患があるが,いまだ明確でない。以前,我々は再発性の虹彩炎から角膜内皮炎を発症し,最終的に水疱性角膜症に至った1症例を報告した2)。今回,同じ症例の経過観察中にウイルス説を支持すると思われる知見を得たので報告する。
 症例 患者:30歳,男性

重篤な慢性関節リウマチにおける角膜障害の3症例

著者: 宮本裕子 ,   奥山幸子 ,   安本京子 ,   西田輝夫 ,   大鳥利文

ページ範囲:P.308 - P.309

 緒言 慢性関節リウマチは,全身の関節をおかすのみならず,乾性角結膜炎,角膜潰瘍,角膜融解などの角膜障害1)やぶどう膜炎などをひき起こす2)。その中でも涙液減少症を伴う乾性角結膜炎は最もよく観察される。今回,外科的治療を施行された重篤な慢性関節リウマチの症例で,涙液減少を共通の背景としてさまざまな異なる角膜障害を呈した3症例を経験したので報告する。
 症例 患者1:45歳,女性。初診:1986年10月28日。主訴:右眼の視力低下,羞明。

ハードコンタクトレンズ装用者に認められた偽樹枝状角膜炎の1例

著者: 岡本仁史 ,   松尾くる美 ,   大路正人 ,   下村嘉一

ページ範囲:P.310 - P.311

 緒言 ソフトコンタクトレンズによる偽樹枝状角膜炎は,Marguliesら1)によりはじめて報告されて以来,本邦でもその報告が見られ2),単純ヘルペスウイルス(HSV)による樹枝状角膜炎との鑑別が注目されている。しかしながらハードコンタクトレンズ(HCL)による偽樹枝状角膜炎は現在に至るまで,我々の知る限り報告されていない。今回我々は,HCL装用者に発症した偽樹枝状角膜炎症例を1例経験したので,報告する。
 症例 患者:40歳,男性。

角膜内皮炎が疑われた1症例

著者: 山口ひとみ ,   森下清文 ,   渡辺千舟

ページ範囲:P.312 - P.313

 緒言 これまで前部ぶどう膜炎の併発症としてみられてきた角膜の混濁,浮腫をみるものの中に,特徴のある角膜後面沈着物を伴う原因不明の進行性角膜内皮障害を起こすものがあり,1982年Khodadoustら1)が角膜内皮炎と報告してから病名として使われるようになった。今回,今まで報告されていた典型例とは少し異なるが,角膜内皮炎と思われる症例を経験したので報告する。
 症例 症例は14歳の女子。初診日は1988年9月26日。現病歴は,9月19日よりmumps発症し,21日より右眼充血に気づき,24日より右眼視力低下を自覚したため26日に近医受診し,当科紹介され入院となる。既往歴,家族歴に特記すべきことなし。初診時所見は,視力右0.01(n.c.),左1.2(n,c.)。眼圧右24mmHg,左17 mmHg。前眼部,右は角膜が混濁し浮腫状で,Descemet foldを認め,白い顆粒状の角膜後面沈着物があり前房はcell,flareを軽度認め(図2),左眼は異常所見なし。隅角には異常所見なし。眼底は,右透見困難,左は異常所見なし。血清学的検査は,ペア血清(1病日;13病日)で,ムンプス(8倍;16倍),インフルエンザA (4倍>;4倍>),インフルエンザB (16倍;16倍),麻疹(4倍>;4倍),風疹(4倍;4倍)。CRP, ASOは,正常。血沈1時間値12mm,2時間値42mm。

再発性翼状片に対する自己結膜移植術

著者: 大塚裕子 ,   村松隆次 ,   山城博子 ,   河合好美 ,   曽根隆一郎 ,   石田常康

ページ範囲:P.314 - P.315

 緒言 翼状片に対してはこれまでに種々の手術方法が工夫され行われてきたが,完全に再発を防止するには至っていない。そして再発を繰り返すほど本症は難治となることが知られている。このような症例には角膜表層移植術1)や角膜上皮移植術2)が行われているが,材料等の問題より容易に行うことはできない。遊離自己結膜弁移植術は古くから報告されている手術方法ではあるが,その術式や有効性に関する詳細な報告は少ない。そこで今回われわれが行っている再発性翼状片に対する遊離自己結膜弁移植術について,その手術方法と術後成績を報告する。
 症例 再発性翼状片 5例6眼

反射光を利用した眼球運動検査法

著者: 土井はるみ ,   鈴木亮 ,   田中一成

ページ範囲:P.316 - P.317

 緒言 従来日常の外来診療において眼球運動障害をスクリーニングする手段としては,上下涙点と瞳孔縁,外眼角と角膜縁の位置関係を利用した方法が用いられている。しかしこの方法は眼瞼や瞳孔径の異常による影響をうけ,また涙点の発見が困難な場合がある。
 そこで我々は,眼球からの反射光を利用した眼球運動測定法を試み従来の方法と比較した。また本法で定量化が可能であることを利用し,眼球運動の加齢による変化,糖尿病皮び動脈硬化症による影響に関して検討した。さらに,Haab瞳孔計の目盛りを利用して眼球運動に伴う角膜縁の移動距離を測定する方法(以後Haab法)も広く行われているので本法と比較した。

外傷性外転神経麻痺の成人患者に見られたいわゆるblind spot syndrome

著者: 尾崎峯生 ,   古瀬達人 ,   高木満里子

ページ範囲:P.318 - P.319

 緒言 Swanの提唱したいわゆるblind spot syn—drome (盲斑症候群)は1)12度から18度の内斜視2)時折にしか複視や混乱視を自覚しない 3)内斜眼のMariotte盲斑が常に固視領域に重なっている4)両眼の良好な視力 5)正常網膜対応(NRC)6)融像能力(haploscopeにて)の存在という臨床約特徴を持ち,Mariotte盲斑によって複視を消していると説明されている1)。本症候群は後天性内斜視だけでなく,成人の麻痺性内斜視が共同性となった例にもまれに認められる。しかし本症候群については否定的な意見もあり2),複視が自覚されない機構についても不明な点が残っている。今回われわれは,外傷性外転神経麻痺後にいわゆる盲斑症候群と思われる所見を呈した成人例を経験し,両眼視機能を中心に分析したので報告する。
 症例 35歳,男性。1988年8月8日,頭部外傷を受け,左外傷性外転神経麻痺のため複視自覚。2か月後,内斜視は残っていたが時折にしか複視や混乱視を自覚しないようになった。近医より眼位異常を主訴に当科紹介され,1989年4月6日当科入院。

先天性眼瞼下垂に対するFriedenwald-Guyton法の検討—手術効果及び術後合併症について

著者: 村上裕司 ,   溝口尚則 ,   雨宮次生

ページ範囲:P.320 - P.321

 緒言 眼瞼下垂に対するFriedenwald-Guyton法は,医原性疾患と極言する人もおり,避けたほうがよい術式といわれている1)。そこで本術式による手術結果及び術後合併症について確認するために少なくとも1年以上前に本術式を受けた患者についてアンケート調査を行った。そのうち,来院した者についての手術結果を検討したのでここに報告する。
 対象と方法 1984年1月1日から1987年12月31日までの4年間に長崎大学医学部附属病院眼科にて先天性眼瞼下垂に対するFriedenwald-Guyton法を施行された患者にアンケート調査を依頼し,同時に受診を勧めた。受診した者について,現在の視力,普通開眼瞼時瞼裂幅,その他一般の眼科的検査を施行した。

新しい眼底写真管理システムの開発

著者: 赤星隆幸 ,   北野滋彦 ,   木戸口裕 ,   堀貞夫 ,   中川秀二 ,   長澤亨

ページ範囲:P.322 - P.323

 緒言 眼底写真は眼底所見を迅速かつ正確に記録する手段としてこれに勝るものはなく,今日の眼科診療に不可欠なものとなっている。一方撮影されたスライドは常に良好な保存環境に整理され,必要時には直ちに取り出されて活用されなければならない。
 年々増え続ける眼底写真を限られた収納空間に効率よく保存管理するために,我々は集積性の高いスライドケースを設計作製し,パーソナルコンピュータとハードディスクユニットを用いた管理システムを開発したので紹介する。

三次元脳電図法の臨床応用の開発

著者: 筒井純 ,   川島幸夫 ,   正城良樹 ,   松田盈子

ページ範囲:P.324 - P.325

 緒言 従来の二次元脳電図法は1-3),頭部上面XY軸のみの電位分布を示すために,CT画像のように脳内での深度の表示は困難であった。
 私共はZ軸方向を加えた三次元脳電図のできる器械をNEC三栄と共に開発したので臨床応用の評価について報告する。

最近10年間の眼科入院患者の動向と今後の対応について

著者: 大角智寿子 ,   窪田靖夫

ページ範囲:P.326 - P.327

 緒言 当科診療開始以来10年間の入院患者について調査し,今後の動向と対応について検討した。
 対象と方法 対象は,1979年10月15日から1988年12月31日までに当科に入院した男性1,619人,女性1,587人の計3,206人である。

コンピューター画像解析による視神経乳頭の立体計測—生理的乳頭陥凹拡大例について

著者: 難波克彦 ,   中山徹 ,   岩田和雄

ページ範囲:P.328 - P.329

 緒言 視神経乳頭陥凹拡大は緑内障の特徴的所見のひとつである。これに対し,視野などに異常のない生理的乳頭陥凹拡大(Large Cup)の存在もよく知られ,緑内障との鑑別が問題となっている。コンピューター画像解析による視神経乳頭の立体計測を行い,Large Cupの形状の特徴及び正常眼との差について検討した。
 方法及び症例 西独ローデンストック社製 Optic Nerve Head Analyzerを用い,視神経乳頭の立体計測を行い,乳頭面積,乳頭径(水平,垂直),Rim面積,陥凹面積,陥凹容積,C/D比の各パラメーターを求めた。測定値は角膜曲率,屈折度,眼軸長の3因子を用いて光学的換算を行った。眼圧21mmHg以下,Humphrey視野(30-2)正常,隅角は解放し,瞳孔,虹彩に異常なく,網膜神経線維層の欠損のない例でC/D比0.79以上(正常眼1)の平均値+2×標準偏差)のものを対象とした。正常眼124眼1)を対照群とし,乳頭面積3.0mm2以上の初期緑内障とも比較した。症例は男14例,女5例,両眼13例,片眼6例計32眼で,年齢11〜76歳(平均19歳),屈折度2.0— −7.75D (−1.13D),眼軸長22.30〜26.72mm (24.16mm)であった。

プルキンエ血管影によるVEPの臨床応用の可能性—透光体混濁の影響について

著者: 田町武司 ,   福原潤 ,   佐川正治 ,   大須賀達 ,   王纓 ,   魚里博 ,   西信元嗣

ページ範囲:P.330 - P.331

 緒言 内視網膜血管像はプルキンエ血管影として古くから知られている。種々の内視現象のうちでは最も簡単に観察されるもののひとつであり,眼科臨床においても白内障などの透光体混濁眼の術後視機能を予測する目的で用いられているが,それを自覚するには被検者の注意力や知能が大きく関与するため,その臨床的有用性はかなり制限されている1-10)
 この点を考慮して,我々はプルキンエ血管影によって誘発されるVEPをもちいて中心視機能の他覚的評価を試み,成熟白内障においてもこのVEPを記録しうることを前報10)で示した。我々の開発したVEPの刺激は赤道部強膜上を照射しており,少なくとも水晶体より前に存在する混濁には,全く影響を受けないものと考えられる。

Retinal Densitometerの試作

著者: 齋藤昭 ,   矢ヶ崎克哉 ,   三宅養三 ,   市川宏

ページ範囲:P.332 - P.333

 緒言 Retinal densitometryはRushton1)らにより開発された方法で,視細胞外節内の色素の退色後の再生過程を測定する検査法である。光が網膜に達すると視細胞中の色素は光量子を吸収する。そして他の光量子を更に吸収することが不可能な状態となる。この様な状態を色素がbleachされた状態とよぶ。多くの色素がbleachされている状態では多くの反射光が眼底から返ってくることになる。従って反射光の時間的変化を測定することによって色素の濃度の変化がわかる。この手法より電気生理学的手法や心理物理学的手法とは全く異なった視細胞の動態を明らかにできるが,装置の複雑さなどからいくつかの例を除いて臨床応用にはほとんどいたっていなかった2,3)。今回我々は比較的簡便にretinal densitometryが行える装置を試作しcone densitometryを行い,満足できる結果を得たので報告する。
 方法 装置は500ワットキセノン光を光源とし,退色光(光路1)測定光(光路2)参照光(光路3)を各々別々に得た(図1)。これらの光はoptic fiberを経て眼底カメラに導かれ眼底に投影される。5分間の退色の後,測定光,参照光が経時的に5分間提示される。退色光,測定光,参照光の網膜における照射野の大きさはそれぞれ3.5度と1度である。

健康成人にみられたビトー斑様結膜所見

著者: 高村悦子 ,   若月福美 ,   吉川啓司

ページ範囲:P.334 - P.335

 緒言 ビトー斑は,瞼裂部の球結膜でみられる泡状物質に覆われた白色三角形の結膜上皮の角化変性巣である。1860年にHubbenet, Bitôtらにより最初に報告されて以来ビタミンA欠乏症の眼局所の所見,すなわち,眼球結膜の光沢の消失,雛襞形成とともに上皮性結膜乾燥性の三大主徴のひとつとされている1)。しかし,近年,ビタミンA投与に奏効しない症例2)やビタミンA欠乏を伴わないビトー斑の報告が散見される3)
 我々も全身のビタミンA欠乏を伴わない健康成人にビトー斑類似の結膜所見を観察し種々の検討を行ったので報告する。

スペキュラーマイクロスコープによる角膜上皮基底細胞の観察

著者: 中野秀樹

ページ範囲:P.336 - P.337

 緒言 スペキュラーマイクロスコープで角膜上皮を生体観察する場合,細胞境界からの鏡面反射の少ない基底細胞を識別出来るのは2,3の特殊な条件下(角膜上皮浮腫1,2),角膜上皮内沈着3)等)でのみ可能であるとされていた。しかし私は観察方法を工夫すれば,正常眼においても基底細胞が観察出来る事を先に報告した3)
 今回は今迄に角膜上皮の観察を試みた被検者を疾患別に分類し,基底細胞の観察頻度を調べたのでその結果を報告する。

連載 眼科図譜・284

眼部帯状ヘルペスに続発したcorneal endotheliitisの1例

著者: 本倉眞代 ,   大橋裕一

ページ範囲:P.220 - P.221

 緒言 角膜内皮炎は,角膜内皮細胞が免疫学的な特異性に基づいて傷害を受けるような病態であるが,1980年頃を境にその報告が増加し,近年注目を集めている疾患である。原因は不明だが,内皮細胞に対する自己免疫疾患説1-3),あるいは内皮細胞におけるウイルス感染説4,5)などがある。今回,眼部帯状ヘルペスに続発して発症した角膜内皮炎の1例を経験したので報告する。
 症例 患者:25歳,男性。

眼の組織・病理アトラス・41

発育異常緑内障 早発型

著者: 田原昭彦 ,   猪俣孟

ページ範囲:P.224 - P.225

 前房隅角の形成不全によって発症する原発緑内障を発育異常緑内障developmental glaucomaと呼び,3歳以前に発症して角膜径の拡大を伴うものを早発型として,それ以後に緑内障が出現する晩発型と区別する。従来,先天緑内障早発型,あるいは牛眼と呼ばれていたものがこれに相当する。
 眼球が大きい,角膜の混濁,羞明,流涙などの症状に親が気付いて眼科を受診することが多い。角膜径が11mm以上に拡大し,前房が著しく深く,高眼圧によって角膜浮腫,デスメ膜断裂などの所見を認める。さらに隅角鏡検査で隅角形成不全が観察されれば診断は確実である。隅角形成不全の隅角鏡所見についての明確な基準はいまだ確立していないが,毛様体帯が透見できない,あるいは非常に狭い所見は隅角形成不全の指標となる(図1)。

今月の話題

眼の老化

著者: 安達恵美子

ページ範囲:P.343 - P.346

 眼の老化は,眼球内の生物学的変化で説明されることが多い。なかでも,水晶体の黄色化,透過性低下,弾性力の低下に視機能老化の主たる原因はある。
 本稿では,高齢者において水晶体がどのように視機能に影響を与えるかを知るために,偽水晶体眼(後房レンズ挿入眼)におけるコントラスト閾値,輝度閾値,色覚を検討した結果をまとめ解説した。

眼科手術のテクニック—私はこうしている・15

隅角所見から見た術式の選択—続発性緑内障

著者: 湖崎淳 ,   根木昭

ページ範囲:P.351 - P.353

I.隅角所見
 続発性緑内障の原因は炎症,外傷,新生血管,水晶体起因性,上強膜静脈圧上昇,虹彩角膜内皮症候群,眼内腫瘍など多様である。眼圧上昇の機序には開放隅角性,閉塞隅角性及び両者の混在するものがあり,隅角所見は勿論のこと角膜,前房,水晶体,硝子体,眼底の精査が術式選択の基本となる。原因を充分に考察せずに術式を決定すると手術が無効なばかりか事態をさらに悪化させかねない。所見を発見するのではなく所見を否定していくつもりで隅角を観察することが大切である。以下,日常比較的よく手術適応となる続発性緑内障を取り上げる。

眼科薬物療法のポイント—私の処方・15

細菌性眼内炎—外因性

著者: 秦野寛

ページ範囲:P.355 - P.357

43歳男性,主訴:右視力低下
 板金作業中,スプリングが右眼に当たった。近医受診し角膜穿孔と外傷性白内障を指摘された。眼内異物と細菌性眼内炎の精査,治療目的で受傷6日目に当科紹介受診となった。受診時視力は右:光覚(n.c.),左:1.2(n.c.)

臨床報告

黄斑円孔前段階病変が自然治癒した2例

著者: 保手浜靖之 ,   永田淳士 ,   追中松芳

ページ範囲:P.359 - P.362

 黄斑円孔前段階病変(impending macu-lar hole)である中心窩領域の限局性網膜剥離が自然治癒した2例を報告した。
 症例1は63歳女性で,右眼の視力低下と変視症を訴えて受診した。右眼中心窩領域に裂隙を伴う円形の限局性網膜剥離があり,螢光眼底撮影で脈絡膜螢光の透過亢進がみられた。視力と自覚症状は徐々に改善し,発症から約7か月後には中心窩網膜は復位し,過螢光も消失した。経過中に裂隙の拡大はなかった。
 症例2は44歳女性で,右眼の中心暗点を訴えて受診した。右眼中心窩領域に円形の限局性網膜剥離があり,螢光眼底撮影で脈絡膜螢光の透過亢進が認められた。発症から2週後には視力と自覚症状が改善し,中心窩網膜は復位した。
 2例とも硝子体・中心窩分離(vitreofoveal sep-aration)が生じたことによる裂孔形成過程の停止と考えられた。

アシクロビルと硝子体手術が奏効した桐沢型ぶどう膜炎の1例

著者: 鈴木康之 ,   望月學 ,   小原真樹夫 ,   倉田毅

ページ範囲:P.363 - P.366

 片眼の著明な前部および後部ぶどう膜炎をきたし,桐沢型ぶどう膜炎が強く疑われ,前房水中に免疫螢光抗体法により水痘・帯状疱疹ウイルス抗原陽性細胞が検出された1症例に対し,アシクロビルの点滴静注を施行し,さらに,灌流液中にアシクロビルを混入しての硝子体切除術および網膜剥離予防のための強膜輪状締結術を行った。その結果,初診時視力20cm指数弁が治療開始4か月後には0.9,治療開始後1年11か月の時点で1.0まで回復し,その間,白内障を発症したものの,ぶどう膜炎の再発,網膜剥離の発症等はみていない。桐沢型ぶどう膜炎の病因として水痘・帯状疱疹ウイルスの関与が推測され,またその治療にはアシクロビル点滴静注,硝子体切除術などの治療が重要と考えられた。

片眼前部虚血性視神経症と同時発症した成人糖尿病患者の乳頭腫脹

著者: 山崎啓祐 ,   佐堀彰彦 ,   宮澤裕之 ,   井上正則 ,   立花晴子 ,   文順永

ページ範囲:P.367 - P.370

 成人糖尿病患者にみられた右眼前部虚血性視神経症(AION)と同時発症した左眼乳頭腫脹について報告した。
 症例は50歳の男性で,急激な右眼の視力低下を来し,AIONと診断された。同時に左眼にも乳頭腫脹が発症したが視機能異常は認められなかった。右眼は典型的な蒼白乳頭を呈していたが,左眼乳頭は発赤腫脹し,乳頭縁に線状出血,綿花様白斑を認めた。螢光眼底造影においては,両眼とも糖尿病性網膜症をきたしてなかったが,右眼乳頭には充盈欠損を認めたのに対し,左眼は乳頭上の拡張した血管からの漏出と乳頭及び周囲組織の時間の経過とともに増強する過螢光を認めた。
 右眼の乳頭は萎縮に陥ったが,左眼の乳頭腫脹は約2か月後より消退傾向がみられ,約4か月後には乳頭の軽度の充血を認めるのみとなった。
 本症例の左眼は,いわゆる diabetic papil-lopathyに相当すると考えられ,その原因として,乳頭表層細小血管の循環障害が推測されな。

他覚的ステレオテストの試作装置

著者: 野末啓子 ,   齊藤康子 ,   宮下忠男

ページ範囲:P.371 - P.374

 テレビとパソコンとハーフミラーを用いたステレオテストを試作した。正常成人6例において,オクルダーを用いて視力を変化させ視力の左右差による立体視の変化を調べた。非優位眼の視力が低下すると,立体視陽性率は低下した。又,臨床33例において,シノプトフォア(以下シノプト)と本法とで立体視の測定を行った。29例では,両方法とも一致した結果がえられたが,4例では本法のみ測定可能であった。

眼球突出症に対する眼窩外壁減圧術の経験

著者: 酒井成身 ,   高橋博和 ,   田邊博子 ,   鈴木出 ,   竹下由美子

ページ範囲:P.375 - P.379

 眼球突出以外に全く他の所見のない45歳の女性に,整容的に眼球突出を改善する目的で手術を行った。
 皮切は冠状切開で頭皮を前方へ反転し両側の眼窩上縁と外側縁を露出した。眼窩外側縁の骨を骨骨膜弁として反転し,両側眼窩の外壁切除を行った。さらに眼窩外側の骨膜に切開を加え眼窩脂肪を外壁切除部へ突出させ眼窩内を減圧することにより眼球突出を軽減した。
 術後は両側眼球の前方から包帯による圧迫を約3週間行った。ヘルテル眼球突出計による計測値は術前20mmから術後2か月頃では15mmと改善し,複視などの合併症もみられず眼球突出は軽減し満足すべき結果であった。

糖尿病と前房蛋白濃度—2.光凝固の影響および左右眼の前房蛋白濃度の関係

著者: 加藤聡 ,   大鹿哲郎 ,   船津英陽 ,   山下英俊 ,   澤充

ページ範囲:P.381 - P.384

 糖尿病患者122人244眼を対象として,フレアー・セルメーターによる前房蛋白濃度の検討を行った。既報同様に網膜症病期(福田分類)と前房蛋白濃度の間に有意の相関関係を認めた。良性網膜症期52例の左右眼の前房蛋白濃度は,網膜症の病期が同じ場合左右差が少なく,両者間に有意の相関(r=0.926, P<0.001)を認めた。網膜光凝固術を施行した22眼について前房蛋白濃度を経時的に測定したところ,光凝固術直後に一時的な上昇を示し,その後低下した。しかし,術後の値は術前の値より高値を示す例が多かった。

カラー臨床報告

白内障手術後ソフトコンタクトレンズ連続装用患者に発生した角膜血腫

著者: 谷口永津 ,   荒木かおる ,   小沢孝好 ,   張野正誉 ,   原二郎

ページ範囲:P.339 - P.342

 白内障手術後にソフトコンタクトレンズ連続装用中の2例に角膜血腫が発生した。1例は角膜炎の既往があり,他の1例には特に既往眼疾患はなかったが,血腫は角膜実質深層部の新生血管の破綻から発生した。既往眼疾患のないdaily-wearコンタクトレンズ装用者に,角膜実質深層部の新性血管を認めたという報告がある。コンタクトレンズ装用者の定期的診察では,角膜深層部の新生血管出現に注意し,新生血管を認めた時にはレンズ装用を一時中止する必要があると思われる。

薬の臨床

縮瞳剤が緑内障眼の瞳孔径と調節力に及ぼす影響—アドソルボカルピンとピロカルピンの比較

著者: 広瀬浩士 ,   安間哲史 ,   神谷あゆみ ,   斉藤昭 ,   岡本洋子 ,   宮尾克 ,   石原信哉

ページ範囲:P.385 - P.391

 9歳から51歳の開放隅角緑内障患者5名に対し,右眼には8時,20時の時刻に1%アドソルボカルピンを,左眼には1時30分,8時,14時,20時の時刻に1%ピロカルピンを3日間点眼し,点眼開始前後の眼圧,調節力,瞳孔面積を測定した。瞳孔面積の測定はオープンループ方式の赤外線瞳孔計を使用し,マイクロコンピューターで解析した。測定は9時,12時,15時,18時の時刻に行い,点眼を行っていないコントロール日と比較し,有意差の検定を行った。両眼とも眼圧の下降,調節力の増加,瞳孔面積の減少があったが,左右眼の間での有意差はなかった。光刺激により縮瞳を開始するまでの潜時には有意差があり,アドソルボカルピン点眼群で短かかった。眼圧,調節力,縮瞳率については,1日2回点眼のアドソルボカルピンと,1日4回点眼のピロカルピンではほとんど差がなく,点眼回数の少ないアドソルボカルピンの方がより有効であると思われた。

Group discussion

ぶどう膜炎

著者: 湯浅武之助

ページ範囲:P.393 - P.394

 本年は9月の日本中部眼科学会に際して第17回日本ぶどう膜炎研究会が開催され,その際のテーマに「ベーチェット病」と「ぶどう膜炎の基礎的研究」が選ばれているので,今回の第18回日本ぶどう膜炎研究会を兼ねたG.D.では「ベーチェット病以外の臨床報告」という範囲で演題を募集し,応募された全演題を採用した。ぶどう膜炎の種類は非常に多く,それぞれの疾患に遭遇する頻度は決して多くないため,演題の対象疾患,検討方法とも多岐にわたっていた。最近進歩した技術を利用することも含めて,個々の疾患についての原因や病態を解明し,治療を改善しようという努力が続けられている一方,多様な病態の一端を紹介したものもあった。HTLV-1,前房中のリンパ球や抗体検査,フレアセルメーター,アシクロビル,ECCEなどが話題性のあるものとして取り上げられていた。
 (1)山村ら(金沢医大)は腎移植術に伴う拒絶反応後のCMV網膜炎の1例を報告し,OKT3製剤投与との関連の可能性を指摘した。(2)原田ら(島田市民病院)はアシクロビル,光凝固が有効であった桐沢型ぶどう膜炎の症例を報告し,光凝固の有効性を強調した。光凝固の方法,硝子体混濁の子防について討論があった。(3)梅野ら(県立宮崎病院)は各種ぶどう膜炎患者のHTLV-1抗体を検討し,HTLV-1陽性で原因不明のぶどう膜炎はHTLV-1感染者のmyelopathyに伴う可能性のあることを指摘した。

視野

著者: 勝島晴美

ページ範囲:P.394 - P.396

 日本視野研究会会長松尾治亘教授の挨拶の後,講演が開始された。会場の第2ファッション展示場(東)には予め300席が用意されたが,椅子を追加するほどの盛会であった。応募いただいた演題の内容は基礎的研究から臨床研究まで多岐にわたっており,基礎的研究3題,視野計の紹介1題,緑内障関係7題,神経眼科関係4題であった。一方,視野計の観点からはオクトパス関係5題,ハンブリー関係6題があり,今回は視野計でセッションを分ける方式を試みた。新しい視野計である「Frisen high-pass resolution perimeterの使用経験」の講演は,30分の時間を設けトピックスとしてお願いした。一般講演は発表7分討論3分であり,非常に活発な討論がなされ,特に若い方達の発言の多かったことが印象的であった。限られた時間ではあるが討論を十分に行うことは今後も大切なことと思われる。会の最後に,岐阜大北澤克明教授より第10回国際視野学会(1992年)が日本で開催される旨子告があった。以下プログラムに従い順に概要を述べる。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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