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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科44巻4号

1990年04月発行

雑誌目次

特集 第43回日本臨床眼科学会講演集(2)1989年10月 名古屋 学会原著

硝子体手術が著効を示した水晶体過敏性眼内炎の1例

著者: 鍛冶兆宏 ,   石田俊郎 ,   田畑晃

ページ範囲:P.417 - P.420

 20年前に外傷性水晶体の硝子体内完全脱臼の既往をもつ71歳男性が右眼痛,結膜充血を訴え著明な虹彩毛様体炎,前房内の水晶体片,眼圧上昇がみられた。水晶体過敏性眼内炎,続発性緑内障と診断し,硝子体手術を施行した。術中,網膜血管上に黄白色沈着物の特異な所見が観察されたが術後7日で消失した。また,硝子体灌流液を鏡検したところ単球系の細胞がみられた。術後,眼内炎症,眼圧上昇は消退し,視力は0.4と回復した。
 硝子体内に完全脱臼した水晶体は合併症が起こらない限り摘出しない方がよいとされているが,重篤な合併症を生じた例の視機能の予後は不良であることが多い。硝子体手術の進歩した現在,合併症発症前に摘出することも考慮すべきであろうと思われる。

家族性滲出性硝子体網膜症(FEVR)の治療経験

著者: 伊崎祐介 ,   林英之 ,   大島健司

ページ範囲:P.421 - P.424

 福岡大学限科を受診した家族性滲出性硝子体網膜症(FEVR)で4年以上の長期経過観察を行った9例18眼の経過治療について検討した。
 若年期より網膜周辺部に血管瘤,Snowflake様の白斑がみられる滲出性変化の強い症例8眼はすべてその病像が進行し,4眼(50%)が牽引性網膜剥離へ進行した。
 牽引性網膜剥離へ進行した症例3眼に硝子体手術を行い2眼は網膜復位を得たが,その際,術後に網膜または虹彩における血管新生を2眼に発症した。
 この様な病像の進行を予防するためには無血管帯ならびにその境界部にかけて光凝固を行うことが有効であると思われた。
 滲出性変化の強いFEVR (重症型)は若年期に病像が急激に進行する可能性があるため,充分な経過観察が必要である。

将来の白内障手術を考えた緑内障手術

著者: 深作秀春 ,   クロード R.ポリアック

ページ範囲:P.425 - P.430

 高齢化が進み,開放隅角緑内障が増加している。さらにまた,この緑内障患者は白内障も併発するようになる。この将来の白内障手術を考えにいれて緑内障手術を施行することは,高齢者の患者や眼科医にとって重要である。この報告では開放隅角緑内障患者の患者45例について,3つのグループA,B,C群に分けた。A群は古典的Scheieの濾過手術を施行された患者である。眼圧のコントロールは比較的良いが,強い虹彩ダメージと虹彩後癒着により白内障手術は難しくなった。B群はトラベクレクトミー施行の患者である。虹彩のダメージはA群よりも少ないが,多くの症例で白内障術後に濾過胞が平坦化して眼圧は上昇した。C群はトラベクロトミー施行の患者である。白内障手術はA群B群に比べはるかに容易であった。白内障併用術後の眼圧コントロールも良好であった。また緑内障と白内障(および眼内レンズ)同時手術への筆者の経験を述べた。2つの強膜創から,トラベクロトミーと白内障手術を独立させて施行することで合併症は減った。さらに白内障手術としてCircular Capsulorhexis,In-the-bag Phaco,後房レンズ移植術を採用することで最も良い術後視力と眼圧コントロールを得られた。

黄斑円孔による網膜剥離の視力予後—光凝固眼と非凝固眼の比較

著者: 檀上眞次 ,   岩橋洋志 ,   佐藤勝 ,   恵美和幸

ページ範囲:P.431 - P.433

 黄斑円孔による網膜剥離に対する光凝固の視力予後に与える影響について検討した。
 1984年から1988年まで当科で治療した56例59眼のうち,光凝固を必要としたのは8眼(14%)であり,48眼(81%)は光凝固なしで復位した。
 光凝固方法は黄斑円孔周囲耳下側半周あるいは下方後極部を中心に豆まき凝固のいずれかであった。
 視力予後は光凝固群,非光凝固群で差はみられなかった。視力改善は光凝固群54%,非光凝固群63%にみられた。光凝固眼においても2〜3年の経過を経ても視力の悪化は認められなかった。これは光凝固方法が黄斑円孔上方,あるいは上方後極部には凝固しなかったことによると考えられた。
 しかし,視力予後に差がないといっても,光凝固なしで80%以上の復位がえられることより,安易な光凝固はすべきではない。どうしても,光凝固が必要な場合は凝固は最小限で効果的な上記の方法が勧められる。

黄斑円孔網膜剥離の発症因子に関する検討

著者: 森田博之 ,   出田秀尚 ,   長崎比呂志 ,   伊藤久太朗 ,   米本淳一 ,   上村昭典

ページ範囲:P.435 - P.438

 病的近視眼と特発性老人性の黄斑円孔眼,合計196名・211眼を対象とし,屈折度・後極部の近視性網脈絡膜萎縮の程度・後部ぶどう腫の有無・後部硝子体所見の4点より網膜剥離の発症頻度を検討した。近視の屈折度・網脈絡膜萎縮が強くなるにしたがって,および後部ぶどう腫が存在すると,網膜剥離の発症頻度は有意に高くなった。後部硝子体剥離との間には有意な関連性はなかった。豹紋状眼底のみ呈する段階で,網膜剥離の発症母地が出来上がり,近視性網脈絡膜萎縮が出現するとさらに発症頻度が高くなる。また,後部ぶどう腫が発育・増大するに伴って,近視性網脈絡膜萎縮は高頻度に出現し,さらに後極部の強膜の拡張に伴い,脈絡膜,網膜の三者の間に形態的な歪みが生じ,網膜剥離の発症を助長すると考えた。なお,後部硝子体剥離は網膜剥離の発症に関しては大きな役割を果たしていないと思われた。

眼窩内木片異物の検討—そのCT像と手術所見

著者: 八子恵子 ,   鈴木美佐子 ,   佐々木聡 ,   中村泰久

ページ範囲:P.439 - P.441

 眼窩内木片異物の3症例についてCT像を検討したところ,異物のCT像はいずれでも受傷直後はlow densityを呈していたが,後に施行したCTではhigh densityを呈していた。これは木片異物に特徴的なCT所見である。異物摘出に際してはCT所見から異物の位置に関する重要な情報が得られた。
 異物摘出には手術用顕微鏡を使用すべきであるが,異物が眼窩深部に達している場合には,眼窩縁の骨を一時的に摘除することも広い術野を得るために必要かつ有効な手段となる。木片は生体内で次第に細分化されるため,特に長期間放置された症例では,異物の取り残しを防ぐ意味で,異物をその周囲の肉芽組織と一塊として摘出することが望ましい。

新しいアルドース還元酵素阻害剤(ARI,FR74366)の核磁気共鳴法を用いた効果判定

著者: 森和彦 ,   松本康宏 ,   池部均 ,   照林宏文 ,   赤木好男 ,   吉崎和男 ,   西川弘恭

ページ範囲:P.443 - P.446

 アルドース還元酵素阻害剤(ARI)はヒト糖尿病性白内障のモデルであるラットガラクトース白内障を抑制治癒させる。一方Proton核磁気共鳴法(1H-NMR)は磁気共鳴画像(MRI)の基礎となるものであり,白内障定量化の一手法としてARIの効果判定にも使用しうることを前回報告した。本研究の目的は新しいARI (Fujis-awa, FR74366)の効果を1H-NMRにてとらえることにより,将来のMRIによる白内障定量化およびARI効果判定の基礎的データを得ることにある。SD系rat (bw 50g)7群に2種の濃度のARIを含むガラクトース含有食を与え経時的に水晶体を摘出し,縦緩和時間T1,横緩和時間T2を測定した。その結果,緩和時間の経時的変化は組織における水晶体線維の液化膨化と対応しており,FR74366の濃度依存性の白内障抑制・治療効果を1H-NMR緩和時間により確認し定量的にあらわすことができた。以上より将来MRIを用いてヒト白内障の客観的定量化ならびに抗白内障薬の効果判定に用いうる可能性を強く示唆した。

ヒト白内障の水晶体上皮細胞増殖能の混濁部位からみた検討

著者: 馬嶋清如 ,   初田高明

ページ範囲:P.447 - P.449

 短期培養を実施し水晶体上皮細胞の生理活性を反映しうる上皮細胞の増殖能を,前極白内障・皮質白内障・全白内障について調査した。そして各々の白内障水晶体でその上皮細胞増殖能を検討すると,前極白内障では皮質・全白内障と比較して増殖能の低下が認められた。この結果から,前極白内障の限局した混濁は上皮細胞の生理活性低下により引き起こされるのではないかと推測され,今回の調査が前極白内障の発生メカニズムを明らかにするうえで意義あるものと考えられる。

白内障眼における水晶体上皮細胞の変化

著者: 金谷いく子 ,   星野峰子 ,   生田恵子 ,   藤澤久美子 ,   溝上國義

ページ範囲:P.451 - P.454

 種々の白内障における水晶体上皮の変化は,その成因との関連でいくつかの報告があるが,なお明らかにはされていない。我々は,水晶体上皮の平均細胞面積,密度と,加齢,白内障混濁のパターン,糖尿病,高眼圧との関連について検討を行った。
 対象は,50〜89歳の正常眼83眼,糖尿病眼18眼,緑内障発作既往眼8眼である。正常眼については,核,皮質,熟性,過熟白内障の4型に分類した。水晶体嚢外摘出時,得られた前嚢を直ちにホルマリン固定し,トルイジンブルー染色した後,中央部の水晶体上皮の平均細胞面積,密度をサンコンタクト社製角膜内皮自動計測システムにて計測した。
 その結果,平均細胞密度は50〜65,66〜75,76〜89歳の年代間で有意に減少し,加齢との関連が明らかであった。熟性白内障では,核,皮質白内障と比較し,有意に平均細胞面積の増大,密度の低下が見られた。皮質の障害が進行すると,平均細胞面積の増大が起こることが示唆された。緑内障眼では328.6μm2,3187.4cells/mm2,正常眼259.7μm2,3932.3cells/mm2と比較して,有意に平均細胞面積の増大,密度の低下を認め,高眼圧の水晶体上皮に及ぼす影響が著しいと考えられた。

白内障術後のインドメサシン点眼が角膜上皮に及ぼす影響

著者: 山田昌和 ,   坪田一男 ,   永本敏之

ページ範囲:P.455 - P.459

 白内障手術患者を対象とし,0.5%インドメサシン油性点眼液を術前術後に用いた10例(インドメサシン群)とインドメサシン点眼を用いない10例(コントロール群),インドメサシン点眼液の基剤を点眼した5例(基剤群)を対象とし,術前,術後1週,1か月,3か月に角膜中央部の上皮スペキュラーマイクロスコープ撮影を行い,平均露出細胞面積と角膜上皮スコアを用いた形態解析を行った。平均露出細胞面積はコントロール群,基剤群では術前術後に有意の変化を認めなかったが,インドメサシン群では術前は630.3±45.8μm2,術後1週は772.0±113.1μm2,1か月では818.4±106.3μm2,3か月では703.7±78.4μm2と術後1週,1か月で有意に増大し,コントロール群との間にも有意差を認めた。インドメサシン群のスコアはコントロール群に比べ術後1週,1か月で有意に増加していたが,基剤群とコントロール群との間には有意差を認めなかった。インドメサシン点眼は白内障術後の角膜上皮の形態に変化を与え,その作用は基剤ではなくインドメサシンによると考えられた。

白内障術後に生じた網膜剥離の統計学的観察

著者: 千葉可芽里 ,   二宮修也 ,   田澤豊

ページ範囲:P.461 - P.464

 1984年1月から1989年4月までの5年間に白内障術後に網膜剥離を来して来科し,当科にて復位手術を施行した30症例について検討を加えた。
 白内障の種類は,老人性21例,外傷性4例,先天性3例,併発1例,原因不明1例であった。性差では男性に若干多かった。
 白内障術式は,ICCE 16例,ECCE 12例,ECCE+PCL 2例であり,水晶体摘出後から網膜剥離発症までの平均期間は,老人性白内障で3.5年,先天性白内障で38.7年であった。網膜裂孔検出率は平均73.3%であった。
 白内障の術式別にみた網膜復位率は,ECCE施行群で最も高率であった。白内障手術時の硝子体脱出と復位成績に相関はなかったが,硝子体脱出を認めたものには広範囲剥離例が多かった。

摘出水晶体核中の鉄濃度が高値を示した1例

著者: 松本宗明 ,   白木邦彦 ,   三木徳彦

ページ範囲:P.465 - P.467

 白内障術後に摘出水晶体核の鉄濃度を測定したところ高値を示したので,眼内鉄片異物が強く疑われた1症例につき報告した。
 症例は38歳男性。右眼白内障手術を目的として入院。右眼視力50cm/n.d (n.c.),左眼に特記すべき所見なく,右眼に成熟白内障を認め,白内障嚢外摘出術を施行した。術後,右眼後極部に顆粒状または斑状の脱色素および色素沈着が広範にみられ,鼻下側周辺部に白色線維性増殖組織がみとめられた。螢光眼底検査,GP, ERG, EOGなどの臨床所見より眼球鉄錆症を疑ったが,画像診断上,眼内鉄片異物の確証が得られなかったため,摘出水晶体核の鉄含有量を測定した。
 ホルマリン中に保存した摘出水晶体核を濃硝酸を用いて溶解し,原子吸光分析により水晶体核湿重量あたりの金属濃度を測定した。保存中に水晶体核の湿重量が変化することを考え,鉄と同時に亜鉛濃度を測定し,それらの濃度比を算出した。本症例では鉄/亜鉛の濃度比は3.2で,対照例の0.48±0.17と比較して有意に高値を示した(p<0.01)。
 本症例のように異物飛入の既往,鉄錆症の存在が疑われ,眼内鉄片異物を直接証明できない場合は,他の臨床所見とともに眼組織中の鉄イオン濃度の測定が病態を考慮する上で有意義であると考える。

硝子体切除後の白内障手術45眼の検討

著者: 出田秀尚 ,   長崎比呂志 ,   上村昭典 ,   森田博之 ,   伊藤久太朗 ,   米本淳一

ページ範囲:P.469 - P.471

 1984年から1988年までの間に,硝子体手術既往眼の白内障手術を45眼に行った。ECCEを行ったものが10眼と,ICCEが35眼であった。ECCEを行った際に後房レンズを4眼に挿入した。ICCEの際に,網膜復位のためにシリコンオイルを注入したものが13眼あり,逆にシリコンオイルを除去したものが6眼あった。術中に破嚢が8眼,核落下が4眼に起こった。ECCEの場合の問題点は,切嚢に際し水晶体が動き易いこと,核娩出に際し核落下が起こり易いこと,皮質吸引に際し破嚢が起こり易いことであった。ICCEの場合は,冷凍ペンシルの使用が困難で,破嚢核落下が起こり易かった。この間題に対処するため,硝子体灌流装置を取り付けて,手術を行うと良いこと,また灌流装置により術中の合併症に速やかに対処出来るばかりか,同時に術前合併症としての網膜の問題にも対処出来ることを述べた。

白内障術後の色覚補正用着色レンズの検討

著者: 工藤仁 ,   萩原早 ,   斉木貴美 ,   浜野薫 ,   小原ふく子 ,   花房晶 ,   太田安雄

ページ範囲:P.473 - P.475

 白内障術後の羞明感や色視症を改善するために,黄色色素を添加した眼内レンズの作製を目的として,予備実験を行った。すなわち,黄色色素を添加した検眼レンズを装用し,眼内レンズ挿入眼に対し各種色覚検査を行い,黄色色素の添加濃度について検討した。
 実験の結果,50歳代とほぼ同程度の着色の検眼レンズ装用時には,検眼レンズ非装用時に比べて色覚が正常化したものが多く見られた。着色濃度が50歳代とほぼ同程度のものでは,色覚に異常をきたしたものはなかったが,濃度が増すと異常をきたすものがあった。
 今回の実験結果より,白内障術後の色覚補正用検眼レンズの濃度は,50歳代に相当する程度の濃度が適当であると思われた。

眼内レンズ挿入眼の後嚢混濁の定量的解析

著者: 吉田紳一郎 ,   佐藤紀之 ,   小原喜隆

ページ範囲:P.477 - P.479

 眼内レンズ(IOL)の形状が後嚢混濁の発生にどのように関与するかについて形態的に観察した。観察方法は,Convex-plano type IOL (前面凸)30眼とPlano-convex type IOL (後面凸)30眼について後嚢混濁の程度と部位,視力と%glare disabilityの関係,後嚢混濁の形態である。
 その結果IOLの光学部の形状によって,P-CIOL の後嚢混濁面積は術後経日的に増加したがConvex-plano type IOLに比較し軽度であり,後嚢混濁部位は中心部に多かった。C-P IOLの%glare disabilityは術後1か月で上昇しはじめ,術後3か月で顕著となった。
 後嚢混濁の予防には水晶体上皮細胞をできるだけ除去することが重要であるが,上皮細胞の増殖を防ぐためのIOLの形状の工夫が必要である。

学術展示

液晶ディスプレイ(バックライト付)およびプラズマディスプレイの調節機能への影響

著者: 渥美一成 ,   田中千春 ,   駒井昇 ,   田中英成 ,   鈴木聡美

ページ範囲:P.492 - P.493

 緒言 ラップトップ型として最近注目されているプラズマディスプレイ(PDP:plasma display)や液晶ディスプレイ(LCD:liquid crystal display)は,ちらつきがないことより,CRTより,今後見やすいディスプレイになる可能性がある。しかし,コントラストが低いことより,調節機能における負荷も多いと思われる。そこで,今回,将来的に,眼に疲労の少ないディスプレイを探るため,PDPとLCDを比較検討した。
 方法 対象は屈折異常以外眼疾患のない男性8名8眼,女性3名3眼計11名11眼,年齢21歳〜37歳(平均29歳)の優位眼を測定した。視対象は高解像度プラズマディスプレイ(東芝J−3100)縦19cm×横15cm,文字表示横640×縦400ドット,80桁40行,画面条件は,背景色オレンジ色,白文字,背景輝度20cd/m2,コントラスト比1.8である。液晶ディスプレイはバックライト付き高コントラストディスプレイ(EPSON PC−286L),画面条件は,背景色黒色,白文字,背景輝度20cd/m2,コントラスト比3.5である。

VDT従事者に対する低濃度シクロペントレート点眼治療について

著者: 近江源次郎 ,   木下茂

ページ範囲:P.494 - P.495

 目的 VDT従事者の眼精疲労や近視化等は,持続的な過度の視覚負荷がその主な原因と考えられ,仕事を継続しながらの効果的な治療法は未だ確立されていないと言える。今回我々は,VDT症候群と考えられる症例に,仕事を継続しつつ低濃度シクロペントレート(希釈サイプレジン®)点眼治療1)を試み,赤外線オプトメーターを用いた調節機能検査2)によりその治療効果を検討した。
 対象 器質的異常を認めない難治性の眼精疲労や近視化を訴えるVDT従事者10例20眼(年齢:24.4±2.5歳)を対象とした。

外傷性毛様体解離に伴う近視化と調節力低下について

著者: 中塚和夫 ,   古嶋正俊 ,   蔭山誠 ,   今泉雅資

ページ範囲:P.496 - P.497

 緒言 眼球打撲は,時に毛様体解離を生じ,低眼圧を招き視機能障害を併発する1)。このような症例においては,当初アトロピン点眼で保存的に経過をみることが多いが,今回我々はアトロピン未処置の2症例を経験した。経過観察中に,毛様体解離が屈折調節系ならびに視機能に与える影響について興味ある知見を得たのでここに報告する。
 症例1 21歳男性で,1988年11月単車運転中に転倒し,ハンドルで左眼を打撲。視力障害のため受傷4日後に当院を受診した。初診時所見:RV=1.2(1.5×−0.75D),LV=0.1(0.2×−2.5D)。眼圧(APP1.)RT=12mmHg,LT=11mmHg。左の上下眼瞼腫脹と結膜充血が見られる。角膜は著変なく前房深度は正常であったが,軽度の虹彩炎と散瞳がある。隅角は耳下側を中心に半周にわたり毛様体深部にまでおよぶ後退が観察された(図1)。眼底は受傷側の耳下側周辺部に,ベルリン混濁を伴った網膜硝子体出血を認めた。後極部は限局するびまん性の硝子体混濁に妨げられ定かではない。前眼部の炎症は軽いと判断し,アトロピン点眼をしなかった。経過:1週後にはLT=6mmHg (RT=15mmHg)と低眼圧をみたが,緩徐ながら上昇,出血と硝子体混濁の吸収がすすんだ。また,経過中に明らかとなった低眼圧黄斑症も改善,視力はほぼ5週後には,受傷前にまで回復した(図2)。

白内障手術後角膜の形状解析(第1報)

著者: 池沢暁子 ,   宮田和典 ,   清水公也

ページ範囲:P.498 - P.499

 緒言 白内障術後の角膜乱視は術直後に縫合による直乱視が生じ,その後,倒乱視化する事が知られている1)。しかしその経時的変化の観察はkeratometer等を使用した角膜中央部の解析にとどまっている。角膜は中央に比較して周辺はややflat化している非球面であり,また12時部で切開縫合を行う場合,角膜の局所の屈折力は対称的に変化するとは考えにくい。今回Photokeratoscope(PKS-1000®サンコンタクトレンズ社)により撮影した写真をPhotokerato analyser(PKA-1000®NIDEK社,以後PKAと略す)で解析することによって,術後の局所的な角膜形状の経時的変化を検討したので報告する。
 対象および方法 対象は7mmの強角膜切開創より超音波乳化吸引術+眼内レンズ移植を行った10例で,平均年齢は66.8±8.5歳,術前角膜乱視度が1D以内で斜乱視のない症例を選んだ。強角膜切開は外科的輪部12時部を中心に4面切開法で行い,超音波乳化吸引術後PMMA後房レンズを移植した。縫合は10-0ナイロン糸によるshoelace sutureを行った。角膜乱視は術前,術後7日,1,3,6か月にautokeratometer(RK-1®Canon社)により角膜中央部直径2mmの屈折力を測定し水平方向(K1),垂直方向(K2)の術前値からの変化量を検討した。

不等像視の融像に及ぼす影響

著者: 小島徳郎 ,   岡島光治

ページ範囲:P.500 - P.501

 緒言 不等像視(aniseikonia)は融像,空間認識の障害となるため,両眼視機能発達の妨げとなり不同視弱視の原因として問題となる。そこで,我々は,その限界点を検討するため,コンピューター・グラフィックスを用いた大型弱視鏡により,aniseikoniaを連続的に変化させる方法を考案し測定を行った。今回は,正常小児と斜視患者の測定結果とも比較し,両眼視機能の回復の可能性について検討した。
 方法 測定に用いた,大型弱視鏡(シノプト6,イナミ社)は左右のモニターに,異なる視標を表示することができる(図1)。そのため片側の視標の大きさを任意の時間で連続的に変化させ得る様にプログラムを作成した。

水晶体亜脱臼6症例の検討—亜脱臼の進行様式と前部硝子体膜

著者: 清水勉 ,   古吉直彦 ,   丸岡晶子 ,   木下房之 ,   木村章 ,   竹下哲二

ページ範囲:P.502 - P.503

 緒言 中高年者の水晶体亜脱臼例をみた場合,いかに治療をするかということに注目が向けられ,亜脱臼の所見を注意深く観察することは少ない。水晶体亜脱臼の機序について考按してある報告は少なく,ほとんどが毛様小帯の断裂にその主因を求めている1)。今回,水晶体亜脱臼6例の臨床所見を検討したところ前部硝子体膜に裂隙が観察された。この所見と亜脱臼の進行様式との関連について考察したので報告する。
 症例 症例は1987年10月より1988年7月までに熊大眼科外来を受診した患者のうち水晶体亜脱臼症例6例であった(表1)。観察期問は初診より手術までで1日〜6か月,平均44日であった。性別は男性5例,女性1例で年齢は40歳から64歳までであった。原因別では外傷性2例,特発性4例であった。初診時に眼圧が20mmHgを越えていたものは5例にみられた。浅前房を示した3例の水晶体は前房側に前方偏位(亜脱臼)していたが,そのうちの2例は経過中に硝子体側に高度に亜脱臼した。症例1,2,3は初診時より硝子体側に亜脱臼していた。症例6を除く5例に前部硝子体膜に破れ目が見られた。外傷性水晶体亜脱臼の症例2では上方の前部硝子体膜に裂孔がみられた(図1)。症例5では初期に水晶体は前房側へ亜脱臼して浅前房を示していたが,経過観察中に前部硝子体膜に小さな裂隙形成を認めた(図2)。3か月後に受診した際には裂隙は拡大しており,水晶体は硝子体内に高度に亜脱臼していた。

コンプレッション法移植におけるレンズ鑷子のIOL支持部形状に及ぼす影響

著者: 木村亘 ,   木村徹 ,   澤田達 ,   高松倫也 ,   山川佳子 ,   山田義治

ページ範囲:P.504 - P.505

 緒言 眼内レンズ(IOL)を水晶体嚢内に移植する際にコンプレッション法ではレンズ鑷子で支持部(ハプティック)を強く彎曲させるのが常である。この強く支持部を彎曲させる手技の支持部への影響は現在まで機械的損傷以外にはほとんど報告されていない。
 我々はコンプレッション法によるIOL挿入時に強く彎曲させられた支持部が嚢内で元の形状に戻りきらないケースを経験した事から(図1),それを確認するために小実験を行った。

外傷性白内障39眼の治療とその予後

著者: 播田実浩子 ,   高野隆行 ,   石川克也 ,   河井克仁

ページ範囲:P.506 - P.507

 緒言 外傷性白内障はその受傷機転が多岐に及ぶことから眼合併症も複雑であり,治療にあたっては前眼部,中間透光体から網膜硝子体まで広範な手技が要求される。今回我々が経験した外傷性白内障39眼に対して術式の内容と術後の視機能について検討した。
 方法 対象は1985年6月から1989年9月までに当科で行った外傷性白内障手術39眼(穿孔性31眼,非穿孔性8眼)で,これらの症例の年齢分布,合併損傷,治療内容,視力予後を検討した。さらに術後視力0.7以上あった19眼のうち経過観察が可能な13眼の角膜内皮細胞数測定及びglare testを施行した。

縮瞳例の白内障手術の術後成績

著者: 斎藤貴美子 ,   横山利幸 ,   二宮久子 ,   柳英愛 ,   金井淳 ,   加藤和男 ,   中島章

ページ範囲:P.508 - P.509

 緒言 白内障手術はA/Iシステムの開発により嚢外法が普及し,後房レンズが一般化されてきた。虹彩後癒着例や長期に縮瞳剤の点眼を使用していた散瞳不良例では,現在でも嚢内法が施行されることが多い。
 私達は虹彩後癒着例や散瞳不良例に,虹彩の瞳孔縁を切開し拡げた後,嚢外手術を行いその術後成績について検討したので報告する。

眼内レンズ移植術時の角膜乱視コントロール—眼圧の影響について

著者: 飯田あかね ,   宮田章 ,   荻原博実 ,   谷口重雄 ,   深道義尚

ページ範囲:P.510 - P.511

 緒言 近年眼内レンズ移植術の普及に伴い,術後早期より良好な視機能を得るため,術後の角膜乱視は無視できない問題となっている。今回,術中角膜乱視のコントロールを試み,測定時の眼圧による影響について検討したので報告する。
 方法 対象は,1988年12月〜1989年8月までに超音波乳化吸引術及び後房レンズ移植術を施行した215眼である。術中角膜乱視測定にはSun Contact Lens社製VK700を,眼圧測定にはバラッケ眼圧計を使用し一定眼圧に調整後手術終了時の角膜乱視量が約3D前後の直乱視になるようコントロールした。術後角膜乱視はCanon社製RK−1を使用し,術後1週目,1か月目,3か月目,6か月目に測定を行った。切開は,Limbusから約1.5mmの位置で,幅約7mmの強膜ポケット法を行った。縫合法及び縫合糸は,10-0Nylonでshoelace縫合4×を行っている。術中角膜乱視測定は,頭位を水平に保ち,開瞼器を装着し,制御糸をゆるめた状態で行った。バラッケ眼圧計(図1)で20mmHgの高眼圧状態から,10mmHgの低眼圧状態へと暫時変化させ,その各時点において,瞳孔中央にケラトメーターのリングが一致するように位置を決め,顕微鏡のズームを最大に拡人し角膜乱視量を測定した。

老人性白内障の疫学調査—第3報 問診調査の分析(Ⅰ)

著者: 加藤信世 ,   佐々木一之 ,   柴田崇志 ,   加藤桂一郎 ,   鹿野道弘 ,   尾羽沢大 ,   小暮文雄 ,   藤原隆明 ,   小原喜隆 ,   糸井素一 ,   秋山健一 ,   奥山茂美

ページ範囲:P.512 - P.513

 緒言 高齢化社会を迎えた現在,眼科受診者の中で老人性白内障が占める割合はきわめて高くなっている1)。従来の老人性白内障研究は,その主体が生化学的ないしは臨床的研究であり,疫学的観点からのアプローチはわが国では少なかったと言える。著者らはわが国の老人性白内障患者の実態の把握,発症につながる危険因子の検索などを目的に,多施設による疫学的研究を行っている2,3)が,その一部を紹介する。
 対象および方法 対象は石川県能登地区S町(以下,能登地区と略)に在住する40歳以上の一般住民298名と福島県の太平洋側に位置するF町(以下,福島地区と略)の一般住民196名をA調査の対象とした。B調査の対象は全国7施設の病院眼科を受診した白内障患者411名である。方法は問診と眼科的観察よりなり,前者は白内障疫学班作成の調査票1,それぞれA調査票,B調査票で問診を行った。眼科的観察は,水晶体を散瞳下に細隙燈顕微鏡検査で観察し,白内障の程度を班研究分類法4)に従い,病型,程度分類した。この他,視力検査,眼圧検査,眼底検査を行った。白内障所見は1眼を以てその症例が示す所見とした。結果の検定はx2検定と,交絡因子の年齢を補正した検定としてMantel-Haenszel法によった。

アルドース還元酵素阻害剤の白内障抑制効果形態学的判定基準について

著者: 池部均 ,   照林宏文 ,   辻俊明 ,   高橋幸男 ,   松本康宏 ,   森和彦 ,   赤木好男

ページ範囲:P.514 - P.515

 緒言 糖尿病性眼合併症の起因酵素はアルドース還元酵素(AR)であり1),各種AR阻害剤(ARI)は合併症発生を抑制することが確かめられている2,3)。しかしいまだヒト水晶体混濁つまり白内障の他覚的表示は完全ではない。その結果,糖尿病性白内障の進展速度・様式などは明瞭ではなく,また白内障治療薬としてのARIの臨床効果判定の際にも大きな障害になると考えられる。そこで本研究では,糖負荷ならびにARI効力の強弱とラットの成熟性を変えて生じる白内障の形態学的パターンから,糖白内障の形態学的分類表示およびARIによる白内障抑制効果の判定基準を明確にすることを目的とした。
 実験方法 本実験ではSD系ラットを用い下記のごとく①体重,②糖負荷,③ARIを変え生じる水晶体の形態学的変化を観察した。摘出水晶体を4%パラホルムアルデヒドを含む0.1M燐酸緩衝液(pH 7.4)で4〜5日間固定後,アルコール系列にて脱水した。メタクリル樹脂(JB−4,デュポン社)包埋後,トルイジン青で染色し光学顕微鏡にて観察した。

家族内に水晶体偏位を認めた2症例

著者: 齊藤伸行 ,   早川澄子 ,   久保田芳美 ,   野村菜穂子 ,   小柳宏 ,   武尾宏伸 ,   池森康子 ,   中鳴みゆき ,   周藤憲治 ,   篠原淳子 ,   河本道次

ページ範囲:P.516 - P.517

 緒言 水晶体偏位が単独で生じる場合は少なく,ほとんどの場合,全身疾患にともなって認められる。
 今回我々は全身になんら異常を伴わず完全水晶体偏位が生じてから15年以上の間緑内障などの合併症を一切発症しないで経過した1症例とその家族内精査により見いだした部分水晶体偏位を有する2歳の1男児例について若干の文献的考察を加え報告する。

網膜剥離手術における水晶体自発螢光

著者: 万代道子 ,   谷原秀信 ,   小椋祐一郎 ,   河野真一郎 ,   大内晶代 ,   荻野誠周

ページ範囲:P.518 - P.519

 緒言 網膜剥離術後の長期経過後の視力低下の原因のひとつに白内障が影響することが指摘されている1)。また網膜剥離に対する硝子体手術の後にはフルオロフォトメトリーにより水晶体自発螢光が増加していくことが報告されている2)。そこで今回,我々は経強膜的な網膜剥離手術後の水晶体自発螢光を測定し,非剥離眼である他眼と比較した。
 対象 1)片眼性網膜剥離に対して経強膜的に網膜剥離手術を施行された,2)両眼核自内障のみが見られるか,水晶体混濁を認めない,3)角膜疾患などの中間透光体混濁を認めない,4)糖尿病でない,5)緑内障手術や硝子体手術などの既往がない,6)散瞳が良好である,というすべての条件を満たした症例26例26眼であった。

白内障術後の角膜乱視について

著者: 稲垣有司 ,   田中稔 ,   太田俊彦 ,   黒川真理 ,   中川正昭

ページ範囲:P.520 - P.521

 緒言 白内障手術に伴う合併症として術後の角膜乱視の増加がある。眼内レンズを用いる場合,術後軽い近視になる様なレンズを用いることが一般的子あるため,同じ角膜乱視を合併する場合無水晶体眼に比べ,眼内レンズ(IOL)挿入眼により,強い乱視の矯正レンズが必要となる。
 今回我々は,当院で行ったIOL挿入眼の術前及び,術後の角膜乱視について検討し,また縦型改修を行ったCanon Auto Keratometer K−11)を用いて術前,術中,術後の乱視の変化を観察し,若干の所見を得たので報告する。

白内障手術における局所麻酔と眼球マッサージの眼圧に及ぼす影響

著者: 栗原和之

ページ範囲:P.522 - P.523

 緒言 白内障手術施行の際,瞬目麻酔,球後麻酔および眼球マッサージによって,眼圧がいかに変化するかをAlcon Pneumatonograph(以下PTGと略)を用いて測定し,併せて坐位と仰臥位の眼圧値の比較,眼球脈波の変化,球後麻酔による眼球運動障害の程度と眼圧の関係を検討した。
 対象と方法 眼科的局所合併症の認められない広隅角,老人性白内障32例33眼を対象とした。手術日前日にGoldmann Appl. Tonometerで坐位の眼圧を測定,PGSとした。手術日,術前にMydrin®,Neosynesin®,Indomelol®で散瞳し,手術室入室後PTGで仰臥位の眼圧測定,PLとした。1:1に混合した2% xylocaine E®と0.5% marcaine® 4.5〜5.OccでVan Lint法により瞬目麻酔を行い直後に眼圧測定,PAとした。次に同麻酔剤3.0〜3.5ccで球後麻酔を行い直後に眼圧測定,PRとした。その後術者の指圧で5分間眼圧マッサージを行い眼圧測定,PMとした。最後に29眼について眼球運動障害の程度を測定した。(上下左右各方向への完全麻痺を+1,不完全麻痺を+0.5として0から+4までの9段階評価)

形状記憶合金を用いたContinuous Circular Capsulorhexis

著者: 足立憲彦 ,   小室敏朗 ,   鈴木康之 ,   谷野洸

ページ範囲:P.524 - P.525

 緒言 近年,眼内レンズの嚢内固定を確実に行い,術後のレンズ偏位をより少なくするための前嚢切開法として,Continuous Circular Capsulorhexis (C.C.C.)が,行われる様になった。この方法には鑷子を用いる方法,ディスポ注射針を用いる方法等がある1)。いずれの方法も切開線が水晶体の赤道部へいった場合中止しなければならない等の問題があり,より容易な方法が望まれている。今回我々は形状記憶合金を用いた双極電極(バイポーラー)を試作し,新しいC.C.C.の方法を動物眼において試みたので報告する。
 装置 形状記憶合金は加熱によって予め記憶した形に復元する合金であり,今回使用した合金の組成はニッケルとチタンである。この合金の直径0.016インチの針金を用いて,直径5.5mmの輪状に加工し,更に形状記憶させるための加熱処理をした2)。それにより室温で容易に変形でき,40℃に加熱すると元の円形に戻る事ができる。これを電気メスの対極板とした。この特性により眼外より3mmの切開創より前房内へ挿入できる。電気メスの先端は直径2.75mmの円盤状に加工した。形状記憶合金の対極板の中心に電気メスの先がくる様に固定して,更にシリコンチューブで電流が漏れないよう絶縁した(図1,2)。

人工的偽水晶体眼における色覚—標準色覚検査表第2部を用いて

著者: 楠木裕子 ,   永石忠徳 ,   雨宮次生

ページ範囲:P.526 - P.527

 緒言 近年白内障眼に対して計画的嚢外水晶体摘出術後に人工水晶体が移植される症例が増加してきている。今回我々は標準色覚検査表第2部後天異常用(以下SPP—Ⅱと略す)を用いて人工的偽水晶体眼の色覚について検査し,検討を加え,いくつかの知見を得たのでここに報告する。
 方法 検査対象は1988年3月から1989年9月までの間に,日赤長崎原爆病院眼科にて計画的嚢外水晶体摘出術ならびに人工水晶体移植術を施行された患者のうち,術前,術後に色覚検査の可能であった症例である。

Pseudo-exfoliation症候群を伴った眼の後房レンズ移植後毛様小帯の観察

著者: 杉田新 ,   吉岡久春 ,  

ページ範囲:P.528 - P.529

 緒言 Pseudo-exfoliation(PE)症候群を伴った眼の後房レンズ移植は,術中・術後の合併症が起こり易いことから,適応の有無については議論がある。また,これと関連して,PE症候群の毛様小帯(Zonules)は一般に脆弱であると考えられているが,PE症候群の毛様小帯は本当に脆弱なのかという疑問がある。今回筆者らは,これらの問題点を解決するために,PE症候群を伴った眼に後房レンズ移植を行った場合,毛様小帯にいかなる変化がみられるかを形態学的に検討したので報告する。
 方法 実験材料はMedical University of SouthCarolina(MUSC)眼科のIOL Research Centerに送られてきた後房レンズ移植後のPE症候群を伴った剖検眼7症例9眼(表1)を用いた。10%フォルマリンまたは2.5%グルタールアルデヒドで固定された眼球を赤道部で半切した後,眼球前半部を特に毛様小帯に注目して実体顕微鏡下で観察した。ついで,これらの眼球は,1)走査電子顕微鏡(SEM)用に試料を作製してSEMで観察するか,2)PAS染色を施して実体顕微鏡で観察した。コントロールとして,同年代のPE症候群を有しない後房レンズ移植眼9眼の毛様小帯を同様にSEMまたは実体顕微鏡で観察した。

連載 眼科図譜・285

乳癌の視神経乳頭転移

著者: 矢野真知子 ,   福谷久

ページ範囲:P.406 - P.407

 緒言 眼科領域への転移性腫瘍はぶどう膜に多い。中でも脈絡膜にもっとも多く,虹彩毛様体にも見られる1-5)。眼窩,眼瞼への転移はこれより少なく,視神経乳頭への転移はさらに少ない1)。視神経乳頭への転移は脈絡膜の転移を伴っていることが多く,単独の転移はきわめてまれである4)。今回,乳癌の症例に脈絡膜転移を伴わない視神経乳頭転移をみたので,その臨床所見を報告する。
 症例 60歳,女性。

眼の組織・病理アトラス・42

落屑症候群

著者: 猪俣孟 ,   千々岩妙子

ページ範囲:P.410 - P.411

 落屑症候群exfoliation syndromeは高齢者の水晶体前面や虹彩の瞳孔縁に灰白色のふけ様落屑を生じる原因不明の疾患子ある。ふけ様落屑そのものは視機能に直接の影響を与えないが,落屑症候群患者では難治性の緑内障を伴うことが多い。落屑症候群は北欧諸国子高頻度にみられ,その他の国では比較的まれな疾患とされてきた。しかし,注意してみると,わが国でもまれ子はなく,50歳以上の高齢者にみられる開放隅角緑内障の大半は本症によるもの子ある。高齢者の増加に伴って患者は急増しているので,本症の眼科臨床における重要性はきわめて高い。
 ふけ様落屑は,水晶体の前面,虹彩の実質,毛様体の無色素上皮層や虹彩の色素上皮層の後房側基底板,線維柱帯,チン小帯,結膜などの眼組織にその存在が確認されている。とくに,水晶体前面における沈着の様子が特徴的で,中心円盤,中間透明帯,周辺混濁帯が識別されている。水晶体前面のふけ様落屑はあたかも水晶体前嚢が剥離しているようにみえるので(図1),本症は偽落屑症候群pseudoexfoliation syndrome,水晶体前面の落屑は水晶体嚢偽落屑pseudoexfoliation of thelens capsuleと呼ばれ,ガラス吹き工などに生じる真の水晶体嚢落屑と区別されてきた。

今月の話題

真菌性眼内炎

著者: 西村哲哉

ページ範囲:P.413 - P.416

 最近増加しつつある内因性真菌性眼内炎について,その診断と治療の要点について述べた。IVHの普及とともに本症の発病が急増し,失明者が増加している。本症は早期診断,早期治療が重要であるので,IVHが長期留置され,全身的に何らかの抵抗減弱因子がある患者にぶどう膜炎症状を見た場合には,常に本症を念頭において診療にあたるべきである。

眼科手術のテクニック—私はこうしている・16

トラベクロトミー

著者: 荻野誠周

ページ範囲:P.485 - P.487

 わたしがトラベクロトミーを確実に成功させるために重要であると考えている点は次のとおりである。

眼科薬物療法のポイント—私の処方・16

細菌性眼内炎—内因性

著者: 秦野寛

ページ範囲:P.489 - P.491

74歳男性 主訴:左視力低下
 発熱などの感冒症状に続いて,左眼に雪が降っているような感じを覚えた。徐々に視力低下が生じたため近医を受診したところ,虹彩炎の診断にてステロイド点眼を受けた。ステロイドに反応せず増悪する一方のため,当科紹介となった。糖尿病と尿路感染の合併がある。初診時視力 右:0.8(1.0),左:光覚(nc)。

臨床報告

ぶどう膜炎における網膜硝子体血管新生

著者: 諏訪雄三 ,   中川やよい ,   多田玲 ,   原吉幸 ,   大路正人 ,   萩原正博 ,   春田恭照 ,   湯浅武之助

ページ範囲:P.531 - P.534

 ベーチェット病651例中7例(1.1%)9眼,他のぶどう膜炎853例中3例(0.3%)3眼に網膜または硝子体中の血管新生がみられた。血管新生の部位は視神経乳頭5眼,後極部3眼,赤道部4眼で,それぞれ5眼,2眼,1眼で硝子体出血が生じた。乳頭と後極部に発生した新生血管は広範囲にわたる網膜の炎症性循環障害によるものと推測された。赤道部に生じたものは3眼が無血管帯,1眼は網膜前線維増殖によるものであった,ぶどう膜炎の発症から新生血管の出現までの期間は2か月から11年,平均2.8年,ベーチェット病だけ子は3.1年であった。乳頭および後極部に生じた新生血管は半数が治療により消失し,4眼ではまだ存続していた。血管新生眼の最終視力は,新生血管発生時と比較して,全体としてはあまり低下していなかった。

眼内レンズ挿入術後にみられた“in the bag”hyphaemaの1例

著者: 西佳代 ,   西素子 ,   西興史

ページ範囲:P.536 - P.538

 嚢間白内障手術後,前嚢後嚢よりなる袋,いわゆる“in the bag (嚢内)”に貯留した前房出血の症例を経験した。
 症例は,64歳の女性で内科的疾患はなく,1986年12月2日老人性白内障で嚢間白内障手術の手法(水晶体上皮細胞を除去,前嚢は除去せず保存。)で後房レンズを挿入した。術後3日目に眼内レンズと前嚢上にまで拡がる前房出血を認め,術後8日目には眼内レンズと後嚢間のみに限局して貯留し鏡面を形成し,その消失までに約3.5か月を要した。“in the bag”hyphaemaは血液が流入貯留しやすい嚢間白内障手術の前嚢切開の型に負う所が大きい。またその自然消失に長期間を要する。“in the bag”の中は,赤血球処理機能の作用しにくい場所であると考えられた。

後部強膜炎を合併した原田病の1例

著者: 道又律子 ,   長尾完 ,   湯沢美都子 ,   松井瑞夫

ページ範囲:P.539 - P.542

 頭痛,眼痛,両眼の球結膜充血と視力低下子発症後8日目に受診した53歳女子を,両眼の後部強膜炎を併発した原田病と診断した。両眼の後極部に漿液性網膜剥離があり,周辺眼底には脈絡膜剥離があった。螢光眼底造影で原田病特有の多数の過螢光点がみられた。造影CT検査で眼球後壁の肥厚,超音波検査で眼窩組織が眼球後壁から分離した像が観察された。矯正視力は右0.2,左0.8であった。プレドニソロン全身投与により,症状が改善し,網膜剥離は消失し,視力も回復した。原田病では後部強膜炎の併発に注意が必要である。

後嚢のない無水晶体眼に対する後房レンズ挿入の動物実験

著者: 高良由紀子 ,   稲富誠 ,   深道義尚 ,   谷口重雄

ページ範囲:P.543 - P.546

 摘出豚眼を用いて,後嚢のない場合の縫合法による後房レンズの毛様溝固定術を行い,その手術手技を検討した。毛様溝に通糸をするときには,周辺虹彩切除口から針先を確認する必要があり,レンズ挿入時には後嚢の代わりとなる支持が必要であることがわかった。この新しい方法を硝子体側から観察しその有用性を確認した。

色素性乾皮症に伴った結膜扁平上皮癌の1例

著者: 谷瑞子 ,   文入正敏

ページ範囲:P.547 - P.550

 41歳女性の色素性乾皮症に伴った結膜扁平上皮癌を経験した。症例は6歳頃から顔面に色素斑が出現し,22歳で皮膚生検により色素性乾皮症と診断された。その後7回の顔面腫瘍切除術を受け,いずれも基底細胞癌であった。1987年5月,左眼の充血を主訴に当院眼科にて受診したところ結膜腫瘍が認められ,切除標本は扁平上皮癌と診断された。そののち,更に顔面皮膚の5か所の腫瘍切除術を受けたが,組織学的にはそれぞれ基底細胞型扁平上皮癌,基底細胞癌,毛嚢上皮腫及び腺扁平上皮癌と診断は多岐にわたっていた。このような多段階にわたる悪性像を呈する腫瘍を合併することは稀と考えるので報告する。

イトラコナゾール内服が奏効したアカントアメーバ角膜炎の2例

著者: 石橋康久 ,   渡辺亮子 ,   加畑隆通 ,   本村幸子 ,   安羅岡一男 ,   石井圭一

ページ範囲:P.551 - P.555

 アカントアメーバによる角膜炎が2症例に発症した。いずれもソフトコンタクトレンズを長期装用している19歳と37歳の女性であった。病巣掻爬(débridement)と,ミコナゾール点眼,イトラコナゾール内服による治療により,それぞれ5週と8週で治癒した。当初それぞれ指数弁と手動弁の視力は,1.2と0.5に回復した。薬物による副作用はなかった。

特発性頸動脈海綿静脈洞瘻の4症例

著者: 木村実 ,   三島宣彦 ,   幸田富士子 ,   根本繁

ページ範囲:P.557 - P.560

 内頸動脈瘤破裂1例と硬膜動静脈奇形3例の特発性頸動脈海綿静脈洞瘻を経験した。
 内頸動脈瘤破裂の1例は,外傷性類似の著しい眼痛,眼球突出,眼球運動障害,血管雑音等を呈したが,detachable balloon法による瘻孔の閉塞にて急速に症状の改善をみた。
 硬膜動静脈奇形のうち,緑内障発作様の眼圧上昇と視力低下を起こした1例と,眼痛と眼球運動障害の強い1例に対し,超選択的カテーテル法による流入動脈塞栓術を行い症状の改善をみた。臨床症状の軽微であった硬膜動静脈奇形の1例は,一過性の軽度眼圧上昇を呈したものの徐々に軽快し,約3か月後に臨床症状は自然消失した。

網膜細動脈瘤15例の経験

著者: 南川美登里 ,   竹山知永子 ,   立川晶子 ,   山本起義

ページ範囲:P.561 - P.568

 最近の5年間に15症例16個の網膜動脈瘤を経験し,その臨床像,治療法について検討した。平均年齢は69歳で,70歳代にピークがあり,高齢者に多かった。男性は7例,女性は8例で性差はなかった。受診動機は視力障害が13例,86%で最も多かった。15例全例に高血圧症があり,その他心疾患,糖尿病,脳血管障害が合併していた。動脈瘤の発生部位は耳側動脈に13例14個と最も多く,他は鼻側動脈と乳頭上に各1個ずつであった。1例で1眼に2個の動脈瘤が見られた以外はすべて片眼で1個であった。12例は動脈瘤より眼底後極部に濃厚な網膜出血や硝子体出血を生じた。螢光眼底造影にて動脈瘤を証明できたが,濃厚な出血のためにmaskingされ,出血吸収後にはじめて発見された例もあった。薬物療法にて経過観察のうえ,動脈瘤の自然消退傾向がない8例に光凝固を動脈瘤に直接行って,全例合併症もなく動脈瘤は器質化し,眼底病変の改善をみ,治癒した。

Group discussion

レーザー眼科学

著者: 野寄喜美春 ,   天野清範

ページ範囲:P.569 - P.570

特別講演 エキシマレーザーの臨床応用
S.Trokel (Colombia Univ.USA)
 冒頭の特別講演はエキシマレーザーの角膜手術への臨床応用について,家兎並びに死体眼での実験を経て,生体眼21眼での臨床応用の結果につき講演された。refractive surgeryやablationを行った結果,術後の創傷治癒,周囲組織への侵襲を組織学的に検討した結果,好結果が得られたと報告している。本邦では,この方面の研究は余り進んでいないが,我々の実験結果ではnew collagenの出現や眼球固定など解決されない問題点もあり,角膜内皮細胞への影響を含めて,その臨床応用には照射条件,照射方法など,さらに検討する必要があると思われる。

眼科と東洋医学

著者: 竹田眞

ページ範囲:P.570 - P.571

 本年は一般演題11題と藤平先生による特別講演があり,予定を15分程オーバーする熱心な討論となりました。年々一般演題が増え,毎年新しい方が登場されるのでうれしく思いました。本年はいつもの常連に加えて,樋口,深作,黒木,日笠の諸先生がこのグループディスカッションに初参加されました。この会発足当時は演題が4〜5題と少なく,あの手この手で色々な先生に口をかけて発表して頂いていた頃を想い出しました。
 一口に東洋医学と申しましてもハリあり,漢方あり,中医派あり,日本漢方ありと色々な方が参加されます。それぞれに微妙に異なる言葉の定義があり,それらの先生同志の討論がなかなかかみ合いません。そのうえ眼科的(西洋医学的)に東洋医学的療法の効果が正しくなされているかという問題もあります。そこで第1回,第2回の会のあとに発表の先生に集って頂き,どの様に会を運営するかについて御相談申し上げました。その時の課題ではどうやって会員の共通語を作っていくかということが出ました。西洋医学と東洋医学の間の共通語,ハリと漢方の共通語,各流派間の共通語などを作るのは非常に困難なことです。結果最近の会の雰囲気は,診断と治療は東洋医学的に,効果判定は西洋医学的に(当然眼科の診断は西洋医学的に)という発表をすることで大体のコンセンサスを得ているように思います。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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