icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科44巻5号

1990年05月発行

雑誌目次

特集 第43回日本臨床眼科学会講演集(3)1989年10月 名古屋 学会原著

黄斑部網膜前膜と後部硝子体膜の円形欠損

著者: 岸章治 ,   横塚健一 ,   戸部圭子 ,   田村卓彦

ページ範囲:P.595 - P.599

 後部硝子体剥離の完成した特発性黄斑前膜の硝子体を,ゴールドマン三面鏡で検索し,54例62眼に,後部硝子体膜の円形の欠損を観察した。この硝子体皮質の円形の窓は,眼底の黄斑前膜と,その人きさと部位が対応しており、後部硝子体膜が黄斑前膜の構成要素であることを示していた。
 硝子体皮質の円形欠損は,常に境界が鮮明で,その外縁では膠原線維が輪状に走行しており,これが偶発的に生じた裂孔ではないことを示唆していた。この窓の前方は,硝子体液化腔に連続するか,硝子体ゲルが窓を通って後方に脱出していた。これら所見から,欠損部位は,bursa premacularisの基底面に相当すると判断された。
 Bursa premacularisは,眼底後極部のすぐ前方にある硝子体液化腔である。bursaの墓底部では,硝子体皮質はbursaにより,ゲルから分離して,膜として存在する。
 我々は,bursaの基底面である硝子体皮質が,特発性黄斑前膜の本質であると結論する。黄斑前膜における,従来,説明不能であったさまざまな現象が,bursaと関連して解釈すれば,一元的に説明可能となることを論じた。

摘出眼内レンズの走査型電子顕微鏡的観察

著者: 宮田章 ,   谷口重雄 ,   小沢忠彦 ,   今井正之 ,   深道義尚

ページ範囲:P.601 - P.604

 さまざまな理由により,眼内より摘出された眼内レンズIOL60例の表面付着細胞を走査型電子顕微鏡で観察し,摘出に至った理由と表面付着細胞との関係について検討した。
 摘出理由は,水疱性角膜症26例,IOL偏位14例,遷延性ぶどう膜炎13例,屈折修正4例,外傷によるIOL脱臼3例であった。摘出されたIOLタイプは,前房レンズ29例,後房レンズ31列であった。
 遷延性ぶどう膜炎のために摘出されたIOLでは,細胞質を大きく広げ偏平化したマクロファージや線維芽細胞様細胞が多数認められた。移植後1週間以内に摘出されたIOLでは,マクロファージが多数認められたが,それらは球形を保っており,太い偽足を出し,線維芽細胞様細胞は認められなかった。これら以外の症例では,眼内の炎症の消失とともに,移植後3か月以降に付着細胞が徐々に消失する傾向がみられた。

水痘の合併症としての桐沢型ぶどう膜炎

著者: 松尾俊彦 ,   小山雅也 ,   梅津秀夫 ,   松尾信彦

ページ範囲:P.605 - P.607

 免疫能が何らかの原因で低下している20歳代の3名が,水痘に罹患し,その3週間後,1例では両眼,2例では片眼に桐沢型ぶどう膜炎が発症した。免疫能が低下している成人では,水痘の合併症として桐沢型ぶどう膜炎にも注意する必要がある。

オクトパス自動視野計を用いた眼内レンズ移植眼のグレアー障害の測定

著者: 並木真理 ,   小幡典子 ,   田上勇作

ページ範囲:P.609 - P.612

 正常眼,白内障眼,合併症のない眼内レンズ移植眼,positioning holeの露出,後嚢混濁,YAGlaserによるpit形成などの合併症のある眼内レンズ移植眼,計41眼を対象とし,directional glareが静的視野に与える影響を,オクトパス500Eプログラム36で測定した。
 固視点下方8.7°の位置に内蔵されている固視監視用ビデオカメラの前方に,グレアー光源を設置した。グレアー光の輝度は13asbとし,背景輝度への影響はなかった。
 正常眼と合併症のない眼内レンズ移植眼ではグレアー光源対応部に3〜11dBの軽度の感度低下がみられた。白内障眼では,正常眼に比して感度低下が高度で,その範囲も拡大していた。合併症のある症例では,positioning hole露出,後嚢混濁に対応する部位などに最高25dBの高度の感度低下が観察された。positioning holeや後嚢混濁部でのグレアー光の散乱,さらに眼内での散乱により,通常考えられない部位にも感度低下が生じた可能性が考えられる。また合併症が無いと思われた4 hole lens移植眼においても感度低下がみられた。暗所での散瞳や斜方向からのグレアー光の入射により,虹彩後方に隠れた positioningholeに起因するグレアー障害が発生したと考えられた。

多発性網膜黄白色斑と虹彩結節で初発したVogt—小柳—原田病

著者: 高橋英子 ,   吉岡久春 ,   田中義松

ページ範囲:P.613 - P.615

 従来報告のない多発性網膜黄白色斑で初発した54歳男性のVogt—小柳—原田病を経験した。螢光眼底検査では脈絡膜循環障害を認め,黄白色斑はAPMPPEに類似した螢光像を示し,EOGでL/D比が低下していたことから,黄白色斑は脈絡膜循環障害により網膜色素上皮細胞が障害されたものであることが示唆された。
 本症例での黄白色斑と他疾患での黄白色斑との鑑別には,螢光眼底検査や全身的検索が必要であることを強調した。虹彩結節は,本病の発病初期にも認められることを確認した。

眼寄生虫幼虫移行症による視神経網膜炎の1症例

著者: 松場真弓 ,   藤沢久美子 ,   佐堀彰彦 ,   宮沢裕之 ,   山本節 ,   近藤力王至

ページ範囲:P.617 - P.620

 血清学的に眼寄生虫幼虫移行症と診断された視神経網膜炎の1例を報告した。症例は49歳の男性で,右眼眼底に視神経乳頭炎と特徴的な白色滲出斑を伴う病巣を認め,血清学的検査で,眼犬蛔虫に対する5種類中4種の検査で陽性反応を示した。
 血清学的検査の普及に伴い,本疾患の原因として,眼寄生虫幼虫移行症が重要視される。

各種ぶどう膜炎患者末梢血および髄液中リンパ球のtwo-color flow cytometryによる分析

著者: 三木聡 ,   田内芳仁 ,   大谷知子 ,   山口景子 ,   三村康男

ページ範囲:P.621 - P.624

 ぶどう膜炎患者のリンパ球動態を解明するため,ベーチェット病24例,原田病14例,サルコイドーシス6例,病型分類不能のぶどう膜炎28例および健常者30例の末梢血リンパ球,および新鮮例原田病では髄液中リンパ球に対して,two-color flow cytometryによる分析を行った。その結果,ベーチェット病患者にはCD8CD11細胞の割合の上昇,CD4Leu8/CD8CD11比の低下,NK細胞活性の低下が認められ,発作期と緩解期ではリンパ球サブセットに差を認めなかった。原田病患者にはCD4Leu8細胞の割合の低下,CD4Leu8細胞の割合の上昇が認められ,末梢血に対して髄液のCD4Leu8細胞の割合が有意に上昇しており,原田病発症時の炎症局所の免疫異常にはヘルパーT細胞の関与が強く示唆された。サスコイドーシス患者にはCD8CD11細胞の割合の上昇,CD4Leu8/CD8CD11比の低下が認められ,病型分類不能のぶどう膜炎はCD4Leu8細胞の割合の低下,CD8CD11細胞の割合の上昇,CD4Leu8細胞の割合の上昇が認められた。

Trabeculotomy retrospective study—(第4報)術後の視野変化について

著者: 湖崎淳 ,   寺内博夫 ,   奥平晃久 ,   根木昭 ,   永田誠 ,   谷原秀信 ,   竹内篤

ページ範囲:P.625 - P.627

 各種緑内障に対し第1回目の手術としてトラベクロトミーを施行した387眼について平均3年3か月の期間視野の変化を調査した。視野狭窄の進行に影響する要因について考察した。眼底コントロールが良好であっても24.5%に視野狭窄の進行が認められた。視野障害は,高齢者,高血圧,肥満者に視野狭窄の進行しやすい傾向が認められた。術前視野が湖崎分類Ⅰ期の症例はそれ以後の時期の症例より術後視野は進行しにくかった。視野狭窄の進行と術後眼圧の相関はなかった。

ベーチェット病における補体レセプターCR2

著者: 金井久美子 ,   小暮美津子 ,   福田尚子 ,   蔵並貴子 ,   高橋義徳 ,   若月福美

ページ範囲:P.629 - P.632

 ベーチェット病患者を対象として,リンパ球CR2を測定し,以下の結果を得た。
 1.ベーチェット病患者のリンパ球CR2はコントロールに比べ有意に低値を示した。
 2.眼発作期のリンパ球CR2は寛解期に比べ有意に低値を示した。
 3.ベーチェット病患者寛解期のリンパ球CR2はコントロールに比べ有意に低値を示した。
 以上より,リンパ球CR2はベーチェット病の病態や再発機序に重要な役割を果していることが示唆された。

眼部MRIにおけるGd-DTPAの造影効果について

著者: 松永伸彦 ,   田代順子 ,   雨宮次生 ,   武田宏之

ページ範囲:P.633 - P.635

 MRIは有用であるが,病巣部と正常部のコントラストが不鮮明な部分や,病巣内部の性状や広がりのわかりにくい症例がある。眼部諸疾患にGd-DTPAを造影剤として用い,MRIを施行した症例について,その有用性を検討した。対象は眼瞼腫瘍,脈絡膜悪性黒色腫,硝子体出血,裂孔原性網膜剥離,眼窩髄膜腫,球後視神経炎各1例,脈絡膜骨腫の2例8症例7疾患である。全例でMRIによる病巣部の所見が得られ,球後視神経炎の1例を除き,病巣部増強効果が認められた。曖昧な異常陰影をより鮮明にし,病巣部境界を明瞭にするのに役立ち,眼科領域の疾患で,Gd-DTPAを造影剤とするMRI検査は有用であった。

滋賀医大眼科におけるトラベクロトミーの手術成績

著者: 角屋博孝 ,   山田重喜

ページ範囲:P.637 - P.640

 原発開放隅角緑内障および偽落屑症候群に対するトラベクロトミーの手術成績をレトロスペクティブに調査した。
 対象は,滋賀医大眼科において1979年1月から1988年12月に施行されたトラベクロトミーのうち,術前眼圧が点眼で21mmHg以上で術後3か月以上(ただし不成功眼は3か月未満でも)経過観察できた原発開放隅角緑内障68眼,偽落屑症候群9眼の計77眼で,他の緑内障手術を併用したものは除外した。術後2か月経過しても眼圧が点眼で20mmHg以下にならないもの,経過中3か月間の平均眼圧が点眼で20mmHgを越えたもの,再手術を要したものは不成功とした。
 生命表解析により5年生存率(成功率)を求めると,初回トラベクロトミーについて49.4%であった。合併症としては,1週間以内に吸収しない前房出血4眼(5.2%),隅角鏡なしで確認できるデスメ膜剥離2眼(2.6%),1眼(1.3%)に視力低下を伴うデスメ膜下血腫および浅前房をきたした。しかしながら,このような重篤な合併症は正しく手術を行うことによって回避できるものであり,トラベクロトミーは安全な手術であると考えられた。

緑内障性格調査

著者: 馬場裕行 ,   吉川啓司 ,   水野光通 ,   井上トヨ子 ,   井上洋一

ページ範囲:P.641 - P.645

 全国19の大学を含む31の施設に対し,緑内障患者の特徴的な気質を抽出する目的で,56項目にわたるアンケート調査を行った。主治医にも調査表に記入を依頼し,病型,視力などに関するデータを収集した。2,189件のアンケートが回収され,このうち信頼できる1,738例を集計した。
 全国15施設の白内障患者に対しても,同様のアンケートを行った。751件が回収され,記載の正確であった613例をコントロールとして集計した。
 緑内障では,こだわり,悲観,怒りが,病期の進行とともに増加した。視機能障害の高度な例で,楽観的な感情の増加が認められた。緑内障では,初期より,白内障に比べ,こだわりと悲観が多く,楽観的感情が乏しかった。

炭酸脱水酵素阻害剤(CAI)長期使用による電解質—CO2バランスの変化とクエン酸製剤(ウラリット-U®)の効果

著者: 庄司信行 ,   新家真 ,   奴田原紀久雄 ,   東原英二

ページ範囲:P.647 - P.651

 炭酸脱水酵素阻害剤(CAI)を1年以上投与されている緑内障患者32例に著明な代謝性アシドーシスとそれに対する呼吸性代償,骨塩の融解および尿での骨塩の漏出とカルシウム溶解性の低下が認められた。
 このうち22例にクエン酸製剤ウラリット-U®を投与したところ,眼圧の変化はなく,骨塩漏出の低下と代謝性アシドーシスが改善した。
 以上の結果からCAI長期使用例,とくに骨系統の疾患や慢性肺疾患の合併頻度の高い老人では,定期的な血中重炭酸とカルシウムイオンのチェックが必要である。ウラリット-U®はCAIの併用薬として有望である。

緑内障疫学調査共同研究—1988年—全国集計結果

著者: 塩瀬芳彦 ,   北澤克明 ,   塚原重雄 ,   赤松恒彦 ,   溝上国義 ,   布田龍佑 ,   勝島晴美

ページ範囲:P.653 - P.659

 1988年4月から2か年計画で全国7地区(北海道,岩手県,山梨県,愛知県,岐阜県,兵庫県,熊本県)において40歳以上の住民を対象に行った緑内障疫学調査の第一年度集計結果報告である。全地区を通じ統一した検診方式,診断基準を用い全データは大型電算機により処理された。方法は一次スクリーニングとして眼圧検査に加え無散瞳カメラによる眼底撮影と一括読影方式を採用し,これらの異常者につき自動視野計による二次スクリーニングを実施した。
 合計受診者は6,652人で内,40歳以上は6,185人,受診率38.5%,平均年齢57±12.51歳であった。有病率(人)は全般に高緯度地区で高い傾向が認められたがPOAG0.61%,LTG 1.92%,PACG0.31%,その他緑内障0.68%,OH1.16%であった。POAG, LTG, OHの頻度に有意の性差はなかったがPACGのみ女性に高い傾向が認められた(p<0.1)。年齢別有病率では,加齢に伴う増加傾向がLTG, POAG, PACGの順に高く,OHは逆に減少傾向が認められた。欧米データとの違いは人種特異性と検査,診断精度の向上によるものと考えられる。

桐沢型ぶどう膜炎31例の臨床的観察

著者: 原吉幸 ,   中川やよい ,   多田玲 ,   萩原正博 ,   檀上眞次 ,   恵美和幸 ,   春田恭照 ,   坂東桂子 ,   湯浅武之助

ページ範囲:P.663 - P.666

 大阪大学眼科で1973年から1989年までに経験した桐沢型ぶどう膜炎31例35眼について統計学的考察を行った。男性20例22眼,女性11例13眼で,平均年齢は45.1歳であった。網膜壊死の範囲が広い症例は網膜剥離を起こすものが多く,視力予後も不良であった。1973年から1981年の前半と,1982年から1989年の後半とに分けてみると,網膜剥離の発生は前半で12眼中9眼,後半では23眼中13眼で,最終視力が0.1以上の症例は前半では9眼中0眼,後半では13眼中4眼であった。ステロイド治療にアシクロビルの併用療法を行った症例は,最終視力0.1以上を維持している症例が多かった。ステロイド投与量についてみると,投与総量がブレドニゾロン換算1,500mg以上の症例では7眼が視力予後良好であるのに対し,1,500mg未満の症例では1例であった。水痘帯状ヘルペスウイルスに対する抗体率の高かった3例は,すべて中高年男性で片眼性であり,視力予後は不良であった。単純ヘルペスウイルスに対する抗体率の高かった5例では若い女性が3例を占め,視力予後の良好なものもみられた。

名古屋市立大学病院におけるサルコイドーシスの統計的観察(第1報)

著者: 朱雀五十四 ,   馬嶋昭生 ,   湯口幹典 ,   川路陽子 ,   森宏明 ,   尾関年則 ,   山本正彦 ,   野田正治

ページ範囲:P.667 - P.670

 名古屋市立大学病院眼科でサルコイドーシス(以下サ症)が疑われた81例(Ⅰ群)と,当院他科でサ症と診断され当科を受診した90例のうち眼病変のある46例(Ⅱ群)について統計的観察を行った。両群とも男女比は約1:2で,50歳代にピークがみられたが,Ⅱ群では20歳代にもピークがあった。サ症に特徴的な眼病変を1)羊脂様角膜後面沈着物あるいは虹彩結節2)隅角部結節あるいはテント状周辺虹彩前癒着3)硝子体混濁(雪玉状あるいは連珠状)4)網膜血管周囲炎5)網脈絡膜滲出物の5種類とし検討した。両群とも2)が最も多くみられた。Ⅰ群のうち全身的検査の結果からサ症と診断された症例では,3)および4)が多く,サ症の診断においてとくに重要であると思われる。両群とも視力予後は比較的良好であり,眼病変の個々の出現頻度,および眼病変の数に差はなかった。眼病変が1種類でもあれば,繰り返し全身的検査が必要である。

ぶどう膜炎での前房混濁の客観的評価と主観的評価

著者: 森圭介 ,   堀内知光 ,   木村保孝 ,   坂本道子 ,   戸部圭子 ,   エルネスト又吉 ,  

ページ範囲:P.671 - P.675

 細隙灯顕微鏡による前房混濁の主観的評価の性質をフレア・セル・メーターによる定量的評価と比較するため,ぶどう膜炎患者603眼についての検索をした。前房フレアに関しては,フレア・セル・メーターの計測の対数換算値と主観的評価とで,良好な正の相関があった(r=0.73,p<0.001)。フレアの主観的評価は,変動係数(標準偏差/平均)は50%以上,2名の観察者の主観的評価の一致率は63%とばらつきが大きく,再現性が低かった。さらに,肉眼で検知できるフレアの閾値を求めるために,主観的評価でフレアがないグレイド0群と正常コントロール群のフレア値を比較検討した。これらの間では,統計上有意差があり(p<0.01),肉眼で判別できるフレアの最少閾値は,正常フレア値の約3〜6倍の間にあった。細胞数に関しては,フレア・セル・メーターは,とくに軽症例で再現性が低く,炎症細胞と他の細胞との判別は不可能であり,主観的評価の方が優れていた。

緑内障視野障害進行に伴う乳頭陥凹と色調変化との相関

著者: 伊藤美樹 ,   鉄本員章 ,   宮澤裕之 ,   溝上國義 ,   丸山節郎 ,   今道正次

ページ範囲:P.677 - P.682

 視野障害進行のある緑内障症例20眼に対し,独自に開発したカラー画像解析システムを用いて乳頭色調の変化を客観的かつ定量的に捉え,陥凹の変化との相関につき検討した。ごく初期でも陥凹拡大に伴い色調変化がおこることが示され,視野障害の進行を認めた症例ではごく初期においても陥凹拡大に伴いその部の乳頭辺縁部の色調が変化することが示唆された。視野障害がある程度進行した例では,陥凹拡大を示さずに色調変化を生じる例もみられ,視野障害の進行が高度となり,乳頭陥凹がある程度拡大すれば陥凹拡大を示さずに色調のみが変化すると考えられた。

学術展示

家族性発症が疑われる色素性緑内障の1例

著者: 照屋武 ,   比嘉敏明 ,   知念靖 ,   比嘉武史 ,   長瀧重智

ページ範囲:P.692 - P.693

 緒言 色素性緑内障(pigmentary glaucoma)は中等度の近視を有する若年の男性に好発する緑内障である。1949年にSugarら1)が命名して以来,色素性緑内障に関する報告はSugarの自験例19例を含めた147例の総説2),自験例104例の臨床所見をまとめたScheie and Cameronの論文3)など欧米には多数あるが,わが国では数例4-8)にすぎない。今回,同胞2人が開放隅角緑内障を有する家系の一員に,色素性緑内障と考えられる症例を経験したので報告する。
 症例:32歳男性。

人工水晶体挿入眼術後乱視の経過—挿入人工水晶体の位置異常の影響

著者: 中泉裕子 ,   増山益枝 ,   柱茂弘 ,   坂本保夫

ページ範囲:P.694 - P.695

 緒言 人工水晶体挿入術は白内障手術としてほぼ定着化したが,よりよい術後経過を求めるために種々の術後評価が続けられている。術後角膜乱視の経過,術後乱視と挿入人工水晶体の位置異常の関係などについてもいくつかの検討がある1,2)。著者らの施設で手術が行われた症例を対象に術後角膜乱視の経過をみるとともに,挿入レンズの傾き,偏心と術後乱視との関連性についても検討したので以下に報告する。
 症例および方法 対象は金沢医科大学病院において老人性白内障の診断のもとに計画的嚢外摘出術,後房レンズ挿入が行われ,1年以上の経過観察が可能であった56症例,58眼で,患者の年齢は43歳から90歳(平均71歳)である。手術時の切開創は,約160°の強角膜四面切開で,縫合は10-0ナイロン糸により7〜8糸結束縫合であった。挿入レンズの大部分は,CILCO社製ですべて後房レンズである。術者は限定された者ではない。術後3か月以降を経過した症例の中には縫合糸の除去が行われたものが含まれている。

先天緑内障を合併した中心核病floppy infantの1例

著者: 中山智彦 ,   種田芳朗 ,   石川美和子 ,   市瀬洋子 ,   島貫郁 ,   今井純好

ページ範囲:P.696 - P.697

 緒言 Floppy infantとは筋緊張低下乳児とも言われ,1959年Greenfild JN1)によって提唱された症候群である。自発運動に乏しく特異な体位をとり,関節の可動域に異常な拡大を有し,受動運動に対する関節抵抗の減弱を認める乳児を示す。
 その原因疾患は表1に示すように,神経筋疾患のみならず,代謝異常,外傷,感染症など多岐にわたっている。この際に筋力低下ないし弛緩性麻痺を伴う場合を,狭義のfloppy infant (麻痺群)と称し,伴わない場合を広義のfloppy infant (非麻痺群)と称する。

糖尿病患者に併発する緑内障の臨床的研究(第1報)

著者: 加藤直子 ,   小紫裕介 ,   三浦昌生 ,   新城光宏 ,   中川成則 ,   岩城正佳 ,   近藤武久

ページ範囲:P.698 - P.699

 緒言 糖尿病の眼合併症のひとつに緑内障がある1-3)が,まだ不明な点が多い。糖尿病患者における緑内障について臨床的に検討した。
 方法 1989年1月から1989年8月の8か月間に,当院眼科を受診した糖尿病患者689例1,378眼を対象とした。年齢,糖尿病罹病期間,糖尿病コントロール状態(空腹時血糖,HbA1),内科的治療法および糖尿病性網膜症と緑内障について検討した。緑内障の分類は,高眼圧症(OHT),原発開放隅角緑内障(POAG)と閉塞隅角緑内障(CAG),血管新生緑内障(NG)とした。糖尿病性網膜症の分類は福田分類に従った(表1)。

レーザー虹彩切開術後の前房内蛋白濃度と細胞数について

著者: 鳥井秀雄 ,   坂梨ミチ

ページ範囲:P.700 - P.701

 緒言 閉塞隅角緑内障に対する治療において,レーザー虹彩切開術は従来の周辺虹彩切除術に代わる術式として普及してきている。しかし,臨床的にレーザー虹彩切開術後の眼内炎症の変化に関して不明な点が多い。今回,私共はレーザーフレアーセルメーター(興和:FC1000)を使用し,アルゴンレーザーとダイレーザー(590nm)による虹彩切開術後の前房内蛋白濃度および細胞数の経時的変化を定量し,比較検討した。
 対象と方法 アルゴンレーザー群は,男性2例2眼,女性12例15眼,年齢は51歳〜84歳(70±10歳)で,ダイレーザー群は,男性1例1眼,女性5例5眼,年齢は51歳〜84歳(69±13歳)で,それぞれ急性原発閉塞隅角緑内障,慢性原発閉塞隅角緑内障,急性発作発生眼の僚眼,散瞳試験前後で眼圧が8mmHg以上の差を示した狭隅角眼を対象とした(表1)。レーザー装置は,OPHTHALAS®アルゴンレーザー(Biophysic Medical社製)とMDS10ダイレーザー(MEDITEC社製)で,ダイレーザーは590nmの波長を使用した。前房内蛋白濃度および細胞数の測定には,レーザーフレアーセルメーター(興和:FC1000)を使用した。方法は,レーザー虹彩切開術前にレーザーフレアーセルメーター測定後,術前処置として4%サンピロを術眼に10分毎6回点眼し,アルゴンおよびダイレーザー虹彩切開術を施行した。

Argon Laser Trabeculoplastyの長期成績について

著者: 坂井美惠 ,   矢吹和子 ,   鈴村弘隆 ,   辛英世 ,   松尾治亘

ページ範囲:P.702 - P.703

 目的 Argon Laser TrabeculoPlasty (ALT)後の経過観察結果にもとづき,術後眼圧,ALTの眼圧における有効確率,術前・術後の薬物療法などから,その有効性について検討した。
 対象 1982年から1989年に当院眼科において,薬物療法で眼圧調整が不充分と判定されALTを施行した各種緑内障のうち,経過観察のできた原発開放隅角緑内障(POAG)33例47眼,年齢30〜82歳,水晶体偽落屑性緑内障(PEG)9例11眼,年齢55〜76歳,計42例58眼を対象とした。術前に濾過手術を施行してあるものは除外した。術後経過観察期間はPOAG1.5〜93か月(平均28.7±19.9か月),PEG3.5〜46.5か月(平均18.2±16.1か月)であった。

緑内障に対するメコバラミンの効果—5年以上遠隔成績

著者: 酒井忠 ,   村田稔 ,   雨宮次生

ページ範囲:P.704 - P.705

 緒言 メコバラミン(メチコバール®)が緑内障の視野障害に対して有効であるとの報告は多いが,いずれも1〜2年間の短期間のもので,長期間の報告は見られない。我々は5年以上メコバラミンを投与した慢性緑内障眼を対照眼およびメコバラミンの投与が5年未満の慢性緑内障眼と比較検討し,メコバラミン投与群で視野変化に対して良い結果を得たので報告する。
 症例 症例は慢性緑内障患者で5年以上視野の経過を追えた国立嬉野病院眼科の109眼と長崎大学眼科の23眼計132眼で,中途失明眼,低眼圧緑内障眼は除いた。

トラベクレクトミー術中のマイトマイシンC塗布の効果

著者: 津田佳助 ,   小川月彦 ,   本多繁昭

ページ範囲:P.706 - P.707

 緒言 トラベクレクトミー術後の眼圧再上昇は,手術部位での瘢痕形成による房水流出の障害によることが多いとされている1)。この瘢痕形成の原因となる線維芽細胞の増殖を抑制するための,5-Fluorouracil(以下5-FU)の結膜下注射の有効性が報告されている2)。今回我々は同じ目的で,トラベクレクトミー術中にマイトマイシンC(以下MMC)を創部に塗布することを試み,その効果を対照群と比較検討したので報告する。
 症例及び方法 症例は当科で初回または2回言のトラベクレクトミーを施行された原発開放隅角緑内障患者で,MMC群16例21眼と,MMC塗布の行われなかった対照群6例9眼である。トラベクレクトミーはWatsonの原法3)にほぼ準じた。4×4mmの強膜半層弁を作成後,1×3mmの線維柱帯切除を行い,周辺虹彩切除を施行した。次にMMC群では,0.04%MMCを染み込ませたMQAにて強膜弁にMMCを充分に塗布した。強膜弁を8-0virgin silkで2糸縫合後,結膜弁も同糸で端々縫合した。MMC液は,マイトマイシン協和S®(協和発酵,東京)1バイアルに含まれる2mgのMMCに滅菌パリッチェ緩衝液5mlを加えて溶解し,0.04%MMC液を作製した。成績は眼圧21mmHg以下を有効として解析した。

網膜剥離術後の中心視野回復過程—視力回復不良例の検討

著者: 小泉閑 ,   坂口仁志 ,   佐藤文平

ページ範囲:P.708 - P.709

 緒言 網膜剥離術後の各種視機能の回復については今までにもいろいろ報告されている1-3)。我々はハンフリー自動視野計を用いて後極部剥離眼の術後中心視野の回復過程を検討してきたが4),今回,12か月まで経過観察できた症例について結果を報告する。そのうち,中心視野の回復に比べ視力の回復が悪い症例を認めたので考察した。
 対象および方法 対象は後極部血管アーケード内に剥離が及んでいる裂孔原性網膜剥離患者のうち初回の経強膜的手術で復位の得られた症例21人21眼で,年齢は17〜65(平均41±17)歳性別は男性14例,女性7例であった。中心視野はハンフリー自動視野計の中心24-2プログラム(全域値検査)を用い,術後2週,1か月,2か月.3か月,6か月.9か月,12か月目に測定し,視野計内蔵の統計解析パッケージSTATPACで解析した。視野の回復はmean devia—tion (MD)値(db)を用い,視力の回復と比較検討した。

Trabeculotomyの成績

著者: 小紫裕介 ,   加藤直子 ,   三浦昌生 ,   岩城正佳

ページ範囲:P.710 - P.711

 緒言 開放隅角緑内障に対する治療としてtrabe-culotomyの有効性が言われて久しいが,多数例に対する成績の報告はいまだ一部施設よりのものに限られている。今回,我々は比較的短期間に多数の症例に対しtrabeculotomyを施行する機会を得たのでその結果を報告する。
 対象・方法 対象は1988年5月までの1年間に神戸中央市民病院眼科において著者らが行ったtrabecu-lotomyのうち白内障手術を同時に行ったものを除く77例126眼(うちiridectomyを併用したもの12例17眼)で,男性43例67眼,女性34例59眼,年齢は3−84歳(平均62.2歳)である。病型別にみると,原発性開放隅角緑内障(以下POAGとす)45例81眼,水晶体嚢性緑内障(以下PE緑内障とす)19例26眼,慢性閉塞隅角緑内障(以下CACGとす)7例9眼,続発性緑内障2例2眼,先天・発達緑内障4例8眼であった。術式は永田らの方法に準じて行った。

硝子体嚢腫の1症例

著者: 山田耕士 ,   平坂知彦 ,   山田里陽 ,   山本節

ページ範囲:P.712 - P.713

 緒言 硝子体嚢腫は稀な疾患とされているが大きさや位置によって自覚症状もさまざまであり,過去の報告以上に看過されがちである。また成因については以前より論議されているが,近年組織学的検討がなされ毛様体上皮細胞由来説が有力視されている。今回我々は初診時には検眼鏡的に認められなかった嚢腫壁上の色素様付着物が,再診時嚢腫が眼内を浮遊するに至ってからは,明らかに認められるようになった硝子体嚢腫の1症例を経験した。症例を報告するとともに成因について若干の考察を加える。
 症例 65歳,男性。初診:1988年11月29日。主訴:右視力障害。既往歴・家族歴:特記すべきことなし。現病歴:約4年程前より右眼の軽度な視力障害を自覚していたが放置していた。約1か月前より右眼前に丸い物を自覚するようになり近医を受診した。近医にて右硝子体嚢腫の指摘を受け精査言的にて当科受診となった。現症:ツ反応強陽性以外全身的諸検査にて特に異常は認められなかった。

ぶどう膜炎に対する硝子体手術成績

著者: 内海通 ,   関文治 ,   井上博 ,   藤田浩司 ,   土方聡 ,   竹内大 ,   藤野聡 ,   臼井正彦

ページ範囲:P.714 - P.715

 緒言 近年硝子体手術は,種々の網膜硝子体疾患においてその治療成績を向上させてきた。最近では,従来あまり手がつけられなかったぶどう膜炎においても,視機能の改善や病因診断のために積極的に硝子体手術が施行されるようになった。
 今回,我々は東京医大病院において過去3年間にぶどう膜炎と診断され,治療及び病因診断のために硝子体手術が施行された症例を集計し,手術適応や治療成績などについて検討を加えたので報告する。

Vitrectomy後に虹彩ルベオーシスをきたしたサルコイド性ぶどう膜炎の1例

著者: 山本美保 ,   栗本康夫 ,   砂川光子

ページ範囲:P.716 - P.717

 目的 最近,サルコイドージスの病変の一形態として,microangiopathyが注目されている。われわれは,乳頭上新生血管に伴う硝子体出血をきたしたサルコイド性ぶどう膜炎にvitrectomyを施行し,術後虹彩ルベオーシスをきたし,前房出血をくりかえしている症例を経験したので,報告する。
 症例:72歳,女。

テルソン症候群の硝子体手術に関する検討

著者: 黒川真理 ,   田中稔 ,   稲垣有司 ,   太田俊彦 ,   中川正昭 ,   小林康彦

ページ範囲:P.718 - P.719

 緒言 くも膜下出血に硝子体出血を伴う例は1900年にTerson1)がoculocerebral syndromeとして報告以来,Terson症候群と呼ばれている。本症は比較的稀な疾患であるが,近年脳外科的治療等の発達により,眼科領域でも硝子体手術の適応や有用性についての報告が増加してきている。
 今回,我々は4例のTerson症候群を経験し,そのうち5眼に硝子体切除術を施行し,本症の黄斑部に興味ある所見を得たので,その結果等を報告する。

精神障害者の網膜剥離手術

著者: 篠原千恵美 ,   石丸裕晃 ,   谷英紀 ,   岩瀬智子 ,   三村康男

ページ範囲:P.720 - P.721

 緒言 精神障害者の網膜剥離は発見が遅れることが多い。また術後の安静が得にくく,予後不良とみなされやすいこともあり,その治療については,これまでにあまり報告されていない。しかし,視力低下が患者の日常生活へ及ぼす影響は大きく,このような患者に対しても積極的に治療する必要があると思われる。我々はこの1年間に4症例を経験し,手術する機会を得たので,若干の考察を加え報告する。
 症例 術前に眼底検査が困難であった症例には,手術時に全身麻酔下にて眼底精査を行ってから,表1に示す術式にて手術を施行した。

硝子体術中における眼内容積の計測

著者: 古川真理子 ,   半田嘉久 ,   藤本可芳子 ,   堀部勉 ,   田村純子 ,   小林誉典 ,   上野聡樹

ページ範囲:P.722 - P.723

 緒言 硝子体手術に気体タンポナーデを併用した場合,シリコンオイルとは異なり除去手術が不必要であるという利点がある反面,自然吸収する性格上,網膜の復位の有無にもかかわらず,タンポナーデ効果が一定期間で消失してしまうという無視できない欠点が存在する。一般的に考えて,眼内に入り得る気体量はその存在期間,換言すればタンポナーデ効果時間に関係する重要な因子と考えられる。にもかかわらず,これまで眼内容積については,死体眼での直接計測が行われたり,生体眼に関してはCTや超音波等の画像診断システムを駆使して求められた測定値1,2)が示されてはいるが,それがそのまま本術式において形成されたスペースの大きさや,気体を注入し得る容積を示すわけではない。しかも,われわれが臨床上経験するところでは,その容積は眼軸長や水晶体の有無,手術手技などの緒因子によりかなりの個体差が生じるようにも思える。今回われわれは硝子体手術における液一気体置換の際に,眼内灌流液および網膜下液を採取し,その液量を計測することで,生体眼における眼内気体注入可能容積についての検討を行った。

連載 眼科図譜・286

網膜静脈分枝閉塞症を呈したベーチェット病の1例

著者: 中目義則 ,   塩野貴 ,   堀内敏男

ページ範囲:P.580 - P.581

 緒言:ベーチェット病の眼症状として従来,反復性虹彩毛様体炎やぶどう膜炎が特徴とされてきた1)が,近年,網膜血管閉塞病変についてもその重要性が示唆されている1-4)。我々は初診時に網膜静脈分枝閉塞を認めたベーチェット病の1例を経験したので報告する。
 症例:26歳,男性。

眼の組織・病理アトラス・43

ベーチェット病

著者: 猪俣孟

ページ範囲:P.584 - P.585

 ベーチェット病Behçet's diseaseは,口腔粘膜の再発性アフタ性潰瘍,皮膚症状,眼症状,外陰部潰瘍を4主症状として,全身の諸臓器をおかす原因不明の疾患である。ベーチェット病の眼病変の特徴は眼内各組織の閉塞性血管炎を主体とした眼組織全体の炎症である。病変は網膜,視神経,ぶどう膜,強膜などにはじまる。
 臨床的には,結膜の充血,上強膜炎,前房混濁,硝子体混濁,網膜の浮腫,出血,滲出斑など(図1)がみられる。螢光眼底検査では,広範囲にわたって網膜血管とくに毛細血管からの螢光色素の漏出が著明である(図2)。症状は一過性であるが,炎症は再燃しやすい。再燃を重ねるにしたがって,種々の器質的障害が残るようになり,ついには視機能が失明または失明に近い状態にまで低下する。失明は主としてびまん性網脈絡膜萎縮や視神経萎縮,または牽引性網膜剥離を伴った眼球癆による。

今月の話題

眼とアスピリン

著者: 平光忠久

ページ範囲:P.587 - P.593

 最近開発された静注用アスピリンの全身および局所投与が種々の外眼部炎症に対して著効性を示すことを見出した著者らの研究を中心に,最近,種々の眼疾患に対するアスピリンの役割が関心を持たれていることを紹介した。

眼科薬物療法のポイント—私の処方・17

アカントアメーバ角膜炎の初期例

著者: 石橋康久

ページ範囲:P.687 - P.689

患者は19歳の女性。近視のため3年前よりコンタクトレンズ(以下CLと略)を装用していた。最近になりCLをはずしたあと異物感があり,充血も見られたため近医を受診した。最初の眼科では抗生剤の点眼を処方されたが良くならず,次の眼科では角膜ヘルペスと言われ,抗ウイルス剤,ステロイド剤などの治療を受けたが,やはり改善しなかった。次の病院でアカントアメーバ角膜炎を疑われ,紹介されて筑波大学眼科を受診した。主訴:左眼視力低下,充血,異物感

眼科手術のテクニック—私はこうしている・17

リカバリーフラップからのトラベクロトミー

著者: 荻野誠周

ページ範囲:P.690 - P.691

Early perforation
 トラベクロトミーを成功させるために重要なポイントは,シュレム管を発見するに容易な強膜弁をつくること,トラベクロトームをシュレム管に確実に挿入すること,トラベクロトームをメッシュワーク側に回転すること,の3つである。
 簡単そうで意外に難しいのはトラベクロトームを間違いなくシュレム管へ挿入する手技である。ゆっくりと静かに,丁寧に挿入しないとトラベクロトームの先端は容易に前房に穿孔する。この早期穿孔early perforationは手術を無効にする,というより未施行の状態にしてしまう。

臨床報告

網膜動脈瘤の螢光眼底造影像の推移

著者: 横井則彦 ,   福井潤子 ,   山本敏雄 ,   貝塚由利子 ,   恵美仁

ページ範囲:P.725 - P.730

 保存的に経過観察した6症例6眼の網膜動脈瘤の螢光眼底造影所見を検討した。
 螢光眼底造影像の推移には3型があった。1)動脈相で螢光色素が動脈瘤内に貯留後,動静脈相以後動脈瘤壁から螢光色素が旺盛に漏出する型,2)動脈相では動脈瘤像が得られず,初期静脈相から造影後期に動脈瘤壁の染色あるいは軽度の漏出によって動脈瘤像の得られる型,3)造影後期でも動脈瘤は造影されず,動脈瘤存在部の動脈内腔の狭窄不整の所見から間接的に動脈瘤の存在がわかる型である。以上の各型は,動脈瘤が器質化して行く過程で,1,2,3の順を追う可能性があると考えた。

複視にて発症した頸動脈海綿静脈洞瘻(特発性CCF)の1例

著者: 橋本ゆう子 ,   橋本隆裕 ,   間中信也

ページ範囲:P.731 - P.734

 74歳男性が複視を主訴に来院した。他覚的には軽度の右外転神経麻痺以外の異常所見はなかった。その後,症状は安定していたが,約半年後に結膜充血,眼圧上昇,眼痛の症状が突発し,脳血管写にて特発性頸動脈海綿静脈洞瘻(特発性CCF)と診断した。Matas手技により症状および脳血管写所見は改善し,以後半年間症状の増悪はない。特発性CCFは中年女性に好発するが,本症例は高齢男性であり非特異的である。また,一側外転神経麻痺が持続し,約半年後に典型的症状をきたした点も,極めて経過が長く,症状発現機序を考える上でも興味深かった。Matas手技により症状および脳血管写所見の改善が認められ,かかる症例においては試みられるべき治療法であると考える。

一過性霧視発作をきたした巨大乳頭の1例

著者: 前田英美 ,   小川亮子 ,   小林誉典 ,   宇山昌延 ,   志水久子

ページ範囲:P.735 - P.737

 24歳の女性で全身運動時に片眼の一過性霧視発作を頻発する症例に巨大乳頭を認めた。
 初診時の視力は良好であった。視野は患眼のマリオット盲点の拡大がみられた。
 患眼の眼底には乳頭の著しい拡大と乳頭周囲の白色輪状組織および網膜静脈の著しい拡張・蛇行がみられた。他眼には異常をみなかった。螢光眼底造影により,乳頭周囲の白色輪状組織は造影早期は低螢光,晩期には過螢光を示した。また,網膜静脈の還流が遅れ,うっ滞を示す所見がみられた。
 本症例は,乳頭からその周囲に,組織の過剰増殖により,網膜動静脈に相対的に絞扼が起こり,網膜動静脈の循環不全状態になっていて,全身運動による上半身への血流低下のために血行不全が発生し,—過性霧視発作を起こしたものと思われた。

一眼発症3年後他眼にも発症しアシクロビルの点滴静注が有効であった網膜血管炎の1例

著者: 成田和子 ,   佐藤章子

ページ範囲:P.739 - P.743

 38歳,男性の慢性腎不全血液透析症例にみられた両眼の閉塞性網膜血管炎について報告した。左眼は,半側網膜中心静脈閉塞症を発症後,短期間に同側の眼動脈の閉塞,ついで眼内炎を併発して失明した。右眼は,左眼発症に遅れて約3年後,網膜中心静脈分枝の広範な白鞘化を呈する樹氷状血管炎の発症をみたが,アシクロビル点滴静注が著効し,右眼眼病変の病因として単純ヘルペスあるいは水痘・帯状ヘルペスウイルスの関与が示唆された。左眼発症時の眼底写真を再検討した結果,左眼にも右眼同様網膜静脈分枝の一部に白鞘化を認めた。左右の眼底所見に若干の差はみられるものの,両眼同一の原因により発症したことを疑わせた。

眼所見を示した亜急性硬化性全脳炎の症例

著者: 岡見豊一 ,   岸本伸子 ,   上原雅美 ,   松尾裕行 ,   粕淵康郎

ページ範囲:P.747 - P.751

 亜急性硬化性全脳炎(subacute scler-osig panencephalitis)は変異型麻疹ウイルスによる遅延性ウイルス感染症と考えられている。我々は10歳女児に視力低下で発症した本症の1例を経験した。初診時の視力は右0.03(矯正不能),左1.5(矯正不能)で,眼底には右眼の黄斑部に網膜浮腫,網膜出血がみられ,赤道部から周辺部には黄白色の滲出斑が多数散在していた。螢光眼底造影ではこれに一致して網膜の滲出を示す過螢光がみられた。これらは約4か月で瘢痕化し,色素沈着を伴う網脈絡膜萎縮となった。全身のミオクロニー発作,脳波上のperiodic synchronousdischargeと同期した異常眼球運動がみられた。

仮性同色表の自動提示装置に関する研究—3.リング式視標を用いる試み

著者: 深見嘉一郎

ページ範囲:P.753 - P.755

 色覚検査に際して,仮性同色表を提示する場合に守るべき条件を満足させるための自動提示装置を試作した。過去に試作した2種類は大きく,重く,高価であった。今回は1個のみのリングの視標を回転させて用いて,小さくし,検者の手間を省き,検者の意志の介入しない装置を試作した。
 試作品は小さく仕上がり,かつ使用してみて検者の意志は介入しなかったが,手間を省くことはできなかった。その理由は,検査の方法と反応の仕方の説明に時間が掛かり過ぎるためであった。
 図形はリングでなく,数字の方が被験者に理解させやすい。反応は検者が被験者の側にいて,答えを入力する方が正確で,時間も短かった。

未熟児網膜症管理の変遷

著者: 大竹弘子 ,   菅沢英彦 ,   泉谷昌利 ,   田中淑子 ,   田中康裕

ページ範囲:P.757 - P.761

 1.和歌山赤十字病院において出生体重2,500g末満の生存未熟児について1976年1月から1978年12月までの142例(第1群)と1986年3月から1988年9月までの212例(第2群)を対象として,未熟児網膜症の発症と進行について比較検討した。
 2.極小末熟児の増加に伴い未熟児網膜症の発症頻度の増加傾向を認めたが,3度以上の重症例において,出生体重1,500g未満の症例では発症頻度の減少傾向を認めた。また在胎週数の短縮にもかかわらず重症に進行しなかった症例が認められたことは,未熟児管理の進歩によると思われる。
 3,網膜の未熟性,全身状態の悪条件がROP発症の重要な因子であることを再認識した。

超音波水晶体乳化吸引術と計画的水晶体嚢外摘出術での術後炎症の差

著者: 吉村浩一 ,   本坊正人 ,   宮田典男 ,   大鹿哲郎

ページ範囲:P.763 - P.767

 後房眼内レンズを挿入したケルマン超音波水晶体乳化吸引術(KPE)55眼と計画的水晶体嚢外摘出術(PECCE)33眼の術後炎症の差を検討した。両群で水晶体核の硬さや年齢などの背景因子は同一とした。術後1週間まで測定を行ったフレアー強度,細胞数は共にKPEにおいて低く,フレアー強度は術後1,2日目で(p<0.01),細胞数は1,2,3日目で(p<0.01),両術式間に有意の差を認めた。この原因は,両術式の眼侵襲の差を反映したものと思われ,closed eye surgeryとしてKPEの有用性を示すと考えられた。術中灌流液量およびKPEにおける超音波発振時間と術後炎症の程度についても検討を行った。灌流液量が100ml以下の群でその差は有意ではなかった。超音波時間が60秒をこえるものでは強い術後炎症が観察され,超音波時間60秒以下の群との間に,術後1,2,3日目(p<0.01)で有意差を認めた。

Group discussion

画像診断

著者: 菅田安男

ページ範囲:P.769 - P.770

 映像情報などをディジタル化して画像処理を行い診断情報を可視化することが盛んになった。すべての演題を通じて機種,測定方式,診断の規準化が共通の問題であり,当グループに課せられた重要課題である。
 1.Topographic Modeling System (国立大阪病院,前田直之ら)は新しく開発された角膜形状測定解析装置である。出常角膜は周辺にゆくに従い扁平化し,鼻側の扁平化が著しいことがわかつた。病的状態の観察,記録にもきわめて有用である。

眼窩

著者: 井上洋一

ページ範囲:P.770 - P.772

 グループ・ディスカッション(G.D.)として,「眼窩」はまだ歴史が浅い。今回でようやく第2回を数えたばかりである。そこで,これを立体的に構成する意味で,教育的色彩の濃い基礎講座を第1回のG.D.から企画した。実際,第1回目の基礎講座はおおむね好評で,その趣旨について充分な理解をいただくことができた。さらに,継続することの希望が多かったため,今回もG.D.の冒頭に2題の講座を組み込んだ。
 第1講座は浜松の中村先生に,得意の眼窩手術の概要を語っていただいた。概要といっても,先生の豊富な経験を基盤にした講演は明快で,分かりやすかった。すなわち,前もって行っておく器械の準備から,その重要性を強調された創のデザイン,メスの入れかた,術野の確保と,実際,自らが手術をしている場にあるようで,興味は尽きなかった。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up
あなたは医療従事者ですか?