icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科44巻6号

1990年06月発行

雑誌目次

特集 第43回日本臨床眼科学会講演集(4)1989年10月 名古屋 学会原著

ガンシクロビルが奏効したサイトメガロウイルス性網膜炎の3例

著者: 矢野真知子 ,   平野明夫 ,   石田剛 ,   安宅和代 ,   望月學

ページ範囲:P.789 - P.792

 悪性リンパ腫に対する化学療法中にサイトメガロウイルス(CMV)性網膜炎が併発した3症例に新しい抗ウイルス剤であるガンシクロビル(5mg/kg,1日2回点滴静注)を投与した。症例1は59歳男性で両眼にCMV網膜炎を発症したがガンシクロビル療法により,軽症の右眼の網膜炎は改善し視力も向上した。重症の左眼では,網膜剥離となり視力改善はみられなかった。投与終了6週後に死亡したが,剖検では両眼の網膜にCMV封入体がみられた。症例2は56歳男性で左眼にみられたCMV網膜炎はガンシクロビルにより改善した。症例3は40歳女性で右眼にCMV網膜炎を発症し,ガンシクロビルにより網膜炎の改善をみたが,投与終了17日で再発し全身状態不良のため再投与を完了できず網膜炎は悪化した。3例ともに副作用として白血球減少があり,2例に血小板減少があった。ガンシクロビルは初期で有用であったが再発副作用の点でさらに検討を要すると考えられた。

血管新生緑内障に対する4直筋切腱・再縫合術の検討

著者: 細木敬三 ,   上野脩幸 ,   高橋徹 ,   安岡一夫 ,   楠目佳代 ,   玉井嗣彦 ,   松本結香 ,   森澤あおい

ページ範囲:P.793 - P.798

 眼圧上昇が著しく,眼球摘出を考慮せざるを得ない眼圧コントロール不良で視機能の悪い(手動弁〜0)血管新生緑内障12例12眼に対して,4直筋切腱と付着部の毛様体冷凍凝固時に7本の前毛様動脈の遮断と再疎通の防止が期待できる4直筋切腱・再縫合術を試み,その効果を3〜32か月(平均10.9か月)にわたり検討した。71〜30mmHg[平均47.4±10.7 mmHg (S.D.)]の術前眼圧は,44〜0mmHg (平均9.3±12.7 mmHg)と術後有意の低下を示した(P<0.001)。虹彩ルベオーシスは,術後は12眼中11眼の91.7%になんらかの消退をみた。眼痛,頭痛などの自覚症状の改善は,全例に認められた。
 これにより本法は,視機能の改善の余地のある血管新生緑内障に対する治療としては今後慎重に選択されるべきものと思惟されるが,この種の難治性のものに対しては,所期の目的が達せられ,有効な手術方法と判定された。

老人性円板状黄斑変性症—網膜下血腫型の臨床的特徴

著者: 福島伊知郎 ,   高橋寛二 ,   大熊紘 ,   宇山昌延

ページ範囲:P.799 - P.805

 最近5年間に,当科を受診した老人性円板状黄斑変性症379眼のうち,3か月以上経過観察できた網膜下血腫を主所見とする症例(網膜下血腫型)が47例50眼あった。自覚症状には,前駆症状がなく突然高度の視力低下で発症した症例が74%,前駆症状がみられた症例が26%あった。初診時の眼底所見は,網膜下血腫が血管アーケードを越える大出血例が40%あった。螢光眼底造影で網膜下新生血管網が確認されたのは53%で,3か月以内に83%の症例で新生血管網が同定可能となった。初回出血の後,1ないし3か月以内に再出血ないしは出血の拡大をみた症例が20%あった。また,硝子体出血を来した症例が30%あった。
 網膜下血腫の吸収には,多くの症例で3〜6か月かかった。症例の63%は,黄斑部の網膜色素上皮に変性萎縮を残して治癒したが,線維性瘢痕を残した症例が35%あった。しかし,本症の典型的病巣である滲出病巣(網膜下結合織増殖型)に移行したのは1眼(2%)のみで,極く少数であった。
 治療として薬物療法,光凝固,硝子体手術が行われ,最終的に60%に視力改善をみた。
 以上から,網膜下血腫型は老人性円板状黄斑変性症のなかで,急性の経過を示し,比較的子後良好な特殊な一病型であることが示された。

老人性円板状黄斑変性症—網膜下嚢胞型の臨床経過

著者: 西村哲哉 ,   白紙靖之 ,   笹木右子 ,   高橋寛二 ,   大熊紘 ,   宇山昌延

ページ範囲:P.806 - P.810

 最近5年間に当科を受診した老人性円板状黄斑変性症256例309眼のうち,後極部の大きい胞状の網膜色素上皮剥離を主病像とする網膜下嚢胞型に分類された33例36眼(12%)について,その臨床的特徴を検討した。胞状の色素上皮剥離は黄斑部を含んで2〜3乳頭径大の大きいものが多く,その周囲に漿液性網膜剥離や硬性白斑,網膜下出血を伴っていた。色素上皮剥離内の脈絡膜新生血管は螢光造影によって確認することは困難であったが,その周囲に存在した新生血管に対して光凝固を行った。光凝固を行った18眼のうち,術後視力あるいは眼底所見の改善がみられたものは3眼16%にとどまり,視力の悪化したものの中には色素上皮裂孔を生じた2眼が含まれていた。光凝固を行わなかった症例では,約半数の症例で漿液性網膜剥離,硬性白斑,網膜下出血などが増強し,視力は徐々に低下した。老人性円板状黄斑変性症のうち,胞状の色素上皮剥離を主徴とする病型は,予後が不良で,光凝固の適応はほとんどないと思われた。

原発開放隅角緑内障におけるトラベクロトミー術後長期の視機能について

著者: 樋口香 ,   宇治幸隆 ,   服部靖 ,   今谷啓之

ページ範囲:P.811 - P.815

 トラベクロトミー術後,1年以上経過を観察できた症例のうち,術後眼圧コントロール良好であった原発開放隅角緑内障65眼について視野異常の進行につき検討した。非手術施行群45眼と比較して,視野異常の進行度はかわらなかった。視野異常進行に係わる因子として,性別,年齢,全身合併症の有無,経過年数,治療開始時の視野,眼圧などを検討した。多変量解析による分析で,トラベクロトミー施行群では,術前の視野と手術時年齢が,視野異常の進行と関連があった。非手術施行群と比べると,経過年数と全身合併症が少なかった。トラベクロトミーにより,視野異常の進行を防ぐことはできないまでも,長期間観察すると,薬物療法による治療と比較して,視機能の保持に安定した効果を期待できると考えられる。

緑内障手術眼の前房循環動態—前眼部フルオロフォトメトリーによる解析 その2

著者: 三浦昌生 ,   小紫裕介 ,   新城光宏 ,   岩城正佳 ,   近藤武久

ページ範囲:P.817 - P.819

 原発性開放隅角緑内障患者6名11眼にトラベクロトミーを行い,その術前術後にフルオロフォトメトリーによるフルオレセインの前房からの消失率(Ko)と房水流量(f)の測定を行った。その結果,術前はKo=3.46±1.44(×10−3/min.mean±SD),f=0.74±0.35(μl/min.mean±SD),手術直後はKo=7.18±1.84, f=1.55±0.39,手術1年後はKo=7.73±2.65,f=1.67±0.38であった。また,1眼について,手術前後にフルオロフォトメトリーの他にトノグラフィーと上強膜静脈圧の測定を行い,conventional outflow (fc)とuveoscleral outflow (fu)の計測を行った。術前の結果はf=0.70,fc=0.66, fu=0.04,術後はf=1.59,fc=1.50, fu=0.09とconventional outflowの著明な増加を認めた。

塩酸ブナゾシン(選択的α1遮断剤)点眼のヒト眼圧に対する効果

著者: 杉山哲也 ,   中島正之 ,   松田公夫 ,   徳岡覚 ,   西川潤子 ,   東郁郎

ページ範囲:P.821 - P.824

 新しいα1遮断剤である塩酸ブナゾシン点眼液が,健常者や高眼圧症患者の眼圧などに及ぼす影響を検討した。健常者では0.025〜0.2%液の1回点眼により,処置眼で初期値または対照眼に対して有意な眼圧下降を示し,最大の下降は5〜7時間後に認めた。0.1%液が最人の下降作用(初期値に比べ−3.8±0.9mmHg)を示した。0.1%液でやや縮瞳傾向を認めたが,0.05%以下の液では縮瞳傾向を認めなかった。前房深度,近点距離,血圧,脈拍数には有意な変化がなかった。0.2%液では刺激感や眼重感を生じたが,0.1%以下の液では軽度の結膜充血以外,副作用を生じなかった。0.1%液の1週間連続点眼(1日2回)の忍容性は良好で,7日目にも点眼による有意な眼圧下降を認めた。高眼圧症患者では低濃度液(0.005%,0.01%)にて有意な眼圧下降を認め,結膜充血は軽減された。以上の結果から,塩酸ブナゾシン点眼液の緑内障への臨床応用が期待される。

内皮網に影響を与える薬剤の研究—4.Elastase

著者: 保谷卓男 ,   裏川佳夫 ,   宮崎守人 ,   石原淳 ,   瀬川雄三

ページ範囲:P.825 - P.829

 53,64,71,77歳の正常屍体摘出眼4例4眼より得た線維柱組織を(1)対照群,(2) Elas-tase投与群に分け,64,71,77歳は24時間,53歳は7日間器官培養した。Elastase投与群に対しては,77歳には1×10−1mg/ml,64歳には1×10−2および1×10−3mg/ml,71歳には1×10−4mg/ml,53歳には1×10−6mg/mlのelastaseを培養開始と同時に液体培地に加えた。
 各培養組織片の透過電顕試料を作製し,内皮網の形態学的観察を行った。また,一部の試料において,内皮網における構成要素,細胞成分,細胞外要素,空白部分の面積百分率を画像解析装置を用いて計測比較した。
 その結果,培養人線維柱組織にelastaseを投与することにより,細胞外要素を減少させることができた。
 また,慢性緑内障患者27例にelastaseを経口投与し,投与前,および投与12か月後のtonography C値の変化を検討したところ,統計学的に緑内障患者全体では,C値の有意の改善は認められなかったが,原発性開放隅角緑内障では有意のC値の改善が認められた(P<0.01)。
 Elastaseは人線維柱組織特に内皮網の細胞外要素を減少させ,房水流出率を改善させる可能性が示唆された。

閉塞隅角緑内障に対する虹彩切除術後のsecondary plateau iris syndromeについて

著者: 千原悦夫 ,   岡田守生 ,   吉村長久 ,   沖波聡

ページ範囲:P.831 - P.834

 虹彩切除後の閉塞隅角緑内障105眼(急性21,慢性84眼)に対して,散瞳剤点眼による散瞳試験を行い,一過性の眼圧変動について調べた。
 一過性に12mmHg以上上昇したものは15眼(14%)に見られた。前房内への色素細胞の遊出は一過性の眼圧上昇と有意に相関する(p<0.05)が,線維柱帯の房水通過障害とは関係がない。開放隅角のままで眼圧上昇発作を起こすものは,線維柱帯が周辺前癒着PASや色素沈着で機能不全を起こしている状態の上に軽度の前房内細胞遊出や狭隅角が加わっておこるものと考えられた。散瞳によって隅角が閉塞し,眼圧が上昇したものは2眼に見られ,pupillary blockの後に出現したsecon-dary plateau iris syndromeと考えられた。

片眼性水晶体嚢性緑内障における他眼の検討

著者: 西山正一 ,   布田龍佑 ,   古吉直彦 ,   游泰慶 ,   萩原理 ,   古賀市郎

ページ範囲:P.835 - P.838

 熊本大眼科にて5年以上経過観察し得た56例の片眼性水晶体嚢性緑内障患者の他眼が,長期の観察にてどのような変化を示すかを知る目的で調査を行った。5年から19年,平均9.8年の経過観察期間において,片眼性水晶体嚢性緑内障患者の他眼は,初診時には24例42.9%に何らかの緑内障性変化を有していたものが,最終観察時には36例64.3%に緑内障性変化を有する結果となった。このうち片眼性より両眼性の水晶体嚢性緑内障へと移行したものは17例30.4%認められた。また,水晶体偽落屑物質がその他眼に出現したものは14例28.0%認められた。
 片眼性水晶体嚢性緑内障患者の他眼は,初期より緑内障性変化を有するものが多く,かつ長期の経過観察にて両眼性の本症へと移行することに留意して,注意深い経過観察が必要である。

フィブリン糊製コンタクト装用が奏効した偽膜型Stevens-Johnson症候群の1例

著者: 井村尚樹 ,   川崎茂

ページ範囲:P.839 - P.842

 28歳女性に重篤な偽膜型Stevens-John-son症候群が発症した。連日瞼球癒着を鈍的に剥離し,粘弾性物質とステロイド眼軟膏を点入したが,癒着剥離に伴う角膜上皮の損失が著しく,予後不良と考えられた。瞼裂と結膜嚢を完全に覆うフィブリン糊製コンタクトを作製し,まず片眼に装用したところ短期間で劇的な改善をみた。そこで改めて両眼に装用し,瞼球癒着,パンヌス形成などの後遺症を防止することができた。

春季カタルにおける病態の推移と抗アレルギー剤の効果

著者: 中川やよい ,   湯浅武之助 ,   阪下みち代 ,   多田玲

ページ範囲:P.843 - P.846

 ステロイド以外の抗アレルギー剤を主に用いるようになった1983-87年の5年間(B群)とそれ以前の1978-82年の5年間(A群)に阪大病院眼科を受診した春季カタル新患患者について比較し,抗アレルギー剤の効果と役割について検討した。患者数はA群105例,B群115例,男女比はA群で4:1,B群で2:1であり,B群で15歳前後の女性例が増加していた以外は,発症年齢,他のアトピー性疾患の合併頻度,各病型の比率,起因抗原の陽性頻度などは両群問に差は認められなかった。しかし治療方法では抗アレルギー剤の内服例がB群で有意に増加しており,それにともなって経過中にステロイド剤の長期全身投与を要した重症のものがB群で有意に減少していた。このことより抗アレルギー剤の使用は春季カタルの軽症化に有用であると思われた。

プール消毒剤(活性塩素)による「眼障害および眼の不快感」に対するタウリン(3%)点眼液の臨床効果について

著者: 船本速男 ,   吉村久 ,   庄司純 ,   崎元卓 ,   北野周作

ページ範囲:P.847 - P.850

 プール消毒剤(活性塩素)による眼障害に対するタウリンの有効性を,20〜30歳代の健常男子ボランティアを用いて検討した。
 方法は,遊泳前1回点眼群と遊泳前,後2回点眼に分け,右眼に3%タウリン,対照とした左眼には生理食塩水を点眼した。効果判定は,細隙灯による観察,ローズベンガルテストおよび自覚症状について行った。
 ローズベンガルテストにおいて,両群ともタウリン点眼が対照に対して有意差を認めた。自覚症状でも,タウリン点眼により直後から不快な症状を訴える者が少なく,症状消失も早かった。
 以上3%タウリン点眼液は,プール消毒剤による眼症状に対し,予防および治療効果が期待できる。

毛髪染料の角膜障害

著者: 高橋信夫 ,   生駒尚秀

ページ範囲:P.851 - P.854

 最近5年間に訪れた毛髪染料による角膜障害19例32眼について検討した。ほとんどの症例が強い眼痛を訴え,軽症ではびまん性点状上皮剥離をきたし,平均1週間で治癒したが,重症例は円型上皮剥離にデスメ膜皺襞を伴い,全治まで平均2週間を要した。後遺症や視力障害は認められなかった。
 受傷から受診までの間に洗眼をした例では円型上皮剥離は有意に少なく,培養結膜上皮細胞に対する実験においても,稀釈した毛髪染料による細胞障害の発現は緩徐であった。
 したがって,毛髪染料を使用する際には眼に入れないよう注意を徹底させるとともに,眼周囲に流れ込まぬよう,メーカーは何らかの工夫をすべきである。万一眼に入った場合は直ちに水で洗眼することが重症化を防ぐといえる。

表層角膜移植と角膜上皮移植同時手術の適応について

著者: 秋山修一 ,   金井淳 ,   横山利幸 ,   中島章 ,   丹羽康雄

ページ範囲:P.855 - P.858

 翼状片,膠様滴状角膜変性症の表層角膜移植後再発した各1眼と,瞼球癒着を伴った偽翼状片1眼の3例3眼に表層角膜移植と角膜上皮移植同時手術を施行し,経過を観察した。3例とも約6か月の経過では移植片の混濁を認めず,合併症も見られない。巨大翼状片例では,翼状片の再発がない。膠様滴状角膜変性症例では視力がm.m.より0.2と改善し,開瞼困難などの自覚症状が軽減した。瞼球癒着を伴った偽翼状片例では結膜組織の再侵入,瞼球癒着はない。難治性再発性の角膜,および輪部,球結膜に病変の波及している疾患,特に膠様滴状角膜変性症において,表層角膜移植と角膜上皮移植同時手術は有効な治療法と考えられた。

学術展示

特異な眼底所見を呈した網膜ぶどう膜炎の1例

著者: 窪田俊樹 ,   石原淳

ページ範囲:P.878 - P.879

 緒言 今回我々は,左眼底に広範な白鞘化血管と多数の網膜硝子体出血がみられ特異な眼底所見を呈した症例を経験した。経過中右眼に乳頭血管炎に類似した所見もみられた。原因は不明であったが,治療経過,原因について若干の考察を加えて報告する。
 症例 患者:23歳,男

気体注入を併用した網膜剥離手術の視力予後について

著者: 吉田宗徳 ,   谷原秀信 ,   小椋祐一郎

ページ範囲:P.880 - P.881

 緒言 網膜剥離手術治療において気体注入は長い歴史がある1)。Hilton らのいわゆる pneumatic retinopexyの報告をうけてさらに気体注入の適応が拡大されつつある2)。気体注入が経強膜的網膜剥離手術に併用される利点のひとつとして早期視力改善効果が指摘されている3)。そこで今回,我々は経強膜的網膜剥離手術に気体注入を併用した症例の視力予後について,長期経過を検討した。
 対象 対象は京都大学医学部附属病院眼科にて裂孔原性網膜剥離に対して経強膜的網膜剥離手術を施行された症例とした。その内訳は術前に気体注入をしてから網膜裂孔閉鎖術や強膜内陥術を施行した症例が51眼,残存剥離やフィッシュマウス現象への対策として術中に気体注入を併用した症例が92眼であった。また気体注入を併用せずに経強膜的網膜剥離手術のみを行った症例60眼についても視力予後を検討した。

血管腫様腫瘤を伴ったサルコイドーシスの1例

著者: 松本浩子 ,   岸茂 ,   和田秀文 ,   玉井嗣彦 ,   野田幸作 ,   森澤あおい

ページ範囲:P.882 - P.883

 緒言 サルコイドーシスは網膜血管周囲炎,網膜新生血管,脈絡膜肉芽腫,視神経乳頭病変など多彩な眼底像を呈することで知られている1)。このうち臨床像が血管腫に類似した病変を経験したので報告する。
 症例 患者は26歳,男性。初診は1988年1月14日。1987年12月中旬に両眼視力障害を自覚し,高知赤十字病院眼科を受診。ぶどう膜炎と診断され,当院紹介となった。既往歴,家族歴は特記すべきことなし。

眼窩吹き抜け骨折手術への同種乾燥硬膜の使用

著者: 小沢勝子 ,   佐貫真木子

ページ範囲:P.884 - P.885

 緒言 眼窩吹き抜け骨折手術時の骨折部の補填材料としては自家骨や合成素材が使われている。自家骨は周囲組織に受け入れられ易いが骨を採取する手術が必要であり,合成素材としてはシリコン板,テフロンプレート等が使用されてきたが,異物反応や硬さ等の点からこれらを使用しないほうが手術成績がよいという報告もされている1)。しかし手術時の所見では骨折部周囲の癒着は非常に強く,陥頓組織を戻したあともそのままでは,再陥入や再癒着の起こる心配がある。今回報告する同種乾燥硬膜は異物反応が無く,薄いが強靱で機械的張力に耐えられる。また眼窩の湾曲にあわせる事が出来るし,組織欠損部の被覆に使用しても癒着しない。補填材料としてテフロンプレートを使用した症例と乾燥硬膜を使用した症例の手術結果を比較した。手術は下壁骨折ではX線写真で骨折があり,垂直方向の眼球運動障害による複視があって軽快傾向がないか増悪し,眼窩CT検査で異常を認める症例に,内壁骨折では内直筋の運動障害があり軽快傾向がないか増悪し,断層写真とCT検査で飾骨洞への眼窩脂肪等の組織脱出を認め,眼球陥凹がある症例に行った。
 症例 症例は1980年から1989年8月までに手術を施行したpure typeの56例58眼。性別は男性45例,女性11例。年齢は10代後半が最も多かった。患眼は右眼22例,左眼32例,両眼2例。

特異な経過をたどった原田病の1例

著者: 石崎登 ,   森下清文 ,   中島正之 ,   渡辺千舟

ページ範囲:P.886 - P.887

 緒言 原田病では時に,診断困難な症例に遭遇することがあるが,今回我々は内眼筋麻痺を伴い発病初期に地図状網脈絡症に類似した眼底所見を呈し,経過中に一過性の強い回転性めまいを伴った,極めて特異な原田病の症例を経験したので,ここに報告する。
 症例 21歳,男性。主訴および現病歴:1989年1月24日より右眼が充血し27日に右眼の視力障害出現,28日には左眼も視力障害出現したため,28日に近医を受診し,2月1日当科を紹介された。既往歴,家族歴:特記すべきことなし。初診時所見:視力はRV=0.01(0.3×−9.0D=C−1.0DA×180),LV=0.01(0.15×−11.0D)。眼圧はRT=12, LT=11mmHgで角膜にprecipitate(2+),前房にはcell(2+),flare (+)を両眼に認めた。隅角は特に異常なく,瞳孔径は両眼とも 6.0mm で,対光反応はほぼ消失しており,中心CFF値は33 Hz (両)であった。眼底所見では乳頭の発赤と,周辺部網膜に淡黄色混濁を認め(図1),螢光眼底で同部に一致した過螢光を認めた(図2)。血液生化学的所見では特に異常所見を認めず,単純ヘルペス,水痘,帯状ヘルペス,サイトメガロウイルスなどの各種ウイルス抗体価も陰性であった。

網膜剥離再手術例の術後両眼視機能について

著者: 田中寧 ,   門屋講司 ,   筑田真 ,   小原喜隆

ページ範囲:P.888 - P.889

 緒言 網膜剥離術後の両眼視機能は両眼の視力に較差のある場合や大きな斜視角の例で悪いことを報告した1,2)。今回は網膜剥離で2回以上の手術を施行した症例の術後の両眼視について1回の手術で復位した群を対照に比較検討した。
 方法 当科にて1985年1月から1989年3月まで2回以上観血的網膜剥離手術を施行した30例のうち,網膜の復位が得られた中心矯正視力0.2以上の症例につき以下の検査を施行した。1.屈折,2.術前・術後視力変化,3.眼位,4.ステレオテスト,5.大型弱視鏡検査

眼窩吹き抜け骨折に対する観血的治療は必要か?(予報)

著者: 田辺由紀夫 ,   中島裕美 ,   八木橋修 ,   寺田久雄 ,   鈴木利根 ,   石川弘 ,   北野周作

ページ範囲:P.890 - P.891

 緒言 SmithとRegan1)が眼窩底の骨折について早期手術の有効性を唱えて以来,眼窩吹き抜け骨折に対しては勧血的な骨折の整復が行われてきた。しかし,近年非観血的な治療でも良好な予後が得られることが報告されている。今回我々は,100例の眼窩吹き抜け骨折の治療成績を検討した結果,非観血的治療の有効性が確認されたので報告する。
 対象 対象は1980年以降に当科を受診した眼窩吹き抜け骨折の症例100症例である。全例に眼球運動制限が認められ,頭部X線検査,強制牽引試験などで確定診断されている。100例の内訳は男性85例(平均年齢20.2歳),女性15例(平均年齢22.3歳)であった。

特発性視神経炎と原田病における臨床像と髄液検査所見の関係

著者: 草野良明 ,   大越貴志子 ,   山口達夫 ,   神吉和男

ページ範囲:P.892 - P.893

 緒言 特発性視神経炎と原田病において,髄液細胞数が増加し診断の一助となることは周知であるが1,2),視力予後等臨床像と髄液所見との関係は末だ不明の点が多い。今回我々は,特発性視神経炎および原田病における臨床像と髄液所見の関係を調査検討した。
 対象 1983年1月〜1989年1月までに当院眼科を受診し,特発性視神経炎あるいは原田病と診断された症例で,1回以上髄液検査を施行し,かつ6か月以上経過観察した21例が対象。内訳は次の通り。

原田病の予後不良因子について臨床症状と視力予後の関係

著者: 山本倬司 ,   佐々木隆敏

ページ範囲:P.894 - P.895

 緒言 原田病は比較的予後良好な経過をとると言われるが,症例によっては予後不良の経過をとり,視機能低下の著明なものがある。しかし,これら予後不良の症例について詳細に研究し,十分に解明し体系づけたものはない。不良の経過をとる原因として,素因,臨床所見の形態,症状の軽重などの関与が考えられる。そこで,さきに素因として,HLAとの関係につき検討したところ,不良例はHLADR4を有する症例に多く認められた1)。また臨床所見の形態の一つとして網膜剥離期間との関係につき検討したところ網膜剥離期間の長いものほど不良例が多いことが明らかとなった2)
 そこで今回は更に臨床症状の強弱と予後との関係につき検討することとした。

ベーチェット病患者の末梢血リンパ球におけるCD4/CD8比の逆転現象について

著者: 中村昌生 ,   高橋英則

ページ範囲:P.896 - P.897

 緒言 ベーチェット病(以下B病)患者の末梢血リンパ球における各種サブセットの変動に関し多数の報告1)があるが,必ずしも一定の傾向が得られていない。今回,リンパ球のCD4/CD8比の逆転現象に着目し,B病患者のリンパ球サブセットの変動を検索した。
 方法 1988年5月から1989年8月までの間に旭中央病院眼科を受診したB病患者17名を対象とし,健常者32名を対照とした。患者,健常者から得られた末梢全血よりリンパ球を分離したのち,螢光色素標識のモノクローナル抗体で二重染色し,染色リンパ球をFACSアナライザーを用いて解析した。用いた抗体は,抗Leu-1(CD5),抗Leu-2a(CD8),抗Leu-3a(CD4),抗Leu-4(CD3),抗Leu-7(CD57),抗Leu-12(CD19),抗Leu-15(CD11b),抗Leu-18(CD45-RA),抗ヒトHLA-DRである。

ぶどう膜炎患者における抗HTLV-Ⅰ抗体の検索 Anti-HTLV−Ⅰ antibody in Uveitis

著者: 稲村幹夫 ,   内尾英一 ,   岡田和四郎 ,   佐伯宏三 ,   日野英忠 ,   大野重昭

ページ範囲:P.898 - P.899

 緒言 ヒトレトロウイルスのひとつであるHTLV-Ⅰは成人T細胞白血病(ATL)の起因ウイルスであるが,痙性脊髄症すなわちHTLV-Ⅰ associated myelopathy(HAM)も発症し得ることが明らかとなった。一方,HAMには種々の眼症状たとえばぶどう膜炎をも伴うことが知られるようになった。今回我々はぶどう膜炎患者の抗HTLV-Ⅰ抗体を検索してみた。
 対象および方法 対象は1988年9月から1989年5月までの9か月間に当院眼科を受診した内因性ぶどう膜炎患者52例を対象とした。その内訳は男23例,女29例であり,平均年齢は52.1±19.2歳であった。

難治性ぶどう膜炎に対するシクロスポリンとブロモクリプチンとの併用療法(予報)

著者: 原田敬志 ,   岡本洋子 ,   太田啓雄 ,   村上京子 ,   安藤以久子 ,   矢ケ崎悌司

ページ範囲:P.900 - P.901

 緒言 近年,脳下垂体前葉ホルモンであるプロラクチンに免疫調整能力のあることが指摘されている1,2)。実際に,下垂体切除されたラットでは,抗体産生や遅延型過敏反応が抑制され,これに外因性プロラクチンを加えると免疫応答が抑制されるという1,2)。プロラクチンのドーパーミン作働薬であるブロモクリプチンの投与で,対宿主移植片反応がマウスで減弱する3)。ラットの実験的自己免疫性ぶどう膜炎では,ブロモクリプチンと低用量シクロスポリンとの併用で,より多量のシクロスポリンと同様の効果がみられるという4)。ヒトぶどう膜炎の臨床例についてシクロスポリン・ブロモクリプチン併用療法を行った成績が,最近報告され,その有効性が指摘された5,6)
 今回,ベーチェット病および原田病患者にこの併用療法を施行し,その有効性について検討を行う。

眼症状で発見された悪性腫瘍の4例

著者: 池田晃三 ,   佐野雅洋 ,   湯口幹典 ,   白井正一郎 ,   馬嶋昭生

ページ範囲:P.902 - P.903

 緒言 近年,統計学的報告1)によると,悪性腫瘍の診断や治療の進歩に伴い,ぶどう膜転移性腫瘍の症例が増加している。しかし,眼症状で発見された悪性腫瘍の症例が外来受診者に占める割合は非常に低い。今回我々は,眼症状を主訴として受診し,全身精査の結果発見された肺癌2例,乳癌2例を経験したので報告する。
 症例(表)症例1の主訴は左眼光視症で,初診時矯正視力は両眼とも0.9であった。左眼眼底の鼻側後極部に漿液性網膜剥離を伴った灰白色で境界不鮮明な4乳頭径×5乳頭径の脈絡膜腫瘤がみられた(図1)。螢光眼底造影では,腫瘤は全体に過螢光を示し,周辺部に斑点状の螢光染がみられた。超音波およびCTで,網膜剥離を伴う脈絡膜腫瘤像を認めた。転移性腫瘍を疑い問診したところ,5年前から右乳房に腫瘤を自覚していたが放置していたことが判明した。血漿CEA(carcinoembryonic antigen)は,11.0 ng/ml (EIA)と上昇していた。精査の結果,乳癌と診断されたが,他に転移巣はみられなかった。初診後,網膜剥離が急激に進行し視力は著しく低下した。右乳房切除術・左眼球摘出術を施行したが,2年後死亡した。病理組織学的診断は,髄様腺管癌であった。症例2の主訴は左眼霧視で,6年前乳癌のため右乳房切除術を受けている。

ミトコンドリアミオパチーの1例—筋引っ張り試験の特異性について

著者: 栗原史江 ,   田中尚子 ,   河合昭子 ,   福田優子 ,   内海隆 ,   三木徳彦 ,   富林重明

ページ範囲:P.904 - P.905

 緒言 ミトコンドリアミオパチーは1962年Luft1)らにより初めて報告され,以来ミトコンドリアの機能異常による多彩な症状を伴う筋疾患として注目されている。そのうち慢性進行性外眼筋麻痺,眼底異常,心伝導障害の3主徴を呈するものはKearns-Sayre症候群と称され,眼科領域でも数多く報告されている2)。今回,本疾患と診断された1小児例を経験し,その筋引っ張り試験においても特異な所見を得たので報告する。
 症例 患者:12歳,男児。

甲状腺機能亢進症とぶどう膜炎

著者: 溝口尚則 ,   佐藤隆哉 ,   嵩義則 ,   雨宮次生

ページ範囲:P.908 - P.909

 緒言 甲状腺機能亢進症の眼合併症としては角膜障害,眼筋機能障害,緑内障などがよく知られている。この他Sjögren症候群,ぶどう膜炎,網膜剥離などの合併もある1)。しかし,ぶどう膜炎に関しては眼科的に詳細な記載のあるものはなく,またその臨床像も不明である。
 我々は甲状腺機能亢進症にぶどう膜炎の合併した3症例を経験したので報告する。

眼瞼結膜の非色素産生性悪性黒色腫について

著者: 中川正昭 ,   田中稔 ,   小林康彦 ,   古谷津純一 ,   川島徹 ,   石和久 ,   三宅伊豫子

ページ範囲:P.910 - P.911

 緒言 悪性黒色腫はメラニン産生細胞に由来する悪性腫瘍で,多くは成人の四肢,足底,頭頸部等の皮膚に好発する。眼科領域では網膜等には好発するが,眼瞼結膜からの発生は稀である。今回我々は眼瞼結膜に発生した非色素産生性黒色腫(Amelanotic melanoma)を経験し,その細胞学的特徴を中心に免疫染色,細胞化学及び電顕的観察についての所見を報告する。
 症例 患者:59歳,女性。

Ehlers-Danlos症候群の1症例

著者: 松下琢雄 ,   上畑晃司 ,   三井敏子

ページ範囲:P.912 - P.913

 緒言 Ehlers-Danlos症候群(以下E-D症候群と略)は先天性コラーゲン代謝異常に基づく全身疾患で,多彩な症状を伴い,眼科的には高度近視,円錐角膜,網膜剥離などを伴うことがある。今回我々は本症の1例に眼合併症を経験したので報告する。
 症例 60歳,女性。主訴:眼合併症の精査。家族歴:血族結婚を認めず,その他特記事項を認めない。

アトピー性皮膚炎に緑内障およびデスメ膜破裂を合併した成人例

著者: 勝島晴美 ,   中川喬 ,   森田克彦

ページ範囲:P.914 - P.915

 緒言 デスメ膜破裂は先天性緑内障の特徴的所見のひとつであるが,成人緑内障で生じたとの報告はない。我々は両眼に緑内障・白内障・ぶどう膜炎を合併し,さらに左眼にデスメ膜破裂,右眼に網膜剥離を合併したアトピー性皮膚炎の成人例を経験したので報告する。
 症例 症例は26歳男性。1980年9月急に昼盲を自覚し1981年4月2日大麻眼科を受診した。既往歴として幼少時よりアトピー性皮膚炎に罹患し15歳からフルコート軟膏を使用。皮疹の強い顔面には毎日ほぼ全体に,他の部位は皮疹部のみ週に2〜3回外用し,最近5年間は10gを10〜14日間で使用している。12歳まで小児喘息に罹患。20歳より神経質症で精神科に通院加療中。家族歴に母親がアレルギー体質,親戚に気管支喘息がある。大麻眼科の初診時所見は,視力右0.2(0.4×−2.0D)左光覚弁(矯正不能),眼圧は両眼50mmHg以上。両眼に軽度虹彩毛様体炎所見と白内障,左眼底に緑内障性乳頭陥凹と乳頭退色が観察された。両眼の開放隅角緑内障,虹彩毛様体炎および白内障の診断のもとに治療を行ったが,眼圧が十分下降しないので札幌医大へ紹介された。

複視を主訴とした急性ポルフィリン症の1例

著者: 久冨木原眞 ,   後藤良三

ページ範囲:P.916 - P.917

 緒言 急性ポルフィリン症(Acute porphiria,以下APと略す)は,腹痛や嘔吐などの消化器症状や多発神経炎をはじめとする神経症状など,多彩な臨床症状を呈する常染色体優性遺伝性の代謝性全身疾患である。眼症状としては,時に複視や一過性視力障害などをきたすことが知られている。
 これまで眼科領域において,APについての症例報告や成書の記載は少なく,さらに,眼症状を主訴とした症例の報告はあまり無かったようである。

乳頭血管新生を伴ったベーチェット病の1例

著者: 大城かおり ,   大見謝恒人 ,   根路銘恵二 ,   長瀧重智

ページ範囲:P.918 - P.919

 緒言 ベーチェット病は多彩な眼症状を呈するが,乳頭血管新生を伴う症例についての報告は少なく,その治療方針も一定していない。今回,乳頭血管新生および硝子体出血を主要病変とするベーチェット病患者に汎網膜光凝固を施行し,その後の経過を観察したので報告する。
 症例 Y.Y.36歳男性。

両側褐色細胞腫を合併したvon Hippel病の1家系

著者: 佐藤章子 ,   関根美穂 ,   古川利有

ページ範囲:P.922 - P.923

 緒言 von Hippel-Lindau病(以下VHL病と略す)は網膜と中枢神経系に血管腫の発生をみる常染色体優性遺伝の疾患である。欧米では家族発生は稀ではなく,またしばしば腎・膵・肺・副腎などに腫瘍を合併することが知られているが,本邦では明らかな遺伝関係の証明された本病の家系の報告は極めて少なく,いわんや本病に両側褐色細胞腫を合併した報告1)は4家系を数えるのみである。今回我々は,両側褐色細胞腫と膵腫瘍を合併した本病の19歳女性を発端者としたvon Hippel病の2世代1家系4例(図1)を報告する。
 症例 症例Ⅲ−3:19歳,女性(発端者)。

連載 眼科図譜・287

Waardenburg症候群

著者: 堀江英司 ,   石綿丈嗣 ,   浜畑和男 ,   永野幸一 ,   樋田哲夫

ページ範囲:P.782 - P.783

 緒言 Waardenburg症候群は1947年にKlein1)が聾唖,限局性白皮症を伴った虹彩色素異常及び内眼角側方偏位を示す症例を初めて報告,1951年Waardenburg2)により先天性難聴,虹彩及び前頭部毛髪の色素異常に眼瞼,眉毛,鼻根部の奇形を合併する遺伝性疾患として確立された症候群である。今回我々は本症候群と思われる1症例を経験したので供覧する。
 症例 16歳,女性。初診:1989年4月24日。主訴:両眼の視力低下。現病歴:学校検診にて裸眼視力の低下を指摘され当科受診。既往歴:生下時よりの両側性難聴,また現在は消失しているが幼児期に前頭限白髪を認めている。現症:視力はV.d.=0.6(1.2×−0.5D),V.s.=0.6(1.2×−0.5D)と良好。眼圧は左右共に12mmHg。瞳孔間距離が62mmに対し内眼角間距離及び外眼角間距離は36mm,97mmで下涙点は内眼角より7mmの部に位置していた。細隙燈顕微鏡検査では右眼虹彩は10時半〜12時半の部が,左眼は逆に5時〜6時半の部を残しすべての部がいわゆるblue irisを呈し両眼性の虹彩色素異常(部分虹彩異色)が認められた(図1)。角膜,前房,中間透光体には著変をみず,眼底検査では色調の低色素傾向が認められた(図2)。全身的検査の結果,白皮症などの色素異常所見はみられなかった。

眼の組織・病理アトラス・44

老人性円盤状黄斑変性症

著者: 石橋達朗 ,   猪俣孟

ページ範囲:P.786 - P.787

 老人性円盤状黄斑変性症 senile disciform macular degeneration (SDMD)とは,高齢者の眼底の黄斑部に脈絡膜より新生血管が発生し,網膜色素上皮下あるいは網膜下に出血や滲出性病変を生じ,ついには瘢痕組織を形成する疾患である。60歳以上の高齢者で男性に多くみられる。本症は黄斑部を障害するため,急激な視力低下や中心暗点を自覚することが多く,高齢者の中心視力障害の主な原因のひとつとして注目されている。最近では加齢黄斑変性症age-related macular degen-eration (ARMD)とも呼ばれている。
 臨床的には,黄斑部に小さな黄白色斑や大型の漿液性網膜色素上皮剥離あるいは網膜剥離を呈する初期病巣,網膜下あるいは網膜色素上皮下に円形の出血が出現する出血期病巣(図1),本症の典型的な病巣である黄白色の円盤状の円盤状病巣(図2),終末像である灰白色の瘢痕病巣などを呈する。螢光眼底造影は本症の診断に不可欠で,病巣内に網目状あるいは車軸状の血管網が造影される。この血管網は脈絡膜からの新生血管であり,急速に螢光色素の漏出がおこる。

今月の話題

角膜ヘルペスの臨床—ウイルス学的見地と生物学的見地

著者: 大橋裕一 ,   木下茂

ページ範囲:P.865 - P.869

 現時点で臨床的に問題と考えられる角膜ヘルペス治療の諸問題をとりあげ,その考え方と治療方針をウイルス学的,および生物学的見地から考察した。
 特に,最大の課題である実質型角膜ヘルペスの治療においては,ヘルペスウイルスおよびその関連抗原を角膜から除去することが,ウイルス学的見地からの根本的治療方針である。もし,こうしたウイルス抗原の除去がうまく行えれば,免疫反応の軽減をもたらすとともに,ウイルス感染の持続や再発を抑制できる可能性もある。他方,生物学的見地からは,好中球の角膜内浸潤を阻止することが第一の治療方針である。もし,好中球の浸潤を阻止できれば,多くの例で血管新生の阻止につながり,ひいては角膜移植にいたるような角膜瘢痕の形成を防止することができる。

眼科手術のテクニック—私はこうしている・18

トラベクロトミーとトラベクレクトミーの併用

著者: 荻野誠周

ページ範囲:P.870 - P.872

トラベクロトミーの原則的採用
 原発性開放隅角緑内障では術後5年で60%に,無治療または点眼のみで眼圧のコントロールがえられ,眼圧コントロール不良例でも半数以上が25mmHg以下の眼圧となるので,私は原発性開放隅角緑内障には原則的にトラベクロトミーしかおこなっていない。開放隅角緑内障のなかで多分20%ほどをしめる水晶体偽落屑症候群では有効率が80%を越えるので,やはり原則的にトラベクロトミーを選択している。

眼科薬物療法のポイント—私の処方・18

アカントアメーバ角膜炎の完成期と思われる像を呈した症例

著者: 石橋康久

ページ範囲:P.873 - P.876

患者は23歳の男性。16歳の頃より近視のため眼鏡を使用していたが半年前からコンタクトレンズ似下CLと略)を装用するようになった。ある日,CLを装用したまま就寝してしまい,翌日より左眼の充血,異物感があった。2〜3日様子をみていたが良くならないためCLの処方を受けた診療所を受診した。左眼角膜に傷があると言われ,抗生剤などの点眼で治療されたが良くならなかった。そのため他の眼科を受診したところ,そこでは角膜ヘルペスではないかと言われ,抗ウイルス剤,ステロイド剤などの点眼剤を処方された。しかし就眠できない程の痛みがあり,視力障害も強かったため筑波大学眼科を受診した。主訴:左眼視力低下,強度の眼痛

臨床報告

前部硝子体線維血管性増殖(Anterior Hyaloidal Fibrovascular Proliferation)

著者: 万代道子 ,   小椋祐一郎 ,   加藤研一 ,   本田孔士

ページ範囲:P.925 - P.928

 増殖性糖尿病性網膜症に対する硝子体手術後に,繰り返す硝子体出血と急速な虹彩血管新生及び白内障の進行があり,再手術時に,全網膜の漏斗状剥離をみた2症例を経験した。これは,増殖性糖尿病性網膜症の硝子体手術の合併症として最近報告されている前部硝子体線維性血管増殖(anterior hyaloidal fibrovascular proliferation)であると診断した。この病因として,網膜剥離による著明な網膜虚血状態と硝子体手術後眼における血管新生因子の前眼部移行の促進,新生血管の血液網膜関門の破綻による増殖因子の眼内移行等の関与していることが考えられた。

眼球鉄症における水晶体および虹彩の病理組織学的研究

著者: 村田敏規 ,   荒川哲夫 ,   石橋達朗

ページ範囲:P.934 - P.937

 眼球内鉄片異物により眼球鉄症が生じた症例に水晶体嚢内摘出術および周辺虹彩切除術を施行し,水晶体および虹彩根部を病理組織学的に観察した。ヘマトキシリン—エオジン染色(H.E.染色)による標本では,前嚢下の水晶体上皮細胞が紡錘形の形態をとり増殖していた。前嚢下および後嚢下の皮質線維は変性し,線維構造を失って均質無構造な物質となっていた。また水晶体上皮細胞内および上皮細胞下の皮質に褐色の色素が沈着していた。
 虹彩は前色素上皮細胞層の筋突起である瞳孔散大筋に褐色の色素が沈着していた。
 これらの褐色の色素沈着に一致してベルリン青染色では青く染まり,鉄の沈着が確認された。

緑内障患者におけるハンフリー自動視野計の信頼係数

著者: 戸塚秀子 ,   畠山正

ページ範囲:P.938 - P.942

 緑内障および高眼圧症患者を対象に,ハンフリー自動視野計を用いて網膜閾値測定を行い,その信頼係数と視野指数の臨床的評価を試みた。平均偏差により病期の進行にともなう視野丘の有意な沈下が,パターン標準偏差により形状の変化が表され,視野指数は経時的変化を把握するうえで有用であることが確認された。信頼係数については,判定基準によると41%のものが信頼性が低いとみなされ,固視不良,偽陰性の順に多く,偽陽性は非常に少なかった。固視不良と偽陽性は病期と無関係であったが,偽陰性は病期が進むにつれ出現頻度の増加傾向がみられた。短期変動は視野障害があると視野正常群より有意に大きくなり,パターン標準偏差との間に有意な相関が認められた。
 視野障害のある緑内障患者では,検査結果の信頼性を判断するに際し,偽陰性と短期変動が高いことを考慮する必要がある。

ベーチェット病の併発白内障に対する手術成績

著者: 沖波聡 ,   砂川光子 ,   新井一樹 ,   仁平美果

ページ範囲:P.943 - P.946

 併発白内障に対して手術を施行し,1年以上の経過を観察したベーチェット病29眼(18例)の視力予後をretrospectiveに検討した。7眼では最終視力が0.5以上となったが,一方,7眼は視力が零となった。39歳以下でぶどう膜炎を発症した症例,ぶどう膜炎発症から3年以上経過して白内障手術を行った症例,水晶体嚢内摘出術の際にα-キモトリプシンを使用した症例に視力喪失例が多かった。現在,我々はベーチェット病の併発白内障に対する嚢内摘出術の際にはα-キモトリプシンを使用していない。

Nd-ヤグレーザーによる病的瞳孔膜遺残の除去

著者: 秋澤尉子 ,   高原真理子 ,   松原明子 ,   高山博子

ページ範囲:P.947 - P.949

 19歳男性の両眼性病的瞳孔膜遺残症に対し,Nd-ヤグレーザー手術を行い,瞳孔膜を除去した。矯正視力は,術前右0.5,左0.5から術後右0.9,左0.9に改善された。

Clinically significant macular edema(CSME)に対する黄斑部光凝固

著者: 大竹弘子 ,   田中利和 ,   小椋祐一郎 ,   森寺威之 ,   千原悦夫 ,   本田孔士

ページ範囲:P.951 - P.954

 米国の糖尿病性網膜症早期治療班の基準によるClinically significant macular edemaに対し,黄斑部光凝固を26例36眼に施行し,視力予後,眼底所見について,施行していない40例50眼を含めて調査・検討した。黄斑部光凝固例は,眼底所見を改善させ視力を安定化する効果は認められたが,視力が改善する症例は少なく,その施行時期については今後さらに検討する必要があると考えられた。

レーザーフレアーセルメーターによる虹彩ルベオーシスの早期発見

著者: 安積淳 ,   調久光 ,   佐堀彰彦 ,   井上正則 ,   山本節

ページ範囲:P.955 - P.958

 レーザーフレアセルメーターを用いた虹彩ルベオーシスの早期発見の可能性を検討した。増殖糖尿病網膜症のある76眼38例で螢光虹彩造影を行い,瞳孔縁からの螢光色素漏出の有無で,36眼に虹彩ルベオーシスが存在すると判定した。このうち細隙灯顕微鏡で虹彩ルベオーシスは9眼のみに認められた。
 同時に前房フレアー値を定量し,ルベオーシスとの関連を検討した。24眼で前房フレアーのphoton count値が20以上であった。うち虹彩ルベオーシスは20眼83%にあった。40眼で前房フレアー値が15以上であった。うち虹彩ルベオーシスは27眼75%にあった。虹彩ルベオーシスのある36眼のフレアー値は,20眼56%で20以上,27眼75%で15以上であった。
 この結果から,前房フレアー値20以上を明らかな異常値,15から20の間を境界値とすることで,レーザーフレアーセルメーターを虹彩ルベオーシスの早期発見のスクリーニングに使用できると考えた。

片眼性に後部多形性角膜変性症に酷似した病変を呈した母子例

著者: 大谷悦子 ,   松田司 ,   木下茂

ページ範囲:P.959 - P.962

 片眼のみに後部多形性角膜変性症(pos-terior polymorphous dystrophy of the cornea:PPD)に酷似した角膜病変を有する9症例の家族を精査し,1例の母親の片眼に同様な角膜病変を認めた。症例は,8歳の女児であり,右眼の角膜のみにPPDに非常に酷似した病変,すなわち,デスメ膜にほぼ水平に走る透明な幅の広い帯状隆起物,および,孤立あるいは集合した淡い灰色の混濁で囲まれた小水疱が認められた。本症例の母親(36歳)の右眼の角膜にも,PPD様の水平に走る透明な幅の広い帯状隆起物,および,孤立あるいは集合した淡い灰色の混濁で囲まれた小水疱が認められた。このような片眼性,かつ,家族性にPPD様病変が認められた症例の報告は,未だなされておらず,PPDの発生機序を考える上において非常に重要な症例であると考えられた。

カラー臨床報告

多彩な臨床経過を呈した先天性網膜動静脈吻合の1例

著者: 飯田知弘

ページ範囲:P.929 - P.933

 先天性網膜動静脈吻合に多彩な出血を合併し,光凝固により著明な眼底所見の改善をみた50歳男子を報告する。右眼視力障害が突発した。眼底には黄斑部に網膜下を主体とする出血があり,乳頭から下耳側へ向かう網膜の動静脈は著しい拡張と蛇行を呈し,周辺部で多数の動静脈吻合を形成していた。出血は一時硝子体へも拡散したのち,自然に吸収され,病状は安定していた。2年8か月後,網膜中心静脈閉塞症が併発した。これに対し,キセノン光凝固で吻合血管を直接に凝固することにより,網膜出血の消褪と吻合血管の狭細化と視力の安定化が得られた。術後の螢光眼底造影で,動静脈吻合の閉塞が確認された。

Group discussion

色覚異常

著者: 深見嘉一郎

ページ範囲:P.963 - P.965

1.姉弟にみられた桿体一色型色覚〔○横田章夫獨協医大,辛 米子,木村 純,妹尾 正〕
 姉弟にみられた桿体一色型色覚の症例を報告する。姉は15歳,弟は12歳で幼児期より低視力,昼盲,色覚異常が気づかれていた。
 姉の矯正視力は右0.2左0.2,弟の矯正視力は右0.09左0.08で,視力検査では弟の両眼に比較中心暗点が認められた。色相配列検査ではパネルD−15,100ヒューテストいずれの検査でも姉に比べて弟の方が異常の程度が強く,差がみられた。弟では白色背景光上での分光感度が暗所視比較感度に一致し,桿体一色型色覚完全型と考えられた。姉では錐体系の反応がみられ,不完全型と考えられた。

地域予防眼科

著者: 小暮文雄 ,   赤松恒彦

ページ範囲:P.966 - P.968

 地域予防眼科GDで扱う題材は広く,歴史も10年になろうとしているが,的を絞る段階には至っていない。
 人口構造,社会構造が年々変革して行く中で,眼科を取り巻く情勢も大きく変革しようとしている。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up
あなたは医療従事者ですか?