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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科44巻7号

1990年07月発行

雑誌目次

特集 第43回日本臨床眼科学会講演集(5)1989年10月 名古屋 学会原著

急性水腫を伴った急性球状角膜の症例

著者: 高橋和博 ,   今泉利雄 ,   白井淳一 ,   田澤豊 ,   渡辺敏明

ページ範囲:P.985 - P.989

 デスメ膜破裂を伴うデスメ膜剥離によって急激な視力低下をきたした比較的稀な球状角膜の症例を経験した。症例は26歳の女性。18歳時に当科を初診し,円錐角膜と青色強膜を指摘されたが,以降,著変無く経過した。8年後の1988年12月10日に,右眼の突然の視力低下を自覚し,近医を受診。治療をうけたが症状改善せず,当科を紹介され受診した。右眼は視力(0.02),両眼角膜はドーム状に前方に突出し,右眼では,上皮の水疱形成と実質の浮腫状混濁が認められ,デスメ膜は全体に剥離し,一部破裂していた。この症例に,角膜外側の輪部寄りに,約半周のwedge-shaped sectionと全層縫合を行い,その後に粘弾性物質と空気を前房内に注入した結果,デスメ膜は復位し,角膜もほぼ透則となり,視力は(0.1)まで回復した。

β−遮断点眼剤変更による眼圧の変動について

著者: 海平淳一 ,   宮永和人 ,   藤沢昇 ,   佐藤雪雄 ,   瀬川雄三

ページ範囲:P.991 - P.994

 緑内障および高眼圧症患者62名111眼を対象に,現在市販されているβ-遮断点眼剤であるチモロール,カルテオロール,ベフノロールを,相互に他種のβ—遮断点眼剤に変更した際の眼圧変動を検討した。延変更回数204回の統計学的な解析では,眼圧は変更後4か月にわたり有意に下降し,特にベフノロールからチモロールヘの変更,カルテオロールからチモロールヘの変更,チモロールからベフノロールヘの変更において有意であった。ただし,点眼剤の変更による眼圧下降効果は,変更時の眼圧および変更時の患者の年齢と有意に相関し,また,患者の性別,緑内障の症型,ピロカルピンの併用の有無による相違が認められた。以上から,β—遮断点眼剤の変更による眼圧下降効果は,点眼剤それぞれの眼圧下降効果の差よりも,むしろ,他のさまざまな背景因戸によって左右されるものであると解釈された。

角膜移植前後におけるDonor角膜の内皮細胞密度の検討

著者: 杉田肇子 ,   杉田潤太郎 ,   杉田元太郎 ,   杉田雄一郎 ,   杉田慎一郎

ページ範囲:P.995 - P.998

 1985年11月より1989年5月までの3年7か月間に,提供眼291眼(70歳以上が74%を占めた)中184眼(63.2%)に術前Specular Microscopy (以下SMと略す)を行った。内皮細胞密度は加齢と共に減少するが,細胞密度と年齢との有意な相関は認めなかった。
 同期間に行った全層移植例中87例について,術後も定期的にSMを行い(平均観察期間19.3か月),内皮細胞密度の減少率と術後期間との間に相関を認めたが,Donor年齢との相関を認めなかった。
 全層角膜移植の術前にDonorの内皮細胞密度を測定することにより,80歳以上のDonorでも全層移植可能なものが多数存在し,術後の経過にも若年者との間に有意な差がないことが明らかになった。

10年以上透明性を維持した角膜移植73眼の検討

著者: 木村内子 ,   松原正男 ,   佐藤孜 ,   澤充 ,   谷島輝雄

ページ範囲:P.999 - P.1002

 全層角膜移植を行った214症例延べ246眼のうち,10年以上経過観察をした透明角膜73眼を,残りの173眼と比較検討した。提供者が高年齢であっても,移植の予後に悪影響はなかった。原疾患は透明予後に関係した。円錐角膜,ヘルペス性角膜炎,ハイドロキノン角膜症は予後が良く,水疱性角膜症,斑状角膜変性症,角膜腐蝕は予後が悪かった。拒絶反応は,10年以上透明例の38%にあった。移植の回数は,73眼中72眼が1回のみの手術であり,3回以上の移植例で,10年以上の透明例はなかった。73眼の移植片中央部の平均内皮細胞面積は,術後約7年までは症例間の変動が大きく、7年後に極大の約1300μm2になり,その後緩慢に減少して術9年後には約1000μm2になり,症例間の変動が小さい状態で推移した。

Iridocorneal endothelial syndromeにおける両眼の角膜内皮変化

著者: 清水芳樹 ,   田中正信 ,   楠哲夫 ,   高木敬之 ,   桑山泰明 ,   山本良 ,   真野富也 ,   松田司

ページ範囲:P.1007 - P.1008

 Iridocorneal endothelial syndrome8例の両眼(発症眼および非発症眼)について,角膜内皮の形態的変化をスペキュラーマイクロスコープ,コンピュータ解析をもちいて検討した。
 発症眼では細胞密度,変動係数,六角形細胞頻度の全てにおいて統計学的に有意な変化がみられた。非発症眼では変動係数,六角形細胞頻度の2つで有意な変化があった。

4型コラーゲンによる輪部形成術の試み

著者: 木下茂 ,   大橋裕一 ,   眞鍋禮三 ,   ,   ,  

ページ範囲:P.1009 - P.1011

 ヒト胎盤より4型コラーゲンを精製・再重合させてコラーゲンシートを作成し,その臨床応用を試みた。症例は偽翼状片で,結膜切除後にこのシートを10-0ナイロン糸で強膜上に縫着し,結膜組織の侵入を阻止するか否かについて検討した。この結果,コラーゲンシートは最終観察時(術後5か月)まで強膜上に認められ,臨床的に問題となる炎症反応は生じなかった。またシートは結膜組織の侵入を結膜側で完全に阻止していた。

糖尿病性網膜症の黄斑部病変の検討

著者: 今泉寛子 ,   竹田宗泰

ページ範囲:P.1013 - P.1016

 糖尿病性網膜症74例141眼の黄斑部変化について螢光造影所見を中心に検討した。
 網膜症が単純型から前増殖型,増殖型と進行するに従い中心窩周囲毛細血管網の閉塞が広くなり,網膜血管の透過性亢進による浮腫性病変が強くなり,視力も悪化する傾向が見られた。
 黄斑部に広範な毛細血管床閉塞を認めた5例のうち3例に網膜新生血管を認めた。
 網膜色素上皮萎縮を16眼に認め,浮腫性病変を合併した場合は視力障害が著明であった。また網膜色素上皮萎縮は従来非進行性といわれているが中には進行する症例もみられた。

Ⅱ型糖尿病における血漿中組織plasminogen activatorとplasminogen activator inhibitor

著者: 川村洋行 ,   高橋功一 ,   渡邉郁緒 ,   ,   高田由美子 ,   高田明和

ページ範囲:P.1017 - P.1020

 Ⅱ型糖尿病患者36名,を網膜症のない群,単純型網膜症群,増殖型網膜症群の3群に分類し血漿中組織plasminogen activator(tPA),plas-minogen activator inhibitor-1(PAI-1;PAI-total,PAI-complex,PAI-free),plasminogenactivator活性(PAA)について正常ボランティア21名と比較検討した。tPA,PAI-total,PAI-complex,PAI-free各濃度は単純型網膜症群で他群と比較し上昇していた。PAAは網膜症のない群で若干高い傾向が認められたが有意の差はなかった。Ⅱ型糖尿病性細小血管症の初期には血管内皮細胞からtPA,PAI-1分泌が亢進しているが,PAI-1による糸泉溶抑制が優位な状態にあると考えられた。インスリン治療の有無でtPA,PAI-1,PAAに有意の差はみられなかった。

糖尿病網膜症における眼底新生血管発生時の全身管理状況

著者: 安藤伸朗 ,   長尾まゆみ ,   金徳弼 ,   関伶子

ページ範囲:P.1021 - P.1023

 糖尿病患者の眼底に新生血管を発生した時点での全身管理状況を検討することにより,糖尿病網膜症と全身的因子の関係を明らかにした。年齢的には20歳代と50歳代に二峰性のピークを示し,罹病期間は約14年であった。ヘモグロビンA1値は10.6±2.0%,神経症は70%,の高血圧症は43%に合併した。持続的蛋白尿は33%と少なかった。新生血管発生には5年以上長期間末治療・治療中断と治療法の変更の二つの要因が深く関係し,特にそれは網膜上の新生血管よりも乳頭上の新生血管に著明であった。各々の新生血管発生に異なっ全身的因手の関与することが示唆された。

糖尿病性網膜症における病巣凝固法の検討

著者: 山本禎子 ,   山下英俊 ,   橋場のり子

ページ範囲:P.1025 - P.1028

 糖尿病性網膜症において病巣凝固施行眼を網膜血管床閉塞領域の分布の広さ,血管透過性の程度,網膜症の重症度により分類し,各々の悪化率について比較することにより,病巣凝固術の適応と限界について検討した。その結果,病巣凝固の適応と考えられる症例は血管床閉塞領域が2〜3象眼以内で,かつ,血管透過性の軽度の症例であると思われた。これに対し,広範囲の血管床閉塞領域,および,高度な血管透過性が認められる症例は汎網膜光凝固術が第一選択であると思われた。網膜症の重症度では,単純性および前増殖性網膜症においては病巣凝固後の悪化率が低く病巣凝固の適応と考えられた。生命表法を用いて病巣凝固終了後の網膜症の悪化の経時的変化を解析した。上記の病巣凝固適応群では凝固終了後6か月の時点での悪化率は0〜10%と低かったが,血管床閉塞領域の広く血管透過性の高度な眼では同時点で約半数が悪化していた。

増殖糖尿病網膜症における硝子体切除時IOL同時挿入眼についての検討

著者: 広瀬浩士 ,   安藤文隆 ,   長坂智子 ,   野々村佳代子 ,   笹野久美子 ,   坂寛子

ページ範囲:P.1029 - P.1032

 増殖糖尿病網膜症の硝子体手術時,同時に白内障手術を行い人工水晶体(以下IOL)を挿入した16例16眼について,その手術法の違いにより以下の3群に分類し,術後の炎症の程度,視力,眼底などについて比較検討を行った。
 同時手術の方法は,水晶体嚢外摘出を行ったあとに硝子体切除を行い,最後にIOLを挿人する方法(Ⅰ群),水晶体嚢外摘出後IOLを挿入し,その後硝子体切除を行う方法(Ⅱ群)と,経毛様体扁平部水晶体切除後,硝子体切除を行い,最後に前房を開け,IOLを水晶体前嚢前に挿入固定する方法(Ⅲ群)である。Ⅰ群6例6眼,Ⅱ群3例3眼,Ⅲ群7例7眼であった。
 術後視力はⅢ群の2眼を除き,すべて2段階以上の向上が認められた。術後炎症の程度はフィブリン析出の有無,虹彩後癒着の有無,眼圧上昇などについて比較した。フィブリン析出,虹彩後癒着ともにⅠ群では6眼中5眼(83.2%),Ⅱ群ではそれぞれ3眼中2眼(66.7%),および1眼(33.3%)とかなりの高率で出現したのに対し,Ⅲ群はフィブリン析出が7眼中1眼(14.3%),虹彩後癒着は全く認められず,その出現頻度に有意差が認められた。水晶体嚢混濁の発生はⅠ,Ⅱ群に比べ,Ⅲ群はかなり早くから出現し,その程度も強く,2眼は観血的処置を必要とした。術後,眼底状態が悪化し例再手術に至ったものは,増殖性変化の増強により,牽引性網膜剥離を呈したⅠ群の1症例のみであった。

糖尿病性黄斑症に対するアルゴンおよびダイレーザーによる格子状網膜光凝固術の検討 第1報

著者: 藤井正満 ,   早坂征次 ,   古瀬なな子 ,   関本美穂子 ,   山本由香里 ,   瀬戸川朝一

ページ範囲:P.1033 - P.1036

 島根医科大学眼科糖尿病外来における糖尿病性網膜症のうち,両眼性糖尿病性黄斑症を有する24症例48眼に対し,片眼のみにアルゴンまたはダイレーザーによる格子状網膜光凝固を行い,反対眼をコントロールとして,各眼の視力の推移を検討した。
 術後視力は,2段階以上を改善または悪化,1段階以内を不変とすると,アルゴン0,13,2,ダイ1,7,1,コントロール3,16,5眼であった。視力の悪化は,術前後部硝子体剥離のなかった症例のみに生じた。格子状凝固眼では,水晶体混濁の進展や硝子体出血が原因であったが,コントロール眼では黄斑浮腫の進行が5眼中3眼に認められた。
 糖尿病性黄斑症に対する格予状網膜光凝固は,アルゴン,ダイレーザー共に黄斑浮腫1こよる視力低下を予防する可能性が考えられた。

ソフトコンタクトレンズ保存液の微生物学的汚染状況の検索

著者: 加藤俊彦 ,   塩田洋 ,   三村康男 ,   伊藤義博 ,   程争平 ,   東堤稔 ,   坂本雅子 ,   三輪谷俊夫

ページ範囲:P.1037 - P.1040

 ソフトコンタクトレンズ(SCL)保存液(レンズケースに注入する前のstock solution)96検体からアメーバ分離を試みた。そのうち1検体を除き細菌,真菌の分離,同定もあわせ行い,さらに分離された細菌については薬剤感受性試験を行って,次の結果を得た。
 微生物汚染は81検体にみられ,16検体(16.7%)から自由生活アメーバが分離され,そのうち4検体(4.2%)からの分離株はアカントアメーバと同定された。使用中のSCL保存液4.2%からアカントアメーバが検出されたことは,注目に値する事実であろう。細菌は全部で202株分離され,このうちグラム陰性正菌が83.2%(168株)を占めていた。真菌は21検体から26株分離された。
 アメーバ陽性検体では真菌,細菌の汚染率も高かった。特に真菌に関しては,アメーバ陽性保存液は陰性のものに比べて約2.3倍の汚染率がみられた。
 また,汚染は自家製保存液に高率で,保存液や容器の消毒管理法について患者をもっと指導する必要が感じられた。

頭頸部損傷患者の調節機能特性と動的調節検査の有用性について

著者: 伊比健児 ,   岩崎常人 ,   秋谷忍 ,   大塚正博

ページ範囲:P.1041 - P.1045

 筋弛緩剤の投与を受けていない35歳以下の頭頸部損傷患者12名に対して準静的調節検査とステップ刺激による調節検査を行い,その調節特性を把握した。さらに同患者に対して塩酸エペリゾンの投与を行い,同様の検査を行って以下の結果を得た。
 1)準静的調節検査結果が正常でも,調節弛緩時間や調節緊張時間が延長している患者が5例認められた。
 2)塩酸エペリゾン投与後に準静的調節検査結果が不変であっても調節弛緩時間の短縮と調節緊張時間の延長が認められた患者が1例認められた。
 3)準静的調節検査結果が正常でも調節緊張時間が延長している患者に塩酸エペリゾンを投与すると調節麻痺様状態になった患者が1例認められた。
 これらの結果から,頭頸部損傷患者に対するステップ刺激による調節検査は有用であると考えた。

脳性視覚障害の幼少児における視覚誘発電位長期観察例の検討

著者: 正城良樹 ,   西岡ゆかり ,   田淵昭雄 ,   筒井純 ,   松田盈子

ページ範囲:P.1047 - P.1050

 主訴として追視のない皮質盲が疑われた12例(男児10例,女児2例)を対象に、覚醒時に1J,1Hzのキセノンフラッシュ光刺激によるVEPを,1か月以上の間隔をあけて2〜7回施行し,経過観察した。初回施行時,後頭部の反応が認められたものは12例中9例(75%)で,3例は有意な反応は認められなかった。反応の認められた9例のうち,2回目以降に潜時の短縮,振幅の増大,持続の短縮というVEP上の改善が8例に認められ,これらの例は1例を除き臨床的に視覚行動の出現と一致していた。最初,反応が得られなかった3例は,2回目以降に反応の出現があり,ほぼ同時かやや遅れて視覚行動の出現をみた。脳性視覚障害児におけるVEPは視機能判定には有用であり,VEP所見と視反応出現時とは良く一致している。脳性視覚障害児に対しては,機能発達の面からも繰り返し検査することが必要であると考えられた。

糖尿病性網膜症の硝子体所見について

著者: 市岡博 ,   木村英也 ,   網野憲太郎 ,   市岡伊久子

ページ範囲:P.1053 - P.1056

 単純型糖尿病性網膜症の583眼につきその硝子体の状態を検討した。
 年代別に正常者と比較したところ,後部硝子体界面の観察される例は正常者より多かったが,後部硝子体境界面とグリア環の双方が認められる例は60及び70代で有意に少なかった。
 グリア環の認められる例は乳頭周囲の後部硝子体の剥離が完成していると考えられるが,単純型糖尿病性網膜症の症例においては黄斑前液化腔が形成されることにより後部硝子体剥離率は少なくなると思われた。

学術展示

渦静脈結紮と前房フレアー

著者: 小山信之 ,   堀内二彦

ページ範囲:P.1074 - P.1075

 緒言 渦静脈の循環障害は,網膜剥離手術時,眼窩腫瘍,強膜炎,頸動脈—海綿静脈洞瘻などにみられ,渦静脈循環障害が眼循環障害や眼圧に与える影響についての報告は多いが,渦静脈結紮が血液房水柵に与える影響についての基礎的実験は少ない。そこで,渦静脈結紮と前房フレアーの関係について基礎実験を行い興味ある結果を得たので報告する。
 実験方法 実験材料には体重2.0〜3.6kgの成熟有色家兎を6羽使用した。測定装置としてOCVM(oculo cerebrovasculometer)により眼圧を,レーザーフレアーセルメーター(FC1000,興和社)により前房フレアー値を測定した。渦静脈結紮切断のためにはバルビツレート静脈麻酔下で行い,眼圧ならびに前房フレアー値測定にはキシロカイン点眼麻酔のみで行った。渦静脈結紮切断は,輪部結膜を上半周切開剥離し,手術用顕微鏡下で右眼の渦静脈を2本,左眼の渦静脈を1本5.0絹糸にて結紮切断した。眼圧と前房フレアー値の測定は,塩酸フェニレフリン点眼散瞳下で行い,渦静脈結紮前ならびに結紮直後より30分毎に上述の装置を用いて行った。

副睾丸炎に続発した片眼性単純ヘルペス性網脈絡膜炎を疑った1症例

著者: 江口真奈美 ,   堀澤信喜 ,   平井樹男

ページ範囲:P.1076 - P.1077

 緒言 従来まで原因不明とされているぶどう膜炎に,ヘルペス群ウイルスの眼内感染の関与が示唆される様になり,眼内ウイルス感染が疑われる疾患の病因診断においては,ウイルス抗体率(Q値)の算出は,治療方針をたてるうえで重要である1,2)。今回我々は,副睾丸炎に続発したウイルス性網脈絡膜炎と思われる1例を経験したので報告する。
 症例 31歳,男性。ルワンダ(アフリカ)人。

最近経験したカンジダ性眼内炎の2例

著者: 楠目佳代 ,   上野脩幸 ,   割石三郎 ,   玉井嗣彦 ,   北川隆夫 ,   江口泰右 ,   田口博國 ,   三好勇夫

ページ範囲:P.1078 - P.1079

 緒言 抗生物質,免疫抑制剤の長期投与,あるいは高カロリー輸液(IVH),血管内カテーテル留置などを原因として,内因性真菌性眼内炎は最近増加しつつある1)。今回我々は,IVHが原因と思われる真菌性眼内炎の2症例を経験し,1例は頭皮膿疱よりカンジダ属を,1例は硝子体切除試料よりCandida albicansを確認しえたので報告する。
 症例 症例1:55歳,女性。1987年7月,上腹部痛のため食事摂取不能となり,7月28日よりIVHが施行されたが41日後,発熱のため抜去された。口腔内白斑のほか,胸部X-Pにて両肺門に散布性陰影がみられた。咽頭および頭皮膿疱の培養よりカンジダ属が認められ,カンジダ性敗血症と診断された。IVH挿入後10日目頃より左眼の飛蚊症を訴え,同年9月22日当科に受診となった。

網膜血管閉塞症と血液分析

著者: 阿部信一 ,   塩野貴 ,   玉井信 ,   菅井浩二 ,   森和夫

ページ範囲:P.1080 - P.1081

 緒言 近年,我々は,眼循環障害と血液成分の異常との関係に興味をもち,循環障害に起因すると考えられる眼底疾患に対して血液凝固系を中心とした血液分析を試みている1〜3)。今回は網膜血管閉塞症における血液成分を分析し,新たに発見された血液異常を示す症例から眼科領域における血液分析の重要性を考察した。
 方法 1988年8月から12月までの5か月間に血液分析を行った網膜血管閉塞症50例,および同じ期間に検査を行った網膜血管閉塞以外の疾患11例(白内障,網膜剥離など)を対象とした。症例の内訳は表1に示す通りであり,朝食をとらずに来院させ,喫煙者に対しては1時間以上の禁煙後に採血を行った。

黄斑浮腫を伴った網膜中心静脈閉塞症に対する高気圧酸素療法

著者: 児玉州平 ,   白神史雄 ,   豊田英治 ,   松尾信彦

ページ範囲:P.1082 - P.1083

 緒言 最近,網膜静脈閉塞症に対する高気圧酸素療法の有効性が報告されている1,2)。著者らも,黄斑浮腫を伴った網膜中心静脈閉塞症に対して高気圧酸素療法を施行し良好な治療成績を得たので報告する。
 対象および方法 対象は岡山大学医学部附属病院眼科を受診した網膜中心静脈閉塞症10例10眼である。年齢は44〜73歳までで,男性3例,女性7例であった。発症から高気圧酸素療法までの期間は2週〜10か月,平均2か月で,10例中8例は発症から1.5か月以内の新鮮例であった。全例ともに検眼鏡的に黄斑浮腫を認め,螢光眼底写真では虚血型4例,漏出型6例で,いずれも黄斑を中心とする螢光色素の漏出を伴っており,これが視力低下の主因と考えられた。

塩酸ビフェメラン(セレポート®)の網膜動脈閉塞症に対する効果について

著者: 平山善章 ,   松永伸彦 ,   田代順子 ,   雨宮次生 ,   岩崎むつよ

ページ範囲:P.1084 - P.1085

 緒言 最近多数開発され有効性が報告されている脳梗塞後遺症に対する薬剤は,いずれも脳代謝を賦活し,脳循環改善とともに脳神経伝達機能を改善する。従って,この種の薬剤は,脳梗塞後遺症や脳出血後遺症に効果があると考えられる。網膜は脳神経で構成されており,脳機能改善剤が網膜の循環障害にも効果があってもよいと我々は考える。そこで我々は,網膜動脈閉塞症に塩酸ビフェメラン製剤であるセレポート®を使用したところ,その有効性を確認したので報告する。
 症例と研究方法 症例は長崎大学医学部附属病院眼科を受診し,網膜中心動脈閉塞症の診断を受けた発症1か月以内の患者である。本症の診断を下した患者には,セレポート®3錠(1錠50mg)/日,分3で投与した。症例によってはウロキナーゼ24万単位/日点滴静注7日間,アスピリン0.5g/日 経口投与,高圧酸素療法20回,プレドニン大量投与などを併用した。

広範な網膜血管炎をきたした中枢神経ループスの1例

著者: 矢野貴資 ,   白木邦彦 ,   三木徳彦 ,   藤澤美井子 ,   紙森隆雄 ,   井上隆智

ページ範囲:P.1086 - P.1087

 緒言 全身性エリテマトーデス(以下SLE)に合併する眼病変に関しては,網膜のみならず,種々の眼組織における病変が報告されている。近年,SLEの診断・治療の進歩に伴い,重篤な眼病変の合併例は少なくなっている。今回我々は,高度の網膜血管炎を呈した中枢神経ループスの1例を経験したので報告する。
 症例 16歳,男性。

Empty Sellaを伴ったCrow-Fukase症候群における網膜血管ループ形成の1例

著者: 北大路浩史 ,   北大路勢津子 ,   岩崎博道 ,   小川一也

ページ範囲:P.1088 - P.1089

 緒言 Crow-Fukase症候群(C-F症候群)は,Plasma cell dyscrasiaに,多彩な全身症候を伴う疾患で,うっ血乳頭を合併することが多い。一方,Empty sellaは鞍隔膜の不全による,くも膜下腔のトルコ鞍内陥入をいうが,これら2疾患の合併についての報告はない。今回,これらの合併のみならず,乳頭上網膜血管ループ形成をも認めた,極めて稀な症例を経験したので報告する。
 症例 60歳,女性。

糖尿病性網膜症に対するDyeレーザー光凝固200眼の検討

著者: 大野研一 ,   戸張幾生

ページ範囲:P.1090 - P.1091

 緒言 糖尿病性網膜症に対するdyeレーザー光凝固療法の有用性について,我が国においても近年いくつかの報告1-3)が見られるようになってきた。今回我々はdyeレーザー光凝固療法を受けた糖尿病性網膜症,多数例について臨床的検討を行いその有用性について検討したのでここに報告する。
 方法  対象は1987年3月より1989年3月までの間に,当院眼科外来においてdyeレーザー(波長577 nm,590nm)による光凝固を受けた糖尿病性網膜症例で,光凝固後1か月以上経過観察を行ったもののうち,無作為に選んだ200眼である。網膜症を,単純型,前増殖型,増殖型に分類し術前術後の観力を測定し.術前よりも2段階以上の視力改善が見られたものを視力改善群,術前よりも悪化したものを悪化群,その他を不変群とした。さらに全症例を黄斑症を認める群と認めない群とに分け,その視力予後についても比較検討した。凝固条件は凝固径が200μmまたは500μm,凝固時間0.2〜0.5秒,凝固出力150〜350mw,凝固数が単純型:250発,前増殖型および増殖型:1000〜1500発である。

漿液性網膜剥離を示した網膜色素上皮裂孔の1例

著者: 丹羽美佳 ,   原田敬志 ,   三浦元也 ,   安藤以久子

ページ範囲:P.1092 - P.1093

 緒言 網膜色素上皮(以後,色素上皮と略す)裂孔は,1981年Hoskinらにより最初に報告され以後わが国でも色素上皮剥離に特発性に,またはその光凝固治療の後に発生した症例がいくつか報告されている。
 今回我々は,腎移植後の39歳の男性にみられた色素上皮剥離の経過観察中,色素上皮裂孔が発生し,ひき続いて漿液性網膜剥離を生じた症例を経験したので報告する。

老人性円板状黄斑変性症の前段階と考えられる黄斑所見—その1 網膜色素上皮症様症例

著者: 湯沢美都子 ,   麻生伸一 ,   高橋良子 ,   松井瑞夫 ,   広沢和代

ページ範囲:P.1094 - P.1095

 緒言 老人性円板状黄斑変性症(以下SDMDと略す)は60〜70代に好発し,近年では老人の主要失明原因のひとつとして注目されている。筆者らは駿河台日大病院眼科でSDMDと診断した症例中に40代後半,50代に好発し,対側限に後極部の広い範囲に色素上皮の異常をみとめた一群のあることに着目し,それら症例の特徴,黄斑部脈絡膜新生血管の前段階と考えられる所見について検討した。
 対象および方法 対象は以下の2群から成る。Ⅰ群:片眼性SDMDで,対側眼の後極部の広い範囲に色素上皮剥離,水滴状の色素上皮の萎縮,散在性の色素上皮の萎縮などを認めた14例である(図1,2)。Ⅱ群:片眼あるいは両眼にI群の対側眼と同様の異常がみられた38例63眼である(図3)。

原発性定型網膜色素変性症の遺伝的異質性と臨床像に関する検討

著者: 早川むつ子 ,   藤木慶子 ,   田辺歌子 ,   堀田喜裕 ,   金井淳 ,   加藤和男 ,   中島章 ,   本田孔士

ページ範囲:P.1096 - P.1097

 緒言 原発性網膜色素変性症(本症と略す)の遺伝形式別頻度や臨床像については,すでに我が国でも報告1,2)があるが,これらにはX染色体性遺伝(X性と略す)が極めて少なく,その臨床像については明らかにされていない。1975年のBird3)の総説以来,我が国でもX性について見直しがなされるようになり,また血族結婚の著明な減少に加え小家族化傾向の進行など,遺伝に関する状況も変化して来ている。そこで今回私達は遺伝相談並びに患者の予後の推定に役立つ資料を得る目的で,遺伝的異質性と各遺伝形式における臨床像の差異について検討したので報告する。
 方法及び対象 1980〜1988年の9年間に順天堂大学眼科を受診して網膜色素変性症と診断された症例のうち,眼底写真または詳細な眼底スケッチの記録があって,非定型的本症や,近縁疾患であるコロイデレミアやGyrate atrophyなどとの鑑別ができ,かつ症候群に属する者や,ぶどう膜炎既往者,特殊な全身異常合併者などを除き,家族歴の詳細な記録のある定型本症の385例,男性221名,女性164名,平均年齢40.6±17.1歳を対象とした。なお,一般的な定型本症の予後を知る目的のため,指眼徴候を有するレーバー先天盲や黄斑コロボーマを有する先天発症例も対象から除外した。各遺伝群の発症時期,視力や視野の程度,ERG所見,経過年数と視力の関係について比較した。

白内障術後に発生した急性びまん性網脈絡膜変性の1例

著者: 中西祥治 ,   三木統夫 ,   高木茂 ,   西上哲弘 ,   玉井嗣彦

ページ範囲:P.1098 - P.1099

 緒言 近年,眼科手術の進歩に伴い,白内障手術は安全な手術となりつつあり,重篤な合併症が生じることは稀である1)
 今回,白内障術後に急激かつ高度の不可逆性視力障害をきたし,のちに広範な網脈絡膜の変性所見を認めた1例を経験したので報告する。

Reticular dystrophyの1例

著者: 浜本順次 ,   舩田雅之 ,   岡本勲夫 ,   長田正夫 ,   玉井嗣彦 ,   早坂征次

ページ範囲:P.1100 - P.1101

 緒言 Reticular dystrophyは,螢光眼底撮影で特異な所見を呈し,網膜色素上皮の疾患と考えられている。今回,reticular dystrophyの1例を経験したので報告する。
 症例 63歳,男性。

小口病と中心性輪紋状脈絡膜萎縮症の合併

著者: 元倉智博 ,   三宅養三 ,   城山敬康 ,   森林平

ページ範囲:P.1102 - P.1103

 緒言 小口病1)は先天性停止性の夜盲を呈する遺伝性疾患で暗順応障害や特有の眼底所見を示し,古くから知られている。小口病と中心性輪紋状脈絡膜萎縮症の合併は文献的には1984年の菅原ら2)の報告した1例がみられる。この他に小口病に限局性網膜脈絡膜萎縮がみられた例3),下耳側動脈に沿った網膜色素上皮の変化がみられたもの4),色素性傍静脈網脈絡膜萎縮が片眼にみられた例5)等の報告がある。
 今回我々は小口病に中心性輪紋状脈絡膜萎縮症を合併した1例を経験し,その妹を検査したところ小口病に加え中心性輪紋状脈絡膜萎縮症の初期変化を示唆する所見を得たので報告する。

杆体系と錐体系—その5:狭義先天性停止性夜盲と小口病における検討

著者: 野呂充 ,   塩野貴 ,   板橋隆三 ,   玉井信

ページ範囲:P.1104 - P.1105

 目的 暗順応経過中に光覚閾と色覚閾の分離(図1)がみられ,それが杆体系と錐体系の相互作用であろうと考えられている1,2)。我々は先に(第93回日眼総会)網膜色素変性症および色覚異常者における相互作用を調べ,後者では正常であるのに前者では杆体系の機能低下にともなって錐体系に対する抑制も減少することを観察した。今回,狭義先天性停止性夜盲と小口病における相互作用について検討した。
 症例および方法 マックスウェル視(図2)による光学系を用いた。暗順応10分,明順応5分後に測定を開始した。原則として固視灯は680nm,刺激光は520nmで中心窩から耳側6°の網膜を刺激した。刺激の持続時間は100msec,間隔は光覚閾測定時は2sec,色覚閾測定時は10sec以上で光覚閾と色覚閾を測定した。

網膜硝子体境界面の構造—ミュラー細胞にみる裏打ち構造について

著者: 原彰 ,   中込豊

ページ範囲:P.1106 - P.1107

 緒言 網膜硝子体境界面の構造についていくたの論議がなされてきた。境界面の核ともなる網膜内境界膜の構造は主に光顕や電顕によって観察されてきたが,未だにその構造が明確に理解されていない。論議の的となっているものは①網膜硝子体境界面を形成する網膜内境界膜が他の組織にみられる様に上皮細胞の基底膜として機能し基底膜内孔形成のようなものが網膜内境界膜にも存在するのかどうか1,2),網膜内境界膜は硝子体皮質の濃縮したものなのか3,4),硝子体と内境界膜および内境界膜と網膜の結合はどのようなものなのか5,6),人眼では乳頭縁で網膜内境界膜が不連続となっているのだろうか5,7)などを含む他諸々の事となっている。また網膜内境界膜の性状が解明された分あらたな疑問が発生しているのも現状である。著者らはこれらいくたの疑問を少しずつ解明するため,眼底後極部の広い範囲の網膜内境界膜を網膜より人為的に剥離し,その後網膜硝子体境界面の構造を調べようとする方法をとってきた。著者らの方法により家兎眼・人眼とも網膜内境界膜は網膜より人為的に剥離できることが判っている。そこで今回この方法を人眼に用い,まず網膜内境界膜の構造のうち内境界膜下の構造をしらべた。内境界膜下の構造のうちでは網膜血管の露出がミュラー細胞基底部面のどの領域の網膜で起きているのかに焦点を当てた。
 対象および結果 年齢29〜86歳で死亡した人眼23眼を用いた。

乳頭血管炎(網膜中心静脈閉塞型)に対する治療

著者: 山下幸伸 ,   浜畑和男 ,   鈴木康之 ,   山下英俊

ページ範囲:P.1108 - P.1109

 緒言 乳頭血管炎は,若年者の片眼に乳頭浮腫様(Type Ⅰ:Hayreh)あるいは網膜中心静脈閉塞症(CRVO)様(Type Ⅱ)の所見を呈する。多くは視力障害が軽度で予後も比較的良好であるが,一部に高度な視力低下や,新生血管の発生をみた例も報告されている。今回我々はType Ⅱを呈した2症例を経験し,積極的治療を試みたところ,良好な反応がみられたので報告する。
 症例 患者:21歳,女性。初診:1989年3月6日。主訴:左眼飛蚊症。既往歴:肥厚性鼻炎。初診時所見:視力V.d=1.0(1.0×cyl−0.25D 115°) V.s.=0.9p (1.0×cyl−0.5D85°)

前部虚血性視神経症を合併したLeber's idiopathic stellate neuroretinitisの1例

著者: 石原麻美 ,   石原広文 ,   湯田兼次

ページ範囲:P.1110 - P.1111

 緒言 Leber’s idiopathic stellate neuroretinitisは視神経乳頭浮腫と黄斑部星芒状白斑を特徴とする原因不明の疾患である。本症はウイルス感染との関連が示唆され,自然寛解傾向が強く,視力予後は概して良いが,なかには悪いものも散見され,前部虚血性視神経症(AION)を合併している可能性があると言われている。今回我々はAIONを合併し視力回復が不良であった本症の1例を経験したので報告する。
 症例 39歳,男性。既往歴,家族歴には特記すべきことなし。主訴 右眼のかすみ。現病歴及び経過 1989年1月16日より右眼のかすみが出現し18日当科初診。先行感染はなかった。初診時所見はvd=0.3(n.c),vs=0.6(1.2)。眼位,眼球運動,眼圧,中間透光体に異常を認めず,右眼に高度の瞳孔人力障害があり,中心フリッカー値(C.F.F)は右20,左37であった。右眼には高度の硝子体混濁を認め,眼底は透見困難であったが,乳頭及び乳頭周囲から黄斑部におよぶ著明な浮腫と,乳頭の下方に線状出血が見られ,静脈の拡張蛇行を認めた(図1)。視野検査にて右眼に上水平半盲を認めた(図2)。末梢血,生化学,尿一般検査およびウイルス抗体価,トキソプラズマ抗体価,HIV抗体価を含めた血清学的検査に異常を認めなかった。

副鼻腔炎手術に合併した視神経損傷の1例

著者: 中木直美 ,   池田誠宏 ,   久米千鶴 ,   梅山秀樹 ,   佐藤圭子

ページ範囲:P.1112 - P.1113

 緒言 副鼻腔炎手術の眼科的合併症は,眼瞼浮腫のような軽度のものから眼筋麻痺,視神経障害に至るまで種々のものが報告されている1)。我々眼科医はこのような症例についての充分な知識を持っておく必要がある。今回我々は,副鼻腔炎手術に視神経損傷を合併した症例を経験したので報告する。
 症例 46歳,女性。

視神経萎縮を呈したMetaphyseal Chondrodysplasia Jansen型の1例

著者: 藤沢昇 ,   海平淳一 ,   佐藤雪雄 ,   保谷卓男 ,   石原淳 ,   瀬川雄三

ページ範囲:P.1114 - P.1115

 緒言 Metaphyseal Chondrodysplasia (Meta-physeal Dysostosis)は,内軟骨性骨化障害を生じる先天性骨系統疾患で,主に長管骨がおかされる。そのうちもっとも重症型で頭蓋骨障害を合併するJansen型は極めてまれで,1934年Jansen1)が報告して以来世界で約14例の報告をみるに過ぎない。本症の眼科領域での報告は現在までなく,今回視神経管周囲の骨の肥厚に起因すると思われる視神経萎縮の症例を経験したので報告する。
 症例 6歳,男子。初診:1988年4月22日。主訴:左眼の視力低下。家族歴:血族結婚なく,特記すべきことはない。

菌血症に合併した網膜壊死の1例

著者: 池田誠宏 ,   佐藤圭子

ページ範囲:P.1116 - P.1117

 緒言 菌血症に伴う眼内炎は転移性眼内炎と呼ばれ,抗生剤の発達した近年,稀なものとなりつつある。しかし,ひとたび発症すればその進行は急速で,今日でもその視力予後は極めて不良である。今回我々は肝膿瘍に続発した敗血症に網膜壊死を合併し,さらには眼内炎に至った症例を経験したので報告する。
 症例 63歳男性。

片眼にぶどう膜欠損を伴った乳頭欠損の1例

著者: 久保田芳美 ,   伊藤忍 ,   磯貝豊 ,   齋藤伸行 ,   前田朝子 ,   杤久保哲男 ,   河本道次

ページ範囲:P.1118 - P.1119

 緒言 胎生裂閉鎖障害による定型的脈絡膜欠損は,眼の先天異常のなかで遭遇する機会の比較的多い疾患である。今回,我々は右眼にぶどう膜欠損,左眼に乳頭欠損を認めた比較的まれな両眼性の先天奇形と思われる症例を経験したので,若干の文献的考察を加え報告する。
 症例 57歳,女性。

異常ヘモグロビン症にみられた網膜症の1例

著者: 伊従直子 ,   野地潤 ,   宮崎仁志 ,   戸田和重 ,   岩井玲子

ページ範囲:P.1120 - P.1121

 緒言 熱帯アフリカ等ではよくみられる鎌状赤血球症などの異常ヘモグロビン症は,アメリカ合衆国の黒人では約10%に認められるという報告もある1)。本邦においては,このような異常ヘモグロビン症に日常診療において遭遇することはきわめて稀である。今回我々は,急激な視力低下を主訴に来院したガーナ人男性で,異常ヘモグロビン症に伴った網膜症の1例を経験したので,ここに報告する。
 症例 33歳,黒人男性

網膜静脈閉塞症における虹彩ルベオーシス発症因子の検討

著者: 周藤昌行 ,   加島陽二 ,   山崎芳夫 ,   渡利浩水

ページ範囲:P.1122 - P.1123

 緒言 虹彩ルベオーシスは,網膜静脈閉塞症,糖尿病性網膜症など,種々の眼疾患における網膜循環障害に続発して出現することが知られているが,その病態については未だ不明な点も多い1)。そこで今回,虹彩ルベオーシス出現に寄与する因子を解明する目的で,全身的及び局所的因子の有無と虹彩ルベオーシスの有無との関係を検討した。さらに,虹彩ルベオーシス用現例について臨床像の特徴からその発症機序について検討を加えた。
 対象および方法 当科外来における最近2年間に経験した新鮮例と陳旧例を含めた網膜静脈閉塞症252例を対象とした。解析方法は,全身的因子として,高血圧,高脂血症,糖尿病,腎疾患,動脈硬化を,局所的因子として,病態,病型,螢光眼底造影所見(無血管野),乳頭新生血管,網膜新生血管,網膜光凝固術の各因子につき,虹彩ルベオーシスとの相関をカイ自乗検定および多変量解析(数量化理論2類)を用いて検討した。

連載 眼科図譜・288

涙小管乳頭腫の1例

著者: 高橋美智子 ,   渡部環 ,   塩野貴 ,   玉井信

ページ範囲:P.978 - P.979

 緒言 涙小管乳頭腫は,1818年,De-maiensにより初めて報告された疾患とされ,その頻度は非常に稀といわれている1,5)
 涙小管乳頭腫の原因は,結膜乳頭腫やその他の乳頭腫の原因が,human papilloma virusであることより,human papilloma virusが疑われている5)が,明らかにされていない。

眼の組織・病理アトラス・45

縮瞳と散瞳

著者: 猪俣孟 ,   岩崎雅行 ,   田原昭彦

ページ範囲:P.982 - P.983

 瞳孔pupilは眼内に入る光の量を調節する。明るい所では縮瞳miosis (図1)がおこり,逆に,暗い所では散瞳mydriasis (図2)がおこる。縮瞳は瞳孔括約筋sphincter pupillaeの緊張と瞳孔散大筋dilator pupillaeの弛緩によっておこり,散瞳は瞳孔散大筋の緊張と瞳孔括約筋の弛緩によっておこる。ヒトの瞳孔径は,極度に縮瞳した状態で約1mm,極度に散瞳した時には約9mmになる。つまり,散瞳時の瞳孔の面積は縮瞳時の約80倍にも達する。また,虹彩根部から瞳孔縁までの全幅は,縮瞳時が1.2mm,散瞳時が4.3mmで,虹彩の実質は放射状に約3.6倍の割合で伸縮する。このことから虹彩がいかに伸縮性に富む組織であるかが理解できる。
 瞳孔括約筋も瞳孔散大筋も神経外胚葉由来の上皮性細胞から筋組織が発達したものである。瞳孔括約筋は眼杯先端部から伸びた2層の神経外胚葉のうち,外層の神経上皮性細胞から実質側に伸びる筋突起が集合して平滑筋となったもので,瞳孔散大筋は外層の細胞が筋上皮細胞に分化したものである。すなわち,虹彩前上皮細胞は上皮性細胞としての特徴と平滑筋細胞として特徴を有していることになる。

眼科薬物療法のポイント—私の処方・19

MRSA眼感染症(その1)

著者: 大石正夫

ページ範囲:P.1057 - P.1059

 患者は64名,男性。上咽頭腫瘍で耳鼻咽喉科に入院,CDDP,5FU療法中である。数日前より右眼に外麦粒腫を発症し,エコリシン眼軟膏の点眼,ケフラール750mg(3×1)を内服したが改善せず当科を受診した。
 主訴:右眼痛,上眼瞼の発赤,腫脹

眼科手術のテクニック—私はこうしている・19

周辺虹彩切除

著者: 荻野誠周

ページ範囲:P.1061 - P.1063

周辺虹彩切除術の重要性
 レーザー虹彩切開術により瞳孔ブロック緑内障の原因—瞳孔ブロックの解除が容易になった。とりわけ急性発作眼の僚眼の予防手術は極めて安全性が高くなった。しかしわたしたちの経験では急性発作眼での眼圧コントロール率は周辺虹彩切除の方がレーザー虹彩切開に勝っている。前者では30眼のうち無点眼で30%,点眼で23%,合わせて53%がコントロールされていたが,後者では19眼のうちそれぞれ5%,26%,合わせて32%であった。慢性閉塞隅角緑内障の型でも周辺虹彩切除92眼ではそれぞれ37%,43%,合わせて80%であるのに,レーザー虹彩切開51眼ではそれぞれ25%,48%,合わせて73%であって,周辺虹彩切除はより確実であると考えられる。レーザー虹彩切開術は切開孔が小さいので,水晶体の前方移動ないしは膨隆が大きい場合には切開孔でのブロックが生じる可能性があるし,また糖尿病眼や水晶体偽落屑症候群のような場合には切開孔が閉じてしまうこともある。周辺虹彩切除術は忘れてはならない重要な術式である。

今月の話題

網膜剥離の液体シリコンによる治療

著者: 安藤文隆

ページ範囲:P.1069 - P.1072

 増殖性硝子体網膜症硝子体切除後の眼内タンポナーデ物質として使用する液体シリコンの長所,欠点,適応などにつき述べ,液体シリコンを用いた手術法につき,赤道部輪状締結術からオイル抜去までを具体的に記述した。

臨床報告

中心性両耳側半盲を呈したエタンブトール中毒の1例

著者: 万代道子 ,   吉村長久 ,   本田孔士 ,   隅田義夫

ページ範囲:P.1124 - P.1127

 中心性両耳側半盲が82歳男子に発症した。視力は0.6と0.2であった。頭蓋内には病変は発見されなかった。初診3か月後に,初診の10か月前からエタンブトールを一日量1g連続服用していたことが判明した。エタンブトール服用中止6か月後に,視野,色覚,視力が回復した。エタンブトールが視交叉部に限局性の病変をおこしたと推定された。診断確定には問診が有力な手掛りとなった。

後極部小円孔に起因する網膜剥離に対する Cyanoacrylate Retinopexy

著者: 前田利根 ,   矢田浩二 ,   樋田哲夫

ページ範囲:P.1128 - P.1132

 後極部小円孔に起因する網膜剥離に対する手術方法は強膜バックリングよりも三宅の硝子体内ガス注人法とGonvers & Machemerの硝子体切除。internal drainageとガスタンポナーデによる方法が一般的となってきた。しかしながら、時にいずれの方法でも復位が得られない場合がある。黄斑円孔2例,後部ぶどう腫内小円孔2例,後極部小円孔1例および朝顔症候群に合併した乳頭辺縁円孔の計6例に対し,cyanoacrylate retinopexyを行った。朝顔症候群以外の5例はすべて増殖性硝子体網膜症を伴っており,うち4例は複数の手術後の円剥離例である。全例に復位が得られ,黄斑円孔例においても術後視力は満足すべきものと考えられた。

汎網膜光凝固前後の糖尿病性網膜症眼の瞳孔反応

著者: 福田敦 ,   小笠原孝祐 ,   吉村弦 ,   高橋和博 ,   中島理子 ,   田澤豊

ページ範囲:P.1133 - P.1136

 増殖性糖尿病性網膜症に対する汎網膜光凝固後に,特異な瞳孔反応を示すことが示唆されたので報告する。対象は,福田分類でB-I以上の悪性(前)増殖糖尿病性網膜症20眼を選び,緑色アルゴンレーザーによる汎網膜光凝固の前後に1.25%エピネフリンと0.125%ピロカルピンの点眼試験を行った。汎網膜光凝固前では,1.25%エピネフリンに対して明瞭に散瞳し,過敏性を示したのに対し,0.125%ピロカルピンに対する反応はきわめて小さかった。汎網膜光凝固後1〜3か月後は,光凝固前とは異なり,1.25%エピネフリンに対する反応は減弱し,逆に0.125%ピロカルピンに著明な縮瞳を示した。汎網膜光凝固後に低濃度副交感神経作動薬に対して過敏性を小したのは,レーザー照射が眼内を走行する副交感神経線維を障害し,瞳孔括約筋内の除神経効果をもたらしたためと推察された。

硝子体手術に発見される硝子体基底部裂孔

著者: 松村美代 ,   井戸稚子 ,   岩崎義弘 ,   加藤研一 ,   小泉閑

ページ範囲:P.1137 - P.1139

 硝子体手術終了時に全周強膜圧迫を行いながら眼底検査を行い,手術終了時には裂孔のないことを確かめ,術後1週以内に鋸状緑近傍に裂孔の発見された例について検討した。発生率は初回手術140眼中8眼(5.7%)で再手術例には見られなかった。全例有水晶体眼で,裂孔の方向性は術者の右手側に6眼,左手側に2眼であった。強膜創に陥入した周辺部の残存硝子体が,術後に収縮し硝戸体基底部を牽引して裂孔を形成するものと考えられた。

呼吸器感染を合併した新生児封入体結膜炎の5例

著者: 中川尚 ,   中川裕子 ,   徳島邦子 ,   伊藤ゆたか ,   小木曽正勝

ページ範囲:P.1141 - P.1145

 封入体結膜炎発症後に呼吸器症状が出現した新生児5症例について,その臨床像を検討した。症例は男児3例,女児2例で,4例は経腟分娩,1例は帝王切開分娩児であった。結膜炎は生後4日から10日に発症し,両眼性3例,片眼性2例で,5例中4例に偽膜形成を認めた。咳,鼻汁,くしゃみなどの呼吸器症状が生後7日から39日に出現し,いずれも発熱はなかった。1例は胸部レントゲン検査,血液検査で典型的なクラミジア肺炎を認め,2例は軽度の肺炎,残る2例はクラミジアによる上気道炎と考えられた。肺炎をおこした3例では,血清の抗C.trachomatis IgM抗体が陽性であった。全例エリスロマイシンの経口投与により,呼吸器症状は消失した。母親の検査では3例中1例に子宮頸管のクラミジア抗原陽性,血清抗C.trachomatis IgG抗体は検査した41例全例に検出された。封入体結膜炎患児に対しては全身合併症特に呼吸器感染に注意して経過観察,治療を行う必要がある。

後房眼内レンズ挿入術眼における交感性反応の定量的観察

著者: 加藤直子 ,   小紫裕介 ,   三浦昌生 ,   新城光宏 ,   中川成則 ,   岩城正佳 ,   近藤武久

ページ範囲:P.1147 - P.1150

 内眼手術を行うと,術眼では血液房水関門が破綻して術後炎症が生じるが,それが他眼に交感性に伝達し,他眼にも炎症,いわゆる交感性反応が発生すると言われている。この,交感性反応を究明するために,水晶体嚢外手術後に後房眼内レンズ挿入を行った20例で,レーザーフレアセルメーターを用いて,術眼と他眼の前房内蛋白濃度と細胞数の経時変化を測定した。術後,手術による血液房水関門の破綻を反映して,術限のフォトンカウント値と細胞数は著明に上昇したが,術後経過とともに漸次減少した。フォトンカウント値では術後1日目に最高であった症例12例と,術後7日目に最高であった症例8例があったが,両群とも,他眼の前房内蛋白濃度と細胞数に有意の上昇は術後経過中観察されなかった。すなわち,交感性反応は見られなかった。

姉弟例における瞼裂縮小症の治療経験

著者: 中井敦子 ,   中尾俊也 ,   北山早知子 ,   近江俊作

ページ範囲:P.1151 - P.1153

 先天性瞼裂縮小症は,両眼性の瞼裂縮小,逆内眼角贅皮,眼瞼下垂を三主徴とする先天性奇形である。我々は,祖父,父にも瞼裂縮小症のある姉弟2例に対して治療した。まず水平瞼裂幅拡大を日的としてMustardé法を行い,6か月後に垂直瞼裂幅拡大を目的として Friedenwald—Guyton法を施行した。2年後の計測で,姉の水平瞼裂幅は概当年齢の平均値なみに拡大し,内眼角間距離は平均値より短くなった。弟では最初のMustardé法が効いていず,水平瞼裂幅の拡大と内眼角間距離の短縮はなかった。今回の手術を通してMustardé法が奏効すれば,吊り上げ術でも十分自然な表情が得られると思われた。

未熟児におけるメチシリン耐性黄色ぶどう球菌による眼科領域感染症の2症例

著者: 三輪正人 ,   加藤祐造 ,   細田源浩 ,   阿部圭哲

ページ範囲:P.1155 - P.1159

 身体の防御機構が未だ不完全である未熟児2例にメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)による眼科領域の感染症を経験した。
 1例は,出生体重588gの極小未熟児の全身管理中にMRSAによる敗血症が起こり,転移性眼内炎となった。末熟児網膜症が併発し,この冷凍凝固術施行後,約2週間して眼内炎が惹起し,4日間で結膜下に強膜破裂による排膿を認める急激な経過をとった。眼内炎の発症に冷凍凝固による硝子体出血の関与が推定された。
 他の1例は品胎で出生体重1,780gの未熟児の全身管理中に涙嚢炎が発症した。先天鼻涙管閉塞に続発する感染でありMRSAが同定された。一般的にMRSAに対してはキューキノロン系抗生物質が第1選択として用いられるが,この症例ではオフロキサシンに対しても耐性があった。MRSAが疑われる症例において,薬剤感受性試験は必須であると考えられた。

Group discussion

糖尿病性網膜症

著者: 福田雅俊

ページ範囲:P.1161 - P.1162

1.糖尿病性網膜症患者の汎網膜光凝固前後の瞳孔反応
  福田 敦 吉村 弦 高橋 和博 田沢 豊(岩手医大)小笠原 孝祐(県立中央病院)
 悪性網膜症でエピネフリンで散瞳するものが45.7%あったのに対し,汎網膜光凝固1〜3か月後には,逆にピロカルピン点眼による縮瞳が36.6%に認められるようになり,レーザー凝固による除神経効果と推論した。

第1回Closed Eye Surgery

著者: 清水昊幸

ページ範囲:P.1162 - P.1164

 Closed Eye Surgeryは平成元年度第43回日本臨床眼科学会において初めてグループ・ディスカッションとして登場した。ここにその報告を記すわけであるが,このGDの名称は一寸内容がわかりにくいのでまず最初に一言説明を加えることにする。
 本会は最初,水晶体乳化吸引術を中心に硝子体手術等を含めたClosed Eye Surgeryを念頭において命名されたものである。実際上はこれまでclosedの会として毎年1回催され,毎回30人から50人位の出席者があって,主として白内障手術,硝子体手術に関わる手術合併症をテーマに6回開催されてきた。その内容は,公開の学会の席では発表をはばかられる「駆出性出血の際,どう処置をしたか」といったような話にくい合併症の話が中心で,オフレコで出席者が忌憚のない討議を闘わせる場であった。こうした話が聞けることは術者にとって大変有意義であったので,多くのOphth-almic surgeonの熱心な支持を得て来た。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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