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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科44巻8号

1990年08月発行

雑誌目次

特集 第43回日本臨床眼科学会講演集(6)1989年10月 名古屋 学会原著

眼窩原発横紋筋肉腫の1例

著者: 岩瀬智子 ,   真鍋佳永 ,   永井研治 ,   塩田洋 ,   渡辺力 ,   中村宗夫

ページ範囲:P.1181 - P.1184

 5歳女児の眼窩原発横紋筋肉腫(alveo-lar type)の1例について報告した。全身的に異常所見はなく,軽度の眼球突出と視力低下が初発症状で眼科を受診した。頭部CT検査で右眼窩鼻上側に腫瘍を認め,脳外科にて経頭蓋法で腫瘍摘出を行った。病理組織診断は通常の染色のみでは鑑別が大変困難で,免疫組織化学的検査でデスミンを使用して横紋筋肉腫と確定することができた。眼窩内容除去術は行わず,現在小児科にて化学療法剤で加療中である。横紋筋肉腫は本症例のようにひとつの治療法だけでは根治は難しく,各科が協力して治療を行う必要があると考えた。

最近の全層角膜移植術成績—移植角膜の保存作成条件との関係

著者: 松尾くる美 ,   大路正人 ,   下村嘉一 ,   宇野敏彦 ,   瓶井資弘 ,   松田司 ,   浜野孝 ,   木下茂 ,   真鍋禮三

ページ範囲:P.1185 - P.1188

 1985年10月から1988年9月までの3年間で大阪大学眼科において施行された,全層角膜移植術のうち,術後1年以上の経過を観察し得た,120例120眼の術後1年目における移植片透明治癒率と提供眼球の保存作成条件との関係について調査し,以下の結果を得た。
 1.全移植片透明治癒率は72%であった。
 2.死後眼球摘出までの時間が3時間未満とそれ以上の眼球を使用した症例の移植片透明治癒率に差は見られなかった。
 3.眼球保存時間が24〜48時間の症例では,24時間未満の症例に比べ,透明治癒率が高かった。
 4.拒絶反応は1%以下の危険率で,眼球保存時間が24〜48時間の症例に比べ,24時間未満の症例に多かった。
 5.ヒアルロン酸ソーダを使用した症例の方が,移植片透明治癒率が高かった。

老人性円板状黄斑変性の診断におけるビデオ赤外螢光眼底造影法の役割

著者: 林一彦 ,   長谷川豊 ,   田澤豊 ,   志和利彦

ページ範囲:P.1189 - P.1193

 ビデオ赤外螢光眼底造影法(IA)の脈絡膜新生血管に対する造影精度について,従来の螢光眼底造影法(FA)との比較検討を行った。対象は,活動期の老人性円板状黄斑変性を疑われた78症例80眼である。FAおよびIAより得られた新生血管は,その造影程度によりそれぞれ,以下の3群に分類された。1度:典型的所見を示し,新生血管の存在部位および範囲の明らかなもの。2度:非典型的所見を示し,新生血管の存在部位を推測出来るもの。3度:新生血管の存在を示す造影所見が得られないもの。その結果,1度の群にはFAの38眼(48%),ⅠAの68眼(85%):2度の群にはFAの29眼(36%),IAの9眼(11%):3度の群にはFAの13眼(16%),IAの3眼(4%)が分類された。以上の結果から,新生血管の精密な診断を行うには,FAに比べIAが優れていると考えられ,IAの臨床への導入が必要と考えられた。

伴性遺伝性若年網膜分離症で標的黄斑症を呈することがある

著者: 若林謙二 ,   西村彰 ,   岡本剛 ,   斎藤友護 ,   河崎一夫

ページ範囲:P.1195 - P.1199

 伴性遺伝性若年網膜分離症では眼底中心窩の類嚢胞状変化と車軸状ひだ形成を特徴とするが,年長者ではこの典型的な黄斑部所見が不明瞭ないしは確認不能となることが多い。
 本症の46歳と49歳の兄弟症例の1例に,本症としてはきわめて非特異的である典型的な標的黄斑症を経験した。筆者の知る限りこれまでに若年網膜分離症で標的黄斑症を呈することを強調した報告はなく,したがって今後は本症を標的黄斑症の鑑別疾患のひとつとして認識すべきである。非特異的な黄斑部所見を呈する本症の症例に遭遇した場合に,本症と診断するために,銀箔ないし金箔様網膜反射,single flash ERGのnegative波形,4Hz単色光ERGのnegative波形などを確認するとともに,白色樹枝状病巣や螢光造影での血管異常,色素性網脈絡膜萎縮に到っている場合には白色の線状組織の存在などに注意することが有用である。

原発開放隅角緑内障および低眼圧緑内障の静的視野—相関係数を用いた解析

著者: 鈴木康之 ,   山上淳吉 ,   新家真 ,   白土城照 ,   田中俊一

ページ範囲:P.1201 - P.1204

 ハンフリー自動視野計のフロッピーディスクに保存した各測定点閾値データをパーソナルコンピュータ上で扱えるデータに変換するプログラムを開発し,それを用いて早期から中期の原発開放隅角緑内障82例82眼と低眼圧緑内障24例24眼の視野データを解析した。ハンフリー自動視野計の中心30-2プログラムで得られた各測定点視感度閾値のSTATPACの正常値からの沈下について,マリオット盲点周辺の10点と各測定点との相関係数を計算し,視野をそれぞれ相関の高い点で形成される相関群に分割した。原発開放隅角緑内障群および低眼圧緑内障群において視野はマリオット盲点から弧状にのびる相関群に分割され、網膜神経線維の走行に対応していると考えられた。今回得られた相関群を用いることにより,より詳細な緑内障視野の分析が可能になると考えられた。

内服薬治療中の高血圧症における眼圧の分布について

著者: 鈴木亮 ,   花田美穂 ,   栗本晋二 ,   田中一成 ,   藤井英雄

ページ範囲:P.1205 - P.1208

 高血圧症罹患者の眼圧が内服薬によって変化する可能性につき,眼症状のない高血圧症患者70名の眼圧を調査した。
 平均年齢は63.5±11.0歳で,平均眼圧は18.9±4.2mmHgであった。心血管症,緑内障のない同じ年齢層の対照群での眼圧は 13.4±2.3mmHgであった。
 βブロッカー内服者は特に血圧コントロール群において眼圧を有意に下げた。βブロッカーと他剤併用者では眼圧下降効果がほとんどなかった。Ca拮抗薬内服者では眼圧は下がらず,血圧コントロール群では平均眼圧が上昇した。
 Ca拮抗薬による視野改善効果は眼圧下降を介したものでないこと,βブロッカー内服のみで血圧がコントロールされている者の眼圧は有意に低いことが示唆された。

糖尿病網膜症の動静脈短絡路

著者: 古沢信彦 ,   村岡兼光 ,   田中隆行 ,   得居賢二

ページ範囲:P.1209 - P.1216

 われわれは,単純性から増殖性を含む糖尿病網膜症716眼の螢光眼底造影所見を解析し97眼13.5%に動静脈短絡路が存在することを明らかとした。そのうち,連続撮影で確認できなかったが,動脈と静脈が形態的に連絡している短絡路は56眼あり,連続撮影で証明された機能的にも真の短絡路は41眼あった。後者は,以下の3型に分類された。①細動静脈経由のもの,②拡張した毛細血管経由のもの,③異常血管経由の短絡路である。動静脈短絡路の出現頻度は,糖尿病網膜症の進行度と関係があり,病期が進行するほどその発生頻度も増加し,増殖網膜症では21%に達することが明らかとなった。糖尿病網膜症に動静脈短絡路が存在するという事実は,今まで明らかにされている糖尿病網膜症の進行因子を,再検討する余地のあることを示していると考える。

当院に導入された汎用コンピューターを用いた総合医療情報システムの紹介

著者: 蔭山誠 ,   中塚和夫 ,   古嶋正俊 ,   山之内夘一

ページ範囲:P.1217 - P.1219

 本学附属病院では1989年1月4日より,汎用コンピューターを用いた総合医療情報システムが導入された。まず人退院および給食オーダー・システムが稼働したのに続き,5月からは薬剤処方オーダーが病棟,外来の順でスタートした。今後は検査オーダー,放射線オーダー、病名オーダー,さらに将来はカルテの電子画像化なども予定されている。
 本システムの特徴は,病院内の金業務を包括し,各部所間を正確で質の高い情報によって相互に結ぶことにある。ところがシステムがフル稼働していない現在,われわれ医師にとっては手間のかかる人力作業のみが中心となり,そこから還元される情報はごくわずかなものにすぎない。さらに,眼科の診療形態を考えた場合,端末機の操作自体に他科以上の負担が強いられているようにも思う。
 本稿では,当院のシステムを紹介するとともに,眼科医の立場から現時点での問題点を挙げ,理想のトータルシステムとはどうあるべきかを考えてみた。

状況依存性内斜視のアモバルビタール点滴静注による診断法ならびに手術量の定量法について

著者: 奥英弘 ,   内海隆 ,   菅澤淳 ,   中村桂子 ,   澤ふみ子 ,   野邊由美子 ,   濱村美恵子

ページ範囲:P.1221 - P.1224

 乳幼児期に部分調節性内斜視で発症し,屈折矯正で良好な眼位が得られた後,10歳頃の前思春期になり病識をある程度もつようになると,眼位不安が生じ,日常眼位はよいのに検査時の内斜視角が急激に増大する症例を散見する。これらの症例は,患児の性格に,検査という精神緊張をきたす状況が加わって,状況依存性に内斜が増大していると推定される。こういった特徴をもつ症例を,新たに状況依存性内斜視と呼ぶこととした。今回12例の状況依存性内斜視に対し,その診断・手術の適否・手術量の定量を目的として,アモバルビタールを点滴静注し,その前後で斜視角の変化を検討した。その結果9例(75%)の症例が10△以上の斜視角減少をきたし,最大45△の減少を認めた。残余斜視角に対し7例で手術を行い,術後眼位は遠見2〜12△ET,近見4〜20△ET’と良好であった。アモバルビタール点滴静注は,状況依存性内斜視の診断・手術量の定量に非常に有用であると思われた。

網膜芽細胞腫におけるIAP(免疫抑制酸性蛋白)測定の意義

著者: 生駒洋 ,   横山尚彦 ,   小島孚允 ,   箕田健生

ページ範囲:P.1225 - P.1227

 網膜芽細胞腫患児9例の血清免疫抑制酸性蛋白(IAP)を眼球摘出前と摘出後2週に測定した。IAP値と臨床的,病理組織学的所見とを比較することによりIAPの網膜芽細胞腫における意義を検討した。
 緑内障,眼内炎など特記すべき臨床症状を有する症例はIAP高値を示す傾向が認められた。症例がまだ少ないものの,IAP値が網膜芽細胞腫の腫瘍深達度に相関を示す傾向が認められた。

眼窩に原発したjuvenile fibromatosisの1例

著者: 鳥海智子 ,   古田仁志 ,   横尾昭 ,   青木俊樹 ,   発地雅夫

ページ範囲:P.1229 - P.1231

 2歳女児の右眼窩のみに原発したjuve—nile fibromatosisの1例を経験した。初診時,右眼の眼球陥凹と上転,下転,内転の眼球運動障害があった。前眼部,中間透光体,眼底に異常所見はなかった。眼窩CT撮影で眼球の後上外側に直径約1cmの高吸収域が認められ,右眼窩腫瘍が疑われた。開頭による腫瘍摘出術を施行し,以後5か月間再発をみていない。摘出された腫瘍は病理組織学的にjuvenile fibromatosisと診断された。本症が眼窩に原発することはきわめて稀であり,特に本例のように眼窩のみに原発した報告はわれわれが調べた限りではなかった。本例ではfibromatosisが眼球の後上外側に発生したため,上直筋,外直筋をまき込んで眼球運動障害を生じ,また周囲組織と強く癒着し,眼球を後方に牽引したために眼球が陥凹したと思われた。

成人斜視の臨床的研究—その1.共同性水平斜視の手術成績の検討

著者: 岸本典子 ,   市川理恵 ,   大月洋 ,   岡田大造

ページ範囲:P.1233 - P.1236

 15歳以上の共同性水平斜視123例を対象に,年齢,斜視病型,網膜対応別に手術成績を検討した。63.4%に機能的治癒,27.6%に整容治癒が得られた。高齢者と網膜対応異常者では成績が低下する傾向がみられた。単位術量あたりの矯正効果は年齢による有意差がなかった。恒常性外斜視は間歇性外斜視よりも矯正効果が大きく,後天性内斜視と先天性内斜視とでは矯正効果に有意差がなかった。術後のもどりは間歇性外斜視と後天性内斜視で大きかったが,40歳以上では斜視病型間に差がなく,もどりは小さかった。術後,28例(22.8%)に複視が生じた。特に20歳以上で多く,主に過矯正と背理性によるものであった。

Polymerase Chain Reaction(PCR)法によるLeber病の早期診断の試み

著者: 堀田喜裕 ,   藤木慶子 ,   早川むつ子 ,   金井淳 ,   斎藤貴美子 ,   中島章 ,   鈴木正子 ,   簗島謙次

ページ範囲:P.1237 - P.1240

 臨床的にLeber病が強く疑われた34歳と32歳の兄弟と眼科的に正常の妹の末梢血の白血球からミトコンドリアDNAを抽出して11778番塩基対の検討を PCR (Polymerase Chain Reaction)法を使って行った。この三人には正常者にはみられない11778番塩基対の点突然変異を認めLeber病の家系と考えられた。この方法はLeber病の診断に非常に有用と考えられた。

双胎児における未熟児網膜症の発症・進行要因の検討

著者: 松井博嗣 ,   杤久保哲男 ,   前田朝子 ,   河本道次 ,   清水光政 ,   宇賀直樹 ,   多田裕

ページ範囲:P.1241 - P.1245

 出生体重1,500g未満の極小未熟児を少なくとも1児を含む7組15児の双胎と品胎について,未熟児網膜症の発症と進行因子を検討した。未熟児網膜症は在胎週数が短く,出生体重が小さいほど発症頻度が高かった。出生体重の大きい児に発症ないし重症である双胎児では,出生直後の数日間に動脈血二酸化炭素分圧が低値であり,pHが高い傾向があった。多胎児では未熟児網膜症の可能性を考慮して,妊娠中の早産予防を含めた母体管理と出生後の管理が必要であること,双胎児間で胎内発育の不均衡がある場合には,生後の全身管理と発症進行因子についての注意が望ましいことが結論された。

未熟児網膜症の重症度と心身発達 その1

著者: 川地浩子 ,   馬嶋昭生 ,   市川琴子 ,   側島久典 ,   今橋寿代

ページ範囲:P.1247 - P.1250

 未熟児網膜症(ROP)の重症化に関与する要因は,同時に,精神運動発達,中枢神経系の発達にも障害を与えることが予想される。ROPの重症度と心身発達との関連を調べる目的で,発達指数(DQ),フラツシュ視覚誘発電位(F-VEP),聴性脳幹反応(ABR)について検討した。DQの平均値は,ROP Ⅰ型3期初期以上または中間型,Ⅱ型まで進行した重症群とそれ以外の軽症群では,それぞれ,99.1,108.7であり,前者は後者に比べて有意に低かった。しかし,発達遅延域と考えられるDQ85未満とROP重症度とは有意な関連はなかった。F-VEPでは,Ⅰ型3期初期以上の重症ROP群でP100潜時が有意に延長していたが,N70潜時とP150潜時については,有意な関連はなかった。ABRではV波潜時,Ⅰ-Ⅴ波間潜時共に,延長の有無と ROP 重症度との関連はなかった。ROP重症例では心身発達にも何らかの影響を受けていることが推定される。

血液透析中にのみ高眼圧を認めた開放隅角緑内障の1症例

著者: 加賀達志 ,   野口真由美 ,   内藤尚久 ,   市川一夫 ,   加藤俊彦 ,   稲垣豊 ,   天野泉

ページ範囲:P.1251 - P.1255

 多発性筋炎に対して過去8年間ステロイド剤の全身投与を受けていた54歳女性が,1年前に急性腎障害を発症した。血液透析または血液濾過の最中にのみ高眼圧状態になった。透析・濾過の開始と共に眼圧が上昇した。血液濾過よりも透析のほうが眼圧上昇幅が大きかった。眼圧上昇時の房水流出率は眼圧正常時と差がなく,本症での眼圧上昇は,血漿と房水との浸透圧差による房水量の増加が原因と推定された。

Joseph病の1例

著者: 村田正敏 ,   鈴木一作 ,   高橋茂樹

ページ範囲:P.1257 - P.1260

 ポルトガル系白人にみられる常染色体優性遺伝の運動失調症であるJoseph病と,58歳の男性を診断した。家族歴では症例と同様な神経症状が父親,弟および妹とにみられた。両眼とも全方向に眼球運動制限があり,輻湊が障害されていた。両眼とも乳頭が退色し,黄斑変性があった。全身的に構語障害,深部反射亢進,失調性歩行があった。進行性の眼球運動障害は本症に多い所見であるが,本症例の眼底所見とJoseph病との関連は不明であった。

Alagille症候群におけるposterior embryotoxon

著者: 飯田高志 ,   松村美代 ,   後藤保郎 ,   村上洋介 ,   槇野征一郎

ページ範囲:P.1261 - P.1264

 Alagille症候群は,肝内胆管低形成を主徴とし,慢性胆汁うっ滞,心血管系異常,椎骨異常,特徴的な顔貌,後部胎生環 posterior em—bryotoxonを合併する症候群である。われわれは,9歳,11歳,14歳の男児を本症候群と診断し,3例すべてに後部胎生環を認めた。隅角検査が診断に有用であった。本症候群の診断には眼科的な検索が望ましいと考えられた。

学術展示

インスリン非依存型糖尿病(NIDDM)妊婦の産後の網膜症の経過

著者: 木戸口裕 ,   大井いく子 ,   須藤史子 ,   野中千晶 ,   赤星隆幸 ,   北野滋彦 ,   堀貞夫 ,   高橋貴子 ,   清水明実 ,   大森安恵

ページ範囲:P.1282 - P.1283

 緒言 わが国においても糖尿病患者の妊娠,出産例は年々増加しており,われわれはすでに妊娠中の網膜症の変化について検討し,その管理方法について報告1,2)した。今回われわれは,出産後の網膜症の経過について検討したので報告する。
 対象および方法 対象は,1970年5月から1987年3月までの間に,東京女子医大病院にて出産したインスリン非依存型糖尿病(NIDDM)患者のうち,妊娠中の経過を記録し,かつ産後6か月以上経過観察が可能であった107人130出産例である。

α1-blockerの糖尿病患者の網膜循環に対する急性効果

著者: 杉原いつ子 ,   沼利栄子 ,   栗本晋二

ページ範囲:P.1284 - P.1285

 緒言 糖尿病は動脈硬化の危険因子のひとつとされ,脳血管障害,網膜症,腎症などを伴うことが多い。糖尿病患者の血管閉塞を予防するためには,糖尿病の治療のみならず,血流の循環改善も重要ではないかと考えられる。
 近年,開発された塩酸モキシシリト(モキシール®,日本ケミファ株式会社)は,α1-adenoceptor遮断作用を有し,内頸,椎骨動脈系あるいは脳皮質微小血管を拡張させ,脳組織血流を増加させる1)。また,血小板のプロスタグランジン産生を抑制し,血小板凝集能を抑制する2)。脳血管系に選択的に効く塩酸モキシシリトは,同時に網膜循環を改善させると推測される。今回われわれは,塩酸モキシシリトを糖尿病患者に投与し,網膜循環に対する急性効果を,videodensitometricimage analysisの方法を用いて検討した。

糖尿病性網膜症における血清フルクトサミン測定の意義

著者: 秋山和人 ,   山口卓朗 ,   嵩義則 ,   雨宮次生

ページ範囲:P.1286 - P.1287

 緒言 近年,フルクトサミンがより容易に測定できるようになり,HbA1やHbA1Cよりもより短期すなわち,約1〜3週間過去の血糖コントロールの指標として注目されており,その臨床的有用性について多くの報告が見られる。しかし,これまでにフルクトサミンと糖尿病性網膜症の進行との関係について述べた報告は少ない1)。今回,長崎大学医学部附属病院眼科外来を受診した糖尿病患者について,フルクトサミンと糖尿病性網膜症の進行との関係についてHbA1と比較して検討したので報告する。
 対象および方法 対象は長崎大学医学部附属病院眼科外来を受診し,最低2か月に1回フルクトサミンとHbA1を測定した糖尿病患者57例106眼である。ただし,牽引性網膜剥離による全剥離や血管新生緑内障などにより失明した眼や,眼底が透見不能な眼は除外した。年齢は21〜74歳,平均56歳,経過観察期間は4か月〜1年2か月,平均9.0か月であった。糖尿病性網膜症は福田分類により分類し,1段階でも進行したものを網膜症進行群とし,それ以外のものを網膜症非進行群とした。フルクトサミンとHbA1は同じ日に採血したものを採用し,その平均値を用いた。

糖尿病と前房蛋白濃度—3.糖尿病患者の前房蛋白濃度と全身背景因子との関連性

著者: 加藤聡 ,   大鹿哲郎 ,   船津英陽 ,   国定勝郎 ,   山下英俊 ,   澤充

ページ範囲:P.1288 - P.1289

 緒言 フレアー・セルメーターを用いることにより糖尿病患者における前房蛋白濃度が,網膜症の程度と相関のあることが明らかになった1)。しかし全身背景因子との関連については未だ十分には検討されていない。そこで今回,糖尿病患者の前房蛋白濃度と全身背景因子との関連について検討を行った。
 対象および方法 対象は網膜光凝固術施行眼を含む糖尿病患者110人(220眼)で,その糖尿病平均罹病期間は12.4年であった。緑内障,強度の屈折異常,結膜炎,測定に影響する白内障,ぶどう膜炎等の眼科的疾患を合併する症例は対象から除外した。フレアー・セルメーターの測定は,前回の報告1,2)と同様にFC1000®(興和)を用い,測定は一定時刻に,散瞳後30分から1時間の間に行った。全身背景因子としては年齢,性別,糖尿病罹病期間,血糖コントロール(HbA1C値),内科的治療法,高血圧,腎症(持続性蛋白尿)の7因子を取り上げ,①各因子と前房蛋白濃度との単相関,②数量化理論Ⅰ類を用いた重相関について検討した。数量化理論Ⅰ類を用い解析した際,前房蛋白濃度を従属変数,上記の7つの背景因子を各アイテムとし,表1にアイテムの数量化(grading)を示す。

重症糖尿病性網膜症の増殖性硝子体網膜癒着に対する粘弾性分層法

著者: 岡野正 ,   新田安紀芳 ,   高橋京一 ,   丸山泰弘 ,   田村卓彦

ページ範囲:P.1290 - P.1291

 緒言 糖尿病性網膜症で,発達した線維血管性増殖膜によって硝子体と網膜が面として器質的に癒着し,網膜が剥離している場合がある。この増殖膜と剥離網膜とを手術的に剥離するとき,剪刀などによる方法では高度な医原性裂孔を多数つくりやすい。これを,より安全に効率よく行う目的で,粘弾性液による増殖膜と網膜との剥離1,2)を試みた。
 症例 剪刀だけでの分層術では高度な網膜裂孔をつくらずに行うことが難しい,と判断した本症硝子体手術適応例で牽引性網膜剥離があった症例に,粘弾性分層術1,2)を行った。このうち,術後6か月以上追跡した20眼(18名)を検索の対象とした。年齢は39〜66(平均49)歳。男7名7眼,女11名13眼。

糖尿病網膜症外来受診者の糖尿病発見の契機と経過に関するアンケート調査の検討

著者: 森脇郷子 ,   斉藤ゆり ,   土佐南緒子 ,   早川むつ子 ,   金井淳 ,   中島章 ,   池田敏春 ,   稲葉裕

ページ範囲:P.1292 - P.1293

 緒言 内科治療の進歩により,罹病期間の長い糖尿病(DM)患者が増加し,重症な増殖性網膜症の合併が増え,糖尿病性網膜症(DR)は近年成人失明例の原因の上位を占めている。網膜光凝固術(PC)や硝子体手術などの治療が普及しているが,進行例ではこれらによっても完全に失明をくいとめられない場合があることを日常往々にして経験する。したがってDRによる失明を減少させるには,何よりもDRの発症と進行の予防が重要であり,DRが発症した例では適切な時期に PCが施行されることが望ましい。そのためにはDMの早期発見と早期からの継続的なDMコントロール,眼底の管理が重要なことは周知の事実である。しかしながらインスリン非依存性DM (NIDDM)では自覚症状が乏しいため,DMの発見が遅れたり,治療への動機づけが乏しいために治療からの中途脱落や長期放置例などが少なくなく,眼科受診が遅れる例もかなり認められる。私たちは日常診療で実感する問題点を具体的に把握する目的でアンケート調査を行ったので報告する。
 対象および方法 1988年10月以降順天堂大学眼科を,1989年4月以降太田西の内病院眼科を受診したDM患者のうちNIDDM 315名(男性164:女性151,平均年齢59.4±11.3歳,患者申告平均罹病期間11.7±8.6年)を対象とした。

糖尿病性網膜症における血管新生の統計学的研究

著者: 国定勝郎 ,   山下英俊 ,   船津英陽 ,   白矢勝

ページ範囲:P.1294 - P.1295

 緒言 糖尿病性網膜症において,単純性網膜症から前増殖性網膜症,さらに増殖期への進行に関与する因子を知ることは治療のうえからも重要である。進行に関与する因子を求める前段階として,今回われわれは各病期に関連する螢光眼底所見を求め,単純性網膜症と前増殖性網膜症および前増殖性網膜症と増殖性網膜症の判別に関与する因子を多変量解析法を用いて検討したので報告する。
 対象 東大眼科糖尿病外来を受診する患者41例を対象とした。男19例,女22例,糖尿病罹病期間2〜26年(平均13年),45眼(延べ80眼),単純性網膜症(福田分類AⅡ)28例28眼,前増殖性網膜症(同BⅠ)28例28眼,増殖性網膜症(同BⅡ)24例24眼である。一部の症例で同一眼の進行前後のデータを使用した。

糖尿病患者の眼科外来受診状況

著者: 森宏明 ,   馬嶋昭生 ,   玉井一司 ,   川路陽子 ,   尾関年則

ページ範囲:P.1296 - P.1297

 緒言 糖尿病性網膜症の発生は,罹病期間,血糖コントロールなどが影響するとされているが1,2),網膜症の予後に関しては,従来から全身管理,眼科的管理の他,糖尿病性網膜症の早期発見が重要とされている。しかし,現在でも内科的治療が行われているにもかかわらず,かなり進行してから眼科を受診する例にしばしば遭遇する。そこで,糖尿病と診断されてから,名古屋市立大学病院眼科を受診するに至る状況を調査した。
 対象 1988年1月から1989年4月の間に当科初診の糖尿病患者270例を対象とした。受診理由から,Ⅰ群(他眼科からの紹介:80例),Ⅱ群(当院他科からの紹介:132例),Ⅲ群(自主的に受診:54例),その他(他院内科から紹介:4例)に分け,さらに各群を,当科初診時に糖尿病性網膜症のみられたものを(+),みられなかったものを(−)とした。

低血糖多発後にドルーゼンを発生した若年インスリン依存性糖尿病の1例

著者: 浜田幸子 ,   中村明子 ,   小椋祐一郎

ページ範囲:P.1298 - P.1299

 緒言 網膜のドルーゼンdrusenの多くは高齢者に発生するが,若年者にも時に認められ,通常眼底の広範な領域に散在して,何らかの全身的あるいは局所的な代謝障害または栄養障害の関与で発生すると推定されている1)。今回われわれは,低血糖発作を反復した後に,網膜にドルーゼンが発生した,若年性IDDMの1症例を経験したので報告する。
 症例 21歳10か月女子。1977年1月12日頃より(当時9歳)口渇,多飲,全身倦怠をきたし,内科を受診し,血糖542mg/dl,尿中ケトン体(⧻)で,IDDMと診断された。

連載 眼科図譜・289

角膜後面に付着した落屑物質

著者: 松尾俊彦 ,   湯浅久美 ,   土田陽三 ,   浅野治子 ,   松尾信彦

ページ範囲:P.1174 - P.1175

 緒言 落屑症候群では,線維状および顆粒状の物質が前眼部のいろいろな部位に沈着する。落屑物質は角膜後面にも沈着することが知られているが,きわめて稀である1,2)。今回私たちは,角膜後面に付着した落屑物質をspecular microscopeをもちいて観察し,角膜内皮細胞の属性についても検討した。
 症例 78歳の女性が,徐々に進行する左眼視力の低下を主訴に受診した。矯正視力は右眼0.5,左眼0.3で,眼圧は右眼12mmHg,左眼13mmHgであった。両眼とも眼底には異常なく,右眼には落屑物質の沈着は認められなかった。左眼には,図1のように角膜中央の後面部に混濁があり,落屑物質の沈着が水晶体前面および虹彩の瞳孔縁部にみられた。

眼の組織・病理アトラス・46

神経ベーチェット症候群

著者: 猪俣孟

ページ範囲:P.1178 - P.1179

 神経ベーチェット症候群neuro-Behçet's syn-dromeとは,ベーチェット病患者が中枢神経をおかされて何らかの神経症状を呈するものをいう。神経症状はベーチェット病患者全症例の10〜20%に発現する。神経症状が一過性または持続性におこり,しかも自然寛解と増悪を繰り返す。最近では,シキロスポリンが投与されたベーチェット病患者に神経ベーチェット症候群が誘発されたという報告もある。神経ベーチェット症候群患者は生命の予後が悪く,神経症状発現から平均3年で死の転帰をとるといわれている。
 神経ベーチェット症候群の臨床症状はきわめて多彩で,その特徴は主として運動神経麻痺と脳幹機能障害である。運動神経麻痺としては緊張性四肢麻痺がおこり,脳幹部障害としては,脳神経麻痺,構音障害,嚥下困難,強制泣き笑い,小脳障害としての運動失調,企図振戦,眼球振盪などがみられる。また,記銘力減退,人格崩壊,意識混濁,幻覚,妄想などの精神障害がおこり,精神病との鑑別が難しいことがある。神経ベーチェット症候群の症状は大まかに1)脳幹部症状 brain-stem syndrome, 2)髄膜脊髄炎症状 menin-gomyelitic syndrome ,3)器質性精神症状organic confusional syndromeの3群に分けられている。

眼科薬物療法のポイント—私の処方・20

MRSA眼感染症(その2)

著者: 大石正夫

ページ範囲:P.1265 - P.1266

 1か月,女児,正常産で出生,数日前から右眼に多量の眼脂分泌と眼瞼の発赤,腫脹が高度にあらわれ,瞼結膜の充血,浮腫がつよく,偽膜がみとめられた。角膜には異常はない(図1)。
 主訴:右眼脂,眼瞼の発赤,腫脹

眼科手術のテクニック—私はこうしている・20

隅角癒着解離術

著者: 荻野誠周

ページ範囲:P.1267 - P.1269

隅角癒着解離術の選択
 瞳孔ブロック緑内障は周辺虹彩切除ないしは切開により瞳孔ブロックを解除すれば,隅角線維柱帯を覆っていた虹彩根部が離れて,房水流路が回復して根治するはずである。しかし虹彩根部が癒着している場合には房水流路は回復しない。癒着を剥離すれば,房水流路は回復し,隅角線維柱帯に異常が生じていなければ眼圧はコントロールされるはずである。すなわち瞳孔ブロック緑内障では周辺虹彩切除または切開による瞳孔ブロックの解除を第一になすべきであり,周辺虹彩前癒着のためそれが無効に終われば,隅角癒着解離術による隅角の開放を行うべきである。なおそれでも眼圧調整が不良ならトラベクロトミーやトラベクレクトミーを考慮することになる。

今月の話題

網膜色素変性症の現状

著者: 松村美代

ページ範囲:P.1271 - P.1274

 網膜色素変性症はいまだ治療法がなく,両眼性,進行性であるために,高齢者の増加とともに中途失明の原因疾患として重大である。しかし現状では医療上,社会福祉上の配慮はいかにもまずしい。本稿では,網膜色素変性症患者に対する医療の現状を述べて,今後の医療サービスのあり方を考える足がかりにしたい。

臨床報告

角膜実質炎で肺結核症が発見された1例

著者: 渡辺仁 ,   大橋裕一 ,   渡辺晶子 ,   藤本房子 ,   真鍋禮三

ページ範囲:P.1301 - P.1304

 眼症状より肺結核症の存在が明らかになった角膜実質炎の24歳の女性例を報告した。全身的な自覚症状はなかったが,4年前に兄が肺結核に罹患していた。初診時,右眼に上強膜炎と,角膜周辺実質深層に強い浸潤と怒張した血管侵入のある角膜実質炎を認めた。左眼でも同様の血管侵入を認めた。胸部X線検査で左右両肺野に陰影を認め,ツベルクリン反応は(++)であった。内科で肺結核と診断され,抗結核薬の投与とベータメサゾンの点眼をおこなった。治療開始2か月後に両眼とも上強膜炎は消失,右眼の角膜への浸潤と血管侵入も鎮静化した。6か月後には,胸部X線所見が著明に改善し,内服および点眼治療を中止した。眼症状は以後再燃していない。結核菌による角膜実質炎は現在も存在しており,臨床上もそうした注意を払って診察を進める必要があると考えられた。

部分的なβガラクトシダーゼ欠損を伴うシアリドーシスの若年例

著者: 高橋京一 ,   岸章治 ,   新井正史 ,   近藤進 ,   山内豊明

ページ範囲:P.1305 - P.1310

 11歳男子を,部分的なβガラクトシダーゼ欠損を伴うシアリドーシスと診断した。矯正視力は左右とも0.6で,眼科的には,羞明,軽度の視力障害,角膜深層の顆粒状混濁,桜実黄斑があった。全身的には,軽度の低身長,腕長の増大,手掌の毛細血管拡張,陰嚢の角化血管腫があった。神経学的異常として,ミオクローヌス,体幹失調,軽度の精神発達遅延があった。腰椎椎体の扁平化,前棘形成,大腿骨頭,寛骨臼の形成不全,トルコ鞍後床突起の鈍化など,ムコ多糖症類似の骨変形があった。組織学的には,リンパ球の空胞化,神経細胞内の膜様構造物の蓄積が証明された。特異な顔貌を呈し,眼瞼,鼻翼,耳介,口唇,歯肉の肥厚,アーチ状の眉毛,鞍鼻,多毛,下顎の低形成があった。リンパ球のα-neuraminidaseが正常の25%以下に低下し,リンパ球,白血球の β-galactosidaseが正常の10%以下に低下しており,上記診断が確定した。母方の叔母も同じ酵素が低下しており,同一の疾患であると推定された。本疾患の確定診断は酵素の測定によるが,特異な顔貌は,本疾患を鑑別するうえで重要な所見であると思われた。

対糖尿病網膜症硝子体手術における超高灌流圧下での増殖膜処理

著者: 生島操 ,   田野保雄 ,   池田恒彦 ,   中江玲子 ,   細谷比左志 ,   中江一人 ,   日下俊次 ,   佐藤幸裕

ページ範囲:P.1311 - P.1315

 活動性の高い線維血管性増殖組織を伴う糖尿病性黄斑部牽引性網膜剥離16例17眼に対し,硝子体手術中,超高灌流圧下で一時的に網膜中心動脈を途絶させた状態にして増殖膜の処理を行った。この間ほぼ完全な術中止血が得られ,超高灌流圧は82mmHgから105mmHgで,その持続時間は0.9分から最高16.5分(平均4.1分)に及んだ。その結果,16眼(94%)に網膜復位が得られ,15眼(88%)に視力改善が認められたが視力悪化例はなかった。
 超高灌流圧下での増殖膜処理は良好な視認性により術中合併症を防止し,手術時間を短縮するとともに手術成績も向上させた。また,増殖糖尿病網膜症でも10分間以上の虚血に耐えると考えられた。

神経眼科疾患における静的フリッカー中心視野測定

著者: 宇山孝司 ,   中尾雄三 ,   大鳥利文 ,   松本長太 ,   宇山令司

ページ範囲:P.1317 - P.1322

 視路の第Ⅲニューロン障害である視交叉症候群,および視神経疾患に対し,フリッカー装置を組み込んだゴールドマン型視野計を用いて,静的フリッカー中心視野測定を行った。測定点は中心30°以内の6°ごとに格子状に配列された66点で,測定条件は背景輝度10asb,視標サイズ16mm2,視標輝度500 asbとした。視標呈示時間は3秒間,各測定点におけるcff値の決定は5Hzごとのsampling法を用いた。測定結果をオクトパスプログラム31または32(視標サイズ3)と比較した。6例10眼にフリッカー視野測定のほうがオクトパス視野測定よりも鋭敏に異常を検出した。オクトパス視野測定のほうがフリッカー視野測定に比べて鋭敏に異常を検出した症例は1眼のみであった。静的フリッカー中心視野測定は神経眼科疾患に有用であると考えられた。

アトピー性皮膚炎患者における角膜内皮

著者: 出井健之 ,   村田博之 ,   菊池久美子 ,   真島行彦

ページ範囲:P.1323 - P.1326

 アトピー性皮膚炎患者11名19眼の角膜内皮につき,スペキュラーマイクロスコピーにて平均細胞面積,変動係数,六角形細胞出現率を検討した。アトピー性皮膚炎患者では,正常者と比較して,平均細胞面積には有意な差を認めないが,変動係数の増大を認め(P<0.01),さらに六角形細胞出現率の低下を認めた(P<0.01)。このことは,アトピー性皮膚炎患者では平均細胞面積の増大をきたさない範囲で,角膜内皮細胞の脱落が起こっていることを示しており,アトピー素因が角膜内皮細胞に何らかの障害を与えていることが示唆された。

アルゴンレーザー光凝固療法を行ったBloch-Sulzberger症候群の1例

著者: 諸岡居織 ,   佐々木究 ,   梅野克哉 ,   浜田恵亮 ,   佐藤雄一 ,   成田博実

ページ範囲:P.1327 - P.1330

 生後4日目に眼底病変を認めた Bloch—Sulzberger症候群の女児の1例を報告する。
 両眼底とも網膜静脈は怒張蛇行し,網膜血管は赤道部まで伸びておらず,周辺部では動静脈吻合,新生血管,網膜硝子体出血を認めた。螢光造影検査では,右眼の網膜血管は血流を認めず,左眼でも視神経乳頭の耳側では2乳頭径,鼻側では4乳頭径まで周辺より無血管帯が及んでいた。両眼底ともに,増殖性変化が進行するため,アルゴンレーザーを用いて汎網膜光凝固術を施行した。光凝固後,右眼では血流がみられるようになり,両眼ともに網膜静脈の怒張蛇行の減少,網膜血管の無血管帯への伸展,螢光漏出の減少が認められた。生後1年目の眼所見では,右眼視神経萎縮と内斜視を認めるものの,眼球は正常大で,眼底に増殖性の変化はない。

非含水性ソフトコンタクトレンズによる兎眼症の治療

著者: 永田豊文 ,   羽渕由紀子 ,   中神哲司

ページ範囲:P.1333 - P.1337

 Butylacrylateとbutylmethacrylateの共重合体を素材とする非含水性ソフトコンタクトレンズ(以下SCL)を兎眼症の患者に装用させた。症例は顔面神経麻痺7例,橋出血2例,筋力低下2例,術後瘢痕1例である。連続装用を原則とし,装用中は点眼を併用し,数日ごとに洗浄を行った。ほとんどの例で症状が改善した。兎眼では瞬目が不完全なため涙液動態が不良であり,眼瞼の支持力低下が多く,ベースカーブやサイズの決定は容易でなかった。レンズの固着や汚れ,異物感などの問題があり,装用を中止したものが4例あった。非含水性SCLは眼球表面からの水分蒸発を防ぎ,乾燥しても形状が変化しないという点で,兎眼症においては含水性SCLに勝ると考えられた。

黄斑円孔術後にみられた網膜上増殖組織の病理組織学的観察

著者: 向野利寛 ,   魚住博彦

ページ範囲:P.1338 - P.1345

 62歳,女性で黄斑円孔治療のためにジアテルミー穿刺凝固と黄斑プロンベ縫着術を行った。この眼は5年後に脈絡膜悪性黒色腫が発生し,摘出された。この眼球後極部の増殖組織を光顕および電顕で観察した。
 1)黄斑中央部の網膜内に脈絡膜よりつづく線維性血管膜があった。この線維性血管膜は内皮細胞とその周囲を取り巻く線維芽細胞,膠原線維により構成されていた。
 2)網膜上にも同様の形態を有する線維性血管膜を認めた。線維性血管膜は部位により内境界膜が肥厚,分離した間に存在した。網膜は牽引され,雛襞を形成していた。
 3)線維性血管膜の硝子体側に所々網膜から橋状に伸びる管腔様の増殖組織がみられた。
 これは電顕的に一層のグリア細胞が平行に存在する所見であった。
 以上より,網膜剥離にジアテルミー穿刺凝固を行った術後には,網膜内や網膜上に線維芽細胞を主体とする線維性血管膜が形成される可能性が示唆された。

ERGを用いた眼手術中の眼機能モニター

著者: 三宅養三 ,   矢ヶ崎克哉 ,   堀口正之 ,   都築欣一 ,   三宅三平

ページ範囲:P.1349 - P.1355

 眼手術中の網膜機能の変動をERGを用いて経時的にモニターするためには,記録が清潔かつ敏速に行われ,装置がコンパクトで他の手術に必要な機械の邪魔をしないことが最低の必要条件である。眼手術中,手術眼は強く明順応されており,そのため眼機能モニターは錐体系ERGを用いなければならない。
 われわれは田原らの開発したコンタクトレンズ電極に30Hzフリッカー刺激用発光ダイオードを内蔵したERG電極を滅菌し,この目的に使用した。網膜に異常が少ない10症例の眼手術中のERG変動を検討した。無影燈下(18000ルクス)の手術においても,また手術用顕微鏡下(71000ルクス)の手術においても,ERGの変動は手術中少なく,眼機能モニターとして使用出来た。この手法を用いて網膜,硝子体疾患の手術中のERG変動を3症例で考按した。

中心性漿液性網脈絡膜症のパターンERGによる検討

著者: 新井三樹 ,   塚田孝子 ,   河野真一郎 ,   根木昭 ,   本田孔士

ページ範囲:P.1357 - P.1361

 中心性漿液性網脈絡膜症(CSC)患者29例においてパターンERG (PERG)を記録し,正常対照群18人の結果と比較検討した。PERGの評価には陽性波のP1とそれに続く陰性波N2の振幅と潜時を用いた.CSC患者のうち黄斑部網膜剥離のあるもの17例中9例(52%)でP1潜時が正常域より延長し,15例(88%)でN2振幅が正常域より減少していた。これに対して黄斑部網膜剥離の復位していたもの12例中,P1潜時が延長していたのは2例(17%),N2振幅が減少していたのは4例(33%)であった。視力,発症からの期間および中心暗点の有無について,PERGの各成分とを比較検討したが,相関はなかった。PERGはその刺激が後極部に限局し,神経節細胞からの応答が期待でき,視力,中心暗点などの黄斑部機能の自覚的指標では表し得ない黄斑部異常を客観的に評価できると考えられ,CSCの経過を観察するうえで有用な他覚的指標と考えられる。

ぶどう膜炎に対する硝子体手術の成績

著者: 沖波聡 ,   荻野誠周 ,   松村美代 ,   小椋祐一郎 ,   砂川光子 ,   新井一樹 ,   仁平美果

ページ範囲:P.1363 - P.1367

 桐沢型ぶどう膜炎(acute retinal nec—rosis)を含む種々のぶどう膜炎27眼に対して硝子体手術を行った。対象としたのは網膜剥離が15眼,硝子体混濁が7眼,硝子体混濁を伴う黄斑部網膜上膜が2眼,硝子体出血が3眼である。21眼で視力が改善したが,3眼では視力を喪失した。ぶどう膜炎の症例に対する硝子体手術は桐沢型ぶどう膜炎と網膜剥離に対しては積極的に行う必要があるが,網膜剥離を伴わない硝子体混濁や硝子体出血に対しては慎重に適応を検討して行うことが必要だと考えられる。

眼内レンズの偏心による両眼視機能への影響

著者: 湖崎淳 ,   杉本多依子 ,   根木昭

ページ範囲:P.1369 - P.1372

 挿入された眼内レンズが上方に偏心することにより両眼視機能が障害された49歳と66歳の2症例を報告した。両症例とも術前は両眼視機能があったと考えられる。挿入された眼内レンズが偏心することにより映像が黄斑部に投影されず,そのために両眼視機能が障害されたものと考えられた。眼内レンズの術後観察に際し片眼ずつの視力のみならず,両眼視機能にも留意する必要があると思われた。

Group discussion

緑内障

著者: 澤田惇 ,   山元章裕

ページ範囲:P.1374 - P.1375

主題 緑内障のスクリーニング
 第1のセッションでは,緑内障疫学調査共同研究の結果が発表された。
 まず,愛知県総合保健センターの塩瀬が今回の疫学調査共同研究の計画と方法について次のように報告した。この研究は日本失明予防協会の助成事業として日本眼科医会,日本緑内障研究会主催により1988年から2か年計画で実施されるものである。これは全国7地区(北海道,岩手,山梨,愛知,岐阜,兵庫,熊本)において40歳以上を対象に全国統一基準による緑内障検診を実施し地域別,性別,年齢別有病率を求め,今後さらに背景因子の解析を行うものである。緑内障検診の方法は一次スクリーニングとして職業別分類を含めた詳細なアンケート調査,オートレフ,矯正視力検査,NCT 3回測定で18 mmHg以上のものにゴールドマン圧平眼圧検査,細隙灯を用いたvan Herick法による隅角判定(Grade 2以下の狭隅角は隅角鏡で再確認)と無散瞳カメラによる両眼撮影を実施した。眼底写真はセンターにおいて一括読影(兵庫を除く)を行った。二次検診には圧平眼圧値21mmHg以上のものと眼底読影で異常とされたものを対象としHum-phrey自動視野計のスクリーニングプログラムを用いて検査した。結果はすべて大型電算機で処理されたが,とくに診断名については所見を総合した自動診断法を採用し主治医間の判定誤差の解消をはかると共に最終診断の参考に供した。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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