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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科45巻13号

1991年12月発行

雑誌目次

連載 眼科図譜・305

両眼性非定型的脈絡膜欠損症の1例

著者: 林洋一 ,   伊地知洋 ,   樋田哲夫

ページ範囲:P.1858 - P.1859

 緒言 先天性脈絡膜欠損症は,胎生裂閉鎖不全の結果生ずるものとされ,その大きさによって乳頭を含むか否かの別はあるものの通常眼底下方に存在する。このような定型的脈絡膜欠損は臨床上さほど稀な先天異常ではない。これに対し下方以外に存在する非定型的脈絡膜欠損1)はきわめて稀であり,トキソプラズマ症などに起因する瘢痕萎縮病巣が発生異常による脈絡膜欠損と診断されることが多い。今回筆者らは両眼に見られた非定型的脈絡膜欠損症の1例を経験したので報告する。
 症例 患者は17歳,女子。

眼の組織・病理アトラス・62

眼内上皮増殖

著者: 猪俣孟

ページ範囲:P.1862 - P.1863

 穿孔性眼外傷や内眼手術の後に,主として結膜上皮細胞が,まれに角膜上皮細胞が眼球内に侵入増殖することがある。これを眼内上皮増殖epith—elial downgrowthまたはepithelial ingrowthという。白内障のように角強膜縁を切開する手術では,結膜の輪部切開の方が弁状切開よりも眼内上皮増殖がおこる率は高いといわれている。角強膜切開創に結膜,虹彩,硝子体が陥入したり,角強膜切開創の接合が不十分な場合にも眼内上皮増殖がおこる危険性は高い。また,手術器具に付着した結膜組織が手術操作中に眼内に残されて発症することもある。
 眼内上皮増殖がおこると,重篤な緑内障をおこし,また虹彩嚢腫を形成する。緑内障は,前房内に侵入した上皮細胞層を介して虹彩根部と周辺部角膜が癒着しておこる閉塞隅角緑内障,もしくは侵入した上皮細胞が隅角の表面を覆うことによっておこる開放隅角緑内障である。侵入した上皮細胞によって前房内または後房内に嚢腫を形成し,そのために隅角が圧迫されて緑内障をおこすこともある。

今月の話題

巨大裂孔網膜剥離の治療

著者: 竹内忍

ページ範囲:P.1865 - P.1868

 巨大裂孔とは90度を越える裂孔をさすが,強膜バックリング手術で治療困難となるのは120度を越える裂孔である。この大さの裂孔になると,裂孔の後極側の網膜は,高く挙上する傾向にあり,大きくなるにつれ翻転しやすくなる。したがって,治療上の問題点はこの強膜弁をいかに元の位置に戻すかである。

眼科手術のテクニック—私はこうしている・36

後嚢のない症例に対する後房レンズ二次移植術—エンドスコープを用いた経毛様体溝強膜縫着術

著者: 江口秀一郎

ページ範囲:P.1905 - P.1907

緒言
 後房レンズ経毛様体溝強膜縫着術とは,後嚢欠損または後房レンズ固定に不十分な後嚢しか有しない人工的無水晶体眼において,後房レンズループの確実な固定を得るために,後房レンズループに結紮した縫合糸を毛様溝の位置にて眼外へ導き,強膜へ縫い付けることにより後房レンズ固定を得る術式である(図1)。
 本手術は,1980年代に,前房レンズ,虹彩支持レンズ移植にて生じた水泡性角膜症に対する全層角膜移植手術に際し,角膜内皮に対する侵襲の少ない眼内レンズ移植を同時に行おうとする試みからはじまった1〜4)。その後,前房レンズ移植にて術後角膜内皮障害の進行や,緑内障発症などの術後合併症の報告が相次いだことと後房レンズ移植術の良好な術後成績が報告されるにともない5,6),後嚢を有しない人工的無水晶体眼に対しても後房レンズ縫着固定術が行われるようになってきた。縫着部位として,強角膜創,虹彩なども試みられてきたが1〜3),術後後房レンズの安定性と合併症発症頻度より,経毛様体溝強膜縫着術が主流となっている4,7,8)。従来,経毛様体溝強膜縫着術手術手技の最大の欠点は,毛様溝への通糸操作が盲目的に行われることであった。直視下にて通糸操作を行えないため,虹彩根部を通糸し,出血や瞳孔変形をきたしたり,通糸部位が思わぬ後方となって後房レンズ偏位や網膜剥離等の術後合併症を生ずる危険があった4,7,8)

眼科薬物療法のポイント—私の処方・36

結核性網脈絡膜炎

著者: 大西克尚

ページ範囲:P.1909 - P.1912

 患者は21歳の男性。主訴:両眼飛蚊症。
 39℃前後の高熱が持続し,胸部X線写真と肺生検により,粟粒結核と診断された。入院治療をしていたが,3か月後に両眼の飛蚊症を自覚し,眼科を紹介された。

臨床報告

涙嚢原発と思われるinverted transitional papillomaの1症例

著者: 安宅和代 ,   望月學 ,   飯沼壽孝 ,   山下英俊 ,   江口秀一郎

ページ範囲:P.1869 - P.1872

 右涙嚢部腫脹および流涙を主訴とする,62歳女性の右涙嚢原発の inverted transitionalpapillomaの1症例を経験した。右涙嚢部腫瘤を触知して2年半後,腫瘍は鼻涙管を通じて下鼻道の鼻涙管開口部にまで進展し,腫瘍摘出術を行った。Inverted papillomaは急速な発育をし,悪性化率,腫瘍摘出後の再発率ともに高いため,悪性腫瘍に準じ,広汎切除が必要であり,定期的な経過観察が重要と思われた。

眼瞼に転移した乳癌の1症例

著者: 西野和明 ,   五十嵐保男 ,   足立純一 ,   前川浩 ,   北川正樹 ,   岡崎稔 ,   成松英明 ,   竹田眞

ページ範囲:P.1873 - P.1877

 症例は43歳の女性。乳癌の手術直後に複視,左眼の上下眼瞼の腫脹が発症した。画像診断の結果,眼窩腫瘤を認めたが,全身検査で他の臓器に異常はなく,腫瘤の性質を推定するのが困難であった。確定診断の目的で眼瞼の試験切除を施行したところ病理組織学的に乳癌の転移(palpe—bral metastasis of breast scirrhous carcinoma)と診断された。当時,眼窩腫瘤も同様に乳癌の転移と考えられたが,2年後の現在,球後の腫瘤は拡大傾向を認めなかった。したがって,眼窩腫瘤は炎性偽腫瘍や眼窩偽リンパ腫などの良性腫瘍である可能性も考えられた。

眼輪筋附皮弁と硬口蓋粘膜を用いた眼瞼全層再建

著者: 川本潔 ,   宮永嘉隆 ,   永富絵美 ,   笹本良信 ,   野崎幹弘 ,   平山峻

ページ範囲:P.1879 - P.1882

 65歳女性の基底細胞癌手術後に生じた下眼瞼の全層欠損例に対し,上眼瞼からの眼輪筋附皮弁と硬口蓋粘膜を用いた眼瞼再建を行った。本手術法の特徴は以下の通りである。
 眼輪筋附皮弁について,1)皮膚と眼輪筋を同時に再建できた。2)眼輪筋が連続して再建されるので再建した下眼瞼の優れた支持性と適度な緊張性が得られた。3)眼瞼皮膚を利用するため,その外観や性状が自然に近く再建できた。4)皮弁の血行が安定しているため,手術施行上の安全性が高かった。5)採取部瘢痕が目立たなかった。
 硬口蓋粘膜について,1)再建眼瞼の支持組織として十分な強度を有し,柔軟で湿潤な粘膜を同時に再建できた。2)手術操作が簡単で,その形成もよく,眼球と角膜への密着性は優れていた。3)術後の二次的収縮変形が少なかった。4)採取が簡単で,採取後donor部に特別な処置を必要としなかった。5)採取部が口腔内のため,機能と整容上問題とならなかった。以上より本手術法は有用で簡便な眼瞼再建法であると考えられた。

糖尿病眼への後房レンズ挿入術後の後期発症型フィブリン形成と関与因子

著者: 馬嶋清如 ,   初田高明

ページ範囲:P.1883 - P.1886

 水晶体嚢外摘出術および後房レンズ挿入術を行った糖尿病症例,75例,75眼を対象として,術後にみられる後期発症型フィブリン形成の有無と6つの因子との関連性について検討した。この結果,高血圧の合併,インスリン治療の施行,HbA1cの値が9.0以上,糖尿病網膜症の合併の4つの因子がフィブリン形成に関与していた。また,網膜光凝固術施行の症例では,HbA1cの値が9.0以上,糖尿病網膜症の合併という因子を有していても,フィブリンを形成した症例はなかった。

網膜剥離手術後の前房フレア値

著者: 井上雅美 ,   安積淳 ,   調久光 ,   中橋康治 ,   井上正則 ,   山本節

ページ範囲:P.1887 - P.1890

 裂孔原性網膜剥離眼で強膜内陥術後3か月以上経過し,術後炎症が落ち着いた症例の前房フレア値を測定し,その上昇に寄与する因子を多変量解析を用いて検討した。房水蛋白濃度は正常眼に比し2倍以上高値を示し,上昇に関与した因子のうち,単相関係数が高いのはバックルの高さ,冷凍凝固の数,PVR (増殖性硝子体網膜症)の有無であった。偏相関係数はバックルの高さとPVRの有無のみ高値を示した。また各因子間の相関行列において冷凍凝固の数はその2因子とそれぞれ有意な相関が得られたことから,冷凍凝固の数は前房フレア値の上昇に間接的に関与していると考えられた。

眼科領域におけるSparfloxacinの涙液移行と臨床的検討

著者: 河合佳江 ,   矢田浩二 ,   樋田哲夫 ,   藤原隆明

ページ範囲:P.1891 - P.1894

 新しく開発されたキノロン系の経口抗菌剤であるSparfloxacinについて,基礎的・臨床的検討を行い以下の結果を得た。
 本剤200mg単回投与時のヒト涙液中濃度のピーク値は0.623±0.027μg/mlに達し血清中濃度との間には正の相関を示し,移行比は約68.6%であった。投与後12時間と24時間でも涙液中濃度は,0.418±0.039μg/m1と0.280±0.060μg/mlと高値を示し,本剤のStaphylococcus aureusおよびStaphylococcus epidermidisに対するMIC80(0.1μg/ml,0.1μg/ml)1)から考えて,外眼部感染症に対する高い有用性を示唆している。
 臨床的には,S.aureus, S.epidermidisなどが検出された麦粒腫(5例),瞼板腺炎(10例),角膜炎(1例)の外眼部感染症計16例に本剤200mg/日,2回経口投与し著効5例,有効11例と全例有効以上であった。発現した副作用はいずれも軽度であり投与中止により速やかに消失した。

フルルビプロフェン点眼液の白内障手術中の散瞳維持効果と術後炎症に対するフレアセルメーターを用いた定量的検討

著者: 相原一 ,   山上聡 ,   澤充 ,   増田寛次郎

ページ範囲:P.1895 - P.1899

 プロスタグランディン合成阻害薬であるフルルビプロフェン(FP)点眼液の,白内障手術中の散瞳維持効果および,術後炎症抑制効果を検討した。対象は,老人性白内障28眼で,FP濃度0,0.0025,0.025,0.1%のいずれかを術前4回,術後3回/日点眼とした。術中の縮瞳率を測定し,術後1か月間レーザーフレアセルメーターにより術後炎症度を検討した。縮瞳率はFP高濃度群(0.1%,0.025%)で低濃度群(0.0025%,0%)より有意に低かった(P<0.05)。術後フレア値は術翌日にFP高濃度群が低濃度群に比し有意に低かったが(P<0.05),2日目以後は有意差がなかった。高濃度のFPは白内障手術中の散瞳維持および術後炎症抑制に有効な薬剤である。

サルコイドーシスと思われる眼底赤道部の散在性病巣

著者: 多田玲 ,   趙容子 ,   大路正人 ,   中川やよい ,   藤井節子 ,   春田恭照 ,   湯浅武之助

ページ範囲:P.1913 - P.1916

 眼底赤道部にみられる散在性の小さな網脈絡膜滲出斑を特徴とし,初老期以降の女性に好発する慢性ぶどう膜炎40例を検討した結果,本症がサルコイドーシスではないかと推定した。この慢性ぶどう膜炎の特徴は,1)初老期以降発症,2)ほとんどが女性で,両眼性,3)前眼部の炎症は少ない,4)網脈絡膜の小滲出斑が眼底赤道部を中心に散在性に分布し,網膜静脈炎も伴う,5)ステロイド治療に反応するが中止後容易に再燃する,6)血清ACE上昇,BHLなどは約1/3にみられたにすぎない,などであった。本症がサルコイドーシスであるならば,サルコイドーシスの中にはこのような特徴を有する1群の患者が存在すると考えられた。

片眼に続発性先天無水晶体症,他眼に先天白内障が認められた1例

著者: 鈴木一作 ,   高橋茂樹

ページ範囲:P.1917 - P.1920

 6カ月の男児で,右眼に続発性先天無水晶体症,左眼に先天白内障が認められた1例を経験した。右眼は小眼球で,小角膜,角膜混濁および不完全無虹彩がみられ,水晶体は認められなかった。硝子体は前面に虹彩色素の沈着がみられた。一方,左眼は瞳孔膜遺残,水晶体前極部の嚢および皮質の混濁,さらに水晶体後嚢下皮質の点状混濁が認められた。本症例および先天白内障であった母親の染色体に,3番と8番の長腕転座があった。右眼の先天無水晶体症の原因は不明であったが,左眼の先天白内障は染色体異常が関与して発症したものと思われた。

原発開放隅角緑内障の治療成績—点眼療法,内服,ALT併用療法

著者: 安達京 ,   内田研一 ,   白土城照

ページ範囲:P.1921 - P.1925

 原発開放隅角緑内障(POAG)の治療状況について,初診時に無治療,もしくは無治療として治療を開始し,3年以上12年にわたって経過観察した117例を対象として,生命表法により点眼療法,内服併用療法,さらにアルゴンレーザートラベクロプラスティー(ALT)併用での生存確率を検討した。最終生存確率は点眼療法のみで23.5±3.6%,内服併用で41.8±4.4%,ALT併用で67.4±6.4%であり,POAGの約30%は手術療法を必要とすると考えられた。眼圧コントロール(≦20mmHg)が得られる確率では,各々35%,50%,77%であった。

通年性アレルギー性結膜炎に対する抗アレルギー点眼液の眼誘発反応抑制効果

著者: 佐久間靖子 ,   三田晴久 ,   信太隆夫

ページ範囲:P.1927 - P.1930

 ダニを発症抗原とする通年性アレルギー性結膜炎患者27例に,抗原による眼誘発試験を行い,2%disodium cromoglycate (DSCG),0.25%amlexanoxおよび0.05%ketotifen点眼液の涙液中ヒスタミン遊離抑制効果を検討した。右眼に抗アレルギー点眼液,左眼にplacebo点眼液を点眼し,10分後に,ダニ抗原液を点眼して,アレルギー反応を誘発した。抗アレルギー点眼液投与眼の誘発5分および10分後の涙液中ヒスタミン量は,対照眼に比べ有意なヒスタミン遊離抑制効果がみられた。DSCG, amlexanoxおよびketotifen点眼液はいずれも通年性アレルギー性結膜炎に対する有効な薬剤であると考えられた。

先天脈絡膜欠損症に伴う網膜剥離の手術療法

著者: 戸部隆雄 ,   松永裕史 ,   高井勝史 ,   金井清和 ,   宇山昌延

ページ範囲:P.1931 - P.1935

 最近14年間に経験した,先天脈絡膜欠損症に伴う網脈剥離15例16眼に対する手術療法と成績について検討した。15眼に観血的手術を行った。手術の基本術式として強膜バックリングを行った。網膜剥離につながる欠損縁に沿ってジアテルミー凝固と,症例によってはその部に放射状にプロンベを縫着し,さらに,全例に輪状締結術を行った。特別な合併症なく14眼は復位し,高い治癒率(93%)を得た。本疾患に対して強膜バックリング法を勧めることができる。

黄斑低形成

著者: 小野眞史 ,   東範行 ,   小口芳久 ,   植村恭夫

ページ範囲:P.1937 - P.1941

 黄斑低形成49例98眼を随伴する異常により黄斑低形成単独群,先天無虹彩群,白子眼底群の3群に分けて検討した。視力は0.04から0.6に分布しており,88%が0.1以上を示し比較的良好であったが,先天無虹彩群は他の2群に比べてやや不良であった。また全例に眼振を伴っていたが,斜視は比較的少なく約80%の症例において眼位はほぼ正常であった。電気生理学的検査においてphotopic ERG (electroretinogram),scotopicERGともに良好であり,flash VEP (visual evo—ked potential)では約70%が良好であり,PatternVEPは全例が不良であった。これらの電気生理学的所見は3群とも差は認められなかった。以上より各群の黄斑機能に大きな差はなく,ある程度の黄斑機能は保持されているものと考えられた。

文庫の窓から

眼科新書—佐藤 勤也 纂訳 全2冊

著者: 中泉行信 ,   中泉行史 ,   斉藤仁男

ページ範囲:P.1942 - P.1943

 明治20年代以降多くの外国医書の翻訳・纂訳が行なわれたが,眼科書においてもその例外ではなかった。本書もそうした時期に,簡明な眼科講習書として学生向けに出版された眼科書の1つである。
 本書は1893年(明治26)ドイツ国出版に係る,ウィーン市大学眼科教授エルンスト・フックス(ErnstFuchs,1851〜1930)氏原著の眼科書(Lehrbuch derAugenheilkunde)の増訂第3版を主として,他にフォツシュース氏・グレーフェ氏,ミッヘル氏,シュミットリムプレル氏,マイエル氏等の眼科書を参酌し,挿入図もそれら諸書から着色図画など125図を撰択して纂訳している。つまり本書は専らフックス氏眼科書の学説を基礎とし,フォツシュース氏眼科書の系統に従い,かつ前記の数種の眼科書を参酌して纂訳したもので,図画もまたこれらの諸書より借録したものである(凡例)。

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臨床眼科 第45巻 総目次・物名索引・人名索引

ページ範囲:P. - P.

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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