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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科45巻2号

1991年02月発行

雑誌目次

連載 眼科図譜・295

糖尿病性黄斑偏位

著者: 日下俊次 ,   池田恒彦 ,   田野保雄

ページ範囲:P.96 - P.97

 緒言 増殖性糖尿病網膜症における重大かつ見過ごされやすい視力低下の原因のひとつとして糖尿病性黄斑偏位がある。これは,乳頭付近の増殖組織からの接線方向の網膜硝子体牽引によって,黄斑部が鼻側へ偏位し,視力低下・変視症などを生じる病変である1,2)。糖尿病性黄斑偏位に対する治療としては,硝子体手術によって網膜硝子体牽引を解除することが有効であり3,4),また良好な視力予後を得るには,網膜が不可逆性の変化を起こす前に,すなわち糖尿病性黄斑偏位発生後の早期あるいは軽症時に手術を行うことが重要である4)。今回筆者らは,糖尿病性黄斑偏位に対して硝子体手術を行った2例につき報告する。
 症例1 29歳,女性。19歳頃より糖尿病を指摘されたが放置。28歳時に近医で両眼の増殖性糖尿病網膜症を指摘され,光凝固を受けていた。左眼に牽引性網膜剥離を発生したため国立大阪病院眼科を紹介され受診した。初診時,右眼視力は矯正で(0.9),左眼視力は眼前手動弁。眼圧,前眼部所見は両眼とも異常を認めなかった。左眼底は牽引性黄斑剥離の状態で,右眼底には乳頭外新生血管を多数認めた。入院のうえ,左眼に硝子体手術を施行。右眼には,約1か月間で3回に分け,汎網膜光凝固を施行したが,3回目の光凝固終了後,約2週で右眼の急激な視力低下・変視症を自覚し,視力は矯正で(0.04)まで低下していた。

眼の組織・病理アトラス・52

血管新生緑内障

著者: 猪俣孟 ,   岩崎雅行

ページ範囲:P.100 - P.101

 血管新生緑内障neovascular glaucomaとは虹彩の表面に新生血管が生じること(虹彩ルベオーシスrubeosis iridis)に伴っておこる緑内障をいう。虹彩表面の血管新生は眼組織への血液供給不全の状態,すなわち網膜中心静脈閉塞症,糖尿病性網膜症,頸動脈循環不全などで高頻度におこる。臨床的には,新生血管は初期には瞳孔縁および虹彩根部に観察される。しかし,前房隅角線維柱帯表面の新生血管(図1)は隅角鏡でもその有無を判定しがたいことがある。螢光血管造影を行うと,螢光色素の流入と血管壁からの色素の漏出によりその存在が確認できる。新生血管はやがて虹彩全体に拡がる。臨床的には観察できないが,新生血管は線維柱帯やシュレム管内にも侵入する(図2,3)。
 血管新生緑内障の眼圧上昇として2つの機序が考えられる。その1つは新生血管からの血液成分の透過性が高いことによるもので,他の1つは虹彩周辺前癒着によるものである。前者は続発開放隅角緑内障に相当し,後者は続発閉塞隅角緑内障である。新生血管は隣接する内皮細胞相互間の接着が弱く,しかも内皮細胞の胞体には多数の窓構造fenestrationが存在する。したがって,新生血管の内腔から血液の液性成分や血球成分が血管外に出やすい状態にある。

今月の話題

水平強膜縫合(tri-loop horizontal suture)による白内障術後乱視を軽減する方法

著者: 深作秀春

ページ範囲:P.103 - P.106

 白内障術後乱視の問題として,早期の直乱視とその後の倒乱視化傾向の2点がある。この乱視の原因の垂直ベクトル合力を眼の中心方向へ変換する新しい縫合方法を開発し,術後直乱視軽減と早期の安定化が可能となった。

眼科薬物療法のポイント—私の処方・26

眼角眼瞼炎(眼角眼瞼結膜炎)

著者: 大石正夫

ページ範囲:P.152 - P.153

 28歳,女性,右眼痛と流涙,とくに開瞼時に強い眼痛を訴える。掻痒感もある。眼瞼の内,外角部の皮膚は発赤,腫脹し,一部白くふやけたようにただれている。瞼,球結膜に中等度の充血がみられた。
 主訴:右眼角部眼瞼皮膚の発赤,腫脹,掻痒感を伴った眼痛

眼科手術のテクニック—私はこうしている・26

線維柱帯切除と白内障の同時手術

著者: 新家真

ページ範囲:P.156 - P.158

 近年の人口の老齢化に伴い,白内障と緑内障の同時手術の適応となる例が,今後ますます増加すると思われる。白内障(人工水晶体挿入術)手術と,同時に行われている緑内障手術は,trabeculectomyとtrabeculotomyがその代表的なものであるが,本項ではtrabeculectomyとの同時手術について述べる。

臨床報告

緑内障様視神経萎縮を呈した水頭症の1症例

著者: 小泉公仁子 ,   新家真 ,   川本英三 ,   山上淳吉

ページ範囲:P.107 - P.111

 小児期に水頭症が発症し,かつ10年来の脳循環障害による諸症状を示した65歳男性に,両眼性の緑内障様視神経萎縮と視野変化がみられた。パターン視覚誘発電位はP100の潜時延長が両眼にみられた。第3脳室の拡大による視交叉部の圧迫が強く疑われた。本症例の視神経萎縮は,視神経への第3脳室拡大による機械的圧迫と中枢神経系への慢性的循環障害が加わったためと考えられた。視神経障害像は低眼圧緑内障におけるそれときわめて類似しており,低眼圧緑内障における視神経障害の原因を考えるうえで興味深い症例と考えられた。

梅毒性視神経網脈絡膜炎の2例

著者: 玉置泰裕 ,   天野史郎 ,   沼賀二郎 ,   山下英俊 ,   望月學

ページ範囲:P.113 - P.117

 28歳の男子の両眼と21歳男子の片眼に視力障害が突発した。梅毒の全身症状を欠いていたが,梅毒血清抗体価が高値を示したため,梅毒性視神経網脈絡膜炎と診断した。駆梅療法としての抗生物質投与と副腎皮質ステロイド薬の内服によく反応し,予後は良好であった。原因不明のぶどう膜炎,視神経炎などを見た場合,鑑別診断のひとつに梅毒を念頭に置く必要がある。

緑内障のある白内障眼への眼内レンズ挿入術—角膜内皮の変化と術後炎症

著者: 天野史郎 ,   池澤暁子 ,   佐古博恒 ,   小松真理 ,   清水公也

ページ範囲:P.119 - P.122

 緑内障67眼に対して後房レンズ挿入術を行い,術後前房内炎症をレーザーフレアセルメータを用いて評価し,術前後の角膜中央部の内皮細胞をスペキュラーマイクロスコープを用いて評価した。術後の前房内炎症は正常30眼と比較して緑内障眼で強く,原発開放隅角緑内障(POAG)36眼と原発閉塞隅角緑内障(PACG)31眼ではPACG眼でより強い前房内炎症が観察された。角膜内皮細胞の減少率は,POAG眼よりPACG眼でより大きかった。PACG眼の中で,急性緑内障発作や濾過手術の既往のある症例には術前から角膜内皮数が少ないものがあり,こうした症例では,手術適応と術後経過観察に注意が必要と考えられた。

硝子体手術が奏効した再生不良性貧血の1症例

著者: 寺井高子 ,   村上喜三雄 ,   小笠原博宣 ,   五十嵐弘昌 ,   石川順一

ページ範囲:P.123 - P.126

 重症再生不良性貧血と2か月前に診断された9歳女児の両眼に強い網膜硝子体出血が突発した。網膜出血は初発時には表在性と出血性網膜分離症の形であった。全身状態が改善した4か月後に,両眼に硝子体手術を行った。片眼で視力が改善し,以後3年余の期間安定した状態にある。他眼は網膜剥離のために失明した。重症再生不良性貧血では一般に生命の予後が不良とされているが,本症例のように延命が可能な場合があるので,網膜硝子体出血が併発した場合には,積極的に手術の可能性を検討すべきである。

全身に異常のない網膜astrocytomaの1例

著者: 福田薫 ,   中山章子 ,   岩根裕子 ,   大久保潔 ,   山中昭夫

ページ範囲:P.127 - P.130

 16歳女性で,頭蓋内および全身の皮膚に異常を認めず,検眼鏡的にastrocytomaと診断された1例を経験した。
 症例は,左眼眼底の,乳頭上方に隣接した約2乳頭径大の黄色で境界鮮明なほぼ円形の腫瘤を認めた。網膜面より約4D隆起しており,その表面には凹凸がみられ桑実状を呈していた。視野検査では腫瘤の位置に相当する部位より周辺に弓状の視野欠損を示した。螢光眼底造影では,静脈相後期にstainingが始まり,一部網膜血管が腫瘤内を走行していた。全身検索の結果,特に異常はなかった。これらの所見より,網膜に孤発したastrocytomaと考えられた。

水晶体嚢真性落屑

著者: 前尾直子 ,   中塚和夫 ,   酒井義生 ,   山之内夘一

ページ範囲:P.131 - P.133

 水晶体嚢のtrue exfoliationの1例を経験したので報告した。症例は78歳男性で両眼の前房中に薄い透明なセロファン様の膜を認めた。この膜は水晶体前嚢と連続性があり眼球運動に際して可動性を有していた。Pseudo-exfoliativematerialとは明らかに異なる様相を呈しており,隅角所見は両眼とも正常で緑内障の合併もなかった。職歴から強い熱への暴露が原因と考えられた。

糖尿病患者に併発する緑内障の臨床的研究—その2 白内障手術後の続発性緑内障の危険因子

著者: 加藤直子 ,   小紫裕介 ,   三浦昌生 ,   新城光宏 ,   中川成則 ,   岩城正佳 ,   近藤武久

ページ範囲:P.141 - P.146

 糖尿病患者の白内障術後合併症の続発性緑内障について検討した。単独白内障手術施行眼350眼(嚢内法171眼,嚢外法90眼,後房レンズ挿入89眼)を調査した。術後6か月以内に,血管新生緑内障22眼6.3%と非血管新生緑内障22眼6.3%が発生した。続発性緑内障の発生には,術後急激に生ずる糖尿病性網膜症の悪化が影響した。血糖コントロール不良の若年のインスリン依存型糖尿病患者で,術前に無治療の活動性網膜症を有する場合の白内障手術の際は注意を要する。糖尿病患者では,術前に網膜症を鎮静化し,手術は嚢外法を選択し,術後早期に眼底検査を行い,必要に応じて網膜症の治療を行うことが重要である。

脈絡膜骨腫の蛍光眼底所見

著者: 加藤克彦 ,   黒坂大次郎 ,   東範行 ,   小口芳久

ページ範囲:P.159 - P.164

 長期観察例を含めた脈絡膜骨腫5例6眼について蛍光眼底所見を中心に検討した。眼底所見にはさまざまな時期の病変が混在し,橙赤色部,黄白色部,綱膜脈絡膜萎縮部の3つに大別できた。蛍光眼底所見として,橙赤色部及び黄白色部ではwindow defectとそれに引き続くstainingが,網膜脈絡膜萎縮部では萎縮に一致する低蛍光が特徴であった。造影初期の脈絡膜相から出現する微細な過蛍光は,腫瘍の黄白色部に認められ,これはvascular tuftsの造影所見と考えられた。また,病変の近傍に検眼鏡上異常がみられなくとも微弱な過蛍光を示す部位があり,蛍光眼底造影によってのみ初期の病変が見出されることがあることも示唆された。長期観察例の所見より,各病変における蛍光眼底所見は,脈絡膜骨腫の予後についての判断の一助となると思われた。

糖尿病性黄斑偏位に対する硝子体手術

著者: 日下俊次 ,   池田恒彦 ,   田野保雄

ページ範囲:P.165 - P.169

 増殖性糖尿病網膜症において,乳頭付近から黄斑部へかけての網膜硝子体牽引によって視力低下を来した糖尿病性黄斑偏位,13例14眼に対して硝子体手術を施行した。術前の視力は,眼前手動弁から0.4までで,急激な視力低下・変視症を特徴としていた。網膜復位は13眼(93%)に得られた。術後の視力変化は,視力表にて2段階以上の改善例は9眼(64%),1段階以内の不変例は5眼(36%),2段階以上悪化した症例はなかった。黄斑部への網膜硝子体牽引発生から8週以内に手術を施行した症例(8眼)および9週以上を経て手術を施行した症例(6眼)の視力改善はそれぞれ7眼(88%),2眼(33%)であり,発症早期に手術を施行した症例で視力改善率は有意に高かった(P<0.05)。糖尿病性黄斑偏位の発生早期における硝子体手術が有効であると考えられた。

白内障術前術後の抗炎症剤ジクロフェナック点眼

著者: 北大路浩史 ,   中井義秀 ,   北大路勢津子

ページ範囲:P.171 - P.174

 水溶性の0.1%ジクロフェナック点眼液の,眼内レンズ手術におけるフィブリン析出予防効果と副作用につき,油性の0.5%インドメタシン点眼液と比較検討した。白内障嚢外摘出術と後房レンズ挿入を行った239眼,超音波乳化吸引術と後房レンズ挿入を行った25眼を対象に,ジクロフェナック群208眼,インドメタシン群46眼,点眼(−)群10眼に分け,点眼は術前2回,術後3回/日×4〜7日とし,ステロイドおよび抗生剤点眼液等を併用した。フィブリン析出は,点眼(−)群で20%,ジクロフェナック群5%,インドメタシン群4%と点眼群で明らかに少なかったが,角膜上皮障害は,点眼(−)群では0%であったが,極軽度のものも含めると,ジクロフェナック群で12%,インドメタシン群では24%に見られた。ジクロフェナック群での上皮障害は,術前内皮細胞密度の減少と優位な相関を認めた。

心因性瞳孔異常と思われる1症例

著者: 大竹弘子 ,   新井三樹 ,   松井淑江 ,   吉村長久 ,   木村徹

ページ範囲:P.175 - P.178

 心因性によると思われる瞳孔の変動および不同と屈折異常を認めた16歳の1症例を報告した。
 瞳孔変化に加え,屈折において−4Dから−21Dまで,水晶体厚径においては1mm以上の変動がみられた。
 各種の点眼試験,X線・CT・MRI検査からは器質的疾患は否定的であった。

Oculokinetic perimetryを使った緑内障の視野検査

著者: 陶山秀夫 ,   若倉雅登

ページ範囲:P.179 - P.183

 テスト視標を動かす代わりに,被検者の眼球を動かすことにより行う視野検査法であるoculokinetic perimetry (OKP)の緑内障視野検査用に作られたチャート(緑内障スクリーナー)を使用し,緑内障患者19名25眼で検査を行い,すべてに視野異常が検出された。このチャートは安価,小型でハンディー,簡単,短時間での測定,長時間の一点固視よりの解放,特別な技術は不必要で,いつでもどこでも,自分で測定が可能と種々な長所を備えており,今後は緑内障視野スクリーニングに役立つ検査法として期待できる。

カラー臨床報告

老人性円盤状黄斑変性症の病理組織学的検討

著者: 石橋達朗 ,   本多貴一 ,   村田敏規 ,   向野利寛 ,   中村晴美

ページ範囲:P.135 - P.139

 症例は73歳女性で,老人性円盤状黄斑変性症の診断のもとに経過観察中硝子体出血,血管新生緑内障をきたし,持続する眼痛のため眼球を摘出した。その摘出眼球を病理組織学的に検討した。眼底後極部の網膜下および網膜色素上皮下には新生血管を含んだ増殖組織がみられ,一部の新生血管は脈絡膜血管との連続性が認められた。増殖組織内には多核巨細胞やマクロファージがみられた。網膜色素上皮下の新生血管壁が破綻して,網膜色素上皮下に出血をきたしていた。また網膜下出血や硝子体出血もみられた。ドルーゼンが後極部に散見され,一部のドルーゼンには新生血管が認められた。

Group discussion

色覚異常

著者: 深見嘉一郎

ページ範囲:P.185 - P.186

 今年の演題を概観すると,基礎的な色覚の機序に関する研究は僅かに1題であった。次に外国の検査表の紹介が2題。検査表の検査方式に関する研究が1題。検査法の再現性,信頼性,練習効果などに関する検討が2題。色名呼称検査が1題。電気生理学的検討が1題。後天異常,特に錐体ディストロフィー的疾患に関する報告が2題であった。
 その概略を述べながら,解説を試みる。

糖尿病性網膜症

著者: 福田雅俊

ページ範囲:P.186 - P.188

1.糖尿病性網膜症に対する硝子体手術の房水蛋白濃度への影響—レーザーフレアセルメーターを用いて—
 木戸口 裕・北野滋彦・堀 貞夫(女子医大糖尿病センター)・高橋貴子(女子医大)
 硝子体手術は房水蛋白濃度にも大きな影響を与え,予後のよいものは術後4週で72%,3カ月で87%術前以下に下降するが,予後不良なものは,いつまでも上昇が続き,予後判定にも有用な検査である。
 吉田晃敏(旭川医大),岡野 正(群馬大)より質疑があった。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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