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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科45巻3号

1991年03月発行

雑誌目次

特集 第44回日本臨床眼科学会講演集(1)1990年9月 東京 学会原著

テルソン症候群の5例

著者: 渡邉葉子 ,   佐藤文平 ,   濱田潤 ,   菅澤淳

ページ範囲:P.211 - P.214

 くも膜下出血に続発する硝子体出血(テルソン症候群)の5例8眼を観察した。初診時に眼底が透見不能であった4例5眼のうち,3眼に硝子体手術を行い,そのすべてに黄斑上膜の形成を認めた。他の1眼はヤグレーザーによる硝子体膜切開を行い,黄斑変性が発見された。全4眼で術後視力は著明に改善した。テルソン症候群での出血は自然に吸収され,視力予後が良いために保存的治療が望ましいとされてきた。しかし,超音波などで黄斑の異常が推定される症例では,早期硝子体手術の適応があると考える。

視覚保続を呈した3症例の検討

著者: 石川弘 ,   加島陽二 ,   北野周作

ページ範囲:P.215 - P.218

 視覚保続とは,実際に見た物と形や色が同じ陽性残像が異常に長時間出現する特異な視覚異常である。今回,この視覚保続を呈した3症例の臨床的特徴について報告した。2例は時間的視覚保続,1例は時間的視覚保続と空間的視覚保続を示し,全例に右頭頂後頭葉病変が確認された。診断には,視覚保続を念頭に置いた詳しい症状の分析と,同名半盲や半側空間無視,および視運動性眼振の非対称現象などの随伴症状が重要である。注意深い観察を行えば,視覚保続はかなりの症例に認められる可能性があることを強調した。

BSS PLUS®灌流によるIOL移植眼の前房蛋白濃度の術後経過について

著者: 越智利行 ,   岩渕成祐

ページ範囲:P.219 - P.222

 酸化型グルタチオンを含む房水組成溶液(BSS PLUS®)をKPE・IOL手術の眼内灌流液として使用し,前房蛋自濃度をレーザーフレアセルメーターを用いて測定し,血腋房水柵に及ぼす影響をOPEGUARD®-MAと比較検討した。BSS PLUS®を使用した188眼の前房蛋白濃度は,OPEGUARD®-MAを使用した115眼のそれより低い値を示した。BSS PLUS®を使用した症例中,糖尿病眼および眼内レンズがout of thebagに固定された症例の前房蛋白濃度は,非糖尿病眼・眼内レンズがin the bagに固定された症例のそれとほぼ同様の値を示した。BSS PLUS®は血液房水柵の破壊をきたしやすい症例で,眼組織の保護作用が高い灌流液であると推定された。

網膜細動脈瘤の終末像について

著者: 海平淳一 ,   藤沢昇 ,   佐藤雪雄 ,   窪田俊樹 ,   宮崎守人 ,   田中紀子 ,   西山敬三 ,   瀬川雄三 ,   宮永和人 ,   米山穣二

ページ範囲:P.223 - P.227

 発症から6か月以上,平均18.2か月を経過し,再出血や滲出性変化の増大がみられなくなった網膜細動脈瘤患者20例の検眼鏡的観察を行った。発症時の平均年齢は71.2歳で,光凝固施行例は4例である。最終観察時に5例は細動脈瘤が検眼鏡的に観察されず,9例は細動脈に隣接して,6例は細動脈下に瘢痕が観察されたが,瘢痕が細動脈上に観察される症例はなかった。瘢痕の大きさや形状はさまざまであるが,その検眼鏡的性状は線維質の9症例と白斑状の6症例とに分類できた。発症部の細動脈は16例で局所的狭窄を,15例で白鞘化を認めたが,細動脈枝閉塞例は認められなかった。

眼内水晶体落下例の水晶体摘出

著者: 根路銘恵二

ページ範囲:P.229 - P.232

 外傷性水晶体脱臼の水晶体全摘術中に水晶体落下を起こした79歳の症例について,水晶体の摘出を行った。
 落下水晶体の摘出術は術中偶発症や合併症が生じやすいため安全な方法が選択されるべきであり,本症例は硝子体手術と開放創からの娩出の併用で行った。
 本方法の手順においては,眼内での水晶体の移動が自在に行われることが必要であり,今回は静水圧を利用してのフルートニードルによる吸着法をとった。
 フルートニードルによる吸着法は,フルートハンドルの小孔を開閉することで水晶体の着脱が容易であり,吸着圧も灌流瓶の高低をかえることにより調節される。静水圧による吸着力は,娩出時の水晶体保持として十分な力を有する。
 落下水晶体の摘出術において,フルートニードルによる水晶体の吸着移動は有用な手段であった。

難治性周辺部角膜潰瘍に対するプロテアーゼインヒビターOvomacroglobulinの点眼治療効果

著者: 鎌田龍二 ,   宮川真一 ,   前田浩 ,   岡村良一

ページ範囲:P.233 - P.237

 プロテアーゼ抑制剤であるニワトリ卵白ovomacroglobulinは,血漿α2 macroglobulinと相同タンパク質で,プロテアーゼに対して幅広い抑制効果を有している。この1%および0.1%溶液の点眼で難治性の周辺部角膜潰瘍の5症例を,単独1日6回点眼または1%アトロピン点眼との併用で治療した。症例は慢性関節リウマチに合併する周辺部角膜潰瘍2例,蚕食性角膜潰瘍1例,カタル性角膜潰瘍2例である。いずれも点眼後7日以内に潰瘍は消失し,残存する炎症は,低濃度のステロイドホルモンおよび非ステロイド性消炎薬の点眼のみで完治した。潰瘍の再発が1例にあった。潰瘍の修復に先行して自覚症状の改善傾向が認められた。副作用はなかった。

家族性滲出性硝子体網膜症での増殖性硝子体網膜症

著者: 南部真一 ,   羽鳥毅 ,   宮久保寛

ページ範囲:P.238 - P.243

 家族性滲出性硝子体網膜症(FEVR)に併発した裂孔原性網膜剥離96眼について,手術前後の増殖性硝子体網膜症(PVR)を検索した。手術前では15眼16%,手術後では残る81眼中13眼13%にPVRが発症した。対照群350眼でのPVR発症率は,術前3%,術後8%であり,FEVRでのPVR発症率は有意に高かった。
 術後にPVRが発症したFEVR群を,耳側周辺部の網膜無血管の広さと増殖性変化の有無を指標として分類し検討した。広い無血管野のある76眼では10眼中13%,新生血管のある5眼では3眼60%と,眼底病変が重篤な程PVRが高頻度に発症した。前者のうち,手術回数の多いものと術中に合併症のあったものにPVRが好発した。特に,SF6 ガスを注入した7眼では3眼43%にPVRが生じた。ガスによるPVRは前方に移動した硝子体が収縮し,バックルの前方の網膜硝子体癒着部から,PVRが主として発症した。増殖性の変化の強い症例では,手術回数の多いものと裂孔が不明なものにPVRが好発した。無血管群よりも発症が多かったのは,新生血管からの血漿成分漏出が常在するために,網膜色素上皮の増殖を促進することがその理由と思われた。

着色した後房レンズの色覚に関する研究

著者: 大浜敬子 ,   萩原早 ,   花房晶 ,   友永正昭 ,   太田安雄

ページ範囲:P.245 - P.249

 白内障術後,患者が青視症を訴えることがある。筆者らは,術後に正常な色感覚を得る目的で,分光透過率が53歳ヒト水晶体に近似した着色後房レンズを試作し,移植眼に種々の色覚検査を行った。その結果,100hue testの総偏差点は,着色後房眼内レンズ移植眼では,透明眼内レンズ移植眼に比べて,有意差に減少したが,紫外線吸収眼内レンズとは有意差はなかった。また,自覚的に羞明・青視症を訴える者が少なかった。

網膜色素変性症における白内障手術と眼内レンズ挿入

著者: 谷野洸 ,   足立憲彦 ,   鈴木康之 ,   岡島修 ,   平戸孝明 ,   江口秀一郎

ページ範囲:P.251 - P.253

 定型的網膜色素変性症8名の10眼に白内障手術と眼内レンズ挿入術を行った。4眼には紫外線吸収眼内レンズを挿入し,6眼には一般の眼内レンズを挿入した。術後10眼中9眼に,0.3以上で,かつ2段階以上の視力改善が得られた。1眼では黄斑の変性のため視力は改善しなかった。1眼で術後4週間に類嚢胞黄斑浮腫がみられたが,術後約12か月で2段階の視力改善が得られた。術後には全例に遮光矯正眼鏡の装用をすすめた。術後に視力が改善しなかった例も含めて,全例で明所における昼盲の症状が軽減した。これまでの観察で,紫外線吸収レンズ挿入群と通常のレンズ挿入群との間に,術後の経過の差はなかった。

老人性円板状黄斑変性症の治療効果—脈絡膜新生血管板が中心窩下にかかる症例

著者: 清水敬子 ,   松本真智子 ,   中村仁 ,   戸張幾生

ページ範囲:P.255 - P.258

 老人性円板状黄斑変性症の中心窩下に脈絡膜新生血管板がある症例の治療効果を検討した。40例40眼を対象とし,中心窩下の新生血管板を除いた新生血管板を,色素レーザーの波長580,590,610,630nmで光凝固治療した。3か月以上,平均15か月経過を観察した。
 2段階以上の視力の改善が,小型の新生血管板と円板状病巣でみられた。漿液性色素上皮剥離,出血性色素上皮剥離,結合織型では,視力の改善がなかった。視力の改善がみられた小型の新生血管板と円板状病巣では、610nmの波長が有効であった。病巣の瘢痕化の拡大がないものが80%を占め,色素レーザーの低形成的な瘢痕形成性が確かめられた。

続発性黄斑剥離の視力

著者: 大谷倫裕 ,   高橋京一 ,   坂本道子 ,   古沢信彦 ,   田中隆行

ページ範囲:P.259 - P.263

 過去10年間の非裂孔原性網膜剥離のうち中心性漿液性網脈絡膜症48眼,原田病52眼,脈絡膜血管腫6眼,胞状網膜剥離13眼について,その急性期と寛解期の視力に関係する要素について調べた。視力は矯正視力を用い,対数換算の上平均視力を算出し,有意差検定にはt検定を行った。
 その結果,急性期では,網膜剥離の大きさは視力に関係しなかった。網膜剥離の原因による差が大きく,平均視力は,中心性漿液性網脈絡膜症0.6±0.27,脈絡膜血管腫0.5±0.14,原田病0.4±0.41,胞状網膜剥離0.1±0.53であった。寛解期の平均視力は中心性漿液性網脈絡膜症1.0±0.20,原田病1.0±0.17,脈絡膜血管腫0.9±0.09,胞状網膜剥離0.5±0.56であり,胞状網膜剥離の視力が他の3疾患に比べて有意に不良であった。胞状網膜剥離では網膜剥離の消退後に螢光漏出部から下方に向かう網膜色素上皮の変性を伴いやすく,13眼中8眼にみられた。
 黄斑剥離で視力を規定する要素は単一ではないが,その中でも網膜下液の性質が視力に大きく関係していると結論される。

老人性円板状黄斑変性症の中心窩下新生血管膜に対する光凝固成績

著者: 白神史雄 ,   原和之 ,   土田陽三 ,   森繁広 ,   松尾信彦

ページ範囲:P.265 - P.269

 光凝固治療の適応がないとされている老人性円板状黄斑変性症の中心窩下新生血管膜に対して,矯正視力0.1以下,新生血管の大きさが2乳頭径以内であるなどの適応基準を満足する16例16眼に,中心窩を含めて新生血管膜を完全に覆うようにクリプトンまたは色素レーザーで光凝固を施行した。2段階以上の視力改善が得られたのは9眼56%であり,特に0.1以下に視力が低下して比較的短期間のうちに光凝固を施行できた症例に改善例が多かった。最終的な凝固成功率は12眼75%であった。老人性円板状黄斑変性症の中心窩下新生血管膜に対する光凝固治療は,適応を限定して行えば有用である可能性が示唆された。

原発性定型網膜色素変性症の予後に関する検討—14施設調査

著者: 早川むつ子 ,   藤木慶子 ,   金井淳 ,   松村美代 ,   小泉閑 ,   玉井信 ,   塩野貴 ,   所敬 ,   赤沢嘉彦 ,   久保田伸枝 ,   河野真一郎 ,   松井瑞夫 ,   湯沢美都子 ,   小口芳久 ,   明尾潔 ,   安達恵美子 ,   武田憲夫 ,   三宅養三 ,   矢ヶ崎克哉 ,   若林謙二 ,   石坂伸人 ,   本田孔士 ,   坂上欧 ,   宇山昌延 ,   岸本伸子 ,   石橋達朗 ,   本多貴一 ,   大庭紀雄

ページ範囲:P.271 - P.275

 1989年の2か月間に14施設を受診した定型網膜色素変性症253例,男性:女性=122:131,平均年齢48歳,平均自覚症状発現年齢28歳を対象に,視力予後について分析した。視力と年齢,経過年数との間に有意な相関関係が認められた。視力0.1以下の眼の頻度は,年齢を20歳区切りにすると,若い年齢群から4,23,38,40%の頻度であり,経過年数を20年区切りにすると,25,44,47,67%であった。10°以下の高度視野障害眼の頻度は,40歳以上及び経過年数20年以上で,視力0.1以下の眼の頻度を上まわっていた。遺伝形式別では,優性が孤発や劣性より障害が軽い傾向が認められた。

網膜細動脈瘤の破綻後の転帰

著者: 横井則彦 ,   森野潤子 ,   保田桂子 ,   赤木好男 ,   山本敏雄

ページ範囲:P.277 - P.281

 網膜細動脈瘤は,破綻後の自然経過において3段階(stageⅠ,Ⅱ,Ⅲ)の螢光眼底造影像を示しながら推移することを先に報告した。
 このstageⅢ以降の2眼をさらに経過観察すると,検眼鏡では明瞭な動脈瘤全体が,螢光眼底造影では,螢光所見を欠く領域として認められるようになった(stageⅣ)。この所見は,螢光色素が動脈瘤に流入せず,しかも動脈瘤そのものが脈絡膜背景螢光をブロックすること,すなわち,動脈瘤内全体を占拠した血栓が内皮化され,最終的に完全な線維組織に置き変えられたために生じた所見と考えられた。網膜細動脈瘤の螢光眼底造影像の推移は動脈瘤内部の血栓の器質化の進行を反映したものであると考えた。

長崎大学最近10年間の網膜色素変性症患者について

著者: 野口智 ,   田代順子 ,   今村直樹 ,   佐久間正喜 ,   中村浩平 ,   三島一晃 ,   吉岡直美 ,   雨宮次生

ページ範囲:P.283 - P.286

 最近10年間に長崎大学附属病院眼科を受診した網膜色素変性症患者について統計的考察を行った。対象は男性97人,女性83人の合計180人,353眼で,外来新患患者の0.7%であった。定型例が332眼94.5%,非定型例が21眼5.9%で,初診時の平均年齢は47.5歳であった。この10年間で患者数の著明な増減はなかった。定型例の視力と視野は,年齢の上昇にともない悪化例の割合が高くなった。合併症は白内障が169眼と最も多く,緑内障16眼,角膜混濁10眼を認め,屈折異常は近視が多かった。眼底所見を,網膜混濁,色素沈着,血管狭細,視神経萎縮に分類したが,前二者は年齢と共に悪化例の割合が高くなった。後二者は年齢とは無関係であった。本院における本疾患の特徴として,高齢者でも視力が良好であり男女差が小さかった。

網膜色素変性症の医療状況—患者問診票から

著者: 松村美代 ,   小泉閑 ,   玉井信 ,   塩野貴 ,   早川むつ子 ,   荒文乃 ,   所敬 ,   赤沢嘉彦 ,   久保田伸枝 ,   河野真一郎 ,   松井瑞夫 ,   湯沢美都子 ,   小口芳久 ,   明尾潔 ,   安達恵美子 ,   武田憲夫 ,   三宅養三 ,   矢ヶ崎克哉 ,   若林謙二 ,   石坂伸一 ,   本田孔士 ,   坂上欧 ,   宇山昌延 ,   岸本伸子 ,   石橋達朗 ,   本多貴一 ,   大庭紀雄

ページ範囲:P.287 - P.289

 網膜色素変性症患者253名に対して問診を行い,有効問診票207例から患者側から見た医療状況を検討した。遮光眼鏡はよく使用されているが,患者の13%が車の運転を行っており交通事故にあったものも多い。身体障害者手帳は該当者でも必ずしも所持せず,情報を求めて複数の眼科を受診する傾向があった。

網膜色素変性症患者の白内障手術後の硝子体の変化

著者: 小林博 ,   小林かおり ,   西川雅子 ,   松村美代 ,   本田孔士

ページ範囲:P.291 - P.293

 網膜色素変性症患者23名44眼の白内障手術後8〜10年間にわたる硝子体の変化を検索した。前硝子体膜の破綻及び線維化の頻度は,正常コントロール眼に比較して,有意に低率であった。後部硝子体の変性については,コントロール群では有意に進行したのに対して,色素変性症患者ではほとんど進行がなかった。術直後,長期経過後ともに,色素変性症患者の後部硝子体の変性は,コントロール群に比較して有意に高度であり,術前に既に高度の変性があったと考えられた。これらから,本症患者の白内障手術後の硝子体は正常眼とは異なる経過をたどることが示された。

増殖性硝子体網膜症に対する放射線療法の試み

著者: 吉村長久 ,   安淵幸雄 ,   山川良治 ,   本田孔士

ページ範囲:P.295 - P.297

 4例4眼の増殖性硝子体網膜症について,硝子体手術後に20Gyの放射線治療を行った。術直後に,角膜上皮欠損の遷延化と,やや強い前房内フィブリン反応が2眼に認められたが,10日から2週間で消退した。平均6か月間の経過観察中に放射線照射によると考えられる合併症はなかった。4眼中2眼で,網膜が復位し,最終視力は良好であった。術中に網膜の部分復位しか得られなかった2眼は,術後も網膜は部分復位の状態であり,有用な視力は得られなかった。放射線療法は,増殖性硝子体網膜症の発症,進展を抑制する補助療法として使用できる可能性があると評価された。

網膜血管病での動静脈短絡

著者: 得居賢二 ,   村岡兼光 ,   田中隆行 ,   須藤憲子 ,   中静隆之

ページ範囲:P.299 - P.306

 閉塞性網膜血管病494眼の螢光眼底造影所見の解析の結果,網膜中心静脈閉塞症2眼,網膜中心動脈閉塞症2眼,網膜粟粒血管瘤症2眼で動静脈短絡路を同定した。これまでの脈なし病,糖尿病性網膜症,網膜静脈分枝閉塞症での動静脈短絡路の観察と合わせ,動静脈短絡路の形成過程と発生病態に関する共通因子を検討した。動静脈短絡路の形成過程には,優先血行路を介するものと,動静脈交叉部での吻合によるものが観察された。優先血行路形成には,動静脈間の圧落差の低下が関係しており.動静脈吻合形成には,血管壁の脆弱化が関係していると考えられた。動静脈短絡路は,多数の病的状態で網膜血管がとる基本的な血管反応のひとつであると結論される。

網膜剥離の手術法の選択—経強膜もしくは経硝子体の選択

著者: 小林康彦 ,   有馬一城 ,   小沢佳良子 ,   中川正昭 ,   二宮久子 ,   稲垣有司 ,   土屋櫻 ,   田中稔

ページ範囲:P.307 - P.310

 今回筆者らは,網膜剥離と診断された202眼のうち,裂孔の位置・大きさ・手術既往の有無・牽引の程度・硝子体混濁の程度・PVRの有無などより,難治性と思われる症例を抽出し,その手術方法として,経強膜的アプローチか,経硝子体的アプローチかで苦慮した34眼に対しての,各項目について検討を加えた。また,全例に対して,最終的に硝子体手術を施行し,88%の復位率が得られた。
 裂孔原性網膜剥離の手術の第一選択は,経強膜からのアプローチであるが,今回の筆者らの経験から術後のPVRの予防や視機能などの点から,難治性と思われる症例には,硝子体手術に起因する問題点を理解したうえで,経硝子体法による手術を選択したほうがより良好であると思われた。

原発閉塞隅角緑内障の予後と眼圧

著者: 吉川啓司 ,   中瀬佳子 ,   東出登志 ,   井上トヨ子 ,   井上洋一

ページ範囲:P.311 - P.314

 手術あるいはレーザー虹彩切開後,点眼薬下で眼圧が20mmHg以下であった原発閉塞隅角緑内障40例80眼を検索した。無投薬で眼圧を測定し,うつ伏せ試験(PPT)などの眼圧負荷試験を実施した。中心視野平均感度の増減により視野進行を判定した。80眼中12眼(15%)では眼圧と視野に異常がなく,治癒と考えられた。
 各検査結果を要因として多変量解析を行い,治療前の眼圧と後眼圧,水飲試験,視野進行などが,治癒に対して関連性の高い因子であることが示された。視野進行の有無に関連した因子は,PPTと治療後眼圧であった。以上より原発閉塞隅角緑内障の予後に眼圧関連の要因が影響することが示された。

開放隅角緑内障における網膜循環動態

著者: 杉原いつ子 ,   鈴木亮 ,   石橋健 ,   栗本晋二

ページ範囲:P.315 - P.318

 開放隅角緑内障(POAG)患者の網膜循環動態をVideo-densitometric image analysisの方法を用いて検討した。対象症例は,正常群17例17眼,POAG群18例21眼である。
 正常群は各象限の網膜平均循環時間(MCT)に有意の差を認めなかったが,POAG群は耳側MCTが有意に遅延していた。POAG群のMCTは,眼圧と相関がなかったが,陥凹/乳頭の直径比(C/D比)および視野障害の程度とに,正の相関関係が認められた。
 MCTを検討することが,網膜循環障害と視野変化との関係を考える上で有益と思われた。POAGでは,眼圧下降のみでなく,循環改善剤の投与により,網膜循環を改善させることが重要と考えられた。

水晶体嚢性緑内障の視野障害の進行原発開放隅角緑内障との比較

著者: 西山正一 ,   布田龍佑 ,   古吉直彦 ,   萩原理 ,   園田頼信 ,   守啓佑

ページ範囲:P.319 - P.322

 5年間経過を観察した眼圧調整良好な水晶体嚢性緑内障患者19例20眼と,原発開放隅角緑内障患者32例45眼の視野障害の進行について比較検討した。対象は年齢50歳以上,矯正視力0.1以上で,経過観察期間中の眼圧が2回連続して21mmHgを超えず,ゴールドマン視野計にて観察開始時と,1,3,5年目の計測をしており,観察開始時の視野が湖崎分類Ⅲ期以内のものとした。各観察時期のゴールドマン視野のⅤ-4とⅠ-4イソプターの視野減少率については,新しく開発した視野図処理システムを用いて面積を計算し,有意差検定を行った。その結果,水晶体嚢性緑内障の視野減少率は各観察時期において原発開放隅角緑内障よりも高く,とくにⅠ-4のイソプターにては有意差を認めた。年齢をマッチングさせた比較では有意差を認めず,年齢因子の関与が大きいことが示唆された。

低眼圧緑内障における点眼治療について

著者: 伊藤美樹 ,   溝上國義

ページ範囲:P.323 - P.325

 チモロール(T群)あるいはジピベフリン(DP群)を単独で使用している低眼圧緑内障症例(LTG)において,使用開始後1年間における視野障害の進行状態と視野障害進行様式を解析した。薬剤使用開始より1年間におけるtotal visualfield lossは,T群で59.0±78.9dB,DP群では12.8±16.5dBの減少を示し,T群で有意に悪化していた(p<0.01)。T群の視野障害の悪化を認めた10眼の視野障害様式は,びまん性の進行を示したもの2眼に対し,局所性の進行を示したもの8眼で,DP群の視野障害の悪化を示した4眼の視野障害様式は、びまん性の進行,局所的な進行いずれも2眼であった。LTGで,チモロールは,ジピベフリンと比較して,視神経乳頭への血流を減少するなどの機序を介して視神経障害を助長させる可能性が示唆された。

低眼圧緑内障に対する塩酸ブナゾシン点眼の効果.—眼脈流量を中心に

著者: 杉山哲也 ,   徳岡覚 ,   守屋伸一 ,   中島正之 ,   東郁郎

ページ範囲:P.327 - P.329

 塩酸ブナゾシン(α1遮断剤)点眼液が,低眼圧緑内障の眼脈流量や視野等に及ぼす影響について検討した。BFA (日本バイオラッド)によって解析された眼脈流量は,低眼圧緑内障で111.1±32.6μl/minと,正常者(186.1±43.2)や原発開放隅角緑内障(137.2±50.4)よりも有意に低値であった。眼脈流量は0.025%塩酸ブナゾシン点眼を開始すると徐々に増加し,3か月後には50.3%の増加率であった。眼圧は平均0.9mmHg下降した。3〜5か月後の視野検査では18眼中6眼に改善を認め,改善群では眼脈流量の増加率が非改善群より有意に高かった。今後,低眼圧緑内障の治療薬として応用の可能性がある。

ジピベフリン点眼液とβ-遮断点眼液の併用投与に関する臨床的研究

著者: 東郁郎 ,   勝島晴美 ,   宮崎幾代 ,   難波克彦 ,   高瀬正彌 ,   太根節直 ,   塚原重雄 ,   塩瀬芳彦 ,   北澤克明 ,   三木弘彦 ,   溝上國義 ,   布田龍佑

ページ範囲:P.331 - P.338

 ジピベフリン点眼液とβ-遮断点眼液の併用投与による有効性と安全性を,それぞれの点眼液の単独投与時と比較するとともに,点眼液の治療順序による併用効果を検討する目的で,高眼圧症,落屑症候群を含む原発開放隅角緑内障患者168眼を対象として,多施設共同オープン試験を実施した。
 ジピベフリン点眼液とβ-遮断点眼液の併用投与時の眼圧は,それぞれの点眼液の単独投与時に比して,有意差もしくは有意な傾向を示して下降したが,β-遮断点眼液を単独投与した後,ジピベフリン点眼液を追加投与した群では用量依存性が認められず,散瞳作用が強く現れる傾向が認められた。

巨大裂孔網膜剥離に対する強膜側からのアプローチ

著者: 佐宗幹夫 ,   森一満 ,   土井素明 ,   宇治幸隆

ページ範囲:P.339 - P.341

 翻転網膜に可動性のある巨大裂孔網膜剥離7例7眼に対し,変形バックルによる強膜内陥術および冷凍凝固を施行した。シリコンスポンジを巨大裂孔後極側縁に沿ってなだらかに湾曲させバックリングすることにより,裂孔後極側縁網膜の皺襞をきたすことなく裂孔閉鎖が可能となった。術後全例で網膜が復位し,2例が再剥離し再手術を施行した。本法は術式が簡単で,しかも眼内気体注入などの眼内操作を行わないため,それによる合併症も起こらない。手術侵襲・復位率などの点からみて,優れた方法と考えられた。

硝子体手術長期術後成績に関する臨床的研究—1.非シリンオイル注入眼の検討

著者: 安藤伸朗 ,   難波克彦 ,   園田日出男 ,   小林司 ,   大沼昌彦

ページ範囲:P.343 - P.346

 硝子体手術症例の長期術後成績を,疾患別に比較検討した。対象は1986年までの6年間に新潟大学眼科において硝子体手術を施行し,シリコンオイルを注入しなかった147眼である。生命表理論を用いて検定した結果,網膜静脈閉塞症や網膜前膜・ぶどう膜炎・Terson症候群等は術後3か月から1年の視力を5年以上維持できること,網膜剥離や穿孔性眼外傷は術後3年まで網膜剥離の発生・再発のため視力低下の可能性があること,糖尿病網膜症は術後5年経過しても視力低下の可能性があり,原因の多くは網膜機能の低下であることが判明した。

網膜剥離手術患者の他眼の検討

著者: 内藤毅 ,   新田敬子 ,   木内康仁 ,   塩田洋 ,   三村康男

ページ範囲:P.347 - P.349

 網膜剥離手術患者の他眼について,1989年までの4年間に,当院で網膜剥離の手術を受けた患者331名を検討した。過去に網膜剥離の手術を受け,さらに今回他眼に網膜剥離の手術を受けた症例数と,今回初回手術を受け,経過観察中に他眼に異常を認めた症例の合計は,56例16.9%で,網膜剥離23例,網膜裂孔33例であった。他眼の異常を発見するまでに要した期間は,初診時を含め1か月以内が最も多く39例70%であった。これらの症例に対する治療結果は良好で,早期発見のためには,眼底検査と患者教育が重要と思われた。

緑内障における乳頭陥凹とGoldmann視野

著者: 中谷一 ,   吉村武晃 ,   鈴木範人

ページ範囲:P.351 - P.354

 縦の格子縞に角度をつけて眼底に投影し,眼底に写った各格子縞の位相差から眼底を定量立体計測できる筆者らの装置を使い,乳頭陥凹を計測した。なお陥凹の深さは等高線で表示した。
 正常眼乳頭でも150μ以上の陥凹は存在したが比較的乳頭中央部であった。緑内障眼ではGold-mann視野に変化がなくても等高線が多くなる—すなわち陥凹が深くなっていた。視野に変化のある乳頭は,視野障害に相当している乳頭陥凹の深い部分にある等高線が拡大していた。
 これから乳頭陥凹定量、71体計測によりGold-mann視野変化を推測することができる。

Nd-YAG laser経強膜毛様体光凝固術の眼圧下降効果

著者: 宮崎守人 ,   海平淳一 ,   瀬川雄三

ページ範囲:P.355 - P.358

 Nd-YAG laser経強膜毛様体光凝固術を施行した難治性緑内障のうち,6か月以上経過観察し得た24例26眼における眼圧下降効果を統計学的に検討した。照射条件はfree running mode,照射数8から35スポット,照射エネルギー3.9から5.7J,照射総エネルギー35.6から164.9J,照射部位は角膜輪部より2から2.5mmとした。施行6か月後の眼圧下降率と,施行前眼圧,照射数,総エネルギーとの間に,有意の正の相関があった(0.001<P<0.01)。
 合併症としての低眼圧と眼球癆を避けるために,初回施行時は半周照射にとどめ,効果不十分で複数回施行する場合,前回照射時より1週後に半周照射をくり返すのが,安全な施行法であると思われた。

桐沢型ぶどう膜炎の重症度を決める因子

著者: 守本佳代子 ,   松尾俊彦 ,   小山鉄郎 ,   松尾信彦 ,   小山雅也 ,   中山正 ,   市川理恵

ページ範囲:P.359 - P.362

 桐沢型ぶどう膜炎の自験例22例26眼を対象とし,最終視力と諸因子との関係を統計的に検討した。最終視力不良となった症例では,網膜滲出斑は急速に拡大し,後極まで及び,最終的に広範囲となり,硝子体網膜癒着を伴っているものが多かった。また,①網膜動脈炎が視神経乳頭よりびまん性に生じていること,②網膜電図のa,b波高の低下,③末梢血中の免疫複合体の上昇,の3点は,予後不良であることを初診時に予測する指標になりうると考えられた。性別,発症地,発症年月,病因ウイルスの種類,初診時の前房炎症の程度,眼圧,豚脂様角膜後面沈着物の有無血沈,CRP,血清IgG量と最終視力との関連はなかった。

経強膜毛様体光凝固術後の問題点と眼圧変動

著者: 久保知可 ,   鈴木亮 ,   相良健 ,   栗本晋二

ページ範囲:P.363 - P.365

 薬物治療や濾過手術の無効な難治性緑内障患者18眼を選び,経強膜毛様体光凝固術を施行した。眼圧の変化は術後1日後より起こり,1週後には18.3±2.7mmHgと低下したが,1か月後には23.3±8.3mmHgに上昇した。この経過中,4回の処置を必要とした症例もあった。
 経強膜毛様体光凝固術の照射方法についての家兎を用いて照射部位や出力などの照射条件を検討した。実験結果より,高エネルギーほど,眼圧下降期間が長いこと,また同じ部位を繰り返し照射するより,場所を替え,照射領域を替えたほうが効果があった。

ぶどう膜炎の続発緑内障に対するトラベクロトミー・トラベクレクトミー併用手術の成績

著者: 沖波聡 ,   砂川光子 ,   新井一樹 ,   仁平美果 ,   岩城正佳

ページ範囲:P.367 - P.369

 アセタゾラミド内服を含む薬物治療で眼圧がコントロールできないぶどう膜炎の続発緑内障13眼に対して,トラベクロトミーとトラベクレクトミーの併用手術を行い,10眼が点眼治療併用または無治療で眼圧が20mmHg以下にコントロールされた。しかし,5眼では併発白内障が進行した為に,1.5か月から1年5か月後に白内障手術を追加した。

Heparin Surface-Modified IOL vs. Surface Passivated IOL

著者: 小杉幸子 ,   清水公也

ページ範囲:P.371 - P.375

 Heparin surface-modified IOLとsur—face passivated IOLの2種類の表面処理IOLと従来の表面無処理のPMMA IOLを超音波乳化吸引術を行った各30眼に嚢内移植し,6〜17か月の経過観察を行った。観察項目は,術後視力,レーザーフレアーセルメーターによるフォトンカウント値,細隙灯顕微鏡検査によるIOL表面の細胞および色素付着,虹彩後癒着,フィブリン析出,前嚢と後嚢の混濁,眼底検査によるCME発生の有無とした。この3群間の比較において,2種類の表面処理IOLは従来のIOLに比べ良好な結果を得,生体適合性が高い傾向がみられた。

水晶体嚢外摘出術後の後房レンズ二次移植術

著者: 内尾英一 ,   森冨喜子 ,   稲村幹夫

ページ範囲:P.377 - P.380

 水晶体嚢外摘出(ECCE)術後の後房レンズ(PC-IOL)二次移植症例11例13眼について検討した。平均年齢は67.7歳で,初回手術からの期間は平均2年3か月であった。二次移植の理由は,コンタクトレンズ不適応(55%)が,最も多く,術後合併症はECCE+PC-IOL症例よりも少なかった。術後4日目に視力0.8に達する症例は69%(9/11)と高く,角膜内皮細胞密度の減少率もECCE+PC-IOL症例に比べて少なかった(4.7%)。PC-IOL二次移植術は,少なくないECCE後片眼人工無水晶体眼のコンタクトレンズ不適応例について有意義な方法であると考えられる。

糖尿病症例の眼内レンズ挿入術と角膜内皮障害について.長期観察結果

著者: 上谷彌子 ,   高塚忠宏 ,   久保田健次

ページ範囲:P.381 - P.384

 眼内レンズ挿入術を施行した糖尿病症例で,術前と術後3か月,3年の経過観察が可能であった25眼について,角膜内皮細胞の変化を観察した。
 細胞密度と変動係数共に,コントロール群(非糖尿病症例)との間に有意の変動差は認められず,細胞の大小不同すなわち大きさのバラツキに関する術前の両者の差が,3年後にも継続されていた。術後3か月では,いまだ細胞の形のバラツキの増加があったのに対し,3年後には細胞の大きさのバラツキがあるにも関わらず,形は六角形細胞の回復によって安定化されていた。
 以上より,糖尿病症例群で眼内レンズによると思われる角膜内皮障害は,術後3年の時点でも,ほとんど無視できると考えた。

Simcoe IAカニューレを用いた眼内レンズ挿入術の検討

著者: 盛隆興 ,   梶川大介 ,   久保田浩 ,   笹岡眞紀子 ,   三谷一三 ,   下奥仁

ページ範囲:P.385 - P.388

 ECCE+後房レンズ挿入術を20眼に施行し,残留皮質の吸引,粘弾性物質の除去にSim-coe IA cannulaによる手動吸引を用い良好な結果を得た。Simcoe IA cannulaはその形状が平坦で灌流液のもれが少ないため,前置縫合糸が少数ですみ,またすべての創口から前房内へ挿入可能なため,12時方向の残留皮質吸引が容易かつ安全であるなどの利点があり,術中の灌流液使用量も平均60m1と少量であった.術後3か月の角膜内皮細胞減少率は平均8.7%であった。粘弾性物質の除去は後置縫合終了後に施行し,前房の一定深度の保持が容易で完全な除去が可能なため,術後早期の眼圧上昇例が認められなかった。SimcoeIA cannulaは,白内障手術にも用いやすいなど有用な器具と考えられた。

原発性に類嚢胞黄斑浮腫をみた1例

著者: 岸本伸子 ,   宇山昌延

ページ範囲:P.389 - P.392

 原発性に類嚢胞黄斑浮腫が両眼にある30歳女子を報告した。黄斑部網膜中心窩に数個の小嚢胞があり,小嚢胞は後に硝子体側が破れ,層状円孔となった。蛍光眼底造影では蛍光の漏出や貯留はなかった。視野は浮腫様の変化のある黄斑部よりむしろマリオット盲点を含んだ輪状の比較暗点を示した。ERGとEOGはsubnormal,色覚は正常,暗順応は一次暗順応時間の短縮,二次暗順応の最終閾値は上昇していた。Fenestratedsheen macular dystrophyに近縁の疾患と考えられたが,原発性に黄斑部に小嚢胞を伴う疾患である,dominant inherited cystoid macular edema,X-linked retinoschisisの女性保因者や網膜色素変性症などと鑑別が重要であり,さらに経過観察のうえで確定診断が行われる必要がある。

緑内障のある白内障眼への眼内レンズ挿入術—術1年後の視機能と眼圧の変化

著者: 天野史郎 ,   池澤暁子 ,   小松真理 ,   清水公也

ページ範囲:P.393 - P.395

 緑内障のある白内障眼への眼内レンズ挿入術後1年間の視機能と眼圧の変化を検討した。対象は,当科で後房レンズ挿入術を受け,術後1年以上の経過観察が可能であった原発閉塞隅角緑内障(PACG)21例25眼と,原発開放隅角緑内障(POAG)29例38眼であった。視力はPACGの全例で改善し,POAGでは術後早期に眼圧上昇や黄斑部浮腫を認めた3眼以外は改善した。視野は術後1年間に湖崎分類で1段階進行したものがPOAGに3眼あった。眼圧調整が悪化したものは,PACGに3眼(12%),POAGに7眼(18%)あった。眼圧調整悪化眼では,眼内レンズが嚢内に固定されていないものが多く,眼圧調整悪化と後房レンズの嚢内以外の固定に,有意な相関があった。

連載 眼科図譜・296

向精神薬による角膜浮腫

著者: 大鹿哲郎 ,   糸田川久美 ,   澤充

ページ範囲:P.198 - P.199

 緒言 向精神薬の眼副作用としては,phenothiazine系およびbutyrophenone系など,いわゆるメジャートランキライザーによるものが知られており,これまでに角膜後面や水晶体前面の色素沈着,網膜色素変性が報告されている1〜5)。しかしいずれも軽度の障害で,視力低下をきたす程のものではないとされている6)。今回筆者らは,可逆性の,強い角膜浮腫を両眼に呈し,その発症に向精神薬の長期大量投与が関与していたと考えられる1例を経験した。向精神薬の副作用としての角膜浮腫,あるいは強い視力障害は今までに記載されておらず,また向精神薬に限らず何らかの薬剤の全身投与で角膜浮腫をきたした例も,筆者らの知る限り文献上ない7)。向精神薬が長期にわたって使用される機会は今後ますます増えると考えられることから,筆者らの経験例をここに報告したい。
 症例 23歳,女性。初診:1989年8月21日。

眼の組織・病理アトラス・53

眼瞼の基底細胞癌

著者: 猪俣孟

ページ範囲:P.202 - P.203

 基底細胞癌basal cell carcinomaは,皮様嚢腫,母斑細胞性母斑とともに眼瞼に発生するもっとも頻度の高い腫瘍の1つで,眼瞼腫瘍の約10%を占め,高齢者に頻発する。本腫瘍の60%は下眼瞼に発生する。発症原因として,強い太陽光線や大量の放射線刺激が誘因となるともいわれている。腫瘍が大きくなると,周囲組織に浸潤して,眼球壁,副鼻腔,眼窩に広がるが,遠隔転移はきわめてまれである。病理学的にも腫瘍細胞の異型性は少なく,毛,脂腺,アポクリン腺,エクリン腺など,皮膚付属器への分化がみられる。したがって,真の癌ではないという考えから,基底細胞腫basal cell epitheliomaとも呼ばれる。しかし,WHOの眼腫瘍組織分類をはじめ眼科関係の文献では基底細胞癌として扱われている。
 基底細胞癌の臨床症状は,初期には小結節状の隆起がみられ,やがて不規則地図状に拡大し,その中央部に浅い潰瘍を伴う(図1)。刺激症状がある。色素沈着を伴うことが多い。腫瘍の肉眼的形状から,結節—潰瘍型,色素沈着型,斑状硬皮症型などの臨床的分類がある。色素沈着を伴うものでは,悪性黒色腫と誤診されることがある。わが国では,眼瞼皮膚の悪性黒色腫はきわめてまれで,しかも基底細胞癌の肉眼的形状はきわめて特徴的であるので,悪性黒色腫との鑑別は容易である。

今月の話題

角膜上皮の病態生理

著者: 山田昌和 ,   坪田一男

ページ範囲:P.205 - P.210

 正常角膜上皮の維持に関して重要な概念であるocular surface, XYZ theory,輪部上皮,幹細胞などについての概説,さらに角膜上皮が傷害を受けた状態でのocularsurfaceの反応,創傷治癒機転,およびこれに関係する生理活性物質について述べた。また,このようなocular surfaceの動態をin vivoで細胞レベルで評価する方法として,角膜上皮のスペキュラーマイクロスコピーと結膜のbrush cytologyについて述べた。

眼科薬物療法のポイント—私の処方・27

眼瞼(縁)炎Marginal blepharitis

著者: 大石正夫

ページ範囲:P.402 - P.403

症例:28歳女性
 両眼瞼の熱感と疼痛,かゆみがあり,朝起きるとき,少量の眼脂分泌と開瞼しにくいことが多い。眼瞼縁は潮紅,腫脹して,睫毛の一部脱落と皮膚に浅い小潰瘍をみとめた。

眼科手術のテクニック—私はこうしている・27

小切開白内障手術の緑内障・白内障同時手術への応用

著者: 天野史郎 ,   清水公也

ページ範囲:P.405 - P.407

術式の選択
 緑内障眼への眼内レンズ挿入術は,すでにその有効性・安全性が確認され,白内障・緑内障同時手術という場合も,眼内レンズ挿入術を含むtri—ple procedureを指すことが多い。白内障・緑内障同時手術は手術が1度ですむ利点があるが,2つの手術を同時に行うことは,緑内障手術にとっても,白内障手術にとっても,それぞれを単独で行う場合より不利な点も多い。同時手術の緑内障手術として線維柱帯切除術を選択した場合,術後浅前房による角膜内皮損傷や眼内レンズの嚢外への脱出などの危険性が高まる。眼内レンズの嚢外固定は緑内障眼の眼内レンズ挿入後長期の眼圧コントロールの悪化と有意の関連性があることを筆者らは確認しており1),眼内レンズの嚢外への脱出は眼圧コントロールの悪化へつながる。緑内障手術として線維柱帯切開術を選択した場合,術後の前房出血が術後炎症を増強する。特に虹彩後癒着例や浅前房例など,眼内レンズ挿入術単独でも術後炎症が強く,フィブリン析出やCMEなどの術後合併症の発生が高率で認められる症例では,これら術後合併症の発生の危険性をさらに高めることになる。以上のことより,筆者らは,白内障と緑内障のどちらにも手術適応がある症例に対しては,原則としてまず緑内障手術を優先させ,その後に眼内レンズ挿入術を施行することにしている。

臨床報告

両眼の浅前房と高眼圧を伴った多発性後極部網膜色素上皮症

著者: 大竹弘子 ,   菅沢英彦 ,   泉谷昌利 ,   田中康裕

ページ範囲:P.409 - P.412

 両眼の浅前房,高眼圧,原田病様の症状で発症し,ステロイド治療に反応せず,胞状の網膜剥離がみられ,多発性後極部網膜色素上皮症(MPPE)となった症例を報告した。
 本症に対し,積極的な網膜下液の排液とレーザー光凝固にて症状は改善した。

原発性開放隅角緑内障に対する2回目トラベクロトミーの成績

著者: 山田重喜 ,   角屋博孝

ページ範囲:P.413 - P.416

 原発性開放隅角緑内障で薬物療法により眼圧コントロールが不十分な症例60眼に対してトラベクロトミーを過去9年間に行った。その後23眼が眼圧コントロール不良となり,うち10眼に対して2回目のトラベクロトミーを追加した。
 術後3年で,眼圧コントロールが良好な率は初回トラベクロトミーで59%であり,2回言トラベクロトミーでは30%であった。2回目トラベクロトミーは初回手術より長期予後について劣っているが,術前高眼圧,低年齢などトラベクロトミーのききにくい因子をもつ症例が多く含まれているからと考えられた。

1歳6か月児健康診査における眼科検診

著者: 神田孝子 ,   川瀬芳克 ,   山口直子

ページ範囲:P.417 - P.421

 1歳6か月児健康診査受診者1,881人に対し眼科検診を行った。方法は,一次検診をアンケートおよび検診に携わる医師,保健婦の問診,視診により行い,問題ありとされた者に対し二次検診として眼科的検診を行うものである。その結果,17人(0.90%)の異常者を検出した。異常者の内訳は延べ人数で斜視群5人(0.26%),屈折異常群9人(0.48%),その他群4人であった。内斜視や外見上わかりやすい異常は既に管理中であった。この方法は,負担も少なく,効果もあると考えられるので,眼科検診として,現在行われている1歳6か月児健康診査に導入可能と考える。

コンピュータ画像解析装置による眼底画像エンハンスメントの効果.—白内障を伴う症例

著者: 富田剛司 ,   北澤克明

ページ範囲:P.423 - P.426

 コンピュータ画像解析装置による画像エンハンス処理が,白内障により不鮮明な眼底像を解析する際その判読の信頼性を向上させるヒで,どの程度効果があるか検討した。マニュアル法による相対的乳頭面積測定において,判読しやすい画像ほど解析の再現性は良好になるとの仮定に立ち,同一画像の2回解析(intra-image study)と同一眼の異なる2つの画像の解析(inter-image study)の結果の変動係数を求めた。白内障10眼における変動係数(%)の平均は,intra—およびinter-image studyにおいてそれぞれエンハンス前,3.1,3.3,エンハンス後,1.7,1.7であり再現性は有意に向上した(p<0.05)。

特徴あるMRI(STIR法)所見を呈した白血病細胞浸潤による視神経の1例

著者: 大鳥安正 ,   森本恭子 ,   岩崎直樹 ,   真野富也 ,   中尾雄三

ページ範囲:P.427 - P.431

 成人の急性骨髄性白血病の完全寛解期に発症した典型的な浸潤性視神経症の1症例を経験し,その病初期にSTIR (short TI inversionrecovery)法を用いたMRI撮影を行った。
 0.5テスラ超電導型—島津 SMT-50 を用いてMRI検査を行い,TR=2,000ms,TI=120ms,TE=50msで撮影すると,主に軟膜への白血病細胞の浸潤およびそれに伴う視神経の浮腫と思われる高信号部分が視神経周囲に見られた。これは以前より報告のある本疾患の病理所見に一致しており,STIR法を用いたMRI検査は本疾患の早期補助診断に非常に有用であると考えられた。

小児2例にみられた低眼圧緑内障

著者: 田村雅弘 ,   飯島裕幸 ,   山口哲 ,   藤森千憲 ,   塚原重雄

ページ範囲:P.433 - P.437

 低眼圧緑内障の臨床所見を示した小児2例を報告した。症例1は15歳男子で,頭痛の精査の際に眼底異常に気付いた。症例2は8歳女児で自覚症状はなく,偶然に眼底の異常に気付いた。両者の両眼の眼圧は日内変動を含めて正常範囲内であり,隅角は広隅角であった。視神経乳頭は緑内障性陥凹を示し,視野検査において,緑内障性変化を示した。CTあるいはMRI検査にて頭蓋内病変は認めなかった。低眼圧緑内障は高齢者に多い疾患であるが,若年者あるいは小児にも存在し,その発症メカニズムには加齢以外の要素も考えられる。

Report from Overseas

わが国の青少年学生が近視眼にかかる概況について

著者: 単汝舟 ,   辛田花 ,   郑学林 ,   包赤軍

ページ範囲:P.440 - P.442

 わが国の青少年学生の近視眼を防ぐことは非常に重要な問題である。だから青少年が近視にかかる概況を紹介するのは眼科医の当面早急に解決すべきことである。本文が眼科医学界において積極的な働きを果たすことを願う。

Group discussion

レーザ眼科学

著者: 野寄喜美春 ,   天野清範

ページ範囲:P.443 - P.444

最近の話題:
 ダイオードレーザー光凝固の問題点
 ダイオード(半導体)レーザーは通信など他の分野では既に利用されているが,光凝固に利用するには出力に問題が残っていた。しかし,最近の試作機では,角膜面上で1.7Wが得られるようになり、十分臨床応用が可能となった。約100例の臨床経験を基に,現在の試作機によるダイオードレーザー光凝固について述べると、まず裂孔閉鎖の症例では,標準凝固条件で凝固しても,凝固後検眼鏡的に凝固斑が確認できない。網膜での吸収は,今回810nmの波長を用いているが,可視光レーザーと比較して約20%ぐらい低い。ほぼ同条件のダイレーザー(630mm)の凝固と比較しても,術後の凝固斑は不明瞭であり,pigmentationは1年位してから現れるものもある。
 凝固効果としては,網膜色素上皮から脈絡膜にかけて変化がみられるが,脈絡膜の凝固効果が強いようで,深部出血を起こした症例を経験している。出血性疾患の凝固例では,再凝固の際に大出血を起こす危険がある。

地域予防眼科

著者: 小暮文雄 ,   赤松恒彦

ページ範囲:P.444 - P.446

 地域予防眼科も回を重ねるごとに演題が充実し,今回も遺伝相談,未熟児,色覚異常,地域における患者の動向,白内障,角膜移植,救急医療,地域の検診問題,眼科管理の問題等,非常に多彩な内容になってきた。
 このような地道な活動をすることが,眼科の地位を高める基礎になるわけで,今後もこの会に多くの眼科医の関心が集まることが必要であると考える。

眼科と東洋医学

著者: 竹田眞

ページ範囲:P.446 - P.447

 午後の時間帯だったためか例年より多い参加が得られた。約1時間の依頼講演を中止したため,12の演題について十分な討議ができたと思う。また座長を2人とし,座長からのコメントや解説が有ったので,東洋医学になじみの無い先生方にも理解しやすかったのではないかと思う。
 まず東洋医学的診断法とハリ治療の2題から会がはじまった。東洋医学的診断法の根底には,個々の臓器に身体全体の情報が含まれ表現されるという哲学がある。木を見て森を見ずとよく言われるが,そうではなく詳細に木を見れば森全体の概要をつかめるし,目を詳細に観察すれば身体全体のことがある程度把握できるという考え方である。酒谷先生は舌を診て全身の勢いを知る舌診についてその拡大写真を用いて解説された。医学,医療そして医術はもちろん万人のためのものだが,精通し,感覚を磨くことは個人の領域である。どの専門領域でも医師としての感性の鋭さが必要だし,積極的に努力しなければならない。竹田は虹彩上の色素(母斑)の位置から全身を把握する方法について発表した。何故このような診断法が可能かを掘り下げることにより新しい医学の発展があると思われる。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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