icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科45巻4号

1991年04月発行

雑誌目次

特集 第44回日本臨床眼科学会講演集(2)1990年9月 東京 学会原著

脳障害患者にみられた糸状角膜炎

著者: 谷瑞子 ,   秋山健一 ,   陳志堂 ,   野田徹 ,   羽飼真

ページ範囲:P.471 - P.474

 脳障害患者6例での糸状角膜炎について報告した。いずれも従来いわれている糸状角膜炎をきたしやすい眼科的および全身的関連疾患を伴っておらず,涙液分泌減少はなかったが,角膜知覚は減弱していた。顔面神経麻痺による閉瞼障害はなかったが,瞬目異常と眼振,および痙攣発作に伴う強い閉瞼が認められた。脳障害の範囲,意識障害の期間と程度は,角膜の臨床像とは関係しなかった。約半年の間に6例の発症を見たことから,脳障害患者では糸状角膜炎は稀な疾患ではないと考えた。糸状角膜炎を起こしやすい疾患のリストに脳障害を新たに付け加えるべきである。

種々の難治性角膜疾患に対する非含水性ソフトコンタクトレンズによる治療

著者: 小笠原孝祐 ,   朝倉章子 ,   渋谷政子

ページ範囲:P.475 - P.478

 兎眼性角膜障害4例4眼,三叉神経麻痺性角膜炎1例1眼,脳幹部病変により兎眼に三叉神経麻痺を合併した角膜症4例5眼,糖尿病性角膜症3例6眼,甲状腺眼症による角膜炎1例1眼,下眼瞼部分欠損による角膜炎1例1眼,ベノキシール®の乱用よると思われる角膜炎1例2眼の計15例20眼に対して.非含水性ソフトコンタクトレンズを1日12〜16時間装用させ.グルタチオン製剤と抗生剤,あるいは抗菌剤の点眼による併用治療を行い,満足すべき結果を得た。使用したソフトコンタクトレンズは管理面での留意点はあるものの,難治性のexposure keratitisやneuroparalytic,neurotrophic keratitisの治療に試みられてよいと考えられた。

眼球外の原因による虚血性眼症の2症例

著者: 宮本香 ,   外江理 ,   近江俊作 ,   上野山謙四郎

ページ範囲:P.479 - P.481

 眼球外の原因によって片眼性の虚血性網膜症,虹彩ルベオーシス,続発性緑内障をきたした2症例を経験した。
 第1例は67歳男性で,糖尿病性網膜症の経過観察中に左眼の虹彩ルベオーシスが突発した。後に内頸動脈閉塞が確認された。第2例は57歳男性で,眼窩尖端部症候群様の症状で初診し,経過中同様に虚血性眼症となり,脳内の悪性リンパ腫によるものと考えられた。

フェノールレッド綿糸法による小児涙液貯留量の測定

著者: 栗原史江 ,   黒田裕美 ,   田中尚子 ,   浜野光

ページ範囲:P.482 - P.483

 小児118例で涙液貯留最をフェノールレッド綿糸法で測定した。対象は男児59例,女児59例であり,年齢は4歳から9歳,平均6.1歳であった。開瞼状態で測定し,両眼の平均を測定値とした。118例の測定値は正規分布を示し,平均値は19.14±7.50 mmであった。19例に1%アトロピン®を5日間,1日2回点眼した後では,涙液量は有意に減少していた(p<0.01)。同法は刺激が少なく測定が短時間でできるため,小児の涙液量の測定に有用と考えられた。

眼痛と結膜充血で発症し脈絡膜腫瘍を疑わせた脈絡膜出血と思われる1例

著者: 有馬一城 ,   小沢佳良子 ,   中川正昭 ,   二宮久子 ,   小林康彦 ,   稲垣有司 ,   土屋櫻 ,   田中稔 ,   石田誠夫

ページ範囲:P.484 - P.485

 眼痛と結膜充血を伴い発症した,右鼻側周辺部の約5乳頭径大の隆起性病変の症例を経験した。本症例は高血圧症があり,高血圧性網膜症を有した。臨床経過及び検査所見から腫瘍性疾患は鑑別され,脈絡膜出血による隆起が最も考えられた。高血圧症の眼症状で脈絡膜出血は比較的稀であるが,本症例はその大きさからも,特に稀と考えられたため,今回報告した。

5 Fu,Nd:YAGレーザーを併用したSinuso-Sclerectomyの再評価

著者: 景山萬里子 ,   安田典子

ページ範囲:P.487 - P.491

 Sinuso-Sclerectomyを開放隅角緑内障12眼に,濾過瘢痕形成を抑制する5Fuを併用して行った。うち4眼には眼圧上昇や濾胞縮小時にNd:YAGレーザーで線維柱帯穿孔を行った。術後観察期間は9か月〜3年5か月であった。大きい濾胞が全例にでき,眼圧は10眼は無治療,2眼は点眼使用で全例20mmHg以下,平均12.7±4.0mmHgとなった。有効率は手術のみ行った過去の成績に比して有意(P<0.01)に高かった。重篤な合併症はなかった。手術で眼球外壁の流出抵抗を除き,さらに前房側からの穿孔で眼圧が下がれば,合併症を最小にして強膜全層炉過手術の効果があがったと言える。興味ある手術法であり,特に末期症例には有用と考える。

上眼瞼に発生したメルケル細胞癌の1例

著者: 高橋久仁子 ,   高山和夫 ,   高橋洋司 ,   福田敦 ,   田澤豊

ページ範囲:P.492 - P.495

 80歳女性の上眼瞼に原発したメルケル細胞癌(Merkel cell carcinoma)を経験した。腫瘤の大きさは,22×35×20mmで,充実性,弾性硬,境界は比較的明瞭であり,皮膚との癒着はないが,表面の皮膚は血管腫様の赤紫色を呈しており,毛細血管の拡張が認められた。腫瘍は病理組織学的には,真皮上層より皮下組織にかけて存在した。腫瘍細胞は大きさの揃った類円形の核をもち,細胞質の乏しい裸核に近い細胞で,密接したシート状の増殖像を示していた。Grimelius染色で陽性,免疫組織化学染色でもNSE陽性を示し,電顕的にmembrane-bound dense-core gran-ulesが検出された。臨床的,病理組織学的に定型的なメルケル細胞癌の特徴を備えていた。

細菌感染に続発する難治性角膜障害に対するコラーゲンシールド治療

著者: 福田昌彦 ,   遊佐留実 ,   宮本裕子 ,   西田輝夫 ,   大鳥利文

ページ範囲:P.496 - P.498

 細菌性角膜潰瘍に抗生物質治療を行い潰瘍が鎮静化した後にも角膜上皮欠損などの角膜障害が持続する場合がある。コラーゲンシールドは各種の角膜上皮障害に有効であり,薬剤を浸漬して装用させると徐放性のdrug delivery systemとしても有効であると報告されている。今回,細菌感染に続発した遷延性角膜上皮欠損の1例および実質融解の1例に対し抗生物質に浸したコラーゲンシールド治療を行ったところ,上皮欠損および実質融解は速やかに消失した。細菌感染に続発する難治性角膜障害には抗生物質浸漬コラーゲンシールドは有効な治療法であると考えられた。

涙嚢原発の粘液性類表皮癌の1例

著者: 伊藤千春 ,   前田修司 ,   鎌田重輝

ページ範囲:P.499 - P.502

 25歳の男性に,十数年の流涙の後に発症した涙嚢腫瘍を経験した。腫瘍は涙嚢部から鼻涙管まで続いており,組織検査では乳頭状に増殖した上皮性の腫瘍細胞層の間に,粘液産生性の腫瘍細胞が散在し,一部では多量の粘液を産生している所見が認められ,粘液性類表皮癌(mucoepider-moid carcinoma)の診断であった。腫瘍切除術に続いて,上顎部分切除術および眼窩内容除去術が施行され,術後4年を経過し,再発をみていない。術前の検査では,流涙があるにもかかわらず涙道通水試験の通過は良好で,ときどき血液の逆流を見たことが涙嚢腫瘍として特徴的であった。

強度近視に合併する血管新生型黄斑部出血(HN)と老人性円板状黄斑変性症(SDMD)との関連およびSDMDと遠視との関連について

著者: 大竹能輝 ,   所敬

ページ範囲:P.503 - P.506

 強度近視に合併した新生血管を伴う黄斑出血56眼50症例を老人性円板状黄斑変性症121眼100症例と対比して,性別,年齢,屈折,眼軸長について検索した。老人性黄斑変性については,性と年齢が等しい121眼100症例を対象群として比較した。
 強度近視群では3.17の比率で女性に多かった。老人性円板状黄斑変性症は,1.70の比で男性に多かった。強度近視の屈折は−7.0Dから−23.5Dの間であり,平均−14.54±3.78Dであった。老人性円板状黄斑変性症の屈折は+4.75Dから−2.25Dの間であり,平均+1.06±1.25Dであった。この2群の間に屈折異常の重複はなかった。対象群での屈折は+0.05±1.91Dであり,老人性円板状黄斑変性症でのそれと有意の差があった(P<0.05)。眼軸長は,強度近視群で29.14±1.47mm,老人性黄斑変性群で22.53±0.88mmであり,両者間に有意の兼があった。

若年性網膜分離症

著者: 谷野富彦 ,   小口芳久 ,   東範行

ページ範囲:P.507 - P.510

 若年性網膜分離症20例の自然経過を検討した。黄斑分離は18例36眼,周辺部網膜分離は15例26眼に存在した。初診時視力の多くは0.2以下で黄斑分離は加齢に伴い車軸状の分離が平坦化または変性症に移行する症例がみられたが視力の変化はわずかで,また黄斑分離の程度および変化間に相関はなかった。周辺部網膜分離は耳側から下方の2象限におよぶものが多く,進行は緩徐だった。視野検査では網膜分離が存在しない異常反射の部位にも視野欠損のある症例が存在した。ERGはb波のみならずa波も減弱する症例がみられた。蛍光眼底造影では黄斑部にwindow defectが見られ,EOGはbase valueが低値であったことから周辺部網膜分離に色素上皮異常の存在が示唆された。

後部硝子体剥離の発症年齢と屈折度との関係

著者: 米本淳一 ,   出田秀尚 ,   森田博之 ,   伊藤久太朗 ,   佐々木究 ,   田中住美

ページ範囲:P.511 - P.514

 後部硝子体剥離PVDの発症年齢と屈折度の関係について,PVD発症の時期を明確にできた818眼を対象にして検討した。対象は,屈折異常以外,いかなる網膜硝子体病変もないものに限定した。その結果,PVD発症年齢は屈折度と相関があり,単回帰式は,年齢=0.86×Dioptor+61.21であった。発症年齢の男女差は,女が男より若かった。発症年齢の左右差は,なかった。主訴は,飛蚊症が多数であった。網膜出血や硝子体出血が,併発症として見られた。PVD発症年齢は,近視の強さに従い若くなり,正視で61歳,−5Dで57歳,−10Dで53歳,−20Dで44歳,−30Dで35歳と計算された。

涙液減少症における白内障術後に発生した角膜びらんについて

著者: 王孝福 ,   宮本裕子 ,   福田昌彦 ,   西田輝夫 ,   大鳥利文

ページ範囲:P.515 - P.517

 白内障手術の術後合併症のひとつである角膜びらんの成因を検索する目的で,涙液減少症の影響について検討した。白内障手術を行った150眼について,術前にシルマーテスト,ローズベンガル染色および角膜知覚検査を施行し,術後角膜びらんの発生頻度を検討した。術前シルマー値が10mm以上の正常涙液分泌を示した群では70眼中2眼(2.9%),10mm未満の涙液減少群では80眼中11眼(13.8%)と,涙液減少群に有意に術後角膜びらんが発生した。ローズベンガル染色と,角膜知覚検査とには有意な相関を認めなかった。涙液減少症は白内障術後角膜びらん発生の機序に関与しており,術前にシルマーテストにより涙液分泌の状態を把握することが術後管理の上で重要である。

二次性角結膜上皮疾患に対する新しい手術法

著者: 木下茂 ,   大橋裕一 ,   渡辺潔 ,   眞鍋禮三

ページ範囲:P.519 - P.521

 角膜腐蝕の急性期のような炎症眼を透明治癒させることを目的として,創傷治癒実験から手術理論を組み立て以下のような手術術式を開発した。手術術式は,(1)全角膜の掻爬と3〜4mmの輪部結膜切除,(2)約7mm 径の表層角膜移植(donor角膜上皮は除去),(3)健常な遊離結膜片による自家結膜移植からなる。この方法を4眼の角膜腐触と原因不明の角結膜上皮症1眼に施行した。重症の腐触結膜を用いた1眼を除いて,いずれも透明治癒し,最高0.5の矯正視力を得た。この手術では,移植片上は結膜由来の再生上皮が被覆するはずであるが,臨床的には角膜上皮様の平滑な上皮層を示した。

膠様滴状角膜変性症に対する新しい手術法

著者: 大橋裕一 ,   木下茂 ,   細谷比左志 ,   渡辺潔 ,   渡辺仁 ,   萩平容子 ,   田中文 ,   真鍋禮三

ページ範囲:P.523 - P.526

 膠様滴状角膜変性症の異常が,角膜および輪部上皮にあるとの立場から,本疾患に対する新しい角膜移植法(全周輪部結膜切除+全角膜表層切除+表層角膜移植+周辺部角膜上皮形成術)を考案した。今回,この新しい手術法を行い,2年以上,平均3.2年の経過観察が行えた7例7眼の手術成績を報告した。7例中,1例に部分的な再発を見ただけで,矯正視力も全例で改善した。これまでの表層角膜移植術のみの手術予後と比較すると,病変再発は著明に抑制されていた。本手術法は,膠様滴状角膜変性症に対する外科的治療として有用である。

膠様滴状角膜変性症再発例に対し表層角膜移植および角膜上皮移植術を施行した4例

著者: 佐久間敦之 ,   横山利幸 ,   加藤和男 ,   金井淳

ページ範囲:P.527 - P.530

 膠様滴状角膜変性症再発例の4症例に表層角膜移植術および角膜上皮移植術を施行した。経過観察期間は5か月から1年6か月であった。1例に軽度の角膜上皮欠損を,もう1例に移植片全体におよぶ遷延性角膜上皮欠損を認めた。後者は上皮下に混濁を残したが,他の3例は透明であり全例に再発を認めていない。異物感,流涙,羞明などの自覚症状もかなり改善された。使用した角膜は70〜88歳であるが,本術式は角膜内皮側を使用しないために,比較的高齢者の角膜でも十分に使用可能である。他の角膜疾患より再発が多い本疾患に対し,本術式は有効な方法と思われた。

ダイアモックス®で惹起される屈折調節系の変化

著者: 古嶋正俊 ,   中塚和夫 ,   今泉雅資

ページ範囲:P.531 - P.533

 我々は以前,外傷性毛様体解離に伴い低眼圧並びに近視化と調節力低下を生じた症例を報告した。その成因機序の解明を目的に,20歳代健常人5名にアセタゾラミド(ダイアモックス®)内服による実験的低眼圧を惹起させ,屈折調節系の変化を測定した。眼圧の降下に伴い,屈折度の近視化,調節力の減弱,浅前房化,水晶体の肥厚が生じた。近視化の程度は減弱した調節力にほぼ相当し,これには水晶体の肥厚が大きく関与していると考えられた。この水晶体肥厚は,ダイアモックス®の毛様体輪状筋への直接作用よりも,眼圧効果によるチン氏帯の張力低下のために生じた偽調節動態であると推論された。

%縮瞳量,%速度を加えた新しい分析法による対光反応の研究—第3報 自律神経作働薬点眼の対光反応に及ぼす影響の加齢変化

著者: 宮下裕二 ,   杉山哲也 ,   守屋伸一 ,   内海隆

ページ範囲:P.535 - P.539

 ピロカルピンならびにエピネフリン点眼は瞳孔緊張症とHorner症候群の診断に必須であるが,その影響を年代別に詳細に対光反応から検討した報告はない。年代別に約50例を対象にこれら点眼剤の対光反応に及ぼす影響を検討した。対光反応はopen-loop下光刺激の可能なイリスコーダーを用いて測定した。ピロカルピン点眼の影響は瞳孔の大きさ・%Aに現われ,加齢に従い増大していた。DPE点眼の影響は瞳孔の大きさ・%VDmaxに現われ,加齢とともに亢進していた。この加齢変化は副交感・交感両神経系の脱神経後の過敏性と角膜薬剤透過性の亢進が合わさったものと考えられた。今後はここで得た年代別正常値をもとに,薬剤に対する過敏性を判定することができる。

脳死における瞳孔の役割

著者: 藤田哲 ,   石川均 ,   辻沢宇彦 ,   向野和男 ,   石川哲

ページ範囲:P.541 - P.543

 脳死判定基準のひとつとして瞳孔所見は重要である。今回我々は厚生省脳死判定基準により脳死と判定された50例に対して脳死時の瞳孔径の計測を行ったところ,従来の中等度散瞳に反した縮瞳例が3例6%にみられた。
 また脳死判定前の7例及び脳死判定後の10例に対し低濃度(0.06%) ピロカルピンの点眼試験を行ったところ,脳死判定前の7例は全例ピロカルピンに無反応であったのに対し,脳死判定後は70%の頻度で縮瞳が観察されな,この結果は脳死により中枢での神経遮断と未梢レセプターでの脱神経過敏症がきわめて早期から発生した可能性を示唆した。以上より低濃度ピロカルピンの脳死判定への応用の可能性が考えられた。

Red eyed shunt syndromeを伴う海綿静脈洞部脳硬膜動静脈奇形(dural AVM)の脳血流及び脳酸素代謝異常について

著者: 清澤源弘 ,   伊藤正敏 ,   畑沢順 ,   高橋明 ,   井戸達雄 ,   松澤大樹 ,   玉井信

ページ範囲:P.545 - P.548

 海綿静脈洞部脳硬膜動静脈奇形の眼症状と脳循環を6名の患者で調べた。患側に静脈欝滞網膜症2名,眼球運動障害3名を認め,患側平均眼圧は25.3mmHgに上昇していた。15O標識CO2吸入法による脳血流量測定では前頭葉対側で約30%(P<0.05)の低下があり,15O標識O2吸入法による脳酸素抽出率測定では同部に正常対照群より約10%の増加(P≦0.10)があり,計算される脳酸素消費量は両側とも有意の低下を示さなかった。dural AVMに伴う前頭葉血流障害は今までに報告がなく,しかも臨床眼症状とは反対側に存在する。この所見は,眼症状をひきおこす患側上眼静脈への静脈血の逆流が出血性脳梗塞などの神経症状の発症を防いでいる可能性を示しており,今後本症の治療を考える上で重要な知見であると思われた。

副鼻腔疾患—副鼻腔嚢胞—による視神経症(炎)の手術効果の統計

著者: 天谷健吾 ,   柿栖米次 ,   安達惠美子 ,   沼田勉

ページ範囲:P.549 - P.551

 当眼科を受診し,副鼻腔疾患を認め,耳鼻科で副鼻腔嚢胞の診断で手術を施行した視神経障害患者14例14眼について検討した。視力は1眼を除いて全例2段階以上改善したが原因不明の視神経炎より不良であった。視野は術後12眼が改善し,悪化したものはなかった。視神経乳頭は術前から全蒼白のものは視力予後は不良であった。画像診断では,視神経管破壊は7眼で確認され,手術時では8眼に確認された。視神経管骨欠損のある例は視力予後が悪かった。発症から手術までの期間は,早期に手術したにもかかわらず予後の悪い例もみられ,嚢腫による圧迫だけでなく,炎症・循環障害等の影響も考えられた。

マドックス杆と正切尺によるphoria adaptationの測定

著者: 長谷部聡 ,   大月洋 ,   田所康徳 ,   岡野正樹 ,   渡辺好政

ページ範囲:P.553 - P.555

 マドックス杆と正切尺を使用して,正常者9名について24,18,12,6△基底外方のプリズムに対するphoria (prism) adaptationの経時的な計測を行った。その結果,斜位の角度(融像除去眼位)は負荷するプリズム毎に異なる速度で指数関数的に減少し,プリズム装用210秒後には一定の収束値に近づく傾向を認めた。このようなプリズムに対する斜位の変化は従来の実験的報告とほぼ一致しており,臨床的に本検査法はphoria adaptationの機能を評価する上で有用と考えられた。

成人斜視の臨床的研究—その3.水平斜視手術の重回帰分析

著者: 岸本典子 ,   大月洋 ,   市川理恵

ページ範囲:P.557 - P.560

 成人共同性水平斜視の切除後転術における手術矯正量に影響を与える要因とその影響の程度を調べる目的で,外斜視54(例),内斜視38(例)につき,重回帰分析を用いて定量式を求めた。
 矯正量に関与する要因とその影響の程度は術後の時期や斜視病型で異なったが,術後6か月で重相関係数は最も高かった(外斜視r=0.88,内斜視r=0.90)。
 外斜視では,術量,後転量と切除量の比,網膜対応,垂直偏位,年齢が矯正量に関与し,内斜視では,術量,視力の両眼平均,垂直偏位,年齢,近見と遠見の偏位差が矯正量に関与した。

シクロスポリンによると思われるミオパチー

著者: 福田尚子 ,   小暮美津子 ,   若月福美 ,   金井久美子

ページ範囲:P.561 - P.564

 シクロスポリン(CYA)は,眼科的には,難治性眼症状を有するベーチェット病患者に使用されている。その副作用として腎障害をはじめとして種々の報告がみられる。近年,海外にてCYAによるミオパチーが報告され始めているが,本邦ではその報告はまだ見られない。今回,我々は当院ぶどう膜外来にてCYA内服中のベーチェット病患者30名のうち,CPK値(creatine phospho-kinase)上昇の見られた8名につき若干の検討を行った。そのなかにCYAによるミオパチーと思われた1例を経験したので.今後CYAの副作用のひとつとして念頭におかなければならないと考えた。

巨大な眼瞼脂腺過形成の1例

著者: 三田村佳典 ,   陳進輝 ,   佐賀徳博 ,   竹内勉

ページ範囲:P.565 - P.567

 巨大な眼瞼脂腺過形成の1症例を経験した。症例は81歳男性で,10年前に右上眼瞼の腫瘤に気づき近医にて切開を受け,その後10年間の間に腫瘤は徐々に増大し瞼裂よりはみ出し鼻翼にまで達した。腫瘤の表面は血管に富み赤みを帯びた黄白色で,結節をつくり,ぶどうの房状を呈していた。眼瞼の一部を含めて腫瘤を切除した。病理組織学的には正常の脂腺とほとんど変わらない腺構造を示しており,ズダンⅢ染色では腺細胞の胞体および導管の中に脂肪滴を確認し,脂腺過形成と診断された。その後腫瘍の再発は認められていない。

VDT作業によるパターンVECPの空間・時間周波数特性および輝度閾値の変化

著者: 山本修一 ,   川島重信 ,   武田憲夫 ,   窪田靖夫

ページ範囲:P.569 - P.572

 VDT作業が網膜以降の視路系に与える影響の検討を目的として,13名でVDT作業負荷後のパターンVECPを記録した。作業負荷をかけない状態および一般事務作業負荷後のVECPと比較した。その結果,VDT作業により,P100波の頂点潜時,振幅,またVECP輝度閾値には変化を認めなかった。しかし時間用波数特性曲線上では,高周波域と低周波域の両域で沈下を認め,また空間周波数特性曲線上で,高周波域の沈下を認めた。VDT作業により,視路系の中心部解像力を担う系に機能低下が生じる可能性が示唆された。

眼部帯状庖疹での血清抗水痘ウイルスIgG螢光抗体価測定の有用性

著者: 石原麻美 ,   秦野寛 ,   井上豊乃 ,   大野重昭

ページ範囲:P.573 - P.576

 眼部帯状炮疹(VZV)患者30例(60検体)につき,発症後1年以内の血清抗VZV-IgG(FA)抗体価を螢光抗体間接法により測定し診断における有用性を検討した。対照群46例(46検体)のIgG (FA)抗体価は全例40倍以下であった。眼部帯状庖疹患者のIgG (FA)抗体価は発症後1か月目まで上昇し,その後緩やかに低下した。発症後1年を通じて160倍以上の高値を示すものは50%みられた。血清補体結合(CF)抗体価とIgG (FA)抗体価は正の相関を示した。
 単一血清でも抗VZV-lgG (FA)抗体価が160倍以上であれば,水痘・帯状庖疹ウイルス感染症が疑われ,本法はCF抗体価測定と併用すべき有用な方法であると思われた。

ステロイド局所注射が奏効した顔面血管腫の1例

著者: 礒辺真理子 ,   黒田紀子 ,   高相道彦 ,   石渡幸夫

ページ範囲:P.577 - P.580

 左顔面に発症した巨大苺状血管腫により開瞼不能となった4か月女児に対して,開瞼を目的として上下眼瞼に副腎皮質ステロイド薬(トリアムシノロン80mg,ベタメサゾン8mg)局所注射を施行した。1回注射のみで,3日後には開瞼可能となり,著効をしめした。既に視性刺激遮断弱視となっていたが,健眼遮蔽により左視力の上昇をえた。パターン視覚誘発電位(以下PVECPと略す),視力検査を定期的に実施して経過観察を行った。局所注射後8か月の全経過中ステロイドによる合併症はなく,ステロイドの局所注射は,苺状血管腫の治療に有効であった。今回の結果から,早期治療(弱視治療も含めて)の重要性が示唆された。

眼窩に発生した限局性アミロイドーシスの1例

著者: 芦澤悦子 ,   戸塚清一 ,   野呂瀬一美

ページ範囲:P.581 - P.583

 78歳女性の眼窩上縁に徐々に増大する腫瘤が発現したため涙腺腫瘍などを疑い全摘出したところ,病理学的にアミロイドーシスの診断を得た。全身検査所見,家族歴に異常なく,各種炎症性疾患も認めないため,限局性アミロイドーシスと診断した。腫瘤摘出後2年経過した現在も再発はなく,全身的にも経過良好である。

Matas法による治療中,網膜中心静脈閉塞症をきたした硬膜頸動脈—海綿静脈洞痩の1症例

著者: 佐久間正喜 ,   平山善章 ,   雨宮次生

ページ範囲:P.585 - P.587

 右眼上眼瞼腫脹を主訴とした65歳女性の硬膜頸動脈—海綿静脈洞痩の症例に対して脳外科医指導のもとにMatas法による治療を開始した。その後,主訴は改善したが,突然右眼視力低下が出現し,網膜中心静脈閉塞症をきたした。Matas法による治療を中止後,一時的に視力が改善したが,その後網膜に再出血をきたし,視力低下が進行した。
 Matas法による治療は硬膜頚動脈—海綿静脈洞痩に有効であるが,本症のように網膜循環障害を惹起する危険があるのではないかと推測する。

副鼻腔炎から海綿静脈洞血栓症,髄膜炎を併発し急激に失明に至った1症例

著者: 小嶌美恵子 ,   兜坂法文 ,   和田公平 ,   深尾篤嗣

ページ範囲:P.589 - P.591

 慢性副鼻腔炎の治療中の39歳の男子に,海綿静脈洞血栓症と髄膜炎が併発し,両眼の視神経炎と眼球突出が生じた。副鼻腔炎に対する手術後全身状態が改善し,右眼は回復したが,左眼は視神経萎縮の結果失明した。副鼻腔疾患に続発する鼻性視神経炎は,耳鼻咽喉科的手術が奏効し,予後良好とされてきたが,頭蓋内合併症のため視力喪失に至る事例のあることを本例は示している。

Kearns-Shy症候群における電気生理学的検討

著者: 星野育男 ,   山本嘉彦 ,   武田憲夫

ページ範囲:P.593 - P.596

 筋生検でミトコンドリア異常を示し眼合併症を持った2症例のKearns-Shy症候群の電気生理学的所見について報告した。症例1は46歳女性。両眼底ともに,壁板状の網脈絡膜変性を示し,色素沈着はなかった。Single flash ERGでは両眼とも消失型で網膜色素変性症を示唆した。Pattern VECPはほぼ正常で,視神経よりも網膜の障害が推察された。症例2は44歳男性。眼底は,両視神経萎縮。Single flash ERGは正常,pattern VECPでは頂点潜時の遅れを示した。両者とも両側外眼筋麻痺,眼瞼下垂があり,筋生検ではrag-ged-red fiberを認めた。ERG,VECPは本疾患での侵襲部位の客観的評価法として価値あるものと考えられた。

Flash VEPにおいて短潜時に反応が現れる症例の検討

著者: 野村昌弘 ,   小口芳久

ページ範囲:P.597 - P.599

 flash VEPのN1の潜時を20歳以上の244症例について検討した。明確な陽性波と陰性波が得られた症例のうち,49例が潜時が60ミリ秒以下の陰性波を示した。このうち43眼25例では潜時が短い反応のみを示し,39眼24例では.通常のN1とP2と比べて遅くにもうひとつの反応を示した。潜時が短いこれら82眼のうち,26眼(32%)では,網膜より中枢側の障害により,視力0.1未満であった。

落雷による過剰電流の眼内組織に及ぼす影響

著者: 佐久間健彦 ,   神尾一憲 ,   玉井信

ページ範囲:P.601 - P.603

 48歳男性の落雷による電撃傷の1例について報告した。全身的には,小腸穿孔,体表面積約30%の1〜2度の電撃熱傷,右鼓膜穿孔,下肢の知覚異常と反射の低下及び消失がみられた。受傷直後より,右眼の耳側上方視野のかすみを自覚し当科を受診した。初診時,視力右1.0(n.c.)左1.5(n.c.)と良好であったが右眼水晶体前嚢下に微細な混濁の散在があり,受傷後約2か月半後では,鮮明な花冠状の混濁を呈し,更に受傷約6か月後には花冠状の形態は不鮮明となり前嚢下の混濁は増強し右視力は0.1(n.c.)と低下した。また初診時網膜電位図検査にて,右眼op波の消失と両側b波の減弱,a波の頂点潜時の遅延があったが,経過中いずれも改善傾向を示した。経過中,進行性の網脈絡膜萎縮が認められた。

1眼に網膜血管炎,他眼にAPMPPEを発症したクローン病の1例

著者: 熊谷映治 ,   沖波聡 ,   荻野誠周

ページ範囲:P.605 - P.608

 直腸型クローン病の診断を受け,小腸狭窄増強のために小腸切除及び人工肛門造設術を受けた後4年4か月を経過して右眼に網膜血管炎による血管閉塞が発症し,その後左眼に急性後部多発性小板状色素上皮症(APMPPE)を発症した27歳男性の症例を経験した。右眼には初診時すでに新生血管が生じ,硝子体出血を繰返したため,レーザー網膜光凝固及び硝子体手術を施行し,視力の改善を得た。左眼は3か月の自然経過で,網膜に軽度の脱色素斑を残し視力は改善した。クローン病の合併症として網膜血管および脈絡毛細管板の血管に炎症が生じたものと考えられた。

超音波乳化吸引術による術前術後角膜倒乱視例の解析.その1

著者: 久保知可 ,   鈴木亮 ,   田中一成 ,   藤原紀男 ,   栗本晋二

ページ範囲:P.609 - P.611

 白内障の手術成績を単純化した条件で検討する目的で,同一時期,同一術者,同一方法でなされた白内障手術を検討した。
 術前倒乱視を示し,かつ6か月間観察された症例は313眼,一方,術後倒乱視を示し,6か月前にさかのぼって各測定時期のすべての記録のあった症例は257眼であった。全総数は1,077眼で,KPE 809眼(76.3%),ECCE 217眼(20.5%),その他34眼(3.2%)である。
 KPE法に限定し,術前および術後の角膜倒乱視を解析した。術前倒乱視群では1週後の直乱視は67.3%であり,6か月後では7.9%であった。70歳以下と80歳以上を比較すると,年齢が低いほど,術後1週目での強主径線の収縮が強く,また早く改善した。年齢による術後の乱視度に差はなかった。以上の結果は以前に報告されているECCEの術後変化と必ずしも一致しなかった。

サルコイドーシスの涙腺のMRI

著者: 松永伸彦 ,   溝口尚則 ,   田代順子 ,   雨宮次生 ,   武田宏之

ページ範囲:P.613 - P.616

 サルコイドーシスの眼合併症のひとつとして涙腺腫大が知られている。今回我々はサルコイドーシスの確定診断のついた症例の眼窩MRIを撮像し,涙腺腫大の有無を調べ他の臨床所見との相関について検討を行った。MRI水平断像にて涙腺の幅が6mm以上であった症例は18症例中7例(38.9%)で,所見の有無に関しての相関を調べた結果,網膜血管炎の有無以外には有意な相関を認めなかった。またサルコイドーシスにおける涙腺腫大の有無はMRIにより生体で診断が可能であり臨床的意義が人きいと思われる。

一過性黒内障で発症した内頚動脈閉塞症の1例

著者: 江見生英子 ,   関伶子 ,   前田和夫 ,   宮川照夫

ページ範囲:P.617 - P.620

 63歳の男性で左眼の一過性黒内障を初発として眼科を受診し,その後急速に脳梗塞に至った内頚動脈狭窄症の1例を経験した。左眼に低眼圧と眼底後極部の浮腫,多数の動脈分岐部の栓子,および蛍光造影で脈絡膜の充盈遅延と動静脈のsludgingが観察された。神経学的異常や頚部血管雑音は聴取されなかったが左内頚動脈狭窄を疑い,ウロキナーゼの点滴等の治療及び精査を開始した。しかし点滴開始後6日目に左脳梗塞を発症した。半年後の頚動脈造影では左内頚動脈起始部の狭窄と左眼動脈の狭窄を認め,内頚動脈狭窄部からの塞栓により眼動脈,ついでM1M2部の閉塞を来したと考えられた。本例より眼症状だけでも内頚動脈狭窄を疑うときには,頚動脈造影による確定診断と脳外科的治療の適応の検討を速やかに行うべきと反省させられた。

連載 眼の組織・病理アトラス・54

角膜の皮様分離腫

著者: 猪俣孟

ページ範囲:P.458 - P.459

 角膜の類皮種corneal dermoidは類皮分離腫der-moid choristomaとも呼ばれる先天性の腫瘤である。臨床でよくみられるものは,角膜輪部に米粒大もしくはそれよりやや大きめの白色半球状を呈した腫瘤が形成され,その表面は皮膚に類似して毛が生えている。
 角膜類皮腫は,腫瘤の大きさの程度によって,次の3型にわけられている。程度1は,角膜輪部の小さな黄白色の腫瘤で,腫瘤の下にはほぼ正常に近い構造の角膜実質がある。程度2は,類皮腫が角膜全体を覆うが,デスメ膜や角膜内皮は存在し,眼球内部にも異常を認めない。程度3は,角膜全体を覆う類皮腫がさらに眼球内部にも広がり,前房,虹彩,水晶体も腫瘤に取り込まれてしまっている。そのまめに,眼内組織構造にも種々の発育異常を伴い,小眼球である。

眼科図譜・297

後部硝子体膜症候群の硝子体手術の併発症としての神経線維束萎縮

著者: 北川桂子 ,   荻野誠周

ページ範囲:P.462 - P.463

 緒言 黄斑網膜上に特発性に生じる膜状組織は接線方向の牽引から網膜皺襞,黄斑偏位,黄斑嚢胞,切迫黄斑裂孔などをおこす。視力障害をきたせば硝子体手術の適応となる。私たちは,比較的早期の手術適応,すなわち自覚する二段階以上の視力低下か,変視症を訴える場合に手術をしてきた1)。術中の網膜前出血,膜剥離直後からの一過性網膜表層混濁,術翌日の綿花様白斑の出現,術後3か月以降に核白内障の進行をみたが,重篤な併発症の経験はない。しかし綿花様白斑は,神経線維束萎縮の可能性を示唆する。このような神経線維束萎縮を3例経験した。
 症例1. 56歳女性。5か月前から視力低下,1か月前から変視症を自覚。視力0.4。黄斑網膜上に放射状網膜表層皺襞と膜孔を伴う3乳頭径大の薄膜があり黄斑網膜は菲薄化,嚢胞状変化が著しかった(図1)。中等度の皮質白内障を伴っていたので,白内障嚢外摘出と後房レンズ挿入を併用して,膜除去手術を行った。微小鉤針2)で擦過して膜を引っ掛け剥離した。散在性の網膜前出血と網膜浮腫をみた(図2)。術翌日,膜剥離部に綿花様白斑が出現,1か月後,乳頭黄斑間に神経線維束萎縮を認めた(図3)。綿花様白斑と神経線維束萎縮の位置は一致すると思われたが,写真記録がないため確実ではない。黄斑嚢胞は消え,変視症も消失したが,視力は術後1年で0.5であった。

今月の話題

前眼部デルモイドの治療

著者: 八子恵子

ページ範囲:P.465 - P.469

 前眼部デルモイドの中でも頻度の高い輪部デルモイドと結膜デルモイドの手術療法につき述べた。整容的改善が要求される疾患であるが,術前にも増す醜形を残す術後合併症が多いことと,その予防の重要性を強調した。

眼科薬物療法のポイント—私の処方・28

細菌性眼窩蜂巣炎

著者: 大石正夫

ページ範囲:P.625 - P.627

 患者は18歳,男性。4〜5日前より左眼痛と眼瞼の発赤,腫脹があらわれ,急速に増強して眼瞼の自開が困難となってきた。某眼科医で抗菌剤を内服投与されたが軽減せず,全身熱感を伴い当科を紹介された。
 主訴:左眼痛,上下眼瞼の発赤,腫脹

眼科手術のテクニック—私はこうしている・28

緑内障,白内障の同時手術

著者: 北澤克明 ,   川瀬和秀

ページ範囲:P.628 - P.629

 緑内障に対する減圧手術と白内障摘出術,眼内レンズ(IOL)挿入術を同時に行うことの是非にっいては意見がわかれるところである。我々は,緑内障性視神経障害が進行し,かつ薬剤による眼圧コントロールが困難な例を同時手術の適応としている。適応例では可能な限り眼圧を下降させることが必要なことから,減圧手術としては線維柱帯切除術を行っている。以下,術式の概要を記す。

臨床報告

急性期網膜静脈分枝閉塞症に対するレーザーの波長と焦点方式

著者: 田中隆行 ,   坂本道子 ,   須藤憲子 ,   大谷倫裕

ページ範囲:P.631 - P.636

 過去6年間の急性期網膜静脈分枝閉塞症のうち,放置すれば黄斑浮腫のために視力が低下すると考えられた113眼に対して波長と焦点方式の異なるレーザー装置を用いて光凝固を行い,その治療効果と合併症を検討した。レーザーの内訳は,アルゴン27眼,クリプトン32眼,色素レーザー(610nm)焦点ずらし22眼,色素レーザー(610nm)同焦点32眼である。
 その結果,レーザーの種類にかかわらず,網膜出血・黄斑浮腫に対して光凝固は有効であった。術後視力が改善ないしは不変であった例は89眼79%であった。また術後視力が改善した46眼で,視力が固定するのに要した期間は,全体で3.1か月であった。合併症の頻度は,レーザーの波長と焦点方式により異なり,網膜神経線維層欠損は,アルゴン37%,クリプトン9%,色素レーザー焦点ずらし23%,色素レーザー同焦点6%であった。過剰凝固はアルゴン4%,クリプトン25%で,色素レーザー治療例には見られなかった。
 本症に対する光凝固は,どのレーザーでも有効であったが,使用するレーザーの波長と焦点方式により,合併症の頻度は大きく異なっていた。現時点では,同焦点方式のレーザー装置を用いて,610nmなどの長波長で,過剰にならない淡い凝固斑をおくのがよいと結論される。

小児の小視症

著者: 平形恭子 ,   大島崇 ,   東範行

ページ範囲:P.637 - P.640

 小視症を訴えた患児18名についてその特徴および原因を検討した。男女比は1:2と女子に多く,発症年齢は1例を除き10歳以下で,特に5〜7歳に多かった。原因として,眼科的に異常を認めたものはなかったが,脳波異常を5例(27.8%),片頭痛を2例(11.1%)に認めた。この脳波異常および片頭痛は,小視症の発現と密接に関係していると思われ,小視症の改善した症例では脳波の正常化や頭痛発作の減少がみられた。また,精神的な要因が考えられたものが4例(22.2%)あった。
 小児の小視症は,神経学的あるいは精神的な原因で生ずるものの頻度が高く(11/18例61.1%),眼科的検査だけでなく,神経学的検査,特に脳波検査の必要性が強調される。

ゴルフボール打撲による眼球破裂の1例

著者: 近藤寛之 ,   近藤義之 ,   高塚忠宏

ページ範囲:P.641 - P.644

 硝子体出血及び網膜剥離に対し硝子体手術を行った際,眼球赤道部より後方に位置する強膜裂創が発見されたゴルフボールによる眼外傷の1例を報告する。強膜裂創の処置と硝子体手術を同時に施行し,網膜を復位させ,術後0.2の矯正視力が得られた。本症例の様に受傷直後に眼球破裂の診断が困難な症例に対する注意点について検討を行った。

硝子体手術後の再出血に対するベッドサイドでの硝子体洗浄

著者: 斉藤喜博 ,   檀上真次 ,   張野正誉 ,   池田恒彦 ,   田中文 ,   恵美和幸

ページ範囲:P.645 - P.649

 硝子体手術後に再出血をきたし遷延した例に対して,ベッドサイドでの処置として硝子体洗浄(BSVL)を試みた。糖尿病網膜症11眼に対し,出血後2日から14日にベッドサイドあるいは外来において,毛様体扁平部または輪部より27G針にてBSVLを行った。ほぼ全例で処置直後に硝子体腔が透見可能となり術後眼底の精査が可能となった。1回のBSVLでその後再出血をきたさなかったもの6眼,複数回処置を要したもの2眼,再手術を要したもの3眼であった。複数回処置例,再手術例のうち2眼は血液透析患者であった。術後再出血例に対する人工房水による硝子体腔希釈洗浄は,簡便で,混濁の早期除去による眼底の詳細な検討を可能とさせる。この方法は再増殖抑制の効果も期待でき,積極的に行われてよいと考えられた。

糖尿病患者と非糖尿病患者における眼内レンズ挿入術後炎症の経時変化—レーザーフレアセルメーターによる観察

著者: 加藤直子 ,   上田彩子 ,   小紫裕介 ,   三浦昌生 ,   新城光宏 ,   近藤武久

ページ範囲:P.651 - P.655

 糖尿病患者と非糖尿病患者において計画的水晶体嚢外摘出術及び後房レンズ挿入術を施行し,術後炎症の経時変化をレーザーフレアセルメーターを用いて測定した。糖尿病患者は非糖尿病患者に比べて術前のフォトンカウント値が高く,術前よりの血液房水関門障害の存在が示唆された。網膜症のある糖尿病患者では網膜症のない糖尿病患者や非糖尿病患者に比べて,術後第1日のフォトンカウント値の上昇が強く,また術後3か月間のフォトンカウント値も有意に高値を示した。網膜症のある糖尿病患者では,白内障手術による血液房水関門の破綻が大きいので術後炎症は強く,また術後長期にわたり炎症は遷延しやすいので,白内障術後長期の消炎治療及び経過観察が重要である。網膜症のない糖尿病患者における眼内レンズ挿入術は,術前・術後管理を慎重に行うなら,非糖尿病患者と同様の適応があると考えられた。

緑内障のある白内障眼への眼内レンズ挿入術—術後屈折誤差

著者: 天野史郎 ,   池澤暁子 ,   小松真理 ,   清水公也

ページ範囲:P.657 - P.660

 緑内障のある51眼への後房レンズ挿入術後の屈折値の変化と,術前予測値との差を調べ,SRK式およびSRKⅡ式の術後屈折の予測精度を検討した。SRK式を用いた結果では,術後6か月の時点での屈折値と術前の予測値とのずれが1ジオプター以下であったものは,PACGで21眼中13眼(62%),POAGで30眼中15眼(50%),対照で50眼中30眼(60%)あり,2ジオプター以下であったものは,PACGで20眼(95%),POAGで22眼(73%),対照で46眼(92%)であった。今回の症例にSRKⅡ式を適用した場合,術前予測値と術後屈折値のずれは,SRK式を用いた結果と比較して,PACGでは増加,POAGでは減少,対照ではほぼ不変であった。

Group discussion

視野

著者: 前田修司

ページ範囲:P.661 - P.662

 視野グループディスカッション(以下視野GD)は今回で10回目となり,GDの中ではかなり息の長い方となってきた。GDは管理の関係で無制限に各種のGDをひらくわけにはいかない。参加者の少ないGDは運営委員会でお取り潰しになることもあり,逆に,多すぎるGDは立ち退きを勧告され,各々独立するということにもなる(例:神経眼科学会,網膜剥離学会)。視野GDが長い間生きながらえているのも視野検査が,時流に乗せられない最も基本的で不可欠な検査法であることの現れであろうか。

画像診断

著者: 菅田安男

ページ範囲:P.662 - P.664

 超音波には動態診断という他の画像診断にみられない特色があるが,しばらく診断学的応用の演題がない。日本超音波医学会では今年から部門別に専門医制度を発足させた。ビデオも使えるようになったので次を期待したい。その代り他の分野で盛んになったDoppler法やtissue characterizationの演題がでてきた。MRIは神経眼科に有用な情報をもたらしているがさらに普及するまでCTと対比した撮影条件の集積がなされるであろう。すっかり定式化した感のあるCTであるが興味ある討論がなされた。普及度のちがいであろう。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up
あなたは医療従事者ですか?