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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科45巻5号

1991年05月発行

雑誌目次

特集 第44回日本臨床眼科学会講演集(3)1990年9月 東京 学会原著

脊髄腫瘍により視力低下を伴ううっ血乳頭を呈した1例

著者: 西山敬三 ,   平林賢一 ,   太田浩一 ,   海平淳一 ,   瀬川雄三

ページ範囲:P.687 - P.689

 62歳男性が1か月前からの視力低下を主訴として受診し,うっ血乳頭が発見された。CTとMRIで頭蓋内腫瘍は否定された。髄液検査で脊髄圧と蛋白の上昇があった。脳室腹腔短絡手術後うっ血乳頭は軽快したが視力には大きな改善はなかった。術後,L1〜2とL5〜S1の位置に脊髄腫瘍が発見され,全摘された。組織学的には神経線維腫であった。

両側内側縦束(MLF)症候群の6例

著者: 藤田恒明 ,   鈴木利根 ,   小原喜隆

ページ範囲:P.691 - P.694

 偽MLF症候群を含め両側MLF症候群の6例を報告した。その原因は多発性硬化症,血管障害,脊髄小脳変性症,Fisher症候群,重症筋無力症と多岐で,従来両側障害例として報告の多い多発性硬化症以外の原因を強調した。両側例は一側障害が著明で,他側が軽微な場合に片側例と診断される可能性もある。肉眼的に観察しにくい微弱な内転制限も,衝動運動や視運動性眼振検査を行えばその速度低下により肉眼的にも明らかな障害が検出できる。橋部には1対のMLF, PPRFなどが隣接しており,病変のわずかな相違により多彩な所見が出現すると推察される。

眼部局所の加温によりUhthoff徴候を呈した球後視神経炎の1例

著者: 八重康夫 ,   中塚和夫 ,   稲吉鉦三

ページ範囲:P.695 - P.698

 55歳女性の右)球後視神経炎の経過中にUhthoff徴候(以下U徴候)を呈した1例を報告した。
 U徴候は,初診時0.06の視力が1.0に回復してきた第10病日より第25病日まで約15日間発現した。入浴により右視力は0.1に低下したが,入浴中眼部を冷却すると視力低下は0.4に抑えられた。また眼部を10分間ずつ加温,冷却したところ,体温はほぼ一定で,結膜嚢温のみの上昇,下降により右視力は1.0→0.5→0.8,CFFは30→25→30Hzとなり,U徴候,逆U徴候を認めた。
 以上より,U徴候は,体温上昇が必須条件ではなく,眼部局所の温度変化に深く関係していることが示唆された。

皮質盲の2症例

著者: 三木耕一郎 ,   由良安紀子 ,   緒方奈保子 ,   宮谷寿史 ,   山本領子

ページ範囲:P.699 - P.702

 両側の後頭葉が高度に障害されて,皮質盲と呼ばれる状態になった2例を経験した。
 第1例は,61歳男性,突然の両眼視力低下にて受診。視力右=40cm指数弁,左=30 cm手動弁。眼底,瞳孔反射に異常をみなかった。視野は,両側性同名半盲を示した。CT,MRIにて両側後頭葉を含む多発性脳梗塞と診断した。
 第2例は,62歳女性,自覚的な視力障害はなかったが(Anton症候群),両眼共に視力は0〜光覚。眼底,瞳孔反射に異常なく,CT, MRIにて両側後頭葉に著しい脱髄所見がみられた。カルモフールを長期間服用していたため,これによる白質脳症と思われた。
 両側に急激な視力低下が起こり,瞳孔反射,眼底等に他覚的異常を認めないとき,皮質盲を疑い積極的にCT, MRI等の検査を行うのが望ましい。

瞳孔緊張症が認められたCharcot-Marie-Tooth病の1例

著者: 村田正敏 ,   高橋茂樹

ページ範囲:P.703 - P.705

 筆者らは両側の瞳孔緊張症を伴ったCharcot-Marie-Tooth病(以下CMT病と略す)の1例を経験した。症例は63歳の女性。1989年10月17日,瞳孔異常の精査目的で当科を受診した。瞳孔は両眼とも不正円形で,瞳孔径は右3.5 mm,左4.0mmであった。対光反応および輻輳時の縮瞳は認められなかった。0.1%ピロカルピン点眼にて瞳孔径は,右2mm,左2.5mmまで縮瞳した。全身的には下肢で腱反射の低下がみられた。瞳孔緊張症は主に毛様体神経節の障害と考えられており,これはCMT病などの末梢神経障害と関連した自律神経障害の一部を示したものと思われる。

眼窩内腫瘍で初発した原発性肺癌の1例

著者: 松岡孝昌 ,   尾上晋吾 ,   宮崎茂雄 ,   駒井潔 ,   下奥仁 ,   松本強 ,   谷栄一

ページ範囲:P.707 - P.710

 片眼の眼球突出,視力障害で初発した肺癌の眼窩内転移の1例を報告した。症例は,全身症状を示さなかった34歳の男性で,急速に進行する右眼の眼球突出と視力障害を主訴に眼科を初診した。画像診断にて,骨破壊を伴って周辺軟部組織に浸潤する右眼窩内腫瘍を認めた。切除標本での病理組織検索で,高分化型腺癌と診断され,この病理所見に基づく全身精査により肺腫瘍が発見され,本例での眼窩内腫瘍は肺癌の転移と診断された。肺癌の眼窩内転移は,本邦では現在まで稀な疾患とされていたが,肺癌の増加に伴い今後増加することが予測され,転移性眼窩内腫瘍の原発巣として肺癌は重要な位置を持ってくるものと考えられる。

生後発症した風疹網膜症の1例

著者: 杉紀賢 ,   木村篤仁 ,   大島健司 ,   雪竹浩

ページ範囲:P.711 - P.713

 風疹網膜症(以下,網膜症)は視機能には著明な影響がなく,治療の対象とならないために比較的問題にされないできたが,その病像が特徴的であるためretrospectiveな診断根拠として重要視されている。網膜症は生下時にすでに存在し,その後進行しないものであると考えられていた。しかし,網膜症が生後発症して進行する例もあるとの報告もあったが,写真による記録がなく疑問視されてきた。今回筆者らは,一例ではあるが発症の前後を写真で記録でき,生後発症したことを確認した。

IgG多発性骨髄腫に生じた両眼網膜中心静脈閉塞症の1例

著者: 岩崎むつよ ,   宮崎泰司 ,   平山善章 ,   雨宮次生

ページ範囲:P.715 - P.717

 多発性骨髄腫は血液の過粘稠性を伴うことが知られているが,これに基づくと考えられる網膜中心静脈閉塞症を合併したIgG・χ型多発性骨髄腫の1症例を経験したので報告した。

原発性マクログロブリン血症にみられた網膜症の1例

著者: 湯口幹典 ,   川地浩子

ページ範囲:P.719 - P.722

 59歳の女性。呼吸困難のため当院内科に入院した。IgMの著明な増加に伴う過粘度症候群があり,眼科的精査目的で当科を受診した。初診時,血液粘度は9.36cpで両眼網膜静脈の拡張・蛇行,放射状出血がみられた。良性M蛋白血症と診断され,外来通院していたが,数か月後,呼吸困難が増悪して再入院した。眼底は両眼とも網膜中心静脈閉塞症様の変化を示していた。血液粘度は17.3cpと上昇し,血漿交換により眼底所見の改善をみた。原発性マクログロブリン血症と診断され,化学療法が行われた。その結果IgMおよび血液粘度の著明な低下がみられ,網膜出血も吸収された。過粘度症候群に伴う網膜症は血液粘度に相関すると考えられた。

眼底病変を伴った若年性関節リウマチの1症例

著者: 阪口昌子 ,   原徳子 ,   西信元嗣 ,   寺坂綾子 ,   吉田裕慈 ,   吉岡章

ページ範囲:P.723 - P.726

 若年性関節リウマチ(JRA)に虹彩毛様体炎と眼底病変を合併した5歳の女児のまれな症例を経験したので報告する。JRAの発症型は全身型で抗核抗体陰性。視力は右1.0,左0.7。両眼前房と前部硝子体に細胞が多数みられた。虹彩後癒着,帯状角膜変性,白内障なし。眼底では,両眼とも著明な視神経乳頭浮腫と軽度の静脈の拡張および蛇行,後極部網膜の浮腫を認め,静脈の一部に白鞘がみられた。螢光眼底造影では視神経乳頭および静脈より色素の著明な漏出がみられた。副腎皮質ステロイド薬の内服で全身および眼科的所見が改善し再発はなかった。

両眼硝子体出血を認めた亜急性細菌性心内膜炎の1例

著者: 樋口祐二 ,   石原淳 ,   宮崎守人 ,   瀬川雄三 ,   門野聡

ページ範囲:P.727 - P.730

 文献的にこれまで1例も報告されていない硝子体出血を合併した亜急性細菌性心内膜炎を報告した。
 症例は41歳男性で,内科で亜急性細菌性心内膜炎と診断された。初診時,両眼に視神経乳頭浮腫,視神経乳頭より硝子体中にのびる複数の新生血管と少量の硝子体出血,網膜に多数の出血斑を認めた。初診より3か月後,右眼硝子体中に塊状の硝子体出血をみ,視力は著明に低下した。初診より8か月後,全身状態の改善に伴い,右眼硝子体出血はほとんど消失し,上記新生血管はなくなり視力も回復した。病因としては網膜の循環障害が考えられた。

Leber's idiopathic stellate retinopathy様の所見を呈した埋没型の視神経乳頭ドルーゼンの1例

著者: 佐藤雪雄 ,   海平淳一 ,   藤沢昇 ,   裏川佳夫 ,   瀬川雄三

ページ範囲:P.731 - P.733

 初期に乳頭浮腫を呈し,原因不明であったため,Leber's idiopathic stellate retinopathy様の経過をたどったが,乳頭浮腫が軽減した後の約半年後の螢光眼底写真では乳頭上の血管の拡張像を認めず,11時,12時,4時に過螢光を認め,乳頭ドルーゼンを疑い超音波検査を施行することにより.埋没型ドルーゼンと診断できた。

先天性無虹彩症の発症機序の検討

著者: 小出千鶴 ,   山崎芳夫

ページ範囲:P.735 - P.737

 先天性無虹彩症は、角膜・前房隅角・水晶体・網膜・視神経を含めた眼球全体の異常として知られており,その原因として発生学的に,外胚葉説,中胚葉説,さらにはNeural-crest障害説が提唱されている。今回の筆者らの経験例では,無虹彩とともに先天白内障,黄斑低形成が認められ,さらに,角膜上皮・実質・内皮細胞に形態学的異常は認められなかったことより,その発生機序として外胚葉系の異常が示唆された。しかし,角膜混濁、瞳孔膜遺残,隅角形成異常などを伴った症例も報告されており,その原因を唯一の発生原器からの分化障害に求めることは困難であると思われた。

先天性緑内障を伴ったSturge-Weber症候群の1例

著者: 窪田俊樹 ,   瀬川雄三

ページ範囲:P.739 - P.742

 先天性緑内障を伴うSturge-Weber症候群を経験し,日齢14日に線維柱帯切除術を施行する機会を得た。隅角線維柱帯を中心とした微細構造の検索を行い,虹彩の高位付着,未熟なシュレム管—線維柱組織などの房水流出路閉塞所見を認めた。術中に拡張した著明な上強膜血管網もみられた。房水流出路閉塞と上強膜血管腫のそれぞれが本症に合併した先天性緑内障の原因と考えられた。

鈍的外傷により眼内レンズ挿入眼に網膜剥離をきたした1例

著者: 永本晶子 ,   近藤義之 ,   高塚忠宏

ページ範囲:P.743 - P.746

 鈍的外傷後眼内レンズ脱出および裂孔性網膜剥離を生じた1例を経験した。
 症例は82歳女性で,右眼のECCEおよび眼内レンズ挿入術施行後8か月目に転倒して,机に右眼を打撲。翌日,脱出した眼内レンズを持参して再受診した。右眼視力は光覚弁で虹彩脱出・前房出血があり眼底は透見不能であった。同日,創口閉鎖術施行。その後網膜剥離が認められたため硝子体切除術を施行した。この術中,裂孔原性網膜剥離が明らかとなり裂孔閉鎖術を行った。術後4か月の現在,視力は(0.03)で網膜は復位しており経過観察中である。術前および術中所見・受傷機転から裂孔の発生機序として脱出時のレンズのループの網膜への直接の損傷が考えられた。

妊娠に伴う網脈絡膜症について

著者: 太田眞理子 ,   石蔵久美 ,   石川浩子 ,   三木徳彦

ページ範囲:P.749 - P.752

 妊娠に合併した網脈絡膜症の2例を報告した。症例1は39歳,妊娠35週で妊娠中毒症を合併していた。両眼底後極部に散在する分葉状の浮腫状混濁病巣を認めた。帝王切開後,病変は拡大した。螢光眼底造影において初期に脈絡膜螢光の充盈欠損を,後期に脈絡膜より多発性の螢光色素漏出を認めた。症例2は32歳,妊娠24週で,臨床的に妊娠中毒症はなかった。左眼底視神経乳頭を中心に浮腫状混濁病巣とその外周に小斑状灰白色病巣の散在を認めた。本病変は妊娠中毒症発現機序における脈絡膜毛細血管循環障害に起因するものであり,臨床的妊娠中毒症を呈さずとも発症すると考える。

先天性プロテインC欠損症にみられた両眼性白色瞳孔の1例

著者: 中西哲哉 ,   浜口博史 ,   伊藤邦生 ,   宇治幸隆 ,   北村賢司 ,   新藤啓司

ページ範囲:P.753 - P.755

 先天性プロテインC欠損症にみられた両眼性白色瞳孔の1例を経験した。症例は生後2日男児で,生後1日目より電撃性紫斑,両足底部皮下出血が認められ,血液検査の結果ダブルヘテロ型のプロテインC欠損症と診断され,眼科的精査のため当科を受診した。両白色瞳孔,両浅前房,両虹彩後癒着が認められ,超音波検査の結果,両水晶体後部の白色組織塊が視神経乳頭に連続する所見が認められ,ERGでは両眼ともに著明な減弱を認めた。生後大量の硝子体出血が発生し,それが後に増殖性変化を起こしclosed funel状の網膜剥離となった可能性が大である。新生児期発症のプロテインC欠損症の眼科的報告は稀で貴重な症例の追加と考えられる。

外傷性毛様体解離に対する冷凍凝固,強膜内陥術併用の一経験

著者: 藤沢昇 ,   宮永和人 ,   樋口明美 ,   海平淳一 ,   東福寺祐夫 ,   保谷卓男

ページ範囲:P.757 - P.760

 症例は交通事故で右眼を打撲し,外傷性毛様体解離のために低眼圧性黄斑症を呈した22歳の男性である。隅角鏡で毛様体解離は下耳側に約90度認められた。受傷の10週後,アルゴンレーザー凝固を毛様体解離部に施行したが効果は得られなかった。受傷の4か月後,冷凍凝固と角膜輪部より4mmの位置に直径3mmのシリコンスポンジで強膜内陥術を施行した。術後3日で眼圧は正常域に回復し,低眼圧性黄斑症は徐々に回復した。術後2週で異物感が強いとの訴えのためシリコンスポンジを除去した。除去後眼圧は不変であった。冷凍凝固と強膜内陥術の併用は,強膜毛様体縫合術やジアテルミー凝固より侵襲が少なく有用な方法と思われる。

40年後に発症した交感性眼炎の1例

著者: 能美雅才 ,   河瀬美智代 ,   原彰

ページ範囲:P.761 - P.764

 右眼の外傷を契機として40年後に,左眼に虹彩毛様体炎,乳頭充血,漿液性網膜剥離が出現し,後に夕焼け状眼底を呈したことにより交感性眼炎と診断された50歳男性の症例について報告した。
 ステロイドの全身投与を中心とした治療により,遷延化は認められたものの,視機能は比較的良好に保たれた。

僚眼に視野異常を認めた桐沢型ぶどう膜炎の1例

著者: 二宮元 ,   濱田恒一 ,   伊比健児 ,   秋谷忍

ページ範囲:P.765 - P.768

 片眼性の桐沢型ぶどう膜炎の僚眼の視機能に異常を認めた報告は筆者らが検索した限り,いまだない。今回筆者らは,片眼性の桐沢型ぶどう膜炎患者の検眼鏡的に異常のない僚眼に,進行性の視野異常を認めたので報告する。
 症例は,34歳の男性で1990年1月4日に右眼の急激な視力低下をきたし,当科を初診した。アシクロビルの投与を開始するも1月26日には右眼に網膜剥離を生じた。2月2日の左眼の静的量的視野検査にて異常を認め,その後,耳側視野異常の進行を認めた。5月29日からアシクロビルの内服を開始したが,その後,左眼視野異常の改善を認めた。
 片眼性の桐沢型ぶどう膜炎の僚眼に対しての視機能評価の必要性が示唆された。

特発性網膜血管腫に伴う網膜前黄斑線維症の自然治癒例

著者: 小島伸介 ,   辻岡雅典 ,   井上新 ,   楠部亨 ,   坪井俊児

ページ範囲:P.769 - P.771

 特発性網膜血管腫に伴う網膜前黄斑線維症の自然治癒例を経験した。
 網膜周辺部の硝子体出血を伴う特発性網膜血管腫及びこれに伴う網膜前黄斑線維症が認められた。血管腫に対して光凝固を施行したところ1か月以内に後部硝子体剥離が出現し,それに伴って黄斑前の増殖膜が網膜面上より自然に剥離した。

眼底白点症の親子例

著者: 平戸孝明 ,   岡島修 ,   岡本道香 ,   谷野洸 ,   弓田彰

ページ範囲:P.773 - P.777

 眼底白点症の母娘例を報告した。症例1は38歳女性。幼時より夜盲があり,眼底所見および視機能検査結果より典型的な眼底白点症と考えられた。症例2は64歳女性,症例1の母。眼底は白点が多数ある他に網膜色素上皮の色素むらが強く,視野・色覚・暗順応最終閾値の障害が認められたが,長時間暗順応によるERG振幅の増大現象があり,眼底白点症が長期経過後加齢および動脈硬化性変化により視機能低下を示した例であると結論した。停止性とされる眼底白点症だが,本例のように長期の経過後はある程度の視機能異常を示す例も存在すると考えられた。

末期ベーチェット病の1症例

著者: 林理 ,   稲富昭太

ページ範囲:P.778 - P.780

 発症より35年以上観察した末期のベーチェット病患者を経験した。症例は19歳の時に右虹彩毛様体炎で発症し,完全型ベーチェット病として約3年間入院加療され,以後は著明な再発は認められなかった。現在,視力は右:手動弁,左:0.01。視野,ERG,暗順応検査等は著明に障害されていたが,色覚は比較的保たれていた。本症例のように重篤な発作が消失し,落ち着いていると思われる例でも長期的にみると徐々に網脈絡膜の荒廃がすすんでおり,ベーチェット病の長期にわたる経過観察の必要性を示唆していると考えられた。

白内障術後の類嚢胞黄斑浮腫に対するアセタゾラミドの著効例

著者: 李俊哉 ,   小島秀伸 ,   裏川佳夫

ページ範囲:P.781 - P.784

 62歳男性で,計画的嚢外法および後房レンズ挿入術施行後,右眼は3か月,左眼は術後1か月で類嚢胞黄斑浮腫(CME)が出現した。CMEに対して,アセタゾラミド(ダイアモックス®)の内服投与を行ったところ,投与後翌日あるいは数日で視力改善が得られ,右視力0.2から0.4,左視力0.1から1.2と回復した。右眼の場合,CMEが慢性化へ移行したが,ダイアモックス®の投与時期,投与量漸減法の問題,術中硝子体脱出の既往が要因として考えられた。白内障術後のCMEが自然寛解傾向の強いものであるとはいうものの,CMEに対するダイアモックス®による治療法は試みてもよいと思われる。

一過性の網膜中心動脈閉塞の合併が疑われた網膜中心静脈閉塞症(うっ滞型)の3症例

著者: 石井玲子 ,   松元俊 ,   山下英俊

ページ範囲:P.785 - P.787

 筆者らは基礎疾患を特に有さない中年男性で,うっ滞型(Hayreh,1976)の網膜中心静脈閉塞症の眼底所見を呈し,視力が急激かつ高度に低下した3症例を経験した。これらはいずれも視神経乳頭の発赤,網膜静脈の拡張蛇行,網膜動脈の狭細化,散在する網膜出血,軽度の網膜浮腫が認められ,螢光眼底造影上明らかな網膜血管の閉塞所見はないが循環時間の遅延がみられた。ウロキナーゼ・プロスタグランディンE1・星状神経節ブロックなどの早期治療を行い,視力・眼底所見および循環時間は早期に改善した。この病態は1987年Jorizzoらの報告と同様,網膜中心静脈閉塞に一時的な網膜中心動脈の閉塞が合併したものと考えられた。

眼底出血を主徴としたサルコイドーシス症例

著者: 石田敬子

ページ範囲:P.789 - P.792

 1960年から1990年までの30年間に188例の確定診断されたサルコイドーシス患者を経過観察した。188例を分類し,その眼症状には,(1)ぶどう膜炎を主徴とするタイプ,(2)血管病変を主徴とするタイプ,(3)(1)及び(2)の合併したタイプ,があった。そのうち血管病変を主徴とするグループのうち,眼底出血のみを主徴とした4症例を検討した。若年者で眼底出血を主徴とした全身合併症のない原因不明の疾患は,ぶどう膜炎,その他サルコイドーシス特有の病状が認められなくても、サルコイドーシスを鑑別診断に加える必要があると思われた。

肝移植後にサイトメガロウイルス網膜炎を併発した1症例

著者: 白木邦彦 ,   三木徳彦 ,   森脇光康 ,   大塚尚 ,   堤武文

ページ範囲:P.793 - P.795

 成人のサイトメガロウイルス(CMV)網膜炎は,悪性腫瘍罹患中,移植後,副腎皮質ステロイド薬大量使用下,後天性免疫不全症候群など,免疫抑制状態にみられる。筆者らは,日本人で初めて肝移植を受けた50歳男性に発症したCMV網膜炎と思われる症例を経験した。両眼の視力障害にて来院。両眼に硝子体中の細胞とともに,後極部を中心に網膜血管に沿った黄白色滲出物と網膜出血等,壊死性網膜炎の所見がみられた。既往歴として肝細胞癌のため8か月前に米国にて肝移植を受け,経過中渡米した際,尿よりのウイルス分離とともに臨床的にCMV網膜炎の診断のもと,ganciclovir®を投与されている。本邦でも各種臓器移植の増加とともに日常診療での遭遇も多くなると思われる。

網膜および乳頭上新生血管を伴う錐体ジストロフィが疑われた1例

著者: 森脇光康 ,   白木邦彦 ,   加茂雅朗 ,   三木徳彦 ,   今本量久 ,   湖崎克

ページ範囲:P.797 - P.800

 網膜および乳頭上新生血管を伴った錐体ジストロフィと考えられる症例を報告した。症例は14歳女性で,高度の視力障害および色覚異常を伴い,両眼底には後極部,特に黄斑部に色素異常がみられ,乳頭およびその周囲に網膜新生血管を伴っていた。螢光眼底造影では明らかな無血管野は存在せず,新生血管からの旺盛な螢光色素漏出が認められた。
 網膜電位図は低振幅で錐体系の網膜電位図は消失型であり,暗順応検査では一次,二次とも閾値の上昇がみられた。これらの結果より網膜新生血管を伴った錐体ジストロフィの特異な1例と考えた。

特発性黄斑出血の1例

著者: 山口ひとみ ,   坂口仁志 ,   森下清文 ,   渡辺千舟

ページ範囲:P.801 - P.803

 48歳の女性が読書中に突然右眼の中心部が暗くなり,当科を受診した。矯正視力は右0.2,左1.5,眼圧は正常で前眼部・中間透光体に異常なく,右眼眼底は黄斑部を中心に細長い境界鮮明な出血を認めた。出血は鼻側より徐々に吸収し,2か月後に視力は1.0に改善した。外傷の既往,後部硝子体剥離,黄斑部新生血管,屈折異常等の眼疾患,高血圧,糖尿病等の全身疾患の所見がなく,特発性黄斑出血と思われた。

硝子体出血で発見された20歳のインシュリン依存型糖尿病の1症例

著者: 足立和己 ,   吉田宗徳 ,   三木正毅 ,   後藤康生 ,   松岡賢光

ページ範囲:P.805 - P.808

 糖尿病網膜症の発症と進展には,高血糖,罹病期間ならびに遺伝的素因が関与すると言われている。インシュリン依存型糖尿病における増殖網膜症の発症には,少なくとも3〜5年以上の罹病期間が必要とされている。今回筆者らは糖尿病の病歴がなく,両眼霧視を主訴として初めて来院し,両眼硝子体出血を伴う網膜新生血管と網膜出血を認め,入院後にインシュリン依存型糖尿病と初めて診断された20歳の女性の症例を経験した。唯一の病歴は2年前の急激な体重減少と生理不順であり,全く無症状で経過し,20歳の若年齢で初めて増殖網膜症(硝子体出血あり)を認めた点は非常に興味深いと思われた。

眼底白点症の2症例.典型例と白点が不規則な配列の非定型例

著者: 坂上欧 ,   吉村長久 ,   栗山晶治 ,   本田孔士

ページ範囲:P.809 - P.811

 夜盲と眼底に白点を認め,電気生理学的,心理物理学的検査によって眼底白点症と診断できた2症例を報告する。症例1は16歳の男子高校生で,後極部を除く眼底全周にびまん性に白点が分布する典型例であった。症例2は8歳の女児で両眼とも白点が血管アーケードと鼻側網膜に分布していたが,耳側網膜にはわずかしか白点を認めず,不規則な白点の配列のパターンを示した非定型例であった。このような症例でも電気生理学的,心理物理学的検査で網膜の機能障害が先行していた。

常染色体優性遺伝性と思われたパターンジストロフィの1症例

著者: 川北聖子 ,   足立和孝 ,   中馬祐一 ,   瀬川要司 ,   若林謙二

ページ範囲:P.813 - P.815

 49歳男性の両眼に網状ジストロフィを認め,左眼には中心性漿液性網脈絡膜症の合併を認めた。漿液性剥離消失後のERGは両眼ともに正常,EOGのL/Dも正常であったが,高浸透圧応答とダイアモックス応答が左眼で減弱,7%炭酸水素ナトリウム応答は両眼ともに減弱していた。本症例の3人の子供のうち,娘2人を検索したところ,眼底所見および螢光眼底所見は両名ともに異常を認めなかったが,次女で7%炭酸水素ナトリウム応答が両眼ともに減弱し,高浸透圧応答が右眼で減弱していた。以上より本症例とその娘で網膜色素上皮の広範な障害が検出され,EOGの7%炭酸水素ナトリウム応答が遺伝形式の推定に利用できる可能性が示唆された。

網膜剥離を合併した両眼性乳頭部先天異常の1例

著者: 岩崎哲也 ,   池田誠宏 ,   久米千鶴 ,   佐藤圭子

ページ範囲:P.817 - P.820

 両眼に乳頭部先天異常を有し,右眼に先天白内障,左眼に網膜剥離を合併し,さらにtrans—sphenoidal encephaloceleを伴った19歳男子の症例を経験した。右眼は朝顔症候群で,左眼にも乳頭部の異常および乳頭下方に限局性の扁平な網膜剥離をみた。1か月後左眼乳頭上方にも限局性の網膜剥離が出現したがこれは約3週間にて消失し,乳頭下方の網膜剥離も初診より約1年2か月後に消失した。さらにその3か月後の現在,前回と同部位の乳頭下方に網膜剥離が再発した。乳頭部先天異常に伴う網膜剥離の発症原因にはいくつかの説が提唱されているが,本例における網膜剥離の原因は明らかではなく,扁平な剥離から全剥離へと進展した例の報告もあり,今後も慎重な経過観察が必要と思われる。

虹彩ルベオーシスの前房フレアー強度

著者: 安積淳 ,   井上正則 ,   山本節

ページ範囲:P.821 - P.824

 糖尿病眼で血管新生緑内障が完成する以前に発見された虹彩ルベオーシスの6症例8眼について,前房フレアー強度を測定し,同時に前眼部螢光造影を行って虹彩血管異常との関連性を検討した。
 4眼は瞳孔縁と隅角にのみ血管異常のみられる初期例で,2眼は虹彩面にもわずかな異常血管のみられる中等度例,2眼は虹彩面に高度の異常血管がみられる高度例であった。前房フレアー値の上昇は,いずれも隅角の完全閉塞や高度な眼圧上昇に先立って観察され,異常血管の拡大とともに前房フレアー値が急速に上昇する傾向がみられた。
 血管新生緑内障をより早期に発見するには前房フレアーの観察が有用と考えられた。

眼内レンズ挿入術後の前房フレア値と水晶体上皮細胞の線維性化生—フィブリン反応の成因

著者: 西興史 ,   西佳代

ページ範囲:P.825 - P.830

 筆者らはヒト水晶体上皮細胞は組織培養中で線維性化生を起こす間に,PGE2およびIL-1αを産生することを報告した。生体眼におけるこれらメディエーターの産生を確認するため,白内障術後の前嚢切開縁における水晶体上皮細胞の線維性化生の所見と,血液房水柵破綻の状態をレーザーフレアセルメーターで測定した前房フレア値との相関を調べた。13例の両眼老人性白内障患者(61±8歳)でcircuLar capsulorhexisに続いて核乳化吸引術を行い後房レンズを嚢内に固定した。片方の眼は残った前嚢下に付着している水晶体上皮細胞は除去せず,他眼では超音波吸引法で除去した。上皮細胞非除去眼では全例後房レンズが前嚢切開縁と接し,線維性化生を起こし始める6〜14日頃に一致してフレア値は有意に上昇し術後1〜3日言にみられたピークとともに2峰性を示した。すなわち血液房水柵が再破綻した。上皮細胞除去眼では術後のフレア値は徐々に下降し線維性化生もフレア値の再上昇もみられなかった。この結果は生体でもPGE2とIL-1αが産生されることを示している。偽水晶体眼の術後炎症には線維性化生を起こす間に上皮細胞が産生するPGE2,IL-1αによって引き起こされる非特異的急性炎症が含まれる。フィブリン反応はこの強い炎症の表現である。上皮細胞の線維性化生は今後眼内レンズの生体適合性を考えるうえで重要なファクターとなる。

連載 眼の組織・病理アトラス・55

全身性アミロイドーシス

著者: 猪俣孟

ページ範囲:P.674 - P.675

 アミロイドーシスはアミロイド蛋白が全身諸臓器の組織に沈着する原因不明の疾患である。アミロイド沈着の部位とその程度によって多彩な臨床症状を示す。とくに,遺伝性家族性の全身性アミロイドーシスでは,アミロイド線維が硝子体内に沈着し,「ガラス綿様硝子体混濁」(図1)をきたすことを特徴とする。
 眼組織におけるアミロイド線維の沈着部位は,硝子体,網膜血管およびその周囲組織,虹彩および毛様体の血管,瞳孔括約筋および散大筋,脈絡膜内の毛様体動脈,脈絡膜毛細管板,脈絡膜内の毛様体神経,球後の毛様体神経,角膜,前房隅角線維柱帯,後極部上強膜血管とその周囲組織,外眼筋,結膜血管およびその周囲組織,視神経の軟膜,クモ膜,硬膜眼窩などである。すなわち,アミロイド線維は眼球内外のほとんどすべての組織に沈着しうる。

眼科図譜・298

先天性緑内障を合併したRubinstein-Taybi症候群

著者: 山口慶子 ,   原敏

ページ範囲:P.678 - P.679

 緒言:Rubinstein-Taybi症候群は幅広い手足の拇指を特徴とし,特異な顔貌,発育障害,精神発達遅延を伴う原因不明の奇形症候群である1)。本疾患の眼合併症の中で,臨床上最も問題となるのは,緑内障であると考えられるが,報告例は少ない。われわれは本症に若年性緑内障を合併したまれな1例を経験したので報告する。
 症例
 患者:6か月男児。

今月の話題

錐体ジストロフィー 概念と診断

著者: 飯島裕幸

ページ範囲:P.681 - P.685

 錐体ジストロフィーの概念として,錐体機能の選択的障害,びまん性障害,後天性進行性の病態,および遺伝性の4点について解説した。また診断においてERG検査は不可欠であり,実際の記録法,および得られた結果の評価法について述べた。また眼底所見で注意すべき点についてもふれた。

眼科薬物療法のポイント—私の処方・29

眼窩真菌症

著者: 石橋康久

ページ範囲:P.838 - P.839

患者は68歳の男性で,1985年8月頃より一過性の黒内障を経験するようになった。頭痛もするため脳外科を受診したが,大したことはないと言われた。1986年1月末頃より後頭部から前額部へかけて疼痛があり,2月初旬からは右眼の視野が少しずつ暗くなってきた。視力の低下も起きてきたため,近くの病院の眼科を受診し,紹介されて筑波大学眼科に1986年2月21日受診した。主訴:右眼視力低下,視野欠損,頭痛

眼科手術のテクニック—私はこうしている・29

緑内障眼の白内障手術1.—Trabeculectomy+ECCE+IOL移植

著者: 阿部春樹

ページ範囲:P.840 - P.842

緑内障眼におけるIOL手術について
 緑内障眼に対する眼内レンズ挿入は,以前には比較的禁忌とされてきた(Drews)1)。しかし今日では後房レンズを正しくin the bagに挿入できれば,IOLそのものが緑内障眼の眼圧コントロールに悪影響を与えることはほとんどなく,使用に耐え得ると考えられており,緑内障眼の白内障手術では積極的に後房レンズが挿入されている。2度の手術よりも1度の手術ですむglaucoma tri-ple procedureが普及しつつある。

臨床報告

緑内障のある白内障眼への眼内レンズ挿入術—濾過胞眼の術後経過

著者: 天野史郎 ,   池澤暁子 ,   小松真理 ,   清水公也 ,   荻野紀重

ページ範囲:P.843 - P.846

 濾過胞のある緑内障26眼に対して後房レンズ挿入術を行った。対象は,原発閉塞隅角緑内障眼(PACG)9例12眼と,原発開放隅角緑内障眼(POAG)13例14眼であり,全例とも,術前に濾過胞があり,無治療または点滴剤のみで眼圧調整が可能であった。術後に眼圧コントロール悪化がPACGで2眼(17%),POAGで1眼(7%)にあった。POAGの1眼で濾過胞が縮小したが,この1眼の眼圧コントロールは,術前と変わらなかった。濾過胞の状態と眼圧コントロールに相関はなかった。

発症早期からのガンシクロビル投与が著効を奏したサイトメガロウイルス網膜炎の1例

著者: 堀津良志 ,   山本修一

ページ範囲:P.847 - P.849

 発症早期からガンシクロビルの投与を行い,良好な視力予後を得たサイトメガロウイルス(以下CMV)網膜炎の1例を報告した。症例は26歳の女性で,悪性リンパ腫と全身性CMV感染症で内科入院中に飛蚊症を主訴に眼科を受診した。矯正視力は右1.0,左0.9,両眼眼底中間周辺部から周辺部にかけて,網膜動静脈の著明な白鞘化と出血および滲出斑を認めたためCMV網膜炎と診断し,ただちにガンシクロビルの投与を開始した。投与開始により網膜病変は広範な萎縮を残して改善し,初診6か月後の現在,視力は右0.6,左0.8で良好に維持されているが,副作用として白血球減少が認められた。

網脈絡膜病変を伴ったWegener肉芽腫症

著者: 鈴木一作 ,   高橋茂樹 ,   浅岡出

ページ範囲:P.851 - P.857

 41歳の男性で,網脈絡膜病変を伴ったWegener肉芽腫症(limited form)を経験した。初診時,両眼の後極部に浮腫状混濁が散在していた。CT検査で鼻腔から上顎洞にかけて異常陰影があり,胸部X線検査では両肺野に多数の結節状陰影があった。腎病変はなかった。ステロイド剤の全身投与は効果がみられなかった。シクロスポリンの内服治療により上気道病変,肺病変および両眼底の浮腫状混濁は次第に軽快した。本症例の両眼底にみられた浮腫状混濁は,Wegener肉芽腫症による血管炎とそれに伴う肉芽腫様変化が,脈絡膜にも起きたためのものではないかと思われた。

外傷性三角症候群と網膜剥離に続発した三角症候群

著者: 高橋京一 ,   村岡兼光 ,   得居賢二 ,   中静隆之 ,   須藤憲子

ページ範囲:P.859 - P.867

 三角症候群は,脈絡膜動脈閉塞が原因とされている疾患単位であるが,実際の臨床では脈絡膜血管走行と萎縮巣が一致しない症例が多数観察される。
 筆者らは,扇状の網脈絡膜萎縮をもつ症例42眼39例を外傷群と非外傷群に分け,萎縮巣の部位と形態および合併する病変につき,螢光眼底造影法を用いて検討した。
 外傷群14眼では,脈絡膜動脈の支配領域にほぼ一致した萎縮巣が観察され,脈絡膜動脈の急性閉塞がその発生原因として想定された。非外傷群28眼では,24眼(86%)で後極部に螢光漏出点が合併していた。萎縮巣の部位は,全例眼底下方に存在し,それは網膜下液の流路や貯溜部位と一致し,脈絡膜動脈の走行とは一致しなかった。
 以上の結果から,非外傷群の萎縮巣は,滲出性網膜剥離が遷延した結果,その流路ないしは貯溜部位の網膜色素上皮が萎縮を起こし三角症候群を形成したものと結論された。

増殖糖尿病網膜症における房水フレア値の検討

著者: 前野貴俊 ,   今居寅男 ,   前田直之 ,   春田恭照 ,   田野保雄

ページ範囲:P.870 - P.872

 増殖糖尿病網膜症の房水フレア値をレーザーフレアセルメーター(FC-1000®,興和)で測定した。増殖糖尿病網膜症を臨床的重症度に応じて分けると,汎網膜光凝固で網膜症が鎮静化したA群12眼,硝子体出血あるいは黄斑外牽引性網膜剥離が存在し網膜症の活動性が高いB群9眼,高度の硝子体出血あるいは黄斑牽引性網膜剥離が存在し硝子体手術予定例であるC群37眼であった。またコントロールとして正常眼12眼を用いた。各群の房水フレア値(photon couts/msec)は,A群11.6±4.9,B群16.1±4.5,C群38.6±58.8,正常群4.0±0.8であり,各群間のすべてに統計学的有意差を認めた。房水フレア値測定は糖尿病の細小血管症及び新生血管による血液眼関門の異常を捉えるために有用な検査法であり,増殖糖尿病網膜症の管理に有用であると考えられる。

老人性円板状黄斑部変性症の光凝固後に生じた網膜色素上皮裂孔の2例

著者: 宮部靖子 ,   竹田宗泰

ページ範囲:P.873 - P.876

 老人性円板状黄斑部変性症の光凝固治療後に網膜色素上皮裂孔を生じた2例を経験した。今までの報告では裂孔は網膜色素上皮剥離辺縁に生じるものがほとんどであるが,今回は漿液性網膜剥離辺縁および漿液性網膜色素上皮剥離をやや超えて発生した。本症は網膜色素上皮に強い接線方向の牽引がかかって発生するものといわれており,大きいあるいは脈絡膜新生血管を伴う網膜色素上皮剥離の強度な光凝固は避けるべきと考える。

涙腺の硬化型炎性偽腫瘍の1例特徴的なMRI所見を中心に

著者: 大島浩一 ,   岡崎博司 ,   難波恵子 ,   松尾信彦 ,   児玉州平

ページ範囲:P.877 - P.881

 62歳男性の,涙腺部硬化型炎性偽腫瘍の一例を報告した。MRIのT1強調像,T2強調像,プロトン強調像のいずれも,低信号であり,さらにGd-DTPAでまったく増強されなかった点が特徴的であった。従来は,涙腺の硬化型炎性偽腫瘍と,涙腺由来の上皮性腫瘍は,臨床的に鑑別しにくいことがあった。今後は,MRIの導入により,線維化の強い涙腺部炎性偽腫瘍と上皮性腫瘍とは,臨床的に鑑別できるようになるであろう。

Group discussion

眼窩

著者: 井上洋一

ページ範囲:P.883 - P.885

教育講演
 今回の教育講演は,千葉大学の麻薙薫先生の眼窩の外傷に関するお話であった。眼窩部の外傷は,この部の解剖学的構築の特異性から,かなり特殊な様相を呈し,その診療には,特に注意して当たらなければならないのが通常である。眼窩部の外傷は,骨折と異物あるいは裂傷が主で,講演もこれらの点について自験例を中心に述べられた。
 眼窩の骨折に関しては近その歴史的な事項からとりあげ,骨折の発生機序,臨床症状についての病態生理についての考え方の変遷を振り返った。これらの点は,現在未だ解明されたとはいい難く,従って治療方針の立て方もいろいろな考え方が通用している。すべて手術療法か,あるいは保存療法かといった極端な議論はさておいて,治療法の選択基準を一体どこにおいたらよいのであろうか? また,治癒の判定はどのようにすればよいのであろうか? これらを同じ土俵の上で討論していないのが現状で,議論がかみあわない原因ではなかろうか。手術を必要とする病態と必要としない病態があることに疑問の余地はないが,その間にある群をどのように区別してゆくかが当面の大きな課題である。演者はCTをはじめとする画像診断からこの問題を捉え,現時点で妥当と思われる基準を紹介した。さらに,どのような手術を行ったかということも,予後を云々する場合には重要である。(中村)

眼先天異常(第27回眼先天異常研究会)

著者: 馬嶋昭生

ページ範囲:P.885 - P.888

胎生裂閉鎖不全と眼形成異常
 白井正一郎,佐野雅洋,尾関年則,池田晃三,馬嶋昭生(名古屋市立大)
 妊娠7日のJcl:ICRマウス腹腔内にochratoxin Aを3mg/kg投与し,妊娠13日に母獣を屠殺し胎芽を取り出して,眼について光学顕微鏡あるいは走査電子顕微鏡で観察した。胎生裂閉鎖不全を有する眼では,小眼球,角膜形成異常,水晶体胞分離不全,硝子体形成異常などが高率に合併していた。これらの異常は,眼杯前縁部で胎生裂閉鎖障害があり,そこから間葉組織が過剰に硝子体中に侵入しているものに多く合併していた。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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