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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科45巻6号

1991年06月発行

雑誌目次

特集 第44回日本臨床眼科学会講演集(4)1990年9月 東京 学会原著

老人性円板状黄斑変性症の光凝固長期の治療成績

著者: 竹内正光 ,   高橋寛二 ,   山田佳苗 ,   大熊紘 ,   西村哲哉 ,   宇山昌延

ページ範囲:P.913 - P.917

 老人性円板状黄斑変性症に,クリプトン・レーザー,および色素レーザーを用いて脈絡膜新生血管に対する光凝固治療を行い,光凝固後1年以上経過観察を行った135例142眼の治療後長期の成績を調べた。治療効果を,視力と眼底所見を総合してみると,全体の55%に改善がみられた。今までに報告した光凝固後1年以内の成績と比べて各群に成績の低下をみ,新生血管が中心窩から200μm以内と近かった症例に新生血管の再発をみた例が多かった。本症早期の漿液性網膜剥離期の症例の改善率は70%であった。本症早期に十分な光凝固を行うと長期問経過してもよい成績が得られた。

滋賀県湖北地区における緑内障検診システムとその問題点

著者: 中村二郎 ,   横井さち代 ,   角屋博孝 ,   永田哲 ,   山形哲夫 ,   佐野幸代 ,   寺村美春

ページ範囲:P.919 - P.923

 滋賀県湖北地区において実施している緑内障検診について報告した。1987年(昭和62年)4月より1990年(平成2年)3月までに3,563人の検診を実施したが,これは伊香郡における40歳以上の人口のおよそ24%であった。
 1989年(平成元年)度では,1,633人の検診の結果,70人が要精検者となった。内43人が湖北総合病院を受診し,原発開放隅角緑内障17例,低眼圧緑内障2例,および偽落屑症候群1例を認めた。
 老人保健法による基本健康診査として実施されている眼底検査により緑内障を指摘され受診した者はなかった。この眼底検査を緑内障スクリーニングとして活用するには,乳頭陥凹など眼底異常所見に関する判定基準を明確にし記載を義務付ける必要がある。

裂孔原性硝子体出血におけるbridging vesselに対する光凝固治療

著者: 三松年久 ,   伊藤睦子 ,   吉野幸夫 ,   所敬

ページ範囲:P.925 - P.928

 裂孔原性硝子体出血の予防法として光凝固でbridging vesselを閉塞させる治療法を試みた。対象は,裂孔原性硝子体出血をきたした9例9眼である。Bridging vesselの,裂孔の前後約1乳頭径に対して,直接光凝固を2〜3週間隔で施行した。本法の原理は光凝固の瘢痕で色素上皮に近づいた血管に再度光凝固を行い,閉塞させるものである。2〜8回(平均5.0回)の光凝固により,全例でbridging vesselを閉塞,白線化することができた。網膜,脈絡膜出血などの術中合併症はなく,6〜24か月の経過観察中,硝子体出血の再発は認めていない。今回の治療結果から,本法はbridging vesselによる硝子体出血の再発防止に有用な方法と考えられた。

卵黄様黄斑変性症と思われる1例

著者: 田村恵美子 ,   高村浩 ,   鈴木一作 ,   高橋茂樹

ページ範囲:P.929 - P.931

 50歳男性で,両眼の黄斑部に卵黄様の病巣が認められた。螢光眼底造影で,卵黄様病巣は造影早期に淡い螢光を示し,造影後期にはびまん性の過螢光を示した。卵黄様病巣周囲の網膜の色調異常部位に一致して,造影早期から点状の過螢光が認められた。EOG検査ではL/D比が両眼とも低下していた。家族歴には,特記すべきことなし。本症例は成人発症の卵黄様黄斑変性症ではないかと思われた。

網膜静脈分枝閉塞症で発見された乳頭上静脈ループ形成症の1例

著者: 鈴木美都子 ,   森下清文 ,   渡辺千舟

ページ範囲:P.933 - P.935

 19歳女性の乳頭前網膜静脈ループ形成症の1例を報告した。患者は突然の霧視を訴えて来院し,眼底検査で左眼の網膜静脈分枝閉塞症(BRVO)と乳頭上血管ループ形成症が発見されたが,患者にはBRVOを発症させるような全身疾患はなかった。
 経過中にループの性状は螢光眼底にて静脈性のものであることが明らかとなった。
 動脈性ループが網膜硝子体出血の一因であることは一般に認められているが,本例では静脈性ループが網膜出血の原因となったことが疑われるため興味深い症例であると思われる。

卵黄様黄斑変性症は脈絡膜新生血管を高頻度に合併するか?

著者: 佐藤ひとみ ,   柳田泰

ページ範囲:P.937 - P.940

 卵黄様黄斑変性症の同一家系3症例を報告した。3症例全例の片眼に網膜下出血ないし脈絡膜新生血管を認めた。症例1,2は姉弟例であり,姉には6歳の初診時より網膜下出血が認められ,視力は低下していた。4歳の弟は網膜下出血は一度もなく,視力低下をきたした7年後に,蛍光眼底撮影で脈絡膜新生血管が証明された。症例3はこの姉弟の従兄弟であるが,初診時より1年半後に網膜下出血があり,視力低下をきたした。視力障害をきたした本症に蛍光眼底撮影を施行すれば,より高頻度に脈絡膜新生血管の存在を認めるものと思われた。

Nd:YAGレーザーによる硝子体切断術が有効であった糖尿病性網膜症の2症例

著者: 山本美保 ,   砂川光子 ,   栗本康夫

ページ範囲:P.941 - P.943

 増殖性糖尿病性網膜症の病状改善の目的でNd:YAGレーザーによる硝子体切断術を施行した2症例につき報告した。両症例ともに,術後1〜2年余りで,硝子体混濁は軽減した。Nd:YAGレーザーによる硝子体切断術は,晩発効果もあることを示唆した。

糖尿病患者にみられた乳頭浮腫の2例

著者: 緒方奈保子 ,   由良安紀子 ,   宮谷寿史 ,   三木耕一郎

ページ範囲:P.945 - P.947

 Diabetic papillopathyの疾患概念は比較的新しく,1980年,Appenらによって最初に報告されている。この一過性乳頭浮腫は若年型糖尿病患者に合併することが多く,報告の多くは10〜30歳の若年者である。今回,我々は,64歳女性,および40歳女性の成人糖尿病患者の右眼に一過性乳頭浮腫をみ,軽度の視機能障害をみた。しかし,視力経過良好で,約2か月後には視力回復した。中高年者にも症例がみられることがあり,この場合は前部虚血性視神経症との鑑別が問題となる。

経強膜毛様体光凝固術により一過性の完全失明をきたした1症例

著者: 花田美穂 ,   鈴木亮 ,   栗本晋二

ページ範囲:P.949 - P.951

 YAG レーザー経強膜毛様体光凝固術(TSYLC)施行中に,1.5の術前視力が1過性ながら光覚も消失し,完全失明した1例を報告した。このような症例は我々の調べた限り,報告されていない。
 症例は56歳男性。薬物およびレーザー隅角形成術に反応しない両開放隅角緑内障である。YAGレーザー(Microruptor Ⅱ,Lasag)を用い,型通り5-6 J,6shots/象限で10発凝固したとき,患者が右眼の暗黒感を訴えたため凝固術を中止し,細隙灯顕微鏡,蛍光眼底Goldmann-Weekers暗順応計,自動視野計などを用いて精査した。眼底は透見されるのに蛍光眼底検査で網膜血管のみならず視神経乳頭も観察されなかった。写真では辛うじて乳頭が漠然と写る程度であった。前房中には大小多数の細胞が浮遊しており,硝子体に著しい混濁がみられた。視神経および網膜に検眼鏡的な異常は認められなかった。ステロイドの全身投与と星状神経節ブロックで9日目に視力が0.9まで回復した。しかしGoldmann-Weekers暗順応計では健眼に比べ,異常が1か月以上検出された。
 TSYLCは,毛様体冷凍凝固術よりも手技が簡便で手術時間が少ない。しかしながら,TSYLCは十二分に症例を選んで行うべきである。

向精神薬によると思われる緑内障悪化症例

著者: 山田耕士 ,   東督也

ページ範囲:P.953 - P.955

 76歳女性で,向精神薬の服用によると思われる緑内障悪化症例を報告した。両眼とも狭隅角を呈していたが来院が途切れ,その後躁欝病のため精神科病院への入院期間があった。入院中緑内障発作が生じ,近医で加療を受けるも,当科再診時には右眼は既に失明に至っていた。その間抗コリン作用を有する向精神薬の服用が認められ,薬剤による散瞳効果および毛様筋への影響による房水流出障害により眼圧上昇をきたしたものと考えられた。精神科疾患患者においては訴えが的確に把握され難く,また緑内障を悪化させる薬剤の投与が予想されるため,緑内障とりわけ狭隅角を呈する場合は,レーザー虹彩切開を含めより積極的な治療が必要と思われた。

眼内異物によってひき起こされた続発緑内障の1例

著者: 土屋美津保 ,   柳田隆 ,   高比良雅之 ,   片口尚志 ,   和田雅子

ページ範囲:P.956 - P.957

 2年間放置されていた眼内鉄片異物によりひき起こされた続発緑内障の1例を報告した。
 症例は39歳,男性。初診時視力は右1.5,左H.B.。眼圧は右16mmHg,左72mmHg。異物は左眼網膜に接して存在し,被膜に覆われていた。左隅角は開放隅角であった。Electroretinogram(ERG)のa波,b波,律動様小波(OP)は減弱していた。左眼硝子体切除術,硝子体マグネットを用いた眼内異物摘出,およびトラベクレクトミーを施行した。摘出した異物は重量0.5mg,微量分析によりマルテンサイト系ステンレスと推察された。
 本症ERGのa波,b波,OPは減弱しているものの消失型ではなかったのは,①異物が腐食されにくいステンレスであったこと,②異物が被膜に覆われていたことによると思われた。

自己角膜回転移植の1例

著者: 白鳥敦 ,   今井済夫

ページ範囲:P.958 - P.959

 角膜中央部に限局する混濁に対し自己角膜回転移植を行い,良好な結果を得た。症例は61歳の男性で角膜鉄片異物除去後の視力低下を主訴に当科を受診した。手術は,7.5mmトレパンを使用し,正円回転移植した。術後経過は良好で,矯正視力は術前の0.3から術後0.8に改善した。自己角膜移植は拒絶反応を起こさず,高い透明治癒率が期待できる。また,角膜の提供を必要としないため待たずに手術できるという利点もあり,角膜移植の施行を考慮する時,自己角膜移植の可能性を検討することが望まれる。

全層角膜移植術後シクロスポリン使用中に拒絶反応を呈した1症例

著者: 征矢耕一 ,   宮田和典 ,   村尾元成 ,   澤充

ページ範囲:P.961 - P.963

 先天性遺伝性角膜内皮変性症の23歳女性に対し,右眼2回言(両眼延べ4回目)の全層角膜移植術を施行した。術翌日よりシクロスポリンを5mg/kgで内服治療を行った,術後1週に内服量を3mg/kgに減量し,その3週後の血中シクロスポリン濃度は免疫抑制有効範囲にあると考えられる250ng/mlであったが,その1週後に拒絶反応を生じ,角膜内皮機能不全状態となった。シクロスポリン内服による全層角膜移植術後の拒絶反応抑制効果については,過去の使用例での臨床経過の検討および症例の蓄積によって,その使用法,特に有効血中濃度の設定を中心に,さらに検討を行う必要があると考えられた。

Wegener's granulomatosisの1症例

著者: 三浦昌生 ,   和田優子 ,   上田彩子

ページ範囲:P.965 - P.968

 胸部病変と腎病変を有し,強角膜潰瘍を発症した44歳男性のWegener's granulomatosisを経験した。眼科的な初発症状は,結膜炎,上強膜炎,角膜炎,ぶどう膜炎で,やがて強角膜潰瘍に進行した。この症例に対し,開胸生検を行い,病理組織学的診断を得た後に,cyclophosphamideの全身投与を行い,劇的な症状の改善を認めた。

新潟大学眼感染症クリニックでの10年間の検出菌

著者: 宮尾益也 ,   本山まり子 ,   坂上富士男 ,   田沢博 ,   大石正夫

ページ範囲:P.969 - P.973

 1980年から1989年に新潟人学眼感染症クリニックを受診した患者を対象として,菌の検出,薬剤感受性検査を行った。
 1.3,648株が検出され,Gram陽性球菌が55.4%,Gram陰性桿菌が18.1%であった。S.epidermidisが最も多く検出され,Gram陽性球菌の61.6%を占めた。Gram陰性桿菌ではP.aer-uginosaを除く非発酵菌が57.6%と最多であった。
 2.薬剤耐性において,S.epidermidisではPCG,MCIPCで,S.aureusではPCG,ABPC,MCIPC,CEZ,EM,CLDMで増加傾向を示した。1989年ではP.aeruginosaでIPM,AMK,OFLXに,H.influenzaeでIPM,AMK,MINO,OFLXに,非発酵菌でMINO, OFLXにおいて耐性株を認めなかった。

網膜静脈閉塞症に合併した胞状な網膜剥離の3例

著者: 岡本庄之助 ,   横井則彦 ,   照林宏文 ,   前田耕志 ,   赤木好男

ページ範囲:P.975 - P.978

 網膜静脈分枝閉塞症および,網膜中心静脈閉塞症の経過観察中に続発した胞状な形態をとる非裂孔原性網膜剥離を3例経験した。今回経験した症例はいずれも静脈閉塞の発症後,陳旧期に網膜剥離が出現し,その後自然復位を得た。網膜静脈閉塞症の合併症としての非裂孔原性網膜剥離の報告例は少なく,しかも扁平な漿液性網膜剥離が主であり,胞状な剥離を呈するものは少ない。Schatzらは非裂孔原性網膜剥離の発生機序として網膜実質内での処理能力を超えた網膜閉塞血管からの高度漏出による網膜下への貯留を挙げている。今回の症例に関しても典型的螢光眼底所見は認められなかったが,血管閉塞による漏出性変化が関与していると考えられた。

変視症を訴える白内障患者に対する白内障と硝子体の同時手術

著者: 筑田真 ,   宮倉幹夫 ,   田中寧 ,   小原喜隆

ページ範囲:P.979 - P.981

 両眼の老人性白内障と左眼の黄斑部網膜上膜形成による視力低下および変視症を訴える症例に対して,右眼に白内障手術,左眼に白内障手術と同時に硝子体手術を施行した。左眼白内障は硝子体手術が可能な程度の後嚢混濁であったが,黄斑機能の改善を言的に早期に網膜増殖膜の除去と白内障手術を行った。その結果,網膜機能の回復は順調で,視力は改善し,変視症も消失した。また,両眼視機能も良好となった。高齢者の増加に伴って白内障と黄斑病変を有する症例に遭遇することが多くなる。黄斑上膜の手術予後は良好なことから,白内障との同時手術は視機能の回復のために試みる方法と考える。

硝子体切除術および眼内光凝固術を施行した眼トキソプラズマ症の1例

著者: 尾花明 ,   徳山孝展 ,   井上一紀 ,   三木徳彦 ,   中川美那子

ページ範囲:P.983 - P.986

 眼トキソプラズマ症における網膜新生血管発生は稀だが,我々は内服治療にもかかわらず,網膜および乳頭新生血管,硝子体出血を生じた44歳男性の症例に対し,硝子体切除術,レーザー光凝固術を施行し,新生血管消退と病巣の鎮静化を得た。本例の新生血管発生機序に関しては,網膜血管炎に伴う毛細血管床閉塞以外に,眼内の強い炎症による影響も推測された。

肢端紅痛症に低体温を伴う白内障の手術例

著者: 増山益枝 ,   西尾賢昭 ,   水戸部茂彦 ,   高橋信夫

ページ範囲:P.987 - P.989

 肢端紅痛症は,皮膚温の上昇に伴う四肢末端部の発作性の激痛と潮紅を伴うまれな疾患である。今回,この肢端紅痛症に低体温を伴った症例に,白内障手術を施行した。
 症例は18歳の男性で,両眼の霧視を主訴に当科を受診。患者は8歳の頃に下肢の熱感を認め,肢端紅痛症にて治療を続けており,9歳の頃にはステロイド投与を受けている。10歳の時,突然意識低下と低体温のために精査を受けたが原因は不明であった。初診時,視力右0.45(n.c.),左1.0(n.c.),両眼水晶体後嚢下に混濁を認めた。その後,徐々に霧視が増強し,視力も低下したため,右眼に対し白内障手術を施行した。白内障の原因は不明であるが,ステロイド白内障が最も疑われた。

蚕食性角膜潰瘍の病理組織学的所見

著者: 小澤啓子 ,   中村みゆき ,   山下晃 ,   山形忍 ,   河本道次 ,   川村貞夫

ページ範囲:P.990 - P.993

 80歳,男性の両眼性の蚕食性角膜潰瘍の1症例を報告した。両眼の疼痛で,当科受診し,両角膜辺縁部にほぼ全周にわたる潰瘍を認めた。急性肺炎のため入院後まもなく死亡した。強膜を含めた角膜を摘出し,HE染色およびPAP法にて光顕的に検索したところ典型的な蚕食性角膜潰瘍の所見を呈し,炎症は上皮,実質,一部内皮に及び,炎症細胞はリンパ球,形質細胞および,マクロファージがみられた。PAP法ではIgG>IgA細胞が多く,免疫グロブリンの上皮下,特にボーマン膜への沈着もみられ,自己免疫の関与が示唆された。

網膜格子様変性による網膜剥離の年少症例3例

著者: 田中住美 ,   出田秀尚 ,   森田博之 ,   伊藤久太朗 ,   米本淳一 ,   佐々木究

ページ範囲:P.994 - P.996

 網膜格子様変性による小児の網膜剥離の3症例を経験した。症例1は4歳男で両眼ともに強度近視眼であった。網膜剥離眼はPVRD2のため原因病巣は不明であるが,僚眼に完成された網膜格子様変性を認めたため,網膜格子様変性が原因病巣と推定した。症例2,3は5歳男で両眼ともに中等度近視眼であり,網膜剥離眼は明らかな網膜格子様変性を伴った。僚眼には網膜円孔・限局した網膜剥離を伴う完成された網膜格子様変性を認めた。これらの3症例は我々の知る限りでは網膜格子様変性による網膜剥離の最年少症例である。網膜格子様変性は4〜5歳において既に完成された形態を取り得,またこの時期から網膜剥離の原因病巣として注意する必要性があると考えた。

急性網膜壊死の硝子体手術時期に関する検討

著者: 小沢佳良子 ,   有馬一城 ,   中川正昭 ,   二宮久子 ,   小林康彦 ,   稲垣有司 ,   土屋櫻 ,   田中稔 ,   大越貴志子 ,   山口達夫 ,   神吉和男

ページ範囲:P.997 - P.999

 片眼の急性網膜壊死の手術を2例経験した。第1例52歳女子は進行例で,高度なPVRによる網膜全剥離,硝子体出血のために硝子体手術などにても治癒しなかった。第2例17歳男子は多発性の網膜裂孔による網膜剥離が認められた直後に行った硝子体手術,輪状締結,液ガス交換,意図的裂孔からの下液の排除および十分な眼内光凝固で治癒できた。本症は網膜剥離,および網膜裂孔が生じた場合,早急に硝子体手術などを行うことが重要であると思われた。

Stevens-Johnson症候群に対する初期局所ステロイド治療の効果

著者: 戸塚清一

ページ範囲:P.1001 - P.1005

 45歳男性の片眼白内障手術後に,Stevens-Johnson症候群が発症した。手術眼には発症前からベタメタゾンの点眼が行われていた。1年半の経過中,瞼球癒着の程度,パンヌスや混濁,瘢痕形成,潰瘍などの角膜病変,視力のすべてについて,手術眼の方が非手術眼よりも良好であり,ステロイド点眼が有効であったと評価された。本症では,メタゾラミド内服中に本症候群が発症し,これが誘因である可能性が推定された。

高度の脈絡膜剥離を合併し硝子体手術を要した白内障手術後全眼球炎の症例

著者: 中川正昭 ,   有馬一城 ,   小沢佳良子 ,   二宮久子 ,   小林康彦 ,   稲垣有司 ,   土屋櫻 ,   田中稔

ページ範囲:P.1006 - P.1007

 白内障手術後に全眼球炎に至るまでの感染症を併発することは,現在かなり稀ではあるが,術中および術後の不注意やいわゆるCompromis—ed hostにおける感染は重症で時には失明に至ることもある。
 今回我々は,糖尿病および食道静脈瘤を有する症例に水晶体嚢外摘出術を施行し,術後重篤な全眼球炎を発症し,幸い硝子体手術で治癒せしめることができた症例を経験したので報告する。

Optic nerve pitによる黄斑部網膜剥離に対する硝子体手術例

著者: 森田博之 ,   出田秀尚 ,   伊藤久太朗 ,   米本淳一 ,   佐々木究 ,   田中住美

ページ範囲:P.1009 - P.1012

 Optic nerve pitに伴う黄斑部網膜剥離3例に対し,硝子体切除と眼内空気タンポナーデを施行した。2例は光凝固無効例で,1例は初回治療例であった。3例とも術前検査では後部硝子体剥離はなかった。水晶体後面から乳頭上まで硝子体を切除していくと,乳頭から黄斑部にかけて硝子体剥離が生じた。周辺部まで可能な限り硝子体を切除し,液空気置換を行った。術後は1週間程度腹臥位をとらせた。3例とも網膜剥離は消失した。本症の発症機序に硝子体による黄斑部網膜の牽引が考えられ,硝子体手術でそれを解除したために復位したと考えられた。

Continuous circular capsulorhexisによる完全嚢内固定後の眼内レンズ偏位

著者: 小林定男 ,   山崎啓祐 ,   立花晴子 ,   清川達矢 ,   鳥羽幸雄 ,   田上勇作

ページ範囲:P.1013 - P.1015

 Continuous circular capsulorhexis (C.C.C.)を用いて完全嚢内固定とされていた後房レンズ(PCL)が,術後次第に偏位をきたした2症例を経験した。より大きく残った前嚢側へ偏位しており,従来の一般的な偏位の方向とは反対側であった。
 その機序として,前後嚢の癒着に伴って光学部縁の一部がまず露出することが重要であり,前嚢縁—光学部—後嚢の3者が接することによりレンズが偏位していくものと推測された。
 この偏位を予防するためには,術後長期にわたって光学部が前嚢に覆われていることが重要で,C.C.C.の習熟,C.C.C.直径の縮小,large opticsレンズやPMMA支持部レンズの採用が有効であると示唆された。

マイボーム腺分泌物の塗抹細胞診

著者: 宮下公男

ページ範囲:P.1017 - P.1019

 眼球表面の維持にはマイボーム腺由来の脂質は不可欠である。筆者はマイボーム腺分泌物(meibum)に混濁などの異常を認めた18例18眼を対象としてmeibumの塗抹標本を作成し,ヘマトキシリン・エオジン染色を施行し鏡検した。対照は正常者5例5眼であった。対照では少数の角化細胞のみを認めたのに対し,meibumに異常の認められた例では多数の角化細胞を認めたもの2眼,非角化上皮細胞の認められたもの12眼,好中球やリンパ球の認められたもの4眼であった。これらより,異常meibumの出現には,炎症と管腔上皮の増殖の異常を伴う角質増殖が関与していることが示唆された。

乏毛症を伴った黄斑部変性症の1症例

著者: 中村淳夫 ,   早川むつ子 ,   堀田喜裕 ,   藤木慶子 ,   金井淳 ,   築島謙次

ページ範囲:P.1021 - P.1024

 頭髪,眉毛,睫毛の限局性乏毛症と,後極部網膜に色素斑が出現する黄斑部変性症を合併する13歳男児例について報告した。歯科医より軽度のエナメル質低形成も指摘されている。矯正視力は右0.3,左0.2。螢光眼底造影検査で色素上皮の異常を示すwindow defect phenomenonが認められる。EOGはsubnomalで,single flash,rod,photopic(cone) ERGはともに正常である。色覚は右眼正常,左眼が軽度に異常である。夜盲の自覚はない。眼底異常に関する検査所見は錐体ジストロフィーの特徴と異なっており,種々の議論はあるものの,現時点では中心性網膜色素変性症の概念に包括される異常と考えられる。両親の血族結婚はなく,他に家系内異常者のいない孤発例である。

ヒト白内障水晶体上皮の細胞動態.顕微蛍光測光法による上皮細胞核DNAの定量

著者: 石田美幸 ,   池部均 ,   照林宏文 ,   赤木好男 ,   糸井素一 ,   高松哲郎

ページ範囲:P.1025 - P.1028

 顕微蛍光測光法を用いて,ヒト白内障水晶体の前極部上皮細胞核DNA定量を行い,そのDNA合成能と種々の白内障におけるDNA分布パターンの差異につき調べた。一般的に,前極部上皮は,多数の2倍体細胞と若干の4倍体細胞からなるDNA分布パターンを示した。前嚢下白内障においてのみ,異常細胞増殖を示す多倍体細胞とmicronucleiを有する細胞が著明に認められた。これらより,前極部水晶体上皮細胞はDNA合成をしうる細胞であり,そのDNA合成能や細胞分裂能の異常が前嚢下白内障の発生に関係することが示唆された。水晶体混濁には,上皮の関与があるものとないものの2種があると考えた。

寝たきり痴呆患者の眼

著者: 二井宏紀 ,   木内良明 ,   三嶋弘

ページ範囲:P.1029 - P.1032

 寝たきり痴呆患者88人に,ベッド上で可能な範囲の眼科的検査を行い,その問題点を検討した。
 約半数に外・前眼部疾患があり,そのほとんどに眼脂があった。痴呆のため眼部の清潔が保てないことと,寝たきりのため瞬目回数が減少し,涙液が涙道にうっ滞することが眼脂の原因と思われた。
 痴呆患者は自発的に症状を訴えることができず,医療の対象から除外されがちであるが,高齢化社会を迎えた現在,寝たきり痴呆患者に対して積極的な眼科治療の取り組みが必要である。

連載 眼の組織・病理アトラス・56

眼内レンズ

著者: 石橋達朗 ,   猪俣孟

ページ範囲:P.898 - P.899

 眼内レンズ(IOL)移植術の普及は目覚ましい。水晶体嚢外摘出後に粘弾性物質を使用し,後房レンズを水晶体嚢内に挿入する術式が現在もっとも安全な方法であるといわれている。多く使用されている後房レンズは,光学部がpolymethylmeth-acrylate(PMMA),支持部がpolypropylene(PP)からなる。PMMAも,PPも,ともに生体にとっては異物であり,IOLに対する反応が起こる。その主なものはIOL表面における細胞やフィブリンの付着である。
 1)細胞反応
 細胞反応とはレンズ移植後に起こるIOL表面への細胞の付着である。臨床的にはスリットランプやスペキュラーマイクロスコープで観察することができる(図1)。組織学的にみると,IOL移植後1日以内にIOL表面にみられる細胞は小型で円形を呈し,主に好中球とマクロファージである。IOL表面の細胞数は移植後3〜4日目がもっとも多く,マクロファージが目立つ(図2,3)。1週間後ではマクロファージと多核巨細胞が主体を占める。多核巨細胞はマクロファージが融合して形成され,数個から十数個の核を有し,IOL表面に広がる(図4)。2週間後ではマクロファージはほとんどみられなくなり,大型の多核巨細胞が言立つ。その後,時間の経過とともに多核巨細胞の数も減少する。

眼科図譜・299

成人T細胞白血病ウイルスキャリアに発症したLeber's idiopathic stellate neuroretinitisの1例

著者: 八田史郎 ,   舩田雅之 ,   山崎厚志 ,   岡本勲夫 ,   長田正夫 ,   玉井嗣彦 ,   杉森宏之

ページ範囲:P.902 - P.903

 緒言 Leber1)は1916年に,片眼性に,乳頭浮腫と黄斑部星芒状白斑が出現し視力低下をきたすものの,自然治癒するという特徴をもつ原因不明の星芒状網膜症を報告した。近年,このような疾患は臨床所見と病態が整理され,その病名は次々と変遷し,Leber's idiopathic stellate neuroretinitisと呼称されている2)。本症の発症要因としては,ウイルスや細菌感染の関与が示唆されながらも,それらを証明したという報告は少ない3)。今回,両眼に本症と同様の臨床所見,経過を呈した症例を経験し,病因検索の結果,成人T細胞白血病(ATL)ウイルスが本症の発症に関与した可能性が示唆されたので報告する。
 症例 42歳,女性。初診は1989年8月10日。主訴は両眼の霧視と視力低下。

今月の話題

後部硝子体皮質前ポケット

著者: 岸章治

ページ範囲:P.904 - P.911

 この硝子体の特異な構造は検眼鏡的には見えないが,硝子体の収縮,牽引,剥離,新生組織の増殖といった病的状態で,種々の網膜硝子体界面病変の形成に重要な役割を演じる。

眼科薬物療法のポイント—私の処方・30

急性涙嚢炎

著者: 大石正夫

ページ範囲:P.1037 - P.1038

 48歳,女性,数か月前より流涙があり鼻涙管狭窄と診断されていた。今回は数日前から眼脂分泌,流涙と左内眼角部に痛みを伴って,同部皮膚の発赤,腫脹がはじまり,次第に増強してきた。自発痛がつよく,37.6℃の発熱も加わり当科を受診した。
 主訴:左眼痛,内眼角部下方皮膚の高度の発赤,腫脹

眼科手術のテクニック—私はこうしている・30

緑内障眼の白内障手術.2—Trabeculotomy+ECCE+IOL移植

著者: 阿部春樹

ページ範囲:P.1039 - P.1041

I.Glaucoma triple procedureについて
 緑内障手術+ECCE+IOL移植手術,すなわち緑内障と白内障の同時手術の際に後房レンズを移植するいわゆるglaucoma triple procedureには,その緑内障手術としてtrabeculectomy,trabeculotomy,cyclodialysis,sclerotomy,goniosynechiolysisなどの報告があるが,trabe-culectomy1,2)かtrabeculotomy3,4)が行われるのが一般的でいずれも良好な成績が報告されている。著者は緑内障眼の白内障手術その1でtrabecu-lectomy+ECCE+IOL移植の手術手技の実際とその要点について述べたが,ここではtrabeculotomy+ECCE+IOL移植の手術手技とその要点について述べる.

臨床報告

傾斜乳頭症候群にみられた網膜下新生血管

著者: 塚原康友 ,   中橋康治 ,   今泉正徳 ,   大久保潔

ページ範囲:P.1042 - P.1046

 傾斜乳頭症候群に網膜下新生血管を合併した8症例を報告した。いずれの症例も新生血管は,後部ブドウ腫様に後方に拡張した眼底の上縁で中心窩近傍に発生していた。本症候群におけるこの部位は発生学的な脆弱性と高度な変形のためBruch膜の破綻,循環障害等を来し,網膜下新生血管が発生しやすいと考えられた。本症候群に伴う網膜下新生血管はこのような構造上の特殊性から発生し,臨床的にも極めて似通った所見を呈するため,網膜下新生血管を来す疾患のひとつとして独立させて考えて良いと思われた。また,本症候群の経過観察のうえで網膜下新生血管の発症を念頭に置く必要があると考えられた。

常染色体劣性遺伝が示唆されるWagner様網膜硝子体変性症

著者: 中塚和夫 ,   後藤正雄 ,   蔭山誠 ,   前尾直子 ,   矢野良雄

ページ範囲:P.1047 - P.1053

 Wagner病(別名,Wagner遺伝性網膜硝子体変性症)の疾患概念が,この半世紀間,変遷してきたことを紹介した。
 今回,全身異常を伴わず,眼病変がWagner病そのものであるも,常染色体劣性遺伝が示唆された症例を報告する。症例は41歳の男性で,両眼とも水晶体は軽度後嚢下混濁し,硝子体は液化,後部硝子体剥離を呈していた。眼底赤道部には,網膜と付着する硝子体の半透明な索がほぼ全周にあり網膜境界線を示した。その周辺部には黒色色素の帯がドーナツ状に認められた。網膜境界線の周辺側は,蛍光眼底造影で高度な網脈絡膜萎縮が,同時に硝子体蛍光濃度測定にて血液網膜柵の機能障害が観察された。
 症例は両親が近親婚であった。検査した3人の男子は異常なく,また聞きえた限り他に眼疾者はいなかった。

内頸動脈閉塞に伴う血管新生緑内障.虹彩ルベオーシスの発生機序と治療方針

著者: 梶浦祐子 ,   藤沢久美子 ,   井上正則

ページ範囲:P.1055 - P.1058

 我々は内頸動脈閉塞症に伴う新生血管緑内障の3例を経験した。これらの症例は網膜所見に比して前眼部所見は高度であり,網膜冷凍凝固術,汎網膜光凝固術を施行したが無効であった。このことより内頸動脈閉塞症に伴う虹彩ルベオーシスの発生には網膜の虚血のみでなく,前眼部の虚血性変化も大きく影響していると考えられた。内頸動脈閉塞による虚血性眼症は,治療の困難な疾患である。したがって早期診断,早期治療が最も重要である。

後房レンズ挿入術後の後期発症型フィブリン形成と関与因子

著者: 馬嶋清如 ,   初田高明

ページ範囲:P.1059 - P.1062

水晶体嚢外摘出術および後房レンズ挿入術を行った102例,102眼と糖尿病症例の52例,62眼を対象として,術後にみられる後期発症型フィブリン形成の有無と11の因子との関連性について検討した。この結果,糖尿病症例でインスリン治療を行っているもの,Hemoglobin A1cの値が9.0以上のもの,糖尿病で高血圧を伴っている症例,の3つの因子がフィブリン形成に大きく関与していた。これら3因子を有する症例はフィブリンの出現頻度が高いため,注意が必要であると考えられた

小瞳孔眼への眼内レンズ移植術

著者: 吉田宗徳 ,   足立和己 ,   三木正毅

ページ範囲:P.1063 - P.1066

 虹彩後癒着を伴う小瞳孔の白内障眼11眼に,虹彩全幅切開と再縫合を含む計面的嚢外白内障手術および眼内レンズ移植術を行った。重篤な術中術後の併発症はなく,視力予後は良好であった。症例の大多数は,虹彩切開術などの処置後の特発性閉塞隅角緑内障眼であったが,術前よりも眼圧コントロールが容易となった。術前後の隅角所見などからその理由は,前方移動した水晶体による虹彩根部の圧迫と,不完全に残存する瞳孔ブロックが解除されたためと推測した。これらの症例に対する眼内レンズ手術は比較的容易で,重篤な併発症も少なく,視力の改善効果と緑内障治療を目的として積極的に試みてよい。

眼内レンズの偏心が静的視野へ及ぼす影響

著者: 湖崎淳 ,   竹内正光 ,   西川睦彦 ,   緒方奈保子 ,   山岸和矢 ,   三木弘彦 ,   高橋文男

ページ範囲:P.1067 - P.1070

 眼内レンズの偏心が視野にどのように影響するかを検討した。緑内障,角膜疾患,眼底疾患のない偽水晶体眼で,矯正視力が0.5以上の4例を対象とし,ハンフリー自動視野計で中心視野30°を測定した。眼内レンズの偏心が著明な症例では,周辺視野に感度の低下があり,瞳孔領にpositioning holeやレンズ辺縁の露出していた症例では,全域に感度の低下がみられた。原因として,グレアーの他に偏心による非点収差や湾曲収差などが考えられた。眼内レンズの挿入された緑内障眼の静的視野の評価には,レンズの偏心による視野の障害に注意を要する。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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