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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科45巻8号

1991年08月発行

雑誌目次

特集 第44回日本臨床眼科学会講演集(6)1990年9月 東京 学会原著

防腐剤無添加,disposableの人工涙液の涙液分泌減少症に対する効果

著者: 佐藤直樹 ,   山田昌和 ,   濱野孝 ,   坪田一男

ページ範囲:P.1327 - P.1330

 防腐剤無添加,disposable,粘性剤含有の特徴を有する人工涙液(SDM:千寿製薬)を涙液分泌減少症患者36名72眼に使用し,前後のローズベンガルおよびフルオレセインによる生体染色所見,BUT (涙液破綻時間),シルマー値および綿糸法の値を比較した。また9例18眼において,SDM使用時と従来の人工涙液使用時のローズベンガルおよびフルオレセインによる生体染色所見を比較した。結果は,SDM使用前後で生体染色所見は有意に改善したが,BUT,シルマー値および綿糸法の値には有意な変化はなかった。従来の人工涙液との比較ではSDM使用時のほうが有意に生体染色所見が良好であった。SDMは涙液分泌減少症の治療に有用であった。

網膜色素変性症の前房フレアとセル値,視野変化,白内障との相関

著者: 松井美貴 ,   臼井正彦 ,   原沢佳代子 ,   佐藤和子 ,   十蔵寺寿子 ,   岩崎琢也

ページ範囲:P.1331 - P.1333

 網膜色素変性症,24例48眼を対象として,レーザーフレアセルメーターを用いて前房フレア強度およびセル値を測定し,視野と白内障との関連を比較検討した。その結果,本症における視野の進行程度と前房フレア強度との間に相関があり,また前極白内障を合併する症例では,白内障を合併しない症例に比べ前房フレア強度が有意に上昇していた。本疾患の病期判定には,レーザーフレアセル測定は侵襲が少なく有用な方法と思われた。

水疱性角膜症における全層角膜移植術の予後と角膜内皮細胞の解析

著者: 井上真 ,   島崎潤 ,   村田博之 ,   真島行彦

ページ範囲:P.1335 - P.1338

 水疱性角膜症に対して全層角膜移植術を施行した22例23眼につき,視力予後,移植片透明率,拒絶反応の有無およびスペキュラーマイクロスコピーによる角膜内皮細胞の解析を行った。
 術後2年で70%が術前と比して2段階以上の視力向上を得ており,視力予後は良好と考えられた。移植片透明率は術後1年で91%,2年で77%,3年で67%,4年で50%であった。術後合併症のない例での角膜内皮細胞の減少率は,術後1年で17%,2年で33%,3年で66%であった。術後は拒絶反応や緑内障を高率に発生し,これらの管理が予後を大きく左右すると考えられた。

脈絡膜骨腫の長期経過と中心性脈絡膜萎縮症との関連

著者: 岡本剛 ,   若林謙二 ,   瀬川要司 ,   小又美樹 ,   河崎一夫

ページ範囲:P.1339 - P.1341

 脈絡膜骨腫の3例を最高9年間にわたり長期間経過観察し,以下の知見を得た。①本症の経過と予後は一定ではなく,かなりのばらつきがある。②本症は眼底後極部に限局した網脈絡膜萎縮巣を呈しうる疾患である。③眼底後極部に網脈絡膜萎縮巣を呈した場合には,脈絡膜ジストロフィーや近視性網脈絡膜萎縮などの中心性脈絡膜萎縮症と鑑別する必要があり,鑑別には超音波検査やCTが有効と思われた。④decalcificationのため腫瘍が消失する可能性がある。

長崎県島原地方の網膜芽細胞腫の発生頻度と全国調査との比較

著者: 高野潤之輔 ,   今村直樹 ,   佐久間正喜 ,   秋山和人 ,   雨宮次生

ページ範囲:P.1343 - P.1345

 過去22年間の調査で,長崎県での網膜細胞芽腫の発症頻度は,両眼性では49,564人の出生に1例,片眼性では16,035人の出生に1例であった。これに対し,島原地方では,10,330人の出生に1例と高率であった。島原地方の史実から,関係の深い兵庫県丹波と但馬地方での発症率を調査した。丹波では10,570対1,但馬では10,410対1であり,3地方で発症率は酷似していた。

転移性脈絡膜腫瘍53例の検討

著者: 矢野真知子 ,   小田逸夫 ,   田渕祥子

ページ範囲:P.1347 - P.1350

 1969年から1989年まで癌研究会附属病院で臨床的に脈絡膜への転移性腫瘍と診断された53症例を検討した。1979年以前の11年間に20例,1980年以降の10年間に33例があり,症例数は増加していた。眼科を受診した癌患者数に占める脈絡膜転移の割合には変化がなく,症例数の増加は癌患者数の増加によるものであった。原発癌は乳癌34例,肺癌7例,消化管癌7例,そのほかの癌4例,不明1例で乳癌の症例数が多く,癌患者に占める脈絡膜転移の割合も高かった。1979年以前と1980年以降で原発癌に差はなかった。原発癌の診断から脈絡膜転移までの期間は肺癌では1年未満であるのに対し,乳癌では1年以上が多かった。転移後の生存期間は乳癌で長期化していた。

螢光眼底像の画像処理.おもにドルーゼンについて

著者: 萩田勝彦 ,   松井瑞夫

ページ範囲:P.1351 - P.1354

 加齢黄斑変性症症例69例の螢光眼底像の画像強調を行い,特にドルーゼンについて検討し,以下のような結論を得た。①硬性ドルーゼンは,著明に強調され,オリジナル像で不鮮明なものも明瞭に描出された。②ごく小型の硬性ドルーゼンと思われる点状螢光や顆粒状の螢光が広い範囲にみられ,広範囲の網膜色素上皮の障害が示唆される症例があった。③大型の軟性ドルーゼンの内部に点状螢光が混在している例があった。④大型の軟性ドルーゼンで,不規則な形で濃淡のある過螢光を示す例があり,ドルーゼンの退縮,融解の始まりの所見ではないかと考えられた。螢光眼底像の画像処理は,ドルーゼンの臨床分類を考えるうえで有用であると考えられた。

ビデオ赤外螢光眼底造影法の臨床応用.老人性円板状黄斑変性症

著者: 川村昭之 ,   湯沢美都子 ,   正田美穂 ,   松井瑞夫

ページ範囲:P.1355 - P.1359

 老人性円板状黄斑変性症が疑われた56症例63眼に対し,ビデオ赤外螢光眼底造影(IA)と螢光眼底造影(FA)を行い,比較検討し,以下の結果を得た。
 脈絡膜新生血管の部位の検出率はFA 57%,IA68%であった。特に,IAは,高度な網膜下出血,色素上皮剥離を伴った症例の脈絡膜新生血管の部位の検出に有用であることが確認できた。
 FAで脈絡膜新生血管網が明瞭に認められた場合でも,IAで脈絡膜新生血管が確認できない場合や,脈絡膜新生血管の一部分しか造影されていない場合があった。
 以上の結果から現段階では,まず,FAを行い,脈絡膜新生血管の検出できない症例,特に,高度な網膜下出血,色素上皮剥離を伴った症例にはIAを行う必要があると考えた。

網膜静脈閉塞症に対する高気圧酸素療法

著者: 白石実 ,   松尾芳香 ,   森由貴子 ,   八田史郎 ,   井上真知子 ,   中西祥治 ,   長田正夫 ,   玉井嗣彦 ,   高木茂 ,   富永晄子 ,   富長瑞穂

ページ範囲:P.1361 - P.1364

 高気圧酸素療法(OHP)の網膜静脈閉塞症に対する有効性を,非施行群と比較検討した。視力改善例はOHP施行群18眼中9眼(改善率50%),非施行群は18眼中3眼(改善率17%),黄斑浮腫改善例はOHP施行群16眼中13眼(改善率81%),非施行群は13眼中4眼(改善率31%)で,視力改善,黄斑浮腫改善ともに両群間に有意差(p<0.05,p<0.01)を認めた。また黄斑浮腫陽性例中視力改善例はOHP施行群で16眼中13眼(改善率81%),非施行群では13眼中4眼(改善率31%)で,両群間に有意差(p<0.01)を認めた。視力改善は,黄斑浮腫改善例に多く認められる傾向にあった。これよりOHPは本症に対して有効な治療法と考えられた。

高圧酸素療法にて著明な視力改善が得られた症例についての検討

著者: 佐藤恵美子 ,   木下専 ,   大竹弘子 ,   安淵幸雄

ページ範囲:P.1365 - P.1367

 過去42か月の期間に高圧酸素療法を行った各種の眼底疾患120例151眼のうち,8例9眼で視力が治療前の0.5以下から1.0以上に改善した8例9眼を検討した。内訳は,網膜分枝閉塞症,うっ血性網膜中心静脈閉塞症,中心性漿液性網脈絡膜症,糖尿病性網膜症各2眼と網膜血管腫1眼である。このうち5例6眼には治療開始前に光凝固が行われていた。全例で治療の時点では,黄斑浮腫ないし中心窩への螢光漏出はほとんどなかった。視力が1.0以上に達するまでに,14回から25回の高圧酸素療法が行われた。治療の全経過を通じて検眼鏡的に大きな変化はなく,螢光造影所見も治療前と同様であった。

アセタゾラマイドによる黄斑浮腫の治療

著者: 楠部亨 ,   坪井俊児 ,   井上新 ,   小島伸介 ,   辻岡雅典 ,   松本長太

ページ範囲:P.1369 - P.1373

 アセタゾラマイドには血液網膜柵における外向きの水輸送を促進する作用があり,これが臨床的に黄斑浮腫の改善作用を有するかどうかについて検討した。対象は黄斑浮腫の存在する,糖尿病性網膜症,ぶどう膜炎,網膜静脈閉塞性,網膜色素変性症,白内障術後の類嚢胞性黄斑浮腫(CME)の計28例45眼である。アセタゾラマイドを500mg連日経口投与し,投与後の矯正視力が2段階以上改善したものを有効と判定した。有効例は,ぶどう膜炎で2例,網膜静脈閉塞症で2例,網膜色素変性症で1例,CMEで1例に認められた。本治療は原疾患に対する根本療法ではないが,補助療法として一度試してみてよい方法と思われた。

愛知県における未熟児網膜症の実態 I

著者: 唐木剛 ,   粟屋忍 ,   田辺詔子 ,   戸苅創 ,   二村真秀 ,   馬鳴昭生 ,   山崎俊夫

ページ範囲:P.1375 - P.1380

 愛知県の未熟児網膜症の発症状況を,1986・87の2年間についてアンケート方式により調査検討を行った。回収された症例数は1,947名で,愛知県の新生児入院管理施設で管理された新生児のうち,出生体重1,500g未満の全症例の75%を偏りなく把握できた。新生児期死亡率も全国平均と同じ程度であり,新生児管理も現在の水準にある。さらに出生体重別による未熟児網膜症の発症状況も,永田らの多施設のデータと一致した。以上より今回の調査結果は,選択された施設の結果を集めたものではなく,特定地域全体の現在の新生児管理下の未熟児網膜症の平均的発症状況を示すものと考えられ,日本の現況を類推できる貴重な資料と位置づけられた。

超未熟児における水晶体血管膜の臨床的観察

著者: 久保田芳美 ,   杤久保哲男 ,   松井博嗣 ,   齊藤伸行 ,   前田朝子 ,   河本道次

ページ範囲:P.1381 - P.1383

 1989年1月より1990年7月までに東邦大学病院NICUに入院した1,000g未満の超未熟児28例について,水晶体血管膜の消長と未熟児網膜症の関連につき検討した。対象の90%に水晶体血管膜を認め,その88%に未熟児網膜症を認めた。水晶体血管膜のなかった症例には未熟児網膜症を認めなかった。水晶体血管膜の観察は,超未熟児における未熟児網膜症の眼科管理に有用であることが示唆された。

未熟児網膜症Ⅰ型全周型発生の推移

著者: 川路陽子 ,   馬嶋昭生 ,   市川琴子 ,   川地浩子

ページ範囲:P.1385 - P.1388

 1988年までの14年間に出生し,名市大病院新生児集中治療室で管理された極小未熟児を,前後7年間のA群112例,B群125例に分けて比較した。未熟児網膜症(ROP)Ⅰ型で病変が全周に出現する症例(全周型)がA群で5例,B群では19例と,B群で有意に増加していた(p<0.01)。この全周型は未熟性の点ではⅡ型と似ていたが,瘢痕期2度弱度以下の軽症となった。鼻側からROPの発生した症例はすべて全周型を示し,きわめて未熟な症例の初発部位の多くは,鼻側であると考えられた。近年の全周型の増加は,non—invasive monitoring systemなどによる児の管理の進歩によって,従来はⅡ型のような重症となる症例が移行したものと推察した。

真菌性眼内炎へのフルコナゾールの使用経験

著者: 兼子周一 ,   津島一晃 ,   青沼秀実 ,   中島徹 ,   上野眞 ,   渡邉郁緒

ページ範囲:P.1389 - P.1392

 真菌性眼内炎と考えられた3症例にフルコナゾールを使用した。症例1は75歳男性で直腸癌摘出後経中心静脈高カロリー輸液(IVH)が施行され,1か月後に飛蚊症を訴え両眼の赤道部に硝子体中に軽度に盛り上がった白色病巣を認めた。症例2は66歳男性。胆嚢摘出術3週間前からIVHが施行され,術後視力低下を訴え,両眼の後極部・周辺部網膜に黄白色の病巣を多数認めた。症例3は78歳男性,胃癌摘出後創部から真菌が検出されていた。3か月間特に訴えがなく初回眼底検査には異常なかったが3週間後に網膜内に限局した病巣を認めた。症例1は点滴,症例2,3では内服投与した。数週間で病巣は瘢痕化し再発は認めず,特別な副作用も認めなかった。

サルコイドーシス患者の眼活動性と細胞性免疫の推移

著者: 金井久美子 ,   小暮美津子 ,   若月福美 ,   高橋義徳 ,   福田尚子

ページ範囲:P.1393 - P.1396

 眼外活動性のないサルコイドーシス患者30例を対象として末梢血リンパ球サブセットを検討した。
 1.サルコイドーシス患者の末梢血でのCD3陽性細胞,CD4陽性細胞,CD8陽性細胞百分率は,対照に比べ有意に低値を示した。一方,CD11陽性細胞およびHLA-DR陽性細胞百分率は有意に高値を示した。
 2.同一症例では,眼活動性が増加するとCD3陽性細胞百分率は減少し,CD11陽性細胞とHLA-DR陽性細胞百分率は増加する傾向がみられた。
 以上,末梢血CD3陽性細胞,CD11陽性細胞,HLA-DR陽性細胞は,眼活動性を反映し,本症の診断や予後の観察に有用であることが示唆された。

ぶどう膜炎と血清免疫抑制酸性蛋白

著者: 溝口尚則 ,   佐藤隆哉 ,   雨宮次生

ページ範囲:P.1397 - P.1399

 各種ぶどう膜炎67例につき,血清中の免疫抑制酸性蛋白IAPを活動期と非活動期で測定した。活動期のIAPは,ベーチェット病,原田病,原因不明のぶどう膜炎で,対照群よりも有意に上昇していた。ベーチェット病と原田病でのIAPは,活動期では非活動期よりも有意に上昇していた。活動期でのIAPは,ベーチェット病,原田病サルコイドーシス,原因不明例それぞれの間に有意差はなかった。HLAのB27が陽性の急性前部ぶどう膜炎の2例ではIAPが高値であった。

名古屋市立大学病院におけるサルコイドーシスの統計的観察(第2報)

著者: 朱雀五十四 ,   馬嶋昭生 ,   湯口幹典 ,   森宏明 ,   山本正彦 ,   野田正治

ページ範囲:P.1401 - P.1404

 過去7年間に,名古屋市立大学病院眼科でサルコイドーシス(以下,サ症)を疑った58例(Ⅰ群),同院他科でサ症と診断され眼科を受診した55例(Ⅱ群)の初診時以降の眼病変の経過,治療および視力予後などを,6か月以上経過観察できた症例について検討した。Ⅰ群で25例,Ⅱ群で13例に新たな眼病変が出現した。出現した病変数は1個が多く,時期は80%以上が初診時から1年以内であり,種類は網膜血管周囲炎が多くみられた。Ⅰ群は眼科的に重篤であり,多数の症例でステロイド剤の局所注射や内服治療を必要とし,眼合併症,視力予後の不良例も多かった。初診時から最低1年間は厳重な眼科的管理が必要である。

原田病の髄液所見と眼症状

著者: 田内芳仁 ,   三木聡 ,   大谷知子 ,   中屋由美子 ,   三村康男

ページ範囲:P.1405 - P.1408

 原田病患者30例について房水と髄液の蛋白濃度と細胞数を比較検討した。このうち房水蛋白濃度を新鮮例11例と遷延例2例に対し,レーザーフレアセルメーターで測定した。髄液蛋白濃度が正常域(43mg/dl未満)にとどまる新鮮例の平均房水蛋白濃度は36.7mg/dlであるのに対し,髄液蛋白濃度が正常域を越える症例の平均房水蛋白濃度は65.4 mg/dlであり有意に高値を示した。髄液蛋白濃度はさらに房水細胞数とも相関した。新鮮例の髄液蛋白濃度と髄液細胞数は,予後に関して,治癒と遷延化した症例の間で差がなかった。遷延例の髄液蛋白濃度と細胞数は正常範囲にあった。発病初期原田病の髄液蛋白濃度はその時点での前眼部炎症と相関すると判断された。

球結膜下出血と全身疾患

著者: 渡辺博 ,   石井エミ ,   杤久保哲男 ,   野村菜穂子 ,   河本道次

ページ範囲:P.1409 - P.1412

 球結膜下出血74症例について,全身疾患との関係,出血回数,吸収速度を検討した。
 54例73%に高血圧,糖尿病,高脂血症,動脈硬化または肝疾患の合併があった。血液疾患はなかった。一般的な球結膜出血では,上記全身疾患を伴う症例と伴わない症例の出血回数および吸収速度には大差はなかった。再発性および吸収不良な難治性球結膜下出血の症例は,高血圧,肝疾患,高脂血症を合併している症例が多く,特に複数の上記金身疾患を合併している症例に多く見られる傾向があった。球結膜下出血,特に再発性,吸収不良性の症例には,全身的検索が必要であることが示唆された。

三歳児健康診査における眼科健診15年間の結果について

著者: 宮本吉郎

ページ範囲:P.1413 - P.1417

 三歳児眼科健診15年間(1975〜1989年)の結果について報告する。
 問診票とラ環単一視標を対象家庭に郵送,回収して健診対象者を抽出した。問診票の回収総数は77,335通(回収率73.3%)で,眼科要健診者総数は3,057名,そのうち受診して検査したのは1,754名であった。
 1,754名中斜視は164名で,その年次推移をみると5年前から漸減傾向がみられた。
 調節麻痺下で屈折検査を行った者は688名1,372眼で,その約80%が遠視および遠視性乱視であった。家庭ならびに健診時の視力検査可能率を比較すると健診時のほうが約50%検査可能者が増加した。

神経堤細胞遊走不全と前眼部形成異常

著者: 尾関年則 ,   佐野雅洋 ,   森宏明 ,   白井正一郎 ,   馬嶋昭生

ページ範囲:P.1419 - P.1423

 1982年1月から1990年8月までに,名古屋市立大学病院眼科を受診した神経堤細胞遊走不全に基づく前眼部形成異常56例95眼を検討した。後部胎生環17例31眼,Axenfeld-Rieger症候群13例21眼,Peters奇形19例28眼,強角膜症(sclerocornea)9例15眼と診断したが,判別が困難で移行型と考えられる症例も含まれていた。2例では左右で病型が異なっていた。角膜水晶体癒着のないPeters奇形では,角膜混濁が減少する傾向があった。合併全身奇形としてAlagille症候群,心奇形などが,合併眼異常として小眼球,小角膜,緑内障などが多かった。後部胎生環,Axen-feld-Rieger症候群,Peters奇形,強角膜症は,神経堤細胞遊走不全に基づく一連の疾患と結論した。

非観血的な涙道内シリコンチューブ留置法による涙道閉塞の治療(Ⅱ)

著者: 高木郁江 ,   牛島博美

ページ範囲:P.1425 - P.1429

 80例94眼の涙道閉塞に非観血的な涙道内シリコンチューブ留置を行い,以下の結果を得た。30歳末満の25例27眼では,外傷性下涙小管損傷の1例を除く全例に効果がみられた。また慢性涙嚢炎合併例の場合,20歳未満では全例治癒したが,30歳以上ではDCRを必要とした例が多かった。
 3例で,下涙小管の1/2以上閉塞していたにもかかわらず有効であった。
 年齢,涙嚢炎合併,涙小管閉塞の程度以外の再発因子として,感染・アレルギー性炎症・鼻疾患などが考えられた。留置期間は若年例ではほとんどが6か月以内で十分と思われたが,閉塞の程度の強い例や,原因疾患が進行過程にあることが推定される症例では長期に留置する必要があると考えられた。

穿孔性眼外傷における予後不良例の検討

著者: 井上新 ,   辻岡雅典 ,   楠部亨 ,   小島伸介 ,   高木敬之 ,   坪井俊児

ページ範囲:P.1431 - P.1433

 1989年11月より1990年8月までの22か月間に,多根記念眼科病院で処置をした穿孔性眼外傷28例30眼について,視力予後不良の要因を検討した。23眼(76.6%)の症例で最終矯正視力0.7以上を得たが,5眼(16.7%)が0.3以下であった。重傷例5眼のうち4眼が網膜剥離を併発しており,予後に与える最も大きな因子であった。外力が大きいほど,それによる損傷も大きく予後不良となったが,さほど大きくなくても,黄斑部を直接損傷すれば,視力予後は不良であった。前眼部(四直筋付着部より前方)の穿孔は透光体の混濁を残さなければ予後良好であったが,毛様体動脈を損傷し持続性出血をきたし,予後不良となった例があった。

幼児における標準色覚検査表の検討

著者: 佐藤隆哉 ,   平山善章 ,   雨宮次生

ページ範囲:P.1435 - P.1438

 4歳児114名,6歳児255名に標準色覚検査表第1部,第2部(SPP-Ⅰ,Ⅱ)を用いて色覚検査を行い,SPP-Ⅰについては幼児用色覚検査表としての適否,SPP-Ⅱについては表の種類別正読率について検討した。
 SPP-Ⅰ,Ⅱともに検査可能なものの割合は4歳女児を除き90%以上であった。またSPP-Ⅰで色覚異常と判定されたものは3名であった。さらにSPP-ⅡのBY,RG,S表はおのおのすべて4歳児6歳児とも95%以上の正読率であった。
 SPP-Ⅰ,Ⅱは幼児用色覚検査表として十分使用できるものと考えられる。

濃度および容量設定された角結膜染色検査法

著者: 戸田郁子 ,   藤島浩 ,   坪田一男

ページ範囲:P.1439 - P.1442

 ローズベンガルとフルオレセインの濃度と量を一定にした角結膜染色検査法を考案した。方法は,2μ1に容量を設定したマイクロピペットを用いて,防腐剤無添加の1%フルオレセインと1%ローズベンガル混合液を患者の下眼瞼結膜嚢内に点眼した後,2色素による染色状態を観察し,同時に涙液層破壊時間(BUT)を測定した。前眼部症状をもつ20名の患者にこの方法を用いて本検査を行った。患者の不快感は軽度で,簡便に二重染色が行え,7名で角結膜染色が陽性であった。本法は簡便であり,外眼部疾患が疑われた場合には,広く使用できる検査法と考えられる。

顆粒状角膜変性症に対するエキシマレーザー手術

著者: 萩平容子 ,   木下茂 ,   大橋裕一 ,   渡辺潔 ,   眞鍋禮三

ページ範囲:P.1443 - P.1444

 上皮下混濁の強い顆粒状角膜変性症3眼に対しエキシマレーザー表層角膜切除術を施行し,混濁除去を行うことを試みた。この3眼の上皮下混濁はエキシマレーザー照射により完全に除去された。術後の上皮修復は正常でありレーザー照射に起因すると考えられる術後合併症は発生しなかった。術後視力は全例で改善した。以上の結果から,エキシマレーザーによる表層角膜切除術は顆粒状角膜変性症の混濁除去の一方法として有効であると考えられた。

血清IgE RIST,RASTによるアレルギー性結膜炎の初期病像の解析

著者: 川島重信 ,   山本修一

ページ範囲:P.1445 - P.1448

 1990年3月までの1年間に受診したアレルギー性結膜炎患者245例(男性99例,女性146例)を対象に,血清IgE RISTおよび,ハウスダスト,ダニ,スギ,ブタクサ,カモガヤの5種類に対するIgE RASTを検査し,他のアレルギー性疾患との合併,発症の季節性,角膜病変の有無などを検討した。IgE RIST値は,1)鼻炎,皮膚炎,喘息の重複する群,2)症状が通年性の群,3)角膜病変を合併する群で高値を示した。IgE RASTでは,1)鼻炎合併群でスギと,2)皮膚炎・喘息重複群でハウスダスト・ダニと,3)通年型でハウスダスト・ダニとの有意な関係を認めた。

糖尿病性黄斑浮腫に対するtwo step療法

著者: 小関義之 ,   北野滋彦 ,   堀貞夫 ,   木戸口裕 ,   赤星隆幸 ,   野中千晶 ,   須藤史子

ページ範囲:P.1449 - P.1451

 糖尿病網膜症でびまん性黄斑浮腫を呈した12症例14眼に対して,ステロイド剤の全身投与ののち,黄斑への局所または格子光凝固を行った。術後2段階以上の視力改善は8眼57%にあり,視力不変は5眼36%,視力悪化は1眼7%であった。1例2眼で網膜症が悪化した。糖尿病網膜症での黄斑浮腫を光凝固単独では改善しがたいので,この2段階治療方式は今後積極的に検討されてよいと結論された。

螢光眼底造影所見による網膜中心静脈閉塞症の治療と予後

著者: 岡田恒治 ,   戸張幾生

ページ範囲:P.1452 - P.1456

 網膜中心静脈閉塞症30例30眼を対象に螢光眼底造影所見での毛細血管の拡張と漏出,非還流領域の大小により,4型に分類し,治療と予後について検討した。毛細血管の拡張と漏出のないタイプ4例(13%)は若年者に多く,視力予後はよかった。毛細血管の拡張と漏出があるタイプ13例(43%)が最も多く,また嚢胞様黄斑浮腫(CME)の合併も多く(46%),視力の悪い例がみられた。非還流領域が局所的にみられるタイプが次いで多く11例(37%),乳頭上新生血管,硝子体出血,新生血管緑内障などの合併症をもつ例もみられた。非還流領域が広いものは2例(7%)にみられ,初診時および最終視力ともに著明に悪かった。本分類を用いると特徴的な臨床経過が観察でき,管理および予後の把握が容易になると考えられた。

結膜,眼瞼および眼窩における悪性リンパ腫の臨床病理学的検討

著者: 梶浦祐子 ,   井上正則 ,   山本節 ,   森野以知朗

ページ範囲:P.1457 - P.1460

 眼科領域に原発し,免疫組織学的に悪性リンパ腫と診断された16症例を臨床病理学的に検討した。
 LSG分類によると,びまん性大細胞型が3例,中細胞型が8例,小細胞型が3例,混合型が1例,リンパ芽球型が1例で,従来の報告とは異なる分布を示した。モノクローナル抗体MT-1,MB-1,ポリクローナル抗体抗IgG, IgA, IgM,κ,λを用いて免疫組織化学染色を行った。1例でMT-1陽性,14例でMB-1陽性であった。中細胞型3例と小細胞型2例で胞体内免疫グロブリンが陽性で単クローン性を示した。B細胞性が大部分を占め,単クローン性の増殖であるという眼科領域の悪性リンパ腫の特徴がみられた。
 びまん性大細胞型は転移しやすく,予後不良で,小細胞型は転移が少なく予後良好であるという従来の報告に一致した結果が得られた。

Biconvexレンズと後発白内障

著者: 木崎宏史 ,   丸森美樹 ,   浜崎健太 ,   谷口重雄 ,   深道義尚

ページ範囲:P.1461 - P.1464

 両凸眼内レンズ100眼と凸平眼内レンズ93眼を,術後の後嚢混濁と,ヤグレーザーによる後嚢切開率について比較した。後嚢切開が必要になった症例は,両凸レンズ例では4眼4%,凸平レンズでは12眼13%であり,有意差があった。嚢内固定状態を,完全嚢内固定と不完全嚢内固定に分けると,切開が必要になった症例は,両凸完全嚢内固定では3%,凸平完全嚢内固定で9%,両凸不完全嚢内固定で13%,凸平不完全嚢内固定で57%であった。以上より,後嚢混濁の抑制には,両凸レンズの完全嚢内固定がすぐれていると結論された。

白内障手術術式,縫合材料による術後乱視の早期,長期の結果と将来の展望

著者: 深作秀春

ページ範囲:P.1465 - P.1469

 白内障術後乱視は患者の視力回復にとり重要な要素である。術後乱視軽減を目的に,多くの縫合方法が開発された。この論文は多くの異なる縫合方法と共に,筆者の開発による3水平強膜縫合術について,術後乱視軽減の点から比較検討した。1989年1月から1990年4月までに深作眼科で白内障手術を施行した中から975例を観察した。症例は強膜切開の大きさ,縫合糸,縫合方法により6群に分類した。術後治癒過程で起こる倒乱視化に対応するために術後早期に直乱視をおく必要がある。筆者の3水平強膜縫合法は早期より乱視変化が平坦化し約0.5から1.0Dの変化にとどまりこれらの問題を解決できた。このため,患者は術後早期より良好な視機能を得られた。

白内障術後炎症の角膜温度を用いた定量的評価

著者: 藤島浩 ,   坪田一男 ,   熊谷謙次郎

ページ範囲:P.1471 - P.1474

 炎症パラメーターである温度の上昇が眼内の炎症を反映するか否か,非接触型放射温度計を用いて測定し検討を加えた。
 水晶体嚢外摘出術単独または人工水晶体挿入術を施行した32人,32眼の老人性白内障患者を対象とした。術前と術後1日目,2日目,7日目,14日目,30日目に角膜中央部,鼻側,耳側球結膜,上下眼瞼の温度を測定し,他眼との温度差をパラメーターとした。測定は0.1℃の分解能をもつ非接触型放射温度計THI−300を用い,直径10mmの円形部分の平均温度を求めた。
 結果は角膜中央部では,術後1,2,7,14日目に1%の危険率で,術後30日目も5%の危険率で有意の温度上昇を認めた。球結膜は,鼻側,耳側ともに術後1,2,7日目に1%の危険率で有意の温度上昇を認めた。上眼瞼は,術後1,2,7日目に5%の危険率で,下眼瞼は術後1,7日目で1%の危険率で,14日目は5%の危険率で有意の温度上昇を認めた。
 白内障術後の炎症状態において,角膜,結膜,眼瞼に温度が上昇し,これを非接触型放射温度計で測定できた。小型で測定時間も1秒以内であるので,これを用いて眼内炎症を定量化できる可能性が考えられた。

連載 眼科図譜・301

石灰化と骨化を来した失明眼に発生した大きなぶどう膜悪性黒色腫の1例

著者: 晴山正志 ,   奥田久子 ,   小林博 ,   本田孔士

ページ範囲:P.1314 - P.1315

 緒言 ぶどう膜悪性黒色腫は,結合組織の産生が少なくその腫瘍塊中には石灰化を認めないとされている1)。また眼内石灰化像とぶどう膜悪性黒色腫の共存例の報告もない。筆者らは,網膜剥離により失明し眼底後極部に石灰沈着ならびに骨化をきたした眼内に大きなぶどう膜悪性黒色腫が発生した症例を経験した。
 症例 61歳,男性。1989年10月頃より右眼痛を自覚し,同年12月20日当科受診,手術目的にて1990年1月8日入院。詳細は不明であるが,40年前に右眼網膜剥離のため失明していた。入院時視力は,RV=光覚(−),LV=0.8(1.0×+0.87D)。眼圧は,右11mmHg,左18mmHg。細隙灯顕微鏡検査で,右眼球結膜に拡張した血管が数本みられ,角膜は透明であった。前房内は黄色の充実性腫瘍により占拠されており,腫瘍の表面は多数の血管を伴っていた(図1)。前房より後方は腫瘍により確認できなかった。左眼に異常はなかった。血液検査で検索した腫瘍マーカーすべて(−),WBC5,300,CRP (−),血沈正常,電解質正常であった。頭部CT水平断で腫瘍は充実性で眼球全体を占拠していた(図2)。眼球後極部と水晶体にhigh density areaが認められ,これに一致してCT冠状断で眼球全周をblack bandが取り囲んでいた。頭部MRI水平断T1強調像で腫瘍は低信号であった(図3)。眼球の輪郭は保たれ,大きさも健側と変わらなかった。

眼の組織・病理アトラス・58

悪性リンパ腫

著者: 大西克尚 ,   猪俣孟

ページ範囲:P.1318 - P.1319

 悪性リンパ腫は眼瞼,結膜,眼球内や眼窩に発生し,頻度は高くないが,鑑別診断として常に念頭におかなければならない疾患である。眼科領域ではボジキン病は少なく,非ホジキンリンパ腫が多い。症状は腫瘍の形成部位によりことなり,網脈絡膜へ腫瘍細胞が浸潤すれば,白斑として観察される(図1)。結膜や眼窩に発生すれば,サーモンピンク調の特徴的な腫瘍が観察される(図2)。腫瘍が眼球を圧迫すれば網脈絡膜に皺襞形成をきたすことがある。
 診断には眼窩に発生した場合はCTやMRI検査が,腫瘍の広がりが分かり有用で,網脈絡膜のリンパ腫の場合は螢光眼底撮影検査も参考になるが,いずれの場合でも確定診断には生検による病理組織学的検査が必要である。ぶどう膜炎による硝子体混濁が強く,硝子体切除術を行い,その切除標本を顕微鏡で観察して,初めて悪性リンパ腫と診断されることもある。

今月の話題

糖尿病性網膜症の薬物療法—アルドース還元酵素阻害剤(ARI)

著者: 赤木好男 ,   照林宏文 ,   池部均 ,   高橋幸男 ,   岡本庄之助

ページ範囲:P.1321 - P.1325

 糖尿病性合併症に対して現在のところ有効な薬剤はない。30年以上研究歴史をもち,神経症,角膜症治療に有効であるとされるアルドース還元酵素阻害剤(ARI)は,糖尿病性網膜症にも有効であるとわれわれは信ずる。

眼科薬物療法のポイント—私の処方・32

難治性細菌性結膜炎

著者: 秦野寛

ページ範囲:P.1481 - P.1482

患者は53歳女性。主訴:左眼充血と潤み
 数年来,左眼に時折充血と潤みがあり,最近これらの症状が強まってきたということで来院した。左球結膜および瞼結膜ともに中等度の充血,浮腫,眼脂が見られた。鼻涙管通水は不通であり,強圧注入したところ,白色の結石塊が逆流した。

眼科手術のテクニック—私はこうしている・32

緑内障・白内障の同時手術2.—原発閉塞隅角緑内障眼に対する同時手術と小切開による同時手術

著者: 山岸和矢

ページ範囲:P.1483 - P.1485

原発閉塞隅角緑内障眼の場合
 1.緑内障手術の選択
 原発閉塞隅角緑内障は診断がつけばlaser-iridotomy (LI)を行い,LI後眼圧コントロールが良好であれば,白内障手術が必要な時には白内障手術のみでよい。特に白内障経過観察中の急性閉塞隅角緑内障発作は水晶体の膨化によることが多く,発作後ただちにLIを行えば,白内障手術のみで緑内障の手術を必要としない。LI後,眼圧が22〜23mmHg以下であれば白内障手術だけで十分コントロールされることが多い。25mmHg以上であれば白内障と緑内障の同時手術を選択する。
 2.隅角検査による同時手術の緑内障術式の選択
 原発閉塞隅角緑内障眼でLI後も眼圧コントロール不良で白内障の手術を必要とする場合,まず1aser gonioplastyを行い,それでも眼圧がコントロールされない場合には白内障と緑内障の同時手術が必要となる。この時,隅角鏡による隅角所見により,術式を選択する。隅角の周辺虹彩前癒着(PAS)が全周の1/3以下の場合は原発開放隅角緑内障あるいは続発性開放隅角緑内障を疑い①トラベクロトミーと白内障の同時手術を行う。

臨床報告

強膜弁下強膜切除術が奏効したuveal effusionの症例

著者: 友田隆子 ,   蔵本秀史 ,   萩原実早子 ,   大熊紘

ページ範囲:P.1491 - P.1494

 小眼球を伴わない39歳男子の片眼性のuveal effusionに対し,強膜弁下強膜切除術を行った。術式は,鼻上側,耳上・下側の3象限に輪部より4mm後方に,輪部側に底をもつ4×5mm の厚さ1/3層の強膜弁を作り,この中央で3×2mmの残り2/3層全層の強膜切除を行い,これより後方に強膜1/3層を残した1.5mm幅のトンネルを強膜弁の後方まで作り,トンネル周囲のテノン嚢を切除し,強膜弁は9-0ナイロン糸にて2糸縫合した。術中ぶどう膜の露出部より多量の上脈絡膜液の流出があり,脈絡膜剥離はほぼ消失した。網膜剥離は術後2日には消失し,以後1年間治癒している。術中切除した強膜は,膠原線維の薄葉の配列の乱れと大小不同がみられた。炎症所見はなかった。
 本法は,眼球に対する侵襲が少なく,手技がトラベクレクトミーと類似しているので,比較的容易に行える良法と思われた。

Mooren潰瘍の冷凍療法

著者: 平野潤三 ,   平野みき

ページ範囲:P.1495 - P.1498

 保存療法無効の片眼性Mooren潰瘍4例が,冷凍療法のみで治癒した。点眼麻酔後,白内障摘出用の冷凍チップで−40℃,各点10ないし15秒,潰瘍全域を凝固する。効果は1〜2週間で現われたが,種々の期間を経て再発することもあった。4眼中2眼は1回で完治したが,他は再発のため2回,3回の冷凍凝固を要した。その後11か月から4年半,再発をみない。
 本法は手技容易,疼痛軽徴であり,入院不要,効果は迅速確実,繰り返しても副作用や後遺症がない。片眼性Mooren潰瘍治療の第1選択として,広く推奨する。

両眼に生じた肺癌原発の転移性虹彩腫瘍の1例

著者: 西岡木綿子 ,   小島浩樹 ,   大西克尚 ,   西田正夫

ページ範囲:P.1499 - P.1503

 42歳男性の両眼に発症した転移性虹彩腫瘍を報告した。患者は,肺小細胞癌と診断され,放射線療法,化学療法にて画像上腫瘤は消失した。7か月後の眼科初診時,右眼の9時部虹彩と,左眼11時部虹彩に黄白色凹凸不整の腫瘤があり,右眼の眼圧は上昇していた。前眼部に放射線を照射した後に,腫瘤を含む虹彩全幅切除術を施行した。組織学的検査では,肺と眼の腫瘍は同一の小細胞癌であった。

網膜細動脈瘤53眼の視力の転帰

著者: 丸山泰弘 ,   山崎伸一

ページ範囲:P.1506 - P.1512

 網膜細動脈瘤の自検例53眼につき,視力の転帰に関する因子を検討した。男子11眼,女子42眼で,両眼性は4眼2例であった。年齢は39〜83歳であった。53眼中45眼で,細動脈瘤自体にレーザー光凝固術を施行した。黄斑部の出血と浮腫が消失した時点での視力を最終視力として,初診時視力と比較した。視力回復良好例は33眼,不良例は20眼であった。急性期の黄斑部病変で分類すると,網膜下出血があった例では,出血が消褪したのち色素上皮の萎縮が起き,視力回復は不良であった。黄斑部の網膜下出血がなく,網膜前出血や浮腫が主病変であった場合には,視力回復は良好であった。

散弾様網脈絡膜症の2症例

著者: 岡本珠美 ,   広瀬茂人 ,   市石昭 ,   大野重昭 ,   松田英彦

ページ範囲:P.1513 - P.1516

 最近経験した1症例と長期観察を行いえた1症例,計2症例の散弾様網脈絡膜症につきその臨床像を報告した。
 症例1は,71歳女性で,視朦感を主訴に受診した。前眼部炎症は軽度で,眼底には後極部を中心に1/5〜1乳頭径の黄白色の円形病巣がみられた。螢光眼底造影では,病巣に一致して過螢光が認められた。症例2は,51歳の女性で,視朦感を主訴に受診した。初診時,軽度の硝子体混濁のみであったが,8か月後に左眼眼底に黄白色病変が出現した。併発白内障が進行したため6年後に両眼手術を行った。術後,両眼底に多数の黄白色の病変が散在していた。螢光眼底造影では,病巣により低螢光あるいは過螢光の混在を認めた。視力予後は,2症例とも良好であった。全身検査,血液,生化学検査には異常はなかった。HLA-A29は症例2のみ検索を行ったが陰性であった。

視神経病変を繰り返したサルコイドーシスの1例

著者: 小豆島純子 ,   米山高仁 ,   飯塚和彦 ,   田澤豊

ページ範囲:P.1517 - P.1520

 視神経乳頭炎と球後視神経炎を繰り返し発症し,予後不良であったサルコイドーシスの1例を報告する。
 症例は47歳女性で,右眼の視力低下を主訴に,サルコイドーシスと診断され,経口ステロイド剤を使用した。経過中,圧視神経乳頭炎所見を呈したが,視力は回復した。3か月後,右眼の球後視神経炎と思われる所見を認め,ステロイド剤で治療した。いったん改善したのち,三たび,右視神経乳頭炎の所見を示し,同様にステロイド剤を使用した。視力は改善しなかったが,眼底所見は改善し,その後2年間,再発はない。

ミトコンドリアDNAの解析によって確定診断しえた家族歴の明らかでなかったLeber病の1例

著者: 湯口琢磨 ,   筋野哲也 ,   海谷忠良 ,   渥美哲至 ,   米田誠

ページ範囲:P.1521 - P.1525

 Leber病と考えられる26歳男性とその両親に,白血球ミトコンドリアDNA(mt DNA)の解析を,polymerase chain reaction(PCR)を用いて行い,患者と母親において,Leber病で見い出されている塩基変異を確認し,Leber病と確定診断した。本症例には,同一家系内に他の患者を認めなかったが,PCRを用いた遺伝子解析がLeber病の確定診断上,非常に有用であることが示された。

常染色体性優性遺伝形式を示したLeber先天黒内障の一家系

著者: 直井信久 ,   山元章裕 ,   澤田惇

ページ範囲:P.1527 - P.1530

 三代にわたってLeber先天黒内障に相当する臨床像を示した一家系を診察した。
 発端者は4か月女児。1か月のときから眼振に気づかれている。対光反応は減弱。両眼底は色素に乏しく,脈絡膜の紋理がはっきりと認められた。赤道部の網膜にわずかな色調のむらがあり,色素性網膜変性症の初期を疑わせたが,視神経乳頭と網膜血管は正常であった。ERGはscotopic ERG,30Hz flicker共にnon-recordableであった。発端者の41歳の父親は,視力右0.06,左0.03。水平性眼振と後嚢下白内障を認め,ERGはnon-recordableであった。彼の兄弟ら(発端者の伯父)も同様の視力障害を持つが,検査は未施行である。発端者の78歳の祖父は視力右光覚なし,左0.04。35歳時の白内障手術後,緑内障を併発したという。ERG検査は両眼とも低振幅を示した。
 常染色体性優性遺伝形式を示すLeber's con-genital amaurosisは稀な疾患で,ERG検査なしには見逃されやすい。筆者らの知るかぎり,本家系は報告された三番目であり,本邦では初めてである。

走査レーザー検眼鏡による螢光眼底血球造影

著者: 田中隆行 ,   古沢信彦 ,   得居賢二 ,   村岡兼光

ページ範囲:P.1531 - P.1536

 眼底疾患を有する患者108眼および正常者2眼に,走査レーザー検眼鏡による螢光造影を行い,網膜の微小循環動態を検索した。その結果43眼で,傍中心窩血管網を毛細血管レベルで造影できた。このとき,毛細血管内を移動する多数の過螢光点が観察された。この点の特徴は,毛細血管よりも強い螢光を発し,速く移動し,点と点の間に約100μmの間隔があることである。血管内での移動速度は,細動脈内で速く,毛細血管に入ると遅くなり,細静脈内で速くなる。白血病眼では,この過螢光点の数が多く,点と点の間隔が狭かった。正常人3名から採取した血液の螢光染色では,赤血球は染色されず,白血球と血小板が染色された。今回の螢光造影で観察された過螢光点は,主に白血球と考えられ,この点を指標にすることにより,血流の方向と速度が分かることが結論された。

カラー臨床報告

増殖性硝子体網膜症術後の黄斑上膜に対する増殖膜剥離の有効性

著者: 池田恒彦 ,   田野保雄 ,   張国中 ,   前野貴俊 ,   今居寅男

ページ範囲:P.1487 - P.1490

 1989年7月から1990年6月の期間に国立大阪病院眼科において,増殖性硝子体網膜症の硝子体手術後に発症した黄斑上膜5眼に対して,増殖膜剥離を行った。増殖膜の除去は全例で可能であった。術後全例で2段階以上の視力改善が得られた。増殖性硝子体網膜症の硝子体手術後に発症する黄斑上膜は視力予後不良の一因と考えられるので,可能な限り増殖膜剥離を行い除去すべきである。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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