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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科45巻9号

1991年09月発行

雑誌目次

連載 眼科図譜・302

後房レンズ挿入後に虹彩後癒着なしに虹彩膨隆と眼圧上昇をきたした1症例

著者: 山本美保 ,   砂川光子 ,   栗本康夫

ページ範囲:P.1544 - P.1545

 緒言 白内障摘出後の眼内レンズ挿入眼に術後慢性的に緑内障をきたした症例はいくつか報告されている1〜3)。これらは主に,前房レンズ挿入眼に多く1〜2),後房レンズ挿入眼では報告が少ない3)。原因としては,眼内レンズによる機械的な房水流路の閉塞や,術後炎症による虹彩後癒着などによるとされている1)
 今回筆者らは,後房レンズ移植後,瞳孔縁での虹彩後癒着などの所見を認めず,虹彩膨隆および眼圧上昇をきたした症例を経験した。

眼の組織・病理アトラス・59

虹彩欠損と隅角形成不全

著者: 猪俣孟

ページ範囲:P.1548 - P.1549

 虹彩欠損coloboma of irisは,あたかも虹彩の一部が切り取られたようにみえるので,その名がある(図1)。ギリシャ語でkolobomaとは切断して取り去った部分という意味である。
 虹彩欠損は,単独で,または他の先天異常に伴ってみられる眼球の先天異常である。眼杯裂(胎生裂)の閉鎖不全によるもので,虹彩の下方やや鼻側よりに生じる。眼杯裂閉鎖不全の程度に応じて,多少とも毛様体欠損,脈絡膜欠損,視神経欠損を伴っている。眼杯の下鼻側にできた虹彩欠損を定型的,その他の部位の虹彩欠損を非定型的という。非定型的な虹彩欠損は眼杯の胎生裂閉鎖不全とは関係がなく,脈絡膜欠損や視神経欠損を伴わない。無虹彩,リーガー異常などの虹彩異常に伴ってみられる。

今月の話題

眼内灌流液

著者: 松元俊

ページ範囲:P.1551 - P.1554

 眼内灌流液は房水の組成を参考にして開発された。灌流液の組成における各成分は,眼内組織の代謝を正常に維持するために必要なものであり,組成の異なる灌流液を用いた時の眼内組織に与える影響は各成分の役割を理解することによって予測できる。灌流液に薬剤を添加して使用する場合は,灌流液の性質が変化することがあるので,慎重に行う必要がある。

眼科手術のテクニック—私はこうしている・33

トラベクロトミー,水晶体摘出,IOL挿入同時手術

著者: 根木昭

ページ範囲:P.1595 - P.1598

手術適応
 原発開放隅角緑内障や偽落屑症候群に白内障が併発している例では,原則として緑内障治療が優先する。薬物療法あるいはargon laser trabeculoplastyを含めて,非観血的手段で,緑内障コントロールが困難であり,白内障による視力障害が顕著な場合に同時手術の適応となる。とは言っても緑内障コントロールや視力障害の基準をどこにおくかで適応の幅は大きく変動する。さらに年齢,全身状態,生活環境といった因子も加わり,個々の症例ごとに十分な検討を要する。原則的にはまず白内障手術の適応を通常の適応基準に沿って判断する。後嚢下混濁により縮瞳剤が使用できない場合なども含まれてくる。緑内障については,コントロール不良なもの,眼圧がなんとかコントロールされていてもDiamox®内服を必要とするもの,視神経障害のすすんだものを同時手術の適応としている。

眼科薬物療法のポイント—私の処方・33

難治性結膜炎

著者: 石橋康久

ページ範囲:P.1600 - P.1601

 患者は53歳の女性で1990年3月頃より右眼鼻側球結膜の隆起と充血に気づいた(図)。眼脂も多くなってきたため近医を受診し,抗生剤の点眼を処方されていたが,症状はあまり良くならなかったため,当科を紹介されて1990年4月11日に受診した。
 主訴:右眼結膜の隆起および充血,眼脂

臨床報告

重篤な網膜機能障害が示唆された白内障術後の無菌性眼内炎の1例

著者: 堀口麻里 ,   堀口正之 ,   三宅養三 ,   北川周一

ページ範囲:P.1555 - P.1559

 薬物療法では改善のみられなかった白内障術後の持続性眼内炎に硝子体手術を施行した。硝子体沈渣と前房水の培養結果は陰性であり,術中認められた膜様組織から水晶体過敏性眼内炎が最も疑われた。術前視力は光覚弁まで低下し,ERGは著しく減弱していたが,硝子体手術後には視力は0.5まで改善しERGのa波,b波の振幅はほぼ回復した。しかし律動様小波(OP波)は術後も回復せず,網膜に不可逆性の障害が残ったと考えられこのような無菌性眼内炎でも網膜に障害を与える可能性があることが示唆された。

網膜色素変性症に対する東洋医学治療の試み

著者: 岩崎義弘 ,   松村美代 ,   後藤保郎 ,   石川享 ,   吉田光範 ,   松本享彦

ページ範囲:P.1561 - P.1565

 網膜色素変性症患者67名に対し東洋医学治療を行い,治療開始後3か月,12か月の時点での他覚的,自覚的変化につき検討した。治療内容は針および漢方治療であり,針治療は,湖南中医学院付属病院および北京中医研究院付属病院のデータを参考とし,週1回ないしは2回,40ミリ16号針を用いて身体の各部(健明,上晴明,太陽,球後,合谷,曲池,光明)に軽い得気を得るまで刺入し,10〜15分留置した。漢方は,高血圧または高齢の患者には牛車腎気丸(7.5g分3)および桂枝茯苓丸(7.5g分3)を,血圧が正常または低血圧の患者には補中益気湯(7.5g分3)および桂枝茯苓丸(7.5g分3)を用いた。治療開始3か月後視力が改善したものは67名中0名,electroretinogram (ERG)の改善したもの0名,視野拡大傾向を認めたもの5名,視野悪化したもの1名,自覚的に改善したもの11名であった。治療開始12か月後視力改善したものは21名中0名,ERG改善したもの0名,視野拡大傾向を示したもの1名,視野の悪化を認めたもの5名,自覚的改善は9名であった。網膜色素変性症に対する東洋医学治療においてはdrop outする者が多く,視野進行例もその自然経過と同様の頻度で存在し,1年間という限られた範囲内で東洋医学治療をみた場合,有効とはいいにくいと思われた。

原発閉塞隅角緑内障を伴う白内障に対する隅角癒着解離術と眼内レンズ挿入手術

著者: 松村美代 ,   井戸稚子 ,   白紙靖之 ,   小泉閑 ,   市岡博 ,   市岡伊久子 ,   荻野誠周

ページ範囲:P.1567 - P.1569

 瞳孔ブロックを解除しても眼圧コントロールの不良な原発閉塞隅角緑内障と白内障の合併症例14眼に対し隅角癒着解離術と眼内レンズ挿入手術を行い,全例で眼圧コントロールを得た。開放された隅角は150°〜270°で術後観察期間(6か月以上,平均13か月)中に再閉塞したものはなかった。合併症として術中の前房出血が64%に,術後の一過性眼圧上昇が36%にフィブリン析出が21%にみられたが予後に影響を与えなかった。

気圧外傷により複視を生じた症例

著者: 村上真理子 ,   田邊詔子 ,   加藤京子 ,   村上正建

ページ範囲:P.1571 - P.1573

 27歳の女性ダイバーがスキューバダイビングで水深15mに潜降中,右眼痛を感じた。浮上後鼻出血,嘔吐,耳鳴,難聴の症状とともに,数時間後に右眼の上転障害による複視を生じた。諸検査の成績からみて,これらの症状は副鼻腔の気圧外傷(barotrauma)と考えられた。

海綿静脈洞部に進展した傍鞍部脊索腫の1例

著者: 大槻浩之 ,   佐藤正治 ,   越前谷幸平 ,   村井宏

ページ範囲:P.1575 - P.1578

 片側外転神経麻痺で発症し,約2年の後に全眼筋麻痺に進展し,診断のついた傍鞍部脊索腫の73歳男性を経験した。
 片側性の外転神経麻痺などの外眼筋麻痺をみた場合,少なからず頭蓋内腫瘍によるものがあり,頭蓋底部の腫瘍の可能性を念頭に置き,造影剤の使用を含めたCT scanや,MRIなどの精査を積極的に行うべきと思われた。

Choroidal foldsを伴う糖尿病性網膜症

著者: 新城光宏 ,   上田彩子 ,   和田優子 ,   小紫裕介 ,   三浦昌生 ,   岸本直子 ,   近藤武久

ページ範囲:P.1579 - P.1583

 糖尿病性網膜症として経過観察中,特に誘因なく脈絡膜皺襞の出現を認め,過去に報告された脈絡膜皺襞の原因となるべき疾患を見出し得なかった症例を3例経験した。
 症例はいずれも高齢の女性で,両眼にAⅠ,AⅡあるいはBⅠ(福田分類)に相当する糖尿病性網膜症が認められた。糖尿病性網膜症として経過観察中,両眼底に脈絡膜皺襞の出現をみたため原因検索を試みたが,糖尿病を除く他の基礎疾患はみられなかった。
 本症例はいずれも,脈絡膜皺襞をきたすべきなんらの基礎疾患も認められず,いわゆる特発性脈絡膜皺襞(idiopathic choroidal folds)とみなされる。しかし,病理組織学的には,糖尿病性変化は,網膜血管系のみならず脈絡膜血管系にも生じることが知られており,微視的な変化だけではなく,巨視的な糖尿病性変化として脈絡膜皺襞が出現する可能性がある。

後発白内障へのYAGレーザーの施行時期

著者: 北條秀雄 ,   松尾健治 ,   宮田典男

ページ範囲:P.1585 - P.1589

 YAGレーザーが施行された後発白内障がある無水晶体眼183眼(KPE126眼,ECCE57眼)について,白内障手術時からYAGレーザー施行時までの期間(後発白内障期間),術前最高視力とYAGレーザー施行時の視力との差(視力差)と後発白内障の発生頻度について検討した。平均年齢は66.6±10.0歳であり,後発白内障期間は平均28.6±14.8か月であった。視力差は平均0.54±0.20であった。後発白内障の発生頻度は5年以上経過すると少なくなり,全体で4%であった。30〜60歳代では高齢になるにつれて後発白内障期間は長くなるが,70歳以上になると逆に短くなり,視力回復率は79.3%と他の年齢に比べて悪かった。

生体観察と走査電顕を併用した移植眼内レンズ表面の細胞反応の観察方法

著者: 高橋恵子 ,   岡田潔 ,   佐川宏明 ,   石井好智

ページ範囲:P.1603 - P.1606

 家兎の前房に移植した眼内レンズ表面の細胞を,2週後にスペキュラマイクロスコピー,位相差顕微鏡および走査電子顕微鏡で観察し,同一細胞であることの確認と,それぞれの観察法によって得られた所見の対応を行った。スペキュラマイクロスコピーでは1amellaが観察され,走査電顕ではfilopodiaなどの眼内レンズ上の細胞の詳細な表面構造が明らかになった。生体観察所見と摘出眼内レンズ所見を比較した結果,摘出眼内レンズ標本で観察された細胞の一部が標本作成時に脱落していた。移植眼内レンズ表面の細胞の評価には,摘出レンズによる観察に,生体観察であるスペキュラマイクロスコピーを併用することが望ましいと考えられた。

ドライアイを伴うシェーグレン症候群でのEBウイルスの検出

著者: 坪田一男 ,   西村敏 ,   工藤逸郎 ,   斉藤一郎 ,   茂呂周

ページ範囲:P.1611 - P.1613

 ドライアイを認めたシェーグレン症候群(SS)患者の唾液腺生検11症例について,組織よりDNAを抽出し,PCR (polymerase chainreaction)法を用いてEpstein-Barr virus (EBV)遺伝子の増幅を行い,オートラジオグラフ上でEBV遺伝子のコピー数を定量的に検出した。その結果,健常者5例と比較してEBV遺伝子のコピー数に有意差を認め,これらSSにおいてEBVの関与が示唆された。

眼窩悪性リンパ腫14症例の臨床的研究

著者: 大西克尚 ,   石橋達朗 ,   坂本泰二

ページ範囲:P.1615 - P.1618

 今回検討した眼窩悪性リンパ腫の症例は1974年から1989年までに九州大学病院眼科に入院した14症例である。男性9名,女性5名,年齢は42〜84歳,平均61歳で,全例片眼性であった。この14症例は,16年間に入院した眼窩腫瘍139例の10.1%にあたる。主訴は,眼瞼腫脹50%,眼球突出50%,腫瘤形成29%,複視25%などであった。診断にはCT, MRIやシンチグラフィーが有用であった。組織診断はすべてdiffuse typeで,small cell type 3例,medium cell type 4例,mixed cell type 3例,large cell type 4例であった。Tリンパ腫はなく,すべてBリンパ腫であった。
 組織診断は不可欠であるので生検を行い,その時できる限り腫瘍を切除する。Small cell typeの時は非ステロイド剤内服のみとし,それ以外は放射線療法を追加し,さらに治療が必要な時に化学療法を行うのがよいと考えた。5年生存率は58%であった。

硝子体手術に関する臨床的研究(その13)—糖尿病性網膜症に対する硝子体手術—最近の手術成績

著者: 佐藤幸裕 ,   島田宏之 ,   麻生伸一 ,   松井瑞夫

ページ範囲:P.1619 - P.1622

 1988年,1989年の2年間に硝子体手術を行った糖尿病性網膜症102例,136眼の手術成績を1983年,1984年の2年間の手術成績と比較検討を行った。
 1)視力向上を得たのは網膜剥離を伴わない群で89%,網膜剥離を伴う群で67%,全体で73%であった。
 2)術後視力0.1以上を得たのは網膜剥離を伴わない群で77%,網膜剥離を伴う群で55%であった。
 3)眼内レーザー光凝固の導入と,周辺部硝子体の処置により,術後の血管新生緑内障と網膜剥離の発生率は大幅に低下した。
 4)術後に血管新生緑内障を発生した症例の予後は今回の検討でもいまだ不良であり,今後さらに検討を要する課題である。

空気灌流下硝子体手術後に多量の眼内出血を生じた4例

著者: 池田恒彦 ,   田野保雄 ,   張國中 ,   岡本茂樹

ページ範囲:P.1623 - P.1625

 過去4年半の期間に行った増殖糖尿病網膜症に対する硝子体手術のうち,術後に多量の眼内出血をきたした4例を報告した。再手術を行ったが最終的には全例眼球癆となった。ガスは液体に比較して容積変化に対する許容性が高いため,ガスタンポナーデ下の眼球は多量の眼内出血をきたす危険性が高いと考えられる。急激な眼圧低下は出血の誘因となる可能性があるので,術後のガスの膨張による眼圧上昇例に対しては,ガスの一部抜去による急激な低眼圧を避け,持続空気灌流によるガス置換を行うのがよい。

薬の臨床

キノロン系抗菌剤DR−3355のヒト涙液内移行

著者: 富井隆夫 ,   福田正道 ,   佐々木一之

ページ範囲:P.1607 - P.1610

 キノロン系抗菌剤DR−3355のヒト涙液内移行濃度を測定し,薬動力学的に解析した。同時に涙液採取法の違いによる測定濃度の差について検討した。DR−3355はofloxacinの光学異性体(l体)である。この薬剤を正常男性健康人13名(24〜39歳,平均年齢32歳)に,空腹時1錠(100mg)を経口投与したうえで,投与後0.5,1,2,4,8,12時間時点で涙液を採取した。涙液採取は1回の薬剤投与に対し1時点のみとした。涙液採取はガラス毛細管を用いて,涙液メニスカスから直接採取する方法(第一法)と,あらかじめ下結膜嚢に生理食塩水を20μl点眼したうえで,涙液を回収する方法(第二法)を用いた。両方法とも薬剤投与後0.5時間より涙液中への移行を認め,ピーク値は2時間時点で,0.61μg/ml (第一法),0.92μg/ml (第二法)であった。その後,8時間(第一法),12時間(第二法)まで涙液中へのDR−3355の移行濃度が測定可能であった。涙液の採取方法による測定濃度差は,各時点で(第二法)が(第一法)を0.2μg/ml程度上回ったが,両方法の測定値の相関係数は0.9965と良好であった。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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