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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科46巻11号

1992年10月発行

雑誌目次

特集 眼科治療薬マニュアル—私の処方箋

卷頭言—効率的な投与と,副作用への注意

著者: 増田寛次郎

ページ範囲:P.6 - P.7

□眼は心と身体の窓
 眼は心と身体の窓といわれており,いろいろな心身の状態を眼をみることにより知ることができる。
 一方,眼は私達が外界から得る情報のほとんどを受け入れる窓口となっており,眼を開いている時には全情報の80%が眼から入って来るといわれている。五感のうちで最も大切な器管であることはいうまでもない。

点眼薬の基本と留意点

著者: 長瀧重智

ページ範囲:P.9 - P.11

 点眼薬は眼科医にとって身近な治療薬であり,眼科に特有の製剤といえよう。日本薬局方の製剤総則のなかで点眼剤が9項目にわたって規定され,その第1項目に「点眼剤は医薬品の溶液,懸濁液または医薬品を用時溶解もしくは懸濁して用いるもので,結膜嚢に適用する無菌に製した製剤である」と記されている。
 眼は私達の体のなかでもっとも鋭敏な器官の一つで,特に炎症眼では感受性が一段とたかまっている。後に述べるように,点眼された薬の大部分は数秒以内に結膜嚢から涙嚢に排出され,また結膜嚢にとどまった薬もすみやかに涙で希釈される。したがって点眼にあたっては,眼に対する刺激を最小限にとどめる注意が必要である。また点眼薬は患者が長期にわたって少量ずつ使用するので,使用中の微生物による汚染防止への配慮も必要である。さらにコンタクトレンズ(CL)使用者が増加の一途にある今日,CLの装用が点眼薬の眼内移行に与える影響も考慮しなければならない。

抗生物質投与のポイントとコツ

著者: 秦野寛

ページ範囲:P.12 - P.17

 現在,眼科領域で主に細菌とクラミジアに対して用いられる抗菌薬には抗生物質と合成抗菌剤が含まれる。抗生物質は現在よく用いられるものとしてはペニシリン系以下大きく数系統があり,合成抗菌剤はフルオロキノロン系がもっぱら主流である。これら多種多様の薬剤の中から,疾患によって最も適切な薬剤を選択することが理にかなっているが,急性感染が多い眼科領域では,これは至難の技である。本稿では抗菌薬を大きく系統別に考えて,特に眼科領域で必要性のある代表的薬剤の選択法を解説したい。従って,眼科細菌感染での重要起炎菌種を鑑み,他科で用いられていても眼科で重要でないものは省いた。

MRSA—予防と対処法

著者: 大石正夫

ページ範囲:P.18 - P.22

 MRSAとは,メチシリン耐性黄色ぶどう球菌(Methicillin-resistant Staphylococcus aureus)の略称である。
 しかし,MRSAはメチシリンのみならず,β-ラクタム薬と呼ばれる抗菌薬,すなわち耐性ブドウ球菌用ペニシリンをはじめ全てのペニシリン系,およびセフェム系薬剤のほとんどすべてに耐性を示す。さらに多くのアミノ配糖体薬やマクロライド系薬にも耐性で,現在臨床に常用されている薬剤のほとんど全てに耐性を示す多剤耐性菌である。

眼科診断用薬の使い方と注意点

著者: 吉村長久

ページ範囲:P.23 - P.26

 眼科の日常診療で使用される診断用薬剤には種々のものがある。しかし,その全てを記載するわけにはいかないので,本特集では神経眼科領域で比較的高頻度に使用される瞳孔不同の診断薬と,筋無力症の診断に用いられているアンチレックスに焦点を絞りたい。

抗ウイルス,抗真菌薬の使い方と注意点

著者: 石橋康久

ページ範囲:P.27 - P.30

 細菌に対する抗生剤は比較的早くから開発され,臨床の場で使用されてきた。しかしウイルスや真菌に対しては薬剤の研究,開発が遅く,やっと最近になり抗ウイルス剤や抗真菌剤がたくさん合成されるようになってきた。ここでは抗ウイルス剤および抗真菌剤を取り上げ,その使用に際しての実際的な使い方と注意点について述べる。

抗アレルギー薬の使い方と注意点

著者: 湯浅武之助

ページ範囲:P.31 - P.35

即時型アレルギー反応と抗アレルギー薬
 結膜や上気道粘膜に侵入した抗原はマクロファージやランゲルハンス細胞に捕捉され,その情報はリンパ球に伝達される。その結果,リンパ球相互間の反応により,抗体産生細胞が誘導され,粘膜内でIgE抗体が産生される。IgEは肥満細胞や好塩基球の細胞膜と結合し,抗原と遭遇するとIgE2分子に抗原が結合し,細胞内では図のような反応が起こり,これらの細胞から化学伝達物質が放出される。この即時型アレルギー反応の主役はIgE抗体と肥満細胞,好塩基球である。肥満細胞または好塩基球の細胞膜に結合した化学伝達物質には抗原とIgEが反応する以前から,これらの細胞内で産生されているもの(preformed media-tors)と,反応後に産生されるもの(newlygener-ated mediators)とがある(表1)。
 近年,「抗アレルギー薬」と呼ばれる薬剤が相次いで登場し,臨床的に広く使用されている。これらの薬剤はIgE抗体が関与する肥満細胞や好塩基球からの化学伝達物質の遊離を抑制するものである。抗アレルギー薬は経口投与,点眼のほか,気道アレルギーでは吸入,噴霧などの投与法がある(表2,3)。抗アレルギー薬にも副作用はあるが,ステロイド点眼薬にみられるような重篤なものはまれである。

副腎皮質ステロイド薬の使い方と注意点

著者: 沖波聡

ページ範囲:P.37 - P.40

 副腎皮質ステロイド薬(以下,ステロイド)は炎症に対して最も効果が期待できる薬剤であるが,副作用も必ず伴い,両刃の剣といってもよい。ステロイドの使い方と副作用についてはこれまでにも多数の文献1-7)があるが,ステロイドを使う場合に最も大切なことは副作用に注意を払うことである。局所投与でも全身的に影響を生じることがあるのを忘れてはならない。

術後消炎薬の使い方と注意点—1)IOL術後

著者: 釣巻穰

ページ範囲:P.41 - P.45

 眼内レンズ挿入が一般化するとともに,水晶体摘出術後の消炎は術後フィブリン対策などの点から極めて重要になってきている。一方,房水フレアー強度を数値化して短時間に測定できるレーザーフレアセルメーター(LFCM)の出現で術後消炎の研究は大きく進歩した。そこで,本項ではLFCM測定結果を併用しながら術後消炎法と留意点を紹介する。

術後消炎剤の使い方と注意点—2)硝子体手術術後

著者: 中沢満

ページ範囲:P.46 - P.48

 硝子体手術,とくに硝子体切除術は1971年にMachemerら1)が経毛様体扁平部アプローチを報告して以来一般に普及するところとなり,手術器具や周辺機器の改良,手術手技の進歩,代用硝子体の利用などにより手術適応が急速に拡大され,かつ手術成績もかなり安定したものとなってきている。近来の眼科学の歴史の中でも硝子体手術の進歩は特筆すべきもののひとつといえるが,手術手技の進歩は同時に多重手術を可能とし,硝子体切除に加えて水晶体切除または摘出,眼内レンズ移植,角膜移植,網膜上および網膜下病巣除去などが併用される機会もしだいに増えつつあり,手術操作が単に硝子体腔のみにとどまらず眼球全体に及ぶことも稀ではない。このような状況をふまえて硝子体手術後の消炎剤の使い方について筆者の考えをまとめてみたい。

術後消炎薬の使い方と注意点—3)網膜剥離手術術後

著者: 吉田晃敏 ,   太田勲男

ページ範囲:P.49 - P.51

 網膜剥離に対する強膜内陥術術後の消炎薬の使い方についてその概略を述べる。
 強膜内陥術は網膜剥離の範囲や重症度によってその手術法も異なり,従ってそれによる手術侵襲の程度も異なる。一般に本手術法は,他の眼科手術に比べ外眼部に対する手術侵襲が最も大きく,患者が術後疼痛を訴えることもある。また,眼瞼の腫脹,角膜障害によって,術後の管理として最も重要な眼底検査が十分に行えないこともしばしば起こり得,さらに場合によっては再手術を要することもあるので,術後速やかにかつ積極的に消炎を図ることが必要である。

コンタクトレンズ消毒薬およびCL障害治療薬

著者: 市川高文 ,   金井淳

ページ範囲:P.52 - P.54

コンタクトレンズ消毒薬
 我が国でのソフトコンタクトレンズ(SCL)消毒方法としては,煮沸消毒法のみが認可されており,1972年(昭和47年)における厚生省の指導により,使用前に必ず煮沸する(100℃ 20分間)ことが原則となっている。煮沸消毒法は胞子や一部のウイルス等を除き有効であり,安全でよい方法であるとされている。しかし,①操作が煩雑であり,扱いにくい,②熱によりSCLの素材の劣化やたんぱく汚れの変性などによるレンズの劣化が発生する可能性がある,③電源装置が必要なため戸外などは使用できない,などの欠点をもつ。これを補う形で,近年化学的な消毒薬によるSCLの消毒法(化学消毒法)の開発が行われており,欧米においては化学消毒法が主流となってきている。
 コンタクトレンズ消毒薬は以下に述べるように,①過酸化水素を含むもの,②その他の消毒薬を含むものに大別される。

免疫抑制剤—投与法と患者管理

著者: 望月學

ページ範囲:P.55 - P.58

 免疫抑制剤は,免疫応答を担う種々の免疫細胞(リンパ球,抗原提示細胞,好中球,好酸球,肥満細胞,形質細胞など)を傷害あるいは機能抑制することにより,免疫反応を抑制する作用を有する薬剤で,表1に眼科領域で用いられている代表的な薬剤を示す。この中で,副腎皮質ホルモンは別項で記述されるので本稿では省略し,我が国で,入手可能で眼科領域でよく使用されているシクロホスファミドとシクロスポリンについて,その投与法と患者管理について記す。

鎮痛薬投与の実際

著者: 平光忠久

ページ範囲:P.60 - P.62

 角膜,結膜,強膜,虹彩などの前眼部・外眼部の疾患や眼窩内疾患には眼痛を伴う疾患が多く,しばしば激しい眼痛のために患者は日夜悩まされることがある。視力の回復が望めない時は激しい眼痛から患者を救うために眼球摘出を余儀なくせざるを得ないこともある。また種々の術後にも眼痛が起きることはよくある。眼痛は眼症状の内でも最も重篤な症状である。
 一般に疼痛は局所に物理的,化学的刺激が加えられた時でも.炎症による時でも局所の知覚神経の末端に種々の化学伝達物質(プロスタグランディン等)が作用することにより生じる。大部分の鎮痛剤はこれらの化学伝達物質を抑制する非ステロイド性抗炎症剤であり,一般に消炎,解熱および鎮痛作用を有する。

手術時トラブル対処法—緊急薬剤使用法のポイント

著者: 目黒和子

ページ範囲:P.63 - P.67

 近年高齢者における眼科手術症例は非常に増加しているが,高齢者では循環器合併症を有する頻度は高く,たとえ心疾患の既往が無くても循環器系の予備力は極度に少なく,全例が循環器合併症の予備軍である。そこで全身麻酔をかけることはそれ自体大きな手術に匹敵する侵襲となり,高齢者の眼科手術はできる限り局所麻酔で行いたい。
 局所麻酔下の眼科手術でも,予備力の少ない高齢者では様々の合併症を起こし得る。そして一度合併症を起こすとそこからの立ち上がりが非常に難しくなるため,予測される合併症に関しては予め予防することが非常に重要となる。そこで我々の施設において行っている合併症の予防策と,手術室においてよく見られる合併症の治療法について述べる。さらに眼科治療法との関連において予測される合併症について言及したい。

止血薬の使い方

著者: 松橋正和

ページ範囲:P.68 - P.70

 眼底出血をきたす疾患は数多い。しかし血液疾患以外で,血液凝固あるいはフィブリン溶解(線維素溶解,線溶)などに関与する薬物投与が必要な状態は実際はまれであり,したがって眼科医が用いるべき止血薬は,その機会は非常に限られている。

循環改善薬の使い方

著者: 戸張幾生

ページ範囲:P.72 - P.74

血管拡張薬
 眼局所の循環障害の改善あるいは軽減させる血管拡張薬は,網脈絡膜疾患,視神経疾患,緑内障などに広く使用されている。血管性病変以外に炎症性疾患や変性性疾患にも併用薬として用いられている。
 血管拡張薬は,速効性のもの,持続性のもの,また循環障害の種類や程度により多数の薬剤があり,より効果的なものを選択する。とくに眼組織の血液供給最を増加させるように作用する薬剤を列挙し,使用法,副作用などを記述する。

疾患別薬剤投与プロトコール

感染性角膜疾患

著者: 宇野敏彦 ,   大橋裕一

ページ範囲:P.76 - P.79

1.細菌性角膜潰瘍
 薬物療法の現況
 細菌感染に対する現代の主力治療薬は,ペニシリン・セフェム系とニューキノロン系である。この傾向は点眼薬においても同様である。一方で,以前は汎用されていたアミノグリコシド系薬剤が第一線から姿を消しつつある。

非感染性角膜疾患

著者: 西田幸二 ,   木下茂

ページ範囲:P.80 - P.82

薬物療法の対象疾患
 非感染性角膜疾患のうち薬物療法が治療の主体となる疾患は,各種の角膜上皮障害,周辺部角膜潰瘍を生じる免疫疾患,原発性および2次性の瘢痕性角結膜上皮疾患などである。各疾患の病態と重症度を把握して投与する薬剤を選択する。変性症など他の非感染性角膜疾患では外科的治療が主体になる.

種々の結膜炎

著者: 宮永嘉隆

ページ範囲:P.85 - P.89

 結膜の炎症すべてを結膜炎と総称すると,ごく一過性のものまで結膜炎となってしまう。一晩寝たら治っていたなど疾患として取り扱う必要はなかろう。目が赤いなどの主訴の場合は充分に問診する必要がある。結膜炎は感染性と非感染性のものに大別される。結膜炎患者に対した場合,感染性のものであるか否かを鑑別することが最初のチェックポイントである。感染性のものが疑われる時は年齢,外眼部所見,眼脂の状態,潜伏期,患者周囲の環境など充分にチェックし,細菌性かクラミジアか,ウイルス性かなどを鑑別する。診断がついたら第一選択薬を何にするか,その状況に応じて臨機応変に対処すること。常にきまった点眼処方などは治療を遅らせることにつながる。一方,非感染性のものでは近年,環境汚染や生活環境の変化に基づく問題がクローズアップされて来ている。
 アレルギー疾患,ドライアイなどを含めて今後,最も注目され,考えていかなくてはならない問題であり,こういった結膜炎,角膜炎にどのように対処するかは眼局所の問題ばかりでなくトータルに考えていかなくてはならない問題である。

角膜のアレルギー性疾患

著者: 田川義継

ページ範囲:P.90 - P.92

薬物療法の現況
 角膜は正常時には無血管組織であり,リンパ管もないため,炎症や免疫反応の起こりにくい組織である。しかし,いったん角膜に抗原や病原体などが飛入・侵入すると角膜輪部の血管や結膜,さらには前房や隅角を通して炎症細胞や炎症にかかわるさまざまな液性因子が角膜に浸潤・移行し,炎症や免疫反応がおこる。角膜では,通常肥満細胞や好酸球などの細胞が常在しないため,結膜でみられる春季カタルやアレルギー性結膜炎などのIgE抗体が関与するI型アレルギー反応は起こらないといわれている。また,結膜アレルギーの治療については別の項で詳しく述べられているので,ここでは角膜におこる免疫反応による炎症性疾患の薬物療法について述べる。表1に角膜の免疫疾患をあげた。これらの疾患に対する治療薬として現在用いられているものとして,ステロイド剤,免疫抑制剤および非ステロイド系消炎剤などがある。これらの薬剤の中では,やはりステロイド剤の使用が全身投与,局所投与をとわず中心となるので,以下ステロイド剤を中心に,使用法の実際について述べる。ステロイド剤以外の薬物療法では,新しい免疫抑制剤であるシクロスポリンが,注目されている。シクロスポリンはすでに臓器移植の分野で高い有効性が確認されているが,眼科領域でも現在難治性ベーチェット病に対する新しい治療薬として用いられている。

結膜のアレルギー性疾患

著者: 三國郁夫

ページ範囲:P.93 - P.95

薬物療法の現況
 一般的に,ステロイドの点眼が使われている。軽いものにはフルオロメトロン点眼のみ使う場合はむしろ少なく,フルオロメトロン点眼とエリックス,インタール,サジテン点眼のうちのひとつと組合わせて使うことが多いようである。重症例になると,直ちにステロイドの点眼を使って,効かないとお手あげになって大学病院にかけこんでくる例が多い。この場合にも,2種以上の抗アレルギー点眼剤を使っているのが普通である。何種類もの点眼を使うことは,どの薬が効いて,どの薬が効かないかを区別するのが難しくなる。

強膜炎

著者: 藤野雄次郎

ページ範囲:P.96 - P.97

 強膜炎は日常の臨床ではあまり多く遭遇するものではないが,治療に抵抗することが多く難治なため注意を要する疾患である。強膜炎は前部強膜炎と後部強膜炎に分けられる。前部強膜炎はびまん性,結節性,壊死性に大別され,さらに壊死性強膜炎は壊死性結節性強膜炎と壊死性強膜軟化症に分けられる。後部強膜炎は以前は非常に稀であったが,診断技術の向上(CT scanや超音波検査)とともに散見されるようになってきている。

白内障治療薬

著者: 藤原隆明

ページ範囲:P.99 - P.102

薬物治療の現況
 白内障は,その成因・発症時期・混濁部位・形態・進行程度などによってさまざまに分類される(表1)。これらのうちで成人になって発症し進行するもの(その大部分はいわゆる老人白内障である)は,最近の白内障手術において行われる眼内レンズ(IOL)挿入手術の成功率が著しく高くなったところから,早期手術となる傾向がでてきている(1992年(平成4年)4月1日から老人白内障に対するIOL挿入手術は保険適応となってさらにこの傾向に拍車がかかった)。その反面,水晶体混濁の出現ないしは進行を確実に阻止し得る薬物が依然として出現しないことから,その薬物療法については未だ見るべき画期的なものがないというのが現況である。

白内障手術後使用薬剤—術後感染症やCME

著者: 三宅謙作

ページ範囲:P.103 - P.105

 本稿では,各種術後眼内炎およびCMEの予防法と治療法について概説する。

ドライアイ

著者: 坪田一男

ページ範囲:P.106 - P.107

ドライアイ薬物療法の現況
 涙液の産生を増やす薬物は未だ臨床応用されていない。そこで人工涙液点眼による対症療法が主体となる。涙液中には上皮成長因子であるEGFや角膜上皮の分化に重要なビタミンAが含まれているため,人工涙液にはこれら生理的活性物質が含まれた方が良いと考えられているが,未だ理想の人工涙液は開発されていない。そこで生理食塩水や,pHと浸透圧の補正されている人工涙液,コンドロイチンなどの粘稠性物質を含んだものが主流となっている。

原田病

著者: 櫻木章三

ページ範囲:P.109 - P.111

 原田病は,日本人に多いぶどう膜炎の代表で,メラノサイトに対する細胞性免疫が主役をなす自己免疫疾患とする説が有力である。眼外症状である髄膜刺激症状,耳鳴・難聴,皮膚白斑,毛髪・睫毛の白変,脱毛を含め,回復期の夕焼け状眼底も上述の機序により説明される。
 眼底の初期病変は,乳頭・黄斑部を含む後極部に発生する,限局性で境界の比較的鮮明な漿液性網膜剥離の多発で,これらは次第に融合して拡大する。原則として両眼性で,たとえ片眼性に発症しても数日中に両眼性となる。乳頭充血ないし乳頭浮腫を呈して初発する場合があることに注意を要する。前房細胞と硝子体内炎症性細胞も,多かれ少なかれ存在する。

ベーチェット病,サルコイド性ぶどう膜炎

著者: 小暮美津子

ページ範囲:P.113 - P.116

ベーチェット病
 眼病型
 本症の眼病型は,虹彩毛様体炎型(前眼部型)と網脈絡膜炎型(眼底型)に2大別される。前眼部型は虹彩毛様体炎の繰り返しのみで,全経過を通じて眼底に病変は現われない。再燃(発作)のたび毎に眼局所に適切な消炎処置を速やかにほどこせば,視力は生涯良好に保たれる。虹彩毛様体炎のみならず,眼底にも出血や滲出斑,血管炎その他多彩な病変が再燃寛解を繰り返すうちに,寛解期になっても網膜の浮腫・混濁や硝子体混濁などが残るようになり,蛍光眼底撮影でもさまざまな異常が観察され,ついには回復不可能な視力低下をまねくのが眼底型である。

感染性網膜硝子体炎症

著者: 西村哲哉

ページ範囲:P.117 - P.120

薬物療法の現況
 網膜硝子体の眼内感染症は以前では結核,梅毒,穿孔性外傷後の細菌性眼内炎が主であったが,近年は減少した。しかし,医療技術の進歩と共に,日和見感染としての真菌性眼内炎やウイルス感染によるものが増加してきた。最近は,新しい抗真菌剤や抗ウイルス剤が次々と開発されており,これらの治療に効果をあげている。本項では内因性真菌性眼内炎,桐沢型ぶどう膜炎(急性網膜壊死),サイトメガロウイルス網膜炎の薬物治療についてのべる。

角膜移植術後の拒絶反応

著者: 澤充

ページ範囲:P.121 - P.125

角膜移植術後の移植免疫
 移植免疫はリンパ行性にグラフトの抗原が所属リンパ節に到達し,リンパ系が担当する。角膜においては輪部を除いてリンパ経路が欠如しているが抗原の移動経路として角膜実質の膠原線維間隙が考えられている。したがって角膜に血管新生がある場合はこの抗原の輸送,移動が血管新生がない場合よりも容易であり,拒絶反応も生じ易いと考えられる。拒絶反応は術後3〜5週以後5〜6か月の間に生じることが多いが,拒絶反応はこれ以外の期間のいずれでも生じる可能性がある。発症頻度は数%〜50%と報告により異なるが大体30%と考えられる1-3)。また発症頻度は血管の有無によっても異なり,血管新生の強い例では高い。発症因子としては血管新生以外にホストグラフトの創傷面のアライメント不良,治癒不全,虹彩癒着,創の哆開,糸のゆるみなど炎症担当細胞を遊走させる状態が考えられる。

斜視・弱視・眼瞼痙攣

著者: 田淵昭雄

ページ範囲:P.126 - P.128

薬物療法の現況
 斜視の薬物療法としてはアトロピン(atropine)点眼,抗コリンエステラーゼ(anticholinester—ase)点眼,アモバルビタール(amobarbital)など,調節,輻輳,開散に関連するもの,過緊張性のものなど直接斜視成因に関与している場合,1歳前後の乳幼児で,眼位改善や交代視の目的に,あるいは調節性内斜視(屈折性)に行われる眼鏡矯正が不可能な場合に用いられる。また,まだ治験段階ではあるが,A型ボツリヌス毒素(clos—tridium botulinum)を外眼筋に直接注射して作用減弱を行う方法が近い将来用いられるだろう。
 弱視の薬物療法には,アトロピン点眼,抗コリンエステラーゼ点眼を遮閉療法が不可能な乳幼児,潜伏性眼振例や重度弱視例に,アモバルビタールを心因性弱視例に適用する。

眼筋型筋無力症

著者: 岩重博康

ページ範囲:P.129 - P.131

 神経筋シナプスを構成する因子の一つであるシナプス後膜側に局在するニコチン性アセチルコリン受容体が,抗体によって破壊され神経と筋の伝達が阻害されると筋の収縮が障害される。その結果,筋の持続的な収縮にたいして異常に早く筋力の低下,疲労現象を生ずる自己免疫性疾患が筋無力症である。発症の原因については不明だが,胸腺の異常が推定されている。

緑内障—交感神経薬,炭酸脱水酵素阻害薬

著者: 高瀬正彌

ページ範囲:P.133 - P.137

緑内障薬物療法の現状
 緑内障の治療目的の主なものは,眼圧を健常範囲に調整することであろう。房水排出路の再構築,房水産生の抑制等に観血的手術やレーザー手術,冷凍凝固等が有効であるが,ここでは交感神経薬と炭酸脱水酵素阻害薬に関し検討したい。
 これらの治療薬は緑内障の病型,病期,房水循環動態,年齢,病識等の複雑な要因を考慮にいれて薬剤投与プロトコールに組み込む必要がある1)

緑内障および続発緑内障—プロスタグランディンを中心に

著者: 三嶋弘

ページ範囲:P.139 - P.141

薬物療法の現状と展望
 緑内障および続発緑内障は,その病型や原因がさまざまで,疾患別薬剤投与プロトコールを明確にするのは大変困難である。現在,緑内障の病型,原因と病状の程度に応じて,β—プロッカー,交感神経作動薬,副交感神経作動薬,炭酸脱水酵素阻害剤がひんぱんに使用されている。
 これらに加えて,プロスタグランディン(PG)が緑内障の治療薬として登場するのも間もない。PGはホルモンや神経伝達物質と同様に我々の生体内に存在する生理活性物質である。ホルモンが長時間作用し,神経伝達物質が非常に短時間作用するのに比べて,局所ホルモン,オータコイドはこれらの中間作用をする。PGはこのオータコイドの中のひとつである。交感神経作動薬,副交感神経作動薬などに加えて,生理活性物質であるPGを緑内障治療に用いるのは非常に合理的である。

糖尿病網膜症

著者: 山下英俊

ページ範囲:P.143 - P.145

薬物療法の現況
 糖尿病網膜症の治療の基本は全身的な血糖コントロールである。眼局所に対しての薬物療法は効果が期待できるのは軽症の単純網膜症期(福田分類AⅠ,AⅡ初期)である。それ以降の時期には網膜光凝固術,硝子体手術が主役となり,薬物療法は補助手段である。一般に薬物療法では,病態を把握し主たる原因をつきとめ,それに対して適切な薬物を選択し,効果を何等かの方法で検定しつつ用いるのが理想である。感染症などこの方法が確立している疾患と異なり糖尿病網膜症では上記の各ステップが何れも不完全である。今後の大きな課題と考えられる。

眼部腫瘍

著者: 金子明博

ページ範囲:P.146 - P.150

薬物療法の現況
 眼科領域に発生する腫瘍は多数あるが,局所的治療法である手術療法や放射線療法が有効なことが多く,薬物療法が適応となる場合は少ない。しかし眼は重要な感覚器官であり,容貌の中心でもあるので,眼球摘出や眼窩内容除去などの手術的侵襲を加えずに,機能を温存して,しかも放射線白内障や網膜症などの後遺症を伴わずに,全身的な副作用の少ない薬物療法で治癒可能ならば,これに優る治療法はない。しかし現実には,有効な薬物は少なく,副作用の多い薬物が多いので,十分に注意して使用する必要がある。

視神経疾患

著者: 若倉雅登

ページ範囲:P.151 - P.153

 代表的な視神経疾患として視神経炎と虚血性視神経症とをとりあげて記述する。

網脈絡膜循環障害

著者: 鈴木隆次郎

ページ範囲:P.154 - P.155

薬物療法の現況
 網膜循環障害は網膜疾患のなかでは頻度は多く,治療方法は薬物療法と障害領域の虚血網膜に対する光凝固療法が主体である。薬物療法は,血栓の溶解,抗凝固療法,血管の拡張が主体である。

黄斑部疾患—中心性漿液性脈絡網膜症・黄斑変性症

著者: 齋藤友護 ,   若林謙二

ページ範囲:P.157 - P.159

中心性漿液性脈絡網膜症
治療の原則
 まず類似の所見を示す他の疾患たとえば中心性滲出性脈絡網膜症,網膜色素上皮裂孔に伴う漿液性網膜剥離,初期老人性円盤状黄斑変性症,後極部多発性網膜色素上皮症などとの鑑別が重要である。なかでも網膜色素上皮裂孔に伴う漿液性網膜剥離では早期のレーザー光凝固術で速やかに治癒せしめうる例があり,診断を誤りいたずらに薬物療法を行った場合重篤な後遺症を残す恐れがあるので注意を要する。後極部多発性網膜色素上皮症においても同様のことが言える。中心性漿液性脈絡網膜症の診断は蛍光眼底造影において早期像で剥離部内の点状過蛍光,中・後期像で同部位からの色素漏出を認めれば確定できる。本症は数か月の経過で自然治癒をみることの多い疾患であるが,変視症,小視症などの早期改善を目的として,また神経上皮剥離が遷延すると神経上皮が変性に陥る危惧があることから早期の復位を目的として蛍光眼底造影における漏出点に対しレーザー光凝固術が行われることが多い。しかし漏出点が中心窩から近い(約300μm以下)場合,漏出の程度が微弱な場合あるいは漏出点が明らかでない場合は保存的療法の適応となる。

眼精疲労

著者: 西信元嗣

ページ範囲:P.160 - P.161

薬物療法の現況
 眼精疲労は種々の原因によって起こる症状である。すなわち物を見る作業をすると眼もしくは心・身に異和感を訴える。
 その原因疾患には,視覚系疾患,全身的疾患,心因性疾患,環境不適応などがある。その治療の根本は,原因疾患の治療である。したがって眼精疲労の薬物療法は,原因疾患に対するものと,原因疾患加療中の症状寛解に用いる対症療法とがある。

眼筋麻痺・眼筋ミオパシー

著者: 可児一孝 ,   西田保裕

ページ範囲:P.163 - P.165

末梢神経麻痺による眼球運動障害
 末梢神経麻痺による眼球運動障害の患者の場合,治療に先立って原因の徹底的検索が必要なのは言うまでもない。すなわちその原因が腫瘍や動脈瘤による圧迫などの場合は速やかに診断を行い,脳外科的治療が優先となる。また糖尿病や高血圧・動脈硬化などが原因となる場合はこの基礎疾患に対する治療が必要となる。
 そして眼科的にはまず障害された神経に対しての薬物治療を行う。しかし薬物療法の効果がない場合は,不全麻痺では外眼筋の前後転術,完全麻痺では筋移動術が必要となる。

眼底出血

著者: 竹田宗泰

ページ範囲:P.167 - P.169

薬物療法の現況
 眼底出血の治療には従来から1)血管拡張剤,2)血管強化剤,3)抗凝固剤(ワーファリン,ヘパリン),4)蛋白分解酵素製剤,5)血液凝固促進剤などがある。最近は6)抗血小板作用と血管拡張作用をもつプロスタグランディンス(PGI2,誘導体,PGE1),7)組織プラズミノーゲン活性化因子,8)抗血小板作用を利用したアスピリン,9)瀉血などの有効性が検討されている。

病的近視・偽近視

著者: 所敬

ページ範囲:P.170 - P.170

病的近視とは
 病的近視は変性近視ともいわれているが,厚生省の難病研究班の基準によると屈折度と矯正視力とから表のごとく定義されている。病的近視の原因は眼軸長の延長によるが,これによって網膜脈絡膜萎縮を生じ視力低下が起こる。しかし,これに対する薬物療法はない。
 合併症には網膜剥離,緑内障,脈絡膜出血,白内障,硝子体融解などがある。網膜剥離と緑内障に対してはそれぞれの疾患に対する治療をするが,緑内障には強度近視を伴わない緑内障にくらべて眼圧コントロールを低値にしておく必要がある。脈絡膜出血には単純型出血と血管新生型出血(Fuchs斑)とがあり,中心窩に出血した場合には急激な視力低下を起こす。単純型出血は出血の吸収と共に視力は回復するが,新生血管型出血の場合には視力低下が持続し,永続的な視力低下となることがある。この脈絡膜出血に対しては止血薬や循環薬を用いる。

眼外傷性疾患

著者: 三村松夫 ,   稲富誠

ページ範囲:P.171 - P.173

 眼の外傷は,症例毎に障害の及ぶ範囲と程度が異なり,しかも緊急を要する場合が多い。したがって治療にあたっては,速やかに的確な診断を下し,薬物療法,手術療法を選択していかねばならない。ここでは眼打撲による内眼損傷ならびに骨折と穿孔性眼外傷の薬物療法について述べる。外傷に特長的な薬物療法はないが,感染の予防と炎症や出血,浮腫などの軽減が目的となる。

涙嚢炎

著者: 濱野孝

ページ範囲:P.174 - P.174

急性涙嚢炎
 ごくまれな例外を除いて,慢性涙嚢炎を持つ患者に発症する。涙嚢やその周囲の発赤腫脹および疼痛が著明であり診断は容易である。
 結膜嚢内の分泌物または膿からの菌の培養同定を行うが,まず急性涙嚢炎では抗生物質の経口または経静脈投与を行う。炎症が強い場合や疼痛を訴える場合には,必要に応じて,消炎酵素剤や消炎鎮痛剤を投与する。消炎後は,慢性涙嚢炎に対する治療を行う。

眼窩蜂窩織炎・眼窩漏斗先端部症候群

著者: 八子恵子

ページ範囲:P.175 - P.177

眼窩蜂窩織炎
 眼窩蜂窩織炎の治療は,薬物療法が主体であり,原因菌が判明するまではまず広域抗生剤を強力に投与する。本症の起因菌の多くはブ菌あるいは嫌気性菌であり,これらに有効なペニシリン系およびセフェム系薬剤などを第一選択とする。原因菌が確定したならば,その薬剤感受性に従って薬剤を選択,投与することを原則とするが,時に菌が同定されないこともある。また,抗生剤の選択にあたっては,耐性菌の少ないもの,副作用の少ないものを選ぶことが基本である.

網膜色素変性症

著者: 塩野貴

ページ範囲:P.179 - P.181

現状では
 原発性網膜色素変性症は遺伝形式により常染色体優性,常染色体劣性,性染色体劣性,孤発例と分類されていたもののその原因は不明であった。しかし近年の分子生物学の進歩により常染色体優性遺伝を示す患者(日本人患者を含めて)の中にロドプシン1,2)やrds遺伝子3)の異常が明らかにされ,また性染色体劣性網膜色素変性症の遺伝子異常4)も解明されつつある。将来は遺伝的原因がすべて明らかとなり根本的に遺伝子療法が行われるであろう。しかし残念ながら,現在のところ,遺伝的原因が明らかになったのは少数例のみであり,原因別に対応した根本的な治療法はまだない。従って経験に基づいた多種多様な薬物が用いられている。このなかで炭酸脱水酵素阻害剤であるアセタゾラミド(ダイアモックス®:5-acetamide-1,3,4-thiadiazole-2-sulfonamide)5)が最近注目を浴びており,我々も良い結果を得ているのでまず紹介し,続いてよく使用されている他の薬剤について述べる。

硝子体混濁・硝子体出血

著者: 出田秀尚

ページ範囲:P.183 - P.186

薬物療法の現況
 硝子体混濁および出血には,表1にあげるようなさまざまな種類がある。種類に応じて薬物療法をするか,手術をするかが決まる。最初から薬物療法が期待出来ないのは表2の中で一次硝子体過形成遺残や硝子体動脈遺残などの先天性混濁,老人性や近視性の硝子体融解,雪玉状混濁やコレステリン結晶の硝子体閃輝症,アミロイド沈着などで視力障害が高度なものは手術が行われる。炎症性混濁や出血性混濁および腫瘍性混濁は,原因に応じて各々薬物治療の対象となるが,効果がなく,かつ高度の視力障害を残す場合は手術療法に切りかえられる。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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