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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科46巻13号

1992年12月発行

雑誌目次

連載 眼科図譜・316

眼底全域に散在性に生じた急性網膜色素上皮炎

著者: 松原孝 ,   加藤研一 ,   田中英夫 ,   山川良治

ページ範囲:P.1648 - P.1649

 緒言:急性網膜色素上皮炎は,1972年,KrillとDeutmanにより黄斑部を中心とした網膜色素上皮に特徴的な炎症のみられる疾患としてはじめて報告された1)。この疾患は,急激な視力低下で発症して数週間で自然緩解し,眼底には中央に黒い芯があり周囲に灰白色のハローを伴った滲出斑が黄斑部付近の色素上皮層に数個みられるのが特徴である1,2)。筆者らはこのKrillとDeutmanの報告と同様の特徴的な病変が眼底全域に多発性散在性にみられた症例を経験したので報告する。
 症例 患者:18歳,女性

眼の組織・病理アトラス・74

眼瞼の脂腺癌

著者: 坂本泰二 ,   猪俣孟

ページ範囲:P.1652 - P.1653

 脂腺癌Sebaceous adenocarcinomaは主に眼瞼に発生する悪性腫瘍である。多くは,マイボーム腺から発生し,まれにツアイス腺からも発生する。高齢者に好発し,上眼瞼にできることが多い。眼瞼皮下に無痛性の小腫瘤が形成され,臨床上霰粒腫として治療されていることが多い。腫瘍の浸潤の違いによって,慢性の結膜炎症状を示す場合や,嚢胞を形成する場合がある(図1)。発症の初期に発見することが困難な場合があり,初発から半年以上経過して受診することもまれではない。本腫瘍は,転移性が高いだけでなく,発見が遅れることが多いために生命の予後は悪い。
 治療は腫瘍の全摘出である。病理学的検索のさいには,切除断端に腫瘍が残っていないことを確認する必要がある。また,断端に腫瘍細胞がなくても遠隔転移をすることがあるので,脈管内や神経内への浸潤についても調べなければならない。放射線療法は効果がない。

今月の話題

最近における白内障超音波乳化吸引術について

著者: 三宅謙作

ページ範囲:P.1656 - P.1662

 水晶体乳化吸引法(phacoemulsification/aspiration,以下PEA)は,小切開対応IOLの導入,continuous circular capsulorhexis (以下CCC)やhydrodissectionなど術式の改良,および乳化吸引器具の改良の3者が一体となって,今日かつてみないほど頻繁に施行される白内障手術術式となっている。本総説ではこれらの3つの点,特に手術器具の改良について解説を加えた。

眼科手術のテクニック—私はこうしている・48

角膜表層穿刺

著者: 細谷比左志

ページ範囲:P.1664 - P.1666

適応
 急性期の再発性角膜上皮びらんあるいは角膜上皮接着不良症とでもいうべき病態が適応となる。再発性角膜上皮びらんの原因としては特発性,外傷性,硝子体手術後の糖尿病患者にみられるもの(図1)など,いずれでもよい。未治療のものはもちろんのこと,圧迫眼帯や治療用ソフトコンタクトレンズなど通常の治療に抵抗するものでも,本法のよい適応となる。内皮障害による水疱性角膜症は適応にならない。

目でみるCT・MRI眼科学・6

[6]眼窩内疾患(2)

著者: 中尾雄三

ページ範囲:P.1668 - P.1672

12.リンパ管腫(図1)
 小児期に発生して腫瘍内出血を繰り返し眼瞼下垂や眼球突出をみる。CTでは辺縁不整な高吸収域を示す。MRIではT1強調画像で外眼筋と等信号輝度,T2強調画像で高信号輝度な不整形の腫瘍に描かれる。腫瘍内出血はhemoglobinのFeイオンが経時的に変化するため,時期により異なる信号輝度を示す。初期のdeoxyhemoglobinはT1強調画像で等信号輝度,T2強調画像で低信号輝度になり,中期のmethemoglobinはT1, T2強調画像のいずれでも高信号輝度になる。後期のhemosiderinはT2強調画像では低信号輝度になり,腫瘍内隔壁も低信号輝度になる。
 13.Sjögren症候群・Mikulicz症候群(図2)
 涙液や唾液分泌減少をともなうSjögren症候群,白血病やリンパ肉腫に合併するMikulicz症候群では涙腺腫脹がみられる,CTで高吸収域(一部に低吸収域),MRIではT1強調画像で低信号輝度,T2強調画像で高信号輝度となる。涙腺腫瘍のような涙腺窩の拡大や破壊はない。

臨床報告

Myelodysplastic syndromeの白内障手術症例

著者: 門之園一明 ,   森冨喜子 ,   稲村幹夫

ページ範囲:P.1673 - P.1676

 50歳女性,myelodysplastic syndrome(MDS)患者の白内障手術を経験した。最近注目されている血液疾患であるMDSは高齢者に多くみられ,増加傾向にある。MDSの白内障の合併頻度は多いと思われるが,白内障手術の報告は内外ともに未だみられない。血液疾患患者の内眼手術は易出血性,易感染性に対して特別な配慮を要する。今回筆者らは血液内科医と協力し,術前に好中球系前駆細胞のみを比較的選択的に増殖させる因子であるgranulocyte colony-stimulating fac-tor(G-CSF)を使用し,顆粒球数を改善させ,その機能を亢進させた。そして,十分な抗生物質を投与し,血小板輸血を行うことで免疫・凝固能を改善し,その後,両眼の超音波乳化吸引術を施行し,良好な結果を得ることができた。G-CSFの使用,および十分な抗生物質の投与などが有用であったと考えられた。

回折型多焦点眼内レンズ移植眼の術後視機能

著者: 田上勇作 ,   大嶋英裕 ,   山本成章 ,   並木真理 ,   横川浩己

ページ範囲:P.1677 - P.1681

 回折型多焦点眼内レンズ移植を行った53名80眼の術後視機能について検討した。
 術後3か月の裸眼視力は遠見0.5以上近見0.4以上の症例は41%,約−0.5Dの矯正では遠見0.5以上近見0.4以上の症例は84%に達し,同時に施行したアンケート結果からもほとんどの症例で屋内での日常生活は眼鏡なしで行えていると考えられた。
 しかし,単焦点眼内レンズ移植眼と比較して,矯正視力,空間コントラスト感度の高周波成分の若干の低下が観察され,また高齢者ほど視力の回復に日数のかかる傾向があった。以上の結果より回折型多焦点眼内レンズ移植の適応について考按を加えた。

外因性ぶどう膜炎へのステロイド短期全身投与

著者: 岡田和四郎 ,   新藤裕実子 ,   大野重昭

ページ範囲:P.1683 - P.1686

 主に術後炎症による外因性ぶどう膜炎13例に対してステロイド剤の短期経口投与を行い,その治療効果と副作用,特に副腎皮質機能抑制について検討した。治療方法はプレドニゾロン40mgを6日間経口投与し,その後は漸減せず中止とした。その結果,治療効果は非投与群に比べ有効であり,副腎皮質機能抑制は一時的であり,その他の全身検査でも副作用はなかった。今回の成績から,短期ステロイド療法は外因性ぶどう膜炎に対する安全で有用な治療法と考えられた。

白内障・緑内障合併症眼における緑内障手術:線維柱帯切除—後房レンズ挿入同時手術の得失

著者: 山上聡 ,   新家真 ,   安宅和代 ,   庄司信行

ページ範囲:P.1687 - P.1692

 線維柱帯切除術後,濾過胞が形成されている症例に対しPC-IOL挿入術を施行した25例27眼(濾過胞PC-IOL挿入術)と,眼圧下降剤投与によっても眼圧が20mmHg以下にコントロールできなかった緑内障を伴う白内障眼24例26眼に対し同時手術を施行した。術前患者背景因子が同等となるように選び,その両群についての術後経過を,視力,合併症,術後眼圧コントロール状態を比較検討した。術後0.5以上の視力を得た割合は,両群間で有意差はなかった。合併症では,フィブリン反応と一過性眼圧上昇(25mmHg以上)が同時手術群で有意に高率であった。術後眼圧は,同時手術群で高い傾向があり,薬物投与スコアも,同時手術群で9〜12か月目に有意に高値を示した。生命表法による術後20か月の時点での眼圧コントロール不良率は,濾過胞PC-IOL挿入術群14±9(SE)%,同時手術群16±8(SE)%で有意差はなかったが,濾過胞生存率は各々70±8(SE)%,22±9(SE)%で濾過胞PC-IOL挿入術群で有意に良好であった。

緑内障・白内障・後房眼内レンズ同時手術の成績

著者: 橋添元胤 ,   吉田秀彦 ,   浜川誠三 ,   李薫 ,   松岡美紀子 ,   田中秀子 ,   一井泰孝

ページ範囲:P.1693 - P.1697

 Trabeculectomyまたはtrabeculoto-my,白内障嚢外摘出術,後房眼内レンズ移植の三手術同時手術,いわゆるtriple procedureを24例33眼に施行し,術後3か月から3年(平均14.7か月)の経過を観察した。原発開放隅角緑内障と水晶体嚢偽落屑症候群に対してはtrabeculotomyを選択し,原発閉塞隅角緑内障・続発緑内障・虹彩前癒着の強い症例・濾過手術既施行例に対してはtrabeculectomyを選択した。術後,視力は73%で2段階以上改善し,眼圧は88%が20mmHg以下にコントロールされ,投薬は70%で減少し,視野は91%で改善または進行しなかった。

糖尿病網膜症に対する汎網膜光凝固の長期予後—その2.眼合併症

著者: 上野眞 ,   加藤勝 ,   新田千賀子 ,   岩渕薫子

ページ範囲:P.1699 - P.1702

 汎網膜光凝固後の糖尿病網膜症眼の眼合併症を検討した。対象は43例73眼で,増殖前網膜症19例25眼,増殖網膜症31例48眼,年齢30〜76歳(平均51歳),観察期間60〜150か月(平均7年9か月)であった。増殖前網膜症で光凝固後に網膜新生血管の発現をみたのは25眼中9眼であった。硝子体出血は増殖前網膜症25眼中4眼,増殖網膜症48眼中33眼に発生した。光凝固後の初回硝子体出血は48.7%が6か月以内,73.0%が2年以内に生じた。牽引性網膜剥離は増殖前網膜症で1眼,増殖網膜症で10眼にみられ,光凝固前からの新生血管に線維増殖を伴うものに多く起こった。虹彩ルベオーシスは増殖網膜症の3眼に発生したが,血管新生緑内障はみられなかった。

定型網膜色素変性症の視野に関する検討

著者: 黒川真理 ,   早川むつ子 ,   藤木慶子 ,   金井淳 ,   松村美代 ,   小泉閑 ,   玉井信 ,   塩野貴 ,   所敬 ,   赤沢嘉彦 ,   久保田伸枝 ,   河野真一郎 ,   松井瑞夫 ,   湯沢美都子 ,   小口芳久 ,   明尾潔 ,   安達恵美子 ,   武田憲夫 ,   三宅養三 ,   矢ケ崎克哉 ,   若林謙二 ,   石坂伸人 ,   本田孔士 ,   坂上欧 ,   宇山昌延 ,   岸本伸子 ,   石橋達朗 ,   本多貴一 ,   伊佐敷靖 ,   大庭紀雄

ページ範囲:P.1703 - P.1708

 定型網膜色素変性症の経過や予後の説明に必要な資料を得る目的で,226例444眼の残存視野と年齢,経過年数との関連について全体および遺伝形式別に検討し,さらに視力との関連についても検討した。視野20°以下の眼は20〜39歳で49%,経過年数20年未満で53%であった。また41°以上は20歳未満で54%,経過年数20年未満で27%であった。遺伝形式別比較では,常染色体優性が常染色体劣性よりも障害が軽い傾向が認められた。視野狭窄は経過年数30年まで徐々に進行し,10°前後の視野になるとその後は進行が遅くなる傾向がみられた。視野と年齢および経過年数との間には負の相関があり,視力との間には正の相関があった。以上の結果は患者の職業選択のさいや経過の理解のために役立つと思われる。

網膜動静脈交差部での動静脈短絡

著者: 田中隆行 ,   村岡兼光 ,   得居賢二

ページ範囲:P.1711 - P.1721

 各種の閉塞性網膜血管病1,885眼を対象として,連続螢光造影法を用いて,網膜動静脈交差部での動静脈短絡を検索した。その結果,動静脈短絡は糖尿病網膜症8眼,網膜静脈分枝閉塞症28眼,網膜中心静脈閉塞症2眼,網膜中心動脈閉塞症2眼,レーベル粟粒血管腫症2眼にみられた。動静脈短絡の形成された交差部では,螢光色素が動脈から静脈へ直接流入した。静脈内へ流入する色素は,短絡の形成初期には,軸流の場合と層流の場合があった。以上から,交差部での動静脈短絡は,高安病に特有の病変ではなく,血管拡張,透過性亢進が長期間続けば一般的に起きうる病変で,網膜血管が病的状態の場合にとりうる反応形式の1つであると結論された。

家族性滲出性硝子体網膜症と裂孔原性網膜剥離多数例の検討

著者: 大久保好子 ,   大久保彰 ,   清水昊幸

ページ範囲:P.1727 - P.1732

 FEVRに併発した網膜剥離85例101眼の臨床像を検討した。全101眼のうち90眼(89%)が裂孔原性網膜剥離であり,FEVR病型では全101眼のうち周辺部変性型が83眼(82%)と大多数を占めた。FEVRによる裂孔原性網膜剥離の初回手術眼83眼のうち68眼(82%)の主裂孔は網膜有血管野と無血管野との間の境界線に接する無血管野に存在した。FEVRによる裂孔原性網膜剥離の初回手術眼の再剥離原因の多くは,バックルによる網膜隆起辺縁の境界線に沿って形成される新裂孔や網膜固着術による過凝固部に生じる新裂孔によるものであった。FEVRに併発する裂孔原性網膜剥離に対する治療は,境界線を含む網膜無血管野の全領域をバックルによる網膜隆起の周辺側に乗せる広範囲強膜内陥術と適度な光凝固による二段階法が最も適切と考えられた。

観血的に除去した両眼瞳孔膜遺残の1例

著者: 橋添元胤 ,   吉田秀彦 ,   久保吉正

ページ範囲:P.1733 - P.1736

 38歳の患者の両眼性の高度の瞳孔膜遺残症に対して,ヒアルロン酸ナトリウムを用いて,観血的瞳孔膜除去術を施行した。主訴であった昼盲・差明は消失し,特異な容貌は正常になり,視力が術前両眼ともに0.4(0.5)であったものが術後約9か月を経て右眼0.7(1.0)左眼0.5(0.8)に次第に改善するなど,自他覚的視機能の改善をみた。また,両眼の瞳孔は対称的に中程度の散瞳および縮瞳も可能となった。術後1年9か月の経過観察期間中,白内障などの合併症は起こらなかった。

裂孔原性硝子体出血で発見された両眼の網膜および傍視神経乳頭血管腫の1例

著者: 鹿島佳代子 ,   安田尚美 ,   百瀬隆行 ,   石引美貴 ,   川瀬享

ページ範囲:P.1737 - P.1740

 裂孔原性硝子体出血により突然の視力低下を主訴に受診した42歳女性の両眼に多発性の周辺部網膜血管腫および傍乳頭血管腫を発見した。網膜周辺部血管腫に対して数回に分けてアルゴンレーザー光凝固を施行し,約1年半の経過観察中良好な視力を保っている。家族発生はなく,頭部・腹部CTでも異常なく,中枢神経症状もない。比較的高年齢になってから他疾患の合併により発見された血管腫の1症例である。傍乳頭の血管腫についてはレーザー凝固せずに経過観察中である。左眼は硝子体出血時矯正視力0.01まで視力が低下したが,出血の吸収とともに矯正視力1.2まで回復し,血管腫よりの出血,浮腫,および牽引性網膜剥離は今のところない。

長期間観察した黄斑コロボーマを伴う色素性傍静脈網脈絡膜萎縮の1例

著者: 盛隆興 ,   三谷一三 ,   宮崎茂雄

ページ範囲:P.1741 - P.1744

 両眼に黄斑コロボーマを伴う色素性傍静脈網脈絡膜萎縮(PPRCA)の1例を約10年間経過を観察した。症例は19歳女性で,幼少時より両眼の視力低下を自覚していた。両眼底には,網膜静脈を包み込むような網脈絡膜萎縮巣と黒色色素斑があり,黄斑部には黄斑コロボーマを認めた。本例を2年ごとに約10年間観察した結果,その眼底所見に進行性は認められなかった。
 両眼に黄斑コロボーマを伴い,さらに長期間の経過観察でも非進行性であったことより,本例のPPRCAは胎内感染によって生じた二次的病変と考えられた。

涙腺良性多形腺腫の免疫組織化学

著者: 辻求 ,   萩原正博

ページ範囲:P.1746 - P.1748

 涙腺由来の良性多形腺腫で,種々の酵素抗体染色をし,腫瘍とともに摘出された正常涙腺組織と比較した。正常組織では,涙腺上皮細胞はEMA,CEA,keratinに染色され,筋上皮細胞はactinによく染まった。良性多形腺腫では,管腔構造を形成する大型の細胞はEMA,CEA,keratinに陽性で,筋上皮様細胞や紡錘形細胞はactinやvimentinに染まった。一部の紡錘形細胞はS-100蛋白にも陽性であった。ヒアリン変性を示す部位や粘液腫様の部位にみられる類円形細胞はvi-mentinとS-100蛋白に陽性であった。GFAPは平滑筋腫様やヒアリン変性や粘液腫様の部位の一部の細胞に染まった。これらの結果は唾液腺由来の良性多形腺腫の免疫組織化学の結果と類似し,GFAPは多形腺腫の腫瘍関連抗原であるという考えを支持している。

同種骨髄移植後Graft-versus-Host Diseaseの眼症状と治療

著者: 田邉詔子 ,   平野潤三 ,   村上真理子

ページ範囲:P.1749 - P.1752

 同種骨髄移植後のGraft-versus-HostDisease (GVHD)は,しばしば眼にも発現する。急性GVHDの時期に起こるのは結膜炎で,重症のものは偽膜を生ずる。慢性GVHDは乏涙による角膜の障害である。その症状は,
 1)異物感や羞明があるが他覚的所見の少ない   もの
 2)びまん性表層角膜炎(KSD),糸状角膜炎
 3)角膜びらん
 4)角膜潰瘍
 である。
 角膜潰瘍への進行を阻止するよう,早期から眼科的管理が必要である。移植後100日(Day100)またはそれ以前でも,自覚症状が現れた時から,定期的に検診する。
 治療としては,涙点閉鎖が最も確実な効果があるので軽症例以外はまずこれを行い,人工涙液,抗生物質,副腎皮質ステロイド,フィブロネクチン,ビタミンA油剤などの点眼を症状に応じて用いる。ステロイド涙腺注射を併用することもある。角膜穿孔が切迫すれば結膜被覆が必要である。
 乏涙が軽度であった1例の涙腺で,組織学的に萎縮性変化がみられた。

ミトコンドリアサイトパチーの1例

著者: 中野美奈 ,   三上克代 ,   前田修司 ,   吉本弘志 ,   松山秀一 ,   馬場正之

ページ範囲:P.1753 - P.1756

 今回筆者らは,眼瞼下垂,複視を主訴とする慢性進行性外眼筋麻痺の16歳の女性について,外斜視手術時に得られた外眼筋組織検査および大腿直筋の筋生検を行い,組織学的にミトコンドリアサイトパチーの確診を得るに至った。本症例では心伝導障害,網膜変性はみられなかったが,両上肢の近位筋の筋力低下が認められた。手術で得られた内直筋と大腿直筋にミトコンドリアの異常がみられ,大腿直筋のGomori-trichrome染色でragged-red fiberを認めたことより,本症の確定診断を得た。また電子顕微鏡の所見では,変性の強い部位で筋線維はほとんど消失し,膨化,または変性したミトコンドリアを多数認め,これらの所見は内直筋に著明であった。

文庫の窓から

本邦試視力表の種々(その1)

著者: 中泉行信 ,   中泉行史 ,   齋藤仁男

ページ範囲:P.1758 - P.1759

 筆者らは,このほど,所蔵の視力表を整理する機会があり,良い機会なので,日本の視力表の種類について調べた。
 文字を一定の距離にて読ませて視力を検査する試みはJ.Ayscough(1752),Jean-Baptiste-AlphonseChevallier(1805)らによって行われていたという。人間の視力の良否は常に数値をもって示すのが最良と考えられ,Küchler (Heinrich Küchler,1843)は文字を使用した視力表を発表し,その後,実用に堪える文字の視力表はHermann Snellen(1862)により製作されたといわれている。1888年にはフランス国のランドルト(Edmund Landolt,1846〜1926)氏がスネルレン氏の原理により,今日も国際的に用いられているランドルト氏環を考案した。1909年,ヘス(Carl von Hess,1863〜1923)氏らによって発表された視力表(図7左)が,第11回国際眼科学会の協定に基づいて国際視力表の標準と決められた。それまではこのスネルレン氏式視力表(図1,2)が汎く用いられていたといわれている。

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臨床眼科 第46巻 総目次・物名索引・人名索引

ページ範囲:P. - P.

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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