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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科46巻3号

1992年03月発行

雑誌目次

特集 第45回日本臨床眼科学会講演集(1)1991年10月 広島 学会原著

強度近視眼でのインドシアニングリーン螢光眼底造影所見

著者: 白木邦彦 ,   森脇光康 ,   加茂雅朗 ,   松本宗明 ,   阪本卓司 ,   矢守康文 ,   三木徳彦 ,   杉野公彦 ,   上野珠代 ,   今本量久

ページ範囲:P.229 - P.231

 −6diopter以上の近視を有し,後極部眼底病変を有する8例15眼において,トプコン社製50IAにて,フルオレセイン螢光眼底造影(以下fluo螢光造影)とインドシアニングリーン螢光眼底造影(以下ICG螢光造影)を施行した。ICG螢光造影では斑紋状網脈絡膜萎縮巣と一部のびまん性網脈絡膜変性部で脈絡膜血管の消失を認めた。斑紋状網脈絡膜萎縮部に残存する脈絡膜血管は,fluoとICG螢光造影間で描出像に差がみられ,前者ではより浅層の脈絡膜血管を描出していると考えられた。またfluo螢光造影にて螢光漏出のみられない部位に,ICG螢光造影上後期にわたって脈絡膜螢光の非常に強い部位がみられる症例も存在し,網膜色素上皮下ないし脈絡膜内での血管新生が示唆された。

増殖糖尿病網膜症に対する早期硝子体手術の意義

著者: 本倉雅信 ,   恵美和幸 ,   木下裕光 ,   田中文 ,   竹中久

ページ範囲:P.233 - P.236

 増殖糖尿病網膜症(PDR)に対して行った早期硝子体手術16例17眼の視力予後および術中・術後合併症について検討した。早期硝子体手術としたのは,A.頑固な新生血管例,B.切迫牽引性網膜剥離例,C.硝子体出血による光凝固不足例である。手術による視力改善率はA.B群が75%,C群が100%であり,0.4以上の術後視力保持例はA.B群は50%,C群は78%であった。術中合併症は3眼に医原性裂孔を生じたが,網膜剥離を生じることなく対処可能であった。術後合併症として術後硝子体出血を3眼に生じたが,2眼は簡便な硝子体洗浄で対処でき,1眼のみ手術による硝子体洗浄を必要とした。今後は,良好な視機能の保持を目的として,早期硝子体手術を考慮すべきであると考えられた。

網膜静脈閉塞症に対する組織プラスミノーゲンアクチベータによる線溶療法

著者: 小川憲治 ,   白方雅子 ,   生野恭司 ,   斉藤喜博 ,   張野正誉

ページ範囲:P.237 - P.241

 自覚症状出現から2週間以内の網膜静脈閉塞症6例に組織プラスミノーゲンアクチベータ(tissue-type plasminogen activator:t-PA)を投与した。方法は初日に1,000万国際単位,2日目,3日目に500万国際単位を1時間の静注で投与した。その結果,投与前視力と比べて投与終了直後に全例で視力改善を得た。しかし,投与後1か月の段階では視力改善4例,不変1例,悪化1例となり,2例で投与終了後に再増悪を認めた。眼および全身合併症はなかった。組織プラスミノーゲンアクチベータは新鮮例網膜静脈閉塞症に対する有効な治療法であるが,投与量,適応症例,および再閉塞予防のための血小板凝集抑制剤および抗凝固剤併用の検討が必要である。

超未熟児の未熟児網膜症—10年間の発症数と治療成績

著者: 初川嘉一 ,   小池仁 ,   藤村正哲 ,   斉藤喜博 ,   大本達也

ページ範囲:P.243 - P.246

 1981年から1990年に生まれた出生体重1,000g未満の超未熟児302例について,未熟児網膜症の発症数と治療状況について報告した。未熟児網膜症の発症は276例であり,発症率は91.3%であった。発症に影響を及ぼす因子としては,酸素投与,人工換気,ビタミンE投与,APGAR指数(≦4),酸素投与日数,人工換気日数などが示唆された。重症化に関する因子としては,交換輸血,酸素投与,APGAR指数(≦4)などが示唆された。冷凍凝固は45例に行い,重症瘢痕を残したものは4例であった。また,9例に冷凍凝固後の黄斑部の変性がみられた。

集団検診受診者を対象とした網膜色素変性の疫学調査

著者: 森敏郎 ,   高橋久仁子 ,   谷藤泰寛 ,   切替ジュン ,   玉田康房 ,   小笠原孝祐 ,   岩見千丈 ,   渡辺敏明 ,   田島達郎

ページ範囲:P.247 - P.249

 集団検診受診者の眼底写真より原発性網膜色素変性(RP)の疫学調査を施行した。対象は96,965名で,男性40,330名,女性56,635名である。年齢は18〜86歳(平均53.3歳)に分布し,このうち40〜60歳代は80,571名(83.1%)であった。対象者は岩手県の全人口1,415,554名の6.8%に相当した。RPは62名に認められ,全受診者に対する有病率は0.064%であった。RPの内訳は男性28名,女性34名で性差はなく,年齢は60歳代に最も多く(27名)認められた。岩手県の地域別の特徴としては,周囲を隔絶された沿岸部の有病率が高かった(p<0.05)。

Blow-out fractureにおける眼球運動障害の検討—MRI動画を用いた考察

著者: 戸塚伸吉 ,   小出良平 ,   稲富誠 ,   深道義尚 ,   久松克次

ページ範囲:P.251 - P.255

 受傷後翌日から1年3か月までのblow -out fractureの患者19例に対しMRI動画を撮影し,眼球運動障害のメカニズムを検討した。11例に脱出した脂肪組織の中あるいはその方向へ向かうconnective tissue septa (以下septaと略す)の影が確認できた。外眼筋の変位が大きい症例でも筋肉はほぼ全周脂肪組織に包まれており,筋肉が直接骨折部に嵌頓している症例はなかった。Septaの嵌頓は外眼筋の運動を制限することが確認できた。嵌頓したseptaが眼球運動に随伴する視神経の運動を制限する症例もあった。

硝子体手術により切除した網膜下増殖組織の電子顕微鏡的観察

著者: 向野利彦 ,   猪俣孟 ,   向野利寛 ,   大島健司

ページ範囲:P.257 - P.261

 増殖性硝子体網膜症,増殖糖尿病網膜症など12例の硝子体手術の際に摘出した網膜下増殖組織を光学顕微鏡および電子顕微鏡で観察した。網膜下増殖組織は,細胞外基質が粗な網状の5例,密な3例,そのほかの4例に大別したが,きわめて多様であった。細胞はマクロファージ様,線維芽細胞様紡錘形,大型明細胞など多彩であったが,10例で網膜色素上皮細胞と同定した。フィブリンで構成された網状の細胞外基質に紡錘形あるいはマクロファージ様の網膜色素上皮細胞が伸展する像が観察され,これを網膜下増殖組織の初期の形態と考えた。今回の観察結果から,剥離した網膜下に形成されたフィブリン網を足場として,網膜色素上皮細胞が増殖し,網膜下増殖組織が形成されるという過程を推測した。

腎移植後患者の白内障手術

著者: 武尾宏伸 ,   石井エミ ,   森達彦 ,   山形忍 ,   小澤啓子 ,   小早川信一郎 ,   松井博嗣 ,   斎藤康子 ,   栃久保哲男 ,   松橋正和 ,   河本道次

ページ範囲:P.263 - P.265

 腎移植後の白内障,6例11眼に嚢外水晶体摘出術を施行し,うち6眼に眼内レンズを移植した。術前合併症として糖尿病と高眼圧,術中合併症として後嚢破嚢と硝子体脱出,術後合併症として網膜剥離と軽度ブイブリン析出と前房出血と後発白内障を認めたが,全例に良好な術後視力を得た。今後,腎移植後患者の白内障に対する手術の機会は増加するものと考えられるが,手術は安全に施行でき,社会復帰の面から積極的に行い得ると考える。

抗核抗体陽性の視神経炎を自己免疫性視神経炎と分類すべきか?

著者: 若倉雅登 ,   岡野智文

ページ範囲:P.267 - P.270

 視神経炎のうち抗核抗体(ANA)偽陽性を示す5例と陽性を示す4例の臨床経過を検討し,提唱されている自己免疫性視神経炎(AON)という範疇の妥当性について検討した。ANAのほかリウマチ因子陽性例が4例,DNA抗体陽性1例,抗可溶性核抗体陽性1例,補体価低下1例があった。治療は通常のステロイド療法,パルス療法,非ステロイド療法が症例により行われていた。視力予後は,通常のステロイド療法は他の療法に比し必ずしも優れた点はみられなかった。またパルス療法が一部の症例で著効するも,無効例もあった。一方非ステロイド療法では全例視力予後良好で,自然回復の傾向の強い例もあることが推定された。臨床的特徴,治療に対する反応性からみてANA陽性,偽陽性の視神経炎を他の視神経炎と区別すべき積極的根拠はなお乏しいと考えられた。またANA陽性とパルス療法への反応性を主たる拠り所としているAONという疾患範疇も未だ熟した概念でないと考えられた。

回旋性異常眼球運動の3例

著者: 井崎篤子 ,   三村治 ,   下奥仁 ,   駒井潔 ,   福田美子

ページ範囲:P.271 - P.274

 脳幹障害が疑われた3例で回旋成分を含む異常眼球運動を記録検討した。眼球運動はスクレラル・サーチコイルで記録した。
 3例で頻度2〜4Hz,振幅1.2〜13.2度の回旋成分が記録された。このうち1例では右方視時には時計回り,左方視時には反時計回りの回旋成分を認め,滑車神経核もしくは前庭神経核を支配する神経機構の障害が示唆された。
 回旋成分の定量的波形分析により脳幹部病変の局在診断に有用な情報をもたらすものと思われた。

網膜変性を伴ったmitochondrial cytopathy(cytochrome C oxidase部分欠損症)の双生児例

著者: 小笠原勝則 ,   平戸孝明 ,   岡本道香 ,   岡島修 ,   渡辺博 ,   鴨下重彦

ページ範囲:P.275 - P.278

 筋生検にてcytochrome C oxidaseの部分欠損が証明されたmitochondrial cytopathyの一卵性双生児7歳例を経験した。
 本例の1例は幼児期に,網膜変性を認めた。眼底精査を行った今回の時点で両児とも,網膜の色素上皮の萎縮,視神経乳頭の蒼白化を認め,同時に行ったERGでは振幅は低下していた。過去の本症に認められた眼所見とは,発症時期および眼瞼下垂,眼球運動障害がないという点で異なっていた。
 本例は眼所見,および発達の遅れ,代謝異常という全身所見が同様であることより先天的な遺伝子障害が考えられ,本症の遺伝形式を考えるうえでも意義があると考えた。

胎児眼球の超音波診断について

著者: 金子行子 ,   大西裕子 ,   岡田恵美子 ,   佐々木幸子 ,   高橋佳代 ,   相羽小百合 ,   鴨沢毅 ,   金子明博

ページ範囲:P.279 - P.282

 超音波検査法の進歩により可能となった胎児眼球の超音波診断の有用性を検討した。正常胎児の超音波像において眼球が判別可能であるためには最低妊娠17週を必要とした。同時に胎生時にすでに異常を生じることが推定される眼疾患について超音波診断の可能性を検討するため,遺伝性網膜芽細胞腫患者の胎児2例について,妊娠第31週より2週ごとに超音波検査を行った。両症例の胎児眼球超音波像に異常を認めなかった。なお,両症例とも出産後ただちに眼底検査を行ったが異常をみなかった。

エポエチンベータ(遺伝子組換え)で治療した慢性腎不全患者にみられた高血圧性網膜症の1例

著者: 国頭七重 ,   岡本勲夫 ,   長田正夫 ,   玉井嗣彦 ,   安達和彦 ,   尾﨑健一

ページ範囲:P.285 - P.289

 ヒトエリスロポエチンの遺伝子組換えと細胞培養による腎性貧血の治療薬であるヒトエリスロポエチン治療の1症例について報告した。症例は31歳男性で,本製剤投与中に視力低下はきたさなかったものの高血圧性網膜症を生じ,投与を中止することで速やかに軽快した。眼科領域ではまだ報告がない治療薬であるが,今後,透析患者を中心に多施設で利用されることが予想される。副作用として少ないながらも高血圧をきたすことがあり,透析医と眼科医が共同で管理をすべきと思われた。

学術展示

白内障患者の術前および眼内レンズ挿入後のコントラスト感度

著者: 宮島弘子 ,   小川智子 ,   勝海修

ページ範囲:P.296 - P.297

 緒言 近年,白内障患者における手術適応の判定や眼内レンズ(IOL)挿入後の視機能評価の方法として,従来の高コントラスト視標による視力検査に加え,コントラスト感度(CSF)テストやグレアーテストの必要性が検討されている。今回,Vistech社製Multivi-sion Contrast Tester (MCT 8000)を用い,白内障眼および眼内レンズ挿入眼の昼間,夜間のCSFを,グレアーありとなしの条件下で測定し,ArdenのGra-ting Chartと同様に,諸条件の変化を数値で表す試みをした。また,すでに報告したWang1)のVariable Contrast Visual Acuity Charts (VCVAC)の結果とも比較検討したので報告する。
 対象および方法 対象は,国立埼玉病院眼科にて経過観察されている白内障群13眼,水晶体超音波乳化吸引術およびI0L挿入術が施行されたIOL群22眼であった。年齢は,白内障群は37〜77歳(平均61.7±11.7歳),IOL群は45〜81歳(平均65.5±10.6歳),矯正視力は,白内障群は0.5〜1.2(平均0.8±0.2),IOL群は0.7〜1.5(平均1.2±0.2)であった。

白内障術後乱視に対するアルゴンレーザー切糸後の角膜形状の変化

著者: 林研 ,   藤野鈴枝 ,   中尾文紀 ,   林文彦

ページ範囲:P.298 - P.299

 緒言 筆者らは,白内障術後の角膜乱視に対してアルゴンレーザーによる切糸を行って効果をあげている1)。今回,切糸前後の角膜形状を検索し,切糸により角膜にどのような変化が起こっているかについて検討をくわえた。
 対象と方法 白内障術後1か月以上を経過して,3D以上の直乱視が残存した27例(ECCEー20例,KPE7例)に対してアルゴンレーザーによる切糸を施行した。アルゴンレーザー照射にあたっては,Hoskinsのミラーを用い,レーザーの照射条件200 mW,0.1 sec,50μで切糸した。切糸の時期は,ECCEでは術後2〜3か月に行ったものが14例,5〜9か月後が5例,KPEでは8例とも術後1か月に行った。Topographic Modeling System (TMS)で調べた乱視軸をもとに,縫合糸を1〜2本切糸した。切糸前後の屈折値,ケラト値を計測し,TMSにより全体の角膜形状がどのように変化しているかを検索した。なお切糸後の測定は,2週〜1か月後に施行した。

中心性漿液性網脈絡膜症の網膜感度変化

著者: 牧野伸二 ,   小橋理栄 ,   中山正 ,   大滝千秋

ページ範囲:P.306 - P.307

 緒言 中心性漿液性網脈絡膜症(以下CSCと略称)の網膜感度については,これまで眼底視野計による報告1)がなされている。筆者は,現在臨床的に汎用されている自動視野計の色視標を用いてCSCの黄斑部綱膜感度変化を検討したので報告する。
 対象および方法 対象は,CSC患者のうち,網膜浮腫内に測定に使用したハンフリー自動視野計のプログラムMaculaの17点の測定点が含まれ,蛍光眼底撮影で漏出点が1個だけの29例29眼である。内訳は,男性28例,女性1例,年齢は,28〜59歳(平均40.5歳)であった。測定は,31.5Asbの白色光背景下で,白,背の色視標を用い,測定時間は15分以内であった。蛍光眼底撮影による漏出点の形態は,円形拡大型20例,噴水型9例であった。中心窩感度とそれ以外の測定点16点の感度総和の年代別正常値は先に筆者らが報告した値を用いた2)(表)。以下,後述の%は正常値を100とした百分率で表す。なお,浮腫消失期間は光凝固群が平均4.0週,非凝固群が平均5.8週であった。

長崎県の離島における網膜色素変性症について

著者: 戸田俊一郎 ,   雨宮次生

ページ範囲:P.308 - P.309

 緒言 原発性網膜色素変性症(以下本症と略す)は先天性で多彩な臨床症状を呈し,治療法のない難病である。また進行性で中途失明をきたし,社会的問題も含んだ疾患である。本症に関する報告は多岐にわたるが,離島における報告例は少ない1〜4)。今回,長崎県の離島のひとつである上五島地方の本症患者について頻度,分布および臨床的特徴について検討したので報告する。
 対象および方法 1986年7月1日から1991年3月31日までに長崎県離島医療圏組合の3病院(有川,上五島,奈良尾)の眼科を受診した本疾患者を対象とし,問診,視力,細隙燈顕微鏡検査,視野並びに眼底検査を行った。また網膜電図検査を一部の患者に施行した。対象は,本症と診断された患者57例で,性比,年齢,島内人口比,家系内発症,臨床像などについて検討した。

後房レンズ毛様溝縫合固定症例の検討および死体眼による通糸部位の確認

著者: 北大路浩史 ,   中非義秀 ,   水野和也 ,   北大路勢津子 ,   中井義昌

ページ範囲:P.310 - P.311

 緒言 近年,白内障手術および術後屈折矯正に,嚢外摘出(ECCE)または超音波乳化吸引術(KPE)後の後房レンズ(PCL)移植が最善とされ,さらに,嚢内法(ICCE)後の二次移植や広範な後嚢損傷時の一次移植にも,長期的角膜障害などの危険性のある前房レンズ(ACL)に代わり,PCL毛様溝縫合固定が行われだした。1989年5月より,22眼に縫着を行い,術後経過・合併症の検討を行ったので報告する。また,死体眼を用い通糸部位を確認決定したので,あわせて報告する。
 症例および方法 二次移植14眼,一次移植7眼.打撲による創離開PCL亜脱臼の整復1眼の計22眼で,男9眼,女13眼,年齢55〜85歳(平均73.1歳),観察期間3か月〜2年5か周(平均10.4か月)であった。二次移植は,ICCE後10眼ICCE後ACL二次移植からの交換(三次)2眼,亜脱臼に対するlen-sectomy・vitrectomy後2眼,一次移植は,ECCE時5眼,KPE時2眼であった。ショートCループPCLに弱彎長針付き10-0プロリン糸(Alcon PG−73076またはEthicon CIF 788G)を結び付け,上方輪部創を通し,眼内より2-8時の輪部後方1mm弱に,刺出した。縫合部は,二次移植では,半層強膜弁に埋没し,一次移植では,刺出後,後方へ強膜をすくい,厚めの結膜・テノン嚢下に,糸を長めに残し埋没した。

水晶体形状の生体計測

著者: 坂本保夫 ,   佐々木一之

ページ範囲:P.312 - P.313

 緒言 眼内レンズ挿入術の発展に伴い,水晶体の形状を生体眼レベルでより具体的に知ることも必要となってきた。水晶体前後径は超音波計測により比較的容易に求めることが可能であるが,水晶体前・後面曲率を計測する方法はいまだ確立されていない。前眼部のScheimpflugスリット画像を元にこれまでの幾何学補正1)を発展させ,水晶体の前後径,および前・後面曲率半径を計測した。また,これらより水晶体赤道径の算出を試みた。
 対象および方法 対象は15歳から66歳(平均48.1歳)の透明水晶体を有する60症例,109眼で,0.5%トロピカマイド(ミドリンP®)により極大散瞳した状態での前眼部の形状を画像解析により計測し,正常加齢変化を検討した。Scheimpflug画像の撮影には前眼部画像解析システム(NID EK, EAS−1000)2)を用い,対象眼の垂直方向のスリット断面を撮影した。

硝子体出血,牛眼を合併した第一次硝子体過形成遺残の1例

著者: 齊藤伸行 ,   齊藤康子 ,   杤久保哲男 ,   河本道次

ページ範囲:P.314 - P.315

 緒言 第一次硝子体過形成遺残(PHPV)は白色瞳孔を示す疾患として知られており,網膜芽細胞腫との鑑別が重要である。通常,小眼球などの典型的な症状から比較的容易に診断できる。今回,筆者らは角膜の混濁のため眼底の透見が困難で,しかも牛眼を合併したため診断が困難な症例を経験したので報告する。
 症例 患者は3か月男児。主訴:左固視不良。〔現病歴〕在胎39週,出生体重2,542gで自然分娩にて出産した。出生時,酸素投与は受けなかった。出生60日後,物を固視しないことに両親が気づき,左眼をみたところ角膜中央のあたりが白色を呈していた。既往歴,家族歴ともに特記すべきことなし。

陳旧性網膜静脈分枝閉塞症にみられた種々の血管瘤について

著者: 海平淳一 ,   田中紀子 ,   宮崎守人 ,   宮永和人 ,   保谷卓男 ,   野呂瀬一美

ページ範囲:P.316 - P.317

 緒言 網膜静脈分枝閉塞症(以下BVO)の陳旧例では,毛細血管瘤(直径20〜100μm)より大きな「巨大血管瘤」(毛細血管性巨大血管瘤1,2)・網膜細動脈瘤3)・網膜静脈瘤4))を併発する症例がそれほどまれでないことが報告されており1,5),これらの報告の中には,巨大血管瘤が硝子体出血1,3,4)や黄斑部障害の原因1,2)となる場合もあることが記載されている。そこで,巨大血管瘤がどの網膜脈絡膜血管系に由来するのかを蛍光眼底所見から判定し,観察された巨大血管瘤の臨床的特徴と,巨大血管瘤を併発する症例にみられた合併症を検討した。
 方法 対象は,筆者らが過去5年間に経験したBVO患者のうち,急性期からの観察期間が1年以上の症例か,発症時期不明例では静脈白線化,無血管野,新年血管などの明らかな陳旧性変化を認める症例のうち,主幹網膜動脈径より大きな径(100μm以上)をもつ巨大血管瘤が検眼鏡的に観察可能で,蛍光眼底撮影を施行した15例15眼である。症例は男性10例,女性5例,平均年齢61.4歳で,うち光凝固例は5例のみである。

網膜色素変性症に合併する緑内障—18施設調査から

著者: 松村美代 ,   小泉閑 ,   中川喬 ,   竹田宗泰 ,   玉井信 ,   佐久間健彦 ,   早川むつ子 ,   佐渡一成 ,   所敬 ,   由良智継 ,   久保田伸枝 ,   河野真一郎 ,   松井瑞夫 ,   湯沢美都子 ,   小口芳久 ,   明尾潔 ,   安達恵美子 ,   木村毅 ,   三宅養三 ,   矢ヶ崎克哉 ,   若林謙二 ,   石坂伸一 ,   本田孔士 ,   坂上欧 ,   宇山昌延 ,   岸本伸子 ,   調枝寛治 ,   渡辺道夫 ,   田村修 ,   久米川直美 ,   上野脩幸 ,   石橋達朗 ,   本多貴一 ,   大庭紀雄 ,   伊佐敷靖

ページ範囲:P.318 - P.319

 緒言 網膜色素変性症には数%の頻度で緑内障が合併するといわれ,わが国では閉塞隅角緑内障の多いことが明らかとなってきている。しかし網膜色素変性症の遺伝型式別病型と緑内障の関係はまだ不明で,前回の14施設調査1)では常染色体優性遺伝に合併率が高いのではないかという示唆を得た。今回は再度,18施設で調査した綱膜色素変性症例を対象に合併する緑内障の頻度と特徴について遺伝型式別病型の側面から検討した。

Scanning laser ophthalmoscope撮影後のphoto stress recovery test

著者: 高橋扶左乃 ,   千原悦夫

ページ範囲:P.320 - P.321

 緒言 SLO (Scanning Laser Ophthalmoscope)は米国ボストンのWebbら1)が中心となって開発してきた新しい眼底観察装置である。機械のメカニズムの詳細については他報2)にゆずるが,簡単に述べると,この機械は照明光と観察光が同じ光路を通り,高速で回転するドラムから反射されるヘリウムネオン光あるいはアルゴンレーザー光をスキャンしながら眼底に照射し,反射光を解析してモニターに投影する。瞳孔を通る光束は細く2.5mmの瞳孔径であれば眼底が観察でき,得られる映像は焦点深度が深く,硝子体混濁と網膜病変のような深度の違う像を同時に観察することができる。また,散乱光をconfocal部におかれた小孔で遮断できるため得られる像のコントラストは高い。SLOで蛍光眼底撮影をする場合,低い光のレベルで眼底観察が可能であり,蛍光色素の量が通常の1/5〜1/10ですむため蛍光色素によるショックの頻度が減少することが予想されるうえ,撮影に伴う網膜障害3)を大幅に軽減することが期待される。今回筆者らは,このSLOと従来からの蛍光眼底造影において,どの程度光障害に差があるかを具体的に示すため,photo stress reco-very testを行い比較検討した。

悪性リンパ腫の眼内浸潤と真菌性眼内炎を同時発症した1例

著者: 須藤史子 ,   山本禎子 ,   大鹿哲郎 ,   太田陽一

ページ範囲:P.322 - P.323

 緒言 悪性リンパ腫の眼内浸潤はいったん発症すると視機能および生命予後にとって重篤な結果を生じる。一方,その免疫抑制療法中に真菌性眼内炎を発症する例のあることはよく知られている。しかし両者の鑑別診断は容易ではなく,また治療方針が相反するために併発例の治療は困難をきわめる。今回筆者らは,視野異常から小脳の悪性リンパ腫が発見され,治療中に悪性リンパ腫の眼内浸潤と真菌性眼内炎を併発した症例を経験したので報告する。
 症例 患者は63歳の女性で1990年9月,左眼耳側視野欠損を自覚し,初診。既往歴と家族歴に特記すべきことなし。

眼瞼手術の際の疼痛を最少限にする方法への試み

著者: 渡辺博 ,   野村菜穂子 ,   廣澤恵子 ,   杤久保哲男

ページ範囲:P.324 - P.325

 緒言 霰粒腫手術は日常よく施行されているが,「術前に何が一番心配か?」というアンケートをとったところ,「痛み」という答が一番多かった(表1)。「痛くない手術」は多くの人々の願望であり,名医の条件の一つでもある。今回眼瞼手術の際の疼痛を最少限にする方法への試みとして簡単な術前処置による除痛効果を検討した。
 対象および方法 対象は霰粒腫手術を施行された患者30名で15〜52歳(平均29.8歳)で男性13名,女性17名であった。方法は術前処置なしで通常の方法で麻酔したA群,術前30分前鎮痛剤フロクタフェニン(イダロン®)内服および術前10分前塩酸リドカインゼリー(キシロカインゼリー®)眼瞼塗布両者とも施行したB群,塩酸リドカインゼリー眼瞼塗布のみのC群,フロクタフェニン内服のみのD群に分けて,無痛効果スコアを検討した(表2)。霰粒腫は点眼麻酔後2%エピネフリン含塩酸リドカイン1.O〜2.0ccを腫瘤の大きさに応じて#26針を用い,ゆっくり引きながら麻酔し,切開あるいは切除した。

成人T細胞白血病リンパ腫に両視神経乳頭浮腫を伴った1例

著者: 阿部徹 ,   櫻木章三 ,   伊藤貞男 ,   中鉢明彦 ,   三浦亮

ページ範囲:P.326 - P.327

 緒言 ヒトTリンパ球指向性ウイルスⅠ型human T-lymphotropic virus type 1(HTLV−1)は,成人T細胞白血病adult T-cell leukemia (ATL)あるいは成人T細胞白血病リンパ腫adult T-cell leukemia lymphoma(ATLL)の病原ウイルスである。最近ATL, ATLLに種々の眼合併症をきたすことが注目されている。視神経乳頭浮腫を主体とするATLの眼合併症は稀であるが,筆者らは両視神経乳頭浮腫を伴うATLLの1例を経験したので報告する。
 症例 55歳女性が1990年10月頃から右飛蚊症を自覚したため近医を受診し,両乳頭浮腫を指摘され,10月15日に精査円的で当科に紹介された。初診時の視力は右1.0(n.c.),左1,0(n.c.)であった。右後部硝子体に少数の細胞が存在していた。

画像解析法による狭隅角眼の前房深度と隅角角度測定

著者: 柴田崇志 ,   高橋信夫 ,   渡辺のり子

ページ範囲:P.328 - P.329

 緒言 前房隅角部の広さ,狭さの判定は,詳しくは隅角鏡で,簡便にはVan Herick法などで行われている。臨床的にはこれらの方法による判定で十分であるが,前房隅角の角度を具体的な数値で表現することが出来れば臨床研究などでは有用な手段になると思われる。筆者らは,今までに前眼部画像解析装置を用いて隅角角度および前房深度測定を行ってきたが1,2),今回この装置を用いて狭隅角眼の前房深度および隅角角度を測定し,緑内障誘発試験やlaser iridotomyが前房深度と隅角角度に及ぼす影響を検討した。また,laser iridotomy後の前房深度値と隅角角度値を広隅角眼より得られた値と比較した。
 対象および方法 対象は,細隙燈顕微鏡下で前房の深さが十分深く,眼圧も正常な20代から70代の広隅角群63例,86眼と,隅角鏡判定でShaffer分類の0〜Ⅱまでの狭隅角群14例17眼(50〜80代)である。

開放隅角緑内障と低眼圧緑内障における網膜循環動態と眼圧の関係

著者: 杉原いつ子 ,   鈴木亮 ,   石橋健 ,   栗本晋二

ページ範囲:P.330 - P.331

 目的 筆者らは,すでに開放隅角緑内障(POAG)や低眼圧緑内障(LTG)での網膜循環動態について報告した。その結果,いずれも正常群と比べ,有意に網膜平均循環時間(MCT)が延長していた(第13回アジア太平洋眼科学会)。網膜循環は眼圧に影響をうけると考えられ,今回は眼圧とMCTとの関連性について検討した。さらに,POAG群とLTG群を初期〜中期例と,末期例に分けて検討するため,垂直陥凹/乳頭比(C/D比)0.7未満と0.7以上で2群に分類して検討した。
 方法 対象症例は,POAG群20例23眼(61.8±10.4歳,Mean±SD),LTG群12例13眼(57.9±9.2歳)である。レーザーや観血治療をうけた例は除外した。両群とも,未治療または1週間の点眼,内服療法の中止後に眼圧を測定し,同時にビデオ螢光眼底造影とカラー眼底撮影を行った。カラー眼底写真の結果から,垂直方向のC/D比を,スケールを用いて計測した。

北海道立小児総合保健センターにおける未熟児網膜症stage Ⅲの臨床的特徴と進行因子

著者: 齋藤哲哉 ,   本谷尚 ,   竹田宗泰

ページ範囲:P.332 - P.333

 緒言 近年未熟児医療の発達に伴い,以前に比べ未熟な児の生存が可能になってきたが,それと併行して,intact survivalの観点からも未熟児網膜症の進行例が問題になっている。今回,筆者らは未熟児網膜症国際分類1,2) stage Ⅲに進行する症例の特徴,進行時期,予後について検討するため種々の臨床的要素を調査した。
 方法および結果 対象は,1987年から1990年までの期間に当センターに入院した未熟児 412例(すべて他院で出生)である。このうち自院でstage Ⅲに進行した症例は33例61眼(平均在胎週数27w+4d+14d,平均出生体重1017±342gで,残る7例13眼は未熟児網膜症の治療目的で紹介された症例であった。まず,stage Ⅲに進行した群を進行群,進行しなかった群を非進行群,死亡例を死亡群に分け,平均の差の検定を行った。42週未満を対象に検定すると,進行群は非進行群と比べて明らかに在胎週数と出生体重の少ない症例に多かった(図1)。次に,29週末満を対象に検定すると,進行群,非進行群問で,在胎週数と出生体重において有意差がなく,このサブグループ内では在胎週数と出生体重がstage Ⅲへの進行要因とはいいきれない(図2)。さらに,各週数未満に対象を限定した検定を,26から42週の問で1目単位に行い,そのtの値をプロットした(図3)。進行群,非進行群の関係は,週数が多い対象での検定ほど有意差が高かった。

眼窩内副鼻腔粘液嚢腫の画像診断

著者: 南武夫 ,   太根節直 ,   木村陽太郎

ページ範囲:P.334 - P.335

 緒言 眼窩内に浸潤した副界腔粘液嚢腫は,眼球突出の原因中,その占める割合はかなり高率で,眼窩内疾患の2〜18%(平均3〜4%)を占めると報告されており1),耳鼻科的手術で完治する疾患である。今回筆者らは,過去20年間に行った眼窩疾患の超音波を中心とした画像診断の中から,粘液嚢液の症例を選び,その診断上の特性を検討した、,その結果,超音波検査では,眼窩粘液嚢腫の局在,形状に対し正確な情報が得られ,球後脂肪への圧迫,眼球後極の陥凹のような二次的変化もよく判明した。簡易,迅速,安全な超音波検査はCTスキャンやMRIの検査に先立ってスクリーニング的に行うべき第一選択の検査法であると考えられた。
 方法 使用した超音波診断装置は,水浸法としては聖マ医大式高解像度眼科用超音波苦診断装置(ZD−252),直接法および水浸法兼用のものとしてはOphthascan —SとOphthasonic A-scan/B-scan Ⅲ,またCTおよびMRI装置としては,それぞれ東芝社製TCT−900S,Philips社製GyroscanS15を使用した。

一般眼科検診におけるノイズフィールドテストの有用性

著者: 安達京 ,   白土城照

ページ範囲:P.336 - P.337

 緒言 家庭用テレビに現れるノイズ画面を利用した視野異常自覚的検出法,ノイズフィールドテスト(以下,NFT)の有用性について,すでに筆者らは,原発開放隅角緑内障,低眼圧緑内障を対象として報告した1)。今回,NFTの一般眼科検診における視野スクリーニング法としての有用性を検討したので報告する。
 対象および方法 対象は1990年12月から91年9月までに三井記念病院成人病検診を受診した282名で,対象の性別は男性196名,女性86名,年齢は53.9±7.7,視力は1.2±0.2,屈折は−0.7±2.4である。成人病検診の通常の手順にNFTを挿入し,屈折,視力測定,ノンコンタクトトノメーターによる眼圧測定の後,NFTを行い,次いで細隙灯顕微鏡検査,散瞳下眼底検査を行った。なお,ノンコンタクトトノメーターで眼圧が18mmHg以上の例では圧平眼圧計による再検査を行った。NFT陽性,もしくは眼底検査で視野異常の存在が疑われた例には全例,眼底撮影ならびにハンフリー視野計による精密閾値検査を行った。

神戸市立中央市民病院における最近の網膜および硝子体手術

著者: 三浦昌生 ,   和山優子 ,   上田彩子 ,   山内俊夫

ページ範囲:P.338 - P.339

 緒言 近年,硝子体手術は,その周辺機器の拡充も含め,目覚ましい進歩をとげ,眼科手術の中で大きな役割を占めるようになってきた。その手術適応も,大きな変貌をとげ,単に硝子体を吸引切除するばかりでなく,糖尿病性網膜症などの疾患は言うに及ばず,裂孔原性網膜剥離にも硝子体手術が行われるようになってきた。
 本院では,裂孔原性網膜剥離に対しては原則的には強膜側からの手術を行い難治症例にのみ硝子体手術を行ってきたが,従来手を出せなかったような難治症例の増加もあり,裂孔原性網膜剥離に関しても硝子体手術の占める意義は増加している。今回筆者らは,最近5年間の網膜剥離手術に対する検討を加え,その内容について考察した。

未熟児網膜症瘢痕期にみられた巨大裂孔による晩発性両眼性網膜剥離の1例

著者: 山岡昭宏 ,   浅野治子 ,   白神史雄 ,   松尾信彦 ,   大月洋 ,   大野敦史

ページ範囲:P.340 - P.341

 緒言 未熟児網膜症瘢痕期における重篤な合併症の1つに裂孔原性網膜剥離がある。今辛回,非常にまれな巨大裂孔による晩発性両眼性網膜剥離の1例を経験したので報告する。
 症例 患者:15歳,男性。主訴:右眼視野狭窄。既往歴:1974年8月16日,在胎34週,体重1,470gで出生。生後32日目に未熟児網膜症を発症し,10月21日(生後67日)。当科を紹介され受診した。厚生省分類活動期I型3期中期と診断され,10月30日両眼キセノン光凝固を行った。その後瘢痕期1度となり,定期的に経過観察していた。1985年9月30日,右眼内斜視の手術を受けている。現病歴:1990年6月12日,右眼視野狭窄を自覚し,6月13日当科を受診した。右眼巨大裂孔による網膜剥離と診断され,6月18日入院した。

連載 眼科図譜・308

悪性型Mooren潰瘍に対する角膜全周被覆術

著者: 平野潤三 ,   平野みき

ページ範囲:P.218 - P.219

 緒言 Mooren潰瘍には潜蝕性,全周性で,進行が速く,激痛があり,両眼性で予後不良の悪性型と,その逆の良性型がある。前者はまた白内障,虹彩炎を併発しやすい。筆者らは悪性型の典型例を,まず角膜全周被覆術で治し,併発白内障の手術を経て再発なく,永久治癒せしめた。
 症例 64歳,女。8か月前,左角膜に周辺潰瘍を生じ近医に受診。ステロイド,システイン点眼,ソフトレンズ連続装用も効なく急激に増悪し,疼痛と視力低下が著しい。約半年遅れて右眼にも同様の病変が進行中。3週前から左眼はほとんど失明の上,激痛耐え難く,摘出を覚悟した。しかし右眼だけは何としても確保したく,前医より紹介され来院。当院初診時,右角膜はほぼ下半周に潜蝕性の潰瘍あり,全周性・求心性に進行中。初発白内障もあって視力0.6(図1)。左眼は重篤で,角膜全周に深い壊死性潰瘍あり,上耳側で穿孔して前房消失,眼球虚脱し,極度の縮瞳と後癒着のため,視力は眼前手動弁(図2)。

眼の組織・病理アトラス・65

網膜内境界膜の厚さ

著者: 向野利彦 ,   猪俣孟

ページ範囲:P.222 - P.223

 網膜の内面,硝子体との境界はPAS染色陽性の硝子様膜で,光学顕微鏡による観察に基づいて内境界膜とよばれる(図1)。電子顕微鏡でみると,内境界膜は神経上皮性細胞であるミュラー細胞の基底板であり,硝子体側は平滑であるが,網膜側はミュラー細胞の足突起の凹凸にそっている(図2,3)。
 内境界膜の厚さは網膜の部位により異なる(表)。一般に成人では、後極部で厚く,周辺に向かうにつれて薄くなる。後極では周辺部の10倍以上の厚さになる。また,後極では厚さが一定でなく,バラツキがある(図2a)。周辺部にいくと厚さが一定になり,薄くなる(図2b)。しかし,視神経乳頭(図2c),黄斑,および網膜の大きな血管の上(図2d)では薄い。

今月の話題

眼科リハビリテーション—現況と今後の課題

著者: 丸尾敏夫

ページ範囲:P.225 - P.228

 回復の見込みがない患者を診たら,眼科医は失明の告知をして視覚障害者としてのサービスを受けてもらうよう指導しなければならない。視覚障害者のリハビリテーションサービスには地域格差が著しい。眼科医としては,体系が確立している地方ではシステムへの導入を図ることが必要であり,確立していない地方ではシステムを作る努力をするべきである。

眼科手術のテクニック—私はこうしている・39

提供角膜片の作り方

著者: 澤充

ページ範囲:P.290 - P.291

移植用角膜片の作製法
 提供眼球から移植用角膜片の作製法としては上皮側からトレパンを行う方法と内皮側からトレパンを行う方法とがある。近年は内皮細胞の損傷がより少ない方法として強角膜片を作製した後,内皮側からトレパンを行う方法が多く行われるようになってきているので今回は本法について述べる。

眼科薬物療法のポイント—私の処方・39

眼犬蛔虫症

著者: 内尾英一 ,   秦野寛

ページ範囲:P.293 - P.295

 症例:50歳,女性。主訴,左眼鼻側視野欠損。2か月前より進行する左眼鼻側の視野欠損と,変視症を自覚し当科を受診した。硝子体に軽度の混濁と,網膜の耳側周辺部に黄白色の隆起性滲出性病巣があり,黄斑部への進展が見られた。犬,猫などペットの飼育経験はない。

臨床報告

白内障手術後の糖尿病網膜症経過

著者: 北川桂子 ,   荻野誠 ,   松村美代 ,   井戸稚子 ,   加藤研一 ,   根木昭 ,   西脇弘一 ,   市岡博 ,   市岡伊久子 ,   網野憲太郎 ,   熊谷映治 ,   西村晋 ,   栗原秀行 ,   原田隆文 ,   飯田文人

ページ範囲:P.343 - P.349

 糖尿病患者の白内障手術後の網膜症進行を術式間で比較した。術式は嚢内摘出術151例225眼,嚢外摘出術79例96眼,嚢外摘出で後房眼内レンズ挿入178例237眼であり,経過観察期間はそれぞれ平均26,20,19か月であった。網膜症の発症,増殖網膜症の発症,硝子体出血の発生,虹彩新生血管または血管新生緑内障の発生,黄斑症の進行について,術前と術後6か月および最終診察時とを比較した。嚢内摘出術と嚢外摘出術を比較すると,網膜症の発症頻度が嚢外摘出術で有意に高いことを除けばその他の項目については両術式の間に差がみられなかった。眼内レンズ挿入例は術前の網膜症がより軽度のものに行われていたが,術後網膜症は確実に進行していた。

遮閉除去試験にみられる眼球運動の特徴

著者: 長谷部聡 ,   大月洋 ,   田所康徳 ,   渡辺聖 ,   岡野正樹 ,   渡辺好政

ページ範囲:P.351 - P.354

 12例の斜位症例を対象に,遮閉除去試験で生ずる眼球運動を計測した。その結果,サイクロピアン眼を固視目標に向けるむき運動(sacca-de)と融像性よせ運動(fusional vergence),さらに修正的な小さいむき運動を伴う両眼の眼球運動を認めた。症例の50%は,被検眼を変えて検査を行うと異なる大きさのむき運動を示し,症例の88%は左右非対称のよせ運動を示したが,hole in card testで定めた優位眼との間に一定の関係は認めなかった。これらの眼球運動の特徴はPick‐wellの主張を裏付けるものであり,遮閉を除いた片眼のみに固視運動が生ずるとする従来の成書の記載とは明らかに異なるものであった。

流涙と結膜充血で発症した眼窩骨腫の1例

著者: 西野和明 ,   大塚賢二 ,   五十嵐保男 ,   中川喬 ,   朝倉光司 ,   佐藤昌明

ページ範囲:P.355 - P.357

 右眼の流涙と結膜充血で発症し,進行性の眼球突出を主訴とした,25歳女性の眼窩骨腫の1症例を報告した。眼窩骨腫は比較的稀な腫瘍であるが,その主症状はほとんどが眼球突出や眼球運動障害である。本症例も眼球突出を主訴としたが,その前駆症状として,流涙や結膜充血を呈した珍しい症例であった。眼窩骨腫のほとんどは篩骨洞から発生するものであり,その部位や人きさによっては,流涙が発生する可能性がある。本症例では,眼球突出が発症するまでの約5か月間,患者は流涙や結膜充血を自覚していたが放置していた。眼窩骨腫は発育の遅い腫瘍であるが,大きくなると視神経障害や眼球運動障害などが生ずることもあり,本症例のような流涙や結膜充血は,早期の徴候のひとつとして重要と思われた。

睫毛ケジラミ寄生症の小児例

著者: 山崎厚志 ,   松井博美 ,   中尾寛 ,   佐々木勇二 ,   玉井嗣彦 ,   広江靖

ページ範囲:P.359 - P.361

 睫毛ケジラミ寄生症の1例を報告した。眼脂と眼瞼の掻痒を訴えて4歳の女児が受診したが,両眼上下眼瞼の大部分の睫毛根部に多数の白色球状の小さな虫卵と,かなりの数の黄白色の虫体が睫毛に付着しているのが観察された。眼瞼縁は脂漏性眼瞼炎類似の炎症所見を呈していた。虫体および虫卵を鑷子を用いて機械的に除去するとともに,両眼上下の睫毛をすべて根部より切除した。除去物は顕微鏡下でPhthirus pubisとその虫卵と同定された。抗生剤の点眼とスミスリン・ワセリン(スミスリンパウダー®)の塗擦にて,約1週間後に症状の寛解をみ,以後再発していない。

線維柱帯切除と後房レンズ挿入の同時手術—術後早期の経過

著者: 山上聡 ,   清水一之 ,   新家真 ,   竹中康雄 ,   幸田富士子

ページ範囲:P.363 - P.367

 線維柱帯切除と後房レンズ挿入同時手術(trabeculectomy+PC-IOL挿入)を行った59例69眼の術後早期の経過について強角膜,結膜切開法別に,また緑内障病型別にretrospectiveに検討した。術後早期の眼圧は,切開法別では結膜輪部切開と強膜輪部切開の組み合わせ群が,結膜円蓋部切開と強膜輪部切開の組み合わせ群および角膜切開群に比し有意に高く,緑内障病型別では術後1日目に続発緑内障群が他群に比し高眼圧を呈した。全対象69眼の合併症出現頻度は,フィブリン反応38(55.1%),一過性眼圧上昇16(23.2%),脈絡膜剥離4(5.8%),浅前房5(7.2%),前房出血11(15.9%)で,この合併症は虹彩処置の有無および5—Fluorouracil術後投与と関連がなかった。同時手術では以上を考慮し症例,術式の選択,術後管理を行うべきと考えられた。

脈絡膜転移腫瘍の放射線療法

著者: 落合優子 ,   砂川光子 ,   平岡眞寛

ページ範囲:P.369 - P.372

 脈絡膜転移腫瘍2例3眼に対し,外眼角を照射野の前縁とし,他眼の白内障を避けるため後方に5°角度をつけてLinac X線を側方照射した。症例1は35歳,女性で,乳癌の両眼性脈絡膜転移で,左眼は漿液性網膜剥離を伴っていた。症例2は59歳,男性で,悪性リンパ腫の片眼性脈絡膜転移であった。放射線治療後,転移巣は瘢痕化し,症例1での漿液性網膜剥離も消失した。また白内障,角膜びらんなどの障害も認められず,良好な経過をとった。

仮性同色表の自動提示装置に関する研究—5.提示時間の短縮化の試み

著者: 深見嘉一郎 ,   山出新一 ,   野村桃世

ページ範囲:P.373 - P.376

 仮性同色表の自動提示装置の開発過程において検査時の偽陰性をなくす目的で,175名男子を対象に表の提示時間を短縮する試みをした。その結果,従来の方法では見逃される軽度色覚異常者をふるい分けることが可能であることが示せた。また,被験者の答を入力するまで次のプログラムに移行しないようにしたので,被験者は急いで答えなければならないという心理的圧迫なしに,落ち着いて答えられるようになった。なお,結果の入力の方法には改善の余地がある。

Sinusotomyが奏効したSturge-Weber症候群に合併した緑内障の2例

著者: 岸本直子 ,   星島佳容子 ,   竹山知永子 ,   山岸和矢 ,   三木弘彦

ページ範囲:P.377 - P.381

 Sturge-Weber症候群に合併した慢性の開放隅角緑内障2症例を経験した。症例は14歳と51歳の女性で,顔面血管腫と同側眼に緑内障を合併していた。隅角の発育異常はみられず開放隅角であったが,上強膜血管は著明に拡張していた。薬物療法では眼圧コントロールは不良であったので,sinusotomyを行い,良好な眼圧コントロールを得た。Sturge-Weber症候群に合併した緑内障に対してtrabeculectomyを行うと術中に急激な眼圧低下が生じて脈絡膜剥離などの重篤な合併症を起こしやすいという報告があるが,sinusotomyは結膜下でSchlemm管内壁を残存させて外壁のみを強膜とともに切除するので前房を開放しない濾過手術であり,術中に急激な眼圧低下を生じないので合併症は少なく,本症候群の緑内障に対しては安全かつ有効な手術術式と考えられた。

上眼瞼腫瘍として発症した涙腺多形性腺腫

著者: 大島浩一 ,   大滝千秋 ,   蔵内智己 ,   森靖弘 ,   松尾信彦

ページ範囲:P.383 - P.386

 74歳女性に上眼瞼腫瘤として発症した,涙腺多形性腺腫の1例を報告した。腫瘍は主涙腺眼瞼部から発生したと考えられたが,異所性涙腺または副涙腺由来の可能性も否定はできなかった。上眼瞼腫瘍が眼窩に及んでいるのをみた場合には,涙腺上皮性腫瘍の可能性も考慮しなければならない。

Pasteurella multocidaによる全眼球炎の1例

著者: 宮島理乃 ,   松村美代 ,   後藤保郎 ,   坂口淑子 ,   山下秀明

ページ範囲:P.387 - P.389

 筆者らは,Pasteurella multocidaによる稀な眼内感染例を経験した。症例は2歳女児で,結膜裂傷と思われる外傷から1か月後,発熱・嘔吐・眼瞼腫脹で受診した。角膜は透明であったが結膜下膿瘍を認め,眼内炎が疑われただちに硝子体手術を行い,術中硝子体膿瘍が判明した。原因菌はPasteurella multocidaと同定され,グラム陰性桿菌であり,さまざまな種類の動物の上気道に常在する。人間への感染源としては,犬・猫によるものがほとんどである。外傷時の詳細は不明であるが,猫のいる環境で暮らしていたので,猫の爪による球結膜・強膜創から菌が眼内に入り全眼球炎に至ったと考えられる。

Group discussion

色覚異常/地域予防眼科

著者: 深見嘉一郎 ,   小暮文雄

ページ範囲:P.391 - P.393

 今年は演題が少なかったので,ゆっくり時間をかけて,講演を聞き,十分な討論ができた。これこそグループ・ディスカッションの本来のあり方であろう。
 3年間の先天色覚異常の検査統計が報告された。前回の10年間の統計と比較しながらの講演であった。ほとんどが学校でのふるい分け検査の結果の受診であり,直接の来院はほとんどなかったという。こういう調査はときどき行って,時代による推移の有無を検討しておく必要があろう。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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