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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科46巻4号

1992年04月発行

雑誌目次

特集 第45回日本臨床眼科学会講演集(2)1991年10月 広島 学会原著

糖尿病性網膜症に対する汎網膜光凝固術後の長期経過

著者: 関根伸子 ,   竹田宗泰 ,   鈴木純一 ,   斎藤哲哉 ,   奥芝詩子 ,   吉田富士子

ページ範囲:P.415 - P.417

 札幌医大眼科で汎網膜光凝固術(PRP)を受けた前増殖型および増殖型糖尿病性網膜症患者の長期観察例65例95眼について,その治療効果および問題点について検討した。
 視力の経過は,PRP終了後平均4.6年で改善13%,不変38%,悪化49%で半数は視力を維持することができた。視力低下の最大の原因は黄斑症によるもの(64%)であった。全体の84%に網膜症の改善が認められ,PRP終了から平均3.3年後には45%が停止性網膜症となった。PRP終了後に認められた黄斑部浮腫および硝子体出血はそれぞれ26%と41%であった。しかし,硝子体出血を起こした症例のうら67%は3.4年以内に自然吸収された。

未熟児網膜症の光凝固・冷凍凝固治療による視機能への影響

著者: 井出賀洋子 ,   野村耕治 ,   高山昇三 ,   山本節

ページ範囲:P.419 - P.423

 未熟児網膜症の瘢痕病変が比較的軽度で同程度の,治療15例30眼,自然治癒15例29眼を対象として,瘢痕期の視機能を比較した。矯正視力は,治療眼,自然治癒眼とも9割が0.7以上であった。屈折値は,治療眼の7割,自然治癒眼の9割が,+3Dから−3Dの範囲に含まれたが,全周光凝固施行例1例で,強度の近視性乱視を認めた。眼位異常は治療例より自然治癒例に多かった。治療の有無と眼軸長に明らかな相関はなかった。
 光凝固治療はそれ自体視機能への影響は小さく,結果的に瘢痕を軽度にしてよりよい視機能を得るために,症例によっては活動期Ⅲ期中期の増殖性病変に部分的な適応を考慮するなど,これまで以上に積極的に選択されてよいと考えた。

網膜新生血管が非閉塞領域にみられた網膜静脈分枝閉塞症の3症例

著者: 加茂雅朗 ,   白木邦彦 ,   森脇光康 ,   松本宗明 ,   阪本卓司 ,   矢守康文 ,   三木徳彦 ,   杉野公彦 ,   上野珠代 ,   今本量久

ページ範囲:P.425 - P.429

 網膜静脈分枝閉塞症では,網膜新生血管は網膜静脈の閉塞領域あるいはそれに接して発生するが,非閉塞領域に網膜新生血管が発生することも稀ながらある。筆者らは,網膜静脈分枝閉塞症298症例中3症例において経験し,3症例とも閉塞した耳側網膜分枝静脈のhorizontal rapheを超して,対側の非閉塞領域の動静脈交叉部に生じた。全症例の閉塞領域に豆蒔き状に網膜光凝固術を施行し,1症例においてのみ網膜新生血管が消退し,3症例中最も閉塞領域の小さい症例では残存した。なお,1症例においては,網膜新生血管への硝子体による牽引を認めた。非閉塞領域での網膜新生血管の発生に関して,閉塞領域の範囲の広さ以外にも要因があるものと考慮された。

網膜静脈閉塞症における血管攣縮因子の変動

著者: 土屋寛芳 ,   高橋一則 ,   田中寧 ,   小原喜隆

ページ範囲:P.431 - P.434

 網膜静脈閉塞症の発症と血管攣縮の因果関係について,内皮細胞依存性収縮因子(EDCF)の1つであるendotheline-1(ET-1)と拡張因子であるProstacyclineの代謝産物6-keto PGFを測定し,次のような結果を得た。
 ①ET-1はBRVO群およびCRVO群で対照群より高く,特にBRVO+V.H.群では有意に高値を示した(P<0.01)。
 ②ET1はBRVO+V.H.群および外傷,RD+V.H.群で著明に上昇した。特に前者が後者に比較して有意に高値を示した(P<0.05)。
 ③6-keto PGFは各群間に差を認めない。
 以上より,網膜静脈閉塞症のうち硝子体出血の発症に血管攣縮が関与している可能性を示唆した。

裂孔原性網膜剥離に対する経強膜的手術の初回非復位眼の検討

著者: 伊野田繁 ,   清水昊幸

ページ範囲:P.435 - P.438

 1987年1月から1990年12月の期間に初回経強膜的手術を行った裂孔原性網膜剥離761眼の初回非復位眼について追加術式,復位率,および合併症について検討した。初回復位は655眼(86.0%),最終復位は738眼(97.0%)であった。初回復位率は黄斑型で最も悪く(64.6%),次いで中間型(76.1%)であった。黄斑型では空気注入追加のみによって13眼中10眼に復位が得られ,黄斑プロンベ+空気注入により初同復位率の向上が期待できた。強膜通糸時の眼球穿孔や,下液排液時の脈絡膜出血は黄斑型(33.3%),中間型(19.6%)に多く発生した。中間型では初回非復位眼での硝子体手術の頻度が高く手術合併症も比較的多く,症例によって初回より硝子体手術を行ってもよいと考えられた。

老人性円板状黄斑変性症に対する光凝固治療成績の生命表による解析

著者: 竹内正光 ,   高橋寛二 ,   山田佳苗 ,   大熊紘 ,   西村哲哉 ,   宇山昌延

ページ範囲:P.439 - P.443

 老人性円板状黄斑変性症に対して1986年から,色素レーザーを用いた治療成績を,生命表を用いて分析したので報告する。生命表による判定は視力と眼底所見について行った。1年目と4年目の視力の保持率は,漿液性網膜剥離期では73%と64%と最もよく,ついで網膜下血腫型が60%と60%,網膜下結合織増殖型が62%と54%,網膜下嚢胞型が52%と35%で,全体での4年生存率は,57%であった。特に漿液性網膜剥離期で新生血管の位置が中心窩から200μm以上離れていたものはそれぞれ82%と72%ときわめてよかった。すなわち,本症の早期例のレーザー光凝固例は良好なことが示された。

硝子体手術眼における水晶体線維の生体観察

著者: 吉田紳一郎 ,   橋本浩隆 ,   目谷千聡 ,   小原喜隆

ページ範囲:P.445 - P.447

 硝子体手術後の水晶体混濁過程を知る手がかりとして,臨床的に水晶体混濁のない30眼を対象として水晶体線維の形態と水晶体厚の経日的変化を生体観察した。極大散瞳後水晶体の前部浅層皮質水晶体線維をスペキュラーマイクロスコープとコーンレンズを川いて水晶体線維を撮影し,デジタル画像解析を川いて計測した。水晶体厚は超音波装置にて計測した,その結果,水晶体線維の幅と線維間隔は術後早期より増加し,不規則となった。水晶体厚は術後2週と3か月で軽度増加した。
 臨床的に混濁を認めない水晶体でも術後早期より水晶体線維に形態的変化を生じていた。硝子体手術後の水晶体は無硝子体状態により水晶体内外部環境の変化をきたし,水晶体線維に形態的変化を与えるものと考えられる。

強度近視における網膜色素上皮機能の電気生理学的知見

著者: 牛村繁 ,   若林謙二 ,   河崎一夫

ページ範囲:P.449 - P.453

 強度近視における網膜色素上皮(RPE)機能を電気生理学的に測定し,種々の病像とRPE機能の関連性ならびに他の新生血管黄斑症との病態の違いを検討した。強度近視17例34眼にてL/D比,高浸透圧応答,Diamox応答,メイロン応答の各EOG応答を調べた。眼底が豹紋状のみであってもDiamox応答で異常が検出され,網脈絡膜萎縮や黄斑部出血の発症にRPE機能の広範囲な障害が関与していることが示唆された。また網脈絡膜萎縮が広範囲になるほどRPE機能が障害される傾向があった。高浸透圧応答とメイロン応答の異常が多く,Diamox応答の異常が少ないことから老人性円板状黄斑変性やGrönblad-Stran-dberg症候群に類似した病態が推察された。

ノイズフィールドテストの早期緑内障性視野異常自覚検出精度

著者: 田川泉 ,   安達京 ,   白土城照

ページ範囲:P.455 - P.457

 ノイズフィールドテスト(以下,NFT)の視野異常自覚検出精度についてAulhorn分類(Greve 変法)Ⅱ期以下の早期緑内障視野異常眼91例123眼を対象として検討した。NFTの視野異常検出率は0期;60%,Ⅰ期;78.3%,Ⅱ期91.3%であり全体では77.5%であった。NFTの結果と精密閾値検査の結果とを視野異常部位ならびに視野異常の深さ別に比較した結果,暗点が固視点に近いほど,また感度低下が大きいほどNFTでの検出率が向上した。感度低下が10dB以下の浅い暗点でも視野異常部位が固視点から20度以内の場合の検出率は60%以上であり,NFTは早期緑内障性視野異常自覚検出法として有用であると考えられた。

流行性角結膜炎の院内感染のウイルス学的,理論疫学的検討

著者: 内尾英一 ,   小林伸好 ,   佐伯宏三 ,   岡田和四郎 ,   大野重昭

ページ範囲:P.459 - P.463

 2つの異なる病院の眼科病棟(院内感染1:41床,院内感染2:30床)で発生した流行性角結膜炎の院内感染について検討した。罹患者はそれぞれ15例,28例で,発症率は19.0%,20.3%であった。アデノウイルス37型の全分離例のDNA切断パターンはすべて同一であった。院内感染1は病棟閉鎖によって終息し,院内感染2は感受性者数が不変であるにもかかわらず,11週間で制圧された。理論疫学のReed-Frostモデルを適用して求めた接触率は流行極期で0.18〜0.28/週,通常期で0.03〜0.05/週と推測された。流行性角結膜炎の伝播形式は水系伝染病に類似し,感受性者数を減らすか,接触率を下げる努力によって流行が制圧できることが理論疫学的に推測された。

硝子体手術後のフィブリン析出に対するウロキナーゼ眼内注入の効果

著者: 塚原逸朗 ,   竹内忍 ,   石田政弘 ,   中原正彰 ,   宮沢優美子 ,   小川三千子 ,   佐川宏明

ページ範囲:P.465 - P.468

 硝子体手術後に,前房内にフィブリン膜の発生した14例14眼と血液凝固塊の発生した1例1眼に対して,眼内にウロキナーゼ(UK)を注入した。フィブリン眼全例で3時間以内にフィブリン膜の溶解が確認でき,血液凝固塊も12時間で溶解した。
 有色家兎眼に硝子体手術を行い,眼内にUKを注入したが,光学顕微鏡による観察では角膜・網膜には異常は認められなかった。
 フィブリンや血液凝固塊溶解を目的としたUKの眼内注入は,特別な合併症もなく有効であると考えられた。

眼内毛様体光凝固の臨床経過

著者: 丸森美樹 ,   鈴木由佳理 ,   木崎宏史 ,   谷口重雄 ,   光谷俊幸 ,   桂真樹 ,   高橋春男 ,   深道義尚

ページ範囲:P.479 - P.483

 眼圧調整不良な糖尿病性網膜症による血管新生緑内障5例5眼に,endoscopeとアルゴン眼内レーザーを用いて眼内より直接,毛様体光凝固を行った。経過観察期間は平均16か月であった。術前平均眼圧は39.8±9.5mmHg,術後平均眼圧は22.2±2.1mmHgで術後,眼圧は有意に下降した(p<0.05)。ルベオーシス,角膜浮腫,眼痛などの高眼圧に伴う自覚症状は軽減した。
 家兎眼において毛様体の組織学的変化を検討したところ,凝固された毛様体突起および毛様体上皮の消失,間質の線維化,萎縮,血管の減少がみられた。毛様体上皮の完全な再生はみられなかった。
 Endoscopeを用いた眼内毛様体光凝固術は血管新生緑内障に対する眼圧下降手術として有効であると思われた。

学術展示

若年性鋸状縁断裂の裂孔所見

著者: 田中住美 ,   出田秀尚 ,   広瀬晶 ,   岡千利 ,   渡辺健 ,   中武純二

ページ範囲:P.484 - P.485

 緒言 若年性鋸状縁断裂(young dialysis)は,従来の報告では周辺部網膜の発達異常が発生基盤として推測され1),嚢胞様変性(cystoid degeneration)との関連が示唆されているが,外傷を成因としている報告2)もあり,病態は明らかではない。筆者らは若年性鋸状縁断裂の裂孔所見を検討し,成因について考察したので報告する。
 対象 対象は,1979年6月から1991年5月の期間に,出田眼科病院で治療した若年性鋸状縁断裂の症例47症例である。若年性鋸状縁断裂としては,硝子体基底部(vitreous base)の牽引所見を欠く,鋸状縁に隣接した網膜に生じた裂孔で,網膜格子状変性・顆粒状組織(granular tissue)を原病巣としないものと定義した。症例は7歳から49歳に分布した。

糖尿病性虹彩ルベオーシスの早期発見と治療成績

著者: 井上正則 ,   安積淳 ,   山本節

ページ範囲:P.486 - P.487

 緒言 虹彩ルベオーシスは血管新生緑内障を発生させる重篤な病態で,その早期発見が重要である。従来より我々はレーザーフレアセルメーターを用いてその早期発見の可能性を検討してきた1,2)。前房フレア強度は虹彩における微小血管の変化の程度に伴い上昇し明らかな虹彩ルベオーシス眼では著明なフレア強度の上昇が認められる1,3)。そこでレーザーフレアセルメーターによるスクリーニングで高フレア値を示す症例で虹彩ルベオーシスの有無とその治療成績を検討した。
 対象と方法 対象は神戸大学医学部眼科にて経過観察中の糖尿病患者12名12眼である。年齢は50〜65歳,平均年齢55.6歳である。

Blastic crisisに伴い両眼性漿液性網膜剥離をきたした慢性骨髄性白血病の1例

著者: 大越貴志子 ,   山口達夫 ,   松葉裕美 ,   草野良明 ,   神吉和男

ページ範囲:P.488 - P.489

 緒言 Blastic crisisは慢性白血病の経過中に急激な腫瘍細胞増多をきたし,急性白血病症状を呈することである。白血病の経過中に後極部の漿液性網膜剥離をきたすことはすでに知られているが1〜5),blastic cri-sisと同時に発生したという報告はいまだない。今回blastic crisisと同時に両眼底の後極部漿液性網膜剥離をきたした症例を経験したので報告する。
 症例 43歳男性。主訴は両眼の視力低下。家族歴,既往歴には特記すべきものなし。1987年よりPh1染色体陽性の慢性骨髄性白血病にて加療中2回blastic crisisをきたし,1990年12月に3回目のblastic crisisにて内科入院となった。ただちにvindesin,cytosine arabinoside (Ara-C),predonineにて化学療法が開始され,また髄液中への浸潤も認められたのでAra-C髄注された。その後一時腫瘍細胞が消失したが,1991年1月11日再び白血球数は80,000/mm3となりVCTAEP療法(vindesin,cyclophosphamide,TPH-adriamycin,BHAC,predonine,VP-16)が2回施行された。2月4日,一時減少していた腫瘍細胞が急増し同時に視力低下を訴えて眼科を受診した。

結膜浸潤をみた成人T細胞性白血病の1例

著者: 高橋久仁子 ,   佐熊勉 ,   尾上正軒 ,   赤坂俊英 ,   田澤豊

ページ範囲:P.490 - P.491

 緒言 白血病によりさまざまな眼症状が発現することが知られているが,成人T細胞白血病(adult T-cell leukemia,以下ATL)に合併した眼症状の報告はきわめてまれである1)。今回,筆者らは両眼球結膜に白血病細胞の浸潤を認めたATLの1例を経験したので,若干の考察を加えて報告する。
 症例 患者:77歳,女性。

眼底に異常所見がみられなかった青錐体系障害の1例

著者: 久保朗子 ,   三谷美奈子 ,   山口朋彦 ,   神立敦

ページ範囲:P.492 - P.493

 緒言 今回筆者らは,視力が良好で眼底に異常所見がみられないにもかかわらず,各種心理物理学的検査において網膜中心部における青錐体系反応の欠如した症例を経験したので報告する。
 症例
 患者:53歳,男性。

色素レーザーで治療したvon Hippel病の3例

著者: 草野良明 ,   大越貴志子 ,   山口達夫 ,   石田誠夫 ,   松葉裕実 ,   神吉和男

ページ範囲:P.494 - P.495

 緒言 von Hippel病は,主に網膜周辺部に発生する網膜血管腫である。
 血管腫が進行すると浸出や網膜剥離,硝子体出血などを合併し,視力予後不良となりうる疾患であり,早期治療がすすめられる。

当科におけるシリコンオイルの使用について

著者: 二宮久子 ,   小林康彦 ,   田中稔 ,   金井淳

ページ範囲:P.496 - P.497

 緒言 網膜剥離に対する硝子体手術においては,網膜を牽引している増殖性組織とともに有形硝子体をも切除したあとには,裂孔縁で癒着性瘢痕が形成されるまでの間,剥離していた網膜を内側から支えたり,また,出血傾向の強い眼の硝子体手術後に術中形成された血餅の早期溶解を防止したり,術後の低眼圧による出血を防止する目的で,硝子体腔内にタンポナーデ物質を注入する必要がある。硝子体手術の進歩に伴い,近年代用硝子体の研究も盛んで,さまざまな気体や液体が試みられている。長時間にわたってタンポナーデ効果の期待できるシリコンオイルの使用は,重篤な網膜剥離の手術成績を向上させており,その使用頻度も増えてきているが,一方,その長期間の使用による合併症も指摘されてきている1,2)。当科では,硝子体手術を始めた頃から,シリコンオイルは用いてはいけない物質と考え,その使用はひかえており,理想的な代用硝子体の研究を行ってきた。しかしながら,最小限に使用してきた症例も増え,その合併症も経験し,今後の適応について,若干の知見を得たので報告する。
 対象 当科において施行した硝子体手術416眼のうち,シリコンオイル注入を行った49眼で,年齢は1歳から78歳の平均48.6歳。術後経過観察期間は1か月から1年11か月の平均9.6か月。使用したシリコンオイルの粘稠度は1,000センチストークである。

10年以上観察した虹彩角膜内皮(ICE)症候群の3例

著者: 布田龍佑 ,   古吉直彦 ,   西山正一 ,   萩原理

ページ範囲:P.498 - P.499

 緒言 虹彩角膜内皮(ICE)症候群は角膜内皮異常,虹彩異常,周辺虹彩前癒着(PAS),続発緑内障を特徴とする比較的稀な疾患である。現在,症例の蓄積によりその本態が解明されつつあるが1,2),その長期観察例の報告はない。ICE症候群と診断し,10年以上経過観察ができた3症例の臨床経過を報告する。
 症例 【症例1】 49歳,女性。右進行性虹彩萎縮症。初診1976年11月。左眼の典型的な急性閉塞隅角緑内障により受診した。左眼に対してはトラベクレクトミーを行った。右眼は初診時矯正視力1.0,眼圧 26mmHg,視神経乳頭,視野は正常であった。しかし右眼も浅前房で,上方9時から4時にかけての捲縮輪外方の虹彩の萎縮と同方向の隅角にSchwalbe線を超える高いPASが認められた(図la)。眼圧調整不良のため1976年12月,トラベクレクトミーを施行,術中術後合併症はなく,その後は縮瞳薬の点眼にて良好な眼圧を保っている。しかし虹彩萎縮は徐々に進行し,1983年には9時部虹彩に孔を形成した(図1b)。また白内障も進行し,現在視力は0.1に低下している。スペキュラーマイクロスコープによる角膜内皮観察では,右眼角膜内皮細胞の著明な細胞数減少と多形性が認められた(図2)。トラベクレクトミー時に得られた隅角部の電顕像を図3に示す。

ヒト前嚢下白内障における上皮細胞DNAの定量.原因疾患によるDNA分布パターンの差異

著者: 石田美幸 ,   岡本庄之助 ,   池部均 ,   照林宏文 ,   赤木好男 ,   高松哲郎

ページ範囲:P.500 - P.501

 緒言 前回筆者らは,顕微螢光測光法を用いてヒト白内障水晶体上皮の核DNA量を測定し,そのDNA合成能および種々の白内障水晶体でのDNA分布パターンの差異につき調べた。その結果,前嚢下白内障においてのみ異常細胞分裂を示す多倍体細胞,mi—cronucleiを有する細胞が高度に出現する特異なDNA分布パターンが認められ,前嚢下白内障の発生に上皮細胞の異常が関与することが示唆された1)。今回,臨床的に前嚢下白内障を比較的多く合併することが知られている糖尿病,アトピー性皮膚炎,網膜色素変性症につき,それぞれの患者から採取した前極部水晶体上皮の核DNA定量を行い,これら原疾患の有無や種類によるDNA分布パターンの差異を検討した。
 対象および実験方法 対象は白内障手術を行った48眼で,年齢は8〜75歳である。内訳を表に示した。

ヒト眼内レンズ移植後の嚢混濁および収縮についての組織学的検討

著者: 重光利朗 ,   馬嶋慶直 ,   石黒圭司 ,   湯欣

ページ範囲:P.502 - P.503

 緒言 後房レンズ(posterior chamber lens;PCL)一次移植後の水晶体嚢(前嚢,後嚢)の混濁および収縮は,それぞれ後発白内障や眼内レンズの偏位などを生じることがあるので問題になっている。最近では,白内障手術時の前嚢切開をcontinuous circular cap-sulorhexis (C.C.C.)で実施するようになり,術後の前嚢の混濁や収縮が臨床的に注目されている。今回筆者らは,PCL移植後の嚢の混濁や収縮を生じた部分がどのような組織学的変化を生じているかについて,眼内レンズ非移植例の嚢の変化とも比べて組織学的に検索した。特殊染色の他に各種コラーゲンについても免疫組織化学的に検索した。
 材料 ①PCL移植例:PCL(光学部の材質がpoly-methylmetacrylate;PMMAで支持部の材質がpoly-propylene;PPのもの)移植後12か月の水晶体前嚢および後嚢(前嚢切開はC.C.C.)。PCL(光学部silico-ne,支持部PP)移植後4か月の水晶体前嚢(前嚢切開はC.C.C.)。PCL(silicone one piece)移植後85日の水晶体前嚢(前礎切開はC.C.C.)。PCL(光学部PMMA,支持部PP)移植後15か月剖検眼(前嚢切開はcan opener)。②PCL非移植例:先天性白内障吸引術後9か月の水晶体後嚢(前嚢切開はcan opener)。

前房レンズ二次移植眼の長期予後

著者: 大戸純恵 ,   清水潔 ,   木崎宏史 ,   稲富誠 ,   深道義尚

ページ範囲:P.504 - P.505

 緒言 前房レンズ(ACL)はさまざまな合併症が報告され1〜5),その使用は減少してきている。
 しかし,過去には二次移植にかなり使用されており,すでに移植されたACLに対して定期的な経過観察が必要である。

若年性慢性虹彩毛様体炎の臨床像

著者: 小阪祥子 ,   小竹聡 ,   市石昭

ページ範囲:P.506 - P.507

 緒言 これまで筆者らは,小児のぶどう膜炎患者の中で,低年齢で発症し,慢性の経過をとるなど類似の眼症状を呈する患者群が存在することを報告した1)。これらは若年性関節リウマチ(juvenile rheumatoid arthritis, JRA)に合併する慢性虹彩毛様体炎と類似点が多いが,関節症状を欠き,欧米でchronic iridocy-clitis in young girlsと呼ばれる疾患2〜4)に一致していると考えられる。今回,この疾患に相当する症例をまとめ,臨床像および検査所見につき検討したので報告する。
 対象,方法 対象は,1987年から1991年の5年間に北大眼科ぶどう膜炎外来を受診した患者のうち,10歳未満で発症した慢性虹彩毛様体炎患者9例である。これらの症例の眼症状と臨床検査成績を調べ,さらに,小児科的にJRAの検索を行った。眼症状の観察期間は1か月から12年3か月で平均5.2年であった。

長崎大学における過去10年間の転移性脈絡膜腫瘍について

著者: 津田恭央 ,   秋山和人 ,   雨宮次生

ページ範囲:P.508 - P.509

 緒言 転移性脈絡膜腫瘍は,現在,増加傾向にあり,その実体を調査することは有意義である。筆者らは最近10年間の当科を受診した転移性脈絡膜腫瘍の原発巣と臨床像について検討した。
 対象 1981年より1990年までの10年間に長崎大学病院眼科を受診し,脈絡膜腫瘍と診断された患者のうち,転移性脈絡膜腫瘍と診断された7例をカルテに基づき検討した。

未熟児網膜症による重症視覚障害児の日常生活上の問題点

著者: 川地浩子 ,   馬嶋昭生 ,   市川琴子 ,   川路陽子

ページ範囲:P.510 - P.511

 緒言 未熟児網膜症(retinopathy of prematurity,ROP)は重症瘢痕により著しい視覚障害を残すことがある。今回は,ROPによる重症視覚障害児をもつ家庭の問題点や不安を把握し,今後の指導に役立てるため,保護者の意見を集め,また,眼先天異常による視覚障害児と比較してみた。
 対象および方法 1979年1月から1989年12月までに出生し,名古屋市立大学病院新生児集中治療室および多施設による未熟児網膜症の研究1)に参加した施設,愛知未熟児網膜症研究会2)に参加した施設のいずれかに入院して管理され,厚生省ROP瘢痕期分類の2度強度以上となった13名の極小未熟児を対象として,保護者に,児の生活状況についてのアンケート調査を行った。さらに,回答の得られた極小未熟児と,対照として1981年1月から1990年12月に名古屋市立大学病院眼科を受診した重症視覚障害のある21名の眼先天異常児に対して,日常生活に関連した事柄についてのアンケート調査を年齢別に3群に分けて行い,両者を比較した。

網膜静脈分枝閉塞症にみられるEOG L/D比の低下

著者: 原彰 ,   長友万里子

ページ範囲:P.512 - P.513

 緒言 網膜中心静脈閉塞症(CRVO)の網膜の虚血状態を,ERGのb/a比や律動様小波(OP)の振幅総和を指標として判断することができる。一方,CRVOに比べると網膜静脈分枝閉塞症(BRVO)では病巣が限局されているため,mass responseであるERGの値に,綱膜の虚血状態が影響することはないと考えられる。前回筆者らは、BRVOとCRVOの症例にERGとEOGの検査を行い,EOGのL/D比が両者で低下していることを知り1),BRVOの病巣の変化はEOGのL/D比に反映するのではないかと考えた。今回筆者らは,この結果を確かめるためにBRVOの症例を選別追加し,BRVOのL/D比が真に低下するものかどうかを検討した。
 対象および方法 1990年1月より1991年4月まで当科を受診しBRVOと診断し,今回の基準に合致した27症例54眼を対象とした。対象の基準は,初診時検眼鏡検査で,片眼のみBRVOで,他眼が正常であったものを選んだ。BRVO眼では虹彩癒着で散瞳の不十分だったもの,白内障が高度なもの,硝子体出血があるもの,緑内障,糖尿病性網膜症,網膜裂孔,光凝固を行ったものなどは除外した。また検査1に線溶酵素剤,抗凝固剤を使用した症例も除外し,単にBRVOを有する眼に対してEOG検査を行うようにした。

京都府立医大外来における先天性色覚異常者の検討

著者: 溝部恵子 ,   片山泰子 ,   中村恵美子

ページ範囲:P.514 - P.515

 緒言 先天性色覚異常にはさまざまな程度のものがあるが,それらをひとまとめにして取り扱うのは職業適正の点からも好ましくない。そのため1972年馬嶋により先天性色覚異常の程度分類が試案され,広く使われている。当科でもこの馬嶋の分類を参考に色覚異常者の程度分類を行っている。今回当科外来を受診した色覚異常者につき検討を行った結果,分類不能の例が若干認められた。この論文ではそれら分類不能例にっき検討した結果を報告する。
 方法 1984年から90年までの5年間の問に京都府立医大眼科を受診した先天性色覚異常者477名(うち女性は21名)につき検討した。施行した色覚検査は,仮性同色表3種(石原表国際版,東京医大式色覚検査表(TMC),標準色覚検査表(SPP))と,ランタンテスト(ランタン),パネルD-15(D-15),アノマロスコープ(アノマロ)である。ランタンとD−15は各々2回ずつ行った。

糖尿病性輪状網膜症の自然経過および光凝固の有効性の検討

著者: 川本麻也 ,   山本禎子 ,   川本英三 ,   山下英俊

ページ範囲:P.516 - P.517

 緒言 糖尿病網膜症における.黄斑部近傍の輪状硬性白斑(CE)に対して光凝固が施行されることが多いが,その有効性について自然経過観察例を対照として検討ざれたことはほとんどない。本報告では,CEに対する光凝固療法導入以前の症例の経過を追跡し,さらに光凝固治療効果および関連する因子について検討した。
 対象 東京厚生年金病院,東夫病院眼科糖尿病外来通院中の患者50例60眼(男性26名,女性24名)にみられたアーケード内のCE 117個(光凝固施行48個,未施行69個)を対象とした。対象眼中,単純網膜症は42眼,増殖前・増殖網膜症は18眼であった。光凝固は波長としてArgon mono-greenを用いた。凝固条件は,スポット径100〜200μm,凝固時間0.1〜0.2sec,出力0.1〜0.2watt,凝固斑数l〜80個(平均39.5個)であった。

トロッサ・ハント症候群40例の検討

著者: 加島陽二 ,   中島裕美 ,   田辺由紀夫 ,   石川弘 ,   北野周作

ページ範囲:P.518 - P.519

 緒言 トロッサ・ハント症候群は,目の奥の激しい痛みと外眼筋麻痺を主症状とし,有痛性眼筋麻痺ともいわれている1)。臨床的には,動脈瘤特に内頸後交通動脈瘤との鑑別に悩まされることが多い。そこで,今回筆者らはトロッサ・ハント症候群の自験例40例について臨床症状の詳細な分析を行い,診断の要点について検討したので報告する。
 対象 当科にてトロッサ・ハント症候群と診断した40例で,男性は20例,女性20例であり,年齢は男性は10歳から82歳,女性は27歳から68歳までに分布していた(表1)。

網膜動脈・静脈閉塞症と脳虚血病変

著者: 野口智 ,   雨宮次生 ,   上谷雅孝

ページ範囲:P.520 - P.521

 緒言 網膜動脈・静脈閉塞症にはさまざまな全身合併症があるといわれ,脳梗塞もそのひとつであり,特に網膜動脈閉塞症と脳梗塞の関連性が強いとされている1)。筆者らは,網膜動脈閉塞症および静脈閉塞症患者に対し頭部MRIを施行し,脳虚血性病変の有無を検討したところ興味深い結果を得たので報告する。
 対象および方法 対象は,1990年1月から1991年3月までの間に長崎大学医学部附属病院眼科を受診した網膜動脈閉塞症および網膜静脈閉塞症患者のうち,当院放射線科において頭部MRIを施行した24名であり脳虚血性病変の有無を検討した。頭部MRIにおいて,T1強調画像で等〜低信号,T2重調画像で高信号を呈する白質病変を認めたものを脳虚血性病変とした。

太田母斑にみられた隅角発育異常緑内障の1例

著者: 荒木英生 ,   吉富健志 ,   猪俣孟

ページ範囲:P.522 - P.523

 緒言 太田母斑は東洋人に多く,半数以上に眼球メラノージスを伴う1)。本邦における太田母斑にみられた緑内障の報告は数例が散見されるのみである2〜4)。今回筆者らは,太田母斑にみられた隅角発育異常緑内障で9歳の女児の症例を経験したので報告する。
 症例 9歳の女児。生後3か月に,近医で右眼瞼皮膚の色素沈着と右眼のメラノージスにより,太田母斑と診断された。1990年2月に光視症を自覚して近医を受診し,右眼の高眼圧を指摘された。β-ブロッカー剤点眼で眼圧がコントロールできずに,1991年3月九州大学眼科を紹介された。

糖尿病性網膜症における硬性白斑の経時的変化

著者: 今泉寛子 ,   竹田宗泰

ページ範囲:P.524 - P.525

 緒言 硬性白斑は網膜血管透過性元進と関係し,網膜浮腫の周囲に認められる。前報で硬性白斑と網膜微小血管障害との関連について報告した1)。今回は硬性白斑の増減に関与する螢光造影所見,硬性白斑の経過と黄斑部螢光漏出との関連,視力変化について検討した。
 対象 単純型,前増殖型糖尿病性網膜症で後極部に硬性白斑を認め,光凝固せずに5か月以上経過観察した48例80眼を対象とした。対象症例の年齢は40〜75歳(平均56.7歳),経過観察期間は5か月から68か月(平均19.5か月)であった。

インドシアニングリーン蛍光眼底造影を施行した網膜打撲壊死の1例

著者: 北庄司清子 ,   三木徳彦 ,   河野剛也 ,   岡宮一彦 ,   沢辺敬子

ページ範囲:P.526 - P.527

 緒言 鈍的眼外傷による網膜混濁は,網膜振盪症から網膜打撲壊死までさまざまであり,筆者らは,実験的に,脈絡膜循環障害について検討してきたが1〜4),臨床的にも,予後を考えるうえで脈絡膜循環の検討が必要である。今回,網膜打撲壊死の症例にインドシアニングリーン(ICG)蛍光眼底造影を行う機会を得たので報告する。
 症例 患者:13歳,女子。

膜形成性脂質異栄養症の1例

著者: 村田正敏 ,   高橋茂樹

ページ範囲:P.528 - P.529

 緒言 膜形成性脂質異栄養症は1971年,那須らにより報告された稀な疾患である1)。本症は臨床的に病的骨折や精神神経症状が認められる。病理組織学的には全身の脂肪組織に膜嚢胞変性がみられ,脳においては主に白質の変性萎縮が認められる1〜3)。本邦では約60例の報告がみられる1〜7)が,眼科領域からの報告はない。今回,筆者らは両眼の視野狭窄と眼球運動障害を伴った膜形成性脂質異栄養症の1例を経験したので報告する。
 症例 患者:36歳,男性。

経過観察中に特発性黄斑円孔の発生した3例

著者: 米山穣二 ,   戸塚清一 ,   栗原和之 ,   田中紀子 ,   宮崎守人

ページ範囲:P.530 - P.531

 緒言 特発性黄斑円孔の発症機序に関しては従来,硝子体の前方あるいは,接線方向への牽引1,2),黄斑部の脆弱化3)などの説があるが近年黄斑円孔形成前に出現する臍状所見が注目されている4)。今回筆者らは経過観察中に特発性債斑円孔の発症をみた3症例を経験したので報告する。
 症例 【症例1】
 57歳,女性。5日前よりの左眼視力低下を主訴に1989年2月7日受診。

連載 眼科図譜・309

水晶体嚢のtrue exfoliationの1例

著者: 瓶井資弘 ,   桒山泰明 ,   福田全克

ページ範囲:P.402 - P.403

 緒言 水晶体嚢のtrue exfoliationは瞳孔領の水晶体前面に膜様物がみられる稀な疾患で,1922年にElschnigが報告したのが最初である1)。Els-chnigの報告した症例はガラス工で,それ以後の報告2〜4)でも鍛治屋,製鉄業など強い熱を直接受けるような職業に従事する症例が大部分であり,長期間にわたる熱照射が原因だとされていた。しかし,1960年以降は労働条件の改善もあり報告数は減少してきており,最近では熱照射の既往のない症例も報告されている5)。わが国には少なくとも過去15年間に報告が見当たらないが,今回trueexfoliationの1症例を経験したので報告する。
 症例 77歳 男性

眼の組織・病理アトラス・66

血管新生

著者: 猪俣孟

ページ範囲:P.406 - P.407

 光受容器としての眼球構造の特徴の一つとして,光が通過する角膜,眼房,水晶体,硝子体に血管が存在しないことがあげられる。そのために組織は透明である。一般に,組織は血管で栄養されるので,生理的な状態で組織が血管をもたないということはきわめて特異なことである。生体には,血管新生促進因子と抑制因子が存在するが,血管をもたない眼組織では,血管新生抑制因子優性の状態にあることが考えられる。しかし,糖尿病や炎症などの病変で,組織損傷や血液眼柵の破綻がおこると,血管新生抑制因子優位のバランスが崩れ,組織修復反応として血管内皮細胞が増殖し,血管が新生される。それによって当該組織は透明性が阻害され,視機能が低下する。血管新生を含む細胞の増殖という創傷治癒反応は本来望ましいもので,生体には無くてはならない現象であるが,それが眼組織では構造と機能の特徴から相反する結果を招来することになる。
 角膜は直接に観察できるので,しばしば血管新生の研究に使用される。ここに示す図は,家兎眼の炎症に際して角膜に生じた新生血管の先端部を電子顕微鏡で観察したものである。

今月の話題

小切開創用眼内レンズの現況と将来

著者: 大鹿哲郎

ページ範囲:P.409 - P.413

 軟性素材を用いた折り曲げ可能な眼内レンズ(foldable IOL)は,小切開白内障手術を目的としたレンズである。これらのレンズは3.2〜4.0mmの創より挿入し得ることから,超音波水晶体乳化吸引術の創を若干拡げるのみで眼内レンズ手術を完了することが可能となる。

眼科薬物療法のポイント—私の処方・40

サイトメガロウイルス網膜炎

著者: 坂井潤一

ページ範囲:P.473 - P.475

 症例38歳,男性。主訴は両眼の霧視。過敏性肺炎にてステロイド薬大量投与中,主訴を自覚し眼科を受診した。前眼部,中間透光体に異常はなかった。両眼の後極部網膜に黄白色滲出斑と出血を動脈の走行に沿って認めた(図1,2)。病巣近くの血管は一部白鞘化していた。

眼科手術のテクニック—私はこうしている・40

Anterior segment reconstruction(前眼部の形成術)

著者: 坪田一男

ページ範囲:P.476 - P.478

Anterior segment reconstructionとは何か
 白内障術後の水疱性角膜症や,ぶどう膜炎などの合併症を伴った角膜混濁などにおいてはしばしば前眼部の異常を伴うことが多い。問題は,硝子体の前房への脱出,虹彩前癒着,虹彩後癒着,眼内レンズの位置異常,虹彩萎縮などである。Ante-rior segment reconstruction (前眼部形成)はこれらの問題に対して,積極的に前眼部の形成を行う術式をいう。従来手術侵襲を抑えて,処置を控えることの多かった虹彩に対して手技を加えることになるが,術後の結果はむしろ良好であることが多い。最も根本的な概念は虹彩と角膜の位置関係を正常に保ち,隅角を開いて前房を形成することにある(図1)。

臨床報告

白内障手術後の眼圧

著者: 矢部伸幸 ,   星兵仁 ,   川島千鶴子 ,   関保

ページ範囲:P.541 - P.545

 白内障術後の99眼について,術後長期の眼圧の推移とC値の変化を検討した。
 非緑内障眼の眼圧は,偽水晶体眼では術後低下する傾向にあった。無水晶体眼では,初期には眼圧がやや低下し,術後長期間の経過ではむしろ徐々に上昇する傾向を認めた。
 C値は,眼内レンズ(IOL)嚢内固定眼で術後改善したが,無水晶体眼では悪化した。
 緑内障眼では,濾過手術をしない白内障IOL単独手術の症例でも,術後眼圧が良好に保たれ,術後C値も改善を認めた。
 以上のことから,緑内障白内障合併眼には,白内障手術としてIOLの嚢内固定を第一とし,眼圧コントロールが不良な症例に対してのみ緑内障手術を追加すればよいと結論された。

単純糖尿病網膜症の黄斑部機能

著者: 福田敦 ,   吉村弦 ,   尾上正軒 ,   今泉利雄 ,   森敏郎 ,   高橋洋司 ,   田澤豊 ,   桑島研一 ,   町田繁樹 ,   後藤寿裕

ページ範囲:P.547 - P.550

 単純糖尿病網膜症における視機能を評価するために,30HzフリッカーERGと網膜感度の測定を行い,視力との相関について検討した。
 対象は福田分類でA—Ⅰ,Ⅱおよび初期のB—Ⅰの22眼である。30HzフリッカーERGはその振幅と頂点潜時を求めた。静的量的視野測定はハンフリー自動視野計で中心窩および中心10°以内の感度を求めた。フリッカーERGの振幅が低下し,頂点潜時が延長した例では,視力が低い傾向を示した。さらに,中心窩感度の低下した例においても,視力が低い例を9眼認めた。傍中心窩感度と視力との間においても中心窩感度と同様の傾向を示し,特に,上耳側の感度と視力が最も高い相関を示した。
 30HzフリッカーERGおよび網膜感度と視力との間には一定の相関を示したことから,30HzフリッカーERGおよび網膜感度の測定は,単純糖尿病網膜症の黄斑部の機能を評価する一助となると思われた。

緑内障術後前房消失例の治療経験—上脈絡膜腔貯溜液排除法

著者: 浅原智美 ,   浅原典郎 ,   武藤政春

ページ範囲:P.551 - P.553

 緑内障濾過手術後の難治性脈絡膜剥離の症例に前房形成を目的として昇術を施行した。方法は強膜弁を作成して,1/2層の強膜弁下に強膜切開を行い脈絡膜に達する切開をした。上脈絡膜腔液を排泄した後,切開創縁に牽引糸をかけ,創が閉鎖しにくいようにした。術後に前房は形成され,眼圧のコントロールも良好であった。上脈絡膜腔貯溜液を伴う回復傾向のない前房形成不全例には強膜弁下の強膜切開創に糸を留置する方法が有効であると思われた。

角膜周辺部で測定した場合のTono-PenⅡの信頼性

著者: 李三榮 ,   猪阪優子 ,   内堀恭孝 ,   山本良 ,   桑山泰明

ページ範囲:P.555 - P.558

 Tono-PenⅡを用い角膜周辺部で測定した眼圧値を,Goldmann眼圧計による測定値と統計学的に比較検討した。対象は正常角膜を有する24例42眼で,Tono-PenⅡによる測定部位は角膜中央部・上方・下方・鼻側・耳側とした。Tono-PenⅡの各部位での測定値の平均値とGoldmann眼圧計の測定値を比較すると,角膜上方での測定値にのみ統計学的に有意差(p<0.05)が認められた。Goldmann眼圧計の測定値と各部位でのTo-no-PenⅡの測定値との相関係数は,0.88〜0.92とよく相関していた。両者の測定値の読みの差が±2mmHg以内であった割合は,61.9〜83.3%でバラツキも少なく,Tono-PenⅡによる眼圧測定は,角膜周辺部で行っても信頼性が高いと考えられた。

糖尿病患者でのイブジラストの網膜循環への効果

著者: 杉原いつ子 ,   石橋健 ,   古谷幸子 ,   栗本晋二

ページ範囲:P.559 - P.562

 イブジラストは,プロスタサイクリンの作用を増強し,血管弛緩作用,抗血小板作用を呈する。筆者らは,糖尿病のような血栓形成を伴う血管障害の治療に有用ではないかと考え,video—densitometric image analysisの方法を用いて,網膜循環動態への効果を検討した。
 対象症例は,糖尿病患者8例8眼で,イブジラストの内服前と30mg/日を2週間内服後にビデオ螢光眼底造影を行い,網膜平均循環時間(MCT)を計測した。内服後では,MCTは有意に短縮した(前4.2±2.8秒vs後3.0±1.6秒,P=0.0215)。イブジラストによる網膜循環の改善効果は,糖尿病網膜症の進行防止や予防の有用性を示唆する。

眼内レンズ二次縫着後に発症した遅発性眼内炎の1例

著者: 八木純平 ,   米本寿史 ,   新里悦朗

ページ範囲:P.563 - P.566

 水晶体嚢内摘出術が9年前に行われている79歳の女性に眼内レンズ二次縫着術を施行した。術後6週目に,激しい前房蓄膿と眼内炎が突発した。抗生物質の局所および全身投与で治療を開始したが,炎症が増悪し,著しい硝子体混濁が生じたため,治療開始後1週間目に前房洗浄および硝子体手術を施行し,比較的良好な視力回復を得られた。
 本症例では硝子体手術時に検体を採取できず,原因菌の同定はできなかったが,臨床症状から弱毒菌による眼内炎が疑われた。眼内レンズの二次縫着術後にもこのような遅発性の眼内炎が発症する可能性があるので,前房および硝子体手術標本を好気性のみならず嫌気性菌の培養と細胞学的検査を行う必要がある。

涙腺炎を合併したKüttner腫瘍の1例

著者: 伊藤治夫 ,   河本ひろ美 ,   松元俊 ,   小島孚允 ,   松本光彦 ,   梅津宗子

ページ範囲:P.567 - P.570

 両側上眼瞼腫脹で発症した46歳女性のKüttner腫瘍の1例を経験した。患者は,4年前から上眼瞼腫脹を自覚し,その翌年右顎下腺腫瘍を指摘され,摘出時の病理標本からKüttner腫瘍と診断された。2年前に左顎下腺腫脹が起こり,上眼瞼腫脹も増悪したため,左上眼瞼腫瘍を切除した。切除組織にはリンパ濾胞の形成と,間質へのリンパ球浸潤がみられ,顎下腺腫瘍と同じ組織像であった。本例のように,涙腺炎を合併したKüttner腫瘍はまれであり,本症の病因に関して重要な症例であると思われた。

眼内レンズ挿入術後炎症に対するプロスタグランディン生合成阻害剤の効果—ジクロフェナックナトリウム点眼液とプラノプロフェン点眼液の比較実験

著者: 戸部隆雄 ,   萩原実早子 ,   壺井邦彦 ,   米本由佳 ,   山岸和矢 ,   岩崎和佳子

ページ範囲:P.571 - P.575

 眼内レンズ挿入術後に発生する炎症に対して,手術前後にジクロフェナックナトリウム点眼液,またはプラノプロフェン点眼液を川いてその抑制効果をみた。細隙灯顕微鏡検査によりフィブリン反応を,レーザーフレアセルメーターによりフレア値と細胞数を測定し,両剤について比較した。術後のフィブリン反応陽性率および術後のフレア値と細胞数には,両剤間に有意差はなかった。フィブリン反応はすべて早期発症型であり,後期発症型のフィブリン反応はまったくみられなかった。プロスタグランディン生合成阻害剤術後非投与群と比べて,2剤はいずれも有意に抑制効果を示した。2剤はともに,ステロイドと併用することにより臨床的に眼内レンズ挿入術の術後炎症に有効であった。

角膜真菌症の治療経過中にtrophic ulcerと考えられる状態を呈した1例

著者: 鈴木明子 ,   石橋康久 ,   加畑隆通 ,   渡辺亮子 ,   本村幸子

ページ範囲:P.577 - P.580

 68歳の女性で1年前からのソフトコンタクトレンズ連続装用中,右眼に角膜真菌症が発症した。イトラコナゾール内服による治療を発症4週後に開始した。真菌症は治癒したと判定されたが,角膜上皮欠損は遷延し,trophic ulcerと考えられる病像を呈し,角膜穿孔を合併した。治療用ソフトコンタクトレンズの装用では改善されず,細胞接着性糖蛋白質であるビトロネクチン点眼により治癒せしめることができた。

カラー臨床報告

硝子体混濁と網膜滲出斑で初発した眼内悪性リンパ腫の1例

著者: 高橋京一 ,   村岡兼光 ,   得居賢二

ページ範囲:P.533 - P.539

 65歳女性が右眼の濃厚な硝子体混濁と,左眼の網膜深層の滲出斑を主症状として来科した。両所見とも副腎皮質ステロイド薬の点眼と内服でいったん寛解したのち,15か月後に再発し,右眼は強い硝子体混濁,左眼は視神経萎縮になった。初診から5か月後に,左頭頂葉に悪性リンパ腫が発見され,総量80GyのX線照射を行った。
 左眼滲出斑は,初診時,眼底下方に,網膜色素上皮下を含む網膜深層の淡い円形の混濁として散在性に存在し,経過とともに部位を変えながら発症した。滲出斑は,いったん消失したのち,初診から22か月後に,視神経萎縮と網膜動脈の狭細化を伴い再び現れた。新鮮な滲出斑は,蛍光眼底造影では異常所見を示さず,陳旧化した滲出斑は背景蛍光をブロックした。
 右眼に硝子体切除術を行い,細胞診で大細胞型悪性リンパ腫細胞の浸潤が確認された。本疾患を診断するためには,滲出斑の特徴を理解することが重要であると考えられた。

Group discussion

画像診断

著者: 菅田安男

ページ範囲:P.581 - P.582

1-4 座長 菅田安男(駒込病院)
 1.前眼部画像解析による生体計測(金沢医大,坂本保夫他)。Scheillpflug撮影画像の解析により水晶体の生体情報を検出する研究を発展させ,前眼部の生体計測が容易に行える装置を開発した。長年の研究の結実であり白内障の定量評価法としても前眼部計測法としても標準法への発展を願う。
 2.少量フルオレセイン静注によるSLO蛍光造影(群大,高野守人他)。走査型レーザー検眼鏡を用いた蛍光眼底造影では通常の20%以下のフルオレセイン量で有用な情報が得られる。安全性,動態記録の面から画期的であり普及が待たれる。

眼窩

著者: 井上洋一

ページ範囲:P.582 - P.584

 今回の眼窩GDは午後の部で,基礎講座1題(40分),一般演題9題,うちビデオ講演2題で,従来通り各演題毎に一問一答の方法がとられた。会場は100人弱の部屋で,常時60〜70人の先生方に集まって頂けた。午前の部で眼形成外科に出席しておられた先生方が多く見受けられた。また質疑応答は5分間であったが,1演題に1〜6人(平均3.6人)からの質問があり,活発な討論が行われ,GDの意図する型で進められた。演題内容は眼窩手術とその術後経過についてのものが多く,他は眼窩腫瘍の診断に関するものであった。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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