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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科46巻5号

1992年05月発行

雑誌目次

特集 第45回日本臨床眼科学会講演集(3)1991年10月 広島 学会原著

老人性円盤状黄斑変性症患者の血清銅および亜鉛値

著者: 高橋政代 ,   平田昭 ,   安淵幸雄 ,   柏井聡 ,   松村美代

ページ範囲:P.609 - P.611

 老人性円盤状黄斑変性症患者28例の血清銅値および亜鉛値を測定し,網膜疾患をもたない白内障患者11例を対照として比較検討した。血清銅値は黄斑変性症群が80〜135μg/dl,平均106.3±12.4μg/dl,対照群は83〜138μg/dl平均106.7±15.1μg/dlであった。血清亜鉛値は,黄斑変性症群が48〜88μg/dl,平均63.6±8.53μg/dl,対照群は65〜96μg/dl,平均81.3±8.63μg/dlであった。血清銅値は両群で有意差を認めなかったが,血清亜鉛値は有意水準1%以下で,黄斑変性症群のほうが低かった。亜鉛の潜在的欠乏が老人性円盤状黄斑変性症の発生に関与している可能性があると思われた。

Polymerase Chain Reaction法によるクラミジアの検出

著者: 青木功喜 ,   柏誠 ,   橋本信夫

ページ範囲:P.613 - P.616

 一医療施設で治療中の結膜炎患者の瞼結膜から,経日的に採取された7例の患者を含む結膜材料22検体,およびトラコーマ群の28例の眼結膜擦過材料28検体についてPCR法増幅を試みた。回収液にSDS-ETを使用した結膜炎患者の擦過材料では,螢光抗体法を応用した市販のMicro Trak®で抗原陽性と判定された4例の患者の18検体のうち11検体からクラミジア遺伝子が検出された。また治療中,抗原陰性と判定された日に採取された9検体のうち,2検体がクラミジア遺伝子陽性であった。30サイクルと40サイクルの増幅成績の比較では,治療中の同一患者の検体においてDNA増幅量の経日的な減少が示され,治療との対応が認められた。また,同時に供試されたクラミジア抗原陰性患者の瞼結膜擦過材料のDNAと鋳型DNAを含まない反応液のみの対照群において増幅はみられなかった。クラミジア抗原陰性で血中抗体価の高かったトラコーマ患者でのPCR増幅はすべて陰性であった。

アカントアメーバ角膜炎初期の角膜上皮像

著者: 高野博子 ,   高村悦子 ,   吉野圭子 ,   内田幸男 ,   山浦常 ,   白坂龍曠

ページ範囲:P.617 - P.620

 アカントアメーバによる偽樹枝状角膜炎の上皮スペキュラーマイクロスコープ像を撮影し,樹枝状角膜炎と比較した。アカントアメーバ角膜炎では,潰瘍の中央に小型で明るく丸い細胞があり,周囲に大型の細胞や紡錘型細胞がみられた。紡錘型細胞は潰瘍の長軸方向に並んでいたが,潰瘍の先端部では放射状に配列していた点が,樹枝状角膜炎と異なっていた。

ベーチェット病に対するFK506

著者: 八木郁子 ,   小暮美津子 ,   北村文乃 ,   菊池三季 ,   八代成子 ,   西川恵

ページ範囲:P.621 - P.625

 難治性眼底病変を有するベーチェット病患者6例11眼に,FK506を初期投与量0.05〜0.2mg/kg/day,1日2回,平均4か月間投与し,検討した。
 1.眼発作の改善・眼スコアの改善は6例中5例,視力の改善は11眼中7眼にみられた。
 2.眼外症状は半数に改善を認めた。
 3.白血球数血清免疫グロブリン値,T細胞・B細胞(%)に明らかな変化を認めなかった。
 4.副作用は腎機能障害,耐糖能異常が各1例,その他熱感,発疹などがみられた。
 5.投与中に外眼筋麻痺,腸管ベーチェットが各1例みられたが,FK506との関係は明らかではない。
 以上,FK506はベーチェット病の難治性眼底病変に対する治療薬として期待される薬剤と思われた。

ベーチェット病患者における血液房水関門機能の回復

著者: 小木曽正博 ,   田内芳仁 ,   板東康晴 ,   中屋由美子 ,   三村康男

ページ範囲:P.627 - P.630

 網膜ぶどう膜炎型の眼病変を有するベーチェット病患者で,シクロスポリン投与により最終発作以後1年間以上の寛解を得られた12例19眼を対象として,レーザーフレアセルメーターを用いてその血液房水関門機能を検討した。患者群の最終発作から6か月後と1年後における房水蛋白濃度は正常対照群に比べて有意に高値を示したが,2年後では正常対照群とほぼ同じ値を示した。また年齢の若い症例ほど房水蛋自濃度が早く正常化する傾向があり,年齢と蛋白濃度の間に有意な相関が認められた。しかし罹患年数と房水蛋白濃度の間には有意な相関は認められなかった。

インドシアニングリーン赤外螢光眼底造影による脈絡膜新生血管の検出

著者: 奥芝詩子 ,   竹田宗泰 ,   宮部靖子

ページ範囲:P.631 - P.635

 老人性円板状黄斑変性症の56例,70眼にインドシアニングリーン赤外螢光眼底造影(IA)とフルオレセイン螢光眼底造影(FAG)を施行し,両者を比較検討した。脈絡膜新生血管の検出率は,光凝固未施行群ではIAにて70.4%,FAGにて55.6%,光凝固施行群ではIA, FAGともに62.5%であった。光凝固未施行群では,両者を合わせた検出率は75.9%に向上した。IA とFAGの両方で脈絡膜新生血管が検出された36眼中19眼で両者の大きさが異なった。以上の結果より,老人性円板状黄斑変性症の診断にIAとFAGの併用は有用であり,光凝固の際には両者を併用することが望ましいと考えられた。

老人性円板状黄斑変性症の大型網膜色素上皮剥離から自然発生した網膜色素上皮裂孔の3例

著者: 福島伊知郎 ,   河野隆司 ,   西村哲哉 ,   大熊紘 ,   宇山昌延

ページ範囲:P.637 - P.643

 過去6年間に老人性円板状黄斑変性症で大型の網膜色素上皮剥離を伴った網膜下嚢胞型と診断された症例55例57眼のうち,光凝固を行わなかった例で特発性に網膜色素上皮裂孔を発生したのは31眼中3眼10%あった。網膜色素上皮裂孔は色素上皮剥離発生の4〜9か月後に生じ,網膜色素上皮剥離の大きさは,2ないし4乳頭径と大きく,2例は裂孔発生時に色素上皮剥離の拡大をみた。2例は,裂孔の発生時に自覚症状がなく,かつその後も軽い反応性の線維性増殖しか起こらなかったので,良好な視力を維持した。1例は裂孔部に,強い反応性の線維性増殖が起こって視力が低下した。特発性網膜色素上皮裂孔の3例について発生と経過を報告した。

無縫合自内障手術の意義と術前乱視矯正角膜減張切開術

著者: 深作秀春

ページ範囲:P.645 - P.649

 二つの異なった方法で行った白内障手術と眼内レンズ挿入術876眼についての結果を検索した。ブリッジ切開と無縫合自己閉鎖方式の176眼(A群),ポケット切開と4X連続縫合の600眼(B群),無縫合自己閉鎖方式と角膜減張切開術を併用した100眼(C群)である。術前乱視は,A群では1D以内,C群では1D以上平均1.8Dであった。術翌日の乱視は,A群では平均2.9Dであり,3か月後には平均0.3になった。B群では,術翌日の平均が0.2Dであり,術後1年間この値を保っていた。C群では,術翌日の平均が0.3Dで,2か月後には平均0.2Dであった。術後1か月での0.5以上の裸眼視力は,A群では42%,B群では69%,C群では83%で得られた。以上の事実から,術前倒乱視が1D以上の白内障眼に対しては,無縫合自己閉鎖方式と角膜減張術を併用することが有用であると結論される。

カラーマッピング法による円錐角膜の形状解析

著者: 山本洋子 ,   前田耕志 ,   山田景子 ,   岡本庄之助 ,   赤木好男 ,   中山千里 ,   丸山節郎 ,   今道正次

ページ範囲:P.650 - P.655

 円錐角膜の形状解析を目的に,円錐角膜患者65例115眼についてコンピュータを用いて角膜曲率のカラーマッピングを試みた。角膜曲率の算出には,コニコイド曲線を利用した。円錐角膜では早期から角膜曲率分布が非対称となり,次第に突出していくことが視認された。さらに,非対称度と突出度の2つのパラメータを定めて解析を行い,正常眼47眼と早期円錐角膜42眼の間には,非対称度,突出度ともに有意差が認められ(p<0.001),これら2つのパラメータが円錐角膜の早期診断に有用と思われた。

未熟児網膜症児の頭部顔面計測による統計的観察

著者: 久保田芳美 ,   杤久保哲男 ,   森達彦 ,   松井博嗣 ,   前田朝子 ,   河本道次

ページ範囲:P.657 - P.659

 1990年5月より1991年4月までの間に当院周産期センターに入院し頭部顔面計測(頬骨弓間,頭頂鼻根間,側頭間,顔長,前後長)を施行した低出生体重児51例について未熟児網膜症(ROP)発症児とROP非発症児との差異につき検討した。ROP発症児8例をA群、頭部顔面計測時の週数と体重をマッチさせたROP非発症児8例を抽出しB群とし各々の比をA群とB群で統計学的に比較検討した。側頭間顔長比,側頭間前後長比,側頭間頭頂鼻根間比,側頭問頬骨弓間比に有意な(p<0.05)差を認めた。他の比には有意な差を認めなかった。ROP発症児には頭部顔面形態に形態的特徴を有することが示唆された。

硝子体手術を施行したぶどう膜炎症例の白内障手術

著者: 沖波聡 ,   松村美代 ,   岩城正佳 ,   砂川光子 ,   新井一樹 ,   仁平美果 ,   荻野誠周 ,   井戸稚子

ページ範囲:P.661 - P.663

 網膜剥離,硝子体混濁,硝子体出血に対して硝子体手術を施行したぶどう膜炎27眼中の17眼(63%)に白内障手術を追加した。11眼には白内障手術を単独で追加し,その中の2眼には眼内レンズ(後房レンズ)挿入術を施行した。6眼には硝子体手術を追加する際に白内障手術を同時に行った。硝子体手術から白内障手術までの期間は0.5か月から1年9か月(平均8.4か月)であった。最終視力が0.1以上であった症例は白内障手術単独追加例では10眼(90.9%)であったが,硝子体手術と同時追加例では1眼(16.7%)であった。白内障手術を単独で追加する場合に眼内レンズ挿入術を行うかどうかは,適応を慎重に検討する必要がある。

前房水より単純ヘルペスウイルスが検出された桐沢型ぶどう膜炎の5症例

著者: 山本修士 ,   下村嘉一 ,   湯浅武之助 ,   檀上眞次 ,   中川やよい ,   多田玲 ,   山本領子 ,   松原謙一

ページ範囲:P.665 - P.667

 近年,桐沢型ぶどう膜炎の原因ウイルスとして,水痘・帯状ヘルペスウイルス(VZV),単純ヘルペスウイルス(HSV)の関与が指摘されている。今回,筆者らは臨床的に桐沢型ぶどう膜炎と考えられた7例7眼の前房水より,PolymeraseChain Reaction (PCR)法により,各ヘルペスウイルスの検出を試みた。7例中5例の前房水より,HSV特異的なDNAが検出されたが,VZVあるいは,サイトメガロウイルス(CMV)のDNAは1例も検出されなかった。すなわち,これらの症例では、原因ウイルスとして、HSVの関与が強く示唆された。

白内障手術による交感性反応の検討

著者: 兜坂法文 ,   内海隆 ,   奥英弘 ,   菅澤淳

ページ範囲:P.669 - P.672

 一眼の白内障手術が他眼に及ぼす交感性反応について検討した。嚢外摘出術を行った9例と嚢外摘出術および眼内レンズ挿入術を行った21例の計30例を対象として術前および術後1,3日,1,2週,1,2,3,6か月目に非手術眼の対光反応諸因子ならびにフレア値を測定し,統計学的に検定した。一定数の症例において瞳孔面積の縮小(縮瞳)およびフレア値の上昇が術後早期から現れ前者は後者よりも高頻度かつ長期間にわたって認められた。この縮瞳は嚢外摘出術群で術後3日,眼内レンズ挿入群で術後1か月まで有意に認められた。両眼の白内障手術を行う際には,この交感性反応の存在を念頭において手術間隔を設定することが望ましいと思われた。

学術展示

新しく開発した動体認知視野計プログラムの改良型について(固視移動型)

著者: 守屋伸一 ,   松田公夫 ,   東郁郎 ,   辻斉

ページ範囲:P.684 - P.685

 緒言 高眼圧症(以下OH),原発開放隅角緑内障(以下POAG)の患者は,動体認知が正常者に比べ低下していると考え,動体認知の局所分析を行う視野測定用のプログラムを開発した。この自動的刺激視標プログラムについては,第44回臨床眼科学会総会で発表し,早期緑内障患者の視野異常検出に有用であることを確認した1)が,21 inch CRT画面(視角50°×70°)を用いる必要があった。今回,よりスペースをとらず,かつ一般普及している14 inch CRT画面(視角30°×70°)を用いて,21 inch CRT画面と同様の広さの視野を測定する新しい視野測定用のプログラムを開発した。さらに,OH, POAG患者の動体認知視野を新,旧のプログラムで測定し,比較を行った。
 方法 新,旧の動体認知視野測定プログラムの条件を以下に示した。

起立性低血圧を伴う透析患者において,白内障術後高眼圧を契機として虚血性視神経症が生じた1例

著者: 永谷建 ,   魚住博彦 ,   高橋広 ,   秋谷忍

ページ範囲:P.686 - P.687

 緒言 近年,透析療法の進歩と普及とともに長期透析症例の増加がみられている。同時に透析による眼合併症も問題となってきている。今回,起立性低血圧を伴う長期人工透析患者に水晶体嚢外摘出術および前部硝子体切除術を施行し,術後の高眼圧を契機とし虚血性視神経症を生じた1例を経験した。
 症例 患者:T.K.69歳男性。

視神経乳頭腫脹を合併したサルコイドーシスの4例

著者: 青山さつき ,   宮崎茂雄 ,   尾上晋吾 ,   下奥仁

ページ範囲:P.688 - P.689

 緒言 サルコイドーシスでの視神経病変は,脳神経のうちでは顔面神経障害についでその頻度が多いとされる1)が,詳細にはあまり検討がなされていない。過去15年間に兵庫医科大学病院眼科を受診した眼症状を持つサルコイドーシス28例のうち,視神経乳頭の腫脹をきたした4例について検討する。これ以外に視神経病変を認めた症例としては,乳頭部肉芽腫2例3眼がありこのうち1例は他眼に球後視神経炎症状を認めた。
 症例 【症例1】 58歳男性。2週間前から両眼霧視があった。視力は右眼(0.7),左眼(1.0)で,両眼ともに視神経乳頭が火焔状出血を伴って発赤浮腫状であった以外に著変を認めなかった(図1)。蛍光眼底撮影では視神経乳頭からの色素漏出が認められた。視野検査では両眼のマリオット盲点の拡大と右眼での鼻下1/4半盲傾向が認められた(図2)。CFFは右眼30Hz,左眼30Hzで,両眼の視神経乳頭炎と診断された。各種精査でも原因確定できなかったがステロイド治療にて改善した。この7年後ぶどう膜炎を発症し,両側肺門部リンパ節腫脹,生検結果などによりサルコイドーシスが確定し,前回の乳頭炎の原因としてサルコイドーシスが考えられた。

緑内障を併発した家族性滲出性硝子体網膜症(FEVR)の3例

著者: 田原弘恵 ,   重藤真理子 ,   宇都裕恵 ,   大西克尚 ,   西村みえ子

ページ範囲:P.690 - P.691

 緒言 家族一性滲出性硝子体網膜症(familial exuda—tive vitreoretinopathy, FEVR)は,若年性の網膜剥離をきたす疾患として注言されているが,緑内障を伴った報告は少ない1〜4)。今回,思春期に閉塞隅角緑内障を合併した2例と,新生血管緑内障を併発した1例を経験した。
【症例1 12歳 女性】
 主訴:左眼充血。現病歴:1か月前から左眼充血。既往歴:生後4か月時に眼位異常を指摘された。正常満期産。酸素投与なし。家族歴:母親の両眼網膜耳側に無血管帯(3乳頭径),血管の多分岐,直線化がみられた。眼所見:視力右02(n.c.)左0.03(n.c.)。眼圧右18mmHg,左35mmHg。角膜径右11mm,左10.5mm。

未熟児網膜症児の顔貌の特徴

著者: 栃久保哲男 ,   久保田芳美 ,   松井博嗣 ,   前田朝子 ,   河本道次

ページ範囲:P.692 - P.693

 緒言 低出生体重児,とくに1,000g未満ではほとんどがクベース内で管理されており,また,生後1〜1.5か月では水晶体血管膜や硝子体混濁によるhazy mediaのため,眼底の詳細は不明なことが少なくない。このような時期に未熟児網膜症(以下ROPと略)が発症進行していることもあり,眼底検査以外の方法でROPの発症進行を予測できれば,有用かつ有意義である。低出生体重児を管理してきて,これまで経験したROP患者の顔貌にいくつか特徴があることから,今回,最近の症例を選び非ROP患者の顔貌と比較検討し,興味ある知見を得たので報告する。
 対象および方法 1990年6月から91年5月までの間に東邦大学医学部附属大森病院周産期センター(NICU)に入院し,眼科的管理を受け写真観察のできた低出生体重児45例を対象とした。方法は眼底検査前に患児の頭部を正面,側面の2方向より,京セラ製デンタルアイⅡカメラを使用し撮影記録し,頭部および顔面の特徴を比較検討した。

先天性緑内障を合併したRubinstein-Taybi症候群の1例

著者: 佐野秀一 ,   箕田健生 ,   小島孚允

ページ範囲:P.694 - P.695

 緒言 Rubinstein-Taybi症候群は,「太く幅広い拇指および第一趾と特異な顔貌」を特徴とする症候群で種々の眼症状を伴うことが知られている1)。本症候群に先天性緑内症を合併した症例はこれまで本邦においては3例の報告がある2〜4)が長期の経過観察を行った報告はない。今回筆者らは生後1か月半の男児で先天性緑内障を伴ったRubinstein-aybi症候群の1例に両限隅角切開術を施行し,術後1年以上良好なコントロールが得られた症例を経験したので報告する。
症例
 患者:生後1か月半男児。

脈絡膜悪性黒色腫の画像診断—特に超音波およびMRI所見

著者: 柊山剰 ,   坂上智巳 ,   林田中 ,   直井信久 ,   澤田惇 ,   星井芙美子

ページ範囲:P.696 - P.697

 緒言 脈絡膜悪性黒色腫は,有色人種には,稀な眼内腫瘍である。今回筆者らは,43歳女性の脈絡膜悪性黒色腫を経験した。CTおよび超音波検査では典型的所見を呈さなかったため,診断に苦慮したが,MRI検査により脈絡膜悪性黒色腫に特徴的所見を示したため,眼球摘出術を施行した。その画像所見をここに報告する。
 症例 症例は43歳の女性で1991年1月初旬左眼上方の霞みを自覚,近医を受診し腫瘍状の網膜剥離を認めるとのことで同年1月17日当科を紹介された。

間接性脈絡膜破裂の赤外蛍光眼底造影法と蛍光眼底造影法による比較検討

著者: 小松仁 ,   中神尚子 ,   吉田泰弘 ,   黒澤二郎 ,   嘉村由美 ,   渡利浩水 ,   森茂

ページ範囲:P.698 - P.699

 緒言 鈍的眼外傷において,眼底後極に間接性脈絡膜破裂(以下,IDCR)をきたし,時に高度の視力障害をきたすことを臨床的に経験する。
 今回,筆者らは,従来の眼底検査やフルオレセインナトリウム蛍光眼底造影法(以下,FA)ではとらえにくい脈絡膜の変化を,インドシアニン・グリーン(ICG)赤外蛍光眼底造影法(以下,IA)を用いて検討し,FAと比較検討した。

出血性網膜剥離の1例

著者: 上永吉達彦 ,   上村昭典

ページ範囲:P.700 - P.701

 緒言 剥離した網膜下腔に血液が貯留した病態,すなわち網膜下出血あるいは出血性網膜剥離はさまざまな疾病で認められる1)。筆者らは,網膜下出血および脈絡膜剥離の状態で初診し,網膜剥離,網膜下腔の多量の血液貯留および硝子体出血が発生して失明に至った症例を経験した。
 症例 患者は73歳.男性。1987年春,右眼の視力低下を自覚したため近医を受診し,投薬を受けたが右眼視力の改善が得られず失明した。1990年12月,左眼の光視症を自覚した。近医で左眼の網膜剥離,網膜出血を指摘され,当科を紹介受診した。

糖尿病性網膜症における血液凝固因子の変動—フィブリノペプタイドA,フィブリノペプタイドBβ15-42を中心として

著者: 山本美保 ,   田野幸子 ,   砂川光子

ページ範囲:P.702 - P.703

 緒言 近年.糖尿病(DM)において.その血液中の凝固因子の異常が注目されるようになり,糖尿病の病態に血液凝固異常が関与していることが指摘されるようになった1,2)。糖尿病性網膜症(DR)においても,凝固異常がその病態や進行に関与しているとする報告がある3,4)
 今回筆者らは,血液凝固状態を反映するといわれるフィブリノペプタイドA (FPA)と,線溶状態を反映するといわれるフィブリノペプタイドBβ15-42(FPBβ15-42)の血清レベルの変動を,糖尿病性網膜症患者の病期により,検討した。

糖尿病患者における水晶体自発蛍光の検討

著者: 西垣昌人 ,   澤田達 ,   杉山哲也 ,   内海隆

ページ範囲:P.704 - P.705

 緒言 ヒト眼水晶体が蛍光を発することはよく知られているが,フルオロフォトメトリーを用いることにより簡便に水晶体自発蛍光を測定することが可能である。この水晶体自発蛍光は加齢により増大し1,2),糖尿病の存在や2〜4)網膜剥離5)あるいは硝子体手術操作6)によって増強されると報告されている。糖尿病においては同年代正常者よりも水晶体自発蛍光が強く2,4,7),光透過性が低下する2,5)ものの,罹病期間,網膜症の有無,インスリン依存性の有無との関連性はないと報告2)されているが,血糖コントロールの良否との関係はまだ検討されていない。そこで今回筆者らは,糖尿病患者および正常対照者の水晶体自発蛍光を測定し,比較検討を行った。
 対象および方法 対象は正常対照者8例10眼(50〜60歳),糖尿病患者12例18眼(50〜71歳)である。角膜および中間透光体に混濁のあるもの(白内障を含む),強度の屈折異常,緑内障は対象から除外した。フルオロフォトメトリーにはCoherent社製の“Fluo-rotron Master”を用いた。十分な散瞳下に測定を行い,補正計算(図1)2,7)にて水晶体前嚢直下(図1;A)および水晶体後嚢直下(図1;P)の自発蛍光を求め,前者をAnterior Peak Fluorescence (APF),後者をPosterior Peak Fluorescence (PPF)とし,APFの値をもって水晶体自発蛍光とした。

超音波ドップラー法による網膜血管閉塞性疾患、における眼循環動態

著者: 滝野貢 ,   橋本真理子 ,   太根節直

ページ範囲:P.706 - P.707

 緒言 眼科領域における血管障害,特に網膜血管閉塞性疾患は,本邦における糖尿病や高血圧,また,それらに起因する頭蓋内血管病変の増加に伴い増加しつつある。なかでも糖尿病性網膜症は成人失明の原因第1位で,網膜中心動脈閉塞症もいったん発症すると視機能予後の悪い疾患であり,また,網膜中心ならびに分枝静脈閉塞症は合併症の併発により,視力的予後は悪くなる。そこで筆者らは今回,これらの網膜血管閉塞性疾患における眼循環動態の解析を目的として超音波ドップラー法を川いて,その病期や程度と血流脈波との関連について検討した。
 方法 対象は,正常者44例54眼,網膜中心動脈閉塞症6例6眼,糖尿病性網膜症49例98眼,網膜中心ならびに分枝静脈閉塞34例34眼,総計96例192眼で,リアルタイム・ソナグラム方式血流方向指示型2周波超音波ドップラー血流計(Vasoflo−3)を用いて,内側前頭動脈(以下OA),ならびに視神経乳頭面上の網膜中心動脈を主とする眼底動脈(以下FA)の血流流速脈波を測定し,さらにOAとFAの比をとり眼底血流速度指数V (FA/OA)として解析を行った。

網膜静脈分枝閉塞症の慢性期に残存する類嚢胞黄斑浮腫

著者: 横井則彦 ,   天津寿 ,   山本洋子 ,   赤木好男

ページ範囲:P.708 - P.709

 緒言 発症から長期経過した慢性期の網膜静脈分枝閉塞症(BRVO)に類嚢胞黄斑浮腫(CME)が遷延して存在し,視力低下,変視症を訴える場合がある。このような慢性のCMEは,比較的大きな嚢胞腔が一塊となって中心窩に及び,放置すれば,不可逆性の視力低下を生じ、経過による自然解消は期待し難いと考えられる。そこで,このような遷延したCMEを伴う慢性期のBRVOを対象に,黄斑部に光凝固1,2)を行い,その効果について検討した。
 対象と光凝固方法 最近4年間に黄斑部の光凝固を行った以下の条件を満たす12症例について検討した。

網膜中心静脈閉塞症での前房蛋白濃度

著者: 丸山泰弘 ,   山崎伸一

ページ範囲:P.710 - P.711

 緒言 網膜中心静脈閉塞症(以下CRVO)は網膜血管病変であるが,ルベオーシスを併発することがあり,前部ぶどう膜に影響を及ぼしている。CRVOでの前部ぶどう膜の異常をとらえるため,急性期の前房蛋白濃度をフレアセルメーター(興和FC1000,以下FCM)で測定し,経過を追跡した。あわせて,陳旧例での前房蛋白濃度を検討した。
 症例 過去1年間に当科を受診したCRVO29例を対象とした。年齢は36歳から79歳,平均59.9歳であった。男子20例,女子9例であった。初診時から経過を追えた新鮮例が10例,そのうち陳旧期まで経過を追えたのが1例,平均観察期間は12週であった。陳旧例が20例,平均観察期間は16か月であった。汎網膜光凝同を施行したのは22例で,新鮮例では4例,陳旧例では18例であった。

偽水晶体眼の網膜剥離手術

著者: 筑田真 ,   土屋寛芳 ,   門屋講司 ,   小原喜隆

ページ範囲:P.712 - P.713

 緒言 眼内レンズ挿入術の普及とともに,偽水晶体眼の網膜剥離の報告1,2)がみられる。今回,自験例を基に,その特徴と治療上の問題点について検討した。
 対象 1989年1月より1991年5月までに偽水晶体眼網膜剥離の観血的網膜復位術を施行した7例7眼を対象とした。

特発性三叉神経痛に対するイオントフォレーシス療法

著者: 下村嘉一 ,   森康子 ,   山本修士 ,   小沢孝好 ,   宮崎大 ,   林篤志 ,   生島操 ,   西山苑 ,   大島禎二

ページ範囲:P.714 - P.715

 緒言 眼部帯状疱疹の合併症である帯状疱疹後神経痛に対して,従来から筆者らはイオントフォレーシスによる治療効果について報告してきた1,2)。イオントフォレーシスは,手技が簡便で,帯状疱疹後神経痛に対する効果も高いことが判明している。今回,筆者らは特発性三叉神経痛症例に対しイオントフォレーシスを施行し,良好な結果を得たので報告する。
 症例と治療方法 対象は1990年1月より12月までの1年間に松山赤十字病院あるいは大阪大学眼科を受診し,イオントフォレーシス療法を施行した特発性三叉神経痛症例7例(男3例,女4例,平均年齢72歳)である。なお,全例鎮痛剤にて軽快しなかった症例である。表1に対象症例の三叉神経痛の持続期間,以前に神経ブロックを施行したか否かをまとめた。

ドライアイ(涙液分泌減少)を呈したアレルギー性結膜炎の病態

著者: 石井エミ ,   藤宮幸一 ,   山下晃 ,   真砂めぐみ ,   棚橋雄平 ,   松橋正和 ,   河本道次

ページ範囲:P.716 - P.717

 緒言 ドライアイ(涙液分泌減少症)およびアレルギー性結膜炎は,ともに近年増加している疾患であり両者を合併する症例も多い。今回,アレルギー性結膜炎様の所見を呈した症例について,涙液分泌量の年次変化,原因抗原検索,その他数種のリンパ球機能検査を施行することにより二つの病態の関連を検索した。
 方法 1990年2月から4月のスギ花粉飛散時期にあわせて,アレルギー性結膜炎様症状に加え,流涙または乾燥感を訴えた127名に対し,①シルマーI法の通年観察にて計3回行い左右眼の平均値を求め,その値が10mm未満のものをドライアイ,10mm以上のものを非ドライアイと判定し,②RAST法による原因抗原検索(ハウスダスト,ダニ,スギ,ブタクサ,カモガヤ),③末梢血リンパ球幼若化反応(PWM, Con A,PHA添加によるSI値),を施行した。

眼痛を主訴とした副鼻腔炎について

著者: 武田純爾 ,   西圭子

ページ範囲:P.718 - P.719

 緒言 副鼻腔炎の眼科的合併症として,視神経障害や重篤な眼窩蜂窩織炎が知られており,これらの多くは視力障害,眼球突出や眼球偏位などを呈するため,積極的に精査され報告も多い。しかし,眼症状を訴えても他覚的異常所見に乏しい副鼻腔炎症例については,報告1)が少ない。今回,眼痛を主訴とし,屈折異常の他に眼科的異常を認めなかった副鼻腔炎について検討した。
 症例 1990年1月より1991年3月までの1年3か月の間に眼痛を主訴として当科を受診し,副鼻腔炎と診断した9例である。7例は眼科初診,2例は内科初診の後,眼科を受診している。性別は男性4例,女性5例,年齢は12歳から61歳で,視力障害や眼瞼腫脹など他覚的異常所見を認めた症例は除外した。

カタル性角膜辺縁潰瘍の臨床像

著者: 北川和子 ,   浅野浩一 ,   佐々木一之

ページ範囲:P.720 - P.721

 緒言 カタル性角膜辺縁潰瘍は,カタル性潰瘍,辺縁潰瘍,ぶどう球菌性周辺性角膜浸潤,marginal ca-tarrhal ulcers,simple catarrhal ulcers,catarrhalstaphylococcal non-infectious ulcersなどの名称で呼ばれている。主病変は,角膜周辺の円形,楕円形,鎌状の潰瘍,浸潤で,角膜輪部との間に透明帯を有しかつ輪部に平行に配列する(図1)。原因としては,眼瞼や結膜に慢性感染しているぶどう球菌の外毒素ないしはそのアレルギーとされている。治療としては免疫反応の抑制を目的としたステロイド剤の投与と,原因菌の除去を言的とした抗菌薬の投与が有効とされている。今回経験した本疾患についてその臨床像を検討したので,従来の報告との比較を含め報告する。
 対象および方法 金沢医科大学眼科外来を1985年1月より1991年10月までに受診した本症患者35例を対象とし,主訴,初診時の前眼部所見,治療経過を検討した。細菌の分離は結膜嚢より行った。培地は,血液寒天培地,チョコレート寒天培地,チオグリコレート培地の3種を使用し,原則として37℃4日間の培養を行った。

硝子体微量成分の定量法について

著者: 石川聡子 ,   佐藤恭雄 ,   中沢満 ,   玉井信 ,   小松崎道子 ,   菱沼隆則 ,   水柿道直

ページ範囲:P.722 - P.724

 諸言 眼内液成分は各種眼疾患時に正常時と比較してその組成や含有量に差がみられることが以前から注目されている。これまで動物における房水・血清の微量成分についての報告1,2)がなされているが,筆者らの知る範囲でヒト硝子体を用いた報告は少ない3)。そこで今回筆者らは手術の際に採取された硝子体液を用いて網膜・硝子体疾患に関連が深いと考えられるアスコルビン酸,乳酸,グルコースの3成分に注目し,それらの定量法について検討を行った。
 実験方法 1.硝子体液の採取法:硝子体液1mlの採取はTamaiらにより報告された方法4)を用いた。試料は採取後可及的速やかに−80℃で凍結保存を行った。一部はアスコルビン酸定量用に最終濃度20μg/mlになるようにEDTAを添加した。

連載 眼科図譜・310

ランドルト環型角膜上皮炎の1例

著者: 大橋裕一 ,   前田直之 ,   山本修士 ,   井上幸次 ,   荒木かおる ,   木下茂

ページ範囲:P.594 - P.595

 緒言:角膜上皮を場とする炎症性疾患としては,Thygeson点状表層角膜炎1)をはじめ,流行性角膜炎後に起こる点状表層角膜炎2)などが,代表的なものとしてよく知られている。しかし,これらの範疇に当てはまらない角膜上皮炎の症例に遭遇することは,日常臨床において決して稀なことではない。今回,その形態が,わが国で視力測定に広く用いられているランドルト環に類似した,特異な角膜上皮炎を1例経験したので報告する。
 症例:73歳,女性。主訴:両眼の異物感。初診:1990年2月22日。病歴:数か月前,両眼に異物感が生じたために近医を受診した。原因不明のびまん性表層角膜炎との診断で,ステロイド剤,ビタミン剤などの点眼治療を受けたが,病状が改善しないため,当科へ紹介された。既往歴:6か月前に肺癌にて腫瘍摘出術を受けた。現在,抗癌剤(エンドキサン®)の内服を続行している。家族歴:特記すべきものなし。

眼の組織・病理アトラス・67

眼鉄錆症

著者: 田原昭彦 ,   猪俣孟

ページ範囲:P.598 - P.599

 眼球内に飛入した鉄性異物が放置されると,その異物から遊出した鉄成分によって眼球の各組織が障害される。この状態は眼鉄錆症ocular sider-osisと呼ばれる。眼鉄錆症では,角膜,前房隅角,虹彩,水晶体,網膜などの眼球の各組織が障害される。臨床的には,角膜の色素沈着,続発緑内障,虹彩の色調の変化,瞳孔反応の減弱,併発白内障,,網膜症などを起こし,視機能に重大な影響を及ぼす。
 鉄性異物による網膜症の臨床症状は網膜色素変性症に類似する。暗順応が障害され,夜盲が出現する。求心性の視野狭窄もしばしばみられる。視力障害が徐々に進行し,末期には完全に失明する。眼底検査で,主に網膜の周辺部に黒色の色素が観察される(図1)。病期が進むと網膜の色調は変化し,中心窩反射が不明瞭となる。網膜の動脈は狭細化する。視神経乳頭はしばしば萎縮をきたす。鉄錆症の網膜への影響を知るうえでERGは有用である。初期にa波,b波の振幅は増大し,ついでb波の振幅は減弱する。末期にはERGは消失型となる。

今月の話題

家族性滲出性硝子体網膜症(FEVR)

著者: 大久保彰 ,   大久保好子

ページ範囲:P.600 - P.607

 家族性滲出性硝子体網膜症(FEVR)の診断基準・鑑別診断・病型分類・各病型の臨床像・主な合併症と治療について述べた。現在,FEVRの疾患概念は初期のものと大きく異なり,網膜剥離や斜視などさまざまな病態の基礎疾患として一般診療で少なからず発見され,単に網膜硝子体や小児眼科の専門家だけでなくすべての眼科臨床医が正確に認識すべきものとなった。

眼科薬物療法のポイント—私の処方・41

急性網膜壊死

著者: 坂井潤一

ページ範囲:P.677 - P.680

 症例:55歳,男性。2日前よりの左眼霧視および眼痛にて近医を受診した。左眼ぶどう膜炎,続発緑内障と診断され治療を受けていたが軽快しないため,その4日後に本院を紹介された。初診時,視力右0.5(1.5),左0.2(0.8),眼圧右18mmHg,左28mmHg。左眼に豚脂様角膜後面沈着物を伴う虹彩毛様体炎,びまん性硝子体混濁を認めた。また,左眼底には灰白色小滲出斑が周辺部網膜全周に散在しており,その一部は融合して大きな斑状の滲出斑を形成していた。さらに,滲出斑に混在するように網膜出血が認められ,網膜中心動脈の一部は白線化していた(図1)。右眼には異常はなかった。

眼科手術のテクニック—私はこうしている・41

ブラウンの手術

著者: 澤充

ページ範囲:P.682 - P.683

手術手技
 麻酔は点眼(キシロカイン1または2%)のみで十分なことが多い。病的結膜部は図1のように血管の怒張が強いのでエピネフリン(5,000倍)1滴点眼後しばらく閉瞼すると血管の怒張を軽減できる。上,下直筋に6-0絹糸で制御糸をかけ眼球の固定をおこなう。切除対象となる結膜の範囲は角膜病変部(混濁,菲薄部)に対応する部位を中心とする。正常な結膜上皮は透明性があり,光沢もあるのに対し,病的結膜は白濁しているので両者を手術用顕微鏡下で識別する。結膜鑷子と結膜剪刀にて切除結膜部の外縁を切開後(図2),結膜円蓋部の方向から角膜輪部に向かって結膜の切除をすすめる。角膜内に伸展した病変部はマイクロブレード(ビーバー社製,6900が使いやすい)を使用し表層を剥離するように切除する。露出強膜部の出血はウエットフィールドバイポーラまたはパクレンにて止血する(手術終了時に輪部に沿って強膜の熱凝固をおこなうと手術効果がよいと考えられるのでパクレンのほうがよい)(図3)。結膜断端部も止血を兼ねてパクレン処理をする。必要があれば正常結膜断端を強膜に8-0絹糸で単結紮縫合する。強膜の露出部は通常被覆する必要はない。手術終了時,抗生物質の軟膏を点入し圧迫眼帯とする。全身的には鎮痛剤,抗生物質の内服をおこなう。
 術後経過としては角膜病巣部の改善の有無,前房内炎症の程度,結膜切除端からの結膜の再生状態を中心に観察をおこなう(図3,4)。

臨床報告

多発性後極部網膜色素上皮症—最近の経験症例

著者: 松永裕史 ,   西村哲哉 ,   宇山昌延

ページ範囲:P.729 - P.733

 最近6年間に経験した多発性後極部網膜色素上皮症の13例,19眼の症例から本症についての以前の筆者らの見解を一部修正した。治療には光凝固のみが有効であり,一度治癒すると再発をみないと前に述べたが,その後再発があることがわかった。また原田病初期と似た症例や,中心性漿液性網脈絡膜症との中間型といえる症例があった。さらにステロイド剤の全身投与が本症発症の誘因となったり,中心性漿液性網脈絡膜症様の前駆症状から急性増悪の誘因になっていた症例を経験した。その誘発機序を考按した。本症と中心性網膜炎とは同じ類型(Spectrum)に属する疾患であるが,明確な独立した疾患概念をもつ1病型であることを確認した。

虹彩炎が併発した角膜辺縁変性症(Terrien)の1例

著者: 川崎いづみ ,   堀内浩史 ,   清水敬一郎

ページ範囲:P.734 - P.737

 虹彩炎が併発した両眼性のTerrien'smarginal corneal degenerationの1例を経験した。症例は66歳の女性で,主訴は両眼の視力低下であった。右角膜周辺部には混濁,菲薄化,表層血管侵入があり,中央部は高度な肥厚,混濁を示していた。菲薄化は角膜周辺部全周にわたり,いわゆるcontact lens cornea様であった。左角膜にも鼻側周辺部の菲薄化があり,中央部は肥厚,混濁を示していた。さらに両眼に漿液性虹彩炎の併発が認められた。治療による虹彩炎の消退とともに角膜中央部の肥厚,混濁は軽快し視力の向上をみたが,経過中,左角膜菲薄部が穿孔に至った。このため角膜上皮形成術(keratoepithelioplasty)を施行した。術後の経過は良好であった。

角膜上皮障害の臨床的分類の提案

著者: 西田輝夫 ,   澤充 ,   宮田和典 ,   三島弘 ,   福田昌彦 ,   大鳥利文

ページ範囲:P.738 - P.743

 角膜上皮障害の病態を理解し適切な治療法を選択するためには,角膜上皮障害の所見の分類あるいは用語の統一が必要である。本論文では角膜上皮障害を角膜最表層細胞層あるいは翼細胞層のみが欠損したびまん性表層角膜炎,角膜上皮全層が欠損している角膜びらん,基底膜やボーマン層および角膜実質の潰瘍に伴う遷延性角膜上皮欠損の3種に分類することを提案し,その病態の差異について考察した。

隅角癒着解離術の手術成績と生命表法による解析

著者: 富所敦男 ,   新家真 ,   森樹郎 ,   白土城照

ページ範囲:P.745 - P.747

 閉塞隅角緑内障15例17眼に対して,隅角癒着解離術を施行した。術後経過観察期間は,6か月から23か月(平均13.4か月)であり,生命表法による検討では,最終的に68%の症例で良好な眼圧コントロール(術前と同等以下の薬物治療で,眼圧が20mmHg以下かつ術前より3mmHg以上低いもの)が得られた。術後眼圧降下は,7日目で最大となった後,7日目から3か月目の間でやや小さく,それ以後安定する傾向にあった。良好な眼圧コントロールの得られなかった症例は,全例,術後8か月以内に眼圧の再上昇をきたしていた。また,術前のPAS index (虹彩前癒着部分の隅角全周に対する比率)が術後の眼圧降下率に有意の関連があった。

小児におけるステロイド・レスポンダーの頻度

著者: 大路正人 ,   桑山泰明 ,   木下裕光 ,   松尾くる美 ,   下村嘉一 ,   木下茂 ,   近江栄美子

ページ範囲:P.749 - P.752

 斜視手術を行った10歳未満の小児12例19眼に,手術翌日から治療の目的で0.1%デキサメタゾンを1日3回点眼し,眼圧の反応を追跡した。点眼開始から最短8日から最長35日目の時点で,13眼が 28mmHg以上,4眼が 21〜27mmHg, 2眼が 20mmHg以下の眼圧を呈した。点眼中止の4週後には,全例で眼圧は21mmHg以下であった。10歳未満の小児は,0.1%デキサメタゾン点眼による眼圧上昇の頻度が高いので,その使用には注意が必要であると結論される。

角膜移植例における角膜穿孔と縫合部離開の原因

著者: 森康子 ,   下村嘉一 ,   眞鍋禮三

ページ範囲:P.753 - P.755

 近年角膜移植術ははば完成された手術術式になっているが,稀に術後角膜が穿孔したり,縫合部が離開する症例に遭遇する。今回,筆者らは角膜穿孔あるいは縫合部離開により全層角膜再移植術を施行するに至った症例について,その原因について調査した。対象は1975年1月から1987年12月までに全層角膜移植術を施行し,角膜穿孔あるいは縫合部離開により全層再移植術を施行した13例13眼である。角膜穿孔(10眼)の原因は角膜融解と栄養障害性角膜潰瘍が各4眼と多く,縫合部離開(3眼)は全例縫合不全であった。穿孔あるいは縫合部離開時,13眼中12眼に副腎皮質ステロイド剤が投与されていた。さらに,10眼においてsame sizeの移植片が用いられていた。

重篤な角結膜瘢痕を呈したToxic Epidermal Necrolysisの1例

著者: 妹尾健治 ,   上総良三 ,   中村誠

ページ範囲:P.757 - P.762

 重篤な角結膜瘢痕を呈したTENの1例を経験した。症例は55歳,男性,肺癌術後,抗生剤投与により中毒性表皮壊死融解症—toxic epi-dermal necrolysis(TEN)が発症した。急性期における全身管理により救命され全身皮膚病変は改善したが初発症状であった角結膜炎は遷延化し角膜上皮は広範囲に壊死消失しその後,角膜上は徐々に瘢痕組織に置換され高度の視力障害に陥った。TENの発症機序として近年,移植片対宿主反応—graft versus host reaction(GVHR)が示唆されているが角結膜上皮においてもGVHRが起こっていてもなんら不思議ではない。本疾患における角膜障害は主に涙液減少症による軽症例が多いとされているが本症例の高度の角膜障害はGVHRによる角結膜の炎症が遷延化し角膜上皮が広範囲に障害されたためと推察された。

走査型レーザー検眼鏡による眼底の観察

著者: 須藤憲子 ,   田中隆行 ,   坂本道子 ,   大谷倫裕 ,   岸章治

ページ範囲:P.763 - P.770

 走査型レーザー検眼鏡(SLO)を用いて,各種眼底疾患のある393眼の眼底を観察記録した。光源としてアルゴンとヘリウムネオンの2種類のレーザーを用い,解像力,波長特性,焦点深度について,従来の眼底カメラによる画像と比較した。網膜血管については,SLOは,従来の眼底カメラに近い解像力が得られた。また,モニタ画面の動画に比べ,静止画では解像力の低下が言立った。アルゴンレーザー青(488nm)では,神経線維など網膜表面の変化について良好なコントラストが得られた。黄斑前膜や網膜雛襞など,眼底カメラではとらえにくい変化を観察できた。ヘリウムネオンレーザー(633nm)では,網膜深層から脈絡膜にかけての深層の画像が強調されて観察できた。SLOの焦点深度は深く,網膜表面に焦点を合わせたままで硝子体混濁の観察が可能であった。観察および撮影光量が少なく,被検者の羞明感は少なかった。SLOは,眼底カメラに近い解像力が得られ,波長に応じて眼底の表層や深層が強調されるだけでなく,網膜表層や硝子体など,従来の眼底カメラではとらえにくい部位の観察記録が可能であり,焦点深度が深く,眼底の観察に有用な検査法であると評価された。

半導体レーザー経瞳孔網膜光凝固の臨床成績

著者: 野寄忍 ,   斉藤民也 ,   小倉修 ,   大木隆太郎 ,   野寄喜美春

ページ範囲:P.771 - P.777

 半導体レーザーは装置面での利点が多く,眼科臨床への応用が期待されるが,810nmのレーザー光は網膜色素上皮の吸収が少なく,凝固能率が悪いと思われる。筆者らは各種の眼底病95眼に対し臨床応用を行い,平均10か月の経過観察を行った。その結果,色素レーザー(630nm)に比べて1.5〜2倍の出力を要すること,また適正凝固条件の範囲が狭いことが判った。また臨床所見としては,高度の出血,浮腫病変に対しての凝固効果はきわめて少なく,浮腫の軽減には長期問を要した。しかし出血,浮腫が軽度の場合には,クリプトンレーザーとほぼ同様の効果が得られた。合併症として,過剰凝固による網脈絡膜萎縮が3例あり,また他のレーザーに比べて凝固時,疼痛の訴えが多かった。

カラー臨床報告

フルオレセイン皮内テスト強陽性に発生した重篤な副作用の1例

著者: 西野和明 ,   竹田宗泰 ,   中川喬 ,   曽根聡 ,   其田一 ,   土田英昭

ページ範囲:P.725 - P.728

 患者は40歳女性で臨床診断は網膜色素線条である。精査の目的で蛍光眼底検査を行う予定であったが,フルオレセイン皮内テストで発赤腫脹が強陽性であり,さらに頭痛や眠気などが生じたため重篤な副作用が予想された。後日,麻酔科医による全身管理のもとで手術室にて,蛍光眠底造影検査を行った。フルオレセインの静脈注射後,約2分で血圧低下,胸内苦悶,心電図でのST低下などが出現し,ただちに検査を中止し,麻酔科医により,酸素吸入や交感神経刺激剤,副腎皮質ステロイド剤の注入などの処置が行われた。約60分後血圧,頭痛,四肢の痺れが回復した。フルオレセイン皮内テストは,臨床的にはショックの予想にほとんど価値がないと言われているが,本症例のごとく,重篤な副作用を予知し得た症例があるので,そのような症例では蛍光眼底検査を中止することが望ましい。

Group discussion

糖尿病網膜症

著者: 福田雅俊

ページ範囲:P.779 - P.780

 今回は演題16題と例年より少なかったため,全演題を消化することができた。毎年広い会場を要求していたので,試みに中会場を希望したが,案の定開会と同時にほとんど満席で,途中,会を中断して座席を補充したが間に合わず,常時立席者が多数いるという不手際になり,大いに反省した。それだけ関心の高いセッションということになった。
 座長は堀真夫,岡野正,安藤文隆,福田雅俊の4名が分担して進行させた。

レーザー眼科学

著者: 野寄喜美春 ,   天野清範

ページ範囲:P.780 - P.782

最近の話題
□レーザー光凝固における波長特性と眼球色素□
  米谷 新(群馬大)
 レーザー光凝固療法もアルゴンレーザーを主流とした時期より,クリプトンレーザー,ダイレーザー,ダイオードレーザーなどそれぞれ波長の異なるレーザーを病変によって使い分けるようになってきた。今回,これらのレーザー波長と組織の吸収特性(特に眼球色素)の関係について,理論的ならびに臨床的に検討を行った。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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