icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科46巻6号

1992年06月発行

雑誌目次

特集 第45回日本臨床眼科学会講演集(4)1990年10月 広島 学会原著

糖尿病網膜症に対する汎網膜光凝固の長期予後—その1.視力の経過

著者: 上野眞 ,   加藤勝 ,   新田千賀子 ,   岩渕薫子

ページ範囲:P.801 - P.804

 汎網膜光凝固後の糖尿病網膜症眼の長期視力予後について検討した。対象は43例73眼で,増殖前網膜症19例25眼,増殖網膜症31例48眼,年齢30〜76歳(平均51歳),観察期間60〜150か月(平均7年9か月)であった。光凝固前に比し視力が2段階以上悪化したのは,光凝固2年後では増殖前網膜症10眼(40.0%),増殖網膜症15眼(31.3%)で,最終観察時点ではそれぞれ13眼(52.0%),20眼(41.7%)であった。このうち増殖前網膜症の10眼(76.9%),増殖網膜症の10眼(50.0%)は,嚢胞様黄斑浮腫と黄斑浮腫遷延化による黄斑変性のために視力が悪化した。最終視力が0.5以上であったのは増殖前網膜症では11眼(44.0%),増殖網膜症では25眼(52.1%)であった。

Epstein-Barrウイルスの関与が考えられたStevens-Johnson症候群患者の長期観察

著者: 亀井裕子 ,   出海陽子 ,   宮永嘉隆

ページ範囲:P.805 - P.808

 筆者らは1990年2月,40歳男性に発症した乾性角結膜炎において,その高い抗体価(VCA・IgGが2,560倍)からEBウイルスとの関連が示唆された症例をすでに報告した。この症例ではこの時,患者サンプルからウイルスDNAを証明できなかったが,その後2年の経過の中で,高い抗体価を持続し,さらに患者のうがい液,眼洗浄液からPCR法を用いてウイルスDNAを証明できた。本症例とEBウイルスとの関連を再考するにあたり,患者血清のIgE-BF値についても検討したが,結果は正常範囲内と考えられた。今後EBウイルスと眼感染との関連を論ずるうえで,抗体価,ウイルスの証明に加え,IgE・BFについても再検討する必要があると考える。

実質型ヘルペス性角膜炎の涙液および角膜における単純ヘルペスウイルスの証明

著者: 佐久間仁 ,   木村泰朗 ,   堀田喜裕 ,   佐渡一成 ,   藤木慶子 ,   金井淳

ページ範囲:P.809 - P.811

 上皮に病的所見のない鎮静期の実質型ヘルペス性角膜炎の2症例において涙液よりPCR(Polymerase Chain Reaction)法を用いて単純ヘルペスウイルス1型(以下HSV−1)のDNAと思われるバンドを検出した。うち1例は角膜移植時に得られた角膜片の半分を使用してPCR法を施行し,同様にHSV−1のDNAと思われるバンドを検出した。また残り半分について免疫組織学的にHSV−1抗原の検討を行ったが,結果は陰性であった。このことから,症例を重ねて検討する必要があるが,鎮静期の実質型ヘルペス性角膜炎でも末梢におけるHSV−1の播種があり得ることが示唆された。

Sclerocorneaの組織学的観察

著者: 福島正隆 ,   小関義之 ,   山下英俊 ,   澤充

ページ範囲:P.813 - P.816

 Sclerocorneaを呈した3歳児の一眼に全層角膜移植術を施行し,摘出した角膜と角膜に癒着した虹彩様組織を組織学的に検討した。従来報告のあるボーマン膜の欠如,実質の膠原線維束配列の乱れと血管侵入,デスメ膜と内皮細胞の欠如という角膜所見に加え,角膜に癒着した虹彩に相当する組織は実質形成不全,および色素上皮細胞層と無色素上皮細胞層の2層からなる上皮,水晶体側に色素上皮細胞を含む粗性結合組織膜の存在を認めた。本症例は組織学的には,anterior chamber cleavage syndromeに含まれる症例の1例であり,間葉組織のみならず神経堤細胞・外胚葉系の発生異常も生じていると考えられた。

角膜混濁を有する症例に対する硝子体手術

著者: 檀上眞次 ,   細谷比左志 ,   池田恒彦 ,   大橋裕一 ,   木下茂 ,   田野保雄 ,   合田美佐子 ,   春田恭照

ページ範囲:P.817 - P.820

 角膜混濁を有する10症例10眼に対する硝子体手術成績について検討した。一時的人工角膜を用いて,全層角膜移植と同時手術を行った症例の成功率は低く,2段階以上の視力改善は37.5%に得られたのみであった。一方,同時手術を術前予定していたが,硝子体手術のみを行い得た症例が2例あり,予想していた以上に眼底は透見でき,硝子体手術については大きな支障はなかった。
 また,無硝子体眼に対する全層角膜移植手術の透明治癒率は比較的良好であるので,角膜混濁を有する症例に硝子体手術が必要な場合には,一時的人工角膜を用いた全層角膜移植との同時手術を計画する前に,硝子体手術のみが可能かどうか慎重に検討すべきと思われる。また,可能であれば,視力回復のための角膜移植は網膜疾患が安定してから行えばよいと考えられた。

Bloch-Sulzberger症候群(色素失調症)の臨床経過の検討

著者: 三木恵美子 ,   大島崇 ,   平形恭子 ,   東範行

ページ範囲:P.821 - P.824

 1971年から1991年5月の間に国立小児病院を訪れたBloch-Sulzberger症候群23例(男児1例,女児22例)の臨床経過を検討した。初診時年齢は生後11日から10歳(平均1年2か月)で,12例15眼(32.6%)に血管拡張,蛇行,鈍的分岐,無血管帯などの網膜血管異常を認めた。このうち10例は初診時に異常所見を認めたが,2例は経過観察中に異常が出現し,長期の経過観察が必要と思われた。5例6眼(13.0%)に光凝固を施行し,4眼は予後良好であったが,2眼では網膜全剥離,牽引乳頭,黄斑変性を起こし予後不良であった。予後不良であった2例では,網膜血管異常は広範で後極に及んでおり,術前より血管新生,線維増殖などがみられた。

網膜硝子体境界面の正常構造

著者: 原彰 ,   百瀬皓

ページ範囲:P.825 - P.828

 人眼120眼を使用しプロテアーゼ酵素により網膜内境界膜を人為的に網膜,硝子体面より剥離し境界面の構造を調べた。硝子体皮質のマトリックスは酵素により消化されたが網膜内境界膜のマトリックスは消化されず,マトリックスの構成はそれぞれ独立していることがわかった。網膜内境界膜の表面には円球状または円柱状の多数の隆起がみられた。この隆起部は硝子体皮質線維が網膜内境界膜へ進入する場所であることから,線維構成という構造から考えると硝子体皮質と内境界膜とは不可分の関係をなしていると考えられた。網膜大血管上の内境界膜の裏面は血管走行に一致して深い溝が形成され薄くなっていたが貫通孔は存在しなかった。この溝では稀にモザイク紋様の乱れがみられマトリックス内の線維成分が露出していた。線維成分は,硝子体線維と同じ直径の20nmであった。乳頭と網膜内境界膜の移行部の生理的な割れ目はなかった。

調節麻痺眼におけるマニトールで惹起された屈折調節系の変化

著者: 古嶋正俊 ,   今泉雅資 ,   中塚和夫

ページ範囲:P.829 - P.832

 筆者らは以前,アセタゾラミド内服により,低眼圧ならびに近視化とそれに相当した調節力低下が生ずることを報告した。
 今回,こうした屈折調節系への変化が眼圧降下に基づくものなのかを明らかにするため,アトロピン点眼処置した健常人3名にマニトール静注を行い,屈折調節系の変化を調べた。眼圧の降下に伴い,屈折度の近視化,浅前房化,水晶体の肥厚が生じた。近視化の程度は,アトロピン投与による残余調節力以上の変化を示した。以上の結果より,低眼圧に伴う近視化は,眼圧降下によって遠心方向のチン小帯張力の減少が誘発した水晶体肥厚に基づくと推論された。

単焦点後房レンズ挿入眼における術後視力良好群の検討

著者: 久保田浩 ,   盛隆興 ,   梶川大介 ,   三谷一三 ,   笹岡眞紀子 ,   下奥仁 ,   岡本祐二

ページ範囲:P.833 - P.836

 後房型単焦点眼内レンズ挿入術を施行した100眼において,術後の非追加矯正視力が遠方,近方視力とも0.7以上の視力良好群と,それ以外の視力不良群とに分け,年齢,他覚的屈折度,瞳孔径,瞳孔形状,虹彩後癒着の有無,対光反応について比較検討した。その結果,19眼が視力良好群で,視力不良群と比較すると他覚的屈折度は,より軽度の近視傾向を認め,平均年齢が若く,瞳孔径が小さく正円で,虹彩後癒着のない,対光反応の良好な症例が多く認められた。これらより,視力良好群における偽調節の機序としては,軽度の近視性乱視における散光圏効果とともに,近見時における良好な縮瞳反応が,焦点深度の増大に関与しているものと考えられた。

静的動的視野解離Statokinetic dissociation(SKD)を伴う視神経炎と緑内障の視野における空間和の比較

著者: 尾﨏雅博 ,   羽磨隆士 ,   ,  

ページ範囲:P.837 - P.841

 病的空間和はさまざまな眼科疾患に認められ特異的な所見ではない。今回,静的動的視野解離(SKD)を伴う視神経炎と緑内障における空間和の特性について比較検討を行った。視標サイズVとⅢによる空間和の異常は,サイズⅢの網膜感度が低下した視野の異常部位に多く認められ,サイズⅢの感度が低下するにしたがい病的空間和は増加した。視神経炎における空間和の回帰直線の勾配は緑内障より2倍大きく,視神経炎には病的空間和がより多く認められた。緑内障に比べ視神経炎では,視標サイズⅢの網膜感度の低下に比べ視標サイズVに対する網膜感度の低下は小さかった。SKDを伴う視神経炎と緑内障における病的空間和の特性は異なるものと思われた。

眼窩リンパ球系細胞増殖性病変におけるフローサイトメトリーの応用

著者: 萩原正博 ,   原拓 ,   木下裕子 ,   湯浅武之助

ページ範囲:P.843 - P.845

眼窩偽腫瘍4例,木村病1例,悪性リンパ腫6例においてフローサイトメトリーにより腫瘍を構成するリンパ球表面マーカーを検討した。病理学的,免疫組織学的に診断が確実なもののみを対象とした。悪性リンパ腫はすべてびまん性リンパ腫で,B細胞性であった。リンパ過形成ではCD3陽性細胞は44.3±10.0%,CD20陽性細胞は53.2±14.7%で,悪性リンパ腫ではCD3陽性細胞は24.8±10.7%,CD20陽性細胞は78.6±17.7%で,悪性リンパ腫ではCD20陽性細胞が優位であった。κ/λ比では,リンパ過形成では2.03±1.32,悪性リンパ腫では34.62±19.92で,腫瘍組織のフローサイトメトリーによる検索にて単クローン性は容易に判定可能であった。(数値は平均±標準偏差を示す)

学術展示

眼内レンズ挿入術後の感染性眼内炎

著者: 小泉閑 ,   井戸稚子 ,   川崎茂 ,   戸部隆雄 ,   松村美代

ページ範囲:P.846 - P.847

 緒言 白内障手術や眼内レンズ挿入術などの内眼手術術後の感染性眼内炎は,消毒法の進歩と抗生物質の使用により頻度は減少している1)。しかし,最近になって,弱毒嫌気性菌による遅発性眼内炎が次々と報告2,3)されており,眼内レンズ挿入術後の眼内炎の原因として問題になってきている。今回,眼内レンズ移植術後約6か月を経て,肉芽腫性の虹彩炎症状で発症した眼内炎を経験し,細菌検査で皮膚常在菌であるPro—pionibacterium acnesを同定したので報告する。
 症例 58歳,男性。両側の老人性白内障で,術前視力はRV=10cm/fz (n.c),LV=0.04(0.04)。軽度の糖尿病があり,スルフォニル尿素剤内服中でFBS165mg/d1,HbA1c5.9,HbA19.1であった。

都城市と久留米市におけるHTLV-Ⅰキャリアとぶどう膜炎に関する血清疫学調査

著者: 白尾真 ,   吉村浩一 ,   望月學 ,   荒木新司 ,   宮田典男 ,   山口一成

ページ範囲:P.848 - P.849

 目的 Human T-lymphotropic virus type Ⅰ(HTLV-I)は,成人T細胞白血病(ATL)や痙性脊髄麻痺(HAM/TSP)の原因ウイルスであることが知られている1,2)。最近眼科領域においてHTLV-Ⅰ無症候キャリアにぶどう膜炎を伴う症例が報告3,4)されているが,HTLV-Ⅰとぶどう膜炎の関係はいまだ明らかではない。そこで今回はこの関連性を明らかにするために,HTLV-Ⅰ高浸淫地区の九州南部,および九州北部の2地域において,ぶどう膜炎を含めた種々の眼疾患患者の血清抗HTLV-Ⅰ抗体陽性率を血清疫学的に調査したので報告する。
 対象と方法 過去2年間に,宮田眼科病院(宮崎県都城市),久留米大学眼科(福岡県久留米市)を受診し血清抗HTLV—Ⅰ抗体を測定しえた種々の眼疾患患者(各施設488例と288例)を対象とした。対象症例は以下の3群に分けて検討された。A群)眼科的・全身的検査でも原因が不明であったぶどう膜炎群(153例と72例),B群)ベーチェット病,フォークト・小柳・原田病,サルコイドーシスなど原因の明らかなぶどう膜炎群(74例と56例),C群)白内障や緑内障などぶどう膜炎以外の眼疾患群(261例と160例)である。

悪性腫瘍に伴う網膜症(cancer associated retinopathy)と思われる2例

著者: 大原進 ,   坂本泰二 ,   右田雅義 ,   向野利彦 ,   大西克尚

ページ範囲:P.850 - P.851

 緒言 悪性腫瘍の際に,腫瘍の直接の浸潤や転移を伴わないにもかかわらず神経症状を示すことが知られており,腫瘍の遠隔作用,あるいは腫瘍随伴症候群と呼ばれている。
 1976年にSawyerらは腫瘍の遠隔作用として視力障害をきたした症例を報告した1)。これらの疾患は,悪性腫瘍に伴う網膜症cancer associated retinopathy(CAR),paraneoplastic retinopathy,あるいはvisual paraneoplastic syndromeと呼ばれている。

老人性円板状黄斑変性症の全国疫学調査

著者: 湯沢美都子 ,   久保奈佳子 ,   宇山昌延 ,   松井瑞夫 ,   大野良之 ,   柳川洋

ページ範囲:P.852 - P.853

 緒言 老人性円板状黄斑変性症は老人の失明の主要原因疾患であり,近年増加傾向が認められる。筆者らは本症の全国年間受療数を推定し,本症の臨床像を明らかにする目的で,全国調査を行ったので,その結果を報告する。
 対象および方法 厚生省特定疾患「難病の疫学」調査研究班が従来から採用している方法に従った。すなわち200床以上の一般病院と大学病院計1,063施設の眼科を対象施設とし,第一次調査として1987年4月1日から1年間にこれらの施設を受診した患者についてアンケート調査を行った。第二次調査は第一次調査で回答のあった施設に個人調査票を配布し,回収できた調査票を分析した。

糖尿病性網膜症と2・3-diphosphoglycerate

著者: 佐藤章子 ,   木村聡

ページ範囲:P.854 - P.856

 緒言 第95回日眼報告に引き続き糖尿病性網膜症と赤血球2・3-diphosphoglycerate (以下DPGと略す)とのかかわりについて検討した。
 対象と方法 半年以上経過観察できた糖尿病患者265例(男性120例,女性145例)を対象として,薄葉分類1)による螢光所見の網膜症各病型(表1)と全血中DPGの関係を検討した。なお今同は5および6型は一括して5型とし,7型特殊型のうち急速進行型のみ7型として扱った。対照群は,75gGTTにて耐糖能異常のない24例(男女各12例)を用いた。全血中DPGは,ヘパリン採血後ただちに0.6N過塩素酸溶液にて除蛋白し,凍結保存後,採血1週間以内に2・3-DPGテストにて測定した。一部の患者にはヘモグロビンA1C(HbA1C),ヘモグロビン(Hb),赤血球数(RBC)を同時測定した。DPGに異常をきたす糖尿病以外の全身疾患を有す患者は除外した2)

網膜色素線条症のビデオ赤外螢光眼底造影所見

著者: 川村昭之 ,   湯沢美都子 ,   高橋信仁 ,   松井瑞夫

ページ範囲:P.858 - P.859

 緒言 近年,ビデオ赤外螢光眼底造影法(以下,IAとする)が開発され,臨床応用されてきている1)。筆者らも1989年より本法を導入し,その有用性について報告してきた2,3)。今回は,網膜色素線条症のIA所見について検討し,興味ある知見を得たので報告する。
 対象および方法 対象は網膜色素線条症7例14眼で,全例,皮膚に弾力線維性仮性黄色腫を合併していた。これらの症例に螢光眼底造影(以下,FAとする)とIAを同日に施行し,比較検討した。

老人性円板状黄斑変性症の網膜下血腫型に対する光凝固の有効性

著者: 原和之 ,   白神史雄 ,   森繁弘 ,   杉本敏樹 ,   松尾信彦 ,   大月洋

ページ範囲:P.860 - P.861

 緒言 老人性円板状黄斑変性症の網膜下血腫型は比較的経過良好であることが知られている1)。そこで今回,最近老人性円板状黄斑変性症の治療として広く行われている光凝固の網膜下血腫型に対する効果について検討した。
 対象と方法
 1)対象症例:最近5年間に岡山大学医学部附属病院眼科外来を受診し,6か月以上経過可能であった網膜下血腫型の老人性円板状黄斑変性症20例20眼を対象とした。性別は男性13例,女性7例であり,平均年齢62.6歳であった。観察期間は7〜44か月にわたり,平均経過観察期間24.9か月であった。

10年間の眼部腫瘍性疾患の検討

著者: 戸塚清一 ,   瀬川雄三

ページ範囲:P.862 - P.863

 緒言 最近10年間の腫瘍性疾患の動向を知り,診断上,治療上の問題点を提起する。
 対象 1981年5月より1991年4月までに,信州大学眼科において治療され,病理学的に診断の確定した眼部腫瘍性疾患153例である。なおウイルス疾患である尋常性疣贅は臨床的に眼瞼腫瘍と鑑別を要するので本統計に加え,一方粘液嚢腫や膿嚢腫は省略した。

ペルーシド角膜変性症の角膜形状解析

著者: 前田直之 ,   岩崎直樹 ,   細谷比左志 ,   濱野光 ,   眞鍋禮三

ページ範囲:P.864 - P.865

 緒言 ペルーシド角膜変性症は非炎症性に角膜が菲薄化し,角膜不正乱視が生じる稀な疾患である。その臨床所見は下方周辺角膜の突出とさらに下方の帯状の菲薄化とにより特徴づけられている1)。典型例では倒乱視傾向の角膜不正乱視と特徴的な角膜形状から診断は容易であるが,軽症例については倒乱視や円錐角膜との鑑別は必ずしも容易ではない2)。今回筆者らはtopographic modeling system3)を用い本症の角膜形状を解析し,その特徴について検討を加えた。
 方法 対象はペルーシド角膜変性症の4例6眼である。男性4例で平均年齢29.2歳であった。使用した角膜形状測定装置はtopographic modeling system(TMS-1®,Computed Anatomy社)である。本装置はライトコーンが25本のリングをもつvideokeratoscopeで,マイヤー像をコンピュータに取り込み約6400か所の角膜屈折力を測定することができ,測定された角膜屈折力は,屈折力に応じてカラーコードマップとして表示される。今回は角膜屈折力分布をabsolute scaleのカラーコードマップにて表示した。

鈍的外傷後に発生した無虹彩を合併した緑内障

著者: 李俊哉 ,   永田征士 ,   佐藤雪雄 ,   田中紀子 ,   石原淳 ,   瀬川雄三

ページ範囲:P.866 - P.867

 緒言 鈍的眼外傷は,日常診療でしばしば遭遇する疾患である。傷害の強度により,さまざまな種類および程度の合併症をもたらす。今回筆者らは,角強膜の損傷を伴わない鈍的外傷により,完全無虹彩を合併した緑内障のまれな症例を経験したので,その成因につき考察し報告する。
 症例
 患者:75歳,女性

真性小眼球症にuveal effusionの合併した2症例

著者: 矢野宏樹 ,   片山寿夫 ,   武田憲夫 ,   加藤剛 ,   早見宏之 ,   窪田靖夫

ページ範囲:P.868 - P.869

 緒言 真性小眼球症には網膜剥離や緑内障など種々の合併症が報告されている。今回筆者らは兄弟例を含む3例を経験し,うち2例3眼にuveal effusionの発症をみたのでここに報告する。
 症例
 【症例1】 35歳女性。主訴は左眼変視症。紹介され当科を受診した。視力はRV=0.03(0.1×+10.0D),LV=0.03(0.1×+10.0D)と高度遠視であった。角膜径は右眼10.0×10.5mm,左眼10.0×10.5mm,眼軸長は右眼15.2mm,左眼15.5mmであり真性小眼球症を認めた。細隙灯顕微鏡にては両眼とも浅前房がみられ,眼圧は右眼16mmHg,左眼16mmHg,隅角は両眼Shaffer分類でGrade1であった。超音波検査・X線CTでは両眼の小眼球と強膜の肥厚を認めた。眼底は両眼とも乳頭の発赤腫脹と静脈の拡張蛇行がみられ,左眼には全周の脈絡膜剥離と鼻側に限局した胞状な網膜剥離を認めた(図1)。蛍光眼底検査にて異常はみられなかった。ステロイドの全身投与には反応せず,手術として左眼3象限に強膜半層切除術を施行した。脈絡膜剥離は改善し,網膜剥離は一部に残存したがそれも徐々に吸収し,術後20か月後に完全な復位をえた。

混合性結合組織病(MCTD)の眼症状

著者: 森秀夫 ,   山下千恵 ,   橋添元胤 ,   天野浩之 ,   内田立身

ページ範囲:P.870 - P.871

 緒言 混合性結合組織病(mixed connective tissue disease, MCTD)は膠原病の範疇に属する独立疾患である。これは全身性エリテマトーデス(SLE),全身性強皮症(PSS),多発性筋炎(PM)の臨床症状を部分的に重複し,かつ血清学的には抗RNP(ribonucleo—protein)抗体(抗核抗体の1種)の単独高値が特徴的な疾患で,その有病率はSLE, PSS, PMなどの1割弱と推定されている1)。筆者らの知る限りMCTDに眼症状を合併した症例の報告はない。今回筆者らはMCTDに高度の視力障害を合併し,全身的ステロイド投与が著効を示した症例を経験したので報告する。
 症例 61歳,女性。

眼底病変を呈した福山型先天性筋ジストロフィー症の同胞例

著者: 吉村圭子 ,   山名敏子 ,   西村みえ子 ,   楢崎修

ページ範囲:P.872 - P.873

 緒言 福山型先天性筋ジストロフィー症は1960年福山らにより提唱された知能障害,中枢神経系の異常を伴う筋ジストロフィー症で1),乳児期に発症し,本邦に多い。本症は同胞罹患,血族結婚が多いことから,常染色体性劣性遺伝とする説があるが,剖検例における炎症所見から胎内感染するという説もあり,病因は明らかでない。近年本症の眼底異常が報告され2〜5),中枢性病変との関連が注目されている。眼底所見としては,視神経萎縮2〜4),網膜血管の形成異常2),黄斑偏位2,4),眼底周辺部の灰白色の色調ムラ2,3,5),網脈絡膜萎縮3),後部硝子体剥離5)が報告されている。今回筆者らは,本症に特徴的と思われる眼底病変を呈した同胞例を経験したので報告する。
 症例 【症例1】 1歳男児。主訴:発達の遅れ。既往歴:母の妊娠後期に軽度妊娠中毒症あり,41週で吸引分娩にて3,100gで出生。現病歴:3か月で追視,頸定は10か月であった。12か月で寝返り,独座ができないため当院小児神経科を受診。家族歴:血族結婚なし筋疾患なし。全身所見:四肢の自発運動はほとんどなく,筋緊張は低下しており,両側膝関節の屈曲拘縮あり。血清CPK値は5,504IU/l (正常値9〜86)と異常高値。頭部CT scanでは,白質の著明な低吸収域,脳室の拡大がみられた。

特異な網膜症を呈したびまん性肺動静脈瘻の1例

著者: 石龍鉄樹

ページ範囲:P.874 - P.875

 緒言 びまん性肺動静脈瘻は肺の毛細血管のレベルにおいて血流の短絡を生ずる疾患で,大血管系の異常,Randu-Osler-Weber症候群,肝炎,肝硬変,再生不良性貧血などの合併症を認める比較的まれな疾患であるが,過去に眼合併症の報告はない1)
 今回,びまん性肺動静脈瘻に合併した網膜症の1例を経験したので報告する。

Wilson病における水晶体前嚢上色素沈着について

著者: 林篤志 ,   宮崎大 ,   生島操 ,   西山苑 ,   大島禎二 ,   下村嘉一

ページ範囲:P.876 - P.877

 緒言 Wilson病は常染色体劣性遺伝形式をとるまれな先天性銅代謝異常症である。血清中の銅輸送蛋白であるセルロプラスミン合成障害により,肝臓,脳などの全身の組織に銅の過剰沈着が起こり種々の全身症状をひき起こす1)。今回筆者らは,自覚的全身症状を欠き屈折異常にて眼科を受診し,精査の結果Wilson病と診断された症例を経験し,その水晶体前嚢上黄褐色色素沈着をスペキュラーマイクロスコープ(甲南キーラー社SP5500)を用いて観察したので報告する。
 症例 16歳女性。

点眼治療が奏効したアカントアメーバ角膜炎の初期例

著者: 中川裕子 ,   徳島邦子 ,   中川尚 ,   山浦常 ,   白坂龍曠 ,   冲永真奈恵 ,   堀上英紀 ,   石井圭一

ページ範囲:P.878 - P.879

 緒言 近年,わが国においてもアカントアメーバ角膜炎が次々と報告されているが1〜3),早期診断が困難であること,治療法が確立されていないことなどの問題点がある。今回筆者らは,発症後5日のきわめて初期にアカントアメーバ角膜炎と診断し,点眼治療のみで治癒した1例を経験したので報告する。
 症例 22歳,女性。

加齢性黄斑変性におけるフルオレセイン・インドシアニングリーン両螢光眼底造影写真の画像重ね合わせ法を用いた検討

著者: 白木邦彦 ,   森脇光康 ,   加茂雅朗 ,   松本宗明 ,   阪本卓司 ,   矢守康文 ,   三木徳彦 ,   杉野公彦 ,   上野珠代 ,   今本量久

ページ範囲:P.880 - P.881

 緒言 加齢性黄斑変性にみられる脈絡膜新生血管組織をインドシアニングリーン螢光眼底造影(以下ICG螢光)とフルオレセイン螢光眼底造影(以下フルオ螢光)での相違について,既報の“RGB色重ね合わせ法”1)による画像処理法にて比較検討した。
 対象および方法 脈絡膜新生血管の疑われた加齢性黄斑変性34症例を対象とした。ICG螢光にはトプコン社製カメラ50IAを用い,1.0〜1.5mg/kgのICGを静注した。両螢光をトプコン社製IMAGEnetに取り込み,各々シアン(水)色と赤色に配色し,重ね合わせた。なお網膜主幹血管を確認できる写真を対象とし,それらを重ね合わせの指標とした。

治療的エキシマレーザー表層角膜切除術後の遠視化について

著者: 高橋圭三 ,   木下茂 ,   大橋裕一 ,   生野恭司 ,   森村浩之

ページ範囲:P.882 - P.883

 緒言 治療的エキシマレーザー表層角膜切除術は,角膜の形状を保ったまま,ミクロン単位で角膜の表層性病変を除去しうる優れた術式である。現在筆者らの施設において乱視矯正1)および表層角膜病変の治療2)にエキシマレーザーを臨床試用しているが,治療的エキシマレーザー表層角膜切除術後に遠視化の生ずる症例を筆者らは少なからず経験している。そこで今回は,治療的エキシマレーザー表層角膜切除術前後の屈折値と角膜屈折力の変化を検討したので報告する。
 症例および方法 術前矯正視力0.3以下の各種角膜変性症などに対し,円形レーザービームの角膜中央部への単純照射による治療的エキシマレーザー表層角膜切除術を施行した。これらの症例について,術前後の屈折値(8眼)と角膜屈折力(11眼)を比較した。エキシマレーザー発生装置はSummit社製ExciMedUV200LAを使用した。屈折値はオートレフラクトメーター,角膜屈折力はオートケラトメーターおよびフォトケラトスコープにて測定し,屈折値については等価球面度数を,角膜屈折力については平均角膜屈折力を用いて検討した。

硝子体出血を合併した頸動脈海綿静脈洞瘻の1症例

著者: 目加田篤 ,   林幸子 ,   佐々本研二 ,   可児一孝

ページ範囲:P.884 - P.885

 緒言 頸動脈海綿静脈洞瘻(CCF)の治療の際に起こる眼合併症として網膜中心静脈閉塞症1,2)や網膜出血3)などの報告があるが,硝子体出血のみを起こしたという報告は筆者らが調べたかぎりではみられなかった。今回筆者らは,特発性CCFに対し血管内手術を施行した後に,原因不明の硝子体出血を併発した症例を経験したのでこれを報告する。
 症例 62歳,男性。主訴:左眼の充血,頭痛,嘔気。既往歴:高血圧,20年前に頭部打撲。家族歴:特記すべきことなし。現病歴:1990年10月28日,頭痛,左眼の流涙,充血を自覚。10月30日にH病院内科に入院し症状の増強,嘔気,嘔吐,眼瞼下垂,眼球突出が著明となり,第3,4,5,6神経障害,血管性雑音が出現したため,脳血管撮影(図1)にてCCFと診断されて当院に転院となった。

うっ血乳頭,外転神経麻痺を主症状とした急性前骨髄球性白血病の髄膜播種の1例

著者: 江畑理佳 ,   大原こずえ ,   鈴木康之 ,   足立憲彦 ,   池田幾子 ,   谷野洸

ページ範囲:P.886 - P.887

 緒言 白血病の寛解導入率が高まり,寛解後の経過観察の重要性が認識されている中,髄膜内再発(髄膜白血病)が血液学的再発に先行して生じる所見の一つとして重視されている。今回筆者らはうっ血乳頭,外転神経麻痺,網膜出血を初発症状として髄膜内再発をきたした急性前骨髄球性白血病(acute promyelocy-tic leukemia:APL)の症例について報告する。
 症例 62歳,男性。1989年2月に急性前骨髄球性白血病と診断され,化学療法にて完全寛解のまま内科で経過観察中であった。1991年4月に入ってから霧視,複視が出現したため4月8日当科初診。初診時,視力:右0.7(矯正1.2)左0.2(矯正1.5)。眼圧:右15mmHg,左15mmHg。前眼部,中間透光体異常なし。眼底は,両眼に中等度うっ血乳頭および軽度の乳頭上出血を認めた。また左眼に完全外転神経麻痺を認めた。Goldmann視野測定ではマリオット盲点の拡大を認め,CTでは脳室の軽度拡大が認められ,頭蓋内圧亢進症の可能性が示唆された。4月18日再診時には,視力:右0.4(矯正0.6)左0.5(矯正0.7)と低下,うっ血乳頭,乳頭上の出血はさらに増悪し,網膜前出血も併発していた。また,患者はこの頃より,数秒間の意識低下発作を起こすようになった。

連載 眼科図譜・311

グリセリン保存角膜による全層角膜移植術後長期にわたり移植片の透明性を維持しえた1例

著者: 平野耕治 ,   渡部幸浩 ,   田辺詔子 ,   平野潤三

ページ範囲:P.790 - P.791

 緒言 全層角膜移植術後,外傷のため移植片が脱落した症例に対し,グリセリン保存角膜1)による全層角膜移植術を行い,術後約1年6か月にわたり透明な移植片を維持しえた経験をした。臨床経過と移植片の組織所見について報告する。
 症例 86歳,男性。

眼の組織・病理アトラス・68

慢性関節リウマチに伴う壊死性強膜炎

著者: 猪俣孟

ページ範囲:P.794 - P.795

 強膜炎患者の1/3は慢性関節リウマチ患者である。慢性関節リウマチ患者に伴う強膜炎はとくに前部強膜に起こりやすい。臨床的には,強膜が炎症性に著しく肥厚する膠様強膜炎 gelatinousscleritisまたはbrawny scleritis (図1)と,逆に強膜が菲薄化してぶどう膜が露出する穿孔性強膜軟化症scleromalacia perforansの2通りがある。いずれも強膜の壊死を伴う壊死性強膜炎ne—crotizing scleritisである。
 病理組織学的な特徴は,強膜の壊死とそれに伴う慢性肉芽腫性炎症である(図2)。角膜縁から赤道部までの前部強膜に多形核白血球の浸潤を伴った多数の小壊死巣が存在し,その周囲を柵状に配列した類上皮細胞や巨細胞が取り囲む小結節すなわち類壊死結節necrobiotic nodulesが形成される(図3)。類壊死結節の周囲には多数のリンパ球とプラスマ細胞が浸潤して強膜は著しく肥厚する。

今月の話題

増殖性硝子体網膜症—成因と治療

著者: 吉村長久

ページ範囲:P.797 - P.800

 増殖性硝子体網膜症は,眼内で細胞が増殖し網膜面,硝子体中に形成した線維性膜が収縮する結果,牽引性網膜剥離をきたす病態である。手術に加えて補助療法が試みられているが,臨床応用は今後の検討課題である。

眼科薬物療法のポイント—私の処方・42

睫毛ケジラミ症

著者: 中村聡 ,   秦野寛

ページ範囲:P.913 - P.914

 症例:3歳,女児。主訴:両眼充血。1か月前より進行する両眼の充血と痒みを訴え,母親が睫毛が白いことに気づき当科を受診した。両眼瞼上下の瞳毛に小白色球状の付着物を認めた。神奈川県在住。家族構成は母親と祖父母よりなり,兄弟はいない。

眼科手術のテクニック—私はこうしている・42

表層角膜移植Lamellar Keratoplasty

著者: 大橋裕一

ページ範囲:P.916 - P.918

lamellar keratoplastyの特性
 表層角膜移植は角膜実質を含んだ角膜表層を置換する手術法である。基本的に外眼手術であること,繰り返し行えること,内皮型拒絶反応が起こらないことなど優れた点も多いが,一方で視力が出にくい欠点もある。こうした特性から主として治療的角膜移植において多用されている。視力改善については二義的に考えるべきである。
 さて表層角膜移植は中央部と周辺部に行うものの2つに分けられるが,ここでは中央部のものを示す。中央部の場合には,膠様滴状角膜変性症や顆粒状角膜変性症などの角膜変性症が主な適応である。ただし特殊な例として,重症のモーレン潰瘍や自家結膜移植などで用いられることもある。

臨床報告

円錐角膜を合併したWagner様網膜硝子体変性症の1例

著者: 岡本直之 ,   坂上欧 ,   本田孔士

ページ範囲:P.888 - P.892

 症例は両眼霧視を主訴とする30歳女性で,両眼の高度近視,後嚢下白内障,網膜硝子体変性,円錐角膜を認めた。視力はハードコンタクトレンズ矯正下で右0.5左0.4,Wagner病様の網膜硝子体変性(液化硝子体,スイスチーズ様の孔,厚い硝子体膜,網膜硝子体索,網膜色素沈着,白鞘化した血管など)をみたが,網膜裂孔,網膜剥離,全身症状などはなく,色覚,視野,ERGはほぼ正常,3代にわたり家系内に異常者はなかった。今まで報告のない円錐角膜を合併したWagner様網膜硝子体変性症と考えられる。

走査レーザー検眼鏡による螢光眼底造影

著者: 古沢信彦 ,   得居賢二 ,   田中隆行 ,   村岡兼光

ページ範囲:P.893 - P.900

 走査レーザー検眼鏡(SLO)による螢光眼底造影を,正常ならびに病的な眼底に対して行い,従来の眼底カメラによる螢光眼底造影では得られていない次の4つの新知見を得た。1)毎秒30コマの高速度な検索が可能なため,網膜静脈分枝閉塞症などで生じた側副血行路の拍動を伴った血行動態がより詳細に観察可能になった。2)螢光造影剤の静注後60分以上の超後期像の観察が可能になった。3)検眼鏡的ないし従来の螢光眼底造影ではとらえることが困難であった網膜のmicrocystoid edemaが容易に観察できるようになった。4)画角20度での中心窩毛細血管網の動的観察により,毛細血管を流れる多数の螢光点が観察できたことなどがそれである。この螢光点は,白血病患者では,正常者よりもはるかに多数であった。さらに,正常者の血液の螢光染色では,白血球と血小板が強く螢光色素で染色された。これにより,今回観察された過螢光点は白血球と血小板であると結論された。

走査レーザー検眼鏡による網膜動脈血流速度の測定

著者: 羽鳥毅 ,   村岡兼光 ,   田中隆行 ,   得居賢二 ,   古沢信彦 ,   高橋京一

ページ範囲:P.901 - P.907

 眼底に病変のない有志者10例15眼に,走査レーザー検眼鏡による螢光眼底造影を行い,螢光色素塊の先端dye bolusの進行を毎秒30コマで連続記録して,網膜下耳側動脈の血流速度を測定した。全例で血流速度の測定が可能であった。その値は平均27.3±9.1mm/秒であり,最高50.4,最低15.7mm/秒であった。被検例によりdye bolusの速度がいったん遅くなり,その後再び速度を上げて流れる例があり,網膜動脈内の血流は必ずしも恒常流ではなく,心拍動の影響をうけた拍動流の場合があった。

原田病類似の漿液性網膜剥離を合併した樹氷状血管炎の成人例

著者: 鈴木治之 ,   竹田宗泰 ,   鈴木純一

ページ範囲:P.919 - P.922

 原田病類似の両眼性の漿液性網膜剥離をきたし,網膜静脈の白鞘化を呈したいわゆる樹氷状血管炎の1例を報告した。症例は24歳女性で,初診時視力は右0.02,左0.1。両眼に視神経乳頭の発赤,多発性の漿液性網膜剥離,広範な静脈の白鞘化をみた。螢光眼底撮影では両眼とも脈絡膜から網膜下への螢光漏出,および白鞘化した静脈と乳頭からの漏出が認められた。4か月後に夕焼け状眼底は示さず,後極部から中間周辺部にかけて散在性の網膜色素上皮の小斑状萎縮巣が認められ,螢光眼底撮影ではそれに一致した過螢光がみられた。本症例は原田病に類似する所見を伴い樹氷状血管炎を呈した稀な症例と考えられた。

涙道閉塞症に対するシリコンチューブ留置術

著者: 山口裕司 ,   菊池久美子 ,   村田博之 ,   河本泰

ページ範囲:P.923 - P.926

 涙道閉塞症40例47眼に対してシリコンチューブ留置術を行った。自覚症状が改善し,かつ涙道通水試験にて通過した症例が47眼中32眼(68%)あり,改善しなかった15眼のうち5眼は,抜去後再閉塞をきたした症例で,全例3か月以内にチューブを抜去したものであった。他の10眼はチューブ留置中より,涙道通水試験の改善はなく,うち6眼は高度の慢性涙嚢炎あるいは副鼻腔炎の手術既往歴があった。本法は慢性の炎症に起因する高度の癒着を伴う症例を除く涙道閉塞症に対して第一選択としてよい方法と考えられた。

レーザー光凝固で治癒した視神経乳頭上網膜血管腫の2例

著者: 近藤照敏 ,   米本由佳 ,   戸倉敬雄 ,   西村哲哉 ,   宇山昌延 ,   上原雅美 ,   桑原博子

ページ範囲:P.927 - P.930

 視神経乳頭上網膜血管腫の2例に対し色素レーザー,波長577nmで血管腫の直接光凝固を低出力長時間で反復して行い,何ら合併症なく,腫瘍の縮小,黄斑部網膜剥離の消退など良好な結果を得た。このような弱凝固の反復凝固は視神経乳頭上網膜血管腫の治療に有効と思われた。

巨大な網膜色素上皮裂孔による網膜剥離とその治療の1例

著者: 立川晶子 ,   西村哲哉 ,   宇山昌延 ,   福井咲子

ページ範囲:P.931 - P.935

 43歳の女性の右眼眼底に,下方に胞状の網膜剥離と全周に軽度の脈絡膜剥離がみられ,鼻下側赤道部に約1象限にわたる網膜色素上皮剥離があり,その後極側の辺縁に沿って細長い色素上皮裂孔がみられた。その後,色素上皮裂孔は1象限の大きさに拡大し,網膜剥離の増強をみた。眼軸長20mmの真性小眼球(nanophthalmos)があった。
 Uveal effusion の治療に準じた強膜半層切除術および強膜開窓術を行った。網膜剥離は消失し,色素上皮裂孔は色素沈着を伴って瘢痕化して治癒した。
 網膜剥離を伴った大きい網膜色素上皮裂孔の治療例を報告した。

急性後部硝子体剥離の合併症

著者: 大西通広 ,   吉田晃敏 ,   広川博之

ページ範囲:P.937 - P.940

 飛蚊症や光視症の自覚後3か月以内に眼科を受診し,後部硝子体剥離と診断された156人(36〜84歳,平均61歳),156眼を対象として,急性後部硝子体剥離に伴う合併症の出現頻度を性,年齢,屈折度との観点から検討した。合併症として網膜裂孔(15%),硝子体出血(13%),網膜出血(5%),後天性網膜分離症(3%),類嚢胞黄斑浮腫(1%),網膜血管牽引(1%)がみられた。飛蚊症や光視症を自覚した60歳未満の男性の後部硝子体剥離例では,その約半数になんらかの網膜・硝子体合併症が認められた。

シェーグレン症候群におけるドライアイの総合的評価

著者: 引地泰一 ,   吉田晃敏 ,   坪田一男 ,   田村仁

ページ範囲:P.941 - P.945

 72人のシェーグレン症候群(SjS)患者における眼所見を自覚検査,他覚検査の両面から多角的に検討した。眼疾患を有さない16人を対照群として用いた。その結果,「眼がかわく」「目が疲れる」という2つの愁訴が最も高頻度(72.9%)に認められた。涙液クリアランスおよび鼻刺激による涙液分泌が,SjS患者(4.4±2.4倍,11.5±8.6mm)において対照群(13.3±6.7倍,28.5±5.9mm)に比べ,いずれも低値であり(p<0.05,p<0.01),涙液動態の異常および反射性涙液分泌の低下が明らかとなった。角膜上皮のスペキュラー像をみると,紡錘形細胞や有核細胞が出現する症例が確認され(8例,15%),これらは角膜上皮の創傷治癒過程を反映していると推測された。ブラッシュサイトロジーによる検討では,瞼結膜および球結膜リンパ球の出現頻度がSjS患者(13.2±6.2%,3.8±2.1%)において対照群に比べ(1.0±2.5%,0.6±0.8%)有意に高値で(p<0.01,p<0.01),全身の炎症との関連が示唆された。

Group discussion

眼先天異常

著者: 馬嶋昭生

ページ範囲:P.947 - P.949

1.外転神経麻痺を伴う先天性crocodile tearsの2例
 武田宜之・他(東北大)
 通常涙液分泌と唾液分泌の経路はそれぞれ独自の機能を有しており互いに干渉しあうことはないが,まれに各々の経路が混じり合い一種独特の症状を呈することがある。つまり味覚刺激後に流涙が惹起されるというものだがこのような病態をcrocodile tearsと呼ぶ。この発生原因は先天性,後天性の2つに大別できるが,今回われわれは先天性crocodile tearsの2例を経験したので報告する。

視野

著者: 白土城照

ページ範囲:P.949 - P.951

 視野グループディスカッションは11回目を迎え,永年にわたり日本視野研究会会長を務められた東京医大松尾治亘名誉教授に代わり,近畿大学 大鳥利文教授が新たな会長となられた。11回目を迎えるに当たって,視野研究会事務局長 遠藤成美博士の御苦労の賜物である資料集「日本視野研究会10年の歩み」が参会者に配付された。
 今回の演題は13題で最後に松尾名誉教授に特別公演をお願いした。第1-4席までの座長は溝上國義(神大),5-9席は松本長太(近大),10-13席は古野史郎(古野眼科)の各先生に,特別公演座長は慈恵医大 北原健二教授にお願いした。各演題の内容を簡述する。紙数の関係で討論は省略させて頂く。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up
あなたは医療従事者ですか?