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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科46巻7号

1992年07月発行

雑誌目次

特集 第45回日本臨床眼科学会講演集(5)1991年10月 広島 学会原著

全層角膜移植と白内障の手術時期の検討

著者: 山田昌和 ,   島崎潤 ,   村田博之 ,   真島行彦

ページ範囲:P.979 - P.982

 慶應義塾大学眼科において全層角膜移植と白内障手術を施行した症例を,同時手術を行った群(Combined群)16例17眼と2次的に白内障手術を行った群(Simple群)9例10眼に分け,その予後を比較検討した。術後の透明治癒率,合併症,視力予後には両群に大きな差を認めなかった。移植片の内皮細胞減少率は術後2年でCom-bined群では29.5%,Simple群では53.8%となり,2次的な白内障手術によるcell lossは少なくなく,内皮細胞の面からは同時手術が有利と考えられた。いくつかの問題点はあるものの,白内障を有する角膜疾患眼には全層角膜移植と白内障の同時手術,あるいはこれに眼内レンズ挿入術を含めたtriple procedureを積極的に行ってよいと考えられた。

エキシマレーザーの角膜疾患に対する臨床応用

著者: 新妻卓也 ,   伊藤退助 ,   伊藤清治 ,   石井康雄 ,   林正泰 ,   新妻聡美 ,   普天間稔 ,   大橋孝治

ページ範囲:P.983 - P.985

 波長193nmの弗化アルゴンによるエキシマレーザーで,角膜混濁のある60眼を治療した。翼状片29眼、角膜白斑12眼,帯状角膜変性8眼,顆粒状角膜変性5眼,角膜潰瘍3眼,角膜ヘルペス3眼である。
 全例で角膜混濁を正確な範囲と深さで除去することができた。視力は治療直後から改善した。隣接部角膜に浮腫はなく,治療した角膜面は,平滑で正常な再生上皮で修復された。術後4から12か月の経過観察中,術後屈折の変化による遠視化と切除面の軽度混濁の問題が生じたが,治療後ほぼ3か月で正常化した。エキシマレーザーは,角膜表層の混濁に対して,安全で有効な治療手段であると判断された。

新しい免疫抑制剤FK 506の難治性ぶどう膜炎に対する使用経験

著者: 池田英子 ,   嶋田伸宏 ,   藤東祥子 ,   白尾真 ,   吉村浩一 ,   望月學

ページ範囲:P.987 - P.991

 わが国で開発された新しい免疫抑制剤FK 506の難治性ぶどう膜炎に対する治療効果を検討した。症例は副腎皮質ステロイド,シクロスポリンやコルヒチンなどが無効であったベーチェット病5例,特発性網膜血管炎3例の8例であった。FK 506は0.15〜0.2mg/kg/dayの用量でこれらのぶどう膜炎に有効であった。腎機能障害を1例に認めたが,その他重篤な副作用はなく,FK 506は内因性の難治性ぶどう膜炎の治療に有効であると考えられた。

緑内障半視野テストによる視野障害評価の信頼性

著者: 田中佳秋 ,   伊藤美樹 ,   溝上國義

ページ範囲:P.993 - P.996

 緑内障眼および緑内障疑いの症例92例172眼に対しハンフリー自動視野計STATPAC2の緑内障半視野テストの臨床評価を行った。上下いずれかの半視野に限局した局在性の閾値低下には,多くの症例に正常範囲外の判定を下したが,上下の半視野に同程度の閾値低下を認める症例では判定が困難な場合があった。これらの症例は,屈折,前眼部,中間透光体,瞳孔径に異常を示さず,初期の緑内障に認められる全般的な感度低下と考えられ,半視野テストの判定において注意が必要と考えられた。

緑内障における乳頭上血管の走行変化と色調変化の関連

著者: 伊藤美樹 ,   溝上國義

ページ範囲:P.997 - P.1000

 乳頭陥凹の経時的変化をとらえる方法の1つとして,乳頭上の血管走行の変化を画像上でとらえうる装置を開発した。本装置の再現性は,intraphotographicならびにinterphotographicともに良好であった。原発開放隅角緑内障15眼に本装置の応用を試み,視野障害変化,乳頭色調変化との関連について検討した。本装置によりとらえた血管走行変化は,視野障害の進行状態および乳頭辺縁部の色調変化ともある程度の相関を示した。本装置と色調解析を同時に行うことで,画像上で乳頭変化をより総合的に評価することが可能となると考えられた。

緑内障における乳頭螢光輪の意義

著者: 井上洋一 ,   井上トヨ子 ,   中瀬佳子 ,   東出登志 ,   朝蔭博司

ページ範囲:P.1001 - P.1005

 視神経乳頭の螢光輪を,PACG,POAG,DG,LTG,および正常対照,各20眼の計100例100眼で検討した。PACGでは対照眼に対して有意な差を認めなかったが,POAG,DG,LTGでは部分的または全周欠損があり,統計上有意な差がみられた。螢光輪の欠損例では,乳頭表在毛細血管,ことに緑内障眼で障害を受けやすい放射状乳頭前毛細血管(REC)が減少しており,血管構築の菲薄化を認める例があった。具体例を挙げて,視機能障害と螢光輪との関連を示した。これらの結果より,螢光輪は視神経の眼圧に対する脆弱性を示す指標になりうると判断した。

TrabeculotomyとSinusotomy併用手術後の眼圧

著者: 熊谷映治 ,   寺内博夫 ,   永田誠

ページ範囲:P.1007 - P.1011

 Trabeculotomy手術直後の併発症としての一過性眼圧上昇の予防策としてsinusotomyを併用する方法(LOT+SIN)を用いてtrabecu-lotomy手術単独(LOT)の場合と比較検討したところ,以下の結果をみた。
 1)術後早期(24時間以内)に眼圧上昇をきたす症例が両群ともに認められたが,有意にLOT+SIN群では少なく,30mmHg以上の眼圧上昇があった症例は,LOT+SIN群で1眼(6%),LOT群で5眼(26%)であった。また術後6時間から24時間までの眼圧はLOT+SIN群で有意に低く,LOT群では術後6時間に41mmHg,LOT+SIN群では術後24時間に34mmHgが最高の眼圧であった。
 2)両群ともに,術後18時間に前房出血が多く残っている症例では,術後早期に眼圧が上昇していることが多い傾向がみられた。
 3) LOT+SIN群では,濾過胞が嚢胞様の場合最終眼圧はlow teenthであった。
 以上の結果より,LOT+SIN手術は術後早期の一過性眼圧上昇を抑え,視神経障害の進行した緑内障の症例に有川な手術であると考えられる。

嚢内移植術と後房レンズ毛様溝縫着術後の眼内レンズ固定状況の比較検討

著者: 中泉裕子 ,   坂本保夫

ページ範囲:P.1013 - P.1016

 毛様溝縫着術を行った14例,15眼の眼内レンズの眼内固定状況について,その挿入レンズの傾き,偏心,前房深度を通常の嚢内移植術症例と比較検討した。解析は前眼部画像解析システム(NIDEK,EAS-1000)により行った。眼内レンズの傾きは毛様溝縫着術症例で5.39±1.43°,嚢内移植術例で1.88±0.97°,偏心は,それぞれ0.43±0.24mm,0.35±0.24mm,術後前房深度は3.80±1.4mm,3.52±0.31mmであった。レンズの傾きは色様溝縫着術症例が嚢内固定例に比べ有意に大きかったが,レンズの偏心,術後の前房深度に関しては両者間に有意差をみなかった。毛様溝縫着術例の術後視力は良好で、角膜内皮細胞数の減少も軽度であった。術中,術後の合併症にも問題となるほどのものは経験しなかった。

未熟児網膜症に対する光凝固治療後の視野

著者: 山岸直矢 ,   竹内篤 ,   永田誠 ,   根木昭

ページ範囲:P.1017 - P.1021

 未熟児網膜症に対するキセノン光凝固治療の視野に及ぼす影響を検討した。天理病院で長期観察した瘢痕期未熟児網膜症例のうち,視野検査で信頼しうる結果の得られた8歳以上の症例,光凝固例58例104眼,自然治癒例8例11眼を対象とした。ゴールドマン視野計を用いた。結果は画像解析装置Leitz ASMを用い,V/4,I/2の各イソプターについて,全視野,耳側視野,鼻側視野の面積を計算した。V/4では,耳側視野面積には著しい変化はなかった。鼻側視野面積には低下があり,広範な光凝固を行った群で著しく低下した。I/2では瘢痕期1度光凝固2/3周以上の群や瘢痕期2度光凝固の群では,耳側と鼻側の面積はともに低下していた。

眼虚血症候群:その臨床経過と治療成績

著者: 梶浦祐子 ,   安積淳 ,   井上正則

ページ範囲:P.1022 - P.1024

 内頸動脈閉塞,狭窄による眼虚血症候群18例の臨床経過,治療成績について検討した。眼虚血症候群では一般に慢性循環不全によりve-nous stasis retinopathyが発症する。
 Venous stasis retinopathyは慢性緩徐に進行し,虚血が高度になると虹彩ルベオーシスが発生し予後不良となる。時に,急性所見の網膜中心動脈閉塞症,虚血性視神経症が発生し,高度の視機能障害が生じる。眼虚血症候群の治療は虹彩ルベオーシスが出現する以前に眼科的治療のみならず脳外科的治療を行わねばならない。虹彩ルベオーシス,血管新生緑内障に対し,光凝固のみでは効果は少なく,5—FUを併用した濾過手術が有効である。

原発性定型網膜色素変性の遺伝的異質性と予後に関する18施設調査

著者: 早川むつ子 ,   藤木慶子 ,   松村美代 ,   大庭紀雄 ,   松井瑞夫

ページ範囲:P.1025 - P.1029

 1990年の6か月間に18施設を受診した定型網膜色素変性534例(男性252例,女性282例)の遺伝形式別頻度は孤発例(孤発)54%,常染色体劣性(劣性)25%,常染色体優性(優性)17%,X染色体性(X性)2%,推定困難が2%であった。自覚症状発現時期は平均26歳で,X性が最も早く,優性と劣性の間に有意差は認められなかった。視力0.1以下の眼は,20歳未満で10%,20〜39歳で25%,40〜59歳で38%と上昇し,60歳以上で43%であり,経過年数20年未満では21%で,20〜39年で43%,40〜59年で61%と上昇し,60年以上で67%であった。高度視野障害眼の頻度は視力0.1以下の眼の頻度を上まわっていた。優性と孤発は劣性よりも障害が軽い傾向が認められた。遺伝形式別頻度や,高度障害の年齢や経過年数別頻度,ならびに遺伝形式による予後の差異は,遺伝相談および経過の説明に際し,有用な資料となり得る。

今日の日本人の眼球突出度について

著者: 中山智彦 ,   若倉雅登 ,   石川哲

ページ範囲:P.1031 - P.1035

 日本人の眼球突出度の正常値についての研究は,戦前に多数報告されたが,戦後では1955年の報告を最後にその後の研究がない。戦後の体格の向上は目覚ましく,それに伴い眼球突出度の正常値も変化していると考え再調査を行った。対象を成人屈折正常群,小児群,強度近視群に分類し,合計650名1,300眼でHertel眼球突出計を用いて施行した。その結果,成人正常群では男性15.3mm,女性15.1mmと,ともに戦前値より約2mmの増加を認めた。小児群は,男児13.9mm,女児14.0mmであった。強度近視群においては,男性15.6mm,女性15.4mmであったが,正常群との有意差は認められなかった。なお,成人正常群における左右差は97%が1.5mm未満で2.5mm以上は認められなかった。また両眼窩縁外側間距離の平均値は,男性103.9mm,女性98.6mmで、やはり戦前値より若干高値を示した。さらに,近年報告されている白人および黒人の眼球突出度の値と照らし,比較検討した。

学術展示

眼症状を初発とした急性単球性白血病の1例

著者: 尾関年則 ,   馬嶋昭生 ,   朝岡力 ,   荒井加代子

ページ範囲:P.1036 - P.1037

 緒言 日常臨床の場で、黄斑部に漿液性網膜剥離をきたした症例に遭遇する機会は多い。Gass1)は特発性中心性漿液性脈絡網膜症以外にも,さまざまな全身疾患によって同様の眼所見が発生するとし,このような眼所見をみた場合の全身検査の重要性を述べている。
 今回筆者らは,全身症状や典型的な白血病性網膜症が出現する以前に,黄斑部の漿液性網膜剥離で発症した急性単球性白血病の1例を経験したので報告する。

続発緑内障により眼球摘出に至った脈絡膜海綿状血管腫の小児例

著者: 渡邉葉子 ,   佐藤文平 ,   菅澤淳 ,   吉原正晴

ページ範囲:P.1038 - P.1039

 緒言 今回,網膜剥離を初発症状として眼内腫瘍が検出され,経過観察中に続発緑内障をきたして眼球摘出に至った小児例を経験したので報告する。
 症例 7歳,男児。初診:1990年1月9日。主訴:右眼視力障害。現病歴:家族が右眼視力障害に気づき,当科を受診した。家族歴:特記すべきことなし。既往歴:特記すべきことなし。

視神経浸潤をきたした悪性リンパ腫の1例

著者: 中木直美 ,   萩原正博 ,   横山連 ,   橋本孝二 ,   八川公爾

ページ範囲:P.1040 - P.1041

 緒言 悪性リンパ腫の眼合併症は主に眼窩内腫瘤形成であり,眼内病変は少ないが,その中では硝子体,網脈絡膜浸潤が多く,視神経に浸潤した報告はきわめて少ない1,2)。今回筆者らは,視神経に悪性リンパ腫が浸潤し視力障害,乳頭腫脹をきたしたが,化学療法と放射線療法で改善をみた症例を経験したので報告する。
 症例 37歳,男性。1990年10月5日頃より突然左眼の視力低下を自覚し,10月11日当科を受診した。同年4月より悪性リンパ腫(stageⅣ)の診断のもと,化学療法にて寛解とされていた。リンパ節生検による病理診断はdiffuse, mixed typeであった(図1)。既往歴,家族歴には特記すべきことはなかった。初診時,視力はRV=(0.5),LV=(0.9)。眼位,眼球運動は正常で,前眼部,中間透光体に異常を認めなかった。眼底は右眼は正常であったが,左眼は著明な乳頭浮腫を認めた(図2)。螢光眼底検査では視神経乳頭からの早期よりの螢光色素の漏出がみられた(図3)。

硝子体手術後の両眼視機能

著者: 岡野正樹 ,   田所康徳 ,   長谷部聡 ,   白神史雄 ,   大月洋 ,   松尾信彦

ページ範囲:P.1042 - P.1043

 緒言 近年,硝子体手術の進歩には目ざましいものがあり,当科においても年々手術件数が増加傾向にある。これらの中で網膜の十分な復位が得られたにもかかわらず,眼位異常や眼球運動障害を認めたり,融像,立体視などの両眼視機能の回復が不十分な症例に遭遇することは稀ではない。しかし、これまでは術後視力のみに関心が払われて両眼視機能に関する報告はほとんどみられない。そこで今回筆者らは,硝子体切除術後の両眼視機能について検討を行った。
 対象と方法 1985年から1990年にかけて岡山大学眼科で硝子体手術を受け,術後半年以上経過した症例を対象とした。ただし,外眼筋に直接侵襲を加える強膜バックリングなどの施行例を除外し,単純硝子体切除術に限定した。全体で26例26眼,平均年齢60.0歳で,男性13例13眼,平均年齢64.1歳,女性13例13眼,平均年齢55.8歳であった。術後経過期間は11か月から5年7か月の平均3年3か月であった。

Friedreich's ataxiaに伴ったbull's eye黄斑症の網膜機能所見

著者: 内山佳代 ,   斎藤友護 ,   浅井宏志 ,   若林謙二 ,   河崎一夫

ページ範囲:P.1044 - P.1045

 緒言 Friedreich型運動失調症は脊髄小脳変性症の一種で,脊髄小脳変性症には種々の黄斑変性症や非定型的網膜色素変性症などを合併することがあるといわれている。一方bull's eyeを呈する疾患1,2)には,クロロキン網膜症,Stargardt病,錐体ジストロフィ,fucosidosisなどが知られている。今回筆者らはbull's eyeを伴ったFriedreich型運動失調症の1例を経験し,各種の電気生理学的網膜層別機能検査を行った。Bull's eyeを伴ったFriedreich型運動失調症の報告は筆者らの調べた限り今までになく,本症例の臨床像と網膜機能の評価を行うことはFriedreich型運動失調症にみられるbull's eyeとbull's eyeを呈する他の疾患群との関連性や病因についての考察を得る1つの手掛かりとなると考えられる。
 症例 33歳,女性。初診:1991年2月13日。主訴:眼科的精査(神経内科からの紹介)。現病歴:12歳頃から歩行障害を生じ、26歳時にFriedreich型運動失調症と診断された。このころから視力低下を自覚した。本人の言によれば,視力は左右とも小学生時代には1.0であったが,27歳時には0.7に低下した。歩行障害と視力低下は徐々に進行している。既往歴:分娩は満期正常で,全身発育は正常であった。家族歴:両親は近親婚(父が母方祖母のいとこ)である。

視神経乳頭浮腫で発見された上矢状静脈洞血栓症

著者: 中村桂三 ,   近藤智恵 ,   池袋信義 ,   久保田伸枝

ページ範囲:P.1046 - P.1047

 緒言 頭蓋内圧亢進は存在するが,脳腫瘍などの占拠性病変や脳室拡大はなく,髄液も圧以外は正常である症候群を,仮性脳腫瘍(pseudotumor cerebri)というが,その原因として静脈洞血栓症がよく知られている。本症では,頭痛の他に視力障害や羞明もみられ,また視神経乳頭浮腫は重要な他覚的所見の1つとされており1),眼科受診をきっかけに発見される可能性もあるが,従来,眼科からの報告は稀である。
 今回,筆者らは,視神経乳頭浮腫で発見され,治療経過に伴って,興味深い眼底所見の推移を示した上矢状静脈洞血栓症の1例を経験したので報告する。

後天性網膜分離症の2例

著者: 高柳克典 ,   藤井千雪 ,   小原啓子 ,   小嶋一晃 ,   臼井淳

ページ範囲:P.1048 - P.1049

 緒言 後天性網膜分離症は,進行がきわめて緩徐であり,視力予後は必ずしも悪くないとされている1)。したがってその予防的治療については疑問視されており2),広瀬ら3)は適応について絶対適応と相対適応に分けている。今回,後天性網膜分離症について,後極部に及んでいるがほとんど進行が認められず経過観察中の1例と,網膜剥離を合併し外科的治療を施行した1例を経験したので報告する。
 症例 症例1:24歳,男性。初診:1989年2月15日。主訴:右眼視野異常。現病歴:1989年2月初めより右眼の上方視野異常に気づき,近医にて網膜剥離の疑いを指摘され当科に紹介された。既往歴・家族歴:特記すべきことなし。初診時所見:視力は右0.08(1.0×-5.5 D),左0.1(1.2×-4.0 D)。眼位,眼球運動は正常で,眼圧は右12mmHg,左15mmHg。左眼底には異常所見はみられなかったが,右眼底の下方約1/3に網膜分離症がみられた(図1)。網膜分離症は鋸状縁まで連続し,中心窩から約1/2乳頭径の位置まで達していた。内層は薄く,平坦に隆起し,3乳頭得以下の円孔が散在していたが,外層には円孔はみられなかった。網膜血管は内層に存在し,その陰影が外層に認められ,また,周辺部の綱膜には類嚢胞変性がみられた。螢光眼底撮影では,分離症の境界部が過螢光を呈し,分離部には毛細血管瘤および顆粒状の色素の漏出が多発していた(図2)。

トラベクロトミー術後の眼圧再上昇に対するNd:YAGレーザー隅角穿孔術

著者: 宮崎大 ,   桑山泰明 ,   高木敬之 ,   竹内麗子 ,   木田一男

ページ範囲:P.1050 - P.1051

 緒言 Nd:YAGレーザーによる隅角穿孔術は、線維柱帯の穿孔による房水排出路の作成を目的として臨床応用が試みられてきたが,その穿孔創は再閉塞しやすく成績が不安定であるとされている1)。一方,トラベクロトミーは反応性細胞増殖が軽度で,術後cleftに生ずる増殖膜が粗な組織である2)ので,Nd:YAGレーザーにより効果的な穿孔創が得られる可能性が高いと考えられる。そこで,今回筆者らはトラベクロトミー術後に眼圧再上昇をきたした症例に対して,ロトミーcleft部にNd:YAGレーザー隅角穿孔術を施行し,その効果についてretrospectiveに検討した。
 対象 対象は,トラベクロトミー術後4週間以降に眼圧再上昇をきたした15例17眼でいずれも術中に血液逆流があり,シュレム管の開放は成功したと考えられた症例である。原疾患の内訳は,原発性開放隅角緑内障11例13眼,外傷性緑内障2例2眼,偽水晶体緑内障1例1眼,後部多型性角膜変性症を伴った続発開放隅角緑内障1例1眼であった。年齢は10〜75歳(平均年齢34.4±19歳)で,経過観察期間は3〜22か月(平均4.8±6.8か月)であった。

開放隅角緑内障に対するNd:YAGレーザー線維柱帯照射—長期観察例について

著者: 朝蔭博司 ,   吉川啓司 ,   中瀬佳子 ,   東出登志 ,   井上トヨ子 ,   井上洋一

ページ範囲:P.1052 - P.1053

 緒言 近年,YAGレーザーによる隅角照射が,線維柱帯組織を破壊し,シュレム管を開放することが組織学的にも確認されている1,2)。開放隅角緑内障に対する臨床応用が注目され,照射後短期間の有効性は確認されているが3,4),長期効果に対しては報告も少なく,その評価も賛否両論ある5〜8)。今回筆者らは,開放隅角緑内障に対しYAGレーザーを施行し,2年以上経過観察できた症例について報告する。
 対象 緑内障濾過手術既往のない開放隅角緑内障に対し,YAGレーザー線維柱帯照射を施行した。2年以上経過観察した53例77眼(原発開放隅角緑内障42例63眼,発育緑内障6例9眼,嚢性緑内障5例5眼)を対象として検討した(2年以内に濾過手術を必要とした14例16眼は手術を施行した時点で「無効」と判定した)。このうち男性は30例46眼,女性は23例31眼で,年齢は20歳から83歳(平均56.1±16.1歳)であった。経過観察期間は24か月から30か月(平均24.9±1.3か月)であった。

眼球結膜,眼瞼に発症した悪性黒色腫の1例

著者: 稲富勉 ,   岡本庄之助 ,   天津寿 ,   照林宏文 ,   赤木好男 ,   岸本三郎 ,   安田範夫

ページ範囲:P.1054 - P.1055

 緒言 眼科領域における悪性黒色腫は発生頻度が少なく予後不良なため,早期診断と適切な治療および経過観察を必要とする。今回筆者らは,眼球結膜に原発後,上下眼瞼結膜に拡大したAmelanotic melanoma を経験したので報告する。
 症例 63歳女性。初診:1991年1月28日。主訴:右眼上下眼瞼,眼球結膜腫瘤。既往歴:30歳 appen-dectomy。家族歴:特記すべき事項なし。現病歴:1989年6月頃より右眼,眼球結膜に点状の褐色を伴った膨隆が出現し,母斑として切除される。1990年11月頃より,右眼上眼瞼に乳頭様の隆起ができ,同年12月25日に霰粒腫として切除,その際の病理組織にて悪性黒色腫と診断され当科紹介となる。

連載 眼科図譜・312

片眼に網膜下増殖膜組織を伴ったchoroideremiaの1例

著者: 野呂洋子 ,   山口克宏 ,   玉井信

ページ範囲:P.962 - P.963

 緒言:Choroideremiaはびまん性,進行性に網脈絡膜萎縮をきたすX染色体劣性遺伝の疾患である。男性罹患者は普通5〜10歳に夜盲で発症し,進行性の視野障害がみられる。黄斑部の機能はかなり末期になるまで保たれるが40歳を過ぎると視力障害は高度になる1,2)。その女性保因者は,赤道部を中心に顆粒状の脱色素斑と色素沈着が散在する特徴的な眼底所見を呈し,視機能は正常あるいは軽度異常を示すと報告されている3)。今回筆者らは片眼に網膜下増殖組織を有し,特異な眼底像を呈したchoroideremiaの症例を経験したので報告する。
 症例:14歳,男性。9歳頃より夜盲があった。1987年5月に自転車で転倒し右眼を強打した既往がある。同年秋頃より右眼視力低下を自覚し,1988年3月当科を受診した。初診時,右眼視力0.02(0.08×-0.25D cyl-0.75DA130°),左0.6(0.8×-1.50D cyl-0.50DA180°)。前眼部,中間透光体には異常を認めなかった。ゴールドマン視野検査で両眼の求心性視野狭窄と右眼の輪状暗点が認められた。ERGは両眼とも消失型,EOGはAD比が左右とも1.0と平坦型を示した。暗順応検査は一相性で,最終光覚閾の上昇がみられた。全身的には梅毒定性試験,血清アミノ酸分析も含めて異常は認められなかった。

眼の組織・病理アトラス・69

毛母腫

著者: 石橋達朗 ,   猪俣孟

ページ範囲:P.966 - P.967

 毛母腫(毛母細胞腫) pilomatrixomaは毛母細胞由来のやや分化度の低い良性の皮下腫瘍である。顔面,頸部,上肢などに発生し,上眼瞼眉毛部は好発部位の1つである。若年者に好発し,ほとんどが単発性で,自覚症状は通常ない。
 臨床的には,上眼瞼皮下に大きさ10mm前後の腫瘤として触れる。表面の皮膚は正常のことが多いが,暗赤色調を呈するものもある(図1)。皮膚との癒着はみられるが,下部組織との可動性はよく保たれている。硬度は骨様硬から弾性硬で,硬い腫瘤である。

今月の話題

網膜色素変性の最近の動向—分子遺伝学の進歩

著者: 堀田喜裕

ページ範囲:P.968 - P.973

 一部の常染色体優性網膜色素変性の原因がロドプシンや円盤膜上にある膜タンパク質の遺伝子異常であることが明らかにされた。またX染色体性網膜色素変性やUsher症候群の原因遺伝子も解明されつつある。

目でみるCT・MRI眼科学・1

[1]原理,装置,正常画像

著者: 中尾雄三

ページ範囲:P.974 - P.977

 眼科における画像検査法には眼球内や眼窩内疾患を対象とした超音波検査があり,一方では眼窩内,頭蓋内など神経眼科疾患を対象とした単純X線,血管撮影,脳室空気撮影,脳シンチグラフィーなどが行われてきた。さらに近年ではコンピューターを内蔵したCT ScanやMRIが開発され,従来の検査法をはるかに凌駕する画像情報が得られるようになった。CT ScanとMRIはそのすぐれた画像所見から新しい眼科検査機器として広く臨床の場で応用され,いまや眼科診療に必要不可欠な検査法となった。

眼科手術のテクニック—私はこうしている・43

瞼板縫合

著者: 前田直之 ,   細谷比左志

ページ範囲:P.1056 - P.1057

手術適応
 顔面神経麻痺,三叉神経麻痺,眼球突出に伴う眼球乾燥症などによる遷延性角膜上皮欠損で,眼軟膏を用いた圧迫眼帯,治療用ソフトコンタクトレンズなどの通常の治療に抵抗するものが瞼板縫合の適応となる。角結膜自体の異常により炎症が存在する場合や感染がある場合は適応とはならない。

臨床報告

ベーチェット病での眼底病変と前房蛋白濃度

著者: 山崎伸一 ,   丸山泰弘 ,   堀内知光

ページ範囲:P.1063 - P.1066

 発症後5年以内の後部ぶどう膜炎型のベーチェット病30例での,眼底発作と前房フレア値の関係を,フレアセルメーターを用いて検討した。眼底発作とともに前房フレア値は上昇し,炎症が消退するにつれて減少したが,寛解期でも正常値より有意に増加しており,この傾向は数年間続いた。両眼例では,一眼の眼底発作時に発作眼だけでなく,他眼の前房フレア値も上昇することが多かった。他眼の前房フレア値が常に正常な片眼性ベーチェット病が4例あった。後部ぶどう膜炎での前房フレア値上昇の原因として,sub-clini—calな虹彩炎,血液房水柵の障害,硝子体腔からの蛋白の移動の可能性を考えた。

スギ花粉症に対するフルオロメトロン点眼液の眼誘発反応抑制効果

著者: 佐久間靖子 ,   三田晴久

ページ範囲:P.1067 - P.1070

 スギ花粉症患者11例に,季節外に,抗原による眼誘発試験を行い,0.1%フルオロメトロン(FML)点眼液の涙液中ヒスタミン遊離抑制効果を検討した。右眼にFML点眼液,左眼にplacebo点眼液を点眼し,10分後に,20倍希釈のスギ抗原液を点眼して、アレルギー反応を誘発した。FML投与眼の誘発5分および10分後の涙液中ヒスタミン量は,対照眼に比べ有意なヒスタミン遊離抑制効果がみられた(5分後:p<0.01,10分後P<0.02)。FML点眼液のヒスタミン遊離抑制率は,誘発5分後で69.7%,誘発10分後で67.9%であった。0.1%FML点眼液の抗アレルギー作用に,ヒスタミン遊離抑制効果が関与していると考えられた。

ハイリスク角膜移植に対するシクロスポリン内服の効果

著者: 前田直之 ,   細谷比左志 ,   池田恒彦 ,   渡辺潔 ,   大橋裕一 ,   木下茂 ,   眞鍋禮三

ページ範囲:P.1071 - P.1076

 ハイリスク症例の角膜移植17例17眼(全層角膜移植11眼,keratoepithelioplasty 8眼,2眼重複)に対し拒絶反応予防の目的で,術後に副腎皮質ステロイドホルモンに加えシクロスポリンを内服させ手術成績の検討を行った。シクロスポリン内服中には,内皮型拒絶反応は認められず,上皮型拒絶反応が1例にのみ認められた。シクロスポリン中止後に4眼に内皮型拒絶反応が出現したが,3眼はステロイド単独,ないしシクロスポリン併用の治療に反応した。今回の症例における全層角膜移植の透明治癒率は術後平均経過観察期間14.8か月で73%であり,keratoepithe—lioplastyの透明治癒率は術後平均経過観察期間10.8か月で100%であった。ハイリスク角膜移植に対するシクロスポリンの内服は,移植片に対する拒絶反応の予防に有効であり,ハイリスク症例の角膜移植成績を向上させるための1手段であると考えられた。

フルコナゾール内服,ミコナゾール点眼,病巣掻爬の3者併用によるアカントアメーバ角膜炎の治療

著者: 石橋康久 ,   加畑隆通 ,   本村幸子 ,   渡辺亮子 ,   石井圭一

ページ範囲:P.1081 - P.1086

 Acanthamoeba角膜炎の3症例に対してフルコナゾール内服,ミコナゾール点眼,病巣掻爬(debridement)の3者併用による治療を行い,それぞれ良好な結果を得た。症例1はソフトコンタクトレンズ(以下SCL)の装用者で,当初手動弁の視力が0.9に改善した。症例2もSCL装用者で,0.3が1.0の視力となった。症例3はCL装用の既往がなく,外傷が誘因と考えられた。当初0.02の視力が0.6に改善した。各例ともこの治療による重篤な副作用はなかった。

白内障術後乱視に対する乱視矯正角膜切開術の術後長期経過の検討

著者: 天野史郎 ,   三澤暁子 ,   清水公也 ,   宮田和典

ページ範囲:P.1087 - P.1090

 白内障手術後に3ジオプター(D)以上の倒乱視を有する13例14眼に対して,transver—se relaxing incision (T切開)による乱視矯正角膜切開術(AK)を施行し,術後2年間の経過を検討した。術後,全眼で角膜乱視の減少を認めた。平均乱視量は,術前5.02 D,術後2年目2.16 Dと,2.86 Dの減少を示した。角膜厚は術後3か月で術前値に復し,角膜中央部内皮細胞密度は術前後で変化を認めなかった。T切開によるAKは術後2年目において有効かつ安全であることが確認された。また,術前乱視量と乱視矯正重との間に正の相関があることがわかった。しかし乱視矯正量の予測が正確にはできない点、術後1年目以降も角膜乱視の変動を示す例がある点などの問題点もあった。

眼内レンズ挿入術後の合併症に対するYAGレーザーの適応症

著者: 松尾健治 ,   北條秀雄 ,   宮田典男

ページ範囲:P.1091 - P.1094

 眼内レンズ挿入後の合併症に対するYAGレーザーの適応症について検討した。その適応症はフィブリン膜形成,後嚢混濁,後発白内障であり,それぞれ30眼(26.1%),19眼(16.5%),66眼(57.4%)で総数115眼であった。フィブリン膜形成は、対象症例(958眼)中で3.13%に認められ,糖尿病,網膜色素変性症,狭隅角緑内障,外傷の疾患で高頻度にみられた。後嚢混濁は白内障術後1週間から6か月の間にYAGレーザーが施行されていた。後発白内障は平均28か月でYAGレーザーが行われ,白内障術後最高視力とYAGレーザー実施時の視力差は0.5であった。

硝子体手術後の糖尿病眼への白内障手術と眼内レンズ挿入術の術後炎症

著者: 荻野誠周 ,   北川桂子 ,   有木玄 ,   西田祥藏

ページ範囲:P.1095 - P.1098

 糖尿病網膜症に対する硝子体手術後の白内障眼内レンズ挿入手術に伴う前房炎症の経過を検討するために,レーザーフレアセルメーターによる前房蛋白濃度測定を行った。硝子体手術後白内障6眼(硝子体手後期間;15.3±8.7か月)の経過を,糖尿病網膜症(福田分類AⅡ)のある白内障18眼および非糖尿病患者の白内障12眼の術後経過と比較した。硝子体手術後例では術前から後二者に比較して有意に高いフレア値を示し,術後1日目のみ糖尿病網膜症例と差がなかったが,それ以外は術後6か月まで有意に高いフレア値を示し,とくに術後2週までは非常に高値であった。糖尿病網膜症例の術後1日目のフレア値は非糖尿病例に比較して有意に高かった。

副腎皮質ステロイド剤に抵抗した難治性視神経炎

著者: 西田貴美 ,   水原宏美 ,   白川博朗 ,   金山俊也 ,   松岡徹 ,   長谷川榮一

ページ範囲:P.1099 - P.1103

 原因不明で,副腎皮質ステロイド療法に抵抗した難治性視神経炎3例に活性型ビタミンB1の髄腔内投与を行い,2例に視力・視野の改善を認めた。これらのうち,症例1は球後視神経炎の再発例,症例2は急性視神経炎であり,さらに種々の治療に抵抗した症例3は,遺伝子診断にて家族性視神経萎縮であるレーベル病と診断した。
 視神経炎の治療において,まず原因を究明することが重要だが,原因不明で副腎皮質ステロイドにも抵抗する場合は,活性型ビタミンB1のパンピングによる髄腔内投与は行うべき価値のある治療と考え,さらにこれにも抵抗する場合はレーベル病などの遺伝性視神経萎縮も念頭におき精査を進めるべきであると考えた。

螢光高感度撮影装置による硝子体観察

著者: 米谷新 ,   高須正幸

ページ範囲:P.1105 - P.1108

 筆者らは,硝子体を観察・記録する新しい方法を開発した。10%フルオレセインソジウム5mlを静注後,硝子体腔に流入する螢光色素により硝子体を染色することにより,細隙灯顕微鏡の光学的切断面の硝子体の画像を増強するものである。これを,撮影・記録するために、従来のゴールドマン型フォトスリットランプに高感度CCDカメラを搭載した。
 この撮影装置で,10ng/ml以下の濃度のフルオレセイン溶液の螢光輝度を捉えることができた。
 臨床応用では,14症例19眼で硝子体観察の60分以上前に螢光色素を肘静脈より投与し,ゴールドマン三面鏡を用いて撮影・記録した。全例で硝子体のゲルや線維の観察が可能であった。本法では後部硝子体剥離の有無だけでなく,新知見として硝子体分離の初期変化が初めて明らかとなった。

傾斜乳頭症候群に伴う黄斑部障害

著者: 宇田千晶 ,   高橋寛二 ,   宇山昌延

ページ範囲:P.1109 - P.1113

 最近5年間に筆者らが経験した傾斜乳頭症候群26例44眼のうち,30眼(68%)に下方強膜ぶどう腫がみられた。この外上縁が黄斑部を横走すると,強膜ぶどう腫の辺縁に沿って網膜色素上皮の変性萎縮を生じる。このような黄斑部障害を21眼(48%)にみた。さらに,2例2眼には黄斑の変性部に,脈絡膜から網膜下に螢光漏出のある網膜浮腫と,1眼の漿液性網膜剥離の合併をみた。傾斜乳頭症候群による黄斑部の色素上皮の変性萎縮は,黄斑部疾患の1つとして取り扱う必要があり,それには眼底の双眼倒像鏡による立体的観察と螢光眼底造影が役立つ。

未熟児網膜症に対する光凝固治療後の視機能

著者: 竹内篤 ,   山岸直矢 ,   永田誠

ページ範囲:P.1115 - P.1119

 光凝固治療後の瘢痕期未熟児網膜症の視力,眼位,両眼視機能について長期経過を観察した。矯正視力は光凝固により瘢痕期1度で治癒した症例(瘢痕期1度PHC,以下同)では97.4%,2度弱度PHCでは100%が0.6以上であった。また,両眼ともが瘢痕期1度PHCないし2度弱度PHCであれば,眼位,両眼視は良好であった。一方,瘢痕期2度中等度PHC,強度PHCの症例では視力は一般的に不良であり,また1眼でも瘢痕期2度中等度PHCないし強度PHCであれば,眼位,両眼視機能は不良であった。全周光凝固例の視機能は,原則的には,瘢痕期の程度に左右された。
 視機能予後から判断すれば,未熟児網膜症重症活動期病変に対しては,治療のtimingを逸することなく,両眼ともが瘢痕期1度PHCないし悪くても2度弱度PHCでおさまるように治療すべきである。

ボール眼外傷の15年間の統計的検討

著者: 徳山孝展 ,   池田誠宏 ,   岩崎哲也 ,   佐藤圭子 ,   河野剛也 ,   三木徳彦

ページ範囲:P.1121 - P.1125

 1975年から1989年に大阪市立大学眼科を受診した鈍的眼外傷症例1,907眼のうち,スポーツ眼外傷515眼を対象に統計的検討を行った。
 スポーツ眼外傷のうち,442眼(86%)がボール眼外傷で、その原因は野球ボール,サッカーボール,ソフトボール,テニスボールの順に多く,これらで全体の90%を占めた。軟式野球ボールとサッカーボールによる打撲例に重篤な網膜・硝子体病変の合併が多かった。網脈絡膜病変は野球ボールでは眼底の下方に,サッカーボールでは上方に生じる傾向を認めた。水晶体脱臼と眼窩底骨折はボール眼外傷には稀であった。ボールの運動量,力の作用方向などが特定の眼病変発現に関与すると考えられ,生体力学的検討も必要と思われる。

カラー臨床報告

Scheie症候群の眼所見

著者: 上永吉達彦 ,   上原文行 ,   川津学 ,   栗山勝 ,   納光弘

ページ範囲:P.1059 - P.1062

 Scheie症候群の1例を報告した。症例は46歳男性。臨床症状,尿中ムコ多糖分析,リンパ球・線維芽細胞ライソゾーム酵素,α-L-iduroni-dase分析により確定診断された症例である。眼症状は20年前からの両眼の視力障害と夜盲。視力は両眼とも0.1(矯正0.8)。角膜周辺部実質には霧を吹いたような淡い混濁があり,混濁は下方周辺部よりも上方周辺部実質に比較的強く,表層よりも深層で強くなる傾向があった。眼底には網膜色素変性症様の変性所見が認められた。本邦でScheie症候群と確診された報告例の中で,角膜や眼底などの所見について具体的に記載した最初の報告例と思われる。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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