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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科46巻8号

1992年08月発行

雑誌目次

特集 第45回日本臨床眼科学会講演集(6)1991年10月 広島 学術展示

水晶体嚢外摘出術後早期の定量的角膜形状解析

著者: 大矢智博 ,   山上聡 ,   浦田謙二 ,   宮田和典 ,   澤充 ,   徳永忠俊

ページ範囲:P.1150 - P.1151

 緒言 白内障術後の角膜乱視の検討は,従来ケラトメーターなどによる角膜中央部半径1.25〜1.5mmの計測により行われているが1,2),角膜全体の形状変化は未だ十分な検討は行われていない。今回筆者らは,水晶体嚢外摘出術(ECCE)を行った症例の術後早期形状変化を角膜形状解析装置を用いて検討した。
 対象と方法 対象は術前角膜乱視1.0D以内の11例14眼(79.2±6.7歳)とした。11mm強角膜切開創より ECCEおよび眼内レンズ挿入を施行後,9-0nylon糸による靴紐縫合を施行した。手術終了時に眼圧を一定に保った後,ケラトメトリー(テリー,lnomed社)を用いて角膜乱視を1.5〜2.0Dの直乱視にコントロールした。

エキシマレーザー照射後の角膜内皮細胞に及ぼす影響について

著者: 伊藤清治 ,   石井康雄 ,   新妻卓也 ,   林正泰 ,   内海榮一郎 ,   普天間稔

ページ範囲:P.1152 - P.1153

 緒言 エキシマレーザーは鋭利で正確な切除が可能であり,目的とする部位と隣接する組織に対しほとんど障害を与えないので,角膜の形成手術にきわめて有力な手段と目されている1)。先に,筆者らは,エキシマレーザー照射後の角膜内皮細胞に代謝機能の変化が起こることを報告した。今回筆者らは,レーザー照射の角膜内皮細胞への影響を組織学的,組織化学的に検討したので報告する。
 実験方法 体重2kgの白色家兎20羽を,イソミタール麻酔後ExciMed UV200LA (Summit社製)にて,193nmのエキシマレーザー(エネルギー密度180mj/cm2,切除率0.34μm/pulse)300発を発振させ,直径4.5mmのphotoablationを施行した。レーザー照射後,角膜上皮細胞,実質,内皮細胞をスペキュラーマイクロスコープ,走査電顕,透過電顕,また組織化学的には,Acpase,Alkpase,β-glucronidase,NADH20xidoseductase,Adenosin triphosphatase,PAS,Al-cian blue PH2.染色を行った。

慢性原発閉塞隅角緑内障におけるレーザー虹彩切開術後の長期眼圧経過

著者: 花塚秀樹 ,   安田典子 ,   景山萬里子

ページ範囲:P.1154 - P.1155

 緒言 慢性原発閉塞隅角緑内障(以下CACG)において,レーザー虹彩切開術(以下LⅠ)は,治療の第1選択である。今回,LⅠ後の長期眼圧経過と術前因子との関係,および眼圧再上昇の時期を検討した。
 対象と方法 対象は,1982年9月から1990年9月までにLIを施行したCACG 41例62眼(男性10例15眼,女性31例47眼)で,年齢は48〜84歳(M±SD=64±9歳),経過観察期間は,6か月〜9年(M±SD=3.3±2年)であった。

急性緑内障の長期予後

著者: 川島千鶴子 ,   関保 ,   矢部伸幸 ,   星兵仁

ページ範囲:P.1156 - P.1157

 緒言 急性緑内障は最近のレーザー導入により早期治療が安全かつ容易に可能となってきているが,長期的にみると予想外に予後不良な症例を経験する。そこで,筆者らは当院の急性緑内障例に対し経過観察を行い,分析してみた。
 対象 対象は1982年から1990年の8年間に当科を受診し,12か月以上経過をみた急性緑内障56症例64眼である。

虹彩結節があるぶどう膜炎で発見された脳腫瘍を伴うレックリングハウゼン病の1例

著者: 土屋櫻 ,   田中稔 ,   金井淳 ,   田中茂樹 ,   上野日出男

ページ範囲:P.1158 - P.1159

 緒言 虹彩結節を有するぶどう膜炎で発見されたレックリングハウゼン病(以下R病)を経験したので報告する。
 症例 12歳女児。初診:1990年8月4日。主訴:視力の定期検査。既往歴:生下時より全身の皮膚に色素斑。現病歴:1990年8月3日,視力の定期検査で近医を受診し,当院へ紹介された。家族歴:母方の従弟にカフェ・オ・レ斑。虹彩結節なし。初診時所見:視力RV=0.07(1.2×-4.0D) LV=0.06(1.0×-4.25D)。眼位,眼球運動,外眼:異常なし。毛様充血両眼ともになし。眼圧:両眼14mmHg,前眼部,中間透光体:両眼に黄褐色の虹彩結節が散在(図1)。右眼に少数左眼に中等度の前房内細胞浮遊。左眼に中等度の硝子体内細胞と混濁あり。隅角:両眼ともに開放隅角,結節なし。眼底所見 右眼:上鼻側に脱色素斑あり。その他異常なし。左眼:鼻側に強い硝子体混濁あり。その他異常なし(図2)。螢光眼底所見 右眼:脱色素斑に一致したwindow defectあり。その他異常なし。左眼:硝子体中に螢光色素漏出。その他異常なし(図3)。網膜電図 視野:両眼ともに異常なし。超音波Bスキャン 右眼:異常なし。左眼:水晶体後方から網膜へ向かう硝子体混濁あり。腫瘍所見なし。全身所見,臨床検査所見:皮膚:全身に褐色色素斑が散在(図4)。脳神経学的一般検査,精神発達,知能:異常なし。頭部X-P:内耳道骨破壊や聴神経腫瘍は認められず,その他も異常なし。

球後視神経炎としてステロイド治療された視神経近傍への転移性腫瘍

著者: 矢野真知子 ,   茂木豊 ,   岡田進 ,   山下孝

ページ範囲:P.1160 - P.1161

 緒言 近年の画像診断の進歩により,球後の病変は以前より正確な診断が可能となったが1),小病巣を初期に発見することは時に困難である。急激な視力低下があり画像診断で異常がない場合,原因不明の球後視神経炎としてステロイド治療が行われることが多い2)。今回最初の画像診断では異常が見いだされず,ステロイド治療がなされたが,後に再度の画像診断で視神経近傍に腫瘍を見いだした2症例を経験した。ともに乳癌の既往があるため転移性腫瘍と推定し,放射線治療を行った結果,症状改善がみられたので報告する。
 症例 【症例1】 46歳,女性。1988年4月右乳癌の手術(T2N1M0)をうけ,1990年6月より骨転移がある。10月6日より両眼の視力低下を自覚し11日某大学病院受診。視力,右(0.3)左手動弁で,CT, MRIにて腫瘍は造影されないため,球後視神経炎としてステロイドを投与された。視力低下が急激なため15日当院紹介された。初診時視力右手動弁,左0。対光反応は右眼は正常,左眼は減弱,遅延がみられた。前眼部,眼底に異常はみられなかった。CT検査で右眼窩後壁から海綿静脈洞にかけて骨破壊を伴う病巣があり(図1a),MRIで頭蓋底の右前頭蓋窩から視交叉前方にGd—DTPAでよく強調される腫瘍陰影が見いだされた(図1b)。転移性腫瘍と推定し,放射線照射30Gyを行った。照射終了後自覚的に視力改善し,近医へ転医したが,全身状態悪化のため3週問後死亡した。

当教室における最近8年間の眼内炎の現況

著者: 塩田洋 ,   新田敬子 ,   田内芳仁 ,   三村康男 ,   井上須美子 ,   水井研治

ページ範囲:P.1162 - P.1163

 緒言 眼内炎は重篤な眼疾患の1つであり,一度発症すれば失明する確率が高い。一部の症例は報告1)ずみであるが,今回筆者らは最近8年間に経験した14例の眼内炎の発症動機,起炎菌ならびに予後などについて現況の把握を試みた。
 方法 1983年1月初めから1990年12月31日までの8年間に,徳島大学医学部附属病院眼科で,感染性眼内炎と診断された患者を対象とした。眼内炎を起こした発症動機,起炎菌,治療や最終結果などについて解析を試みた。なお治療は,抗生剤や抗真菌剤の投与を基本とし,硝子体混濁の強い症例には硝子体手術を行った。

前部虚血性視神経症を伴うLeber's idiopathic stellate neuroretinitisに高圧酸素療法が奏効した1例

著者: 山口玲 ,   岡本直之 ,   柏井聡 ,   本田孔士

ページ範囲:P.1164 - P.1165

 緒言 Leber's idiopathic stellate neuroretinitisは,黄斑部に星芒状白斑を伴う視神経炎を特徴とし,著しい視力低下をきたす疾患である。多くは自然寛解し予後良好であるが,なかには前部虚血性視神経症(AIO-N)を合併し視力予後が悪いものも報告されている1)。今回筆者らは,約3週間のステロイド投与に抵抗を示しAIONの所見を認めた症例に高圧酸素療法を施行したところ,著明な視力改善が得られた1例を経験したので報告する。
 症例 18歳女性。家族歴に特記すべきことなし。既往として5歳よりPasini-Pierini型皮膚萎縮症(限局性強皮症)があった。主訴:右眼視力低下と中心暗点。現病歴:1990年12月6日より夜間38℃の発熱があった。12月10日右眼視力低下と中心暗点を自覚。15日,近医にて視神経炎を疑われ高単位ステロイド療法を開始するものの症状改善せず,28日当科紹介受診。1991年1月4日入院。初診時所見vd=0.02(n.c),vs=1.5(n.c)。右眼にa trace relative afferent pupillarydefect,右眼硝子体中にcel1を認める以外,外眼部,前眼部,水晶体に特記すべき所見はなかった。右眼視神経乳頭は著しく腫脹し一部下耳側部視神経は蒼白を呈していた。

上顎骨を原発巣とした眼窩骨腫の1例

著者: 岩崎哲也 ,   池田誠宏 ,   久米千鶴 ,   佐藤圭子

ページ範囲:P.1166 - P.1167

 緒言 眼窩骨腫はまれな疾患とされ,本邦では過去86年間に38例の報告と少ない。今回筆者らは,上顎骨を原発巣とする眼窩骨腫を経験したので報告する。
 症例 患者:30歳,女性

下垂体腫瘍例に合併した両眼性色素上皮群落色素沈着

著者: 吉田孝 ,   木村毅 ,   安達惠美子

ページ範囲:P.1168 - P.1169

 緒言 眼底に動物の足跡様の色素沈着を有する,色素上皮群落色素沈着congenital grouped pigmenta—tion of the retinaは,1868と1869年に,MauthnerとJägerにより初めて記載されたが1),まれな疾患で,わが国にも報告例は少ない2,3)。特有の眼底所見を除き,他の特記すべき所見,症状とも認められず,過去の報告例も,ほとんどが偶然の機会に発見されている。筆者らは,下垂体腫瘍による視野狭窄から発見された1例を経験したので報告する。
 症例 41歳,女性

視力障害により発見されたリンパ球性下垂体炎の1例

著者: 長坂誠 ,   白井正一郎 ,   片野広之 ,   永井肇

ページ範囲:P.1170 - P.1171

 緒言 リンパ球性下垂体炎は妊娠を契機に発症することが多いとされ,自己免疫疾患との関連が考えられているまれな疾患である。1962年にGoudieら1)が最初の報告をして以来,本邦での6例を含めて20数例の報告2)があるが,筆者らの調べた範囲内では眼科領域からの報告はみられない。臨床的には視力や視野障害,汎下垂体機能低下があり,下垂体腺腫と類似の症状を示すが,確定診断には組織学的検索が必要である。今回,視力低下と視野異常および全身症状から下垂体腺腫が疑われ,下垂体腫瘤摘出術を行ったところ,組織学的にリンパ球性下垂体炎と診断された1例を経験したので報告する。
 症例 患者は26歳の女性で,既往歴として1982年から全身性エリテマトーデス(SLE)のため,副腎皮質ホルモンの投与を受けている。また,1987年頃からうつ状態が出現し,精神科で治療中である。家族歴に特記することはない。現病歴は,SLEおよび副腎皮質ホルモンの眼合併症の精査のため,1989年9月20日名古屋市立大学病院眼科を紹介された。頭痛・嘔気,視力障害などは自覚していなかった。

外傷性眼球脱臼の1例

著者: 外江理 ,   上野山さち ,   雑賀司珠也 ,   福田史子

ページ範囲:P.1172 - P.1174

 要約 鉄製の棒にて顔面を打撲し,眼球および眼球周囲組織に重篤な合併症をきたさずに眼球脱臼をきたした10歳男子症例を経験した。眼球は瞼裂外に露出し,上下眼瞼は眼球後方に位置していた。局所麻酔下にて眼球を復位させると,眼球は円滑に眼窩内に復位し,現在重篤な後遺症は出現していない。眼球脱臼の機序としては,棒による眼窩内でのてこ作用によるものと考えられた。
 緒言 鈍的外傷によって引き起こされる眼所見には結膜下出血,角膜びらん,虹彩炎,前房出血,水晶体脱臼,網膜出血や視神経損傷などのさまざまな所見があるが,まれな所見に眼球脱臼がある。眼球脱臼の定義としては,Berlin1)によると眼球が眼窩内より眼窩中隔の外に出て視神経,眼筋,球結膜などの眼球付着物がある程度保存されているものを眼球脱臼とし,これら付着物が離断しているものは眼球離脱と定義している。筆者らは鉄製の捧で顔面を打撲した際,眼球脱臼をきたした症例を経験したので報告する。

新しい測定方法による視空間覚の研究

著者: 田所康徳 ,   大月洋 ,   長谷部聡 ,   岡野正樹 ,   渡辺聖

ページ範囲:P.1176 - P.1177

 緒言 視空間覚の研究における古典的な方法の1つである「ゆびさし試験」には,視空間覚自体に生じた変化と,眼と手との協調性において生じた変化とを,区別しえないという欠点があった。そこで指示動作を介さずに,視空間覚を直接表現させることを目的として,視覚的にまっすぐ前方と感じる向きに,被験者自身が視標を移動させる方式の検査機器を製作したので報告する(図)。
 方法 機器の設計に当たっては,臨床例での測定が可能であることと,筆者の技術力で実際に製作できることとを重視した。

連載 眼の組織・病理アトラス・70

眼窩炎性偽腫瘍

著者: 大西克尚 ,   猪俣孟

ページ範囲:P.1134 - P.1135

 眼窩炎性偽腫瘍は眼窩の占拠性病変としては最も頻度が高い疾患である。その名のごとく真の腫瘍ではないが,炎症細胞の浸潤で眼窩に腫瘤を形成し,腫瘍のように増大する。症状が悪化すると視機能に重大な影響を及ぼすことがある。
 眼窩炎性偽腫瘍は40〜60歳代に発症することが多い。患者は,疼痛,視力低下,複視などを自覚して来院する。他覚的には,眼球突出,眼瞼や結膜の発赤腫脹,結膜下にサーモン・ピンク調の腫瘤形成(図1),腫瘤触知,眼球運動障害,眼瞼下垂などが認められる。眼底変化として,網脈絡膜皺襞,後極部の網膜浮腫や視神経萎縮が認められることがある。経過が長く眼球突出が強い例では,まれに眼球が破裂することもある(図2)。

今月の話題

新しいプロスタグランディン関連物質と眼圧下降作用

著者: 新家真 ,   桜井真彦

ページ範囲:P.1138 - P.1142

 プロスタグランディン(PG)は,従来眼内炎症起炎物質として知られてきたが,近年低濃度では,眼圧下降作用を有することが明らかとなり,緑内障治療薬としての可能性が注目されている。新しいPG関連物質UF−021とPhXA34は,いずれも人眼で結膜充血などの強い副作用がなく眼圧下降作用を有し,将来の臨床応用が期待されている。

目でみるCT・MRI眼科学・2

[2]良い画像を得るために

著者: 中尾雄三

ページ範囲:P.1143 - P.1147

 臨床的に有用な意味があり,鮮明な情報としてCT-ScanやMRIの良い画像を得るためにはいくつかの重要なポイントがある。ここではその撮影上の注意点について述べる。

眼科手術のテクニック—私はこうしている・44

角膜手術時の切創の縫合

著者: 島﨑潤

ページ範囲:P.1178 - P.1180

はじめに
 角膜の切創を縫合する際に,water tightにしっかりと縫うことはもちろん重要であるが,角膜の透明性を維持させ,かつ屈折をつかさどる要素として,縫合によって生じる歪みを最小限にすることが重要となる。とくに手術によって生じた切創の縫合時には,術後の視機能の向上なくしては手術は成功とはいえない。ここでは全層角膜移植の縫合を例にとって,上に述べた条件を満たすうえでどのような点に留意すべきか述べてみたい。

臨床報告

Perfluorotributylamineを併用した脱臼眼内レンズの摘出例

著者: 望月清文 ,   田辺譲二 ,   鳥崎真人 ,   松村孝司 ,   田辺久芳 ,   石井好智

ページ範囲:P.1185 - P.1189

 後嚢破損をきたした左眼への後房レンズ挿入約1年後に眼内レンズが硝子体内に脱臼した76歳女性の症例に対し,硝子体切除術を行った後,液体フルオロカーボンの一種であるperfluo—rotributylamineを用いて眼内レンズを浮上させ,安全にしかも容易に摘出しえた。検眼鏡的および電気生理学的所見では術中術後に合併症をみなかった。
 Perfluorotributylamineの眼内レンズへの付着に関して酵素抗体法を用いて検討したところ眼内レンズへの付着はほとんどなかった。
 液体フルオロカーボンを用いた落下あるいは脱臼眼内レンズの摘出は有用であるが,その眼内への影響を十分に熟知して使用することが望まれる。

MRI検査で再発性眼窩内出血が確認された眼窩内腫瘍の1例

著者: 二宮修也 ,   飯塚和彦 ,   氏家彰子 ,   田澤豊

ページ範囲:P.1190 - P.1194

 生下時より眼窩内腫瘍をもつ2歳女児の長期経過観察中に,突然の眼球突出の増悪とその再発を繰り返した症例を経験した。顎下・頸部にも存在した腫瘍の病理学的診断がリンパ管腫であり,また,平時の眼部CTおよびMRI検査で,視神経周囲をとりまく多数の小腔を有する腫瘍像を呈したことから,眼窩内リンパ管腫が考えられた。増悪時のCTでは球後部は均一な腫瘤で充満され腫瘍の増大が考えられたが,MRIのT2強調像で,全体が数個の嚢胞で分節され,それぞれの内部が2層に分離している所見が得られ,症状の増悪は腫瘍からの出血によるものと判断された。MRIは眼窩内の組織の性状を判断するうえでの有用な情報を得ることができることを確認した1症例であった。

前房水に単純ヘルペスウイルスDNAが証明された特発性角膜内皮炎患者の1症例

著者: 西田幸二 ,   木下茂 ,   大橋裕一 ,   山本修士 ,   岡本茂樹 ,   眞鍋禮三

ページ範囲:P.1195 - P.1199

 前房水に単純ヘルペスウイルスのDNAが検出された特発性角膜内皮炎の1症例を報告した。患者は56歳の男性で,左眼角膜の下半分に高度の角膜実質浮腫がみられ,浮腫の前進部には拒絶反応線に酷似した角膜後面沈着物を認めた。特発性角膜内皮炎と診断し,局所的・全身的にアシクロビルを投与したところ,角膜浮腫は軽減したが,アシクロビル投与中止後に再発した。Polyme-rase chain reactionを用いたウイルス学的検索によって,初診時と再発時に採取した前房水中に,単純ヘルペスウイルスのDNAが存在していることが証明された。この事実は,特発性角膜内皮炎の原因が内皮細胞に対する単純ヘルペスウイルス感染である可能性を示している。

ヒト白内障水晶体の培養と水晶体上皮細胞の後発白内障発症への関与

著者: 馬嶋清如

ページ範囲:P.1201 - P.1204

 生後2か月,4か月,12か月の先天白内障の水晶体上皮細胞の増殖率を短期培養にて調査し,60歳から89歳までの老人性白内障の水晶体上皮細胞の増殖率と比較,検討した。その結果,培養後7日目から9日目,また9日目から12日目の期間で,老人性白内障の水晶体上皮細胞はほとんど増殖活性を示さなかったが,先天白内障の水晶体上皮細胞では7日目から9日目,また9日目から12日目の期間で全症例増殖活性を示し,とくに7日から9日では全症例,約2倍の増殖率を示した。先天白内障術後に,後発白内障が高頻度発症する原因として,先天白内障の水晶体上皮細胞の高い増殖活性が原因ではないかと,これまでの臨床経験から推測されていたが,今回の結果は,先天白内障の水晶体上皮細胞の高い増殖活性を明確にしたものであり,先天白内障術後の高頻度後発白内障発症の原因解明にとって意義ある基礎的知見と考えた。

眼内レンズ挿入眼における両眼視機能の検討

著者: 小川智子 ,   宮島弘子 ,   勝海修

ページ範囲:P.1205 - P.1208

 白内障術後の無水晶体眼の矯正方法として,眼内レンズは,従来の眼鏡・コンタクトレンズに比較し,視機能面でかなり改善を得ている。今回,白内障術後の眼内レンズ挿入眼における両眼視機能を,立体視・不等像視について測定し,片眼手術例・両眼手術例で比較検討した。
 立体視は,Titmus Stereo Testsで,circle 5/9(視差100sec)以上の両眼視良好例は,片眼手術群91.9%,両眼手術群87.8%に認めた。不等像視は,粟屋式New Aniseikonia Testsで,平均は,片眼手術群0.97%,両眼手術群0.76%であった。また,不等像0の症例は,片眼手術群51.3%,両眼手術群56.1%に認めた。
 白内障術後の眼内レンズ挿入眼における,両眼視機能は,片眼手術群・両眼手術群ともに,従来に比し,良好な成績が得られた。

糖尿病網膜症の硝子体手術におけるガスタンポナーデと術後前房フレア

著者: 荻野誠周 ,   北川桂子 ,   近藤瑞枝 ,   西田祥藏

ページ範囲:P.1213 - P.1216

 糖尿病網膜症の硝子体手術におけるガスタンポナーデが術後前房炎症に与える影響を検討するために,レーザーフレアセルメーターによる前房蛋白濃度測定を行った。対象症例は次のごとくであった。硝子体手術単独施行でカスタンポナーデ(−)15眼とガスタンポナーデ(+)8眼,および前嚢保存経毛様体扁平部水晶体切除と後房レンズの前嚢挿入とを併用しガスタンポナーデ(−)10眼とガスタンポナーデ(+)5眼。後房レンズ同時挿入手術併用の有無にかかわらず,ガスタンポナーデ施行群は非施行群に比較して術後前房フレア値は有意に高く(術後1日目p<0.05),フレア値の時間経過に異なりがあり,非施行群のフレア値は術後3〜7日目に最高値に達するのに対して,施行群では術後1日目に最高値に達した。

眼内T細胞悪性リンパ腫の1例

著者: 安藤一彦 ,   石井玲子 ,   荻野公嗣 ,   早川和久 ,   藤野雄次郎 ,   幸田富士子

ページ範囲:P.1217 - P.1220

 硝子体切除術の際に採取した眼内組織生検により診断しえた眼内悪性リンパ腫の1例を経験した。腫瘍は臨床経過から眼内原発であると考えられた。細胞表面抗原の免疫組織学的検索からT細胞悪性リンパ腫と診断された。診断の遅れが生命予後を悪化させる可能性もあり,ぶどう膜炎の鑑別診断の1つとして重要な疾患であると考えられた。

シリコンオイル下の眼内増殖膜の病理組織像

著者: 鈴木水音 ,   竹内忍 ,   山下英俊 ,   石井康雄

ページ範囲:P.1223 - P.1226

 シリコンオイルの眼内増殖に対する影響をみるため,シリコンオイルタンポナーデ下での網膜復位眼(黄斑上増殖膜症)1眼および非復位眼(増殖性硝子体網膜症)2眼の眼内増殖組織を硝子体手術によるシリコンオイル抜去時に採取し,組織学的に比較検討した。網膜剥離のなかった黄斑上増殖膜症症例の増殖膜では,シリコンオイルを貧食したと思われる細胞はわずかであり細胞質も乏しかった。非復位網膜である増殖性硝子体網膜症症例の増殖膜では,豊富な間質と多数のシリコンオイルを貧食したと思われる空胞のある細胞がみられた。シリコンオイルの眼内増殖に対する影響には網膜の復位・非復位が関与しており,非復位網膜においては旺盛な眼内増殖がみられた。

未熟児網膜症に対する光凝固治療後の屈折諸要素

著者: 竹内篤 ,   山岸直矢 ,   永田誠

ページ範囲:P.1229 - P.1234

 光凝固治療後の瘢痕期未熟児網膜症の屈折諸要素について検討した。光凝固により瘢痕期2度中等度で治癒した症例(瘢痕期2度中等度PHC,以下同)および瘢痕期2度強度PHCでは瘢痕期1度PHCおよび2度弱度PHCに比して,また全周光凝固施行例は光凝固2/3周以内の例に比して,有意に前房深度が浅く,水晶体厚径が大きく,水晶体厚径眼軸長比が大きく,角膜屈折力が大きいという結果を得た。2度中等度および強度PHCや全周光凝固例では近視,乱視が強くなり,近視の原因としては水晶体厚径の増加が,乱視の原因としては眼球の成長にともなう角膜乱視が重要視された。全周光凝固例の在胎週数は2/3周以内の光凝固例に比して有意に小さく,このような眼球の未熟性が屈折諸要素に影響している可能性もあり,光凝固自体の屈折諸要素に及ぼす影響については今回の結果だけでは判断できない。

眼球突出で初発したWeber-Christian病の1例

著者: 萩原正博 ,   松山智昭 ,   宮本和久 ,   永江康信 ,   中川雅史 ,   麦谷順子 ,   杉山治夫

ページ範囲:P.1235 - P.1239

 眼球突出で初発した systemic Weber-Christian病の1例を報告する。症例は18歳,男性で,右眼の眼球突出のため当科を紹介された。2週後に40℃の熱とともに眼部は腫脹し,眼球突出が増悪した。抗生剤の大量投与を行うも,高熱は持続し,眼球突出はさらに増悪し,高度の肝機能障害,肝脾腫,出血傾向が出現し,やがて全身症状が極度に悪化した。眼窩の試験切除では泡沫状の胞体をもつ組織球の浸潤を伴う脂肪織炎の像を示したので,皮膚結節はみられなかったが,sys-temic Weber-Christian病と診断した。大量のステロイド投与は無効であったが,シクロスポリンの併用により,ようやく全身状態は改善し,やがて眼球突出も改善した。

Blow-in fracture

著者: 酒井成身 ,   松崎恭一 ,   太根伸浩

ページ範囲:P.1241 - P.1245

 眼部にボールやげんこつなどにより外力が加わり,ちょうど眼窩内容が眼窩外へ圧排され眼窩底などに吹き抜け状の骨折が起こる blow—out fractureはよく知られている。しかし外傷の機転によっては眼窩壁や眼窩縁が眼窩内へ骨折し,眼窩腔が縮小し眼球突出などを引き起こす,blow—in fractureも起こり得る。Blow-in fractureとは殴打などにより,眼窩部への強力な直達外力により,眼窩壁や眼窩縁が骨折し眼窩内へ転位し,眼窩腔が縮小して眼球突出や眼球の位置異常,運動障害,複視などを引き起こす骨折と考えられている。交通事故など重症外傷が原因となることが多い。筆者らは交通事故4例,飛び下り自殺1例の5例のblow-in fractureを経験した。骨折部位は眼窩外壁と内上縁骨折1例,外壁骨折1例,外壁と後壁骨折1例,上縁骨折2例であった。そのうち2例は骨折を眼窩内から除去または整復し複視も回復し経過良好であり,眼球破裂の1例は骨折を整復し義眼を装着した。後壁の視神経近くの骨折の1例は副腎皮質ステロイドによる保存療法で視力は回復した。上縁骨折の1例は本人は手術を希望せず,経過観察で複視はかなり回復した。

カラー臨床報告

ディスポーザブルコンタクトレンズ装用者に生じたアカントアメーバ角膜炎の1例

著者: 石橋康久 ,   加畑隆通 ,   本村幸子 ,   渡辺亮子 ,   水流忠彦 ,   石井圭一

ページ範囲:P.1181 - P.1184

 ディスポーザブルタイプのソフトコンタクトレンズを装用していた56歳の白人男性がアカントアメーバ角膜炎を発症した。レンズは朝に装着し,就寝前にはずす終日装用で使用され,夜間は蒸留水中に保存し,消毒は行われていなかった。角膜擦過標本の直接鏡検と培養で Acanth—amoebaが確認された。フルコナゾール内服,ミコナゾール点眼,および病巣掻爬の3者併用による治療の結果,10週後に角膜中央に淡い混濁を残して治癒した。これらの治療による副作用はなかった。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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