icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科47巻9号

1993年09月発行

雑誌目次

連載 走査電顕でみる眼組織……What is This?・3

前房隅角線維柱帯にみられる神経線維

著者: 杉田新

ページ範囲:P.1555 - P.1555

前房隅角線維柱帯のふどう膜網内皮の外表面に,多数のvaricosity (矢印)を有する裸の神経線維が観察される。人眼。×3,600

眼科図譜・325

網膜脂血症の1例

著者: 竹内久 ,   三浦元也

ページ範囲:P.1556 - P.1557

 緒言 網膜脂血症は1880年にHeyl1)により重症糖尿病患者の眼底に発見され,以来100数例,本邦においては10数例の報告があるにすぎない稀な疾患である。近年,インスリン療法の確立により重症糖尿病患者が減少し,網膜脂血症はさらに稀になってきた。この疾患の特徴は網膜血管の色調の変化と,その易可逆性である。今回,放置された糖尿病に伴う高脂血症患者に現れた網膜脂血症の1例を経験したので報告する。

今月の話題

アトピー性皮膚炎と眼

著者: 桂弘

ページ範囲:P.1559 - P.1562

 近年,アトピー性皮膚炎の増加に伴い,その眼合併症に遭遇する機会も増えてきている。そこで,各合併症の特徴について述べるとともに,特に最近話題となっている網膜剥離の原因,白内障の術式などについて述べた。

眼の組織・病理アトラス・83

網膜有髄神経線維

著者: 向野利彦 ,   猪俣孟

ページ範囲:P.1564 - P.1565

 網膜有髄神経線維myelinated nerve fiber of the retinaは網膜神経線維の一部が髄鞘をもつ有髄神経線維となっている眼先天異常である(図1,2)。正常では網膜神経線維は,視神経球後部から後方では髄鞘をもっているが,篩状板部から眼内では無髄である。そのため,検眼鏡的に乳頭から放射状に走る網膜神経線維の走行を追跡することができるが,網膜はほぼ透明である。この先天異常では,検眼鏡的に眼内の網膜神経線維の一部が白色羽毛状を呈する。発症頻度は全人口の約0.5%で,性差はなく,そのうちの約20%が両眼性である。
 検眼鏡的には白い刷毛で掃いたような網膜の混濁が,網膜神経線維の走行に沿ってみられる。症例の約80%で,網膜有髄神経線維は視神経乳頭から連続して扇形に広がるが(図1),乳頭から離れた位置に出現することもある(図2)。有髄神経線維の部は均一でなく,通常辺縁が疎で,中央が密である。辺縁部では個々の神経線維束を確認できる。ときに細隙状あるいは斑状の正常色調の網膜が有髄神経線維の中にみられることや,網膜血管が部分的に覆われることがある。視野検査で網膜有髄神経線維に相当する部に絶対暗点が検出できるが,視野欠損を自覚していることは少ない。網膜有髄神経線維の診断は,検眼鏡的に容易であるが,乳頭から離れた有髄神経線維は軟性白斑と鑑別を要する。螢光眼底造影では網膜有髄神経線維は背景螢光を遮蔽し,病巣部への螢光色素の漏出がみられない。視神経萎縮や網膜病変のために網膜神経線維が損傷されると徐々に消失することがある。

眼科手術のテクニック—私はこうしている・57

エクソプラントの選択と置き方(1)

著者: 沖波聡

ページ範囲:P.1568 - P.1569

 エクソプラント法はインプラント法と比べると短時間で手術を行うことができるし,強膜の損傷が少ない。最周辺部の裂孔に対してはインプラント法を行うこともあるが,すべての裂孔に対してエクソプラント法を行うことができる。部分的バックリング法ではバックル材料を角膜輪部に平行に縫着することが多いが,深部裂孔に対しては輪部に垂直に縫着することもある(radial buckling)。部分的バックリング法の適応は,網膜剥離の範囲が限局しており,裂孔が一つか,複数でも一定の範囲に集まっている場合である。輪状締結はバックル効果が永続的であり,広範囲の変性巣・網膜裂孔,高度の網膜剥離,硝子体牽引の強い症例,無(偽)水晶体眼などが適応となる。筆者はほとんどの症例で輪部に平行な方向にシリコンスポンジをおくので,その手技について述べる。原則として手術用顕微鏡を使用する。

臨床報告

Nd:YAGレーザーにより治療しえた糖尿病性角膜症の1例

著者: 浅原典郎 ,   浅原智美

ページ範囲:P.1571 - P.1574

 種々の保存療法にもかかわらず,角膜上皮びらんをくりかえした難治性の糖尿病性角膜症の1例に,角膜表層穿刺の原理にもとづいてNd:YAGレーザーを照射し治癒せしめた。レーザー照射後3日で角膜上皮は修復された。角膜内皮細胞への影響はほとんどなく,その後の再発も認められなかった。本法は角膜への微細な照射が可能であり,照射前後の処置も特に必要とせず,点眼麻酔下で安全に施行し得る。
 糖尿病以外の難治性の角膜上皮接着障害にも応用可能と考える。

太陽性網膜炎の1例

著者: 八塚秀人 ,   岸尚文 ,   古嶋正俊 ,   中塚和夫

ページ範囲:P.1575 - P.1577

 精神分裂病の男性に見られた太陽性網膜炎を報告した。症例は42歳男性で,精神分裂病にて11年間にわたり投薬治療中であった。1991年12月中旬,正午から2時間太陽を凝視していたところ,両眼に中心暗点と視力低下が出現した。
 太陽性網膜炎は,日食を不十分な防護手段で観察して発生することが多い。日食以外の条件下で発生する太陽性網膜炎の報告は少なく,精神病により太陽を凝視して発生したものは稀である。この症例は,5か月経過した時点でも視力は両眼とも0.2と低下したままであり,眼底所見では中心窩に1/10乳頭径程度の黄斑円孔様の病変部が存在しており,その周囲には,網膜の浮腫・色調の変化は見られなかった。以上の所見より,太陽性網膜炎のなかでも重篤で不可逆な症例である。

成人発症黄斑色素上皮ジストロフィーと思われた1症例

著者: 伊藤康雄 ,   荻野誠周

ページ範囲:P.1579 - P.1583

 53歳男性の両眼黄斑部に卵黄様病巣を認めた。病巣の大きさは,1/2〜1/3乳頭径でやや隆起し,螢光造影所見では,初期には病巣部に一致したブロック像を示し,後期にはわずかに過螢光を示した。EOG検査ではL/D比の低下を認めなかった。2年の経過観察で病巣部は顆粒状に変化してきており,1年後の螢光造影所見では環状に近い螢光像を示した。Scotopic・photopic ERGは正常であったが,局所ERGを行った結果,中心5°では低下が強く,その他でほぼ正常な値を示したため感覚網膜の障害も病巣部位に限局していることが示唆された。

球結膜の原発性後天性メラノーシスの若年者例

著者: 山口玲 ,   宮代汎子 ,   西澤稚子 ,   林倫子

ページ範囲:P.1585 - P.1588

 16歳頃に自覚した球結膜色素沈着巣が増強拡大してきた21歳女性に対して,切除生検を行い,異型性を示す原発性後天性メラノーシスと診断された症例を経験した。初回切除後,癒着の強かった角膜輪部の色素と残存組織から色素散布を認め,約4か月後には色素沈着の再発をみた。第2回目広範囲完全切除生検の結果,初回に比べて異型の程度は弱かったが,約2か月後に小さな色素再発を認めた。今後さらに拡大する可能性と頻回切除による悪性化の誘発を考え,冷凍凝固術を施行した。以後,新たな色素再発は認めていない。若年者の球結膜色素斑のなかでも稀に悪性黒色腫へ進行する例があることを考慮し,早期診断と完全切除が必要である。

角膜移植用眼球の細菌培養と添加抗生剤の抗菌力

著者: 征矢耕一 ,   澤充

ページ範囲:P.1589 - P.1593

 角膜移植用眼球130眼について,細菌および真菌培養検査を行った。提供眼球は全眼球の状態で,抗生剤を添加した眼球保存液を用いての氷室保存を行った。添加抗生剤にペニシリンG+コリスチンを用いた88眼(以下A群)と,ゲンタマイシン+セフメノキシムを用いた42眼(B群)の培養結果を比較した。
 両群の培養陽性率は,A群30.7%,B群33.3%であった。提供者年齢,死後—摘出時間および保存時間と培養結果との間には,両群とも明らかな相関を認めなかった。A群に対してB群では,緑膿菌が全く検出されなかったが,腸球菌検出率が増加していた。
 使用抗生剤間での培養陽性率には差を認めなかったが,検出菌種に相違を認めた。今後は低温での抗菌力を考慮にいれた抗生剤の選択が必要と考えられた。

強度近視眼の眼内レンズ移植と希望屈折度

著者: 高良由紀子 ,   谷口重雄 ,   稲富誠 ,   小沢哲磨

ページ範囲:P.1595 - P.1599

 強度近視眼に適した白内障手術後の屈折度を知るために,白内障手術後の眼軸長27mm以上の症例84例121眼に対し,コンタクトレンズを用いて,屈折度を0D,−3D,−5Dとした時,好まれる屈折度について,アンケート調査を行った。術後矯正視力0.5以上の症例では,0Dと3Dの近視が好まれた。両眼の視力が0.1未満の症例では,近くに寄せることで字がみえるという理由から5Dの近視が好まれた。非手術眼が視力良好な有水晶体眼の症例でも,0Dと3Dの近視を好む症例が多く見られた。強度近視では個々の症例に対応した術後予想屈折度を選択することがより重要である。

硝子体出血を伴う網膜色素変性症

著者: 直井信久 ,   柊山剰 ,   高梨泰至 ,   澤田惇 ,   柊山緑

ページ範囲:P.1601 - P.1605

 網膜色素変性症(以下RP)に硝子体出血を合併した2例を経験した。症例1は47歳女性。1982年からRPの診断のもと経過観察中であった。初診時,右眼黄斑部毛細血管床びまん性拡張,微小血管瘤,網膜細動脈瘤が見られた。6年後に左眼網膜前および硝子体出血を起こした。両眼黄斑部の動静脈吻合と,左眼の乳頭上新生血管がみられた。硝子体出血は数回の出血を繰り返しつつ次第に吸収された。10年後には動静脈吻合は両眼とも自然消退した。症例2は48歳男性。RPと診断されていたが,1988〜93年に,右眼は4回の硝子体出血をくり返した。当初検眼鏡検査,螢光眼底造影で網膜新生血管は検出できなかったが,93年には乳頭から黄斑部にかけての新生血管と最周辺部の無血管帯を見いだした。以上の2症例は全経過中Coats病様滲出病変を示さなかった。

未熟児網膜症の自験例の検討

著者: 太田浩一 ,   徳島忠弘 ,   長沼邦明 ,   矢野秀実 ,   窪田俊樹 ,   甘利富士夫 ,   野呂瀬一美 ,   瀬川雄三

ページ範囲:P.1607 - P.1611

 1989年4月から3年間に飯田市立病院小児科未熟児室に入院し,眼底検査を依頼された82例について未熟児網膜症の検討を行った。厚生省未熟児網膜症研究班の新分類の2期以上を発症とすると,発症率は出生体重1,000g未満で50%,1,500g未満で68.4%,全体で18.3%であった。網膜症発症は在胎32週未満に集中していて,3期以上に進行したものはすべて29週未満であった。発症因子として,出生体重,在胎週数,酸素投与,呼吸窮迫症候群,胎内発育,輸血,肺サーファクタント,メフェナム酸,観血的動脈圧測定,人工換気の関与が考えられた。4例に網膜冷凍凝固術による治療が行われたが,全例瘢痕1度にとどまった。

慢性関節リウマチとサルコイドーシスの合併例に起こった滲出性網膜剥離の1例

著者: 広兼賢治 ,   二階堂寛俊 ,   調枝寛治

ページ範囲:P.1647 - P.1650

 慢性関節リウマチとサルコイドーシスを合併し,これに広範な滲出性網膜剥離を伴うぶどう膜炎を起こした1例を経験した。
 患者は66歳の男性で,13か月前から近医眼科でぶどう膜炎,その1か月後から近医外科で慢性関節リウマチの治療を受けていた。しかし,ぶどう膜炎が軽快せず,広島大眼科に受診した。両眼のぶどう膜炎,虹彩後癒着,テント状虹彩前癒着,および左眼の滲出性網膜剥離を認めた。全身的に両側肺門リンパ節腫脹,ツベルクリン反応陰性,手指関節裂隙の狭小化,リウマチ因子の高値などから慢性関節リウマチとサルコイドーシスの合併が判明した。全身的にステロイド治療を行い,網膜の復位と炎症の消失をみた。

健診の眼底検査で発見された肺癌の1例

著者: 滝川知里 ,   水野計彦 ,   太田一郎 ,   中尾彰宏 ,   下方薫 ,   谷口博之 ,   磯谷俊雅 ,   近藤康博

ページ範囲:P.1651 - P.1655

 老人健診の眼底検査により肺癌が発見された症例を報告した。健診において左脈絡膜腫瘤が発見され,転移性の脈絡膜腫瘍を疑い全身検索したところ,胸部CTにより肺転移が疑われた。頸部リンパ節生検,経気管支肺生検(TBLB)の病理組織所見はpapillary adenocarcinomaで,肺が原発と考えられた。
 担癌者の延命が期待できるようになり,眼科医が転移性の眼腫瘍に接する機会が多くなってきた。非典型的な眼内腫瘤性病変が発見された場合,転移性の悪性腫瘍を念頭においた全身検索の重要性を痛感した。

副腎皮質ステロイド治療中に脳膿瘍が発症したトローザ・ハント症候群の1例

著者: 雑喉正泰 ,   新井三樹 ,   久野里佳 ,   大角五輪男

ページ範囲:P.1657 - P.1661

 症例は40歳の女性で,左眼窩深部痛,眼瞼下垂,複視を主訴に来院した。左眼の動眼・滑車・外転神経麻痺を認め,CTにて海綿静脈洞部に腫瘤陰影を認めた。トローザ・ハント症候群を疑い,診断的治療の目的で副腎皮質ステロイド剤投与により,症状はほぼ消失した。副腎皮質ステロイド漸減時に眼球運動障害が再増悪し,再度増量したところ脳膿瘍による髄膜炎を発症した。抗生剤投与により軽度の外転障害を残すのみにまで回復した。その後,霧視を訴え,膿瘍の後頭葉への拡大を認めたので,穿刺排膿術を施行したが,右同名半盲を残した。トローザ・ハント症候群の診断・治療では,副腎皮質ステロイドが繁用されがちだが,感染を念頭においた慎重な使用が必要である。

境界領域

Acanthamoebaの土壌内分布

著者: 鶴原喬 ,   富山康 ,   石橋康久 ,   本村幸子 ,   堀上英紀 ,   石井圭一

ページ範囲:P.1665 - P.1669

 アメーバ角膜炎の病原体であるAcanth—amoebaの分布状態を知るために,札幌・東京・那覇の各市街地349か所の表層土壌から本属アメーバを分離培養した。各地とも検出率は予想以上に高く(各々70.5,73.9,57.6%),地面の日照,乾湿,土壌pHなどはほとんど検出率に関連なかった。また患者から多出するpolyphagidsが全アカントアメーバの70%以上を占めることがわかった。これらの事実は本属アメーバ独特の耐乾性シストが風や雨水によって絶えず地表を移動していることを示唆している。したがってアメーバ性脳炎とは異なり,角膜炎の感染ルートとしては水道水や淡水以上に土壌によるCL保存容器の汚染を重視すべきと考えられる。

文庫の窓から

麻嶋流眼科秘伝書

著者: 中泉行信 ,   中泉行史 ,   斎藤仁男

ページ範囲:P.1672 - P.1673

 麻嶋流眼科を伝える写本には麻嶋流を冠した表題もあり,内容目次から採った表題もあり,また片仮名文字で書かれたもの,平仮名文字を使って全文が書かれたものもあり,その種類は様々である。ここにご紹介するものは各冊に異なる表題を付けた,4冊より成る麻嶋流眼科の秘伝書である。
 さて,麻嶋流眼科の秘伝書といわれる写本は,概してその内容目次に麻嶋灌頂小鏡之巻 眼目養生之次第七種之内障絵図 藥性并持へ様藥使い替へ之事 内藥拵へ様眼病禁好物之事このような項目を掲げ,これを1冊にまとめ,弟子から弟子へ次々と書写相伝されてきたと思われる例が多い。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up
あなたは医療従事者ですか?