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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科48巻9号

1994年09月発行

雑誌目次

連載 走査電顕でみる眼組織……What is This?・15

水晶体融解緑内障の虹彩

著者: 杉田新

ページ範囲:P.1555 - P.1555

水晶体融解緑内障の虹彩前面の走査電顕写真。虹彩前面には水晶体皮質成分を貧食したマクロファージ(*印)が多数観察される。マクロファージは多数のひだ状の小突起を有しており,虹彩前面を被っている線維芽細胞(F)とは容易に区別できる。矢印は変性した水晶体皮質の残渣を示している。52歳,男性。×2,100

眼の組織・病理アトラス・95

サイトメガロウイルス網膜炎

著者: 猪俣孟 ,   向野利彦 ,   石本聖一

ページ範囲:P.1556 - P.1557

 サイトメガロウイルス網膜炎cytomegalovirusretinitisは神経組織に親和性をもつヒトサイトメガロウイルスhuman cytomegalovirus (HCMV)の感染によって起こる網膜の炎症をいう。サイトメガロウイルスによって感染された細胞では,DNAその他の細胞内蛋白合成が高まり,細胞は巨大化する。さらに,核および細胞質内に封入体をもっているので,サイトメガロウイルス感染症を巨細胞封入体症cytomegalic inclusion disease(CID)ともいう。
 サイトメガロウイルス感染には先天感染と後天感染がある。感染者の多くは不顕性で,無症状である。先天感染は経胎盤感染で,患児の多くは無症状であるが,稀に黄疸,肝脾腫,小頭症,網膜炎,脳石灰化などを示す。新生児は産道で感染する。成人で感染すると,サイトメガロウイルス単核症cytomegalovirus mononucleosisを起こし,発熱,肝炎,異型リンパ球増加が起こる。エイズおよび臓器移植後の免疫抑制薬や副腎皮質ステロイド薬の使用によって,生体の免疫力が低下すると,潜在性のHCMVが再活性化して日和見感染が起こる。

今月の話題

老人性円板状黄斑変性のレーザー光凝固療法

著者: 高橋寛二

ページ範囲:P.1559 - P.1565

 老人性円板状黄斑変性のレーザー光凝固治療に関する最近の話題,特にインドシアニングリーン螢光眼底造影を行って隠れた脈絡膜新生血管を検出し光凝固を行う有用性,中心窩を含んで生じた新生血管の凝固法,レーザーの波長による治療成績の違い,色素増強光凝固法,インターフェロンによる薬物治療との併用の可能性について解説した。

眼科手術のテクニック—私はこうしている・69

点眼麻酔白内障手術の術中ムンテラ

著者: 吉富文昭

ページ範囲:P.1566 - P.1567

 点眼麻酔下に行う白内障手術そのものはけっして新しいものではなく,以前から局所麻酔薬に皮内反応陽性の例などで稀に施行されてきた。しかし大部分の手術症例にroutine techiniqueとして行われるようになったのは1992年に入ってからで,日米の複数の術者が一斉に開始したため急速に普及しつつある。この背景として,手術をよりシンプルに行いたいという術者側の心理的変化があることは否定できないものの,現在の小切開白内障手術が短時間にできるようになったことと,核分割法に代表される技術面での進歩が手術の安全性を高く保証してくれるようになったという,術者の自信ないしは認識が大きいと思われる。
 またすべての局所麻酔法の中で,唯一外来で,事前に完全リハーサルが可能な麻酔法であることも,術者のストレスの軽減という意味があるだろう。

臨床報告

増殖性網膜症を合併した全身性強皮症と多発性筋炎のoverlap症候群の1例

著者: 新名美奈子 ,   桂弘 ,   別院泰樹 ,   河井克仁 ,   御手洗哲也

ページ範囲:P.1577 - P.1581

 全身性強皮症と多発性筋炎のoverlap症候群に増殖性網膜症を合併した1例を経験した。症例は22歳女性で,両眼の眼底に軟性白斑,網膜出血を広汎に認めた。経口ステロイド療法が開始され,全身状態は改善したにもかかわらず眼底所見は進行し,4か月後に視神経乳頭上新生血管,8か月後に線維血管性増殖組織,硝子体出血,牽引性網膜剥離が生じ,硝子体手術を施行した。全身性強皮症や多発性筋炎に増殖性網膜症を合併することは稀であるが,本症例ではステロイド療法により血管炎が消退するまでの間に不可逆性の網膜毛細血管閉塞を生じたものと推察した。これらの膠原病における早期治療と眼底検査の重要性が痛感された。

中心性漿液性網脈絡膜症における脈絡膜血管病変

著者: 飯田知弘 ,   村岡兼光 ,   萩村徳一 ,   高橋慶

ページ範囲:P.1583 - P.1593

 中心性漿液性網脈絡膜症31例31眼を対象として,インドシアニングリーン(ICG)を用いた赤外螢光眼底造影を行った。造影初期には脈絡膜造影の遅延が87%で観察された。フルオレセイン螢光漏出部に一致して網膜下へのICG螢光漏出が81%でみられ,この部位には61%で脈絡膜静脈が走行していた。ICG螢光造影後期には,境界が不鮮明で過螢光を示すICGによる脈絡膜組織染が高頻度に観察され,この所見は網膜下への螢光漏出部を含んだ領域では84%にあった。これは光凝固あるいは自然経過で寛解して漿液性網膜剥離が消褪した後にも持続し,2眼ではこの領域内で網膜下への螢光漏出の再発が起こった。この過螢光を示す脈絡膜組織染は脈絡膜血管の透過性亢進を反映した所見と解釈でき,螢光漏出部以外の正常な部位にも68%で,他眼にも55%で観察された。一方,対照とした正常眼6眼では,後期像はほぼ均一な螢光を示した。中心性漿液性網脈絡膜症の発症の基礎にはこれらの脈絡膜血管病変があり,色素上皮の障害は二次的なものと考えられる。本症の脈絡膜血管病変は黄斑部だけに限局せず,また両眼性にも存在するものと結論される。

前部虚血性視神経症に対する視神経鞘減圧術の治療成績

著者: 五十嵐保男 ,   木井利明 ,   椿原宏明 ,   橋本雅人 ,   大塚賢二 ,   大谷地裕明 ,   中川喬

ページ範囲:P.1607 - P.1610

 進行性の左視力低下を示した前部虚血性視神経症の62歳男性例に対し,発症後51病日に経眼窩的アプローチによる左視神経鞘減圧術を施行した。左視力は術前0.05が術後0.07とほぼ不変であったが,原因不明の視神経萎縮を呈していた右視力は術前0.6から術後0.9と改善が見られ以後両眼とも安定した視力が得られた。視性誘発電位は術前と術後で変化がなく,術後左視野に軽度の狭窄が生じた。術後合併症として後毛様神経の障害による一過性の左内眼筋麻痺が認められた。

緑内障眼に対する超音波乳化吸引術を用いた白内障同時手術

著者: 溝口尚則 ,   永田誠 ,   寺内博夫 ,   黒田真一郎

ページ範囲:P.1611 - P.1615

 緑内障を伴った白内障に対する超音波乳化吸引術,後房レンズ挿入術,トラベクロトミー,またはそれらにシヌソトミーをさらに併用した同時手術を行った38眼について報告した。術後眼圧コントロールは術後3か月以降では全例で良好であった。術後視力は0.5以上が86%であり,術後視力が低下した症例はなかった。術後2週間で視力1.0以上が43%,術後1か月では67%に認められ,術後早期から良好な視力が得られた。術後併発症は,30mmHg以上の一過性眼圧上昇が36%あり,これらはすべて1週間以内に出現し,薬物療法で改善した。術中・術後併発症では脈絡膜下出血,デスメ膜血腫を1例ずつ認めたが,この同時手術は有効な術式と考えられた。

視神経疾患におけるビタミンB12動態

著者: 奥英弘 ,   菅澤淳 ,   内海隆

ページ範囲:P.1617 - P.1620

 視神経疾患のビタミンB12(B12)動態を知る目的で特発性視神経炎8例,虚血性視神経症3例を中心に,radioimmunoassayを用いて血清および髄液中のB12およびB12不飽和結合能の定量を行った。各症例とも血清B12濃度には異常は認められなかったが,髄液中B12濃度は特発性視神経炎では75%の症例で10pg/ml未満の低値を示し,対照的に虚血性視神経症では異常は認められなかった。これらの相違は視神経障害の発症様式や臨床経過の差を反映していると考えられたが,特発性視神経炎では血清B12濃度では予想できないような神経組織のB12減少が起こっている可能性が示唆された。

きびしい診断基準とゆるい診断基準のドライアイについての多施設共同研究

著者: 引地泰一 ,   吉田晃敏 ,   福井康夫 ,   濱野孝 ,   李三栄 ,   荒木かおり ,   堀本幸嗣 ,   高村悦子 ,   北川和子 ,   大山充徳 ,   檀上幸孝 ,   近藤晶子 ,   藤島浩 ,   戸田郁子 ,   坪田一男

ページ範囲:P.1621 - P.1625

 涙液の異常と眼球表面の障害を有するdefinrte dry eye患者359名と,涙液の異常あるいは眼球表面の障害のいずれかを有するprobable dry eye患者394名との臨床的特徴を比較した。「目の乾燥感」を訴えたprobable dry eye患者の割合(15%)は,definite dry eye患者のそれ(27%)と比べ,有意に低率であった(p<0.01)。Definite dry eye患者では,各症状の出現頻度に月による差が認められたが,probable dry eye患者では,いずれの症状においても,その出現頻度に月による差を認めなかった。Probabie dry eyeには,男女差がなく,季節の影響を受けないことから,probable dry eyeは涙液の減少による眼球乾燥症のみの単一の疾患ではないと考えられる。

白内障術後の角膜知覚低下

著者: 宮崎大 ,   川崎佳己 ,   生島操 ,   大島禎二 ,   西山苑 ,   下村嘉一

ページ範囲:P.1627 - P.1631

 白内障手術により生じる角膜知覚低下を,嚢外摘出術(ECCE),強角膜切開後縫合した超音波乳化吸引術(PEA),自己閉鎖創を用いたPEAについて検討した。対象はそれぞれ15例16眼,15例18眼,7例9眼であった。角膜知覚はDraeger角膜知覚計とCochet-Bonnet角膜知覚計を用い,術後1週,3か月,6か月,1年後に測定した。測定部位は角膜中央部,角膜周辺部(3,6,9,12時)とした。
 角膜知覚の低下は,自己閉鎖創によるPEA,強角膜切開によるPEA,ECCEの順に高度となった。角膜知覚低下の範囲は,切開創から角膜中央部に至る扇型の分布を示し,自己閉鎖創によるPEA群では不明瞭な分布となった。

網膜下に濃厚な滲出斑を生じたサルコイドーシスの1例

著者: 杉元伸子 ,   阿彦麻也 ,   森嶋直人 ,   赤沢嘉彦 ,   百野伊恵 ,   三宅修司

ページ範囲:P.1633 - P.1637

 強い網膜下滲出斑のあるサルコイドーシスの1症例を経験した。症例は59歳の女性。主訴は左眼飛蚊症。初診時,左眼の前房中および硝子体中に軽度の細胞浸潤が認められ,左眼眼底は鼻下側の赤道部から周辺部に,コーツ病類似の黄白色滲出斑と網膜血管の拡張と蛇行が観察された。螢光眼底造影所見では,左眼網膜血管からの著しい螢光漏出が鼻下側の滲出性病変に一致して認められた。全身所見では,アンギオテンシン変換酵素の上昇と,経気管支肺生検において非乾酪性類上皮細胞肉芽腫の所見が得られ,サルコイドーシスと診断した。サルコイドーシスの眼病変は種々の病態を呈する場合があるので,非定型的な症例でもサルコイドーシスの存在を念頭におく必要があると考えられた。

シェーグレン症候群におけるドライアイと唾液腺組織および自己抗体との関連

著者: 檀上幸孝 ,   濱野孝

ページ範囲:P.1639 - P.1643

 124例の原発性シェーグレン症候群についてドライアイとドライマウスおよび自己抗体の関連を検討した。小唾液腺focus scoreは,ドライアイ確定群がドライアイ疑い群および非合併群に比べて有意に高かった(p<0.05)。抗SS-A抗体はドライアイ合併との間に有意な関連があり,さらに抗SS-A抗体と抗SS-B抗体は,ドライアイ確定群においてドライアイが重症になるにしたがって陽性率が有意に高くなった(p<0.05)。ドライアイとドライマウスの病期の間には平行関係があり,自己抗体が陽性のものはドライアイが重症化しやすいことが示唆された。シェーグレン症候群のドライアイの診断と治療は唾液腺と自己抗体との関連を考慮して行う必要がある。

正常眼圧緑内障における薬物療法の検討

著者: 小関信之 ,   新家真 ,   鈴木康之 ,   白土城照 ,   山上淳吉

ページ範囲:P.1645 - P.1650

 初期〜中期の正常眼圧緑内障(NTG)に対して,従来よりある点眼薬による眼圧下降療法または脳循環改善薬が,経過中眼圧および視野障害進行にどの程度の効果があるかをretrospectiveに検討した。
 2%carteololおよび0.04% dipivefrine点眼はNTGに対して有意の眼圧下降(1.0〜1.6mmg)を示した(p<0.05)。一方,mean deviation (Humphrey自動視野計中心30-2プログラム,STATPAC)を指標として経時的視野変化を検討したところ,観察開始前眼圧,年齢,視野障害などが治療群と差のない無治療コントロール群では経過開始12,18か月で開始前と比較してmean devlationの有意な低下を認めたが(p<0.05),点眼または内服群では有意の変化を示さなかった。このことより,眼圧下降療法または脳循環改善薬投与がNTGの視野障害進行を遅延しうる可能性があることが示唆された。

カラー臨床報告

AIDS患者に発症したcytomegalovirus視神経炎

著者: 真栄田義敦 ,   新垣均 ,   早川和久 ,   山川良治 ,   長瀧重智

ページ範囲:P.1569 - P.1573

 後天性免疫不全症候群に合併したcytomegalovirus (CMV)視神経炎を報告した。51歳男性で入院加療中であったが,CMV抗体の高値が持続するので眼底を定期的に観察していた。7か月後に左眼視力が低下し,眼底検査で左眼視神経乳頭の腫脹と周囲網膜の出血,滲出斑を認めた。CMVによる視神経炎を疑いガンシクロビルを投与したところ,病変は2か月で鎮静化した。副作用のため投与量を減量したところ,左眼網膜に顆粒状の小滲出斑が出現し,3か月後にはCMV網膜炎の眼底所見を呈した。視神経炎で発症したCMV網膜炎は欧米では報告がある。本症例の特徴は一致していた。

眼科の控室

立体眼底撮影

著者:

ページ範囲:P.1600 - P.1600

 ステレオ,すなわち立体眼底写真をとるのは,べつに難しくはありません。
 光学的に正確に表現するのは大変ですが,だいたい,瞳孔面で左右に違った点で眼底カメラの光軸が通るようにすればOKなのです。
 言葉で言えばややこしいのですが,具体的には簡単です。まず眼底カメラを右に振り,しかも眼底がはっきり見えるところで1枚写真をとります。次に眼底カメラを左に平行移動させ,同じくもう1枚撮影すればOKなのです。カメラの機種によっては,照明光が瞳孔にけられるとき,三日月の形に光った影がでることもあり,これを目安にすることができます。

マイアミ留学記・その5

留学生の懐具合い

著者: 谷原秀信

ページ範囲:P.1603 - P.1603

 今回は少し品格が下がりますが,大事な問題であるお金の事について書きます。
 まず留学生の収入ですが,大別して4通りあります。第1にアメリカのボスから得るサラリーです。これは本人の能力や実績などを考慮して,決めるという建前です。もっとも実際は留学前のボスとの交渉で決まるのがほとんどで,わりと適当です。友人の話を総合するとだいたい年棒15,000〜30,000ドルというところです。

特別講演

白内障手術の歴史(連載第2回)

著者: 三島済一

ページ範囲:P.1654 - P.1657

天文学とレンズの発達の影響
 白内障の手術は,前月号にあるように行われましたけれども,水晶体とか,眼の構造と機能の原理そのものは,まだ十分に理解されていなかったのであります。図8は,天文学者Johannes Keplerですが,17世紀に入りますと,天文学が非常に発達して,レンズも凸レンズだけでなく,凹レンズが導入されてまいります。ちなみに眼鏡は,一体いつ頃できたかといいますと,13世紀の終わりから14世紀の初め頃にイタリアで凸レンズを眼の前にかけるいわゆる眼鏡が発明され,グーテンベルグの印刷術とともにヨーロッパではたくさん本を読む人たちが増え,凸レンズを使ったいわゆる老眼鏡が普及してきたわけであります。このKe—plerの時代に凹レンズが導入され,凹レンズを眼にかければ,近視の人は,遠くを見ることができるということが発見されたのであります。これから眼の構造に関する知識というものが,だんだんと正確になってまいります。
 図9は,やはりドイツ地方で出た天文学者Christophorus Scheinerです。この人は,Oculusという本を1619年に出しております。そこに書かれておる眼の構造が図10です。Georg BartischやLeonardo da Vinciが書いた眼の構造とは相当に違って,現在の我々の持っている知識に,かなり近くなっていることがよくわかります。ここでは,角膜とか,水晶体は,屈折のための構造物と理解されていることが,よくわかります。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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