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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科49巻1号

1995年01月発行

雑誌目次

特集 ICG螢光造影

第5回日本ICG螢光造影研究会を主宰して急速な普及に伴い深まる関心と解明

著者: 宇山昌延

ページ範囲:P.6 - P.7

第5回日本ICG螢光造影研究会
 日本ICG螢光造影研究会の第5回例会を平成6年(1994年)7月29日・30日の両日,奈良市で開催した。昨年の夏は殊の外の酷暑のもとの晴天であったが,参加者260名に及び,特別講演1題,シンポジウム1(7題),一般講演40題が行われ,きわめて盛会であった。会場は古都東大寺境内にある,奈良県新公会堂の新装された能楽堂を講演会場として用い,スクリーンの奥には背景として能舞台の松羽目がのぞいていた。会場外のロビーのガラス窓ごしには三笠山を借景に広々とした庭が広がり,晴天下に咲く,さるすべりの紅い花がとりわけ鮮やかに目に映った。
 インドシアニン・グリーン(ICG)を造影剤とし,800nmの赤外線を光源として眼底を造影して,ビデオ撮影するICG赤外螢光眼底造影が,わが国で一般に広く行われるようになったのは,3年位前からである。従来のフルオレセインを用いる螢光造影とは異なり,眼底の深層,特に網膜色素上皮,脈絡膜,脈絡膜循環の造影が可能になって,その価値が認識されている。特に,わが国のトプコン社が積極的に取り組んで,眼底カメラとビデオ画像化システムを開発,市販化に成功して,本検査法を普及した貢献は大きい。ついでわが国には,ドイツ・ローデンストック社の scanninglaser ophthalmoscope (SLO,レーザー走査式検眼鏡,中央産業貿易取り扱い)が輸入され,本法の普及に一役かっている。

特別講演

赤外螢光造影の可能性と限界

著者: 清水弘一

ページ範囲:P.8 - P.24

はじめに
 この数年来,インドシアニングリーン(ICG)を使った赤外螢光造影が急速に普及してきた。日本では,5年前にICG螢光造影研究会が発足し,1994年7月に奈良で開催された第5回の会合に,260名もの参加者があったことも,本法に対する関心の深さを示している。ちなみに,来年(1995)の4月には国際ICG螢光シンポジウムが奈良で開催され,さらに,7月下旬には第6回の日本ICG螢光造影研究会が前橋市で開催される予定である。
 ICG螢光造影の現況は,螢光眼底造影が開発された直後の時期と似ているように思われる。この方法が発明されたのは1960年であるが,日本では昭和39年(1964)に京都府立医大の藤沢講師がこれを取り上げ,現在に至る盛況のきっかけとなった。この30余年のフルオレセイン螢光造影の歴史を見ていくと,ICG螢光造影の将来と,なにが問題であるかを,かなり推測できる手がかりになろう。

シンポジウム「ICG螢光造影所見の読影」

網膜脈絡膜におけるICG局在の組織学的証明

著者: 松原孝

ページ範囲:P.25 - P.33

 網膜,脈絡膜の組織内におけるインドシアニングリーン(ICG)の局在を直接証明する方法を確立し,ラット眼を用いて正常状態,さらに光凝固,オルニチン硝子体注入を行った病的状態でのICGの局在を組織学的に証明した。正常眼では,網膜色素上皮,網膜血管にICGに対する血液網膜関門機能があり,網膜実質内にICGは証明されなかった。脈絡膜では,ICGは脈絡膜毛細血管板から徐々に血管外に漏出し,脈絡膜内から強膜へびまん性に拡散した。光凝固により脈絡膜毛細血管板を閉塞するとICGは毛細血管板内に流入せず造影早期に低螢光を示した。凝固後2週に毛細血管板は再開通したが,色素上皮が増殖,過形成した部は低螢光となり,脈絡膜螢光をブロックすることがわかった。オルニチンにより網膜色素上皮を選択的に障害して壊死に陥った色素上皮細胞へはICGの組織染がみられた。これらはICG螢光造影の読影の基礎となる主要な知見である。

ICG螢光造影における明るい螢光および低螢光に関する実験的検討

著者: 河野剛也

ページ範囲:P.35 - P.45

 インドシアニングリーン(ICG)螢光造影読影の基本となる,「明るい螢光」,「低螢光」の表す病態,ならびに網膜色素上皮と強膜がICG螢光造影所見に及ぼす影響について報告した。ICG螢光造影では,正常の脈絡膜大血管の走行部位でも明るい螢光部としてみられるので,異常所見の意味を持つ「過螢光」は用いず,「明るい螢光」とした。「明るい螢光」の1つであるICG螢光漏出は,脈絡膜血管の透過性亢進と関係し,網膜色素上皮のバリア機能障害のない部位にも観察された。「低螢光」は,脈絡膜循環障害,ならびに螢光ブロックによることが判明した。脈絡膜循環障害は,造影後期のびまん性ICG螢光の有無すなわち脈絡膜毛細血管の存在により大きく2つに分類できた。脈絡膜毛細血管が保たれている脈絡膜動脈閉塞では,造影早期には脈絡膜流入遅延を生じるが,造影後期では正常びまん性ICG螢光がみられた。また脈絡膜毛細血管閉塞をきたす網脈絡膜萎縮病巣では,造影中期から後期に低螢光となった。
 in vitroの実験モデルにより,網膜色素上皮内の色素の増減が,ICG螢光造影所見に及ぼす影響は小さく,強膜の反射が,ICG螢光造影所見に大きく影響することを報告した。このように,ICG螢光造影所見の表す病態は,フルオレセイン螢光造影のそれとは異なるものであるから,両螢光造影を比較検討することにより,網脈絡膜疾患における病変の局在を詳細に検討できると考えた。

ICG螢光眼底造影による脈絡膜循環動態の加齢性変化の検索

著者: 天野尚 ,   米谷新

ページ範囲:P.47 - P.54

 インドシアニングリーン(ICG)による螢光眼底検査法は,脈絡膜新生血管の検索のみではなく脈絡膜血管構築や循環動態の検索に有用な検査法である。今回健常な若年者および壮年者に対して本検査を施行し,脈絡膜血管の形態観察および循環動態の加齢性変化の検索を行った。使用した装置はトプコン501A-ICGビデオシステムで,初期撮影用に780nmのダイオードレーザーを使用する二重光源式の改良型装置である。対象は,20〜30歳の比較的若年者27例27眼,50歳台の壮年者21例21眼の健常眼である。
 初期像では,耳側短後毛様動脈の支配領域の充盈が若年者,壮年者とも鼻側より早く,後極・黄斑部の螢光輝度が高く,血流が豊富であることが確認された。また黄斑部への優先血行路ともいうべき黄斑動脈の存在が,臨床的に初めて示唆される所見が得られた。壮年者では輸入血管の蛇行・狭細化が顕著で,若年者で明瞭に観察された視神経乳頭を中心として垂直に走る流入遅延部がほとんど観察されないなど血管の加齢性変化が認められた。後期後極部では,若年者では淡く均一に螢光されるが,壮年者では不均一に螢光され顆粒状の低螢光点が多くの症例で観察された。これはBruch膜あるいは色素上皮の加齢性変化による螢光遮断と考えられた。
 これらの所見は新知見であり,ICG螢光眼底検査により脈絡膜血管の加齢性変化が具体的に明らかとなり,今後の本検査時の読影の基礎となる所見である。

赤外螢光造影低螢光所見の読影

著者: 長谷川豊

ページ範囲:P.55 - P.61

 インドシアニングリーン赤外螢光造影(ICG螢光造影)で見られる低螢光所見を,脈絡膜螢光遮断と脈絡膜流入欠損の2つに大別し,フルオレセイン螢光造影所見との比較を行った。脈絡膜螢光遮断の原因として,検眼鏡的に視認できる網脈絡膜病変のほとんどがこれに該当したが,螢光遮断の程度はフルオレセイン螢光造影とは必ずしも一致しなかった。脈絡膜流入欠損の原因として,フルオレセイン螢光造影で既に明らかにされている病変に加え,今まで不明であった脈絡膜循環障害の存在が明らかとなった。
 ICG螢光造影の低螢光所見を慎重に読影することによって,網脈絡膜疾患の病態の解明に重要な手がかりが得られるものと思われた。

中心窩下脈絡膜新生血管における栄養血管の検出

著者: 白神史雄

ページ範囲:P.63 - P.71

 加齢性黄斑変性症における中心窩下脈絡膜新生血管の栄養血管に関して,その検出の方法,実際の検出率,およびその選択的光凝固の短期の治療成績を報告した。
 Scanning Laser Ophthalmoscopeによるインドシアニングリーン赤外螢光眼底造影は,従来のフルオレセイン螢光眼底造影と比較して,栄養血管の検出に有用で,連続症例41眼中20眼(49%)に栄養血管が検出できた。また,15眼に施行した選択的光凝固は,12眼(80%)に瘢痕化が得られた。瘢痕化を得るためには必ずしも栄養血管の閉塞が必要ではなく,恒久的な閉塞が得られなかった6眼すべてに線維性瘢痕の状態が得られた。視力の悪化は1眼のみで,3眼において0.5以上の視力が保持できている。
 選択的光凝固が有用である可能性が示唆されたことから,今後栄養血管の検出に努めるべきであると考える。

網膜色素上皮剥離のICG螢光眼底造影所見

著者: 湯沢美都子

ページ範囲:P.73 - P.81

 色素上皮剥離(PED)は病因・病態の異なる種々の疾患で認められる。今回筆者はPEDのインドシアニングリーン(ICG)螢光造影の造影パターンを分類し,その造影所見を解釈した。対象は67例77眼にみられた100個のPEDで,これら100個のPEDを初診時施行したICG螢光造影での脈絡膜新生血管の有無と造影開始20分前後の造影後期の所見によって分類し,カラー写真,フルオレセイン螢光造影所見と比較した。またICG螢光造影で脈絡膜新生血管の認められなかった33眼51個のPEDについては,経過観察した。
 新生血管を認めない64個のPEDは造影後期の所見によってⅠ群・強過螢光,Ⅱ群・弱過螢光,Ⅲ群・不規則低螢光,Ⅳ群・不規則過螢光,Ⅴ群・分類不能に大別できた。Ⅰ群のPEDは1例を除いてすべて両眼性であり,滲出性の網膜剥離を伴うものもあった。Ⅱ群のPEDは若年者に多くみられた。Ⅲ群のPEDを経過観察した結果,1個では色素上皮裂孔を伴う脈絡膜新生血管が発生,4個ではmicroripが,1個ではPEDの縮小に伴う放射状の脈絡膜ひだを認めた。経過観察を行ったⅣ群のPEDは1例を除いて色素上皮の萎縮を残して吸収した。新生血管を認めた36個のPEDは不規則低螢光あるいは全低螢光を示した。
 強過螢光はPED内に蛋白に富んだ液体が貯留することによると考えた。弱過螢光を示すPEDはPED内の液体中の蛋白が少なく,中心性漿液性網脈絡膜症と同じ臨床概念であると考えた。不規則低螢光あるいは不規則過螢光を示すものは加齢と関係があり,特に前者は新生血管との関連が強いことが明らかになった。後者は吸収過程にあるPEDと解釈した。低螢光は加齢に伴うBruch膜,PED内の脂質によるblockと考えた。過螢光は色素上皮に生じた萎縮のためにPED内の過螢光がより明瞭にみえているものと解釈した。

漿液性網膜剥離のICG螢光造影所見

著者: 飯田知弘

ページ範囲:P.83 - P.93

 網膜色素上皮の外血液網膜柵の破綻があり,続発性に漿液性網膜剥離が生じる疾患に対し,インドシアニングリーン(ICG)螢光造影を行った。対象は中心性漿液性網脈絡膜症31眼,胞状網膜剥離12眼,後極部剥離型の原田病14眼,妊娠中毒症2眼である。フルオレセイン螢光造影で見られる色素上皮からの漏出や網膜下腔の色素貯溜などは,ICG螢光造影でも類似した所見を示したが,フルオレセインに比べて検出しにくかった。これら網膜下のICGからの螢光を脈絡膜のそれと区別する必要があり,フルオレセイン螢光造影との比較が重要となる。4疾患に共通する脈絡膜のICG螢光造影所見として,血管透過性亢進があった。妊娠中毒症と原田病では,経時的な観察で拡大する過螢光像や血管の輪郭の不明瞭化が観察された。また,中心性漿液性網脈絡膜症と胞状網膜剥離では,過螢光を示す脈絡膜の組織染があった。中心性漿液性網脈絡膜症,胞状網膜剥離,原田病などでは,色素上皮レベルでの透過性亢進の基礎病変として,脈絡膜血管の透過性亢進があることが結論される。

シンポジウムでのディスカッション

著者: 松原孝 ,   河野剛也 ,   天野尚 ,   長谷川豊 ,   白神史雄 ,   湯沢美都子 ,   飯田知弘

ページ範囲:P.94 - P.101

 三木(司会)演者間の討論に移ります。
 松原群馬大学の飯田先生にお願いします。講演内容についてですが,脈絡膜実質内の螢光漏出の判定の仕方で,晩期に過螢光を示すものは,今回実験でも示しましたように,いろいろあると思います。色素上皮の影響,脈絡膜内で何かICGと親和性のあるものにも組織染としてみられる可能性などです。それらをどう見分けたらいいか,教えてください。

シンポジウム「ICG螢光造影所見の読影」を終えて

著者: 松井瑞夫

ページ範囲:P.100 - P.101

 第5回ICG螢光造影研究会第2日目の午後,ICG造影像の読影に関するシンポジウムが開催された。宇山会長の発案による時期を得た企画であり,三木徳彦大阪市立大教授と座長を担当させていただいた。このシンポジウムの前に清水弘一群馬大教授が、特別講演として,この問題の総論ともいえる講演をされたことが,各論とも言えるこのシンポジウムの内容を,研究会参加者が理解するのに大変役立ったと思う。
 シンポジウムは,7名の演者によって行われた。まず関西医大の松原 孝先生が,ICG螢光造影読影の基礎になるICG色素の眼内動態についてラット眼を用いてICGの局在を明らかにされた。大阪市大の河野剛也先生は,ICG螢光読影の際に過螢光と低螢光をどのように解釈すべきかという観点から,家兎眼を用い,脈絡膜閉塞や網膜色素の状態による螢光の強さにどのように影響するか検討した結果を報告された。

第2回ICG螢光造影国際シンポジウムを主催するにあたって

著者: 三木徳彦

ページ範囲:P.46 - P.46

 第1回ICG螢光造影国際シンポジウムは1993年1月にニューヨーク(Yannuzzi博士)で開催され,この度,第2回ICG螢光造影国際シンポジウムが1995年4月5日〜8日,奈良県新公会堂で開催する運びとなった。この時季は,奈良公園の桜が満開の時期で,新公会堂内にある能舞台とともに,海外からの出席者に喜んでいただけるものと思っている。
 シンポジウム開催を思いたったのは,1990年,ベニスでの螢光造影国際シンポジウム(ISFA’90)の際に林一彦博士(花巻厚生病院)と話し合ったのがきっかけで,二人で第2回日本ICG螢光造影研究会頃から具体的な行動を始めた。その後,Puliafito, Yannuzzi, Delaey, Bran—cato, Coscas, Flowerらの,ICG螢光造影について関心の深い欧米の諸先生方に折を見て国際シンポジウム日本開催を働きかけてきた。当初,1994年春を目標とし,1993年1月に,“第2回は日本での開催にしたい”との日本側関係者の了解のもとにニューヨークの第1回の国際シンポジウムに参加した。そして,第2回シンポジウムの開催は約2年間の間隔をおいたほうがよかろうと,第1回国際組織委員会の席上,「1994年秋,日本」を提案し,林と私が担当する旨も併せて了解を得た。この時,第2回日本ICG螢光造影研究会に招待したPuliafitoは,「次は日本で」と折に触れて積極的に発言してくれた。これは,日本に来てみて,研究会の一般講演のレベルが高かったことも影響していると聞いている。また会場は清水弘一教授のすすめもあって,環境の整った奈良県新公会堂に決定した。また,1993年6月に盛岡で開催された第4回日本ICG螢光造影研究会の世話人会で国際シンポジウム開催に当っての協力をお願いした。
 その後,紆余曲折はあったが,国際組織委員は第1回シンポジウムの時のメンバーをほぼ引継ぎ,OrganizingCommittee(chairman)として松井瑞夫教授(日大駿河台),Secretary Generalとして三木徳彦(大阪市大),Scientific Committee(chairman)として林一彦博士(花巻厚生病院)からなる組織が決定した。

日本ICG螢光造影研究会の歴史

著者: 林一彦

ページ範囲:P.62 - P.62

 ICG研究会が発足したのは,5年前の1990年7月27日で,開催地は仙台である。この頃は赤外螢光眼底撮影装置(トプコンTRC−50IA)がわが国に初めて登場してまもない時期であり,ICG螢光眼底造影に興味を持っている人はまだまだ少なかった。ことの発端はICG造影所見の解釈や臨床応用について日頃から意見の交換を行っていた仙台社会保険病院の高久容一先生や日大の湯沢美都子先生と,第28回北日本眼科学会を機会に“研究会を開催しよう”という話が持ち上がったことによる。具体的な準備を始めたのはひと月足らず前のことだったが,トプコン(株)高須正行氏のご尽力によりICG螢光造影に興味を持っている全国の大学や病院に連絡をとることができた。当日の参加者は二十数名で,一般演題も7題と少なかったが,白熱した討論のためか予定された2時間も瞬時に終了したような印象を受けた。この会の開催により「ビデオシステムによるICG螢光造影は画像が悪いため臨床応用には耐えない」という一般的概念は払拭されたものと思う。
 次回の開催については全く白紙の状態であったが,同年9月VeniceのInternational Symposiumon Fluorescein Angiographyに同席した,大阪市立大学の三木徳彦教授が引き受けて下さるということになった。そして,1991 7月6〜7日に第2回ICG螢光造影研究会が大阪で行われた。集まった一般演題は14題と倍増し,さらにDr, C, A. Puliafito(Harvard Medical School, U. S. A. )による特別講演があった。この会で世話人会が発足し,発起人の3名(高久,林,湯沢)に宇山昌延教授,松井瑞夫教授,松尾信彦教授,三木徳彦教授が加わり,ICG螢光造影研究会を年1回,7月頃に開催することが決まった。

眼科の控室

右手は清潔

著者:

ページ範囲:P.106 - P.106

 テレビで料理番組を見ていました.タイトルは「包丁人」だったかと思います。
 プロの調理師がタレントの人に料理の基本を教えるのですが,魚や野菜など,料理の材料は左手だけで持ち,右手ではさわらないことを,繰り返し強調しているのが印象的でした。右手は包丁専用であり,包丁の柄を汚すことは料理人の恥なのだそうです。
 同じことを,むかし新人として眼科の研修をはじめた頃,兄弟子から厳しく教え込まれたものです。患者さんの顔に触れるのは左手だけであり,右手は細隙灯顕微鏡や検眼鏡を操作するために,常に清潔にしておくという話なのです。

連載 眼の組織・病理アトラス・99

網膜神経節細胞の形態と中枢投射

著者: 久保田敏昭 ,   猪俣孟

ページ範囲:P.110 - P.111

 網膜神経節細胞の軸索である網膜神経線維は視交叉上核,外側膝状体背側核・腹側核,視床枕核,視蓋前域,上丘,副視索核に終止する。外側膝状体背側核は直接に視覚領に投射し,視覚性認識に関与し膝状体系視覚路を形成する。一方,上丘や視蓋前域は,視床核を介して皮質に投射するところから,非膝状体系視覚路の一部を形成する。これらの経路はそれぞれ網膜地図(retinotopicmap)を保持している。以上の解剖学的所見は神経の軸索流を利用し,HRPやオートラジオグラフィーを使った神経線維連絡の研究で明らかにされた(図1,2)。
 解剖学的には,Cajalの研究以来多くの研究者によって網膜神経節細胞には形態の異なるいくつかの型があることが指摘されていた。一方,微小電極法が導入されてから網膜神経節細胞の機能が調べられるようになった。温血脊椎動物ではネコについて最もよく調べられ,機能の異なるX,Y,W型の3群に分類されている。X細胞は樹状突起を網膜平面上の狭い領域に密に張り出す小型の細胞で,解剖学的分類ではβ細胞にあたり,Y細胞は樹状突起をまばらに広く張り出す大型の細胞でα細胞にあたる。網膜面の明るさに反応するW細胞の一種は,細胞体はX細胞よりもさらに小さいが,細い樹状突起を広く張り出す細胞で,γ細胞の一種とされるδ細胞に相当する。これらの数種類の網膜神経節細胞はその機能から中枢投射の部位にも違いがある。例えば視覚性認識の中継核である外側膝状体背側核のA層,A1層にはX細胞とY細胞が投射し,C-C2層にはW細胞が投射する。滑動性眼球運動の中継核である上丘にはY細胞とW細胞が投射する。ヒトの網膜神経節細胞は解剖学的にlarge parasol cell, midget ganglion cell, small parasol cellに分類されており,機能的にもX,Yの神経チャンネルが存在することが知られている(図3,4)。

眼科手術のテクニック—私はこうしている・73

角膜切開による白内障手術(2)—前嚢切開から創の閉鎖まで

著者: 小松真理

ページ範囲:P.114 - P.115

 角膜切開白内障手術が満足のゆく結果になるか否かは,最初の切開が正しく行われるか,次には切開の構築を崩さない術操作が行われるかにかかっている。切開については前回述べたので,本稿では切開以降の術操作の留意点について考える。

眼科図譜・336

毛様体皺襞部裂孔の検査法

著者: 飯島幸雄

ページ範囲:P.118 - P.119

緒言
 毛様体皺襞部裂孔は毛様体皺襞部の無色素上皮の裂孔で,網膜剥離を発症する。これはそれよりも後方の裂孔とは,病態が異なる。相違点は,水晶体と連結しているチン小帯の牽引によって発症すること,および,眼球内前方部の非常に観察しずらい部位に存在することである。したがって,当然,検査法も異なる。裂孔は,外傷性1),特発性2,3),水晶体嚢外摘出術術後4)の3種類に分類されるが,ここでは,比較的多くみられる特発性のタイプの検査法のコツを紹介する。

臨床報告

汎網膜光凝固眼の広角赤外螢光眼底造影所見

著者: 須藤憲子 ,   村岡兼光 ,   得居賢二 ,   高橋京一

ページ範囲:P.121 - P.127

 走査レーザー検眼鏡(SLO)を用いた赤外螢光眼底造影により,汎網膜光凝固後の脈絡膜循環を観察した。筆者らが開発した広角造影法を併用して,正常眼10眼と汎網膜光凝固後の増殖糖尿病網膜症19眼を検索した。この方法により,渦静脈を越える周辺まで脈絡膜血管を観察できた。汎網膜光凝固後には,全例で光凝固部全体の螢光輝度が低下していた。個々の光凝固斑ではベール状螢光が欠如し,脈絡毛細管板の閉塞と考えられた。光凝固斑を横切る脈絡膜血管が観察可能であり,光凝固領域全体の脈絡膜血管は光凝固前に比べ狭細化していた。治療量の汎網膜光凝固後では,脈絡毛細管板の閉塞と脈絡膜螢光輝度の低下があり,これは脈絡膜血液量の減少と判断され,さらに,脈絡膜血管の狭細化が起こっていた。

網膜下螢光色素の貯留像を示したpit-macular症候群の1例

著者: 鈴木純一 ,   関根伸子 ,   竹田宗泰 ,   新井勉

ページ範囲:P.129 - P.133

 特異な螢光眼底像を示すpit-macular症候群の1例を経験した。患者は40歳男性で左眼の乳頭耳側に視神経乳頭ピット(pit of the optic nerve head)とそれに連なる二重輪様所見を呈する漿液性網膜剥離を認めた。螢光眼底撮影では漿液性網膜剥離部に一致した螢光色素の網膜下貯留の所見とその内部の初期からの過螢光の所見を認め,また視神経乳頭血管および乳頭耳側からの脈絡膜からと思われる螢光漏出がみられた。これらの所見から本症例は螢光色素の網膜下貯留を示したpit-macular症候群と考え,網膜下液の由来について考察した。

腎透析患者に発症した多発性後極部網膜色素上皮症

著者: 松田直子 ,   山口玲 ,   林倫子

ページ範囲:P.135 - P.139

 両眼の多発性後極部網膜色素上皮症(MPPE)を発症した腎臓透析中の患者を経験した。初診時に網膜血管炎,硝子体混濁を伴う後極部の扁平な漿液性網膜剥離を認めたため副腎皮質ステロイド薬(プレドニン®)治療を開始した。網膜血管炎,硝子体混濁は軽快したが,両眼の胞状剥離をきたしたので螢光色素漏出部に対してレーザー光凝固を行った。ステロイドによりMPPEが悪化したという報告もあるが,本症例ではステロイドは血管炎鎮静化に寄与していると考えられた。MPPEの発症メカニズムについて考察を加え,胞状剥離を伴わないMPPE類似疾患と,胞状剥離を伴うMPPEとは区別したほうがよいと考えた。

新生血管を伴う周辺型糖尿病網膜症の1例

著者: 新城光宏

ページ範囲:P.141 - P.144

 糖尿病網膜症における基本的な変化は,中間周辺部での網膜血管病変であることが示されている。また,黄斑耳側部位では血管床閉塞の程度は他の部位に比べて軽度の変化しか示さず,新生血管の発生頻度も比較的少ないことが示されている。
 筆者は,基礎疾患として糖尿病を有する51歳の女性に,白内障手術後,糖尿病網膜症の増悪をみ,両眼耳側周辺部網膜にのみ白線化血管の形成を伴う幅広い無血管野と網膜新生血管を生じた症例を経験した。周辺部網膜に無血管野を生じる疾患は幾つかあるが,糖尿病網膜症を除き相当する疾患は認められなかった。周辺型糖尿病網膜症は一般に進行が遅く,予後は良好であるとされているが,このタイプでも増殖性変化をとる可能性に留意しておく必要があるのではないかと考えた。

糖尿病網膜症7年間の追跡調査第2報HbA1値との関連

著者: 秋澤尉子 ,   相磯嘉孝 ,   高原真理子 ,   土信田久美子 ,   松原明子

ページ範囲:P.145 - P.149

 1984年〜1990年の7年間,都立豊島病院内科および眼科で経過観察したインスリン非依存型糖尿病患者75名150眼の網膜症とHbA1値を追跡調査した。1)網膜症なし群は単純網膜症群に比し有意にHbA1値が低かった。網膜症発症率は,HbA1値が高値になるに従い高くなる傾向を示した。発症群は非発症群に比し,3年後,5年後は有意にHbA1値が高値であったが,7年後は有意差がなかった。2)単純網膜症群の悪化率はHbA1値が高値になると有意に高くなった。悪化して増殖網膜症になった群は,他の単純網膜症群に比し有意にHbA1値が高値だった。3)増殖網膜症群では予後とHbA1値との間に明らかな関連はなかった。

特発性脈絡膜出血の1例

著者: 助川俊之 ,   花崎秀敏 ,   木村顕子

ページ範囲:P.151 - P.154

 強角膜ぶどう腫および慢性緑内障を基盤として特発性駆逐性脈絡膜出血の前段階である特発性脈絡膜出血を示した症例を報告した。患者は41歳の女性で数日前から右眼痛と流涙を認め,排便時に力んだ際に突然右眼激痛と頭痛をきたした。両眼に著明な強角膜ぶどう腫,角膜混濁,角膜への結膜上皮侵入を呈し,右眼角膜中央部にはフルオレスチン液の貯留があり,ザイデルテストは陰性であった。眼底は角膜混濁のため透見不能であった。右眼は視力0であり,眼圧コントロール不能な緑内障を呈し,眼痛が著しかったため右眼球摘出術を行った。病理診断にて角膜潰瘍,前房消失,脈絡膜出血があり,脈絡膜出血による続発緑内障と診断された。

C型慢性肝炎治療経過中に見られたインターフェロン網膜症

著者: 岸本直子 ,   有地美和 ,   山田紫織 ,   白紙靖之 ,   上原雅美

ページ範囲:P.155 - P.159

 インターフェロン(IFN)投与中のC型慢性肝炎患者の眼底検査を施行し,24例中10例(42%)に網膜症を認めた。網膜症は視神経乳頭周囲の綿花様白斑と少数の線状網膜表層出血を特徴とし,IFN投与を継続しても自然に消退した。網膜症発症例では非発症例に比べて高齢者が多く,IFN投与による肝機能障害の回復も著明であった。血小板減少や貧血の程度,治療前の肝機能障害や高脂血症の程度には両者間で差がなかった。IFNα2aはIFNβよりも網膜症発症率が高く,投与方法や投与量の違いによると思われた。IFNを投与される患者では,眼科的検査が必要である。

模型水晶体眼より推定したヒト核白内障眼の視機能評価

著者: 坂本保夫 ,   西本圭之輔 ,   佐々木一之

ページ範囲:P.161 - P.166

 核白内障眼の視機能を具体的に把握する目的で,核混濁模型水晶体を試作し,混濁程度に伴う水晶体解像力の低下を分光透過率,空間周波数特性(MTF),および模型水晶体を通して得られる像から評価した。模型水晶体は2枚のガラスレンズを張り合わせ,中心の空洞部にラテックスの懸濁液を注入して作成した。混濁程度はScheimpflug画像からの散乱光強度測定により定量判定した。分光透過率は混濁程度の上昇に伴い低下する傾向を示したが,可視光域では程度Ⅲでも15%の低下しかみられなかった。MTFも混濁が増すにつれて低下を認め,混濁程度Ⅲ前後から顕著な低下傾向を示した。シミュレーション像からは,混濁程度Ⅱを越えるあたりから像のコントラスト,および明度の低下を認めた。核混濁(白濁)に伴う,視認性への影響は混濁程度Ⅲからと推測された。

超音波白内障手術における点眼麻酔とテノン嚢下麻酔の比較検討

著者: 徳田芳浩 ,   恩田健 ,   内海榮一郎 ,   吉富文昭

ページ範囲:P.167 - P.171

 超音波白内障手術において,点眼麻酔のみの群(点眼群)と点眼麻酔とテノン嚢下麻酔を併用した群(テノン嚢下群)につき,疼痛の発生頻度を比較検討した。手術侵襲が虹彩毛様体に及ぶ,内眼操作を多く含む過程では,疼痛の訴えの頻度は,点眼群219眼中14眼(6.4%),テノン嚢下群210眼中12眼(5.7%)と,有意差は認められなかった。しかし,その直後の外眼操作を多く含む過程では,点眼群219眼中17眼(7.7%),テノン嚢下群210眼中7眼(3.3%)と,点眼群のほうが有意に疼痛の訴えが多かった。以上のことから,虹彩毛様体組織は,外眼部の有する体性痛とは異なる痛覚受容を持つことが示唆された。

内頸動脈閉塞による血管新生緑内障の治療例

著者: 長町のぞみ ,   関根伸子 ,   鈴木純一 ,   勝島晴美 ,   中川喬

ページ範囲:P.173 - P.177

 内頸動脈閉塞による眼虚血症候群で生じた血管新生緑内障の1例を経験した。患者は58歳男性,右眼に虹彩ルベオーシスと高眼圧が認められ,螢光眼底造影で腕—網膜循環時間が遅延しており,頸動脈造影にて右内頸動脈完全閉塞と診断された。比較的早期に汎網膜光凝固術,汎虹彩光凝固術,トラベクレクトミーを施行し,良好な眼圧コントロールと視力を得た。片眼性の網膜症や血管新生緑内障を見た場合,眼虚血症候群の可能性を念頭におくとともに全身的検索を行い,早期発見,早期治療を行う必要があると思われた。

Apraclonidine点眼の球後麻酔後眼圧に及ぼす効果

著者: 石井清 ,   新家真

ページ範囲:P.179 - P.182

 球後麻酔は眼窩内圧上昇による眼圧を上昇させる作用を有している。白内障手術眼にApra—clonidine術前点眼を行い,特に球後麻酔前後の眼圧を検討した。対象は35眼の老人性白内障手術予定眼であり,手術開始60分前に手術眼に,1%Apraclonidine (処置群)もしくは基剤(基剤群)を点眼し,術前の眼圧経過を二重盲検法にて測定した。なお,球後麻酔は4mlの2%mepivacaineにより,Honan's balloonを用いて40mmHg,5分間の後圧迫を行った。術前平均眼圧は両群ともに約16mmHgであったが,球後麻酔直後は基剤群24.9mmHg,処置群18.0mmHgと上昇した(p<0.01)。圧迫後に基剤群16.6mmHg,処置群13.4mmHgに下降した(p<0.01)。球後麻酔および圧迫後の眼圧は処置群で平均6.9および3.2mmHg低かった(p<0.01)。
 1%Apraclonidine点眼は白内障手術予定眼の球後麻酔による眼圧の上昇を効果的に抑え,本剤点眼による球後麻酔後の圧迫時間を大幅に短縮できる可能性が示された。

眼中枢神経系悪性リンパ腫の1例

著者: 豊田浩司 ,   金子尚生 ,   片岡基 ,   高橋裕忠 ,   和田泉 ,   宇治幸隆

ページ範囲:P.183 - P.186

 66歳女性の右眼内悪性リンパ腫の治療経過を報告した。4年前に小脳原発悪性リンパ腫を発症しており,放射線による治療を受けていた。また他にリンパ腫の所見がないことから,Hidayatの分類による,中枢神経系悪性リンパ腫を併発する眼内悪性リンパ腫Type1と診断された。本症例に放射線治療を施行したところ,腫瘍は縮小し瘢痕化した。

灰白質に多巣性病変がみられた視神経炎の1例

著者: 宇都宮三和子 ,   小澤哲磨 ,   武田克彦

ページ範囲:P.187 - P.191

 患者は,1986年5月に右視神経炎を,8月に左視神経炎を発症し,その約1年後に視力改善が見られた31歳の男性。視力改善の後,全身痙攣発作で始まる神経症状が5年間にわたり多発し,MRI (T2強調画像)では主として灰白質に,またわずかに白質にも多発する病変を認めた。多発性硬化症にしては,MRI所見も非典型的で,いまだに確定診断がついていない。多発性硬化症といわれていた症例のなかにも症状を現わしにくかった灰白質を好んで侵す,多発性硬化症類縁の疾患が存在する可能性があると考えられた。

マイアミ留学記・その9

がんばれ日本

著者: 谷原秀信

ページ範囲:P.194 - P.195

 今回はまるでオリンピックの応援みたいな題ですが,日本人研究者の活躍について。留学中は当然のことながら,日本の学会や邦文誌ではなく英文誌を通して眼科の最新知識を学びます。そこで最近特に強く気がつくのが,日本人研究者の活躍です。私の専門領域,というか関心の強い分子生物学では,たとえばDr.Dryjaの研究室で網膜色素変性症や白点状網膜症がペリフェリン遺伝子の異常により惹起されることを発見した梶原先生がいます。1994年には,複数遺伝子が関与して遺伝子病に至るという大胆な仮説を発表しました。彼の研究は「Nature」,「Science」誌といった権威誌に掲載されたことが示すようにきわめて高い質の業績であり,たぶん私の世代の日本人眼科医の業績がかつてのDuke-Elderのような格式高い教科書に引用されるとすれば,彼の業績だと思っています。本邦眼科において分子遺伝学研究の導入期,「アメリカで見つかった遺伝子異常を確認しているだけで,日本にしか通用しないんじゃないか」という批判が一部にありました。ところが,この2,3年の論文をみると「Arch Ophthal—mo1」,「Am J Ophthalmol」誌などの眼科権威誌に,東北大,慶應義塾大,順天堂大などで行われた“100%made in Japan”の論文が次々と掲載されています。上記の批判に対して,優れた質の研究内容の論文発表の事実をもって反論した,といえます。最近の欧米誌で日本人の名前をみないでいる方が難しい状況になっています。また日本から欧米誌に臨床研究の論文を発表するのはきわめて難しい,と何度か耳にしました。ところが最近だけでも「trabeculectomy+mitomycinC」,「HTLV-1ぶどう膜炎」,「corneal lattice degenera-tion」,「黄斑部前硝子体ポケット」,「dry eye・ocular-surface」,「ウイルス感染症DNA診断」,「免疫抑制剤」,「HLA遺伝子タイピング」などに関する一連の業績は一流の欧米誌に掲載されただけではなく,それぞれの領域で欧米の模倣ではなくむしろ欧米臨床研究を牽引しているように思います。上記したのはごく一部で,もっとたくさんの素晴らしい“100% made in Japan”の業績があります。基礎研究領域では,それこそ並べきれない程です。ためしに1993年度の権威誌の原著論文のなかでの日本人占有率を見て下さい(表)。

文庫の窓から

眼科一家言

著者: 中泉行信 ,   中泉行史 ,   齋藤仁男

ページ範囲:P.196 - P.197

 文化12年(1815)に杉田立卿(1786〜1845)が訳述した「和蘭眼科新書」などが出版され,わが国の眼科は次第に蘭方眼科を採り入れるようになり,文政6年(1823)にシーボルト(Philipp Franz von Siebold,1796〜1866)が来日して実地医療が行われるようになってからは,漢方眼科から蘭方眼科への移行がにわかに進められるようになった。
 こうした背景にあって,高良齋(1799〜1846)の「西説眼科必読」などの訳述をはじめ,天保年代に入って本庄普一(?〜1846)の「眼科錦嚢」「続眼科錦嚢」,馬島円如(1802〜1855)の「眼科集要折衷大全」等々の漢蘭折衷眼科書が次々と著された。こうした時代,時を同じくして著されたのが本書,「眼科一家言」である。この本は漢方眼科の不備なところを蘭方眼科で補足し,いわゆる和漢蘭折衷眼科書として記述された,いわば当時としては稀にみる眼科臨床治験録ともみられるものなので,本書の概要を紹介する。

Group discussion

色覚

著者: 市川一夫

ページ範囲:P.198 - P.199

 開始に先立ち,世話人の市川が,色覚検査および色覚検査後の異常者に対する指導が一般臨床に普及しないのは,熟練した医師が1時間以上かけて検査指導しても最高152点(38点×4)しか請求できない保険点数の低さが問題であり,われわれのグループとして日本眼科学会に色覚異常の指導料を厚生省に新設していただくようお願いしたとの報告を行った。そして日本眼科学会からは,指導料新設が多くの眼科医の総意であることがわかれば学会として厚生省に働きかける,そのためにも日本眼科学会誌にその趣旨と背景を掲載され学会員の了解を得られたらどうかとの返事をいただいたと報告した。世話人としては,この問題について引き続き本会を代表して努力することを合わせ伝えた。
 93年の演題は,一般講演で先天色覚異常に関するものが6題,後天色覚異常に関するものが1題招待講演が1題の8題であった。また今回も日本臨床眼科学会のご好意で色覚検査講習会を行うことができた。色覚検査講習会を同時に行ったためか,前年同様,例年参加される先生方の他に多数の新たな参加者があり講習会も含め延べ150人程になった。招待講演は,「色覚異常に対する職業適性基準一船舶職員法の身体検査基準一」と題して,慈恵医大の北原健二教授にお願いした。この講演を北原先生にお願いしたのは,93年船舶職員法が改正され,改正後色覚異常者が免許を取りにくくなったとの報道があり,この改正の要点と異常者に本当に厳しすぎるかについて解説していただいた。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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