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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科49巻12号

1995年11月発行

雑誌目次

連載 眼科図譜・346

角膜後面に強い滲出を伴った角膜内皮炎

著者: 松尾俊彦 ,   岡田大造 ,   松尾信彦

ページ範囲:P.1722 - P.1723

緒言
 炎症の場が主に角膜内皮にある疾患を角膜内皮炎という。その特徴としては角膜内皮および実質深層の浮腫性混濁があり,炎症反応として豚脂様角膜後面沈着物が内皮炎の部位あるいはその回りに見られる1)。原因としては角膜内皮に対する自己免疫現象やヘルペスウイルス感染が考えられている1,2)。角膜後面に白色の滲出物を伴った角膜内皮炎を経験したのでここに供覧し,その治療に対する反応性について述べる。

今月の話題

神経堤細胞(neural crest cell)の臨床

著者: 白井正一郎

ページ範囲:P.1725 - P.1729

 頭部神経堤細胞は,発生過程で遊走してさまざまな細胞に分化する。眼では,角膜内皮・実質,虹彩・毛様体実質,隅角線維柱帯,強膜,メラニン細胞,血管周辺細胞,結合組織細胞などが神経堤細胞から発生するが,その障害により多彩な眼および全身の系統疾患が成立する。

眼科手術のテクニック—私はこうしている・83

屈折矯正白内障手術

著者: 深作秀春

ページ範囲:P.1730 - P.1733

はじめに
 白内障手術での乱視問題は視力予後に大きく影響する。従来より,白内障手術時の切開創の縫合方法や縫合糸により術後乱視をコントロールしようとする試みがあった。しかし,切開を縫合することは必ず乱視を引き起こし,かつ縫合糸のゆるみによる乱視の変化が起こる。これが通常の切開創と縫合による乱視問題の本質である。
 そこで,従来は切開創を開く力となった眼圧などの自分自身の力を逆に切開創を閉じる方向に作用する切開創構築が必要となる。筆者は1990年より,自己閉鎖無縫合切開創手術を開始した(図1)。これにより,切開を縫合することにより引き起こされる乱視問題解決と,術後乱視の早期安定化が可能となった。

眼の組織・病理アトラス・109

角結膜類皮腫とGoldenhar症候群

著者: 猪俣孟

ページ範囲:P.1734 - P.1735

 角結膜類皮腫(角膜輪部デルモイド) limbaldermoidは,結膜腫瘍および腫瘍状病変のうち,母斑細胞性母斑に次いで多く,しかも10歳以下の子供ではもっとも高頻度にみられる病変である。主として外側角膜縁に小さな半球状の腫瘤としてみられ,半分は結膜側に,他の半分は角膜側にまたがって存在する(図1)。表面には毛が生えていることが多い。
 角結膜類皮腫は,第一および第二鮒弓bran—chial archの異常発育が原因で,その約30%は全身の発育異常を伴う。角結膜類皮腫に,眼瞼欠損(図2),無虹彩,過剰耳(図3),耳瘻,顎顔面骨形成異常などを伴うものをGoldenhar症候群Goldenhar's syndrome,または眼・耳・脊椎形成異常oculo-auriculo-vertebral dysplasia syn—dromeと呼ぶ。Goldenhar症候群は,あざらし症(サリドマイド児) phocomeliaにみられることもあり,妊娠の第6週ないし第7週頃に母親が感染症に罹患したり,薬物を使用することによってこれらの異常が発生する可能性が指摘されている。

臨床報告

マイトマイシンC塗布を併用したトラベクレクトミー後に発症した角膜潰瘍

著者: 溝口尚則 ,   黒田真一郎 ,   寺内博夫 ,   松村美代 ,   永田誠

ページ範囲:P.1745 - P.1748

 マイトマイシンC (MMC)塗布を併用したトラベクレクトミー術後に角膜周辺部潰瘍を併発した症例を報告した。症例は2回の緑内障手術を受けていた。角膜潰瘍は強膜弁を作成した周辺部角膜に術後2日目に認められ,凹窩(dellen)として発症しその深さは1/2〜1/3角膜厚であり,部分的な角膜上皮欠損を認め,その後改善することなく角膜潰瘍へと増悪し,結膜と血管の侵入を残して治癒した。経過中過大な濾過胞が認められた。これはMMCの作用としての線維芽細胞抑制によるコラーゲン産生能の低下や血流低下,または過大濾過胞による涙液交換障害のためと思われた。

脈絡膜に発生した好酸球性肉芽腫の1例

著者: 野村美香 ,   秋葉純 ,   石子智士 ,   古屋文康 ,   清水亜紀 ,   吉田晃敏 ,   沖坂重邦

ページ範囲:P.1749 - P.1752

 網膜剥離を伴う脈絡膜腫瘤に対して,悪性腫瘍を否定できず眼球摘出を行ったところ,組織学的に好酸球性肉芽腫と診断した1例を経験した。症例は25歳男性で,右眼視神経乳頭の上方に約4乳頭径大のオレンジ色の腫瘤を認めた。螢光眼底造影では,腫瘤に一致する部位に初期より点状の過螢光がみられた。超音波検査では充実性腫瘤を認めた。経過観察中に腫瘤の明らかな増大がみられたため,眼球摘出を行ったところ,病理組織検査で脈絡膜の腫瘤部に多数の好酸球を認め,脈絡膜好酸球性肉芽腫と診断した。本症例では虫体は検出されず,血清中の抗体も陰性であったが,好酸球性肉芽腫の原因として寄生虫感染が疑われた。

ホルミウムヤグレーザーによる強膜穿孔術後の眼圧と角膜形状

著者: 庄司信行 ,   田中俊一 ,   清水公也

ページ範囲:P.1753 - P.1758

 タリウム・ホルミウム・クロミウム・ヤグレーザー(ホルミウムヤグレーザー)による強膜穿孔術後の眼圧変化と角膜形状の変化を23眼について検討した。その結果,生命表法解析による術後1年の21 mmHg以下の眼圧コントロール良好率は,原発開放隅角緑内障群78%,続発開放隅角緑内障群70%であった。角膜皺襞によって生じた術後の角膜乱視は,照射数の多かった症例ほど遷延化する傾向がみられたが,ほぼ6か月で術前の状態に改善した。ホルミウムヤグレーザーによる強膜穿孔術は,従来の線維柱帯切除術に比べて結膜の侵襲が少ない,眼内操作が不要,短時間で施行できるなどの利点を持ち,外来通院によっても行える方法であると考えられた。合併症として虹彩嵌頓が68%にみられ,良好な眼圧コントロールを得るためには,この合併症を予防することが重要と考えられた。

ブスルファン長期投与後に生じた白内障の1例

著者: 栄田裕子 ,   嵩義則 ,   雨宮次生

ページ範囲:P.1761 - P.1764

 慢性骨髄性白血病のため,4年5か月間,総投与量4,117mgのブスルファンを投与された36歳男性の両眼に生じ,急速に進行した白内障を報告した。同時にこの患者はインターフェロン,ハイドロキシウレア投与および骨髄移植の既往があったが,その際投与された薬物の種類や量と放射線照射を受けていないことなどから,原因薬剤としてブスルファンが最も考えられた。

エキシマレーザー治療が奏効したshield ulcerの1例

著者: 川崎諭 ,   横井則彦 ,   西田幸二 ,   富井聡 ,   木下茂

ページ範囲:P.1765 - P.1768

 春季カタルに合併したshield ulcerに対して,エキシマレーザーによる表層角膜切除を行い,良好な経過をたどった1例を経験した。症例は28歳の男性で,右眼の白内障の術後に生じた遷延性角膜上皮欠損に対し,治療用ソフトコンタクトレンズの装用などの保存的治療を行ったが改善なく,上皮欠損はshield ulcerへと移行した。当院にて上記の治療を行ったところ,術翌日から上皮の伸展,欠損部の縮小がみられ,術7日後には角膜上皮欠損は消失した。エキシマレーザー治療は,shield ulcerに対して有効な治療法の1つになりうると考えられた。

角膜移植後の角膜形状と角膜上皮障害との関連

著者: 山田潤 ,   横井則彦 ,   西田幸二 ,   木下茂 ,   今道正次

ページ範囲:P.1769 - P.1771

 角膜移植後の角膜形状の変化と上皮障害との関連性を検討した。対象は全層角膜移植後の30例30眼で,術後のdonor角膜上に形成される屈曲部の角度(メニスカス角)とdonor角膜の上皮障害(area[A]とdensity[D]の面から0〜3の4段階にスコア化して評価)との関連を検討した。メニスカス角は上皮障害を認めないA0, D0に比べ,上皮障害を中等度,高度に認めるA2, A3・D2, D3で有意に小さく(いずれもp<0.01),移植後の角膜形状変化とdonor角膜上皮障害との間に有意な関連を認めた。メニスカス角は涙液を貯留する働きがあると考えられるため,donor角膜上の上皮障害の一因となっている可能性が示唆された。

メチシリン耐性黄色ブドウ球菌による術後眼内炎の1例

著者: 齋藤あゆみ ,   齋藤了一 ,   北岡隆 ,   嵩義則 ,   雨宮次生

ページ範囲:P.1775 - P.1779

 Methicillin Resistant Staphylococcus Aureus (MRSA)による白内障手術後の眼内炎の1例を経験した。患者は80歳女性で,白内障手術後9日目から眼内炎をきたし,翌日眼内レンズ(IOL)摘出術および硝子体手術を施行した。術前採取した前房水,術中採取した前房水,後嚢,硝子体の培養からMRSAが検出され,感受性のある抗生物質の局所投与および全身投与により眼内炎は治癒した。また,術中摘出したIOLの表面を,電子顕微鏡にて観察したところ,球菌がIOL表面細胞中に多数貪食されているのがみられ,培養結果を踏まえるとそれは貪食されたMRSAと考えられた。

傍中心部視野閾値と視神経乳頭耳側網膜神経線維層変化との関連

著者: 中尾浩子 ,   富田剛司 ,   河野吉喜 ,   北澤克明

ページ範囲:P.1783 - P.1786

 正常眼圧緑内障患者18例30眼を対象として,黄斑部機能に関与すると思われる乳頭耳側の網膜神経線維層の変化と固視点近傍の視野閾値との関連をhigh pass resolution perimetry (HRP)と光弁別閾値視野(DLS)であるHumphrey自動視野とで比較検討した。HRPと神経線維層高レンジ幅とは有意に相関した(p=0.02)が,DLSでは有意な相関がなかった。これより,固視点近傍の網膜感度閾値は乳頭耳側神経線維層の平坦化と相関し,HRPでよく反映されることがわかった。

眼窩内壁骨折16例の手術成績

著者: 岩渕由美子 ,   八子恵子 ,   中村泰久

ページ範囲:P.1787 - P.1790

 手術を施行した眼窩内壁骨折の16症例について,その症状,CT所見,再建材料,手術方法,術後経過などをまとめた。症状は,複視および眼球陥凹が主なものであったが,ほとんどの症例で良好な経過をたどった。内壁骨折も下壁骨折同様,適応のある症例には積極的に手術を行うのがよいと思われた。

自動計測非接触型眼圧計の信頼性

著者: 高橋信夫 ,   水野敏博 ,   村山禎一朗

ページ範囲:P.1791 - P.1794

 368眼の眼圧を自動計測非接触眼圧計(NCT)で3回,ゴールドマン圧平眼圧計(GAT)で1回測定し,相関係数を算出した。GATによる平均値は13.5±2.6mmHgであった。NCTによる1回,2回,3回,平均値,最小値および最大値の全眼平均値はそれぞれ11.4±3.2mmHg,11.4±3.3mmHg,11.5±3.4mmHg,11.4±3.1mmHg,10.3±3.1mmHgおよび12.7±3.2mmHgで,いずれもGATの値より低かった(p<0.01)。GAT値との相関係数は第1回目0.567,2回目0.572,3回目0.565,平均値0.609,最小値0.595,最大値では0.591であり,既報の手動NCTの値より低かった。自動NCTを速やかに改善して,正確な眼圧が測れるようにすべきである。

白内障手術の術式と糖尿病網膜症の進行

著者: 安吉弘毅 ,   横谷健治 ,   三木正毅

ページ範囲:P.1795 - P.1798

 白内障手術および眼内レンズ挿入術を施行した糖尿病患者で,術後1年以上経過観察可能であった69例129眼を対象として,術式と術後網膜症の進行との関連について調査し,計画的水晶体嚢外摘出術(ECCE)と超音波水晶体乳化吸引術(PEA)の優劣を比較検討した。術式別の術後網膜症悪化率は,ECCE群(56眼)は非手術眼群(30眼)に比べて有意に高かった(p<0.05)。PEA群(43眼)は後嚢破損がなければ,非手術眼群との間には有意差がなく,ECCE群に比べて有意に低かった(p<0.05).後嚢破損例では,ECCE群との間に有意差がなかった.この傾向は術前の網膜症の病期にかかわらず,認められた。

先天無虹彩の隅角の組織所見

著者: 浅川学 ,   東範行

ページ範囲:P.1799 - P.1802

 先天無虹彩5例7眼の隅角および周囲組織の病理所見を光学顕微鏡で観察した。いずれも全身合併症があり,早期死亡例のため緑内障の有無は不明であった。全例で隅角線維柱帯の形成不全があり,2眼で線維柱帯細胞は配列が不規則であった。5眼は形成不全が高度で,充実組織となっていた。シュレム管は2眼では存在していなかった。管腔がみられた5眼のうち,1眼はほぼ正常であり,1眼は狭小であった。3眼は細い管腔が多数存在し,通常よりは後方やや外側に広く分布していた。したがって重篤な先天無虹彩では,シュレム管にまでおよぶ隅角組織の発生異常が存在し,これが早期に発症する緑内障の予後不良の原因となるものと推測された。

高安病の赤外螢光眼底造影所見

著者: 須藤憲子 ,   村岡兼光 ,   高橋京一 ,   町田史子 ,   田中隆行

ページ範囲:P.1811 - P.1819

 走査レーザー検眼鏡(SLO)により,高安病5例5眼で広角赤外螢光造影を行い,脈絡膜循環を観察した。造影初期は後極部,静脈相に入ってから周辺部循環を観察した。また,パノラマ眼底像を作成し,眼底全域の脈絡膜循環動態を検索した。その結果,5例中3例に脈絡膜循環異常が存在した。網膜血管吻合期の1例では,著しい脈絡膜循環遅延があり,脈絡膜動脈は拡張し,起始部から周辺まで明瞭に観察できた。また,脈絡毛細管板の螢光輝度は眼底全体で低く,充盈欠損部が多発し,脈絡膜静脈は全体に狭窄していた。毛細血管瘤期の2例中1例では,脈絡毛細管板の斑状の充盈欠損があり,他の1例では循環遅延のみで,形態的な変化はなかった。慢性的に動脈圧が低下する高安病では,脈絡膜循環遅延だけでなく,形態的変化が起こりうることが証明された。これは脈絡膜血管の反応様式を知る重要な知見であると判断された。

カラー臨床報告

滲出性網脈絡膜炎として初発した成人T細胞白血病

著者: 宮代美樹 ,   松島正史 ,   竹内正光 ,   緒方奈保子 ,   西村哲哉 ,   宇山昌延

ページ範囲:P.1737 - P.1740

 白血病細胞の眼内浸潤を初発症状とした成人T細胞白血病(ATL)の1例を経験した。症例は宮崎県出身の45歳女性,左眼硝子体混濁と下鼻側静脈周囲の滲出性病変で初発した。急性網膜壊死の眼底所見を示し,プレドニゾロン,アシクロビルによる治療に抵抗した。病巣は徐々に拡大し,眼底の3分の2周に拡がった。初診から3か月後に初めて末梢血中にATL細胞が出現した。硝子体生検によって,T細胞系異型リンパ球を多数認め,ATL細胞の眼内浸潤と判明した。

虹彩若年性黄色肉芽腫の1例

著者: 佐野雅洋 ,   馬嶋昭生

ページ範囲:P.1741 - P.1743

 右眼の発赤と虹彩上に白色塊を生じた9か月の男児に,角膜混濁と,虹彩上に出血を伴った白色腫瘤がみられた。眼圧は著しく高値であった。副腎皮質ホルモン点眼薬を投与し,虹彩毛様体炎は徐々に軽減した。全身検索では,サイトメガロウイルス抗体価とリュウマトイド因子が陽性を示した以外に異常はなかった。虹彩の若年性黄色肉芽腫と診断した。若年性黄色肉芽腫は日本では稀であるが,類似した他の疾患との鑑別は重要である。

眼科の控室

虹彩炎と隅角

著者:

ページ範囲:P.1808 - P.1808

 隅角検査は,緑内障の診断だけではなく,外傷や炎症の既往がある場合にも有用で必要な情報を提供するものです。
 眼底には,その眼の過去の出来事が集約されて残っています。まるで犯罪現場の諮問のようです。これを解読することで,「現在なにがあるか」だけでなく,「今までになにがあったか」を知る格好の手掛かりになります。

米国の眼科レジデントプログラム

3.マイアミ大学

著者: 綾木雅彦

ページ範囲:P.1820 - P.1821

眼科医研修プログラム
 眼科としては,3年間をレジデント研修として課している。医学部を卒業し12か月のインターンを終えていることが必要である。6名のレジデントが1年目の研修を毎年7月1日に開始し,合計18名のレジデントが研修を受けている。
 6名の選考は大学眼科教授会のMatching Pro—gramにのっとって行われている。当規定に関する問合せはAugust Colenbrander, MD, P.O.BOX 7999,San Francisco, California 94120まで(当院はMatch—ing Programには従っているが,Central ApplicationServices Formsは受け付けていない)。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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