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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科49巻4号

1995年04月発行

雑誌目次

特集 第48回日本臨床眼科学会講演集(2) 学会原著

YAG laser capsulotomyにより眼内レンズが硝子体に落下した1例

著者: 横山順子 ,   濱田潤 ,   西垣昌人 ,   木村綾子

ページ範囲:P.581 - P.583

 YAG laser capsulotomyにより眼内レンズの硝子体中落下,いわゆるsun set phenomenonをきたした1症例を経験した。症例は74歳,女性。右眼の急激な視力低下を主訴として近医で眼内レンズ脱臼を指摘され,手術目的で紹介された。右眼の硝子体手術施行後,レンズを眼外に取り出すことなく,同じ眼内レンズをout of the bagに再固定して整復した。以後10か月間,経過は良好である。

Echo contrast agentを用いたcolor Doppler imaging

著者: 西篤美 ,   石川浩 ,   江見和雄 ,   宇治幸隆

ページ範囲:P.585 - P.587

 Color Doppler imaging (CDI)で,眼動脈,網膜中心動脈,後毛様動脈などの血流速度を計測する際,高血圧,動脈硬化,糖尿病などに伴う網膜血管閉塞性疾患を有する患者では,正常者以上にimagingおよび血流速度計測が難しくなる。今回筆者らは,echo contrast agentとしてAlbunex®およびIntralipos®を用いたところ,造影剤を用いない通常のCDIでは計測不能であったものが可能となった。Albunex®は平均粒子径約4μmの空気小球体,Intralipos®は平均粒子径約0.3μmの脂肪粒子を含んでおり,超音波を強く反射することにより血管造影や血流速度計測を容易にするものである。今回,12例の網膜血管閉塞性疾患患者に使用し,有用と考えられた。

Bloch-Sulzberger症候群の1例

著者: 水本博之 ,   田川博 ,   土田晃 ,   林憲一 ,   伊藤文彦

ページ範囲:P.589 - P.592

 生後8日より網膜病変を観察し得たBloch-Sulzberger症候群の女児の1例を報告する。初診時右眼網膜血管の拡張,蛇行,吻合および網膜出血がみられた。約2週間で出血は消退したが,奇網が形成され,拡大した。生後4週の螢光眼底撮影で周辺部網膜血管閉塞は急速に進行していた。その後奇網は消失したが,周辺部無血管帯の辺縁に生じた境界線から螢光漏出がみられたため,増殖性病変の進行を阻止する目的で生後3か月に限局的な網膜光凝固術を施行した。結果的に境界線は消失,後極側の血管は周辺に伸展し,生後10か月の螢光眼底撮影で増殖性病変はない。病変の進行,治療時期の判断に螢光眼底撮影が重要であると考えられた。

強度近視眼のICG赤外螢光眼底造影所見—Lacquer crack lesionについて

著者: 大野京子 ,   森嶋直人 ,   伊藤睦子 ,   所敬

ページ範囲:P.593 - P.597

 Lacquer crack lesion (L.c.)の26例36眼に対し,フルオレセイン螢光眼底造影(FA)とインドシアニングリーン赤外螢光眼底造影(IA)とを同時に施行して,比較検討した。FAでは,L.c.は全例過螢光を呈したが,IAでは36眼中32眼が,造影後期に低螢光を呈し,しかもそのうち7眼では,IAでの低螢光領域はFAの過螢光領域より長く認められた。その他,IAでは異常螢光がみられない症例が3眼に,IAで造影後期に過螢光を呈した症例が1眼にみられた。L.c.のような幅の狭い脈絡毛細管板の障害では,FAは二次的に網膜色素上皮の萎縮や組織的修復がなされた範囲のみを捉えているのに対し,IAでは,L.c.の基本病変である,Bruch膜の断裂に伴う脈絡毛細管板の障害範囲をほぼ正確に捉えることが可能であった。今後,斑状病変への移行を含めたL.c.の予後を検討する上で,IAは非常に有用であると考えられた。

Mooren角膜潰瘍の免疫組織化学的検討

著者: 庄司純 ,   稲田紀子 ,   斎藤圭子 ,   高浦典子 ,   澤充

ページ範囲:P.599 - P.602

 49歳男性のMooren角膜潰瘍症例で,角膜潰瘍穿孔を生じた際に行った表層角膜移植術時に得られた結膜組織を組織学的に検討した。染色方法は,ヘマトキシリン—エオジン染色,トルイジンブルー染色のほか,免疫グロブリン(IgM, IgG, IgA),リンパ球マーカー(CD4, CD8, CD19),MHC classⅡ抗原(HLA-DR),接着分子(ICAM−1)について酵素抗体法(ABC法)にて染色した。結膜下組織には好中球,形質細胞およびCD4,CD8,CD19陽性細胞の増加があった。結膜下組織にIgGとIgAの沈着があった。結膜下組織の血管は,ICAM−1およびHLA-DRを発現していた。Mooren角膜潰瘍の病態に関与する炎症細胞の浸潤には,結膜下のICAM−1陽性の血管が関与していると考えられた。

PCR法を用いた涙液からの単純ヘルペスウイルスDNAの検出感度

著者: 相馬久乃 ,   西田幸二 ,   足立和加子 ,   木下茂

ページ範囲:P.603 - P.606

 単純ヘルペスウイルス(HSV)培養液の希釈系列を用いてPCR法によるHSV-DNAの検出感度をシルマー試験紙非使用と使用の両条件下で検索したところ,両者ともに10PFU/mlであった。本条件で対象眼(上皮型角膜ヘルペス3例3眼,ヘルペス性結膜炎2例3眼)と正常眼(10例10眼)の涙液中のHSV-DNAの有無を検索した結果,対象眼は全て陽性,正常眼は全て陰性であった。さらに陽性シグナルをイメージアナライザーで定量化することにより対象眼の涙液中のHSV濃度を推定できた。以上より,本条件でのPCR法は外眼部HSV感染症の補助診断に有用で,本方法で涙液中のHSV濃度の半定量化が可能と考えられた。

Multizone切除法によるエキシマレーザー屈折矯正手術

著者: 石川伸子 ,   征矢耕一 ,   松田修実 ,   天野史郎 ,   宮田和典 ,   水流忠彦

ページ範囲:P.607 - P.611

 Multizone切除法によるエキシマレーザー屈折矯正手術を施行した21例28眼について,矯正量6D未満および6D以上に分け,両群間での矯正精度を比較し,また角膜形状不正化の発生頻度および術後矯正視力への影響を検討した。術後視力は,矯正量6D未満群の方が良好であり,術後1か月で統計学的に有意差があった。目標屈折値の±1D以内に達した割合は,矯正量6D未満群では術後3か月で77%,6か月で92%となり,矯正量6D以上群では術後3か月で67%,6か月で80%となった。角膜の変形指数であるsurface regularity index, surface asymmetry indexは,両群ともに術後早期に上昇し角膜の形状の不正化を示し,その後経時的に減少したが,6D以上群の方が有意に変化が大きかった。また術後1か月において矯正量6D以上群に角膜中央部のスティープ化を示すcentral islandsの発生が多く認められ,術後視力の回復を遅らせる原因と考えられた。

白内障手術を施行した後部円錐水晶体の1例

著者: 長田さやか ,   齋藤友護 ,   望月清文 ,   大西克尚

ページ範囲:P.613 - P.616

 後部円錐水晶体を呈する4歳の男児において白内障手術の際に採取した水晶体嚢の病理所見を検討した。2歳時に羞明を主訴として当科を初診した際には右眼に軽度の後嚢下白内障を伴う後部円錐水晶体がみられた。経過観察中に白内障の進行により右眼視力が低下したので,白内障に対する手術を行った。術後にハードコンタクトレンズによる視力矯正と健眼遮蔽を行ったところ右眼矯正視力は術前0.3から術後4か月で0.8へ改善した。病理検査で後嚢円錐部に正常では存在しない上皮細胞層が観察され,本症の発症機序として円錐部の上皮細胞層の異常増殖が考えられた。

鈍的眼外傷により後房眼内レンズが結膜下に脱出した1例

著者: 岸本直子 ,   有地美和 ,   白紙靖之 ,   上原雅美 ,   中嶋基麿 ,   杉本浩一

ページ範囲:P.617 - P.620

 偽水晶体眼が鈍的眼外傷を受け,術創が哆開して眼内レンズが球結膜下に脱出した1例を経1験した。症例は62歳女性で,手術はfornix baseの結膜弁を作成後,角膜輪部の後方約1mmの強膜に7mmの3面切開を行い,continuous curvilinear capsulorhexisを作った。水晶体を乳化吸引後,光学部直径6.5mmの3ピースレンズを嚢内固定し,強膜創は9-0ナイロン糸でshoelace縫合した。術後4か月後に扉の取手で左眼を強打した。9-0ナイロン糸が断裂して術創は哆開し,眼内レンズは上部球結膜下に脱出していた。手術創の狭い白内障手術後4か月を経過しても,強打すると術創が哆開して眼内レンズが眼外に脱出する危険があることが示された。

関節リウマチ患者における眼内レンズ挿入術後の前房炎症

著者: 松尾俊彦 ,   藤原美樹 ,   松尾信彦

ページ範囲:P.621 - P.624

 関節リウマチ患者に眼内レンズ挿入術を行った23例について,術前のリウマチ活動度と術後の前房炎症との相関を検討した。白内障の熟度は,前嚢および後嚢下混濁から成熟白内障まで様々であり,術前には前房炎症を認めなかった。水晶体核の硬度に応じて嚢外摘出術または超音波乳化吸引術を選択した。術後1か月後にもなお前房炎症(1+)がみられる症例(11例)では,前房炎症が全くみられない症例(12例)に比べて術前の血清リウマチ因子が有意に高かった(P=0.0007,対応のないt検定)。前房炎症は全例で術後3か月目には消退し,虹彩癒着や類嚢胞黄斑浮腫などの合併症はみられなかった。関節リウマチ患者では,術前のリウマチ活動度が高いと眼内レンズ挿入術後の前房炎症が遷延化する傾向はあるものの大きな合併症はきたさず,眼内レンズ挿入術は基本的には安全な手術といえる。

経涙小管ドレナージ法が有効であった涙嚢粘液瘤

著者: 妹尾佳平 ,   岩見千丈

ページ範囲:P.625 - P.627

 78歳,女性の涙嚢粘液瘤の1症例について報告した。治療法として,初診日に経涙小管ドレナージ法を行い,腫瘤を消退することができた。後日,涙道内シリコンチューブ留置術を追加して実施した。6か月を経過した現在も涙道の通過性は確保され,腫脹再発もなく,良好な結果が得られた。
 本症例の診断は経涙小管ドレナージ法によって可能となった。また本法は急性涙嚢炎の治療法として紹介したが,涙嚢粘液瘤に対しても有用であると考えられた。

シリコーン眼内レンズ挿入術後のレンズ偏位

著者: 大西健夫 ,   今井正之 ,   木崎宏史 ,   谷口重雄

ページ範囲:P.629 - P.633

 シリコーン眼内レンズを挿入した164眼において,光学部厚が度数とともに増加するレンズ1種と,一定で薄く設計されているレンズ2種を用いて術後のレンズ偏位を測定した。術後3〜6か月(平均4.2か月)の時点で,レンズ偏位は光学部が厚いものは0.40±0.16mm,薄いものは0.31±0.13,0.31±0.14mmであり,前者が有意に大きかった(p<0.01)。また光学部が厚いレンズは20D以上で偏位の大きいものが多く認められた。同時にポリプロピレンとポリイミドの支持部材質の違いによる偏位を検討したが,0.31±0.13,0.31±0.14mmと両者に差はなかった。これらの結果から術後レンズ偏位には,支持部材質よりも光学部厚の関与の方が大きいと考えられた。

Iridocorneal endothelial症候群の2症例

著者: 松野かおり ,   永田征士 ,   山田耕司 ,   崎元卓 ,   瀬川雄三

ページ範囲:P.635 - P.637

 Iridocorneal endothelial症候群と思われる2症例を報告した。症例1は69歳,女性。両眼とも虹彩は萎縮し,1眼の瞳孔は偏位していた。隅角にはほぼ全周でシュワルベ線を越える周辺虹彩前癒着がみられ,1眼には緑内障が合併していた。角膜内皮細胞密度は両眼とも低下していた。以上の所見より両眼性の原発性虹彩萎縮症と診断した。症例2は58歳,女性。片眼に角膜浮腫,混濁,軽度の虹彩萎縮がみられ,隅角もほぼ全周で閉塞していた。角膜内皮は正常のモザイク構造が失われていた。緑内障は合併していなかった。以上の所見よりChandler症候群と診断し,角膜浮腫に対し全層角膜移植を施行した。

緑内障性と非緑内障性視神経萎縮における乳頭篩板孔の定量的分析

著者: 川島幸夫 ,   内田成美 ,   水川憲一 ,   田淵昭雄

ページ範囲:P.639 - P.642

 走査型レーザー検眼鏡を用いて,緑内障性視神経萎縮18例36眼,非緑内障性視神経萎縮16例32眼における視神経乳頭,篩板孔面積について統計的分析を行った。緑内障性視神経萎縮群の篩板孔の平均面積は2,578.4±1,346.1μm2と拡大していたのに対して,非緑内障性視神経萎縮群の篩板孔の平均面積は334.2±103.2μm2と縮小し,両群とも正常対照と有意差があった。緑内障性視神経萎縮では視野障害の進行に一致して篩板孔面積が拡大した。走査型レーザー検眼鏡と画像解析装置を用いて篩板孔の定量評価を行うことにより,視神経萎縮の原因分析と緑内障性視神経萎縮の重症度の評価が可能となった。

Scanning laser ophthalmoscopeの加算平均化処理画像を用いた網膜神経線維層欠損の観察

著者: 松本長太 ,   尾辻理 ,   奥山幸子 ,   丸山耕一 ,   岩垣厚志 ,   大月卓哉 ,   大鳥利文

ページ範囲:P.643 - P.646

 走査型レーザー検眼鏡(scanning laser opthalmoscope:SLO, Rodenstock社)を用いたアルゴンレーザー光による眼底観察は網膜表層所見の描出に有用とされている。しかし,SLOより得られる静止画像にはランダムノイズの混入により画質が劣化するという問題点がある。今回筆者らは,SLOの静止画像に対しパーソナルコンビュータを用いた加算平均化処理を行い,ランダムノイズを軽減させ良質な静止画像を描出する方法を考案した。
 この画像処理法により緑内障における網膜神経線維層欠損所見の良質な描出が可能となった。加算平均処理は,SLOの静止画像を評価する上で有用な画像処理であると考えられた。

増殖性硝子体網膜症における各所見の発生要因

著者: 三浦雅博 ,   出田秀尚 ,   竹中千昭 ,   山本親広 ,   斎木裕 ,   嶋田伸宏

ページ範囲:P.647 - P.651

 増殖性硝子体網膜症(proliferative vitreoretinopathy:PVR)分類(1991年発表)の各gradeと細目所見を発生させる因子を検討するため,PVR分類と,剥離範囲,剥離期間,眼圧,裂孔の形,大きさ,年齢,性別との関係を調べた。対象は1992年3月から1年4か月の間に,当院で手術を行った裂孔原性網膜剥離のうち,内眼手術既往例を除いた295眼とした。その結果,PVR分類と発生要因の関係について検討するときには,PVR分類をgrade別に検討するだけではなく,細目所見について注目することが重要と考えた。

網膜色素変性症患者の末梢リンパ球interleukin−2リセプター

著者: 青木美奈子 ,   真田彰郎 ,   山本和則 ,   川原純一 ,   岩崎琢也 ,   臼井正彦

ページ範囲:P.653 - P.655

 網膜色素変性症患者15例の末梢IL−2Rリンパ球数を健常者15例と比較検討し,その細胞障害性免疫機構について検討した。その結果健常者と網膜色素変性症患者の末梢IL−2Rリンパ球数はそれぞれ年齢との間に相関関係はなかった。網膜色素変性症患者の末梢IL−2Rリンパ球数は健常者との間に有意差がなかった。性別,視野変化,推定発症期間,遺伝形式による末梢IL−2Rリンパ球数は各群,健常者と比較してそれぞれ有意な差はなかった。今回の結果では網膜色素変性症の細胞障害性免疫の活性化は見出せなかった。

脈絡膜毛細管板血管内皮にみられる偽足様構造物

著者: 山本禎子 ,   小幡博人 ,   福田覚 ,   山下英俊

ページ範囲:P.657 - P.660

 正常ヒト眼球47眼の脈絡膜毛細管板血管外表面の微細構造を観察し,すべての眼球の脈絡膜毛細管板に基底膜の断裂部から突出した血管内皮細胞突起を確認した。この血管内皮細胞突起の形態は径が0.1〜0.5μm,長さは0.2〜2μmであり,さらにその内部構造は突起の突出方向と平行に走る線維状構造物で満たされるものが最も多かった。眼球内の他の組織との比較では,血管内皮細胞突起は脈絡膜毛細管板に最も多く観察され,また,その出現方向は網膜色素上皮方向に最も多かった。人種,年齢,性,眼底部位,周囲組織の変化による偽足様突起の出現頻度に差がないことから,本突起は脈絡膜毛細管板の基本的な構造物であることが推察された。

中心性漿液性脈絡網膜症,中心性滲出性脈絡網膜症と屈折

著者: 五嶋摩理 ,   李偉 ,   原田卓 ,   山内啓子 ,   宮永嘉隆

ページ範囲:P.661 - P.664

 31〜59歳の中心性漿液性脈絡網膜症(CSR)88例(男性75例,女性13例)と20〜49歳の中心性滲出性脈絡網膜症(CER)9例(全例女性)について,屈折を調べた。CSR群では,正視〜+2.0Dに分布する割合が患眼で66%,健眼で54%と対照群より高く,屈折の平均値を比較すると患眼,健眼のいずれにおいても対照群と比べ有意に遠視傾向にあった。強度近視眼ではすでに存在している広範囲の脈絡膜萎縮がCSRを生じにくくさせていると考えられた。CER群では患眼の屈折は-1.5D〜-8.25Dであった。強度近視の症例が2例含まれていたが,検眼鏡所見と螢光眼底撮影ではコーヌスや豹紋状眼底などの眼底の近視性変化は強くなく,CER群の脈絡膜の構築を眼底の近視性変化から推察するといずれも軽度から中等度の折視と同等と考えられた。

色素性傍静脈網脈絡膜萎縮症の9例

著者: 田上伸子 ,   宮島理乃 ,   宇山昌延

ページ範囲:P.665 - P.669

 色素性傍静脈網脈絡膜萎縮症の9症例について臨床像を検討した。年齢は7〜56歳,女性3例,男性6例。視力と年齢の相関はなく,萎縮巣が中心窩を含むと視力は非常に低下した。視野は変性に一致した暗点,輪状暗点,マリオット盲点の拡大など多様であった.ERGは正常が2例,準正常が5例,消失が1例であったが,EOGではL/D比が1例を除き全例で低下し,暗順応は測定した5例全例で2次反応が不良であった。EOGおよび暗順応が不良なことから,網膜色素上皮に関連した広範な障害が考えられた。また5年間経過観察した2症例で視野の暗点が拡大し,変性の緩徐な進行が確認された。以上から,本症は網膜色素上皮を中心とした広範な進行性の変性疾患と考えられた。

長期経過観察の可能であった定型的網膜色素変性患者の視野とERG

著者: 明尾潔 ,   佐賀正道 ,   小口芳久 ,   沖坂重邦

ページ範囲:P.671 - P.674

 網膜色素変性患者(散発例と常染色体劣性)の視野欠損の進行が網膜機能をどのように反映しているか,ゴールドマン視野計によるV−4およびI−4視野の面積とERGとを比較することにより検討した。I−4視野と錐体機能を表すphotopic ERGは遺伝形式の有無にかかわらず年齢とともに低下し,I−4視野が広いほどphotopic ERGの電位は大きくなっていた。一方,V−4視野では散発例のみに年齢に従った視野欠損の進行が認められ,散発例の1例以外はすべて検出することが不可能であった。

眼内レンズ挿入術による糖尿病網膜症の進行

著者: 今井雅仁 ,   加藤祐造 ,   阿部圭哲 ,   春山洋 ,   秋山博紀 ,   佐藤進

ページ範囲:P.675 - P.678

 糖尿病患者73例73眼に眼内レンズ挿入術を施行し,術6か月後の網膜症の進行について非術眼と比較して検討を行った。術眼は非術眼に比較して術6か月後に有意に網膜症が進行し,白内障手術そのものによる網膜症悪化は16例21.9%で,不変が57例78.1%であった。単純網膜症眼でもっとも悪化率が高率で,白内障術式,年齢,HbA1C値は網膜症悪化に影響しなかったが,ダイエットのみでコントロールしている患者に比較して,インスリン使用者は有意に術眼の網膜症が悪化した。糖尿病患者の眼内レンズ挿入術後では,網膜症の経過観察が重要であることを再認識した。

光凝固を施行した慢性骨髄性白血病による網膜症の1例

著者: 葉田野孝 ,   藤沢来人 ,   高橋信夫 ,   荒井俊秀

ページ範囲:P.679 - P.682

 慢性骨髄性白血病の急性転化に合併した白血病性網膜症の症例に対し,汎網膜光凝固術を施行後,5か月間経過観察をした。症例は31歳の男性で両眼に網膜静脈の蛇行,Roth斑,網膜出血がみられ,螢光眼底造影では赤道部に毛細血管瘤,無血管野,螢光漏出があり前増殖糖尿病網膜症に類似した所見が得られた。内科的治療に抵抗し網膜症は軽快しないため初診から約2か月後,右眼に対し汎網膜光凝固術を行った。右眼光凝固施行1か月後,左眼に硝子体出血をきたしたため汎網膜光凝固術を行った。本症例では内科的には寛解化には至っていないが,右眼底の病変は鎮静化しており,また左眼底所見にも改善がみられている。白血病性網膜症から増殖性網膜症を生じることが知られているが,その予防および治療のため汎網膜光凝固術が本症例では効果的であったと評価している。

網膜異常血管の変化に伴い網膜の虚血性変化を認めたWyburn-Mason症候群の1例

著者: 松岡里佳 ,   渡辺牧夫 ,   上野脩幸 ,   和田秀文

ページ範囲:P.683 - P.686

 Wyburn-Mason症候群は片側性の網膜と中枢神経系の動静脈先天異常をもつきわめて稀な疾患として知られている。今回筆者らは,4年以上にわたる経過観察により網膜異常血管の変化を認めた9歳女児のWyburn-Mason症候群の1症例を経験したので報告する。後極部に存在するつた状の動静脈吻合は形態が大きく変化し,血管径の拡大および蛇行の変化を認め,周辺部網膜には一部血管の白線化も認められた。螢光眼底所見では,周辺部毛細血管床閉塞およびループ状動静脈吻合の形成を認めた。これらの変化は血行動態の変化に基づく変化と考えられ,静脈還流圧の上昇やsteal現象などの機序が考えられた。

AIDSの初発病変であったサイトメガロウイルス網膜炎の1例

著者: 五島優子 ,   山名敏子 ,   山崎和夫

ページ範囲:P.687 - P.690

 血友病Aで血液製剤を投与され,HIV (human immunodeficiency virus)抗体陽性となり,細胞性免疫能不全でサイトメガロウイルス網膜炎が発症し,臨床的にAIDS (acquired immunodeficiency syn—drome)と診断された1例を経験した。ガンシクロビル,抗サイトメガロウイルスヒトモノクローナル抗体の点滴で網膜病変は消退したが,ガンシクロビルの減量で網膜炎が2度再燃した。ガンシクロビル硝子体内注入を行い,網膜病変は鎮静化したが,ガンシクロビルの点滴中止4週間後に再燃した。

アトピー性皮膚炎に伴う眼疾患の手術成績の検討

著者: 山野辺聡 ,   和田裕子 ,   山田孝彦 ,   玉井信

ページ範囲:P.691 - P.693

 過去5年間に東北大学医学部附属病院眼科において手術を行ったアトピー性皮膚炎に伴う白内障と網膜剥離の症例14例21眼について検討した。白内障手術のみ行った10眼中2眼で術中または術後に網膜剥離がみつかったが,バックリング手術を行い経過良好であった。またアトピー性皮膚炎に伴う網膜剥離の特徴とされる上耳側の硝子体基底部裂孔が全体の50%を占めていた。術後視力予後不良例は患者が白内障による視力低下の進行と思い受診が遅れたため増殖性硝子体網膜症を起こしていた。定期的眼底検査間隔の短縮や視力低下を自覚した時の速やかな受診指導の徹底が必要と思われた。

アトピー性皮膚炎の病型からみた網膜剥離の臨床像

著者: 田邊朝子 ,   安藤伸朗 ,   松村剛一

ページ範囲:P.695 - P.697

 網膜剥離を発症したアトピー性皮膚炎で,皮膚科的所見が明らかな19例につき,皮膚病型により,網膜剥離の臨床像に違いがあるかを検討した,皮膚病型を大きく乾燥型と湿潤型に分類すると,1987〜1992年は80%が乾燥型であったが,1993年以降は,湿潤型が72%を占めた。乾燥型では白内障と前房混濁が有意に多かった。湿潤型では,硝子体基底部裂孔と不定形裂孔の他に,網膜格子状変性を伴わない弁状裂孔や円孔が原因裂孔としてみられた。皮膚病型の違いにより,網膜剥離の臨床像に違いがあった。

裂孔原性網膜剥離眼の網膜下液からのヘルペスウイルスDNAの検出

著者: 溝手秀秋 ,   津村清 ,   坂田広志 ,   楠茂雄 ,   岡田康志 ,   調枝寛治

ページ範囲:P.699 - P.702

 合成酵素連鎖反応(PCR)法を用いて,裂孔原性網膜剥離患者24例の網膜下液から単純ヘルペスウイルスおよび帯状疱疹ウイルスDNAの検出を試みた。また,4例の網膜下液を光学顕微鏡および電子顕微鏡で観察した。網膜下液中には網膜色素上皮が観察されたが,全例で網膜下液から単純ヘルペスウイルスおよび帯状疱疹ウイルスDNAは検出できなかった。

甲状腺機能亢進症の経過中に発症したHTLV-I関連ぶどう膜炎

著者: 山本正洋 ,   坂井裕一郎 ,   西岡木綿子 ,   川野庸一 ,   大西克尚 ,   猪俣孟

ページ範囲:P.703 - P.706

 1994年1月〜5月の外来受診HTLV−I関連ぶどう膜炎(HAU)患者13例中,甲状腺機能亢進症を合併した7例に関して検討した。症例は女性6例,男性1例で,甲状腺機能亢進症で治療中にHAUを発症した。治療としてメチマゾールの投与を受けていた。HAU発症時には甲状腺機能は改善していた。ぶどう膜炎発症時に共通した内科的異常所見はなかった。甲状腺機能亢進症の診断を受けてからぶどう膜炎発症までの期間は1か月〜6年であった。全例に角膜後面沈着,前房混濁,硝子体混濁がみられたが,網膜の病変は軽度であった。
 すべての症例で甲状腺機能亢進症が先行していることから,治療を含めその経過中にぶどう膜炎発症の引き金となる要因があると考えた。

副腎皮質ステロイド治療に抵抗したヒトTリンパ球向性ウイルスⅠ型関連ぶどう膜炎の1例

著者: 片山真理子 ,   滝昌弘 ,   高木則夫

ページ範囲:P.707 - P.710

 症例は45歳の女性で,両眼の霧視を主訴に当科を来院した。初診時,両眼に軽度の前房の炎症と硝子体混濁が,左眼に類嚢胞黄斑浮腫がみられた。プレドニゾロンを30mg/日から投与したが,3か月後に漿液性網膜剥離と強い硝子体混濁を伴って再発した。患者の血清中のHTLV−I抗体価が高く,HTLV−1I髄症を発症しており,その他の異常所見がないことから,このぶどう膜炎をHTLV-Iassociateduveitis (HAU)と診断した。デキサメタゾンを20mg/日から投与したが,6か月後両眼の視神経乳頭浮腫と激烈な硝子体混濁を伴って再び再発した。乳頭浮腫の原因はぶどう膜炎と考えられるため,アザチオプリンを併用して,炎症は軽減した。HAUに漿液性網膜剥離を合併することは稀である。

視神経乳頭ドルーゼンの走査型レーザー検眼鏡所見

著者: 上野珠代 ,   白木邦彦 ,   森脇光康 ,   河野剛也 ,   三木徳彦 ,   川口暢彦

ページ範囲:P.711 - P.714

 右眼は表在型の,左眼は埋没型の視神経乳頭ドルーゼンの症例に対し,走査型レーザー検眼鏡での観察を行った.右眼は共焦点方式,暗視野方式ともに,またヘリウムネオン,ダイオード両レーザーでドルーゼンが描出された。左眼では共焦点方式では両レーザーともに検出されなかったが,暗視野方式を用いることにより,両レーザー,とくにヘリウムネオンレーザーで,ドルーゼンと思われる部位が高輝度に描出された。視神経乳頭ドルーゼンは組織学的に散乱光を生じやすいと考えられるため,表在型のみならず埋没型の診断にも,散乱光をとらえやすい走査型レーザー検眼鏡を用いた暗視野方式での観察が有用であると思われた。

外側後脈絡叢動脈閉塞による外側膝状体梗塞の1例

著者: 内田雅仁 ,   篠田久治 ,   田中英夫 ,   柏井聡

ページ範囲:P.715 - P.717

 外側後脈絡叢動脈閉塞による外側膝状体梗塞の1例を経験した。57歳,男性。突然の両眼霧視を自覚し,当科受診した。翌日当科入院となり,ゴールドマン視野計とオクトパス自動視野計による視野検査で黄斑部回避を伴わない特有の扇形の左同名性半盲を認めた。CTでは視覚路には特に異常がなかったが,MRIではT2強調画像にて右外側膝状体領域に限局した巣状の高信号強度像が描出された。MRIの所見と視野欠損の形状から外側後脈絡叢動脈の閉塞による脳梗塞と診断した。

眼科領域にみられたmucoepidermoid carcinomaの2例

著者: 響徹 ,   鈴木純一 ,   小成賢二 ,   中川喬 ,   佐藤昌明

ページ範囲:P.719 - P.723

 涙腺と下眼瞼にそれぞれ発生したmucoepidermoid carcinomaの2例を経験した。症例1は右涙腺部の腫瘤で全摘出術を行った。症例2は4年前からの左下眼瞼の眼瞼結膜腫瘤で,2mmの健常部をつけて切除した。2症例ともに病理組織学的に扁平上皮様細胞と粘液産生細胞が胞巣状に増殖し,間質が発達した腫瘍で,粘液産生細胞と嚢状に拡張した腔内の粘液がPAS, PAS—アルシアンブルー染色で陽性に染色され,mucoepidermoid carcinomaと診断された。2例とも経過良好で現在のところ再発,転移を認めていない。

眼部脂腺癌9例の検討

著者: 杉浦雄介 ,   宮崎茂雄 ,   鈴木聡 ,   下奥仁 ,   河合勝也

ページ範囲:P.725 - P.728

 眼部脂腺癌9例(眼瞼部8例,涙丘部1例)の治療法と転帰について検討した。最大径5mm以下の眼瞼部脂腺癌3例では2mmの健常部をつけて,また最大径10mm以上の5例では7〜10mmの健常部をつけて切除を行った。後者の群の1例に転移,他の1例には転移による死亡が認められた。眼瞼部脂腺癌は外見上,霰粒腫と鑑別が困難な例があるので,高齢者で霰粒腫様症状を認めたときには,積極的に眼瞼部脂腺癌を疑い,まだ腫瘍の小さい早期に悪性腫瘍であることを考慮した治療を開始すべきであると推論された。

外傷性視神経症の視野

著者: 奥沢正紀 ,   初田高明

ページ範囲:P.729 - P.731

 外傷性視神経症にみられる視野欠損の様相は症例ごとに異なっており不規則なものが多く,それらの損傷部位は視神経管内とされているが,それ以外の部位の損傷によると思われる自験例16例について残存視野の状態とその経時的変化を調べ,視神経疾患に関するこれまでの知見をもとに各症例の損傷部位と病態について検討した。残存視野を5つのパターンに分け,それぞれ不規則欠損型6例,傍中心暗点型5例,消失型3例,鼻側欠損型1例および下方欠損型1例であった。下方欠損型の損傷部位は螢光眼底造影の結果から視神経乳頭付近で,その病態は血液循環障害であると考えられた。

飯山赤十字病院における眼部スキー外傷

著者: 黒岩さち子 ,   寺島紀子 ,   阪口雄二 ,   瀬川雄三

ページ範囲:P.733 - P.735

 スキーによる眼部外傷の実態を調査検討した。期間は1991年12月〜1994年4月の3シーズンである。毎年1,200例以上のスキー外傷患者が来院しており,頭部顔面外傷患者の占める割合はこの3年間で6%増加していた。その中でも半数近くを顔面裂傷患者が占めた。
 眼部の外傷も,1992年が33例,1993年が56例,1994年が61例と増加していた。眼瞼裂傷が最も多く,中でも眼窩底骨折の増加は著しく,今後安全対策の検討が必要であると考えられた。

外傷性眼球破裂の予後

著者: 斎藤了一 ,   山川慶太 ,   三島一晃 ,   北岡隆 ,   雨宮次生

ページ範囲:P.737 - P.740

 眼球破裂の明確な定義は現在のところなされていない。筆者らは,眼球破裂の定義を(A)鈍的外力による強膜創が角膜輪部より6mm以上後方に生じている場合,(B)強膜創が角膜輪部より6mm以上後方まで生じており,創の形成に鈍的外力,鋭的外力ともに作用した可能性があるが,眼内異物は証明されていない場合とし,当科を過去約8年間に受診した32眼について検討を行った。
 受傷患者は,30歳台を頂点とする山型分布を示し,男女比は約10:1であった。受傷時期は9月が多く,受傷象限は耳上側に多くみられた。角膜輪部から強膜創後端までの距離が10mm以内の症例,当科で積極的に硝子体手術を行うようになった1990年以降の症例は予後良好であった。創が2象限にわたる症例は予後不良であった。

連載 眼科図譜・339

帯状ヘルペスウイルスによる周辺部角膜潰瘍の1症例

著者: 松田彰 ,   中川孝一 ,   阿部乃里子 ,   津田久仁子 ,   田川義継 ,   加藤英夫 ,   長田廉平

ページ範囲:P.566 - P.567

緒言
 帯状ヘルペスウイルスによる角膜病変の1型として周辺部角膜潰瘍が知られているが,その報告例は少ない1,2)。今回筆者らは帯状疱疹罹患後に発症した周辺部角膜潰瘍の1例を経験したのでその臨床像を報告する。

眼の組織・病理アトラス・102

角膜後面沈着

著者: 猪俣孟

ページ範囲:P.570 - P.571

 角膜後面沈着keratic precipitates (K.P.)は,虹彩炎や毛様体炎の炎症細胞,または組織の残滓や病原物質などを貪食したマクロファージが前房内に遊出し,それらが角膜後面に付着した状態をいう。前房内の温度は虹彩付近で高く,体表に近い角膜付近で比較的低い。そのために前房水は虹彩付近で上流し,角膜付近で下流する流れがある。これを温流thermal currentという。温流の関係で,前房内に遊出した細胞や物質は角膜後面下方に沈着する傾向がある。前房内の炎症細胞が角膜内皮細胞に付着する際には,眼内免疫反応が最も強い時期に細胞間接着因子intercellular adhe—sion molecule−1(ICAM−1)が角膜内皮細胞に強く発現し,炎症細胞が角膜後面に付着しやすい状態にある。
 臨床的に,角膜後面沈着は豚脂様角膜後面沈着Inutton fat K.P.微塵状角膜後面沈着fine K.P.,色素性角膜後面沈着pigmented K.P.の3種が識別される。

今月の話題

レーザー角膜屈折矯正術

著者: 澤充

ページ範囲:P.572 - P.577

 エキシマレーザー角膜矯正手術はわが国において臨床治験として実施され,良好な屈折矯正効果が得られている。しかし,術後の視力変動,すなわち,術早期の一過性の過矯正,術後疼痛はほぼ全例にみられている。一方,視力の大きな変動,屈折度の戻り,術後視機能の微妙な問題点に加えて感染症,内皮細胞変化なども報告されており,今後とも十分な管理のもとで評価されるべき術式と考えられる。

眼科手術のテクニック—私はこうしている・76

核分割法—二手法(1)—divide and conquer

著者: 大鹿哲郎

ページ範囲:P.578 - P.580

はじめに
 超音波水晶体乳化吸引術(phacoemulsifica—tion and aspiration:PEA)における核処理法としてdivide and conquer法が導入され,すでに5年が経った。本法の導入は,単に2本の器具で核を分割するといった形而下的な意味合い以上に,PEAに高い戦略性を与え,かつ再現性のある精緻な術式に高めたという点で評価されるものである。現代のPEAは,もはや行き当たりばったりの職人芸ではなく,周到に計画されたアルゴリズムに則って行われる科学的なprocedureである。

眼科の控室

治療保証

著者:

ページ範囲:P.742 - P.742

 外来で患者さんに手術を勧めるときに,「手術で必ず治りますか」とよく質問されます。ときには,「治るものなら手術を受けたい」という形式もあります。
 せっかく手術に踏みきるのなら,治ることを保証してほしいというのが人情ですが,簡単に太鼓判を押してはいけません。手術の成功率は,病状にもよりますが,難しいほうでは糖尿病網膜症があり,網膜剥離でも大概は治りますが,とても100%というわけにはいかないからです。

臨床報告

子癇発作に続発した一過性皮質盲の1例

著者: 柏原俊博 ,   尾上晋吾 ,   三村治 ,   下奥仁 ,   尾崎孝平 ,   丸川征四郎

ページ範囲:P.749 - P.751

 子癇痛発作に伴って一過性に視力低下をきたし,その後全身状態の改善と共に視力の回復をみた30歳女性の1例を経験した.子癇発作後2日目に両眼とも光覚弁にまで視力が低下したが,前眼部,中間透光体に著変はなく,眼底には軽度点状出血を認めるのみであった。
 画像診断で,後頭葉領域に低吸収領域がみられ,血液所見で播種性血管内凝固症候群を生じていた。全身状態の改善と共に脳浮腫は消失し視力も1.0まで改善をみた。このことから脳血管の攣縮による脳低酸素症と毛細血管透過性充進による局所性の脳浮腫が発症の原因と考えられた。

特発性黄斑円孔硝子体手術後の視力と円孔径

著者: 塩谷易之 ,   恵美和幸 ,   五味文 ,   本倉雅信

ページ範囲:P.753 - P.756

 特発性黄斑円孔21眼の術後視力と円孔径の関係を比較検討した。円孔径は術中に眼内に挿入した20Gの硝子体カッターの外径と比較する方法により直接計測した。術後視力と円孔径の間には有意の相関が認められ(r=0.838,p<0.0001),20Gの1/3以下の小円孔例8眼では全例術後2段階以上の視力改善を認め,術後0.4以上の良好な矯正視力を得た。一方,大きな円孔例13眼中術後2段階以上の視力改善を認めたのは4眼(31%)のみであり,また術後0.4以上の矯正視力を得た症例は1眼(8%)のみであった。黄斑円孔の術後視力を予測する上で円孔径は有効な指標となり、小円孔例は硝子体手術の良い適応であることが判明した。

アレルギー性結膜炎に対する塩酸アゼスラチンの治療効果

著者: 岡田和四郎 ,   秦野寛 ,   杉田美由紀 ,   池澤善郎 ,   大野重昭

ページ範囲:P.757 - P.761

 アレルギー性結膜炎患者15例を対象として経口投与による塩酸アゼラスチンの治療効果を臨床的に評価するとともに,涙液中のヒスタミン,ロイトコリエンB4を治療前後に測定した。臨床症状の改善は4週投与で11例73%に認められた。測定された6例の涙液ヒスタミン量は治療前に比し治療後には有意に減少した。また,9例の涙液ロイトコリエンB4量は治療後減少傾向を示した。以上から塩酸アゼスラチン4週間投与はアレルギー性結膜炎の臨床症状を改善するとともに,涙液ヒスタミンを有意に減少させ,ロイトコリエンB4についても減少させる傾向が認められた。

水晶体嚢外摘出術と超音波乳化吸引術後のquality of vision

著者: 本田恭子

ページ範囲:P.763 - P.766

 白内障手術に対する患者の自覚症状を,水晶体嚢外摘出術+眼内レンズ挿入術の群と超音波水晶体乳化吸引術+眼内レンズ挿入術の群(以下PEA+IOL群)で比較するため,当科にて白内障手術を行った患者に対して,無記名アンケート調査を行い結果を検討した。「手術した眼を使っている」「眼鏡を使っている」「使用している眼鏡で不便はない」「眼鏡なしでもよく見える」「手術を受けて良かった」「他眼も手術を受ける」と答えたものの割合は,両群間で有意差はなかった.「手術後の見え方に満足している」「手術後の日常生活に満足している」と答えたものの割合は,PEA+IOL群のほうが有意に高かった。

エキシマレーザーの緑内障手術への応用—Partial external trabeculectomyの手術成績

著者: 高木敬之 ,   桑山泰明 ,   田中正信 ,   竹内麗子 ,   楠哲夫 ,   木下茂

ページ範囲:P.767 - P.770

 波長 193nm のエキシマレーザーを用い,開放隅角緑内障患者14例19眼にpartial external trabeculectomy (PET)を行った。レーザー照射は輪部のblue lineから約1mm後方の強膜に行い,房水が漏出した時点で終了した。上方強膜に施行した16眼でPETが成功し,合併症はなかった。PET成功例では,術翌日から前房深度は保たれ,炎症所見は軽度であった。濾過胞形成は良好で,隅角では照射部が線維柱帯に黒く観察され,穿孔はなかった。術後1か月目の眼圧は,16眼中12眼で19mmHg以下にコントロールされていた。PETは合併症が少なく安全な濾過手術で,熱作用がないので炎症が少なく,濾過胞維持に有利であると考えられた。

眼窩内竹片異物例

著者: 陣林浩美 ,   ブトーイムラン アハムド ,   雨宮次生

ページ範囲:P.771 - P.774

 小児の眼窩内竹片異物の1症例を経験し,CT, MRIによる竹片異物の画像上の解釈について考察した。症例は8歳男児で,近医で眼窩内異物を疑われ当院に紹介された。受傷後2日目と受傷後9日目のCTでは異物は確定できなかったが,その像は明らかに低吸収域から高吸収域へと変化していた。受傷後11日目のMRIではT1強調画像で炎症性肉芽を思わせる高信号域の中に数個の長方形の低信号域を認め,CT像に比してより明確に異物を同定し得た。走査形電子顕微鏡によって異物は竹であることが明らかになった。非金属性眼窩内異物の摘出に際しては,MRI所見から異物の位置に関する重要な情報を得ることができると思われた。

むちうち症の調節と輻輳障害

著者: 筒井康子 ,   松尾俊彦 ,   長谷部佳世子 ,   大月洋 ,   松尾信彦

ページ範囲:P.775 - P.778

 過去10年間に岡山大学医学部附属病院眼科外来を受診したむちうち症7例を対象として,輻輳不全と調節障害の有無,その経過および治療予後について検討した。7例全例に調節力の低下がみられた。輻輳近点を測定できた6例のうち,3例では正常,1例では延長し,2例では輻輳不能であった。輻輳近点の延長と調節力の低下が同時にみられたのは3例であった。調節障害に対しては凸レンズ付加の近用眼鏡を,輻輳不全には基底内方プリズムを付加した近用眼鏡を処方した。経過観察中に自覚症状は改善したが,輻輳機能や調節力の改善はみられなかった。眼科的不定愁訴のあるむちうち症では,調節障害や輻輳不全を念頭に診療にあたる必要がある。

乾燥性角結膜炎患者と正常人での涙液導電率と涙液turnover rate

著者: 小笠原勝則 ,   三林浩二 ,   水流忠彦 ,   宮田和典 ,   軽部征夫

ページ範囲:P.779 - P.783

 新たに開発したフレキシブル導電率センサーを用いて乾燥性結膜炎患者と正常人における結膜嚢内の涙液の導電率を非侵襲的に測定し,涙液の電解質濃度およびturnover rateを求め比較検討した。本法により得られた乾燥性角結膜炎群(n=29),正常対照群(n=33)の涙液電解質濃度は,それぞれ324.8±41.0mEq/l,296.4±30.1mEq/lで,両者間には有意差があった(P<0.01)。また涙液turnover rateは乾燥性角結膜炎群(n=19)において21.1±7.4%/minであり,正常対照群(39.8±14.0%/min;n=27)に比較し有意に低下し(p<0.01),両群間の涙液動態の相違の存在が推定された.

カラー臨床報告

レーザー細隙灯顕微鏡の黄斑疾患診断への応用

著者: 清水恵美子 ,   桐生純一 ,   小椋祐一郎

ページ範囲:P.745 - P.748

 従来の細隙灯顕微鏡による観察に加え,レーザー細隙灯顕微鏡を併用して,黄斑部病変の観察を行った。543.5nmのヘリウムネオンレーザー光は,従来の光源に比較して,脈絡膜からの散乱光の減少によるコントラストの向上,スリット幅の減少による解像力の改善などの点で優れている。従来の細隙灯顕微鏡検査に併用でき,細隙灯顕微鏡自体のスリット幅は広いままで十分な光の下で観察可能であるため,黄斑部における位置の確認も容易である。このため従来の細隙灯顕微鏡検査では観察困難であった後部硝子体や網膜の微細構造が,立体的かつ簡便に観察できるようになった。レーザー細隙灯顕微鏡の併用は,黄斑部の円孔や嚢胞などの鑑別診断や病態診断に有用で,重要な情報を提供できると考えられた。

第48回日本臨床眼科学会専門別研究会1994.11.4幕張メッセ

ぶどう膜炎—日本癌どう膜炎・眼免疫研究会

著者: 小暮美津子

ページ範囲:P.787 - P.789

 第27回日本ぶどう膜炎・眼免疫研究会は11月4日(金)午前9:00から正午まで千葉幕張メッセ,コンベンションホール・Bにて行われた。松井瑞夫臨眼会長(日本大)のお世話で大変広い会場を用意していただき,ゆったりとした雰囲気の中にも学際的な緊張感がただよっていた。
 今回はテーマを「ぶどう膜炎の統計」と「全身疾患を伴うぶどう膜炎」にしぼり別表に示した18演題の口頭発表が行われた。

眼科と東洋医学

著者: 竹田眞

ページ範囲:P.790 - P.791

 本年は当専門別研究会には8題の一般演題が発表された。また一般演題終了後山本昇吾先生(山本眼科)の司会のもとに当会で発表された症例の以後の経過について討論された。一般的に学会での発表は(特に薬物効果や手術効果については)一度限りのことが多く,長期followなしで学会の常識になってしまうことが多い。東洋医学でも同じことで,長期経過観察なしではその有効性に疑問があるとの山本・仲河両先生の御意見に従いこの企画ができた。
 会場は例年の約半分の広さと座席数であり,一度座ってしまうとなかなか移動できない状態であった。このためこれから東洋医学にchallengeしようと考えて顔を出された先生方が入りにくく残念であった。しかし広くない部屋であったので,マイクを使用せず討論できたのは,大きな利点であったと考える。なぜなら一度マイクの前に立てば,正しい日本語で話さなければならない気持ちとなり,実のある討論にならないことが多いからである。このためもあり,研究会はいつものことながら多少遅れ気味で進行した。

レーザー眼科学

著者: 岡野正

ページ範囲:P.792 - P.793

 応募演題12題を全て採用した。座長を戸張教授,宇山教授にお願いし,筆者も分担した。1〜4を筆者が扱い,5〜8を戸張教授,9〜12を宇山教授に進めていただいた。以下,発表順に記載する。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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