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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科49巻5号

1995年05月発行

雑誌目次

特集 第48回日本臨床眼科学会講演集(3) 特別講演

硝子体とその空間—眼内組織とのかかわり

著者: 玉井信

ページ範囲:P.827 - P.833

緒言
 硝子体が混濁したために視力が低下してもなす術もなかったのはそれほど遠い過去ではない。硝子体手術の基礎的研究が連続して発表された1970年代前半は,“なるほど”と思ってもその手術器械が発売された以後に起きた普及と急激な眼科手術の変革まで予測した人は少なかったに違いない。時代の要請もあったし,時を同じくして発達したレーザー光凝固装置,顕微鏡手術の普及他もろもろの要素が深くかかわっている。もちろん手術効果が絶大だったことが普及のために大きな力となった。
 このような経過ではあったが,自らの取組の経緯を振り返えると初期は慎重であった。慎重になった原因の1つは脳と同じ組織である網膜に直接触れることや,眼底は微小血管がむき出しであることにあった。しかし注意さえすれば良い結果が得られるため,その後は華々しい器具の開発,灌流液の改良などに比べ,硝子体腔にこのような手術操作を加えたときの,それを取り囲む眼内組織の反応については一部の解剖学的,生化学的方法を除いて研究がなされてこなかったように思う。しかし適応症例が広がり,重篤な眼底疾患を手がけようとするほどその手術操作によってどのようなことが起きているかを正しく理解することは大切なことと思われる。特に近年は研究技術が進歩し,酵素化学,免疫組織学,分子生物学の手法を用いて細胞,膜,細胞内小器官,核酸の働きをDNA, RNAそして蛋白のレベルで解析することが可能になった。そこでこれらの方法を用いて明らかになったことと総括し,さらに硝子体腔が血液一眼柵の内側であることを利用した積極的な治療法も含めて21世紀における硝子体手術発展の可能性を考えてみたい。

学会原著

内視鏡による毛様体皺襞部裂孔の観察

著者: 松田秀穂 ,   桂弘

ページ範囲:P.835 - P.837

 近年アトピー性皮膚炎に伴う網膜剥離の原因として,毛様体扁平部あるいは毛様体皺襞部の裂孔が知られている。アトピー性皮膚炎に伴った両眼性の毛様体皺襞部裂孔を原因とする網膜剥離の1例に対して,水晶体切除と強膜バックリングの同時手術を行い,術中内視鏡を用いて裂孔の観察を行った。水晶体の摘出前後に前房穿刺創より内視鏡を挿入することで,裂孔部を含めた毛様体皺襞部を明瞭に観察できた。裂孔は毛様突起のほぼ先端部に形成され,剥離した毛様体無色素上皮は水晶体嚢と接していた。

角膜掻爬により誘発されたと考えられた片眼性の膠様滴状角膜変性の1例

著者: 宮本和久 ,   渡辺仁 ,   切通彰 ,   下村嘉一 ,   石井康雄

ページ範囲:P.839 - P.842

 角膜掻爬により誘発されたと考えられた片眼性の膠様隆起物を伴った角膜変性の1例を経験した。右眼の臨床所見は,細隙灯顕微鏡所見,自覚症状ともに,膠様滴状角膜変性症のそれに酷似していた。左眼には乳白色の隆起物や上皮欠損は認められなかったが,上皮下に非常に繊細な点状混濁がびまん性に存在した。角膜移植後に得られた角膜片の組織学的検索では,ボーマン膜の消失,上皮下から実質浅層にコンゴーレッド染色陽性のアミロイドの存在が確認された。電子顕微鏡所見ではアミロイド線維は変性した上皮細胞層,上皮基底細胞や実質の細胞質内にもみられ,膠様滴状角膜変性症に類似した所見を呈していた。本症例の発症機序として,左眼の上皮下混濁の所見を考慮すると,角膜上皮が変性症発症の準備状態にあり,角膜掻爬や点眼によるストレスが,潜在的なアミロイド産生能を片眼のみ特異的に加速させたものと考察した。

スキャンタイプ・エキシマレーザーによる治療的表層角膜切除術

著者: 寄井秀樹 ,   高橋圭三 ,   林仁 ,   宇野敏彦 ,   高岡明彦 ,   大橋裕一

ページ範囲:P.843 - P.846

 スキャンタイプのエキシマレーザーを使用して治療的表層角膜切除術を30例39眼に施行した。内訳は,顆粒状角膜変性症21眼,帯状角膜変性13眼,格子状角膜変性症3眼,膠様滴状角膜変性症1眼,再発性角膜上皮びらん1眼であった。9396に術前以上の矯正視力の改善を認めた。最長の経過観察は9か月であるが,現時点では術後の再発は生じていない。術後6か月で見られる平均3.1Dの遠視化が解決すべき問題点としてあげられる。難治性の再発性角膜上皮びらんに対する治療的照射をした1例では,術後9か月間再発していない。スキャンタイプのエキシマレーザーによる治療的表層角膜切除術は,角膜表層病変に対する有効で安全な治療法であると考えられた。

ドライアイにおける涙液油層の観察

著者: 八田葉子 ,   横井則彦 ,   西田幸二 ,   中山万里 ,   鈴木孝佳 ,   木下茂

ページ範囲:P.847 - P.851

 健常眼13例25眼,ドライアイ34例59眼の涙液油層を,新しく開発した装置を用いて観察した。涙液油層のスペキュラー所見を干渉色によって,Grade 1:干渉色が灰色で分布が均一なもの,Grade 2:干渉色は均一だが分布が不均一なもの,Grade3:干渉色が二色以上で分布が不均一なもの,Grade 4:干渉色が多彩なもの,Grade 5:角膜表面が露出し,透見可能なもの,の5つに分類した。健常眼ではGrade1,2のみで,Grade 3,4,5はなく,ドライアイではGrade 1がなかった。Gradeとドライアイの他の検査所見との間には強い相関があった。

アミロイド沈着を認めた角膜真菌症の1例

著者: 滝澤麻里 ,   水流忠彦 ,   小幡博人 ,   清水一之 ,   岡輝明

ページ範囲:P.853 - P.856

 症例は66歳の女性で,左眼に角膜潰瘍を認めた。角膜擦過物の培養でカンジダが検出され,フルコナゾールの全身・局所投与による治療を試みたが改善が見られないため,治療的全層角膜移植および水晶体嚢外摘出術を行った。摘出角膜の病理組織学的検査で,グロコット染色によりカンジダが同定された。また,実質浅層にコンゴレッド染色陽性,偏光顕微鏡により緑色複屈折性を示すアミロイドの沈着が認められ,ヘルペス性角膜炎あるいは真菌性角膜炎に続発した角膜アミロイドーシスと考えられた。

成人型封入体結膜炎の輪部・角膜病変

著者: 中川尚 ,   中川裕子 ,   木全奈都子 ,   荒木博子

ページ範囲:P.857 - P.860

 成人型封入体結膜炎49例を対象に,輪部・角膜病変について検討した。上輪部浸潤は49例中31例(63%)にみられ,発病2週間以内では23例中18例(78%)であった。上方からの軽度の血管侵入は7例(14%)に観察された。角膜にはびまん性あるいは小円形の上皮下混濁が49例中31例(63%)に認められ,発病2週間以内では23例中19例(83%)と高率であった。これらの角膜上皮下混濁は上方周辺部に多く,表面はフルオレセインに染色されなかった。成人型封入体結膜炎では,発病初期に高頻度に輪部・角膜病変がみられ,これらの病変はアデノウイルス結膜炎との鑑別診断上,重要な所見と考えられた。

ノンコンタクト角膜知覚計

著者: 梶川万由美 ,   高橋圭三 ,   前岡重寿 ,   宇野敏彦 ,   大橋裕一 ,   林仁

ページ範囲:P.861 - P.864

 新しいノンコンタクト角膜知覚計を試作した。測定には高い再現性があり,Cochet-Bonnet角膜知覚計とも十分な相関性を示した。また,加齢に伴い角膜知覚が低下することも判明した。次いで,糖尿病群(DM群)(平均61.9歳23例46眼),およびコンタクトレンズ群(CL群)(平均22.9歳9例17眼)に対して,それぞれ若年健常者群(若年者群)(平均23.7歳18例35眼)と高年健常者群(高年者群)(平均61.1歳15例30眼),を対照として測定したところ,CL群では若年者群の約1.3倍の,DM群では高年者群の約L4倍の角膜知覚閾値上昇が認められた。まだプロトタイプではあるが,角膜上皮への非侵襲性,刺激の安定性,部位選択性の高さなど,大きな利点を有している。

甲状腺視神経症における上眼静脈

著者: 中瀬佳子 ,   吉川啓司 ,   井上トヨ子 ,   井上洋一

ページ範囲:P.867 - P.870

 超音波カラードプラ法により,甲状腺眼症21例34眼に上眼静脈を検出した。上眼静脈は27眼で前方から後方へ血流がみられたが,7眼では後方から前方へ逆流していた。上眼静脈逆流群はいずれもCTで外眼筋肥大が高度であり,これによる圧迫が逆流の原因と考えられた。甲状腺視神経症は上眼静脈逆流群では6眼(86%)に,上眼静脈逆流のない群では9眼(33%)にみられた(p<0.05)。螢光眼底造影による網膜内循環時間は,上眼静脈逆流群で15,7±3.6秒(平均±標準偏差),上眼静脈逆流のない群で11.7±2.9秒であった(p〈0.05)。上眼静脈逆流は眼窩静脈系の還流障害を示し,甲状腺視神経症の病態と関連すると思われた。

向精神薬療法中の精神神経疾患患者にみられた眼所見の20年後の追跡調査結果

著者: 長田正夫 ,   玉井嗣彦 ,   中尾寛 ,   三木統夫 ,   浜本順次 ,   国頭七重 ,   石原涼子 ,   瀬戸川章 ,   西村慶子 ,   小椋力 ,   大田郁也 ,   岸本朗 ,   杉原寛一郎 ,   松下棟治

ページ範囲:P.871 - P.876

 向精神薬で加療中の精神神経疾患患者で,1973年と1982年に眼科的検査を行った患者のうち,1993年に追跡調査できた39例78眼(平均罹病期間33.8±7.0年,平均年齢58.3±8.1歳)の患者に対し,向精神薬の及ぼす眼所見を検討した。その結果,球結膜色素沈着は8例(14眼)18%(全被検眼数に対する比率),眼瞼皮膚色素沈着は1例(2眼)3%,角膜混濁は3例(6眼)896,眼底異常色素沈着は2例(2眼)3%,水晶体混濁は17例(34眼)44%にみられ,以前の調査結果と比べ,水晶体混濁例が著明に増加していた。水晶体混濁は,星芒状,ヒトデ型,前極部点状混濁型であった。進行は星芒状からヒトデ型が最多であり,ヒトデ型以後はほとんど不変であった。水晶体混濁の原因として,抗精神病薬の蓄積による障害を無視できないと思われた。

眼症状を呈した肥厚性脳硬膜炎の1例

著者: 池田晃三 ,   白井正一郎 ,   山本有香

ページ範囲:P.877 - P.880

 種々の神経症状を示した肥厚性脳硬膜炎を経験した。症例は78歳の女性で,慢性的な頭痛,脳神経症状,大球性貧血があり,血液沈降速度の亢進があった。眼科学的には,右外転神経麻痺と両眼の視神経障害がみられた。磁気共鳴画像法では,脳硬膜の肥厚がみられ,ガドリニウム造影で肥厚した硬膜が著明に増強された。病因は不明であったが,副腎皮質ステロイドにより視力以外の臨床症状は改善した。肥厚性脳硬膜炎は,硬膜の肥厚を伴う比較的稀な慢性炎症性疾患であり,多くの症例では原因不明である。過去10年間の肥厚性脳硬膜炎の文献のうち,検索し得た症例について検討を加えた。

桐沢型ぶどう膜炎の赤外螢光眼底造影所見

著者: 櫻井真理 ,   土田和子 ,   武藤勉 ,   玉井信

ページ範囲:P.881 - P.884

 桐沢型ぶどう膜炎の5症例に対して,赤外螢光眼底造影を行った。いずれも硝子体手術を施行しており,術後視力は3症例で向上,1症例で不変,1症例は光覚弁にまで低下した。従来の螢光眼底造影では,周辺部網膜の黄白色病変部は顆粒状および均一な過螢光を示した。網膜動脈の一部では血管炎による螢光色素の漏出を認めた。赤外螢光眼底造影では,黄白色病変部は低螢光を示し,その中に不整な脈絡膜血管が造影されていた。これは脈絡膜循環障害を示すものと考えた。ときに,網膜血管に一致した不連続な過螢光がみられた。これは臨床症状の悪化する時期と一致していた。

ドルーゼンのインドシアニングリーン螢光眼底造影中における螢光強度の変化

著者: 加茂雅朗 ,   白木邦彦 ,   森脇光康 ,   三木徳彦

ページ範囲:P.885 - P.889

 新生血管とドルーゼンとの関連解明を目的に,インドシアニングリーン螢光眼底造影(indo—cyanine green angiography:IA)上でのドルーゼンの示す螢光の多様性に着目して,ドルーゼンの示す螢光の経時的変化について検討した。眼底写真でドルーゼンが確認され,IAの後期においてもIMAGEnet上でレッドフリー写真とregion mappingが可能であった加齢性黄斑変性13症例17眼を対象とした。IAの経過中,ドルーゼンとその周囲の螢光強度を比較すると,ドルーゼンの相対的螢光強度は変化し,その変化の様子もドルーゼンにより異なっていた。このドルーゼンの螢光の多様性は,各ドルーゼンの構成成分に関連していることが考えられるため,今後新生血管との関連も念頭において,さらに病因論的な解析を進めていく必要があると思われた。

ぶどう膜炎による併発白内障に対する眼内レンズ挿入術

著者: 久納岳朗 ,   馬嶋慶直 ,   原田敬志 ,   武内俊憲

ページ範囲:P.891 - P.894

 慢性ぶどう膜炎25症例における超音波乳化吸引術ならびに後房レンズを用いた白内障手術成績を報告する。81%が,術後0.5以上の視力を得た。①年齢が35歳以上,②術前3〜4か月は前房に炎症がない—の2つを考えることが,ベーチェット病,原田病,サルコイドーシスなどの種々のぶどう膜炎併発白内障に後房レンズを挿入するための慎重な適応設定となる。

慢性甲状腺炎に眼瞼外毛根鞘癌を認めた1例

著者: 高橋伊満子 ,   二宮久子 ,   小林康彦 ,   田中稔 ,   古谷津純一 ,   石和久 ,   沖坂重邦

ページ範囲:P.895 - P.897

 81歳女性の左外眼角部腫瘤に対して腫瘍切除術を施行し,病理組織学的に検討を加えた。組織像として,角化異常や腫瘍細胞の柵状配列など表皮性悪性腫瘍の所見を呈し,かつ毛嚢開口部類似の陥凹部に胞巣を形成し,外毛根鞘由来のclear cellで構成されていたため,眼科領域では極めて稀な外毛根鞘癌と診断した。外毛根鞘癌はその組織学的類似性から,基底細胞癌や扁平上皮癌と鑑別する必要がある。一方,多発性外毛根鞘腫に甲状腺機能異常などを認めるCowden病が知られているが,本症例が慢性甲状腺炎を伴っており,免疫能との関連性からも興味深い点と思われた。

水晶体脱臼と虹彩前癒着を生じたホモシスチン尿症の1例

著者: 新保里枝 ,   谷野富彦 ,   東範行

ページ範囲:P.899 - P.902

 ホモシスチン尿症に伴う水晶体脱臼で,経過観察中に顕著な虹彩前癒着をきたした3歳男児の1例を報告した。初診時右水晶体は外上方に,左水晶体は外下方に偏位する程度であったが,経過観察中に左水晶体が前房側に脱臼して虹彩を圧迫し,浅前房,角膜との虹彩前癒着をきたした。視力の変化や眼圧上昇はなかった。毛様体皺襞部からレンゼクトミー,前部硝子体切除術を施行し,虹彩前癒着を粘弾性物質の使用および鈍的に解除した。術後経過は良好で,視力は矯正にて1.0を得ている。水晶体脱臼では本症のような急激な合併症を起こすことがあり注意が必要と思われた。

眼内レンズパワー計算の問題点

著者: 竹中久 ,   岡田睦美 ,   村田典子 ,   岡野昌子 ,   二宮欣彦 ,   前野貴俊 ,   真野富也 ,   岡田正喜

ページ範囲:P.903 - P.906

 小切開白内障手術の普及とともに,質の高い術後視力が望めるようになってきた。それに伴い眼内レンズ度数計算に要求される精度が高くなってきている。当院で3か月以上経過観察できた62眼について,術後屈折値に与える要素について調べた。眼内レンズ計算式は修正したA定数でSRK/T式を用いた。全症例での予測精度は,予測値±1Dの範囲におさまった症例は87%,±0.5Dの範囲におさまった症例は56%であった。実際の術後屈折値と予測値との差は,倒乱視群でやや近視寄りに,直乱視群ではやや遠視寄りになる傾向を認めた。検査時の眼圧については,検査時の眼圧が低い症例は,高い症例に比べて,近視寄りになる傾向を認めた。

超音波白内障手術中の核落下の処理と予後

著者: 寺崎浩子 ,   平野耕治 ,   伊東由紀子 ,   山本憲明

ページ範囲:P.907 - P.910

 超音波白内障手術中に硝子体内核落下をきたした11症例における核処理と術後経過について報告する。症例の半数は75歳以上の高齢者で,硬い核の進行した白内障が多かった。1症例の小核片は保存的に治療されたが,他の症例はすべて経毛様体扁平部硝子体切除術が行われた。3例には液体パーフルオロカーボンが用いられた。白内障術者により核除去が試みられた3例に,網膜損傷,鋸状縁裂孔,駆逐性出血がみられた。最終的には1例を除いて予定されていた眼内レンズ挿入も行われ経過は良好であった。核落下の発生しやすい状況を考慮して超音波白内障手術の適応を慎重にするとともに重なる合併症を防ぐことが重要であると考えた。

眼内レンズとレーザー波長の関係

著者: 河合憲司 ,   塩谷滝雄 ,   阪西弘太郎

ページ範囲:P.911 - P.914

 眼内レンズ(intraocular lens:IOL)の素材,着色の有無と,レーザー波長およびレーザー出力の関係を測定した。IOLは,PMMA, UV-PMMA,および着色UV-PMMAを素材としたものである。レーザー波長は488+514, 514,590,630nmである。出力は0.1〜0.5W。方法はPMMA製の眼球を模した装置の水晶体相当部にIOLを挿入しレーザーを照射し,センサーで出力を測定した。(初期出力—透過後出力/初期出力)×100をレーザーエネルギー減衰率とした。488+514の波長において着色IOLの+30Dは最高15%の減衰率を示した。

硝子体手術で判明した眼内悪性リンパ腫の1例

著者: 二宮久子 ,   小林康彦 ,   田中稔 ,   石和久 ,   古谷津純一 ,   玉城宏一

ページ範囲:P.915 - P.918

 原因不明の硝子体混濁で受診し,硝子体液の細胞診にて眼内悪性リンパ腫と診断された1症例を経験した。症例は73歳の女性で,糖尿病にて加療中であり,右眼視力低下にて約1年前から近医通院中であった。角膜後面に細かい沈着物と濃厚な硝子体混濁を認め,硝子体切除術を行ったところ,細胞診にて硝子体内に腫瘍細胞の浸潤を認めた。眼底には網膜深層に黄白色の滲出斑を認めた。化学療法を開始したが,眼症状の発現から約2年後に,頭蓋内転移のため死亡した。本症においては,早期診断が生命予後という点からも重要であり,中高年に発症した難治性のぶどう膜炎に対しては,本症を念頭におく必要があることを痛感した。

結膜悪性黒色腫の2例

著者: 波田順次 ,   大西香代子 ,   横山大輔 ,   井上正則

ページ範囲:P.919 - P.922

 結膜に発症した悪性黒色腫2例を経験した。症例1は80歳の女性で,20歳頃に自覚した母斑から発症したもので,角膜輪部結膜から急速に増大する結節性の腫瘤と眼瞼縁まで拡がる黒褐色の色素斑を認めた。症例2は66歳の男性で,角膜輪部結膜に結節性の腫瘤と瞼結膜から眼瞼縁にかけて拡がる黒褐色の色素斑があり,角膜に浸潤していた。両症例とも腫瘍は球結膜に限局せず広範囲に拡がり,症例1ではリンパ管内への浸潤があり,予後不良と考えられた。両症例に対して眼窩内容除去術を行い,転移の危険を軽減するために免疫・化学療法を併用した。以降それぞれ14か月と8か月の観察期間中,経過は良好である。

Kearns-Sayre症候群2例と慢性進行性外眼筋麻痺4例の検討

著者: 近江源次郎 ,   大野貴之 ,   数尾久美子 ,   不二門尚

ページ範囲:P.923 - P.927

 Kearns-Sayre症候群(KSS)と慢性進行性外眼筋麻痺(CPEO)はともにミトコンドリアDNAに大欠失を認めるミトコンドリア機能異常に基づく同一疾患群であることが最近解明されてきた。しかし,両者は発症年齢,網脈絡膜変性の有無などで臨床上区別されている。今回2年間に筆者らが経験したKSS2例とCPEO 4例の臨床的特徴をレトロスペクティブに検討した。その結果KSS 2例中1例は,発症年齢がCPEOのように遅かった。またCPEO 4例中3例に網脈絡膜変性を認めた。このことから,KSSとCPEOとは臨床的特徴により分類することは難しく,ミトコンドリア機能異常の程度差により臨床的特徴出現の差が生じると類推された。

人工透析患者における増殖糖尿病網膜症の硝子体手術成績

著者: 笹野久美子 ,   安藤文隆 ,   福本勝也 ,   鈴木福江 ,   上坂亜樹子

ページ範囲:P.929 - P.934

 最近の透析患者21例29眼(透析群)の糖尿病網膜症硝子体手術成績を,同時期の非透析患者に同手術を行った211眼(非透析群)と比較検討した。20眼中19眼(95.0%)で復位して非透析群(95.8%)と差はなく,2段階以上の視力改善も82.8%で非透析群70.6%と差はなかった。さらに術前貧血治療実施以前の透析患者(旧透析群)14眼との比較検討では,復位率(旧透析群69.2%),視力改善率(旧透析群50.0%)とも透析群で有意に良好であり,光覚を失った症例は旧透析群5眼(35.7%)に対して,透析群1眼(3.4%)と少なかった。以上より,網膜剥離眼でも腎性貧血が改善(Hct値30%以上)していれば,必ずしも硝子体手術の適応外とはならないと考えられた。

未熟児網膜症と成長後の全身合併症

著者: 高橋亜紀 ,   馬嶋昭生 ,   鈴木千尋 ,   佐藤朝美 ,   山本有香 ,   側島久典 ,   小林正紀

ページ範囲:P.935 - P.938

 未熟児網膜症(retinopathy of prematurity:ROP)の活動期および瘢痕期病変と児の成長後の全身合併症の関連について検討した。対象は,超未熟児20例を含む極小未熟児44例で,主な成長後の全身合併症には精神発達遅滞,脳性麻痺,身体発育遅延,言語障害などがあり,これらはROP発症群で有意に多く(p<0.05),1型3期中期以上の重症ROPでは全例に合併した。また,明瞭な白色瘢痕組織を示す厚生省分類瘢痕期1度とそれ以上の瘢痕組を残した児にも,成長後の全身合併症は高頻度に存在した(p<0.01)。しかし出生体重別の検討では,発生率に有意差がみられた全身合併症はなかった。以上の結果からROPの発症と重症度が,児の長期予後を推測する指標の一つになると考えられる。

一過性黒内障に対する臨床的検討

著者: 井口直己 ,   岩橋洋志 ,   渡辺晶子 ,   本倉眞代 ,   駒井嘉美 ,   脇本京子 ,   田中康夫 ,   西川憲清 ,   脇英彦 ,   東瑞慧 ,   尾崎俊也

ページ範囲:P.939 - P.942

 一過性黒内障様発作の既往のある44例に対して,眼動脈Doppler血流検査と頸動脈超音波検査を施行し,その原因について検討した。眼動脈Doppler血流検査または頸動脈超音波検査のいずれかで異常所見を認めた例は29例あり,頸動脈・眼動脈の病変の検索に眼動脈Doppler血流検査と頸動脈超音波検査を併用することが有用であると考えられた。これらの症例では,動脈の狭窄や閉塞による循環障害,内膜中膜複合体の遊離による一時的な塞栓が一過性黒内障の原因と考えられ,網膜動脈閉塞症や脳梗塞の予防を考慮する必要があると考えられた。その他に貧血や網膜中心静脈閉塞症が原因と考えられる症例もあった。

増殖糖尿病網膜症患者に対する眼動脈流速測定—超音波カラードップラーを用いた検討

著者: 安積淳 ,   井上正則

ページ範囲:P.943 - P.946

 増殖糖尿病網膜症を有する糖尿病者28例49眼の眼動脈血流速度をカラードップラー血流測定装置を用いて検討した。最大流速,最小流速,平均流速,pulsatility index (Pl)の中間値は,0.30 m/sec,0.05m/sec,0.13m/sec,1.91で,血流速度は対照の非糖尿病者より有意に低かった。増殖網膜症の活動性と血流速度の関連性も検討したが,Plのみが停止性網膜症で高値を示した.また糖尿病者では,眼動脈血流速度と年齢の間に有意な相関がみられたが,糖尿病罹病期間や血中コレステロール値,HbAlc値は相関がなかった。糖尿病大血管症が眼動脈の血流速度低下として観察されたものと考えた。

網膜動脈・静脈閉塞症における血漿エンドセリン活性値とCa2+拮抗薬の効果

著者: 前谷悟 ,   杉山哲也 ,   清水一弘 ,   奥英弘 ,   濱田潤 ,   松浦啓太 ,   守屋伸一 ,   中西清二 ,   奥田隆章

ページ範囲:P.947 - P.951

 エンドセリン(endothelin:ET)は,強力な血管収縮作用を持つ生理活性ペプチドである。眼循環障害による疾患として代表的な網膜動脈・静脈閉塞症とETとの関係を調べた。未治療の同疾患46例の血漿ET−1活性値を測定した結果,陳旧性網膜静脈分枝閉塞症・硝子体出血を伴った網膜静脈分枝閉塞症は,正常者に比べ特に高値を示した。ET−1眼循環障害を抑制し得るCa2+拮抗薬の全身投与による,網膜静脈分枝閉塞症への影響について検討した結果,対照群に比べて症状改善までの期間が短い傾向を認めた。これらの疾患の発症にET−1が関与している可能性が示され,またCa2+拮抗薬の内服は末梢循環改善薬としての臨床的有用性が示唆された。

網膜静脈閉塞症のアンケートによる患者意識調査

著者: 三上克代 ,   百田幸滋 ,   吉本弘志

ページ範囲:P.953 - P.955

 網膜静脈閉塞症患者の疾患に対する理解の程度を知り,今後の治療の参考とする目的でアンケート調査を行った。対象は1991年と1992年の2か年間に当科受診の網膜静脈閉塞症患者147例のうち,回答を回収した89例(男42例,女47例,平均年齢62歳,回収率61%)である。アンケートは郵送により7項目について行った。基礎疾患は高血圧が最も多く(50%),受診後の検査によって24例に耐糖能異常が発見された。しかし検査と治療内容に対する理解は十分ではなかった。自覚的改善度については,悪化群7%,不変群25%,改善群69%であった。

サイトメガロウイルス網膜炎の2例

著者: 土田和子 ,   久保木淳子 ,   阿部俊明 ,   山田孝彦 ,   玉井信

ページ範囲:P.957 - P.961

 サイトメガロウイルス(CMV)網膜炎の2症例を報告する。症例1は肺線維症に対するステロイド全身投与中の71歳男性,症例2は神経芽腫に対する化学療法中の7歳男児で,いずれも広範な出血,滲出斑を伴う網膜炎を併発し,ガンシクロビルおよび抗CMVヒトモノクローナル抗体(TI−23)の投与にて病巣の縮小をみた。症例1では硝子体手術より得られた硝子体液より,polymerase chain reactionによりウイルスゲノムDNAを確認した。症例2では咽頭粘液および尿よりCMVが分離同定された。免疫不全患者におけるCMV網膜炎は網膜壊死が進行する以前の早期診断,全身状態に応じた治療の選択が不可欠であると思われた。

網膜の時間変調感度分布

著者: 福原潤 ,   井内史恵 ,   湯川英一 ,   田町武司 ,   八木浩代

ページ範囲:P.963 - P.967

 眼底直視下のフリッカー視野測定の新しい方法,時間変調感度分布測定(temporal modulationperimetry:TMP)が開発された。視標,背景,固視標からの光は赤外線眼底テレビカメラを通して網膜に投影される。この装置では刺激の大きさ,周波数,光量,変調度および背景の光量を自由に変えられる。直径視角50分の点滅する円形視野の時間変調閾値が正常者の中心と周辺で測定された。時間変調閾値は上下法で測定した。正常者のTMPの結果は時間変調閾値の偏心に伴う上昇が従来の結果に比べて軽度であることを示した。さらに従来の視機能検査では臨床的に異常のみられない時期に,TMPでは閾値の上昇を示す例がみられ,ごく軽度の視機能低下に対する評価を可能にすることを示唆している。

糖尿病網膜症患者の血清トロンボモジュリンと血清Ⅲ型プロコラーゲンペプタイドの変動

著者: 岡崎一白 ,   若野裕子 ,   西川雅子 ,   砂川光子

ページ範囲:P.969 - P.973

 糖尿病患者66例について全身の血管内皮細胞障害の指標とされる血清トロンボモジュリン値(TM)と,血清Ⅲ型プロコラーゲンペプタイド値(P—Ⅲ—P)を測定し,糖尿病網膜症の進展を予測できるかを検討した。TM, P—Ⅲ—Pは対照群(3.31±0.56ng/dl,0.51±0.12ng/dl)と比べ単純性糖尿病網膜症群(3.98±1.98ng/dl,0.648±0.33ng/dl)が,さらに増殖性糖尿病網膜症群(4.83±294ng/dl, 0.72±0.35ng/dlが有意に高値であった。糖尿病網膜症の病期では,TMでは対照群(3.31±0.56ng/dDと比べ単純性糖尿病網膜症2(4.31±1.98ng/dD,単純性糖尿病網膜症3(3.86±0.51ng/dl,増殖性糖尿病網膜症1(5.75±2.79ng/dD期が,P—Ⅲ—Pでは対照群(0.51±0.12ng/dDと比べ単純性糖尿病網膜症2(0.67±0.28ng/dl),増殖性糖尿病網膜症1(0.82±0.44ng/dl)期で有意に高値となった。細小血管の内皮障害は前増殖性網膜症の段階で最大となり,TMおよびP—Ⅲ—Pが,糖尿病網膜症の悪化を示す指標となるのではないかと考えた。

網膜血管腫による網膜・硝子体病変への硝子体手術

著者: 筑田真 ,   高橋一則 ,   橋本浩隆 ,   小原喜隆

ページ範囲:P.975 - P.978

 後天性網膜血管腫は硝子体手術を行わずとも比較的予後が良好とされているが,今回,硝子体手術を必要とした網膜・硝子体病変を伴う後天性網膜血管腫の2症例を経験した。症例1は92歳男性で,白内障と硝子体出血を認めたため,経毛様体扁平部前嚢温存超音波水晶体乳化吸引術,硝子体手術および光凝固を行った。血管腫は瘢痕化し,術後1年においても再発はみられない。症例2は49歳女性で,増殖組織を伴った強い硝子体牽引により進行性の牽引性網膜剥離を認めた。硝子体手術に加えて光凝固,冷凍凝固および強膜バックリングを施行して血管腫の癌痕化と,網膜の復位を得た。術後10か月においても再発はみられない。後天性血管腫の中には,積極的な硝子体手術が要求される症例が存在する。

HIV感染と合併した梅毒性ぶどう膜炎の2例

著者: 佐村雅義 ,   中西徳昌 ,   河田博 ,   荻野公嗣 ,   幸田富士子 ,   本郷由紀子 ,   山口ひとみ ,   永田洋一 ,   藤野雄次郎

ページ範囲:P.979 - P.983

 梅毒性ぶどう膜炎の発症から初めてhuman immunodeficiency virus (HIV)感染が判明した2症例を報告した。症例1は45歳男性で,不特定男性同性愛の経験がある。両眼に強い視神経乳頭浮腫,出血を伴う網膜血管炎が,さらに右眼には網膜静脈分枝閉塞がみられた。症例2は42歳男性で,不特定異性間性的接触の経験がある。両眼に網膜血管炎が,右眼には出血を伴う嚢胞様黄斑浮腫がみられた。ともに梅毒検査陽性から梅毒性ぶどう膜炎と診断したが,HIV検査陽性であった。ペニシリン製剤およびステロイドの投与により炎症は消退した。梅毒性ぶどう膜炎をみた場合,HIV感染合併の可能性を考慮に入れる必要があると思われた。

眼所見を呈した抗リン脂質抗体症候群の6例

著者: 桜井英二 ,   白井正一郎 ,   湯口幹典 ,   馬嶋昭生

ページ範囲:P.985 - P.989

 眼底の血管閉塞性病変を呈した抗リン脂質抗体症候群の6例を検討した。6例中5例は,内科または皮膚科で本症候群と診断されている全身性エリテマトーデス(systemic lupus erythematosus:SLE)の患者で,眼科的には網膜動脈や静脈の閉塞症,軟性白斑,虚血性視神経症,神経線維層欠損などがみられた。従来SLEによる網膜症とされていたもののなかに,本症候群の血栓形成傾向が関与していた可能性がある。他の1例は,明らかな自己免疫疾患のない81歳の男性で,右眼網膜の動脈分枝閉塞症と中心静脈閉塞症を発症し,免疫学的検索でループス抗凝固因子が検出され,本症候群と診断された。眼科領域でも血管閉塞性疾患をみた場合,抗リン脂質抗体を積極的に検索すべきである。

新しいMackay-Marg型眼圧計(ProTon)による眼圧測定と誤差因子

著者: 千原悦夫 ,   塚田孝子 ,   斉藤ひとみ ,   辻みかり ,   金森充

ページ範囲:P.991 - P.994

 最近の眼圧測定は測定部分の大きさが直径7mm(圧平部分の直径3.06mm)のゴールドマン型圧平眼圧計(GAT)が標準的に使われているが,この大きさのプローブは,瞼裂幅の小さな患者で測定誤差の原因となることがわかっている。この問題を解決する方法の1つとして筆者らは圧平部分(プランジャー)の直径が1.8mm,測定先端部(ノーズピース)の直径が5.0mmと小型化された新しいMackay-Marg型眼圧計(ProTon®)を用いて,測定を行い,また,ProTonとGATによる測定の誤差と誤差に関与する因子について調べた。対象は無差別に選択された87名の患者の87眼であり,ProTonとGATによる測定値に対してSASプログラムによる多変量解析を行った。ProTonによる眼圧測定値はGATによる眼圧測定値と有意差がなく,測定誤差は患者の年齢,矯正視力,角膜曲率半径のいずれとも相関しない(estimated difference 0.58,-0.070,-0.059)。しかし,検者の習熟の程度は測定誤差の大きさと相関し,1人の検者が10回以上の測定を経験することによって充分な水準(p<0.05)に達すると考えられた。

乳頭周囲網脈絡膜萎縮と緑内障との関連——第2報—正常眼の検討

著者: 早水扶公子 ,   宮本智 ,   小出千鶴 ,   山崎芳夫

ページ範囲:P.995 - P.997

 正常眼120眼を対象に,全身的因子,眼軸長,屈折などの眼生体計測値と乳頭周囲網脈絡膜萎縮であるZoneα(不規則な色素沈着の異常),Zoneβ(ブルッフ膜途絶による強膜露出部)の有無との関連についてロジスティック回帰分析を用いて検討を行った。Zoneαと有意な関連を持つ因子はなかったが,Zoneβの存在と眼軸長に有意な関連が認められ,Zoneβの存在と近視性変化との関係が示唆された。

アトピー性皮膚炎とアレルギー性結膜炎における球結膜上皮のバリアー機能

著者: 横井桂子 ,   横井則彦 ,   木下茂

ページ範囲:P.999 - P.1002

 フルオロフォトメトリーを用いてアトピー性皮膚炎患者49例97眼の結膜上皮のバリアー機能について評価し,健常者,アレルギー性結膜炎患者,ヒスタミン点眼誘発試験と比較,検討した。測定にはアンテリアフルオロメーターFL−500(興和)を用い,球結膜におけるフルオレセインの取り込み濃度からバリアー機能を評価した。測定結果は,アレルギー性結膜炎とヒスタミン誘発試験では健常者との間に取り込み濃度に有意差はなかったが,アトピー性皮膚炎患者では有意に取り込み濃度が高かった(p<0.0005)。したがって,アレルギー性結膜炎やヒスタミン点眼誘発試験と異なり,アトピー性皮膚炎患者では結膜上皮のバリアー機能が低下していることが示唆された。

連載 眼科図譜・340

眼所見を示した抗リン脂質抗体症候群の6例

著者: 桜井英二 ,   白井正一郎 ,   湯口幹典 ,   馬嶋昭生 ,   「臨床眼科」編集室

ページ範囲:P.808 - P.809

 本論文は第48回日本臨床眼科学会で発表した(1994年11月5日)。学会原著として本号985〜989頁に掲載されているが,カラー写真を主とした図譜としてまとめていただいた。

眼の組織・病理アトラス・103

涙腺

著者: 猪俣孟

ページ範囲:P.812 - P.813

 ヒトの涙腺lacrimal glandは眼窩上耳側の眼窩縁後方にある主涙腺main lacrimal glandと結膜円蓋部のKrauseの副涙腺accessory lacrimalglandおよび上眼瞼の結膜上部に散在するWol—fringの副涙腺からなる。涙腺は涙を分泌して角膜の表面を潤すのみならず,リソチームや免疫グロブリンを分泌して眼球の表面を保護している。瞬目によって涙を常時分泌しているのは副涙腺で,主涙腺は精神的な感動や異物に対する刺激反応などで瞬時に多量の涙を分泌する。
 主涙腺と副涙腺の組織構造は基本的には同様で,腺房acini (図1)と導管ducts (図2)および間質interstitiumからなる。腺房と導管の集合部位を涙腺と呼ぶが,周囲組織との間に明瞭な限界膜はない。腺房の内腔に面して円柱状の腺房細胞acinar cellまたは分泌細胞columnar secretorycellが存在する。腺房細胞の胞体には,内腔に近い部位に多数の分泌顆粒zymogen granulesが存在し(図3),その部位はPASに染まる(図1)。腺房細胞の外側に扁平な筋上皮細胞myo—epithelial cellがある(図4)。腺房細胞は連続的に配列して内腔を取り巻いているが,筋上皮細胞は非連続性である。導管も内腔側の細胞と壁側の細胞からなり,内腔側の細胞には顆粒が含まれている。導管の細胞内顆粒は腺房細胞内のものよりも小さく,数も少ない。導管壁側の細胞には筋線維様の線維はほとんどみられない。

眼科手術のテクニック—私はこうしている・77

核分割法—二手法(2)—phaco chop

著者: 大鹿哲郎

ページ範囲:P.816 - P.817

はじめに
 前回述べたdivide and conquer法の後,しばらくは新しいテクニックが登場することはないと思われていたこの分野において,1993年に紹介されたphaco chop法は,ひさびさに強いインパクトを与えた新技術である。
 本法の要点は,溝を掘らずに核を分割することである。このため,①central sculptingがない分だけ超音波時間やエネルギーが短縮される,②後房内の深い位置で操作を行う必要がない,③超音波チップ(USチップ)の上下運動が少なく,創口に対するダメージが少ない,などの利点がある。一方,①大きな核片が残る,②分割操作にコツが必要,などの欠点も有している。

今月の話題

緑内障のレーザー治療

著者: 三木弘彦

ページ範囲:P.819 - P.823

 緑内障治療にレーザー手術は欠くことのできないものになっている。病型により手術方法が異なるので,その手技を熟知することが求められる。ここでは診断の進め方,手術適応,術前後の薬物治療,手術の内容などについて解説する。

眼科の控室

先入観

著者:

ページ範囲:P.1004 - P.1004

 人間は保守的な動物なので,一度「これ」と思い込むと,別のことを簡単には考えにくいのです。
 病気の診断が良い例です。カルテに「なんとか病」と書いてあれば,再来以降の段階でもそのまま踏襲するのが人情です。他医から患者さんを紹介されたときも同様です。持参した「診療情報提供書」にある病名をそのまま鵜呑みにすることが少なくありません。

臨床報告

老人性円板状黄斑変性 網膜色素上皮剥離型の赤外螢光眼底造影による脈絡膜新生血管の検出

著者: 福島伊知郎 ,   松原孝 ,   高橋寛二 ,   大熊紘 ,   宇山昌延

ページ範囲:P.1011 - P.1016

 老人性円板状黄斑変性で大型の網膜色素上皮剥離を伴った症例37例38眼にインドシアニングリーン赤外螢光眼底造影(ICG螢光造影)とフルオレセイン螢光眼底造影(フルオレセイン螢光造影)を行い,両造影を比較した。新生血管の検出率はICG螢光造影では36眼95%,フルオレセイン螢光造影では23眼61%で,両造影を合わせると97%に新生血管が証明された。ICG螢光造影は新生血管が色素上皮剥離の内外のいずれに存在しても,フルオレセイン螢光造影よりも新生血管の検出に優れていた。また,ICG螢光造影でみられた新生血管の位置はフルオレセイン螢光造影でみられたnotch signやhotspotとは一致しないことがあった。これらの結果から,網膜色素上皮剥離を伴った老人性円板状黄斑変性の新生血管の検出にはICG螢光造影は欠かせない検査法であることが明らかになった。

乳頭浮腫を伴ったGAPO症候群の1例

著者: 大沼郁子 ,   山口克宏 ,   村田正敏 ,   高橋茂樹 ,   柴田考典 ,   森谷直樹

ページ範囲:P.1019 - P.1023

 両眼に視神経乳頭浮腫を伴ったGAPO症候群(growth retardation, alopecia, pseudo-anodontia,optic atrophy)の1例を経験した。症例は3歳6か月の男児で,全身的には成長遅延,頭蓋骨形成不全,鞍鼻,頭皮表在静脈の怒張,稀毛,全乳歯萌出遅延が認められた。眼科的所見として,両眼隔離,内眼角贅皮,上眼瞼皮下組織の肥厚,下眼瞼内反,角膜点状上皮混濁がみられた。両眼底には,視神経乳頭の発赤,腫脹がみられ,特に左眼で著明であった。また網膜細静脈の怒張,蛇行がみられた。頭部X線および脳血管造影で,頭蓋底の低形成および,これに伴うと思われる両側のS状静脈洞および内頸静脈の狭窄がみられた。本症例の両眼乳頭浮腫は,S状静脈洞および内頸静脈の狭窄による頭蓋内静脈圧の上昇が関与しているものと思われた。

外傷性視神経症における中心暗点の定量化とその経過

著者: 柏原俊博 ,   井崎篤子 ,   三村治 ,   下奥仁 ,   可児一孝

ページ範囲:P.1025 - P.1028

 従来視神経疾患の視機能は視力や臨界フリッカー値(CFF),対光反応を数値化することで評価されてきた。一方,視野の定量化は充分になされていなかった。今回筆者らは外傷性視神経症6例にみられた中心暗点を数値化し,網膜—皮質拡大因子を加味して評価を行った。対象を最終的に矯正視力0.7以上を得た回復群とそうでない非回復群の2群に分け,CFF,中心暗点の面積の推移をみた。CFF値は回復群では初診時に10Hz以上であったが,非回復群では測定不能であった。視野では中心5°以内暗点の面積が視力と相関した。

水庖性角膜症の全層角膜移植

著者: 上杉祐子 ,   中田先一 ,   中安清夫 ,   金井淳

ページ範囲:P.1029 - P.1033

 46眼の水庖性角膜症に対し全層角膜移植を行った。18眼が透明治癒し,39%の透明治癒率であった。混濁に至った直接の原因は内皮機能不全(21眼)と免疫反応(7眼)であった。若い角膜提供者から得られた移植片では内皮機能不全の発症が有意に少なく,免疫反応が発症した場合,若い角膜提供者からの移植片の方が透明治癒しやすかった。混濁に至った移植片と透明治癒した移植片を比べると,透明治癒した移植片の角膜提供者年齢は混濁に至った移植片の角膜提供者より有意に若かった。年齢ごとに検討した結果,51歳以上の角膜移植では,50歳以下の角膜を移植した場合と比べ,透明治癒率は有意に低かった。

テクノストレス眼症の1例

著者: 伊比健児 ,   鈴木亨 ,   広瀬直文 ,   秋谷忍

ページ範囲:P.1034 - P.1038

 Visual display terminals (VDT)作業に対する不適応から生じる心理的ストレスによって調節障害を生じたと考えられた20歳の女性のVDT作業者を経験した。毎日8時間以上のデータ入力作業を約1年6か月行い,近見障害を訴えて当科を受診した。近見視力は雲霧法にて右裸眼視力0.3が0.6に,左裸眼視力0.3が0.7に上昇し,心因性視力障害を疑わせた。1年間の経過観察中,調節機能はVDT作業施行中は麻痺様状態であったが,VDT作業を1週間中止したときは,調節機能が改善し,転職して1か月すると正常化するといったVDT作業の有無に関連した調節機能の変動を認めた。VDT作業による不安や疲労,職場に対する不満,雲霧法による近見視力の上昇,VDT作業に関連した調節機能の変動などから,本症例の調節障害はVDT作業による心理的ストレスに起因するものと判断した。

新生血管黄斑症を合併した脈絡膜骨腫の1例

著者: 井部佳江子 ,   原和彦 ,   森和彦 ,   赤木好男 ,   芳野佳克

ページ範囲:P.1039 - P.1043

 新生血管黄斑症を合併し,特発性に視力が改善した脈絡膜骨腫の1例を報告した。症例は15歳女性で,急激な左眼視力低下を主訴に当科を受診した。左眼眼底に,軽度の隆起を伴う境界明瞭な黄白色病変,漿液性網膜剥離,網膜下出血を認めた。超音波検査,GT検査から脈絡膜骨腫と確定診断された。螢光眼底造影にて,黄斑部新生血管からの漏出を確認した。約1か月の保存的療法による経過観察後,新生血管は消失し,視力も著明に改善した。

自己閉鎖創を用いた白内障・緑内障同時手術の成績

著者: 斉田典夫 ,   小川憲治 ,   坂下健一 ,   天野良成

ページ範囲:P.1045 - P.1051

 白内障,開放隅角緑内障合併症例10例13眼に,マイトマイシンC併用線維柱帯切除術に線維柱帯切開術を併用し,自己閉鎖創白内障手術を行った症例の短期手術成績を検討した。経過観察期間は6〜15か月(平均8.7か月)であった。術後6か月での視力は,0.5以上が11眼(85%),このうち3眼(27%)は術後3日以内,6眼(55%)は術後6日以内の早期に達した。術性乱視は軽微で,術後2〜3か月以降は比較的安定した。術後6か月では,全例が無治療で平均眼圧は9,92mmHg,濾過胞は12眼(92%)にみられた。本術式は,自己閉鎖創白内障手術の利点と線維柱帯切除術の効果が期待され,安全かつ有用な手術法と思われた。

カラー臨床報告

Hirschsprung病の眼所見

著者: 尾関年則 ,   白井正一郎 ,   山本有香 ,   馬嶋昭生

ページ範囲:P.1007 - P.1010

 Hirschsprung病3例の眼所見を検討した。症例1は2歳の男児で,両眼虹彩異色があり紹介された。内眼角側方偏位,両眼の扇状虹彩異色,強角膜症,左眼の白子様眼底がみられた。全身異常は前頭部白髪,高口蓋,小顎症,感音性難聴,身体発育遅延,精神発達遅滞などがあり,Waardenburg症候群I型と診断した。症例2は生後6か月の男児で,両眼の強角膜症,後部胎生環および片眼の瞳孔膜遺残がみられた。症例3は生後11か月の男児で,両眼の強角膜症と後部胎生環が認められた。Hirschsprung病では,神経堤細胞の発生異常に基づく眼先天異常の合併に注意を払うことが必要である。

第48回日本臨床眼科学会専門別研究会1994.11.4幕張メッセ

画像診断

著者: 菅田安男

ページ範囲:P.1053 - P.1055

 画像診断研究会は1976年の超音波グループディスカッションから数えて19回,画像診断と改称して今回が10回目を迎えた。臨眼,日眼との演題重複もあり,研究会として何を目指すかという問題を残しているが,これまでの演題を見ていると中心課題の編年的な動きがわかり面白い。この間の歴史は日眼百周年記念誌に記録を残すことになっている。
 臨眼における研究会の位置づけはいまだ確たるものがない。独立しては全国的集会になり難い分科会を統合するというのも,春の日眼とは異なった意義をもった秋の大会にふさわしい臨眼のあり方ではないか。
 画像診断研究会にはCT,MR,超音波のほか,機器の開発,画像処理,収録,通信まで,臨床に関係あるコンピュータの利用法も自然に領域に入ってきている。日常診療に地歩を占める過程が見えてよい。学会組織を整える方向を模索しているが,臨眼と遊離した存在も考え難い。このうえ学会を増やして事務量のみ嵩んで実の上らないのも問題であろう。宇都宮で話題にしたい。今後の発展を見据えた提案を待ちたい。

眼窩・眼の形成外科

著者: 井上洋一

ページ範囲:P.1056 - P.1057

 本年の学会から,永年親しんだグループ・ディスカッションも専門別研究会と名称が変更された。その企画,運営に関する事項も変化を余儀なくされている。
 学会をはじめ,諸研究会の“見直し”が叫ばれており,その整理,統合にもいろいろ困難な問題があるとはいえ,放置してよいともいえない。関係者の御努力を願うものである。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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