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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科49巻6号

1995年06月発行

雑誌目次

特集 第48回日本臨床眼科学会講演集(4) 特別講演

ぶどう膜炎の基礎と臨床—ベーチェット病を舞台として

著者: 増田寛次郎

ページ範囲:P.1078 - P.1082

はじめに
 ベーチェット病はHulûsi Behçetにより1937年,全身性慢性炎症性疾患として報告されて以来,多くの報告がある。わが国においては特に多くの症例が報告され,視力予後が悪いこともあって厚生省の難病指定を受けている。原因についてはまだ明らかではないが溶連菌(Str.oralis)との関連が疑われている。患者側要因としてHLA-B5101との相関やぶどう膜炎の重症度とHLA-DQ3との相関が示された。HLA-B51トランスジェニックマウスではヒトと同様な臨床症状は起きないが好中球異常があることが示された。症状は口腔内アフタ,皮膚症状,外陰部潰瘍および眼症状が4主症状で,これらの症状の組合せと副症状とで診断が行われる.治療は眼症状に対しては眼発作を抑えることが第1目的であり,免疫抑制薬が使われるが,副作用発現や長期に使用すると薬効が減弱することもあり完全なものはまだない.

学会原著

老人性円板状黄斑変性網膜下病巣のMRIによる描出

著者: 山田孝彦 ,   菅野俊雄 ,   玉井信

ページ範囲:P.1092 - P.1094

 老人性円板状黄斑変性の網膜下円板状病巣の位置診断には,眼底の検眼鏡的所見に加えて蛍光眼底造影の所見を総合して行われるが,実際には出血のために診断困難な場合もある。このような症例で,MRIが網膜下病巣の診断に有用であった2症例を経験し,MRIによる網膜下病巣の診断,手術中の所見,手術後の所見を対応させて検討した。その結果,今回の2症例では,MRIで予測された網膜下病巣の部位と範囲は,硝子体手術中に確認した部位とほぼ一致していた。病巣の範囲の診断にはT1強調画像でもT2強調画像でも十分であった。さらに,T1強調画像でガドリニウム静注によるenhanceを行うことで病巣内の血腫と線維血管膜を区別することが可能であった。

特発性黄斑円孔における網膜周辺部変性の頻度

著者: 上水流広史 ,   小椋祐一郎

ページ範囲:P.1095 - P.1097

 特発性黄斑円孔47症例48眼に対して,網膜周辺部の観察を行ったところ,48眼中18眼(38%)に網膜周辺部変性があり,そのうち格子状変性は11眼(23%)にあった。その頻度は対照群と比較して有意に高かった。荻野らの報告によれば,正視群における日本人の格子状変性の頻度は15歳以上で4.9%から5.5%で,今回の調査結果はそれに比較して,高頻度であった。このことから,一部の特発性黄斑円孔は網膜硝子体変性疾患の一表現型ではないか,と推測された。

大津赤十字病院新生児集中治療室における未熟児網膜症の動向

著者: 宮村昌孝 ,   田中利和 ,   吉村長久 ,   谷村剛 ,   細井進

ページ範囲:P.1098 - P.1100

 大津赤十字病院新生児集中治療室(NICU)において管理された極小未熟児69例について,1990年4月〜1992年8月の33例をA群,1992年9月〜1994年8月の36例をB群とし,両時期の網膜症発症について検討した。A群の時期の管理法に比し,B群の時期には,①保育器内の環境酸素濃度(FiO2)を原則的に25%以下に保つ,②人工呼吸時の酸素濃度,分圧などを必要最小限に抑える,③補液,ミルク投与などによる急激な体重増加を差し控える,などの未熟児管理がなされた。より厳格な管理をされたB群ではA群に比し,有意差はなかったが,網膜症発症率の減少が見られた。さらに眼科,小児科などの連携を深め,より適切な未熟児管理法を検討していくことが重要であると思われた。

超および極小未熟児の未熟児網膜症発症率と治療成績

著者: 杉本早紀 ,   古川理子 ,   初川嘉一 ,   藤村正哲 ,   斉藤喜博 ,   大本達也

ページ範囲:P.1101 - P.1104

 1981年から1993年に生まれた出生体重1,500g未満の極小未熟児399例と1,000g未満の超未熟児682例の合計1,081例について,出生体重別,在胎週数別に,未熟児網膜症の発症率,治療率,瘢痕期2度以上の瘢痕例の発症率を求めた。未熟児網膜症の発症は590例,治療数は80例,綴痕期2度以上の瘢痕例は20例であった。発症率は出生体重および在胎週数が小さいほど大きくなっており,特に出生体重1,000g,在胎週数29週を境にしてその発症率が急激に増加していた。未熟児網膜症の管理は,出生体重1,000g未満,在胎週数29週未満の症例では特に注意深い経過観察が必要であると考えられた。

老人性円板状黄斑変性のレーザー光凝固最近3年間の成績

著者: 山田晴彦 ,   高橋寛二 ,   福島伊知郎 ,   松永裕史 ,   松原孝 ,   竹内正光 ,   大熊紘 ,   宇山昌延

ページ範囲:P.1105 - P.1109

 最近3年間の老人性円板状黄斑変性の色素レーザー光凝固治療成績をまとめた。症例は,術後少なくとも6か月以上経過観察が可能であった150例156眼であり,病型別に,視力・眼底所見を総合判定した。治療成績での改善率をみると,漿液性網膜剥離期(56眼)では57%,円板状病巣(48眼)では42%,網膜下血腫型(15眼)では53%,網膜色素上皮剥離型(37眼)では51%であった。全例での改善率は51%であった。前回の我々の治療成績と比較すると,全症例で改善率に大きい変化はなかったが,網膜色素上皮剥離型で改善率が著明に上昇した。これはICG蛍光眼底造影により隠れた脈絡膜新生血管が検出され.その光凝固後の好成緒によるものであった.

眼底後極部に円孔が多発した眼内炎の硝子体手術所見

著者: 中山玲慧 ,   二宮久子 ,   小林康彦 ,   田中稔 ,   佐渡一成 ,   太田俊彦

ページ範囲:P.1111 - P.1113

 症例は16歳男性。木の枝による非穿孔性眼外傷にて,前房蓄膿,硝子体混濁を生じ,硝子体混濁の増強により,硝子体切除術を施行。術中網膜全剥離を認め,術後より再度硝子体混濁が増強したため,当院紹介となった。初診時超音波検査で網膜全剥離を認めたため,輪状締結+硝子体切除+液・空気置換+眼内レーザー+シリコンオイル注入術を施行。眼底後極部には円孔が多発。網膜血管は著明に怒張・蛇行し,網膜は壊死状となっていた。非穿孔性眼外傷に多発円孔を呈した症例の報告は今までになく,本症は外傷を契機に,急速に何らかの炎症が発症したために生じたものと,推測された。

小児の眼窩骨好酸球性肉芽腫

著者: 大角五輪男 ,   柊山剰 ,   丸岩太 ,   直井信久 ,   澤田惇 ,   二見要介 ,   西元雄一郎 ,   津曲康一郎

ページ範囲:P.1115 - P.1118

 小児の眼窩骨好酸球性肉芽腫と思われる3症例を経験した。いずれも有痛性の上眼瞼腫脹で発症し画像検査で眼窩骨の融解を伴った軟部組織腫瘤がみられた。悪性腫瘍が疑われたが症状は改善傾向を示した。超音波検査では点状,顆粒状の軟部組織腫瘤陰影とそれを取り囲むように不規則な高反射を示す眼窩骨陰影が描出された。生検では黄褐色の柔らかい腫瘤組織が得られ,病理組織検査にて好酸球の浸潤を伴った異型組織球の増殖がみられた。その後,特別な加療もせず軟部組織腫瘤の完全吸収と眼窩骨の修復がみられた。3症例とも現在まで再発および他の全身症状を認めていない。

後房レンズの偏位整復,摘出症例の検討

著者: 朴智華 ,   大西健夫 ,   木崎宏史 ,   谷口重雄

ページ範囲:P.1119 - P.1122

 過去10年間に白内障手術を施行した6,740眼のうち,術中および術後合併症のために後房レンズの整復,摘出,交換等の二次手術を行った16例17眼について検討した。内訳は,偏位7眼,前房または硝子体内脱臼5眼,術後眼内炎3眼,パワーエラー2眼であった。症例の多くは,一次手術時に何らかの合併症を生じた症例であり,術中合併症に対する適切な処置が二次手術を防ぐために重要であると思われた。白内障手術後1年以降に二次手術を行った症例は7眼(41%)であり,非対称性固定等の固定不良の症例については1年以上の長期経過観察が必要であると思われた。

アトピー性皮膚炎に伴う網膜剥離における硝子体中の色素塊

著者: 春田雅俊 ,   岡本直之 ,   高橋政代 ,   本田孔士

ページ範囲:P.1123 - P.1126

 京都大学医学部眼科学教室で手術を施行したアトピー性皮膚炎に伴う網膜剥離35眼について検討した。硝子体基底部の色素塊がアトピー性皮膚炎に伴う網膜剥離の40%でみられ,これは外傷により生ずる色素塊と酷似していた。アトピー性皮膚炎の患者では,掻痒のため眼部をたたく,もしくはこするという長期にわたる慢性外傷がきっかけとなって特徴的な色素塊が形成されることがあると考えられた。この色素塊もしくは外傷による慢性炎症による硝子体の索引が,アトピー性素因とあいまって網膜裂孔を形成もしくは悪化する場合があると考えられた。

スリーピースシリコーンレンズの顕微鏡下の空中三つ折り法

著者: 遠坂晋 ,   久保寺秀徳 ,   湯口琢磨 ,   海谷忠良 ,   前田耕志 ,   木下茂

ページ範囲:P.1127 - P.1130

 高屈折率スリーピースシリコーン眼内レンズを顕微鏡下の空中で三つに折って挿入した。この方法は筆者らが以前に発表した三つ折り挿入法を改良したもので,これまでは折り曲げ用と把持用の2本の鑷子と,折り曲げ用の平らな台の三つの器具で行っていた三つ折り操作を,この2本の鑷子だけでレンズを空中に把持したままで行った。手術顕微鏡を術野から移動させることなく三つ折りが可能となったため,折り曲げに要する時間が短縮された。

真菌重複感染を証明した内因性眼内炎

著者: 竹田欣也 ,   原田一道 ,   益山芳正

ページ範囲:P.1131 - P.1133

 長期間にわたり薬物治療に抵抗した内因性眼内炎に対し硝子体手術を行い,その術中採取した硝子体液を培養し起因菌の同定を行った。同定した起因菌はカンジダとクラドスポリウムであり,2種類の真菌が培養された。カンジダをはじめとする単一起因菌による内因性眼内炎は数多く報告されているが,真菌の重複感染を証明した内因性眼内炎の報告は極めて稀なものと考えられる。

老人性円板状黄斑変性の他眼にみられた色覚障害

著者: 竹内正光 ,   大熊絋 ,   高橋寛二 ,   宇山昌延 ,   三木弘彦 ,   市川一夫 ,   深見嘉一郎 ,   田邉詔子

ページ範囲:P.1135 - P.1138

 老人性円板状黄斑変性の他眼に後天性の色覚障害が発生しているかどうかを検討した。片眼が本症の他眼39眼(調査群)と,同年齢の31眼(対照群)を対象とした。標準色覚検査表第2部を用いた仮性同色表呈示装置(SPP2)を用いて行い,検査表の背景照度を変化させ,1,000,100,30ルックスの3つの条件下で行った。1,000ルックスでは,両群に差は見られなかったが,100ルックスと30ルックスでは,調査群は対照群よりも,有意に大きい誤答率を示した。本症の他眼には,Standard Pseudoiso—chromatic Plates Part 2を用いた色覚検査の照度を低下させると,後天性の色覚障害が発生していることが証明され,本症の他眼には既に本症発症以前から黄斑部の網膜色素上皮を中心とした障害が生じていることが示された。

増殖糖尿病網膜症に伴う黄斑浮腫に対する硝子体手術成績

著者: 船木治子 ,   船木繁雄 ,   安藤伸朗

ページ範囲:P.1139 - P.1142

 1987年1月〜1993年6月に増殖糖尿病網膜症に対して初回硝子体手術を施行した23例25眼を対象とし,術前後での視力と黄斑部螢光造影所見を比較検討した。術後3か月での視力は,改善13眼52%,不変7眼28%,悪化5眼20%であった。黄斑部螢光造影所見では改善12眼60%,不変7眼35%,悪化1眼5%であった。全身諸因子については有意差を認めたものはなかった。硝子体手術は増殖糖尿病網膜症に伴う黄斑浮腫の改善に有効であり,硝子体は黄斑浮腫形成に何らか関与していると考えられた。

網膜静脈閉塞症に起因する硝子体出血に対する硝子体手術経験

著者: 信田和男 ,   安藤伸朗 ,   関伶子

ページ範囲:P.1143 - P.1145

 網膜静脈閉塞症に起因した硝子体出血に対する硝子体手術施行眼103例103眼の,視力経過と網膜症経過を検討した。最終視力0.1以上のものは74眼(72%)であり,視力0.1未満の視力不良例は網膜剥離を術前に合併していた。ERG検査のb/a比は術前の網膜剥離を知る1つの手段であり,b/a比の低下は視力結果の不良を示し,予後を予測する有用な術前検査であった。

後天性免疫不全症候群2例にみられたサイトメガロウイルス網膜炎

著者: 湯口幹典 ,   横山朝美 ,   朱雀五十四 ,   白井正一郎

ページ範囲:P.1146 - P.1150

 症例1は41歳の男性で,後天性免疫不全症候群(AIDS)で内科に入院中,両眼にサイトメガロウイルス(CMV)網膜炎がみられた。ガンシクロビル投与で,CMV網膜炎は鎮静化したが視神経が萎縮し,肺炎を併発して死亡した。症例2は53歳の男性で,不明熱で内科に入院中,human immunodeficiency virus抗体陽性を指摘された。両眼に糖尿病網膜症があり,右眼にCMV網膜炎がみられたためAIDSと診断され,ガンシクロビル投与と汎網膜光凝固を行った。ガンシクロビルの中止1か月後に,CMV網膜炎が右眼に再発,左眼にも発症した。フォスカーネットを使用し有効であったが,骨髄抑制のため長期投与はできなかった。CMV網膜炎の再発防止には光凝固は無効であった。

糖尿病網膜症の5年良性化率

著者: 大西智子 ,   北野滋彦 ,   小柴利枝 ,   樋宮明美 ,   堀貞夫

ページ範囲:P.1151 - P.1154

 1988年に初診した糖尿病患者231例(460眼)を対象に網膜症各病期の5年経過を調査し,網膜症の初診時有症率,5年後発症率,5年良性化率および各病期の経時的比率について検討した。初診時網膜症(福田分類)の頻度はO群64.6%,A群23.7%,B群11.7%で,初診時有症率は35.4%,5年後発症率は18.2%であった。網膜症5年間の経時的推移では,初診時O群ではA,B群へ移行する比率が直線的に増加,初診時A群では初診後2年までB群の比率が増えた後再び減っていた。初診時B群では徐々にA群の比率が増加し,眼科的治療による5年良性化率(B→A群)は77.8%であった。これらの比率は,網膜症の適切な管理を行うための1指標になると思われた。

糖尿病黄斑症における光凝固後の中心視野

著者: 八木加寿子 ,   鈴木隆次郎

ページ範囲:P.1155 - P.1158

 糖尿病黄斑症を局所性,びまん性,類嚢胞黄斑浮腫(cystoid macuiar edema:CME)に分類し1),局所性には局所にびまん性とCMEには格子状に,黄斑部を光凝固した。光凝固前後の中心視野をオクトパス視野計のプログラム38を用い測定し光凝固の黄斑部機能への影響を検討した。
 中心感度,平均感度は,局所性群とびまん性+CME群のどちらの群においても,術前と術後との間に有意差はなかった。中心感度の改善および不変例は,局所性群で11眼中9眼,びまん性+CME群で11眼中8眼認められた。平均感度は,2群とも改善例はなく不変例が9眼あった。
 以上より黄斑症の光凝固は網膜感度において黄斑全体の機能を維持できると思われた。

涙道閉塞症に対する内視鏡下鼻涙管チューブ留置術

著者: 岡野昌子 ,   二宮欣彦 ,   竹中久 ,   前野貴俊 ,   真野富也 ,   岡田正喜

ページ範囲:P.1159 - P.1161

 1992年2月3日から1994年9月28日までに多根記念眼科病院において涙道閉塞症患者76例86眼を対象に内視鏡下鼻涙管チューブ留置術を施行し,その効果を検討した。特に涙点閉塞症例において著効を認めた。また涙嚢炎を合併したものでも術後の管理を確実に行えば予後良好であった。
 本法は涙道閉塞症症例に効果的であり,侵襲も少ないためdacryocystorhinostomyなどを行う前に選択すべき術式であると思われた。

円錐角膜の急性水症に対する前房内空気注入療法

著者: 辻英貴 ,   宮田和典 ,   水流忠彦

ページ範囲:P.1162 - P.1164

 円錐角膜による急性水症3眼に対し,前房内に空気を注入することによって,浮腫を早期に軽快させ,ハードコンタクトレンズによる早期の視力回復を得ることができた。急性水症によるデスメ膜断裂はほとんどが角膜中央部であるため,仰臥位である限り0.1mlの空気のみで十分なタンポナーデ効果が可能であった。空気が吸収され,タンポナーデ効果が不十分と判断したときにのみ,初回穿刺部から追加投与を行った。前房内空気注入療法では,浮腫消退までの期間およびハードコンタクトレンズを再開するまでの期間は,従来の保存的治療法に較べ有意に短縮された。この術式では,眼圧上昇,気体の後房迷入などの合併症はみられず,急性水症の治療法として積極的に試みられてよい術式と思われた。

周辺部角膜潰瘍に対する角膜移植

著者: 上杉祐子 ,   中安清夫 ,   金井淳

ページ範囲:P.1165 - P.1168

 モーレン角膜潰瘍11眼を含む周辺部角膜潰瘍14眼に対し治療的角膜移植を行った。手術回数は合計31回で1眼につき平均2.2回の移植を行った。術式は表層角膜移植(LKP)が27眼,LKP+角膜上皮移植(KEP)が4眼であった。LKP 27眼のうち17眼は再移植を行った。LKP+KEPを行った症例で再移植を行ったものはなかった。術後成績は12眼が結果良好であったが2眼は眼球摘出に至った。2眼の最終術式はLKPであった。

角膜ヘルペスに対するcarbocyclic oxetanocin G点眼液の効果

著者: 塩田洋 ,   新田敬子 ,   内藤毅 ,   木内康仁 ,   三村康男 ,   丸山徳見

ページ範囲:P.1169 - P.1172

 Carbocyclic oxetanocin G (C.OXT-G)は最近合成された新しい抗ウイルス剤である。その点眼液を作製し,インフォームドコンセントの得られた角膜ヘルペスの患者に使用し,次のような結果を得た。①角膜ヘルペス基本型を有する24例34眼に,0.1%C.OXT-G点眼液を1日5回点眼したところ,全例治癒した。角膜潰瘍の消失平均日数は4.8±2.2日であった。②ステロイドや免疫抑制剤で角膜潰瘍が誘発された11例20眼にも本点眼液は有効であった。③実質型角膜ヘルペス17例23眼に,0.1%C.OXT-G点眼液の1日5回点眼とステロイド点眼液を併用したところ,20眼(87%)に有効以上の効果が得られ,角膜潰瘍の出現や悪化をきたしたものは1例もなかった。④本剤使用中(最長274日),何ら副作用は認められなかった。
 C.OXT-G点眼液は,人の角膜ヘルペスに対し新しい優れた治療薬として期待できる。

角膜移植と白内障同時手術での眼内レンズの至適度数

著者: 大山光子 ,   島崎潤 ,   楊浩勇 ,   戸田郁子 ,   藤島浩 ,   坪田一男

ページ範囲:P.1173 - P.1176

 全層角膜移植・水晶体嚢外摘出術・後房眼内レンズ挿入術を行った40例45眼の目標屈折度数からのずれにつき検討した。屈折のずれの平均値は−0.08D±2.46Dで,目標からのずれが±2D以内であったものは22眼(48.9%),±3D以内であったものは34眼(75.6%)であった。術後ケラト値の平均は,術後6か月で7.38±0.35mmであった。目標屈折度数からのずれと△K (術前ケラト値—術後ケラト値)との間には相関があった。術前ケラト値として,K=従来のケラト値,他眼ケラト値,7.60 mm,7.38mmを各々代入した結果,目標からのずれが±2D以内であったものはそれぞれ,48.9%,50.0%,53.3%,57.8%であった。
 測定可能であれば術眼の,不可能であれば術後の平均であるK=7.38mmを使用することが目標に近い屈折度数を得る上で望ましいと思われた。また,術後のケラト値の予測性を高めることが屈折度数からのずれを少なくするものと思われた。

多焦点眼内レンズ挿入眼の視力と年齢

著者: 久米千鶴 ,   横山連 ,   阪本卓司

ページ範囲:P.1177 - P.1179

 1992年4月から1994年4月の期間に,回折型多焦点眼内レンズを挿入した27例38眼における術後視力を,65歳未満の低年齢群と65歳以上の高年齢群の2群に分けて検討した。術前または術後に白内障以外の眼疾患を認めた症例は除外した。遠見矯正視力1.0以上の眼数は低年齢群で93%,高年齢群で40%,遠見矯正下での近見視力0.8以上の眼数は,低年齢群で89%,高年齢群で20%であり,どちらも有意差があった。また,同一眼の遠見視力と近見視力の対数値の差をみると,低年齢群の0.13±0.12に対して高年齢群は0.67±0.65で,後者が有意に大きく,65歳以上の患者では,遠見視力以上に近見視力が出にくいということが分かった。

術前前房深度による眼内レンズの術後屈折度と予測値との差

著者: 寺田剛祥 ,   本田治

ページ範囲:P.1183 - P.1185

 眼内レンズ(IOL)の度数の決定に際し,SRKⅡ式,SRK/T式およびその補正式が多く用いられているが,これらの式には術前前房深度の影響については考慮されていない。また,嚢内でのIOLの移動が術後前房深度に影響を及ぼし術前予測値と術後実測値の間に差を生じさせる事も考えられる。今回,IOL別に術後屈折度が前房深度による影響を受けているかを検討した。
 症例は超音波乳化吸引術を行い,嚢内固定された533眼であり,結果としてはIOLによって,術前前房が浅い場合0.45〜0.75Dの遠視化傾向を認めた。各IOLごとに術前前房深度を考慮した補正の必要があると考える。

急激な眼圧上昇,近視下,および眼軸長の伸長を認めたステロイド緑内障の1例

著者: 吉沢利一 ,   茂垣貴弘 ,   渡辺達磨 ,   船崎貴美子 ,   溜友香 ,   緒方裕治 ,   太根節直

ページ範囲:P.1186 - P.1192

 23歳のステロイド緑内障の症例に,急激な眼圧上昇と弱主経線屈折力にして-5.5Dの片眼性の急性近視が生じた。水晶体厚の有意な増大と浅前房及び硝子体長の延長には,ピロカルピン点眼,D—マンニトールおよびメタゾラミド投与の影響が考えられた。眼圧上昇の著明な右眼に,角膜曲率半径の減少と眼軸長・硝子体長の延長があった。右眼に対する線維柱帯切除術とD—マンニトールおよびメタゾラミドの中止後,眼圧低下とともに近視は約4か月で-0.75Dに回復し,角膜曲率半径は有意に減少した。本症例は抗緑内障薬による近視化に加え,急激に眼圧が上昇した片眼に角膜突出と眼軸長の延長が生じた一過性近視が特徴であった。

偽水晶体眼の偽調節と瞳孔径

著者: 内山幸昌 ,   清水由規 ,   熊谷正也 ,   岩澤博俊

ページ範囲:P.1193 - P.1196

 本実験は縮瞳によるピンホール効果と偽水晶体眼にみられる偽調節との関係を知ることが目的である。老人性白内障で嚢外摘出術後,ハード単焦点後房レンズの移植手術をうけた偽水晶体眼(PP)で,術後1〜3か月以上経過した症例のうち,瞳孔が中心に位置し,正円で瞳孔運動も良く,視力の安定した20例,27眼について近方視および遠方視の視機能および瞳孔径を測定し,対照の有水晶体眼(PE)10例,10眼の成績と比較検討した。調節力はPEでは加齢と共に低下したがPPの偽調節幅は2.94±1.12(D)で年齢差は認められなかった。遠方視における両群の瞳孔径に有意差はなかった。近方視では両群とも縮瞳したが両者に有意差は認められない。またPPおよびPEの瞳孔径縮小率はそれぞれ11.87±6.92%,11.82±5.00%で両者の間に有意差を認めなかった。これらより偽水晶体眼にみられる偽調節は縮瞳のみの関与は少ないと考察した。

眼科手術後に発症した全身合併症

著者: 寺西千尋 ,   藤尾直樹 ,   五十嵐幸子 ,   高橋正年 ,   佐藤健一 ,   北谷智彦

ページ範囲:P.1197 - P.1200

 眼科手術を行った602名,744件について術後の全身合併症を検討した。
 対象は0歳から91歳で男272名,女330名,局所麻酔(以下局麻)621件,全身麻酔(以下全麻)123件,白内障が60%,網膜硝子体手術が12%,緑内障が2.6%であった。14名に術後全身合併症がみられた。譫妄が4名(1名肺炎を併発),呼吸器疾患が4名(喘息,肺炎,気管支炎,CO2ナルコーシス),循環器疾患が2名(心筋梗塞,血栓性静脈炎),骨折と打撲が2名,その他3名(電解質失調,不明熱,脳出血)であった。高齢者や全身疾患をもつ60歳以上の患者は手術後,全身的に安全の保証はなく,いろいろの全身合併症が発生しうる。安易に日帰り手術はすべきではない。

線維柱帯切除術後早期の眼圧上昇に対する組織プラスミノーゲンアクチベーターの効果

著者: 長坂智子 ,   安藤文隆 ,   古田寿男 ,   黒田ゆかり ,   古井緑 ,   石浜秀徳

ページ範囲:P.1201 - P.1205

 線維柱帯切除術後早期に眼圧上昇をきたした症例に対し,組織プラスミノーゲンアクチベーター(tPA)25μgを前房内に注入し,その効果を検討した。症例は当院にて手術した19例20眼で,注入前後の眼圧,術後tPA注入までの日数,tPA使用眼と非使用眼の経過について検討した。注入前後の平均眼圧は注入前が32.9mmHg,注入翌日が17.4mmHg,翌々日が17.0mmHgであった。注入翌日の眼圧が20mmHg以下を有効とすると,術後10日以内にtPAを注入した症例では有効率が約77%であったのに対し,11日以降では約17%と著しく低下し,10日以内にて十分有効と思われた。また,2週間後,3か月後ともに眼球圧迫などで様子をみた症例より経過は良好で,術後早期の濾過胞閉鎖を回避し得る有効な方法と思われた。

近見障害を訴える心因性視覚障害児におけるPVECPを用いた他覚的調節力

著者: 二宮務 ,   山崎広子 ,   宗像紳

ページ範囲:P.1206 - P.1210

 近見障害を訴える5名の心因性視覚障害児と正常被験者12名にパターン視覚誘発電位(pattern visually evoked cortical potential:PVECP)を用いて他覚的に調節力を測定し,自覚的調節力と比較した。PVECPはsteady-state刺激を用い,1D刻みにマイナスレンズを眼前に負荷して振幅対レンズパワーをプロットし外挿して振幅OμVを得るレンズパワーを求め,観察距離に相当する調節力を加えたものを他覚的調節力とした。正常被験者では他覚的調節力は自覚的より平均して約2D高値を示した。患児では自覚的調節力の著しい低下を認めたが,PVECPを用いた他覚的調節力はほぼ正常で,心因性の機序を支持する結果を得た。PVECPを用いた他覚的調節力測定法は心因性調節不全の診断に有用と考える。

眼トキソカラ症23症例の検討

著者: 土方聡 ,   藤田浩司 ,   坂井潤一 ,   関文治 ,   臼井正彦 ,   辻守康

ページ範囲:P.1211 - P.1214

 当院で眼トキソカラ症と診断された23症例について検討した結果,小児は2人であり,成人例は21例91%を占めた。
 Wikinsonらの臨床分類に基づいた3型の内訳は眼内炎型が2例,後極部肉芽腫型が6例,周辺部腫瘤型が15例であった。
 治療法は,薬物療法のみが5例,網膜光凝固術を施行したものが5例,硝子体手術にまで至ったものが13例であった。
 合併症としては,高眼圧が5例,網膜剥離が3例みられた。再手術例は3例,遷延例は6例認められた。視力予後不良例は眼内炎型,後極部肉芽腫型,あるいは周辺部腫瘤型の遷延例に多かった。炎症の遷延化を防ぐためには,時期を逸することなく網膜光凝固術や硝子体手術を行うことが重要であると思われた。

建築用ホッチキス(釘打機)による穿孔性眼外傷の2症例

著者: 飯田文人 ,   高島保之 ,   落合優子 ,   高橋邦昌 ,   佐久川政尚

ページ範囲:P.1215 - P.1218

 建築用ホッチキス(釘打機)による眼球穿孔外傷の2症例に対して,早期に硝子体手術を併用して良好な視力を保つことができたので報告する。眼球内容の脱出を最小限にするよう術中に穿孔創を縫合しながら摘出した。硝子体切除により硝子体出血,硝子体中の水晶体物質を除去し,網膜にかかる牽引の解除を計った結果,硝子体膜形成や牽引性網膜剥離を予防できたと思われた。今回使用された釘打機は共に安全装置がなく,また両症例とも保護メガネを着用していなかった。近年,釘打機は建築現場などで常用されており,今後労務災害防止のためにも釘打機の安全装置の付加や衝撃に強いポリカーボネイト製の保護メガネ着用などの対策が必要である。

乱視矯正角膜切開後の不正乱視の定量的検討

著者: 石井清 ,   富所敦男 ,   大鹿哲郎

ページ範囲:P.1223 - P.1225

 矯正角膜切開術後の17症例20眼で,術前後の角膜不正乱視を定量的に検討した。術前と術後1,4,12,24週に角膜形状解析装置で測定し,光学領域の3本のマイヤーリング上の屈折力分布を正弦曲線に近似し,その回帰残差を不正乱視量の指標とした。術前の角膜不正乱視量は正常人の値と同様であった。術後1週で不正乱視量がやや上昇し,その後次第に減少していく傾向があったが,どの時点でも術前値と有意差はなかった。乱視矯正角膜切開術は,光学領域内の角膜不正乱視に大きな影響を与えないと考えられた。

連載 眼科図譜・341

網膜病変を伴った免疫芽球性リンパ節症様Tリンパ腫の1例

著者: 山田桂 ,   山口克宏 ,   神林裕行 ,   佐久間秀夫

ページ範囲:P.1072 - P.1074

緒言
 免疫芽球性リンパ節症(immunoblastic lymphadenopathy:IBL)は,臨床的にはリンパ節の系統的腫大,肝脾腫,発熱,体重減少,アレルギー性皮疹,自己免疫性溶血性貧血などとともに高度な多クローン性高ガンマグロブリン血症を伴う疾患である1)。IBLはB細胞系の異常増殖症であると考えられていたが,経過観察中にT細胞系腫瘍へ進展していく症例が報告された2)。このT細胞系の腫瘍性病変はIBL様Tリンパ腫と呼ばれ,異型細胞増殖巣の形成を特徴とする2)。今回筆者らは,網膜病変を伴ったIBL様Tリンパ腫の症例を経験したので報告する。

眼の組織・病理アトラス・104

涙腺の多形性腺腫

著者: 猪俣孟

ページ範囲:P.1076 - P.1077

 涙腺に発生する腫瘍のうちで最も頻度が高いのが多形性腺腫pleomorphic adenomaである。多形性とは,上皮性の細胞からなる部分と一見間質様の組織からなる部分とが混在しているという意味である。したがって,本腫瘍はかって涙腺混合腫瘍mixed tumor of lacrimal glandとも呼ばれていた。
 涙腺の多形性腺腫はそのほとんどが良性である。あるゆる年齢層に発生し,やや男性に多い。初期には痛みや複視,視力障害などの臨床症状に乏しい。腫瘍が大きくなると,眼瞼下垂,眼球の下内方偏位などが起こり,上眼窩縁付近に硬くて表面が平滑な腫瘤を触れるようになる。画像で涙腺窩に圧迫性のくぼみや上眼窩壁の骨欠損がみられることがある。

眼科手術のテクニック—私はこうしている・78

超音波水晶体乳化吸引術—手法

著者: 小松真理

ページ範囲:P.1084 - P.1085

一手法の適応
 一手法の超音波乳化吸引術は,効き手でハンドピースを持ち,これを両手で支える,いわばtwo—hands one-instrument techniqueである。二手法と比較しての利点は,ひとつの器具に注意を集中できること,ハンドピースの方向をコントロールしやすいことである。ことに耳側切開からのアプローチでは,この支えは非常にありがたいものである。しかし,核の移動,捕獲,追従,吸引の全てを超音波チップによる吸引とこの動きだけに託さなければならない点,硬い核に対しては決して効率のよい方法とはいえない。この不自由を補うものが,MMP (multi-modulated phacoemul—sification:超音波乳化吸引の段階に応じた吸引流量,最高吸引圧,灌流圧をあらかじめ設定しておき,局面に応じて選択する方法)であり,とくにフットスイッチによる切り替えができれば瞬時に変換が行え,その効果を最大に生かすことができる。しかし,非常に硬い核の処理については,現在のところphaco-chop法の効率のよさには追いつくことができない。したがって筆者自身はEmery分類Grade 3までの核に対しては一手法で行い(その方が簡単で安全,また余分な創がなくエレガントであると考えられるから),Grade 4以上については二手法(phaco-chop法)で行っている。

今月の話題

最近の緑内障濾過手術法—マイトマイシンCについて

著者: 新家真

ページ範囲:P.1086 - P.1091

 最近の緑内障濾過手術においては,マイトマイシンCの臨床効果とその合併症が話題となっている。当初恐れられた強膜合併症は,線維柱帯切除術における併用に関する限りは,最初の使用報告より約10年経ていまだ報告はないが,その最適な臨床使用量および方法はいまだ確立されたとはいい難く,今後も,多くの基礎的,臨床的研究が必要とされている。

眼科の控室

密室はダメ

著者:

ページ範囲:P.1220 - P.1220

 病気の説明は治療の第一歩ですが,患者さんは意外とこちらの話を聞いていないものです。
 もちろん人によってはメモをとりながら,キチンと説明を聞く場合もありますが,これは例外中の例外で,ほとんどは「聞き流し」になっているものです。緑内障の急性発作で,さんざんこちらが説明したあと,「なにか質問は」と尋ねると,「めがねでは治りませんか」などトンチンカンな合いの手をうたれ,ガッカリさせられるのが珍しくありません。
 口頭での説明をムンテラといいます。ムンテラのコツは,最初の段階ではポイントだけを簡潔に話すことにあります。「この目はこのままだと失明します」といった感じです。これをわかってもらったあと,具体的な病名や,目の中がどうなっているのかなど,詳しい説明に入るのがよろしいのです。

臨床報告

可視光半導体レーザーによる基礎実験と臨床応用

著者: 太田昌孝

ページ範囲:P.1227 - P.1232

 686nmの赤色を有する半導体レーザー光凝固装置を開発し,基礎実験を行い臨床応用を行った。試作した光凝固装置は,可視光レーザーを光源とし,最大出力220 mW,最大スポットサイズ990μm,最長照射時間5秒である。出力80,100,120mW,スポットサイズ400μm,照射時間0.2,0.5秒の条件で有色家兎に対し網膜光凝固を行い,経時的に検眼鏡的観察と組織学的検索を行った。さらにこの装置を用い種々の眼底疾患に対し光凝固を行い,全例において従来の装置を用いた場合と同等の凝固斑を得る事ができ,長期経過観察においても重篤な合併症もなく安定した凝固効果が得られる事が確認された。その代表2例の臨床報告を行い装置の有用性を確認した。

水晶体嚢外摘出後に生じた悪性緑内障の両眼例

著者: 五十嵐陽 ,   鎌田昌俊 ,   勝島晴美 ,   鈴木純一 ,   中川喬

ページ範囲:P.1233 - P.1237

 水晶体嚢外摘出術後に両眼に悪性緑内障を発症した80歳女性の1例を経験した。両眼とも閉塞隅角緑内障の既往を有し,眼軸長は短かった。無水晶体眼である右眼はNd-YAGレーザーによる前硝子体膜切開術にて深い前房を得た。眼内レンズ挿入眼である左眼は前部硝子体切除術および経毛様体扁平部濾過術の同時手術で良好な成績を得た。

眼内浸潤を伴った視神経膠腫の1例

著者: 久米千鶴 ,   河野剛也 ,   尾花明 ,   上江田洋子 ,   北野宏明 ,   三木徳彦 ,   田中尚子

ページ範囲:P.1238 - P.1241

 眼瞼腫脹を主訴に来院した生後5か月女児の眼底に,後極部全体に広がる凹凸不整の黄白色病変を認めた。超音波検査で乳頭部に中等度のエコーのある腫瘤を認め,CTおよびMRI検査では紡錘形に腫大した視神経が描出され,臨床的に視神経膠腫と診断した。治療法は眼球を含めて視神経を視交叉まで切除した。病理学的に組織は星状膠細胞腫で,眼内では強膜・脈絡膜に異常はなく,視神経とともに乳頭近傍の網膜の神経線維層・視神経節細胞層に腫瘍細胞を認めた。したがって腫瘍細胞は乳頭より網膜内へと浸潤したものと考えられた。乳幼児に本症例のような眼底所見を認めた場合,網膜芽細胞腫との鑑別が大切であり,また,病状の進展も早い場合が多いので注意が必要であると思われる。

硝子体出血で初発した3歳児の家族性滲出性硝子体網膜症とその家系

著者: 杉村千賀子 ,   鈴木純一 ,   関根伸子 ,   鈴木治之 ,   中川喬

ページ範囲:P.1243 - P.1247

 症例は3歳女児で視力の精査目的で受診した。眼底検査で両眼の耳側を中心に網膜血管の多分岐,直線化,途絶がみられ,その周囲には無血管野が広がっていた。また,右眼の下耳側には,硝子体出血があり,螢光眼底検査でも無血管野,新生血管を認めた。さらに家族調査で3世代5名に同様の網膜血管病変があり,家族性滲出性硝子体網膜症と診断された。周辺部に限局した病変を持つ幼児が発端となった家族性滲出性硝子体網膜症の1家系であった。

虹彩の赤外血管造影

著者: 丸山泰弘 ,   亀井陽 ,   岸章治 ,   木村保孝

ページ範囲:P.1248 - P.1254

 走査型レーザー検眼鏡(SLO)を用いてインドシアニングリーン(ICG)とフルオレセインナトリウム(フルオレセイン)で虹彩の造影を行った。対象は正常群5眼,増殖糖尿病網膜症13眼,落屑症候群3眼である。12眼に虹彩ルベオーシスがあった。
 虹彩の正常血管は,フルオレセインでは虹彩実質の薄い部分のみで造影された。一方ICGでは,放射状血管と小虹彩血管輪が造影された。虹彩ルベオーシス例では,フルオレセインでは,虹彩表面に露出した新生血管のみが造影され,造影の初期から新生血管から色素の漏出があった。ICGでは,新生血管の虹彩実質内部分を含めて全走行が造影され,正常血管との接続部まで描出された。ICGでは,全例で螢光色素の新生血管からの漏出はなかった。このため血管像は造影後期まで鮮明であった。
 SLOを用いたICG虹彩造影では,褐色虹彩でも正常血管を含む虹彩実質内の血管が造影でき,血管病変の検索に有用であると結論される。

正常眼圧緑内障での中心部視野障害

著者: 北沢万里子 ,   新家真 ,   小関信之 ,   山上淳吉 ,   鈴木康之

ページ範囲:P.1255 - P.1259

 正常眼圧緑内障の中心部視野障害の発生に寄与する因子を明らかにすることを目的として,本症患者の中心部10°内視野障害と,それに関連する可能性のある因子〔年齢,屈折,眼圧,傍視神経乳頭網脈絡膜萎縮/視神経乳頭面積比(parapapillary atrophy/disc比:PPA/D比)〕を,多変量解析を用いて検討した。その結果,年齢とPPA/D比に視野障害度との有意の正相関がみられた。更に全身因子による影響を除外するため視野障害度の左右差と,各因子の左右差を同様に検討したところ,眼圧差が中心10°内下半視野における視野障害度の差と有意の正相関を示した。以上より,正常眼圧緑内障の中心部視野障害には傍視神経乳頭網脈絡膜萎縮の大きさと眼圧の双方が関連すると考えられた。

角膜トレパンを用いた白内障手術創

著者: 井上達郎 ,   稲葉泉 ,   竹本喜也 ,   市岡博

ページ範囲:P.1261 - P.1263

 無縫合白内障手術のひとつの問題点として術後倒乱視化がある。多くの術式において角膜接線と直交する方向に強膜創の離開が生じることが原因のひとつと考えられる。そこで筆者らは,角膜トレパンにて円形の強膜創を作成し,その術後乱視経過を従来の切開創と比較検討した。直線切開に比べ術後乱視幅は減少し,3か月の経過で36例中10例(28%)に直乱視化を認めた。この結果から,横方向のベクトルを考慮した強膜切開が有効である可能性が示唆された。また常に再現性のある切開にするためこのような器具を使用することは意義があると思われた。

第48回日本臨床眼科学会専門別研究会1994.11.4幕張メッセ

色覚異常

著者: 市川一夫

ページ範囲:P.1265 - P.1267

 シンポジウム「学校健診での色覚検査のあり方と事後措置について」は,座長が田辺詔子先生で,学校健診の実施方法が現状に至った経緯について世話人の私が報告し,各演者には,研究者の興味,行政や眼科医および養護教諭の便宜などではなく,異常者および社会の立場で考えていただくこと,従来からの色覚検査に対する疑問に答えていただいた。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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