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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科5巻3号

1951年03月発行

雑誌目次

綜説

トラコーマの化學療法

著者: 三井幸彦

ページ範囲:P.145 - P.148

 Aureomycin次いでTerramycinが出來て,トラコーマの化學療法が完成されつゝある事は,私共の最も喜びとする所である。
 私共がTerraの研究をはじめた動機は,昨年5月にかねてから研究交換を行つていた加州大學Thygeson教授から,Terraという新しい抗生物質が第4性病に有効だというから,これと近親關係にあるトラコーマにもきつと有効であるにちがいないという知らせを受け,1瓶のサンプルを入手した事にはじまる。次いで同教授の配慮により製造會社であるPfizer製藥會社のHobby博士からTerraの眼科領域特にトラコーマえの應用の研究を依頼され,大量の藥を送つて貰つたので研究は順調に進む樣になつた。この間手持の藥が一時不足したのであるが,傳研荒川博士の好意で細谷教授手持ちの1瓶を贈られ,研究中斷の危機を救つて頂いた。Aureoに就ては1948年の暮Thygeson教授から連絡があつたのであるが,當時アメリカでも入手困難で,且つ非常に高價であつたので,私共は入手の機會がなかつた。昨春豫研梅澤博士から少量を分與されてはじめて研究に着手出來た。その後私共の研究成績を雜誌で見たAmerican Cyanamid Co., Lederle Division(Aureoの製造會社)のZink博士は,私共の研究を援助しようと申し出て呉れた。

臨床實驗

遺傳緑内障の表現率(劣性型)

著者: 小島克

ページ範囲:P.149 - P.149

 緑内障の劣性型家系は,本邦でも河本,廣石Ⅲ,熊野御堂Ⅱ,Ⅲがあり,資料的にも,疑義が多いであろうが,その表現率について調べた.
1)第1表には,実際の表現数の過不足を,予測値全数の1/4を以つて見た.I法は全員に罹患者をも加えてあり,Ⅱ法は各同胞から発端者1名を省いた.

角膜周擁毛細血管の老人性變化

著者: 呉基福

ページ範囲:P.150 - P.152

緒言
 血管の老人性變化として動脈硬化現象が種々論ぜられているが毛細血管領域に於ける老人性變化の生体顯微鏡的觀察に關する報告は爪溝の毛細血管だけてある。私は生体顯微鏡を用いて眼表在性毛細血管の老人性變化を觀察し得たのて茲に其の結果を報告する。

眼窩に發生したる淋巴性網状型細網肉腫の1例

著者: 田坂純行 ,   高橋寛

ページ範囲:P.152 - P.154

 細網肉腫は,其發生母地たる所謂細網内皮系統の形態學に關して議論あり,加えて複雜多岐にわたる組織像よりして今日尚最も論議多い腫瘍の1である。
 本腫瘍に一致するものを最初に記載したのはGhon &Roman (1916)であり,次でEwing (1921)は骨腫瘍の中で,彼の所謂Diffinse endothelioma of boneなる骨肉腫乃至既知の如何なる骨髓腫とも異なる腫瘍を記載した。Komoeki (1924)は細網織構造を示す腫瘍を觀察して之をReticulomと呼び,尚惡性のものはSarkoma reticulareと呼ぶべき事を提唱した。Retieulosardomなる名稱を最初に使用したのはOberling (1928)であり,彼は骨髓組織より原發したEwing氏腫瘍は淋巴結節の細網細胞より發生する肉腫と同一腫瘍なりと斷定している。更にRoulet (1930,1932)は本腫瘍に就いて詳細に研究し,本腫瘍は淋巴結節の細網細胞のみより發生するもので,淋巴竇内皮からは発生するものでないと主張しRossle及びRouletは此腫瘍をRetothelsarkomと命名した。其後de Oliveica (1937),Rossle (1939),Verhagen(1940)等の研究がある。

硝子體液の循環に關する實驗的研究—第3報低壓家兎眼の硝子體液循環に就て

著者: 田上正康

ページ範囲:P.155 - P.158

緒論
 抑ゝ眼壓が降下した場合の硝子体液循環は正常時に比してどうであろうか。之に關する研究は第1報1)でも觸れた樣に殆んど見當らない。又他方縁内障に對する手術の効果機轉は房水を中心にして考究されているが,この際の硝子体液の循環に觸れているものは殆んどない。そこで今回は各種減壓手術を健常成熟白色家兎眼に施行し,眼壓下降し,未で原壓に恢復しない場合に於ける硝子体液循環を第1報に從い實驗し,第1報に於て述べた正常時のものと比較觀察し,稍々興味ある成績を得たので茲に報告する。

翼状贅片手術の改良法,Sugar氏法—MeGavic氏法及び著者の變法

著者: 井上正澄

ページ範囲:P.159 - P.160

 私達は翼状贅片手術後の再發に就いて惱まされる事が多い。此の事は洋の東西を問わず多年問題となつて來た。昭和24年度發表になつたSugar氏法とMcGavic氏法を參考として此等の變法とも言う可き方法を考え12例に就いて行つた。此の變法は不潔な生活環境や濕潤な氣候に適當している樣に思われる。
 1從來の方法は翼状贅片移植に重點を置くが此等の3法はテノン氏嚢切除に重きを置く。

結核性眼疾患に對する「パラアミノサルチル酸ナトリウム」の治療成績

著者: 田地野正輝 ,   永野勝彦

ページ範囲:P.161 - P.163

 抗結核劑としてパラアミノサルチル酸(以下PASと略記す)が注目されてから,之が經口的投與のみでなく,局部的にも漸次應用されつゝある樣である。PASは現今尚相當高價な製劑であるから,眼科的にも之を點眼して有效であるなら充分利用價値が増大する理である。最近畠山,高橋氏等はPASの點眼が奏效した眼疾患に就て報告されている。
 私達もPASの内服及び點眼を結核性眼疾患に使用して見たので,之が成績を報告し諸賢の御批判を仰ぎたいと思う。

「オーレオマイシン」點眼法による慢性「トラコーマ」治療成績に就て

著者: 曲眞部正夫 ,   曲眞部英子

ページ範囲:P.164 - P.166

緒言
 「ペニシリン」「ストレプトマイシン」の卓效藥を創製した輓近の化學療法進歩は更に「クロロマイセチン」「オーレオマイシン」(以下「オ」と略す)「テラマイシン」等の抗生物質を陸續と産みこの優越した作用は獨り細菌界にのみならず「リケツチア」「ヴイルス」界にも廣げられている。
 私等は最近入手出來た「オ」を我が銀界難活の傳染病である「トラコーマ」(以下「ト」と略す)に應用し,得たる知見があつたから茲に報告する。「オ」の性状等については,1948年Duggar氏の發見後日が淺いにも拘らず,既に仔細に研究されていて梅澤,大森,池田氏等が之れを日本に紹介するの勞を取つている。然し「オ」を眼科的に利用した報告は甚だ少く,1949年Braley.Moutinhow,Boase.三井,香川,桐澤の諸氏の報告あるに過ぎぬ。之等の報告に於ては何れも「オ」は「ト」に從來の方法より遙かに有效と結論され,就中眞摯な香川博士は治療經過を天然色寫眞に撮影され一見百聞に如かずの實を示されている。元來難治の「ト」に對する新藥の效果は過大に喧傳される傾向があるので薪藥「オ」に就ても私等はこの弊のない樣にと注意して誠實に且つ謙虚に成果を判斷して見た。即ち使用始めて以來私等に先んじて發表された成績を監視的に眺めつゝ效果を判じていた。

健眼並に緑内障眼の負荷試驗に就て—第5報 全身血壓の變動による眼壓の變動に就て/第6報 散瞳藥による眼壓變動に就て

著者: 鎌尾保

ページ範囲:P.167 - P.172

緒言
 眼壓と血壓との關係に就てはWessely (1912)は家兎に於て血壓と眼壓が密切な關係のあることを證明して以來多數の研究がある。然るに臨床的に高血壓患者の眼壓は普通正常であり又緑内障患者の血壓が必ずしも高くないことからこれに反對するものも出て來た。その後これらの事實に對する説明として正常眼は眼壓の自動調節作用があり,急激な血壓の變動に對して眼内壓はこれに相當して變化するが正常眼では直に自動的に眼壓の調整を行つて眼壓上昇と云う結果を來さないにかかわらず緑内障眼では急激な血壓の變化に對して自動調節が行われずに眼壓上昇と云う結果を來たしその後血壓上昇と云う事實が去つても眼壓上昇のみが殘存すると説明している。
 Löhlein,(1912) Thiel (1925)は此の血壓を上昇せしめる方法としてコーヒー試驗,又はサリチル酸ソーダカフエィン注射と云う方法を取つている。即ちコーヒー試驗では45gのコーヒーを150c.c.の熱湯で滲出してそれを被檢者に飲用させてその後の眼壓の變化を測定すると云う方法である。後者の方法はサルチル酸ソーダカフエインを靜脈内に0,2g注入するのである。之等の方法によると正常者では認むべき眼壓の變化がないにもかかわらず線内障患者では血壓の上昇と共に眼壓の上昇を來すと云うのである。

色感に關する研究—第1篇 石原色盲表と人工照明

著者: 關亮

ページ範囲:P.173 - P.181

緒論
 石原氏色盲表の使用上の注意として「色彩は之を照す光の色に從つてその色が異つて見え,また之を照す光の分量に依つて其の明度が異つて見えるから,色盲檢査は必ず晝間,明るい室内に於て行うことを要するとあるが,天然晝光と言つても地球の緯度,季節,時刻,採光條件等により其の分光エネルギー分布に相違があり,當教室の松尾氏が四季の色の明るさに及ぼす影響を研究している。
 Kissin P.は天然晝光下に時日を變えて色神異常者に色盲表を讀ました處,約20%は讀み方が異つたことを報告している。此の樣に天然光は照明光としては不安定である。又色自檢査が晝間に限定されるのも不便である。依つて色盲檢査が常に一定なる光色を有する人工照明下に行われれば之等の缺點が除去されて理想的である。而して其の人工照明の光源たるべきものは平均晝光に近似するを要する。然るに照明學の發達は此の平均晝光に類似する人工光源を得る事に成功し,1931年International Commission on Illumination (以下I.C.I.と略す)の會議に於て各國の代表者が此のエネルギー分布をもつた光源を國際的標準光源として採用した。この標準光源はI.C.I.光源Cとして知られている。其の他之に類似のものとして晝光電球,眞色燈,ムーア管燈,晝光色螢光放電燈,組合せ燈等がある。私は數種の人工照明によつて石原氏色盲表が如何に判讀されるかを研究した。

再び球後視神經炎の再發に就て—特にその腹壁反射消失の意義

著者: 桑島治三郞

ページ範囲:P.181 - P.184

 球後視神經炎又は乳頭炎に前後して散在性腦脊髓症状を併發する疾患は,通常,視神經脊髓炎又は散在性腦脊髓炎と呼ばれるものに屬する。本症は時に數年或はそれ以上に亘つて症状の出沒を反復する場合があり,斯る臨牀經過と共にその病理組織的所見に依り,歐米に在つては本症を多發性硬化症の急性型と説く者が多い。
 元來,多發性硬化症は日本及び支那には極めて稀れであるとされて來たが,若し視神經脊髓炎又は散在性腦脊髓炎がその急性型とするならば,本症の存在は我が國では必ずしも稀れでない。即ち視神經炎に脊髓症状の合併せる症例は,明治24年靑山教授の記載以來,河本教授(明治37),河本(軍)(明治43),宮下(大正2),初見(大正4),矢野(大正8)氏等の報告があり,最近は金子氏の視神經脊髓炎に關する發表以來,本症として報告される症例は獨り眼科領域だけに限らず,各科に於ても俄かに多きを加え,本問題に再檢討の要を痛感する。

蜘蛛状指趾と原發性緑内障

著者: 佐々木統一郞

ページ範囲:P.185 - P.187

 蜘蛛状指趾の眼症状として記載されたものは,水晶体偏位,小水晶体,白内障,水晶体脱臼及び之による續發緑内障等であるが,西歐には之の外調節麻痺(Weve)網膜血管異常(Ormond)眼瞼浮腫(Shaller)下眼瞼瞼裂短縮(Piper&Irvine-Jones)等の記載がある。
 最近著者は上記眼症候群に加えるに原發性緑内障を合併する2例を經驗したので,その大要を述べ交献に追加する。

動的檢影法に依る調節遲滯の研究(1)

著者: 石井菖蒲

ページ範囲:P.188 - P.191

緒言
 動的檢影法は1902年Crossによつて發表され其の後Sheard (1922),Nott (1925〜1926),Ketchum (1926),Lea (1928),Pascal (1929),Swarnn (1929),Howe,Lawnence等により推敲された眼屈折檢査法である。普通行われている靜的檢影法が原則として全く無調節の状態で遠距離の目標を凝視し,一眼の屈折状態を檢査する遠點檢査法であるのに反し,動的檢影法は近方の一定點に調節,輻輳を充分定位した眼の調節を測定する兩眼性檢査法であつて,近業用眼鏡の選定に適する唯一の實際的他覺的檢査法ばかりでなく,又調節機能,調節性輻輳との間の關係を研究するに便利なものである。尚動的檢影法に於ては瞳孔が縮小する爲により大きな瞳孔の場合に比べ周邊部の球面收差が除かれる利點がある。動的檢影法の原理と手技とは前共軛焦點が無窮遠の點でなくして固視點である以外は靜的檢影法と略々同じであると考えてよい。先ず正視或はレンズを以て正視の状態に矯正した屈折異常を有する被檢者をして眼前33糎の位置にある細字を讀ませる。今もし被檢者かこの糎の離に正しく調節しているならば共軛焦點の法則により,此の點で動的檢影法を行つている檢者には影法は中和して見えるはずであるが,一般には中和しないで寧ろ同行するのが見られる。從つて之を中和するのには常に輕度の凸レンズを必要とする。

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先哲の面影

ページ範囲:P.187 - P.187

 ヘルムホルツ先生は我眼科學界にては檢眼鏡の發見者として有名であるが,生理學者,物理學者,哲學者である。
 有名なる研究題目は次の如し。エネルギー恒存則,醗酵原因の吟味,生體内の熱量測定,生物電氣現象の觀測,眼の構造調節,色彩感覺色盲,耳の構造,協和音不協和音,和音差音,流體力學,電氣力學,氣象學,電氣振動,電磁感應,ヘルムホルツ波の發見者。

臨床講義

トラコーマの集團治療に就て

著者: 中村康

ページ範囲:P.192 - P.196

 本日はトラコーマの集團治療に對する化學療法の價値に就てお話しようと思います。
症例1 15才,女,昭和26年1月11日初診

私の經驗

國産ホマトロピン(國産藥品)

著者: 中村陽

ページ範囲:P.197 - P.199

 ブローム水素酸ホマトロピン入手困難の折柄,今回國産藥品工業株式會社の作製になる國産ホマトロピンの試供を受け,主として臨牀使用の適否に就て小實驗を試る機會を得たので此處にその結果を報告し,大方の使用に資したいと考える。

外文抄録

斜視

著者: 小山哲男

ページ範囲:P.201 - P.203

Hermann M.Baiian, M.D.(Arch.of Oph-th.Vol.44 July 1950)
 1949より1950第14半期に發表されたものを通覧している。

Archives of Ophthalmology'50

ページ範囲:P.203 - P.205

vol.43 No.1 January 1950 P.1-196
1)上斜筋及び上直筋不全麻痺の鑑別診斷:6例所見とその意義に關する討論(C peterJ.)
2)鼠に就ての實驗的網膜貧血症の影響(W.Turnbull)

A.Rochon-Duvigneaud:Les Yeux et La Vision des Tertebrés pp.719 Massoh, Paris.1943

著者: 福田邦三

ページ範囲:P.205 - P.206

 先年出たものであるが今回フランス代表部の斡旋により書店から東京大學え寄贈された多數の書物の内の一である。眼科學の老大家でフランスのアカデミーの會員である著者の多年の研究を織込んだ『脊椎動物の眼と視覺』に關する論説である。人間の眼に就ては150頁をあて,その敘述は要をつくしているが全部の文献を包括しようとしたわけではない。殘餘の部分即ち種々の脊椎動物の眼,殊にその解剖及び組織學に就ては著者の最も力を注いだ所で著者の觀察を詳しく記載するとともに文献を列學して論議し,比較眼科學(Ophthalmologie comparee)の體系をまとめるに成功している。圓口類,軟骨魚類,硬骨魚類,肺魚類,兩棲類,爬虫類,鳥類の種々な屬,種の眼を記載するに計約400頁を費し挿圖計329圖を附している。
 哺乳類の眼について記した計131頁の中にはカモノハシ,カンガルー,センザンコウ,ゾウ,サイ,ブタ,カバ,ジユゴン,ウマ,ウシ,ヤギ,ノロ,シヤモア等からイル,カクジラの類,ケッ齒類,食虫類,翼手類,食肉類,鰭脚類;靈長類としてはメガネザル,レムールから類人猿に至るまで種々のものを記載している。

實際眼科の盲點

眼科用軟膏の製法及使用についての得失

著者: 中泉行正

ページ範囲:P.207 - P.207

 之から毎月號に此の表題のものを1件づつ加えて行きます。誰でも實際診療にあたつて見ると一寸わからぬ事がある教科書には書いてない事であるその筈である眼科學というような學問ではない。醫局におらるる方々は將來開業さるる時の爲に現在開業の方々はうんあれかと云う輕い氣持で見て頂きたい。又讀者の方々より種々御質問御教示に預る事を幾重にも御願致します。

手術メモ

1.議眼床手術

著者: 中村康

ページ範囲:P.208 - P.211

 以前は義眼が出來あいで之に向つて結膜嚢の整形をしたので,此義眼床の手術と言うものに色々と工夫がされたものである.然し最近は義眼の形が自由に造られるので余程の変形した結膜嚢でないと手術をしない.然し結膜嚢が殆どなく義眼を挿入する場所のないようなものには結膜嚢を造る手術が行われる.
 尚眼球摘出或内容除去に際して義眼台(アクリール酸樹脂製)を植え込む所謂「動く義眼」の手術があるが,之は別項に述べることにする.

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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