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白内障剔出手術の歴史
著者: 山賀勇1
所属機関: 1松本醫大
ページ範囲:P.468 - P.470
文献購入ページに移動 先に白内障前史として剔出術以前のあらましを述べたので,今回は近代眼科の第1にあぐべきジャック・ダビエルの剔出術(1745年)に筆を進めたい。即ち歐洲の長い中世紀の暗黒時代をすぎ,漸く16世紀に入って文藝復興の氣運に向い諸科學の進歩を見るに及んで,わが眼科にも初めて新しい息吹きが通い始めたのである。そのさきがけをなすものは,正しい近世の解剖學的知識に基かなければならないことは云うまでもない所であって,1575年初めて眼球は1つのガラスのレンズと同様であるとシシリー島の1僧侶Maurolicus (1494-1577)が唱えた。彼は水晶體によつて眼底に倒像が出來るべきだと言つたが,然しまだ網膜については述べていない。次で1600年頃バーゼルの解剖學者F.Plater(1536-1614)初めて水晶體は光線屈折のレンズであつて,網膜が視機能の主要器官であることを説明し,又この頃ナポリのPor-ta(1538-1615)は眼を暗箱にたとえた。但し光線は角膜によつて屈折し瞳孔を通じて水晶體に像を結ぶとした次でパドアのFahricius(1537-1619)は,初めて水晶體の解剖的位置を正しく記載した。併し未だ白内障については正しい知識が得られなかった所,1640年頃パリーのQuarre及びLasnier等によつて白内障が水晶體の變化であることが,發表された。けれどもこれは當時一般の注意を引かずに忘れられてしまった。
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